説明

乗客コンベアの手摺ガイド及びその摺動特性測定装置

【課題】本発明は、摺動性をより良い状態に保つことができる乗客コンベアの手摺ガイドことを目的とするものである。
【解決手段】手摺ガイド本体4には、手摺ガイド本体4の温度を検出する複数個の温度検出部11a〜11cが取り付けられている。また、手摺ガイド本体4には、手摺ガイド本体4の温度を調整する複数対の温度調整部12a〜12cが埋設されている。温度制御部13には、移動手摺3に対する手摺ガイド本体4の摩擦係数の温度特性に関する情報が予め測定され記憶されている。温度制御部13は、記憶された情報に基づき、温度検出部11a〜11cからの信号に応じて、温度調整部12a〜12cを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動手摺の移動を案内する乗客コンベアの手摺ガイド、及びその摩擦抵抗の温度特性を測定するための摺動特性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアでは、移動手摺の走行抵抗を低減させるために、手摺ガイドに用いる材料として、摺動性、耐摩耗性に優れた材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
また、従来の他の乗客コンベアでは、摺動性の高い材料からなる被覆層が移動手摺の表面に設けられているとともに、手摺ガイドに案内ローラが配置されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、従来の他の乗客コンベアでは、手摺ガイドの表面に、移動手摺の走行方向と平行な複数の凹凸溝を設けることによって、移動手摺の走行抵抗が低減されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−289611号公報
【特許文献2】特開2006−131342号公報
【特許文献3】特開平10−17256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の乗客コンベアの手摺ガイドでは、移動手摺の走行や周囲環境の変化による材料の摺動性の変化や、表面摩耗による摺動性の劣化に対しては、十分に対応することができなかった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、摺動性をより良い状態に保つことができる乗客コンベアの手摺ガイド及びその摺動特性測定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベアの手摺ガイドは、移動手摺を案内する樹脂製の手摺ガイド本体、移動手摺の円弧状経路部で手摺ガイド本体に設けられ、手摺ガイド本体の温度を検出する温度調整部、移動手摺の円弧状経路部で手摺ガイド本体に設けられ、手摺ガイド本体の温度を調整する温度調整部、及び移動手摺に対する手摺ガイド本体の摩擦係数の温度特性に関する情報に基づき、温度検出部からの信号に応じて、温度調整部を制御する温度制御部を備えている。
【発明の効果】
【0007】
この発明の乗客コンベアの手摺ガイドは、移動手摺に対する手摺ガイド本体の摩擦係数の温度特性に関する情報に基づき、温度検出部からの信号に応じて、温度調整部を制御するので、周囲環境の変化等に対して、摺動性をより良い状態に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1によるエスカレータを示す側面図である。
【図2】図1の要部を拡大して示す側面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図1の手摺ガイド本体の温度制御システムを示すブロック図である。
【図5】実施の形態1による手摺ガイドの摺動特性測定装置を示す平面図である。
【図6】図5の温度計で検出される温度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図7】図5の力検出器で検出される力の時間変化の一例を示すグラフである。
【図8】図5の押付力検出器で検出される測定用ガイド片の押付力の時間変化の一例を示すグラフである。
【図9】図6〜図8に示した情報から得た温度と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるエスカレータを示す側面図である。図において、トラス1は、上下階の建築梁間に架設されている。トラス1には、無端状に連結された複数の踏段(図示せず)が支持されている。踏段の両側のトラス1上には、一対の欄干2が立設されている。
【0010】
各欄干2には、踏段に同期して移動される無端状の移動手摺3が設けられている。移動手摺3は、その往路において欄干2上を移動される。また、移動手摺3は、欄干2の一端部のニュアル部で折り返されて欄干2内に引き込まれ、欄干2の他端部の下部から引き出されている。
【0011】
欄干2には、移動手摺3の走行経路を形成する樹脂製の手摺ガイド本体4が設けられている。移動手摺3は、手摺ガイド本体4に沿って走行する。移動手摺3の走行経路上には、移動手摺3を走行させるための動力を発生する手摺駆動装置5が配置されている。移動手摺3は、手摺駆動装置5により一定の速度で搬送される。
【0012】
また、移動手摺3の搬送には、踏段上の乗客の把持力と、移動手摺3及び手摺ガイド本体4の間の摺動抵抗を要因とする走行抵抗とに対抗する駆動力が必要とされている。
【0013】
ここで、図1の移動手摺3の走行経路における摺動抵抗は、走行経路の形状から、傾斜部及び水平部にある直線走行経路部7a,7bと、上下反転部分に存在する円弧状経路部8a,8bとに分けて考えることができる。
【0014】
これらのうち、直線走行経路部7a,7bでは、移動手摺3の自重と、乗客の把持力(その部分で乗客が把持した場合のみ)とが、移動手摺3と手摺ガイド本体4との摺動部に作用する。乗客の把持力は、通常は移動手摺3に手を添える程度であり、身体全体を支えるような把持力が作用することは殆どない。このため、移動手摺3と手摺ガイド本体4とを定常的に押し付ける力は小さいと考えられる。
【0015】
これに対して、円弧状経路部8a,8bでは、移動手摺3に作用する張力と、移動手摺3を曲げることにより生じる反力とが、移動手摺3と手摺ガイド本体4との摺動部に作用する。このため、円弧状経路部8a,8bでは、直線走行経路部7a,7bに比べて非常に大きな抵抗を受ける。
【0016】
従来の乗客コンベアにおいても、円弧状経路部8a,8bでの摺動抵抗による摩耗や発熱の問題が数多く発生しており、このことからも円弧状経路部8a,8bの走行抵抗が大きくなることがわかる。
【0017】
これらのことから、摺動性の劣化の原因となる摺動摩耗に対しては、円弧状経路部8a,8bでの対策が有効であると考えられる。
【0018】
図2は図1の要部を拡大して示す側面図、図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。円弧状経路部8a,8bにおける手摺ガイド本体4には、手摺ガイド本体4の温度を検出する複数個の温度検出部11a〜11cが取り付けられている。温度検出部11a〜11cは、手摺ガイド本体4の長手方向に互いに間隔をおいて配置されている。温度検出部11a〜11cとしては、例えばペルチェ素子が用いられている。
【0019】
また、円弧状経路部8a,8bにおける手摺ガイド本体4には、手摺ガイド本体4の温度を調整する複数対の温度調整部12a〜12cが埋設されている。温度調整部12a〜12cは、温度検出部11a〜11cと同じ角度位置に配置されている。温度調整部12a〜12cは、例えば通電する電流値により、接している部分の温度を調整する。
【0020】
移動手摺3が走行する際、移動手摺3と手摺ガイド本体4との接触面では、両者間の摩擦係数に起因する摩擦抵抗が発生する。このため、移動手摺3を搬送するための駆動力は、両者間の摩擦係数に左右される。
【0021】
一般的に、手摺ガイド本体4を構成する樹脂材料の摩擦係数には、温度特性があり、常に摩擦係数が最も小さい温度で用いることができれば、手摺ガイド本体4の材料の摺動特性を最も有効に活用していることになる。
【0022】
図4は図1の手摺ガイド本体4の温度制御システムを示すブロック図である。温度検出部11a〜11cからの信号は、温度制御部13に入力される。温度制御部13は、移動手摺3に対する手摺ガイド本体4の摺動性が最適となるように、温度調整部12a〜12cを制御する。
【0023】
温度制御部13は、例えばマイクロコンピュータにより構成されている。温度制御部13には、移動手摺3に対する手摺ガイド本体4の摩擦係数の温度特性に関する情報が予め測定され記憶されている。温度制御部13は、記憶された情報に基づき、温度検出部11a〜11cからの信号に応じて、温度調整部12a〜12cを制御する。実施の形態1の手摺ガイドは、手摺ガイド本体4、温度検出部11a〜11c、温度調整部12a〜12c及び温度制御部13を有している。
【0024】
次に、図5は実施の形態1による手摺ガイドの摺動特性測定装置を示す平面図である。図において、ベース21には、回転可能な円盤22が設けられている。円盤22は、モータ(図示せず)により一定速度で回転される。円盤22の外周には、測定用手摺片23が全周に渡って連続して貼り付けられている。測定用手摺片23は、移動手摺3の手摺ガイド本体4との摺動面と同様の材料により構成されている。
【0025】
アーム24は、円盤22の回転軸を中心として、ベース21に対して回転可能となっている。また、アーム24は、円盤22とは独立して回転可能となっている。アーム24には、測定用ガイド片25、ばね等の押付手段26及び押付力検出器27が搭載されている。
【0026】
測定用ガイド片25は、手摺ガイド本体4と同様の樹脂材料により構成されている。また、測定用ガイド片25は、押付手段26により、測定用手摺片23の外周面に一定の力で押し付けられている。押付力検出器27は、測定用手摺片23に対する測定用ガイド片25の押付力を検出する。
【0027】
ベース21には、円盤22と同方向へのアーム24の回転を規制するストッパ28が設けられている。ストッパ28には、アーム24からストッパ28が受ける力を検出する力検出器(受圧力検出器)29が設けられている。
【0028】
また、ベース21には、測定用ガイド片25の測定用手摺片23との接触部の温度を非接触で測定する温度計30が設けられている。温度計30としては、例えば、任意の点にレーザ光を照射し、その点の表面温度を非接触で測定するレーザ式温度計が用いられている。
【0029】
このような摺動特性測定装置では、円盤22が一定速度で回転されると、測定用手摺片23と測定用ガイド片25との間に、円盤22の外周面に対する接線方向への力が発生する。この接線力は、押付手段26による押付力と、測定用手摺片23と測定用ガイド片25との間の摩擦係数とで規定される。
【0030】
アーム24は、ストッパ28により回転を規制されるため、ストッパ28は上記の接線力に比例した力を受け、その力が力検出器29により読み取られる。
【0031】
そして、円盤22の半径をr、円盤22の回転中心から力検出器29までの距離をL、接線力の大きさをF、力検出器29で検出される力をfとすると、次式が成り立つ。
F*r=f*L ・・・(1)
【0032】
また、測定用手摺片23と測定用ガイド片25との摺動面に発生する接線力Fは、測定用ガイド片25の押付力をP、摺動面での摩擦係数をμとすると、次式により求められる。
F=μ*P ・・・(2)
【0033】
さらに、式1及び式2から導かれる次式により摩擦係数μを求めることができる。
μ=(f*L)/(r*P) ・・・(3)
【0034】
次に、図5の装置による摺動特性測定方法について説明する。まず、測定用ガイド片25を冷却手段により冷却し、測定装置にセットする。そして、円盤22を一定速度で回転させ、各検出器から情報を取得する。その情報には、温度計30で検出される温度の情報(図6に一例を示す)、力検出器29で検出される力fの情報(図7に一例を示す)、押付力検出器27で検出される測定用ガイド片25の押付力Pの情報(図8に一例を示す)が含まれている。
【0035】
これらの情報を式1〜式3によって換算することで、図9に示すような温度と摩擦係数との関係を示すグラフ、即ち摩擦係数の温度特性(摺動特性)を得ることができる。
【0036】
図9のグラフから、測定用ガイド片25と測定用手摺片23との間の摩擦係数(即ち、手摺ガイド本体4と移動手摺3との間の摩擦係数)は、低温状態から温度の上昇に伴って低下し、ある温度を境にして温度と摩擦係数との関係が逆転し、温度の上昇に伴って上昇することがわかった。
【0037】
この結果から、手摺ガイド本体4に用いられる樹脂材料では、温度をある最適な固有の範囲内に調整することで、移動手摺3との間の摩擦係数を小さくし、摺動性を向上させることができることがわかった。
【0038】
図1〜4に示された実施の形態1のエスカレータの手摺ガイドでは、図9の摺動特性に基づいて、摩擦係数が所定値よりも低くなる温度範囲に関する情報が温度制御部13に予め入力されており、手摺ガイド本体4の移動手摺3との摺動面周辺の温度が、その温度範囲内となるように温度調整部12a〜12cが制御される。
【0039】
このように、実施の形態1のエレベータの手摺ガイドによれば、手摺ガイド本体4の温度が、手摺ガイド本体4の材料と移動手摺3の材料との間の摩擦係数が最も低くなる温度域に調整されるので、周囲環境の変化等に対して、摺動性を最良の状態に保つことができる。
【0040】
また、手摺ガイド本体4に用いられる材料の特性まで考慮した構成にすることにより、例えば摺動表面の摩耗による摺動性の劣化を原因とする移動手摺3の走行抵抗の増大に対しても、走行抵抗の増大をできるだけ抑えることができる。
【0041】
さらに、実施の形態1の摺動特性測定装置によれば、簡単な構成により、移動手摺3と手摺ガイド本体4との間の摩擦係数の温度特性をより正確に測定することができ、この測定結果を利用して手摺ガイド本体4の温度を調整することにより、摺動性を最良の状態に保つことができる。
【0042】
なお、温度検出部11a〜11cや温度調整部12a〜12cの位置や個数は、図2〜4に限定されるものではない。
また、上記の例では、摩擦係数の温度特性に関する情報を温度制御部13に記憶させたが、温度制御部13に温度設定の手動操作部を設け、温度特性の測定結果に基づき、最適な温度範囲を作業員が手動で設定するようにしてもよい。
さらに、上記の例では、エスカレータの手摺ガイドについて説明したが、この発明は、動く歩道の手摺ガイドにも適用できる。
【0043】
さらにまた、図5の摺動特性測定装置において、測定用手摺片23と測定用ガイド片25との摺動面の温度を積極的に変化させるための加熱手段を、円盤22又はアーム24等に設けてもよい。
また、ストッパ28及び力検出器29は、アーム24ではなく、測定用ガイド片25を直接受けてもよい。
さらに、上記の例では、円盤22の外周に測定用手摺片23を貼り付けたが、円盤自体を測定用手摺片23としてもよい。
さらにまた、上記の例では、非接触で温度を測定する温度計30を示したが、接触して温度を測定するタイプの温度計を例えば測定用ガイド片25に取り付けてもよい。
また、測定用ガイド片25の測定用手摺片23への押付力がわかっていれば、押付力検出器27は省略してもよい。
【符号の説明】
【0044】
3 移動手摺、4 手摺ガイド本体、8a,8b 円弧状経路部、11a〜11c 温度検出部、12a〜12c 温度調整部、13 温度制御部、23 測定用手摺片、25 測定用ガイド片、27 押付力検出器、29 力検出器、30 温度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動手摺を案内する樹脂製の手摺ガイド本体、
前記移動手摺の円弧状経路部で前記手摺ガイド本体に設けられ、前記手摺ガイド本体の温度を検出する温度調整部、
前記移動手摺の円弧状経路部で前記手摺ガイド本体に設けられ、前記手摺ガイド本体の温度を調整する温度調整部、及び
前記移動手摺に対する前記手摺ガイド本体の摩擦係数の温度特性に関する情報に基づき、前記温度検出部からの信号に応じて、前記温度調整部を制御する温度制御部
を備えていることを特徴とする乗客コンベアの手摺ガイド。
【請求項2】
前記温度制御部には、前記摩擦係数が所定値よりも低くなる温度範囲に関する情報が記憶されており、
前記温度制御部は、前記手摺ガイド本体の温度が前記温度範囲内となるように前記温度調整部を制御することを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの手摺ガイド。
【請求項3】
移動手摺を案内する樹脂製の手摺ガイド本体の前記移動手摺に対する摺動特性を測定する乗客コンベアの手摺ガイドの摺動特性測定装置であって、
前記移動手摺と同様の材料により構成され、回転される測定用手摺片、
前記手摺ガイド本体と同様の材料により構成され、前記測定用手摺片の外周に押し付けられる測定用ガイド片、
前記測定用手摺片と前記測定用ガイド片との間に発生する前記測定用手摺片の外周面に対する接線方向への力を検出する力検出器、及び
前記測定用ガイド片の前記測定用手摺片との接触部の温度を測定する温度計
を備えていることを特徴とする乗客コンベアの手摺ガイドの摺動特性測定装置。
【請求項4】
前記測定用ガイド片の前記測定用手摺片への押付力を検出する押付力検出器をさらに備えていることを特徴とする請求項3記載の乗客コンベアの手摺ガイドの摺動特性測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−218914(P2012−218914A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88437(P2011−88437)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】