説明

乗客コンベアの駆動装置

【課題】ベルト本数の増加、及び装置の大型化を招くことなく、必要な摩擦係数を確保することのできる乗客コンベアの駆動装置の提供。
【解決手段】電動機11により駆動される駆動プーリ15と、前記駆動プーリ15と同軸で設けられたフライホイール21と、制動機14と、前記制動機14が取付けられる回転軸に連結された従動プーリ16と、前記駆動プーリ15と前記従動プーリ16との間に巻き掛けられたベルト17とを備え、乗客コンベアに駆動力を伝達する乗客コンベアの駆動装置において、ベルト17を、ベルト幅方向に12以上〜18以下の突部を有する1本または2本のVリブドベルト17a、17bとから成るとともに、前記Vリブドベルト17a、17bの摩擦力が制動力よりも大きい構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや電動道路等の乗客コンベアの駆動装置に係り、特に、駆動プーリと従動プーリとの間にベルトを巻き掛け、駆動力を伝達する乗客コンベアの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無端状に連結され乗降口間を移動する複数の踏段、及びこれらの踏段と同期して移動する移動手摺を駆動するための乗客コンベアの駆動装置にあって、駆動プーリから従動プーリに駆動力を伝達する伝達手段として、駆動プーリと従動プーリとの間にベルトを巻き掛けたものが一般的である。そして、従来、ベルトの摩擦係数の向上を図るため、駆動プーリと従動プーリとの間に、V字の断面形状を有するVベルトを複数並設したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、乗客コンベアの駆動装置ではないが、ベルト幅方向に7以上のV溝を有する複数のプーリ間に、ベルト幅方向に4以下の突部を有する複数のVリブドベルトを並列に巻き掛けた駆動装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−137040号公報(段落番号0011、図1、図2)
【特許文献2】実開昭59−136061号公報(第1頁左欄、第1図、第8図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者のものはVベルトを3本用いたものであるが、Vベルトを3本用いると、それぞれのベルト間にあって張力のばらつきが大きくなり、一部のベルトが許容値以上の駆動力伝達を行なうことになって、ベルトの寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
また、後者のものは、ベルト幅方向に7以上のV溝を有する複数のプーリ間に、ベルト幅方向に4以下の突部を有する複数のVリブドベルトを並列に巻き掛けたものであって、仕様が限定的である。このような構造を乗客コンベアの駆動装置に適用した場合、必要とされる摩擦係数を確保しつつ、他の所定要素を満たすことが難しいという問題がある。即ち、乗客コンベアの駆動装置にあっては、従動プーリの回転軸には制動機が設けられており、ベルトの摩擦係数が十分に確保されていないと、制動の際にベルトが滑り乗客コンベアが急停止する恐れがある。従来の構造でベルトの摩擦係数を上げるためには、プーリ径を大きくするか、ベルト本数を増やす必要があるが、プーリ径を大きくすると、コストが増えるとともに、装置が大型化し乗客コンベアの駆動装置として適さないという問題があった。また、ベルト本数を増やし、例えば3本とすると、前述したものと同様、ベルト間にあって張力のばらつきが大きくなり、一部のベルトが許容値以上の駆動力伝達を行なうことになって、ベルトの寿命が短くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、ベルト本数の増加、及び装置の大型化を招くことなく、必要な摩擦係数を確保することのできる乗客コンベアの駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、電動機と、前記電動機により駆動される駆動プーリと、前記駆動プーリと同軸で設けられたフライホイールと、制動機と、前記制動機が取付けられる回転軸に連結された従動プーリと、前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻き掛けられたベルトとを備え、乗客コンベアに駆動力を伝達する乗客コンベアの駆動装置において、前記ベルトは、ベルト幅方向に合計で12以上〜18以下の突部を有する1本または2本のVリブドベルトから成るとともに、前記Vリブドベルトの摩擦力が制動力よりも大きいことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明では、駆動プーリと従動プーリとの間に巻き掛けられるベルトを、ベルト幅方向に12以上〜18以下の突部を有するVリブドベルトとすることで、ベルト本数の増加、及び装置の大型化を招くことなく、乗客コンベアの駆動装置として求められる摩擦係数を確保し、Vリブドベルトの摩擦力を制動力より大きくすることができる。
【0010】
また、本発明は、前記Vリブドベルトは、ベルト幅方向に2本並設されていることを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明では、2本のVリブドベルトを並列させて設けることで、ベルト本数の増加を最小限としつつ、1本のベルトに異常が生じた場合でも、他の1本で緊急対応することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベルトの本数を2本以下とすることで、ベルト間で生じる張力のばらつきを抑え、これによって、ベルトの長寿命化を図ることができる。また、省スペースで高い摩擦係数を得ることができることから、装置の大型化、及びコストの向上を防ぐことができる。さらに、乗客コンベアの駆動装置として求められる摩擦係数を確保し、制動の際にベルトに滑りが生じることを防ぐことができ、これによって、制動の際、円滑な停止を実現し、ひいては乗客コンベアの安全性の向上を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る乗客コンベアの駆動装置の実施例を示す正面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う要部断面図である。
【図3】本発明の駆動装置が適用されるエスカレーターの概略構成図である。
【図4】本実施例の駆動装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る乗客コンベアの駆動装置の実施例を図に基づき説明する。
【0015】
乗客コンベア、例えば、エスカレーター1は、図3に示すように、上下階床に跨って設置され上部水平枠2Aと中間傾斜枠2Bと下部水平枠2Cとから構成された枠体2と、上部水平枠2A内に軸支された駆動スプロケット3と、下部水平枠2C内に軸支された従動スプロケット4と、これら駆動スプロケット3と従動スプロケット4とに跨って無端状に巻き掛けられた踏段チェーン5と、この踏段チェーン5に連結され往路側では常に水平に保持される踏板を有する複数の踏段6と、枠体2における踏段6の幅方向両側に対応する位置に沿って立設された欄干パネル7と、この欄干パネル7の周縁に案内されて移動する移動手摺8と、踏段チェーン5や移動手摺8の駆動部からなる駆動装置9とを備えている。
【0016】
駆動装置9は、動力伝達チェーン10を介して踏段チェーン5や移動手摺8の駆動機構に動力を伝達している。駆動装置9は、図1、及び図4に示すように、電動機11と、駆動力伝達経路となる歯車機12と、歯車機12の入力軸13に取付けられ制動力を付与する制動機14とから構成されており、電動機11の駆動力は、電動機11の駆動プーリ15と歯車機12の従動プーリ16との間に巻き掛けられたベルト17を介して歯車機12の入力軸13へ伝達され、次いで、歯車機12の出力軸18に固定されたプーリ19に巻き掛けられる動力伝達チェーン10を介して駆動スプロケット3に伝達される。また、電動機11の駆動軸20にはフライホイール21が固定されている。さらに、ベルト17の少なくとも一方側に、ベルト17の張力を一定にするオートテンショナー22が設けられている。
【0017】
そして、ベルト17は、図1、及び図2に示すように、2本のVリブドベルト17a、17bから成るとともに、Vリブドベルト17a、17bは、それぞれ、ベルト幅方向に6つの突部を有している。また、Vリブドベルト17a、17bが巻き掛けられる駆動プーリ15、及び従動プーリ16は、図2に示すように、Vリブドベルト17a、17bの突部に対応する溝が形成されている(尚、従動プーリ16の溝は図示していないが、駆動プーリ15と同様に溝が形成されている)。
【0018】
本実施例にあっては、駆動プーリ15と従動プーリ16との間に巻き掛けられるベルト17を、ベルト幅方向に合計で12の突部を有するVリブドベルト17a、17bとすることで、Vリブドベルト17a、17bの摩擦力を制動力より大きくすることができる。これによって、制動機14が動作した際に、Vリブドベルト17a、17bが滑ることなくフライホイール21の慣性力を従動側に伝達できるため、乗客コンベアを緩停止させることができる。
【0019】
本実施例によれば、Vリブドベルト17a、17bの本数を2本とすることで、ベルト間で生じる張力のばらつきを抑え、これによって、ベルトの長寿命化を図ることができる。また、Vリブドベルト17a、17bは省スペースで高い摩擦係数を得ることができることから、装置の大型化、及びコストの向上を防ぐことができる。さらに、乗客コンベアの駆動装置として求められる摩擦係数を確保し、制動の際にVリブドベルト17a、17bに滑りが生じることを防ぐことができ、これによって、制動の際、円滑な停止を実現し、ひいては乗客コンベアの安全性の向上を図ることもできる。さらにまた、Vリブドベルト17a、17bの本数を2本とすることで、ベルト本数の増加を最小限としつつ、1本のベルトに異常が生じた場合でも、他の1本で緊急対応することができる。また、オートテンショナー22を設けることで、Vリブドベルトベルト17a、17bの張力を一定に保つことができるため、ベルト張力の調整インターバルのさらなる長周期化を図ることができる。
【0020】
なお、本実施例では、ベルト17を、図1、及び図2に示すように、それぞれがベルト幅方向に6つの突部を有した2本のVリブドベルト17a、17bとしたが、本発明はこれに限らず、ベルト本数を1本としたり、Vリブドベルトの突部を、合計で12以上〜18以下の中で任意に設定したりすることができる。ここで突部の数を12以上としたのは、乗客コンベアの駆動装置として所定の摩擦係数を得るために必要とされるからであり、また、18以下としたのは、ベルトの巻き掛けスペースを鑑み、それ以上は大型化を招くからである。尚、突部の数は合計で12以上〜18以下であればよいので、1本のベルトの場合は、1本の中に12以上〜18以下の突部を設ければよく、2本のベルトの場合は、2本のベルトを合計して12以上〜18以下の突部となるようにすればよい。さらに、本実施例では、乗客コンベアとして、エスカレーターを例として挙げたが、電動道路の駆動装置に適用できるのは云うまでもない。
【符号の説明】
【0021】
1 エスカレーター
2 枠体
2A 上部水平枠
2B 中間傾斜枠
2C 下部水平枠
3 駆動スプロケット
4 従動スプロケット
5 踏段チェーン
6 踏段
7 欄干パネル
8 移動手摺
9 駆動装置
10 動力伝達チェーン
11 電動機
12 歯車機
13 入力軸
14 制動機
15 駆動プーリ
16 従動プーリ
17 ベルト
17a Vリブドベルト
17b Vリブドベルト
18 出力軸
19 プーリ
20 駆動軸
21 フライホイール
22 オートテンショナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、前記電動機により駆動される駆動プーリと、前記駆動プーリと同軸で設けられたフライホイールと、制動機と、前記制動機が取付けられる回転軸に連結された従動プーリと、前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻き掛けられたベルトとを備え、乗客コンベアに駆動力を伝達する乗客コンベアの駆動装置において、前記ベルトは、ベルト幅方向に合計で12以上〜18以下の突部を有する1本または2本のVリブドベルトから成るとともに、前記Vリブドベルトの摩擦力が制動力よりも大きいことを特徴とする乗客コンベアの駆動装置。
【請求項2】
前記Vリブドベルトは、ベルト幅方向に2本並設されていることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73827(P2011−73827A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227122(P2009−227122)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】