説明

乗客コンベア及び乗客コンベアの運転表示装置

【課題】乗降口から比較的離れた場所からでも、乗客コンベアの運転に関する情報を視認できるようにすること。
【解決手段】エスカレータ1の乗降口には、乗降床2が設けられる。乗降床2は、建屋床に水平な第1床部21と、第1床部21と建屋床とをつなぐように設けられる第2床部22と、第2床部22の正面部22Fに設けられる表示部23とを備える。第2床部22の正面部22Fは、建屋床から乗降口に向けて上向きに傾斜している。表示部23は、建屋床に対して上向きに傾斜しているため、乗客は、比較的離れた位置から、表示内容を確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア及び乗客コンベアの運転表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客が誤った方向から乗客コンベアに乗り込むのを防止すべく、運転方向を示す表示装置を乗降口の近傍に設けることが知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−280899号公報
【特許文献1】特開2000−272864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、乗降口の乗客の足下部分に運転方向を表示させたり、デッキカバーの端部に乗り方を表示したりする。従って、乗客は、乗降口の正面にある程度近づかなければ、それらの表示を視認するのが難しい。従って、慌てて乗客コンベアに乗り込もうとする乗客は、それらの表示を見落とす可能性がある。
【0005】
また、乗降口の正面から乗客コンベアに乗り込む場合には、それらの表示を確認することができる。しかし、側面から乗客コンベアに乗り込もうとする場合、乗客は表示に気づきにくく、表示の発見が遅れやすい。従って、乗降口付近では、乗るべき乗客コンベアを間違えて引き返そうとする乗客と、その乗客コンベアから降りる乗客とが交錯して混雑する可能性もある。
【0006】
本発明は、上記の課題に着目してなされたもので、その目的は、乗降口から比較的離れた場所から、乗客コンベアの運転に関する情報を視認できるようにした乗客コンベア及び乗客コンベアの運転表示装置を提供することにある。本発明の他の目的は、乗降口の周囲の比較的離れた場所から、乗客コンベアの運転に関する情報を視認できるようにした乗客コンベア及び乗客コンベアの運転表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に従う乗客コンベアは、一対の乗降床と、無端状に連結して形成され、各乗降床の間を循環移動する踏段と、踏段の進行方向に沿って立設される欄干と、踏段に同期して移動するように欄干に設けられる移動手すりと、を備える乗客コンベアであって、各乗降床は、建屋床よりも高い位置に設けられ、踏段へ乗降するための第1床部と、第1床部と建屋床とをつなぐように設けられる第2床部と、第2床部の表面側に設けられ、乗客コンベアの運転に関する情報を表示する表示部と、を備える。
【0008】
表示部は、表示内容を変更可能なディスプレイ装置として構成され、運転に関する情報として予め設定されている表示内容を、運転状態に応じて表示してもよい。乗客コンベアの運転に関する情報は、例えば乗客コンベアの運転方向を示す情報を含む。
【0009】
第1床部は建屋床と平行になるように水平に設けられており、第2床部は、建屋床から第1床部に向けて所定角度で傾斜するように設けられてもよい。
【0010】
第2床部は、乗降口の正面に位置する正面部と、正面部の左右両側に位置する側面部とを備えており、正面部は、建屋床から第1床部に向けて所定角度で傾斜するように設けられており、各側面部は、建屋床と垂直に設けられてもよい。
【0011】
各側面部から第1床部への進入を阻止し、正面部から第1床部への進入を案内するための案内柵を備えることもできる。
【0012】
第2床部は、乗降口の正面に位置する正面部と、正面部の左右両側に位置する側面部とを備えており、正面部及び各側面部は、建屋床から第1床部に向けて所定角度で傾斜するように設けられてもよい。
【0013】
第1床部の外縁には平面視での曲線部が含まれており、第2床部は、第1床部の外縁に沿って連続的に設けられており、かつ、建屋床から第1床部に向けて所定角度で傾斜するように形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エスカレータの側面図である。
【図2】第1実施例に係るエスカレータの乗降口付近の構成と電気的構成を示す説明図である。
【図3】比較的離れた場所から表示装置を視認できる様子を示す説明図である。
【図4】第2実施例に係るエスカレータの乗降口付近の構成を示す斜視図である。
【図5】第3実施例に係るエスカレータの乗降口付近の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、後述のように、乗降床に形成された傾斜部分に運転表示装置を組み込み、比較的離れた場所から乗客コンベアの運転方向等を視認できるようにしている。乗客コンベアとしてエスカレータを例に挙げて説明するが、これに限らず、電動歩道のような他の乗客コンベアにも本発明を適用できる。
【実施例1】
【0016】
図1〜図3を参照して本発明の第1実施例を説明する。図1は、エスカレータ1の側面図である。エスカレータ1は、下階の建屋床LFと上階の建屋床UFとの間で、矢示L方向に乗客を運ぶことができるように設けられている。以下、特に区別しない場合、建屋床LF,UFを建屋床Fと呼ぶ。なお、図1では、降りのエスカレータ1を示すが、昇りのエスカレータであってもよい。
【0017】
エスカレータ1のフレーム(図示せず)は、その長手方向の両端側が各建屋床LF,UFに設置される。乗降床2(L),2(U)は、フレームの長手方向の両端側に設けられている。
【0018】
下階の乗降床2(L)と上階の乗降床2(U)の間には、無端状に連結された踏段3が設けられている。踏段3は、モータ等の駆動装置110(図2参照)により、各乗降床2(L),2(U)の間を循環移動する。以下、特に区別しない場合、乗降床2(L),2(U)を乗降床2と呼ぶ。
【0019】
踏段3の進行方向に沿って、欄干4が垂直に設けられている。欄干4には、踏段3の進行方向と同一の方向に同一速度で移動する手すり5が設けられている。欄干4の下部内側は、内側デッキ6で覆われており、欄干4の下部外側は、外側デッキ7で覆われている(いずれも図2参照)。
【0020】
乗降床2の詳細は、図2以降で説明するが、乗降床2は、第1床部21と、第1床部21と建屋床Fとをつなぐようにして第1床部21に一体的に設けられる第2床部22とを備える。
【0021】
第1床部21は、建屋床Fよりも高い位置にあるため、第1床部21と建屋床Fとをつなぐ第2床部22は、建屋床Fに対して傾斜している。第2床部22は、なだらかなスロープ状に形成されている。
【0022】
上階の第2床部22の角度A1と、下階の第2床部22の角度A2とは、同一の値に設定される。但し、場合によっては、角度A1と角度A2の値を変えてもよい。以下の説明では、特に区別しない場合、角度A1,A2を角度Aと呼ぶ。
【0023】
図2は、エスカレータ1の乗降口付近の構成と電気的構成を示す。図3は、乗降床2の表示部23を乗客が視認する様子を示す。
【0024】
乗降口とは、乗客がエスカレータ1に乗り込んだり、エスカレータ1から降りたりするための領域である。乗降口には乗降床2が設けられている。乗降床2は、上述のように、第1床部21と、第1床部21と建屋床Fとをつなぐようにして形成される第2床部22とを備える。乗降口の左右両側には、乗客の移動を規制し、乗客を乗降口の正面から移動させるための案内柵10が設けられている。
【0025】
図2及び図3に示すように、第2床部22は、乗降口の正面に位置する正面部22Fと、正面部22Fの左右両側に位置する側面部22Sとを備える。正面部22Fは、建屋床Fに対して比較的小さい角度Aで傾斜している。換言すれば、正面部22Fは、建屋床Fから乗降口に向けて所定角度Aで上向きに傾斜している。これに対し、各側面部22Sは、建屋床Fに対して垂直に設けられている。
【0026】
正面部22Fの表面には、表示部23が設けられている。表示部23は、例えば、LED等の発光素子を複数有するディスプレイ装置として構成される。表示部23を、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ(organic electroluminescence display)のように構成してもよい。さらに、両側面部22Sにも、他の表示部24を設ける構成でもよい。
【0027】
但し、本実施例の側面部22Sは、建屋床Fに垂直に設けられており、その面積が小さい。従って、側面部22Sには、比較的小さな表示部24を設けることができる。後述する他の実施例では、両側面部22Sも、正面部22Fと同様になだらかなスロープ状に形成されるため、比較的大きなサイズの表示部24を設けることができる。なお、側面部22Sには、表示部24を設けない構成としてもよい。
【0028】
電気的構成を説明する。コンベア制御装置100は、乗客コンベア1の動作を制御するための装置である。コンベア制御装置100は、例えば、マイクロプロセッサとメモリ及び信号入出力回路等を備えたコンピュータシステムとして構成される。コンベア制御装置100は、シーケンサとして構成してもよい。
【0029】
コンベア制御装置100は、電動モータ110に制御信号を出力することで、踏段3及び移動手すり5の動作を制御する。さらに、コンベア制御装置100は、表示制御装置120を介して、表示部23,24の表示を制御する。
【0030】
表示制御装置120は、表示部23,24に表示させる内容を制御する。表示制御装置120は、表示内容を管理するための表示管理テーブル121を備える。表示管理テーブル121は、例えば、エスカレータ1の複数の運転状態と、各運転状態毎の表示内容とを対応付けて管理する。
【0031】
表示制御装置120は、コンベア制御装置100から運転状態を示す制御信号を受信し、運転状態に対応する表示内容を表示管理テーブル121の中から選択する。表示制御装置120は、選択された表示内容が表示部23,24に表示されるように、表示部23,24に制御信号(またはデータ)を出力する。
【0032】
例えば、「昇り運転」の場合、表示部23,24には、昇り方向のエスカレータであることを示すマークが表示される。「降り運転」の場合、表示部23,24には、降り方向のエスカレータであることを示すマークが表示される。異常状態が検出された場合、表示部23,24には、エスカレータ1を利用しようとする乗客に警告するためのマークが表示される。
【0033】
一つのエスカレータ1において、乗り口の表示内容と降り口の表示内容とは異なる。図1の例では、上階の乗降床2(U)の表示部23,24には、降り方向のエスカレータであることを示すマークが表示される。これに対し、下階の乗降床2(L)の表示部23,24には、進入禁止を示すマークが表示される。なお、表示部23,24に、その階の番号を表示させてもよい。
【0034】
表示部23,24に表示されるマークは、文字、数字、記号、画像いずれでもよい。さらに、マークは静止状態で表示させてもよいし、アニメーションのように動きを持たせて表示させてもよい。
【0035】
本実施例は、上述のように、建屋床Fよりも高い位置に設けられ、踏段3へ乗降するための第1床部21と、第1床部21と建屋床Fとをつなぐように設けられる第2床部22と、第2床部22の表面側に設けられ、エスカレータ1の運転に関する情報を表示する表示部23とを備える。従って、乗客に、エスカレータ1の運転方向等を知らせることができ、使い勝手および安全性が向上する。
【0036】
本実施例では、第1床部21は建屋床Fと平行になるように水平に設けられており、第2床部22は、建屋床Fから第1床部21に向けて所定角度で傾斜するように設けられている。従って、図3に示すように、乗客は、エスカレータ1の乗降口から距離L1離れた場所からでも、表示部23の表示を確認することができる。これにより、乗客の乗り間違いを未然に防止し、使い勝手及び安全性が向上する。
【0037】
本実施例では、正面部22Fの両側面部22Sを建屋床Fに対して垂直に設け、かつ、乗客を正面部22Fに誘導するための案内柵10を配置する。従って、乗客が乗降口の側面側から乗り込んだり降りたりするのを防止でき、安全性を向上できる。
【実施例2】
【0038】
図4を参照して第2実施例を説明する。本実施例を含む以下の各実施例は、第1実施例の変形例に該当する。そこで、第1実施例との相違点を中心に説明する。
【0039】
本実施例の乗降床2Aは、建屋床Fに平行に設けられる矩形状の第1床部21Aと、第1床部21Aの四辺のうち踏段3に対面する辺以外の他の三辺に一体的に設けられる第2床部22と、第2床部22の表面に設けられる表示部23,24を備える。
【0040】
第2床部22Aは、乗降口の正面に位置する正面部22Fと、正面部22Fの左右両側に位置する2つの側面部22Sとを備える。正面部22Fは、所定の角度で傾斜するなだらかなスロープ状に形成される。両側面部22Sも、所定の角度で傾斜するなだらかなスロープ状に形成される。つまり、乗降口の周囲を取り囲むようにして、なだらかなスロープ状の第2床部22Aが設けられている。
【0041】
正面部22Fの中央部には表示部23が設けられている。両側面部22Sの中央部にも表示部24がそれぞれ設けられている。
【0042】
なお、正面部22Fの傾斜する角度と、両側面部22Sの傾斜する角度とは一致させてもよいし、異なっていてもよい。また、表示部23,24を、中央部から若干ずれた位置に取り付ける構成でもよい。
【0043】
本実施例では、案内柵10は取り除かれており、乗客は3方向からエスカレータ1に乗り降りすることができる。そして、乗降床2Aには、乗客の移動可能な3つの方向にゆるやかに傾斜したスロープ(22F,22S)を設けている。
【0044】
このように構成される本実施例も、乗客は、乗降口から比較的離れた場所で、表示部23,24の表示内容を視認できるため、使い勝手及び安全性が向上する。
【0045】
また、本実施例では、乗客が移動可能な3方向の全てに傾斜させた表示部23,24を配置するため、いずれの方向から近づいてくる乗客に対しても、エスカレータ1の運転方向等を適切に知らせることができる。
【実施例3】
【0046】
図5を参照して第3実施例を説明する。本実施例の乗降床2Bは、例えば、平面視が略U字状になるように形成されている。乗降床2Bは、その外縁に曲線部210を有する第1床部21Bと、第1床部21Bと建屋床Fとをつなぐ第2床部22Bを備える。
【0047】
第2床部22Bは、第1床部21Bの外縁に沿うようにして、建屋床Fに所定角度傾斜して設けられている。第2床部22Bには、その正面側の領域22Fに表示部23が設けられている。また、第2床部22Bの両側面の領域22Sにも、表示部24が設けられている。このように構成される本実施例は、第2実施例と同様の効果を奏する。
【0048】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。例えば、同一の乗降床に設けられる複数の表示部の表示内容をそれぞれ違えてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:エスカレータ、2:乗降床、3:踏段、4:欄干、5:移動手すり、21,21A,21B:第1床部、22,22A,22B:第2床部、22F:正面部、22S:側面部、23,24:表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の乗降床と、
無端状に連結して形成され、前記各乗降床の間を循環移動する踏段と、
前記踏段の進行方向に沿って立設される欄干と、
前記踏段に同期して移動するように前記欄干に設けられる移動手すりと、
を備える乗客コンベアであって、
前記各乗降床は、
前記建屋床よりも高い位置に設けられ、前記踏段へ乗降するための第1床部と、
前記第1床部と前記建屋床とをつなぐように設けられる第2床部と、
前記第2床部の表面側に設けられ、乗客コンベアの運転に関する情報を表示する表示部と、を備える乗客コンベア。
【請求項2】
前記表示部は、表示内容を変更可能なディスプレイ装置として構成され、前記運転に関する情報として予め設定されている表示内容を、運転状態に応じて表示するようになっている、請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記第1床部は前記建屋床と平行になるように水平に設けられており、
前記第2床部は、前記建屋床から前記第1床部に向けて所定角度で傾斜するように設けられている、請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記第2床部は、乗降口の正面に位置する正面部と、前記正面部の左右両側に位置する側面部とを備えており、
前記正面部は、前記建屋床から前記第1床部に向けて前記所定角度で傾斜するように設けられており、
前記各側面部は、前記建屋床と垂直に設けられている、請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記各側面部から前記第1床部への進入を阻止し、前記正面部から前記第1床部への進入を案内するための案内柵を備える、請求項4に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記第2床部は、乗降口の正面に位置する正面部と、前記正面部の左右両側に位置する側面部とを備えており、
前記正面部及び前記各側面部は、前記建屋床から前記第1床部に向けて前記所定角度で傾斜するように設けられている、請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記第1床部の外縁には平面視での曲線部が含まれており、
前記第2床部は、前記第1床部の外縁に沿って連続的に設けられており、かつ、前記建屋床から前記第1床部に向けて前記所定角度で傾斜するように形成されている、請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
前記乗客コンベアの運転に関する情報は、前記乗客コンベアの運転方向を示す情報を含む、請求項1から7の何れかに記載の乗客コンベア。
【請求項9】
乗客を移動させる乗客コンベアに設けられる運転表示装置であって、
前記乗客コンベアの乗降口と前記乗客コンベアの取り付けられる建屋床とを所定角度傾斜してつなぐ床部に、前記乗客コンベアの運転に関する情報を表示するための表示部を設ける、乗客コンベアの運転表示装置。
【請求項10】
前記乗客コンベアの運転に関する情報は、前記乗客コンベアの運転方向を示す情報を含む、請求項9に記載の乗客コンベアの運転表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67442(P2013−67442A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205139(P2011−205139)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】