説明

乗客コンベア

【課題】意匠性を損なわずに、耐震性の向上を図ることのできる乗客コンベアの提供。
【解決手段】上階建屋11と下階建屋間に、掛り代を備えた受け梁2aを介して設置された枠体2と、この枠体2の長手方向両端部に設けた乗降床と、これらの乗降床間を無端状に連結されて循環回動する踏段チェーンおよび踏段と、乗降床下近傍で踏段チェーンが巻き掛けられる主スプロケットおよび従スプロケットと、枠体に軸受け部を介して取り付けられるとともに、主スプロケットが固定される駆動軸と、この駆動軸を駆動スプロケットを介して駆動する駆動機Mとを備えた乗客コンベアにおいて、上階建屋側に位置する枠体2に、この枠体2の短手方向に突出する突出部21、45を設け、この突出部に対向する上階建屋側に、受け梁の掛り代より小さい隙間を有して突出部21,45と係合する阻止体9を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上階建屋と下階建屋間に架設される乗客コンベアに係り、特に、耐震性の向上を図る構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上階建屋と下階建屋間に架設される乗客コンベアにあって、地震時の建屋の揺れによる階床間の距離の拡大変位によって乗客コンベアがずれ落ちることを防止するものとして、傾斜区間と上水平区間との間及び傾斜区間と下水平区間との間に形成した上屈曲部及び下屈曲部を有する枠体を備え、この枠体の上端部を建築物に設けた強度部材に連結手段、例えばワイヤーロープを介して固定するようしたものが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、ベアリング交換の作業性を考慮し、主スプロケットのシャフトが枠体の外面よりも外側に突出するように設けられたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−195475号公報(段落番号0009〜0 015、図2)
【特許文献2】特開平5−78086号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乗客コンベアの設置条件によっては、横から見た際に連結手段、すなわちワイヤーロープが見えてしまい、意匠性を損なうという問題があった。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、意匠性を損なわずに、耐震性の向上を図ることのできる乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、上階建屋と下階建屋間に、掛り代を備えた受け梁を介して設置された枠体と、この枠体の長手方向両端部に設けた乗降床と、これらの乗降床間を無端状に連結されて循環回動する踏段チェーンおよび踏段と、前記乗降床下近傍で前記踏段チェーンが巻き掛けられる主スプロケットおよび従スプロケットと、前記枠体に軸受け部を介して取り付けられるとともに、前記主スプロケットが固定される駆動軸と、この駆動軸を駆動スプロケットを介して駆動する駆動機とを備えた乗客コンベアにおいて、前記上階建屋側に位置する前記枠体に、この枠体の短手方向に突出する突出部を設け、この突出部に対向する前記上階建屋側に、前記受け梁の前記掛り代より小さい隙間を有して前記突出部と係合する阻止体を設けたことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明では、枠体の突出部を、上階建屋側の阻止体に対向させて配置することで、地震時の建屋の揺れにより階床間の距離が拡大変位した際、突出部と阻止体間の隙間がゼロとなり、突出部は阻止体によって動きが阻止される。これによって、枠体がずれ落ちることを防止することができる。また、突出部および阻止体は、従来の連結手段より小さなものであるとともに、建屋構造体内に隠れるように設置可能であることから、意匠性を損なうこともない。
【0009】
また、本発明は、前記阻止体を、前記上階建屋側に設けたU字溝としたことを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明では、阻止体を上階建屋側に設けたU字溝とすることで、簡易な構造で阻止体としての必要強度を備えることができるとともに、突出部および阻止体を建屋構造体内に完全に隠れるように設置することができる。
【0011】
さらに、本発明は、前記阻止体を、前記突出部と対向するストッパーとしたことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明は、U字溝を設けることができない建屋であっても、また、既設の建屋に本発明の乗客コンベアを設置する場合であっても、簡易な構造で阻止体を備えることができる。
【0013】
さらにまた、本発明は、前記突出部を、前記枠体の外法よりも外側へ突出する前記主スプロケットの軸受け部としたことを特徴としている。
【0014】
このように構成した本発明は、主スプロケットの軸受け部が枠体の外法よりも外側へ突出した乗客コンベアの場合、これを突出部として用いることで、別途、特別に突出部を設ける手間を省くことができる。
【0015】
また、本発明は、前記突出部を、前記枠体の外部に設けたブラケットとしたことを特徴としている。
【0016】
このように構成した本発明は、簡易な構造で必要強度を有する突出部を設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、乗客コンベアを横から見た時の意匠性を損なうことなく、地震時に乗客コンベアがずれ落ちることを防止することができ、これによって、意匠性および安全性の両面で優れた乗客コンベアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】乗客コンベアの概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明の乗客コンベアの第1の実施例を示し、図1のA−A線に沿う主スプロケット部の断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う第1の実施例における枠体部分の平面簡略図である。
【図4】本発明の乗客コンベアの第2の実施例を示し、図1のA−A線に沿う主スプロケット部の断面図である。
【図5】図1のB−B線に沿う第2の実施例における枠体部分の平面簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る乗客コンベアの実施例を図に基づき説明する。
【0020】
第1の実施例の乗客コンベア、例えば、エスカレーターは、図1に示すように、建屋構造物1、すなわち、上階建屋11と下階建屋12間に、掛り代を備えた受け梁2a、2bを介して設置された枠体2と、この枠体2の長手方向両端部に設けた乗降床31、32と、これら乗降床31、32の近傍に配置された主スプロケット4および従スプロケット5と、乗降床31、32間を無端状に連結されて循環移動する踏段チェーン6および踏段7と、踏段チェーン6を駆動する駆動機Mと、踏段7の回動方向に沿って左右に対向する欄干8とを備えている。
【0021】
主スプロケット4は、図2に示すように、枠体2の短手方向に沿って延設配置される駆動軸41、踏段チェーン6が巻き掛けられる踏段チェーン用スプロケット42、ハンドレール駆動用スプロケット43、駆動機Mからの動力を伝える駆動スプロケット44、および駆動軸41の端部に配置されるとともに、枠体2に設けたベース21にボルトBにより固定された軸受け45を有して成っている。
【0022】
軸受け45は、図2に示すように、その一部が枠体2の外法(外寸、幅寸法、外面)よりも外側へ突出しているとともに、ベース21の一部も枠体2の外法よりも外側に突出し、凸形状となっている。なお、図2、便宜上、エスカレーター短手方向右側のみを示したものであり、その左側は基本的に右側と同様であるが、駆動スプロケット44が省かれた形状となっている。
【0023】
そして、第1の実施例のエスカレーター1は、図2および図3に示すように、上階建屋11側に位置する枠体2に、この枠体2の短手方向に突出する突出部を設け、この突出部に対向する上階建屋11側に、受け梁2aの掛り代Rより小さい隙間Hを有して突出部と係合する阻止体を設けている。
【0024】
前述した突出部は、図2に示すように、例えば、枠体2の外法よりも外側へ突出した主スプロケット4の軸受け部、すなわち、軸受け45およびベース21から成っている。
【0025】
前述した阻止体は、図3に示すように、上階建屋11側に設けたU字溝9からなっている。なお、突出部、すなわち、主スプロケット4の軸受け部、および阻止体であるU字溝9は、エスカレーター1を横から見た際、建屋構造体内に完全に隠れるように設置してある。
【0026】
第1の実施例にあっては、地震時の建屋の揺れにより上階建屋11と下階建屋12間の距離が拡大変位した場合、枠体2の外法よりも外側へ突出した主スプロケット4の軸受け部とU字溝9の隙間Hがゼロとなる。すなわち、突出部が阻止体によって動きが阻止され、枠体2がずれ落ちることを防止する。このように、受け梁2aの掛り代Rと隙間Hを、H<Rの関係にすることで、枠体2がずれ落ちることを防止することができる。
【0027】
第1の実施例によれば、エスカレーター1を横から見た時の意匠性を損なうことなく、地震時に枠体2がずれ落ちることを防止することができ、これによって、意匠性および安全性の両面で優れたエスカレーターを提供することができる。また、阻止体を上階建屋側に設けたU字溝9とすることで、簡易な構造で阻止体としての必要強度を備えることができるとともに、突出部および阻止体を建屋構造体内に完全に隠れるように設置可能である。さらに、枠体2の外法よりも外側へ突出している主スプロケット4の軸受け部、すなわち、軸受け45およびベース21を突出部として用いることで、別途、特別に突出部を設ける手間を省くことができる。
【0028】
次に、第2の実施例を図4および図5に基づき説明する。なお、前述した第1の実施例と同等のものには同一符号が付してある。
【0029】
第2の実施例では、上階建屋11側に位置する枠体2に設けられ、この枠体2の短手方向に突出する突出部が、図4に示すように、例えば、枠体2の外部に設けられたブラケット10から成っている。
【0030】
また、突出部に対向する上階建屋11側に設けられ、受け梁2aの掛り代Rより小さい隙間Hを有して突出部に係合する阻止体が、図5に示すように、例えば、突出部と対向するストッパーSから成っている。なお、図5にあっては、突出部の一方側がストッパーSと対向するとともに、突出部の他方側は上階建屋11の構造体と所定の隙間を介して対向するようになっている。
【0031】
第2の実施例にあっては、地震時の建屋の揺れにより上階建屋11と下階建屋12間の距離が拡大変位した場合、枠体2の外法よりも外側へ突出したブラケット10とストッパーSの隙間Hがゼロとなる。すなわち、突出部が阻止体によって動きが阻止され、枠体2がずれ落ちることを防止する。
【0032】
第2の実施例によれば、前述した第1の実施例と同様、エスカレーターを横から見た時の意匠性を損なうことなく、地震時に枠体2がずれ落ちることを防止することができ、これによって、意匠性および安全性の両面で優れたエスカレーターを提供することができる。また、阻止体を、突出部と対向するストッパーSとすることで、前述したU字溝を設けることができない建屋であっても、また、既設の建屋に本発明を設置する場合であっても、簡易な構造で阻止体を備えることができる。さらに、突出部を、枠体2の外部に設けたブラケット10としたことで、簡易な構造で必要強度を有する突出部を設けることができる。
【0033】
なお、前述した第1の実施例では、突出部を枠体2の外法よりも外側へ突出した主スプロケット4の軸受け部とし、阻止体をU字溝9とした組み合わせ、また、第2の実施例では、突出部を枠体2の外部に設けたブラケット10とし、阻止体をストッパーSとした組み合わせとしたが、突出部と阻止体の組み合わせはこれに限らないことは言うまでもない。また、前述したそれぞれの実施例では、傾斜路で踏段が階段状になるエスカレーターについて説明したが、段差の生じない、動く歩道に本構造を適用しても良い。
【符号の説明】
【0034】
1 建屋構造物
11、12 階床
2 枠体
21 ベース
22 レールベース
23 横桁
24 下面連結材
25 油受け
26 上面部
27 レールベース
31、32 乗降床
4 主スプロケット
41 駆動軸
42 踏段チェーン用スプロケット
43 ハンドレール駆動用スプロケット
44 駆動スプロケット
45 軸受け
5 従スプロケット
6 踏段チェーン
7 踏段
8 欄干
9 U字溝
10 ブラケット
M 駆動機
S ストッパー
H 隙間
R 上部受け梁の掛り代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階建屋と下階建屋間に、掛り代を備えた受け梁を介して設置された枠体と、この枠体の長手方向両端部に設けた乗降床と、これらの乗降床間を無端状に連結されて循環回動する踏段チェーンおよび踏段と、前記乗降床下近傍で前記踏段チェーンが巻き掛けられる主スプロケットおよび従スプロケットと、前記枠体に軸受け部を介して取り付けられるとともに、前記主スプロケットが固定される駆動軸と、この駆動軸を駆動スプロケットを介して駆動する駆動機とを備えた乗客コンベアにおいて、
前記上階建屋側に位置する前記枠体に、この枠体の短手方向に突出する突出部を設け、この突出部に対向する前記上階建屋側に、前記受け梁の前記掛り代より小さい隙間を有して前記突出部と係合する阻止体を設けたことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記阻止体を、前記上階建屋側に設けたU字溝としたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記阻止体を、前記突出部と対向するストッパーとしたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記突出部を、前記枠体の外法よりも外側へ突出する前記主スプロケットの軸受け部としたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記突出部を、前記枠体の外部に設けたブラケットとしたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225346(P2011−225346A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98019(P2010−98019)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】