説明

乗用型田植機

【課題】走行機体の前部に強制空冷式のエンジンを搭載してなる乗用型田植機において、走行機体が極端な前下り姿勢等になってエンジンが圃場表面に近接する時、冷却ファンの外側方を覆うファンカバーの冷却風吸入口の外側に設けられたオイルクーラに、泥水や土塊が付着して作動油の冷却効率が低下するといった問題点を解消する。
【解決手段】ファンカバー28に備える冷却風吸入口28aの外側上部に、作動油を冷却するオイルクーラ36を臨ませて配置すると共に、該オイルクーラ36とファンカバー28の隙間Sを塞ぐカバー体41,42を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪を有する走行機体の前部に冷却ファンを備えた強制空冷式のエンジンを搭載し、該エンジンの後方に運転席及びステアリングホイール等を備える操縦部を設けると共に、走行機体の後部に昇降リンク機構を介して植付作業機を昇降自在に連結してなる乗用型田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用型田植機では、走行機体の前部にボンネットで覆われるエンジンルームが形成されており、このエンジンルーム内にエンジン及び静油圧式無段変速装置(HST)等を内装している。そして、エンジンは、強制空冷式のガソリンエンジンであり、トランスミッションケースの前方に突設したエンジンベース上に搭載されている。また、エンジンのクランク軸は、走行機体の左右方向を向いており、その右端部にエンジンの冷却風を吸入する冷却ファンを設けている。この冷却ファンが吸入する冷却風は、エンジンの周囲を通過することにより、エンジン本体の冷却を行うが、その一部はエンジンの下方を通り、エンジンのオイルパンを冷却するように構成したものが一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−108496号公報(第3頁、図3−図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の乗用型田植機では、乗用型田植機を圃場に乗り入れる際や乗用型田植機が畦を乗り越える際は、走行機体が極端な前下り姿勢になることがあり、この時、走行機体の前部に搭載されているエンジンが圃場表面に近接することがある。また、耕盤の深い圃場(深田)で植付作業を行なう場合にも、走行機体の前部に搭載されているエンジンが圃場表面に近接することがある。
【0005】
そして、上述の如く走行機体の前部に搭載されているエンジンが圃場表面に近接すると、冷却ファンの外側方を覆うファンカバーの冷却風吸入口の下部から、当該冷却ファンによって泥水や土塊が吸引され(巻き上げられ)、この吸引された泥水や土塊が冷却ファンのブレードに付着することによってエンジンの冷却性能が低下することがあった。また、前記冷却風吸入口の外側略中央に、静油圧式無段変速装置、トランスミッションケース及びパワーステアリング用トルクジェネレータ等に循環供給される作動油を冷却するオイルクーラを設けたものでは、エンジンが圃場表面に近接して泥水や土塊がオイルクーラに付着してしまうと作動油の冷却効率が低下するといった問題点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することを目的とした本発明は、前輪と後輪を有する走行機体の前部に、冷却ファンと該冷却ファンの外側方を覆うファンカバーを備えた強制空冷式のエンジンを搭載し、該エンジンの後方に運転席及びステアリングホイール等を備える操縦部を設け、且つ走行機体の後方に昇降リンク機構を介して植付作業機を昇降自在に連結してなる乗用型田植機において、前記ファンカバーに備える冷却風吸入口の外側上部に、作動油を冷却するオイルクーラを臨ませて配置すると共に、該オイルクーラとファンカバーの隙間を塞ぐカバー体を設けたことを第1の特徴としている。
そして、前記オイルクーラの上部を冷却風吸入口から上方に突出させると共に、この突出部から下方に向けてカバー体を延設したことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、走行機体の前部に冷却ファンと該冷却ファンの外側方を覆うファンカバーを備えた強制空冷式のエンジンを搭載してなる乗用型田植機において、前記ファンカバーに備える冷却風吸入口の外側上部に、作動油を冷却するオイルクーラを臨ませて配置すると共に、該オイルクーラとファンカバーの隙間を塞ぐカバー体を設けたことによって、乗用型田植機を圃場に乗り入れる際や乗用型田植機が畦を乗り越える際のように走行機体が極端な前下り姿勢になる場合や、耕盤の深い圃場(深田)で植付作業を行なう場合のように、走行機体の前部に搭載されているエンジンが圃場表面に近接したとしても、当該オイルクーラに泥水や土塊が付着する量が少なくなるので作動油の冷却効率が向上すると共に、オイルクーラとファンカバーの隙間をカバー体で塞ぐことで、冷却ファンによって冷却風吸入口に吸引される冷却風の一部がオイルクーラの冷却フィンを強制的に通過するようになり、当該オイルクーラによる作動油の十分な冷却効果が得られ、しかも
エンジンの冷却に必要な冷却風の吸入スペースも確保することができる。
そして、請求項2の発明によれば、前記オイルクーラの上部を冷却風吸入口から上方に突出させると共に、この突出部から下方に向けてカバー体を延設したことによって、冷却ファンにより冷却風吸入口に吸引される冷却風の一部が、より一層オイルクーラの冷却フィンを強制的に通過するようになり、当該オイルクーラによる作動油の十分な冷却効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】乗用型田植機の左側面図。
【図2】エンジンの右側面図。
【図3】乗用型田植機を圃場に乗り入れる際の状態を示す一部を省略した側面図。
【図4】乗用型田植機による深田での植付作業状態を示す一部を省略した側面図。
【図5】オイルクーラの装着状態を示すエンジン周辺の側面図。
【図6】オイルクーラ周辺の要部拡大側面図。
【図7】図5におけるA矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、乗用型田植機1の側面図であって、乗用型田植機1は、左右一対の前輪2及び後輪3に支持された走行機体4を有し、該走行機体4の前部には、ボンネット5で覆われた強制空冷式のエンジン6を搭載すると共に、ボンネット5の後方には、ステアリングホイール7、運転操作パネル8及び主変速レバー9等を備えた操縦部11と、この操縦部11の床面を形成するステップ12、運転席13を支持する機体カバー14等を設けている。
【0011】
また、走行機体4の後方には、昇降リンク機構15を介して植付作業機16を昇降自在に連結している。植付作業機16は、前高後低状に傾斜する樹脂製の苗載台17と、該苗載台17上に載置したマット苗を掻取って植え付ける複数の植付爪18を備えた植付装置19と、この植付装置19の下方には、圃場面(植付け田面)を整地する整地フロート21等を設けているが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0012】
そして、図2は、上述した強制空冷式のエンジン6の右側面図であって、該エンジン6は、単気筒の4サイクルガソリンエンジンであり、クランク軸25を回転自在に収容するクランクケース26と、図示しないピストンを収容するシリンダブロックを備えている。
【0013】
更に詳しく説明すると、クランク軸25は、図示しない軸受を介してクランクケース26に回転自在に支持されると共に、その両端は、それぞれクランクケース26から突出している。そして、クランク軸25の一端には、図示しない軸方向に伸びるキー溝を設けたテーパ部と雄ねじ部を形成してあり、このように形成したクランク軸25の一端にフライホイールを嵌装すると共に、該フライホイールをキー溝に挿入されるキーを介してクランク軸25に固定している。
【0014】
また、フライホイールの外端面には、複数のブレード27aを外周に備える樹脂成形された冷却ファン27を固定(螺設)してあり、この冷却ファン27の外側方は、クランク軸25を中心とする円形の冷却風吸入口28aを備えると共に、クランクケース26に装着(螺設)されたファンカバー28によって覆われている。即ち、フライホイールを介してクランク軸25に固定される冷却ファン27は、クランク軸25と一体に回転するようになっており、冷却ファン27の回転に伴って前記複数のブレード27aを介して冷却風が起風(吸引)される。このように起風される冷却風は、ファンカバー28の冷却風吸入口28aからエンジン6のシリンダブロックの近傍を流れるように、当該ファンカバー28によって整流され、エンジン6本体を冷却した後に図示しない排出口より排出されるようになっている。
【0015】
そして、ファンカバー28に備える円形の冷却風吸入口28aの下部には、図中に右上がり斜線で示すような三日月状のプレートからなる防泥板31を装着(螺設)してあり、該防泥板31の前後両端部と下端部とを、ファンカバー28の外側から該ファンカバー28と共にクランクケース26にボルト32を用いて共締めしている。尚、防泥板31は、その前側31aを図示の如く略三角形に形成して上方に立ち上げた形状としている。更に、防泥板31の上方には、円形の冷却風吸入口28aの上下中間部を覆う図中に網目状に示すような防泥網33を、前記防泥板31及びファンカバー28と共にクランクケース26にボルト32を用いて共締めしている。
【0016】
以上説明したように、前輪2と後輪3を有する走行機体4の前部に、冷却ファン27と該冷却ファン27の外側方を覆うファンカバー28を備えた強制空冷式のエンジン6を搭載し、該エンジン6の後方に運転席13及びステアリングホイール7等を備える操縦部11を設け、且つ走行機体4の後方に昇降リンク機構15を介して植付作業機16を昇降自在に連結してなる乗用型田植機1において、前記ファンカバー28に備える冷却風吸入口28aの下部を塞ぐ防泥板31を設けると共に、該防泥板31の前側31aを上方に立ち上げた形状としたことによって、図3に示すように、乗用型田植機1を圃場Gに乗り入れる際や乗用型田植機1が畦を乗り越える際のように走行機体4が極端な前下り姿勢になる場合や、図4に示すように、耕盤Bの深い圃場(深田)Gで植付作業を行なう場合のように、走行機体4の前部に搭載されているエンジン6が圃場表面Nに近接したとしても、ファンカバー28の冷却風吸入口28aの下部から冷却ファン27によって泥水や土塊が吸引される(巻き上げられる)ことを、前記防泥板31で以って遮断することができるので、泥水や土塊が冷却ファン27のブレード27aに付着してエンジン6の冷却性能が著しく低下するといった従来の問題点が解消される。特に、走行機体4が極端な前下り姿勢になって、ファンカバー28の冷却風吸入口28aの前側下部が圃場に没入するような状態が起こっても、前記防泥板31の前側31aを上方に立ち上げた形状としてあるので、ファンカバー28の冷却風吸入口28aを大きく塞ぐことなく、該冷却風吸入口28aの前側下部から冷却ファン27によって泥水や土塊が吸引されることを遮断できるようになる。
【0017】
更に、上述した防泥板31の上方を覆う防泥網33を設けたことによって、冷却ファン27によるエンジン6の冷却性能を低下させることなく、ファンカバー28の冷却風吸入口28aにおける前記防泥板31よりも上方位置からの土塊の吸引(巻き上げ)を防止できるようになる。
【実施例2】
【0018】
また、本発明の乗用型田植機1は、エンジン6から出力される動力を図示しない静油圧式無段変速装置(HST)を介してトランスミッションケースに入力し、このトランスミッションケース内で走行動力と植付動力とに分岐するように構成している。そして、図3〜図5に示すように、静油圧式無段変速装置、トランスミッションケース及びパワーステアリング用トルクジェネレータ(不図示)等に循環供給される作動油を冷却するオイルクーラ36を、上述したファンカバー28に備える冷却風吸入口28aの外側上部、即ち冷却風の吸込み効率が高い冷却ファン27の外周に備えるブレード27aの近傍に、当該オイルクーラ36を臨ませて配置している。
【0019】
更に詳しく説明すると、オイルクーラ36は、エンジン6の上方に設ける燃料タンク37の支持ステー38に螺設したホルダ39を介して装着してあり、オイルクーラ36の下部を冷却風吸入口28aの上部に臨ませる一方、オイルクーラ36の上部を冷却風吸入口28aから上方に突出させている。このように、オイルクーラ36を冷却風吸入口28a(冷却ファン27)の中心から上方に偏移させて配置することによって、図3に示すように、乗用型田植機1を圃場Gに乗り入れる際や乗用型田植機1が畦を乗り越える際のように走行機体4が極端な前下り姿勢になる場合や、図4に示すように、耕盤Bの深い圃場(深田)Gで植付作業を行なう場合のように、走行機体4の前部に搭載されているエンジン6が圃場表面Nに近接したとしても、当該オイルクーラ36に泥水や土塊が付着する量が少なくなるので作動油の冷却効率が向上すると共に、実施例1で説明したように、ファンカバー28に備える冷却風吸入口28aの下部を塞ぐプレート状の防泥板31と、この防泥板31の上方を覆う防泥網33を設けることによって、エンジン6の冷却に必要な冷却風の吸入スペースも確保することができる。
【0020】
そして、図6は、オイルクーラ36周辺の要部拡大側面図、また、図7は、図5におけるA矢視図であって、本実施例では、冷却ファン27によって冷却風吸入口28aに吸引される冷却風がオイルクーラ36の図示しない冷却フィンを効率よく通過するように、オイルクーラ36とファンカバー28(エンジン6)の隙間S(図7参照)を塞いで、この隙間Sからの不要な冷却風の吸込みを防止すると共に、オイルクーラ36の外側方から強制的に冷却風を吸引させるために上下の樹脂製(塩化ビニール製)カバー41,42を設けている。
【0021】
これら上下の樹脂製カバー41,42は、オイルクーラ36が装着されているホルダ39を利用して取付けた上下の取付部材(プレート)44,45に螺設してあり、上側の取付部材44は、ホルダ39に螺設して下方に延出させた2つの支持部材44a,44bの下端に固設した幅狭なプレートからなり、一方下側の取付部材45は、ホルダ39の下部に螺設した支持部材45aの両端に固設した略L字状の幅狭な曲げプレートからなる。
【0022】
以上説明したように、オイルクーラ36とファンカバー28の隙間Sを塞いで、この隙間Sからの不要な冷却風の吸込みを防止するカバー体として樹脂製カバー41,42を設けるにあたり、オイルクーラ36の上部を冷却風吸入口28aから上方に突出させると共に、この突出部から下方に向けてカバー体41,42を延設することによって、冷却ファン27により冷却風吸入口28aに吸引される冷却風の一部が、より一層オイルクーラ36の冷却フィンを強制的に通過するようになり、当該オイルクーラ36による作動油の十分な冷却効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、走行機体の前部に強制空冷式のエンジンを搭載してなる乗用型田植機だけでなく、例えば走行機体の前部に強制空冷式のエンジンを搭載すると共に、走行機体に連結して作業者が搭乗する搭乗部と、圃場に接する浮船に支持して肥料を散布する施肥部と、該施肥部に肥料を供給する肥料供給装置を備えて、圃場を走行しながら施肥作業を行なう湿田用施肥作業機等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
2 前輪
3 後輪
4 走行機体
6 エンジン
7 ステアリングホイール
11 操縦部
13 運転席
15 昇降リンク機構
16 植付作業機
27 冷却ファン
28 ファンカバー
28a 冷却風吸入口
36 オイルクーラ
41 カバー体(上側)
42 カバー体(下側)
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(2)と後輪(3)を有する走行機体(4)の前部に、冷却ファン(27)と該冷却ファン(27)の外側方を覆うファンカバー(28)を備えた強制空冷式のエンジン(6)を搭載し、該エンジン(6)の後方に運転席(13)及びステアリングホイール(7)等を備える操縦部(11)を設け、且つ走行機体(4)の後方に昇降リンク機構(15)を介して植付作業機(16)を昇降自在に連結してなる乗用型田植機において、前記ファンカバー(28)に備える冷却風吸入口(28a)の外側上部に、作動油を冷却するオイルクーラ(36)を臨ませて配置すると共に、該オイルクーラ(36)とファンカバー(28)の隙間(S)を塞ぐカバー体(41,42)を設けたことを特徴とする乗用型田植機。
【請求項2】
前記オイルクーラ(36)の上部を冷却風吸入口(28a)から上方に突出させると共に、この突出部から下方に向けてカバー体(41,42)を延設した請求項1に記載の乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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