説明

乗用型田植機

【課題】走行機体の前上がりを抑制するバランスウェイトを備えた乗用型田植機において、通常時における機体の左右バランスを改善すると共に、バンパをバランスウェイト支持部材に兼用してコストを削減する。
【解決手段】走行機体2の前上がりを抑制するバランスウェイト13を備えた乗用型田植機において、平面視で機体前端部に沿って設けられるバンパ12を左右に分割すると共に、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rの外端部にそれぞれバランスウェイト13L、13Rを設け、さらに、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rを、機体前端部の左右中央部を支点として前方へ回動可能に構成し、この回動に応じて、左右のバランスウェイト13L、13Rを機体前端部の左右角部から機体前方へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の前上がりを抑制するバランスウェイトを備えた乗用型田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機は、走行機体の後部に昇降リンク機構を介して連結される植付作業機を備えている。植付作業機は、苗を載置する苗載台、苗載台を横送りする横送り機構、苗を植付ける植付機構など、様々な部品・装置を備えた重量のある作業機であるため、植付作業機を上昇させた状態で行われる畦越えに際し、走行機体が前上がり状態(前輪が浮き上がる状態)となって圃場からの脱出が困難になる惧れがある。
【0003】
そこで、走行機体の前上がりを抑制するバランスウェイトを備えた乗用型田植機が提案されている。例えば、特許文献1に示される乗用型田植機は、機体前端部に前後移動自在なバランスウェイトを備え、このバランスウェイトを機体前方に移動させることにより、畦越え時における走行機体の前上がりを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−150809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される乗用型田植機のバランスウェイトは、通常時、機体前端部の上方位置に収納されるので、バランスウェイトによって機体重心が高くなり、走行安定性を低下させる惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行機体の前上がりを抑制するバランスウェイトを備えた乗用型田植機において、平面視で機体前端部に沿って設けられるバンパを左右に分割すると共に、左側バンパ及び右側バンパの外端部にそれぞれバランスウェイトを設け、さらに、左側バンパ及び右側バンパを、機体前端部の左右中央部を支点として前方へ回動可能に構成し、この回動に応じて、左右のバランスウェイトを機体前端部の左右角部から機体前方へ移動させることを特徴とする。
また、前記左側バンパ及び右側バンパを、機体前端部の左右中央部を支点として上方へ回動可能に構成すると共に、前方及び上方へ回動した所定の姿勢で左側バンパ及び右側バンパの回動をロックする回動ロック手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、通常時、バランスウェイトを機体前端部の左右角部に収納することができるので、バランスウェイトによって機体重心が高くなることを回避できるだけでなく、機体の左右バランスを改善し、走行安定性を向上させることがことができる。しかも、バランスウェイトは、バンパを利用して前後移動可能に支持されるので、専用のバランスウェイト支持部材を設ける場合に比べ、大幅なコストダウンが可能になる。
また、請求項2の発明によれば、前方及び上方へ回動した所定の姿勢で左側バンパ及び右側バンパの回動をロックすることができるので、人力(下方への押さえ操作力)で走行機体の前上がりを抑える前押さえ操作具としても機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】乗用型田植機の全体側面図である。
【図2】バンパ及びバランスウェイトを示す乗用型田植機の要部斜視図である。
【図3】バンパ及びバランスウェイトを示す乗用型田植機の要部平面図である。
【図4】バンパの回動支持部を前方から見た斜視図であり、(A)は、通常時を示す斜視図、(B)は、前方回動時を示す斜視図、(C)は、前方及び上方回動時を示す斜視図である。
【図5】バンパの回動支持部を示す正面図であり、(A)は、通常時を示す正面図、(B)は、前方回動時を示す正面図、(C)は、前方及び上方回動時を示す正面図である。
【図6】バンパの回動支持部を後方から見た斜視図である。
【図7】第二実施形態に係るバンパの回動支持部を前方から見た斜視図であり、(A)は、通常時を示す斜視図、(B)は、前方及び上方回動時を示す斜視図である。
【図8】第二実施形態に係るバンパの回動支持部を示す正面図であり、(A)は、通常時を示す正面図、(B)は、前方及び上方回動時を示す正面図である。
【図9】第二実施形態に係るバンパの回動支持部を示す側面図であり、(A)は、通常時を示す側面図、(B)は、前方及び上方回動時を示す側面図である。
【図10】第三実施形態に係るバンパ及びバランスウェイトを示す正面図であり、(A)は、前方及び上方回動時を示す正面図、(B)は、通常時を示す正面図である。
【図11】第三実施形態に係るバンパの回動支持部を示す側面図であり、(A)は、通常時を示す側面図、(B)は、前方及び上方回動時を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用型田植機であって、該乗用型田植機1は、走行機体2と、走行機体2の後部に昇降リンク機構3を介して連結される植付作業機4とを備えて構成されている。植付作業機4は、苗が載置される苗載台5、苗載台5を横送りする横送り機構(図示せず)、苗を掻取って植付ける植付機構6など、様々な部品・装置を備えた重量のある作業機である。
【0010】
走行機体2は、エンジンが搭載されるエンジン搭載部7、エンジン動力を変速するミッションケース8、オペレータが乗車する操作部9、操舵輪及び駆動輪を兼ねる前輪10、駆動輪である後輪11などを備える乗用型の四輪車両であり、機体前端部には、機体前部を保護するバンパ12が設けられている。
【0011】
図2及び図3に示すように、バンパ12は、平面視で機体前端部に沿って設けられている。本実施形態のバンパ12は、曲げ加工されたパイプ材からなり、機体前端部に沿うバンパ前部12aと、バンパ前部12aの左右外端部から後方に延出するバンパ側部12bとを備えている。
【0012】
バンパ12は、機体前端部の左右中央位置で左右に2分割されており、2分割された左側バンパ12L及び右側バンパ12Rの外端部には、それぞれバランスウェイト13L、13Rが設けられている。これらのバランスウェイト13L、13Rは、機体前端部の左右角部、具体的には、図2に示す左右フロントステップ2aの前端部下方位置に配置されることにより、走行機体2の低重心化に寄与すると共に、走行機体2の左右バランスを改善し、走行安定性を向上させる。
【0013】
バンパ12L、12Rに対するバランスウェイト13L、13Rの取り付け構造は任意であるが、バンパ12L、12Rを後述する前押さえ操作具として使用する場合は、バンパ12L、12Rとバランスウェイト13L、13Rとの間に隙間Sを確保し、前押さえ操作時にバンパ側部12bを握り部として機能させることが好ましい。例えば、図2及び図3に示すように、バンパ前部12aとバンパ側部12bとの間に、ウェイト支持板14が一体的に溶着された平面視L字状のステー15を架設し、ウェイト支持板14上にバランスウェイト13L、13Rをボルト止めすることにより、上記の隙間Sを確保する。
【0014】
図1及び図2に示すように、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rは、機体前端部の左右中央部を支点として前方へ回動可能に構成されており、この回動に応じて、左右のバランスウェイト13L、13Rを機体前端部の左右角部から機体前方へ移動させることができるようになっている。このようにすると、畦越えに際し、バランスウェイト13L、13Rを機体前方に移動させて走行機体2の前上がりを抑制することが可能になる。しかも、バランスウェイト13L、13Rは、バンパ12L、12Rを利用して前後移動可能に支持されるので、専用のバランスウェイト支持部材を設ける場合に比べ、大幅なコストダウンが可能になる。
【0015】
さらに、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rは、図1及び図2に示すように、機体前端部の左右中央部を支点として上方へ回動可能に構成されると共に、前方及び上方へ回動した所定の前押さえ操作姿勢で少なくとも下方への回動をロックすることができるようになっている。このようにすると、前方及び上方へ回動した所定の前押さえ操作姿勢で左側バンパ12L及び右側バンパ12Rの回動をロックすることにより、人力(下方への押さえ操作力)で走行機体2の前上がりを抑える前押さえ操作具としても機能させることが可能になる。しかも、バンパ12L、12Rとバランスウェイト13L、13Rとの間には、前述した隙間Sが確保されるので、前押さえ操作時にバンパ側部12bを握り部とすることにより、良好な操作性が得られる。
【0016】
次に、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rを回動自在に支持するバンパ支持部16の具体的な構成について、図4〜図6を参照して説明する。
【0017】
バンパ支持部16は、機体前端部の左右中央部に設けられる正面視冂字状の固定ブラケット17と、該固定ブラケット17に左右方向を向いて設けられる上下回動支軸18と、該上下回動支軸18を中心として上下回動自在な側面視コ字状の回動ブラケット19と、該回動ブラケット19に上下方向を向いて設けられる左右一対の前後回動支軸20L、20Rとを備えている。そして、バンパ12L、12Rの基部(内端部)をそれぞれ左右の前後回動支軸20L、20Rを介して回動ブラケット19に連結することにより、前後回動支軸20L、20Rを中心とするバンパ12L、12Rの前後回動が可能になると共に、上下回動支軸18を中心とするバンパ12L、12Rの上下回動が可能になる。
【0018】
また、バンパ支持部16には、前方及び上方へ回動した所定の前押さえ操作姿勢でバンパ12L、12Rの回動をロックする回動ロック手段が設けられており、本実施形態の回動ロック手段には、前押さえ操作姿勢でバンパ12L、12Rの前後回動をロックする前後回動ロック部21と、前押さえ操作姿勢でバンパ12L、12Rの上下回動をロックする上下回動ロック部22とが含まれている。
【0019】
前後回動ロック部21は、図4に示すように、前押さえ操作姿勢においてバンパ12L、12Rの基部を左右から挟み込み、バンパ12L、12Rの左右開きを規制する左右一対のストッパ片17aからなり、本実施形態では、固定ブラケット17の前端上部を利用してストッパ片17aを形成している。つまり、バンパ12L、12Rを前方に回動させた後、上方に回動させると、バンパ12L、12Rの基部が左右のストッパ片17a間に自ら入り込み、左右開きが規制されるようになっている。
【0020】
上下回動ロック部22は、図6に示すように、回動ブラケット19のボス部19aから後方に突出するアーム19bと、固定ブラケット17に左右スライド自在に設けられるロックピン23と、該ロックピン23をアーム19b側に付勢するスプリング24とを備えて構成されている。つまり、アーム19bには、バンパ12L、12Rが通常姿勢(水平姿勢)のときロックピン23の先端面を臨む第一ロック孔19cと、バンパ12L、12Rが前押さえ操作姿勢(上方回動姿勢)のときロックピン23の先端面を臨む第二ロック孔19dとが形成されており、各姿勢において対応するロック孔19c、19dにロックピン23を挿通することにより、バンパ12L、12Rの上下回動をロックすることが可能になる。
【0021】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行機体2の前上がりを抑制するバランスウェイト13を備えた乗用型田植機において、平面視で機体前端部に沿って設けられるバンパ12を左右に分割すると共に、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rの外端部にそれぞれバランスウェイト13L、13Rを設け、さらに、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rを、機体前端部の左右中央部を支点として前方へ回動可能に構成し、この回動に応じて、左右のバランスウェイト13L、13Rを機体前端部の左右角部から機体前方へ移動させるので、通常時、バランスウェイト13L、13Rを機体前端部の左右角部に収納することができ、その結果、バランスウェイト13L、13Rによって機体重心が高くなることを回避できるだけでなく、機体の左右バランスを改善し、走行安定性を向上させることがことができる。しかも、バランスウェイト13L、13Rは、バンパ12L、12Rを利用して前後移動可能に支持されるので、専用のバランスウェイト支持部材を設ける場合に比べ、大幅なコストダウンが可能になる。
【0022】
また、左側バンパ12L及び右側バンパ12Rを、機体前端部の左右中央部を支点として上方へ回動可能に構成すると共に、前方及び上方へ回動した所定の姿勢で左側バンパ12L及び右側バンパ12Rの回動をロックする回動ロック手段(前後回動ロック部21、上下回動ロック部22)を設けたので、前方及び上方へ回動した所定の前押さえ操作姿勢で左側バンパ12L及び右側バンパ12Rの回動をロックすることにより、人力で走行機体2の前上がりを抑える前押さえ操作具としても機能させることができる。
【0023】
次に、本発明の第二実施形態に係るバンパ支持部30について、図7〜図9を参照して説明する。
【0024】
これらの図に示すように、第二実施形態のバンパ支持部30は、バンパ12L、12Rの前後回動支軸と上下回動支軸とが兼用化されている点が前記実施形態と相違している。具体的に説明すると、第二実施形態のバンパ支持部30に設けられる回動支軸31L、31Rは、側面視で後方に傾斜し、かつ、正面視で外側方に傾斜している。したがって、機体前端部に沿う通常姿勢のバンパ12L、12Rを回動支軸31L、31Rを支点として前方へ回動させると、前方への回動と同時に上方へも回動し、前述した前押さえ操作姿勢とすることができる。このようなバンパ支持部30によれば、回動支軸などの部品点数を削減できるので、構造の簡略化及びコストの削減が可能になる。
【0025】
また、第二実施形態のバンパ支持部30は、前後回動ロック部と上下回動ロック部とを兼ねるカバー体32を備えている。このカバー体32は、後端部を支点として上下回動自在であり、バンパ12L、12Rが機体前端部に沿う通常姿勢のとき(図7(A)、図8(A)、図9(A)参照)、バンパ12L、12Rの基部に前方から接当し、バンパ12L、12Rの前方への回動を規制する左右一対の第一ストッパ片32aと、バンパ12L、12Rが前方及び上方へ回動した前押さえ操作姿勢のとき(図7(B)、図8(B)、図9(B)参照)、バンパ12L、12Rの基部を左右から挟み込み、バンパ12L、12Rの左右開きを規制(前後回動及び上下回動を同時に規制)する左右一対の第二ストッパ片32bとを備えている。このようなカバー体32によれば、前後回動ロック部と上下回動ロック部とを兼用化できるので、構造の簡略化およびコストの削減が可能になる。尚、カバー体32による回動ロックは、図9(B)の仮想線に示すように、カバー体32を上方へ退避回動することにより解除され、バンパ12L、12Rの回動操作が許容される。
【0026】
次に、第三実施形態のバンパ支持部40について、図10及び図11を参照して説明する。
【0027】
第三実施形態のバンパ支持部40は、第一実施形態と同様に、バンパ12L、12Rを上下回動自在に支持する上下回動支軸41と、バンパ12L、12Rを前後回動自在に支持する左右一対の前後回動支軸42とを別々に備えるものでありながら、前後回動ロック部と上下回動ロック部とを兼ねるカム板43を備える点が第一実施形態と相違している。具体的に説明すると、第三実施形態のバンパ支持部40に設けられるカム板43は、機体前端部に沿う通常姿勢のバンパ12L、12Rを前方へ回動させたとき、バンパ12L、12Rを徐々に上方へ回動させる傾斜ガイド部43aと、前押さえ操作姿勢まで回動したバンパ12L、12Rの基部を嵌合状に保持し、バンパ12L、12Rの左右開き及び下方への回動を規制する凹部43bとを備えている。このようなカム板43によれば、前後回動ロック部と上下回動ロック部とを兼用化できるので、構造の簡略化およびコストの削減が可能になる。
【符号の説明】
【0028】
1 乗用型田植機
2 走行機体
4 植付作業機
12 バンパ
13 バランスウェイト
16 バンパ支持部
18 上下回動支軸
20 前後回動支軸
21 前後回動ロック部
22 上下回動ロック部
30 バンパ支持部
31 回動支軸
32 カバー体
40 バンパ支持部
43 カム板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の前上がりを抑制するバランスウェイトを備えた乗用型田植機において、
平面視で機体前端部に沿って設けられるバンパを左右に分割すると共に、左側バンパ及び右側バンパの外端部にそれぞれバランスウェイトを設け、さらに、左側バンパ及び右側バンパを、機体前端部の左右中央部を支点として前方へ回動可能に構成し、この回動に応じて、左右のバランスウェイトを機体前端部の左右角部から機体前方へ移動させることを特徴とする乗用型田植機。
【請求項2】
前記左側バンパ及び右側バンパを、機体前端部の左右中央部を支点として上方へ回動可能に構成すると共に、前方及び上方へ回動した所定の姿勢で左側バンパ及び右側バンパの回動をロックする回動ロック手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−152068(P2011−152068A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15271(P2010−15271)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)