説明

乗用型農作業機

【課題】走行安定性向上に貢献できると共にシャーシの剛性も高め得る乗用型田植機を提供する。
【手段】走行車体1は左右のサイドフレーム21とこれをに接続されたフロントフレーム24、ミッドフレーム25、リアフレーム26を有している。サイドフレーム21は略水平姿勢の前部サイドフレーム22と後傾姿勢の後部サイドフレーム23とに分離しており、後部サイドフレーム23が前部サイドフレーム22よりも内側に寄っている。リアフレーム26はリア支柱27で支持されており、リア支柱27はリアアクスルケース53に取り付けられている。前部サイドフレーム22の間隔が大きいため、横幅の大きいエンジン6であっても前部サイドフレーム22の下方に沈んだ状態に配置することが可能になっており、このため走行安定性向上に貢献し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のようにフレーム構造のシャーシを備えた乗用型農作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業機の一例として乗用型田植機がある。この乗用型田植機は、主要要素として、前輪及び後輪で支持された走行車体と、この走行車体の後方に配置した苗植装置とを有しており、苗植装置は走行車体に高さ調節可能に連結されている。走行車体には座席と操縦ハンドルとが配置されていると共にエンジンが搭載されており、エンジンの動力によって走行と苗植作業が行われる。
【0003】
走行車体は、鋼管やチャンネル材等の鋼材で構成されたシャーシ(骨組み)を有していてこのシャーシで人が載るステップ(車体カバー)等を支持しているのが普通であり、一般に、シャーシは主要部材として前後方向に長く延びる左右のサイドフレームを有しており、左右のサイドフレームを横長フレーム材で連結している。苗植装置と走行車体とにはリンク装置が相対回動可能に連結されており、走行車体とリンク装置とを油圧シリンダで連結している。
【0004】
シャーシの具体的な構造の一例が特許文献1,2に記載されている。このうち特許文献1では、シャーシは、左右のサイドフレームをその略後半部が後ろ向きに高くなった傾斜部となるように屈曲させて、左右の傾斜部に横長のミッドフレームが貫通しており、サイドフレームの左右傾斜部の後端にはリア支柱が固定されている。左右のリア支柱はその上端において一連に連続している。すなわち、1本の鋼材をコの字形に曲げることでリア支柱を構成している。リア支柱は後輪が取り付くリアアクスルケースで支持されている。
【0005】
他方、特許文献2のシャーシは、左右のサイドフレーム(前部フレーム)を前後に分離して、前後メンバーを1本のミッドフレーム(中央左右横長フレーム)で連結した構成になっている。この特許文献2では、サイドフレームは、左右の前部メンバーの間隔が左右の後部メンバーの間隔よりも狭くなっており、左右の前部メンバーで挟まれた部位にミッションケースを配置し、左右の後部メンバーで挟まれた部位にエンジンを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3804926号公報
【特許文献2】特開2007−282640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、走行車体は走行安定性を高めるためにできるだけ重心を低くするのが好ましく、この場合、乗用型田植機では走行車体の後部に苗植装置を取り付けるため、特許文献1のように重いエンジンを走行車体の前部に配置すると走行車体の前後重量バランスを取ることができて好適であると言える。また、特許文献1ではミッションケースとリアアクスルケースとが走行車体の構造材を兼用するため、走行車体全体の構造を簡素化できる利点もある。
【0008】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、特にシャーシに改良が加えられた乗用型農作業機を提供すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明に係る乗用型農作業機は、人が載って運転する走行車体のシャーシを、前後長手の左右サイドフレームと、前記左右サイドフレームの前後中途部に連結された横長のミッドフレームと、前記左右サイドフレームをその後端で連結するリアフレームとを有する構成として、前記リアフレームはリア支柱を介してリアアクスルケースで支持されており、かつ、前記ミッドフレームよりも手前の位置にエンジンを配置し、前記エンジンの後ろ側に変速用ミッションケースを配置している。
【0010】
そして、請求項1の発明は、上記基本構成において、前記左右のサイドフレームは略水平姿勢の前部メンバーと後傾姿勢の後部メンバーとに分離されており、これら前後メンバーは、後部メンバーを前部メンバーの左右内側にずらした状態でミッドフレームに固定されており、前記エンジンは左右サイドフレームにおける前部メンバーの間に配置されており、前記サイドフレームの前部メンバーで運転フロアを構成する前部ステップが支持され、前記サイドフレームの後部メンバーで座席が支持されている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、前記サイドフレームを構成する前後メンバーはそれぞれ角形鋼管から成っている一方、前記ミッドフレームとリアフレームとは円形鋼管から成っている。また、請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記ミッドフレームとリアフレームとはサイドフレームの左右外側にはみ出ており、これらはみ出し部に設けた前後長手の補助フレームによっても前記ステップが支持されている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、サイドフレームを前部メンバーと後部メンバーとに分離しているため、ミッドフレームより手前の部分での支持態様とミッドフレームよりも後ろの支持態様とを変えることができるが、左右の前部メンバーの間隔が広いため、左右巾の大きいエンジを前部メンバーの下方に沈ませた状態で配置することも可能になり、このため、走行車体を低重心化して走行安定性を向上させることに貢献し得る。
【0013】
さて、リアフレームの後端はリア支柱の上端に連結されることになるので、サイドフレームの後部メンバーは必然的にその前端よりも後端を高くする必要があり、この点について特許文献2では後部メンバーをその後部が上向きとなるように側面視で曲げているが、これは曲げ加工が面倒である。これに対して本願発明では後部メンバーは全体が傾斜しているため必ずしも曲げ加工をする必要はないのであり、その結果、加工コストを抑制できる。
【0014】
リア支柱で苗植装置等の作業装置を支持する場合、特許文献1,2のように、左右2本のリア支柱にリンク装置を連結してこのリンク装置で作業装置を昇降自在に支持するのが一般的であるが、リンク装置の左右横幅はさほど大きくないのが一般的であるため、左右2本のリア支柱の間隔もさほど大きくはならないが、特許文献2のようにサイドフレームを構成する左右の後部メンバーの間隔が大きいと、左右リア支柱が左右後部メンバーの内側に大きく寄ることにより、リアフレームに大きい曲げ荷重がかかることが懸念される。
【0015】
これに対して本願発明では、サイドフレームは、左右の後部メンバーの間隔を前部メンバーの間隔よりも小さくしているため、左右リアフレームの間隔寸法と左右後部メンバーの間隔寸法との差をできるだけ小さくしてリアフレームに掛かる曲げ荷重をできるだけ小さくすることが可能になり、その結果、リアフレームは大型化することなく必要な強度を確保することができる。
【0016】
サイドフレームは丸形鋼管や溝形鋼を使用すことも可能であるが、請求項2のように角形鋼管を使用すると、強度に優れると共に、外周が4つの平坦面で構成されるため他の部材の取り付けに際して位置決めや重ね合わせを容易に行える利点がある。
【0017】
また、ミッドフレーム及びリアフレームは角形鋼管や溝型鋼を使用することも可能であるが、請求項2のように丸形鋼管を使用すると、ミッドフレームについては前部メンバーと後部メンバーとの突き合わせを容易に行え、リアフレームについては後部メンバーとリア支柱との突き合わせを容易に行える。また、丸形鋼管は荷重の掛かる方向に関係なく曲げ強度は一定であるため、組み立てに際して一々姿勢を確認するような必要はなく、このため組み立ても容易である。
【0018】
請求項3のように補助フレームを設けると、ミッドフレームやリアフレームが補助フレームで補強されており、このため走行車体の全体の剛性をアップできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車体カバーを取り外した状態での田植機の全体側面図である。
【図2】(A)はステップを取り付けた状態での田植機の全体平面図、(B)はステップを取り付けた走行車体の斜視図である。
【図3】走行車体の一部分離斜視図である。
【図4】走行車体の平面図である。
【図5】走行車体の側面図である。
【図6】(A)は分離斜視図、(B)はミッションケースを後ろから見た斜視図、(C)はリアアクスルケースを前から見た斜視図である。
【図7】リンク装置の連結構造を示す側面図である。
【図8】リンク装置の連結構造を示す分離斜視図である。
【図9】変形例を示す図で、(A)は分離斜視図、(B)は分離側面図、(C)は組み立てた状態で(B)のC−C視方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明及び請求項で方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、田植機の前進方向を向いて着座したオペレータを基準にして表示している。正面視方向は田植機の前進方向と対向した方向から見た方向である。
【0021】
(1).田植機の概要
まず、田植機の概要を説明する。図1,図2(A)に示すように、田植機は基本要素として走行車体1と苗植装置2とを有しており、苗植装置2はリンク装置3を介して走行車体1の後部に昇降自在に連結されている。走行車体1は左右の前輪4と後輪5とで支持されており、前輪4と後輪5とは走行車体1の前部に配置したエンジン6からの動力で駆動される。なお、後輪5は補助輪を付けてダブル方式又はトリプル方式にすることがある。
【0022】
本実施形態のエンジン6は水冷のディーゼル直列3気筒方式であり、図3に示すように、エンジン6は、クランクケースやシリンダブロック等が備えられた機関本体7とその右側に配置したラジェータ8とを有している。機関本体7はクランク軸9を左右横長にした横置き姿勢で配置されている。
【0023】
走行車体1は、オペレータが腰掛ける座席10とその前方に配置された操縦ハンドル11とを有している。座席10と操縦ハンドル11は、走行車体1の左右中間位置に配置されている。エンジン6は前後分割式のボンネット12で覆われており、ボンネット12の左右両側には予備苗台13を配置している。予備苗台13は図面では骨組みしか表示しておらず、実際には苗マットを載せる棚板が取り付けられる。
【0024】
走行車体1のうちボンネット12で囲われた部分を除いた大部分は、人が載り得るようにステップ(車体カバー)14で覆われている。ステップ14は、エリアで分けると、運転席のフロアを構成する前部ステップ14aと、前部ステップ14aから段上がりした状態で座席10の左右両側及び後ろに広がる後部ステップ14bとに分かれており、前後ステップ14a,14bは壁を介して一体に連続している。
【0025】
また、ステップ14は、パーツから見ると、ボンネット12を左右両側と前側から囲う第1メンバー15と、第1メンバー15の後ろに配置された左右一対の第2メンバー16と、第2メンバー16の左右両側に位置して第3メンバー17及び第4メンバー18とに分割構成されている。第2メンバー16の後ろにはリアカバー19を配置している。
【0026】
左右の第2メンバー16はステップ14の中核を成すもので、走行車体1の中心線を挟んで左右両側に分れている。田植機は植付け条数が異なるものがあるが、例えば、6条植え機種では第1メンバー15と第2メンバー16とだけが取り付けられたものを使用し、8条植え機種では第3メンバー17と第4メンバー18とを取り付ける。一般に、前部ステップ14aにはゴム製等のマットを固定している(後部ステップ14bにマットを取り付けることもある。)。
【0027】
(2).シャーシの構造
例えば図3から概ね理解できるように、走行車体1は、前後長手の左右のサイドフレーム21を備えている。左右のサイドフレーム21は、前部メンバー22と後部メンバー23とに分離構成されている(以下では、便宜的に、前部メンバー22を「前部サイドフレーム22」と表示、後部メンバー23を「後部サイドフレーム23」と称する。)。
【0028】
左右の後部サイドフレーム23は左右前部サイドフレーム22よりも内側に位置している。従って、後部サイドフレーム23の左右間隔は前部サイドフレーム22の左右間隔よりも小さくなっている。前後サイドフレーム22,23は左右横長のミッドフレーム25を介して連結されている。左右の前部サイドフレーム22は、その前端部において左右横長のフロントフレーム24で連結されている。
【0029】
後部サイドフレーム23は後ろに行くに従って高さが高くなるように側面視で後傾しており、左右の後部サイドフレーム23の後端に左右横長のリアフレーム26が連結されている。リアフレーム26には、これを支持する左右のリア支柱27が固着されている。左右のリア支柱27は左右の後部サイドフレーム23の内側に配置されている。正確に述べると、左右のリア支柱27、左右の後部サイドフレーム23、左右の前部サイドフレーム22は走行車体1の縦長中心線を挟んで左右対称に配置されている。
【0030】
ミッドフレーム25とリアフレーム26とは丸パイプを使用している。他方、前部サイドフレーム22及び後部サイドフレーム23、リアフレーム26、フロントフレーム24、リア支柱27は角形鋼管を使用している。後部サイドフレーム23は前部サイドフレーム22よりも細いものを使用している。角形鋼管を使用すると各種部材の取り付けが容易であると共に、ステップ14も安定良く支持できる。
【0031】
リアフレーム26のやや手前には後部横長ステー28が配置されており、この後部横長ステー28は、後部サイドフレーム23に溶接された上向き開口コの字形のハンガーブラケット29に固着されている。左右後部サイドフレーム23の前端部には下向き開口の門型フレーム30が固着されており、この門型フレーム30に座席支持ユニット31の前端部を固着している。座席支持ユニット31の後部は図示しないステーに固定されている。座席10は、その前端部を中心にして前倒しできるように座席支持ユニット31に連結されている。
【0032】
前部サイドフレーム22には左右外側に突出した複数本の外向き枝フレーム32が固着されており、外向き枝フレーム32に予備苗台13の下端がブラケットを介して固定されている。また、外向き枝フレーム32の先端には前後長手の第1補助フレーム33が固定されている。
【0033】
第1補助フレーム33は平面視及び側面視で曲がっており、ミッドフレーム25と後部横長ステー28とリアフレーム26との先端にも固定されている。ミッドフレーム25と後部横長ステー28とリアフレーム26とには、第1補助フレーム33の左右内側に位置した第2補助フレーム34が固定されている。ミッドフレーム25とリアフレーム26とはサイドフレーム21の左右外側に大きく張り出しており、また、両者はほぼ同じ長さになっている。
【0034】
本実施形態では、サイドフレーム21、ミッドフレーム25、フロントフレーム24、リアフレーム26、後部横長ステー28、補助フレーム33,34でシャーシが構成されており、このシャーシでステップ14の大部分を支持している。座席10の後ろには施肥装置を配置することが多いが、図面では表示していない。図3に示すように、操縦ハンドル11は、ハンドルポスト36に内蔵したハンドル軸に取り付けられている。
【0035】
(3).エンジン・ミッションケース
図3から容易に理解できるように、前部サイドフレーム22のうちハンドルポスト36よりも手前の略前半部に、上向き開口した正面視コの字型又はU字型の前後2本のエンジンサポートフレーム37を固着し、この前後エンジンサポートフレーム37でエンジン6を支持している。正確に述べると、機関本体7に前後一対の上ブラケット38をボルトで固定している一方、エンジンサポートフレーム37には下ブラケット39が固定されており、上ブラケット38が左右1対ずつの吸振ユニット40を介して下ブラケット39にボルト及びナットで取り付けられている。
【0036】
従って、機関本体7は前部サイドフレーム22の下方に部分的に沈んだ状態で配置されている。図3に示すように、前後エンジンサポートフレーム37の右端部にはサイドブラケット41が固定されており、このサイドブラケット41でラジェータ8を支持している。エンジンサポートフレーム37は前部サイドフレーム22の下面に溶接しているが、前部サイドフレーム22の側面に溶接してもよい。前後のエンジンサポートフレーム37は補強部材37aで連結されている。
【0037】
エンジン6の出力軸は機関本体7の左側に突出しており、この出力軸に出力プーリ42とフライホイール43を固定している。また、図4に示すように、消音器45はエンジン6の左外側に配置しており、消音器45は、前部サイドフレーム22と第1補助フレーム33とに固定したステー46で吊支されている。
【0038】
例えば図5に示すように、エンジン6の後ろには、ギア群を内蔵したミッションケース44が配置されている。ミッションケース44の左側面には無段変速機の一例としてのHST(静油圧式無段変速機)47が取り付けられており、エンジン6の動力は一次的にはHST47にベルト48で伝達され、それからギア群に伝達される。ミッションケース44にはギア群の他にもクラッチやブレーキなどが内蔵されているが、本願発明との直接の関連はないので説明は省略する。
【0039】
ミッションケース44の左右側面にはフロントアクスル装置49が取り付けられており、フロントアクスル装置49に前輪4を取り付けている。フロントアクスル装置49は、ミッションケース44に固定された上部ケースとこれに緩衝機構を介して昇降可能に取り付けられた車軸ケースとを有しており、上部ケースはサイドフレーム21の前部サイドフレーム22にも固定されている。
【0040】
図3に示すように、後ろ側のエンジンサポートフレーム37には後ろ向きに突出したフロントブラケット50を固定しており、フロットブラケット50がミッションケース44の前端部にピン(明示せず)で連結されている。例えば図3に示すように、ミッションケース44の前端部にはパワーステアリングユニット51を組み込んでおり、パワーステアリングユニット51にハンドルポスト36を固定している。
【0041】
(4).リアアクスルケースとの連結・燃料タンク
後輪5はリアアクスルケース53に取り付けられている。リアアクスルケース53は左右の後ろ向き張り出し部53aを有しており、後ろ向き張り出し部53aに突設した車軸に後輪5を固定している。また、左右の後ろ向き張り出し部53aに横梁部材54を差し渡して固定し、横梁部材54にリア支柱27を固定している。このように横梁部材54を使用することにより、左右リア支柱27の間隔をリアアクスルケース53の大きさに制約されることなく任意に設定できるのみならず、ミッションケース44の剛性もアップできる。
【0042】
図7に明示するように、ミッションケース44の後端とリアアクスルケース53の前端とは円形のジョイント55で連結されており、更に、ジョイント55とミッドフレーム25とが正面視U型の補強フレーム(補強体)56で連結されている。そして、ジョイント55と座席10との間に燃料タンク57を配置している。例えば図5に明示するように、燃料タンク57は前部ステップ14aの上面より下方に大きく沈み込むように配置しており、このため燃料タンク57は高さを高くして大容量化することが可能になっている。
【0043】
例えば図6(B)に模式的に示すように、ジョイント55を挟んで左右にはドライブ軸58と作業動力軸59とが振り分けた状態で配置されている。ドライブ軸58は後輪5を駆動するもので(整地ロータを設けている場合はこれの駆動も行う)、リアアクスルケース53に接続されている。作業動力軸59は苗植装置2(及び施肥装置)を駆動するもので、図示しない株間ケースに接続されている。なお、株間ケースからは、植付け駆動軸(PTO軸)が後ろ向きに突出していると共に施肥駆動軸が上向きに突出している。
【0044】
ジョイント55の前端に前支持板60を溶接によって固着し、これをミッションケース44の後面にボルト61で締結している一方、ジョイント55の後端にはリア支持板62を溶接によって固着し、これをリアアクスルケース53の前面にボルト63で締結している。
【0045】
補強フレーム56は丸パイプ(丸鋼管)で製造されている。補強フレーム56は後ろに行くに従って高さが低くなるように側面視で前傾姿勢になっており、左右の上端はミッドフレーム25に溶接で固着されている。また、例えば図5に明示するように、補強フレーム56の底部に正面視(或いは背面視)下向き開口コの字形の上ブラケット64を固着している一方、ジョイント55には上ブラケット64が被さるように嵌まり込む下ブラケット65を固着し、上下ブラケット64,65を左右横長のボルトで締結している(ピンで連結したり溶接したりしてもよい。)。
【0046】
図6(A)に示すように、上ブラケット64には左右一対のゴム座66を設けており、このゴム座66で燃料タンク57の下面を支持している。同じく図6(A)に示すように、燃料タンク57には前後一対のフランジ67,68を設けており、前部フランジ67は、ミッドフレーム25に固着されたタンクブラケット25aにビスで固定されている。また、燃料タンク57の後部フランジ68は後部サイドフレーム23に固定されたハンガーブラケット18(図5参照)にビスで締結されている。燃料タンク57の注油口69は座席10の下方に位置しており、座席10を前倒しすると注油口69が露出する。
【0047】
(5).リンク機構・油圧シリンダ
次に、リンク機構3と油圧シリンダ71とを説明する。図7,8に示すように、リンク機構3は上下に分かれて配置されたトップリンク72とロアリンク73とを有しており、両リンク72,73の後端には第1ピン74及び第2ピン75でヒッチ76が相対回動可能に連結されている。ヒッチ76の下端部には図示しないキングピンが後ろ向きに突出しており、このキングピンを介して苗植装置2が連結されている。従って、苗植装置2は走行車体1に対してある程度の角度だけローリングし得る。
【0048】
トップリンク72は角パイプ又はチャンネル材から成っていて基本的には直線状の形態であり、その前端に上軸受け筒77を固着し、この上軸受け筒77を左右リア支柱27に固着された上支軸78に嵌め込んでいる。従って、トップリンク72はその前端を中心に上下回動するようにリア支柱27に連結されている。上支軸78は筒型であり、第3ピン79が嵌まっている。
【0049】
ロアリンク73は前部が1本で後ろ向きに分岐した略Y形になっており、前端には下軸受け筒80を固着し、これをリア支柱27に固着した下支軸81に嵌めでおり、従って、ロアリンク73もその前端を中心に上下回動するようにリア支柱27に連結されている。下支軸81も筒型であり、第4ピン82が嵌まっている。
【0050】
ロアリンク73には、前後長手の中間リンク83がその後端部を中心にして回動するように第5ピン84で連結されている。中間リンク83は正面視で下向き開口コの字形になっており、その前端部に左右横長で中空の第6ピン85が挿通している。他方、ロアリンク73の前端部には左右一対のアーム86が上向きに突設されており、左右アーム86で第6ピン85を下方から支持している。
【0051】
他方、図7に明示するように、油圧シリンダ71は筒体71aとピストンロッド71bとを有しており、筒体71aの基端は、ジョイント55に固定したブラケット87に第7ピン88で連結されている。一方、ピストンロッド71bの先端には例えば図5に示すように板状の丸穴付きフック89が固着されており、フック89と中間リンク83とが図8に示す第6ピン85で連結されている。
【0052】
従って、油圧シリンダ71が伸びるとリンク装置3は下向きに回動して苗植装置2は下降し、油圧シリンダ71が縮むとリンク装置3は上向きに回動して苗植装置2は上昇する。油圧シリンダ71における筒部の先端には、衝撃緩和のためのアキュームレータ90を設けている。なお、中間リンク83を使用せず油圧シリンダ71をアーム86に直接に連結してもよい。
【0053】
(6).まとめ
以上の構成において、前部サイドフレーム22は後部サイドフレーム23よりも間隔が広いため、横置き式のエンジン6を前部サイドフレーム22の下方に沈んだ状態で配置でき、このため走行車体1の重心を低くして走行安定性を向上できる。また、後部サイドフレーム23は左右リア支柱27の外側に大きくはみ出ることないため、例えば人が後部ステップ14bに載って苗継ぎ作業を行うことでリアフレーム26に曲げ荷重が作用しても、リアフレーム26のうち左右後部サイドフレーム23の間の部位が曲がることを防止又は著しく抑制できる。
【0054】
更に、サイドフレーム21の後部サイドフレーム23にブラケット類を介してレバー類を取り付けるに際しては、後部サイドフレーム23は座席のやや外側に配置することが可能になるため、レバー類は着座したオペレータが使用しやい位置に配置することができる。この点も本願発明の利点の一つである。
【0055】
本願発明ではミッションケース44とリアアクスルケース53とが走行車体1の構造材を兼用しているため、それだけ走行車体1の構造を簡素化してコスト圧縮や軽量化に貢献できる(ミッションケース44やリアアクスルケース53はその機能からして頑丈な構造であるため、強度メンバーとしての機能を十分に発揮する。)。
【0056】
また、圃場にしても路上にしても凹凸が存在しており、このため、例えば1つの車輪が浮いた状態で走行するというように4つの車輪の支持状態(接地抵抗)がアンバランスになり、このため、走行車体1の自身の重量が走行車体1を前後長手の軸心回りにねじるような外力として作用することがある。この点、実施形態のように補強フレーム56を設けると、シャーシとミッションケース44とジョイント55とリアアクスルケース53とリア支柱27との全体で構成される構造体の剛性が格段に高くなるため、ねじりに対する抵抗力も格段に向上できる。
【0057】
(7).変形例
上記のとおり走行車体1には圃場や路上の凹凸によってねじり力が作用するが、図9に示す変形例ではねじりに対する剛性を一層向上できるように補強機能を講じている。すなわちこの変形例では、補強フレーム56の左右両側部とを前後長手の補強ステー92で連結し、ねじりに対する剛性アップを図っている(当然ながら曲げに対する強度もアップしている。)。
【0058】
更に述べると、a)補強フレーム56と左右の補強ステー92とリアアクスルケース53とで平面視略四角形の枠組みを構成している、b)補強ステー92は側面視で後ろに行くほど下に下がるように傾斜していると共にリアアクスルケース53のギア支軸の並び方向の延長線上に延びているため、リアアクスルケース53と補強ステー92と補強フレーム56とジョイント55とが立体トラス構造を構成している、という点が相まって、ねじりに対する剛性が格段にアップしている。
【0059】
補強ステー92は角形鋼管を使用しており、その前端部には外向き開口コの字形の前部補助ブラケット93を溶接している。一方、補強フレーム56の左右両側部には平面視略L形の支持ブラケット94を溶接しており、前部補助ブラケット93と支持ブラケット94とを複数本のボルト95及びナット96で締結している。
【0060】
また、補強ステー92の後端には側面視扇形の後部補助ブラケット97が溶接されており、後部補助ブラケット97をリアアクスルケース53の前部の側面にボルト98で固定している。リアアクスルケース53の前部側面にはボルト98がねじ込まれる受け座99を設けている。受け座99は前後に1対ずつ形成されており、より高い強度を要する場合は後部補助ブラケット97を4つの受け座99に締結したらよい(この場合は補強ステー92も太いものを使用するのが好ましい。)。支持ブラケット94は後部のみに側板94aを設けているが、前後両端に側板94aを設けてもよい。
【0061】
走行車体1に作用するねじり力は、車体重量と左右車輪間の間隔と前後車輪間の間隔とに比例しており、一般には、走行車体1が例えば6条植以下の場合には補強ステー92を設けなくとも必要な強度は確保でき、8条植や10条植えの場合に補強ステー92を使用したらよいと言える。これを逆に見ると、走行車体1の基本的な骨組みは植え付け条数の異なる機種(例えば4〜8条植、6〜10条植)で共用して、必要に応じて補強ステー92を使用したらよいとういことを意味しており、このため、植付け条数が異なる複数機種を用意するにおいて機種群の全体としての製造コストを抑制することができる。
【0062】
なお、補強ステー92は丸パイプのような他の断面形状の部材を使用しても良いし、補強フレーム56及びリアアクスルケース53に対する補強ステー92の固定構造は任意に設定できる。補強ステー92は、補強フレーム56に固定することに代えて又はこれに加えてミッドフレーム25に固定してもよい。
【0063】
(8).その他
本実施形態は以上の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象は乗用型田植機に限るものではなく、苗移植機や芝刈り機など他の作業機にも適用できる。実施形態の苗植装置を他の作業装置や運搬台車に付け替えることも可能である。走行車体は車輪による走行方式には限らず、クローラやキャタピラによる走行方式を採用することも可能である。車輪とクローラを併用してもよい。
【0064】
ミッドフレームとリアフレームとを左右複数本ずつの後部メンバーで連結することも可能である(この場合は、片側2本の後部メンバーが前部メンバーの内側と外側とに配置されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本願発明は田植機等の乗用型農作業機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 走行車体
4,5 車輪
6 エンジン
14 ステップ
14a 前部ステップ
14b 後部ステップ
21 サイドフレーム
22 前部サイドフレーム(前部メンバー)
23 後部サイドフレーム(後部メンバー)
24 フロントフレーム
25 ミッドフレーム
26 リアフレーム
44 ミッションケース
53 リアアクスルケース
55 ジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が載って運転する走行車体のシャーシを、前後長手の左右サイドフレームと、前記左右サイドフレームの前後中途部に連結された横長のミッドフレームと、前記左右サイドフレームをその後端で連結するリアフレームとを有する構成として、前記リアフレームはリア支柱を介してリアアクスルケースで支持されており、かつ、前記ミッドフレームよりも手前の位置にエンジンを配置し、前記エンジンの後ろ側に変速用ミッションケースを配置している、という構成であって、
前記左右のサイドフレームは略水平姿勢の前部メンバーと後傾姿勢の後部メンバーとに分離されており、これら前後メンバーは、後部メンバーを前部メンバーの左右内側にずらした状態でミッドフレームに固定されており、
前記エンジンは左右サイドフレームにおける前部メンバーの間に配置されており、前記サイドフレームの前部メンバーで運転フロアを構成する前部ステップが支持され、前記サイドフレームの後部メンバーで座席が支持されている、
乗用型農作業機。
【請求項2】
前記サイドフレームを構成する前後メンバーはそれぞれ角形鋼管から成っている一方、前記ミッドフレームとリアフレームとは円形鋼管から成っている、
請求項1に記載した乗用型農作業機。
【請求項3】
前記ミッドフレームとリアフレームとはサイドフレームの左右外側にはみ出ており、これらはみ出し部に設けた前後長手の補助フレームによっても前記ステップが支持されている、
請求項1又は2に記載した乗用型農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−102050(P2011−102050A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256856(P2009−256856)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】