説明

乗用型農作業機

【課題】乗用型田植機において、エンジンを低くして走行車体を低重心化することを簡単に実現する。
【手段】走行車体1は、左右のサイドフレーム9,10を横長フレーム12,11,13で連結したシャーシを有している。前部サイドフレーム9にはコの字形に形成された前後のサポートフレーム55が固定されており、エンジン26は吸振ユニット62を介してサポートフレーム55に支持されている。エンジン26を低くできるため走行車体1の重心を低くすることができる。前部サイドフレーム9は曲げ加工等する必要がないため、エンジン26の周囲の構造は大きく変える必要はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のようにエンジンで駆動される乗用型農作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業機の一例として乗用型田植機がある。この乗用型田植機は、主要要素として、前輪及び後輪で支持された走行車体と、この走行車体の後方に配置した苗植装置とを有しており、苗植装置は走行車体に高さ調節可能に連結されている。走行車体には座席と操縦ハンドルとが配置されていると共にエンジンが搭載されており、エンジンの動力によって走行と苗植作業が行われる。
【0003】
走行車体は鋼管やチャンネル材等の鋼材で構成されたシャーシ(骨組み)を有しているのが普通であり、一般に、骨組みの主要部材として前後方向に長く延びる左右のサイドフレームを有しており、左右のサイドフレームを横長の部材で連結している。苗植装置と走行車体とにはリンク装置が相対回動可能に連結されており、走行車体とリンク装置とを油圧シリンダで連結している。
【0004】
エンジンは運転フロアを挟んで手前に配置する場合と後ろに配置する場合とがあり、エンジンを運転フロアの手前に配置した場合の具体的な構成が例えば特許文献1,2に記載されている。すなわち、特許文献1ではシャーシを構成する左右のサイドフレームでエンジンを支持しており、サイドフレームのうちエンジンを支持している部分は水平状の姿勢になっている。他方、特許文献2では、サイドフレームの前部を前端に行くほど低くなった傾斜部に形成し、この傾斜部に連結した部材でエンジンを支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4139669号公報
【特許文献2】特開2000−201510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、走行車体は走行安定性の確保という点から重心をできるだけ低くするのが好ましい。そして、エンジンはかなりの重量があるため、エンジンの位置を低くするのは走行車体の重心を低くする上で有益である。この点、特許文献2はエンジンの取り付け高さを低くすることができるため、走行車体の低重心化に貢献できる。しかし、サイドフレームの前部を傾斜させると、サイドフレームの前部で支持される他の部材の支持構造も大きく変更せねばならず、このため全体としての設計コスト・製造コストが嵩むことが懸念される。
【0007】
つまり、乗用型農作業機を例に採ると、例えば特許文献1の図2に開示されているように、車体カバーがエンジンの左右両側まで広がった状態で配置されていることが殆どであり、車体カバーのうちエンジンの左右両側に張り出した部分はサイドフレームで直接に又はブラケットを介して支持されているが、特許文献2のようにサイドフレームの前部を傾斜させると車体カバーの支持構造も変えなくてはならないため、設計及び製造のコストが嵩むことになる。
【0008】
また、特許文献1の図1,2に記載されているように、乗用型農作業機ではサイドフレームの前部に左右一対の予備苗台を配置しており、これら予備苗台はブラケットを介してサイドフレームに固定されていることが多いが、特許文献2のようにサイドフレームの前部を傾斜させると予備苗台の支持構造も変更せねばならないため、予備苗台の支持部についての設計及び製造のコストが嵩むことになる。
【0009】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明に係る乗用型農作業機は、人が載って操縦する走行車体とこれに搭載されたエンジンとを有しており、前記走行車体はフレーム材からなるシャーシを備えた構成を基本にしている。そして、本願発明では、上記基本構成において、前記シャーシに、前記エンジンが載るエンジンサポート(エンジン支持部材)を下向き突設しており、前記エンジンは、その下面を前記シャーシの下方に沈ませた状態で前記エンジンサポートで支持されている。
【0011】
本願発明は展開された構成を有する。これを請求項2以下で特定している。このうち請求項2の発明は、請求項1において、前記シャーシは、前後方向に延びる左右のサイドフレームを横長フレームで連結した構造になっており、前記左右のサイドフレームの前部に前記エンジンサポートを設けている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2において、前記エンジンサポートは、正面視で上向き開口U字状又はコ字状の形態を成した1本又は複数本のサポートフレームを備えており、このサポートフレームの底部に緩衝体を介して前記エンジンが取付けられている。請求項4の発明は請求項3の発明を具体化したものであり、この発明では、前記サポートフレームは前後に2本配置しており、これら2本のサポートフレームは、当該サポートフレームの下方に突出した1本又は複数本の補強体で連結されている。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によると、エンジンはシャーシの下方に沈んだ状態で配置されるため、走行車体の重心を低くして走行安定性を向上させることができる。
【0014】
そして、特許文献2はサイドフレームの前部を傾斜させるものであるため、エンジンをシャーシの前部に配置したタイプにしか適用できないが、本願発明ではエンジンはエンジンサポートで支持するものであって、エンジンサポートの配置位置は必ずしもシャーシの前部には限定されないため、エンジンの配置位置について融通性が高い。また、特許文献2ではエンジンの支持高さを深くしようとしたら傾斜角度を大きくしたり傾斜部の全長を長くしたりして対処せねばならないが、本願発明では、エンジンサポートはシャーシに制約を受けることなく設計できるため、エンジンを支持する高さはシャーシに制約を受けることなく任意に設定することができる。
【0015】
更に、シャーシはエンジンサポートを設けることのために大きく改変する必要はないため、他の部材の支持構造を大きく改変する必要はないのであり、このため、エンジンサポートを設けることに起因して設計コストや製造コストが嵩むことを防止又は抑制できる。
【0016】
請求項2の構成では、エンジンサポートが前後に開口したフレーム構造になるため、エンジンの下部は風に当たるオープン構造になっており、このため、走行によって風がシリンダブロックやシリンダヘッドの方にも通り易くなっており、その結果、冷却性能を向上させることが可能になる。また、エンジンサポートが左右のサイドフレームを連結する補強部材を兼用するため、シャーシの剛性を高めることも可能になる。
【0017】
エンジンサポートは、例えば板金製とするなど様々の形態・構造を採用できるが、請求項3のように正面視U字形又はコの字形のサポートフレームを採用すると、簡単な構造でエンジンをしっかりと支えることができる利点がある。
【0018】
この請求項3の場合、エンジンは前後両側から支持すると安定性を確保でき、従って、サポートフレームは前後2本配置するのが好適であるが、請求項4のようにサポートフレームを前後2本としてこれらを補強体で連結すると、エンジンの支持機能はしっかりと確保しつつサポートフレームの剛性を格段に向上できて好適である。また、請求項4の構成では、補強体がサポートフレームの下方に突出しているため、補強体がエンジンを保護するガードの役目も果たしており、このため安全性の点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車体カバーを取り付けた状態での田植機の全体側面図である。
【図2】(A)は田植機の全体平面図で、(B)は前方斜め上部からみた走行車体の全体斜視図である。
【図3】走行車体の一部分離斜視図である。
【図4】エンジンを分離した走行車体の斜視図である。
【図5】エンジンの支持構造を示す分離斜視図である。
【図6】エンジンの支持構造を示す図で、(A)はエンジンと支持部材との分離斜視図、(B)は支持ユニットの分離斜視図、(C)は緩衝ユニットの斜視図である。
【図7】(A)は走行車体の前部の側面図、(B)は走行車体の正面図である。
【図8】(A)は走行車体の前部の部分平面図である。
【図9】一部部材を省略した状態での変形例の平面図である。
【図10】変形例を示す図で、(A)は分離斜視図、(B)は分離側面図、(C)は組み立てた状態で(B)のC−C視方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明及び請求項でで方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、田植機の前進方向を向いて着座したオペレータを基準にして表示している。正面視方向は田植機の前進方向と相対向した方向から見た方向である。
【0021】
(1).田植機の概要
まず、田植機の概要を説明する。図1〜図2に示すように、田植機は基本要素として走行車体1と苗植装置2とを有しており、苗植装置2はリンク装置3を介して走行車体1の後部に昇降自在に連結されている。
【0022】
走行車体1は左右の前輪4と後輪5とで支持されており、前輪4と後輪5とは動力で駆動される。なお、後輪5は補助輪を付けてダブル方式又はトリプル方式にすることがある。更に、走行車体1は運転者が腰掛ける背もたれ付き座席6とその前方に配置された操縦ハンドル7とを有している。座席6と操縦ハンドル7は走行車体1の左右中間位置に配置されている。座席6の前方でかつ左右両側の部分には予備苗台8(図2のみで骨組みのみを表示)を配置している。
【0023】
例えば図3,4から概ね理解できるように、走行車体1は、前後方向に延びる左右の前部サイドフレーム9及び後部サイドフレーム10を備えている。左右の後部サイドフレーム10は前部サイドフレーム9よりも間隔が狭くなっており、前後サイドフレーム9,10は左右横長のミッドフレーム11を介して連結されている。左右の前サイドフレーム9は、その前端部においてフロントフレーム12で連結されている。ミッドフレーム11及びフロントフレーム12は請求項2に記載した横長フレーム材を構成している。
【0024】
後部サイドフレーム10は後ろに行くに従って高さが高くなるように側面視で後傾しており、左右の後部サイドフレーム10の後端に、請求項2に記載した横長フレームを構成するリアフレーム13が連結されている。リアフレーム13には、これを支持する左右のリア支柱14が固着されている。リア支柱14は後部サイドフレーム10よりも内側に配置されている。各フレームのうちミッドフレーム11とリアフレーム13とは丸パイプ(丸形鋼管)を使用しており、他のフレームは角パイプ(角形鋼管)を使用している。図3に一部だけ表示しているが、フロントフレーム12にはバンパー15を取り付けている。
【0025】
リアフレーム13のやや手前には後部横長ステー17が配置されており、この後部横長ステー17は上向き開口コの字形のハンガーブラケット18(図3参照)に固着されており、更に、ハンガーブラケット18は後部サイドフレーム10に溶接されている。
【0026】
左右の後部サイドフレーム10の前端部には下向き開口の門型フレーム19が固着されており、この門型フレーム19にシート支持ユニット20(図1参照)の前端部を固着している。シート支持ユニット20の後部は図示しないステーに固定されている。座席6の下方には燃料タンク21を配置しており、座席6を前倒し回動させると燃料タンク21に注油できる。
【0027】
前部サイドフレーム9には左右外側に突出した複数本の外向き枝フレーム22が固着されており、枝フレーム22で予備苗台8を支持している。また、サイドフレーム9,10の外側には前後長手の補助フレーム23が配置されており、補助フレーム23は枝フレーム22や後部横長ステー17、リアフレーム13に固着されている。
【0028】
本実施形態では、前後サイドフレーム9,10、ミッドフレーム11、フロントフレーム12、リアフレーム13等でシャーシ(フレーム構造体)が構成されている。図2に示すように、走行車体1のうち人が載る部分は車体カバー24で覆われており、車体カバー24は前部サイドフレーム9や枝フレーム21、補助フレーム23、後部横長ステー17、リアフレーム13等で支持されている。座席6の後ろには施肥装置を配置することが多いが、本実施形態では省略している。
【0029】
操縦ハンドル7はハンドルポスト25に内蔵したハンドル軸に取り付けられている。車体カバー24のうち座席6とハンドルポスト25との間の部位は、人が立ったり着座状態で足を載せたりする運転フロア24aになっており、運転フロア24aの手前側にエンジン26を配置している(エンジン26の支持構造は後述する。)。エンジン26はボンネットで前後から覆われている。
【0030】
エンジン26の後ろには、ギア群を内蔵したミッションケース27が配置されている。ミッションケース27の左側面には無段変速機の一例としてのHST(静油圧式無段変速機)28を取り付けており、エンジン26の動力は一次的にはHST28にベルト29で伝達され、それからギア群に伝達される。ミッションケース27にはギア群の他にもクラッチやブレーキなどが内蔵されているが、本願発明との直接の関連はないので説明は省略する。
【0031】
例えば図4に示すように、ベルト29には下方からテンションプーリ30が当接している。テンションプーリ30は回動式アーム31の先端に取り付けられている。敢えて述べるまでもないが、テンションプーリ30がベルト29に常に所定の強さで当たるように回動式アーム31は図示しないばねで付勢されている。ハンドルポスト25はミッションケース27の前部にはパワーステアリングユニット32を取り付けており、パワーステアリングユニット32にハンドルポスト25を固定している。
【0032】
ミッションケース27の左右側面にはフロントアクスル装置33を取り付けており、フロントアクスル装置33に前輪4を取り付けれている。後輪5はリアアクスルケース34に付けられている。リアアクスルケース34は左右の後ろ向き張り出し部34aを有しており、後ろ向き張り出し部34aに突設した車軸に後輪5を固定している。また、左右の後ろ向き張り出し部34aに横梁部材35を差し渡して固定し、横梁部材35にリア支柱14を固定している。
【0033】
図3,4から理解できるように、ミッションケース27の後端とリアアクスルケース34の前端とは丸パイプ製のジョイント材36で連結されており、ジョイント材36とミッドフレーム11とは正面視U型の補強フレーム37で連結されている。ジョイント材36と座席6との間に燃料タンクTを配置しており、燃料タンクTは受け材38を介してジョイント材36で支持されている。
【0034】
また、図3に示すように、ジョイント材36には、側面視後傾姿勢の昇降シリンダ(油圧シリンダ)39がその前端を中心にして回動するようにブラケット40を介して連結されている。図1に示すリンク装置3は昇降シリンダ39の伸縮動によって回動し、これに伴って苗植装置2が昇降する。
【0035】
例えば図4に示すように、ジョイント材36を挟んで左側には後輪ドライブ軸41が配置されて右側には作業動力軸42が配置されている。ドライブ軸41は後輪を駆動するもの(整地ロータを設けている場合はこれの駆動も行う)で、当然ながら後輪5は前輪4と同期して回転する。作業動力軸42は苗植装置2を駆動(施肥装置を設けている場合はこれの駆動も)を行うもので、図示しない株間変更装置に接続されている。
【0036】
(2).エンジン及びその支持構造
次に、エンジン26を説明する。本実施形態のエンジン26は水冷ディーゼルエンジンであり、クランク軸を左右横長にした横置き姿勢で配置されている。エンジン26は基本的には従来と同様の構成であり、例えば図5から容易に把握できるように、大きな要素として、クランクケースやシリンダブロックやシリンダヘッドを包含する機関本体44と、機関本体44の右側に配置したラジェータ45を有している。
【0037】
図5に明示するように、エンジン26の出力軸(クランク軸)48は機関本体44の左側面から突出しており、この出力軸48にフライホイール49と出力プーリ50とが固定されている。出力プーリ50に巻き掛けられたベルト29で既述のHST28に動力伝達される(図1,3,4,9参照)。
【0038】
フライホイール49の左真横には消音器51を配置している。消音器51は平面視で前部サイドフレーム9と補助フレーム23との間に配置されており、前部サイドフレーム9と補助フレーム23とに固定されたステー52で吊支されている。消音器51はカバー53で覆われている(図8参照)。
【0039】
なお、例えば図4に示すように、機関本体44の左側面部にはフライホイール49の内側に位置した円板54を固定しており、テンションプーリ50が取り付いた回動式アーム31はブラケットを介して円板54に取り付けられている。
【0040】
図4,5に明示するように、左右前部サイドフレーム9の略前半部にはサポートフレーム55が連結されており、エンジン26の機関本体44はこのサポートフレーム55で支持されている。サポートフレーム55は丸パイプで製造されており、左右の垂直部とその下端に連結した下水平部とを有する正面視コの字形(或いは横長U字形)になっている。
【0041】
前後のサポートフレーム55はその左右中間部において補強体(連結フレーム)56で連結されており、これらサポートフレーム55と補強体56とで請求項1に記載したエンジンサポートが構成されている。補強体56は側面視で下向き突形に曲がっており、サポートフレーム55の下方に突出している。従って、補強体56はエンジン26のガード機能も果たしている。
【0042】
前後サポートフレーム55の右側部にはサイドブラケット57を固着しており、このサイドブラケット57でラジェータ45を支持している。ラジェータ45はゴム等の緩衝材を介してサイドブラケット57で支持されている。サイドブラケット57は平面視で内向きに開口した略コの字形を成している。サポートフレーム55は前部サイドフレーム9の下面に溶接しているが、前部サイドフレーム9の内側面又は外側面に溶接又はボルト止めすることも可能である。敢えて述べるまでもないが、サポートフレーム55はブラケットを介して前部サイドフレーム9に固定してもよい。
【0043】
前後サポートフレーム55の下水平部には、エンジン26を支持する前後一対ずつ(或いは左右一対ずつ)の下ブラケット59が溶接で固定されている。前側の下ブラケット59は前側のサポートフレーム55から前向きに延びて、後ろ側の下ブラケット59は後ろ側のサポートフレーム55から後ろ向きに延びており、かつ、各下ブラケット59はその先端が高くなるように水平に対して傾斜している。従って、前後の下ブラケット59は側面視で逆ハの字の形態を成している。
【0044】
他方、図6に明示するように、機関本体44の下部の前後両面にはそれぞれ左右横長の上ブラケット60がボルト61で固定されている。上ブラケット60は断面略L形を成しており、その左右両端部に、下ブラケット59と平行に延びる支持片60aを設けて、この支持片60aと下ブラケット59との間に吸振ユニット62を介在させている。
【0045】
吸振ユニット62は上板63と下板64との間にゴム等の緩衝材65を挟んで全体を一体化した構造になっており、上板63と下板64と緩衝材65とにボルト66を貫通させて、ボルト66にナット67をねじ込むことで上ブラケット60と下ブラケット59とを締結している。吸振ユニット62の上板63と下板54とには、補強を兼ねる側板63a,64aが折り曲げ形成されている。ボルト66は、上板63と下板64とのうちいずれか一方に固定しておいてもよいし、両者に単に貫通させただけでもよい。
【0046】
上ブラケット60の支持片60aには吸振ユニット62のボルト66が嵌まる丸穴68が空いている一方、下ブラケット59には吸振ユニット62のボルト66を嵌め込むための溝穴69が切り開き形成されている。下ブラケット59にも丸穴を空けることは可能であるが、本実施形態のように溝穴69を形成してボルト66を前又は後ろから嵌め込む方式を採用すると、エンジン26の組み付け作業を容易に行える利点がある。
【0047】
実施形態では溝穴69の開口部はテーパ状に広がっており、このためボルト66の嵌め込みを容易に行える。また、実施形態のように前後の下ブラケット59を側面視で逆ハの字の姿勢にすると、エンジン26はその自重によって前後の下ブラケット59の間に位置保持される傾向を呈するため、姿勢保持機能に優れている。
【0048】
図5に示すように、後ろ側のサポートフレーム55の略左右中間部には後ろ向きに突出したリアブラケット70が連結されている。図5に示すようにリアブラケット70の先端にはピン71が貫通しており、リアブラケット70はこのピン71でミッションケース27に連結されている。従って、本実施形態ではミッションケース27も走行車体1の構造材(強度メンバー)を構成している。
【0049】
つまり、本実施形態では、各サイドフレーム9,10、フロントフレーム12、ミッドフレーム11、リアフレーム13、リア支柱14といったフレーム材によってシャーシが構成されていると共に、これらシャーシとミッションケース27、ジョイント材36、リアアクスルケース34が協同して走行車体1の骨組みを構成している。
【0050】
(3).まとめ
以上の構成において、エンジン26はサポートフレーム55によって前部サイドフレームの下方に沈んだ状態に支持されているため、走行車体1の重心を低くして走行安定性を向上させることができる。そして、前部サイドフレーム9は水平姿勢のままでよいため、車体カバー24や予備苗台8を支持するに当たっては、外向き枝フレーム22を前部サイドフレーム9に固定してこれに補助フレーム23を固定するといった単純な支持構造を採用するだけでよく、このため、エンジン26を低くしたことに起因して当該エンジン26の周囲の構成が複雑化することはないのである。
【0051】
本実施形態のように前部サイドフレーム9に固定されたサポートフレーム55でエンジン26を支持すると、フロントフレーム12と左右の前部サイドフレーム9とで囲われた空間がエンジン26の配置空間になるため、フロントフレーム12と左右の前部サイドフレーム9とは実質的にエンジン26のガードとしての機能も果たしている。この点、本実施形態の利点であると言える。
【0052】
エンジン26はクランク軸が前後方向に延びる姿勢の縦置きで配置することも可能であるが、エンジン26はクランク軸の軸方向に長くなるのが一般的であるため、縦置きにすると走行車体の全長が長くなるおそれがある。これに対して本実施形態のようにエンジン26を横置きにすると、走行車体1が長くなることを抑制してエンジン26を搭載できる利点がある。また、変速装置への動力伝達もベルト29で簡単に行える。
【0053】
また、エンジン26の動力をベルト29でミッションケース27(HST28)に伝達すると、エンジン26とミッションケース27とにはベルト29によって互いに引き合うような外力が作用するが、本実施形態では後ろ側のサポートフレーム55とミッションケース27とがリアブラケット70を介して連結されており、サポートフレーム55とミッションケース27との間隔は一定に保持されているため、サポートフレーム55にはこれを後ろに引っ張るような外力が作用することはないのであり、その結果、エンジン26とミッションケース27との位置関係をしっかりと保持できると共に、前部サイドフレーム9に対するサポートフレーム55の固定強度も確保できる。
【0054】
ラジェータ45を載せるサイドブラケット57は前部サイドフレーム9に固定することも可能であるが、本実施形態のように前後のサポートフレーム55に固定すると、サイドブラケット57が前後サポートフレーム55を固定する補強部材を兼用するため、サポートフレーム55を主体として構成されるエンジン支持構造体の堅牢性が格段に向上する利点がある。
【0055】
(4).消音器の冷却
さて、エンジン26の消音器51は排気ガスによって高温になるため、可能なら冷却するのが好ましい。しかし、従来、消音器51を冷却する工夫はなされていないのが実情である。さりとて、消音器51を冷却するためのファンやダクトを設けるのはコスト面でのデメリットが大きい。
【0056】
これに対して本実施形態では、コストアップを抑制した状態で消音器51を冷却することができる。すなわち、フライホイール49の横に消音器51を配置していることを利用して、図9に変形例として模式的に示すように、フライホイール49の外面に冷却ファン72を固定し、この冷却ファン72の風で消音器51を冷却するのである。
【0057】
このようにフライホイール49の外面に冷却ファン72を固定するだけの簡単な構成であるため、大きなコストアップにはならない。フライホイール49に送風用フィンを一体形成することも可能である。なお、消音器51はアフターバーナー機能や排気ガス浄化機能を備えていてもよい。
【0058】
(5).変形例
圃場にしても路上にしても凹凸が存在しており、このため、例えば1つの車輪が浮いた状態で走行するというように4つの車輪4,5の支持状態(接地抵抗)がアンバランスになり、このため、走行車体1の自身の重量が走行車体1を前後長手の軸心回りにねじるような外力として作用することがある。この点、実施形態のように補強フレーム37を設けると、シャーシとミッションケース27とジョイント材36とリアアクスルケース34とリア支柱27との全体で構成される構造体の剛性が格段に高くなるため、ねじりに対する抵抗力も格段に向上できる。
【0059】
そして、図10に示す変形例ではねじりに対する剛性を一層向上できるように補強機能を講じている。すなわちこの変形例では、補強フレーム37の左右両側部とを前後長手の補強ステー73で連結し、補強フレーム37と左右の補強ステー73とリアアクスルケース34とで平面視略四角形の枠組みを構成することにより、ねじりに対する抵抗アップを図っている(当然ながら曲げに対する強度もアップしている。)。補強フレーム37には受け材38が溶接されており、受け材38はジョイント材36に溶接されたブラケット72にボルト及びナット(いずれも図示せず)で固定されている。
【0060】
補強ステー73は角形鋼管を使用しており、その前端部には外向き開口コの字形の前部補助ブラケット74を溶接している。一方、補強フレーム37の左右両側部には平面視略L形の支持ブラケット75を溶接しており、前部補助ブラケット74と支持ブラケット75とを複数本のボルト76及びナット77で締結している。
【0061】
また、補強ステー73の後端には側面視扇形の後部補助ブラケット78が溶接されており、後部補助ブラケット78をリアアクスルケース34の前部の側面にボルト79で固定している。リアアクスルケース34の前部側面にはボルト79がねじ込まれる受け座80を設けている。受け座80は前後に1対ずつ形成されており、より高い強度を要する場合は後部補助ブラケット78を4つの受け座80に締結したらよい。
【0062】
(6).その他
本実施形態は以上の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象は乗用型田植機に限るものではなく、例えば、苗移植機、芝刈機など各種の農作業機に適用できる。実施形態の苗植装置を他の作業装置や運搬台車に付け替えることも可能である。走行車体は車輪による走行方式には限らず、クローラによる走行方式を採用することも可能である。
【0063】
シャーシとしてサイドフレームを有する場合、サイドフレームは前後別部材に分かれている必要はないのであり、全体が一本に繋がっていてもよい。エンジンは運転フロアの後ろ側に配置することも可能である(この場合は、ミッションケースはエンジンの手前に配置することが多くなる。)。エンジンサポートは、例えば板金製のような様々の構造・形態を採用できる。
【0064】
エンジンサポートとしてサポートフレームを使用する場合、1本又は3本以上とすることも可能である。サイドフレームにフロントフレームとこれに平行な中間フレームとを連結し、フロントフレームと中間フレームとにサポートフレームを1本又は複数本連結することも可能である。なお、サイドフレームに連結したフレーム材でミッションケースを支持することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本願発明は田植機等の乗用型農作業機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 走行車体
2 作業装置の一例としての苗植装置
3 リンク装置
4 前輪
5 後輪
8,9 前部サイドフレーム
11 ミッドフレーム
12 フロントフレーム
13 リアフレーム
30 油圧シリンダ
24 車体カバー
24a 運転フロア
26 エンジン
27 ミッションケース
50 出力プーリ
51 消音器
55 エンジンサポートを構成するサポートフレーム
56 エンジンサポートを構成する補強体
58 下ブラケット
59 上ブラケット
62 吸振ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が載って操縦する走行車体とこれに搭載されたエンジンとを有しており、前記走行車体はフレーム材からなるシャーシを備えた構成であって、
前記シャーシに、前記エンジンが載るエンジンサポートを下向き突設しており、前記エンジンは、その下面を前記シャーシの下方に沈ませた状態で前記エンジンサポートで支持されている、
乗用型農作業機。
【請求項2】
前記シャーシは、前後方向に延びる左右のサイドフレームを横長フレームで連結した構造になっており、前記左右のサイドフレームの前部に前記エンジンサポートを設けている、
請求項1に記載した乗用型農作業機。
【請求項3】
前記エンジンサポートは、正面視で上向き開口U字状又はコ字状の形態を成した1本又は複数本のサポートフレームを備えており、このサポートフレームの底部に緩衝体を介して前記エンジンが取付けられている、
請求項2に記載した乗用型農作業機。
【請求項4】
前記サポートフレームは前後に2本配置しており、これら2本のサポートフレームは、当該サポートフレームの下方に突出した1本又は複数本の補強体で連結されている、
請求項3に記載した乗用型農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−102051(P2011−102051A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256857(P2009−256857)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】