説明

乗用型農作業機

【課題】8条植えのような大型の乗用型田植機であっても、高い剛性・耐久性を確保する。
【解決手段】走行機体は、動力系統要素としてエンジン25とミッションケース31とリアアクスルケース34とを有しており、ミッションケース31とリアアクスルケース34とは下部連結体36で連結されている。ミッションケース31より高い位置に、サイドフレーム9、ミッドフレーム11、リアフレーム13等から成るシャーシが配置されており、リアフレーム13はリア支柱14を介してリアアクスルケース34で支持されている。下部連結体36には苗植装置を昇降させるための油圧シリンダ30が連結されている。下部連結体36とミッドフレーム11とがフレーム構造の補強体37で連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のような乗用型農作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業機の一例として乗用型田植機がある。この乗用型田植機は前輪及び後輪で支持された走行機体を有しており、走行機体にはその後方に配置した苗植装置を高さ調節可能に連結している。走行機体には座席と操縦ハンドルとが配置されていると共にエンジンが搭載されており、エンジンからの動力によって走行と苗植作業が行われる。
【0003】
走行機体は鋼管やチャンネル材等の鋼材で構成された骨組み(シャーシ)を有してい るのが普通であり、一般に、骨組みの主要部材として前後方向に長く延びる左右のサイドフレームを有しており、左右のサイドフレームを横長の部材で連結している。苗植装置と走行機体とにはリンク装置が相対回動可能に連結されており、走行機体とリンク装置とを油圧シリンダで連結している。従って、油圧シリンダを伸縮動させると苗植装置が昇降する。
【0004】
乗用型田植機における走行機体の具体的な構造の一例が本願出願人の出願に係る特許文献1に開示されている。この特許文献1では、左右のサイドフレーム44をその後半部が後ろに行くに従って高さが高くなるよう側面視で屈曲した形態にして(すなわち後半部を傾斜部と成して)、左右サイドフレーム44の前部を左右横長のフロントフレーム41で連結する一方、左右のサイドフレーム44の後端はそれぞれリアアクスルケース38から立ち上がったリアフレーム43の上部側面に固着し、更に、左右のリア支柱43の上端には左右横長のリアフレームを曲げ形成している。
【0005】
また、特許文献1では、ミッションケース6はリアアクスルケース38まで延びており、ミッションケース6の後半部に配置した内蔵チェーンで後輪に動力を伝達している。更に、左右のサイドフレーム44の前後中途部はこれに貫通したミッドフレーム175で連結されており、ミッドフレーム175とミッションケース6とにブラケット176を固定し、このブラケット176に昇降用シリンダを連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3804926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1ではミッションケースとリアアクスルケースとは他の部材を支持する構造材(強度メンバー)の役割を担っており、このため走行機体の構造の簡素化・コストダウンに貢献できると言える。
【0008】
本願発明はこの特許文献1と同様にミッションケースやリアアクスルケースを走行機体の構造材に兼用したものにおいて、走行機体の剛性をより一層向上させること等を目的として成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明に係る乗用型農作業機は、シャーシが下部構造体で支持された走行機体を有している。前記下部構造体は、走行変速機構が内蔵されたミッションケースとその後方に配
置されたリアアクスルケースとを下部連結材で連結した構成であり、前記リアアクスルケースには後輪が取り付けられている一方、前記シャーシは、前後方向に延びる左右のサイドフレームと、前記左右サイドフレームをその前後中途部において連結する左右横長のミドルフレームと、前記左右サイドフレームをその後端部において連結する左右横長のリアフレームとを有しており、前記リアフレームはリア支柱を介してリアアクスルケースで支持されている。そして、前記ミッドフレーム又は左右サイドフレームと下部連結体とを補強体で連結している。
【0010】
本願発明は更に幾つかの局面を有しており、これらを請求項2以下で特定している。このうち請求項2の発明は、請求項1において、前記補強体は中空鋼管でフレーム構造になっており、この補強体を正面視で略U型又は略V型若しくは略コの字型の形態と成している。
【0011】
請求項3の発明は請求項1又は2の発明を具体化したもので、この発明では、前記サイドフレームは、ミッドフレームの手前に位置した略水平姿勢の前側サイドフレームと、ミッドフレームの後ろに位置して後方に行くほど高くなるように傾斜した後ろ側サイドフレームとに分かれており、前記後ろ側サイドフレームは前側サイドフレームより左右内側においてミッドフレームに固定されている一方、前記補強体は、前記後ろ側サイドフレームの前端部の近傍部で前記ミッドフレームに固定されている。
【0012】
請求項4の発明は請求項2又は3の発明を具体化したもので、この発明では、前記リアフレームとリア支柱とのうちいずれか一方又は両方に、走行機体の後ろに配置された作業装置を昇降させるためのリンク機構が上下回動自在に連結されており、前記下部連結体のうち補強体よりも後ろの部位に、前記リンク機構を回動させるためのシリンダを連結している。
【0013】
請求項5の発明は請求項2〜4の発明を具体化したので、この発明では、前記補強体は正面視で上向き開口U字状又はコの字状であって後ろに行くほど低くなるように側面視で前傾しており、前記補強体の底部で燃料タンクを支持している。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、ミッションケースとリアアクスルケースとを走行機体の強度メンバーに兼用した場合において、サイドフレーム又はミッドフレームと下部連結体とが連結されているため、シャーシと下部構造体とが互いに補強し合っており、その結果、走行機体は格段に高い剛性を確保できる。従って、例えば8条植のような大型田植機であっても高い堅牢性を確保できる。また、高い堅牢性を確保できることにより、走行機体に植付け以外の作業機を取付けて重作業を行うことも容易に実現できる。
【0015】
補強体には板材や型鋼などの各種の材料を使用でき、かつ、その形態も様々に展開できるが、請求項2の構成を採用すると、補強体は鋼管等の材料を曲げ加工して簡単に製造できるため、コスト優位性が高い。また、走行機体の左右前輪と左右後輪とに作用する荷重は路上の条件とによって相違することが普通であり、このような荷重の不均等に起因して走行機体にはねじり力が作用することが多いが、請求項2では補強体が左右対称形状になるため、走行機体はねじりに対しても強い強度を発揮できる。
【0016】
請求項3の構成を採用すると、後ろ側サイドフレームの前端がその真下付近において補強体で支持されるため、補強体の補強機能がより的確に発揮されることになり、強度アップに一層好適である。
【0017】
既述のように、乗用型田植機ではシリンダでリンク機構を回動することで苗植装置を昇
降させているが、シリンダには当然ながら大きな荷重が作用しており、従って、請求項4のように下部連結体にシリンダを連結すると下部連結体には大きな曲げ荷重が作用する。しかし、本願発明ではシャーシと下部連結体とが補強体で連結されていることにより、曲げ力に対する下部連結体の抵抗力を格段に向上させることができ、このため、シリンダを取り付けた場合であっても高い強度を確保できる。
【0018】
また、請求項5の構成を採用すると燃料タンクをシャーシの下方に沈せるようにして配置できるため、燃料タンクのを大容量化が可能になる利点がある。また、補強体は側面視で前傾しているため、請求項4のようにシリンダを設けた場合、シリンダの引っ張りによる曲げ力に対して補強体が突っ張るように作用することになり、従って、請求項5の構成はシリンダを取り付けた場合の強度アップ手段としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車体カバーを取り付けた状態での田植機の全体的な側面図である。
【図2】車体カバーを取り外した状態での田植機の全体的な平面図である。
【図3】走行機体の分離斜視図である。
【図4】走行機体の大まかな側面図である。
【図5】走行機体の大まかな平面図である。
【図6】走行機体の一部破断側面図である。
【図7】(A)は要部の分離斜視図、(B)は下部連結体とミッションケースとの連結状態を示す斜視図、(C)は下部連結体とリアアクスルケースとの連結状態を示す斜視図である。
【図8】(A)は要部の分離側面図、(B)は燃料タンクの取り付け構造を示すため下方から見た斜視図である。
【図9】燃料タンクを横にずらした状態での平面図である。
【図10】要部の底面図である。
【図11】要部の部分側面図である。
【図12】(A)は燃料タンクを裏返した状態での要部の分離斜視図、(B)は要部を斜め後ろから見た図である。
【図13】リンク装置の連結構造を示す一部破断側面図である。
【図14】リンク装置の連結構造を示す分離斜視図である。
【図15】変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明では、方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、特に断らない限り、田植機の前進方向を向いて着座したオペレータを基準にして表示している。正面視方向は前進方向と相対向した方向から見た方向である。
【0021】
(1).田植機の概要
まず、田植機の概要を説明する。図1〜図2に示すように、田植機は基本要素として走行機体1と苗植装置2とを有しており、苗植装置2はリンク装置3を介して走行機体1の後部に昇降自在に連結されている。
【0022】
走行機体1は左右の前輪4と後輪5とで支持されており、前輪4と後輪5とは動力で駆動される(なお、後輪5は補助輪を付けてダブル方式又はトリプル方式にすることがある。)。走行機体1は、運転者が腰掛ける背もたれ付き座席6とその前方に配置された操縦ハンドル7とを有している。座席6と操縦ハンドル7は走行機体1の左右中間位置に配置されている。座席6の前方でかつ左右両側の部分には予備苗台8(図2のみ表示)を配置している。
【0023】
例えば図3から概ね理解できるように、走行機体1は、前後方向に延びる左右の前部サイドフレーム9及び後部サイドフレーム10を備えている。左右の後部サイドフレーム10は前部サイドフレーム9よりも間隔が狭くなっており、前後サイドフレーム9,10は左右横長のミッドフレーム11を介して連結されている。左右の前サイドフレーム9はその前端部においてフロントフレーム12で連結されている。
【0024】
後部サイドフレーム10は後ろに行くに従って高さが高くなるように側面視で後傾しており、左右の後部サイドフレーム10の後端に左右横長のリアフレーム13が連結されている。リアフレーム13には、これを支持する左右のリア支柱14が固着されている。リア支柱14は後部サイドフレーム10よりも内側に配置されている。各フレームのうちミッドフレーム11とリアフレーム13とは丸パイプを使用しており、他のフレームは角パイプを使用している。
【0025】
前部サイドフレーム9と後部サイドフレーム10とをミッドフレーム11で連結したことにより、前部サイドフレーム9と後部サイドフレーム10との大きさ(太さ)や位置・姿勢を簡単に変えることができる。この点は本実施形態の利点の一つである。
【0026】
リアフレーム13のやや手前には後部横長ステー17が配置されており、この後部横長ステー17は、後部サイドフレーム10に溶接された上向き開口コの字形のハンガーブラケット18に固着されている。左右の後部サイドフレーム10の前端部には下向き開口の門型フレーム19が固着されており、この門型フレーム19にシート支持ユニット20の前端部を固着している。シート支持ユニット20の後部は図示しないステーに固定されている。なお、座席6はその前端部を中心にして前倒しできるようにシート支持ユニット20に連結されている。
【0027】
前部サイドフレーム9には左右外側に突出した複数本の外向き枝フレーム15が固着されており、枝フレーム15で予備苗台8を支持している。また、サイドフレーム9,10の外側には前後長手の補助フレーム22が配置されており、補助フレーム22は枝フレーム15や後部横長ステー17、リアフレーム13に固着されている。
【0028】
本実施形態では、前後サイドフレーム9,10、ミッドフレーム11、フロントフレーム12、リアフレーム13等でシャーシ(フレーム構造体)が構成されている。図2に示すように、走行機体1のうち人が載る部分は車体カバー23で覆われており、車体カバー23は前部サイドフレーム9や枝フレーム21、補助フレーム22、後部横長ステー17、リアフレーム13等で支持されている。座席6の後ろには施肥装置を配置することが多いが、本実施形態では省略している。
【0029】
操縦ハンドル7はハンドルポスト24に内蔵したハンドル軸に取り付けられている。本実施形態では、エンジン25は走行機体1の前部に配置されており、エンジン25の支持構造においても独自の工夫を行っている。すなわち、前部サイドフレーム9に上向き開口した正面視コの字型又はU字型の前後2本のエンジンサポートフレーム26を固着し、このエンジンサポートフレーム26に前部のエンジンブラケット27,28及び防振ゴム29を介してエンジン25を取り付けている。
【0030】
エンジン25は前部サイドフレーム9の下方に沈むような状態で配置できる。エンジン25はクランク軸が左右横長となるように配置されており、出力プーリはシリンダブロックの左に配置している。なお、エンジン25はディーゼルエンジである。
【0031】
エンジン25の後ろには、ギア群を内蔵したミッションケース31が配置されている。
ミッションケース31の左側面には無段変速機の一例としてのHST(静油圧式無段変速機)32が取り付けられており、エンジン25の動力は一次的にはHST32にベルトで伝達され、それからギア群に伝達される。ミッションケース31にはギア群の他にもクラッチやブレーキなどが内蔵されているが、本願発明との直接の関連はないので説明は省略する。
【0032】
ミッションケース31の左右側面にはフロントアクスル装置33が取り付けられており、フロントアクスル装置33に前輪4が取り付けられている。フロントアクスル装置33は、ミッションケース31に固定された上部ケースとこれに緩衝機構を介して昇降可能に取り付けられた車軸ケースとを有しており、上部ケースは前部サイドフレーム9に対しても固定されている。
【0033】
後輪5はリアアクスルケース34に付けられている。リアアクスルケース34は左右の後ろ向き張り出し部34aを有しており、後ろ向き張り出し部34aに突設した車軸に後輪5を固定している。また、左右の後ろ向き張り出し部34aに横梁部材35を差し渡して固定し、横梁部材35にリア支柱14を固定している。このように横梁部材35を使用することにより、リアアクスルケース34に作用する負担を軽減して耐久性を向上すると共に、左右リア支柱14の間隔も後ろ向き張り出し部34aの間隔に規制されることなく自由に設定できる。
【0034】
図3から理解できるように、ミッションケース31の後端とリアアクスルケース34の前端とは中空角形の下部連結体36で連結されており、下部連結体36とミッドフレーム11とが正面視U型の補強体37で連結されている。また、下部連結体36と座席6との間に燃料タンク38を配置している。
【0035】
ミッションケース31の前端と後部のエンジンサポートフレーム26とはフロントブラケット39を介して連結されている。従って、ミッションケース31と下部連結体36とリアアクスルケース34とで走行機体1の下部構造体が構成されており、この下部構造体で前後サイドフレーム9,10等からなるシャーシを支持している。なお、下部構造体は前後車輪4,5で支持されており、既述のとおり前部サイドフレーム9は前輪4によっても支持されている。本実施形態ではハンドルポスト24が取り付くパワーステアリングユニットはミッションケース31に一体に組み込んでいる(すなわち、パワーステアリングユニットのギアケースをミッションケース31に一体化している。)。
【0036】
例えば図9に示すように、下部連結体36を挟んで左右にはドライブ軸40と作業動力軸41とが振り分けた状態で配置されている。ドライブ軸40は後輪を駆動するもの(整地ロータを設けている場合はこれの駆動も行う)で、当然ながら後輪5は前輪4と同期して回転する。作業動力軸41は苗植装置2を駆動(施肥装置を設けている場合はこれの駆動も)を行うもので、図示しない株間ケースに接続されている。なお、図示していないが、株間ケースはブラケットを介して下部連結体36とリアアクスルケース34とに固定されており、この株間ケースから植付け駆動軸(PTO軸)が後ろ向きに突出して施肥駆動軸が上向きに突出している。
【0037】
(2).下部構造体・燃料タンク
次に、各部の詳細を説明する。まず、下部連結体36とミッションケース31、及び、下部連結体36とリアアクスルケース34との連結構造を説明する。この連結構造は図7(A)に明瞭に示されている。すなわち、下部連結体36の前端には前支持板44を溶接によって固着してこれをミッションケース31の後面にボルト44′で締結し、下部連結体36の後端にはリア支持板45を溶接によって固着しており、このリア支持板45をリアアクスルケース34の前面にボルト45′で締結している。
【0038】
支持板44,45は四角形になっているが、必要に応じて任意の形状を選択できる。図11に示すように、下部連結体36の前端には前支持板44の前方に突出する雄型嵌合部36aを設けている一方、ミッションケース31の後面には雄型嵌合部36aがきっちり嵌まる雌型嵌合部(図示せず)が形成されており、これらの雌雄嵌合部の嵌まり合いによって締結強度のアップを図っている。下部連結体36とリアアクスルケース34とに嵌合部を設けることも可能である。
【0039】
補強体37は丸パイプ(丸鋼管)で製造されている。この補強体37を次に説明する。例えば図8に示すように、ミッションケース31はミッドフレーム11の上面よりも下方に配置されており、かつ、下部連結体36はミッションケース31の下端部に固定されている。更に述べると、ミッションケース31の内部においてギア群が上下に高さを変えて配置されており、このためミッションケース31は上下寸法が割合大きくなっている。
【0040】
下部連結体36はミッションケース31の下端部に固定されており、このため、下部連結体36は前部サイドフレーム9及びミッドフレーム11のかなり下方に配置されており、ドライブ軸40は、側面視において下部連結体36と略平行な姿勢でリアアクスルケース34に接続されている。
【0041】
そして、補強体37は下に行くに従って高さが低くなるように側面視で前傾姿勢になっており、左右の上端はミッドフレーム11に溶接で固着されている。また、図12(A)に明示するように、補強体37の底部37aに左右の下向き片46aを有する正面視(或いは背面視)下向き開口コの字形の上ブラケット46を固着している一方、下部連結体36には上ブラケット46が被さるように嵌まり込む下ブラケット47を固着し、上下ブラケット46,47を左右横長のピン48で連結している。なお、ピン48に変えてボルト及びナットを使用し、これらで締結してもよいし、或いは、補強体37を下部連結体36に溶接で固定することも可能である。
【0042】
上ブラケット46には左右一対のゴム座49を設けており、このゴム座49で燃料タンク38の下面を支持している。図12(A)に示すように、燃料タンク38の下面のうちゴム座49による支持部の手前には下向き膨出部38aを設けており、この下向き膨出部38aに燃料の出口50を設けており、燃料は出口50からフィルター(図示せず)を介してエンジン25に送られる。エンジン25はディーゼル方式であって燃料はポンプで強制的に送られるため、燃料タンク38の出口50がエンジン25より下方にあっても差し支えない。
【0043】
図8(B)に明示するように、燃料タンク38には前後一対のフランジ51,52を設けており、前部フランジ51はミッドフレーム11に固着されたタンクブラケット53にビスで固定されている。また、図3から理解できるように、燃料タンク38の後部フランジ52は後部サイドフレーム10に固定されたハンガーブラケット18にビスで締結されている。燃料タンク38の注油口54は座席6の下方に位置しており、座席6を前倒しすると注油口54が露出する。
【0044】
例えば図12(B)から良く理解できるように、燃料タンク38の上面には左側方と前方とに開いた段部55を形成しており、図6に示すように、燃料タンク38の段部55の箇所に、油圧シリンダ30を制御する油圧ユニット56を配置している。段部55を形成したことにより、油圧ユニット56が燃料タンク38の左側に大きくはみ出すことを防止できる。
【0045】
(3).リンク機構・油圧シリンダ
次に、リンク機構3と油圧シリンダ30とを説明する。図13及び図14に示すように、リンク機構3は上下に分かれて配置されたトップリンク58とロアリンク59とを有しており、両リンク58,59の後端には第1ピン60及び第2ピン61でヒッチ62が相対回動可能に連結されている。ヒッチ62の下端部には図示しないキングピンが後ろ向きに突設されており、このキングピンを介して苗植装置2が連結されている。従って、苗植装置2は走行機体1に対してある程度の角度だけローリングし得る。
【0046】
トップリンク58は各パイプ又はチャンネル材から成っていて基本的には直線状の形態であり、その前端に上軸受け筒63を固着し、この上軸受け筒63を左右リア支柱14に固着された上支軸64に嵌め込んでいる。従って、トップリンク58はその前端を中心に上下回動するようにリア支柱14に連結されている。上支軸64は筒型であり、第3ピン65が嵌まっている。
【0047】
ロアリンク59は前部が1本で後ろ向きに分岐した略Y形になっており、前端には下軸受け筒66を固着し、これをリア支柱14に固着した下支軸67に嵌めでおり、従って、ロアリンク59もその前端を中心に上下回動するようにリア支柱14に連結されている。下支軸67も筒型であり、第4ピン68が嵌まっている。
【0048】
ロアリンク59には、前後長手の中間リンク69がその後端部を中心にして回動するように第5ピン70で連結されている。中間リンク69は正面視で下向き開口コの字形になっており、その前端部に左右横長で中空の第6ピン71が挿通している。他方、ロアリンク59の前端部には左右一対のアーム72が上向きに突設されており、左右アーム72で第6ピン71を下方から支持している。
【0049】
他方、油圧シリンダ30は筒体30aとピストンロッド30bとを有しており、筒体30aの基端が下部連結体36に固定したブラケット73に第7ピン74で連結されている一方、ピストンロッド30bの先端には例えば図6に示すように板状の丸穴付きフック75が固着されており、フック75と中間リンク69とが既述の第6ピン71(頭13,14参照)で連結されている。
【0050】
従って、油圧シリンダ30が伸びるとリンク装置3は下向きに回動して苗植装置2は下降し、油圧シリンダ30が縮むとリンク装置3は上向きに回動して苗植装置2は上昇する。油圧シリンダ30における筒部の先端には、衝撃緩和のための緩衝用のアキュームレータ76を設けている。なお、中間リンク69を使用せずに油圧シリンダ30をアーム72に直接に連結してもよい。
【0051】
(4).まとめ
以上のとおり、本願発明ではミッションケース31とリアアクスルケース34とが走行機体1の構造材を兼用しているため、それだけ走行機体1の構造を簡素化してコスト圧縮や軽量化に貢献できる(ミッションケース31やリアアクスルケース34はその機能からして頑丈な構造であるため、強度メンバーとしての機能を十分に発揮する。)。そして、補強体37で下部連結体36とミッドフレーム11とが連結されているため、ミッションケース31等から成る下部構造体とサイドフレーム9,10等から成るシャーシとが互いに補強しあっており、その結果、全体として極めて頑丈な構造になっている。
【0052】
さて、油圧シリンダ30には苗植装置2の荷重が引っ張り力として作用しており、この引っ張り力によって下部連結体36には曲げ力が作用する。しかして、補強体37が上から下部連結体36に突っ張った状態になっているため、下部連結体36やミッションケース31等から成る下部構造体の撓み変形を著しく抑制でき、その結果、高い耐久性を確保することができる。
【0053】
燃料タンク38は補強体37で囲われた状態になっており、このため補強体37の存在に関係なく燃料タンク38の高さをできるだけ低くすることができる。また、本実施形態では、補強体37を連結するための上ブラケット46を燃料タンク38の支持部材に兼用しているため、それだけ構造を簡素化できる利点がある。また、例えば図12(A)に示すように、燃料タンク38の下面には油圧シリンダ30の動きを許容するための凹所77を形成しており、このため、油圧シリンダ30の機能を損なうことなく燃料タンク38をできるだけ低くすることができる。この点も本実施形態の利点の一つである。
【0054】
(5).変形例
圃場にしても路上にしても凹凸が存在しており、このため、例えば1つの車輪が浮いた状態で走行するというように4つの車輪4,5の支持状態(接地抵抗)がアンバランスになり、このため、走行車体1の自身の重量が走行車体1を前後長手の軸心回りにねじるような外力として作用することがある。この点、実施形態のように補強フレーム37を設けると、シャーシとミッションケース27とジョイント材36とリアアクスルケース34とリア支柱27との全体で構成される構造体の剛性が格段に高くなるため、ねじりに対する抵抗力も格段に向上できる。
【0055】
そして、図15に示す変形例では、ねじりに対する剛性を一層向上できるように補強機能を講じている。すなわちこの変形例では、補強フレーム37の左右両側部とを前後長手の補強ステー83で連結し、補強フレーム37と左右の補強ステー83とリアアクスルケース34とで平面視略四角形の枠組みを構成することにより、ねじりに対する抵抗アップを図っている(当然ながら曲げに対する強度もアップしている。)。
【0056】
補強ステー83は角形鋼管を使用しており、その前端部には外向き開口コの字形の前部補助ブラケット84を溶接している。一方、補強フレーム37の左右両側部には平面視略L形の支持ブラケット85を溶接しており、前部補助ブラケット84と支持ブラケット85とを複数本のボルト86及びナット87で締結している。
【0057】
また、補強ステー83の後端には側面視扇形の後部補助ブラケット88が溶接されており、後部補助ブラケット88をリアアクスルケース34の前部の側面にボルト89で固定している。リアアクスルケース34の前部側面にはボルト89がねじ込まれる受け座90を設けている。受け座90は前後に1対ずつ形成されており、より高い強度を要する場合は、補助ブラケット88を一点鎖線で示すように後ろに広げて4つの受け座90に締結したらよい。
【0058】
(6).その他
本実施形態は以上の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象は乗用型田植機に限るものではなく、他の作業機にも適用できる。実施形態の苗植装置を他の作業装置や運搬台車に付け替えることも可能である。走行機体は車輪による走行方式には限らず、クローラによる走行方式を採用することも可能である。
【0059】
サイドフレームは前後別部材に分かれている必要はないのであり、全体が一本に繋がっていてもよい。補強体の形態も限定はないのであり、様々な形態を採用できる。下部連結体も丸パイプ性としたり複数本方式にするなど、多くのバリエーションを採用できる。下部連結体に油圧シリンダを連結した場合、ミッョンケースとミッドフレーム又はサイドフレームとを補強体で連結することも可能であり、この場合も本願発明と同じ効果を発揮し得る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明は田植機等の乗用型農作業機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0061】
1 走行機体
2 作業装置の一例としての苗植装置
3 リンク装置
4 前輪
5 後輪
9,10 サイドフレーム
11 ミッドフレーム
12 フロントフレーム
13 リアフレーム
14 リア支柱
30 油圧シリンダ
31 ミッションケース
34 リアアクスルケース
36 下部連結体
37 補強体
38 燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシが下部構造体で支持された走行機体を有しており、
前記下部構造体は、走行変速機構が内蔵されたミッションケースとその後方に配置されたリアアクスルケースとを下部連結材で連結した構成であり、前記リアアクスルケースには後輪が取り付けられている一方、
前記シャーシは、前後方向に延びる左右のサイドフレームと、前記左右サイドフレームをその前後中途部において連結する左右横長のミドルフレームと、前記左右サイドフレームをその後端部において連結する左右横長のリアフレームとを有しており、前記リアフレームはリア支柱を介してリアアクスルケースで支持されており、
かつ、前記ミッドフレーム又は左右サイドフレームと下部連結体とを補強体で連結している、
乗用型農作業機。
【請求項2】
前記補強体は中空鋼管でフレーム構造になっており、この補強体を正面視で略U型又は略V型若しくは略コの字型の形態と成している、
請求項1に記載した乗用型農作業機。
【請求項3】
前記サイドフレームは、ミッドフレームの手前に位置した略水平姿勢の前側サイドフレームと、ミッドフレームの後ろに位置して後方に行くほど高くなるように傾斜した後ろ側サイドフレームとに分かれており、前記後ろ側サイドフレームは前側サイドフレームより左右内側においてミッドフレームに固定されている一方、前記補強体は、前記後ろ側サイドフレームの前端部の近傍部で前記ミッドフレームに固定されている、
請求項1又は2に記載した乗用型農作業機。
【請求項4】
前記リアフレームとリア支柱とのうちいずれか一方又は両方に、走行機体の後ろに配置された作業装置を昇降させるためのリンク機構が上下回動自在に連結されており、前記下部連結体のうち補強体よりも後ろの部位に、前記リンク機構を回動させるためのシリンダを連結している、
請求項2又は3に記載した乗用型農作業機。
【請求項5】
前記補強体は正面視で上向き開口U字状又はコの字状であって後ろに行くほど低くなるように側面視で前傾しており、前記補強体の底部で燃料タンクを支持している、
請求項2〜4のうちのいずれかに記載した乗用型農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−111100(P2011−111100A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271201(P2009−271201)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】