説明

乗用移植機

【課題】乗用型移植機の植付部の苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗箱、または苗スクレーパを移送する移送手段を設け、苗補給作業における作業性の向上と乗用型移植機のオペレータの作業負荷を軽減することを図る。
【解決手段】苗載せ台27に苗を補給した後に空になった苗箱35、または苗スクレーパを溜め置きする収納部37を設けると共に、該収納部37を側面視で走行機体14の後部から走行機体14の前方に亘って移送可能な移送手段38を設け、更に該移送手段38を、側面視で前輪12を操舵するステアリングホイール17の後端よりも前方に収納できるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付部の苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗箱、または苗スクレーパを移送する移送手段を備える乗用型田植機等の乗用移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用型移植機においては、走行機体の一側部または両側部に、苗箱に収容された予備苗を畔から機体後部に補給するための苗供給コンベアを機体前部から機体後部に亘って設けると共に、植付部の苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗箱を機体後部から機体前部に戻すために、ステアリングホイールの側方に前低後高状に配置した苗箱案内部と、この苗箱案内部により導かれる苗箱を一旦ストックする苗箱ストック部とからなる苗箱戻し装置を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−73515号公報(第3−5頁、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、苗箱ストック部に一旦ストックした苗箱を、圃場面からの段差が大きい畦際の道路や畦上の補助作業者が取り出す際は、植え付け作業を中断して走行機体の前部が畦際の道路や畦上に十分に接近するように機体を移動させなければならず、作業性が低下する欠点を有していた。
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、前輪と後輪を有する走行機体の後部に植付部を連結し、該植付部の苗載せ台から苗を掻き取って圃場に移植する移植装置を備えた乗用移植機において、前記苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗箱、または苗スクレーパを溜め置きする収納部を設けると共に、該収納部を、側面視で走行機体上から走行機体の前方に亘って移送可能な移送手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0005】
そして、前記収納部を、走行機体の後部から走行機体の前方に亘って移送できるように移送手段を構成したことを第2の特徴としている。
【0006】
更に、前記移送手段を、側面視で前輪を操舵するステアリングホイールの後端よりも前方に収納できるように構成したことを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、苗載せ台に苗を補給した後に空になった苗箱、または苗スクレーパを溜め置きする収納部を設けると共に、該収納部を、側面視で走行機体上から走行機体の前方に亘って移送可能な移送手段を設けたことによって、前記収納部に一旦ストックした苗箱、または苗スクレーパを、圃場からの段差が大きい畦際の道路や畦上の補助作業者が取り出す際は、走行機体の前部を畦際の道路や畦上に十分に接近させなくても、前記移送手段を介して補助作業者が苗箱または苗スクレーパを取り出すことができるので作業性が向上すると共に、オペレータの作業負荷も軽減させることができる。
【0008】
そして、請求項2の発明によれば、前記収納部を、走行機体の後部から走行機体の前方に亘って移送できるように移送手段を構成したことによって、前記収納部に一旦ストックした苗箱または苗スクレーパを、オペレータが手に持って機体上を歩いて移動することはもちろん、機体前方へ大きく手を伸ばすことなく走行機体の後部から走行機体の前方に亘って移送することができるので作業性に優れる。また、植え付け作業時に収納部がオペレータの運転視界を妨げることもない。
【0009】
更に、請求項3の発明によれば、前記移送手段を、側面視で前輪を操舵するステアリングホイールの後端よりも前方に収納できるように構成したことによって、当該移送手段をコンパクトに収納することができると共に、走行機体へのオペレータの乗降が支障なく行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、乗用移植機である乗用型田植機11の側面図及び平面図であって、この乗用型田植機11は、左右一対の前輪12及び後輪13に支持された走行機体14を有し、その左右両側部には、折畳み式の予備苗載せ台15(展開姿勢状態)を配設している。
【0011】
そして、走行機体14の前側には、ボンネット16で覆われた図示しないエンジンを搭載すると共に、ボンネット16の後方には、ステアリングホイール17や主変速レバー18、運転操作パネル19等を備えた操縦部21、該操縦部21の床面を形成するステップ22、及び運転席23を支持する機体カバー24等を設けている。尚、機体カバー24には、運転席23後方の左右両側にステップ22より一段高く形成した平坦な苗補給用ステップ24a,24aが設けてある。
【0012】
また、走行機体14の後方には、昇降リンク機構25を介して植付部26を昇降自在に連結している。植付部26は、前方に傾斜して設けられた苗載せ台27と、該苗載せ台27から苗を掻取って植え付ける複数の植付杆28を備えた移植装置29と、この移植装置29の下方には、植付け田面を整地するフロート31等を設けているが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0013】
また、ボンネット16の左右両側に形成されているフロントステップ32の下方には、
走行機体14から外側方に延出させて立ち上げた2本の支柱33f,33rを有するブラケット33を備え、このブラケット33に、圃場Gからの段差が大きい畦際の道路Rや畦から予備苗(マット苗)を補給する折畳み式の予備苗載せ台15を装着できるように構成している。
【0014】
そして、折畳み式の予備苗載せ台15は、ブラケット33に固設した固定苗台15mと、固定苗台15m前方の第一苗台15fと、固定苗台15m後方の第二苗台15rとからなり、当該予備苗載せ台15が展開姿勢状態にある時は、左右のフロントステップ32の両側で、且つボンネット16より高い位置に展開され、その全体は前高後低の傾斜姿勢となっている。この時、予備苗載せ台15を構成する第一苗台15fは走行機体14の前端から大きく突出すると共に、第二苗台15rは、苗載せ台27の近傍に位置する苗補給用ステップ24a,24aの上まで延出されるようになっている。
【0015】
更に詳しくは、上述した予備苗載せ台15(15f,15m,15r)は、軽量部材であるアルミ合金製の左右の外枠、またはポリアミド(ナイロン)等の熱可塑性樹脂を用いて射出成形した左右の外枠間に、所定の前後間隔で複数の転動ローラ34を取り付けたローラコンベアの形態を採用している。そして、圃場面Sからの段差が大きい畦際の道路Rや畦から予備苗載せ台15に予備苗を補給する際は、先ず走行機体14の前端から大きく突出する第一苗台12fを畦際に進入させ、しかる後に予備苗が育苗されている方形状の苗箱35、あるいは苗箱35に育苗されている予備苗を図示しない苗スクレーパで掬い取った状態で、予備苗載せ台15の複数の転動ローラ34上を機体後方に向けて滑らせることによって、当該予備苗を畦際から連続的に予備苗載せ台15上に補給することができるようになっている。
【0016】
尚、上述した第一苗台15fを、固定苗台15m前端部の支点P1に回動可能に支持すると共に、第二苗台15rも、固定苗台15m後端部の支点P2に回動可能に支持することによって、第一苗台15fと第二苗台15rとを固定苗台15mの上に折り畳んで格納姿勢状態とすることができる。即ち、上述の如く第一苗台15fと第二苗台15rとを固定苗台15m上に折り畳んだ予備苗載せ台15の格納姿勢状態では、オペレータがステップ22よりも一段低い位置で、且つ機体側方側に設けられた補助ステップ36を利用して当該ステップ22へ乗降しようとする際、支障となるものが存在しないのでスムーズな乗降が可能となる。
【0017】
また、左右の予備苗載せ台15の内側には、植付部26の苗載せ台27に予備苗を補給した後に空になった苗箱35、または苗スクレーパを一旦溜め置きすることができる籠状の収納部37を設けると共に、この収納部37を走行機体14上から走行機体14の前方に亘って移送可能な移送手段38を設けている。
【0018】
そして、移送手段38は、図3〜図5に示すように、折畳み式の予備苗載せ台15と略同じ高さに並設してあって、折畳み式の予備苗載せ台15の固定苗台15mを固設するブラケット33に略中間部を支承した中間レール38mと、この中間レール38m前端部の支点P3に回動可能に支持した前側レール38fと、中間レール38m後端部の支点P4に回動可能に支持した後側レール38rを備えている。
【0019】
更に詳しくは、中間レール38mは、その中間部に逆三角形の支持アーム39が固設してあり、この支持アーム39の下部にボス39aを固設すると共に、このボス39aを、ブラケット33を構成する前側の支柱33fの機体側に突設したピン41に嵌装することによって、当該中間レール38mがピン41を支点Pとして回動するように支承されている。
【0020】
また、ピン41の基端部側には、このピン41の補強プレート42と支持アーム39とに先端部が係止する捩りスプリング43が設けてあり、この捩りスプリング43を介して中間レール38mは、前高後低の傾斜姿勢に常時付勢されると共に、ブラケット33を構成する後側の支柱33rに固設した支持ステー44を介して、当該中間レール38mが固定苗台15mと略同傾斜の前高後低の傾斜姿勢に維持される。尚、支持ステー44の上部には、弾性ゴム等の緩衝材45を貼付してある。
【0021】
即ち、上述した構成により収納部37の移送手段38である中間レール38m、前側レール38f、及び後側レール38rを、図1及び図4に示すような前高後低の傾斜姿勢Aに常時維持することができるようになっている。
【0022】
そして、中間レール38m、前側レール38f、及び後側レール38rは、図3に示すように、開口部Sを一側(機体側)に有する略C型の断面に形成してあり、この開口部Sに嵌装可能な溝51aを中央に形成した前後一対の段付きローラ51を介して、上述した収納部37を側面視で走行機体14上から走行機体14の前方に亘って移送できるように構成している。
【0023】
即ち、段付きローラ51には、図示しないブッシュが内挿してあり、当該段付きローラ51は、籠状の収納部37の上部を構成するフラットなプレート37aにピン52を用いて螺設してある。したがって、籠状の収納部37を、移送手段38である中間レール38m、前側レール38f、及び後側レール38rの開口部Sに嵌装する前後一対の段付きローラ51を介して、これらのレール38m,38f,38rの傾斜方向にスムーズに移送することができる。
【0024】
以上説明したように、走行機体14の後部において予備苗載せ台15の後端部から苗を取り出して苗載せ台27に供給する際、移送手段38は前高後低の傾斜姿勢Aに維持されて収納部37も走行機体14の後部に位置するので、走行機体14の後部での苗供給時に発生する苗箱35や苗スクレーパをオペレータが手に持って機体前方へ移動、または手を伸ばすことなくその場で収納部37に溜め置きすることができるので作業性が向上する。
【0025】
そして、収納部37に一旦溜め置きした苗箱35、または苗スクレーパを圃場Gからの段差が大きい畦際の道路Rや畦上の補助作業者が取り出す際は、図1に示す如く走行機体14の前部を畦際の道路Rや畦上に十分に接近させなくても、移送手段38を介して補助作業者が苗箱35または苗スクレーパを取り出すことができるので作業性が向上すると共に、オペレータの作業負荷も軽減させることができる。
【0026】
更に詳しくは、図1、図2及び図3に示すように、圃場Gからの段差が大きい畦際の道路Rや畦上の補助作業者が、移送手段38を前側レール38fの前端に固設した把持具53を押し下げることにより、移送手段38(レール38m,38f,38r)を前高後低の傾斜姿勢Aから前低後高の傾斜姿勢Bに容易に変更することができ、それに伴って収納部37を前側レール38fの前端にスムーズに移送させることができる。
【0027】
つまり、収納部37に一旦溜め置きした苗箱35または苗スクレーパを、オペレータが手に持って機体上を歩いて移動することなく、収納部37を走行機体14の後部から走行機体14の前方に亘って移送することができるので作業性に優れる。また、植え付け作業時に収納部容器37がオペレータの運転視界を妨げることもない。尚、移送手段38の前低後高の傾斜姿勢(傾斜角度)Bは、中間レール38mに固設した逆三角形の支持アーム39の下部に設けた長穴39aと、この長穴39aに係止すべく固定苗台15m側に突設したピン54との接当によって規制される。(図3及び図5参照)
【0028】
そして、補助作業者が収納部37から苗箱35または苗スクレーパを取り出した後、前側レール38fの前端に固設した把持具53を持ち上げながら徐々に手放すと、移送手段38は、前低後高の傾斜姿勢Bから捩りスプリング43に付勢されて前高後低の傾斜姿勢Aに戻り、それに伴って収納部37は後側レール38rの後端にスムーズに移送(返送)されるようになっている。ところで、本実施例では、オペレータの作業負荷を軽減すべく、移送手段38の傾斜姿勢の変更は補助作業者側から行えるように構成したが、オペレータ側から移送手段38の傾斜姿勢の変更を行えるようにすることも可能であり、その場合は、当該移送手段38を構成する中間レール38mに対する後側レール38rのロック機構や、前低後高の傾斜姿勢Bにおける姿勢保持機構を設けることが好ましい。
【0029】
また、移送手段38を構成する前側レール38fと後側レール38rとは、前輪12を操舵するステアリングホイール17の後端よりも前方に折り畳んで収納できるようになっている。即ち、図5に示すように、先ず中間レール38mの後端部と後側レール38rの前端部とを連結するヒンジ55を支点P4として、後側レール38rを中間レール38mの上に傾倒させ、次いで中間レール38mの前端部において上方に向け突設したアーム56と、前側レール38fの後端部において上方に向け突設したアーム57との連結部を支点P3として、前側レール38fを後側レール38rの上に傾倒させればよく、更に傾倒させた前側レール38fの前端側から収納部37の前後一対の段付きローラ51を嵌装することによって、当該収納部37を移送手段38にコンパクト収納することができると共に、走行機体14へのオペレータの乗降が支障なく行なえるようになる。
【0030】
尚、後側レール38rの傾倒作業は、この後側レール38rの後端部において機体側に突設した把持具58(図2参照)を持って行なうことができる。また、図中符号61,62は、後側レール38rと前側レール38fとを折り畳んで収納状態とした時に作用する弾性ゴム等の緩衝材であって、両緩衝材61,62は、後側レール38rと前側レール38fに貼付してある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】乗用型田植機の平面図。
【図3】移送手段の構成を示す一部省略背面面。
【図4】移送手段の構成及び作用状態を示す一部省略側面面。
【図5】移送手段の収納状態を示す一部省略側面面。
【符号の説明】
【0032】
11 乗用移植機
12 前輪
13 後輪
17 ステアリングホイール
14 走行機体
26 植付部
27 苗載せ台
29 移植装置
35 苗箱
37 収納部
38 移送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(12)と後輪(13)を有する走行機体(14)の後部に植付部(26)を連結し、該植付部(26)の苗載せ台(27)から苗を掻き取って圃場に移植する移植装置(29)を備えた乗用移植機(11)において、前記苗載せ台(27)に苗を補給した後に空になった苗箱(35)、または苗スクレーパを溜め置きする収納部(37)を設けると共に、該収納部(37)を、側面視で走行機体(14)上から走行機体(14)の前方に亘って移送可能な移送手段(38)を設けたことを特徴とする乗用移植機。
【請求項2】
前記収納部(37)を、走行機体(14)の後部から走行機体(14)の前方に亘って移送できるように移送手段(38)を構成した請求項1に記載の乗用移植機。
【請求項3】
前記移送手段(38)を、側面視で前輪(12)を操舵するステアリングホイール(17)の後端よりも前方に収納できるように構成した請求項1または請求項2に記載の乗用移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−236256(P2007−236256A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61950(P2006−61950)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】