説明

乗算装置

【目的】 低電流測定時にも正確な電流と電圧の積を出力することができる乗算装置を提供する。
【構成】 電圧を電流に変換する電圧−電流変換手段5と、電流を流す第一の電流コイル3に加えて電圧−電流変換手段5から出力された電流を流す第二の電流コイル6とを有する磁性体コア4と、ホール素子8の出力電圧のサンプリング値を保持するサンプルホールド手段10と、ホール素子の出力電圧からサンプルホールド手段10が保持する電圧を減ずる減算手段とを備える。
【効果】 測定すべき電流の大きさに影響されずに正確な電流と電圧の積を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はホール素子を用いて電流と電圧の積を求める乗算装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、この種の乗算装置は構造が簡単で、小型化できることから広く電力計や電力量計の電力乗算回路として使用されている。以下、かかる乗算装置について図3を参照して説明する。入力端子P1 ,P2 に入力された測定すべき電源電圧VL は分圧抵抗器101,102によって分圧されて電圧−電流変換手段105に入力される。電圧−電流変換手段105は入力電圧VL に比例した電流をホール素子106の制御電流端子T1 に出力する。一方、測定すべき電流IL は磁性体コア104に巻かれた電流コイル103に入力されて、入力電流IL に比例する磁界が磁性体コア104のギャップに生じるので、ギャップ中の磁界とホール素子106の制御電流の流れ方向とに直交するように置かれているホール素子106の電圧出力端子T3 ,T4 間に(1)式で与えられるホール起電力Ey が生じる。
y =Rh z x (1)
【0003】ただし、Rh はホール係数、Bz 磁界強度、Jx は電流密度である。差動増幅部107は電圧出力端子T3 ,T4 間のホール起電力の同相成分を除去して測定すべき電流と電圧の積である電力に比例した電圧を出力する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の乗算装置では、ホール素子の出力電圧特性の線形性に関して次のような問題がある。
【0005】一般に、従来の乗算装置では、(1)式のホール係数Rh が一定であることを前提にしているが、図2に示すようにホール素子の出力電圧と磁束密度(またはギャップの磁界強度)との関係は、磁束密度が小さい図示のIの領域では非線形であるからホール係数Rh は一定でない。したがって、測定すべき電流値が小さい場合は磁性体コア104のギャップの磁界が小さくなるので、従来の乗算装置では低電流時の乗算出力の精度には限界があった。
【0006】本発明はこのような従来の問題を解決するためになされたものであり、低電流測定時にも正確な電流と電圧の積を出力することができる乗算装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】ホール素子を用いて電流と電圧の積を演算する乗算装置において、測定すべき電圧を電流に変換する電圧−電流変換手段と、測定すべき電流を流す第一の電流コイルに加えて前記電圧−電流変換手段から出力された電流を流す第二の電流コイルとを有する磁性体コアと、ホール素子の出力電圧のサンプリング値を保持するサンプルホールド手段と、ホール素子の出力電圧から前記サンプルホールド手段が保持する電圧を減ずる減算手段とを備えたことを要旨とする。
【0008】
【作用】本発明はこのような手段を講じたことにより、磁性体コアは第一の電流コイルを流れる測定すべき電流に比例する磁界強度と、第二の電流コイルを流れる測定すべき電圧に比例する磁界強度との和の磁界強度を発生するので、ホール素子中の磁束密度が高められて線形領域で乗算した正確な乗算出力が得られる。そして、サンプルホールド手段において保持している第一の電流コイルへの電流入力を零にしたときの乗算出力を、先の乗算出力から減算手段によって減じることにより、測定すべき電流と測定すべき電圧の積である乗算結果を出力することができる。
【0009】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の乗算装置の一実施例におけるブロック図である。同図において、P1 ,P2 は測定すべき電源電圧VL を入力する電源電圧入力端子、1および2はP1 ,P2 へ入力された電源電圧VL を分圧するための抵抗器であって、分圧抵抗器による他、変圧器などを用いて構成することができる。3はホール素子8に磁界を与えるための磁性体コア、4は測定すべき電流IL に比例した磁界を磁性体コア3のギャップに生じさせるための第一の電流コイル、5は抵抗器1,2によって分圧された電源電圧に比例する電流を出力する第一の電圧−電流変換手段、6は第一の電圧−電流変換手段5から出力される電流を流し、測定すべき電圧に比例した磁界を磁性体コア3のギャップに生じさせるための第二の電流コイルである。7は測定すべき電圧に比例した制御電流をホール素子8の制御電流入力端子T1 へ供給するための第二の電圧−電流変換手段、8は電流入力端子T1 ,T2 とホール効果によって得られる電圧を出力する電圧出力端子T3 ,T4 を有するホール素子であって、制御電流入力端子T1 ,T2 と電圧出力端子T3 ,T4 とが作る平面がギャップに生じる磁界と直交するように磁性体コア3のギャップ間に保持される構造となっている。9はホール素子8の電圧出力端子T3 ,T4 間に出力される電圧の差分を出力する差動増幅部である。10はサンプルホールド手段であって、サンプリングスイッチ12が閉じている間に差動増幅部9の出力を入力して保持する。11は減算手段であって、差動増幅部9の出力からサンプルホールド手段10の出力を減算して出力する。
【0010】次に、以上のように構成された装置の動作について説明する。電源電圧入力端子P1 ,P2 に入力された測定すべき電源電圧VL は抵抗器1,2によって適正な電圧に変換されて第一の電圧−電流変換手段5および第二の電圧−電流変換手段7へ入力される。第二の電圧−電流変換手段7において入力電圧に比例する電流に変換された電流はホール素子8の制御電流入力端子T1 からホール素子8の内部へ流れる。磁性体コア3の第一の電流コイル4には測定すべき電流IL が流れ、一方、第二の電流コイル6には第一の電圧−電流変換手段5から出力された測定すべき電圧VL に比例した電流が流れるので、磁性体コア3のギャップ間には測定すべき電流IL に比例した磁界強度Bz (IL )と、測定すべき電圧VLに比例した磁界強度Bz (VL )との和の磁界強度Bz (IL )+Bz (VL )が発生する。したがって、ホール素子8の電圧出力端子T3 ,T4 には(2)式で与えられるホール起電力Ey1が発生する。
【0011】
【数1】
y1=Rh (Bz (IL )+Bz (VL ))Jx (VL ) (2)
【0012】ただし、Jx (VL )は第二の電圧−電流変換手段7の出力電流密度である。磁界強度Bz (VL )が加算されることにより、このように磁界強度が大きくなるので、ホール係数Rh を一定値とみなすことができる。また、第一の電流コイル4に測定すべき電流IL を流さずに、第二の電流コイル6にのみ測定すべき電圧に比例した電流を流すと、(3)式で与えられるホール起電力Ey2が発生する。
【0013】
【数2】
y2=Rh z (VL )Jx (VL ) (3)
【0014】そこで、サンプリングスイッチ12を閉じて(3)式のホール起電力Ey2をサンプルホールド手段10に保持し、減算手段11によってホール起電力Ey1からホール起電力Ey2を減ずると、減算手段11の出力は
【0015】
【数3】
y1−Ey2=Rh z (IL )Jx (VL ) (4)
で与えられるように、測定すべき電流と測定すべき電圧の積になる。
【0016】したがって、以上のような実施例の構成によれば、図2に示したIの領域を避けてIIの領域を使用することができるので、低磁界強度でのホール素子8の非線形特性によって生じる誤差を排除した正確な乗算結果を得ることができる。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、磁界強度が小さいときのホール起電力特性が非線形な箇所を避けて使用するので、測定すべき電流の大きさに影響されずに正確な電流と電圧の積を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例におけるブロック図である。
【図2】ホール素子の出力電圧特性図である。
【図3】従来の乗算装置のブロック図である。
【符号の説明】
1,2 抵抗器
3 磁性体コア
4 第一の電流コイル
5 第一の電圧−電流変換手段
6 第二の電流コイル
7 第二の電圧−電流変換手段
8 ホール素子
9 差動増幅部
10 サンプルホールド手段
11 減算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホール素子を用いて電流と電圧の積を演算する乗算装置において、測定すべき電圧を電流に変換する電圧−電流変換手段と、測定すべき電流を流す第一の電流コイルに加えて前記電圧−電流変換手段から出力された電流を流す第二の電流コイルとを有する磁性体コアと、ホール素子の出力電圧のサンプリング値を保持するサンプルホールド手段と、ホール素子の出力電圧から前記サンプルホールド手段が保持する電圧を減ずる減算手段とを備えたことを特徴とする乗算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−194394
【公開日】平成6年(1994)7月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−343001
【出願日】平成4年(1992)12月24日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)