説明

乳がんの診断方法

【課題】トリプルネガティブ乳がん検出用マーカー、および該マーカーを用いたトリプルネガティブ乳がんの検出または診断方法、さらには、トリプルネガティブ乳がん検出用または診断用のキットを提供すること。
【解決手段】乳がんのサブタイプの中で、Luminal A、Luminal B、およびHER2 diseaseでは発現レベルが低く、他方トリプルネガティブ乳がんにおいては発現レベルが上昇するmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子および該遺伝子がコードするポリペプチドをトリプルネガティブ乳がん検出用マーカーとして用いる。本発明は、このトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子に対する検出用プローブおよび該遺伝子がコードするポリペプチドに対する抗体を用いることにより、トリプルネガティブ乳がん検出用マーカーを検出し、トリプルネガティブ乳がんの検出または診断を迅速かつ確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプルネガティブ乳がん検出用マーカー、特にトリプルネガティブ乳がんにおいて特異的に発現する遺伝子およびポリペプチドからなるトリプルネガティブ乳がん検出用マーカー、及び該マーカーを用いたトリプルネガティブ乳がんの検出又は診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんは日本人女性において罹患率の高いがんの一つであり、多くの遺伝子において変異や発現レベルの変化を特徴とする複合的な疾患である(非特許文献1)。
【0003】
乳がんの治療は、乳がんの生物学的特徴の解明に伴って、従来の外科手術に加えて放射線照射の局所療法、細胞毒性抗がん剤、ホルモン療法剤などによる治療法の中から選択する方法に変わってきた。その中でも、ホルモン療法は分子標的治療として乳がん治療の中心的役割を担っている。特に、抗エストロゲン剤であるタモキシフェンは、増殖因子であるエストロゲンとエストロゲン受容体(ER)との結合を拮抗的に阻害し、再発後治療、術後治療、術前治療に広く用いられている。このような観点から、乳がんはエストロゲン受容体(ER)の発現の有無により分類されてきた(非特許文献2)。
【0004】
一方、1980年代後半、一部の乳がんにHER2(human epidermal growth factor receptor 2)タンパク質の過剰発現が発見された。この発見がきっかけとなり、いわゆる抗体医薬であるHER2タンパク質に対するモノクローナル抗体(トラスツズマブ)が開発され、治療に用いられるようになった(非特許文献3)。
【0005】
今日、臨床現場ではホルモン療法剤感受性の指標としてエストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)を用い、また、トラスツズマブ感受性の指標としてHER2タンパク質に着目することにより、乳がんを4つのサブタイプに分類するのが一般的である。すなわち、(1)ERおよび/またはPgR陽性、かつ、HER2陰性、(2)ERおよび/またはPgR陽性、かつ、HER2陽性、(3)ERおよびPgR陰性、かつ、HER2陽性、(4)ERおよびPgR陰性、かつ、HER2陰性、の4つのサブタイプである。
【0006】
一方、近年の技術革新により網羅的遺伝子発現解析が可能となってきたことから、遺伝子発現解析による乳がんのサブタイプを分類する試みも主流になりつつある。遺伝子発現解析に基づく分類は大きく4つのサブタイプ、すなわち、それぞれ、Luminal A(乳管上皮細胞に類似した遺伝子発現パターンを有するもの)、Luminal B(Luminal AのうちKi67などで評価される増殖指標が高値のもの)、HER2 disease(ホルモン受容体の発現レベルが低くHER2が過剰発現しているもの)、Basal-like(乳管−小葉構造の基底細胞に類似した遺伝子発現パターンを有するもの)、に分類することができる(非特許文献4)。さらに、Luminal Aは前記(1)に、Luminal Bは前記(2)に、HER2 diseaseは前記(1)に、Basal-likeは前記(4)にそれぞれ対応すると言われている(非特許文献4)。
【0007】
前記(1)またはLuminal Aに該当するサブタイプはホルモン受容体陽性、かつ、HER2タンパク質陰性の乳がんであり、乳がん症例の約70%程度を占める。このサブタイプにはホルモン療法が期待できる。前記(2)またはLuminal Bに該当するサブタイプはホルモン受容体陽性、かつ、HER2タンパク質陽性の乳がんであり、乳がん症例の約10%程度を占める。このサブタイプにはホルモン療法やトラスツズマブの効果が期待できる。また、前記(3)またはHER2 diseaseに該当するサブタイプはホルモン受容体陰性、かつ、HER2タンパク質陽性の乳がんであり、乳がん症例の約10%程度を占める。このサブタイプにはトラスツズマブの効果が期待できる。前記(4)に該当するサブタイプはER、PgRおよびHER2のすべてが陰性であることから、いわゆる「トリプルネガティブ乳がん」と呼ばれており、乳がん症例の約10%程度を占める。このサブタイプは他の乳がんサブタイプに比べて転帰が不良であると言われており(非特許文献5)、ホルモン療法もトラスツズマブの効果も期待できず、化学療法に頼らざるを得ないのが現状である(非特許文献5、6)。
【0008】
乳がん全体で見ると、ER、PgR、HER2遺伝子またはタンパク質の発現レベルの状況によって、治療効果予測や予後予測がある程度可能である。しかしながら、それらの遺伝子またはタンパク質の発現が陰性であるトリプルネガティブ乳がんに関しては、治療の際の明らかな標的は未だ見つかっていないため殺細胞的な化学療法しか適応されず、さらに、化学療法の治療効果予測や予後予測が難しいのが現状である。したがって、乳がんをトリプルネガティブ乳がんであるか否かを判定することは、乳がんの治療方針を決定し、適切な治療薬を選択するためには非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−233105
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nathanson K. L., Wooster R., and Weber B. L. Breast cancer genetics: what we know and what we need. Nat. Med. 7, 552-556(2001)
【非特許文献2】Jordan V. C. Tamoxifen: a personal retrospective. Lancet Oncol. 1, 43-49(2000)
【非特許文献3】Hicks D. G. and Kulkarni S. HER2+ breast cancer: review of biologic relevance and optimal use of diagnostic tools. Am. J. Clin. Pathol. 129, 263-273(2008)
【非特許文献4】Carey L. A., Perou C. M., Livasy C. A., Dressler L. G., Cowan D., Conway K., Karaca G., Troester M. A., Tse C. K., Edmiston S., Deming S. L., Geradts J., Cheang M. C., Nielsen T. O., Moorman P. G., Earp H. S. and Millikan R. C. Race, Breast Cancer Subtypes, and Survival in the Carolina Breast Cancer Study. JAMA. 295, 2492-2502(2006)
【非特許文献5】van de Rijn M., Perou C. M., Tibshirani R., Haas P., Kallioniemi O., Kononen J., Torhorst J., Sauter G., Zuber M., Kochli O. R., Mross F., Dieterich H., Seitz R., Ross D., Botstein, D. and Brown P. Expression of cytokeratins 17 and 5 identifies a group of breast carcinomas with poor clinical outcome. Am. J. Pathol. 161, 1991-1996(2002)
【非特許文献6】Perou C. M., Sorlie T., Eisen M. B., van de Rijn M., Jeffrey S. S., Rees C. A., Pollack J. R., Ross D. T., Johnsen H., Akslen L. A., Fluge O., Pergamenschikov A., Williams C., Zhu S. X., Lonning P. E., Borresen-Dale A. L., Brown P. O. and Botstein D. Molecular portraits of human breast tumours. Nature 406, 747-752(2000)
【非特許文献7】Sorlie T., Tibshirani R., Parker J., Hastie T., Marron J. S., Nobel A., Deng S., Johnsen H., Pesich R., Geisler S., Demeter J., Perou C. M., Lonning P. E., Brown P. O., Borresen-Dale A. L. and Botstein D. Repeated observation of breast tumor subtypes in independent gene expression data sets. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 8418-8423(2003)
【非特許文献8】Cleator S., Heller W., and Coombes, R. C. Triple-negative breast cancer: therapeutic options. Lancet Oncol. 8, 235-244(2007)
【非特許文献9】Kennedy R. D., Quinn, J. E., Mullan P. B., Johnston P. G. and Harkin D. P. The role of BRCA1 in the cellular response to chemotherapy. J. Natl. Cancer Inst. 96, 1659-1668(2004)
【非特許文献10】Rodriguez-Pinilla S. M., Sarrio D., Moreno-Bueno G., Rodriguez-Gil Y., Martinez M. A., Hernandez L., Hardisson D., Reis-Filho J. S. and Palacios J. Sox2: a possible driver of the basal-like phenotype in sporadic breast cancer. Mod. Pathol. 20, 474-481(2007)
【非特許文献11】Sitterding S. M., Wiseman W. R., Schiller C. L., Luan C., Chen F., Moyano J. V., Watkin W. G., Wiley E. L., Cryns V. L. and Diaz L. K. AlphaB-crystallin: a novel marker of invasive basal-like and metaplastic breast carcinomas. Ann. Diagn. Pathol. 12, 33-40(2008)
【非特許文献12】Schena, M., Shalon, D., Davis, R. W. and Brown, P. O. Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray. Science, 270, 467-470(1995)
【非特許文献13】病理・臨床 乳癌取扱い規約(第15版) 日本乳癌学会編、金原出版株式会社 pp14-15(2004)
【非特許文献14】Elston C. W. and Ellis I. O. Pathological prognostic factors in breast cancer. Histopathology, 19, 403-410(1991)
【非特許文献15】HER2検査ガイド 第三版、トラスツズマブ病理部会作成 (2009)
【非特許文献16】Sauter G., Lee J., Bartlett J. M., Slamon D. J., Press M. F. Guidelines for human epidermal growth factor receptor 2 testing: biologic and methodologic considerations. J. Clin. Oncol. 27, 1323-1333(2009)
【非特許文献17】Wolff A. C., Hammond M. E., Schwartz J. N., Hagerty K. L., Allred D. C., Cote R. J., Dowsett M., Fitzgibbons P. L., Hanna W. M., Langer A., McShane L. M., Paik S., Pegram M. D., Perez E. A., Press M. F., Rhodes A., Sturgeon C., Taube S. E, Tubbs R., Vance G. H., van de Vijver M., Wheeler T. M., Hayes D. F; American Society of Clinical Oncology; College of American Pathologists. American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists guideline recommendations for human epidermal growth factor receptor 2 testing in breast cancer. J. Clin. Oncol. 25, 118-145(2007)
【非特許文献18】Hammond M. E., Hayes D. F., Dowsett M., Allred D. C., Hagerty K. L., Badve S., Fitzgibbons P. L., Francis G., Goldstein N. S., Hayes M., Hicks D. G., Lester S., Love R., Mangu P. B., McShane L., Miller K., Osborne C. K., Paik S., Perlmutter J., Rhodes A., Sasano H., Schwartz J. N., Sweep F. C., Taube S., Torlakovic E. E., Valenstein P., Viale G., Visscher D., Wheeler T., Williams R. B., Wittliff J. L. and Wolff A. C. American Society of Clinical Oncology/College Of American Pathologists guideline recommendations for immunohistochemical testing of estrogen and progesterone receptors in breast cancer. J. Clin. Oncol. 28, 2784-2795(2010)
【非特許文献19】Umemura S., Kurosumi M., Moriya T., Oyama T., Arihiro K., Yamashita H., Umekita Y., Komoike Y., Shimizu C., Fukushima H., Kajiwara H. and Akiyama F. Recommendations for 'adequate evaluation of hormone receptors' a report of the task force of the Japanese Breast Cancer Society. Oncol. Rep. 24, 299-304(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
乳がんのサブタイプの診断は、主に、免疫組織化学的に病理組織においてER、PgR、およびHER2タンパク質を染色する方法などで行われている。しかし、免疫組織化学的に病理組織を染色する場合、染色強度の判定基準、染色陽性細胞の占める割合の判定基準などで検境者の主観が入るため客観性に欠けてしまい、正確にトリプルネガティブ乳がんであると判断することが困難な場合が多かった。したがって、トリプルネガティブ乳がんを判別するためには、従来の指標に加えて、より多くの新たな分子生物学的な指標(マーカー)が必要である。
【0012】
最近の報告では、Sox2や熱ショックタンパク質αβクリスタリンがトリプルネガティブ(またはBasal-like)乳がんで、選択的に発現していることが明らかとなった(非特許文献10、11)ものの、まだ十分であるとは言えない。したがって、トリプルネガティブ乳がんに対して、さらなる分子生物学的指標の探索が望まれていた。
【0013】
さらに、トリプルネガティブ乳がんと診断された患者に対しては化学療法を標準療法としているが、治療手順は未だ確立していない。DNA障害性の白金製剤(シスプラチン、カルボプラチンなど)やアルキル化剤(マイトマイシンなど)に対する反応性が期待されている(非特許文献7、8)。また、術前化学療法においてBRCA1変異または発現低下乳がんにおいてはアントラサイクリン系薬剤への感受性も期待されている(非特許文献9)。さらに、EGFR、c-kit、srcを標的とした分子標的薬や、血管新生阻害剤、細胞内シグナル伝達経路を阻害する標的薬、あるいは、DNA修復に係わるPoly(ADP-Ribose)Polymerase(PRAP)に対する阻害剤などの開発が行われている。しかしながら、それらの標的薬もそれほど大きな効果が得られているわけではないのが現状である。そこで、トリプルネガティブ乳がんに対する分子生物学的マーカーの探索が望まれていた。
【0014】
本発明は、トリプルネガティブ乳がんマーカーを客観的に判定できるトリプルネガティブ乳がんマーカーの提供、特に、トリプルネガティブ乳がんに特異的に発現する遺伝子およびポリペプチドからなるトリプルネガティブ乳がん検出用マーカー、および該マーカーを用いたトリプルネガティブ乳がんの検出又は診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明のトリプルネガティブ乳がんマーカーは、乳がんのサブタイプの中でトリプルネガティブ乳がんを客観的に判定するために使用する遺伝子マーカーであって、melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子を含み、前記遺伝子の発現レベルが高い症例がトリプルネガティブ乳がんであると判定する遺伝子マーカーである。
【0016】
本発明者は、乳がん患者の手術材料からmRNAを単離し、DNAマイクロアレイ法によって網羅的に遺伝子発現プロファイルを取得・解析した結果、melanoma inhibitory activity(MIA、GenBankアクセッション番号NM_006533)遺伝子がトリプルネガティブ乳がんにおいて、他のサブタイプ(Luminal A、Luminal B、またはHER2 disease)と比較して高発現していることをつきとめ、該遺伝子がトリプルネガティブ乳がんのマーカーとして用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は以下を提供する。
1.配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカー。
2.前記1記載のトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーの全部または一部の塩基配列を有するDNAまたはcDNAを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
3.配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有するトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーのmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、
前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
4.前記3記載のオリゴヌクレオチドを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
5.配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有するトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーを検出するために使用されるプライマーであって、
前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成し、配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部を含むDNAをPCR法により増幅するための少なくとも2種類のプライマーからなることを特徴とするトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子検出用プライマーセット。
6.配列表の配列番号2により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質のアミノ酸配列の全部またはその一部を有することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん検出用ポリペプチドマーカー。
7.前記6記載のトリプルネガティブ乳がん検出用ポリペプチドマーカーのアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質を検出することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
8.前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする前記7記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
9.melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子を組み込んだ哺乳動物細胞用発現ベクターを哺乳動物に投与することにより誘導し、配列表の配列番号2に示されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質のアミノ酸配列の全部又は一部からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質を検出することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
10.前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする前記9記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
11.配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルを指標とすることを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
12.配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有するトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーのmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記melanoma inhibitory activity(MIA)のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成するオリゴヌクレオチドを用いて前記発現レベルの指標を得ることを特徴とする前記11記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
13.乳がんのサブタイプにおいて非トリプルネガティブ乳がんとトリプルネガティブ乳がんとを判別するためのトリプルネガティブ乳がん診断方法であって、
乳がん患者由来の組織からなる検体試料を採取する工程と、
前記検体試料における配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子または配列表の配列番号2により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルまたは発現量を測定する工程と、
あらかじめ把握されている非トリプルネガティブ乳がん組織における前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子または前記melanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルまたは発現量を基準とし、前記基準よりも高い場合にトリプルネガティブ乳がんであると判定する工程と、
を含むことを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
14.前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルまたは発現量は、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、ハイブリダイゼーション法のうちの一つにより得ることを特徴とする前記11乃至13のうちの1つに記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
15.前記ハイブリダイゼーション法がマイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする前記14記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
16.前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブがヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする前記14記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
17.前記ヌクレオチドがmRNA、cDNA、または合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする前記16記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
18.配列表の配列番号2に示されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルを指標とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
19.蛍光抗体法により前記検体試料におけるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質を標識化し、これを検出することを特徴とする前記18記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
20.配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を含むことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんを治療するための医薬組成物。
21.配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんを治療するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、トリプルネガティブ乳がん検出用マーカー遺伝子であるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子を検出するためのプローブ、あるいは、melanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質のアミノ酸配列の全部または一部を有するポリペプチドに対する抗体を作製することにより、melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子またはmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルを他の指標(ER、PgR、およびHER2)と組み合わせることで、トリプルネガティブ乳がんの検出または診断を広範囲にかつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(マイクロアレイ法による乳がんサンプルにおけるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベル) Luminal AまたはLuminal Bの症例74例、HER2 diseaseの症例8例、トリプルネガティブの症例11例においてDNAマイクロアレイにより網羅的遺伝子発現解析を行い、ヒト共通レファレンスに対するmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベル比をlog2比にしてプロットした。縦軸はmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベル比(log2比)を、横軸は乳がんのサブタイプの別を表している。図中、「Luminal A or B」は乳がんのサブタイプの中でLuminal AまたはLuminal Bと判定された症例を、「HER2 disease」は乳がんのサブタイプの中でHER2 diseaseと判定された症例を、「TNBC」は乳がんのサブタイプの中でトリプルネガティブと判定された症例を表している。黒の菱形は個々の症例におけるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベル比を表している。また、アスタリスク(*)は、t検定により統計的に両群における差のP値が0.00005未満であることを示している。さらに、アスタリスク(**)は、t検定により統計的に両群における差のP値が0.0001未満であることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
他に特に規定されない限り、本明細書中に使用される用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者(当業者)によって、一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0021】
当業者は、本明細書中に記載されるものと同等または類似の多くの方法および物質を認識する。ただし、本発明は本明細書に記載される方法および物質に限定されない。
【0022】
「遺伝子の発現レベルを測定する」または「遺伝子の発現を検出する」とは、該遺伝子の発現レベルを検出、測定又は定量する限り特に制限されず、例えば、該遺伝子のmRNAやcDNA量を検出、測定又は定量してもよい。これらの検出、測定又は定量には、該遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子を用いることが望ましい。遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子とは、特に制限されないが、該遺伝子に特異的に結合するヌクレオチド、DNA、cDNA、RNA、ペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する抗体等を例示することができる。また、該遺伝子の発現レベルの検出、測定又は定量には、該遺伝子のmRNAもしくはタンパク質の断片またはホモログを用いてもよい。
【0023】
「DNAマイクロアレイ」とは、オリゴヌクレオチドや一本鎖または二本鎖のDNAをガラス基板上などに高密度に配置したものをいい、「DNAマイクロアレイ法」とは、そのDNAマイクロアレイ上で蛍光標識したRNA分子やcDNA分子などとハイブリッド形成を行わせて定性的・定量的にDNAと結合した核酸の種類や量を測定する手法をいう。
【0024】
「オリゴヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが数個重合した分子の総称のことをいう。
【0025】
「ポリヌクレオチド」とは、単数または複数で使用された場合、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシヌクレオチドのことをいい、DNAまたはRNAであってもよく、修飾されたDNAまたはRNAでもよい。DNAまたはRNAは一本鎖でも二本鎖でもよく、DNAとRNAを含むハイブリッド分子でもよい。
【0026】
「遺伝子マーカー」または「マーカー遺伝子」とは、発現レベルがある種の状態間で変化する遺伝子全体またはその遺伝子由来のESTを意味する。遺伝子発現がある種の状態と相関している場合、その遺伝子はその状態のマーカーである。
【0027】
「トリプルネガティブ乳がん」とは、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、およびHER2(human epidermal growth factor receptor 2)のいずれもが陰性とされる乳癌のサブタイプである。
【0028】
「Luminal A」とは、遺伝子発現解析に基づいた分類法による乳がんのサブタイプの一つであり、乳管上皮細胞に類似した遺伝子発現パターンを有することを特徴とする(非特許文献6)。
【0029】
「Luminal B」とは、遺伝子発現解析に基づいた分類法による乳がんのサブタイプの一つであり、Luminal Aの中でKi67で評価される増殖指標が高値であることを特徴とする(非特許文献6)。
【0030】
「HER2 disease」とは、遺伝子発現解析に基づいた分類法による乳がんのサブタイプの一つであり、ERおよびPgRの発現レベルが低く、かつ、HER2の発現レベルが高いことを特徴とする(非特許文献6)。
【0031】
「Basal-like」とは、遺伝子発現解析に基づいた分類法による乳がんのサブタイプの一つであり、乳管−小葉構造の基底細胞に類似した遺伝子発現パターンを有することを特徴とする(非特許文献6)。
【0032】
遺伝子の発現レベルを検出、測定又は定量する具体的な方法としては、該遺伝子に特異的に結合するプローブ用の標識化ヌクレオチド、標識化cDNAまたは標識化RNAを用いたノーザンブロット法、ドットブロット法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、PCR法、またはmRNA分子を直接測定する方法等を用いることができる。PCR法としては、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、競合PCR法を挙げることができる。
【0033】
前記リアルタイムPCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAを鋳型にして目的領域をPCR法により増幅し、該増幅産物の生産過程をリアルタイムにモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムにモニタリングする試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Moleclar Probes社)Green Iや、TaqMan(登録商標:アプライドバイオシステムズ社)プローブ等が挙げられる。
【0034】
前記競合PCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAと内部標準DNAを同一の反応チューブ内で反応させる方法や、さらに前記逆転写反応時にmRNAとともにRNA内部標準を加えて反応させる方法等が挙げられる。また、内部標準遺伝子の配列は、例えば、増幅目的遺伝子の配列と相同配列でもよく、非相同な配列でもよい。
【0035】
前記mRNAを直接測定する方法としては、nCounter Analysis system(ナノストリング社)などが挙げられる。
【0036】
さらに、遺伝子の発現レベルを検出、測定又は定量する具体的な方法としては、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、または抗体アレイ等が挙げられる。DNAマイクロアレイ又はDNAチップには該遺伝子のヌクレオチド又はcDNAが少なくとも1つ以上固定化されているものを用いる。
【0037】
なお、ヌクレオチド又はcDNAは、該遺伝子の一部に相当する部分でもよいが、望ましくは50mer(base)以上、より望ましくは80mer(base)以上のヌクレオチド又はcDNAがよい。
【0038】
通常、DNAマイクロアレイやDNAチップは、プローブが支持体の上に固定されているアレイ又はチップであり、DNAマイクロアレイ又はDNAチップの支持体としては、ハイブリダイゼーションに使用可能なものであればよく、例えばガラス、シリコン、プラスチックなどの基板や、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等を用いることができる。
【0039】
DNAマイクロアレイやDNAチップに用いるプローブはcDNAでも合成オリゴDNAでも構わない。
【0040】
DNAマイクロアレイやDNAチップの使用方法については特に制限されない。例えば、被検試料の組織からmRNAを精製し、該mRNAを鋳型とした逆転写反応を行う際に、適切な標識を付したプライマーや標識ヌクレオチドを使用することにより、標識されたcDNAを得ることができる。この標識化cDNAとDNAマイクロアレイやDNAチップ表面上に固定された本発明におけるプローブとの間でハイブリダイズさせ、被検試料とのハイブリダイゼーション及び対照試料とのハイブリダイゼーションのそれぞれの結果を比較し、melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の有無を検出したり、発現レベルを測定することにより、トリプルネガティブ乳がんの検出または診断をすることができる。
【0041】
前記標識化cDNAの作製に用いられる標識物質としては、放射性同位元素、蛍光物質、酵素等を用いることができる。例えば、蛍光物質としては、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cyanine3、Cyanaine5、FITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)、テキサスレッド、ローダミン等が挙げられる。また、例えば、放射性同位元素としては、[125I]、[131I]、[H]、[14C]、[32P]、[35S]等が挙げられる。さらに、例えば、酵素としては、βーガラクトシダーゼ、βーグルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ等が挙げられる。
【0042】
melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子のDNA配列情報は配列表の配列番号1に示した他、NCBI(National Center for Biotechnology Information)の遺伝子データベースにおいてアクセッション番号NM_006533によりアプローチすることができる。また、melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子によりコードされるポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の配列情報は配列表の配列番号2に示した他、NCBIの遺伝子データベースにおいて、アクセッション番号NP_006524によりアプローチすることもできる。
【0043】
前記ポリペプチド又はタンパク質を検出、測定又は定量する方法としては、所定のポリペプチド又はタンパク質を検出、測定又は定量する方法であれば特に制限されない。例えば、該ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体やアプタマー等を用いることができ、抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示できる。これらの抗体は、慣用のプロトコルを用いて該ポリペプチド又はタンパク質又はそれらの断片を抗原として用いて作製することができる。また、アプタマーとは、タンパク質、アミノ酸等の分子に特異的に結合する核酸分子である。
【0044】
前記ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、被検試料中に存在する該ポリペプチド又はタンパク質を検出、測定又は定量する場合、免疫沈降法、電気化学発光法、RIA(Radioimmunoassay)法、ELISA(Enzyme-liked immunosorbent assay)法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的方法を用いることができる。
【0045】
トリプルネガティブ乳がんであるとの診断の判定基準は、例えば、予め把握している対照試料(Luminal A、Luminal B、またはHER2 diseaseのサブタイプに分類される乳がん組織)のmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子またはタンパク質の発現レベルから基準の値を設定し、被検試料である乳がん組織のmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子またはタンパク質の発現レベルが前記基準より高い場合にはトリプルネガティブ乳がんと判定するものである。
【0046】
また、前記基準は、予め把握している複数の対照試料(Luminal A、Luminal B、またはHER2 diseaseのサブタイプに分類される乳がん組織)の平均値でもよく、中央値でも構わないが、それらに限定されない。
【0047】
さらに、本発明のトリプルネガティブ乳がんの遺伝子マーカーを用いたトリプルネガティブ乳がんの診断を行う場合、melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子またはタンパク質の発現レベルを指標とするが、該発現レベルに加えて、被検試料の組織学的診断や他の遺伝子の発現レベル、または、その他の臨床情報などから総合的に判定できる。他の遺伝子としては、例えば、ER、PgR、HER2などが挙げられる。
【0048】
本発明の遺伝子マーカーを用いてトリプルネガティブ乳がんの判定を、前述のようにmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子のmRNAまたは該遺伝子にコードされるタンパク質の検出によって行う場合、その検体は、特に制限されないが、例えば、手術により得られた組織や病理標本であってもよく、生検材料であってもよい。
【0049】
また、本発明のトリプルネガティブ乳がんの判定のためのmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルを測定するために使用するキットは、前記遺伝子マーカーのcDNAを定量可能なように増幅するための前記プライマーを含む、特定遺伝子を定量できるキットが挙げられる。該キットに含まれるその他の消耗試薬としては、特に制限されず、例えば、mRNA、cDNA、またはDNAを増幅するために必要な酵素、バッファー、反応試薬等が挙げられる。
【0050】
また、本発明のトリプルネガティブ乳がんの判定のためのmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子にコードされるタンパク質の発現レベルを測定するために使用するキットは、前記タンパク質に特異的に結合する一次抗体と、前記一次抗体に特異的に結合する二次抗体であって、酵素または化学物質で標識化された抗体とを含むキットが挙げられる。該キットに含まれるその他の消耗試薬としては、特に制限されず、例えば、タンパク質を定量するために必要な酵素、バッファー、反応試薬等が挙げられる。
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
本発明のトリプルネガティブ乳がんマーカーとして用いられるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子は、手術により乳がん患者から摘出した組織に対してホルモン受容体やHER2タンパク質の発現レベルを検出し、乳がんのサブタイプを決定した検体において、DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイルを取得し比較した結果、トリプルネガティブ乳がんで特異的に発現レベルが上昇していた遺伝子である。なお、ここで、「発現レベル」とは絶対量である必要はなく相対量でよい。
【0053】
(マイクロアレイの作製)
マイクロアレイ用合成DNAを用いてマイクロアレイを作製する。マイクロアレイの作製方法・条件に限定はないが、例えば非特許文献12(Schena, M. et. al., Science, 270, 467-470(1995))に記載の作製方法を用いることができる。
【0054】
超微量分注装置(マイクロダイアグノスティク社製)を用いて、同社推奨のプロトコルに従ってヒト遺伝子断片ライブラリー(マイクロダイアグノスティック社製)をスライドガラス(松波硝子工業社製、HAコートスライドガラス)にプリントしてマイクロアレイを作製した。該マイクロアレイを気相恒温器内にて80℃で1時間静置し、更にUVクロスリンカー(Hoefer社製、UVC500)を用いて120mJの紫外線を照射した。
【0055】
(マイクロアレイの後処理)
マイクロアレイの後処理は、公開特許公報(特開2004-233105)記載の方法により行った。
【0056】
(核酸検体の調製)
検体用核酸の調製は、手術組織からISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて同社推奨のプロトコルに従い全RNAを抽出した。さらに、Poly(A)Pureキット(Ambion社製)を用い、同社推奨のプロトコルに従ってmRNAを精製した。
【0057】
(標識cDNAの合成)
該mRNA 2.0μgを核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素 SuperScript II(登録商標:ライフテクノロジーズ)(インビトロジェン社製)、Cyanine5-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine 5-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。一方、対照としてヒト共通レファレンス(マイクロダイアグノスティック社製)を使用した。ヒト共通レファレンスに対しては核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素 SuperScript II(インビトロジェン社製)、Cyanine3-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine 3-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。作製方法は各社推奨のプロトコルに従った。なお、ヒト共通レファレンスは22種類の細胞株(A431細胞、A549細胞、AKI細胞、HBL-100細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、HL60細胞、IMR-32細胞、Jurkat細胞、K562細胞、KP4細胞、MKN7細胞、NK-92細胞、Raji細胞、RD細胞、Saos-2細胞、SK-N-MC細胞、SW-13細胞、T24細胞、U251細胞、U937細胞、Y79細胞)からそれぞれ調製したmRNAを等量ずつ混合したものである。
【0058】
(標識プローブの作製)
これらの標識cDNA、すなわち、Cyanine5-dUTPで標識した検体由来の標識cDNAおよびCyanine3-dUTPで標識したヒト共通レファレンス由来の標識cDNAを同一試験管内で混合した後、Micropure EZ(ミリポア社製)およびMicrocon YM30(登録商標:ミリポア)(ミリポア社製)により精製した。精製方法は同社推奨のプロトコルに従って行った。最終的には核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)に付属のハイブリダイゼーションバッファーおよび純水を用いて15μlに調製した。
【0059】
(ハイブリダイゼーション)
該溶液を99℃で5分間加熱して熱変性させた後に、マイクロアレイ上に滴下し、ハイブリダイゼーションカセット(マイクロダイアグノスティック社製)に格納した。該ハイブリダイゼーションカセットを気相恒温器(三洋電機バイオメディカ社製)に入れ、42℃で20時間静置した状態で保温した。
【0060】
(洗浄)
ハイブリダイゼーションカセットからスライドガラスを取り出し、核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)付属のハイブリダイゼーション洗浄溶液を用い、同社推奨のプロトコルに従ってスライドガラスを洗浄した。
【0061】
(蛍光強度の検出および数値化)
洗浄したスライドガラスをスキャナGenePix4000B(Axon Instrument社製)を用いて蛍光を測定し、スキャナに付属の解析ソフトウエアGenePixPro(Axon Instrument社製)を用いて光学的に評価し、蛍光強度をヒト共通レファレンスとの相対比(log2比)で表した。
【0062】
(乳がんのサブタイプの判定)
乳がんの患者93症例について組織学的異型度、HER2タンパク質の発現レベル、および、ホルモン受容体発現レベルを検出し、乳がんのサブタイプ(Intrinsic subtype)を決定した(表1、2)。
【0063】
表1および表2中、「年齢」は手術時の年齢を示し、「性別」は「F」が女性を、「M」が男性を表している。また、「組織学的異型度」は「病理・臨床 乳癌取扱い規約(第15版) 日本乳癌学会編」の規約に基づいて分類した(非特許文献13、14)。「組織学的異型度」の欄の「1」は「低悪性度(grade1)」を、「2」は「中等度悪性度(grade2)」を、「3」は「高悪性度(grade3)」を表している。
【0064】
表1および表2中、「HER2発現」はHER2タンパク質の発現レベルを示す。HER2タンパク質の発現レベルはhercepTestII用手法(DAKO社製)、ヒストファインHER2キットMONO(SV2-61γ)用手法、または、ベンタナI-viewパスウェー HER2(4B5)装置:ベンタナXTシステムベンチマーク(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて各社推奨のプロトコルに従って検出した。HER2タンパク質の発現レベルの判定は、「トラスツズマブ病理部会HER2検査ガイド」(非特許文献15〜17)の基準に従った。表1および表2中の「HER2発現」の欄の「1」は「陰性(score0)」を、「2」は「弱陽性(score1+、または、score2+でFISH陰性)」を、「3」は「強陽性(score2+でFISH陽性、または、score3+)」を表している。
【0065】
表1および表2中、「ホルモン受容体発現」はエストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)の発現レベルを示す。エストロゲン受容体(ER)の発現レベルは、ChemMate ENVISIONキット/HRP(DAB)-ER, 1D5(DAKO社製)またはベンタナI-viewコンファームER(SP1)自動染色装置:ベンタナXTシステムベンチマーク(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて各社推奨のプロトコルに従って検出した。また、プロゲステロン受容体(PgR)の発現レベルは、ChemMate ENVISION キット/HRP(DAB)-PgR(DAKO社製)またはベンタナI-viewコンファームPgR(1E2)自動染色装置:ベンタナXTシステムベンチマーク(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて各社推奨のプロトコルに従って検出した。また、発現レベルの判定は、ガイドラインおよび各社推奨の判定基準に従って行った(非特許文献18、19)。また、表1および表2中の「ホルモン受容体発現」の欄の「1」は「ER陽性かつPgR陽性」を、「2」は「ERまたはPgRのどちらか一方が陽性」を、「3」は「ER陰性かつPgR陰性」を表している。
【0066】
表1および表2中、「Intrinsic subtype」は乳がんのサブタイプを意味し、「TNBC」はトリプルネガティブ乳がんを表している。なお、サブタイプの分類は次に示す基準で判定した。
Luminal A:「ホルモン受容体発現」のスコアが1または2、かつ、「HER2発現」のスコアが1または2
Luminal B:「ホルモン受容体発現」のスコアが1または2、かつ、「HER2発現」のスコアが3
HER2 disease:「ホルモン受容体発現」のスコアが3、かつ、「HER2発現」のスコアが3
TNBC:「ホルモン受容体発現」のスコアが3、かつ、「HER2発現」のスコアが1または2
【0067】
表1および表2中、「発現レベル比」は被検サンプル(検体)におけるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルをヒト共通レファレンスにおける発現レベルで除し、底を2とする対数比に変換した値である。なお、「0」は検出限界以下を表している。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベル)
乳がん93症例についてサブタイプを判定した結果、Luminal AまたはLuminal Bの症例が74例、HER2 diseaseの症例が8例、トリプルネガティブの症例が11例であった。それらの症例における手術材料を用いて、網羅的遺伝子発現プロファイルを取得し、melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルを比較した。その結果、トリプルネガティブ乳がんで有意にmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルが高いことが判明した(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の新規のトリプルネガティブ乳がんマーカーであるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子は、乳がんの症例の中でLuminal A、Luminal B、およびHER2 diseaseでは発現レベルが低く、客観的にサブタイプを判定するのが難しいトリプルネガティブ乳がんにおいて顕著に発現レベルが上昇している。そのため、本発明のトリプルネガティブ乳がんマーカーを用い客観的な分子学的基準を取り入れ、かつ、他の指標と組み合わせて総合的に判断することにより、トリプルネガティブ乳がんの確定診断を行うことが可能である。特に、術前の病理細胞診のような少量の組織でも確定診断を行うことができる。さらに、術後のフォローアップとしてのマーカーとしても使用でき、術後の治療方針の決定に際して客観的な判断材料になり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカー。
【請求項2】
請求項1記載のトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーの全部または一部の塩基配列を有するDNAまたはcDNAを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
【請求項3】
配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有するトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーのmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、
前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3記載のオリゴヌクレオチドを少なくとも1つ以上固定化させたことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子発現検出用DNAマイクロアレイまたはDNAチップ。
【請求項5】
配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有するトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーを検出するために使用されるプライマーであって、
前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成し、配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部を含むDNAをPCR法により増幅するための少なくとも2種類のプライマーからなることを特徴とするトリプルネガティブ乳がんマーカー遺伝子検出用プライマーセット。
【請求項6】
配列表の配列番号2により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質のアミノ酸配列の全部またはその一部を有することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん検出用ポリペプチドマーカー。
【請求項7】
請求項6記載のトリプルネガティブ乳がん検出用ポリペプチドマーカーのアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質を検出することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項8】
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項7記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項9】
melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子を組み込んだ哺乳動物細胞用発現ベクターを哺乳動物に投与することにより誘導し、配列表の配列番号2に示されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質のアミノ酸配列の全部又は一部からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用することによりmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質を検出することを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項10】
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項9記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項11】
配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルを指標とすることを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項12】
配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列を有するトリプルネガティブ乳がん検出用遺伝子マーカーのmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現を検出するために使用されるオリゴヌクレオチドであって、前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の塩基配列またはその相補塩基配列の一部からなり、前記melanoma inhibitory activity(MIA)のmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成するオリゴヌクレオチドを用いて前記発現レベルの指標を得ることを特徴とする請求項11記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項13】
乳がんのサブタイプにおいて非トリプルネガティブ乳がんとトリプルネガティブ乳がんとを判別するためのトリプルネガティブ乳がん診断方法であって、
乳がん患者由来の組織からなる検体試料を採取する工程と、
前記検体試料における配列表の配列番号1により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子または配列表の配列番号2により特定されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルまたは発現量を測定する工程と、
あらかじめ把握されている非トリプルネガティブ乳がん組織における前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子または前記melanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルまたは発現量を基準とし、前記基準よりも高い場合にトリプルネガティブ乳がんであると判定する工程と、
を含むことを特徴とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項14】
前記melanoma inhibitory activity(MIA)遺伝子の発現レベルまたは発現量は、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、ハイブリダイゼーション法のうちの一つにより得ることを特徴とする請求項11乃至13のうちの1つに記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項15】
前記ハイブリダイゼーション法がマイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項14記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項16】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブがヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項14記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項17】
前記ヌクレオチドがmRNA、cDNA、または合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項16記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項18】
配列表の配列番号2に示されるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質の発現レベルを指標とするトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項19】
蛍光抗体法により前記検体試料におけるmelanoma inhibitory activity(MIA)タンパク質を標識化し、これを検出することを特徴とする請求項18記載のトリプルネガティブ乳がん診断方法。
【請求項20】
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を含むことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんを治療するための医薬組成物。
【請求項21】
配列表の配列番号1に示される塩基配列の全部または一部を含むポリヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むことを特徴とするトリプルネガティブ乳がんを治療するための医薬組成物。




【図1】
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【公開番号】特開2012−85556(P2012−85556A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233483(P2010−233483)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/遺伝子発現解析技術を活用した個別がん医療の実現と抗がん剤開発の加速」にかかる業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(510261153)
【Fターム(参考)】