説明

乳がんの評価のためのHE4の使用

【課題】患者が乳がんに罹患しているか否かを評価する方法を提供する。
【解決手段】患者の固形試料、血液および血清、または患者と接触していた体液におけるHE4/HE4aの発現を評価する段階を包含する。HE4の発現の増加は、患者が乳がんに罹患していることの指標であり、第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者が乳がんに罹患しているさらなる指標である、第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の背景
本開示は、一般にがんの診断、悪性度決定、病期分類および予後の分野に関連する。さらにとりわけ、本開示は乳がんの分野に関連する。本開示は、タンパク質の発現を使用した診断、悪性度決定、病期分類および予後の分野にさらに関連する。
【背景技術】
【0002】
がんは、世界的におよそ4人に1人に影響を及ぼす広範な疾患を包含する。がんによる悪影響の深刻さは重大であり、医学方針および医学手法、ならびに社会一般に影響を及ぼしている。多くの種類の癌の特徴は、迅速でかつ制御されない悪性細胞の増殖であるため、がんに対するアプローチを改善する際の何よりも重要な問題は、早期の検出および診断に対する必要性である。早期の検出は、がんの死亡率を減少させる最適な手段としてよく認識されている。それに応じて、悪性疾患の存在を診断するための正確でかつ信頼度が高い診断基準を開発するために、多数の試みが成されている。とりわけ、がん細胞によって一義的に発現されるか、または悪性疾患を有する被験体中に極めてより高いレベルで存在するかのいずれかの、腫瘍関連抗原として公知の血清学的に規定された抗原性マーカーの使用に研究が向けられている。
【0003】
しかしながら、例えば癌腫抗原が極端な多様性を有する等、腫瘍関連抗原の発現は極めて不均一なため、がん診断において有用なさらなる腫瘍マーカーの必要性が存在する。癌腫関連抗原に反応する多数のモノクローナル抗体が公知である。そのようなモノクローナル抗体は、糖タンパク質、糖脂質およびムチンを含む、様々な異なる癌腫関連抗原に結合する。そのようなモノクローナル抗体の多くは、所定の細胞系統または組織型において生じる一部の腫瘍で限定的な発現を示すが、他では示さない腫瘍関連抗原を認識する。
【0004】
特定の種類の悪性腫瘍を同定するために有用そうな腫瘍関連抗原は、比較的わずかの事例しか存在しない。例えばモノクローナル抗体B72.3は、全てではないとしても、ほとんどの卵巣癌腫ならびに圧倒的大多数の非小細胞肺癌腫、結腸癌腫および乳癌腫を含む、多数の別々の癌腫で選択的に発現される高分子量(106 Da超)の腫瘍関連ムチン抗原に対して特異的に結合する。それにもかかわらず、腫瘍の外科切除の後にB72.3によって認識されるムチン抗原等の細胞関連の腫瘍マーカーを検出することは、相当な腫瘍塊が蓄積前に悪性疾患の早期検出が好ましい診断スクリーニングに有用性が限定される可能性がある。
【0005】
蓄積された腫瘍塊の検出後にのみ侵襲性の手術が通常指示される、外科切除された検体を腫瘍関連抗原に関してスクリーニングすることによる特定の種類のがんの診断の代替は、非侵襲性の手法または最小限の侵襲性の手法によって被験体から得られた試料において、そのような抗原を検出するための組成物および方法を提供することであると考えられる。例えば、卵巣癌腫、子宮内膜癌腫および他の癌腫において、血清または粘膜分泌物等の、容易に得られる生体液の試料中で検出可能な多数の可溶性腫瘍関連抗原が現在では存在する。そのようなマーカーの一つは、血清において検出可能な血流中にも流入する、癌腫関連抗原のCA125である(例えば、Bast et al., 1983 N. Eng. J. Med. 309:883; Lloyd et al., 1997 Int. J. Canc. 71:842)。血清および他の生体液中のCA125レベルは、卵巣癌腫、子宮内膜癌腫および他の癌腫の診断プロファイルならびに/または予後プロファイルを提供しようとするために、例えば、がん胎児性抗原(CEA)、扁平上皮がん抗原(SCC)、組織ポリペプチド特異的抗原(TPS)、シアルTNムチン(STN)および胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)等の他のマーカーのレベルと共に測定されている

【0006】
しかしながら、血清CA125のみのレベル上昇、または他の公知の指標との組み合わせにおけるレベルの上昇によっては、悪性疾患または乳癌腫等の特定の悪性疾患の決定的な診断は提供されない。例えば、膣液および血清中のCA125、CEAおよびSCCの上昇は、子宮頸がんおよび生殖管がんと比較して、良性の婦人科疾患における炎症に最も強く関連付けられる(例えば、Moore et al., 1998 Infect. Dis. Obstet. Gynecol. 6:182;Sarandakou et al., 1997 Acta Oncol. 36:755)。血清CA125の上昇は神経芽細胞腫にも関連し得て、かつCEAおよびSCCレベルの上昇は、直腸結腸がんに関連し得る。別のマーカーである分化抗原メソセリンは、正常中皮細胞の表面および上皮性卵巣腫瘍および中皮腫を含む特定のがん細胞にも発現される。メソセリン

および構造的に関連するメソセリン関連抗原(MRA;例えば、Scholler et al., 1999 Proc. Nat. Acad. Sci. USA 96:11531を参照のこと)に関係する組成物ならびに方法は、国際公開公報第00/50900号および米国特許出願第09/513,597号において記載されるように、がんの検出および治療における使用を含めて当技術分野において公知である。複数マーカーの診断スクリーニングにおいて有用な、さらなるマーカーに対する切実な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本開示の主題は、患者が乳がんに罹患しているか否かを評価する方法を包含する。本方法は、患者から得られた試料(例えば、固形組織試料、体液試料、または患者の身体の関連する部分に接触していた体液の試料等)において、HE4の発現を評価する段階を包含する。HE4の発現の増加は、患者が乳がんに罹患していることの指標である。望ましい場合は、HE4発現のレベルは、乳がんに罹患していない患者におけるHE4の発現に対応する参照値等の、参照値と比較することができる。あるいは、試料中のHE4の発現が、該患者からより早い時点に得られた、より早期の試料におけるHE4の発現と比較され得る。乳がんの発症に対応する一つまたは複数のさらなるマーカーも、評価することができる。
【0008】
本開示はまた、乳がんに罹患している患者の、処置に対する応答を評価する方法にも関連する。本方法は、処置期間中の異なる時点で患者から得られた試料において、HE4の発現を評価する段階を包含する。より遅い時点でのHE4の発現の減少(または経時的な発現の減少)によって、患者が処置に応答していることが示される。
【0009】
本開示は、乳がんに対する処置を受けた患者において、再発を評価する方法にさらに関連する。本方法は、処置後の患者から得られた試料において、HE4のみの発現、または一つもしくは複数の第二のマーカーとの組み合わせにおける発現を評価する段階を包含する。HE4の発現の増加が、患者において乳がんが再発していることの指標であり、かつ第二のマーカーの発現の増加は、患者において乳がんが再発していることのさらなる指標である。HE4の発現は、例えば、処置後に複数回評価され得る。HE4の発現の経時的な増加によって、患者において乳がんが再発していることが示される。
【0010】
別の態様において、本開示は、患者が乳がんを発症する可能性を評価する方法に関連する。本方法は、患者から得られた試料において、HE4のみの発現、または一つもしくは複数の第二のマーカーとの組み合わせにおける発現を評価する段階を包含する。HE4の発現の増加が、患者が乳がんを発症する可能性が高いことに関連付けられ、かつ第二のマーカーの発現の増加は、患者が乳がんを発症することのさらなる指標である。
【0011】
また別の態様において、本開示は、乳がんに罹患している患者において、腫瘍の病期分類および/または悪性度決定の方法に関係する。本方法は、患者から得られた試料において、HE4の発現のみ、または一つもしくは複数の第二のマーカーとの組み合わせてHE4の発現を評価する段階を包含する。HE4(評価される場合には、第二のマーカーと)の発現の増加によって、より進行したがん、および/またはより高い悪性度のがんに関連付けられ、かつそれらが示される。
【0012】
本明細書において開示される主題のまた別の局面は、乳がんと診断された患者の治療的介入(例えば、化学療法)に対する必要性を評価するための方法に関係する。本方法は、患者から得られた試料において、HE4の発現のみ、または一つもしくは複数の第二のマーカーとの組み合わせてHE4の発現を評価する段階を包含する。HE4(評価される場合には、第二のマーカーと)の発現の増加によって、患者の治療的介入に対する必要性が示される。
〔1〕HE4の発現の増加が、患者が乳がんに罹患していることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、患者が乳がんに罹患しているかどうかを評価する方法。
〔2〕試料が固形組織試料である、〔1〕記載の方法。
〔3〕試料が、患者から得られた体液である、〔1〕記載の方法。
〔4〕体液が、血液および血清からなる群より選択される、〔3〕記載の方法。
〔5〕試料が、患者と接触していた体液である、〔1〕記載の方法。
〔6〕体液が血清である、〔5〕記載の方法。
〔7〕試料中のHE4の発現が、参照値と比較される、〔1〕記載の方法。
〔8〕参照値が、乳がんに罹患していない患者におけるHE4の発現に対応する、〔1〕記載の方法。
〔9〕試料中のHE4の発現が、患者からより早い時点に得られた、より早期の試料におけるHE4の発現と比較される、〔1〕記載の方法。
〔10〕第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者が乳がんに罹患していることのさらなる指標である、試料における第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、〔1〕記載の方法。
〔11〕より後の時点でのHE4の発現の減少が、患者が処置に対して応答していることの指標である、処置期間中の異なる時点で患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がん患者の、処置に対する応答を評価する方法。
〔12〕第二の乳がんマーカーの発現の減少が、患者が処置に対して応答していることのさらなる指標である、試料中の第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、〔11〕記載の方法。
〔13〕HE4の発現の増加が、患者において乳がんが再発していることの指標である、処置後の患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんについて処置を受けた患者において再発を評価する方法。
〔14〕第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者において乳がんが再発していることのさらなる指標である、試料中の第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、〔13〕記載の方法。
〔15〕HE4の発現が処置の後に複数回評価され、かつHE4の発現の増加が、患者において乳がんが再発していることの指標である、〔13〕記載の方法。
〔16〕HE4の発現の増加が、患者が乳がんを発症する可能性が高いことに関連付けられる、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、患者が乳がんを発症する可能性を評価する方法。
〔17〕第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者が乳がんを発症することのさらなる指標である、試料中の第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、〔16〕記載の方法。
〔18〕HE4の発現の増加が、がんのより進行した段階であることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんの患者における腫瘍の病期分類をする方法。
〔19〕HE4の発現の増加が、がんがより高い悪性度であることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんの患者における腫瘍の悪性度を決定する方法。
〔20〕HE4の発現の増加が、患者に治療的介入が必要であることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんと診断された患者の治療的介入の必要性を評価する方法。
〔21〕治療的介入が化学療法である、〔20〕記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1において本明細書において記載される実験で得られた、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線データの曲線下面積(AUC)解析の概要である。
【図2】対応する二つの天然のcDNA配列(各々、配列番号:11および13)も開示する米国特許第7,270,960号において開示される、HE4aタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:1)である。
【図3】Kirchhoff et al., 1991, Biol. Reprod. 45:350-357によって推定される、HE4タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本開示は、HE4抗原が、乳がんの存在、悪性度および病期分類の指標であるという発見に関連する。
【0015】
本開示の主題は、一般にHE4マーカーまたはHE4および他の生物学的マーカーの組み合わせを使用した、女性における乳がんの評価に関連する。一つまたは複数のさらなる乳がんのマーカーと共にHE4を評価することは、ヒト患者においてそのようながんの発症を診断するため、および様々な種類の処置に対するそのようながんの応答を評価するために使用され得る。さらに、これらのマーカーの評価は、患者においてそのようながんの再発をモニタリングするため、または患者がそのようながんを発症すると考えられる可能性を評価するために使用され得る。任意の公知の乳がんマーカーが、第二のマーカーとして使用され得る。
【0016】
定義
本明細書において使用される「試料」という用語によっては、患者に特に関連している可能性がある物質を意味し、かつ患者に関する特有の情報を決定、算出、または推測することが可能な物質を意味する。試料は、患者由来の生物学的物質の全体または一部分から構成され得る(例えば、女性の乳房検体から得られる固形組織試料等)。試料はまた、患者に関する情報を提供する試料に対して実施される試験を許容する様式において、患者に接触した物質でもあり得る(例えば、管洗浄液等)。試料はまた、第一物質は患者のものではないが、患者に関する情報を決定するための試験を許容する第二物質に接触した、第一物質でもあり得る(例えば、第一試料は、女性の組織に接触したプローブ、メスまたは生検針の洗浄液であり得る)。試料は、当業者がそれでも試料から患者に関する情報を決定し得るのであれば、患者以外の生物学的物質の起源に接することができる。試料ではない外来性物質または情報が、患者を試料に確証的に関連付けるために利用され得ることも理解される。二重盲検試験には、試料を患者に一致させるためのチャートまたはデータベースが必要とされるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において使用される「患者」という用語によっては、生物体についての情報を決定するアッセイの被験体である生物体を意味する。本明細書において開示される方法のほとんどの態様において、患者はヒトおよび女性であるが、本方法は、個々のヒト、男性または女性への使用に対して限定されない。本明細書において使用される試料は、ヒト群から(すなわち、個々のヒトを同定せずに)得られてもよい。試料はまた、乳房組織等のヒトの一部分にも対応し得る。この態様の非限定的な事例に関して、試料は、ヒトの身体に関連しない組織試料、または形質転換された細胞株であり得る。
【0018】
本明細書において使用される「参照値」という用語は、アッセイ結果と比較される際に、統計学的に特定の結果に関連付けられる値を意味する。いくつかの態様において、参照値は、HE4aの発現を公知の臨床結果と比較する研究の統計学的な検討から決定される。そのような研究の一部は、本明細書の実施例の項において提示される。しかしながら、文献由来の研究および本明細書において開示される方法の使用者の経験も、参照値を提示するかまたは調製するために使用され得る。参照値は、患者の病歴、遺伝、年齢および他の因子にとりわけ関連のある事例、ならびに結果の考察からも決定され得る。
【0019】
本明細書において使用される「体液」という用語は、実質的に均一な体液であるが、それに関連する固形物質または粒子状物質を有する可能性のある、ヒトから得られる物質を意味する。体液はまた、患者由来ではない物質および部分も含み得る。例えば、体液は、水を用いて希釈され得るか、またはEDTA等の防腐剤を含み得る。体液の非限定的な事例は、血液および血清を包含する。同様に、乳房分泌物、母乳、管洗浄液、および乳頭吸引液が、本明細書において開示される方法において、試料として使用され得る。乳がんが身体の他の領域へ転移し得るか、または拡散し得るという事実を考慮すると、尿、脳脊髄液、唾液、漿膜液、血漿、リンパ液、分泌組織および分泌器官の粘膜分泌物、膣分泌物、涙ならびに非固形腫瘍に関連するような腹水等のさらなる体液が、試料として使用され得る。さらなる事例は、胸膜、心膜、腹膜、腹部および他の体腔等の体液を包含する。生体液は、被験体、または例えば細胞培養液、および細胞条件培養液もしくは器官条件培養液、洗浄液等を含む器官培養液等の生物学的起源に接触した液体溶液をさらに包含し得る。
【0020】
試料が、治療組成物もしくは治療方法の投与の前に、投与時に、もしくは投与の後、またはその後に生じる治療経過観察の期間の間に得られる場合、試料は「処置期間中の」患者から得られる。この用語の使用によって、処置に先立って、かつ処置の実施後に試料が得られる状況(すなわち、処置の効率または再発を評価するために)、および処置の長期過程の間に間欠的に複数試料が採取される状況が明確に包含される。
【0021】
詳細な説明
本明細書において開示される本方法は、本明細書において記載されるようなタンパク質の「4-ジスルフィドコア」ファミリーのメンバーであるHE4に関係する。タンパク質の「4-ジスルフィドコア」ファミリーは、様々な機能の小型酸性分子および熱安定性分子の不均一な群を含み、かつヒト精巣上体の4-ジスルフィドコアタンパク質または「HE4」を包含する(Kirchhoff et al., 1991 Biol. Reprod. 45:350-357; Wang et al., 1999 Gene 229:101; Schummer et al., 1999 Gene 238:375)。
【0022】
HE4 cDNAは、ヒト精巣上体から最初に単離され(Kirchhoff et al., 1991 Biol. Reprod. 45:350-357)、かつHE4 cDNAは、後に卵巣癌腫から構築されたcDNAライブラリーにおいて高頻度で検出された(Wang et al., 1999 Gene 229:101; Schummer et al., 1999 Gene 238:375)。HE4aの修正配列は、参照により本明細書に組み入れられるHellstrom et al., 2003, Canc. Res. 63:3695-3700、および米国特許第7,270,960号において開示された。HE4aは、先行の刊行物においてHE4と言及された分子の推定配列に極めて類似するが、異なるアミノ酸配列を示す。
【0023】
本開示の目的に関して、先行のHE4またはHE4aのいずれかの検出は同義であると考慮され、かつ本明細書において同義的に「HE4」と言及される。HE4のアミノ酸配列(配列番号:2;Kirchhoff et al., 1991, Biol. Reprod. 45:350-357によって推定される)および修正配列HE4a(配列番号:1;米国特許第7,270,960号において開示される)は、各々図3および2に示される。
【0024】
本明細書において開示される本方法はまた、乳がん等の特定のがんを有する被験体におけるそのようなポリペプチドのレベル上昇を含む、被験体中に通常存在する細胞表面形状のHE4および/または可溶性形状のHE4の検出のための、組成物ならびに方法にも関係する。従って、本開示は、そのような細胞表面HE4ポリペプチドおよび/または可溶性HE4ポリペプチドの特異的な検出によって、被験体における悪性疾患の検出および診断のための、有用な組成物および方法を提供する。
【0025】
本明細書において開示される方法に従って、可溶性のヒトHE4抗原ポリペプチド(またはHE4ポリペプチド)が、被験体または生物学的起源由来の生体試料において検出され得る。生体試料は、血液試料、生検標本、組織移植片、器官培養物、生体液、または被験体もしくは生物学的起源由来の任意の他の組織または細胞調製物を得ることによって提供され得る。被験体または生物学的起源は、ヒトまたは非ヒト動物、初代細胞培養、または染色体に組み込まれた核酸配列もしくはエピソームの組換え核酸配列を含み得る遺伝学的に操作された細胞株、不死化された細胞株もしくは不死化可能な細胞株、体細胞性細胞ハイブリッド細胞株、分化した細胞株もしくは分化可能な細胞株、形質転換された細胞株等を含むが、これらに限定されない培養適応した細胞株であり得る。本明細書において開示される方法の特定の態様において、被験体もしくは生物学的起源は、乳癌腫等の乳がんであり得る悪性疾患を有するか、もしくは有するリスクにあると疑われ得るか、または被験体もしくは生物学的起源は、そのような疾患のリスクが無いか、もしくは存在しないことが公知であり得る。
【0026】
いくつかの態様において、生体試料は、被験体または生物学的起源由来の少なくとも一つの細胞を包含し、かつ他の態様において、生体試料は、CA-125等の別の腫瘍マーカーを含む生体液である。生体液は、典型的に生理学的温度で液体であり、かつ被験体または生物学的起源中に存在するか、離脱されるか、発現されるか、または抽出される天然の体液を包含し得る。特定の生体液は、特定の組織、器官または局所的領域に由来し、かつ特定の他の生体液は、被験体または生物学的起源においてより包括的に、かつ全身的に位置し得る。体液の事例は、血液および血清を包含する。同様に、乳房分泌物、母乳、管洗浄液、および乳頭吸引液は、本明細書において開示される方法にとりわけよく適用する。特定の状況において、尿、脳脊髄液、唾液、漿膜液、血漿、リンパ液、分泌組織および分泌器官の粘膜分泌物、膣分泌物、涙ならびに非固形腫瘍に関連するような腹水等の体液も適切である。さらなる事例は、胸膜、心膜、腹膜、腹部および他の体腔等の体液を包含する。生体液は、被験体、または、例えば細胞培養液および細胞条件培養液もしくは器官条件培養液、洗浄液等を含む、器官培養液等の生物学的起源に接触した液体溶液をさらに包含し得る。他の態様において、生体試料は血清、血漿、または遠心分離された尿の上清等の、細胞のない液体溶液である。
【0027】
他の態様において、生体試料は無傷の細胞を含み、かつ他の態様において、生体試料は、配列番号:1もしくは2(米国特許第7,270,960号は、これらのポリペプチド配列に対応するcDNA配列を開示する)に示されるアミノ酸配列、またはその断片を有するHE4抗原ポリペプチドをコードする核酸配列を含む細胞抽出産物を包含する。本明細書において開示される方法のまた他の態様において、細胞は、解析のための細胞含有物を提供するために、アッセイの前に物理的にもしくは化学的に破裂されるか、または溶解されることが望ましい。
【0028】
試料中の「可溶性形状中に通常存在する分子」は、可溶性タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸もしくはその誘導体;脂質、脂肪酸等もしくはその誘導体;炭水化物、糖類等もしくはその誘導体、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、プリン、ピリミジン、もしくは関連する分子、またはその誘導体等;または、例えば糖タンパク質、糖脂質、リポタンパク質、タンパク脂質、もしくは本明細書において提供されるような、生体試料の可溶性成分もしくは細胞のない成分であるあらゆる他の生体分子等の任意の組み合わせであり得る。「可溶性形状中に通常存在する分子」は、溶液中か、または本明細書において提供されるような生体液を含む生体試料中に存在する分子で、かつ無傷の細胞の表面に結合していない分子にさらに言及する。例えば、可溶性形状中に通常存在する分子は、溶質;高分子複合体の構成成分;細胞から流出される物質、分泌される物質、または搬出される物質;コロイド;微小粒子もしくはナノ粒子、または他の微細懸濁粒子;等を包含し得るが、それらに限定される必要はない。
【0029】
被験体における悪性疾患の存在とは、例えば、新生物、腫瘍、非接触阻害された細胞、または腫瘍形成的に形質転換された細胞等を含む被験体における形成異常細胞、がん性細胞および/または形質転換された細胞の存在に言及する。限定ではなく例示のためであるが、本明細書において開示される方法の文脈において、悪性疾患は、そのようなポリペプチドのレベルの上昇が被験体由来の生体試料において検出可能な様式で、HE4抗原ポリペプチド(もしくはHE4ポリペプチド)を分泌し、流出し、搬出し、または放出することが可能ながん細胞の被験体における存在にさらに言及し得る。いくつかの態様において、そのようながん細胞は、癌腫細胞等の悪性上皮細胞であり、かついくつかの態様において、そのようながん細胞は、例えば、内層胸膜、心膜、腹膜、腹部および他の体腔に見出される扁平上皮細胞の上皮細胞または中皮細胞の、形質転換された変異体である悪性中皮腫細胞である。
【0030】
その存在が悪性疾患の存在を意味する腫瘍細胞は、原発性および転移性乳がん細胞を含む乳がん細胞であり得る。乳がんとしての悪性を分類するための基準は、原発性腫瘍および転移性腫瘍由来のヒト乳がん細胞株の確立ならびに特徴付けと同程度に、当技術分野において周知である。
【0031】
参照値は、本明細書に含まれる実施例において提供される。そのような値は、本明細書において開示される方法の実践のために適切である。しかしながら、本明細書において開示される方法の使用は、それらの参照値またはそのデータに限定されないことに留意されたい。当業者は、彼らの特定の必要性のための参照値を得ることが可能である。そのような参照値は、悪性であると疑われる乳房組織試料(例えば、「腫瘍」または放射線学的に異常な腫瘤)に関する生検手法を受ける際に、患者においてHE4の発現を解析することによって得ることが可能である。そのような参照値を得る方法は、本明細書に含まれ、かつ実施例中に提供される。本明細書において開示される方法の使用者は、患者の具体的なカテゴリーに焦点を当てるために、本明細書に提供されるものとは異なる参照値を得ることを望む場合がある。そのようなカテゴリーは、年齢、遺伝的バックグラウンド、がんのリスク、病歴、血液型、体重等の身体的特徴および他のカテゴリーを包含し得ることが予測される。
【0032】
本明細書において提供されるように、被験体における悪性疾患の存在に関するスクリーニングの方法は、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な抗体またはHE4ポリペプチドに対して特異的な抗体を利用し得る。
【0033】
HE4抗原ポリペプチド(またはHE4ポリペプチド)に対して特異的である抗体は、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗血清として容易に生成されるか、または当技術分野において周知の方法を使用して、所望の性質を有するように設計される遺伝学的に操作された免疫グロブリン(Ig)として産生され得る。例えば、限定ではなく例示のためであるが、抗体は、本明細書において開示される方法に従って、全てヒトHE4ポリペプチドの検出のために使用され得る組換えIgG、免疫グロブリン由来の配列を有するキメラ融合タンパク質、または「ヒト化」抗体を包含し得る(例えば、米国特許第5,693,762号;5,585,089号;4,816,567号;5,225,539号;5,530,101号;およびそれらに引用される参考文献を参照のこと)。そのような抗体は、下記に記載されるようなHE4ポリペプチドを用いた免疫処置によることを含み、本明細書において提供されるように調製され得る。例えば、本明細書において提供されるように、当業者が免疫抗原として使用するためのこれらのポリペプチドをルーチンに調製することが可能であるように、HE4ポリペプチドをコードする核酸配列が開示される。例えば、下記により詳細に記載される2H5、3D8および4H4等のモノクローナル抗体は、本明細書において開示される方法に従って特定の方法を実践するために使用され得る。
【0034】
「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、F(ab’)2等のそれらの断片、およびFab断片、ならびにHE4ポリペプチドに特異的に結合する分子である任意の天然の結合パートナー、または組換え的に産生された結合パートナーを包含する。抗体は、約104M-1以上の、好ましくは約105M-1以上の、より好ましくは約106M-1以上の、かつまたより好ましくは約107M-1以上のKaでHE4ポリペプチドに結合する場合には、「免疫特異的である」か、または特異的に結合すると定義される。結合パートナーまたは抗体の親和性は、例えばScatchard et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 51:660 (1949)によって記載されるもの等の、従来の技術を使用して容易に決定され得る。HE4ポリペプチドの結合パートナーとしての他方のタンパク質の決定は、例えば、米国特許第5,283,173号および米国特許第5,468,614号またはその等価物において記載されるような、酵母ツーハイブリッドスクリーニングシステム等の、他のタンパク質またはポリペプチドと特異的に相互作用するタンパク質を同定し、かつ得るための、任意の多数の公知の方法を使用して遂行され得る。本明細書において開示される方法はまた、HE4ポリペプチドに特異的に結合する結合パートナーおよび抗体を調製するために、HE4ポリペプチド、およびHE4ポリペプチドのアミノ酸配列に基づくペプチドの使用も包含する。
【0035】
抗体は、当業者に公知の任意の様々な技術によって一般的に調製され得る(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照のこと)。そのような技術の一つにおいて、例えば、その表面にHE4ポリペプチドを有する細胞等のHE4ポリペプチドを含む免疫抗原、または単離されたHE4ポリペプチドが、好ましくは、一回または複数回の追加の免疫処置を組み入れたあらかじめ決定されたスケジュールに従って、適切な動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、およびヤギ)に最初に注射され、かつ動物は定期的に採血される。続いて、HE4ポリペプチドに対して特異的なポリクローナル抗体は、そのような抗血清から、例えば、適切な固形支持体に結合されたポリペプチドを使用して、親和性クロマトグラフィーによって精製され得る。
【0036】
HE4ポリペプチドまたはそれらの変異体に対して特異的なモノクローナル抗体は、例えば、Kohler and Milstein (1976 Eur. J. Immunol. 6:511-519)およびそれに対する改善技術を使用して調製され得る。簡単に、これらの方法は、所望の特異性(すなわち、関心対象のメソセリンポリペプチドとの反応性)を有する抗体を産生することが可能な不死化細胞株の調製を包含する。そのような細胞株は、例えば、上に記載されるように免疫処置された動物から得られる脾臓細胞から産生され得る。続いて、脾臓細胞は、例えば、免疫処置された動物と同系のもの等の、ミエローマ細胞融合パートナーとの融合によって不死化される。例えば、脾臓細胞およびミエローマ細胞は、ポリエチレングリコールまたは非イオン性界面活性剤等の膜融合促進剤を用いて数分間組合され得て、続いて、ハイブリッド細胞の増殖を支持するが、ミエローマ細胞の増殖を支持しない選択培養液に低い密度で平板培養される。選択技術の事例では、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を使用する。通常約1〜2週間の十分な時間の後、ハイブリッドのコロニーが観察される。単一コロニーが選択され、かつポリペプチドに対する結合活性に関して試験される。高い反応性および高い特異性を有するハイブリドーマが好ましい。HE4ポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマが、本明細書において開示される方法によって考慮される。
【0037】
モノクローナル抗体は、増殖するハイブリドーマコロニーの上清から単離され得る。さらに、収率を増加させるために、マウスまたは他の適切な宿主等の適切な脊椎動物宿主の腹腔中への、ハイブリドーマ細胞株の注射等の様々な技術が利用され得る。続いてモノクローナル抗体が、腹水または血液から収集され得る。混入物は、クロマトグラフィー法、ゲル濾過法、沈降法、および抽出法等の従来の技術によって抗体から除去され得る。例えば、抗体は、標準的技術を使用して、固定化されたプロテインGまたはプロテインAに対するクロマトグラフィーによって精製され得る。
【0038】
特定の態様の範囲内では、抗体の抗原結合断片が使用され得る。そのような断片は、標準的技術を使用して(例えば、Fab断片およびFc断片を得るためのパパインを用いた消化によって)調製され得るFab断片を包含する。Fab断片およびFc断片は、標準的技術を使用して親和性クロマトグラフィー(例えば、固定化されたプロテインAカラム)によって分離され得る。そのような技術は当技術分野において周知であり、例えば、Weir, D. M., Handbook of Experimental Immunology, 1986, Blackwell Scientific, Bostonを参照のこと。
【0039】
様々なエフェクタータンパク質をコードする配列にインフレームで結合されたDNA配列によってコードされる免疫グロブリンV領域ドメインによって、事前に選択された抗原に対して特異的な結合親和性を有する多機能性融合タンパク質は、例えば、欧州特許明細書第0318554号、米国特許第5,132,405号、米国特許第5,091,513号および米国特許第5,476,786号において開示されるように、当技術分野において公知である。そのようなエフェクタータンパク質は、ビオチン模倣配列(例えば、Luo et al., 1998 J. Biotechnol. 65:225およびそれに引用される参考文献を参照のこと)、検出可能な標識部分を用いた直接共有修飾、特異的である標識されたレポーター分子への非共有結合、検出可能な基質の酵素修飾または固相支持体への固定化(共有結合性もしくは非共有結合性)を含むが、これらに限定されない当業者が精通していると考えられる任意の様々な技術によって、融合タンパク質の結合を検出するために使用され得るポリペプチドドメインを包含する。
【0040】
本明細書で開示される方法における使用のための単鎖抗体はまた、ファージディスプレイ等の方法によって生成され得て、かつ選択され得る(例えば、米国特許第5,223,409号;Schlebusch et al., 1997 Hybridoma 16:47;およびそれらに引用される参考文献を参照のこと)。簡単に、この方法においては、DNA配列がM13等の繊維状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIII遺伝子中に挿入される。マルチクローニング部位を有するいくつかのベクターが、挿入のために開発されている(McLafferty et al., Gene 128:29-36, 1993; Scott and Smith, Science 249:386-390, 1990; Smith and Scott, Methods Enzymol. 217:228-257, 1993)。挿入されたDNA配列は、無作為に生成され得るか、またはHE4ポリペプチドへの結合のための公知の結合ドメインの変異体であり得る。単鎖抗体は、この方法を使用して容易に生成され得る。一般に、挿入部は6〜20個のアミノ酸をコードする。挿入配列によってコードされるペプチドは、バクテリオファージの表面に提示される。HE4ポリペプチドに対する結合ドメインを発現するバクテリオファージは、例えば当技術分野において周知の方法、および本明細書に開示されるような配列をコードする核酸を使用して調製された組換えペプチド等の、固定化されたHE4ポリペプチドへの結合によって選択される。非結合ファージは、典型的に10 mM Tris、1 mM EDTA、および塩(例えば、NaCl)が存在しないか、または低い塩濃度を含む洗浄処理によって除去される。結合したファージは、例えば塩含有バッファーを用いて溶出される。NaCl濃度は、全てのファージが溶出されるまで、段階的な様式で増加される。典型的に、より高い親和性でのファージ結合は、より高い塩濃度によって解離されると考えられる。溶出されたファージは、細菌宿主中で繁殖させられる。いくらかの、高い親和性でのファージ結合を選択するために、さらなる選択ラウンドが遂行され得る。続いて、結合ファージ中の挿入部のDNA配列が決定される。結合ペプチドの予測されるアミノ酸配列が公知になれば、HE4ポリペプチドに対して特異的な抗体として本明細書における使用のための十分なペプチドが、組換え手段または化学合成のいずれかによって作製され得る。組換え手段は、抗体が融合タンパク質として産生される際に使用される。ペプチドはまた、親和性または結合を最大化するために、二つもしくはそれ以上の類似ペプチドまたは異種ペプチドのタンデムアレイとしても生成され得る。
【0041】
HE4ポリペプチドに対して特異的な抗体と反応する抗原性決定因子を検出するため、検出試薬は、典型的には、本明細書において記載されるように調整され得るか、または当技術分野において公知の任意の様々な方法によって調製され得る抗体である。試料中のポリペプチドを検出するための抗体の使用に関して、酵素免疫吸着測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、免疫蛍光定量法、免疫沈降法、平衡透析法、免疫拡散法および他の技術を含むがこれらに限定されない、当業者に公知の様々なアッセイ様式が存在する。例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; Weir, D.M., Handbook of Experimental Immunology, 1986, Blackwell Scientific, Bostonを参照のこと。例えば、アッセイは、生体試料由来のタンパク質調製物がゲル電気泳動に提示され、適切なメンブレンに移され、かつ抗体と反応させられるウェスタンブロッティング様式において遂行され得る。続いて、メンブレン上の抗体の存在が、当技術分野において周知でかつ下記に記載されるように、適切な検出試薬を使用して検出され得る。
【0042】
別の態様において、アッセイは標的HE4ポリペプチドに結合し、かつ試料の残余部からそれを除去するような固形支持体に固定化された抗体の使用を包含する。続いて、結合したHE4ポリペプチドは、例えば、検出可能なレポーター部分を含む試薬等の、別個のHE4ポリペプチド抗原性決定因子と反応する第二抗体を使用して検出され得る。非限定的な事例として、この態様に従って別個の抗原性決定因子を認識する固定化された抗体および第二抗体は、2H5、3D8および4H4(Fujirebio Diagnostics, Inc.)と称されるモノクローナル抗体の任意の二つであり得る。あるいは、HE4ポリペプチドが検出可能なレポーター部分を用いて標識され、かつ固定化された抗体と試料との保温後に、固定化されたHE4ポリペプチド特異的抗体への結合をさせる競合アッセイが利用され得る。試料の成分が標識されたポリペプチドの抗体への結合を阻害する程度は、固定化された抗体と試料との反応性を示し、かつ結果として試料中のHE4のレベルを示す。
【0043】
固形支持体は、マイクロタイタープレート中の試験ウェル、ニトロセルロースフィルターまたは別の適切なメンブレン等の、抗体を付着することが可能な当業者に公知の任意の物質であり得る。あるいは、支持体は、ガラス、繊維ガラス、ラテックスまたはポリスチレンもしくはポリビニルクロライドのようなプラスチック等の、ビーズまたはディスクであり得る。抗体は、特許および化学文献において詳細に記載される当業者に公知の様々な技術を使用して、固形支持体に固定化され得る。
【0044】
特定の態様において、試料中のHE4抗原ポリペプチドの検出に関するアッセイは、二種抗体サンドイッチアッセイである。抗原―抗体複合体または免疫複合体を形成するために、試料中に通常存在し、かつ抗体と反応する抗原性決定因子を有する可溶性分子の固定化された抗体への結合が許容されるように(例えば、室温での30分の保温時間が一般的に十分である)、このアッセイは、一般にマイクロタイタープレートのウェルである固形支持体に固定化されたHE4ポリペプチド特異的抗体(例えば、2H5、3D8または4H4等のモノクローナル抗体)を、最初に生体試料に接触させることによって遂行され得る。続いて、非結合の試料成分が、固定化された免疫複合体から除去される。次に、第二抗体の抗原結合部位が、固定化された第一抗体の抗原結合部位のHE4ポリペプチドへの結合を競合的に阻害しない、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な第二抗体が添加される(例えば、固形支持体に固定化されたモノクローナル抗体と同一でない、2H5、3D8または4H4等のモノクローナル抗体)。第二抗体は、それが直接的に検出され得るように、本明細書において提供されるように検出可能に標識され得る。あるいは、第二抗体は、検出可能に標識された二次的(または「第二段階」)抗抗体の使用によってか、または本明細書において提供されるような特異的な検出試薬を使用することによって、間接的に検出され得る。免疫アッセイに精通する当業者は、二種抗体サンドイッチ免疫アッセイにおいて特定の抗原(例えば、メソセリンポリペプチド)を免疫学的に検出することに関して、多数の試薬および形態が存在することを理解すると考えられるため、本明細書において開示される方法は、いかなる特定の検出手法にも限定されない。
【0045】
上に記載される二種抗体サンドイッチアッセイを使用して、本明細書において開示される方法の特定の態様において、まず最初に、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体はポリクローナル抗体であり、かつHE4抗原ポリペプチドに対して特異的な第二抗体はポリクローナル抗体である。非競合的なHE4抗体の任意の組み合わせが、本明細書において開示される方法と共に使用され得る。モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体およびそれらの組み合わせを含む。本明細書において開示される方法の特定の他の態様において、まず最初に、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体はモノクローナル抗体であり、かつHE4抗原ポリペプチドに対して特異的な第二抗体はポリクローナル抗体である。本明細書において開示される方法の他の態様において、まず最初に、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体はポリクローナル抗体であり、かつHE4抗原ポリペプチドに対して特異的な第二抗体はモノクローナル抗体である。本明細書において開示される方法の他の態様において、まず最初に、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体はモノクローナル抗体であり、かつHE4抗原ポリペプチドに対して特異的な第二抗体はモノクローナル抗体である。例えばこれらの態様において、本明細書において提供されるようなモノクローナル抗体2H5、3D8および4H4は、これらのモノクローナル抗体の任意の二つ組の組み合わせが利用され得るように、HE4ポリペプチド上の別個でかつ非競合的な抗原性決定因子(例えば、エピトープ)を認識することに留意されたい。本明細書において開示される方法の他の態様において、まず最初に、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体および/またはHE4抗原ポリペプチドに対して特異的な第二抗体は、例えば、限定ではなく例示のためであるが、Fab断片、F(ab’)2断片、免疫グロブリンV領域融合タンパク質または単鎖抗体等の、当技術分野において公知で、かつ本明細書において言及される任意の種類の抗体であり得る。当業者は、本明細書において開示される方法が、本明細書において開示されかつ特許請求される方法において、他の抗体形状、断片、誘導体等の使用を包含することを理解すると考えられる。
【0046】
特定の態様において、第二抗体は、酵素、色素、放射性核種、発光基、蛍光基、もしくはビオチン等の検出可能なレポーター部分または標識を含み得る。そのようなシグナルが、洗浄後の支持体に残留する抗体の量に直接的に関連するか、または比例する限り、任意のレポーター部分または標識が、本明細書において開示される方法と共に使用され得る。続いて、固形支持体に結合したままの第二抗体の量が、特異的であり検出可能なレポーター部分または標識に関して、適切な方法を使用して決定される。放射性基に関しては、シンチレーション測定またはオートラジオグラフィー法が、一般的に適切である。抗体―酵素コンジュゲートは、様々な結合技術を使用して調製され得る(総説に関して、例えば、Scouten, W.H., Methods in Enzymology 135:30-65, 1987を参照のこと)。分光学的方法が、色素(例えば、酵素反応の比色産物を含む)、発光基および蛍光基を検出するために使用され得る。ビオチンは、異なるレポーター基(一般に、放射性基もしくは蛍光基または酵素)に結合したアビジンまたはストレプトアビジンを使用して検出され得る。酵素レポーター基は、一般的に基質の添加によって検出され得て(一般的に特定の期間)、反応産物の分光学的解析法、分光光度的解析法または他の解析法が続く。標準法および標準添加法は、周知の技術を使用して、試料中の抗原のレベルを決定するために使用され得る。
【0047】
別の態様において、本明細書において開示される方法は、生物学的起源または被験体由来の生体試料において免疫特異的に反応する抗体の検出によって、悪性疾患の存在に関してスクリーニングするために、本明細書において提供されるようなHE4抗原ポリペプチドの使用を考慮する。この態様に従って、HE4抗原ポリペプチド(もしくは断片、または本明細書において提供されるような切断型HE4抗原ポリペプチドを含むそれらの変異体)が検出可能に標識され、かつ試料の可溶性形状中に通常存在する抗体のHE4抗原ポリペプチドへの結合を検出するために、生体試料に接触させられる。例えば、HE4抗原ポリペプチドは、容易に検出可能な(例えば、放射性標識された)アミノ酸のインビトロ翻訳の間の取り込み等の周知の方法と共に、本明細書において開示される配列を使用することによって、または上に記載されるもののような他の検出可能なレポーター部分を使用することによって、生合成的に標識され得る。理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書において開示されるこの態様は、本明細書において開示されるHE4融合ポリペプチド等の特定のHE4ポリペプチドがとりわけ免疫原性であり、かつそのため、特異的でかつ検出可能な抗体を産生するペプチドを提供し得ることを考慮する。例えば、この理論に従って、特定のHE4融合ポリペプチドは、強力な免疫反応を誘発する「非自己」抗原を表示し得るが、融合ドメインを欠如するHE4ポリペプチドは、体液性免疫または細胞性免疫を容易に誘発しないより類似の「自己」抗原であると、免疫システムによって見なされ得る。
【0048】
上記に記述されるように、本明細書において開示される方法は、乳がんに罹患している被験体において、そのような可溶性HE4ポリペプチドのレベルの上昇を含む可溶性形状のHE4抗原ポリペプチドが、該被験体中に通常存在するという驚くべき知見に部分的に関連する。
【0049】
本明細書において開示される方法に従って、乳がんの存在に関してスクリーニングする方法は、被験体由来の生体試料における、一つより多い腫瘍関連マーカーの検出によってさらに強化され得る。従って、本明細書において開示される方法の特定の態様によって、HE4抗原ポリペプチドに対して特異的な抗体と天然の可溶性試料成分との反応性を検出することに加えて、当技術分野において公知でかつ本明細書において提供されるような確立された方法を使用して、悪性疾患の少なくとも一つのさらなる可溶性マーカーの検出も包含するスクリーニングの方法が提供される。これらのさらなる可溶性腫瘍関連抗原は、メソセリンおよびメソセリン関連抗原、CEA、CA125、シアルTN、SCC、TPSおよびPLAP

を包含し得るがこれらに限定される必要はなく、かつ生体試料におけるその存在が、本明細書において提供されるように、乳がんの存在に関連付けられ得る任意の公知のマーカーをさらに包含し得る。
【0050】
あるいは、HE4ポリペプチドをコードする核酸配列は、標準的ハイブリダイゼーション技術および/またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用して検出され得る。適切なプローブおよびプライマーは、本明細書において提供されるHE4 cDNA配列に基づいて当業者によって設計され得る。アッセイは、真核細胞、細菌、ウイルス、そのような生物体から調製される抽出産物、および生体内に見出される体液等の生物学的起源から得られる任意の様々な試料を使用して、一般的に遂行され得る。
【実施例】
【0051】
実施例
一般的方法
実施例中で使用される標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当技術分野において周知であり、かつSambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor, (1989) (Maniatis)によって、およびT. J. Silhavy, M. L. Bennan, and L. W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N. Y. (1984)によって、およびAusubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, pub. by Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1987)によって記載される。
【0052】
略語の意味は、以下の様である:「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「U」は単位を意味し、「pM」はピコモルを意味し、「ROC」は受信者動作特性を意味し、「AUC」は曲線下面積を意味し、「StDev」は標準偏差を意味し、「Min」は最小値を意味し、「Max」は最大値を意味し、かつ「p」はp値を意味する。
【0053】
本開示の主題は、以下に続く実施例に対する参照と共に下記に記載される。これらの実施例は例示のためのみに提供され、かつ該主題はこれらの実施例に限定されないが、むしろ本明細書において提供される教示の結果として明確な、全ての変動を包含する。
【0054】
実施例1
乳がん患者における血清腫瘍マーカーHE4の有用性
乳がん患者の血清中のHE4濃度が、健康な対照患者のものと比較された。結果は、図1に示される。以下の表は、健康な患者を乳がん患者と比較した、図1に示されるHE4データのROC曲線解析を表示する。

【0055】
データ解析によって、血清中のHE4の発現が、乳がんのおよそ32%において上昇することが実証された(95%特異度)。ROC曲線解析によって、血清および他の体液中のHE4濃度の測定値が、乳がんに罹患している患者と健康な患者を区別するために使用され得ることを実証する、曲線下面積AUC=0.75がもたらされた。
【0056】
本明細書において引用される各々の特許、特許出願および刊行物の開示は、ここで全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0057】
本主題は特定の態様に対する参照と共に開示されるが、他の態様および変動が、本明細書において記載される真の精神および主題の範囲を逸脱することなく、当業者によって考案され得ることは明白である。添付の特許請求の範囲は、そのような態様および等価な変化の全てを包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HE4の発現の増加が、患者が乳がんに罹患していることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、患者が乳がんに罹患しているかどうかを評価する方法。
【請求項2】
試料が固形組織試料である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料が、患者から得られた体液である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
体液が、血液および血清からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
試料が、患者と接触していた体液である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
体液が血清である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
試料中のHE4の発現が、参照値と比較される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
参照値が、乳がんに罹患していない患者におけるHE4の発現に対応する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
試料中のHE4の発現が、患者からより早い時点に得られた、より早期の試料におけるHE4の発現と比較される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者が乳がんに罹患していることのさらなる指標である、試料における第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
より後の時点でのHE4の発現の減少が、患者が処置に対して応答していることの指標である、処置期間中の異なる時点で患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がん患者の、処置に対する応答を評価する方法。
【請求項12】
第二の乳がんマーカーの発現の減少が、患者が処置に対して応答していることのさらなる指標である、試料中の第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
HE4の発現の増加が、患者において乳がんが再発していることの指標である、処置後の患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんについて処置を受けた患者において再発を評価する方法。
【請求項14】
第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者において乳がんが再発していることのさらなる指標である、試料中の第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
HE4の発現が処置の後に複数回評価され、かつHE4の発現の増加が、患者において乳がんが再発していることの指標である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
HE4の発現の増加が、患者が乳がんを発症する可能性が高いことに関連付けられる、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、患者が乳がんを発症する可能性を評価する方法。
【請求項17】
第二の乳がんマーカーの発現の増加が、患者が乳がんを発症することのさらなる指標である、試料中の第二の乳がんマーカーの発現を評価する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
HE4の発現の増加が、がんのより進行した段階であることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんの患者における腫瘍の病期分類をする方法。
【請求項19】
HE4の発現の増加が、がんがより高い悪性度であることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんの患者における腫瘍の悪性度を決定する方法。
【請求項20】
HE4の発現の増加が、患者に治療的介入が必要であることの指標である、患者から得られた試料におけるHE4の発現を評価する段階を含む、乳がんと診断された患者の治療的介入の必要性を評価する方法。
【請求項21】
治療的介入が化学療法である、請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−47679(P2013−47679A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−201690(P2012−201690)
【出願日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【分割の表示】特願2010−501021(P2010−501021)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(506275634)フジレビオ ダイアグノスティックス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】