説明

乳化剤を用いずに制御されたラジカル重合法によるフッ化ビニリデン系共重合体

【課題】透明な新規含フッ素共重合体を得る上で、環境や生態系に配慮し有害な乳化剤を用いずに重合時の乳化安定性が得られることを特徴した、該含フッ素共重合体の製造法を提供する。
【解決手段】
化学式(1)


で示される繰り返し単位とα−トリフルオロメタクリル酸の重合体繰り返し単位からなることを特徴とする数平均分子量(g/モル)が500〜30000の含フッ素共重合体(ただし、単位(1)のモル%は、99〜70を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高く新規な含フッ素共重合体および環境や生態系に有害な乳化剤を用いない乳化重合により該共重合体を得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス用光学機器やデバイス用途には、透明性の高い重合物が重要な役割を担っており、該用途の主要材料には光学用フィルムがあげられる。具体的には、ディスプレー市場における光学用フィルムとして、偏光フィルム、輝度向上フィルム、反射防止フィルム、視野角拡大フィルムがあげられる(例えば、非特許文献1)。
【0003】
方や乳化重合は、従来、重合物の組成や分子量分布を簡便かつ均一に揃えることができる製造法として用いられており、性能の良い透明性高分子を製造する製造法として期待される。乳化重合で用いられる乳化剤としては、一般的にノニルフェノール、オクチルフェノール等のアルキルフェノールにエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させてなるアルキルフェニルエーテル型の非イオン性界面活性剤や、これを硫酸エステル化したアニオン界面活性剤が広く用いられてきた。しかし、近年、アルキルフェノールが難生分解性であるため環境に対する負荷が大きいという問題が指摘され、乳化重合用乳化剤の疎水基部分が、アルキルフェノール由来から脂肪族アルコール由来へと移行している(例えば、非特許文献2)。
【0004】
また、含フッ素モノマーを用いた乳化重合は、アンモニウムパーフルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロテロマー又はスルホンアミド酸塩などの含フッ素乳化剤の存在下でしばしば行われる。これら含フッ素乳化剤は、自然環境中に極めて安定に存続し、かつ一度身体に侵入すると望ましくないほどにゆっくり排泄されることから、環境系や生態系に望ましくない化合物と考えられている。米国では、これら含フッ素乳化剤に対しCDC(Centers for Disease Control and Prevention)による調査項目が指定され、TSCA(Toxic Substances Control Act)の適用が既になされている(例えば、非特許文献3)。
【非特許文献1】電気・電子材料研究会編、エレクトロニクス用光学フィルム、工業調査会、2006年
【非特許文献2】吉澤邦夫、新しい分散・乳化の科学と応用技術の新展開、(株)テクノシステム、2006年
【非特許文献3】小泉昭夫、原田浩二、マテリアルステージ、44ページ、5巻、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、フッ素が導入されたモノマーを重合しフッ素独自の性質を反映できる新規な含フッ素透明高分子を提供することを目的とする。あわせて、環境や生態系に配慮し乳化剤を用いずに重合時の乳化安定性が得られることを特徴とした、該含フッ素共重合体の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、乳化剤を用いないにもかかわらず、モノマーとしてα−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドを用いることにより、安定な乳化状態で含フッ素共重合体を得ることが出来る。乳化物を乾燥して得られた共重合体は透明であり、光学材料への応用が期待できる。本発明者らは鋭意検討を行った結果、環境負荷が大きく生体にも有害な乳化剤を全く使用せずにフッ素を含むモノマーの乳化共重合が進行し、かつ得られた反応物が安定な乳化状態となり乾燥状態で透明な含フッ素重合体を得ることを見いだし、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は下記を要旨とするものである。
(1) 化学式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
で示される繰り返し単位と
化学式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
で示される繰り返し単位からなることを特徴とする数平均分子量(g/モル)が500〜60000000の含フッ素共重合体(ただし、単位(1)及び(2)のモル%は、それぞれ99〜70、1〜30を示す)。
【0012】
(2) α−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドとを乳化剤の非存在下で共重合することを特徴とする(1)項に記載の含フッ素共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、環境負荷が高い乳化剤を用いずに、モノマーとしてα−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドを用いることにより、安定な乳化状態で含フッ素共重合体を得ることが出来る。得られた共重合体は透明であり、光学材料への利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明をより具体的に説明する。なお、以下で特に断らない限り圧力は、ゲージ圧を意味する。
【0015】
本発明の含フッ素共重合体は、数平均分子量(g/モル)は500〜60000000である。
【0016】
本発明の含フッ素共重合体の組成は、前記一般式(1)で示されるビニリデンジフロリドの繰り返し単位が99〜70モル%、前記一般式(2)で示されるα−トリフルオロメタクリル酸のくり返し単位が1〜30モル%である。
【0017】
本発明では、モノマーであるα−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドや溶媒として用いられる水あるいは重合開始剤や連鎖移動剤など重合反応に供される全ての化合物は、予め十分に脱気かつ不活性ガスで置換することが望ましく、かつ反応中にも酸素あるいは空気が混在することがないことが望ましい。用いられる不活性ガスとしては、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、キセノン等があげられる。
【0018】
本発明では、特に制限されるものではないが、溶媒として用いられる水は、数回脱気し不活性ガス置換されかつ脱イオンされた水であることが好ましい。
【0019】
本発明は、ラジカル重合により重合が進行する。その際に用いられる重合開始剤は、特に制限されるものではないが、例えばパーオキソ二硫酸ナトリウム、パーオキソ二硫酸カリウム、パーオキソ二硫酸アンモニウム、パーオキソ二硫酸リチウム、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーブチルピバレート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。これら反応に用いられる連鎖移動剤の量は、通常該重合に供される総モノマー量に対して、10〜1000000ppmであり、好ましくは、100〜100000ppmである。
【0020】
本発明では、得られる共重合体の分子量を調節するために連鎖移動剤を共用することができる。分子量調節のために、特に制限されるものではないが、通常、アルカン、アルコール、有機ハロゲン化物あるいは有機チオール(メルカプタン)等があげられ、具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、フェノールあるいはブロモトリクロロエタン、トリクロロトルエン、トリブロモトルエン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタン、1,4−ジヨード−n−プロパン、1,4−ジヨードパーフルオロ−n−ブタン、パーフルオロ−n−プロピルヨージド、パーフルオロ−n−ブチルヨージド、パーフルオロ−n−ヘキシルヨージドまたはメチルチオール、エチルチオール、n−プロピルチオール、iso−プロピルチオール、n−オクチルチオール、フェニルチオールなどを単独あるいは混合して用いることができる。これら反応に用いられる連鎖移動剤の量は、通常、該重合に供される総モノマー量に対して0.0001〜80モル%、好ましくは、0.01〜50モル%である。
【0021】
本発明における反応温度は、摂氏5℃〜200℃であり、好ましくは、20℃〜150℃である。本発明では、気体状態のビニリデンジフロリドをモノマーとして用いることから、通常オートクレーブで重合し、その際の反応圧力は、0.01〜200MPaであり、より好ましくは0.1〜100MPaである。本発明における反応時間は、1分〜100時間であり、好ましくは1時間〜50時間である。
【0022】
本発明では、十分に不活性ガスで置換されたオートクレーブに水、モノマー、連鎖移動剤、重合開始剤を投入し、重合終了後、オートクレーブ中より得られる反応混合物は良好な乳化状態となる。該反応混合物は、室温であれば大気下で数日〜数週間のあいだ乳化液のまま安定に保存することができる。
【0023】
(実施例)
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。得られた共重合体の組成は、19F NMR(バルカー社製 AC200,AC250、および400)を使用し、内部標準試薬としてCFCl3を用い、溶媒として重水素化アセトン、重水素化ジメチルホルムアミド、あるいは重水素化ジメチルスルホキシドを用いて解析した。分子量は、GPC(スペクトラフィジクス社製、屈折計:SP8430、カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLゲル 5μm ミックスド−C、70℃、展開溶媒:ジメチルホルムアミド、溶媒流速:0.8mL/mL)を使用して、ポリスチレン換算により求めた。
【0024】
(実施例1)
数回脱気/窒素置換した160mLのハステロイオートクレーブを2.6kPaまで減圧し、室温下で開始剤としてパーオキソ二流酸ナトリウム(0.23g、0.001mol)、脱イオン水(80g)、連鎖移動剤としてパーフルオロ−n−ヘキシルヨージド(3.0g、0.067mol)、ビニリデンジフロリド(10g、0.1mol)、α−トリフルオロメタクリル酸(2.0g、0.0138mol)を導入した。内容物を攪拌しながらオートクレーブを80℃に加熱すると、最高時に内圧は4MPaとなった。6時間後、オートクレーブ内の圧力は常圧となり、反応を終了し、100gの安定な乳化液を得た。フリーズドライにより乳化液から水を除去し、10.6g(収量:88%)の透明な共重合体を得た。
【0025】
このポリマーは、19F NMRより、ビニリデンジフロリドを95mol%含有し、GPCより数平均分子量が5100g/mol、分散度が1.90であることが分かった。
【0026】
なお、ビニリデンジフロリドの重合度は、以下の積分比をもとに算出した。すなわち、3×(CF(−91〜96ppm、ヘッド−テイル連鎖のビニリデンジフロリドとα−トリフルオロメタクリル酸ユニットに隣接したビニリデンジフロリド)+CF(−113.4ppm、ヘッド−ヘッド連鎖のビニリデンジフロリド)+CF(−115.7ppm、ヘッド−ヘッド連鎖のビニリデンジフロリド)+CF(−40.0ppm、−CF―CH―I末端ビニリデンジフロリド)+CF(−108.0ppm、−CH―CF―I末端ビニリデンジフロリド))/2×CF(−80.0ppm、共重合体中の連鎖移動剤由来)より、3×(36.5+3.9+1.1+48.8+1.9)/2×3.0=46.1であり、同様にα−トリフルオロメタクリル酸の重合度は、CF(−68ppm、共重合体中のα−トリフルオロメタクリル酸の積分比)/CF(−80.0ppm、共重合体中の連鎖移動剤由来)より、7.3/3.0=2.43であった。結果を表1に記した。
【0027】
(実施例2〜実施例6)
α−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドとの仕込み比を替えた以外、上記と同じ重合を行い、何れも安定な乳化液を得た。結果を表1に記した。
【0028】
(実施例7〜実施例8)
α−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドとの仕込み比を替えて、重合温度を摂氏75℃とし、上記と同じ重合を行い、何れも安定な乳化液を得た。結果を表1に記した。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の新規な含フッ素共重合体は、フッ素独自の性質が反映され、環境や生態系に配慮し乳化剤を用いずに重合時の乳化安定性が得られるので有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)
【化1】

で示される繰り返し単位と
化学式(2)
【化2】

で示される繰り返し単位からなることを特徴とする数平均分子量(g/モル)が500〜60000000の含フッ素共重合体(ただし、単位(1)及び(2)のモル%は、それぞれ99〜70、1〜30を示す)。
【請求項2】
α−トリフルオロメタクリル酸とビニリデンジフロリドとを乳化剤の非存在下で共重合することを特徴とする請求項1に記載の含フッ素共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−214420(P2008−214420A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51201(P2007−51201)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】