説明

乳化剤及び水中油型乳化組成物

【課題】樹脂やオイルなどの広範囲の油性成分に対する乳化安定性に優れた乳化剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされるグリシジルエーテル類(a)と、分子鎖の両末端に水酸基を有する水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを反応させて付加物となし、次いでこの付加物を有機ジイソシアナート(c)と反応させて得られる化合物を含有するものとする。
【化1】


(式中、Rは、炭素数4〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、フェニル基、フェノール誘導体残基、又は、炭素数7〜22のアルキルフェニル基もしくはアルケニルフェニル基を表し、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、その平均値が0〜30の数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系乳化剤、及びそれを用いた水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性樹脂乳化物等の水中油型乳化組成物は、その無公害性、安全性、作業性の利点から塗料、接着剤、紙加工剤、繊維加工剤、モルタル改質剤等の広範囲な用途に用いられている。しかしながら、樹脂を乳化する際に乳化剤を用いて水不溶性の油性成分である樹脂を水中へ安定に乳化、分散させることは難しく、特に溶剤等の共雑物を含有する系での安定乳化は困難である。
【0003】
そのため、例えば、下記特許文献1には、ラジカル重合可能なモノマー類を、塩基性化合物とポリアクリル酸と水の存在下で共重合させるという乳化重合法により水分散体を調製する方法が開示されている。また、下記特許文献2には、溶剤に溶解した樹脂を乳化剤を用いて水中へ乳化した後、溶剤を除去して水分散体を調製する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法では樹脂の種類や濃度などの制限が多く、限られた範囲のもののみしか調製できないという問題があり、かつその乳化安定性も満足できるものではない。
【0005】
一方、特許文献3には、ポリアルキレングリコール類にアルカリ触媒でグリシジルエーテル類を付加させ、これにジイソシアネート類を反応させて得られる会合性ポリウレタン樹脂が開示されているが、用途が押出成形用増粘剤であって乳化剤ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−007628号公報
【特許文献2】特開2008−056746号公報
【特許文献3】特開平11−171960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、樹脂やオイルなどの広範囲の油性成分に対する乳化安定性に優れた乳化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水中油型乳化組成物用乳化剤は、上記の課題を解決するために、下記一般式(1)で表わされるグリシジルエーテル類(a)と、分子鎖の両末端に水酸基を有する水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを反応させて付加物となし、次いでこの付加物を有機ジイソシアナート(c)と反応させて得られる化合物を含有するものとする。
【化1】

【0009】
(式中、Rは、炭素数4〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、フェニル基、フェノール誘導体残基、又は、炭素数7〜22のアルキルフェニル基もしくはアルケニルフェニル基を表し、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、その平均値が0〜30の数である。)
【0010】
上記乳化剤において、上記化合物は、上記付加物の13C−NMR測定により求められる積分値に基づいて次式より求められる水溶性ポリアルキレングリコール(b)の水酸基消費率が60〜100%であることが好ましい。
【数1】

【0011】
本発明の水中油型乳化組成物は、油性成分を上記本発明の乳化剤で水に乳化することにより得られるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乳化剤であると、樹脂やオイル等の油性成分を水中へ安定に乳化させることができる。また、この乳化剤を用いた水中油型乳化組成物は、水溶液濃度や溶剤等の共雑物の影響を受けにくく、希釈安定性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられる上記一般式(1)で表されるグリシジルエーテル類(a)としては、アルコール類又はアルコール類のアルキレンオキサイド付加物を、エピクロルヒドリン等を用いて公知の方法でグリシジルエーテル化したものが好適に使用できる。詳細には、炭素数が4〜22のアルコール類のグリシジルエーテル類、該アルコール類のアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル類、フェノールのグリシジルエーテル、フェノールのアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル類、フェノール誘導体のグリシジルエーテル類、該フェノール誘導体のアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル類、炭素数が7〜22のアルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のグリシジルエーテル類、該アルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル類などが挙げられる。これらのグリシジルエーテル類は単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。
【0014】
このようにRで表される疎水基は、炭素数が4以上のものである。炭素数が4より小さいと油性成分との親和力の不足から乳化性能が不足する。逆に疎水基Rの炭素数が22より大きいと乳化作業時の粘度が高くなり、良好な粒子径の乳化物が得られない。疎水基Rは、炭素数が4〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、又はフェニル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数4〜18のアルキル基又はアルケニル基である。
【0015】
上記アルコール類のグリシジルエーテル類としては、具体的には、ブチルモノグリシジルエーテル、ヘキシルモノグリシジルエーテル、オクチルモノグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルモノグリシジルエーテル、2−メチルオクチルモノグリシジルエーテル、ノニルモノグリシジルエーテル、デシルモノグリシジルエーテル、ウンデシルモノグリシジルエーテル、ドデシルモノグリシジルエーテル、トリデシルモノグリシジルエーテル、テトラデシルモノグリシジルエーテル、ペンタデシルモノグリシジルエーテル、ヘキサデシルモノグリシジルエーテル、オクタデシルモノグリシジルエーテル、オレイルモノグリシジルエーテルなどが挙げられる。上記アルコール類としては、直鎖状でも分岐していてもよく、また1級アルコールでも2級アルコールでもよく、更には飽和でも不飽和でもよい。
【0016】
上記フェノール誘導体のグリシジルエーテル類としては、具体的には、フェニルフェニルモノグリシジルエーテル、ナフチルモノグリシジルエーテル、スチレン化フェニルモノグリシジルエーテル、クミルフェニルモノグリセリルエーテルなどの化合物が挙げられる。
【0017】
上記アルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のグリシジルエーテル類としては、具体的には、トルイルモノグリシジルエーテル、エチルフェニルモノグリシジルエーテル、ブチルフェニルモノグリシジルエーテル、オクチルフェニルモノグリシジルエーテル、ノニルフェニルモノグリシジルエーテル、デシルフェニルモノグリシジルエーテル、ドデシルフェニルモノグリシジルエーテル、テトラデシルフェニルモノグリシジルエーテル、ヘキサデシルフェニルモノグリシジルエーテルなどの化合物が挙げられる。
【0018】
該アルコール類、フェノール、該フェノール誘導体、該アルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル類も用いることが出来る。該アルキレンオキサイド(すなわち、式(1)中のORで表されるオキシアルキレン基)としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられ、より好ましくはエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドである。これらのアルキレンオキサイドは単独または複数の混合でも良く、複数の混合の場合、その結合様式はブロック、ランダムが挙げられる。また、その繰り返し数を表す式(1)中のnは、平均値で0〜30であり、より好ましくは0〜10である。
【0019】
本発明に用いられる上記水溶性ポリアルキレングリコール(b)は、少なくとも高分子鎖の両末端に水酸基を有するアルキレンオキサイドの重合体である。単量体のアルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどがあるが、水溶性を高めるためにはエチレンオキサイドの含有率が60重量%以上であることが好ましい。より好ましくは、エチレンオキサイドの重合物(すなわち、ポリエチレングリコール)を用いる。
【0020】
該水溶性ポリアルキレングリコール(b)の分子量は、水酸基価(OHV)換算値の分子量で1,000〜30,000のものが好ましい。より好ましくは2,000〜20,000であり、更に好ましくは5,000〜10,000である。該分子量が1,000未満では、水溶性が低くて十分な乳化性を得ることができず、また該分子量が30,000を超えると、乳化作業時の粘度が高くなり、良好な粒子径の乳化物が得られない。ここで、OHV換算値の分子量は、トルエン共沸により乾燥させたポリアルキレングリコールを、JIS K0070(1992)に記載の方法で測定した値より算出した。
【0021】
上記水溶性ポリアルキレングリコール(b)としては、OHV換算値の分子量が2,000〜20,000のポリエチレングリコール(b’)が好ましく用いられ、より好ましくは、OHV換算値の分子量が5,000〜10,000のポリエチレングリコールを用いる。
【0022】
本発明に用いられる上記有機ジイソシアナート(c)としては、鎖状脂肪族ジイソシアナート類、環状脂肪族ジイソシアナート類、芳香族ジイソシアナート類などよりなる一群のジイソシアナート化合物から選ばれた炭素数が3〜18のジイソシアナート化合物が挙げられる。例えば、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)、シクロヘキサンジイソシアナート、フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、取り扱い易さ、価格面から、好ましくはイソホロンジイソシアナート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)を用いる。
【0023】
本発明に係る乳化剤は、上記グリシジルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)と有機ジイソシアナート(c)を反応させることにより得られる化合物を主成分とするものである。グリシジルエーテル類(a)のエポキシ基の開環により生じた水酸基及び水溶性ポリアルキレングリコール(b)の有する水酸基(OH)と、有機ジイソシアナート(c)の有するイソシアナート基(NCO)とが反応することにより、ウレタン結合(−NHCOO−)が形成されるので、得られる化合物はポリウレタンと称される高分子化合物である。従って、本発明に係る乳化剤は、高分子乳化剤のカテゴリーに含まれる。
【0024】
該高分子化合物は、高分子の末端のみならず、高分子の主鎖に疎水基Rがグラフトしており、この点に本発明の乳化剤の特徴の一つがある。高分子の主鎖に疎水基をグラフトすることで1分子あたりの油性成分への吸着点が多く、水和層への脱着が困難になり、界面膜が強固になる。それゆえ幅広い油性成分の安定な乳化ができることのみならず、希釈安定性にも優れ、また溶剤等の共雑物の存在下でも良好な効果を発揮する。
【0025】
該高分子化合物を得るための合成方法としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、アルカリ触媒の存在下でグリシジルエーテル類(a)に水溶性ポリアルキレングリコール(b)を付加させ、アルカリ触媒を中和し、ウレタン化触媒と有機ジイソシアナート(c)を加えてウレタン化させる方法が用いられる。
【0026】
水溶性ポリアルキレングリコール(b)の付加は、その水酸基がグリシジルエーテル類(a)のエポキシ基に付加する開環反応である。この際、開環により生じたエポキシ基由来の水酸基がグリシジルエーテル類(a)へ付加する、望まれない付加が同時に起こる。通常、エポキシ化合物が炭化水素系の場合、水溶性ポリアルキレングリコール(b)の水酸基が1級水酸基であるのに対しエポキシ基由来の水酸基は主として2級水酸基であるため、この望まれない付加反応は起こりにくい。しかしながら、グリシジルエーテル類(a)の疎水性が高い場合や水溶性ポリアルキレングリコール(b)の分子量が大きい場合は、これらの反応性が低くなり、この望まれない付加反応が起こりやすくなる。それゆえ、得られたポリウレタンは、グリシジルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)が分子中で局在化した、いわゆるブロックポリマー様の構造をとり易くなる。
【0027】
上記(a)成分と(b)成分との付加状態は、付加生成物の13C−NMR測定を行い、消費された水溶性ポリアルキレングリコール(b)の末端炭素原子を定量することで分かり、次式(I)により求められる(b)の水酸基消費率を疎水基Rの非局在化率の指標とすることができる。
【数2】

【0028】
この水溶性ポリアルキレングリコール(b)の水酸基消費率は、本発明においては60〜100%であるのが好ましく、より好ましくは70〜100%である。60%未満では、ポリウレタンの主鎖への疎水基の導入率が低くなることから十分な乳化性が得られにくくなる。この指標で表される(a)及び(b)成分の付加状態は、付加反応時に例えばDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)のような相溶化剤となり得る溶剤を少量添加することにより調整可能である。局在化の傾向は上記の通り(a)成分と(b)成分の構造・分子量等に左右されるので、添加量はそれに応じて適宜調整すればよい。
【0029】
上記合成に際し、(a)〜(c)成分の組成比は特に限定されるものではないが、グリシジルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)とがモル比で、(a)/(b)=1.0〜2.0であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.5である。また、水溶性ポリアルキレングリコール(b)と有機ジイソシアナート(c)とがモル比で、(b)/(c)=1.0〜1.5であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.3である。
【0030】
該高分子化合物の重量平均分子量はおよそ8千〜30万の範囲にあることが好ましい。特に乳化剤として用いるには、重量平均分子量が1万〜10万の範囲にあることがより適している。更に好ましくは重量平均分子量が1万5千〜7万の高分子である。重量平均分子量が8千未満では十分な乳化性が得られず、また30万を超えるとポリウレタンの粘度が高く作業性が悪くなる。
【0031】
本発明の乳化剤は、該高分子化合物を主成分とするものであり、該高分子化合物単独でもよいが、他の界面活性剤を含有してもよい。また、必要により、該高分子化合物を、溶剤、水またはそれらの混合物に溶解して用いることもできる。
【0032】
上記高分子化合物と併用することができる他の界面活性剤としては、特に限定されず、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の公知の界面活性剤を1種類乃至2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、アルコールのアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、スチレン化フェノールのアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、多価アルコールアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アミノポリエーテル変性ポリシロキサン、フルオロアルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロースなどが挙げられる。
【0034】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、モノアシルグリセリン硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、マレイン化ポリブタジエン、スチレンマレイン酸コポリマー、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0035】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシアルキレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アシルアミノアルキル型アンモニウム塩、アシルアミノアルキルピリジニウム塩、ジアシロキシエチルアンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、ポリエチレンポリイミン、カチオン化セルロース、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0036】
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ酢酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルジメチルアンモニオ酢酸塩、アルキルアミドプロピルジメチルアンモニオ酢酸塩、アルキルスルホベタインなどが挙げられる。
【0037】
本発明に係る乳化組成物は、油性成分を上記乳化剤で水に乳化することにより得られる水中油型乳化組成物である。
【0038】
該油性成分としては、常温の形態として固体状、ペースト状、液体状のいずれでも良く、樹脂、油、有機溶剤等の水不溶成分が挙げられる。樹脂としては、例えば、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ブロックイソシアナート、アミノ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。油としては、例えば、パラフィン、脂肪酸とアルコールのエステル、トリグリセライド、シリコーン油等が挙げられる。有機溶剤としては、常温で液体であるなら揮発性、不揮発性のどちらでも良く、例えば、低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、低級脂肪酸、芳香族炭化水素、ハロゲン化アルキルなどが挙げられる。該油性成分としては、これらの樹脂、油及び有機溶剤の2種以上を混合したものであってもよく、また、例えば、樹脂や油にブタノールやブチルセロソルブ等の低級アルコール系溶剤(親水性有機溶剤)などを含有させたものであってもよい。
【0039】
本発明における乳化組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、難燃剤、加水分解防止剤、潤滑剤、可塑剤、充填剤、貯蔵安定剤といった添加剤を適宜配合することができる。
【0040】
乳化方法としては特に限定されず、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は、例えば、攪拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独攪拌、およびこれらを組み合わせた複合攪拌など、種々使用可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[製造例1]オレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリシジルエーテルの合成
100mLのガラス製ナスフラスコに、石井義朗著「非イオン界面活性剤」(誠文堂新光社)第2章に記載の方法で得たオレイルセチルアルコール−4EO付加体(オレイルアルコールとセチルアルコールの混合物[C18F1:40%、C18:15%、C16F1:7%、C16:25%、その他:残部]のエチレンオキサイド4モル付加物、ОHV換算値で分子量427)30g、48%水酸化ナトリウム水溶液23.4g及びテトラメチルアンモニウムクロライド0.54gを仕込み、50℃まで昇温させ、激しく撹拌しながらエピクロロヒドリン7.80gをシリンジを用いて30分かけて滴下し、そのまま5時間反応させた。得られた反応混合物を室温まで冷却し、有機層を水洗した。この有機層を減圧乾燥し、オレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリシジルエーテルを得た。
【0043】
[製造例2]ラウリルアルコール−4PO−3EO付加体のモノグリシジルエーテルの合成
オレイルセチルアルコール−4EO付加体に代えてラウリルアルコール−4PO−3EO付加体を使用した他は、製造例1と同様の方法でラウリルアルコール−4PO−3EO付加体のモノグリシジルエーテルを得た。
【0044】
[製造例3]ポリウレタン(A)の合成
500mLのガラス製セパラフラスコに、PEG6000(第一工業製薬(株)、OHV換算値で分子量8,200)を150g(1.0mol部)仕込み、窒素雰囲気下、100℃で溶解した。これに水酸化カリウム0.31gを加え、窒素を吹き込みながら少なくとも20mbarに減圧し、150℃で30分間撹拌して水を除去した。次に、エポゴーセー2EH(四日市合成(株)、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量189)4.15g(1.2mol部)を加え、150℃で4時間反応させた。その後、90℃まで冷却し、安息香酸0.81gを添加して中和を行なった。続いて、少なくとも10mbarの減圧下でトルエンとの共沸蒸留により乾燥し、トルエン300gを加えて再び減圧下でトルエン約50mLを留去した後、窒素雰囲気下でジブチルスズジラウレート0.0856、イソホロンジイソシアナート3.66g(0.9mol部)を順次加え、そのまま4時間反応させた。反応終了物からトルエンを留去し、ポリウレタン(A)を得た。
【0045】
[製造例4]ポリウレタン(B)の合成
エポゴーセー2EHに代えてエピオールSB(日油(株)製、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量238)5.66g(1.3mol部)を使用した他は、製造例3と同様の方法でポリウレタン(B)を得た。
【0046】
[製造例5]ポリウレタン(C)の合成
PEG6000に代えてエパン485(第一工業製薬(株)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンオキサイド含有率=85重量%、OHV換算値で分子量7100)130g(1.0mol部)、エポゴーセー2EHに代えてDY−BP(四日市合成(株)製、ブチルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量133)2.68g(1.1mol部)を使用した他は、製造例3と同様の方法でポリウレタン(C)を得た。
【0047】
[製造例6]ポリウレタン(D)の合成
500mLのガラス製セパラフラスコに、PEG6000(第一工業製薬(株)、OHV換算値で分子量8,200)を150g(1.0mol部)仕込み、窒素雰囲気下、100℃で溶解した。これに水酸化カリウム0.31gを加え、窒素を吹き込みながら20mbarに減圧し、150℃で30分間撹拌して水を除去した。次に、DMF50mLおよび製造例1で合成したオレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリシジルエーテル10.1g(1.1mol部)を加え、150℃で5時間反応させた。その後、90℃まで冷却し、安息香酸0.81gを添加して中和を行なった。続いて、少なくとも10mbarの減圧下でトルエンとの共沸蒸留により乾燥し、トルエン300gを加えて再び減圧下でトルエン約50mLを留去した後、窒素雰囲気下でジブチルスズジラウレート0.0856、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナート2.46g(0.8mol部)を順次加え、そのまま4時間反応させた。反応終了物からトルエンを留去し、ポリウレタン(D)を得た。
【0048】
[製造例7]ポリウレタン(E)の合成
オレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリシジルエーテルに代えてラウリルアルコール−4PO−3EO付加体のモノグリシジルエーテル12.3g(1.1mol部)、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナートに代えてイソホロンジイソシアナート 3.25g(0.8mol部)を使用した他は、製造例6と同様の方法でポリウレタン(E)を得た。
【0049】
<水溶性アルキレングリコール(b)の水酸基消費率>
トルエンで乾燥後の付加生成物、即ちウレタン化工程前のもの約50mgをそれぞれサンプリングし、13C−NMRを測定して上記式(I)により(b)の水酸基消費率を求めた。
【0050】
<分子量測定>
得られたポリウレタン(A)〜(E)の重量平均分子量は、テトロヒドロフランを溶媒に用いてGPCにより求めた。GPは標準サンプルとして分子量327、2000、8200、19700のポリエチレングリコールで校正したものを用いた。
【0051】
【表1】

【0052】
<乳化試験例>
下記表2、3に示す配合(重量部)に従い、油性成分と上記製造例3〜7により得られたポリウレタン(A)〜(E)または比較の乳化剤(a)〜(f)をディスパーにて混合しながら、水を徐々に加えて水中油型乳化組成物を調製した。得られた乳化組成物はガラス瓶に入れ、25℃及び40℃の恒温槽にそれぞれ放置し、乳化安定性を評価した。また、調製した乳化組成物に該組成物と同量の水を加えて均一になるまでディスパーにて混合し、上記と同様の方法にて25℃及び40℃における希釈安定性を評価した。
【0053】
さらに、25℃の保存で1週間以上の安定性が確認されたものについてはB型粘度計にてその粘度を測定し、流動性の目安とした。粘度の測定は、回転数30rpmで行い、粘度が6千mPa・sを超える高粘度のものについては回転数6rpmで測定した。
【0054】
表2、3に記載した油性成分、及び比較の乳化剤の詳細は下記の通りである。また、乳化安定性、希釈安定性及び流動性の評価基準は下記の通りである。
【0055】
・油性成分
アルキド樹脂:PCF−30(伊藤製油(株)製、ヒマシ油脂肪酸縮合物)
アミノ樹脂:MX−410((株)三和ケミカル製、70%混合エーテル化メラミン樹脂)
エポキシ樹脂:jER828(ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
流動パラフィン:ハイホワイト(新日本石油(株)製)
【0056】
・比較の乳化剤
乳化剤(a):ポリオキシエチレン(13)トリデシルエーテル
乳化剤(b):20%ドデシルアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液
乳化剤(c):ポリオキシエチレン(295)ポリオキシプロピレン(45)ブロックコポリマーグリコール
乳化剤(d):44%ポリアクリル酸ナトリウム水溶液
乳化剤(e):30%スチレン−マレイン酸ハーフエステルコポリマーアンモニウム塩水溶液
乳化剤(f):ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキサイド付加物
【0057】
・乳化安定性
◎:均一な乳化状態を1ヶ月間以上維持するもの
○:均一な乳化状態を1週間以上、1ヶ月未満維持するもの
△:均一な乳化状態を3日以上、1週間未満維持するもの
×:3日以内に分離または沈殿するもの
【0058】
・希釈安定性
乳化安定性と同じ上記基準で判定した。
【0059】
・流動性
○:25℃での粘度が5千mPa・s未満のもの
△:25℃での粘度が5千mPa・s以上、1万mPa・s未満のもの
×:25℃での粘度が1万mPa・s以上のもの
−:乳化安定性が1週間未満であるため、粘度測定せず
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
結果は表2、3に示した通りである。本発明品に係るポリウレタン(A)〜(E)からなる乳化剤は、幅広い組成、材質の油性成分に対して、乳化性、流動性、及びそれらの保持性(安定性)に優れていた。また、これらの乳化剤を用いた乳化組成物は水溶液濃度の影響を受けにくく、希釈安定性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る乳化剤は、塗料、接着剤、紙加工剤、繊維加工剤、モルタル改質剤等に配合する樹脂の乳化に好適に利用することができ、これら用途の樹脂の水系化の幅を広げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるグリシジルエーテル類(a)と、分子鎖の両末端に水酸基を有する水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを反応させて付加物となし、次いでこの付加物を有機ジイソシアナート(c)と反応させて得られる化合物を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物用乳化剤。
【化1】

(式中、Rは、炭素数4〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、フェニル基、フェノール誘導体残基、又は、炭素数7〜22のアルキルフェニル基もしくはアルケニルフェニル基を表し、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、その平均値が0〜30の数である。)
【請求項2】
前記化合物は、前記付加物の13C−NMR測定により求められる積分値に基づいて次式より求められる水溶性ポリアルキレングリコール(b)の水酸基消費率が60〜100%であることを特徴とする、請求項1に記載の水中油型乳化組成物用乳化剤。
【数1】

【請求項3】
油性成分を請求項1又は2に記載の乳化剤で水に乳化することにより得られることを特徴とする水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2011−88113(P2011−88113A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245563(P2009−245563)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】