説明

乳化剤

【課題】プラスチック廃棄物の再資源化を可能にした乳化剤を提供する。
【解決手段】多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩に酸を添加して、その構成単量体である多塩基性部におけるアルカリ塩からなる基を酸と反応させて多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩を含有する乳化剤を得る。前記多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩は、ポリエステル部と架橋剤を含む熱硬化性樹脂をアルカリ共存下で亜臨界水分解して生成した架橋剤とポリエステル部を構成する有機酸の化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物のほとんどは埋立処分されていた。しかしながら、埋立用地の確保が困難であること、埋立後の地盤の不安定化という問題があり、この熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物を再資源化することが望まれている。
【0003】
これまで超臨界水または亜臨界水を反応媒体とする熱硬化性樹脂の分解方法が提案されているが(例えば、特許文献1,2参照)、これらの方法ではその分解物をそのまま再利用することができなかった。そこで特許文献3−5では、上記分解方法を応用して、分解物に新たに変性を施し、再利用できるようにした熱硬化性樹脂の回収・再利用方法を提案している。さらに本出願人は、熱硬化性樹脂を低収縮剤として再利用を可能にした変性スチレンフマル酸共重合体を提案している(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−24274号公報
【特許文献2】特開2004−155964号公報
【特許文献3】特開2005−336322号公報
【特許文献4】特開2006−36938号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/057250号パンフレット
【特許文献6】特開2008−31412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで報告されている文献はいずれも熱硬化性樹脂の分解が主な目的であり、その分解物の特性が十分に検討されておらず、再利用のための用途が限定的であった。
【0006】
本発明は以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、プラスチック廃棄物の再資源化を可能にした乳化剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0008】
第1に、本発明の乳化剤は、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩に酸を添加して、その構成単量体である多塩基性部におけるアルカリ塩からなる基を酸と反応させて得られた多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩を含有する。前記多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩は、ポリエステル部と架橋剤を含む熱硬化性樹脂をアルカリ共存下で亜臨界水分解して生成した架橋剤とポリエステル部を構成する有機酸の化合物である。
【0009】
第2に、上記第1に発明において、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩は、その構成単量体である多塩基酸部にカルボン酸のアルカリ塩からなる基とカルボキシル基を各々少なくとも1個有する。
【0010】
第3に、上記第1または第2の発明において、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩は、ポリエステル部と架橋剤を含む熱硬化性樹脂を亜臨界水分解した後の多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩を含む分解液にpHが4〜7になるように酸を添加して得られる。
【0011】
第4に、上記第2の発明において、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩における多塩基酸部のカルボキシル基がアルコールでエステル化されている。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の発明によれば、一般的に水に混ざらない疎水性溶媒と水とを均一に相溶させることができ、各種反応用途、水系接着剤に利用できる。また水と油の混合のみならず、相溶性の悪い樹脂同士の馴染みを改善することもできる。またポリマーアロイの助剤として使用することも可能である。
【0013】
第2および第3の発明によれば、多塩基酸部において強親水基であるカルボン酸のアルカリ塩からなる基とカルボキシル基とを共存させ、乳化剤として一層効果的に機能させることができる。
【0014】
第4の発明によれば、低極性の疎水性溶媒と水との界面に作用して均一分散且つ安定化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
乳化剤を製造するために用いられる熱硬化性樹脂は、ポリエステルを架橋して得られたものであってポリエステル部と架橋剤を含むものである。
【0017】
ポリエステル部は、多価アルコールと多塩基酸とを重縮合させることにより、多価アルコール残基と多塩基酸残基とがエステル結合を介して互いに連結したポリエステルに由来する。ポリエステル部は、不飽和多塩基酸に由来する二重結合を含んでいてもよい。
【0018】
熱硬化性樹脂に含まれる架橋剤は、ポリエステル部を架橋する部分である。架橋剤とポリエステル部の結合位置および結合様式も特に限定されない。
【0019】
したがって、「ポリエステル部と架橋剤を含む熱硬化性樹脂」とは、多価アルコールと多塩基酸から得られるポリエステルが架橋剤を介して架橋された網状の熱硬化性樹脂(網状ポリエステル樹脂)である。このような熱硬化性樹脂としては、本発明を適用した時に上記した効果を得ることができるものであれば、いかなる態様の樹脂であってもよい。すなわち、樹脂の種類と構造、架橋剤の種類、量及び架橋度等に制限はない。
【0020】
熱硬化性樹脂は主として加熱等により硬化(架橋)された樹脂であるが、本発明を適用した時に上記した効果を得ることができるものであれば加熱などにより硬化(架橋)が進行する未硬化の樹脂または部分的に硬化された樹脂であってもよい。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えば、多価アルコールと不飽和多塩基酸からなる不飽和ポリエステルが架橋剤により架橋された網状ポリエステル樹脂が挙げられる。例えば浴室ユニットやシステムキッチン等のプラスチック成形品として用いられるものであり、プラスチック成形品の廃棄物であってもよい。
【0022】
ポリエステル部の原料である多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0023】
ポリエステル部の原料である多塩基酸の具体例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和二塩基酸等よりなる不飽和多塩基酸が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。また、無水フタル酸等の飽和多塩基酸を不飽和多塩基酸と併用してもよい。
【0024】
多価アルコールと多塩基酸の共重合体であるポリエステルを架橋する架橋剤は、不飽和の疎水性ビニルモノマーが用いられる。具体例としては、スチレンやメタクリル酸メチル、モノクロロスチレン、ジアリルフタレート、トリアリルフタレート等が挙げられる。
【0025】
また本発明において分解の対象となる熱硬化性樹脂には、炭酸カルシウムや水酸化アルミニウム等の無機充填材、ロービングを切断したチョップドストランド等のガラス繊維等の無機物、その他の成分が含有されていてもよい。
【0026】
乳化剤を得るにあたっては、まず、溶媒としての水を熱硬化性樹脂に加え、アルカリ共存下、温度と圧力を上昇させて亜臨界状態にした水(以下、亜臨界水ともいう)で熱硬化性樹脂を分解する。溶媒の添加量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して好ましくは200〜500質量部の範囲である。
【0027】
本発明において「亜臨界水」とは、水の温度が水の臨界点(臨界温度374.4℃、臨界圧力22.1MPa)以下であって、且つ、温度が140℃以上であり、その時の圧力が0.36MPa(140℃の飽和水蒸気圧)以上の範囲にある状態の水をいう。この場合、イオン積が常温常圧の水の約100〜1000倍になる。また、亜臨界水の誘電率は有機溶媒並みに下がることから、亜臨界水の熱硬化性樹脂表面に対する濡れ性が向上する。これらの効果によって加水分解が促進され、熱硬化性樹脂をモノマー化および/またはオリゴマー化することができる。
【0028】
亜臨界水による熱硬化性樹脂の分解処理は、一般的に熱分解反応および加水分解反応によって起こるものであり、亜臨界水の温度や圧力を適切な条件とすることにより、選択的に加水分解反応が起こる。これにより、熱硬化性樹脂のポリエステル部がその由来の原料であるモノマー(多価アルコールと多塩基酸)に分解される。また、架橋剤とポリエステル部を構成する有機酸の化合物である多塩基酸ビニルモノマー重合体に分解される。なお、架橋剤とポリエステル部を構成する有機酸の化合物とは、ポリエステル部の多塩基酸と架橋剤との化合物(反応物)である。例えば、ポリエステル部がフマル酸基を有し、架橋剤がスチレンポリマーである場合、上記化合物としてスチレンフマル酸共重合体が得られる。したがって、上記の熱硬化性樹脂を亜臨界水に接触させて処理することにより、多価アルコールと多塩基酸および多塩基酸ビニルモノマー重合体に分解することができる。分解して得られた多価アルコールと多塩基酸は、回収して熱硬化性樹脂の製造原料として再利用することができる。
【0029】
熱硬化性樹脂の亜臨界水分解にあたり、アルカリを共存させている。アルカリは、分解反応の触媒として作用し、分解によって得られる多塩基酸ビニルモノマー共重合体を水溶性の樹脂として生成させるための触媒である。アルカリを水に共存させることにより、多塩基酸ビニルモノマー共重合体におけるカルボン酸部の末端部分がアニオン性の塩(多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩)となる。これにより、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の全体が水溶性を示す。このようなアルカリとしては、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸アンモニウムや硫酸アンモニウム等のアルカリ性塩、その他水酸化アンモニウム(アンモニア水)等を例示することができ、溶媒に含有させている。溶媒中のアルカリの含有量は、反応効率やコスト面を考慮すると、一般的には、上記熱硬化性樹脂を分解して得られる多塩基酸ビニルモノマー共重合体に含まれる酸残基の理論モル数に対して、2モル当量以上10モル当量以下とすることが好ましい。
【0030】
分解反応時における亜臨界水の温度は、熱硬化性樹脂の熱分解温度未満であり、好ましくは180〜270℃の範囲である。分解反応時の温度が180℃未満であると、分解処理に多大な時間を要するため処理コストが高くなる場合があり、さらに多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩の収率が低くなる傾向がある。分解反応時の温度が270℃を超えると、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩の熱分解が著しくなり、多塩基酸ビニルモノマー共重合体が低分子化されて多塩基酸ビニルモノマー共重合体として回収することが困難になる傾向がある。亜臨界水による処理時間は、反応温度等の条件によって異なるが、通常は1〜8時間である。分解反応時における圧力は、反応温度等の条件によって異なるが、好ましくは1〜15MPaの範囲である。
【0031】
多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩の一例として、ポリエステル部がフマル酸基を有し架橋剤がスチレンポリマーである熱硬化性樹脂をアルカリ共存下で亜臨界水分解して生成したスチレンフマル酸共重合体のアルカリ塩を下記式(1)に示す。
【0032】
【化1】

【0033】
式中のmは1〜3の数値、nは3〜300の数値、Mはアルカリ金属のカチオンまたはアンモニウムのカチオンを示す。
【0034】
以上のように、アルカリ共存下で熱硬化性樹脂を亜臨界水分解することで、分解反応により生成したポリエステル由来のモノマー(多価アルコールと多塩基酸)とスチレンフマル酸共重合体等の多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩は水可溶成分として水溶液中で回収される。未分解の熱硬化性樹脂は固形分として水溶液と分離して回収される。熱硬化性樹脂に無機物等を含む場合には、無機物等は未分解の熱硬化性樹脂とともに固形分として回収される。
【0035】
ろ過等の方法により固形分を回収した後の水溶液は、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩を含有する。この多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩に酸を添加し、部分的に酸と反応させて多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩とし、乳化剤を得る。すなわち、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩の構成単量体である多塩基性部において、複数ある、アルカリ塩からなる基の一部を酸と反応させる。
【0036】
ここでいう酸は、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩をブレンステッド塩基とする強酸であり、塩酸や硫酸等が挙げられる。
【0037】
酸の添加量は、熱硬化性樹脂の亜臨界水分解で共存させる初期のアルカリの量に左右される。例えば、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩がその構成単量体である多塩基酸部にカルボン酸のアルカリ塩からなる基を複数有している場合、カルボン酸のアルカリ塩からなる基を全てカルボキシル基に変化させる過剰な酸の添加は相応しくない。多塩基酸部にカルボン酸のアルカリ塩からなる基を残すことが重要である。そのためには、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩を含有する水溶液に酸を添加し、その水溶液のpHが4〜7になるように調整することが好ましい。pHが4未満の場合、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩がほぼ100%カルボン酸化し、不溶性の樹脂として水溶液中に析出する場合がある。この場合、水との馴染みが不足して乳化剤としての効果が期待できない。一方、pH7を超える場合、初期の添加したアルカリの残分の中和に酸が消費され、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩自体はほとんど変化しない。この場合、疎水性溶媒とも馴染まず、また水溶液中に析出もしないため分離することもできないので好ましくない。
【0038】
多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩の一例として、上記式(1)のスチレンフマル酸共重合体のアルカリ塩においてフマル酸部におけるアルカリ塩からなる基の一つを酸と反応させたスチレンフマル酸共重合体の部分アルカリ塩を下記式(2)に示す。
【0039】
【化2】

【0040】
式中のmは1〜3の数値、nは3〜300の数値、Mはアルカリ金属のカチオンまたはアンモニウムのカチオンを示す。
【0041】
また、多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩が100%カルボン酸化された多塩基酸ビニルモノマー共重合体の一例を下記式(3)に示す。下記式(3)で表されるスチレンフマル酸共重合体は、上記式(1)のスチレンフマル酸共重合体のアルカリ塩においてフマル酸部におけるアルカリ塩からなる基が全て酸と反応している。
【0042】
【化3】

【0043】
式中のmは1〜3の数値、nは3〜300の数値を示す。
【0044】
上記したように多塩基酸ビニルモノマー共重合体のアルカリ塩を含有する水溶液にpHが4〜7になるように酸を添加して得られた多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩は、多塩基酸部にカルボキシル基を少なくとも1個有している。また多塩基酸部には強親水基であるカルボン酸のアルカリ塩からなる基も少なくとも1個有している。このため、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩を含む乳化剤は、一般的に水に混ざらない疎水性溶媒と水とを均一に相溶させることができる。例えば、1−オクタノール(疎水性溶媒)と水を混合すると、通常下層に水がたまって分離するが、上記乳化剤を用いることで相中に均一に分散させることができる。油相(疎水性溶媒)と水相にそれぞれ溶解している物質同士の反応を促すことができるなど各種反応用途に利用できる。水系接着剤にも利用できる。またFRP等の熱硬化性樹脂の亜臨界水分解で得られるのでプラスチック廃棄物の再資源化が可能になる。さらに、上記乳化剤は、メタノールやエタノール等の親水性溶媒と比較的極性が近い比誘電率が15〜30の疎水性溶媒や直鎖部分の炭素数が5以上の疎水性の1級アルコール等に溶解させることができる。これら疎水性溶媒は本来水を混和せず水と2相分離するものであるが、上記乳化剤存在下においては水を添加して撹拌することにより界面がなくなり、一相の状態を保持することが可能となる。また水相と油相の混合のみならず、相溶性の悪い樹脂同士の馴染みを改善することもできる。またポリマーアロイの助剤として使用することも可能である。
【0045】
前記多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩において、多塩基酸部のカルボキシル基をアルコールでエステル化したものを乳化剤として利用することができる。具体的には、前記多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩にアルコールを加え、そのアルコールの沸点以下の温度で反応させて多塩基酸部のカルボキシル基との脱水縮合によりエステル化を施すものである。このようなエステル化を施すことにより、多塩基酸部のカルボキシル基(−COOH)がアルコール(R−OH)と反応して−COORとなり、疎水性溶媒に馴染みやすい。多塩基酸部には、−COONa等の強親水基のカルボン酸のアルカリ塩からなる基を構造中に残存しているので、親水性溶媒にも馴染みやすい。
【0046】
多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩に加えるアルコールの量は、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩の2〜20倍量が好ましい。2倍量未満の場合、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩がアルコールに浸らず反応が進行しないので好ましくない。20倍量を超える場合、反応性に差異がなく、コスト面で支障をきたすことがあるので好ましくない。
【0047】
反応温度は、アルコールの沸点以下の温度である。例えば、1−オクタノール(沸点:195℃)を用いる場合、195℃以下で加熱撹拌することが望ましい。
【0048】
アルコールは、炭素数が多いほど疎水性溶媒への溶解性が良くなるため、炭素数4以上、特に好ましくは炭素数6〜10程度のアルコールを例示することができる。アルコールは、その分子中にアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールの中でも第1級または第2級アルコールが好ましい。特に好ましいアルコールはアルキルアルコールであり、具体例として、1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−デカノール、2−デカノール等が挙げられる。
【0049】
多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩において多塩基酸部のカルボキシル基をアルコールでエステル化したもの(多塩基酸ビニルモノマー共重合体アルコール改質物の部分アルカリ塩)は、スチレンやベンゼン等の低極性の疎水性溶媒にも馴染みやすくなる。したがって、疎水性溶媒(極性の低い疎水性溶媒を含む)と水の界面に作用させて均一分散且つ安定化させることができる。
【0050】
以上のようにして得られた多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩(多塩基酸ビニルモノマー共重合体アルコール改質物の部分アルカリ塩も含む)を含む乳化剤は、用途に応じて希釈等の方法により適宜所望の濃度に調整して使用される。使用の際には予め疎水性溶媒に溶解させておくことができる。その場合の乳化剤の溶解量は、疎水性溶媒中、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩が10〜25wt%の範囲であることが好ましい。10wt%未満の場合、乳化剤として十分な界面活性作用が得られない場合がある。25wt%を超える場合、構成単量体中に親水基であるカルボン酸のアルカリ塩からなる基を含むため、疎水性溶媒に溶解しきれずに析出してしまう場合がある。溶解しにくい場合にはメタノールやアセトン等の親水性溶媒を添加して溶解状態を安定化させることもできる。多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩が溶解している疎水性溶媒に水を混入すると二相分離せずに均一に一相に混ざり合って相溶する。このように本発明の乳化剤は疎水性溶媒と水とを均一に相溶させることができる。
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびジプロピレングリコールからなるグリコール類と、無水マレイン酸とを等モル量で重縮合させて不飽和ポリエステルを合成した。この不飽和ポリエステルのワニス(溶媒未添加)に架橋剤のスチレンを等量配合した液状樹脂100質量部に、炭酸カルシウム165質量部とガラス繊維90質量部を配合した硬化物を準備し、計量しやすいように2mmアンダー程度に粉砕した。
【0053】
硬化物4gに対し、0.8NのNaOH(水酸化ナトリウム)水溶液16mlを反応溶媒として反応管に仕込み、230℃(2.8MPa)の恒温槽に浸漬し、反応管内のNaOH水溶液を亜臨界状態にして2時間浸漬したまま放置し、硬化物の分解処理を行った。その後、反応管を恒温槽から取り出して冷却槽に浸漬し、反応管を急冷して室温まで戻した。
【0054】
分解処理後の反応管の内容物は、スチレンフマル酸共重合体のカルボン酸塩(ナトリウム塩)を含む水可溶分樹脂と、炭酸カルシウムやガラス繊維等を含む固形分とを有する。この内容物をろ過することにより固形分と分離して反応管から樹脂水溶液(pH12.5)を回収した。この樹脂水溶液のpHが4.5になるまで硫酸を添加して、末端カルボン酸(カルボキシル基)とカルボン酸塩(カルボン酸のナトリウム塩からなる基)の両方を含むスチレンフマル酸共重合体の部分カルボン酸塩の固形物を析出させた。このスチレンフマル酸共重合体の部分カルボン酸塩の固形物0.4gを1−オクタノール(疎水性溶媒)2.0gに添加して約60℃で加熱攪拌した後、水10gを加えて強攪拌し、10分間静置して疎水性溶媒と水との混和性を確認した。また疎水性溶媒に対するスチレンフマル酸共重合体の部分カルボン酸塩の固形物の溶解性も確認し、固形物が溶解したときは「○」として評価した。その結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1で得られたスチレンフマル酸共重合体の部分カルボン酸塩の固形物0.4gを1−オクタノール5gに浸して180℃で加熱攪拌してエステル化反応によりスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩を生成した。その後さらに加熱して余分な1−オクタノールを揮発させてスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物を得た。このスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物0.4gを1−オクタノール(疎水性溶媒)2.0gに添加して約60℃で加熱攪拌した後、水10gを加えて強攪拌し、10分間静置して疎水性溶媒と水との混和性を確認した。また疎水性溶媒に対するスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物の溶解性も確認した。その結果を表1に示す。
<実施例3>
実施例2で得られたスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物0.4gをスチレン(疎水性溶媒)2.0gに添加して約60℃で加熱攪拌した後、水10gを加えて強攪拌し、10分間静置して疎水性溶媒と水との混和性を確認した。また疎水性溶媒に対するスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物の溶解性も確認した。その結果を表1に示す。
<比較例>
実施例1において回収した樹脂水溶液(pH12.5)のpHが2.0になるまで硫酸を添加して固形物を析出させた。この固形物は、樹脂水溶液に含まれるスチレンフマル酸共重合体のカルボン酸塩においてその構成単量体である多塩基性部のアルカリ塩からなる基が全て酸との反応によりカルボキシル基に変化したスチレンフマル酸共重合体の固形物である。このスチレンフマル酸共重合体の固形物0.4gを1−オクタノール(疎水性溶媒)2.0gに添加して約60℃で加熱攪拌した後、水10gを加えて強攪拌し、10分間静置して疎水性溶媒と水との混和性を確認した。また疎水性溶媒に対するスチレンフマル酸共重合体の固形物の溶解性も確認した。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果より、実施例1−3では、スチレンフマル酸共重合体の部分カルボン酸塩の固形物やスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物は疎水性溶媒に溶解し、またその疎水性溶媒は水と乳化することが確認できた。したがって、スチレンフマル酸共重合体の部分カルボン酸塩の固形物またはスチレンフマル酸共重合体オクチル化物部分ナトリウム塩の固形物は乳化剤として利用可能である。一方、比較例では、スチレンフマル酸共重合体の固形物は疎水性溶媒に溶解するものの、その疎水性溶媒は水と乳化せず固形分が析出したことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル部と架橋剤を含む熱硬化性樹脂をアルカリ共存下で亜臨界水分解して生成した架橋剤とポリエステル部を構成する有機酸の化合物である多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩に酸を添加して、その構成単量体である多塩基性部におけるアルカリ塩からなる基を酸と反応させて得られた多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩を含有することを特徴とする乳化剤。
【請求項2】
多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩は、その構成単量体である多塩基酸部にカルボン酸のアルカリ塩からなる基とカルボキシル基を各々少なくとも1個有することを特徴とする請求項1に記載の乳化剤。
【請求項3】
多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩は、ポリエステル部と架橋剤を含む熱硬化性樹脂を亜臨界水分解した後の多塩基酸ビニルモノマー共重合体の水溶性アルカリ塩を含む分解液にpHが4〜7になるように酸を添加して得られることを特徴とする請求項1または2に記載の乳化剤。
【請求項4】
請求項2に記載の乳化剤において、多塩基酸ビニルモノマー共重合体の部分アルカリ塩における多塩基酸部のカルボキシル基がアルコールでエステル化されていることを特徴とする乳化剤。

【公開番号】特開2011−206712(P2011−206712A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77725(P2010−77725)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】