説明

乳化安定化組成物及びそれを含む大豆発酵物含有食品

【課題】大豆発酵物が含有されている大豆発酵物含有食品において、新しい効能を見出すことである。
【解決手段】食品に含有され、乳化を安定させる食品の乳化安定化組成物であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させ、アグリコン型イソフラボンの全イソフラボン中の割合が50%以上になるように調整されている大豆発酵物を主成分とする食品の乳化安定化組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆発酵物が含有されている大豆発酵物含有食品、並びに調理時に食品に油を吸収させる量を抑制する食品の吸油量抑制組成物、容器又はフィルムとの剥離性を向上させる食品の剥離性向上組成物、乳化を安定させる食品の乳化安定化組成物、糖類の結晶化を阻害する糖類の結晶化阻害組成物、油脂の結晶化を阻害する油脂の結晶化阻害組成物、メイラード反応を促進させるメイラード反応促進組成物、異臭又は異味を抑制する食品の異臭・異味抑制組成物、及び澱粉食品の老化の進行を遅延させる澱粉食品の老化遅延化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、我が国においては、大豆を発酵分解処理させた味噌が様々な形態により食されている。この発酵分解処理の対象である大豆は、抗酸化作用、抗癌作用、骨粗しょう症予防作用、コレステロール低下、胃潰瘍防止、エストロゲン作用など様々な生理作用があることが知られている。
【0003】
このように発酵分解処理された大豆には様々な機能があるが、信州味噌や仙台味噌を代表とする辛口の米味噌、西日本に多い麦味噌、愛知・岐阜の豆味噌など、味噌には、塩分が11〜13重量%含まれており、含有量の多い食品である。五訂日本食品標準成分表においては、食塩摂取量を成人の場合10g/日以下にすることを目標にしているが、味噌汁1杯を食することにより2.4g前後の食塩を摂取することになるので、味噌に有用な機能が含まれているにも拘らず、塩分が多いことから多くの味噌を摂取するのが好ましくないとされている。
【0004】
このように味噌に含まれている塩分が多いため、特に腎臓疾患、高血圧、又は心臓疾患などのナトリウム摂取制限を必要とする病者用に、ナトリウム量として通常の味噌の半分以下の減塩味噌が特別用途食品(病者用食品)として規格されている。また、病者用でない一般食品として、ナトリウム量が通常の味噌より15重量%以上カットされた減塩味噌や低塩味噌(みその表示に関する公正競争規約施行規則第2条(4)に記載されている。)などが市販されている。さらに、特許文献1には、無塩味噌や無塩味噌をカプセルやペーストにしたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平13−346536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、大豆発酵物を食品に含有させた場合の効能については、ほとんど研究されておらず、大豆発酵物が食品の分野においてどのような効用を有するかが解明されていないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明は、大豆発酵物が含有されている大豆発酵物含有食品において、新しい効能を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含有さることによって、様々な効能を発揮できることを見出した。すなわち、本発明は、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物が含有されている大豆発酵物含有食品である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵させることにより、大豆発酵物が含有されている大豆発酵物含有食品において、新しい効能を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る大豆発酵物含有食品の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る大豆発酵物含有食品において、前記発酵分解処理は、塩が含まれないか、その含有量が5重量%以下の状態で行なわれることが好ましく、3重量%以下の状態で行なわれることが特に好ましい。このように塩を含有させないか、あるいは塩の含有量を少なくすることによって、本発明に係る大豆発酵物含有食品を多量に摂取しても塩分の取り過ぎになることはなく、大豆発酵物に含まれる様々な栄養成分や機能性成分を多く摂取することができる。
【0012】
本発明に係る大豆発酵物含有食品において、前記大豆発酵物は、アグリコン型イソフラボンの全イソフラボン中の割合が50%以上になるように調整されていることが好ましい。
【0013】
本発明に係る大豆発酵物含有食品に含まれる大豆発酵物は、大豆を水中に少なくても6時間、好ましくは10時間浸漬又は水を含浸させた後、柔らかくなるまでゆでる又は蒸すなどの加熱を行った後に発酵分解処理を行なうことが好ましく、その発酵分解処理の前にミンチ機やミキサーにより破砕又は粉砕し細片状またはペースト状にすることが好ましい。このように発酵分解処理の前に加熱処理を行なうことにより、雑菌であるグラム陰性菌や土壌菌などが増殖するのを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る大豆加工食品においては、真菌として、Aspergillus属、Rhizopus属、Monascus属などを用いることができ、具体的には、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus awamori、Aspergillus kawachil、Rhizopus delemer、Monascus ruberなどを用いることができる。これらの真菌の増殖を補助する目的で米、麦、そばなどの穀類にこれら真菌類を増殖させた状態で用いても良い。
【0015】
本発明に係る大豆加工食品においては、酵母類として、Zygosaccharomyces属、Saccharomyces属、Candida属、Terragenococcus属、Torulopsis属などを用いることができ、具体的には、Zygosaccharomyces ruxii、Saccharmonyces cerevisiae、Candida etchellsii、Terragenococcus halophilus、Torulopsis versatilisなどを用いることができ、また乳酸菌としてEnterococcus属、Pediococcus属、Streptococcus属、Lactobacillus属などを用いることができ、具体的には、Enterococcus faecalis、Pediococcus halophilus、Streptococcus faecalis、Lactobacillus plantarumなどを用いることができる。
【0016】
これらの発酵分解処理は、真菌、酵母及び乳酸菌の少なくとも1以上を加えた後、4〜80℃で行なわれ、15〜50℃で行なうことが好ましく、30〜45℃で行なうことがさらに好ましい。また、発酵時間は、12時間以上、好ましくは1日以上、さらに好ましくは14日以上であり、1年以内、好ましくは6ヶ月以内、さらに好ましくは30日以内である。この発酵された状態の大豆加工物はペースト状態であり、水分含量が多いことからアルコールを添加したり、冷凍して流通することが好ましい。また、熱風乾燥、真空乾燥、真空凍結乾燥、ドラム乾燥などにより乾燥を行ない、粉末状、固形状として水分量を減らして室温においても保存できるようにしても良い。
【0017】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第1に調理時に食品が吸収する油の量を抑制させることができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、調理時に油による加工が施される食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、食品に含有され、調理時に食品が吸収する油の量を抑制させるための食品の吸油量抑制組成物又は吸油量抑制剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。これら食品の吸油量抑制組成物又は吸油量抑制剤が含まれた食品は、食品全体に混合されても良く、又はバッターなどの油と接する表面部分に混合されても良い。料理時に油による加工が施される食品としては、例えば、コロッケ、カツレツ、海老や魚など魚介類のフライなどパン粉を使う油調食品、魚や野菜のてんぷら、唐揚、フリッターなどバッター液がついた油調食品、並びにドーナツ、揚げパン、揚げ麺、揚げ春巻き、揚げ餃子、油揚げなどの菓子や惣菜類などがある。
【0018】
これら料理時に油による加工が施される食品は、油の吸油量が多いとべたついてクリスピーな食感を失ってしまうばかりでなく、最近の健康志向やダイエットなどの観点から敬遠される傾向にある。特開平2001−204373号公報には、大豆種皮を含有することを特徴とするパン粉が記載され、特開平3−143346号公報には、食品素材を多糖類やタンパク質などによりコーティングする方法が記載されているが、これらの方法では吸油量を十分に抑制することができない。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、調理時に吸油量を十分に減少させることができる。また、このような大豆発酵物を添加することにより、風味が増し、パン粉やバッターにおけるクリスピー性が増し、ドーナツや揚げパンにおいては、外側がパリッとさせておきながら、中はしっとり感を持続するという二次的効果を有する。
【0019】
吸油量抑制作用を効率良く発揮させるためには、前記大豆加工食品は、乾燥された状態において、食品に対して、0.1〜30重量%含有させることが好ましく、1〜10重量%含有させることがさらに好ましい。本発明に係る大豆発酵物含有食品、吸油量抑制組成物及び吸油量抑制剤において、前記大豆発酵物は、小麦粉、パン粉、バッター粉及び生地などに加えて使用されることが好ましく、またこれら小麦粉やパン粉、調味料などに前記大豆発酵物を予め加えて、揚げの素、フリッターの素、てんぷらの素、ドーナツの素などプレミックス製品として扱っても良い。
【0020】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第2に容器又はフィルムとの剥離性を向上させることができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、容器又はフィルムに接触させる食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、食品に含有され、容器又はフィルムとの剥離性を向上させる食品の剥離性向上組成物又は剥離性向上剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。容器又はフィルムに接触させる食品としては、蒸したり、焼いたりするなどの加工の際に容器やテンパンに流延される菓子、例えば蒸しケーキやマフィンなどや蒸す際に包装紙やフィルムの上に載せられる中華饅頭、蒸し饅頭などがある。
【0021】
これら容器又はフィルムに接触させる食品は、蒸したり、焼いたりした後、容器やフィルムに食品の一部がくっ付いてしまうという問題があるが、本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、食品に対する剥離性を向上させることができる。本発明において、剥離性向上作用を効率良く発揮させるためには、前記大豆加工食品は、乾燥状態において、食品に対して、0.1〜30重量%含有させることが好ましく、1〜10重量%含有されることがさらに好ましい。
【0022】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第3に乳化を安定させることができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、乳化加工が施された食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、食品に含有され、乳化を安定させる食品の乳化安定化組成物又は乳化安定化剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。乳化加工が施された食品としては、マヨネーズ、ドレッシング、アイスクリーム、マーガリン、ホイップクリーム、バタークリーム、チョコレート、チューインガム、ビスケット類、パン、ケーキ類などがある。
【0023】
従来の食品用乳化剤としては、合成により天然の油脂に糖などの親水基を結合させた合成品や、天然物から乳化剤成分を溶剤等により単離精製したものがある。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの合成物、並びにレシチン、サポニン、ステロールなどの天然物及びその誘導体などがある。近年、天然物志向から合成物としての乳化剤は、敬遠されつつあり、既存の天然物の乳化剤は、味が好ましくないという問題がある。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、乳化を安定させることができる。これは、レシチンやサポニンを含有する大豆から、レシチンやサポニンを単離することなく、乳化安定に用いているので、大豆そのものの粉末よりも強い乳化安定効果を示す。
【0024】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第4に糖類の結晶化を阻害することができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、糖類が含まれた食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、糖類に含有され、糖類の結晶化を阻害する糖類の結晶化阻害組成物又は結晶化阻害剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。糖類が含まれた食品としては、羊羹、ジャム、キャラメル、ヌガー飴、グミ、マシュマロ、半生ゼリー、煮豆及び餡など水溶液の溶解限界濃度近く、又はその濃度を超える糖類が含まれている食品がある。本発明において、糖類の結晶化の阻害には、糖類の結晶化を阻害することだけでなく、なきを防止することも含まれる。
【0025】
これら糖類が含まれた食品は、その製造過程で製品のバラツキ、種結晶の発生又は製品表面の乾燥により糖の溶解限界を超える場合、さらに製品保存時の温度変化によりしばしば製品に糖の結晶が発生しその品質を低下させる場合がある。特に水分活性を低く保ったまま甘味度を下げたり、低カロリー化するために従来の砂糖に代わり、甘味度の低いトレハロースやエネルギーを持たないエリスリトールなどの水に対して低溶解度の糖を使うことが多くなって、結晶化させない技術がより求められるようになっている。また、逆に結晶化しずらい溶解性が高く、空気中の水分を吸ってなきやすい糖質もある。これらは、澱粉を加水分解した水あめなどの糖に多く、製品の品質を下げるという問題がある。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、糖質の結晶化を阻害し、又はなきを防止することができる。
【0026】
本発明に係る大豆発酵物含有食品、第5に油脂の結晶化を阻害することができる効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、油脂が含まれた食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、油脂に含有され、油脂の結晶化を阻害する油脂の結晶化阻害組成物又は結晶化阻害剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。油脂が含まれた食品としては、チョコレートに使われるカカオ脂、クッキーやビスケットに使用されるショートニングやマーガリンなどがある。
【0027】
これら油脂が含まれた食品は、油脂の結晶成長抑制による製品の品質低下が問題となる場合がある。チョコレート、ハードバターなどは、保存中の温度変化の大きい場合、ファットブルームと呼ばれる白い粉がふいた現象を生じさせ、それは、商品価値を著しく低下させ、テンパリングの条件により油脂の結晶成長に影響を与える。このような問題から特開平11−92780号公報には、ソルビタンの飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の組成を規定した結晶転移抑制剤が、記載されており、特開平5−199838号には、HLBが3以下で脂肪酸の炭素数と重量比が規制された結晶成長抑制剤が記載されている。しかしながら、これら油脂の成分を使用することは、煩雑な操作を要し、また必ずしも呈味の良いものができないという問題がある。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、油脂の結晶化を阻害することができる。
【0028】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第6にメイラード反応を促進させることができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、メイラード反応により黄色又は褐色に着色された食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、食品に含有され、メイラード反応を促進させる食品のメイラード反応促進組成物又はメイラード反応促進剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。メイラード反応は、アミノ酸と還元糖の混合水溶液の熱による褐変化現象であり、メイラード反応により黄色又は褐色に着色された食品としては、例えばミルクと糖を加熱によりキャラメル化させて着色、風味を出させたものや、大豆の加水分解により生成されるアミノ酸にメイラード反応が施された醤油や味噌などの大豆発酵物がある。
【0029】
これらメイラード反応により黄色又は褐色に着色された食品は、独自の風味を与えることができるため、食品に添加して着色するだけでなくこく味なども付けることができるが、大豆発酵物である醤油や味噌は、塩分を多量に含んでいるので、食品に添加して塩味を出してしまうという問題がある。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、塩味を出さずにメイラード反応を促進させることができる。
【0030】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第7に異臭又は異味を抑制することができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、異臭又は異味を有する食品に含有されていることが好ましく、また、本発明は、食品に含有され、異臭又は異味を抑制する食品の異臭・異味抑制組成物又は異臭・異味抑制剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。異臭又は異味を有する食品としては、鮮度が落ちた卵加工品、豆腐、中華麺、和菓子の薬饅頭などがある。
【0031】
卵加工品としては、卵豆腐、カスタードプリン、卵焼き、ゆで卵など、熱加工されたものが多く、その熱加工により良好な深みのある味や香りが付与されるが、レトルト食品などにおいて、過加熱が施された場合や、時間経過により食品鮮度が落ちた場合に蛋白変性臭が発生して呈味を落としてしまうという問題がある。また、豆腐のにがり凝固臭、中華麺の小麦グルテンとかんすいとの反応臭、及び和菓子の薬饅頭のイスパタ臭なども同様の問題があり、これらの異臭や異味を抑制するものが知られていない。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、異臭又は異味を抑制することができる。本発明において、異臭・異味抑制作用を効率良く発揮させるためには、前記大豆加工食品は、乾燥状態において、食品に対して、0.1〜25重量%含有させることが好ましく、1〜10重量%含有させることがさらに好ましい。
【0032】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第8に澱粉食品の老化の進行を遅延させることができるという効能を有する。すなわち、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、前記大豆発酵物が、澱粉食品に含有されていることが好ましく、澱粉食品に含有され、澱粉食品の老化の進行を遅延させる澱粉食品の老化遅延化組成物又は老化遅延化剤であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする。澱粉食品としては、例えばパン類、麺類(ラーメン、蕎麦、うどん、パスタなど)、菓子類、米飯類などがある。
【0033】
これら澱粉食品は、糊化した澱粉が時間経過とともに水に不溶化して老化現象を起こし、これを防止するため、例えば、界面活性剤として蔗糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルなどやアミラーゼなどの酵素などが澱粉食品の老化防止剤として添加されているが、これらは、全て食品添加物であり、近年の添加物を加えない指向の中で食品としての代替物が求められている。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、食品として澱粉食品の老化の進行を遅延させることができる。本発明において、澱粉の老化遅延化作用を効率良く発揮させるためには、前記大豆加工食品は、乾燥状態において、食品に対して、0.1〜30重量%含有させることが好ましく、1〜10重量%含有させることがさらに好ましい。この澱粉の老化遅延化作用の機構は、明確ではないが、澱粉中のアミロース及びアミロペクチンの結晶性が大豆加工品により失われて再結晶化を抑制し、さらに大豆加工品を含んでより保水性が向上しているためと考えられる。
【0034】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第9に呈味の改善、食感改善、保湿効果などという効能を有する。従来から、酒、ワイン、ビール、醤油、味噌、納豆、チーズ、ヨーグルトなど発酵食品は、食品を発酵させ、その成分を分解させることによって、食品のうまみ、香り又は食感などを変化させているが、それ自身でアルコールや酸を生産するものを除き、例えば、醤油、味噌、チーズなどは、発酵菌以外の微生物の増殖を抑えるために、塩の含有量を増やすなど何らかの処置を行なっている。このように、発酵食品は、塩の含有量が多く、特に、近年の生活習慣病の増加とともに塩分摂取量を減らす方向にあることから、調味料が含有量を減らす傾向にある。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、食品の呈味を改善することができ、また摂取量を増やしても塩分が増加することがないので、食感を改良することができ、さらにしっとりとした保湿効果を発揮することができる。
【0035】
本発明に係る大豆発酵物含有食品は、第10に栄養補助食品及び栄養機能食品として用いることができるという効能を有する。本発明のように大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物を食品に含ませることにより、多くを摂取しても塩分の摂取量を少なくすることができるので、発酵された大豆の栄養成分を多く摂取することができる。栄養補助食品及び栄養機能食品として、錠剤やカプセル剤、粉末、顆粒剤、丸剤、ドリンク剤など、クッキーやシリアルバー状の固形食品などに利用することができる。さらに、本発明に係る大豆発酵物含有食品は、例えば、シリアルバー状食品などの食品のべたつきを防止できるという効能を有する。
【0036】
また、本発明に係る大豆発酵物含有の栄養機能を有する食品としては、広く一般食品の液状食品であっても良い。液状食品としては、味噌汁の味噌の代わりに本発明に係る大豆発酵物を入れた味噌汁代替品、スープ、ポタージュ、ラーメンや鍋のスープなどがある。このように液状食品とすることによって、容易に大豆発酵物に含まれている様々な栄養成分や機能性成分を摂取することができる。通常の味噌は、塩分が多いため、例えばラーメンスープなどを全て飲み干すことは好ましくなかったが、本発明に係る大豆発酵物含有食品に含まれている大豆発酵物は、塩分が少なく、また味噌臭が少ないため、様々な飲料に含ませることができる。
【0037】
さらに、本発明は、これら大豆発酵物食品の素であっても良く、その場合、ペースト状、粉末状、顆粒状又は固形状に形成される。
【0038】
以上のように大豆を食塩5重量%以下の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させた大豆発酵物が含有されている食品としては、穀類、その製粉又はその加工品として、マカロニ、スパゲティー、うどん、蕎麦、中華麺、そうめん、雑炊、粥、炒飯、炊き込み御飯、餅類、パン類、プレミックス品、フラワーペーストなど、製菓として、ビスケット、スナック菓子、米菓、チョコレート、キャンディー、チューインガム、洋菓子、和菓子、中華菓子、ドーナツ、ピザ、クレープ、ゼリー類など、調理食品として、惣菜、佃煮類として、ハンバーグ、カレー、シチュー、揚げ物(てんぷら、フライなど)、卵加工品(オムレツ、卵豆腐など)、野菜の煮付けなど、畜肉加工品として、畜肉缶詰、ハム、ベーコン、ソーセージ、牛肉の煮付けなど、水産加工品として、魚肉缶詰、練り製品(かまぼこ、はんぺんなど)など、乳製品として、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリームなど、飲料として、栄養飲料、スポーツ飲料、豆乳、乳飲料、野菜飲料、味噌汁、スープ、ポタージュ、つけ汁、酒類、ココア、コーヒーなど、調味料として、つゆ類、たれ類、トマト加工品、マヨネーズ、ドレッシングなど、その他お茶漬け、ふりかけ、ジャム、ママレード、漬物、餡、豆腐類(豆腐、油揚げなど)など、さらに錠剤、カプセルなどの健康食品がある。また、広義には、動物用の食品として、ペットフードや飼料などにも利用することができる。
【実施例】
【0039】
実験例1
先ず、本発明に係る大豆発酵物含有食品に用いられる大豆発酵物を作製した。最初に、蒸した米28kgにAspergillus oryzaeの胞子((株)ビオック製)を均一に付着させ、品温30〜35℃、湿度75〜95%RHで45時間作用させて米を基質に増殖されたAspergillus oryzaeを作製した。次に、大豆を30kg用意し3倍量の水に10時間浸漬させた後、水を切り、115℃の加圧蒸気で蒸し上げた。この蒸し上げた大豆60kgをミンチ機(直径4mmダイス)で処理した後、60%清酒液(NEDO95%を希釈して使用)9.2kgに混ぜ合わせた米を基質に増殖されたAspergillus oryzae21kg及び酵母菌としてZygosaccharomyces ruxii(宮坂醸造(株)製)約1×106個を加えて、45℃にて119時間発酵させた。その後さらに30℃にて1日(大豆発酵物1)、15日(大豆発酵物2)、21日(大豆発酵物3)及び30日(大豆発酵物4)間発酵させた後、真空凍結乾燥機で乾燥させ、大豆発酵物1乃至4を得た。
【0040】
次に、蒸した米28kgにAspergillus oryzaeの胞子((株)ビオック製)を均一に付着させ、品温30〜35℃、湿度75〜95%RHで45時間作用させて米を基質に増殖されたAspergillus oryzaeを作製した。次に、大豆を30kg用意し3倍量の水に10時間浸漬させた後、水を切り、115℃の加圧蒸気で蒸し上げた。この蒸し上げた大豆60kgをミンチ機(直径4mmダイス)で処理した後、60%清酒液(NEDO95%を希釈して使用)9.2kgに混ぜ合わせた米を基質に増殖されたAspergillus oryzae21kgを加えて、45℃にて119時間発酵させた。その後さらに30℃にて15日間発酵させた後、真空凍結乾燥機で乾燥させ、大豆発酵物5を得た。
【0041】
次に、蒸した米28kgにAspergillus oryzaeの胞子((株)ビオック製)を均一に付着させ、品温30〜35℃、湿度75〜95%RHで45時間作用させて米を基質に増殖されたAspergillus oryzaeを作製した。次に、大豆を30kg用意し3倍量の水に10時間浸漬させた後、水を切り、115℃の加圧蒸気で蒸し上げた。この蒸し上げた大豆60kgをミンチ機(直径4mmダイス)で処理した後、60%清酒液(NEDO95%を希釈して使用)9.2kgに混ぜ合わせた米を基質に増殖されたAspergillus oryzae21kg及び酵母菌としてZygosaccharomyces ruxii(宮坂醸造(株)製)約1×106個、並びに食塩3.5kg(発酵時食塩濃度4.3%)を加えて、45℃にて119時間発酵させた。その後さらに30℃にて1日(大豆発酵物6)、15日(大豆発酵物7)、21日(大豆発酵物8)及び30日(大豆発酵物9)間発酵させた後、真空凍結乾燥機で乾燥させ、大豆発酵物6乃至9を得た。
【0042】
次に、これら大豆発酵物1乃至9について、グルコシド型イソフラボンとアグリコン型イソフラボンの割合を測定した。測定は、検体1gをジエチルエーテル40mLに加えることによって脱脂を行ない、次いでエーテルを除去した後、70%メタノール50mLによってイソフラボンの抽出を行ない、HPLC法によって定量することにより行なった。これらの結果を表1に示す。グルコシド型イソフラボンとしては、Daidzin、Glycitin、Genistin、Malonyldaidzin、Malonylglycitin、Malonylgenistinについて各検量線を作成し、これらの総量で表わした。アグリコン型イソフラボンとしては、Daidzein、Glycitein、Genisteinについて各検量線を作成し、これらの総量を表わした。
【0043】
【表1】

【0044】
以上のように大豆発酵物1乃至9は、アグリコン型イソフラボンの割合が高く、また発酵時間が長い方がアグリコン型イソフラボンの割合が高く、さらに真菌と酵母の両方を用いた方がアグリコン型イソフラボンの割合が高いことが分かった。
【0045】
次に、大豆発酵物4、並びに市販の粉末味噌1(宮坂醸造社製)及び粉末味噌2(宮坂醸造社製)の味噌臭を測定した。味噌臭の測定は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いてヘッドスペース法にて、味噌臭であるアセトアルデヒド、2−メチルプロパナール、3−メチルブタナール及びベンズアルデヒドについて、その量をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。また、この大豆発酵物が、市販の粉末味噌1及び2と発酵度合いが同じかどうかを検証するために、蛋白質分解率をホルモール窒素量(タンパク、ペプチド、アミノ酸のN末端窒素/全窒素量×100(%)で、また糖質分解率をフェーリング・レーマン・シュール法により還元糖量を測定した。その結果を表3に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表2及び3に示すように大豆発酵物は、通常の味噌と発酵度合いが同じであるにも拘らず、味噌臭が少ないことが分かった。
【0049】
実施例1及び2
次に、前記実験例1で得られた大豆発酵物4が含まれたバッター粉を表4に示す配合で作製し、そのバッター粉を用いて、実施例1及び2に係る大豆発酵物含有食品としてコロッケを表4に示す配合で作製した。また、比較例1として、表5に示すように大豆発酵物が含まれていないバッター粉を用いてコロッケを同様に作製した。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
これら実施例1及び2並びに比較例1に係るコロッケを165℃のサラダ油で揚げて、その吸油量を測定した。吸油量の測定は、揚げる前後の重量の差を測定することによって行なった。また、比較例1に対する実施例1及び2の吸油量の吸油減少率を計算した。これらの結果を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
表6に示すように、実施例1及び2に係るコロッケの方が、比較例1に比べて吸油量が少ないことが分かった。また、これら実施例1及び2並び比較例1に係るコロッケについて、10名のパネラーの試食による官能試験を行なったところ、実施例1及び2に係るコロッケの方がサクサクしていて食感として好ましいという評価を得た。さらに、これら実施例1及び2並び比較例1に係るコロッケについて、一度、冷凍した後、再度電子レンジで加熱したものを同様に官能試験を行なったところ、実施例1及び2に係るコロッケの方がべとつきが少なく食感として好ましいという評価を得た。
【0055】
実施例3
次に、実施例3に係る大豆発酵物含有食品としてパンを表7に示す配合で作製した。また、比較例2として、大豆発酵物が含まれないパンを作製した。
【0056】
【表7】

【0057】
これら実施例3及び比較例2に係るパンについて、10名のパネラーの試食による官能試験を行なったところ、実施例3に係るパンの方がしっとり感があり食感として好ましいという評価を得た。さらに、冷蔵庫内に1日(24時間)置いたパンについて、同様に官能試験を行ったところ、実施例3に係るパンの方が固くならずに、澱粉老化が抑えられているとの評価を得た。
【0058】
実施例4
次に、実施例3及び比較例2に係るパンを乾燥させたものを7メッシュパス〜10メッシュオンで篩別してパン粉を作製し、これらパン粉を用いて上記比較例1と同様にコロッケを作製した。実施例3に係るパンから作製されたパン粉を用いたものを実施例4とし、比較例2に係るパンから作製されたパン粉を用いたものを比較例3とする。これらについて、実施例1などと同様に吸油量を測定し、吸油減少率を計算した。これらの結果を表8に示す。
【0059】
【表8】

【0060】
これら実施例4及び比較例3に係るコロッケについて、10名のパネラーの試食による官能試験を行なったところ、実施例4に係るコロッケの方がサクサクしていて食感として好ましいという評価を得た。また、これら実施例4及び比較例3に係るコロッケについて、一度、冷凍した後、再度電子レンジで加熱したものを同様に官能試験を行なったところ、実施例4に係るコロッケの方がべとつきが少なく食感として好ましいという評価を得た。
【0061】
実施例5乃至7
次に、実施例5乃至7に係る大豆発酵物含有食品として、表9に示す配合のドーナツ生地をこねて、170℃(±2℃)の食用油で揚げることによって、同一重量のドーナツを作製した。また、比較例4として、大豆発酵物が含まれないドーナツを同様に作製した。
【0062】
【表9】

【0063】
これら実施例5乃至7、並びに比較例4に係るドーナツを90℃で24時間乾燥させて水分を蒸発させた状態の重量と水分を除いた生地の重量の差から、それぞれの吸油量を測定し、比較例4に対する各実施例の吸油量の百分率(各実施例の吸油量/比較例4の吸油量×100)を計算した。その結果を表10に示す。
【0064】
【表10】

【0065】
表10に示すように、実施例5乃至7に係るドーナツの方が、比較例4に係るドーナツに比して吸油率が少ないのが分かる。
【0066】
実施例8及び9
次に、実施例8及び9に係る大豆発酵物含有食品として、表11に示す配合のマフィンの生地をこねて、約60gを紙製の型に流し込み、オーブンで170℃で30分焼くことによってマフィンを2つずつ作製し、その後一晩放置した。焼成後の重量は、約50gであった。また、比較例5として、大豆発酵物が含まれないマフィンを同様に2つ作製した。
【0067】
【表11】

【0068】
次に、実施例8及び9、並びに比較例5に係るマフィンから型を取り出し、マフィンの一部が付いている型の重量と何も付いていない型の重量の差から、それぞれのマフィンの付着量を測定した。その結果を表12に示す。
【0069】
【表12】

【0070】
表12に示すように、実施例8及び9に係るマフィンの方が、型へのマフィンの付着量が少ないことが分かる。
【0071】
実施例10及び11
次に、実施例10及び11に係る大豆発酵物含有食品として新粉餅を表13に示す配合で、こねつけ、蒸し器による蒸し上げ、及びつくことによって作製した。また、比較例6として、大豆発酵物が含まれない新粉餅を同様に作製した。
【0072】
【表13】

【0073】
これら実施例10及び11並びに比較例6に係る新粉餅を容器に入れて、成形し、老化度合の経時的な硬さの変化を測定した。経時的な硬さの変化の測定は、テクスチャーアナライザー(英弘精機(株))により、24時間毎に餅の強度(g)を測定することによって行なった。その結果を図1に示す。図1に示すように実施例10及び11に係る新粉餅の方が、経時的な硬さの変化が少ないということが分かる。
【0074】
実施例12及び13
次に、実施例12及び13に係る大豆発酵物含有食品として、ラクトアイスクリームを表14に示す配合で作製した。また、比較例7として、大豆発酵物の代わりに乳化剤(花王(株)製、P−40S)が含まれたもの、比較例8として大豆発酵物が含まれていないものを同様に作製した。
【0075】
【表14】

【0076】
これら実施例12及び13並びに比較例7及び8に係るラクトアイスクリームについて、乳化状態を確認するため、分離に対する安定性試験を行なった。この安定性試験は、それぞれの原料を混合して溶解させ混合液をホモゲナイザー(ゴーリング社製、150MPa)にて均質化した後、試験管に移し、遠心分離機((株)トミー精工製)によって5000Gを5分間与えることにより行なった。その結果、実施例12及び13並びに比較例7に係るラクトアイスクリームについては、分離が見られなかったが、比較例8に係るラクトアイスクリームについては、液が分離して油脂が浮いてしまった。大豆発酵物を加えることによって、乳化剤と同様の乳化効果を与えることができることが確認された。また、これら実施例12及び13並びに比較例7及び8に係るラクトアイスクリームについて、パネラー(10名)により官能試験を行なったところ、実施例12及び13に係るラクトアイスクリームは、今までにないコクが付与され、よりクリーミーな食感を得られるという評価を得た。
【0077】
実施例14及び15
次に、実施例14及び15に係る大豆発酵物含有食品として、生チョコ(含水チョコ)に前記実験例1で得られた大豆発酵物4(3%又は5%)を水とともに添加したものを作製した。また、同様に比較例9乃至13として、大豆発酵物を添加しないもの、大豆発酵物の代わりにレシチン(太陽化学社製)及びデキストリン(松谷化学社製)を含有させたものを作製した。これら実施例14及び15、並びに比較例9乃至13に係る生チョコについて、分離、凝集及び保形性について観察した。その結果を表15に示す。
【0078】
【表15】

【0079】
実施例14及び15に係る生チョコの方が、乳化効果が高まり、安定性が得られることが分かった。
【0080】
実施例16
次に、実施例16に係る大豆発酵物含有食品として、竹輪を表16に示す配合で前記実験例1で得られた大豆発酵物4、馬鈴薯澱粉及び水を混合し、冷凍すり身に加えてさらに混合し、食塩と調味料を混合したものを添加し、擂潰機で5分間混合したものを竹輪型にて成型し、次いで坐り機により90℃で7分間焼き、焼き機により250℃で5分間焼き上げ、冷凍することによって作製した。実施例16に係る竹輪は、魚の臭みが消え食べやすく、焼き上げにより表面に良い焼き色が付き、焼き上げにより味噌が焼けた香ばしい良い香りが付き、適度な歯ごたえが付与されているとの評価を得た。
【0081】
【表16】

【0082】
実施例17
次に、実施例17に係る大豆発酵物含有食品として、実施例1及び2において用いられたバッター粉と実施例4において用いられたパン粉を用いてエビフライを作製した。パン粉には、粉末油脂を混合し、エビフライに下処理をすることにより、油で揚げることなく、電子レンジで加熱することによって、作製できるようにした。比較例14として、大豆発酵物が含まれていないバッター粉とパン粉を用いて同様にエビフライを作製した。実施例17に係るエビフライは、電子レンジの加熱により、メーラード反応の進行により、フライ特有の着色が付くとともに香ばしい匂いが得られたが、比較例14に係るエビフライは、メーラード反応が余り進行せず、着色や匂いは十分に付かなかった。
【0083】
実施例18
実施例18に係る大豆発酵物含有食品として、焼きせんべいを前記実験例1で得られた大豆発酵物を表17に示す配合で作製した。実施例18に係る焼きせんべいは、焼きせんべいの香ばしい匂いが強かった。
【0084】
【表17】

【0085】
実験例2
次に、実験例1で得られた大豆発酵物4に関し、糖類の結晶化の防止について、実験を行なった。80℃にて加熱溶解させた70重量%のグラニュー糖水溶液に大豆発酵物を1、3、5、7及び10%溶解させたもの、並びに無添加のものを用意し、これらを密封して蒸発しないようにして20℃にて保存し、3日後に糖の結晶の析出について観察した。その結果を表18に示す。
【0086】
【表18】

【0087】
表18から、大豆発酵物を加えることによって糖の結晶化を阻害されていることが明らかに分かる。
【0088】
実施例19
次に、実施例19に係る大豆発酵物含有食品として、シリアルバーを表19に示す配合で水及び還元水あめ(SE−600)を混合し、アラビアガム(CNI社製)及びグラニュー糖を撹拌分散し、これらを加熱溶解させて沸騰したら、前記実験例1で得られた大豆発酵物4を加えて加熱を止め、この溶液にコーンフレーク及びドライフルーツを混合し、次いで成形したものを60℃で一晩乾燥させることによって、作製した。比較例15及び16として、大豆発酵物を添加しないものを同様に作製した。実施例19に係るシリアルバーは、比較例15及び16に係るものに比して、成形時の結着が良く、乾燥効率が良く(6〜8時間で乾燥した)、糖のべったりした食感が少なく、バリッとした食感を得られ、表面のベタツキが少なく、さらに風味が良い。
【0089】
【表19】

【0090】
実施例20
実施例20に係る大豆発酵物含有食品として、羊羹を前記実験例1で得られた大豆発酵物4など表20に示す原料で製造し、アルミの羊羹棹に充填後、1ヶ月保存することによって作製した。また、比較例17として、大豆発酵物の代わりに粉末味噌を添加したものを同様に作製した。実施例20に係る羊羹は、安定しており、味も良好であったが、比較例17に係る羊羹は、塩分が多く食することができるものではなかった。
【0091】
【表20】

【0092】
実施例21
実施例21に係る大豆発酵物含有食品として、ベークドチーズケーキを前記実験例1で得られた大豆発酵物4を表21に示す配合で作製した。また、同様に比較例18及び19として大豆発酵物を含有させないもの、及び粉末味噌を含有させたものを作製した。
【0093】
【表21】

【0094】
焼成後の実施例21に係るベークドチーズケーキは、むらの無い均一な良い着色の状態に仕上がった。10名のパネラーによる官能試験においては、前記実験例1で得られた大豆発酵物が含まれているものが、比較例18に比べチーズにコクを付けより美味しいとの評価を得た。比較例19は、コクを付けることができるが、味噌くさいことと塩味が強いという評価を得た。このように前記実験例1で得られた大豆発酵物は、チーズなどの発酵食品と相性が良く、風味効果が増強されることが示された。同様の製品としてスモークチーズなどスモーク製品への練り込みには、より風味を増強させることができる。
【0095】
実施例22
実施例22に係る大豆発酵物含有食品として、ハンバーグを前記実験例1で得られた大豆発酵物4を表22に示す配合で作製した。また、同様に比較例20及び21として大豆発酵物を含有させないもの、及び大豆粉末を含有させたものを作製した。
【0096】
【表22】

【0097】
作製時に小判型にする際に、実施例22に係る大豆発酵物を含ませたものが、比較例に比して、だれにくく形を作り易く、焼成後の色付きも均一化していて一番良い状態を保てた。また、10名のパネラーにより官能検査を実施したところ、実施例22に係る大豆発酵物を含ませたものが、比較例20及び21に比して、ジューシーさと食感、さらに旨みにおいて最も良い評価を得た。同様な肉製品として、肉団子、肉のパテ、メンチカツ、餃子・焼売などの具、ミートパイやハム、ソーセージ、コンビーフなどに混ぜ、またビーフシチュー、カレー、牛丼の具、唐揚やタンドリーチキンなどの漬け込みに用いることができる。
【0098】
実施例23
次に、実施例23に係る大豆発酵物含有食品として、中華麺を表23に示す配合で作製した。また、同様に比較例22として、大豆発酵物が含有されていないものを作製した
【0099】
【表23】

【0100】
これら中華麺を同条件で茹でて、ラーメンを作って、10名のパネラーによる官能試験を行なったところ、いずれも実施例23に係る中華麺の方が、かんすい臭がしないとの回答を得た。さらに、実施例23に係る中華麺は、つるみがあり、風味が良く、のびが遅いことなど多くの利点を得た。
【0101】
実施例24
次に、実施例24に係る大豆発酵物含有食品として、よせ豆腐を前記実験例1で得られた大豆発酵物4(5部)を豆乳100部に加えて加熱し、掻き混ぜながら1.2部のにがりを加え、さらに容器に流して冷蔵庫によって凝固させることによって作製した。また、同様に、比較例23として前記実験例1で得られた大豆発酵物4が含有されていないものを作製した。10名のパネラーによる官能試験を行なったところ、前記実験例1で得られた大豆発酵物を含ませたものが、比較例23に比して、にがり臭がほとんどなく、食感がなめらかになっているという回答を得た。
【0102】
実施例25
次に、実施例25に係る大豆発酵物含有食品として、表24に示す配合により、常法によりハードキャラメルを作製した。また、表24に示すように前記実験例1で得られた大豆発酵物4が添加されていないもの、又は大豆発酵物の代わりにデキストリン若しくはレシチンを添加したものを比較例24乃至26として用意した。これら実施例25並びに比較例24乃至26に係るハードキャラメルについて、強度を測定した。強度の測定は、測定温度20℃にてテクスチャーアナライザー(英弘精機(株)MAX50kg)を用いて行なった。その結果を表25に示す。
【0103】
【表24】

【0104】
【表25】

【0105】
表25に示すように実施例25に係る大豆発酵物含有食品の方が、比較例24乃至26に比べてソフトに仕上がっていることが分かる。また、10名のパネラーの試食による官能検査を行なったところ、ソフトに仕上げるものとして常用されているレシチンが含有されている比較例26よりも、実施例25に係る大豆発酵物含有食品の方が、歯へのくっつきがなく、より風味があって良好との評価を得た。
【0106】
実施例26
次に、実施例26に係る大豆発酵物含有食品として、表26に示す配合の調味料及び材料を混ぜ合わせた後、熱湯180mLを加えて撹拌することによって、味噌汁を作製した。実施例26に係る味噌汁は、通常の味噌汁よりも塩分や味噌臭が少なく、かつ味噌臭や塩分が少ないが、味噌の栄養素を十分に摂取することができる。
【0107】
【表26】

【0108】
実施例27
次に、実施例27に係る大豆発酵物含有食品として、調整豆乳180mLを撹拌しながら、前記実験例1で得られた大豆発酵物4(10g)を加えることによって、栄養強化豆乳を作製した。実施例27に係る栄養強化豆乳は、アミノ酸、糖類、アグリコン型イソフラボンなど機能性成分が多く含まれている。また、この実施例27に係る栄養強化豆乳について、10名のパネラーの試飲による官能検査を行なったところ、いずれからも豆乳特有の味がマスキングされ、飲み易いという結果を得た。さらに、前記実験例1で得られた大豆発酵物は、味噌臭が少なく、又は塩分が少ないため、実施例27に係る豆乳は、通常の味噌を豆乳に加えたものと異なり、飲み易いという特徴を有する。
【0109】
実施例28
次に、実施例28に係る大豆発酵物含有食品として、表27に示す配合の調味料及び材料を水160mLに加えて、混ぜ合わせた後、加熱沸騰させることによって、ポタージュスープを作製した。実施例28に係るポタージュスープは、味噌臭及び塩分が少なく、かつ味噌の栄養素を十分に摂取することができる。
【0110】
【表27】

【0111】
実施例29
次に、実施例29に係る大豆発酵物含有食品として、前記実験例1で得られた大豆発酵物4(20g)、味噌10g及び調味料0.5gを水400gに加えて、混ぜ合わせた後、加熱溶解し、その後、ゆでたうどん250gを加え、さらに唐辛子粉末0.05gを添加することによって、味噌煮込みうどんを作製した。実施例29に係る味噌煮込みうどんは、通常の味噌煮込みうどんよりも味噌の量が少ないので、塩分が少なく、かつ大豆由来の栄養素を十分に摂取することができる。
【0112】
実施例30
次に、実施例30に係る大豆発酵物含有食品として、表28に示す配合の原材料を混合後、熱湯120mLに撹拌しながら添加して溶解させることによって、ココア飲料を作製した。実施例30に係るココア飲料は、塩分が少なく、かつ大豆由来の栄養素を十分に摂取することができる。熱湯の代わりに牛乳に溶解させても同様の結果を得ることができた。
【0113】
【表28】

【0114】
実施例31
次に、実施例31に係る大豆発酵物含有食品として、前記実験例1で得られた大豆発酵物4(5g)をエンシェアリキッド100mLに撹拌しながら添加することによって、ペプチド、アミノ酸など大豆の機能性成分を含んだ栄養強化経管栄養剤を作製した。実施例31に係る栄養強化経管栄養剤は、塩分が少なく、かつ大豆由来の栄養素を十分に摂取することができる。また、アグリコン型イソフラボンの作用により、骨成分の劣化を防ぎ入院中で骨が弱っていると思われる患者にも有効である。
【0115】
実施例32
次に、実施例32に係る大豆発酵物含有食品として、寒天1.0gを水30mLに入れて加熱溶解し、80℃になったら、予め60℃に加熱しておいた成分栄養剤(エンシェアリキッド)200mLを加えて混合後、前記実験例1で得られた大豆発酵物4(10g)をダマにならないように撹拌しながら、混ぜ合わせて均一な分散液とし、容器に充填後冷却してゲル化させることによって、ゼリー飲料を作製した。実施例32に係るゼリー飲料は、味噌臭が少ないので、口の中に滞在する時間が長くなっても問題なく、飲み込むことができる。また、ゼリー状であるため、嚥下に問題のある人においても誤嚥の問題が少なくなり、安心して栄養成分を得ることができる。
【0116】
実施例33
次に、実施例33に係る大豆発酵物含有食品として、ゆで小豆(糖度60)100gを湯110mLに混ぜ合わせて均一にした後に加熱沸騰させ、これにダマにならないように前記実験例1で得られた大豆発酵物4(10g)を加えて撹拌することによって、ぜんざいを作製した。実施例33に係るぜんざいは、小豆に不足しているペプチドやアミノ酸成分、イソフラボンなどを摂取することができるとともに、味噌臭が少ないため、ぜんざいの風味を損なうことなく、通常のぜんざいと同様に食することができる。
【0117】
実施例34
次に、実施例34に係る大豆発酵物含有食品として、前記実験例1で得られた大豆発酵物4(100g)に水あめ(テトラップ、林原商事)45gを加え、良く練り合わせた後、延展板にて延展したものを約0.5gに分け、2枚の板にはさみ転がして成型することにより、丸剤を作製した。実施例34に係る丸剤は、成型性が良く、また付着性も少ないため、容易に作成できるとともに、容器に入れて携帯が可能なため何時でも手軽に大豆発酵物の栄養を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に含有され、乳化を安定させる食品の乳化安定化組成物であって、大豆を食塩5重量%以下又は無塩の状態で真菌、酵母及び乳酸菌のいずれか1以上により発酵分解させ、アグリコン型イソフラボンの全イソフラボン中の割合が50%以上になるように調整されている大豆発酵物を主成分とすることを特徴とする食品の乳化安定化組成物。
【請求項2】
乳化加工が施された食品に請求項1記載の乳化安定化組成物が添加されていることを特徴とする大豆発酵物含有食品。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−227125(P2010−227125A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161439(P2010−161439)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【分割の表示】特願2005−328183(P2005−328183)の分割
【原出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】