説明

乳化性を有する油脂処理澱粉

【課題】高い乳化性を有する油脂処理澱粉を提供する。
【解決手段】澱粉に飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上である油脂、好ましくは飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上であり、かつ1価の不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上である油脂を混合し、加熱処理して得られた油脂処理澱粉を乳化性澱粉として用いる。上記加熱熟成処理の程度は乳化力測定試験により判別され、該試験において油相がなくなる程度まで加熱熟成処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉に特定の油脂を混合し加熱処理することで得られる油脂処理澱粉およびその油脂処理澱粉からなる乳化性澱粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油脂処理澱粉は、油脂加工澱粉、油脂コーティング澱粉とも呼ばれ、基本的には澱粉質原料に油脂を混合した後加熱処理して得られるものである。これまでフライ食品用、パン用、麺用として用いることができる油脂処理澱粉が開発されてきた。フライ食品用としては、「40重量%濃度のスラリー粘度が200cp以上である油脂加工澱粉を含有する揚げ物用衣材」が提案され、これをバッターとして用いると衣と種との結着性が良好となる(特許文献1参照)。パン用としては、「穀粉類100質量部の内、3〜30質量部のエステル化及び/またはエーテル化の化学修飾をされた油脂加工澱粉を含有することを特徴とするパン類の製造方法」が提案され、これにより食感および外観を優れたものとすることができる(特許文献2参照)。さらに麺用としては、「澱粉に対して、融点が5〜80℃の食用油脂0.1〜5重量%の量を、表面付着力が75%以上となるようにコーティングした麺ほぐれ改良作用のある油脂コーティング澱粉」が提案され、これは麺のほぐれを改良することができる技術である(特許文献3参照)。
【0003】
一方、乳化性澱粉としては、澱粉オクテニルコハク酸エステルが乳化保護安定剤として食品加工に広い応用範囲を持っている(非特許文献1)。これは澱粉に無水オクテニルコハク酸をエステル結合させることで得られ、高分子特性と乳化能を併せ持つものである。
【0004】
また、親油性澱粉として「デンプンの水分含量を10〜40%にして100〜130℃の温度で1時間以上加熱処理を施した親油性デンプン」(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−285956号公報
【特許文献2】特開2008−237054号公報
【特許文献3】特開2000−93105号公報
【特許文献4】特開昭59−159800号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「澱粉科学の事典」、朝倉書店、2003年、p.413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、乳化性澱粉としては増粘安定効果をも併せ持つ澱粉オクテニルコハク酸エステルが広く使用されてきた。しかし「食品」として流通してきた加工デンプンが「食品添加物」に指定されたことに伴い、製品の表示を変更する必要が生じた。そこで、従来どおりの「食品」として流通できる乳化剤が求められたのであるが、乳化性を有するグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル、レシチンなどはいずれも「食品添加物」に該当することや澱粉オクテニルコハク酸エステルの特徴である増粘安定効果を有しないために代替品とすることができなかった。
【0008】
特許文献5で提案された、食品添加物に該当しない「親油性デンプン」は、ある程度の乳化能を発明者らの試験結果でも示したが、塩の存在下や酸性条件では十分な乳化能が得られなかった。乳化性澱粉が主に使用される食品加工の現場においては塩の存在下や酸性条件での使用態様が多く、このような条件でも十分な乳化能を示す乳化性澱粉が求められていた。さらに当該澱粉は、製造する際には水分の調整や100℃以上での加熱処理を必須とすることもあってか、大きな市場を得るには至っていないのが現状である。
【0009】
このような事情から、「食品」として使用でき、乳化能を有する素材が求められてきた。また、増粘安定効果と乳化能を併せ持った素材が求められてきた。
【0010】
また、近年、製造業において環境への負荷を考慮した製品作りが求められ、薬品類を削減した製造方法や排水処理方法に注目が集まっている。ここで、澱粉オクテニルコハク酸エステルは通常、湿式法(澱粉を水に懸濁させた後、反応させる方法)によって製造されるため、排水が大量に発生する。一方、乾式法(澱粉を水に懸濁させることなく反応させる方法)では排水が発生せず、一般に湿式法よりも薬品を削減できる。よって、環境への配慮の面から、乳化性澱粉を乾式法にて製造するという課題もあった。
【0011】
以上より、本発明が解決しようとする課題は、高い乳化性を有する油脂処理澱粉を得ること、および環境に低負荷の製法である乾式法により乳化性澱粉を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは上記課題について鋭意研究を行った。その結果、油脂処理澱粉の中でも、特定の油脂を混合して得られる油脂処理澱粉に乳化特性があることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明にかかる油脂処理澱粉は澱粉に飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上である油脂、好ましくは飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上であり、かつ1価の不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上である油脂を混合し、乳化力測定試験において油相がなくなるまで加熱熟成処理して得られることを特徴とし、本発明の乳化性澱粉は上記油脂処理澱粉からなることを特徴とする。
さらには上記油脂処理澱粉の原料澱粉がタピオカ澱粉又はエンドウ豆澱粉であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油脂処理澱粉は、塩の存在下や酸性条件下においても高い乳化能を持つという利点および、環境負荷の少ない製法により製造できるという利点を有する。また、増粘安定効果を有する澱粉を原料とすることにより、乳化性を併せ持った増粘安定剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に使用する澱粉とは、例えばコーンスターチ、ワキシコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉、緑豆澱粉、カンナ澱粉などの所謂生澱粉やコーングリッツ、小麦粉、米粉、切干甘藷粉末、切干タピオカ粉末などが挙げられる。
漂白処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理を施したものや、乾熱処理、湿熱処理などの物理的処理をしたものは、食品添加物に該当しないことから、本発明の目的を達成しうる。具体例としては、漂白澱粉、酸処理澱粉、酵素処理澱粉、湿熱処理澱粉、乾熱処理澱粉、焙焼小麦粉などが挙げられる。
【0015】
本発明に使用する澱粉には加工デンプンが含まれるが、これは食品添加物に該当するため、「食品」として使用することはできない。しかし、増粘安定効果が求められる場合には原料として好適に用いることができる。これら加工デンプンの具体例としては、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムが挙げられる。
【0016】
本発明における油脂処理澱粉とは、原料粉粒子表面の少なくとも一部に油脂を付着させることで、表面物性を変化させたものである。これは澱粉に油脂を混合し、常温以上の温度で加熱熟成処理することによって得られる。これにより、単に油脂を混合しただけのものとは異なる性質を有する。
【0017】
本発明において加熱熟成処理とは、澱粉質と油脂を混合した状態で、常温以上の温度において処理するものである。加熱熟成に用いる装置は、流動焙焼機、ロースターなど焙焼機として知られた装置でよい。加熱熟成温度は常温以上であれば熟成は進むのであるが、高温であれば加熱熟成に要する時間は短くなる。ただし、過度に高温にした場合、または長時間熟成させた場合は澱粉が分解を起こし、得られた油脂処理澱粉の粘度が低くなる場合がある。したがって加熱熟成処理においては、用途に応じて増粘安定効果が求められる場合は、過度の分解が起こらない条件を設定する必要がある。加熱熟成における澱粉の水分は任意であるが、乾式法にて製造するためには澱粉が熱により糊化しない程度の水分としておく必要がある。
【0018】
本発明の油脂処理澱粉は、熟成が進むにつれて乳化力が上昇する。本発明の目的を達成するためには、乳化力測定試験において油相がなくなる様に加熱熟成する必要がある。油相が分離する状態では乳化性澱粉として用いたときに十分な乳化能を発揮できないからである。したがって、本発明の油脂処理澱粉を製造するためには、処理する温度に応じた処理時間を決定する必要があり、この必要な処理時間は乳化力測定試験によって、油脂処理澱粉の物性変化の度合いを測定することで判断される。
【0019】
本発明でいう「油相がなくなる」とは、後述の乳化力測定試験において、遠心分離後に実質的に油相が存在しないことを意味する。遠心分離後は、下から水相(糊液相)、乳化相、油相の順に観察されるが、加熱熟成処理が十分になされた油脂処理澱粉における試験では油相は確認されない。本発明においては、下記試験において遠心分離後に油相が確認された場合は、乳化相が存在しても解乳化と判断する。
【0020】
本発明における乳化力とは、乳化の度合いを測定する方法であり、その方法を以下に述べる。
試料を無水換算6g精秤し、脱イオン水を加えて全量を200gとし、沸騰水浴中で85℃以上10分加熱後、蒸発した水分を補正して30℃まで冷却した。この糊液100gを500mlポリビーカーに移し入れ、白絞油を100g加えて全量200gとし、ホモミキサーで9000rpm、5分間撹拌乳化した。この乳化液を50ml遠沈管に移し入れ、2000rpm、20分間遠心分離した。遠心後の乳化相の値(目盛り)[W(ml)]を読み取り、次に示す式で算出される値を乳化力とした。
乳化力(%)=W/50×100
食塩添加時の試験方法:試料を無水12g精秤し、イオン交換水を加えて全量を200gとし、沸騰水浴中で85℃以上10分加熱後、蒸発した水分を補正して30℃まで冷却した。この糊液50g、最終食塩濃度が1.0質量%になるように調整した食塩水50g、白絞油100gをポリビーカーに秤取り、以下同様に操作した。
酢酸添加時の試験方法:試料を無水12g精秤し、イオン交換水を加えて全量を200gとし、沸騰水浴中で85℃以上10分加熱後、蒸発した水分を補正して30℃まで冷却した。この糊液50g、最終酢酸濃度が1.25質量%になるように調整した酢酸水溶液50g、白絞油100gをポリビーカーに秤取り、以下同様に操作した。
【0021】
本発明において効果を発揮する油脂は、植物性油脂および動物性油脂のいずれであっても良いが、飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上含有した油脂である。より好ましくは飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上であり、かつ1価の不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上である油脂である。
【0022】
飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上である油脂としては、ヤシ油、パーム核油、パーム油、オリーブ油、コメ油、ナタネ油などの植物性油脂および牛脂、ラード、バター(乳脂肪)などの動物性油脂が挙げられる。中でもオリーブ油、コメ油、ナタネ油は、飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上であり、かつ1価の不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上である油脂に該当するため好ましい。また、飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上含まない油脂であっても、当該条件を満たすように再精製されたものや、数種類の油脂を混合して上記条件を満たすようにしたものであれば好適に用いることができる。
【0023】
なお、本発明でいう「飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上である」又は「飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上であり、かつ1価の不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上である」とは、トリグリセリドを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の割合が所定量以上であることを意味する。この組成比は油脂を加水分解した後、ガスクロマトグラフィー等により分析することで決定できる。
【0024】
澱粉に添加する油脂量は特に限定されない。しかし、少なすぎると十分な効果が得られず、多すぎても一定以上は乳化性が向上しないうえ、油脂の存在により澱粉の流動性が失われ、作業性が悪くなる場合がある。これらのことを考慮すれば、油脂の添加量は澱粉に対して0.1〜4.0質量%が好適である。ただし、用いる油脂の種類によって好適な量が異なるため、用いる油脂に応じて添加量を決める必要がある。
【0025】
本発明により得られた油脂処理澱粉は、そのまま乳化性澱粉として用いることができる。また、必要に応じてα化、低分子化などの2次加工を行う、あるいは、他の材料を併用して乳化性澱粉として用いることができる。他の材料の具体例としては、穀粉、未変性澱粉、加工デンプン、糖類、天然ガム類、膨張剤、蛋白質、油脂類、調味料が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明にかかる実施例について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に限定されるものではなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。なお、実施例において乳化力に用いる単位は体積%であり、それ以外は質量%である。これらは単に%と表示する。
【0027】
<実施例1>
タピオカ澱粉を原料とし、表1の条件に従い、油脂を添加混合後エアバスで加熱し、油脂処理澱粉(試料1〜7)を得た。
【0028】
【表1】

【0029】
<試験例1>
実施例1で得られた試料1〜7について乳化力を評価した。対照として未処理のタピオカ澱粉についても同様に評価した。判定基準は以下のように、乳化力試験の結果を6段階で評価した。試験例1の結果を表2に示す。
【0030】
<乳化力判定基準>
◎ : 90〜100%
○〜◎ : 80〜89.9%
○ : 70〜79.9%
△〜○ : 60〜69.9%
△ : 50〜59.9%
× : 解乳化(なお乳化相が存在しても、油相がある場合は解乳化と判定する。)
【0031】
【表2】

【0032】
以上の結果より、試料1のヤシ油、試料2のオリーブ油および試料3のコメ油、試料4のバター(乳脂肪)を使用した油脂処理澱粉では乳化力が得られたが、油脂を添加しなかったものや大豆油、サフラワー油、エゴマ油では乳化力が得られなかった。
【0033】
<実施例2>
タピオカ澱粉を原料とし、表3の条件に従い、油脂を添加混合後エアバスで加熱し、油脂処理澱粉(試料8〜37)を得た。
【0034】
【表3】

【0035】
<実施例3>
タピオカ澱粉を原料とし、表4の条件に従い、油脂を添加混合後、エアバスで加熱熟成して油脂処理澱粉(試料38〜41)を得た。
【0036】
【表4】

【0037】
<試験例2>
実施例1で得られた試料1〜3、実施例2で得られた試料8〜37および、実施例3で得られた試料38〜41の油脂処理澱粉を、試験例1と同様の方法で試験を行い、乳化力について評価した。結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
以上の結果より、油脂の添加量は0.1〜4.0%の間でいずれも乳化力があったが、添加量が0.1〜0.5%と比較的少ない範囲ではヤシ油よりもオリーブ油、コメ油の方が高い乳化力を示した。加熱熟成温度にかかわらず乳化力を有する油脂処理澱粉が得られた。試料28の乳化力が十分でないのは、加熱熟成の時間が不足しているためと考えられる。
【0040】
<実施例4>
タピオカ澱粉を原料とし、表6の条件に従い、油脂を添加混合後エアバスで加熱し、油脂処理澱粉(試料42〜48)を得た。
【0041】
【表6】

【0042】
<試験例3>
実施例2で得られた試料11、29、30、実施例4で得られた試料42〜48の乳化力について評価した。結果を表7に示す。
【0043】
【表7】

【0044】
以上の結果より、油脂を混合したのみの試料42では乳化しないが、加熱熟成したものは乳化力を有することがわかる。また、加熱時間が伸びるにつれて乳化力が向上すること、及び、温度が高いほど短時間で高い乳化力を得ることがわかる。
【0045】
<実施例5>
水1500質量部に、試料1、3を各1000質量部添加して調製したスラリーをダブルドラムに滴下し、油脂処理α化澱粉(試料42、43)を得た。
【0046】
<試験例4>
実施例5で得られた試料49、50の乳化力について評価した。結果を表8に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
以上の結果より、油脂処理澱粉のα化品にも乳化力が認められ、乳化性澱粉として用いることができた。
【0049】
<実施例6>
ワキシコーンスターチを原料とし、表9の条件に従い、油脂を添加混合後エアバスで加熱し、油脂処理澱粉(試料51〜60)を得た。
【0050】
【表9】

【0051】
<試験例5>
実施例6で得られた試料51〜60の油脂処理澱粉を、試験例1と同様の方法で試験を行い、乳化力について評価した。対照として未処理のワキシコーンスターチについても同様に評価した。結果を表10に示す。
【0052】
【表10】

【0053】
<実施例7>
コーンスターチを原料とし、表11の条件に従い、油脂を添加混合後エアバスで加熱し、油脂処理澱粉(試料61〜70)を得た。
【0054】
【表11】

【0055】
<試験例6>
実施例7で得られた試料61〜70の油脂処理澱粉を、試験例1と同様の方法で試験を行い、乳化力について評価した。対照として未処理のコーンスターチについても同様に評価した。結果を表12に示す。
【0056】
【表12】

【0057】
<実施例8>
エンドウ豆澱粉を原料とし、表13の条件に従い、油脂を添加混合後エアバスで加熱し、油脂処理澱粉(試料71〜80)を得た。
【0058】
【表13】

【0059】
<試験例7>
実施例7で得られた試料71〜80の油脂処理澱粉を、試験例1と同様の方法で試験を行い、乳化力について評価した。対照として未処理のエンドウ豆澱粉についても同様に評価した。結果を表14に示す。
【0060】
【表14】

【0061】
以上の結果より、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、エンドウ豆澱粉を原料としても乳化力のある油脂処理澱粉が得られた。特にタピオカ澱粉、エンドウ豆澱粉はコーンスターチ、ワキシコーンスターチに比べて乳化力が高くなった。なお、試験例6で得られた試料68〜77の乳化液を、遠心分離処理を行わずに室温で静置した場合、水相および油相の分離が全くみられなかった。これはエンドウ豆澱粉のゲル形成能の高さによるものだと思われる。
【0062】
<比較例3>
水分含量12.5%のタピオカ澱粉、エンドウ豆澱粉を原料とし、油脂を混合することなくエアバスで130℃、5時間加熱し、乾熱処理澱粉(試料81、82)を得た。
【0063】
<試験例8>
実施例2で得られた試料9、11、15、17、21、23、32、33、35〜37、実施例8で得られた試料72、74、77〜79、比較例3で得られた試料81、82の乾熱処理澱粉について、1.0質量%食塩添加および1.25質量%酢酸添加時の乳化力を評価した。結果を表15に示す。
【0064】
【表15】

【0065】
以上の結果より、澱粉を単に加熱した乾熱澱粉からなる親油性澱粉は、塩の存在又は酸性条件の少なくとも一方で油相が確認されたが、油脂処理澱粉からなる乳化性澱粉では、油相はみられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉に飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上である油脂を添加し、乳化力測定試験において油相がなくなる程度まで加熱熟成処理したことを特徴とする油脂処理澱粉。
【請求項2】
澱粉に、飽和脂肪酸および1価の不飽和脂肪酸の含量が合計で60質量%以上であり、かつ1価の不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上である油脂を添加し、乳化力測定試験において油相がなくなる程度まで加熱熟成処理したことを特徴とする油脂処理澱粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油脂処理澱粉からなる乳化性澱粉。
【請求項4】
原料澱粉がタピオカ澱粉又はエンドウ豆澱粉である請求項1又は2に記載の油脂処理澱粉。