説明

乳化性組成物

【課題】メジカゲン酸骨格のサポニンの構造及び糖鎖の配糖と乳化力の関係を調査し、より乳化力の高く、乳化安定性、さらに他の機能を有するメジカゲン酸骨格のサポニンを見出し、メジカゲン酸骨格のサポニンを含有する乳化性組成物を提供すること、またそれを用いた飲食品及び化粧品を提供する。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、化学式1で表されるメジカゲン酸を基本骨格とするオレアナン型サポニンの少なくとも1種を含有することを特徴とする乳化性組成物の構成とした。但し化学式1中、R及びRは糖鎖基又は水素原子であり、R及びRは糖鎖基又は水素原子或いはアルキル基である。但し、R〜Rの何れか一つは糖鎖基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来の界面活性成分を含有した乳化性組成物に関し、より詳しくは、サポニンに分類される界面活性成分を含有した乳化性組成物、またそれを用いた飲食品及び化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
サポニン (saponin) とは、ステロイド、ステロイドアルカロイド(窒素原子を含むステロイド)、あるいはトリテルペンの配糖体で、水に溶けて石鹸様の発泡作用を示す物質の総称である。多くの植物に含まれ、また一部の棘皮動物(ヒトデ、ナマコ)の体内にも含まれる。界面活性作用があるため細胞膜を破壊する性質があり、血液に入った場合には赤血球を破壊(溶血作用)したり、水に溶かすと水生動物の鰓の表面を傷つけることから魚毒性を発揮するものもある。サポニンはヒトの食物中で必要な高比重リポ蛋白つまりコレステロールの吸収を阻害したりする。こうした生理活性を持つ物質の常で作用の強いものにはしばしば経口毒性があり、蕁麻疹や多型浸出性紅斑を起こす。特に毒性の強いものはサポトキシンと呼ばれる。サポニンが含まれる植物には次のようなものがある。ムクロジ、トチノキ、サボンソウ、ジギタリス(ジギトニン)、ブドウ(果皮)、オリーブ、オタネニンジン(朝鮮人参)など(ジンセノシド)、ダイズ、キキョウ、セネガ、キバナオウギ(黄耆)、カラスビシャク(半夏)、ナタマメ。漢方薬などの生薬にはサポニンを含むものが多い。特に界面活性作用を利用した去痰薬(キキョウ、セネガなど)がよく知られるが、そのほかにも様々な薬理作用を示すものが知られている。サポニンを高濃度で含む植物は昔は石鹸代わりに洗濯などに用い(ムクロジ、サイカチの果実など)、現在でも国によってはシャンプーなどに用いている。またダイズ、茶種子、エンジュなどのサポニンが食品添加物(乳化剤)として用いられている(非特許文献1/一部削除)。
【0003】
サポニンは、上述のように配糖体であり、加水分解すると非糖部のサポゲニン(sapogenin)と糖を生じる。サポゲニンは、その構造からステロイド系サポゲニンとトリテルペノイド系サポゲニンとに大別される。酸による加水分解の他、アルカリ処理によるエステル結合の解離、糖部をグリコシダーゼで除去しても得られる。サポゲニンは、サポニンの上記性質は示さない。
【0004】
トリテルペノイドとは、炭素数5のイソプレン単位を6つ持ち、計30の単層で構成されるテルペンにカルボキシル基、ヒドロキシ基などの官能基が付加した誘導体である。これに糖が結合するとトリテルペノイドサポニンと呼ばれる。甘草のグリチルリチン、朝鮮人参のジンセノサイド類、サイコのサイコサポニン類などが知られている。トリテルペノイドサポニンの大部分は、へデラゲン酸やオレアノール酸のような五環性のオレアナン型(β−アミリン型ともいう。)のトリテルペノイドの配糖体である。
【0005】
サポニンについて、上述のように界面活性作用、乳化作用があることは従来から知られており、例えば、特許文献1〜4などが開示されている。
【0006】
特許文献1に記載の「生理活性物質含有複合体」は、水中に難水溶性の生理活性物質を簡便かつ分散安定性良く乳化又は可溶化させる。難水溶性の生理活性物質の種類によっては化粧品又は皮膚外用剤へ用いた場合の感触、又は/及び、生理活性物質の水中での安定性が良好となるために、難水溶性の生理活性物質とリン脂質が有機溶媒中に均一に溶解している溶液から有機溶媒を除去して、難水溶性の生理活性物質とリン脂質を同時に析出せしめて得られる(請求項1)、また前記難水溶性の生理活性物質がビタミンA類及びその誘導体、ビタミンE類及びその誘導体、ビタミンD類、ビタミンK類、カロテノイド類、フラボノイド類、タンニン類、フェニルプロパノイド類、リグナン類、クマリン類、トリテルペノイド類、ステロール以外のステロイド類、サポニン類、ユビキノン類、トラネキサム酸及びその誘導体、α−リポ酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とし(請求項2)、そして前記サポニン類がダイズ、茶葉、茶種子、サイコ、カンゾウ、人参から選ばれる1種又は2種以上の植物を抽出、精製して得られるサポニン及びこれらのサポゲニンであることを特徴とする(請求項3)。
【0007】
サポニンとしては、より詳しくは、特許文献1の段落0029に、「ダイズ、茶葉、茶種子、エンジュ、サイコ、カンゾウ、キュウリ、キラヤ、ユッカ、キキョウ、アマチャヅル、ヘチマ、ビワ、アズキ、ツボクサ、サボンソウ、シナノキ、ワレモコウ、セイヨウキズタ、トウキンセンカ、スイカズラ、ナギイカダ、セイヨウトチノキ、ムクロジ、オンジ、セネガ、バクモンドウ、モクツウ、チモ、ゴシツ、サンキライ、人参類(田七人参、高麗人参、花旗人参、竹節人参)等の植物より抽出、精製して得られるサポニン及びこれらのサポゲニンが挙げられる。これらのうち入手性等の観点から、ダイズ、茶葉、茶種子、サイコ、カンゾウ、人参から抽出、精製して得られるサポニン及びこれらのサポゲニンが好ましい。」として例示されている。
【0008】
特許文献2に記載の「人参サポニン代謝産物を有効成分とする微細乳化粒子及びその製造方法、並びにこれを含有する皮膚老化防止用の化粧料組成物」は、人参サポニンの代謝産物を含み、強化された皮膚透過性を有する微細乳化粒子を提供するため。また微細乳化粒子の製造方法を提供するため、更に微細乳化粒子を含有することにより繊維芽細胞増殖及びコラーゲン生合成を促進することができる皮膚老化防止用の組成物を提供するため、有効成分として人参サポニンの代謝産物を含有する微細乳化粒子であって、前記人参サポニン代謝産物が人参サポニンから糖転換反応により得られたものであることを特徴とし(請求項1)、前記人参サポニン代謝産物は、化学式1で表される20-O-β-D-グルコピラノシル-20(S)-プロトパナクサジオール(protopanaxadiol)、化学式2で表される20-O-β-D-グルコピラノシル-20(S)-プロトパナクサトリオール(protopanaxatriol)、及び化学式3で表される20-O-[α-L-アラビノピラノシル(1→6)-β-D-グルコピラノシル]-20(S)-プロトパナクサジオール、並びにこれらの混合物からなる群のうち選択されることを特徴とする(請求項2)。
【0009】
また、特許文献2の段落0004には、「人参サポニンは、ダンマラン(dammarane)系のトリテルペン(triterpene)の非糖部のR、R及びR位置のアルコール性OH基に、グルコース(glucose)、ラムノース(rhamnose)、キシロース(xylose)及びアラビノース(arabinose)のような糖類がエーテル結合された構造を有している。現在まで総29種のサポニンが発見された。」との記載、さらに、段落0005には、「このような人参サポニンは、750余種の植物に含有された他の植物のサポニンとは、化学構造が相違するだけでなく、薬理効能も異なるものと発表された。特に、人参サポニンは、薬性が非常に温和で、過量投与による毒性がないだけでなく、溶血作用も殆どないということが明らかになった。」との記載がる。
【0010】
特許文献3に記載の「パン粉生地改良剤」は、品質の優れたパン粉を製造するために有用なパン粉生地改良剤、該パン粉生地改良剤を含有するパン粉生地、該パン粉生地より得られるパン粉、該パン粉生地改良剤を配合することを特徴とするパン粉生地の製造方法および該パン粉生地を用いるパン粉の製造方法を提供するため、蛋白質と胆汁酸またはサポニンとの結合物を含有することを特徴とする(請求項1)。
【0011】
また、特許文献3の段落0016には、「結合体の製造に用いられるサポニンとしては、植物中に含まれる配糖体であり、かつステロイドまたはテルペノイドを非糖部とする化合物であればいずれも用いられ、例えば、大豆サポニン、砂糖大根サポニン、ホウレンソウサポニン、ムクロジサポニン、ユッカサポニン、キラヤサポニン等があげられる。本発明のサポニンとしては、大豆サポニン、ユッカサポニンまたはキラヤサポニンが好適に用いられる。」との記載がある。
【0012】
特許文献4に記載の「新規蛋白質結合物」は、乳化安定性に優れた乳化組成物を製造するために有用な乳化剤、または品質の優れたパンを製造するために有用な生地改良剤を提供すため、蛋白質とサポニンまたは胆汁酸との結合物である(請求項1)。また、段落0014には、「本発明のサポニンとしては、植物中に含まれる配糖体であり、かつステロイドまたはテルペノイドを非糖部とする化合物であればいずれも用いられ、例えば、大豆サポニン、砂糖大根サポニン、ホウレンソウサポニン、ムクロジサポニン、ユッカサポニン、キラヤサポニンがあげられる。本発明のサポニンとしては、大豆サポニン、ユッカサポニンまたはキラヤサポニンが好適に用いられる。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−197328号公報
【特許文献2】特開2003−212776号公報
【特許文献3】特開2001−299193号公報
【特許文献4】特開平11−215956号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%8B%E3%83%B3
【非特許文献2】「Two New Triterpenoid Saponins Isolatedfrom Polygala japonica」Chem.Pharm.Bull.54(12)1739-1742(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献3には、人参サポニンのダンマラン系トリテルペノイドサポニンの配糖について、若干の報告はあるが、メジカゲン酸骨格のサポニンの配糖と乳化力の関係、食品、医薬品用途について検討、その報告は全くない。
【0016】
そこで、本発明は、メジカゲン酸骨格のサポニンの構造及び糖鎖の配糖と乳化力の関係を調査し、より乳化力の高く、乳化安定性、さらに他の機能を有するメジカゲン酸骨格のサポニンを見出し、メジカゲン酸骨格のサポニンを含有する乳化性組成物を提供すること、またそれを用いた飲食品及び化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するために、
【化1】

(式中、R及びRは糖鎖基又は水素原子であり、R及びRは糖鎖基又は水素原子或いはアルキル基である。但し、R〜Rの何れか一つは糖鎖基である。)
上記化学式1で表されるメジカゲン酸を基本骨格とするオレアナン型サポニンの少なくとも1種を含有することを特徴とする乳化性組成物の構成とした。また、前記オレアナン型サポニンが、少なくとも2個の糖鎖を有することを特徴とする前記乳化性組成物の構成、前記オレアナン型サポニンの少なくとも前記R、Rが、糖鎖基であることを特徴とする前記何れかに記載の乳化性組成物の構成とした。
【0018】
さらに、前記何れかに記載の乳化性組成物に、少なくとも他の1種の乳化剤を添加したことを特徴とする乳化性組成物の構成、前記何れかに記載の乳化性組成物に、少なくとも1種類の増粘多糖類を添加したことを特徴とする乳化性組成物の構成、前記何れかに記載の乳化性組成物に、記載の乳化性組成物に、少なくとも1種類の乳化性タンパク質を添加したことを特徴とする乳化性組成物の構成、前記オレアナン型サポニンが、ヒメハギ又はホウレン草由来であることを特徴とする前記何れかに記載の乳化製組成物の構成とした。
【0019】
また、
【化2】

前記オレアナン型サポニンが、上記化学式2で表され、前記Rがβ-D-glucopyranosyl基で、かつ前記Rが[β-D-xylopyranosyl(1→4)-[β-D-apiofuranosyl(1→3)]-α-L-rhamnopyranosyl(1→2)-β-D-glucopyranosyl基であることを特徴とする前記何れかに記載の乳化性組成物の構成とした。
【0020】
加えて、前記何れかに記載の乳化性組成物によって、水系と油系を乳化したことを特徴とする乳化物の構成とした。前記何れかに記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする飲食品の構成とした。前記飲食品が、パン生地改良剤であることを特徴とする前記飲食品の構成とした。
【0021】
そして、前記何れかに記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする化粧品の構成とした。また前記何れかに記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする洗剤の構成とした。
【0022】
メジカゲン酸(CAS登録番号599−07−5)とは、図1に示すメジカゲン酸骨格サポニンにおいて、R〜Rが全て水素原子であるオレアナン型構造(図2)のテルペノイドである。体系名は、(4S)-2β,3β-ジヒドロキシオレアナ-12-エン-23,28-二酸である。
【0023】
乳化性組成物とは、乳化作用のみを有するものではなく、水系又は油系に添加した場合に、乳化作用用途に限定されることなく、分散作用、パン生地改良作用等、食品添加物として乳化剤が持つ機能をも含む概念である。
【0024】
メジカゲン酸骨格サポニンの抽出源としては、ヒメハギ、ホウレン草、その他、アルファルファ(Medicago sativa)やMedicago hybrida等など、主にマメ科ウマゴヤシ属(Medicago)の植物などが例示できる。特に、ホウレン草が入手容易で、従来から食されていることから安全性も問題ない。
【0025】
糖とは単糖類を意味し、特に限定されないが、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、アピオース、フコースやグルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などの酸性糖が例示できる。糖鎖とは、複数の単糖類がグリコシド結合によりお互いに結合した成分を意味する。アルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖などが例示できる。
【0026】
メジカゲン酸骨格サポニンの他に添加される乳化剤としては、食品に使用する場合には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム(ステアリル乳酸カルシウム)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート、天然物由来のレシチンなど、食品添加物として認められているものを採用することができる。さらに、食品素材としての乳化性物質も含むものである。化学製品については、その使用が認められているものは何れも採用できる。乳化剤を複数使用することで、乳化力、乳化安定性に相乗効果を発揮する。
【0027】
メジカゲン酸骨格サポニンの使用量としては、水中油型乳化物においては、水系油系に対して、0.001重量%〜5重量%の範囲であればよい。0.001重量%より低濃度であると、乳化力、乳化安定性が十分でなく、5重量%より高濃度であっても乳化力に大きな差はなく、またコスト高になってしまう。
【0028】
メジカゲン酸骨格サポニンにおいて、R、R位に配糖したものが、Rのみに配糖したものより、水中油型乳化物における乳化力、乳化安定性が優れる。糖鎖の数、位置を限定することで、より高い乳化性組成物を得ることができる。
【0029】
増粘多糖類としては、食品添加物として採用されている増粘剤、安定剤、ゲル化剤は何れも採用でき、乳化においては乳化作用を有するものを採用することが好ましい。また、製パン生地改良剤においては、蛋白吸着性がある増粘多糖類が好ましい。例えは、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、ジュランガム、ガルボキシメチルセルロースなどが使用できる。
【0030】
乳化性タンパク質としては、カゼイン、カゼインナトリウム、ホエー、卵白、卵黄、大豆タンパク、小麦たんぱく、エンドウタンパクそれら加工品等を採用することができる。メジカゲン酸骨格サポニンと相乗効果で、より乳化力、乳化安定性が増す。
【0031】
本発明は、製パン用生地改良剤に好適であるが、使用されるパンは、食パンに限定されることなく、菓子パン等パンに広く使用できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は上記構成であるので、次の効果を発揮する。メジカゲン酸骨格をもつサポニンは、食品、飲料、医薬品、化粧品、洗剤などの各種工業製品等に天然由来の乳化剤と使用できる。また、水系、油系のみ添加したとしても、気泡剤、パン生地改良剤等など乳化剤の他の機能も発揮する。また、メジカゲン酸骨格サポニンは、従来のサポニンと遜色なく、またより高い乳化力、乳化安定性(経時的、熱、酸安定性など)を有し、それを利用した食品、飲料及び化粧品等に高い乳化安定性を付与する。
【0033】
〜Rでの糖鎖の数が多いほど、水中油型乳化物における乳化力が高く、乳化安定性も優れている。またメジカゲン酸骨格サポニンでの糖鎖の位置を限定することで、より高い乳化力、乳化安定性を発揮する。さらに、他の乳化性物質(乳化性タンパク)を添加することで、乳化力が増す。従来から食品に使用されていたサポニン、例えば大豆、茶種子、人参、エンジュ由来サポニンより乳化力、乳化安定性は優れている。
【0034】
特に、メジカゲン酸骨格サポニンを添加した製パンにおいては、焼成後の生地の硬化を遅延させ、歯切れをよくする機能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】メジカゲン酸骨格のサポニンの化学式(一般式)である。
【図2】メジカゲン酸の化学式である。
【図3】各実施例に使用したヒメハギより抽出、分離したメジカゲン酸骨格のサポニンの化学式である。
【図4】実施例2の乳化安定性試験の結果を示す図である。
【図5】製パンテストのパン生地配合を示す図である。
【図6】製パンテストのパンの官能検査結果を示す図である。
【図7】製パンテストのパンの経時的硬さ変化の検査結果を示す図である。
【図8】製パンテストのパンの破断検査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0037】
[メジカゲン酸骨格のサポニンの分離]
・サポニン源
実施例1では、サポニン源としてヒメハギ(polygala japonica)を用いた。ヒメハギは、草本または低木性で、花は両性で左右相称、がくおよび花弁は普通各5枚で、内側のがく2枚が花弁状になるものが多いとされる。花弁は下3枚が合生して舟形になるものが多く、上2枚が小さい(またはない)。日本にはヒメハギ、カキノハグサ、ヒナノキンチャク、ヒナノカンザシ等が自生する。サポニンを含み、セネガやイトヒメハギ(漢方薬:遠志=オンジ)などが薬用(去痰・鎮咳薬)として用いられる。ヒメハギは名の通り見かけがハギに似ており、左右相称の花は一見マメ科の蝶形花に似ているが、マメ科との直接的な関係はないと考えられている。
【0038】
・サポニン成分の抽出方法
先ず、ヒメハギを乾燥させ、粉砕してパウダー状にした。次にパウダー状のヒメハギにメタノールを注ぎ、ヒメハギのサポニン成分をメタノールに溶出させ、メタノール抽出物を得た。そして、メタノール抽出物を、ブタノール及び水に混合し、サポニン成分を水に分画し、サポニン水溶液を得た。前記水溶性画分を、疎水基結合型シリカゲルの固相カートリッジ(ジーエルサイエンス製、InertSep C18−B)に吸着させた。
【0039】
前記固相からのサポニン成分の溶出は、次のようにバッチ式に行った。メタノール(30重量%)、ギ酸(0.1重量%)、水からなる第1溶媒で固相を洗浄し、続いてメタノール(99.9重量%)、ギ酸(0.1重量%)からなる第2溶媒でカラムを洗浄し、サポニン成分の溶出物を含む第2溶媒画分を得た。最後に、第2溶媒画分から溶媒を揮発させ、濃縮したサポニン粗精製物を得た。
【0040】
・サポニンの分離方法
前記サポニン粗精製物から分取用HPLC(ジーエルサイエンス製、リサイクル分取HPLCシステム)及びODSカラム(ジーエルサイエンス製、Inertsil ODS-3 内径20mm、長さ250mm)、移動相としてメタノール(70%重量)、ギ酸(0.1%重量)、水からなる溶出溶媒を用いてサポニン精製物を得た。検出はRIで行い、溶出溶媒の流速は、20mL/分とし、目的成分が単離するようにリサイクル工程を繰り返した。上記工程により、ヒメハギ由来の単一のサポニン精製物が得られた。
【0041】
・サポニンの同定方法
前記HPLCで分出したサポニン精製物は、13C−NMR測定に供し、非特許文献2の値と比較することでメジカゲン酸骨格を持つこと、H−NMR測定によるアノメリックプロトンのシグナルから糖を5個持つことが確認された。なお、NMRは、Bruker 400WB UltraShield plus(400MHz)を用いた。
【0042】
さらに、ヒメハギ由来のサポニン精製物の分子量は、LC−TOF−MS(日本電子株式会社製、JMS−T100LC)によってC589228
であることが確認された。サポニン精製物を酸による加水分解処理し、HPLC、GC分析を用いて、各糖の標準物質(和光純薬社製、東京化成工業製)と比較することにより、糖組成の構造を決定した。
【0043】
そして、糖の結合位置及び結合順序は2次元NMR(TOCSY、HSQC、HMBC)によって決定した。糖のα/βアノマー構造は、カップリング定数[J(H−1/H−2)、J(C−1/H−1)]を利用して確認した。
【0044】
以上の確認及び決定と、非特許文献2の値と比較した結果、実施例1で得られたヒメハギ由来の精製サポニンは、メジカゲン酸骨格を持つ、オレアナン型サポニンで、3-O-β-D-glucopyranosyl medicagenic acid 28-O-{β-D-xylopyranosyl(1→4)-[β-D-apiofuranosyl(1→3)]-α-L-rhamnopyranosyl(1→2)-β-D-glucopyranosyl}ester(3−オルト−β−D−グルコピラノシル メジカゲン酸 28−オルト−{β−D−キシロピラノシル(1→4)−[β−D−アピオフラノシル(1→3)]−α−L−ラマノビラノシル(1→2)−β−D−グルコピラノシル}エステル(以下、「ヒメハギサポニン」という。))であることを確認した。
【実施例2】
【0045】
[サポニンの乳化力、乳化安定性試験]
・乳化性組成物(1)〜(5)の作成(乳化性組成物(1)〜(5)は、図4の(1)〜(5)とそれぞれ同一である。)
【0046】
乳化性組成物(4)
実施例1で精製したヒメハギサポニンを水に溶解し、サポニン水溶液(8g/L)とした。そして、サポニン水溶液10gとナタネ油10gを乳化し、乳化性組成物(4)を得た。乳化物は、ホモジナイザー(KINEMATICA社製、CH−6010)を用いて、50℃、10,000rpm、5分間の処理で得た。以下、同じ。
【0047】
乳化性組成物(5)
カゼインNa2g/Lの水溶液でヒメハギサポニンの水溶液(8g/L)を調製した。そして、前記乳化性組成物(4)と同様に、カゼインNa含有サポニン水溶液10gとナタネ油10gを乳化して、乳化性組成物(5)を得た。
【0048】
乳化性組成物(3)
実施例1で精製したヒメハギサポニンをアルカリ溶液で処理し、図3に示すC28位のエステル結合を切断し、Rの糖鎖を切除してRの糖鎖のみとした。その後、中和してHPLCで再度上述のようにアルカリ処理サポニンを分離精製した。精製したアルカリ処理サポニンは、H−NMRでRの糖鎖のみであること及びC28位のカーボンスペクトルで28位の官能基が−COOHであることも確認した。
【0049】
精製されたアルカリ処理サポニンを水に溶解し、サポニン水溶液(8g/L)とし、前記乳化性組成物(4)と同様に、サポニン水溶液10gとナタネ油10gを乳化して、乳化性組成物(3)を得た。
【0050】
乳化性組成物(1)、(2)
メジカゲン酸骨格でないサポニンとして、大豆サポニン(和光純薬製)、キラヤサポニン(Sigma製)を選択し、それぞれ8g/Lの水溶液に調整した。次に、前記乳化性組成物(4)と同様に、サポニン水溶液10gとナタネ油10gを乳化して、それぞれ乳化性組成物(1)、(2)とし、メジカゲン酸骨格サポニンの乳化安定性試験の比較例とした。
【0051】
・乳化力及び乳化安定性の評価方法
乳化力及び乳化安定性評価は、上記各乳化性組成物(1)〜(4)を、標準環境、高温環境、低pH環境下に放置し、乳化層の多少で評価した。図4中の標準環境とは、前記乳化性組成物を25℃、24間静置して乳化安定性を評価したときの結果であり、サポニンの乳化力を評価することができる。高温環境とは、オートクレーブを用いて、120℃、20分間の加熱処理を行い、オートクレーブから取り出した後に、乳化安定性を評価したときの結果である。低pH環境は、各乳化性組成物にクエン酸を添加し、pH3.0に調整した後、25℃、24時間静置して乳化安定性を評価したときの結果である。これらからサポニンによる乳化性組成物の耐熱性、耐酸性等の乳化安定性を評価することができる。
【0052】
乳化安定性は、
{評価時の乳化層の体積/全体積(20mL)}×100
で計算し、乳化安定率(%)を求めて評価した。数値が大きいほど乳化力、乳化安定性が高いことを意味する。
【0053】
・試験結果
乳化安定性評価の結果を図4に示す。図4から明らかなように、メジカゲン酸骨格サポニンであるヒメハギサポニンの乳化物(4)は、従来から飲食品用途に使用されている大豆サポニン(1)、キラヤサポニン(2)に比べ、標準環境、高温環境、低pH環境の何れにおいても乳化力及び乳化安定性は、極めて優れていることが分かる。また、メジカゲン酸骨格サポニンによる乳化物は、耐熱性、耐酸性も高いことが分かる。
【0054】
また、ヒメハギサポニンから1箇所の糖鎖を切除し、1種の糖鎖のみである乳化性組成物(3)では、ヒメハギサポニンには及ばないものの従来の大豆、キラヤサポニン乳化性組成物(1)、(2)と比べ遜色ない乳化安定性を示した。このことから、乳化力、乳化安定性と、糖鎖の数は比例することも分かる。
【0055】
ヒメハギサポニンによる乳化性組成物(4)に乳化性タンパク質であるカゼインNaを添加した乳化性組成物(5)は、乳化性組成物(4)以上に乳化力、乳化安定性が高いことが分かる。油分の分離は標準環境で5%、高温環境で18%、低pH環境で8%程度である。
【実施例3】
【0056】
[製パンテスト]
次に、メジカゲン酸骨格サポニンであるヒメハギサポニンを含む乳化性組成物(実施例2の(5))を製パンに用いられるパン生地改良剤として使用し、その有効性を確認した。
【0057】
・製パン配合
製パンテストのパン配合を図5に示す。実施例3では、パン生地改良剤として、カゼインNa2g/Lの水溶液で実施例1において精製したヒメハギサポニンの水溶液(8g/L)40重量%の水系と、ナタネ油60重量%の油系とからなる乳化性組成物70gを使用した。
【0058】
前記乳化性組成物は、水系を撹拌しながら、油系を徐々に添加して予備乳化し、その後ホモミキサー(プライミクス社製、T.KホモミキサーMARKII)で、50℃、8000rpm、10分間処理して得た。
【0059】
比較例1は、パン生地改良剤として、実施例3の乳化性組成物に換え、ポリグリセリン脂肪酸エステル(4g/L、太陽化学社製、サンソフトA−181E)水溶液を水系とし、実施例3と同様に油系を乳化した水中油型乳化性組成物70gを使用した。比較例2は、パン生地改良剤として、実施例3の乳化性組成物に換え、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル0.16gと、水系40重量%とナタネ油60重量%を乳化させずに混合したものを使用した。
【0060】
・製パン方法(食パン)
ミキシングは、低速2分間、中速4分間行い、実施例又は比較例を添加し、低速2分間中速4分間、高速1分間とした。捏ね上げ生地温度27℃、第1発酵条件27℃、湿度75%、90分間静置とした。生地分割重量は、240g×6個とし、ベンチタイムを20分とり、第2発酵38℃、湿度80%、50分間静置した後、200℃、35分間焼成し、食パンを得た。
【0061】
・評価方法
実施例3と比較例1、2の食パンについて、熟練したパネラー15人で官能検査を行った。評価項目は、(1)パンとしての柔らかさ(2)パンとしての歯切れの良さとし、各5点満点で評価した。(1)柔らかさの得点は、柔らかい5点、やや柔らかい4点、普通3点、やや硬い2点、硬い1点とし、(2)歯切れの良さの得点は、良い5点、やや良い4点、普通3点、やや悪い2点、悪い1点とした。官能検査の結果を図6に示す。官能検査数値が高いほど、食パンとしての柔らかさに優れ、歯切れが良いことを意味する。
【0062】
また、食パンの客観的評価として、経時的硬さ変化、破断検査を測定装置(Stable Micro Systems社製、テクスチャーアナライザーTA−XT2i)を用いて行った。
【0063】
食パンの経時的硬さ変化は、検査直前に2cmの厚さにスライスした食パンを、直径15mmの円柱プレンジャーで、50%の厚さに圧縮した。そのときの応力(g)を測定して食パンの硬さ(g)とした。検査に使用した食パンは、焼成、冷却後、ブロックのまま密封し25℃に保持した。応力測定は、焼成から1日後、2日後、4日後に行った。図7に測定した応力値を示す。応力値が大きいほど食パンが硬く、小さければ柔らかいことを意味する。
【0064】
破断検査は、歯切れの善し悪し評価する指標となり、測定は次の方法で行った。表皮の部分含む2cmの厚さにスライスした食パンを、先端に刃が取り付けられているアダプターで、表皮を垂直に切断した。その切断に必要な力(g)の最大値を食パンの破断値(g)とした。破断検査に使用した食パンは、経時的硬さ変化に用いた食パンと同じ食パンからスライスして使用した。破断値測定日は、焼成から1日後、2日後、4日後で経時的硬さ変化と同日に行った。図8に測定した破断値を示す。破断値が大きいほど歯切れが悪く、小さければ歯切れが良いことを意味する。
【0065】
・試験結果
各試験結果を図6(官能検査)、図7(経時的硬さ変化)、図8(破断検査)に示す。
【0066】
図6に示すように、食パンとしての柔らかさ、歯切れは、乳化させずポリグリセリン脂肪酸エステルを添加した比較例2、ポリグリセリン脂肪酸エステルによる乳化物である比較例1、ヒメハギサポニンを含有した乳化性組成物である実施例3の順で評価がよく、実施例3が最も優れていた。
【0067】
メジカゲン酸骨格を有するサポニンであるヒメハギサポニンは、乳化力、乳化安定性に加え、パン生地改良効果も発揮することが分かり、従来からパン生地改良効果があるとされる
ポリグリセリン脂肪酸エステル(比較例1、2)に比して遜色なく、さらに優れている。また、風味においても優れていた。
【0068】
図7に示すように、食パンの経時的硬さ変化は、実施例3において、初期の硬さが最も低く、またその硬化速度も遅く優れていた。この結果は官能検査とも一致した。
【0069】
図8に示すように、実施例3は、初期の切断力が最も低く、またその後の切断力も比較例にくらべ低いことが分かり、ヒメハギサポニンに改善効果があることが示された。この結果は官能検査とも一致した。従って、メジカゲン酸骨格サポニンは、パン生地改良剤として製パンに使用した場合、パンの柔らかさ、歯切れの良さを改善することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、天然由来の乳化力の強く、乳化安定性が高い乳化性組成物であるので、油用成分の乳化安定、気泡、パン生地改良などに使用でき、添加物表示の入らない新たな食品、化粧品を提供することができ、食品、化粧品などの化学分野、医薬品分野において極めて有効で、大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

(式中、R及びRは糖鎖基又は水素原子であり、R及びRは糖鎖基又は水素原子或いはアルキル基である。但し、R〜Rの何れか一つは糖鎖基である。)
上記化学式1で表されるメジカゲン酸を基本骨格とするオレアナン型サポニンの少なくとも1種を含有することを特徴とする乳化性組成物。
【請求項2】
前記オレアナン型サポニンが、少なくとも2個の糖鎖を有することを特徴とする請求項1に記載の乳化性組成物。
【請求項3】
前記オレアナン型サポニンの少なくとも前記R、Rが、糖鎖基であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の乳化性組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の乳化性組成物に、少なくとも他の1種の乳化剤を添加したことを特徴とする乳化性組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の乳化性組成物に、少なくとも1種類の増粘多糖類を添加したことを特徴とする乳化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の乳化性組成物に、少なくとも1種類の乳化性タンパク質を添加したことを特徴とする乳化性組成物。
【請求項7】
前記オレアナン型サポニンが、ヒメハギ又はホウレン草由来であることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の乳化製組成物。
【請求項8】
【化2】

前記オレアナン型サポニンが、上記化学式2で表され、前記Rがβ-D-glucopyranosyl基で、かつ前記Rが[β-D-xylopyranosyl(1→4)-[β-D-apiofuranosyl(1→3)]-α-L-rhamnopyranosyl(1→2)-β-D-glucopyranosyl基であることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の乳化性組成物。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の乳化性組成物によって、水系と油系を乳化したことを特徴とする乳化物。
【請求項10】
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項11】
前記飲食品が、パン生地改良剤であることを特徴とする請求項10に記載の飲食品。
【請求項12】
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする化粧品。
【請求項13】
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする洗剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−74848(P2013−74848A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217122(P2011−217122)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】