説明

乳化組成物

【課題】主な油性成分がアミノ酸系油剤であって乳化粒子径が小さい乳化組成物を提供する。
【解決手段】(A)アミノ酸系油剤と、(B)水素非添加レシチンと、(C)多価アルコールを含有し、多価アルコールが1,2−ペンタンジオールおよびグリセリンである乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化組成物の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)やN−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)などのアミノ酸系油剤は、抱水性のある油剤として知られ、保湿効果が高いことから広く化粧料に用いられている。しかしながら、保湿効果を期待して多量にアミノ酸系油剤を配合するとべたつきが生じる問題があった。
アミノ酸系油剤のべたつきを抑える技術として複数の技術が開示されている。
例えば、アミノ酸系油剤とパルミチン酸セチルを併用し、アミノ酸系油剤のべたつきを抑えて皮膚のやわらかさを向上させる化粧料の技術が開示されている(特許文献1:特開2008−115110号公報)。
しかしながら、パルミチン酸セチルは室温で固体のため加熱溶解することが必須であり、加熱すると変質してしまう油性の美容成分を配合する場合には、油性の美容成分を低温で別に添加するなど工程が煩雑になる場合があった。
別の方法として、アミノ酸系油剤とレシチン、多価アルコール、水、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む乳化型化粧料の技術が開示されている(特許文献2:特許第4255078号)。この技術は、アミノ酸系油剤の平均粒子径を30〜200nmと小さくすることでアミノ酸系油剤が角質の隙間に入り込むことが可能となり、その結果、表皮にアミノ酸系油剤が多量に存在しないので、べたつき感が生じにくくなる、というものである。
しかしながら、この技術に必須の成分であるポリグリセリン脂肪酸エステルは室温で固体のため、調製時に加熱溶解する必要があった。また、折角アミノ酸系油剤の平均粒子径を200nm以下にしてべたつき感を低減させても、必須成分であるポリグリセリン脂肪酸エステルの添加が乳化組成物の使用感をべたつかせる要因となる場合もあり、必ずしも満足できるものではなかった。
ところで、乳化粒子径を細かくする為に、高圧乳化機(高圧ホモジナイザー、ナノマイザー)などの機械力を用いて乳化粒子径を小さくする技術が知られており、先に述べた特許第4255078号においてもナノマイザーを使用して乳化組成物が調製されている(特許文献2:特許第4255078号 段落番号0014、特許文献3:特許第4297648号 段落番号0017)。
しかしながら、高圧乳化機(高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、マイクロフルイダイザーなど)は乳化粒子径を細かくしようとした時に必ずしも万能ではない。例えば、アミノ酸系油剤を高配合した系のように乳化組成物の粘度が高く流動性が低い場合には、工場などでの生産時において組成物がうまく高圧乳化機を通らなくなる恐れがあり、乳化粒子径が不均一になる場合がある。
特別な装置を使わなくてもアミノ酸系油剤の乳化粒子径を1μm未満に小さくする技術開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−115110
【特許文献2】特許第4255078号
【特許文献3】特許第4297648号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
主な油性成分がアミノ酸系油剤であって乳化粒子径が小さい乳化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)(A)アミノ酸系油剤と、(B)水素非添加レシチンと、(C)多価アルコールとして1,2−ペンタンジオールおよびグリセリンを含有することを特徴とする乳化組成物。
(2)(A)アミノ酸系油剤が、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)から選ばれる一種以上であることを特徴とする(1)に記載の乳化組成物。
(3)1,2−ペンタンジオールとグリセリンの配合比が、1:3〜1:10であることを特徴とする(1)または(2)に記載の乳化組成物。
(4)1,2−ペンタンジオールとグリセリンの総量と、(A)アミノ酸系油剤の配合比が、7:2〜1:1であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の乳化組成物。
(5)(B)水素非添加レシチンと(A)アミノ酸系油剤の配合比が、1:4〜1:40であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の乳化組成物。
(6)(A)アミノ酸系油剤を15質量%〜50質量%含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の乳化組成物。
(7)1,2−ペンタンジオールとグリセリンを合計で35質量%〜70質量%含むことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の乳化組成物。
(8)粒子径1μm以下であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の乳化組成物。
(9)高温分解性美容成分を配合したことを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の乳化組成物。
【発明の効果】
【0006】
(1)アミノ酸系油剤を主成分とした油性成分と、水素非添加レシチンと1,2−ペンタンジオールとグリセリンを組み合わせて乳化することで、マイクロフルイダイザーなどの高圧乳化装置を使用しなくても1μm未満のナノサイズの乳化組成物が得られた。
(2)アミノ酸系油剤を主成分とした油性成分は乳化粒子径が1μm未満のナノサイズで化粧料中に配合できるので、塗布時にべたつかず、塗布後はしっとり感が得られる優れた使用感である。
(3)安定性に優れた乳化組成物を提供することができた。
(4)本発明で得られた乳化組成物の一部を、別の容器で調製した化粧料に添加することで、化粧料のバリエーション化が可能である。例えば、化粧水に配合すれば、透明〜半透明な化粧水を得ることができる。また、乳液やクリームに配合すれば、異なる乳化粒子径の油滴を含む化粧料を簡単に調製できるので、所望する使用感の乳化組成物を自在に作製することができる。
(5)本発明の構成をとることにより、室温でもナノサイズの乳化組成物を調製することができるので、高温で分解しやすい薬剤の乳化の実現、製造工程の簡略化、コストダウンなどが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の(A)成分であるアミノ酸系油剤は、市販されている味の素株式会社製の「エルデュウ(登録商標)」を用いることができる。
「エルデュウ(登録商標)」シリーズには、グルタミン酸を含むものと、アラニンを含むものがある。グルタミン酸を含むものとしては、エルデュウCL−301:N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、エルデュウCL−202: N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、エルデュウPS−203: N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、エルデュウPS−304: N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、エルデュウPS−306: N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)が市販されている。アラニンを含むものとしては、エルデュウAPS−307:ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)が市販されている。
アミノ酸系油剤として、エルデュウPS−203: N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)は、室温で多価アルコールと混和しやすいので特に好ましい。
尚、室温でワックス状やペースト状であっても多価アルコールと混和するのであれば好ましく利用できる。例えば、ワックス状やペースト状の場合、室温で液状のスクワラン、トリエチルヘキサノイン、エチルヘキサン酸セチル、流動パラフィン、シクロメチコンなどの油成成分に溶解させてから配合することができる。また、製造時に加温が可能であれば、室温での状態に特にこだわる必要はない。
本発明に用いるアミノ酸系油剤の配合量は、15質量%〜50質量%が好ましく、特に好ましくは20〜45質量%である。50質量%を超えると、乳化粒子径が大きくなり本発明の目的にそぐわなくなる恐れがある。
【0008】
本発明の(B)成分である水素非添加レシチンとしては、卵黄レシチンや大豆レシチン等が挙げられる。
水素非添加レシチンは単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
水素非添加レシチンの市販品としては、Phospholipid GmbH社製のフォスフォリポン85Gを用いることができる。フォスフォリポン85Gは、大豆リン脂質99.7%、トコフェロール0.3%から成り、大豆リン脂質の組成はホスファチジルコリンが85%以上、リゾホスファチジルコリンが6%以下である。ホスファチジルコリン含有量が高いと乳化能力が高まるので、ホスファチジルコリンの含有量が85%以上の水素非添加レシチンを用いることが好ましい。
本発明に用いる水素非添加レシチンの配合量は0.5〜5質量%、特に好ましくは2〜5質量%用いることが好ましい。0.5質量%に満たないと、アミノ酸系油剤を主とする油剤を1μm未満のナノサイズの乳化粒子径にすることができなくなる恐れがある。5質量%を超えると増粘して撹拌困難になる恐れがある。
尚、水素添加大豆レシチンや水素添加卵黄レシチン等のレシチン中の不飽和炭素鎖を水素添加により飽和結合に変えた水素添加レシチンは、高圧ホモジナイザーなどの機械力を用いないとアミノ酸系油剤を1μm未満のナノサイズの乳化粒子にすることができないので好ましくない。さらに、水素添加レシチンではアミノ酸系油剤を10質量%を超えて配合した処方では乳化組成物の粘度が高まることにより高圧乳化機がうまく利用できなくなる恐れがあり、好ましくない。
【0009】
本発明の(B)成分である水素非添加レシチンは、本発明の (A)成分であるアミノ酸系油剤を主とした油成成分の乳化剤として作用する。乳化に必要な水素非添加レシチンの配合量はアミノ酸系油剤を主とした油成成分の総量に対して1/40〜1/4倍量程度である。
【0010】
本発明の(C)成分は多価アルコールであり、1,2−ペンタンジオールとグリセリンである。
1,2−ペンタンジオールの市販品としては、シムライズ株式会社製のハイドロライト5を例示できる。
グリセリンの市販品としては、ライオン株式会社製の化粧品用濃グリセリンを例示できる。
本発明では、1,2−ペンタンジオールとグリセリンを組み合わせて配合することが必須である。
1,2−ペンタンジオールとグリセリンを合計量として35質量%〜70質量%配合することが好ましく、特に好ましくは40質量%〜50質量%である。
35質量%に満たないとアミノ酸系油剤を主とする油剤の乳化粒子径がナノサイズとならない恐れがある。70質量%を超えるとべたつく恐れがある。
1,2−ペンタンジオールとグリセリンの配合比率は、1:3〜1:10であることが好ましい。1:3〜1:10の範囲を外れると、乳化粒子径が大きめ(1μm以上)になる恐れがある。
【0011】
(C)成分である1,2−ペンタンジオールとグリセリンの総量と(A)成分であるアミノ酸系油剤の配合比は、7:2〜1:1の範囲にあることが好ましい。
【0012】
高温で変質する美容成分の例は次のとおりである。
レチノール、コエンザイムQ10、エゴマ油等を例示できる。
レチノールは、通称ビタミンAとも呼ばれ、末端が水酸基であるレチノール自身である。レチノールは構造的に極めて不安定であり、光、空気、熱、金属イオンなどにより容易に異性化、分解、重合等を起こすので、皮膚外用剤などに配合する場合には変質しないように工夫が必要である。
レチノールの働きとしては、皮膚の角質層の保湿性を向上する作用、表皮細胞を保護する作用、メラノサイトに働きかけてメラニンの生成を抑制する作用、ケラチノサイトに働きかけて新しい細胞の産生を促進する作用、繊維芽細胞に働きかけてコラーゲンやエラスチンの産生を促進する作用などがある。
レチノールの市販品としては、BASF社製のRetiSTARや、レチノール50Cなどを利用できる。RetiSTARはレチノールを5%含む混合原料であり、レチノール、アスコルビン酸ナトリウム、トコフェロール、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリンから成る。RetiSTARを組成物に1質量%配合すると、レチノールとして0.05質量%配合されることになる。
レチノール50Cは、レチノールを50質量%含む混合原料であり、レチノール、モノラウリン酸ソルビタン、酸化防止剤(BHT、BHA)から成る。レチノール50Cを組成物に0.1質量%配合すると、レチノールとして0.05質量%配合されることになる。
レチノールを主剤として0.05質量%配合した組成物は、医薬部外品とすることができる。
【0013】
本発明の乳化組成物には、任意成分として本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に通常用いられている成分、例えば、油剤、保湿剤、薬剤、増粘剤、抗酸化剤、防腐剤、着色剤、香料等を配合することができる。薬剤としては、ビタミン類、植物抽出物などを例示できる。
【0014】
油剤としては、エステル油、炭化水素類、シリコーン油などが例示できる。
エステル油としては、例えば、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3−ブチレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸1,3−ブチレングリコール、ジイソノナン酸ジプロピレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル等が挙げられる。
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
シリコーン油として、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン、シクロペンタシロキサン等が挙げられる。
本発明は、アミノ酸系油剤を乳化する技術である。油剤総量のうち、アミノ酸系油剤を70%以上含ませることが好ましい。
【0015】
本発明の乳化組成物は、乳液、クリーム、日焼け止め等の化粧料や、皮膚外用剤として医薬部外品や医薬品として使用することができる。本発明の乳化組成物の一部を希釈して化粧料や、皮膚外用剤として医薬部外品や医薬品とすることもできる。
【0016】
〔実施例〕
表1〜10の組成で、下記に示す調製方法により乳化組成物(実施例1〜33、比較例1〜12)を調製した。
【0017】
(調製方法)
(C)多価アルコールに(B)レシチンを溶解させた後、グリセリンを加えてレシチンの多価アルコール溶液を調製する。つぎに(A)アミノ酸系油剤をゆっくりと添加しながら攪拌し乳化する。最後に水を添加して攪拌し、乳化組成物とした。撹拌は、すべてディスパーミキサー(1400rpm)で調製した。
【0018】
尚、以下に示す試験例、実施例、比較例は、比較例8を除いてすべて室温にて調製したが、所望により加熱してもかまわない。
【0019】
比較例8は、水素添加レシチンの相転移温度以上の80℃まで加熱して乳化組成物を調製した。
【0020】
表1〜10の乳化組成物について、相溶性、乳化粒子径、粒径分布の半値幅、乳化安定性を評価した。各評価内容の詳細は以下のとおりである。
【0021】
〔乳化組成物の評価〕
(相溶性の評価)
(B)成分である水素非添加レシチンと(C)成分である多価アルコールを室温でスターラーを用いて撹拌(2時間)したときの溶解状態を下記の基準により目視評価した。この評価は、(B)成分である水素非添加レシチンと、(C)成分である多価アルコールとの室温での相溶性をあらかじめ評価することで、(A)成分であるアミノ酸系油剤を室温で乳化できる条件を満たす多価アルコールを選定する評価になる。
○;透明
×;溶解しない(溶け残りがある)
【0022】
(乳化組成物の乳化状態の評価)
<乳化直後の観察>
乳化直後の状態を目視で評価した。
○;きれいに乳化している
×;乳化しない(直後に分離した)
<乳化粒子径>
レーザー回折式粒度分布測定装置(MARVERN製、MASTERSIZER2000)により乳化粒子径(体積平均)を測定した。
尚、実施例10、13〜15、17〜30については、乳化粒子径が小さくレーザー回折式粒度分布測定装置の測定範囲を超えるため、動的光散乱測定装置(大塚電子株式会社製、ELS-8000)を用いて25℃の光散乱強度を測定しキュムラント解析により乳化粒子径を求めた値も表に併記した。キュムラント解析プログラムは大塚電子株式会社製、ELS-8000に備えられたものを用いた。
尚、表中の記号(×)は、うまく乳化しなかったことを示している。記号(−)は、測定しなかったことを示している。
<半値幅>
エマルションにおいて、乳化粒子径が小さいものは、大きいものに引き寄せられて合一が起こり、この現象が進行するとやがて分離する。合一は乳化粒子の持つエネルギーの不均衡から生じるので、乳化粒子径が揃っている乳化組成物は、乳化粒子が持つエネルギーが均衡していることを意味し、合一現象が生じにくく、安定性が良いと考えられる。乳化粒子径が揃っていることを示すのに、半値幅で表わすことがある。半値幅の値が小さいほど乳化粒径分布幅が狭いことを意味するので、半値幅の値が小さいことは乳化安定性の指標になる。本発明品を評価する時には、乳化粒子径とともに半値幅を測定した。
半値幅とは、求められた粒度分布の体積ピークを半分にした時の粒度分布幅のことである。表中の半値幅は、レーザー解析装置により測定した値から算出した。
【0023】
(乳化安定性)
得られた乳化組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、室温に保存して、翌日、7日後の乳化安定性を以下の基準により目視評価した。
○:外観に異常がない
△:外観にやや異常(わずかなクリーミング)が認められる
×:外観に異常(クリーミング、分離など)が認められる
【0024】
表1〜10の組成および処方例において、成分名の横に*マークが付与されたものは、下記の市販品を用いたことをあらわしている。
*1 味の素株式会社製の「エルデュウPS−203」
*2 Phospholipid GmbH社製の「フォスフォリポン85G」
*3 味の素株式会社製の「エルデュウPS−306」
*4 日光ケミカルズ株式会社社製の「レシノールS−10M」
*5 BASF社製の「RetiSTAR」
*6 BASF社製の「レチノール50C」
【0025】
〔水素非添加レシチンと多価アルコールを混和したときの相溶性試験〕
表1の組成を用いて、(B)成分である水素非添加レシチンを室温で溶解する多価アルコール((C)成分)を調べた。
【0026】
【表1】

【0027】
(B)成分である水素非添加レシチンを室温で溶解する多価アルコール((C)成分)は、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールであることがわかった(試験例1〜4)。
一方、グリセリンは水素非添加レシチンを溶解しなかった(溶け残りが生じた)(試験例5、6)。試験例6を85℃に加熱しても、レシチンを完全に溶解することはできなかった。
【0028】
〔水素非添加レシチンで乳化するときの多価アルコールの検討〕
表2の組成(実施例1、比較例1〜5)を用いて、(A)成分であるN−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)を乳化するときに、水素非添加レシチン(B成分)と多価アルコール(C成分)の相溶性がどのように影響してくるか調べた。
【0029】
【表2】

【0030】
水素非添加レシチンを室温で溶解できなかったグリセリンを単独で配合した処方については、乳化実験を行うまでもなく、グリセリンに溶解されずに溶け残った水素非添加レシチンが、乳化組成物中にそのまま残存して乳化状態が不良になることが予測できたので、実験を実施しなかった。
水素非添加レシチンを室温で溶解する作用の認められた1,2−ペンタンジオールを単独で配合した比較例2は、アミノ酸系油剤を乳化することができなかった。
しかしながら、グリセリンと、1,2−ペンタンジオールとを組み合わせた実施例1では、乳化粒子径が0.188μmで、その分布も均一であり、ナノサイズの保存安定性に優れた乳化組成物を得ることができた。
【0031】
水素非添加レシチンを室温で溶解する作用の認められた1,3−ブチレングリコールを単独で配合した比較例1は、乳化粒子径が8.25μmと大きくアミノ酸系油剤の乳化粒子径をナノサイズにすることができなかった。
グリセリンと、1,3−ブチレングリコールとを組み合わせた比較例5の乳化粒子径は1.058であり、1,3−ブチレングリコールを単独で配合したときの乳化粒子径8.25μm(比較例1)よりも小さいが、アミノ酸系油剤を目的とする1μmより小さい乳化粒子径にすることは出来なかった。
【0032】
また、グリセリンと1,2−ヘキサンジオールとを組み合わせた比較例3は乳化することが出来なかった。グリセリンと1,2−オクタンジオールとを組み合わせた比較例4は乳化粒子径が14.849μmと大きく、目的とする1μm以下のナノサイズの乳化粒子径にすることが出来なかった。
【0033】
アミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径にするには、アミノ酸系油剤と水素非添加レシチンと1,2−ペンタンジオールとグリセリンが必須であることがわかった。
【0034】
以下に、本発明の構成をとることによりアミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径の乳化組成物にすることが出来ることを示す。
【0035】
1,2−ペンタンジオールとグリセリンを様々な比率にかえた表3の組成(実施例2〜6)を用いて、本発明の構成をとることによりアミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径にすることが出来ることを示す。尚、1,2−ペンタンジオールとグリセリンの配合比率が1:4である実験例は、表1の実施例1に示されている。
【0036】
【表3】

【0037】
アミノ酸系油剤と水素非添加レシチンと1,2−ペンタンジオールとグリセリンとを組み合わせた実施例2〜6は、アミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径にすることが出来た。
表2と表3に示した実施例1〜6の処方において、1,2−ペンタンジオールとグリセリンの配合比率を計算により求めると、1:3〜1:10となる。
【0038】
アミノ酸系油剤を高配合した表4の組成(実施例7〜10)を用いて、本発明の構成をとることによりアミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径の乳化組成物にすることが出来ることを示す。
【0039】
【表4】

【0040】
アミノ酸系油剤が高配合された実施例7〜10は、いずれも1μmより小さいナノサイズの乳化組成物を得ることが出来た。
【0041】
水素非添加レシチンの配合量を増減させた表5の組成(実施例11〜15)を用いて、本発明の構成をとることによりアミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径にすることが出来ることを示す。尚、水素非添加レシチンの配合量が3質量%である実験例は、表1の実施例1に示されている。
【0042】
【表5】

【0043】
水素非添加レシチンの配合量を0.5〜5質量%とした実施例11〜15は、いずれも1μmより小さいナノサイズの乳化組成物を得ることが出来た。
【0044】
任意成分であるスクワランを加えた表6の組成(実施例16)を用いて、本発明の構成をとることによりアミノ酸系油剤を含む油性成分を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径にすることが出来ることを示す。
【0045】
【表6】

【0046】
実施例16は、1,2−ペンタンジオールに水素非添加レシチンを室温で溶解させた後グリセリンを加えて「水素非添加レシチンの多価アルコール溶液」(イ)を調製し、つぎに別の容器で室温で混和させた「アミノ酸系油剤とスクワランの混合液」(ロ)をゆっくりと(イ)の中に添加しながら攪拌し乳化させ、最後に水を添加して乳化組成物を調製した。
【0047】
本発明の構成をとることにより、アミノ酸系油剤を含む油性成分が1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径である乳化組成物にすることが出来た。
【0048】
尚、実施例16において、計算するとアミノ酸系油剤は油性成分の総量の75%である。
【0049】
任意成分である高温で分解する美容成分「レチノール」を加えた表7、8の組成(実施例17〜31)を用いて、本発明の構成をとることによりアミノ酸系油剤とレチノールを含む油性成分を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径にすることが出来ることを示す。
【0050】
実施例17〜31は、1,2−ペンタンジオールに水素非添加レシチンを室温で溶解させた後グリセリンを加えて「水素非添加レシチンの多価アルコール溶液」(イ)を調製し、次に別の容器で室温で混和させた「アミノ酸系油剤とレチノールの混合液」(ロ)をゆっくりと(イ)の中に添加しながら攪拌し乳化させ、最後に水を添加して乳化組成物を調製した。
【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
本発明の構成をとることにより、低温で調製して、高温で不安定なレチノールと、アミノ酸系油剤を含む油性成分を1μmよりも小さいナノサイズの乳化粒子径である乳化組成物にすることができた。
【0054】
次に、本発明の構成をとらない乳化組成物(比較例6〜8)を調製した。結果を表9に示す。
【0055】
【表9】

【0056】
アミノ酸系油剤を含まずにスクワランを配合した比較例6、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを配合した比較例7では、乳化粒子径が1μmより大きく、保存安定性もよくなかった。
【0057】
水素非添加レシチンの代わりに水素添加レシチンを配合した比較例8は、乳化粒子径が2.5μmと非常に大きなサイズになり、本発明の課題であるアミノ酸系油剤を1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径に調製することが出来なかった。
【0058】
〔官能評価試験〕
実施例、比較例で調製した乳化組成物を希釈して化粧水とし、これを用いて官能評価試験を実施した。評価に用いたサンプルは、実施例1、16、比較例4、5、6、8の乳化組成物を、それぞれ10グラム量りとり、精製水90グラムで希釈した化粧水を用いた。下記基準により使用感(べたつき、しっとり感)を評価した。結果を表10に示す。
【0059】
10名の女性専門パネルに6つのサンプル(実施例32、33、比較例9〜12)を配布し、使用感(べたつき、しっとり感)を評価してもらい、得られた結果を下記の基準で判定した。
(べたつき感の評価)
○:塗布時にべたつかない
×:塗布時にべたつきがある
《判定基準》
○:10〜7人が○と評価した
×:6人以下が○と評価した
【0060】
(しっとり感の評価)
《判定基準》
○:塗布後にしっとり感がある。
×:塗布後にべたつきがある
《判定基準》
○:10〜7人が○と評価した
×:6人以下が○と評価した
【0061】
【表10】

【0062】
実施例32、33の化粧水は塗布時にべたつかず、塗布後にしっとり感が得られると評価された。比較例9〜12の化粧水は塗布時にべたつき感があると評価された。比較例10以外は塗布後にべたつくと評価された。比較例9〜12の乳化組成物の乳化粒子径はいずれも1μm以上あることから、使用感と乳化粒子径には関連性があることが示唆された。
【0063】
以上述べたとおり、本発明の構成をとることにより、アミノ酸系油剤を室温で、高圧乳化装置を用いなくても1μmより小さいナノサイズの乳化粒子径の乳化組成物に調製することができた。そして、1μmより小さいナノサイズのアミノ酸系油剤を含む組成物は、塗布時にべたつかずに塗布後にしっとり感が得られるというすばらしい特徴があった。したがって、本発明により優れた使用感の化粧料、皮膚外用剤を提供することができる。
また、変質するため高温では配合できないレチノールを室温で配合して、乳化粒子径の小さい安定な乳化組成物を作製することができた。本発明により、レチノールなどの高温で不安定な成分を煩雑な製造工程を経ることなく容易に化粧料や皮膚外用剤に配合する技術が提供できた。
【0064】
処方例1 クリーム
(成分) (質量%)
1. マカデミアナッツ油 5
2. トリオクタノイン 5
3. ホホバ油 3
4. ジメチコン 1.5
5. ベヘニルアルコール 1
6. モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO) 1.5
7. モノステアリン酸グリセリル 1 8. グリセリン 4
9. ジプロピレングリコール 4
10.1,3−ブチレングリコール 4
11.ベタイン 3
12.キサンタンガム 0.2
13.フェノキシエタノール 0.2
14.実施例10の乳化組成物 20
15.精製水 残余

(製法)
成分1〜7を80度まで撹拌混合して油相を調製する。成分8〜13と成分15を80度まで撹拌混合して水相を調製する。80度で油相に水相を添加してホモミキサーで乳化し、40度まで撹拌冷却し、成分14を加えて30度まで撹拌冷却する。
【0065】
処方例1のクリームは、塗布時にべたつかず、塗布後にしっとり感が得られる優れた使用感であった。
【0066】
処方例2 美容ジェル
(成分) (質量%)
1. カルボキシビニルポリマー 0.15
2. 水酸化カリウム 0.05
3. 1,3−ブチレングリコール 5
4. ヒアルロン酸(1%水溶液) 2
5. 実施例16の乳化組成物 50
6. 精製水 残余

(製法)
成分1〜3と成分6を混合し、成分1が十分に増粘してから、成分4と成分5を加えて混合する。
【0067】
処方例2の美容ジェルは、塗布時にべたつかず、塗布後にしっとり感が得られる優れた使用感であった。
【0068】
処方例3 医薬部外品クリーム
(成分) (質量%)
1. オリーブ油 6
2. スクワラン 5
3. メドゥフォーム油 2
4. ジメチコン 1
5. アラキルアルコール 1
6. モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO) 1.5
7. モノステアリン酸グリセリル 1 8. ジグリセリン 5
9. ジプロピレングリコール 3
10.1,3−ブチレングリコール 3
11.ベタイン 3
12.カルボキシビニルポリマー 0.1
13.水酸化カリウム 0.03
14.フェノキシエタノール 0.2
15.実施例21の乳化組成物 20
16.精製水 残余

(製法)
成分1〜7を80度まで撹拌混合して油相を調製する。成分8〜14と成分16を80度まで撹拌混合して水相を調製する。80度で油相に水相を添加してホモミキサーで乳化し、40度まで撹拌冷却し、成分15を加えて30度まで撹拌冷却する。
【0069】
処方例3のクリームは、レチノールを0.05質量%含むので医薬部外品である。塗布時にべたつかず、塗布後にしっとり感が得られる優れた使用感であった。
高温で変質する美容成分レチノールが、本発明の構成で室温で調製されることで、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)とともにナノサイズ(0.214μm)になっている。本発明の乳化組成物は、皮膚への親和性の高いアミノ酸系油剤やレシチンとともに併用されることで皮膚の角層の隙間に入り込んで高い美容効果の発揮が期待できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ酸系油剤と、(B)水素非添加レシチンと、(C)多価アルコールとして1,2−ペンタンジオールおよびグリセリンを含有することを特徴とする乳化組成物。
【請求項2】
(A)アミノ酸系油剤が、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
1,2−ペンタンジオールとグリセリンの配合比が、1:3〜1:10であることを特徴とする請求項1または2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
1,2−ペンタンジオールとグリセリンの総量と、(A)アミノ酸系油剤の配合比が、7:2〜1:1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項5】
(B)水素非添加レシチンと(A)アミノ酸系油剤の配合比が、1:4〜1:40であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項6】
(A)アミノ酸系油剤を15質量%〜50質量%含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項7】
1,2−ペンタンジオールとグリセリンを合計で35質量%〜70質量%含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項8】
粒子径1μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項9】
高温分解性美容成分を配合したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の乳化組成物。

【公開番号】特開2012−116783(P2012−116783A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267134(P2010−267134)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】