説明

乳成分含有ゲル状食品用乳化剤

【課題】組織の均質性が損なわれることがなく、やわらかで舌触りの良い食感を有したプリン等の乳成分含有ゲル状食品を得ることができる乳化剤ならびに、これを用いて製造された乳成分含有ゲル状食品を提供する。
【解決手段】乳成分等の原料ミックス中の内容成分の分散状態を安定化させるための乳化剤として、HLB6未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを必須の成分とし、さらに、HLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分を含有する原料を加熱後に冷却してゲル状に成型した乳成分含有ゲル状食品用の乳化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリン等に代表される乳成分含有ゲル状食品は、乳原料、卵原料及び/又はゲル化剤を用いて、蛋白質の熱凝固力やゲル化剤のゲル化力によって一定の形に凝固させ製造される。従来から、その製造過程においては、ゲル化温度以上で静置加熱を行ったり、長期間保存することができるよう原料ミックスについて100℃以上で加熱殺菌を行ったりしているが、過酷な加熱、製造条件においては組織のざらつきや分離が発生する課題があった。近年、やわらかで舌触りの良い食感が消費者に好まれる傾向の中で、このような食感や外観の劣化は、その商品価値を左右する大きな問題であり、多くの検討がなされている。
【0003】
中でも、食品用乳化剤の利用においては、クリーム、ゲル化剤、HLB11以上の乳化剤からなり、かつたんぱく質の含有量が1.0重量%以下であって、レトルト処理が施されてなる長期保存可能なゲル状食品(特許文献1)、有機酸モノグリセリド及びHLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが配合されてなることを特徴とするゲル状食品(特許文献2)、最終製品における乳脂肪分が4〜15w/w%、イモの含量が乾燥重量として10〜40w/w%、乳化剤の含量が0.1〜0.4w/w%および安定剤の含量が0.02〜0.07w/w%である蒸し焼きプリン(特許文献3)等が開示されているが、これらの方法を持ってしても、乳成分含有ゲル状食品の食感や外観の劣化を十分に防止できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−127244号公報
【特許文献2】特開2002−262787号公報
【特許文献3】特開2010−227073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、組織の均質性が損なわれることがなく、やわらかで舌触りの良い食感を有したプリン等の乳成分含有ゲル状食品用の乳化剤ならびに、これを用いて製造された乳成分含有ゲル状食品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、原料ミックスに特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する乳成分含有ゲル状食品用乳化剤を配合することによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る乳成分含有ゲル状食品用乳化剤によれば、従来のプリン等の製造過程において組織のざらつきや分離が発生するとされていた加熱、製造条件においても、やわらかで舌触りの良い食感を有した乳成分含有ゲル状食品を得ることができる。また、従来、問題がなかった乳成分含有ゲル状食品であっても、本発明に係る乳化剤を配合することにより、乳原料等の内容成分がより均質にかつ安定に分散されて、商品価値が向上した乳成分含有ゲル状食品が得られることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施形態に基づき以下に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0009】
本発明は、乳成分等の原料ミックス中の内容成分の分散状態を安定化させるための乳化剤として、HLB6未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを必須の成分とし、さらに、HLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする乳成分含有ゲル状食品用乳化剤を用いる。
【0010】
本発明の乳成分含有ゲル状食品用乳化剤には、分散状態を更に良好にするためにHLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの中でも、HLB6〜9であるものを含有することが特に好ましい。
【0011】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、特に限定されないが、平均重合度が2〜20であれば良く、平均重合度が4〜20であるとより好ましい。例えば、ジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、デカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられる。ここで平均重合度(n)は、末端分析法による水酸基価から算出される値であり、詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0012】
HLBとは、一般に乳化剤の親水性と親油性(疎水性)の程度を表わす尺度であり、親水性の強いものほど値が大きい。HLBの求め方としては既存の種々の手法が利用されるが、本発明においては、Griffinの経験式(式3)が用いられる。
(式3)HLB=20(1−SV/NV)
SV:エステルのケン化価
NV:脂肪酸の中和価
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、炭素数14〜22の脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とし、より好ましくは炭素数14〜22の飽和脂肪酸を使用する。ここで、主構成脂肪酸とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の大部分は前記脂肪酸よりなるが、本発明の目的、効果が達成される範囲で、他の脂肪酸が一種または二種以上含まれてもよいとの意味である。炭素数14〜22の脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸が例示される。一方、主構成脂肪酸以外の脂肪酸には、動植物油脂類を起源とする食用可能な脂肪酸として、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸といった炭素数8〜12の脂肪酸が挙げられる。
【0014】
本発明における乳成分含有ゲル状食品用乳化剤の使用量は、乳成分含有ゲル状食品の種類や配合、製造条件などに応じて種々選択され、一概に規定はできないが、通常、乳成分含有ゲル状食品に対し0.02〜0.4重量%の範囲が例示される。
【0015】
本発明の乳成分含有ゲル状食品用乳化剤には、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの他に、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等、乳化効果・分散安定効果を有する成分を、本発明の効果を妨げない範囲で併用して使用することもできる。
【0016】
本発明の乳成分含有ゲル状食品用乳化剤を含む乳化剤の添加方法は特に制限はないが、乳化剤の均一性及び乳化剤の効果の得やすさから、均質化工程前に添加することが望ましい。
【0017】
本発明において乳成分含有ゲル状食品とは、乳原料を含む内容成分がゲル状に固化してなるものであり、好適には半固形状物、より好ましくは更にきめ細かでつるりとした滑らかな舌触り・食感が要求されるものである。具体的にはプリン、ムース、ババロア、乳成分含有ゼリー、杏仁豆腐などのいわゆるデザート、咀嚼・嚥下困難者用の食品が例示される。含有される乳原料としては、牛乳及びその加工品が挙げられ、加工品としては、例えば全脂練乳、脱脂練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、生クリームなどが挙げられる。これらは単独で含まれていてもよいし、また2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。乳成分含有ゲル状食品に配合されるその他の原料としては、卵原料、ゲル化剤などの従来より利用されている成分が挙げられ、乳成分含有ゲル状食品の製造条件や乳化剤の添加量等に応じて任意の割合で使用することができる。
【0018】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0019】
<プリンの調製>
水77.7重量部に砂糖12重量部、脱脂粉乳2重量部、ゲル化剤(カラギナン、ローカストビーンガム)0.2重量部、乳化剤(表1参照)0.1重量部の粉体混合物を添加し80℃で加熱攪拌を行った。さらにヤシ油8重量部を添加、分散させて、香料、着色料を適量添加し、蒸発水を補正した。その後、均質機(15MPa)にかけ、130℃で2秒間の加熱殺菌後、容器に充填し、冷却方法として10℃、20℃で放熱したプリンを調製した。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1〜4、比較例1〜5で調製した乳成分含有ゲル状食品について、以下の試験例に基づき評価を行った。その結果を表2に示した。
【0022】
(外観)
品温10℃、20℃のプリンについて分離や組織の均質性を目視にて観察し、その評価を表2に示した。評価は、◎:組織の荒れや分離は観察されない、○:僅かに荒れが観察されるもの問題のない程度である、△:やや均質性に欠け、少量分離している、×:明らかに分離している、の基準で評価した。
【0023】
(食感)
品温10℃のプリンについてパネリスト10名により評価し、もっとも多くの回答を得た記号を表2に示した。なお、何れも6割以上のパネリストが選択した記号である。評価は、A:やわらかで舌触りがよく大変好ましい、B:問題のない程度である、C:やわらかさや舌触りのよさにやや欠ける、D:好ましくない、の基準で評価した。
【0024】
【表2】

【0025】
上記結果より、本発明の乳成分含有ゲル状食品用乳化剤を添加した場合、分離がなく組織の均質性に優れ、好ましい食感が付与されていることが確認できる。比較例1〜5では分離が生じたり組織の均質性が損なわれたりしており、食感においても満足できないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLB6未満のポリグリセリン脂肪酸エステルを必須の成分とし、さらに、HLB6以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする乳成分含有ゲル状食品用乳化剤。
【請求項2】
請求項1に記載のポリグリセリン脂肪酸エステルが炭素数14〜22の脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とする乳成分含有ゲル状食品用乳化剤。
【請求項3】
請求項1ないし請求項2の何れかに記載の乳成分含有ゲル状食品用乳化剤を含有することを特徴とする乳成分含有ゲル状食品。

【公開番号】特開2013−94112(P2013−94112A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239368(P2011−239368)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】