説明

乳房内乳頭シール剤及びその熟成チーズの外観上の欠陥を減少又は除去のための使用

本発明は、乳房内乳頭シール剤及び前記動物の乾乳期間での乳房疾患の予防的処置を行うために非ヒト動物の乳頭管内に物理的バリアを形成する方法を開示する。前記方法は、グリセリド含有ゲル基材中に金属塩を含む乳頭シール剤を前記動物の乳頭管内に注入するステップを含む。前記方法はまた、該処置された動物の乳から作られる乳製品、特にチェダーチーズの黒点欠陥の生成を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照:本出願は、その内容全体を参照によって本明細書に援用する2009年4月8日に出願した米国特許仮出願第61/207879号明細書の優先権を主張するものである。本出願はまた継続中の2007年10月10日に出願した米国出願番号第11/869966号と関連する。すなわち、本発明は、乾乳期における乳房炎を防止するための金属含有、乳房内乳頭シール剤に関する。本乳房内乳頭シール剤は、処置された動物の乳から作られた乳製品(特にチーズ)での外観上の欠陥を生じない。本発明はさらに、チーズの「黒点欠陥」(BSD)を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳牛の乳房炎は乳製品生産者が遭遇する、最も費用のかかる、かつ困難な病気のひとつである。臨床乳房炎を治癒するための従来の治療方法は、乳房内抗生物質治療を含む。多くの乳房内抗生物質製品が利用可能であるが、臨床乳房炎治癒率は低く困惑させるものである:連鎖球菌で46%、ブドウ球菌で21%及び黄色ブドウ球菌で9%にすぎない。Wilson等(1996) National Mastitis Council Proceedings 164−165,及びCrandall等(2005)NMC Annual Meeting Proceedings215−216を参照。従って、乳製品生産者は該病気に対して、しばしば、乳房炎を起こし易い乳牛を選抜して単純に除去することで対応してきた。
【0003】
乳房炎治療の難しさのため、新たな乳房内感染の予防が乳製品産業で主に焦点となっている。新たな感染率は、泌乳期間での新たな感染に比較して乾乳期間での感染が非常に高い(例えば、ひとつの研究で、全ての新たなグラム陰性乳房内感染の61%が乾乳期間に生じることが示される。Todhunter等(1995)J.of Dairy Sci. 78:2366参照)。乾乳期の初期3週間及び分娩期前2週間は、特に新たな感染を生じる傾向がある。従って最近の乳製品生産者は、これらの乾乳期間での乳牛の「予防維持」に多大な努力を集中してきている。

2003年4月に、乾乳期乳牛に使用される乳頭内(又は「乳房内」)シール剤(ITS)が、アメリカ合衆国市場に導入された。商品名「オルベシール」(ORBESEAL、アメリカ合衆国商標登録番号Nos.2,772,198及び3,120,693)としてアメリカ合衆国で市販され、ニュージーランドで開発されたものである。「オルベシール」ITSとしてアメリカ合衆国へ導入されたものは、65w/w%の次硝酸ビスマスが粘性ペースト内に分散されている。前記ITS製品は抗生物質を全く含んでいない。さらの該製品は抗微生物剤をも含んでいない。該ITSは、チューブ状のシリンジを用いて乳頭端部に注入される。これは乾乳期間の乳牛に抗生物質を注入する方法と同じである。該ITS製品は亀裂部分及び乳頭管に充填され、従って感染源に対する物理的バリアを提供する。例えばアメリカ特許No.6,254,881(7月3日,2001発行)を参照すること。該内容は参照されて本明細書の一部となる。
【0004】
ニュージーランドでの「オルベシール」名の製品の初期の研究は、次ように結論した。該製品は、広いスペクトルを持ち長期間乳房内抗生物質として作用し、受胎時期での新たな乳房内感染を防止し、最初の5ヶ月の泌乳期間を通じて臨床的外観を予防する、ということである。例えばWoolford等の(1998)New Zealand Veterinary Journal 46:1を参照。アメリカ合衆国でのより最近の研究ではまた、このITS製品は、クロキサシリンベンザチンを既に浸み込ませた乳房の健康を改善することが結論されている。Godden等の(2003)J.Dairy Sci.86:3899−3911を参照。従って、「オルベシール」名ITSは、乾乳期間における乳牛の新たな乳房炎の数を減少させる効果的剤として証明されてきた。アメリカ合衆国内へ比較的最近導入されたにもかかわらず、「オルベシール」名製品は広く市場に受け入れられ、アメリカ合衆国内で乳牛に対し広く使用されている。まとめると、「オルベシール」名ITS製品は、乳房感染防止目的で非常に優れたものであるということである。
【0005】
「オルベシール」名ITS製品をアメリカ合衆国内に導入したことにより、熟成された乳製品、もっとも目立つのはチェダーチーズであるが、に外観上の欠陥が現れ始めた。該外観上の欠陥は、小さな黒点(約0.5から5mmの直径)であり、熟成チーズのいたるところに現れる。該点はチーズのいかなる官能検査的欠陥を伴うものではない。黒点を持つチーズは販売可能であり、黒点のないチーズよりも低級製品とされている。該欠陥は「黒点欠陥」(BSD)と名づけされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第一は、動物の乾乳期間における乳房疾患の予防処置のための非ヒト動物の乳頭管内に物理的バリアを形成する方法に関し、同時に、該動物の乳を用いる乳製品中のBSDを防止する方法に関する。該方法は、乳頭シール剤を動物の乳頭管内に注入することを含む。乳頭シール剤はビスマスを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。該剤は、乳頭内に微生物が入らないように物理的バリアを形成するために十分な量が投与される。しかし、当該動物の乳を用いて作られた乳製品に黒点欠陥を生じることはない。好ましくは、乳頭シール剤は抗炎症剤を含まない(即ち、前記乳頭シール剤は好ましくは、抗生物質又は他の抗感染活性物質を含まない)。好ましくは、前記方法は、少なくとも約30重量%の非毒性金属塩、より好ましくは約50重量%から75重量%の非毒性金属塩、最も好ましくは約65重量%の非毒性金属塩を含むシール剤を注入することを含む。前記塩の目的は主に前記組成物に十分な密度を持たせ、従ってITSが乳頭内に安定させるためである。
【0007】
本発明方法のひとつは、前記非毒性金属塩は、ビスマス塩、チタン塩、亜鉛塩、バリウム塩及びこれらの塩の組み合わせから選択される。最も好ましい塩は次硝酸ビスマス、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム及びこれらの塩の組み合わせが挙げられる。これらの金属の他の非毒性塩は、ハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、スルファメート、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、サリチル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩などが、明示的に本発明の範囲に含まれる。

ゲル基剤は、全ての適切なゲル剤が可能であり、薬学分野で既知のホストが可能である。好ましいゲル基剤は、モノ、ジ及び/又はトリグリセリドであり、広く改善された洗浄性を有する。前記グリセリドは、飽和又は不飽和脂肪酸から誘導される同じ側鎖又は異なる側鎖を含むことができる。従って、限定的でない例で示すと、モノ、ジ/又はトリグリセリドは、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、マルガリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、リカン酸、マルガロレイン酸、アラキドン酸、クルパナドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などから誘導される側鎖を含むことができる。より長い又は短い側鎖を持つグリセリドもまた使用され得る。前記グリセリドは、天然の動物又は植物油又は脂肪を含み又は誘導されることができる。天然の動物又は植物油又は脂肪には、制限されるものではないが、動物脂肪、カノーラ油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、亜麻油、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、ひまわり油、魚油、藻油などが挙げられる。特に好ましいゲル基剤は、カノーラ油、コーン油及び/又は綿実油である。前記グリセリドの市販販売業者には、ABITEC Corporation,コロンバス、オハイオが上げられ、その製品「CAPTEX 355」カタログ番号65381−09−1及び73398−61−5は本発明において非常に良好に作用する。
【0008】
従って最も好ましい形において、前記乳房内乳頭シール剤は、グリセリドを含むゲル基剤;及び前記ゲル基剤に分散された非毒性金属塩の組み合わせである。従って対応する好ましい方法は、適切量の乳頭シール剤を動物の乳頭管内に注入することを含む。前記乳頭シール剤は、グリセリドを含むゲル相中に分散された非毒性金属塩を含み、注入される乳頭シール剤の量は、前記乳頭管内に微生物の侵入に対する物理的バリアを形成するために十分な量である。前記乳頭シール剤はまた、該動物からの乳で作られた乳製品に黒点欠陥を生じることはない。
【0009】
本発明のさらなるひとつは、乳房内乳頭シール剤であって、モノ、ジ及び/又はトリグリセリドを含むゲル基剤を、前記ゲル基剤に分散させた非毒性金属塩との組み合わせから本質的になり、前記金属塩は次硝酸ビスマスである乳房内乳頭シール剤に関する。既に記載の通り、乳頭シール剤は好ましくは、少なくとも30重量%、より好ましくは約50重量%から約75重量%及びさらに好ましくは約65重量%の前記金属塩を含む。

本発明のさらなるひとつは、乳房内乳頭シール剤の改良に関する。特に動物の乾乳期間での乳房疾患の予防措置のための非ヒト動物の乳頭管内に物理的バリアを形成する方法においては、本方法は動物の乳頭管内へ抗感染剤を含まないシール剤を注入するステップを含むものであり、本発明の改良は、グリセリドを含むゲル基剤中に非毒性金属塩を含む乳頭シール剤を注入することを含むことである。該改良により、処理された動物の乳を用いて作った乳製品には黒点欠陥の形成が防止される。
【0010】
ここで使用される数値範囲は、具体的に開示されていてもいなくても、全ての数値を含みかつ該範囲内に含まれる数値の副次的範囲を含むものである。さらにこれらの数値範囲は、前記範囲のすべての数値及びその範囲の副次的範囲に向けられた請求項についてサポートを提供するものとして解釈されるべきである。例えば、1から10が開示される場合に、2から8、3から7,5,6、1から9、3.6から4.6、3.5から9.9等々の範囲をサポートするものとして希釈されるべきである。
【0011】
記載中に明確に規定されていない限り、本発明のすべての単数の用語又は限定には、複数の用語又は限定が含まれる。その逆もまたそうである。
【0012】
記載中に明確に規定されていない限り、ここで使用される方法及びプロセス(又は工程)ステップの全ての組み合わせが、すべての順で実施され得る。
【0013】
本発明の方法は、本質的要素及びここで記載される方法の限定及び製品を、ここで記載されるか又は他の合成有機化学において有用な全ての追加又は選択可能な成分、コンポーネントと同様に、含み、からなり又は本質的にからなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】図1Aは、熟成白チェダーチーズの18kgブロックの典型的な黒点欠陥の写真である。図1Aは、前記ブロックの表面を示し、黒点欠陥が容易に視認される。
【図1B】図1Bは、熟成白チェダーチーズの18kgブロックの典型的な黒点欠陥の写真である。図1Bは、前記欠陥の寸法を示す拡大図(定規を重ねてある)である。このような点はこのチーズの全体に均等に分布されている。
【図2】図2は、ビスマス(III)硫化物ナノロッドの特徴的毛状又は棒状構造を現す黒点欠陥の電子顕微鏡写真である。このような構造は、全ての非BSDチーズ中に又は試験した非BSDチーズ領域には現れなかった。図2で示される棒構造は、37.09から129.33nmの範囲の直径を有している。 図3は、黒点欠陥領域からの単一の棒状構造の電子顕微鏡写真である。棒構造の直径130.88nmで示され、前記棒構造の長さを二等分して示される。
【図4A】図4Aは、実験室で再現させた黒点欠陥のイメージである。図4Aで、「オルベシール」名乳房内乳頭シール剤(ITS)の種々の成分をチーズに混合した直後の点を写真撮影した。
【図4B】図4Bは、実験室で再現させた黒点欠陥のイメージである。熟成チェダーチーズからの揮発成分又は硫化水素ガスのいずれかに暴露させた後撮影された同じ点を示す。場所4及び5は次硝酸ビスマス及び「オルベシール」名ITS剤そのものをそれぞれ含む。
【図5】図5は、種々のタイプのITSの洗浄性を示す棒グラフである。
【図6】図6は、異なる温度でのITS剤の粘度を示すグラフである。x軸は温度を℃で示し、横軸は粘度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
2003年後半に、University of Wisconsin−Madison,Department of Food Science and Center for Dairy Research(CDR)に、チーズ生産者からいくつかの問い合わせがされ、熟成チーズ、特に熟成チェダーチーズに、新規な「黒点欠陥」が現れることに関する情報を求めてくるようになった。歴史的には、チーズの灰色から黒色への脱色は、いくつかの別々の原因の結果であり、該原因には、特定の微生物(例えばある種の環境プロピオニバクテリウム菌又はカビ)又はチーズへの食品グレード潤滑剤部分などが含まれていた。チーズ生産者により指摘された具体的なBSDは、しかしながら、微生物汚染又は他の腐敗微生物のプロフィルには合致せず、また潤滑剤部分にも合致しなかった。前記潤滑剤部分は、チーズ製造プロセス中に乳流中又は他の部分に混入されることで見出される。
【0016】
従って、第一ステップは、黒点欠陥の化学構造を決定することであった。多くの努力がBSDチーズの影響を受けた領域を抽出することに最初費やされた。広い範囲の有機溶媒(種々の極性、疎水性など)を用いる抽出の努力の結果、チーズマトリックスからはいかなるタイプの有機系色素体を単離する試みはうまくいかなかった。有機溶媒によるBSD抽出はうまくいかなかったが、前記抽出努力から有用なデータが得られた。注目すべきことに、前記色素は有機溶媒には溶解も拡散もしなかったが、黒点色素はチーズ自体にも溶解も拡散もしなかったという結論である(高い確率で)。
【0017】
増え続ける前記欠陥を表すチーズサンプル(商業チーズ生産者から集められたサンプル)の目視検査により、黒点色素は十分に維持され、チーズ中には拡散していかない、という結論が確認された。図1A及び1Bは、BSDで影響を受けた熟成白チェダーチーズの典型的な18kgの写真である。図1Aは該チーズの外側表面の写真である。図1Bは単一の黒点の拡大図であり、黒点の寸法を示すために定規を重ねてある。図1A及び1Bで示される点は通常チーズ全体にわたって均一に分布しており、サイズは<1mmから5mm直径である。すべての与えられた18kgチーズブロック内の点の頻度は広く変化し、<10個/ブロックから100以上である。
【0018】
チーズ生産者から受け取った事例報告がある。特定の熟成及び貯蔵をすることで前記黒点はもはや視認できない程度に溶解して拡散させ得る、という報告であった(というのは、黒点は有機物感受性欠陥を全く伴うものではなく、該点を「薄れさせて」この状態を緩和するものである)。かかる努力は、しかし、該色素が抽出努力で適用した有機溶媒に対して持つ安定性を考慮すると非常にあり得ないものである。要するに、本発明により実施された抽出実験では疎水性が乳脂肪に類似する溶媒が用いられた。もし黒点色素がチーズ自体に溶解したり拡散したりするならば(熟成マトリックス貯蔵プロセスで)、前記色素は乳脂肪と類似の物理性質を持つ有機溶媒中に容易に溶解又は拡散されると考えられる。このことは実験室では起こらなかった。さらに、最も熟成されたチェダータイプのチーズに伴う、チーズの通常のpH/酸性環境及び通常の熟成/棚期間を考慮すると、前記欠陥が熟成マトリックス貯蔵プロセスを介して解消されるという話は実際的ではない。
【0019】
ひとつの実験が、しかし、最も重要な事実を明らかにした。黒点色素は硝酸に容易に溶解するということであり、このことは、前記色素が無機塩であることを強く示唆した。前記欠陥が最初に現れたタイミングに合わせて作業仮説を立てた。即ちITSはBSDの原因物質(又は少なくとも関連する)であるということであった。黒点色素が酸に容易に溶けるという発見はさらに、該システム基礎はビスマス(III)硫化物であり得る、という仮説を支持した。従って、「オルベシール」名製品(アメリカ合衆国では、ビスマス含有塩が65重量%含まれる)が、乳流中に不都合に混入された恐れがあった。上で留意したように、「オルベシール」名製品は商業的に成功している。というのは乳頭管への病原菌の侵入を防ぐために強い物理的バリアを形成するものだからである。しかし、前記製品を処置された動物から除去するためには動物の乳頭を引き剥がさなければならない。これは、該引き剥がしの後ITSが乳頭内に残留し、乳流中に混入するように思われた。
【0020】
研究の次の段階は、ビスマスIII硫化物が実際にBSDの原因物質であるという仮説を実証するために向けられた。次硝酸ビスマス自体は白色及び比較的化学的に安定である。従って、痕跡量が液状乳、モッツァレラチーズ及びヨーグルトに存在することは目にはほとんど見えない。しかし、強い匂いを持つ熟成チーズ中では黒点欠陥が目立って表れる。従って、ビスマスIII硫化物(黒、比較的難溶性)が、次硝酸ビスマス(TISから)及び硫化水素(熟成チーズ中で、培養された微生物相、酵素及び、チーズのタンパク質/アミノ酸成分に作用する因子などにより発生する)との反応生成物であるとの仮説がなされた。
【0021】
要するに、前記仮説は、ITSが不完全に除去された結果次硝酸ビスマスが乳流中に混入したということである。次硝酸ビスマスはその後硫化水素と反応しビスマスIII硫化物を生成する(次の式1による)。
4BiNO(OH)BiO(OH)+HS −>Bi(不溶性,黒色) (式1)
生成物であるビスマスIII硫化物(又は簡単に硫化ビスマス)は比較的不溶性であり黒色である。
【0022】
具体的な元素、ビスマスを見出したことに加えて、チーズ内での条件又は化学的環境下で、Bi分子が結晶構造を形成することが仮説された。W.Zhang等の (2001)Sol.State Comm.119:143−146及びB.Zhang等の(2006)J.Phys.Chem.110:8978−8985を参照すること。これらのビスマス含有ナノロッドは、従って、光回折粒子を含み、これにより灰色を黒点欠陥に見られる黒色の色合いにする。
【0023】
次に研究は、(1)黒点欠陥にビスマス元素が存在すること、及び(2)黒点欠陥内にビスマスIII硫化物ナノロッド構造が存在すること、に向けられた。
【0024】
黒点欠陥内にビスマスが存在することは、誘導カップルプラズマ質量スペクトル(ICPMS)により行われた。AOAC国際法(分析化学協会(Association of Analytical Communities))993.14が使用された。最初の努力は、BSDに寄与し得るいくつかの元素の存在を検出するために複数の黒点をスクリーニングすることであった。最初の実験は、金属塩/酸化物に焦点が向けられた。これらは通常ミルク及びチーズ処理/運搬装置で見出されるものであり、またその他食品グレードプロセスに存在する金属誘導体の残留物である。コントロールとしてチーズの成分分析がなされた。具体的には、タンパク質、灰分、及び水分が、Official Methods of Analysis,AOAC17th Edition,2001.14の935.42及び926.08に基づきそれぞれ測定された(copyright2000,ISBN:0935584−67−6)。脂肪もまたOfficial Methods of Analysis,AOAC17th Editionに基づき測定された。
【0025】
透過電子顕微鏡(TEM)研究が次のように実施された。約100μlの二回蒸留水をサンプルに加え、混合物をガラス棒で粉砕して分散物とした。約5μlの分散サンプルを取り、ポリビニルアルコール−ホルムアルデヒドアセタールコート300メッシュ銅TEMグリッド(Ted Pella,Inc.,Redding,CA)上に堆積させた。過剰のサンプルはろ紙の小片を用いて除き、残りのサンプルを室温で前記グリッド表面で乾燥させた。場合により、「NANO−W」名のTEMネガティブ染色(Nanoprobes,Incorporated,Yaphank,NY)を前記乾燥サンプル上に適用し、コントラスト及び視認性を補強した。試験片をPhilips社CM120電子顕微鏡で測定し、そのイメージをMegaView3Digital camera(from SIS,Ringoes,NJ)に記憶させた。測定はSIS名分析ソフトウェア(Ringoes,NJ)で実行され、既知の長さの参照サンプルを用いて較正された。
【0026】
ICPMS結果は、BSD領域にクロム、銅、鉄、ニッケル及びビスマスの存在を示した。クロム、銅、鉄及びニッケルの段階的な増加が見られたが、BSD領域でのビスマスの濃度は、同じチーズの非BSD領域で測定された値よりも、常に3桁以上多かった。これらの結果は、ビスマスが色素生成反応に関与する十分な量を持って存在する唯一の元素であることを示す。
【0027】
チーズサンプルのBSD領域の数百枚のTEMイメージからは、単一の整合性のある結論が得られた。上記引用された文献で報告されたこれらの典型的ナノロッド構造が、BSDチーズ領域に特異的に見出された。かかるイメージの一例が図2に示される。図2に示されるナノロッド構造は非常に小さく光学顕微鏡では視認が難しい。図2で示されるナノロッド構造は直径が約69nmから約130nmの範囲である。前記ナノロッド構造はTEMの潜在的な過酷な条件にも非常に安定である。前記ロッド構造はややまだらの表面であり、前記ナノロッド構造に長さ方向に特徴的に線が走っている。図3には、単一のナノロッドの拡大図が示される。かかる構造の存在は、チーズ自体の中の条件下で形成されるビスマス硫化物ナノロッド構造の存在と整合性がある。
【0028】
ビスマスIII硫化物ナノロッドを形成する反応物としてのビスマス硫化物の反応性を確認するために、BSDが実験室で意図的に生成させることができるかどうかを調べるために追加の試験が実施された。すなわち、チーズを既知のITS成分量と共に製造し、熟成チーズにより生成される真正の揮発性ガスに暴露するか、又は次硝酸ビスマスと反応すると仮定される硫化水素に暴露させる。両方の場合において、応答はほとんど同じであった。次硝酸ビスマスを含むチーズサンプル又は完全なITS剤を含むチーズサンプルが、真正チーズ揮発性ガス又は「化学標準」グレードのHSガスに暴露させた場合、それぞれは同じ黒色素を形成し、それにはナノロッド構造の存在を伴っており、さらに、次硝酸ビスマスがBSDの原因であることが確認された。
【0029】
チーズ製造及びチーズ熟成の見地から、BSD制御のために硫化水素ガス生成を除去することを目標とすることは合理的ではない。硫化水素は高い芳香性成分であり、微生物、酵素及びシステインなどの硫黄含有アミノ酸に対するコファクタ活性からの生成物である。Arfi等の(2002)Appl.Microbiol.Biotechnol.58:503−510を参照する。硫化水素は熟成チェダーチーズ風味に必要で及び/又は価値ある成分であることは、多くの研究から支持されている。Burbank及びQian等の(2005)J.Chrom.1066:149−157を参照する。たとえ硫化水素の生成を除去するように変更(数十の複雑な代謝経路に干渉して)したとして、得られる最終製品は、チーズ取引者及び消費者に受け入れ難い風味特性となる恐れがある。
【実施例】
【0030】
以下の実施例は、ここで開示され請求される本発明をより完全に記載するためだけに提示される。これらの実施例は本発明をいかなるようにも限定するものではない。
【0031】
実施例1:
金属塩として酸化亜鉛及び酸化チタンの組み合わせを用いてテストITSを処方した。テストITSは、ビスマス又はビスマス含有塩を含まないという点以外は「オルベシール」名剤と同一であった。テストITSは、酸化亜鉛、酸化チタン、ミネラルオイル(30〜40%)、及びステアリン酸アルミニウムを含む。
【0032】
ITSバッチを調製するために、液体パラフィン(例えばミネラルオイル)を混合装置を持つ適切な容器に導入した。ステアリン酸アルミニウムを添加し、混合物を攪拌し、これを約160℃に加熱して均一とした。その後、非毒性、非ビスマス含有塩を前記混合物へ部分に分けて添加し、望ましい量の金属塩が添加されるまで攪拌した。混合物をその後均一になるまで攪拌した。生成物を、乳頭投与のための従来の注入チューブに移した。
【0033】
実施例2:
本実施例の目的は、ITSの非泌乳期乳牛の乳頭内の保持性を比較するためであり、前記ITSは、「オルベシール」名製品との比較として、次硝酸ビスマスを含まない。
【0034】
研究はBlaine Dairy of the University of Wisconsin− Madison (UW),in Arlington,Wisconsinで行われた。16頭乳牛(n=64乳頭)が乾乳期間に登録された。全ての登録乳牛は4つの機能的四肢を持ち、視認可能な乳腺炎はなかった。全ての乳牛は乾乳され、標準のUW乳牛プロトコルに従って乳房内抗生物質乾乳治療(DCT)を受けた。全ての牛の出産回数及び乳量(乾乳時期)が記録された。最初の登録において、乳頭は、形状、長さ、直径及び乳頭端の過角化の程度が記録された。それぞれの牛内で2つの乳頭が「オルベシール」名ITSを、そして他の2つの乳頭がテストITSを受けるように帰属させた。投与プロトコルは、それぞれの製品が均一に乳頭位置、8頭の乳頭につきそれぞれの位置(右後、右前、左後、左前)に投与されるように設計された。シール剤チューブを投与前後で秤量して真の投与量を求めた。DCT及び乳頭内シール剤を受ける前に、乳頭が70%イソプロピルアルコールワイプを用いて、また部分的に挿入技術を用いて皮膚病原菌が侵入する可能性を低減させるために清浄化された。乳頭内シール剤の投与後、乳頭は外部乳頭消毒剤に漬けた。
【0035】
乳頭は、1,2,3,4,5,6,7,14,28,42日目及び分娩の際に、赤化、膨張及び/又はシール剤の漏れを検出するため検査した。検査はひとつの乳頭(それぞれのシール剤につき除去日ごとに8つの乳頭)から手で引き剥がして除去した。除去されたシール剤は最初の乳と共に50mlプラスチックバイアルに集められた。バイアルは遠心分離され(3000rpmx5〜7分間)、上澄みを濯いで回収シール剤を秤量した。回収シール剤の量は、テストITS処理乳頭及び「オルベシール」名ITS処置乳頭の間のそれぞれの期間で比較された。追跡サンプルを、分娩後一日目に同じ手順で集めた。全てのサンプリング期間で、前記シール剤を除去した後、乳頭は外部乳頭消毒液に漬けた。分娩後、クオータの乳を無菌で、全ての乳頭から集め、乳房内感染を同定するため培養した。
【0036】
グループの特性−乳頭長さ及び容積:
全16頭乳牛が登録されて全64乳頭につき研究した。32乳頭がテストITSを受け、32乳頭が「オルベシール」名ITSを受けた。試験集団の乳頭長さ及び容積は表1にまとめられる。
【0037】
【表1】

グループA及びグループBの間に乳頭の長さ及び容積について有意差は見られなかった(p>0.36)。全体として乳頭長さは5.11cm、範囲は3.3cmから7.3cmであった。平均乳頭長さはグループAで5.12cm、グループBで5.11cmであり、範囲はグループAで3.3cmから7.3cm、グループBで3.5cmから7.10cmであった。これら2つのグループ間で平均乳頭長さには差がないという帰無仮説をテストするために2サンプルペアt−テストを実施した。この結果、どちらかの製品を受けるように無作為化された乳頭の長さには有意な差はない(p=0.95)。
【0038】
全体として容積さは24.66cm、範囲は12.47cmから54.34cmであった(標準偏差9.17cm)。平均容積はグループAで23.6cm、グループBで25.71cmであり、範囲はグループAで12.54cmから54.34cm、グループBで12.47cmから48.25cmであった。これら2つのグループ間で平均容積には差がないという帰無仮説をテストするために2サンプルペアt−テストを実施した。この結果、どちらかの製品を受けるように無作為化された容積には有意な差はない(p=0.95及びp=0.35、対数変換分析)。
【0039】
過角化: 乳頭端状況は、次の尺度を用いて過角化をスコア化した:輪の数(N)、滑らかな輪(S)、粗い輪(R)、非常に粗い輪(VR)。乳頭スコアの分布は、N(n=21;32.8%)、S(n=31;48.4%)、R(n=11;17.2%)及びVR(n=1;2%)であった。Xテストはこの過角化スコア分布は、処置グループに伴うものではないことが確認された(p=0.13)。
【0040】
【表2】

投与、回収及び損失シール剤量: 投与、回収及び損失(回収されない)シール剤量が、処置グループに基づいて変わらない、ということを決めるために、ペアt−テストを用いて統計解析を行った。
【0041】
【表3】

それぞれのチューブで4グラムから、投与されたシール剤全体としては3.62gであった。「オルベシール」名ITS(3.46g)又はテストITS(3.62g)の量には有意差はなかった(p=0.12)。
【0042】
回収されたシール剤は全体として0.82gであり、処置の間に有意差はなかった(p=0.89)。損失シール剤の全体としては2.88gであり、処置の間に有意差はなかった(p=0.40)。回収されたシール剤は回収日に関連しており(p=0.08)、14日目に他の回収期間に比べてより多い(14日目、回収=1.6g;28日目回収=0.68g、42日目回収=0.65g、分娩日回収=0.33g)。
【0043】
単純な直線回帰を用いて、投与されたシール剤の量と、乳頭容積間には有意差はないことを決定した(p=0.59)。
【0044】
回収されたシール剤及び乳頭容積間には有意差はないという帰無仮説をテストするために回収されたシール剤について単純な直線回帰テストを実施した。回収されたシール剤の6%のみが乳頭容積によるとされた(p=0.05)。
【0045】
投与されたシール剤の比率は、乳頭容積とは有意な関係はなかった。一方回収されたシール剤は乳頭容積と有意に関係していたが、その比率は小さい(6%)。
【0046】
一方向ANOVAを用いて、投与シール剤量及び回収シール剤量及び乳頭位置、製品、乳牛との位置変数関係を決定した。
【0047】
【表4】

実施例3:
この実施例の目的は、改良された洗浄性を持つITSを開発することであった。この実施例で、実施例1で記載されたものと類似のITSが作成された(ただし、ミネラルオイルゲルをトリグリセリド系可動相と置換した)。これらのシール剤は、好ましく良好なバリア性を持ち、同時に、従来の乳頭洗浄プロトコルを用いて(ミネラルオイル系シール剤と比べて)改良された洗浄性特性を持つことが証明された。牛乳生産者は、従来のミネラルオイル系ITS剤を、通常のその場洗浄手順(CIP)を用いて乳との接触表面から残渣を取り除くことは非常に難しいということを経験している。従って、良好なバリア特性を持つITSはまた、乳との接触表面から容易に洗浄されるものであることが、市場から望まれている。
【0048】
種々の原因により、多くの牛乳生産者は搾乳前に乳房からITSを適切に除去しない。これは訓練及び教育を通じて解消されることができる。さらに、多くの牛乳生産者は、推奨される温度及び洗浄の際の推奨洗浄成分濃度まで上げることはせず、取り扱い装置に従来のITS剤からの残渣か蓄積され、事態を悪化させることとなる。乳製品生産者の洗浄実務は教育を通じて変えることはあり得ない。しかし残留ITSの洗浄性を改良する可能な方法は、ITS製品自体の化学を変更することにある。
【0049】
ITSの塩成分は、それが次硝酸ビスマス、酸化亜鉛又は他の塩であっても、標準の洗浄手順を用いても大きくは影響されず又は溶解されない。前記塩はそれ自体分散された粒子性物である。前記塩は連続ゲル相(従来技術ではミネラルオイル)にも、水溶性洗浄相にも溶解しない。さらには、ITS製品のミネラルオイル成分(アルカンの粘性混合物)は本質的に洗浄化学物質(塩素化塩基性洗浄剤)とは反応性ではない。ミネラルオイルはまた、十分非極性であり、水溶性洗浄溶液に耐溶解性である。まとめると、ミネラルオイルゲル相を持つITSは乳との接触表面上に堆積させると、標準の洗浄手順を用いて除去することが非常に難しくなるということである。
【0050】
ITS剤でのミネラルオイルの果たす役割は、不活性な連続相分散媒体である。本発明者は、この役割はまたモノ、ジ及び/又はトリグリセリド油などの材料によっても果たすことができることを見出した。ミネラルオイルと、例えばトリグリセリド材料とを置換する有利な点は、ミネラルオイルとは異なりトリグリセリドはほとんどの共通の乳装置洗浄剤、アルカリ洗浄剤(即ち水酸化ナトリウム)と反応するということである。脂肪酸がエステル化されたグリセリドは、高いpHで水酸化ナトリウムと反応して化学的に対応するナトリウム塩(例えばステアリン酸ナトリウム)へ変換され、表面から容易に除去され洗浄溶液の水性相に分散される。コーン油、綿実油、又はカノーラ油などのトリグリセリド油は容易に利用可能であり、熱に安定であり(殺菌目的のため)、異なる安定性及び溶融特性を変更することができる。
【0051】
グリセリド系ITSは、ミネラルオイル系ITSに比べてバリア特性の点から非常に好ましい。トリグリセリド系ITSはまた、ミネラルオイル系ITSに比べてその洗浄性は約10倍改良されている。洗浄性が改良されていることから、トリグリセリド系ITSは、塩成分として次硝酸ビスマスなどのビスマス含有塩を利用することができる。
【0052】
グリセリドゲル系からのITSを試験するために、小型のクリーンインプレース(CIP)ループを構成した。CIPループは11ガロンのタンク、柔軟性清浄化ライン、渦巻きポンプ、スロットルバルブ及びデジタル流速計を含む。テスト表面として、316ステンレススチール及びプラスチックの2”x2”試験片を用いた。洗浄された試験片は秤量された。既知量のITSサンプルをそれぞれの試験片に適用し、再度秤量した。その後試験片をCIPループで洗浄した。それぞれの試験片はCIPループの柔軟ラインの端部に挿入し、ホースクランプで固定された。ポンプのスイッチを入れて流速をスロットルバルブで望ましい目標速度へ調節した。該速度はデジタル流速計で表示された。デジタル温度計が温度をモニタするために用いられた。試験片及びITS処理試験片を共に配置し、該システムを130°Fの熱水で満たし、ポンプのスイッチを入れて流速を調節した。1ガロンの水につき1オンスの塩素化塩基性洗浄剤をCIPループに加え該システムを10分間運転した。前記試験片を取り出し乾燥し、除去されたITSの量を決定するために秤量された。
【0053】
その結果、実施例1で記載された「オーベシール」名ITS及び酸化亜鉛系ITS(これらは共にゲル相としてミネラルオイルを用いている)の間にはなんら特徴的な洗浄性の相違は見られなかった(表5を参照。図5で、n=3)。表5は、ステンレススチール及びプラスチックの試験片から除去されたITSの重量%が示されている。ここで、ss=ステンレススチール表面、pl=プラスチック表面、orb=「オルベシール」名ITS、zmo=亜鉛+ミネラルオイル、zcot=亜鉛+綿実油、zcan=亜鉛+カノーラ油を示す。
【0054】
対照的に、ゲル相としてトリグリセリドITSを用いて作成したITS剤は、ミネラルオイルとは異なり、残留物の除去性が劇的に増加した(約10倍、図5を参照)。具体的なメカニズムに限定されることなく、かかる改良された洗浄性は、非反応性のミネラルオイルに比較してトリグリセリドの化学反応性が増加した結果であると、考えられる。まとめると、トリグリセリド材料のエステル結合が容易に塩基性洗浄剤(NaOH)で加水分解される。従って、前記残留物は水性相へ対応する脂肪酸のナトリウム塩として分散されていく。
【0055】
実施例4−乳製品反応性:
液状牛乳サンプル(2%ホモジナイズ化、ビタミンD)に0.05重量%のそれぞれのITSで処置し、45°Fで2週間保存した。その後、サンプルを目視で、専門家パネル(n=4)による感応試験を用いて変性の事象を評価した。4つのITS処置が評価された(「オルベシール」名ITS、Zn/ミネラルオイル、Zn/カノーラ油、及びコントロールサンプルを含む)。パネリストはコントロールからの相違を求められた。まとめると、パネリストはコントロールサンプルの評価を求められ、次に前記コントロール牛乳を参照として、処置されたサンプルの風味を評価した。結果は次にまとめる。
【0056】
タンパク質の変性などの事象は全く視認できなかった。処置されたサンプルのそれぞれはコントロールから区別がつかなかった。風味の点においても同様の結果であり、風味上の欠陥又はITS処置の存在又はタイプに基づく寄与は全くなかった。
【0057】
チーズ分析は続行中である。新しく作ったモツアレラ及びチェダーチーズサンプルを製造し、表面をITSで処置し、真空包装し、現在熟成中である。これまで、変性の兆候や外見上の欠陥が全く見られない。
【0058】
実施例5−ヨーグルト発酵及び感応評価:
3つの異なるヨーグルト発酵を実施して、ZnOシール剤又は「オルベシール」名ITSの存在による、この発酵製品の最終感応特性への可能な影響を研究した。以前の実験で、かかる材料は目立つほどは製品のpHの低下をもたらさないことが見出されている。従って、次の実験が実行された。50mlの加熱処理された牛乳を3つの滅菌100mLフラスコに入れ、乳酸菌delbrukeii種bulgaricusとインキュベートした(Ellikerブロス、予め24時間、37℃でインキュベートしたもの)。50mgの「オルベシール」名ITSをフラスコのひとつに入れ、50mgのZnOシール剤(65%の重ミネラルオイル中)を他のフラスコに入れた。これらのフラスコを一夜37℃でインキュベートし、最終pH同様、風味、芳香性プロフィルなどの相違を評価した。
【0059】
結果:3つの発酵製品の最終pHは非常に類似していた。範囲は4.45及び4.5であった。最終製品を食べてみて、これらの3つの処置物の間に、風味、芳香性プロフィルに変化はなかった。
【0060】
実施例6−ITS剤の密度:
7つの異なる亜鉛形ITS剤の密度が決定され、「オルベシール」名ITSと比較された。それぞれの調製されたシール剤の少量(400μl)を化学分析天秤を用いて秤量した。表6には得られた結果をまとめてある。表は少なくとも10回に測定の平均値を対応する標準偏差とともに記載されている。一般的に、前記分散物の密度はより高い酸化亜鉛を用いる場合に増加する。性能基準は、元の「オルベシール」名ITSの密度の5〜10%の範囲であった。これは、5%レベルで約1.817から約2.008g/mL、10%レベルで約1.722から約2.104g/mLである。試験された全てのサンプルは、これらのパラメータ内に入ったが、60%ZnOカノーラ油処置の5%レベルでは例外であった。
【0061】
【表5】

実施例7−ITS剤の粘性
酸化亜鉛、ステアリン酸アルミニウム及びカノーラ油を含む新たに調製したITSの粘度を、いくつかの温度で、Brookfield Digital Viscometer Model DV−I Prime(Brookfield,Middleboro,MA)により、S06スピンドルを用いて2.0rpmで測定した。これらの新たなITS剤の粘度への温度の影響は図6から分かる。低温度(−15℃)でのデータは現在進行中である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物の乳頭管内に物理的バリアを形成して、前記動物の乾乳期間での乳房疾患の予防的処置を行い、同時に前記動物からの乳から作られる乳製品中の黒点欠陥を防止する方法であり、前記方法は:
前記動物の前記乳頭管内にある量の乳頭シール剤を注入し、前記乳頭シール剤がグリセリドを含むゲル相内に分散される非毒性金属塩を含み、
前記注入される前記乳頭シール剤の量が、前記乳頭管内への微生物の侵入に対して物理的バリアを形成するために十分であり、前記乳頭シール剤が、前記動物の乳から作られる乳製品内に黒点欠陥を生じない、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であり、抗感染剤を含まない乳頭シール剤を注入する、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であり、ビスマスを含まない乳頭シール剤を注入する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であり、抗感染剤もビスマスも含まない乳頭シール剤を注入する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であり、トリグリセリドを含む基材中にビスマスを含まず、非毒性金属塩を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であり、少なくとも30重量%の前記非毒性金属塩を含む乳頭シール剤を注入する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であり、約50重量%から約75重量%の前記非毒性金属塩を含む乳頭シール剤を注入する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であり、約65重量%の前記非毒性金属塩を含む乳頭シール剤を注入する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であり、前記非毒性金属塩が、チタン塩、亜鉛塩、バリウム塩及びそれらの組み合わせを含む群から選択される、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であり、前記非毒性金属塩が、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、及びこれらの組み合わせを含む群から選択される、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であり、前記ゲル基材が、動物脂肪、カノーラ油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、亜麻油、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、ひまわり油、魚油、藻油及びこれらの組み合わせを含む群から選択される、方法。
【請求項12】
乳房内乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤は:
グリセリド;及び
前記ゲル基材中に分散された非毒性金属塩を含む、前記乳頭シール剤。
【請求項13】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記ゲル基材がトリグリセリドを含む、乳頭シール剤。
【請求項14】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記ゲル基材が、動物脂肪、カノーラ油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、亜麻油、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、ひまわり油、魚油、藻油及びこれらの組み合わせを含む群から選択される、乳頭シール剤。
【請求項15】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤が抗感染剤を含まない、乳頭シール剤。
【請求項16】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤がビスマスを含まない、乳頭シール剤。
【請求項17】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤が抗感染剤もビスマスも含まない、乳頭シール剤。
【請求項18】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤が少なくとも30重量%の前記非毒性金属塩を含む、乳頭シール剤。
【請求項19】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤が、約50重量%から約75重量%の前記非毒性金属塩を含む、乳頭シール剤。
【請求項20】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記乳頭シール剤が約65重量%の前記非毒性金属塩を含む、乳頭シール剤。
【請求項21】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記非毒性金属塩がチタン塩、亜鉛塩、バリウム塩及びそれらの組み合わせを含む群から選択される、乳頭シール剤。
【請求項22】
請求項12に記載の乳頭シール剤であり、前記非毒性金属塩が、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、及びこれらの組み合わせを含む群から選択される、乳頭シール剤。
【請求項23】
非ヒト動物の乳頭管内に物理的バリアを形成して、前記動物の乾乳期間での乳房疾患の予防的処置を行う方法であり、前記方法は前記動物の前記乳頭管内にシール剤を注入するステップを含み、請求項12に記載の乳頭シール剤を注入することを特徴とする、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−523423(P2012−523423A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504825(P2012−504825)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/030252
【国際公開番号】WO2010/118142
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(506097988)ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション (14)
【Fターム(参考)】