説明

乳検査方法および乳検査装置ならびに乳房炎診断方法

【課題】初期段階の乳房炎を安価かつ簡便に発見することのできる乳検査方法を提供する。
【解決手段】本発明の乳検査方法は、前記乳の一部である処理分に当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す第1工程と、前記処理が施された前記処理分と前記乳の残部である非処理分との混合液中に存する体細胞を、前記処理分に含まれる活性化因子によって活性化させる第2工程と、前記第2工程後の前記混合液を使用して前記乳中の体細胞数を測定する第3工程と、を含む。本発明によれば、高価で保管が煩雑な活性化薬剤を使用することなく体細胞を活性化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物、特に乳牛の乳を検査する方法およびこの検査を行うための乳検査装置に関する。さらに、本発明は、前記乳検査方法を使用して哺乳動物の乳房炎への感染を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酪農において、家畜の乳房炎が大きな課題となっている。乳房炎に感染した家畜の乳は、乳糖率低下、塩分濃度増加その他乳成分の変化により、商品価値が低下する。また、乳房炎への感染は家畜個体や乳房組織にダメージを与えて泌乳能力低下を引き起こし、生産性を低下させる。そのため、感染度の低いうちに乳房炎を発見し、治療を開始することがきわめて重要である。
【0003】
現在、感染の指標として一般に乳中の体細胞数が用いられている。乳中の体細胞数とは、白血球を初めとする血液由来細胞と、乳腺上皮細胞との総数である。体細胞数の増加は、乳房内に菌が侵入して増殖することにより、血中から乳中へ白血球が移行して乳中に白血球が増加していること、および菌の産生する毒素によって傷ついた乳腺組織から乳腺上皮細胞が乳中へ脱落していることを表している。
【0004】
体細胞数は顕微鏡観察やセルソーターによって信頼性の高い値が測定可能であるが、これらの測定に用いられる装置は高額で大型であったり、あるいは操作が煩雑であったりするため、通常は、ある程度集乳された段階で特定の検査機関において体細胞数が測定される。したがって、体細胞数測定結果が判明した時には乳房炎に感染した家畜の乳が正常な乳に混合された状態にあり、乳房炎に感染した家畜の乳によって同じタンク内の大量の乳の品質低下、さらにはタンク単位の乳の廃棄が行われることになる。また、感染度の低い家畜の乳は正常な乳に希釈されるため、乳房炎の早期の発見は困難である。そのため、搾乳時に体細胞数が測定できる、簡便、安価かつ持ち運び可能な小型の装置が望まれている。
【0005】
そこで、乳房炎に感染した乳中の体細胞が産生する活性酸素をルミノール化学発光法によって検出する方法が提案されている(特許文献1参照)。これは活性酸素によってルミノール試薬を励起し、発生する化学発光の量を光電子増倍管にて増幅・定量化する方法である。
【0006】
また、活性酸素と電気化学反応する電極とを反応させ、活性酸素を電気化学的に検出する方法も提案されている。例えば特許文献2には、導電性部材の表面に金属ポルフィリン錯体の重合膜が形成された作用極および対極を用いた乳房炎診断装置が開示されている。
【0007】
これらの活性酸素を検出する方法は従来の顕微鏡やセルソーターを用いる方法よりも小型の装置で簡便に検査が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−041696号公報
【特許文献2】特開2005−106490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、活性酸素を検出する方法では、体細胞数の低い乳房炎の初期段階では十分な感度が得られず、乳房炎の早期発見は困難である。そこで、オプソニン化ザイモサンやカルシウムイオノフォア等の活性化薬剤によって体細胞を活性化し、これにより体細胞が産生する活性酸素の量を増加させることで感度を高めることも考えられる。
【0010】
しかし、上記のような活性化薬剤は高価でしかも不安定なものであるため、コストが上がるだけでなく、活性化薬剤自身の保管(通常冷凍庫中で保管)や作業自体の手間などが増える。
【0011】
以上の課題を鑑みて、本発明は、初期段階の乳房炎を安価かつ簡便に発見することのできる乳検査方法およびこの乳検査方法を行うための乳検査装置ならびに前記乳検査方法を使用した乳房炎診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、乳を検査する方法であって、前記乳の一部である処理分に当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す第1工程と、前記処理が施された前記処理分と前記乳の残部である非処理分との混合液中に存する体細胞を、前記処理分に含まれる活性化因子によって活性化させる第2工程と、前記第2工程後の前記混合液を使用して前記乳中の体細胞数を測定する第3工程と、を含む、乳検査方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、乳の検査を行うための乳検査装置であって、前記乳の一部である処理分が投入される第1容器と、前記第1容器に投入された前記処理分に、当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す活性化手段と、前記乳の残部である非処理分および前記処理が施された前記処理分が投入される第2容器と、前記第2容器内の前記非処理分と処理分との混合液を使用して前記乳中の体細胞数を測定する測定手段と、を備える、乳検査装置を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、上記の乳検査方法により得られた乳中の体細胞数を記録し、この体細胞数の推移から、前記乳が搾取された個体について乳房炎の感染を診断する、乳房炎診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乳検査方法によれば、検査対象である乳の一部を利用して活性化因子を生成することで、高価で保管が煩雑な活性化薬剤を使用することなく体細胞を活性化することができる。そして、このように体細胞を活性化することにより、体細胞が低濃度であっても体細胞数を高感度に測定することができる。従って、初期段階の乳房炎を安価かつ簡便に発見することができる。
【0016】
しかも、前記の乳検査方法を実行する本発明の乳検査装置は、小型化が可能である。従って、この乳検査装置を搾乳場所に持ち込んで、搾乳と同時に乳の検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る乳検査装置の斜視図である。
【図2】第2容器の底面を示す図である。
【図3】図1に示した乳検査装置のブロック図である。
【図4】体細胞数と電流値の関係を示すグラフ(散布図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<乳検査方法>
本発明の乳検査方法において、第1工程における活性化因子を発生させる処理が、乳の一部に種々のエネルギーを与えることによって行われてもよい。このようなエネルギーを与える手段は、乳と接触しない位置に設けることが可能である。この場合は、乳を外部から遮断した状態(例えば、密閉した状態)で活性化因子を生成できるので、乳への不純物混入による汚染リスクを大幅に抑制できる。
【0019】
また、第1工程を容器内で行い、エネルギーを与える手段を容器外に備えれば、容器の交換によって複数の試料に第1工程を実施できるので、簡便性と低コスト化にも有利である。
【0020】
エネルギーとしては特に限定はないが、熱、電磁波、圧力、振動、超音波、せん断応力などが挙げられる。これらのエネルギーは種々の汎用手段によって発生でき、小型化、エネルギー量の制御、製造コストダウンなどに一層有利である。これらのエネルギーのうち、熱および電磁波は、装置のメンテナンスが容易なので特に望ましい。
【0021】
本発明の乳検査方法は、検査対象である一定量の乳をいったん一部(処理分)と残部(非処理分)とに分け、その後にそれらを混合することを特徴とする。前記一部の量は、乳の全量(前記一定量)の0.1%以上50%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0022】
具体的に、本発明の乳検査方法は、乳の一部である処理分に当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す第1工程と、前記処理が施された処理分を乳の残部である非処理分と混合し、この混合液中に存する体細胞を、処理分に含まれる活性化因子によって活性化させる第2工程と、第2工程後の混合液を使用して乳中の体細胞数を測定する第3工程とを含む。
【0023】
第3工程において測定される乳中の体細胞数とは、乳中に含まれる乳腺上皮細胞と白血球の総数、または白血球の数を示している。現状、乳質検査に用いられている体細胞数は、乳腺上皮細胞と白血球の総数である。通常、非感染時には体細胞数は1〜20万個/mL程度といわれている。感染時には体細胞数は増加し、20〜30万個/mL以上が感染の基準とされている。乳房炎感染時に増加する乳中体細胞のほとんどは白血球、中でも好中球が大多数を占めるといわれている。したがって、白血球数増加の兆候をいち早く検出することは、乳房炎による被害低減において重要であると考えられるため、白血球の数を測定することが好ましい。
【0024】
本発明の検査対象である乳とは、哺乳動物の乳房から分泌された生乳のことである。第1工程では、乳の一部である処理分から活性化因子を発生させるが、処理分中に存する活性化因子発生源には、元来生乳に含まれている脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル、糖質等の成分の他、哺乳動物の体調によって変動する体細胞等も含まれる。
【0025】
第1工程において活性化因子を発生させながら処理分を濃縮することもできる。例えば熱によって活性化因子を発生させる場合には水蒸気として水を除去したり、圧力によって活性化因子を発生させる場合には分離した上澄みとして水を除去したりすることで濃縮が可能である。
【0026】
第2工程において行われる混合液中に存する体細胞の活性化とは、その体細胞からの産生物の量を増大させること、あるいはその体細胞の接着性を高めることをいう。活性化される体細胞の種類には、乳中体細胞と言われている乳腺上皮細胞、好中球、単球、リンパ球、マクロファージがある。これらの活性化の例として、例えば感染時に乳中体細胞の大部分を占めると言われている好中球については、活性酸素産生量を増大させる、あるいは接着性を高めて産生物検出部位(例えば、後述する作用極)に集積させることが挙げられる。これにより、軽度の乳房炎の段階における測定感度向上につながる。
【0027】
次に、第1工程で発生させる活性化因子について説明する。活性化因子とは、前述した体細胞の活性化効果の発現を誘導する物質のことであり、体細胞からの分泌物や細胞膜成分、あるいは乳成分の分解産物が挙げられる。このような活性化因子としては、例えば、サイトカイン、抗菌性タンパク、脂肪酸等が挙げられる。なお、サイトカイン、抗菌性タンパク、および脂肪酸は、第1工程で処理分に施す処理によっては同時に生成されることもある。
【0028】
前記のサイトカインは、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをいう。例えばインターロイキン、ケモカイン、細胞傷害因子、腫瘍壊死因子があり、より具体的にはIL−1β、IL−8、TNF−α等が挙げられる。
【0029】
前記の抗菌性タンパクは、菌の生育を抑える静菌作用、または菌の細胞膜や代謝系にダメージを与える殺菌作用を有するタンパクであり、例えばラクトフェリン、リゾチーム等が挙げられる。
【0030】
前記の脂肪酸としては、白血球活性化効果を示すものが好ましい。このような脂肪酸としては、C10以上の飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、C18以上の飽和または不飽和の脂肪酸がより好ましく、C18以上の不飽和脂肪酸がさらに好ましい。
【0031】
次に、第1工程において、乳の一部である処理分に処理を施して当該処理分から活性化因子を発生させる方法を具体的に説明する。
【0032】
活性化因子としてサイトカインおよび抗菌性タンパクの少なくとも一方を生成する場合には、処理分中に存する体細胞に刺激を与えて細胞死を引き起こすとともに体細胞を分解することにより、細胞の断片や細胞内に含まれる活性化因子を放出させる方法を用いてもよい。
【0033】
前記のような刺激を体細胞に与えるには、例えば、処理分に、熱、電磁波、圧力、振動、超音波、およびせん断応力から選ばれるエネルギーを与えてもよい。あるいは、ビーズ接触衝撃、凍結融解法、界面活性剤、ホモジナイザー、パルス電界を印加する方法を用いることもできる。
【0034】
エネルギーを与える方法は、工業技術上確立された素子を使用して安価かつ高精度にエネルギーを与えることができるため、装置の製造コストを安価にすることが可能である。
【0035】
活性化因子として脂肪酸を生成する場合には、処理分中に存する脂肪球から脂肪を遊離させ、この脂肪を加水分解する方法を用いてもよい。
【0036】
乳中の脂肪は、C4からC18の飽和または不飽和の脂肪酸とトリグリセリドが結合した構造の脂肪が0.1〜10μmの球状ミセルとなっており、その周囲はタンパク質を主成分とする膜に覆われた脂肪球として存在している。そのため、通常は脂肪分解酵素であるリパーゼの作用は受け難く、安定的に存在する。脂肪球は、加熱や攪拌等の刺激により構造が脆弱化し、リパーゼの作用を受け易くなる。
【0037】
処理分に対し、外部からエネルギーを与えることで脂肪球の構造を脆弱化させ、乳中に含まれるリパーゼの作用によって脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解させることができる。遊離した脂肪酸は、第3工程において乳中体細胞の一つである好中球の細胞膜に作用し、好中球からの活性酸素産生量を増大させることができる。乳中には、体細胞数に比して十分量の脂肪球、およびリパーゼが存在している。乳中の脂肪の構成比は、C10以上が約90mol%であり、さらにC18以上は48mol%であることから、脂肪球を分解させるだけで、好中球を活性化させるのに十分な量の脂肪酸を得ることができる。
【0038】
前記の脂肪球の構造を脆弱化させるためのエネルギーは、リパーゼが失活しない程度の強さであることが好ましい。エネルギーとしては、熱、電磁波、圧力、振動、超音波、せん断応力から選ばれるエネルギーを用いることができる。
【0039】
次に、第1工程で処理分に与えるエネルギーの好適な範囲について説明する。なお、以下に示す範囲は、サイトカインおよび抗菌性タンパクの少なくとも一方を生成する場合でも脂肪酸を生成する場合でも同様である。
【0040】
前記エネルギーとして熱を用いる場合には、温度制御性、装置の簡便性、活性化因子の熱安定性の観点から、処理分を40〜80℃に加熱することが好ましく、42〜60℃に加熱することがより好ましい。
【0041】
前記エネルギーとして電磁波を用いる場合には、処理分に、細胞核や脂肪球を構成するタンパクに作用する10〜400nmの波長の紫外線を照射することが好ましい。より好ましい紫外線の波長は、200〜360nmである。
【0042】
なお、前記エネルギーとしては、水の分子運動を高めて細胞膜や脂肪球の構造を破壊する効果を持つ電磁波であるマイクロ波、赤外線、可視光線を用いることもできる。
【0043】
通常特に制限はないが、マイクロ波を用いる場合は、周波数1〜10GHzのマイクロ波が好ましく、周波数2〜4GHzのマイクロ波がより好ましい。可視光を用いる場合は、波長380〜750nmの可視光が好ましく、波長430〜600nmの可視光がより好ましい。赤外線を用いる場合は、波長0.7〜1000μmの赤外線が好ましく、波長2.0〜500μmの赤外線がより好ましい。
【0044】
前記エネルギーとして圧力を用いる場合は、圧力により細胞膜や脂肪球の構造を破壊する方法として、浸透圧、空気圧、水圧、真空圧を用いることができる。
【0045】
通常特に制限はないが、浸透圧は、10〜1000mOsmの範囲であることが好ましく、20〜500mOsmの範囲であることがより好ましい。空気圧、水圧、真空圧においては、0.01Pa〜100MPaの範囲であることが好ましく、0.1Pa〜10MPaの範囲であることがより好ましい。
【0046】
前記エネルギーとして振動を用いる場合には、処理分を容器に入れ、この容器を50〜10000Hzで振動させることが好ましく、100〜1000Hzで振動させることがより好ましい。
【0047】
前記エネルギーとして超音波を用いる場合には、超音波により細胞膜や脂肪球の構造を破壊する場合の好適な範囲として、10kHz〜1GHzが好ましく、20kHz〜100MHzがより好ましい。
【0048】
前記エネルギーとしてせん断応力を用いる場合には、処理分に10〜10000dynes/cm2のせん断応力をかけることが好ましく、50〜5000dynes/cm2のせん断応力をかけることがより好ましい。
【0049】
次に、第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で処理した乳の一部である処理分を乳の残部である非処理分と混合することにより、処理分に含まれる活性化因子を処理分と非処理分との混合液中に存する体細胞に接触させて作用させる工程である。この第2工程は、体細胞が産生物を産生しうる状態を維持するために、混合液を適切な温度に保ちながら行うことが好ましい。その適切な温度は、35℃〜45℃の範囲内が好ましく、37℃〜42℃の範囲内がより好ましい。
【0050】
また、活性化因子と体細胞との接触機会を上げて第2工程にかかる時間を短縮するために、第2工程において攪拌あるいは振とうを行ってもよい。
【0051】
次に、第3工程について説明する。
【0052】
第2工程により活性化された混合液中の体細胞からは、スーパーオキシドアニオンラジカルや過酸化水素、次亜塩素酸等の活性酸素、タンパク、ペプチド、乳酸、脂肪酸等の産生能力が高まっている。第3工程においては、前記の産生物の検出および定量化が行われ、その量が検査対象である乳中の体細胞数に換算される。
【0053】
前記の産生物の検出方法としては、公知の任意の検出方法が用いられるが、例えば電気化学的手法、比色法、化学発光法、吸光光度法等があげられる。乳中には脂肪球やカゼインミセル等が存在し、光が散乱することを考えると、電気化学的手法を用いるのがより好適である。
【0054】
電気化学的手法を用いる場合は、第2工程後の混合液を酵素が塗布された作用極と対極とに接触させ、その状態で作用極と対極との間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて、乳中に含まれる体細胞数を算出することが好ましい。なお、酵素が塗布された作用極は、酵素電極ともいう。
【0055】
また、前記活性化された体細胞は、産生物量が増加すると共に、接着性も高まっている。乳中体細胞の一つである好中球は、疎水性表面に触れると擬似足場を形成して、付着しやすくなることから、第3工程における産生物検出部位近傍に体細胞が接着しやすい疎水性表面を形成しておくことで、体細胞が集積され、体細胞からの産生物をより感度良く検出することができる。前記の疎水性表面の水に対する接触角は、30°以上110°以下の範囲が好ましく、40°以上100°以下の範囲がより好ましい。該接触角が30°を下回ると、好中球の接着性は低下する。一方、該接触角が110°を超えると、材料の選択肢が限定され、製造コストに悪影響を与える。
【0056】
本発明の乳検査方法は装置によって実行することで再現性が高く、迅速な試験が可能となる。次に本発明の乳検査方法を実行する乳検査装置について説明する。
【0057】
<乳検査装置>
本発明の乳検査方法を実行する乳検査装置は、乳検査方法の各工程を実施する部分が1つの構成体内に配置されたものであってもよいし、それらの部分の少なくとも1つが別体として構成されていてもよい。ただし、各工程を実施する部分が1つの構成体内に配置されている方が、装置の小型化には望ましい。なお、第1工程を実施する部分を別体とした場合には、その部分を小型化できるので、エネルギーを与える構成を採用したときに有利となる場合がある。
【0058】
例えば、第1工程を第1構成体で実施し、第2工程を第2構成体で実施し、第3工程を第3構成体で実施してもよい。また例えば、第1工程を第1構成体で実施し、第2および第3工程を第2構成体で実施してもよい。また例えば、第1および第2工程を第1構成体で実施し、第3工程を第2構成体で実施してもよい。また例えば、第1および第3工程を第1構成体で実施し、第2工程を第2構成体で実施してもよい。あるいは、第1〜第3工程のうちの1つの工程が複数の構成体で実施されるようになっていてもよい。
【0059】
乳検査装置は、乳の一部である処理分が投入される第1容器と、第1容器に投入された処理分に、当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す活性化手段と、乳の残部である非処理分および前記処理が施された処理分が投入される第2容器と、第2容器内の非処理分と処理分との混合液を使用して乳中の体細胞数を測定する測定手段とを備えていることが望ましい。
【0060】
前記第1容器および第2容器の形状は通常特に制限はなく、平面視で円形または四角形の箱状であってもよく、その大きさは横に広くても縦に長くてもよい。容器の材質は通常特に制限はなく、プラスチック、ガラス、金属等を用いることができる。容器は、洗浄して繰り返し使用してもよいが、脂肪やタンパクなどの乳成分の付着による汚染や感度低下の影響の観点から、使い捨ての容器としてもよい。
【0061】
前記第1容器内で第1工程を実施するための手段である活性化手段は、例えば第1容器の外側に配置された、エネルギーを発生する素子(例えば、LED、ヒータ等)であってもよい。または、活性化手段は、第1容器内に配置された、第1容器に投入された処理分にせん断応力をかけるための回転翼を有していてもよい。あるいは、活性化手段は、第1容器の内面に塗布された界面活性剤であってもよい。
【0062】
前記活性化手段は、第1容器に投入された処理分に、熱、電磁波、圧力、振動、超音波、せん断応力から選ばれるエネルギーを与えるエネルギー付与手段であることが好ましい。
【0063】
エネルギー付与手段のエネルギー発生源は、第1容器の中に配置されていても外に配置されていてもよい。エネルギー発生源が第1容器の外に配置されていれば、第1容器のみを交換し、エネルギー発生源を繰り返し使用するという使い方に有利である。エネルギー発生源としては、汎用の素子等を用いることができるが、例えば、熱源としてはペルチェ素子、電熱線ヒータ、シリコンラバーヒータ、マイカヒータ、ヒーティングケーブル、サーモスヒータ、赤外線ヒータ等が挙げられる。電磁波源としては、LED、紫外線ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等が挙げられ、取扱性や装置小型化の観点からLEDが特に望ましい。圧力源としては物質の添加による浸透圧変化、ピストンによる空気圧・水圧、真空ポンプによる真空圧、遠心力、重力による空気圧等が挙げられ、装置小型化の観点から浸透圧、ピストンが特に望ましい。振動源としては、圧電素子、セラミック発振子等が挙げられる。超音波源としては、圧電セラミックス、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)電歪型発振子、ボルト締めランジュバン型超音波振動子が挙げられる。せん断応力源としては、狭歪流路の通過、回転翼による攪拌等が挙げられる。
【0064】
乳検査装置は、体細胞の活性は温度によって大きく変わることから、内部で第2工程および第3工程が行われる前記第2容器の温度を一定温度に保つための温度制御手段を備えることが好ましい。また、第2容器内で攪拌を行う撹拌手段を備えることで、より活性化因子が体細胞へ接触しやすくなり、活性化にかかる時間が短縮されるが、装置コストが高くなるとともに装置が大きくなるため、任意で設ければよい。
【0065】
第3工程を実施するための手段である測定手段は、第2容器内に発色試薬または発光試薬を一定量添加する手段と、色や発光量の変化を検出するための手段とを備えてもよい。あるいは、測定手段は、第2容器内に設けられた、酵素が塗布された作用極および対極を有していてもよい。乳成分の付着による汚染の影響を考えると、作用極および対極は第2容器と共に使い捨てとすると、操作が簡便で好ましい。作用極および対極を設ける構成は、試薬の添加操作や試薬自身の管理が必要なく、簡便かつ安定的に測定することができるので好ましい。
【0066】
前記の作用極および対極を有する測定手段を採用する場合は、乳検査装置は、作用極と対極との間に電圧を印加する装置本体を備えることが好ましい。また、前記第1容器および前記第2容器の少なくとも一方は、装置本体に着脱可能であることが好ましい。第1容器が装置本体に着脱可能であれば、第1容器を装置本体から取り外して、第1容器内の処理分を直接第2容器に投入することができる。
【0067】
なお、第2容器の内面における少なくとも前記作用極の近傍部分には、体細胞を集積させるための、疎水性材料からなる疎水性表面が形成されていることが好ましい。この構成であれば、体細胞からの産生物をより感度良く検出することができる。
【0068】
前記の疎水性表面を構成する疎水性材料は特に限定はないが、疎水性表面の水に対する接触角は、30°以上110°以下の範囲が好ましく、40°以上100°以下の範囲がより好ましい。該接触角が30°を下回ると、好中球の接着性は低下する。一方、該接触角が110°を超えると、材料の選択肢が限定され、製造コストに悪影響を与える。具体的材料としては疎水性樹脂(アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル−スチレン系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等)、金属(金、アルミ、白金、銅、ニッケル、スズ、等)、ガラス(硼珪酸ガラス、軟質ガラス、石英ガラス等)等が挙げられ、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル−スチレン系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂が特に好ましい。
【0069】
第1容器から第2容器への処理分の投入は、装置簡略化の観点から人間の手で行ってもよいし、第1容器内の処理分をシリンジやピペット等で吸引して第2容器へ吐出することにより自動的に行ってもよい。ただし、処理が施された処理分を第1容器から第2容器へ導く流路が設けられていることが好ましい。乳への不純物混入や乳の拡散を防ぐことができるからである。
【0070】
前記流路を設ける場合は、第1容器が前記第2容器よりも高い位置に配置されていることが好ましい。このような構成であれば、第1容器内の処理分を重力によって流路に流して第2容器へ移動させることが可能である。この場合、流路に開閉弁を設けておけば、開閉弁を開くだけで第2工程を開始することができる。
【0071】
第1容器の容量は、第2容器の容量の1/1000〜1/2であることが好ましい。1/1000より小さければ、第1容器内で産生する活性化因子の量が少ないため、活性化効果は小さく、測定感度は上がらない。一方、1/2より大きいと、損傷を受ける体細胞の割合が多くなるため、やはり感度は上がらない。より好ましい第1容器の容量は、第2容器の容量の1/100〜1/10である。
【0072】
以上説明した乳検査装置であれば、第1工程を実施するための第1容器と第2および第3工程を実施するための第2容器とが分けられているので、小型化が容易である。また、第2容器の温度が一定に保たれる構成が採用されていれば、第3工程実施中に乳が変性し難いので、数値が安定化する。また、乳の一部を第1容器に投入することで、体細胞がダメージを受けうるような活性化因子産生手段を採用でき、第1工程にかかる時間の短縮、および効果の高い活性化因子の産生が可能となる。
【0073】
なお、第1容器および第2容器は、共に複数設けられていてもよい。特に、第1容器および第2容器が4つずつ設けられていれば、一度で1頭の4分房全てを検査することができ、更に迅速な体細胞数の測定が可能になる。
【0074】
(具体例)
次に、図面を参照して、上述の乳検査装置の具体例を説明する。
【0075】
図1に、具体例の乳検査装置1を示す。この乳検査装置1は、体細胞からの産生物のうち特にスーパーオキシドアニオンラジカルを検出して体細胞数を測定するものである。
【0076】
具体的に、乳検査装置1は、第1容器2および第2容器3を内蔵する装置本体10を備えている。装置本体10の上面には、乳を受けるためのトレイ45が設けられている。また、装置本体10の上面には、測定結果である体細胞数を表示するための表示パネル11が設けられている。なお、第1容器2および第2容器3は、装置本体10に着脱可能になっていることが好ましい。
【0077】
トレイ45、第1容器2、および第2容器3は、鉛直方向において互いに重なり合うように、上から下にこの順に配置されている。トレイ45と第1容器2とは第1流路41で接続され、第1容器2と第2容器3とは第2流路42で接続され、トレイ45と第2容器3とは第3流路43で接続されている。第1〜第3流路41,42,43は、全て鉛直方向に延びている。そして、トレイ45に乳が注ぎ込まれると、乳の一部(処理分)が第1流路41を通じて第1容器2に投入され、残りの乳である乳の残部(非処理分)が第3流路43を通じて第2容器に投入される。
【0078】
第1容器2の外側には、第1容器2に投入された処理分を第1容器2を介して加熱することにより当該処理分から活性化因子を発生させる第1ヒータ(活性化手段)5が配設されている。この第1ヒータ5には後述する電力供給部105から予め電力が供給されていて、第1容器2への処理分の投入と同時に当該処理分が加熱されるようになっていることが好ましい。第1ヒータ5によって加熱された処理分は、その後に第2流路を通って第2容器3に投入される。これにより、既に第2容器3に投入されていた非処理分と加熱された処理分とが混合されて、混合液となる。
【0079】
第2流路42には、自動または手動で操作可能な開閉弁を設けておくことが好ましい。このようにすれば、処理分の第1容器3での滞留時間、換言すれば加熱時間を自由に設定することができる。なお、開閉弁を設けなくても、第2流路42の断面積を小さくすることにより、第1容器3での処理分の滞留時間を確保するようにしてもよい。
【0080】
第2容器3の外側には、当該第2容器3の温度を一定に保つための第2ヒータ6が配設されている。この第2ヒータ6には、第2容器3へ非処理分が投入される前から当該第2容器3が所定温度に保たれるように、後述する電力供給部105から電力が供給されるようになっていることが好ましい。
【0081】
第2容器3の底面31には、図2に示すように、作用極7A、参照極7Bおよび対極7Cが設けられている。これらの電極7A〜7Cは、底面31上から第2容器3の外まで延びる配線71〜73(図2では底面31上の部分のみを図示)を介して後述する電力検出回路102に接続されている。作用極7Aの表面には、酵素(スーパーオキシドディスムターゼ)が塗布されている。なお、第2容器3は、少なくとも底面31あるいはそのうちの作用極7Aの周囲が疎水性表面となるように構成されていることが好ましい。
【0082】
装置本体10は、作用極7Aと対極7Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて乳中に含まれる体細胞数を算出するものである。具体的に、装置本体10は、図3に示すように、電源101と、作用極7Aと対極7Cとの間及び参照極7Bと対極7Cとの間に電圧を印加して、それらの間に流れる電流を検出する電流検出回路102と、検出された電流を電圧に変換する電流電圧変換回路103と、電圧値から体細胞数を算出する演算部104とを備えており、演算部104で算出された体細胞数が表示パネル11に表示される。また、装置本体10は、第1ヒータ5および第2ヒータ6(図3では図示省略)に電力を供給する電力供給部105を有している。
【0083】
電源101は、電池やバッテリー等の内部電源であってもよいし、家庭用電源等の外部電源であってもよい。電流検出回路102は、スイッチング素子等で構成されている。電流電圧変換回路103は、電流電圧変換素子や電圧を増幅するオペアンプ等で構成されている。演算部104は、CPUや記憶部(ROM及びRAM)等からなっている。記憶部には、電圧値と体細胞数とを関係づける検量線が記憶されており、演算部104は、電流電圧変換回路103から送られる電圧値に応じた体細胞数を算出する。本具体例では、作用極7A、参照極7B、対極7C、電流検出回路102、電流電圧変換回路103、および演算部104が、本発明の測定手段を構成する。
【0084】
本具体例では、参照極7Bが設けられているので、体細胞数を算出する際の電圧値は、参照極7Bを考慮した値である。すなわち、装置本体10は、作用極7Bと対極7Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流を電圧に変換して作用電圧値を得るとともに、参照極7Bと対極7Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流を電圧に変換して参照電圧値を得る。そして、装置本体10は、体細胞数を算出する際には、作用電圧値から参照電圧値を控除した電圧値から体細胞数を算出する。このようにすれば、混合液中に含まれる活性酸素と酵素との反応に基づく電圧値を正確に得ることができる。
【0085】
以上説明した乳検査装置1を用いた場合、乳検査方法は次のようにして実行される。まず、検査したい乳を、トレイ45に一定量注ぎ込む。これにより、第1容器2に乳の一部である処理分が投入されるとともに、第2容器3に乳の残部である非処理分が投入される。第1容器2内では、投入と同時に第1工程が実施される。つぎに、第1工程後の処理分が、第2流路42を通って第1容器2から第2容器3に導入され、第2容器3内の非処理分と混合されることで、第2工程が実施される。それから、混合液中の活性化された体細胞を検出することにより乳中の体細胞数を測定する第3工程が実施される。
【0086】
(変形例)
前記具体例では、活性化手段として第1ヒータ5を用いたが、活性化手段は、第1容器2に投入された処理分に圧力を加える手段、または第1容器2の内面に塗布された界面活性剤であってもよい。圧力を与える手段としては、例えば浸透圧の場合は水や塩類を添加する手段を備えていてもよいし、加圧または減圧用のピストンを備えてもよい。
【0087】
また、前記具体例では、電極7A〜7Cを含む測定手段を採用したが、測定手段は、発色試薬または発光試薬と、色や発光量の変化を検出するための手段とを備えるものであってもよい。
【0088】
また、例えば、第1容器2と第3容器3とを横並びに配置して、第2流路42の代わりに、第1容器2内の処理分を電動式のシリンジによる吸引・吐出により第2容器3へ移動してもよい。または、装置簡略化の観点からは、そのような移動を人間の手によって行ってもよい。
【0089】
<乳房炎診断方法>
本発明の乳房炎診断方法において、体細胞数は各個体ごとに記録することが望ましく、各分房ごとに記録することが更に望ましい。通常、体細胞数が20万個/mL以下であれば健常牛、20万個/mL以上であれば乳房炎の感染の可能性が高いと診断する。さらに、体細胞のうち白血球からの産生物質量に基づいて体細胞数を算出する方法であれば、本試験方法によって測定した体細胞数から白血球の比率の増減を把握することができる。このため、測定された体細胞数を記録すれば、この体細胞数の推移から、生乳が搾取された個体について、乳房炎感染の有無を早期に診断することが可能となる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を説明する。本実施例で示した装置は一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
[生乳サンプル中の体細胞数検査法]
生乳サンプルをスライドグラスの上の一定面積に塗抹し、乾燥、染色、鏡検して、細胞数を数えた結果と、顕微鏡(油浸レンズ観察)の視野の面積との関係によって、生乳サンプル中に存在する体細胞数を算出した。なお、代表視野は16視野以上計測し、視野全ての有核体細胞数を計測した。
【0092】
2頭の健常牛(a、b)および3頭の乳房炎に感染した牛(c、d、e)から生乳のサンプリングを実施したところ、生乳中の体細胞数は、a:4万個/mL、b:15万個/mL、c:42万個/mL、d:90万個/mL、e:210万個/mLであった。
【0093】
[酵素電極の作製]
本実施例および比較例では、体細胞から産生されるスーパーオキシドアニオンラジカルを特異的に検出可能な酵素電極を使用した。
【0094】
長さ60mm、幅30mm、厚み1mmのアクリル樹脂製のベースプレートにマスキングを施し、蒸着装置〔(株)アルバック社製、型式:UEP〕を用いて、作用極(金、直径4mm)、参照極(銀/塩化銀、直径1mm)、対極(白金、直径8mm)を形成した。
【0095】
次に、システイン溶液に作用極を浸漬させ、作用極の表面上にシステインの自己組織化単分子膜を形成した。その後、作用極の表面に、浸漬法により酵素(スーパーオキシドディスムターゼ)を塗布し、酵素電極を得た。
【0096】
[実施例1]−紫外線によって破砕された体細胞由来物質による活性化−
上述した各牛a〜eから搾取した乳について、それぞれの乳1mL(処理分)を直径3cmのポリスチレンディッシュに入れ、37℃に設定されたインキュベーター内にて、波長254nm(200mW/cm2)の光をディッシュ内の乳にディッシュを透過して15秒間照射し、第1工程として体細胞破砕操作を実施して、活性化因子であるサイトカインを産生させた。次に、上記ディッシュへ、紫外線を照射していない上記乳5mL(非処理分)を添加し、37℃にて60秒間保持し、第2工程を実施した。
【0097】
その後、第3工程として、第2工程実施後の乳(混合液)を前述の酵素電極、参照極および対極上へ滴下し、活性化された体細胞由来の電流値を測定した。電流値の測定は、ポテンシオスタット・ガルバノスタット(北斗電工株式会社、型式:HA―151)を使用した。測定方法は、作用極と参照極に直流1Vを印加した後、作用極に0.3Vの追加電圧を印加した。作用極上で酸化分解が発生すると同時に、対極には酵素の還元が起こり、作用極と対極との間に電流が流れた。その電流値を測定した。また、電流値の測定は、各電極を支持するベースプレートを、所定温度に設定されたプレート式のヒータ上に固定して行った。
【0098】
[実施例2]−熱によって破砕された体細胞由来物質による活性化−
上述した各牛a〜eから搾取した乳について、それぞれの乳5mLを図1に記載の乳検査装置1のトレイ45に注ぎ込み、第1容器2へ1mL(処理分)、第2容器3へ4mL(非処理分)投入した。次に第1容器2(容量1mL)内の乳を第1ヒータ5により60℃で30秒間加熱し、第1工程として体細胞を破砕して、活性化因子であるサイトカインを産生させた。その後、図略の開閉弁を開けて第1容器2の内容物を第2流路42を通じて第2容器3(容量5mL)へ導入した。次に、第2ヒータ6により37℃に保たれた第2容器3を60秒間そのまま維持し、第2工程を行った。次に、第2容器3内に設けられた、酵素電極、参照極および対極によって、体細胞由来の電流値を測定した。なお、実施例2の各電極は、実施例1のものと同じ構成とした。
【0099】
[比較例]
上述した各牛a〜eから搾取した乳について、第1および2工程を行わずに乳をそのまま酵素電極、参照極および対極上へ滴下した以外は、実施例1と同様にして、体細胞由来の電流値を測定した。
【0100】
電流値の測定結果は表1および図4に示すとおりであった。
【0101】
【表1】

【0102】
表1および図4から、実施例1,2では、活性化因子の作用により、測定された電流値が大きくなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0103】
1 乳検査装置
2 第1容器
3 第2容器
41 第1流路
42 第2流路
43 第3流路
5 第1ヒータ(活性化手段)
6 第2ヒータ
7A 作用極
7B 参照極
7C 対極
10 装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳を検査する方法であって、
前記乳の一部である処理分に当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す第1工程と、
前記処理が施された前記処理分と前記乳の残部である非処理分との混合液中に存する体細胞を、前記処理分に含まれる活性化因子によって活性化させる第2工程と、
前記第2工程後の前記混合液を使用して前記乳中の体細胞数を測定する第3工程と、
を含む、乳検査方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記処理分中に存する体細胞を分解することにより、前記活性化因子としてサイトカインおよび抗菌性タンパクの少なくとも一方を生成する、請求項1に記載の乳検査方法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記処理分中に存する脂肪球から脂肪を遊離させ、この脂肪を加水分解することにより、前記活性化因子として脂肪酸を生成する、請求項1に記載の乳検査方法。
【請求項4】
前記第1工程では、前記処理分に、熱、電磁波、圧力、振動、超音波、およびせん断応力から選ばれるエネルギーを与えることにより、前記処理分から活性化因子を発生させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳検査方法。
【請求項5】
前記第3工程では、前記混合液を酵素が塗布された作用極と対極とに接触させ、その状態で前記作用極と前記対極との間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて、前記乳中に含まれる体細胞数を算出する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の乳検査方法。
【請求項6】
乳の検査を行うための乳検査装置であって、
前記乳の一部である処理分が投入される第1容器と、
前記第1容器に投入された前記処理分に、当該処理分から活性化因子を発生させる処理を施す活性化手段と、
前記乳の残部である非処理分および前記処理が施された前記処理分が投入される第2容器と、
前記第2容器内の前記非処理分と前記処理分との混合液を使用して前記乳中の体細胞数を測定する測定手段と、
を備える、乳検査装置。
【請求項7】
前記活性化手段は、前記第1容器に投入された前記処理分に、熱、電磁波、圧力、振動、超音波、せん断応力から選ばれるエネルギーを与える手段である、請求項6に記載の乳検査装置。
【請求項8】
前記測定手段は、前記第2容器内に設けられた、酵素が塗布された作用極および対極を含む、請求項6または7に記載の乳検査装置。
【請求項9】
前記第2容器の内面における少なくとも前記作用極の近傍部分には、疎水性表面が形成されている、請求項8に記載の乳検査装置。
【請求項10】
前記第1容器および前記第2容器の少なくとも一方が着脱可能な、前記作用極と前記対極との間に電圧を印加する装置本体をさらに備える、請求項8または9に記載の乳検査装置。
【請求項11】
前記処理が施された前記処理分を前記第1容器から前記第2容器へ導く流路をさらに備える、請求項6〜10のいずれか一項に記載の乳検査装置。
【請求項12】
前記第1容器は、前記第2容器よりも高い位置に配置されている、請求項11に記載の乳検査装置。
【請求項13】
前記第1容器の容量は、前記第2容器の容量の1/1000〜1/2である、請求項6〜12のいずれか一項に記載の乳検査装置。
【請求項14】
前記第1容器および前記第2容器は、共に複数設けられている、請求項6〜13のいずれか一項に記載の乳検査装置。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳検査方法により得られた乳中の体細胞数を記録し、この体細胞数の推移から、前記乳が搾取された個体について乳房炎の感染を診断する、乳房炎診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−256231(P2010−256231A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108017(P2009−108017)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】