説明

乳清の脱塩方法及びその製品

使用可能な副産物流を生じる、乳清を脱塩する方法が見出され、この方法は、乳清を軟化し、次いで軟化された乳清に両極性電気透析を適用して、価値のある副産物及び生成物流、脱塩された乳清、希酸及び希アルカリを回収することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、乳清を脱塩する方法に関し、詳細には再利用可能な副産物が得られる、両極性膜電気透析を使用して乳清を脱塩するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳清は、ミルクをチーズ、カゼイン又はカゼイン誘導体に変換する際の副産物である。この副産物の利用は、精製プラントで処理しなければならない流出液の体積を低減するために必要である。殆どの乳清は乾燥されて、例えば動物混合飼料のような様々な用途に使用される粉末を形成する。より良好な付加価値が得られるようにする、特殊調製粉乳又はその他の食物用途での使用のような他の用途では、乳清の脱塩が必要となる。
【0003】
理論上脱塩は限外ろ過又は逆浸透で可能なはずであるが、逆浸透は特殊であり過ぎ、限外ろ過には価値のある回収可能な糖であるラクトースのかなりの損失が伴う。実際上、乳清を脱塩するには、一般に2つの異なる方法、すなわち電気透析とイオン交換が別々に又は組み合わせて利用されて来ている。
【0004】
電気透析では、溶液のイオン化された塩が、陽イオン及び陰イオンに対して選択的に透過可能な膜を貫く電場の作用の下で移動する。この方法はイオンの排除を促進するが塩水流出液流を生成する。
【0005】
イオン交換は固相(樹脂)と液相(脱塩されるべき物質)との間に存在するイオン平衡を利用する。この技術は親和性と排除の現象に依拠しており、これにより液体は望ましくないイオンを樹脂の飽和又は枯渇相中に残し、この望ましくないイオンは再生期の間に前もってイオン交換体に装入された選択されたイオンと置換される。大量の水が必要とされ、多量の再生剤を使用する必要があり、また使用後これらの試薬をどう処置するのかを知るのは困難である。
【0006】
米国特許第4138501号では、電気透析とイオン交換を組み合わせた乳清を処理する方法が開示され特許請求の範囲に記載されている。この方法では2つの段階が必要とされ、最初の段階は電気透析からなり、その後部分的に脱塩された乳清を中間生成物として回収する。次いで、この中間の乳清生成物をイオン交換に付し、残りの無機イオンの大部分を除去する。
【0007】
図1に示すように、従来の乳清脱塩プロセス100は例えばチーズ又はカゼイン生産に由来する乳清供給源110を含む。次に、この乳清供給源110を蒸発、逆浸透又はナノろ過を始めとする当技術分野で公知の手段により予備的濃縮120にかける。この予備的濃縮120に続いて従来の電気透析130を行い、塩水流出液160を除去し、電気透析の生成物を任意のイオン交換140に付した後、限定されることはないが蒸発、乾燥及び脱塩された乳清製品の袋詰めなどを含めた最終の加工処理150にかける。
【0008】
残念ながら、これらのプロセスはいずれもその使用により、容易には処置されない副産物が生成する。特に、乳清から除去された無機物を塩として含有する副産物流が生成する。この塩辛い流れは、部分的にはそのClとNaの高い含有率のため、流出液処分問題を生じる。
【0009】
水分割(water splitting)ともいわれる両極性膜電気透析は、塩流から酸及び塩基溶液を製造するのに有用な方法である。電場の力の下で、両極性膜は水を水素(H+)とヒドロキシル(OH-)イオンに効率的に分解する。両極性膜は、物理的又は化学的に互いに結合した陰イオン及び陽イオン交換層、並びに水が外側の水性塩溶液から拡散する非常に薄い界面で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5980961号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、乳清の脱塩を提供するが、多大な処分コストを要するか又は環境問題を生じる副産物を生成しないプロセスに対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
使用可能な副産物が得られ、これを生成するのにより少ない工程を必要とし、従ってより経済的である、乳清を脱塩する方法が見出された。
【0013】
1つの実施形態により、両極性電気透析を用いて乳清が脱塩され、これにより酸及び苛性(アルカリ)副産物の直接の生産が可能になる一方で塩流が著しく低減する。本発明の1つの応用は、乳清を軟化するのに使用される方法である両極性電気透析の前の追加の工程を提供し、これにより硬度析出(hardness precipitation)を懸念することなく両極性電気透析を直接プロセス溶液に適用することが可能になる。
【0014】
本発明のさらに代わりの実施形態において、この方法は、脱塩を必要とし、またある程度の無機硬度を含有する有機溶液に適用される。
【0015】
本発明を特徴付ける新規な各種様相は本開示の一部を形成する特許請求の範囲に特に明記されている。もちろん、本発明の様々な構成要素の変更及び置換が可能である。本発明はまた記載されている要素の下位の組合せ及び下位のシステム、並びにこれらを使用する方法にも関する。
【0016】
ここで、模範的であって限定的ではない図面を参照するが、図中類似の要素は同様に番号付けられており、いずれの図でも説明を明確にするために全ての数を繰り返して表示してはいない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、当技術分野で公知の従来の乳清脱塩プロセスの説明図である。
【図2】図2は、本発明の1つの実施形態による乳清脱塩プロセスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて使用される概算的言語は、関連する基本的機能に変化を生じることなく変化することが可能である量的表示を修飾するために適用され得る。従って、「約」のような用語により修飾された値は明記された正確な値に限定されない。少なくとも幾つかの場合、概算的言語はその値を測定するための機器の精度に対応し得る。範囲の制限は組み合わせる、及び/又は置き換えることが可能であり、かかる範囲は確認され、文脈又は言語が他の意味を示さない限り、そこに含まれるあらゆる下位の範囲を包含する。実施例又は特に示されている場合を除いて、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分、反応条件などの量に関するあらゆる数字又は表現は、全ての場合に用語「約」により修飾されているものと理解すべきである。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「含む」、「からなる」、「有する」又はその他あらゆる変形は、非排他的に包括してカバーすることを意図している。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品又は装置は必ずしもそれらの要素のみに限定されるわけではなく、明確にリストされてないか又はかかるプロセス、方法、物品若しくは装置にとって固有の他の要素を包含し得る。
【0020】
使用可能な副産物流を生じる乳清の脱塩方法が見出された。1つの実施形態では、塩流からの酸及びアルカリの回収を可能にする両極性電気透析を使用する。しかし、両極性電気透析を適用する前に、カルシウム及びマグネシウム硬度を除去することにより乳清を軟化するプロセスを使用することにより、両極性透析を直接プロセス溶液に適用できるようにし、これにより乳清を脱塩する。この結果、3つの価値のある生成物及び製品流、すなわち脱塩された乳清、希酸及び希アルカリが得られる。これらの流れは全て別のプロセスで使用することができる。
【0021】
本出願の1つの実施形態においては、最初に乳清を陽イオン交換工程による軟化に付すことによって乳清を処理する。陽イオン軟化手段では、乳清からCa及びMgを除去することによって乳清を軟化する。Ca及びMgイオンをNaイオンと置換する性質を有する樹脂を含有するカラムに乳清をロードする。
【0022】
イオン交換は流速及び樹脂床密度を含めて当技術分野で公知の条件下で行う。イオン交換プロセスは約4〜約50℃の温度、好ましくは約10〜約20℃の温度で実施できる。加工処理時間は約1〜約6時間の範囲でよい。
【0023】
この方法の1つの実施形態では、硬度を除去するための乳清の軟化後第2の工程が提供され、ここでは得られた乳清生成物を両極性電気透析に通す。水分割としても知られている両極性電気透析は、水を水素(H+)とヒドロキシル(OH-)イオンに効率的に解離する。第2の工程として両極性電気透析を使用することにより、乳清が脱塩され、除去された無機イオンは再使用又はリサイクルに適した希酸及び希アルカリの形態で回収される。
【0024】
両極性電気透析では、両極性膜を従来の電気透析セル内に配置することにより3つの区画のセルが得られる。両極性膜の両側に陰イオン及び陽イオン交換膜が配置されて3つの区画を形成する。これら3つの区画は、両極性膜と陰イオン交換膜との間に酸を、両極性膜と陽イオン交換膜との間に塩基を、陽イオン膜と陰イオン交換膜との間に乳清を含む。従来の電気透析スタックと同様に、多くのセルを1つのスタック内に設置することができ、マニホルド系が全ての対応する区画に同時に供給することができ、スタックを横切って3つの回路、すなわち酸、塩基及び乳清製品を形成する。
【0025】
本出願の1つの実施形態では、軟化された乳清に対して両極性膜を使用して脱塩する。脱塩プロセス中、ナトリウム(Na)、塩素(Cl)及びその他の無機イオンが乳清溶液から除去される。両極性プロセスでは、電場の作用の下で、両極性膜内で水が解離して水酸化物イオンと水素プロトンを形成する。本発明の方法では、Naが水のヒドロキシル流と結合して水酸化ナトリウムを形成し、塩素が水素と結合して塩酸を形成する。本発明の方法の結果、先の流出液流が希酸とアルカリ流になる。これらは回収し、再使用又はリサイクルすることができ、使用例としては、限定されることはないがイオン交換カラムの再生、クリーン・イン・プレース法、及び中和がある。操作温度は約5〜約60℃、より具体的には約20〜約50℃の範囲であるべきである。ユニットを通る流速は毎時約5〜約30立方メートルの範囲でよい。2つの工程を組み合わせた方法を使用することにより、最高約90%の脱塩を達成することができる。
【0026】
乳清を軟化する陽イオン交換と次の脱塩のための両極性電気透析とからなる2つの工程の方法を使用することによって、当産業界で当業者に公知の方法と比べて多くの利点が実現される。具体的には、両極性電気透析の結果別個の希薄な流出液流、すなわち酸性及びアルカリが得られるので、さらなる加工処理工程が排除され、従ってこの方法がより経済的になり、電力の使用量がより少ないのでより環境に優しくなり、またより時間効率が良くなる。
【0027】
ここで図2を見ると、本発明の1つの実施形態による改良された乳清脱塩方法200を示す。乳清210が用意されるが、これはチーズ又はカゼイン生産を含めて様々な供給源に由来し得る。乳清210を濃縮220に付して、乳清の総固体レベルを約18〜約24%にする。かかる濃縮220は、限定されることはないが蒸発、逆浸透又はナノろ過を始めとする多くの可能な手段によって達成することができる。次に、濃縮された乳清を陽イオン軟化工程230に進め、塩化ナトリウム塩水240も加える。この軟化手段は濃縮された乳清中のカルシウム及びマグネシウムを塩化ナトリウム塩水240中に提供されたナトリウムと置換する。カルシウムとマグネシウムは、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの形態で軟化手段230から除去され、塩水流出液として廃水処理プラント内でのようなさらなる処理に進む。代わりの実施形態では、濃縮の前に軟化を実施し得るように濃縮と軟化工程の順序を交換することが可能である点に留意されたい。
【0028】
軟化した乳清生成物は両極性電気透析(ED)260に進む。水270も両極性ED中に直接供給し、そこで約40〜約90%の無機灰分が除去される。さらに、両極性EDプロセス中、希酸275と希アルカリ285廃液流が生成する。希酸流275はHClを含み、約2〜約5重量%であり、希アルカリ流285は約2〜約5重量%のレベルで水酸化ナトリウムを含む。これらの希薄流はそのままの形態でリサイクル又は再使用してもよい。両極性ED260の後、乳清流はその後イオン交換ポリッシャー(仕上げ用イオン交換)280のさらなる工程に通して乳清の脱塩を95%まで増大させることができる。その後、脱塩された乳清を例えば、限定されることはないが、蒸発、乾燥及び袋詰めなどの最終加工処理290に付す。
【0029】
本発明のさらに代わりの実施形態において、この方法を他の用途に拡張することが可能であり、具体的にはこの方法は脱塩を必要とし、またある程度の硬度を含有するあらゆるプロセス溶液に適用することができる。ある生成物をイオン交換に付して硬度を低減又は除去し、その後両極性電気透析に付してその生成物を脱塩することができる。
【0030】
好ましい実施形態に関連して本発明を説明して来たが、本発明の属する技術分野の当業者はこれらの実施形態に対して本発明の技術的範囲から逸脱することなく様々な変更又は置換をなすことができる。従って、本発明の技術的範囲は上に記載した実施形態のみでなく、特許請求の範囲内に入るもの全てを包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清を脱塩する方法であって、
a)陽イオン交換を利用して乳清を軟化し、
b)工程aの生成物を両極性電気透析にかける
ことを含む方法。
【請求項2】
希薄なアルカリ及び酸性副産物流が生じる、請求項2記載の方法。
【請求項3】
軟化により、カルシウム及びマグネシウムを乳清から除去する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
副産物流が水酸化ナトリウム及び塩酸を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
陽イオン交換を約4〜約50℃の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
陽イオン交換を約10〜約20℃の温度で実施する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
脱塩方法の結果、最高約90%の脱塩を得ることができる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
流出液流を再使用する、請求項2記載の方法。
【請求項9】
流出液流をリサイクルする、請求項2記載の方法。
【請求項10】
さらに濃縮工程を含み、軟化する前に乳清を濃縮する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
両極性電気透析の後乳清をイオン交換ポリッシャーにかけることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
脱塩レベルが最高約95%である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
乳清を脱塩する方法であって、
a)乳清を濃縮し、
b)濃縮された乳清を軟化し、
c)濃縮され軟化された乳清を両極性電気透析にかけ、
d)c)の乳清生成物をイオン交換ポリッシャーに通して最終の脱塩された乳清を生成し、
e)d)の脱塩された乳清を蒸発、乾燥及び袋詰めに付す
ことを含む方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法に従って脱塩された乳清製品。
【請求項15】
生成物を脱塩し硬度を低減する方法であって、
a)生成物をイオン交換プロセスに付し、
b)その後、工程aの結果物を両極性脱イオン化に付す
ことを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−505150(P2011−505150A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536235(P2010−536235)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/085297
【国際公開番号】WO2009/073673
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】