説明

乳清及び胸腺機能

本発明は、一般には、栄養及び健康の分野に関する。特に、本発明は、胸腺の健康を維持又は改善するために使用できる組成物を提供する。本発明の一実施形態は、胸腺の機能を維持又は改善する組成物を調製するための、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、栄養及び健康の分野に関する。特に、本発明は、胸腺の健康及び/又は機能を維持又は改善するために使用できる組成物を提供する。本発明の一実施形態は、胸腺の健康及び/又は機能を維持又は改善する組成物を調製するための、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分の使用である。
【背景技術】
【0002】
胸腺は、多くの重要な機能を有し、例えば、強力な免疫システムのために鍵となる役割を果たすものである。胸腺は、機能的なT細胞の生成に重要な器官である。胸腺の1つの役割は、Tリンパ球の教育(分化及び成熟)であり、結果として自己反応性T細胞の負の選択及び有用なT細胞の正の選択が生じる(Marrackら 1998.Cell 53:627;Loら 1997.Immunol Res 16:3;Andersonら 1996.Annu Rev Immunol 14:73)。
【0003】
胸腺は、出生後発達し続けて思春期に最大の大きさに達するが、思春期の後に年齢と共に、退縮と呼ばれる、胸腺のゆっくりとした収縮が着実に生じる(Linton及びDorshkind 2004 Nat Immunol 5:133)。この胸腺の退縮は、例えば、老化プロセスの間に早期から次第に生じる、通常のプロセスである。胸腺は、胸腺上皮細胞の消失及び胸腺細胞増殖の減少に関連して、解剖学的構造に著しい変化を受ける。新たに発達するT細胞の産出量におけるこの減少により、循環している未感作T細胞の数が減少して細胞性免疫が損なわれる結果となる。
【0004】
年齢関連性の胸腺退縮(すなわち慢性の胸腺萎縮)に加えて、胸腺は、多様な生理学的状態又は病理学的状態に応じて可逆性の退縮(すなわち急性の胸腺萎縮)も示す(Taub及びLongo 2006 Immunological Reviews 205:72)。例えば、妊娠、多様な炎症状態、細菌性感染症及びウイルス性感染症、身体的ストレス及び感情的ストレス、栄養失調、化学療法並びに毒素への曝露時の胸腺細胞数及び胸腺の大きさの変化が報告されている。
【0005】
免疫応答の低下は、不健康、疲労及び多くの疾患状態の一因となる。したがって、胸腺を再生できることは、現代医療の主要な挑戦の1つを代表するものである。この戦略は、免疫不全、癌及び自己免疫;AIDS等の重症の感染症を含む広範囲にわたる生命を脅かす疾患において、及び抗老化の用途において適用されるであろう。この戦略は、例えば、ワクチンの効力を増大させること、免疫抑制状態の反転、例えば、化学療法後/放射線療法後;臓器移植;特定の抗腫瘍免疫応答の回復;特定の抗微生物免疫の回復、例えば、細菌、ウイルス、菌類、寄生虫;T細胞免疫調節不全状態の正常化、例えば、自己免疫(多発性硬化症、狼瘡、関節リウマチ)、アレルギー、並びに皮膚炎/乾癬など多様な状態において役立ち得る。
【0006】
老化時の胸腺の健康を維持するために、様々なアプローチが検証されてきた。胸腺組織及び骨髄の移植、並びに胸腺抽出物の投与は、年齢関連性の胸腺退縮及び免疫システム弱化の影響を逆向きにするのに役立ち得ることが報告されている(Kouttabら 1989.Med Oncol Tumor Pharmacother.6:5;Pandolfiら 1983 Thymus.5:235;Dabrowskiら 1987 Ann NY Acad Sci 496:697;Valesiniら 1986 Eur J Cancer Clin Oncol.22:531)。
【0007】
より最近では、サイトカイン(例えば、IL−7)及びホルモン(例えば、GH、IGF−1)の全身投与が、年齢と共に胸腺の活性及びT細胞の産出を増大させる結果となっている(Hensonら、Exp Gerontol.2004 39:673;Virtsら、2006 Rejuvenation Res.9:134)。
【0008】
亜鉛の経口投与(Dardenneら、1993 Clin Immunol Immunopathol.66:127;Mocchegianiら、1995 Int J Immunopharmacol.17:703)のようないくつかの栄養的なアプローチも、ある程度胸腺機能を向上させることが報告されている。マウスにおいてストレスモデルの10日前に与えられた亜鉛とジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムとの組合せは、ストレスによって損なわれる胸腺重量及び免疫機能を回復させた(Obminska−Mrukowiczら、2005 J Vet Sci.6:25)。
【0009】
しかし、過剰なZn補給には、不利な点があり得る。最近の総説には、Znが比較的毒性がないと考えられているにもかかわらず、亜鉛の多量摂取に伴って明白な毒性症状(吐き気、嘔吐、上腹部痛、倦怠感、及び疲労感)の症状発現が生じるであろうことが報告されている。少量摂取であるが推奨食事許容量(RDA)を超える量、例えば100〜300mg Zn/日では、貧血及び好中球減少の付随症状を伴う銅欠乏症誘発の証拠、並びに免疫機能が損なわれること及び高密度リポタンパク質コレステロールに対する低密度リポタンパク質コレステロールの比率(LDL/HDLコレステロール)における有害な作用が報告されている。より低いレベルの亜鉛補給、すなわちRDAにより近い量であっても、銅及び鉄の利用を妨げること並びにHDLコレステロール濃度に悪影響を及ぼすことが示唆されている(Fosmire、American Journal of Clinical Nutrition.51:225)。
【発明の概要】
【0010】
したがって本発明の目的は、天然成分を使用し且つ上記の方法の不利な点を克服する、胸腺の健康を維持又は改善するための栄養的なアプローチ、誘発された退縮から胸腺を保護するための栄養的なアプローチ、及び/又は胸腺細胞増殖を促進するための栄養的なアプローチを当技術分野に提供することであった。
【0011】
本発明者らは、請求項1による使用によってこの目的を達成できることを知って驚いた。
【0012】
したがって、本発明は、胸腺の機能及び/又は胸腺の健康の維持及び/又は改善に使用する、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】HIは、対照経腸食では治らない胸腺の萎縮を誘導した(HI−CED)。興味深いことに、乳清タンパク質加水分解産物含有食(HI−WPH)では胸腺重量が回復した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、頭部外傷により誘導される胸腺萎縮の実験モデルにおける胸腺の重量及び機能を回復させる、乳清を主成分とする栄養剤の能力を調査した。
【0015】
頭部外傷(HI)に対するこの代謝反応は、例えば二次感染及び潜在的に敗血症の、リスク因子である免疫異常を特徴とする。HIで認められる特徴は、胸腺の重症の萎縮である。胸腺は、胸腺内でT細胞が分化し、正に選択された胸腺細胞が末梢リンパ系器官のT細胞依存的な領域に移動するのを導く、一次リンパ系器官である。
【0016】
液体打撃によるHIのラットモデルを使用することにより、乳清を主成分とする食事が胸腺萎縮を後退させられることが示された。
【0017】
したがって、乳清を主成分とする食事は、胸腺の健康及びリンパ球の機能を維持又は改善するのに有益である。
【0018】
乳清を主成分とする食事とは、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分を含む任意の食事である。
【0019】
結果として、本発明の一実施形態は、胸腺の機能及び/又は健康を維持又は改善する組成物を調製するための、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分の使用である。
【0020】
乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分は、リンパ球機能及び/又は免疫系を維持又は改善するための組成物の調製にも使用することができる。乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分は、リンパ球減少症を治療又は予防するための組成物の調製にも使用することができる。
【0021】
胸腺は、通常、思春期の段階で完全な大きさに達するが、その後縮小する傾向がある。したがって胸腺萎縮は、例えば年齢と共に生じるよく知られた状態である。この萎縮の結果、−上記のように−Tリンパ球の蓄積は人生の早期に確立されるが、この機能は成人で減弱することになる。
【0022】
したがって、一実施形態では、本発明の使用によって調製される組成物は、思春期後の特に成人及び/又は高齢の対象者による摂取を意図するものである。
【0023】
胸腺萎縮はまた、例えば、多様な炎症状態、細菌性感染症及びウイルス性感染症、身体的ストレス及び感情的ストレス、化学療法及び/又は毒素への曝露等、多様な生理学的状態又は病理学的状態に応答して生じ得る。
【0024】
胸腺の大きさは、栄養状態に依存しているようでもある。栄養失調は、胸腺の大きさ及び活性を低減させ得る。
【0025】
結果として、本発明の使用によって調製される組成物は、特に、例えば上記の全ての状態にある健康が損なわれた対象者において、良好に適用することができる。該組成物は、例えば健康を損なうリスクのある対象者に、予防手段として使用することもできる。
【0026】
さらに、出生時にはヒトの免疫系はまだ未成熟であるが、胸腺は人生の最初の一年のうちに、例えば、未成熟のTリンパ球を免疫担当Tリンパ球に分化させるのに貢献することによって、Tリンパ球の成熟に決定的な働きをする。
【0027】
したがって本発明の使用によって調製される組成物は、乳児期に、胸腺の増殖及び/又は免疫系の成熟を補助するために使用することもできる。該組成物はまた、乳児の胸腺の増殖及び/又は免疫系の成熟を補助するために母親によって妊娠中に摂取されてもよい。
【0028】
また、胸腺萎縮は、免疫不全、癌及び自己免疫;AIDS等の重症の感染症を含む生命を脅かす広範な疾患にも関与しており、したがって、本発明の組成物は、これらの状態において適用することもできる。
【0029】
該組成物は、ワクチンの効力を増大させるために;化学療法後/放射線療法後のような免疫抑制状態を逆向きにするために;臓器移植を補助するために;抗腫瘍免疫応答を回復させるために;例えば、細菌、ウイルス、菌類、寄生虫に対する、抗微生物免疫を回復させるために;及び/又は例えば、多発性硬化症のような、又は狼瘡、関節リウマチのような自己免疫、アレルギー、及び/又は皮膚炎/乾癬などにおける、T細胞免疫調節不全状態を正常化させるために、さらに使用することができる。
【0030】
本発明に記載の組成物は、リンパ球機能の維持又は再確立及び/又は胸腺萎縮の治療又は予防のために使用することができる。
【0031】
該組成物はさらに、免疫系を強化するために、特に老化過程における免疫応答を改善するために使用することもできる。
【0032】
さらに、該組成物は、肥満、免疫不全、例えば化学療法後又はHIV感染症等、自己免疫障害、例えば全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)又は皮膚筋炎(DM)等、ストレス、例えば慢性ストレス又は社会的ストレス等、感染症、例えば細菌性感染症又はウイルス性感染症等、中毒、又はこれらの組合せの状態において胸腺の機能及び/又は健康を維持又は改善するために使用することもできる。
【0033】
一般に、本発明の組成物は、胸腺を有するあらゆる生物に適用することができる。本発明の使用によって調製される組成物は、ヒト、ペット、コンパニオンアニマル及び/又は家畜を対象とすることが好ましい。
【0034】
該組成物は、経口投与、経腸投与、局所投与又は非経口投与に使用することができる。
【0035】
該組成物は、摂取に適する任意の形態で提供することができる。好ましくは、該組成物は、医薬品、食品、ペットフード製品、食品添加物、栄養補助食品又は飲料であり得る。
【0036】
乳清を主成分とする製剤が記載の効果を有することが見出された。乳清、乳清タンパク質又はその画分を含む又はそれからなるあらゆる製剤を使用することができる。
【0037】
乳清中のタンパク質画分(乳清中の全乾燥固形物の約10%)には、4つの主要なタンパク質画分が含まれる。それは、ベータ−ラクトグロブリン、アルファ−ラクトアルブミン、ウシ血清アルブミン及び免疫グロブリンである。
【0038】
乳清タンパク質を使用する場合、乳清タンパク質の源は、酸乳清、甘乳清、乳清タンパク質単離物又はこれらの混合物であってもよい。しかし、好ましくは、タンパク質源は、乳清タンパク質単離物又は加工した甘乳清を主成分とする。甘乳清は、容易に入手できるチーズ作製の副産物であり、牛乳を主成分とした乳児用調整粉乳の製造において使用されることが多い。
【0039】
乳清又は乳清タンパク質は、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ又はラクダの供給源から得ることができる。
【0040】
一実施形態では、乳清タンパク質画分は、少なくとも部分的には酵素で加水分解された乳清タンパク質である。したがって、乳清タンパク質加水分解産物を乳清タンパク質画分として使用することもできる。乳清タンパク質加水分解産物は、いくつかの供給源から容易に商業的に入手可能である。乳清タンパク質加水分解産物(WPI)の可能な一例は、Nestle Nutritionから入手できるペプタメン(Peptamen)(登録商標)である。
【0041】
加水分解された乳清タンパク質を使用することには、例えば、こうしたタンパク質画分が低アレルギー性であるという利点がある。典型的には、低アレルギー性の加水分解された乳清タンパク質は、8〜20の間の加水分解(DH)の程度であってもよく、より好ましくは、9〜16の間であり得る。特に好ましい加水分解の程度は、14である。乳清タンパク質は、例えば、参照により本明細書にその内容が組み込まれている欧州特許第322,589号に記載のように、当技術分野で知られているあらゆる適切な方法で加水分解され得る。出発物質として利用される乳清画分が実質的にラクトースなしの場合、タンパク質は、加水分解及びその後の熱処理の間にリシンの阻害をほとんど受けないことが見出される。このことにより、リシンの阻害の程度を約15重量%の全リシンから約10重量%未満のリシンに、例えば、タンパク質源の栄養価を大いに改善する約7重量%のリシンの阻害に低減させることができる。
【0042】
「加水分解の程度」(DH)とは、Adler−Nissenらが「Determination of the Degree of Hydrolysis of Food Protein Hydrolysates by Trinitrobenzenesulfonic acid」(J.Agric.Food Chem.1979.27:1256)に記載のTNBS法によって測定されるように、全窒素と比較した、遊離アルファ−アミノ窒素の形態の窒素の百分率を意味する。これは、タンパク質がどの程度まで加水分解されているかの尺度である。
【0043】
乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分には、含有量の少ないものに関して、例えばアミノ酸(主にヒスチジン及びアルギニン)をさらに補うこともできる。結果として、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分、例えば甘乳清又は乳清タンパク質単離物に、該組成物の全タンパク質含有量の0.1〜3重量%の量の遊離アルギニン及び/又は該組成物の全タンパク質含有量の0.1〜3重量%の量の遊離ヒスチジンを補うこともできる。
【0044】
また、乳清には、病的状態と関連した必要性の増加が示された多様なアミノ酸においても補うことができる。これは、本出願の組成物が病気の状態において適用される場合に特に重要である。例えば、EP94 402 420 「Composition a base d’acides amines pour le traitement d’infections」にはシステイン、スレオニン、セリン及びアスパルテート/アスパラギンを強化した食事の利点が示され、EP1638418 「Amino acids supplementation to restore intestinal flora」にはスレオニン、セリン、プロリン及びシステインの混合物の利点が示された。さらに、グルタミンは、多くの病的状態において重要(条件付き不可欠アミノ酸)であることがよく知られており、したがって、乳清は高いグルタミンレベルを含まないために乳清にグルタミンを添加することも興味あることとなり得る。
【0045】
例えば、乳清タンパク質画分は、該組成物の全タンパク質含有量の2〜3重量%の範囲のアルギニンを含んでいてもよい。
【0046】
しかし、アルギニン含有量が多すぎる場合には、最終組成物の香味に負の影響力を有し得る。
【0047】
乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分は、該組成物の全タンパク質含有量のうち、好ましくは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%、主に好ましくは少なくとも95重量%である。
【0048】
好ましくは、該組成物は、乳清タンパク質100g当たり、1日のミネラル摂取量の最大推奨レベルの100%以下に相当する量のミネラルを含む。
【0049】
該組成物はまた、日用量当たり、1日のミネラル摂取量の最大推奨レベルの100%以下に相当する量のミネラルを含んでいてもよい。
【0050】
例えば、好ましい一実施形態では、該組成物は、100gの乳清タンパク質当たり35mg未満の亜鉛を含んでいてもよい。
【0051】
以下の表は、健常なヒトのための、亜鉛についての1日の推奨摂取量及び1日のミネラル摂取量の最大推奨レベルを示す。この表は、カルシウム、リン、マグネシウム、ビタミンD、及びフッ化物の食事摂取基準(1997);チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸塩、ビタミンB12、パントテン酸、ビオチン、及びコリンの食事摂取基準(1998);ビタミンC、ビタミンE、セレン、及びカロテノイドの食事摂取基準(2000);並びにビタミンA、ビタミンK、ヒ素、ホウ素、クロム、銅、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、バナジウム、及び亜鉛の食事摂取基準(2001)から得られる情報を示す。これらの報告は、The National Academiesによって提供されるwww.nap.eduから得ることができる。
【表1】

【0052】
該組成物は、タンパク質のみからなっていてもよい。しかし、該組成物は、脂質画分及び/又は炭水化物画分も含んでいてもよい。脂質及び炭水化物は、例えば味及び口あたりに、正の影響力を有し得る。脂質及び炭水化物は、該組成物の栄養プロファイルにも著しく貢献する。
【0053】
該組成物が食品、例えば栄養組成物、例えば完全栄養組成物、機能性食品、栄養剤、機能性食品又は栄養補助食品等である場合には、該組成物が乳清又は乳清タンパク質画分の次に炭水化物画分及び脂質画分も含んでいることが好ましい。
【0054】
例えば、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分は該組成物のカロリーの約5〜100°%に相当する量で該組成物中に含まれていてもよく、好ましくは該組成物のカロリーの約7〜50%、さらにより好ましくは該組成物のカロリーの約10〜30%が乳清タンパク質に由来する。
【0055】
炭水化物画分は該組成物のカロリーの約5〜100°%に相当する量で該組成物中に含まれていてもよく、好ましくは該組成物のカロリーの約10〜90%、さらにより好ましくは該組成物のカロリーの約40〜85%が炭水化物に由来する。任意の適切な炭水化物、例えば、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、固形コーンシロップ、マルトデキストリン、及びこれらの混合物等を使用することができる。炭水化物画分には、マルトデキストリンが含まれていることが好ましい。
【0056】
脂質画分は該組成物のカロリーの約2〜100°%に相当する量で該組成物中に含まれていてもよく、好ましくは該組成物のカロリーの約4〜50%、さらにより好ましくは該組成物のカロリーの約5〜40%が脂質に由来してもよい。脂質画分は、例えば、ヤシ油及び/又はパーム核油の形態で提供される、好ましくは脂質源の60〜80重量%の量の中鎖トリグリセリド(MCT)を含んでいてもよい。高いMCT含有量により、与えられる対象者が該組成物を容易に吸収できることが可能となるであろう。脂質画分は、1:1〜10:1の範囲のn6:n3比を有していてもよい。DHAを添加することもできる。
【0057】
該組成物は、別の免疫強化剤及び/又は鎮痛剤をさらに含んでいてもよい。
【0058】
該組成物中には、プロバイオティクスが含まれていてもよい。「プロバイオティクス」とは、受容者の健康又は福祉に有益な効果を有する微生物細胞製品又は微生物細胞の成分を意味する(Salminenら 1999 Trends Food Sci.Technol.10:107)。全てのプロバイオティクス微生物を本発明に従って使用することができる。好ましくは、プロバイオティクスは、ビフィズス菌、乳酸桿菌、乳酸球菌、腸球菌、連鎖球菌、子嚢菌、不完全菌、デバリオミセス、クルイベロミセス、サッカロマイセス、ヤロウイア、ザイゴサッカロミセス、カンジダ、及びロドトルラからなる群から選択されてもよく、特に、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ジョンソニ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・サリバリウス、エンテロコッカス・フェシウム、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・ブラウディ及びラクトバチルス・ロイテリ又はこれらの混合物からなる群から選択されてもよく、好ましくは、ラクトバチルス・ジョンソニ(NCC533;CNCM I−1225)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC490;CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC2705;CNCM I−2618)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(2818;CNCM I−3446)、ラクトバチルス・パラカゼイ(NCC2461;CNCM I−2116)、ラクトバチルス・ラムノサスGG(ATCC53103)、ラクトバチルス・ラムノサス(NCC4007;CGMCC 1.3724)、エンテロコッカス・フェシウムSF68(NCIMB10415)及びこれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0059】
本発明に記載の組成物はまた、プレバイオティクス化合物を含んでいてもよい。「プレバイオティクス」とは、腸内でプロバイオティクスの増殖を促進する食物を意味する。これらは、摂取するヒトの胃及び/又は腸上部内で分解されず、胃腸管に吸収されないが、胃腸のミクロフローラ及び/又はプロバイオティクスによって発酵される。プレバイオティクスは、例えば、Gibson及びRoberfroid 1995 J. Nutr. 125:1401によって定義される。
【0060】
本発明に従って使用され得るプレバイオティクスは特に限定されず、腸内でプロバイオティクスの増殖を促進する全ての食物を含む。好ましくは、プレバイオティクスは、オリゴ糖、任意選択でフルクトース、ガラクトース、マンノースを含む;食物繊維、特に、可溶性繊維、大豆繊維;イヌリン;又はこれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましいプレバイオティクスは、フルクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆のオリゴ糖、グリコシルスクロース(GS)、ラクトスクロース(LS)、ラクツロース(LA)、パラチノースオリゴ糖(PAO)、マルトオリゴ糖(MOS)、ガム及び/又はその加水分解産物、ペクチン及び/又はその加水分解産物である。
【0061】
例えば安定化剤、香味剤、着色剤及び/又は滑沢剤等を添加することもできる。該組成物は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工澱粉等)、結合剤、被膜剤、封入剤/物質、壁/外殻物質、基質化合物、コーティング剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチン等)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散化剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル化剤、抗酸化剤及び抗菌剤を含んでいてもよい。これらはまた、水、任意の由来のゼラチン、植物性ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物性油、ポリアルキレングリコール、香味剤、保存剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、滑沢剤、着色剤、湿潤剤、充填剤等を含むがこれらに限定されない、従来の医薬添加物及びアジュバント、添加剤及び賦形剤を含んでいてもよい。
【0062】
本発明に記載の組成物は、胸腺萎縮及びその合併症の症状を少なくとも部分的に治癒又は抑制させるのに十分な量で投与することもできる。これを達成するために十分な量は、「治療有効量」として定義される。この目的のための有効量は、例えば症状の重症度並びに患者の体重及び一般的な状態など、当業者に知られる多くの因子に依存することになる。予防的適用では、本発明による組成物を、胸腺萎縮をしやすい患者又はその他の場合では胸腺萎縮のリスクがある患者に、胸腺萎縮を発達させるリスクを少なくとも部分的に低減させるのに十分な量で投与する。こうした量は、「予防有効量」であると定義される。この場合も、詳細な量は、例えば患者の健康状態及び体重など、患者特有の多くの因子に依存する。
【0063】
しかし、好ましくは、乳清又は乳清タンパク質画分を5〜150gの範囲の日用量で投与する。例えば非常に重篤な患者における完全経腸栄養のために、ESPENガイドラインは、病状の初期においては1日当たり1500kcal、回復期には1日当たり約2000kcalを与えることを提唱している。大部分の市販製品のタンパク質含有量が全カロリー含有量の15〜25%の間であることを考慮して、結果として急性期において1日当たり50〜100gの間の範囲のタンパク質及び1日当たり75〜125gの間のタンパク質となるであろう。
【0064】
一方、栄養補助食品は、典型的には10〜20gのみのタンパク質を含むであろう。
【0065】
当業者は、開示のような本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の使用のために記載の特徴は本発明の組成物に適用されてもよく、逆もまた同じである。
【0066】
本発明のさらなる利点及び特徴は、以下の実施例及び図面から明らかである。
【実施例】
【0067】
実施例1:
本発明に使用できる典型的な組成物は以下の通りである:
栄養素 1リットル当たり
タンパク質(gm): 40
タンパク質(%kcal): 16%
炭水化物(gm): 127
炭水化物(%kcal): 51%
脂肪(gm): 39
脂肪(%kcal): 33%
遊離HO: 85%
ビタミンA(IU): 4300(ベータカロテンとしてのビタミンA活性約37%を含む)
ベータ−カロテン(mg): 上記参照
ビタミンD(IU): 272
ビタミンE(IU): 30
ビタミンK(mcg): 50
ビタミンC(mg): 340
チアミン−B1(mg): 2
リボフラビン−B2(mg): 2.4
ナイアシン(mg): 28
ビタミンB6(mg): 4
葉酸(mcg): 540
パントテン酸(mg): 14
ビタミンB12(mcg):8 133%
ビオチン(mcg): 400
コリン(mg): 452
タウリン(mg): 100
L−カルニチン(mg): 100
ナトリウム(mg): 560
ナトリウム(mEq): 24.3
カリウム(mg): 1500
カリウム(mEq): 38.5
クロライド(mg): 1000
クロライド(mEq): 28.2
カルシウム(mg): 800
カルシウム(mEq): 40
リン(mg): 700
マグネシウム(mg): 300
鉄(mg): 18
ヨウ素(mcg): 148
銅(mg): 2
亜鉛(mg): 24
マンガン(mg): 2.8
セレン(mcg): 50
モリブデン(mcg): 120
クロム(mcg): 40
【0068】
実施例2:
液体打撃によるHIのラットモデルを使用した。ラットを無作為化して以下の3群にした:(1)対照経腸食を投与するラット(CED)、(2)HIを与えて対照経腸食を投与するラット(HI−CED)、及び(3)HIを与えて乳清タンパク質加水分解産物含有食を投与するラット(HI−WPH)。経腸食は、HI後4日間継続して注入し、等カロリー、等窒素性且つ等容性であった。動物を犠牲死させた後に、胸腺を摘出して計量した。結果を図1及び表1に示す。
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸腺の機能及び/又は健康を維持又は改善する組成物を調製するための、乳清又は少なくとも1つの乳清タンパク質画分の使用。
【請求項2】
前記組成物が成人及び/又は高齢の対象者による摂取を意図するものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が、ヒト、ペット、コンパニオンアニマル及び/又は家畜を対象とし、経口投与、経腸投与、局所投与又は非経口投与を意図するものであり、例えば、医薬品、食品、ペットフード製品、食品添加物、栄養補助食品又は飲料である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記乳清タンパク質画分が、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ又はラクダの供給源から得られるもの及び/又は乳清タンパク質加水分解産物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記乳清タンパク質画分が少なくとも部分的には酵素で加水分解された乳清タンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記乳清タンパク質画分が2〜3重量%の範囲のアルギニンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記組成物が、乳清タンパク質100g当たり、1日のミネラル推奨摂取量の100%以下に相当する量のミネラル、特に、乳清タンパク質100g当たり、最低35mg未満の亜鉛を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
ワクチンの効力を増大させるための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記乳清又は少なくとも1つの前記乳清タンパク質画分が前記組成物のカロリーの約5〜100°%に相当する量で前記組成物中に含まれ、好ましくは前記組成物のカロリーの約7〜50%、さらにより好ましくは前記組成物のカロリーの約10〜30%が乳清タンパク質に由来する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
炭水化物画分がマルトデキストリンを含み、及び/又は脂質画分が、例えば、ヤシ油及び/又はパーム核油の形態で提供される、好ましくは脂質源の60〜80重量%の量の中鎖トリグリセリド(MCT)を含み、1:1〜10:1の範囲のn6:n3比を有する、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
リンパ球機能の維持又は再確立及び/又は胸腺萎縮の治療又は予防のための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
免疫系を強化するための、特に老化過程における免疫応答を改善するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
栄養失調;肥満;免疫不全、例えば化学療法後又はHIV感染症等;自己免疫障害、例えば全身性紅斑性狼瘡(SLE)、多発性硬化症(MS)又は皮膚筋炎(DM)等;ストレス、例えば慢性ストレス又は社会的ストレス等;感染症、例えば細菌性感染症又はウイルス性感染症等;中毒;又はこれらの組合せの状態における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記組成物が、別の免疫強化剤、及び/又は、乳酸菌、ビフィズス菌及び/又は酵母からなる群から選択されることが好ましいプロバイオティクス、及び/又はプレバイオティクス化合物をさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記組成物が、鎮痛剤、安定化剤、香味剤、着色剤及び/又は滑沢剤をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−502945(P2012−502945A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527299(P2011−527299)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061876
【国際公開番号】WO2010/031744
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】