説明

乳牛の乳房炎治療・予防装置および方法

【課題】作業時間をさほどかけることなく、容易かつ低コストで実施することができる乳房炎治療・予防装置を提供する。
【解決手段】 薬液注入器30を備え、薬液注入器が、洗浄ガスを収容するための洗浄ガス容器32と、上端に第1ノズル孔が設けられ、洗浄ガスの上方に配置された洗浄ガスノズル部分34と、洗浄ガスノズル部分の内部に配置され、上端に第2ノズル孔が設けられ、薬液を収容するための薬液収容部分36と、第1及び第2ノズル孔を開閉するためのクランプ手段38とを有し、搾乳機の各ショートミルクチューブ12とクロー10との間に配置され、各ショートミルクチューブとクローとの間を閉鎖するためのショートミルクチューブ閉鎖手段42を更に備え、薬液注入器30が、第1ノズル孔が各ショートミルクチューブの内部に位置するように、各ショートミルクチューブ20にそれぞれ取り付けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛の乳房炎の治療・予防に有用な乳房炎治療・予防装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、搾乳牛全体の30%程度が臨床型乳房炎に罹患していると言われている。罹患している乳牛から搾乳された牛乳は、食品衛生法の規定により廃棄処分に付されることになっているため、酪農家にとって乳牛の乳房炎の治療・予防対策は、極めて重要な問題となっている。
【0003】
従来、乳牛の乳房炎の治療・予防の方法として、乳牛の乳頭部にスプレーで薬剤を噴霧したり、ディッピングカップを用いて乳頭部を薬剤に浸漬させたり、ノズルチューブを用いて乳管内に薬剤を直接注入したりすることが行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳房炎の治療・予防を的確に行うためには、各々独立した作業である薬剤噴霧、薬剤浸漬、および薬剤注入を適宜組み合わせて行う必要があるが、これらを確実に遂行するには、多大の作業時間、労力、コストを要するという課題がある。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、作業時間をさほどかけることなく、容易かつ低コストで実施することができる乳房炎治療・予防装置および方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に記載の乳牛の乳房炎治療・予防装置は、薬液注入器を備え、前記薬液注入器が、洗浄ガスを収容するための洗浄ガス容器と、上端に第1ノズル孔が設けられ、前記洗浄ガス容器の上方に配置された洗浄ガスノズル部分と、前記洗浄ガスノズル部分の内部に配置され、上端に第2ノズル孔が設けられ、薬液を収容するための薬液収容部分と、前記第1及び第2ノズル孔を開閉するためのクランプ手段とを有し、前記洗浄ガスノズル部分及び前記薬液収容部分が弾性材料で形成されており、搾乳機の各ショートミルクチューブとクローとの間にそれぞれ配置され、各ショートミルクチューブとクローとの間を閉鎖するためのショートミルクチューブ閉鎖手段を更に備え、前記薬液注入器が、前記第1ノズル孔が各ショートミルクチューブの内部に位置するように、各ショートミルクチューブにそれぞれ取り付けられており、前記洗浄ガス容器内に収容される洗浄ガスの圧力が、前記薬液収容部分内に収容される薬液の圧力よりも大きく、薬液の前記圧力が、治療・予防作業時の前記ショートミルクチューブ内の圧力よりも大きくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0007】
本願請求項2に記載の乳牛の乳房炎治療・予防装置は、前記請求項1の装置において、前記薬液注入器が、前記第1ノズル孔と前記第2ノズル孔の延長線上に乳頭が位置決めされるように、各ショートミルクチューブにそれぞれ取り付けられることを特徴とするものである。
【0008】
本願請求項3に記載の乳牛の乳房炎治療・予防装置は、前記請求項1又は2の装置において、前記洗浄ガスが、滅菌空気、アルコール含有空気、又はヨード含有空気であることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【0009】
本願請求項4に記載の前記請求項1から3までのいずれか1項に記載の乳房炎治療・予防装置を用いて、乳牛の乳房炎の治療・予防を行う方法は、前記ショートミルクチューブ閉鎖手段を作動させてクローとショートミルクチューブとの間を閉鎖するとともに、前記薬液注入器の前記クランプ手段を開放する段階を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の装置および方法により、容易かつ低コストに乳房炎の治療・予防作業の実施が可能になる。特に、本発明の装置および方法は、搾乳作業の一連の工程の最後に組み込んだ場合には、短時間で極めて効率的に作業を実施することができる。また、本発明の装置および方法では、薬液/洗浄ガスを乳腺および乳房の深部に位置する疾患部に確実に到達させることができるので、多大な治療・予防効果を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る乳牛の乳房炎治療・予防装置について詳細に説明する。図1は、本発明の乳牛の乳房炎治療・予防装置を模式的に示した図である。図1において、参照符号10は、搾乳機のクローを示しており、クロー10から複数本(通常は4本)のショートミルクチューブ12が延び、各ショートミルクチューブ12の先端には、乳牛の乳頭に装着されるカップライナー14がそれぞれ取り付けられている。各カップライナー14の外周は、シェル16でそれぞれ被覆されており、カップライナー14の外周とシェル16との間の空間が、パルセーションチャンバ18となっている。また、各パルセーションチャンバ18とクロー10との間が、ショートパルスチューブ20でそれぞれ接続されている。一方、ロングミルクチューブ22の一端がクロー10から延び、他端がレコーダー(乳量測定)ジャー又は牛乳配管(図示せず)に接続されている。さらに、クロー10からロングパルスチューブ24が延びている。なお、クロー10には、クロー内の空気を排出するためのブリードホール10aが設けられている。以上の搾乳機の構成は、公知のものである。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態に係る乳牛の乳房炎治療・予防装置は、薬液注入器30を備えている。図2は、薬液注入器30を模式的に示した断面図である。薬液注入器30は、洗浄ガスを収容するための洗浄ガス容器32を有している。洗浄ガス容器32は、上端が開口しており、合成樹脂材料などの任意の材料で形成されている。
【0013】
洗浄ガス容器32の上方に、洗浄ガスノズル部分34が配置されており、下端が開口している洗浄ガスノズル部分34は、下端の開口が洗浄ガス容器32の上端の開口に堅固に嵌め込まれている。洗浄ガスノズル部分34は、ゴム等の弾性材料で形成されており、上端のほぼ中央にノズル孔34aが設けられている。ノズル孔34aは、通常は閉鎖しているが、後述するように洗浄ガス容器32/洗浄ガスノズル部分34を開放したとき、洗浄ガスの圧力により開口するようになっている。
【0014】
薬液注入器30は又、洗浄ガスノズル部分34の内部に配置され、薬液を収容するための薬液収容部分36を有している。薬液収容部分36は、ゴム等の弾性材料で形成されており、上端のほぼ中央にノズル孔36aが設けられている。ノズル孔36aは、ノズル孔34aと同様に、通常は閉鎖しているが、後述するように洗浄ガス容器32/洗浄ガスノズル部分34及び薬液収容部分36を開放したとき、洗浄ガス及び薬液の圧力により開口するようになっている。
【0015】
薬液注入器30は更に、洗浄ガス容器32/洗浄ガスノズル部分34及び薬液収容部分36のノズル孔34a、36aを開閉するためのクランプ手段38を有している。クランプ手段38としては、例えばピンチコック等を用いてよい。
【0016】
洗浄ガス容器32/洗浄ガスノズル部分34内には、圧力P1 の洗浄ガスが収容されている。洗浄ガスとしては、例えば、滅菌空気、アルコール含有空気、ヨード含有空気などがあげられる。一方、薬液収容部分36内には、圧力P2 (<P1 )の薬液が収容されている。圧力P1 、P2 は、ショートミルクチューブ12内の圧力P0 よりも高くなるように設定されている。したがって、圧力は、P1 >P2 >P0 となる。
【0017】
なお、図2において参照符号40は、薬液収容部分36を洗浄ガスノズル部分34の内部の所定位置に保持するための保持部材を示している。
【0018】
薬液注入器30は、図4に示されるように、洗浄ガスノズル部分34のノズル孔34aが各ショートミルクチューブ12の内部に位置するように、各ショートミルクチューブ12に取り付けられる。好ましくは、洗浄ガスノズル部分34のノズル孔34aと薬液収容部分36のノズル孔36aの延長線(図4において一点鎖線で図示)上に乳頭が位置決めされるように、薬液注入器30は、各ショートミルクチューブ12に取り付けられる。
【0019】
本発明の乳牛の乳房炎治療・予防装置は又、ショートミルクチューブ閉鎖手段42を備えている。ショートミルクチューブ閉鎖手段42は、各ショートミルクチューブ12の薬液注入器30とクロー10との間に配置されており、後述する薬液注入時に各ショートミルクチューブ12をクロー10の手前で閉鎖する役目を果たす。なお、ショートミルクチューブ閉鎖手段42は、電磁弁などの通常の弁を用いてよい。
【0020】
次に、以上のように構成された乳房炎治療・予防装置を使用して、乳牛の乳房炎の治療・予防をする方法について説明する。まず、乳牛の乳頭にカップライナー14をそれぞれ装着して搾乳を行う。ショートミルクチューブ12内を真空状態にするとともに、ショートパスルチューブ20を介してパルセーションチャンバ内の圧力を周期的に変動させることによって、搾乳が行われる。搾乳の終了が近づくにつれて、乳牛の乳房内は、負圧になる。搾乳が実質的に終了した時点でショートミルクチューブ閉鎖手段42を作動させてクロー10と各ショートミルクチューブ12との間を閉鎖するとともに、薬液注入器30のクランプ手段38を開放する。すると、図3に示されるように、薬液が洗浄ガスとともに、乳頭に向かって、ショートミルクチューブ12内に噴射される。上述のように、乳管内が負圧になっているため、噴射された薬液/洗浄ガスは、乳管から乳房内に侵入し、乳房の深部に位置する罹患部にまで到達するので、乳房炎の治療・予防が効率的に行われる。
【0021】
なお、上述の例では、本発明の治療・予防方法が、搾乳作業の一連の工程の一部として組み込まれているが、搾乳作業とは別個に本発明の治療・予防方法を実施してもよい。
【0022】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0023】
例えば、前記実施の形態では、洗浄ガスを収容/噴射する部分が洗浄ガス容器32/洗浄ガスノズル部分34の2つの部分に分かれているが、これらを一体に形成してもよい。また、前記実施の形態では、ショートミルクチューブ閉鎖手段42を作動させた後、クランプ手段38を開放するようになっているが、ショートミルクチューブ閉鎖手段42を作動させると、クランプ手段38が自動的に開放するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の乳牛の乳房炎治療・予防装置を模式的に示した図である。
【図2】閉鎖状態における薬液注入器を模式的に示した断面図である。
【図3】開放状態における薬液注入器を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の乳牛の乳房炎治療・予防装置を用いて治療・予防している状態を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0025】
10 クロー
12 ショートミルクチューブ
14 カップライナー
16 シェル
18 パルセーションチャンバ
20 ショートパルスチューブ
22 ロングミルクチューブ
24 ロングパルスチューブ
30 薬液注入器
32 洗浄ガス容器
34 洗浄ガスノズル部分
36 薬液収容部分
38 クランプ手段
40 保持部材
42 ショートミルクチューブ閉鎖手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳牛の乳房炎治療・予防装置であって、
薬液注入器を備え、前記薬液注入器が、洗浄ガスを収容するための洗浄ガス容器と、上端に第1ノズル孔が設けられ、前記洗浄ガス容器の上方に配置された洗浄ガスノズル部分と、前記洗浄ガスノズル部分の内部に配置され、上端に第2ノズル孔が設けられ、薬液を収容するための薬液収容部分と、前記第1及び第2ノズル孔を開閉するためのクランプ手段とを有し、
前記洗浄ガスノズル部分及び前記薬液収容部分が弾性材料で形成されており、
搾乳機の各ショートミルクチューブとクローとの間にそれぞれ配置され、各ショートミルクチューブとクローとの間を閉鎖するためのショートミルクチューブ閉鎖手段を更に備え、
前記薬液注入器が、前記第1ノズル孔が各ショートミルクチューブの内部に位置するように、各ショートミルクチューブにそれぞれ取り付けられており、
前記洗浄ガス容器内に収容される洗浄ガスの圧力が、前記薬液収容部分内に収容される薬液の圧力よりも大きく、薬液の前記圧力が、治療・予防作業時の前記ショートミルクチューブ内の圧力よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記薬液注入器が、前記第1ノズル孔と前記第2ノズル孔の延長線上に乳頭が位置決めされるように、各ショートミルクチューブにそれぞれ取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記洗浄ガスが、滅菌空気、アルコール含有空気、又はヨード含有空気であることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記請求項1から3までのいずれか1項に記載の乳房炎治療・予防装置を用いて、乳牛の乳房炎の治療・予防を行う方法であって、
前記ショートミルクチューブ閉鎖手段を作動させてクローとショートミルクチューブとの間を閉鎖するとともに、前記薬液注入器の前記クランプ手段を開放する段階を含むことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−97853(P2007−97853A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292026(P2005−292026)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(505374484)有限会社イーエム技術研究所 (1)