説明

乳牛乳房清拭用ワイパー

【課題】適度な保水性と乳牛乳房を傷つけにくく、ワイピング時に糸屑などの脱落リントを発生させない性能を有する乳牛乳房清拭用ワイパー、特に、脱落リントだけでなく、水に溶け出す抽出成分が少なく、乳房の肌荒れも少ない乳牛乳房清拭用ワイパーを提供する。
【解決手段】セルロース繊維を50wt%以上含有する不織布からなるワイパーであって、該不織布の吸水倍率が5〜15倍、ウェット脱落リントが20000個/m以内であることを特徴とする乳牛乳房清拭用ワイパー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛乳房清拭用ワイパーに関し、特に乳牛の乳房等の拭き取り時に発生する脱落リントが少なく、乳房の肌荒れ、炎症を防ぐのに効果のある乳牛乳房清拭用ワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳牛から搾乳する場合、搾乳前後において、乳頭および乳房に付着している異物や汚れを落とし、また、細菌等の汚染を防止するために、水、殺菌剤、または消毒剤を含む洗浄液を布帛またはタオルなどのワイパーに浸漬して、乳頭および乳房を拭き取る作業が行われる。その場合、特に搾乳後において、拭き取り作業を行わずそのまま放置すると、乳房の周辺に細菌が繁殖してしまい、乳腺症等の炎症を起こす可能性があることが知られている。このように乳牛が乳腺症等になると、牛乳に細菌が混入して食品衛生上問題であり、数ヶ月間は、搾乳しても食用に用いることができず、酪農家にとっては大きな問題になる。
【0003】
そのため、搾乳前後の乳頭等の拭き取り時に使用される液として、例えば、特許文献1及び2には安全性の高い殺菌剤や消毒剤について各種薬剤が提案されている。また特許文献3には、殺菌剤等の液の保存性を挙げるための容器や、ワイパーの作業性向上のための容器が提案されている。
【0004】
乳頭等の拭き取りに使用されるワイパーの材質としては、織編物、不織布、紙などが挙げられるが、近年、乳房炎等の炎症の原因の1つとして、ワイパーから脱落して発生する糸屑やゴミが挙げられており、これらが乳腺に入り込んだり、牛乳の成分を含んだ糸屑に細菌が増殖し、乳房炎等の原因となることが判ってきた。特に、乳房炎を引き起こす細菌(微生物)は黄色ブドウ球菌、大腸菌、環境性連鎖球菌等が挙げられ、これらは適度な温度、水、有機物の組み合わせで繁殖することが知られており、ワイパーから脱落した糸屑などの脱落リントが、菌の温床となりえることが指摘されている。
したがって、液への浸漬時や、拭き取り作業時に繊維くずなどの脱落の心配の無い乳牛乳房清拭用ワイパーが望まれている。
【特許文献1】特許3263038号公報
【特許文献2】特開平11−155404号公報
【特許文献3】実開平6−23256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、適度な保水性と乳牛乳房を傷つけにくく、ワイピング時に糸屑などの脱落リントを発生させない性能を有する乳牛乳房清拭用ワイパー、特に、脱落リントだけでなく、水に溶け出す抽出成分が少なく、乳房の肌荒れも少ない乳牛乳房清拭用ワイパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者は、拭き取り効果および作業性の観点で、特定の吸水性を有し、水中に放出する脱落リントが少なくできる不織布を検討したところ、拭き取り作業時に微生物の温床となる脱落リントが少ないセルロース繊維を含む不織布が乳牛乳房清拭用ワイパーとして好適であることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) セルロース繊維を50wt%以上含有する不織布からなるワイパーであって、該不織布の吸水倍率が5〜15倍、ウェット脱落リントが20000個/m以内であることを特徴とする乳牛乳房清拭用ワイパー。
(2)ワイパー1kg当りの水に対する溶出物の量が1000mg/kg以下であることを特徴とする(1)に記載のワイパー。
(3)前記不織布に抗菌剤及び/または殺菌剤と水を含む洗浄液を該不織布の自重の1〜10倍含浸させたことを特徴とする(1)に記載のワイパー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、搾乳の前後に使用する殺菌液や抗菌液を含ませて使用する乳牛の乳房清拭用ワイパーにおいて、セルロース繊維を含んだ不織布に適度に水分を保持することにより抗菌性を保持し、かつ汚れ成分等を吸収する性能を有し、また水分により発生する脱落リント量が抑制されることにより、乳房等に新たな菌(微生物)の温床をつくらず、また洗浄液中の溶出物量が少ないことにより、乳房や乳頭の荒れに繋がる可能性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用できる不織布におけるセルロース繊維の含有率は50wt%以上、好ましくは80wt%以上、より好ましくは100wt%である。セルロース繊維が50wt%以上含有すると、セルロース繊維は、適度な親水性を有し、抗菌剤等を含んだ加工液を保持し、また乳房および乳頭に付着している液体成分を素早く吸着、保持することができ、また、拭き取り時に加工液の乾燥を抑制することができる。特に、100wt%になると、生分解性に優れ、使用後にバンクリーナー等で処理することで、良質な堆肥にすることも可能である。さらにセルロース繊維自体は、柔軟性に富、乳房を傷つけにくい特長を有する。
【0010】
本発明の不織布の吸水倍率は5〜15倍であり、好ましくは7〜13倍である。不織布がこの吸水倍率の範囲であると、洗浄液を充分に吸液でき、充分な拭き取りができる。
【0011】
セルロースの繊維繊度は0.1〜3dtexが好ましく、より好ましくは0.2〜2dtexであり、さらに好ましくは0.2〜1dtexの範囲である。繊維繊度がこの範囲では、強度を損なうことなく、ふき取り性が良好である。繊度が細いほど、ふき取り性が良好であり、柔軟性に富、保液性の点でも優れている。さらに、不織布としての繊維分散がよく、面網羅性に優れ、目付斑が少なく、繊維間隙が小さくて均一であり、好ましい。特に、極細長繊維セルロース不織布は、その上、リントフリー性を備えており、これらの点から総合的に見て、好ましい態様である。
【0012】
セルロース繊維からなる不織布を用いた場合、乳房表面に付着された異物、汚れ、微生物等は、接触により、水分とともに表面から剥ぎ取られ、不織布の表面に付着するが、セルロース繊維との親和性があることから、細いセルロース繊維の表面または繊維間隙に吸着的に付着し、不織布の繊維間隙に取り込まれる。
【0013】
不織布を形成する繊維は、乳房を傷つけにくい丸型断面であることが好ましく、また連続長繊維から成るが、繊維の脱落が殆ど発生しないことから、皮膚(乳房)への刺激性の点で好ましい。
【0014】
不織布の製法としては、水に可溶な成分、つまり接着剤、分散剤、繊維油剤や各種界面活性剤をなるべく使用しない製法が好ましく、スパンボンド法、ウォーターパンチング交絡法による不織布が好ましい。特に、水への溶出量がワイパー1kg当り1000mg/kg以下が好ましく、より好ましくは500mg/kg以下であり、特に好ましくは、100mg/kg以下である。これらの水溶出物は、乳房を拭き取るときに、液とともに乳房に転写されると、肌荒れの要因となり、傷を創る恐れがあり、また抗菌剤の性能を低下させる可能性もある。
【0015】
不織布としては、セルロース長繊維不織布であることがより好ましく、例えば、ベンリーゼ(旭化成せんい株式会社製)等の再生セルロース長繊維不織布が挙げられる。セルロース長繊維不織布であると、不織布自体の表面毛羽が殆ど無く、磨耗での繊維の毛羽立ちも非常に少なく、そのため、磨耗によるリント(繊維くず)の脱落も少ない。脱落リントの評価としては、WET振とう法での脱落リント数は、20000個/m以下であることが必要であり、より好ましくは、10000個/m以下であり、特に、好ましくは、4000個/m以下である。
【0016】
不織布の嵩密度は0.05〜0.3g/cmの範囲が好ましく、より好ましくは、0.1〜0.2の範囲である。嵩密度が、この範囲にあると、適度な繊維空隙を有し、異物のふき取り生の面で良好である。目付は、20〜100g/mが好ましく、より好ましくは、30〜60g/mの範囲である。不織布としての、開孔面積率は、10〜30%であり、孔明きタイプの不織布が保液性や拭き取りの点で好ましい。
本発明のワイパーの形状としては、特に限定されず、平版状、折りたたみ形状、ティシュペーパータイプ、切り取り線を入れたロール形状などが挙げられる。
【0017】
本発明に使用される抗菌剤及び/または殺菌剤を含む洗浄液は、公知の薬剤が使用することができる。例えば、消毒用アルコールや塩酸リジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム等のアミン塩系抗菌剤、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素含有薬剤およびヨウ素含有薬剤、更に銀成分などの抗菌金属成分含んだ薬剤等が挙げられ、これらの成分を混合しても構わない。また、乳房拭き取り時に使用される濃度についても、搾乳に混ざり問題にならない濃度であれば特に限定されない。また、保湿剤や防カビ剤等の第三成分の添加も特に限定されない。
【0018】
上記洗浄液を不織布に含浸する方法は、公知の方法が利用でき、例えば、事前に調合した洗浄液をハンディースプレーで不織布に付与したり、バケツの容器等に洗浄液を調合し、不織布を浸漬させ、余分な液を絞り使用する方法、あるいは事前に、ウェットティッシュのように、加工場等で予めワイパーと洗浄液を浸漬しておいてもよい。
【0019】
本発明での洗浄液の含浸率は、不織布の自重の1〜10倍の範囲が作業性の点でよく、2〜5倍が特に好ましい。含浸率が低いと、ワイパーに液が充分含浸されず、洗浄液の乳房への転写が不十分となり、また、10倍を越えると洗浄液が垂れ落ちる状態となり、液の経済性、作業性の点で問題が起こり易い。
本発明のワイパーは、特に限定はされないが、菌の繁殖抑制や菌の移行の点で、一回使用であることが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例に基づいて、本発明を説明する。
実施例に用いた評価は以下の方法による。
(1) 繊維繊度:繊維を拡大し、平均繊維径を測定し、繊度を算出する。
(2) 目付:JIS―L−1085に準拠して測定する。
(3) 厚み:JIS―L−1085に準拠して測定する。
(4) 強度:タテ、ヨコ方向に、JIS―L−1085に準拠して50mm幅にて測定する。
(5) WET脱落リント量
15cm角の不織布2枚をビーカー中の300ccの純水中へ投入し、超音波を15分かけて、リントを水中へ脱落させた。その後、不織布を取出し、直径4.7cmの黒色のセルロースエステルメンブランろ紙(アドバンテック社製ポアーサイズ0.8μm)で吸引ろ過し、ろ紙表面に捕捉された長さ100μmを超える大きさのリントの個数を計測して、不織布1mあたりに換算して示す。
【0021】
(6) 溶出物量
ワイパー40gを640mlの純水中に20℃で15hr静置浸漬して、溶出物を水溶液中へ溶出させ、溶出液を1μmカットのメンブランフィルター(アドバンテック社製 47mmφ PTFEプレーン表面フィルター)で吸引ろ過して、固形物を除去し、溶出液量A(g)を測定した。溶出液をエバポレーターで濃縮し、その後蒸発乾固した。不揮発性残渣の量をB(g)とした時、水への溶出物の量は次式で算出される。
水への溶出物の量 [mg/kg] =(B/A)×16×10
【0022】
(7) 吸水倍率
ワイパーを20℃*65%RHに制御された室内に15時間放置して、調湿し、10cm角に切断して、秤量しW1(g)とする。線径0.5mm、10メッシュの金網上にサンプルを置き、金網ごと20℃の水中へ30秒浸漬する。その後サンプルを金網上で水平に保ったまま空中で10分間放置して水切りを行い、再度秤量しW2(g)とする。吸水倍率は次式で示される。
吸水倍率 = (W2−W1)/W1
【0023】
(8) 耐磨耗性
拭き取り後のワイパー表面の観察行い、表面状態を目視で判定する。

○ :拭き取り面にももけがない
× :拭き取り面にももけが発生している
【0024】
(9) 乳房付着脱落量
ワイパーでの拭き取り後、乳房への付着物を以下の方法で調べる。
5cmφの穴があいたアクリル板を用い、乳頭をほぼ中心になるように押し当て、その後、透明ポリエステルの微粘着(アクリル系)テープを空気層ができないよう(乳頭の周りを除く)に押し当て、接触させた後はがし、粘着テープへの転写物を拡大して、100ミクロン以上の大きさのものを調べる。

乳房付着脱落量 見られなかった。 ○
1〜3個以内 △
4個以上 ×
【0025】
[実施例1、実施例2、比較例1、比較例2]
1000倍希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を抗菌加工液として作成し、下記に示した各種ワイパーをその液に浸漬後、液の付着量が、ワイパーの自重の1〜5倍になるように、軽く絞った後、加工液付着量を調べた。
次に、実際の搾乳牛を使用し、搾乳前の乳房を、加工液を含ませた各種ワイパーで、通常の使用されるように牛の乳房の拭き取りを実施した。なお、拭き取り時間は乳房一箇所について、30秒であった。
【0026】
実施例1に使用したワイパーは、不織布1(旭化成せんい社製、製品銘柄ベンリーゼUE55U)、 実施例2に使用したワイパーは、不織布2(旭化成せんい社製、製品銘柄ベンリーゼB6399)、 比較例1に使用したワイパーは、綿タオル(市販品)、比較例2に使用したワイパーは、紙ワイパー(クレシア社製 製品銘柄、キムタオルJ140)である。
それぞれに使用したワイパーの物性および作業性(耐磨耗性、乳房付着脱落量)を表1に示す。
【0027】
表1に示したように、本実施例のワイパーは、WET脱落リント量が少なく、拭き取り時に発生する乳房付着脱落量も少なく、耐磨耗性も良好であった。これに対し、比較例1の綿タオルについては、WET脱落リント量が非常に多く、拭き取り時に発生する乳房付着脱落量においては、100ミクロンを越える繊維状の脱落物が多数(10箇所以上/乳房1箇所あたり)あり、乳頭にも付着しており、搾乳時に繊維脱落物が牛乳に混入することも想定される。比較例2の紙ワイパーについては、WET脱落リント量が多く、拭き取り時に発生する乳房付着脱落量においては、100〜300ミクロン程度の紙紛が付着しており、更にワイパーの表面にももけ現象が生じており、耐磨耗性に劣る結果となり、拭き取り時において、強い磨耗条件を用いると、著しい脱落付着を生じる可能性があることが判った。
【0028】
【表1】

【0029】
以上の結果より、本発明のワイパーは、拭き取り時に発生する脱落付着物が少なく、また溶出物も少ないものを選定することができるので、牛の乳房炎や肌荒れ等を抑制することができ、また、セルロース繊維からなり、適度な保水性を有しているので、乳房や乳頭を傷つけることがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を50wt%以上含有する不織布からなるワイパーであって、該不織布の吸水倍率が5〜15倍、ウェット脱落リントが20000個/m以内であることを特徴とする乳牛乳房清拭用ワイパー。
【請求項2】
ワイパー1kg当りの水に対する溶出物の量が1000mg/kg以下であることを特徴とする請求項1に記載のワイパー。
【請求項3】
前記不織布に抗菌剤及び/または殺菌剤と水を含む洗浄液を該不織布の自重の1〜10倍含浸させたことを特徴とする請求項1に記載のワイパー。


【公開番号】特開2008−48638(P2008−48638A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226328(P2006−226328)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】