説明

乳生産動物および乳業産物のゲノムマーカー指数を改善する方法

本発明は、所望の乳生産形質をゲノムマーカー指数の使用を介して改善する方法を提供する。ゲノムマーカー指数の計算に用いられる複数のマーカーに関して動物の遺伝子型を決定する方法も提供する。本発明は、繁殖の潜在的親動物を精選するため、および改善された乳業産物を生産するために、動物を所定の使用に選択するか、割り当てる方法も提供する。
【図1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれている2007年7月16日出願の米国仮出願第60/959,677号に基づく権利を主張する。
【0002】
配列表の組み込み
配列表は、「Bovine_Product_Claim.st251.txt」と名づけられたファイルに含まれている。このファイルは、96,256バイト(94.0キロバイト)(MS−Windows XPで測定)であり、2008年7月16日に作成され、コンピュータの読み込み可能な形態で、本明細書と共に同封されているコンパクトディスク上に所在しており(37C.F.R.§1.52(e)および37C.F.R.§1.1.821に準拠)、参照により本明細書に組み込まれている。
【0003】
本発明は、乳生産動物の改善された遺伝子プロファイル、改善された遺伝子プロファイルを含む産物、およびこれらの産物を生産する方法に関する。より詳細には、本発明は、限定されるものではないが、体細胞スコア(SCS)、娘牛妊娠率(DPR)、生産寿命(PL)、脂肪含量(FAT)、タンパク質含量(PROT)および正味メリット(NM)などの形質を含めた様々な性能形質に関して、単離された精液など、乳牛および乳業産物を改善する方法における遺伝子マーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
乳工業の将来の生存能および競合性は、乳生産性(例えば、乳生産量、乳脂量、乳タンパク質量、乳脂%、乳タンパク質%、および乳汁分泌の持続性)、健康(例えば、体細胞数、乳房炎発生率)、繁殖性(例えば、妊娠率、発情のディスプレイ、分娩間隔、および雄ウシの非回帰率)、分娩難易度(例えば、直接的分娩難易度(direct calving ease)および母性分娩難易度(maternal calving ease))、寿命(例えば、生産寿命)、機能的構造(例えば、懸垂靭帯、適切な足および脚の形、適切な尻の角度など)の絶え間ない進歩に依存している。残念ながら、効率形質は、しばしば適応度形質と好ましくない相関性を有する。商用ウシ集団では、適応度形質はすべて、その根底の遺伝的変異をある程度有し、それらの多くに関して、遺伝率が低いため、または候補動物における形質を費用効率よく測定することが不可能であるため、優れた遺伝的メリットを有する繁殖用動物を選択する精度が低い。加えて、多くの生産性形質および適応度形質は、雌性でしか測定できない。したがって、これらの形質についての従来の選択の精度は、中程度から低度であり、選択を介して遺伝的変化を生じさせる能力、とりわけ適応度形質についてのものは限定的である。
【0005】
ゲノミクスは、遺伝変異を説明し、より直接的かつ正確な選択に使用できる遺伝子または遺伝子に連鎖している遺伝子マーカーの発見を介して、生産性形質および適応度形質における、より大幅の改善の可能性を提供する。生産性形質および適応度形質に関連しているマーカーは1000近く報告されているが(報告されているQTLの検索可能データベースについては、www.bovineqtl.tamu.edu/を参照)、QTLの位置の分解能は、未だにかなり低く、それにより、産業規模のマーカー利用選抜(MAS)で、これらのQTLを利用するのが困難となっている。少数のQTLのみが、強く推定されているか、またはよく確認されている原因変異で完全に特徴付けされており、それらは、第14染色体上のDGAT1(Grisardら、2002;Winterら、2002;Kuhnら、2004)、第20染色体上のGHR(Blottら、2003)、第6染色体上のABCG2(Cohen−Zinderら、2005)またはSPP1(Schnabelら、2005)である。しかし、これらの発見はまれであり、生産性形質の遺伝分散のうち小さな部分しか説明しておらず、量的適応度形質を制御する遺伝子はどれも完全には特徴付けられていない。これより成功している戦略は、ウシゲノム全体の全ゲノム高密度スキャンの使用を採用するものであり、この場合、対象とする形質周辺の遺伝変異の大多数を説明するのに十分な分解能でQTLをマッピングできる。
【0006】
世界中で乳生産に用いられているウシ群は主として、高レベルの生産で知られているホルスタイン品種またはホルスタイン−フリージアン品種に発するものである。しかし、ホルスタインの高生産レベルは、より大きな分娩難度および低減したレベルの繁殖性とも連鎖している。これらの好ましくない相関関係が、多面発現遺伝子効果によるのか、単純に遺伝子の連鎖によるのかは明らかでない。マーカーの知識で、後者が真であるとなれば、通常、伝統的選択法で多くの進展を可能にするには低すぎる頻度で生じる、いくつかの連鎖遺伝子からの好ましい対立遺伝子を含有する好ましい組換え体を選択することが可能となりうる。ホルスタインの遺伝資源は数十年間にわたって世界的に販売および輸送されているので、ホルスタイン品種は事実上、比較的中程度の同系交配率に保持されている1つの大きな世界的集団になっている。また、数世代にわたって選択されてきたそのような大集団の非近交系特性は、比較的短距離(すなわち数センチモルガン未満)内にあるものを除いて、連鎖不平衡が起こるのを可能にしている(Hayesら、2006)。連鎖不平衡のこのパターンを考慮すると、QTLとの極めて緊密な連鎖不平衡にあるマーカーを見出すのに十分な精度でQTL位置を精密化するには、極めて高密度なマーカーの網羅が必要である。したがって、有効集団全体のMASまたは全ゲノム選抜(WGS)には、QTLとの極めて緊密な連鎖不平衡にあるマーカーが必須である。
【0007】
ほとんどの形質は性質が量的であり、それゆえ、小サイズから中サイズ効果を有する多くのQTLによって支配されている。したがって、これらの形質の遺伝変異の大部分を説明するのに十分なだけQTLを特徴付けるには、多くのマーカーが評価される必要がある。
【0008】
さらに、近縁動物またはその動物自体についての表現型記録なしに動物の育種価を正確に予測するためには、十分な数のマーカー付きQTLをMASで使用しなければならない。本明細書は、生産性形質および適応度形質の変異を説明するQTLを発見および精密マッピングするための、そのような高密度全ゲノムマーカーマップの適用を記載する。
【0009】
その結果得られる多数の連鎖しているマーカーを、全ゲノム選抜(WGS)(Meuwissenら、Genetics 2001)を含めた、マーカー選抜またはマーカー利用選抜のいくつかの方法で用いて、これらの形質についての当該集団の遺伝的メリットを改善し、かつ乳工業における価値を創出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
【課題を解決するための手段】
【0011】
このセクションは、本発明の非網羅的な概要を示す。
【0012】
本発明の様々な実施形態は、動物ゲノム内の10箇所以上の位置で動物の遺伝的メリットを評価する方法、およびマーカー利用選抜(MAS)を用いて動物を繁殖させる方法も提供する。これらの実施形態の様々な態様において、本出願の表および配列表に記載のSNPから選択された少なくとも1つのSNPを含有するDNAセグメント(対立遺伝子)内の位置で、動物の遺伝子型を評価する。
【0013】
本発明の他の実施形態は、a)(分析される対立遺伝子のそれぞれが少なくとも1つのSNPを含む)1つまたは複数の多型で動物のゲノム配列を分析して、それらの多型のそれぞれにおける動物の遺伝子型を決定するステップと、b)多型のそれぞれについて決定された遺伝子型を分析して、そのSNPのどの対立遺伝子が存在しているかどうかを決定するステップと、c)前記動物のゲノムマーカー指数を計算するステップと、d)動物を、分析された多型の1つまたは複数におけるその遺伝子型に基づいて使用に割り当てるステップとを含む方法を提供する。
【0014】
本発明の実施形態の様々な態様は、本出願に開示の1つまたは複数の多型における、動物の遺伝子型を用いるゲノムマーカー指数に基づいて、動物を使用に割り当てる方法を提供する。代替として、動物が望ましい表現型と関連していない望ましくないゲノムマーカー指数を有するので、その動物を特定の使用に割り当てない方法も提供する。
【0015】
本発明の他の実施形態は、後代を生産するための繁殖に使用するための動物を選択する方法を提供する。これらの方法の様々な態様は、A)少なくとも1頭の潜在的親動物の遺伝子型を1または複数箇所の遺伝子座で決定するステップであって、分析された遺伝子座のうちの少なくとも1箇所が、表1および配列表に記載のSNPの群から選択されるSNPの対立遺伝子を含有するステップと、B)少なくとも1頭の動物について1または複数箇所の位置で決定された遺伝子型を分析して、どのSNP対立遺伝子が存在しているかを決定するステップと、C)前記動物のゲノムマーカー指数を計算するステップと、D)少なくとも1頭の動物を、後代を生産するための使用に割り当てるステップとを含む。
【0016】
本発明の他の実施形態は、子孫動物(後代動物)を生産する方法を提供する。本発明のこの実施形態の諸態様は、動物、つまり本明細書に記載の方法による繁殖用に選択された動物を繁殖させて、後代を生産するステップを含む方法を提供する。上記子孫は、純粋に自然な方法で生産しても、限定されるものではないが、人工授精;胚移植(ET)、多排卵胚移植(MOET)、in vitro受精(IVF)または任意のこれらの組合せを含めた適切な技術的手段の使用で生産してもよい。
【0017】
本発明の他の実施形態は、高いGMIを有するウシ産物を提供する。これらの実施形態の様々な態様において、これらのウシ産物は、改善された遺伝内容を含む単離された精液、乳製品または肉製品を含む。改善された遺伝内容を含むウシ産物は、好ましくは少なくとも約130、より好ましくは少なくとも約132、より好ましくは少なくとも約134、より好ましくは少なくとも約136、より好ましくは少なくとも約138、さらにより好ましくは少なくとも約140のゲノムマーカー指数をさらに含む。
【0018】
本発明の他の実施形態は、改善された遺伝内容を含む単離された精液を提供する。改善された遺伝内容を含む単離された精液は、好ましくは少なくとも約130、より好ましくは少なくとも約132、より好ましくは少なくとも約134、より好ましくは少なくとも約136、より好ましくは少なくとも約138、さらにより好ましくは少なくとも約140のゲノムマーカー指数をさらに含む。本発明の様々な実施形態は、凍結している単離された精液、および例えば天然に存在する頻度を超えるX染色体の頻度など、不均衡な性決定特性を有する単離された精液を含む。
【0019】
本発明の他の実施形態は、表1および配列表に記載のSNPのうちの複数が含まれている核酸配列のリストを各データベースが含むデータベースまたはデータベースの群を提供する。本発明のこの実施形態の好ましい態様は、30以上のSNPの配列を含むデータベースを提供する。これらの実施形態の他の態様は、各データベースが表1および配列表に記載のSNPのうちの複数を含む1つまたは複数のデータベースを使用する1つまたは複数のコンピュータアルゴリズムを、上記SNPの1つまたは複数の対立遺伝子の遺伝に関連している表現型形質を同定するために用いる方法および/または動物の割り当てを補助するのにそのようなデータベースを用いる方法を含む。
【0020】
定義
当業者が本発明の完全な範囲をより容易に理解および認識する補助となるように、以下の定義を与える。しかしながら、以下に与える定義で指示する通り、与えられている定義は、そのように指示されない限り、排他的ではないことが意図されている。むしろ、それらは、当業者を本発明の様々な例示的実施形態に集中させるために与えられる好ましい定義である。
【0021】
本明細書で使用される場合、「対立遺伝子関連」という用語は、好ましくは、f(A)およびf(B)の積からのf(A)の非ランダム偏位を意味し、これはr>0.2によって明確に定義されるが、rは、適度に多数(例えば、≧100)の動物標本から決定され、かつ
【0022】
【数1】

と定義され、式中、Aは一遺伝子座における一対立遺伝子を表し、Bは別の遺伝子座における一対立遺伝子を表し、f(A)はAおよびBの両方を有する配偶子の頻度を指し、f(A)は、集団内のAの頻度であり、f(B)はBの頻度である。
【0023】
本明細書で使用される場合、「動物を使用に割り当てる」および「使用への割り当て」という用語は、ある動物を群れの中でどのように使用することにするか決定すること、または群れの望ましい管理目標を実現するために、それを群れから排除することにすると決定することを意味することが好ましい。例えば、動物は、繁殖用動物としての使用に割り当てられる可能性も、非繁殖用動物として販売に割り当てられる(例えば肉用の販売が意図されている動物に割り当てられる)可能性もあるであろう。本発明の特定の態様では、極めて明確な目標(例えば生産性または適応度)を有する繁殖計画のなかの部分集団での使用に動物を割り当てることができる。したがって、繁殖の目的に割り当てられた動物の群の中でさえ、明確かつ/または専門的な繁殖目標を実現するための使用への、より特異的な割り当てがありうる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「不均衡な性決定特性を有する精液」とは、卵母細胞を受精させるのにその精液が使用された際に、所定の性の子孫を生産する統計的確率が増大するように改変されているか、または別の方法で処理されている精液を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「ウシ産物」という用語は、限定されるものではないが、乳、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリーム、肉および革を含めた、ウシ細胞に由来するか、ウシ細胞によって生産するか、またはウシ細胞を含む産物と、例えば、単離された精液、胚または他の生殖物質を含めた、ウシ産物の生産に使用される生体物質とを指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「単離された精液」という用語は、通常は人的および/または機械的介入を用いる過程の一部として、それが由来する動物から物理的に分離されている、複数の精子/精液を含む生体物質を指す。単離された精液の例には、精液のストロー、精液の凍結ストローおよびIVF手順で使用するのに適した精液が含まれうるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ゲノムマーカー指数」(GMI)という用語は、複数のゲノムマーカーの対立遺伝子プロファイルに基づく遺伝内容の価値の数的表現である。特定のゲノムマーカー指数を決定する方法は、以下に特定されている。
【0028】
本明細書で使用される場合、「動物」または「動物(複数)」という用語は、乳牛を指すことが好ましい。
【0029】
本明細書で使用される場合、「適応度」は、限定されるものではないが、妊娠率(PR)、娘妊娠率(DPR)、生産寿命(PL)、体細胞数(SCC)および体細胞スコア(SCS)を含めた形質を指すことが好ましい。
【0030】
本明細書で使用される場合、PRおよびDPRは、それぞれ21日の期間内に妊娠となる非妊娠動物のパーセントを指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、PLは、群れからそのウシを排除する(選抜除去または死亡による)までのすべての乳汁分泌全体を合計した、各乳汁分泌の月数で計算される。
【0032】
本明細書で使用される場合、体細胞スコアは、次の関係、すなわち、SCS=log(SCC/100,000)+3を用いて計算でき、式中、SCCは乳1mlあたりの体細胞数である。
【0033】
本明細書で使用される場合、「成長」という用語は、動物のサイズおよび/または体重の増大に関連する様々なパラメーターの測定を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「連鎖不平衡」という用語は、対立遺伝子関連を意味することが好ましく、その際、AおよびB(対立遺伝子関連の上記定義で用いられている通り)が同一染色体上に存在する。
【0035】
本明細書で使用される場合、「マーカー利用選抜(MAS)」という用語は、血統データおよび表現型データと潜在的に組み合わせたマーカー情報に基づく、動物の選択を指すことが好ましい。
【0036】
本明細書で使用される場合、「自然繁殖」という用語は、受精過程に人的介入がない、すなわち、人工授精または胚移植などの機械的または技術的方法の使用がない動物の交配を指すことが好ましい。この用語は、親動物の選択に言及するものではない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「正味メリット」という用語は、典型的生産セッティングにおける相対的経済価値に従って重みづけされるいくつかの一般的に測定される形質を含めた複合指数を指し、産業ベースと比較したウシ1頭あたりの生涯経済価値として表されることが好ましい。正味メリット指数の例には、米国における$NMまたはTPI、カナダにおけるLPIなどが含まれるが、これらに限定されない(これらの指数を計算する式は当技術分野でよく知られている(例えば$NMは、USDA/AIPLウェブサイト:www.aipl.arsusda.gov/reference.htmで見出せる)。
【0038】
本明細書で使用される場合、「乳生産」という用語は、乳液量、乳脂率、乳タンパク質率、乳脂量および乳タンパク質量を含めた、乳生産動物の生産性に関する表現型形質を指すことが好ましい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「予測される価値」という用語は、動物の遺伝子型および血統に基づく、その動物の育種価または伝達能力の見積りを指すことが好ましい。
【0040】
本明細書で使用される場合、「生産性」および「生産」は、限定されるものではないが、乳量、乳脂率、乳脂量、乳タンパク質率、乳タンパク質量、総計生涯生産量、搾乳速度および乳汁分泌持続性を含めた収量形質を指すことが好ましい。
【0041】
本明細書で使用される場合、「量的形質」という用語は、それぞれが、その形質への小から中程度の影響に寄与する複数(2つ以上、しばしば多数)の遺伝子によって制御される形質を指すのに用いられる。量的形質の観測はしばしば正規分布に従う。
【0042】
本明細書で使用される場合、「量的形質遺伝子座(QTL)」という用語は、量的形質への影響を有する多型を含有する遺伝子座を記載するのに用いられる。
【0043】
本明細書で使用される場合、「生殖物質」という用語には、精液、精子、卵子、胚および接合体(単数または複数)が含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書で使用される場合、「一塩基多型」または「SNP」という用語は、集団内で多型となっている、すなわち集団内で一部の個体動物はその位置にあるタイプの塩基を有し、一方、他のものは異なった塩基を有する動物ゲノム内の位置を指す。例えば、SNPは、一部の動物はそれらのDNA配列中に「G」を有し、一方、他のものは「T」を有する、ゲノム内の位置を指しうるであろう。
【0045】
本明細書で使用される場合、「全ゲノム分析」という用語は、高マーカー密度(すなわち1cMあたり少なくとも約1マーカー)で、全ゲノムのQTLマッピングおよびQTLと集団全体の連鎖不平衡になっているマーカーの検出を行う過程を指すことが好ましい。
【0046】
本明細書で使用される場合、「全ゲノム選抜(WGS)」という用語は、マーカーが全ゲノムにわたって中密度から高密度(例えば1〜5cMあたり少なくとも約1マーカー)で広がっているか、QTL領域において中密度から高密度で広がっているか、または1つもしくは複数の形質を制御する遺伝変異のかなりの部分を説明するQTLに直接的に隣接している、もしくはそれらの両側にある、ゲノム全体ベースでのマーカー利用選抜(MAS)の過程を指すことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシ動物を、前記動物のゲノムマーカー指数に従って使用に割り当てる方法であって、
a.前記動物の遺伝子型を10箇所以上の遺伝子座で決定するステップであり、少なくとも1箇所の遺伝子座が、少なくとも2つの対立遺伝子変種を有する一塩基多型(SNP)を含有し、かつ少なくとも10のSNPが、表1および配列表に記載のSNPから選択されるステップ、
b.表1および配列表に記載のSNPから選択される10以上のSNPで、評価された少なくとも1頭の動物の決定された遺伝子型を分析するステップ、および/または
c.式2および表1に見出される重みづけを用いてゲノムマーカー指数を計算するステップであり、
【数1】

式中、Gjkが動物kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みであるステップ、
d.前記動物を、その決定されたゲノムマーカー指数に基づいて使用に割り当てるステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記動物の遺伝子型が、表1および配列表に記載のSNPから選択されるSNPを含有する20箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動物の遺伝子型が50箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記動物の遺伝子型が100箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記動物の遺伝子型が200箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記動物の遺伝子型が500箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
全ゲノム分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
割り当ての前に、血統情報、後代情報、品種情報または表現型情報を用いて分析するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記動物から精液を単離するステップをさらに含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記単離された精液の性決定特性を改変するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記単離された精液を凍結させるステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
潜在的親ウシ動物をゲノムマーカー指数に基づいて選択する方法であって、
a.少なくとも1頭の潜在的親動物の遺伝子型を10箇所以上のゲノム遺伝子座で決定するステップであり、少なくとも1箇所の遺伝子座が、少なくとも2つの対立遺伝子変種を有する一塩基多型(SNP)を含有し、かつ少なくとも10のSNPが、表1および配列表に記載のSNPから選択されるステップと、
b.表1に記載のSNPから選択される10以上のSNPに関して、評価された少なくとも1頭の動物の決定された遺伝子型を分析するステップと、
c.表1に見出される重みづけおよび次式を用いてゲノムマーカー指数を計算するステップであり、
【数2】

式中、Gjkが動物kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みであるステップと、
d.少なくとも1頭の動物を、その遺伝子型に基づいて繁殖使用に割り当てるステップと
を含む方法。
【請求項13】
前記潜在的親動物の遺伝子型が、表1に記載のSNPから選択されるSNPを含有する20以上の遺伝子座で評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記潜在的親動物の遺伝子型が50箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記潜在的親動物の遺伝子型が100箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記潜在的親動物の遺伝子型が200箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記潜在的親動物の遺伝子型が500箇所以上の遺伝子座で評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
全ゲノム分析をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記動物から精液を単離するステップをさらに含む、請求項12から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記単離された精液の性決定特性を改変するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記単離された精液を凍結させるステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ウシ動物から後代を生産する方法であって、
a)請求項1から8のいずれかに記載の方法に従って、繁殖用に割り当てられた少なくとも1頭の潜在的親動物を同定するステップと、
b)i)自然繁殖、
ii)人工授精、
iii)in vitro受精および
iv)前記動物から精液/精子または少なくとも1つの卵子を収集し、それをそれぞれ第2の動物の卵子または精液/精子と接触させて、任意の手段によって受胎産物を生産すること
からなる群から選択される過程を介して、割り当てられた動物から後代を生産するステップと
を含む方法。
【請求項22】
自然繁殖を介して後代を生産するステップを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項23】
人工授精、胚移植および/またはin vitro受精で後代を生産するステップを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
約130超のゲノムマーカー指数(GMI)を有するウシ産物であって、前記GMIが表1に記載のSNP重みづけおよび次式に基づいて計算され、
【数3】

式中、Gjkが産物kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みである産物。
【請求項25】
前記ゲノムマーカー指数が約132超である、請求項24に記載の産物。
【請求項26】
前記ゲノムマーカー指数が約134超である、請求項24に記載の産物。
【請求項27】
前記ゲノムマーカー指数が約136超である、請求項24に記載の産物。
【請求項28】
前記ゲノムマーカー指数が約138超である、請求項24に記載の産物。
【請求項29】
前記ゲノムマーカー指数が約140超である、請求項24に記載の産物。
【請求項30】
マーカー利用選抜を含む過程によって作られる、請求項24に記載の産物。
【請求項31】
前記産物が単離された精液を含む、請求項24に記載の産物。
【請求項32】
前記単離された精液が凍結精液を含む、請求項24に記載の産物。
【請求項33】
マーカー利用選抜を含む過程によって作られる、請求項24に記載の産物。
【請求項34】
前記ウシ産物が乳、チーズ、バターおよび肉からなる群から選択される、請求項24に記載の産物。
【請求項35】
マーカー利用選抜を含む過程によって作られる、請求項34に記載の産物。
【請求項36】
約130超のゲノムマーカー指数(GMI)を有するウシ動物であって、前記GMIが表1に記載のSNP重みづけおよび次式に基づいて計算され、
【数4】

式中、Gjkが動物kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みである動物。
【請求項37】
前記ゲノムマーカー指数が約132超である、請求項36に記載の動物。
【請求項38】
前記ゲノムマーカー指数が約134超である、請求項36に記載の動物。
【請求項39】
前記ゲノムマーカー指数が約136超である、請求項36に記載の動物。
【請求項40】
前記ゲノムマーカー指数が約138超である、請求項36に記載の動物。
【請求項41】
前記ゲノムマーカー指数が約140超である、請求項36に記載の動物。
【請求項42】
前記動物が雄性である、請求項36から41のいずれか一項に記載の動物。
【請求項43】
前記動物が雌性である、請求項36から41のいずれか一項に記載の動物。
【請求項44】
マーカー利用選抜を含む過程によって作られる、請求項36に記載の動物。
【請求項45】
約130超のゲノムマーカー指数を有する単離されたウシ精液であって、前記GMIが表1に記載のSNP重みづけおよび次式に基づいて計算され、
【数5】

式中、Gjkが精子kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みである精液。
【請求項46】
前記ゲノムマーカー指数が約132超である、請求項45の単離された精液。
【請求項47】
前記ゲノムマーカー指数が約134超である、請求項45の単離された精液。
【請求項48】
前記ゲノムマーカー指数が約136超である、請求項45の単離された精液。
【請求項49】
前記ゲノムマーカー指数が約138超である、請求項45の単離された精液。
【請求項50】
前記ゲノムマーカー指数が約140超である、請求項45の単離された精液。
【請求項51】
前記単離された精液が凍結精液を含む、請求項45の単離された精液。
【請求項52】
前記単離された精液が不均衡な比率の性決定特性を含む、請求項45の単離された精液。
【請求項53】
マーカー利用選抜を含む過程によって作られる、請求項45の単離された精液。
【請求項54】
ウシ産物のGMIをゲノムマーカー指数を用いて決定する方法であって、
a)DNAを含有する生体物質の試料を収集するステップと、
b)遺伝子型を10箇所以上のゲノム遺伝子座で決定するステップであり、少なくとも1箇所の遺伝子座が、少なくとも2つの対立遺伝子変種を有する一塩基多型(SNP)を含有し、かつ少なくとも10のSNPが、表1および配列表に記載のSNPから選択されるステップと、
c)表1に見出される重みづけの群から選択される重みづけおよび次式を用いてゲノムマーカー指数を計算するステップであり、
【数6】

式中、Gjkが産物kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みであるステップと
を含む方法。
【請求項55】
動物を決定されたGMIに基づいて選択するステップをさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
動物を選択する方法であって、
a)目的を明確にするステップと、
b)前記動物に関する遺伝情報を取得するステップと、
c)前記遺伝情報を分析するステップと、
c)前記目的と一致した動物を選択するステップと
を含み、前記遺伝情報が、表1に見出される重みづけの群から選択される重みづけおよび次式に基づいて計算されるGMIを含み、
【数7】

式中、Gjkが動物kのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みである方法。


【図1】数種のウシについて計算したGMI値の範囲を示す図である。それぞれの場合で、垂直な棒は、計算された値の範囲を表し、水平な記号は、供試集団の平均GMIを示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の様々な実施形態は、乳生産動物またはウシ産物のゲノムマーカー指数を評価する方法を提供する。本発明の好ましい実施形態では、動物の遺伝子型を10箇所以上の位置で(すなわち10以上の遺伝子マーカーに関して)評価する。本発明のこれらの実施形態の諸態様は、動物のゲノム配列を、一塩基多型(SNP)を含有する10箇所以上の位置(遺伝子座)で決定するステップを含む方法を提供する。詳細には、本発明は、表1および配列表に記載のSNPからなる群から選択される10以上のSNPのそれぞれについて、そのSNPの2つ以上の対立遺伝子のうちのどれが存在しているかを決定することによって、動物の遺伝子型を評価する方法を提供する。
【0049】
これらの実施形態の好ましい態様では、表1および配列表に記載のSNPの群から選択されたSNPについて、どの対立遺伝子が存在しているかを決定するために、動物の遺伝子型を評価する。
【0050】
この実施形態の他の態様では、1つまたは複数の形質と関連していることが示されているSNP(表1を参照)に関して動物の遺伝子型を分析し、ゲノムマーカー指数を計算するのに用いる。例えば、本発明の実施形態は、これらの形質のうちの1つまたは複数と有意に関連していると決定されている10以上、25以上、50以上、100以上、200以上、500以上または1000以上のSNPを遺伝子型決定する方法を提供する。これらのSNPは、表1および配列表に記載のSNPからなる群から選択されることが好ましい。
【0051】
本発明の諸態様は、全ゲノム分析および全ゲノム選抜(WGS)(すなわちゲノム全体ベースのマーカー利用選抜(MAS))の両方も提供する。さらに、本発明は、全ゲノム分析またはWGSを実行するのに用いるマーカーであって、10以上、25以上、50以上、100以上が表1および配列表に記載のマーカーからなる群から選択されるマーカーも提供する。
【0052】
本発明のいずれの実施形態でも、SNP遺伝子座のゲノム配列は、本発明に適合したいかなる手段によって決定してもよい。適した手段は、当業者によく知られており、それらには、直接配列決定、合成による配列決定、プライマー伸長、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析、ポリメラーゼ連鎖反応−制限断片長多型、マイクロアレイ/マルチプレックスアレイシステム(例えば、Illumina Inc.、San Diego、California、またはAffymetrix、Santa Clara、Californiaから入手可能なもの)、および対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーションが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の他の実施形態は、生産性または適応度に関するそれらの予測される価値に従って、動物をその後の使用(例えば雄親もしくは雌親として使用するか、または肉用もしくは乳用に販売するか)に割り当てる方法を提供する。本発明のこの実施形態の様々な態様は、表1および配列表に記載のSNPからなるSNPの群から選択される少なくとも1つのSNPに関して、少なくとも1頭の動物の遺伝子型を決定するステップを含む(1つまたは複数のSNPに関して、動物の遺伝子型を決定する方法は上記に記載されている)。したがって、使用への動物の割り当ては、その遺伝子型と、この結果得られたゲノムマーカー指数に基づいて決定できる。
【0054】
本発明は、表1および配列表に記載のSNPの遺伝子型の分析が、行われる唯一の分析である実施形態も提供する。他の実施形態は、本明細書に開示する、SNPの分析が、任意の他の望ましいタイプのゲノム分析または表現型分析(例えば、本発明で開示するもの以外の任意の遺伝的マーカーの分析)と併用される方法を提供する。
【0055】
本発明のこれらの実施形態の様々な態様によれば、選択されたSNP(単数または複数)について動物の遺伝子配列が決定されたならば、この情報を評価して、選択されたSNPに関して、そのSNPのどの対立遺伝子が存在しているかを決定する。決定されたSNPのすべてについて、その動物の対立遺伝子相補物(allelic complement)を評価することが好ましい。次に、ゲノムマーカー指数は、下記に記載する特定の方法に基づいて計算する。最後に、評価した1または複数箇所のSNP位置の遺伝子型に基づいて、動物を使用に割り当てる。割り当ては、動物のゲノムマーカー指数を考慮して行うことが好ましい。
【0056】
割り当ては、任意の適した判定規準に基づいて行うことができる。任意のゲノムマーカー指数について、動物のGMIが目標値を超えているかどうかに応じて決定を行うことができる。この決定はしばしば、繁殖目標または群管理目標に依存するであろう。さらに、本発明の他の実施形態は、2つ以上の判定規準の組合せが使用される方法を提供する。判定規準のそのような組合せには、表現型データ、血統情報、品種情報、動物のGMIならびに同胞、後代および/または親のGMI情報からなる群から選択される2つ以上の評価基準が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
どの対立遺伝子が望ましい表現型特性と関連しているかについての決定は、任意の適した手段で行うことができる。これらの関連性を決定する方法は、当技術分野でよく知られており、さらに、これらの方法の使用の諸態様は、概ね、下記の実施例に記載されている。
【0058】
本発明のこの実施形態の様々な態様によれば、使用への動物の割り当ては、望ましいゲノムマーカー指数を有する動物を選ぶポジティブ選択(例えば望ましい遺伝子型を有する動物が選択される)、または望ましくないゲノムマーカー指数を有する動物(例えばGMIが所定の閾値より低い動物)のネガティブ選択またはこれらの方法の任意の組合せのいずれかが伴う。
【0059】
本発明のこの実施形態の好ましい態様によれば、最小閾値を超えるゲノムマーカー指数を有するものとして同定された動物またはウシ産物を、より高い経済価値を有する動物と一致する使用に割り当てる。代替として、最小閾値より低くGMIを有する動物またはウシ産物は、より高いGMIを有するものと同じ使用には割り当てない。
【0060】
本発明の他の実施形態は、潜在的な子孫の適応度および/または生産性を改善するために、潜在的親動物を選択する(すなわち繁殖用に割り当てる)方法を提供する。本発明のこの実施形態の様々な態様は、表1および配列表に記載のSNPからなるSNPの群から選択されるSNPを用いて、少なくとも1頭の動物のGMIを決定するステップを含む。さらに、動物を潜在的親動物として使用することにするかどうか、またはどのように使用することにするかの決定は、ゲノムマーカー指数、血統情報、品種情報、表現型情報、後代情報またはこれらのいかなる組合せに基づくものでもよい。
【0061】
さらに、使用への他のタイプの割り当てと同様に、本発明のこれらの実施形態の様々な態様は、行われる唯一の分析が、ゲノムマーカー指数を計算することである方法を提供する。これらの実施形態の他の態様は、本明細書に開示するゲノムマーカー指数の分析が任意の他の望ましいゲノム分析または表現型分析(例えば本発明で開示するもの以外の任意の遺伝子マーカーの分析)と併用される方法を提供する。
【0062】
本発明のこれらの実施形態の様々な態様によれば、選択されたSNP(単数または複数)の部位で動物の遺伝子配列が決定されたならば、この情報を評価して、選択されたSNPのうちの少なくとも1つについて、そのSNPのどの対立遺伝子が存在しているかを決定する。配列決定されたSNPのすべてについて、その動物の対立遺伝子相補物を評価することが好ましい。加えて、その動物の対立遺伝子相補物を分析および評価して、ゲノムマーカー指数を計算し、それによってその動物の後代の遺伝的メリットまたは表現型値を予測する。最後に、ゲノムマーカー指数に基づいて、単独で、または1つまたは複数の追加判定規準(単数または複数)と組み合わせて、動物を使用に割り当てる。
【0063】
本発明の他の実施形態は、後代動物を生産する方法を提供する。本発明のこの実施形態の様々な態様によれば、後代を生産するのに使用される動物は、本発明の実施形態のいずれかに従って、繁殖用に割り当てられたものである。後代を生産するのに動物を使用する者は、必要な分析を行ってもよく、または代替として、後代を生産する者は、別の者によって分析された動物を入手してもよい。後代は、限定されるものではないが、(i)自然繁殖、(ii)人工授精、(iii)in vitro受精(IVF)または(iv)動物から精液/精子および/もしくは少なくとも1つの卵を収集し、それをそれぞれ第2の動物の卵子または精液/精子と接触させて、任意の手段によって受胎産物を生産することを含めた、いかなる適切な手段によって生産してもよい。
【0064】
本発明の他の態様によれば、後代は、標準的な人工授精(AI)、in vitro受精、多排卵胚移植(MOET)または任意のこれらの組合せの使用を含む過程で生産する。
【0065】
本発明の他の実施形態は、所定の閾値を超えるGMIを有するウシ産物を提供する。これらのウシ産物は、好ましくは少なくとも約130、より好ましくは少なくとも約132、より好ましくは少なくとも約134、より好ましくは少なくとも約136、より好ましくは少なくとも約138、さらにより好ましくは少なくとも約140のGMIを有する。これらの実施形態の様々な態様において、これらのウシ産物には、単離された精液、生殖物質、乳製品、肉製品、精子、卵、接合体、血液、組織および血清などが含まれるが、これらには限定されない。
【0066】
本発明の他の実施形態は、所定の閾値を超えるGMIを有するウシ動物を提供する。これらのウシ産物は、好ましくは少なくとも約130、より好ましくは少なくとも約132、より好ましくは少なくとも約134、より好ましくは少なくとも約136、より好ましくは少なくとも約138、さらにより好ましくは少なくとも約140のGMIを有する。
【0067】
本発明の他の実施形態は、動物を繁殖目的に割り当てるステップと、その動物からの遺伝物質を収集または単離するステップとを含む方法であって、限定されるものではないが、上記遺伝物質に、精液、精子、卵、接合体、血液、組織、血清、DNAおよびRNAが含まれる方法を提供する。
【0068】
本発明によって提供される方法および情報の最も効率的かつ有効な使用は、本出願で開示する配列のすべてまたは一部分を含むコンピュータプログラムおよび/または電子的にアクセス可能なデータベースを利用するものであると理解されている。したがって、本発明の様々な実施形態は、表1および配列表に記載の少なくとも10のSNPに対応する配列のすべてまたは一部分を含むデータベースを提供する。これらの実施形態の好ましい態様では、データベースが、表1および配列表に記載のSNPのうちの25以上、50以上、100以上または実質的にすべての配列を含む。
【0069】
本発明によって提供される方法および情報の効率的な分析および使用は、自動化遺伝子型決定の使用を用いるものであろうと理解されている。限定されるものではないが、マイクロアレイの使用を含めた、当技術分野で知られているいかなる適した方法も、そのような遺伝子型決定を行うのに使用できる。
【0070】
本発明の他の実施形態は、本明細書に記載の1つまたは複数のSNP配列データベースが、1つまたは複数のコンピュータ実行可能プログラムによってアクセスされる方法を提供する。そのような方法には、SNPと表現型形質または他のユーザー定義の形質(例えば、遺伝子発現レベル、タンパク質発現レベルまたは化学的プロファイルなどの1つまたは複数の測定基準を用いて測定された形質)との間の関連を分析するプログラムによるデータベースの使用、ゲノムマーカー指数の計算、および繁殖用または市場用に動物を割り当てるのに使用されるプログラムが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
本発明の他の実施形態は、遺伝物質を収集するステップと、繁殖用に割り当てられた動物からゲノムマーカー指数を計算するステップとを含む方法であって、上記動物が、本発明の一部として開示する方法のいずれかによって、繁殖用に割り当てられている方法を提供する。
【0072】
本発明の他の実施形態は、1つまたは複数のSNP(単数または複数)のどの対立遺伝子が試料中に存在しているかを決定する診断キットまたは他の診断装置であって、上記SNP(単数または複数)が表1および配列表に記載のSNPからなるSNPの群から選択される診断キットまたは他の診断装置を提供する。本発明のこの実施形態の様々な態様において、上記キットまたは装置は、SNPに対応する核酸が存在しているかどうかに関する決定を容易にする試薬/装置を提供する。そのようなキットまたは装置はさらに、そのSNPのどの対立遺伝子が存在しているかどうかに関する決定を容易にしうる。本発明のこの実施形態の特定の態様では、上記キットまたは装置がDNA増幅(例えばポリメラーゼ連鎖反応を介したもの)に適した少なくとも1種の核酸オリゴヌクレオチドを含む。本発明の他の態様では、上記キットまたは装置が、ストリンジェントな条件下で、表1および配列表に記載の少なくとも10のSNPのうちの少なくとも1つの対立遺伝子と特異的にハイブリッド形成できる精製された核酸断片を含む。
【0073】
本発明のこの実施形態の特定の好ましい態様では、上記キットまたは装置が、上記SNPのうちの1つまたは複数のどの対立遺伝子が試料中に存在しているかどうかを決定できる少なくとも1つの核酸アレイ(例えばDNAマイクロアレイ)であって、上記SNPが表1および配列表に記載のSNPからなるSNPの群から選択される核酸アレイを含む。本発明のこの実施形態の好ましい態様は、10以上のSNPに関して、どの対立遺伝子が試料中に存在しているかどうかを同時に決定できるDNAマイクロアレイを提供する。上記DNAマイクロアレイは、25以上、50以上、または100以上のSNPについて、どのSNP対立遺伝子が試料中に存在しているかどうかを決定できることが好ましい。そのようなアレイを作る方法は、当業者に知られており、そのようなアレイは市販されている(例えばAffymetrix、Santa Clara、Californiaから)。
【0074】
表に記載のSNPのいずれかと対立遺伝子関連にある遺伝子マーカーは、当業者に知られているいかなる適した手段によって同定してもよい。例えば、表に記載のSNPの配列のいずれかに特異的なプローブを用いて、ゲノムライブラリーをスクリーニングできる。このようにして、その配列の少なくとも一部を含むクローンを同定でき、次に、最大300キロベースまでの3’および/または5’隣接染色体配列を決定できる。最大約70キロベースまでの3’および/または5’隣接染色体配列を評価することが好ましい。このようにして、表に記載のSNPと対立遺伝子関連になっている遺伝子マーカーが同定されるであろう。表1および配列表に記載のマーカーの代わりに、対立遺伝子関連になっているこれらの代替マーカーを、動物を選択するのに用いてもよい。
【0075】
本発明の好ましい実施形態では、乳生産動物またはウシ産物から得られた遺伝子型情報に基づいて、ゲノムマーカー指数(GMI)を計算する。ゲノムマーカー指数は、上述の全ゲノム遺伝子分析に基づいて生成した。この指数は、根底にあるマーカーの形質関連、効果推定および期待値を用いて生成した。
【0076】
ゲノムマーカー指数を計算するには、表1と共に、下記の式を用いる。詳細には、式中の変数は、各マーカーそれぞれについて、表に示す重みづけ係数によって規定される。
【0077】
最初のステップは、ある動物について、表1に記載の121のマーカーをすべて遺伝子型決定することである。その結果得られる遺伝子型データを用いて、動物(すなわちk番目の動物)のi番目ゲノムマーカー指数を次式
【0078】
【数2】
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を用いて決定でき、式中、Gjkが雄ウシkのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)が、指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みである。表1に示す値は、単一鎖DNA用の重みづけに相当する。したがって、各遺伝子型は、各SNPあたり2つの値、各対立遺伝子あたり1つの値を有するであろう。ホモ接合体の値は、各対立遺伝子用の重みづけの2倍であろう。一方、ヘテロ接合体の値は、各対立遺伝子の重みづけの合計であろう。例えば、SNP1(例えばGG)のG対立遺伝子についてホモ接合体である試料は、表1でG対立遺伝子用に示された重みづけの2×に等しい重みづけを含有するであろう。SNP1(例えばGA)のヘテロ接合体である試料は、G対立遺伝子用の重みづけと、A対立遺伝子用の重みづけとの合計に等しい重みづけを含有するであろう。
【0079】
例えば、ある雄ウシの指数1のGMIは次の通り計算されるであろう。
SNP1の遺伝子型=GG、重みづけ=0.45621+0.45621=0.91242
SNP2の遺伝子型=GA、重みづけ=0.174516+0.480119=0.657895
SNP3の遺伝子型=TT、重みづけ=(−0.13095)+(−0.13095)=−0.26191

SNP121の遺伝子型=AG、重みづけ=0.642706+0.071233=0.713936
【0080】
したがって、GMI=0.91242+0.657895+(−0.26191)+0.713936
【0081】
【表1−1】
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【0082】
【表1−2】
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【0083】
【表1−3】
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【0084】
【表1−4】
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【0085】
【表1−5】
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【0086】
【表1−6】
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【0087】
本発明の他の実施形態は、改善された遺伝内容を含む単離された精液を提供する。改善された遺伝内容を含む単離された精液は、好ましくは少なくとも約130、より好ましくは少なくとも約132、より好ましくは少なくとも約134、より好ましくは少なくとも約136、より好ましくは少なくとも約138、さらにより好ましくは少なくとも約140のゲノムマーカー指数をさらに含む。本発明の様々な実施形態は、凍結した単離された精液および例えば天然に存在する頻度を超えるX染色体の頻度など、不均衡な性決定特性を有する単離された精液を含む。
【0088】
精液のGMIを決定する場合、GMIは、各SNPについて、各対立遺伝子に関してホモ接合体であるものと、対立遺伝子の組合せについてヘテロ接合体であるものとを含めた、供給源動物に存在するすべての対立遺伝子に基づいて決定する。個々の精液および未受精卵それぞれは一倍体ゲノム(二倍体ゲノムと対照的に)のみを含有するので、本明細書に提示するGMIの計算は、それらの細胞が得られた動物の二倍体遺伝子型を決定するのに十分な数の一倍体細胞(すなわち約50以上の個々の細胞)が存在している場合でのみ妥当である。
【0089】
他のウシ産物のGMIを決定する場合、上記産物から少なくとも1つのDNA試料を回収しなければならない。例えば、乳を試験する場合、その中に含有されている白血球細胞からDNAを回収できる。牛肉製品を試験する場合、筋繊維からDNAを抽出できる。ウシ産物のGMIを評価する場合は、少なくとも約50の個々の細胞から得られたDNAを用いて、GMIを決定するのが好ましい。しかし、DNAの抽出および複製の分野における最近の進歩によって、1細胞ほどの少量の試料から遺伝内容を決定するととが可能となっている(Zhang、2006)。
【0090】
単離された精液を収集、保存、凍結および使用する方法は当技術分野でよく知られている。いかなる適した技法も、本明細書に記載のゲノムマーカー指数と併せて使用することができる。さらに、精液懸濁液中のX染色体の頻度など、性決定特性を改変する技法も知られている。例えば細胞サイトメトリー、光損傷およびマイクロフルイディクスを含めた、性決定特性を改変する様々な方法が当技術分野で知られている。精液懸濁液の収集、保存、凍結および性決定特性の改変を行う方法に関する以下の参考文献、すなわち、US5135759、US5985216、US6071689、US6149867、US6263745、US6357307、US6372422、US6524860、US6604435、US6617107、US6746873、US6782768、US6819411、US7094527、US7169548、US2002005076A1、US2002096123A1、US2002119558A1、US2002129669A1、US2003157475A1、US2004031071A1、US2004049801A1、US2004050186A1、US2004053243A1、US2004055030A1、US2005003472A1、US2005112541A1、US2005130115A1、US2005214733A1、US2005244805A1、US2005282245A1、US2006067916A1、US2006118167A1、US2006121440A1、US2006141628A1、US2006170912A1、US2006172315A1、US2006229367A1、US2006263829A1、US2006281176A1、US2007026378A1、US2007026379A1およびUS2007042342A1を参照により本明細書に組み込む。
【実施例】
【0091】
以下の実施例は、本発明の一般的な実施形態を明らかにするために包含されている。以下に続く実施例で開示する技法は、発明者らによって、本発明を実施するのに良好に機能し、それゆえ、それを実施する好ましい形態を構成すると考えることができると発見された技法を代表するものであると、当業者は理解するべきである。しかし、この開示に照らして、開示されている特定の実施形態に多くの改変を加えることができ、それでもなお、本発明から逸脱せずに、同様または類似の結果が得られることを当業者は理解するべきである。
【0092】
本明細書で開示および特許請求されている組成物および方法はすべて、本明細書の開示に照らして、過度の実験をすることなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法は好ましい実施形態に関して記載されたが、本発明の概念および範囲から逸脱せずに、変更を加えられることは、当業者には明らかであろう。
【0093】
(実施例1)
遺伝子マーカーと表現型形質または指数との間の関連性の決定
量的形質の根底にある遺伝子(量的形質遺伝子座:QTL)のゲノム全体ベースでの同時発見および精密マッピングは、全ゲノムを高密でカバーする遺伝子マーカーを必要とする。この実施例に記載するように、ウシゲノム内の位置が以前に推定されているマイクロサテライトマーカーおよび一塩基多型(SNP)マーカーと、ヒト配列との相同性およびヒト/ウシ比較マップに基づいた、ウシゲノム内の推定上の位置を有するSNPマーカーとから、全ゲノム、高密カバーのマーカーマップを構築した。血統の明らかな家畜集団でゲノム全体にわたって高密に配置されたマーカーを、より効率的にマッピングできるようにするために、CRIMAPソフトウェア(Greenら、Washington University School of Medicine、St.Louis、1990)の拡張として、新規な連鎖マッピングソフトウェアパッケージが開発された(LiuおよびGrosz、要旨C014;Grapesら、要旨W244;2006 Proceedings of the XIV Plant and Animal Genome Conference、www.intl-pag.org)。新規の連結マッピングツールは、大きい血統の分割、染色体帰属および2点連鎖解析の自動化、ならびに完全な染色体への部分マップの合体を通して能率を改善するように、CRIMAPでプログラムされた基本的マッピング原理上に構築されている。この結果得られた全ゲノム発見マップ(WGDM)は、6,966のマーカーおよび3,290cMのマップ長を含有しており、2.18マーカー/cMの平均マップ密度となった。マーカー間の平均ギャップは0.47cM、最大ギャップは7.8cMであった。このマップは、乳牛における生産性および適応度の変異に寄与するQTLの全ゲノム分析および精密マッピングの基礎を提供した。
【0094】
発見および集団のマッピング
発見および集団のマッピングのためのシステムは、多くの形態を取りうる。集団全体のマーカー/QTL関連を決定する最も有効な戦略には、非遺伝的影響の説明を可能にし、かつ測定される個体の血統に関する情報を含む設計で収集される、対象とする表現型測定値を有する個体の大規模かつ遺伝学的に多様な試料が含まれる。この実施例では、雌孫ウシ設計(Wellerら、1990)に従う非近交系集団を用いて、QTLの発見およびマッピングを行った。すなわち、集団は、ホルスタイン品種から、それぞれ平均6.1頭の遺伝子型決定された雄仔を有する529頭の雄親を有した。各雄仔は、平均4216頭の乳データを有する雌仔を有する。多重雄親ファミリーおよび祖父ファミリーに相当する約3,200頭のホルスタイン雄ウシおよび約350頭の他の乳用種の雄ウシからDNA試料を収集した。
【0095】
表現型分析
評価される乳生産形質には、乳量(「MILK」)(ポンド)、乳脂量(「FAT」)(ポンド)、乳脂率(「FATPCT」)(パーセント)、生産寿命(「PL」)(月)、体細胞スコア(「SCS」)(Log)、娘牛妊娠率(「DPR」)(パーセント)、乳タンパク質量(「PROT」)(ポンド)、乳タンパク質率(「PROTPCT」)(パーセント)および正味メリット(「NM」)(ドル)、ならびに例えばGMIなど、複数の形質の組合せなどの伝統的形質が含まれる。これらの形質は性限定的であり、雄動物については、いかなる個体も表現型を測定することができない。代わりに、すべての近縁動物の表現型を用いて、PTA(推定伝達能力)と定義される、これらの形質の遺伝的メリットを推定した。ほとんどの乳雄牛は、適度に、より多数(例えば>50)の娘牛で後代検定されており、それらのPTA推定値は通常、個々の雌ウシ表現型データより正確であるか、かなりより正確である。米国ホルスタイン集団の伝統的乳生産形質の遺伝的評価は、USDAによって年4回行われる。形質、遺伝評価手順および評価で使用される遺伝パラメーターは、USDA AIPLウェブサイト(www.aipl.arsusda.gov)で見出すことができる。この実施例で評価される乳生産形質は独立的ではないこと、すなわちFATおよびPROTは、それぞれMILKとFATPCTとの複合形質およびMILKとPROTPCTとの複合形質であることに留意するのが重要である。NMは、乳タンパク質量、乳脂量、生産寿命、体細胞スコア、娘牛妊娠率、受胎難度およびいくつかのタイプの形質に基づいて計算される指標形質である。乳タンパク質量および乳脂量が、併せてNMの>50%を説明し、乳量、脂肪含量およびタンパク質含量の値は乳タンパク質量および乳脂量を介して説明される。
【0096】
後代検定データを有するすべての雄ウシのPTAデータは、2007年2月にAIPLサイトに公開されたUSDA評価からダウンロードした。上記PTAデータは、下記の2つのモデルを用いて分析された。すなわち、
ij=s+PTAdij [式4]
=μ+β(SPTA)+PTAd [式5]
式中、y(yij)は、i番目の雄ウシのPTA(i番目の雄親のj番目の雄仔のPTA)であり、sは、i番目の雄親の影響であり、(SPTA)は、i番目の雄ウシの全試料の雄親のPTAであり、μは母平均であり、PTAd(PTAdij)は、残差雄ウシPTAである。
【0097】
式4は、種雄牛モデルと呼ばれ、雄親が固定因子として適合された。後代検定されているすべてのUSAホルスタイン雄ウシの中で、かなり多数の雄親は、後代検定されている雄仔を極少数しか有しておらず(例えば一部のものは1頭の雄仔を有する)、これらの場合では、固定因子として雄親を適合させるのは明らかに望ましくない。USAホルスタイン群は、最近の数十年間に伝統的乳生産形質の安定的かつ急速な遺伝的進歩を実現していることがよく知られており、これは、雄ウシの誕生年を適合させることによって、雄親の影響を部分的に説明できることを意味している。後代検定されている雄仔が<10頭である雄親については、式4における雄親を雄仔の誕生年で置換した。式5は、SPTAモデルと呼ばれ、雄親のPTAが共変量として適合される。残差PTA(PTAdまたはPTAdij)は、線形回帰法を用いて推定した。
【0098】
(実施例2)
子孫形質を改善するための一塩基多型の使用
選択された形質に関する集団の平均遺伝的メリットを改善するために、その形質に有意に関連している1つまたは複数のマーカーを、繁殖用動物の選択に用いることができる。発見されたそれぞれの遺伝子座の場合において、好ましいQTL対立遺伝子と集団全体の連鎖不平衡(LD)になっているマーカー対立遺伝子(または複数のマーカー対立遺伝子のハプロタイプ)を有する動物の使用は、繁殖に使用される動物の育種価を増大させ、集団におけるそのQTL対立遺伝子の頻度を経時的に増大させ、それによってその形質に関する集団の平均遺伝的メリットを増大させるであろう。価値の完全な実現のために、この増大した遺伝的メリットを商用集団に広めることができる。
【0099】
さらに、例えばGMIを用いて子孫形質を改善する場合などに、複数のマーカーを同時に用いることができる。この場合、関連形質の価値およびそのマーカーが有するその形質への影響に従って、複数のマーカーを測定し、それらに重みづけする。GMIの計算によって、複数の形質およびマーカーを、それらの関連値を用いて同時に包含させ、それによって、選択過程の複数のパラメーターを最適化することが可能となる。
【0100】
例えば、後代検定スキームは、若年雄ウシのスクリーニング用にマーカーを使用することを介して、遺伝的進歩のその速度または市販可能にする成功率を大幅に改善できるであろう。通常、後代検定プログラムは、約0.5の精度でプログラムへの編入候補として若年雄ウシを選択するのに血統情報および近縁動物の成績を用いるであろう。しかし、マーカー情報を追加することによって、はるかに高い精度で若雄牛をスクリーニングし、選択できるであろう。この実施例では、QTLと連鎖不平衡しているマーカーのゲノム全体のセットを用いて、潜在的雄ウシ雌親およびそれらの雄性子孫からのDNA試料をスクリーニングすることができるであろう。最良のマーカープロファイルを有する雄ウシ雌親候補を、特定の雄ウシの配偶者用に契約することができるであろう。
【0101】
代替として、GMIを生成するのに、表現型形質と関連している1セットのマーカーを用いることができ、所定の閾値を超えるGMIを有する雄ウシ雌親候補を、特定の雄ウシの配偶者用に契約することができるであろう。さらに、GMI、関連マーカー、表現型データ、血統情報および他の歴史的成績パラメーターの組合せを同時に用いることができる。
【0102】
過剰排卵および胚移植(ET)を用いる場合、1フラッシュ手順あたり、雄ウシ雌親1頭あたり5〜10頭の仔ウシからなるセットを生産できるであろう。その後、最良の雄性子孫を後代検定プログラムの候補として選択するのに、そのマーカーセットを再び用いることができるであろう。ゲノム全体のマーカーを使用する場合には、マーカー選択の精度は0.85ほどの高い値に達しうると推定された(Meuwissenら、2001)。このさらなる精度を用いて、後代検定プログラムに編入する候補の遺伝的メリットを大幅に改善して、それによって、市場性のある、後代検定された雄ウシを良好に市販可能にする可能性を増大させることができるであろう。良好に市販可能となるものを同数に維持しながら、検定される若年雄ウシ候補の数を低減することによって、この情報を用いて、プログラムの費用を低減させることもできるであろう。端的には、極めて正確なゲノムマーカー指数(GMI)を用いて、後代検定を全く必要とせずに、直接的に、若年雄親から精液を市場に出すことができるであろう。現在では若年ウシの販売を4.5〜5歳の代わりに、思春期に開始できたという事実により、世代間隔を半分以上短縮することができ、収益率を68.3%ほども増大させることができた(Schrootenら、2004)。後代検定の必要性が取り除かれれば、人工授精産業の遺伝改良費用は大幅に改善されるであろう(Schaeffer、2006)。
【0103】
代替の実施例では、GMIに基づいて、後代検定または直接的販売で使用する若年雄ウシを生産するために、ウシの集中または分散遺伝中核(GN)集団を維持することができるであろう。雌ウシの最上位10〜15%が多排卵胚移植(MOET)スキームでET供胚牛として使用されると仮定すると、1000頭のウシのGN群は、1年あたりの約3000頭の後代を生産すると予測できよう。しかし、マーカーは、MOETスキームおよびin vitro胚生産の有効性を変えることができよう。以前に、MOET中核スキームは、付加的な遺伝獲得量の見地から有望であると証明されているが、若年動物に関する情報の限定性と共に、中核群の手術費用によって、広範な採用が制限されてきた。しかし、マーカー情報および/またはGMIを用いて、以前よりはるかに正確に若年ウシを選択でき、この結果、世代間隔の大幅な低減および遺伝応答速度のブーストが得られる。これは、以前には完全同胞の育種価は同一であったろうが、マーカー情報を用いれば最良の完全同胞を生まれてから早いうちに同定できるので、MOET中核群スキームでとりわけあてはまる。血統情報にかかる淘汰圧がより小さくなり、個々のマーカー情報への淘汰圧がより大きくなるので、マーカー情報および/またはGMIは、近親交配を制限するのにも役立つであろう。早期の研究(Meuwissenおよびvan Arendonk、1992)は、中核群シナリオでマーカーを用いた場合に、最大26%までの追加遺伝獲得量の利点を見出したが、通常の後代検定における利点ははるかに少なかった。
【0104】
MASと共に、雌牛選抜も、とりわけマーカーが実質的な量の遺伝変異を説明する場合、遺伝的改良の重要な供給源となりうるであろう。より一層の効率は、移植前の胚のマーカー検定によって獲得できよう(Bredbacka、2001)。これは、移植が行われ、受胚費用が生じる前に、劣ったマーカープロファイルを有する胚を廃棄できるように、胚にかなりの選択が起こるのを可能にするであろう。胚の前選択によって、より小さな中核群で同等な進歩をもたらすことが可能となるであろうから、この場合も、中核群の対費用効果を増大させるであろう。代替として、これは、雄ウシが後代検定に入る前に前選択を行うさらなる機会を示し、遺伝応答の速度は、従来の後代検定より、最大31%まで速くなると予測された(Schrootenら、2004)。
【0105】
GNにおける育種価の推定および選択にGMIを使用する際の最初のステップは、GNにおける繁殖用動物として、または他の商用集団の繁殖用動物として、選択の候補となるであろうすべての子孫からのDNAを収集することである(この実施例では、毎年GNで3,000頭の子孫が生産される)。1つの方法は、出産直後に、各コウシからの耳組織の小片、頭髪試料または血液を、標識された(バーコード付き)管内に捕捉することである。この組織から抽出されたDNAは、多数のSNPマーカーをアッセイするのに使用できる。その後、動物のGMIを計算し、その動物が繁殖適齢に達する前に、その結果を選択決定に用いることができる。
【0106】
価値のあるQTL対立遺伝子と集団全体のLDになっていると判定されたマーカー(またはマーカーハプロタイプ)(実施例1を参照)を選択決定に組み入れる1つの方法は、古典的量的遺伝学および選抜指数理論に基づいている(FalconerおよびMackay、1996;DekkersおよびChakraborty、2001)。選択の標的とされる集団におけるマーカーの影響を推定するには、対象とする形質の表現型測定値を有する動物の無作為試料を、そのマーカーを固定効果または共変量として適合させた(対立遺伝子のコピー数への表現型の回帰)混合動物モデルで分析できる。マーカー効果を適合させる方法のいずれかからの結果を用いて、対立遺伝子置換効果を得て、次にマーカーの育種価を得ることができる。すなわち、
α=q[a+d(q−p)] [式6]
α=−p[a+d(q−p)] [式7]
α=a+d(q−p) [式8]
A1A1=2(α) [式9]
A1A2=(α)+(α) [式10]
A2A2=2(α) [式11]
式中、αおよびαはそれぞれ対立遺伝子1および2の平均効果であり、αは対立遺伝子置換の平均効果であり、pおよびqはそれぞれ集団における対立遺伝子1および2の頻度であり、aおよびdはそれぞれ相加効果および優性効果であり、gA1A1、gA1A2およびgA2A2はそれぞれA1A1、A1A2およびA2A2のマーカー遺伝子型を有する動物の(マーカー)育種価である。動物の全形質育種価は、考慮される各マーカー(またはハプロタイプ)の育種価および残差多遺伝子育種価の合計である。すなわち、
【0107】
【数3】
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式中、EBVijはi番目の動物の推定形質育種価であり、
【0108】
【数4】
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は、j=1〜nまで合計したマーカー育種価であり、ここで、nは考慮されているマーカー(ハプロタイプ)の総数であり、
【0109】
【数5】
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は、マーカー遺伝子型(単数または複数)を適合させた後におけるi番目の動物の多遺伝子育種価である。
【0110】
これらの方法は、GMIを含めた複数の形質についての、選択候補の育種価を推定するように容易に拡張できる。複数のマーカー(ハプロタイプ)からの情報を含めた各形質の育種価はすべて、選抜指数理論および各形質の相対的重要度を設定する特定の育種目標の文脈内にある。マーカーとQTLとの間の組換えを説明するランダムモデル(例えば、FernandoおよびGrossman、1989)および全ゲノム選抜における、発見されたすべてのマーカー情報の潜在的包含(Meuwissenら、Genetics 2001)を含めた、複数の形質についての育種価を推定する際のマーカー情報を最適化する他の方法も存在する。これらの方法のいずれを介しても、価値のあるQTL対立遺伝子と集団全体のLDにあると判定されている本明細書報告のマーカーを用いて、より大きな選択精度、より大きな遺伝的改良速度、乳業における、より大きな価値の蓄積をもたらすことができる。
【0111】
(実施例3)
SNPの同定
核酸配列が本発明のSNPを含有しているのは、それが、表1および配列表に記載の多型を含有し、かつ/またはそれに隣接している少なくとも20の連続したヌクレオチドを含む場合である。代替として、表1および配列表に記載の多型を含有するか、またはそれに隣接している、より短いひと続きの連続したヌクレオチドによっても、上記連続したヌクレオチドのより短い配列がウシゲノム内でユニークである場合、SNPが同定されうる。通常、SNP部位は、多型部位がその中に含有されているコンセンサス配列、多型部位の位置、および多型部位の様々な対立遺伝子によって特徴付けられる。「コンセンサス配列」は、アラインメントされた配列のクラスターにおけるそれぞれのヌクレオチド位置でコンセンサスとして構築されているDNA配列を意味する。
【0112】
そのようなSNPは、上記多型を含有しているか、またはそれに隣接している動物DNAセグメントのいずれかの鎖にある、同数のヌクレオチドの配列に少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性、またはさらに好ましくは、一部の対立遺伝子については少なくとも98%、そして多くの場合は少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列を有する。そのような動物DNAセグメントの一方の鎖のヌクレオチド配列は、配列番号1〜配列番号124のすべてからなる群の中の一配列中に見出されうる。それは、少なくとも一部の対立遺伝子では、多型部位それ自体には同一性がないであろうという多型の本質によって理解される。したがって、配列同一性は、多型配列を除外した配列について決定することができる。各遺伝子座の多型は配列表に記載されている。
【0113】
下記に示すのは、相互にマッチする、公開されているウシSNPの例である。
それぞれの配列の41塩基(中央に多型部位を有する)が相互に完全にマッチしている(マッチ長=41、同一性=100%)ので、SNP ss38333809はss38333810と同一であると判定された。
【0114】
【化1】
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ss38333809は配列番号122である。
ss38333810は配列番号123である。
【0115】
それぞれの配列の41塩基(中央に多型部位を有する)が、1つの塩基を除いてすべての塩基で相互にマッチする(マッチ長=41、同一性=97%)ので、SNP ss38333809はss38334335と同一であると判定された。
【0116】
【化2】
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ss38333809は配列番号122である。
ss38334335は配列番号124である。
【0117】
(実施例4)
生産形質の定量化および遺伝的評価
生産形質の定量化は、搾乳ごとに、または特定の時間間隔でのみ、ウシの乳および乳組成を測定することによって実現できる。USDA収量評価では、乳生産データは、乳牛群改良協会(Dairy Herd Improvement Associations)(DHIA)によって、ICAR承認の方法を用いて収集される。遺伝的評価には、既知な雄親および1960年以降の最初の出産、ならびに出産年1950年以降の血統を有するすべてのウシが含まれる。305日間より短い乳汁分泌は、305日間に延長される。すべての記録は、初産齢、分娩月、1日あたりの搾乳の回数、受胎までの空胎日数および不等分散の影響について前調整される。遺伝的評価は、単一形質のBLUP反復モデルを用いて行われる。このモデルには、管理群(群れ×年×季節足す登録状態)、経産×齢および近親交配の固定効果ならびに永続的環境および雄親相互作用による群れのランダム効果が含まれる。PTAは、毎年4回(2月、5月、8月および11月)推定され、公表される。PTAは、5年段階ベースと比較して、すなわち、現在の年から5年を引いた年に生まれたすべてのウシの平均からの相違として計算される。雄ウシPTAは、有効な乳汁分泌記録有する少なくとも10頭の娘牛を有する雄ウシの娘牛成績を推定して、公表する。
【0118】
(実施例5)
経済指数の開発
形質の経済的重みづけと形質PTAとの積の合計として、合計で14の経済指数が形成された。個体(j番目の個体と呼ばれる)ごとに、i番目の指数を以下の通りに決定できる。すなわち、
【0119】
【数6】
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式中、Wikはi番目の指数(表2および3)のk番目の形質の重みであり、PTAkjはj番目の個体のk番目の形質のPTAである。
【0120】
【表2】
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【0121】
【表3】
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【0122】
(実施例6)
経済指数とSNPとの間の関連性
SNP遺伝座の選択:SNP遺伝子座は、Affymetrixによって、遺伝子座の数、分布および対立遺伝子頻度を最大にするように設計された独自開発アルゴリズムを用いて選択された。Affymetrixチップに表される9919のSNPのうち、9258のSNPは、公共のウシゲノム配列決定活動(Baylor College of Medicine)を介して作成された配列データから得たものであり、661のSNPは、IBISS(Interactive Bovine In Silico SNP)データベース(Hawkenら、2004)から得た。さらなる22のSNPは、文献から選択されたものであり、乳生産形質に関連している10の候補遺伝子を表す。
【0123】
動物試料および遺伝子型決定。NAABコードを有するすべてのホルスタイン雄ウシデータをUSDA AIPLウェブサイト(www.aipl.arsusda.gov)からダウンロードし、精液を購入するために、いくつかの雄ウシ精液ディーラーに送った。購入したすべての精液試料から、合計3,145頭のホルスタイン雄ウシを選択して、この研究のリソース集団を形成させた。これらの試料は、多重および重複の雄親および祖父ファミリーを表す。
【0124】
9919のAffymetrix SNPについての遺伝型データは、Affymetrix Inc.との契約に基づいて、独自開発の「分子反転プローブ(Molecular Inversion Probe)」(MIP)化学を用いて作成された。簡潔には、各多型を標的とするオリゴマーを合成し、それぞれのゲノム試料にマルチプレックス反応でハイブリッド形成させる。ギャップ充填重合および連結によって、識別SNP対立遺伝子をオリゴマーに付加し、その後、環状となっているオリゴマーの切断を行う。増幅および標識化の後に、オリゴマーをマイクロアレイにハイブリッド形成させ、スキャンし、対立遺伝子の指定(call)を決定する。TaqMan(登録商標)(Applied Biosystems、Foster City、CA)アッセイは、製造業者が候補遺伝子SNPに対して設計したものであり、22の多型のうち16について遺伝子型をもたらすことに成功した。残りの6つのSNP(ABCG2、DGAT1、GH、PI−269、PI−989およびSPP1)は、Sequenom化学を用いて、Genaissance Pharmaceuticals(現在はClinical Data、Newton、MA)が遺伝子型決定した。
【0125】
上述の通り遺伝子型決定されたすべてのSNPから、最小限かつ十分に多型であった合計6967のSNPを分析で使用した。
【0126】
形質表現型およびそれらの前調整。最初のステップは、AIPLサイト(www.aipl.arsusda.gov)に公開されている、USDA2007年2月の遺伝的評価から得られた、後代検定されたすべてのホルスタイン雄ウシの伝統的乳生産形質に関するPTAデータをダウンロードすることであった。伝統的乳生産形質には、乳量(「MILK」;ポンド)、乳脂量(「FAT」;ポンド)、乳脂率(「FATPCT」;パーセント)、生産寿命(「PL」;月)、体細胞スコア(「SCS」;Log)、娘牛妊娠率(「DPR」;パーセント)、乳タンパク質量(「PROT」;ポンド)、乳タンパク質率(「PROTPCT」;パーセント)および正味メリット(「NM」;ドル)が含まれていた。これらのPTAデータは、式13を用いて各雄ウシの経済指数を計算するのに用いた。指数1はNMと同一であることに留意されたい。
【0127】
2つのタイプの分析を行った。第1の分析は、式1から直接推定された雄ウシの指数値を使用し、非調整データを用いる分析と呼ばれ、第2の分析の第1のステップは、雄親の影響を調整することであり、前調整されたデータを用いている分析と呼ばれる。
【0128】
PTAの前調整は、以下の2つのモデルを用いて行われた。すなわち、
ij=s+Idij [式14]
=μ+β(SI)+Id [式15]
式中、y(yij)は、i番目の雄ウシの元の指数(i番目の雄親のj番目の雄仔の指数)であり;sは、i番目の雄親の影響であり、(SI)は、i番目の雄ウシの全試料の雄親指数であり、μは母平均であり、Id(Idij)は残差雄ウシ指数である。後代検定されている雄仔が<10頭である雄親については、雄親の影響が誕生年の影響で置換された。
【0129】
マーカーと経済指数との間の関連性の評価。観察されたマーカー遺伝子型によって条件づけられていると推定される個々の順序づけられた遺伝子型の確率に基づいた分析を用いて連鎖不平衡(LD)マッピングを行った。すべての連鎖したマーカーで、雄親の順序づけられた遺伝子型の確率を推定するのに、尤度比検定に基づいて開発された段階的手順を用いた。対象とする遺伝子座における、順序づけられた遺伝子型の確率は、下記の通り、情報価値のある隣接するマーカーによって条件づけられていると推定された。
【0130】
【数7】
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式中、P(Hsadb|M)は、観察された遺伝子型データMによって条件づけられているすべての連鎖している遺伝子座に、1対のハプロタイプ(または順序遺伝子型)Hsadbを有する雄親の確率であり、P(Hsikdlk|Hsadb,M)は、すべての連鎖している遺伝子座における雄親の順序づけられた遺伝子型Hsadbおよび観察された遺伝子型データMによって条件づけられている、順序づけられた遺伝子型Hsikdlkを、対象とする遺伝子座に有する雄仔の確率である。
【0131】
ハプロタイプの確率と形質表現型との間の関連性を特定するために、染色体間隔の最大長、ならびに含有されているマーカーの最小数および最大数を設定することによって、各染色体の端から端までのマーカーのハプロタイプを定義した。下記のモデルを用いた回帰アプローチを介して、前調整された形質表現型とハプロタイプとの間の関連性を評価した。
【0132】
【数8】
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配列中、Idは指数PTAであり、異なった分析では異なった定義を有する。非調整データを用いる分析では、Idは式13を用いて計算される経済指数を指す。前調整データを用いる分析では、Idは、式14および式15で定義される、それぞれ雄親モデルおよびSPTAモデルにおけるk番目の雄ウシの前調整されたPTAを指す。eは残差であり、P(Hsik)およびP(Hdik)は、個体kの父方ハプロタイプおよび母方ハプロタイプがハプロタイプiである確率であり、P(Hsikdik)は、式16を用いて推定できる、個体kが父方ハプロタイプiおよび母方ハプロタイプjを有する確率であり、すべてのβが対応する回帰係数である。式17、18、19および20はそれぞれ、父方ハプロタイプ、母方ハプロタイプ、相加ハプロタイプおよび遺伝子型効果をモデル化するように設計されている。
【0133】
各SNP、および同一の染色体上にあり、かつそれらの間の距離が≦2cMであると推定されている2つSNPのすべての組合せについて分析を行った。式17〜20におけるハプロタイプ確率は、単一マーカー分析の場合には対立遺伝子確率になることに留意するべきである。
【0134】
表現型形質へのハプロタイプまたはハプロタイプ対の影響を推定するには最小2乗法を使用し、影響の有意性の検定には通常のF検定を使用した。第一種過誤率(p値)を推定するために、各父方半同胞家族内の表現型順列(20,000)に基づいて順列検定を行った。
【0135】
(実施例7)
経済指数を予測するのに価値のあるマーカーの同定。
最初のステップは、経済指数を予測する際に価値のあるSNPを精選するため、雄親モデルおよびSPTAモデルの両方に関して、前調整されたデータを用いた分析から得られた結果のマイニングを行うことであった。これは、より頑強な結果を得るように設計されていた。SNPの選択は、多重因子に基づいており、それらには、各SNPの対立遺伝子頻度、および対象とするSNPと経済指数との間の関連性に関する統計的証拠、ならびに、対象とするSNPを含有する2つのSNP遺伝子座の群と、経済指数との間の関連性に関して、上述の14の経済指数すべてとの関連性に関する統計的証拠、およびゲノム内の各SNP選択について10〜20cM内にあるすべてのSNPの連合要件が含まれる。
【0136】
その後、選択された各SNPにおける遺伝子型のゲノムマーカー指数の経済的重みを、非調整データを用いたものからの結果に基づいて決定した。これは、より高精度な遺伝的メリットの予測を実現するように設計された。詳細には、重みは、式19に記載の単一マーカー分析における対立遺伝子効果として推定された。
【0137】
合計で、121のマーカーが本発明者らの最初の分析で同定された。これらの121のマーカーの対立遺伝子の、14の経済指数すべてに関して推定された経済的重みを表2および表3に報告する。遺伝子型の重みは、その遺伝子型がそれらからなる2つの対立遺伝子の重みの合計として計算されることに留意されたい。
【0138】
(実施例8)
雄ウシのゲノムマーカー指数の決定
表1と組み合わせて、式2を用いてゲノムマーカー指数を計算する。詳細には、式中の変数は、各マーカーそれぞれについて表に示した重みつき係数によって規定される。
【0139】
最初のステップは、ある動物について、表1に記載の121のマーカーをすべて遺伝子型決定することである。この結果得られた遺伝子型データを用いて、下記の式を使用して、動物(すなわちk番目の動物)のi番目のゲノムマーカー指数を決定することができる。
【0140】
【数9】
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式中、Gjkは雄ウシkのj番目のマーカー遺伝子型であり、Wij(Gjk)は指数iに関するj番目のマーカーにおける遺伝子型Gjkの重みである。表1に示した値は、単一鎖DNA用の重みづけに相当する。したがって、各遺伝子型は、各SNPあたり2つの値、各対立遺伝子あたり1つの値を有するであろう。ホモ接合体の値は、各対立遺伝子用の重みづけの2倍であろう、一方、ヘテロ接合体の値は、各対立遺伝子の重みづけの合計であろう。例えば、SNP1(例えばGG)のG対立遺伝子についてホモ接合体である試料は、表1でG対立遺伝子用に示された重みづけの2×に等しい重みづけを含有するであろう。SNP1(例えばGA)のヘテロ接合体である試料は、G対立遺伝子用の重みづけと、A対立遺伝子用の重みづけとの合計に等しい重みづけを含有するであろう。
【0141】
例えば、ある雄ウシの指数1のGMIは次の通り計算されるであろう。
SNP1の遺伝子型=GG、重みづけ=0.45621+0.45621=0.91242
SNP2の遺伝子型=GA、重みづけ=0.174516+0.480119=0.657895
SNP3の遺伝子型=TT、重みづけ=(−0.13095)+(−0.13095)=−0.26191

SNP121の遺伝子型=AG、重みづけ=0.642706+0.071233=0.713936
【0142】
したがって、GMI=0.91242+0.657895+(−0.26191)+0.713936
【0143】
(実施例9)
雄ウシ精液のゲノムマーカー指数の決定
精液は一倍体細胞を含有するが、多くの細胞を遺伝子型決定することによって、依然としてそれらをGMIと共に用いることができる。第1のステップは、十分に多数の精細胞(例えば1,000,000細胞を超える)を含有している精液ストローまたは試料を入手することである。第2のステップは、精液ストロー(すなわち多数の精細胞のプール)からDNAを抽出することである。抽出されたDNAは、その後、表1および配列表に示したマーカーを遺伝子型決定するのに使用されることになる。これらの遺伝子型結果は、親動物のDNAの両方の鎖に関する情報を含有しているであろう。それゆえ、式3を用いるゲノムマーカー指数の計算に、それらの遺伝子型データを用いることができる。
【0144】
参考文献
この出願で、上記および下記に引用された参考文献を参照により明確に本明細書に組み込む。
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【0145】
【表4−1】
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【0146】
【表4−2】
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【0147】
【表4−3】
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【0148】
【表4−4】
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【図1】
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【公表番号】特表2010−533491(P2010−533491A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517006(P2010−517006)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/008641
【国際公開番号】WO2009/011847
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】