説明

乳癌に関連する遺伝子およびポリペプチド

本出願は、乳癌で発現が顕著に亢進している新規なヒト遺伝子B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3を提供する。これらの遺伝子およびこれらによってコードされるポリペプチドは、例えば、乳癌の診断に用いること、および乳癌に対する薬剤を開発するための標的分子として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は生物科学の分野に関し、より具体的には癌研究の分野に関する。特に、本発明は、乳癌の増殖機構に関与する新規遺伝子B1194およびA2282、ならびにこれらの遺伝子によってコードされるポリペプチドに関する。本発明の遺伝子およびポリペプチドは、例えば、乳癌の診断に、および乳癌に対する薬剤を開発するための標的分子として、用いることができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
遺伝的に異質な疾患である乳癌は、女性で最も頻度の高い悪性腫瘍である。全世界で毎年、推定で約800,000例の新たな症例が報告されている(Parkin DMら、(1999). CA Cancer J Clin 49: 33-64)。医学的処置のための、同時に存在する選択肢のうち第一のものは依然として乳房切除術である。原発性腫瘍の外科的除去を行っても、診断時には検出不可能な微小転移のために、局所または遠隔部位での再発が起こる可能性がある(Saphner Tら、(1996). J Clin Oncol, 14, 2738-2749)。このような残存細胞または前癌細胞を死滅させることを狙いとして、手術後には通常、アジュバント療法として細胞毒性薬剤が投与される。従来の化学療法薬剤による治療は往々にして経験に依拠しており、ほとんどは組織学的腫瘍パラメーターに基づいたもので、具体的な機序は解明されていない。このため、標的指向性薬物が乳癌に対する根本的な治療法となりつつある。タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬はこの種のものを代表する2つであり、転移性乳癌を有する患者にアジュバントまたは化学予防薬として用いた場合に大きな反応があることが証明されている(Fisher Bら、(1998). J Natl Cancer Inst, 90, 1371-1388;Cuzick J (2002). Lancet 360, 817-824)。しかしながら、その欠点は、これらの薬剤に対する感受性があるのはエストロゲン受容体を発現している患者のみであることである。最近では、副作用、例えば長期的なタモキシフェン治療に起因する子宮内膜癌、および閉経後の女性におけるアロマターゼ治療に起因する骨折に関する懸念すら生じている(Coleman RE (2004). Oncology. 18(5 Suppl 3), 16-20)。
【0003】
診断および治療の戦略の最近の進歩にもかかわらず、進行癌の患者の予後は依然として極めて悪い。腫瘍抑制遺伝子および/または癌遺伝子の変化が発癌に関与することが分子的な研究によって明らかになってきたが、その厳密な機序は依然として不明である。
【0004】
cDNAマイクロアレイ技術により、正常細胞および悪性細胞における遺伝子発現の包括的プロファイルの構築、ならびに悪性細胞および対応する正常細胞における遺伝子発現の比較が可能になった(Okabeら、Cancer Res 61: 2129-37 (2001);Kitaharaら、Cancer Res 61: 3544-9 (2001);Linら、Oncogene 21: 4120-8 (2002);Hasegawaら、Cancer Res 62: 7012-7 (2002))。このアプローチは癌細胞の複雑な性質の理解を容易にし、発癌の機序を解明する一助となる。腫瘍において脱制御される遺伝子の同定は、個々の癌のより正確で間違いのない診断、および新規な治療標的の開発につながる可能性がある(BienzおよびClevers、Cell 103: 311-20 (2000))。腫瘍の基礎をなす機序を全ゲノム的な観点から解明するため、ならびに診断および新規治療薬の開発のための標的分子を探索するために、本発明者らは、23,040の遺伝子を含むcDNAマイクロアレイを用いて腫瘍細胞の発現プロファイルを分析してきた(Okabeら、Cancer Res 61: 2129-37 (2001);Kitaharaら、Cancer Res 61: 3544-9 (2001);Linら、Oncogene 21: 4120-8 (2002);Hasegawaら、Cancer Res 62: 7012-7 (2002))。
【0005】
発癌の機序を明らかにする目的で設計された研究により、抗腫瘍薬の分子標的を同定することは既に容易である。例えば、Ras(その活性化は翻訳後ファルネシル化に依存する)が関係する増殖シグナル伝達経路を阻害するために当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおけるRas依存性腫瘍の治療に有効である事が示された(Sun Jら、Oncogene, 1998;16:1467-73)。抗癌薬と抗HER2モノクローナル抗体トラスツズマブ(trastuzumab)を併用したヒトに対する臨床試験がプロト癌遺伝子受容体HER2/neuの拮抗を目的として実施されており、乳癌患者の臨床効果および全般的な生存率の改善が達成されている(Molina MAら、Cancer Res, 2001;61: 4744-9)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球のトランスフォーメーションに決定的な役割を果たす、慢性骨髄性白血病の治療を目的として開発された。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制する目的で設計されている(O'Dwyer ME & Drunker BJ, Curr Opin Oncol. 2000;12:594-7)。このため、癌細胞で一般的に上方制御される遺伝子産物は、新規抗癌薬を開発するための標的候補として役立つ可能性がある。
【0006】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが示されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが免疫学的アプローチを用いて発見されている(Boon、Int J Cancer 54: 177-80 (1993);Boonおよびvan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))。発見されたTAAのいくつかは現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが示された遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。このような遺伝子産物には、p53(Umanoら、Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanakaら、Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukayaら、Int J Cancer 80: 92-7 (1999))などが含まれる。
【0007】
TAAに関する基礎研究および臨床研究の著しい進歩にもかかわらず(Rosenbregら、Nature Med 4: 321-7 (1998);Mukherjiら、Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995);Huら、Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、乳癌を含む腺癌の治療のための候補となるTAAの数は現在非常に限られている。癌細胞で大量に発現されると同時にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫治療の標的として有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘発する新たなTAAの同定は、様々な種類の癌におけるペプチドワクチン接種の臨床使用を促すと考えられる(Boonおよびvan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994);Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998);Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997);Harris、J Natl Cancer Inst 88: 1442-55 (1996);Butterfieldら、Cancer Res 59: 3134-42 (1999);Vissersら、Cancer Res 59: 5554-9 (1999);van der Burgら、J Immunol 156: 3308-14 (1996);Tanakaら、Cancer Res 57: 4465-8 (1997);Fujieら、Int J Cancer 80: 169-72 (1999);Kikuchiら、Int J Cancer 81: 459-66 (1999);Oisoら、Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0008】
ある一定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)がペプチド刺激を受けると、ペプチドに反応して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイでHLA-A24またはHLA-A0201拘束的な様式で腫瘍細胞に対して細胞障害性を及ぼすことはほとんどないと繰り返し報告されている(Kawanoら、Cancer Res 60: 3550-8 (2000);Nishizakaら、Cancer Res 60: 4830-7 (2000);Tamuraら、Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかしながら、HLA-A24およびHLA-A0201はどちらも日本人に多いHLA対立遺伝子であり、白人集団でも同様である(Dateら、Tissue Antigens 47: 93-101 (1996);Kondoら、J Immunol 155: 4307-12 (1995);Kuboら、J Immunol 152: 3913-24 (1994);Imanishiら、Proceeding of the eleventh International Hictocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press、Oxford、1065 (1992);Williamsら、Tissue Antigens 49: 129 (1997))。このため、これらのHLAによって提示される癌の抗原ペプチドは、日本人および白人集団の癌の治療に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常、ペプチドを高濃度で用いて、抗原提示細胞(APC)の表面に、これらのCTLを効果的に活性化すると考えられる特異的ペプチド/MHC複合体を高レベルに生じさせることによって起こることが知られている(Alexander-Millerら、Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【0009】
乳癌の発症機序を解明するため、ならびにこれらの腫瘍の治療のための新規診断マーカーおよび/または薬剤標的を同定するために、本発明者らは、27,648種の遺伝子を含むゲノム全域のcDNAマイクロアレイを用いて、乳癌の発症における遺伝子の発現プロファイルを分析した。薬理学的な観点からは、発癌シグナルを抑制する方が腫瘍抑制効果の活性化を行うよりも現実的には容易である。このため、本発明者らは、乳癌の発症時に上方制御される遺伝子を探索した。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
したがって、癌に伴う発癌機序を解明する試み、および新規な抗癌剤を開発するための潜在的な標的を同定する試みにおいて、27,648の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて、乳癌細胞の純化集団における遺伝子発現パターンの大規模分析を行った。より詳細には、乳癌の治療のための新規な分子標的を単離するために、cDNAマイクロアレイとレーザービームマイクロダイセクション法とを併用して、8例の腺管上皮内癌(DCIS)および69例の侵襲性腺管癌(IDC)を含む、77例の乳房腫瘍の高精度のゲノムワイド発現プロファイルを検討した。
【0011】
上方制御される遺伝子の中から、本発明者らは、発現データが入手可能である41例の乳癌のうち24例(59%)、特に高分化型の乳癌標本36例のうち20例(56%)において2倍よりも多く過剰発現する仮想的タンパク質FLJ 10252を設計するB1194を同定した。母体胚性ロイシンジッパーキナーゼ(maternal embryonic leucine zipper kinase)(MELK)を設計するA2282もまた同定され、これは発現データが入手可能である33例の乳癌のうち25例(76%)、特に中程度分化型の乳癌標本14例のうち10例(56%)において3倍よりも多く過剰発現した。その後の半定量的RT-PCRにより、B1194およびA2282が、乳腺細胞または正常な乳房を含む正常なヒト組織と比較して、臨床的乳癌標本および乳癌細胞株において上方制御されている事が確認された。ノーザンブロット分析により、B1194およびA2282の約2.4kbの転写物が精巣(B1194)および乳癌細胞株(B1194およびA2282)のみで発現している事もまた明らかになった。免疫細胞化学染色では、COS細胞において外因性のB1194核器官に局在する事が示された。低分子干渉RNAによる(siRNA)による乳癌細胞の処置が、B1194およびA2282の発現を効果的に阻害し、乳癌細胞株T47Dおよび/MCF7の細胞/腫瘍の増殖を抑制した事から、これらの遺伝子が細胞の増殖において重要な役割を果たす事が示唆された。これらの知見はB1194およびA2282の過剰発現が乳癌の発生に関与している事、および乳癌患者のための特異的な治療に対する有望な戦略を提供し得る事を示唆している。
【0012】
したがって、乳癌細胞において著しく過剰発現している新規な遺伝子B1194およびA2282を単離し、半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析によって、B1194の発現パターン、およびA2282、V1、V2、V3変異型で、乳癌細胞において特異的に過剰発現している事を確認した。非小細胞肺癌においてはB1194およびA2282両方のESTが上方制御されている事が以前に報告されている(国際公開公報第2004/031413)。しかしながら、乳癌に対するこれらの遺伝子の関係は以前には知られていない。さらに、これらの遺伝子の完全長ヌクレオチド配列は本発明にとって新規である。
【0013】
したがって、本発明の目的は、乳癌細胞の増殖機構に関与する新規なタンパク質、およびこのようなタンパク質をコードする遺伝子、ならびにこれらを作製ならびに乳癌の診断および治療において使用する方法を提供する事である。
【0014】
乳癌において一般的にに上方制御される転写物の中から、新規ヒト遺伝子B1194、 A2282V1、A2282V2、およびA2282V3がそれぞれ染色体バンド1q41および9p13.1上に同定された。B1194、 A2282V1、A2282V2、およびA2282V3の遺伝子導入は細胞の増殖を促進した。さらに、特異的なアンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(small interfering RNA)のトランスフェクションによるB1194、 A2282V1、A2282V2、およびA2282V3の発現低下は乳癌細胞の増殖を阻害した。DNAおよび/またはRNA合成の阻害剤、代謝抑制物質ならびにDNAインターカレーターといった多くの抗癌薬は、癌細胞のみならず、正常に増殖している細胞に対しても有害である。しかしながら、B1194の発現を抑制する薬剤は、この遺伝子の通常の発現が精巣に限局しているため、他の臓器には有害な影響を及ぼさないと考えられ、このため、癌の治療に非常に重要である可能性がある。
【0015】
したがって、本発明は、癌の診断マーカーの候補であるとともに、診断のための新たな戦略および有効な抗癌薬を開発するための有望な標的候補でもある、単離された新規遺伝子B1194、 A2282V1、A2282V2、およびA2282V3を提供する。さらに、本発明は、これらの遺伝子によってコードされるポリペプチドのほか、その産生および使用も提供する。より具体的に述べると、本発明は以下を提供する。
【0016】
本出願はまた、新規ヒトポリペプチドB1194、 A2282V1、A2282V2、およびA2282V3、または細胞増殖を促進し、乳癌などの細胞増殖性疾患において上方制御されるそれらの機能的同等物を提供する。
【0017】
1つの好ましい態様において、B1194ポリペプチドは推定528アミノ酸のタンパク質を含む。B1194はSEQ ID NO:1のオープンリーディングフレームによってコードされる。B1194ポリペプチドは、好ましくは、SEQ ID NO:2に示されたアミノ酸配列を含む。本出願はまた、B1194ポリヌクレオチド配列の少なくとも一部により、またはSEQ ID NO:1に示された配列に対して少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%相補的なポリヌクレオチド配列によりコードされる、単離されたタンパク質も提供する。
【0018】
1つの好ましい態様において、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3ポリペプチドは、それぞれSEQ ID NO:3、5、および7のオープンリーディングフレームによってコードされる推定651、619、および580アミノ酸のタンパク質を含む。A2282V1、A2282V2、およびA2282V3ポリペプチドは、好ましくは、それぞれSEQ ID NO:4、6、および8に示されたアミノ酸配列を含む。本出願はまた、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3ポリヌクレオチド配列の少なくとも一部により、またはそれぞれSEQ ID NO:3、5、および7に示された配列に対して少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%相補的なポリヌクレオチド配列によりコードされる、単離されたタンパク質も提供する。
【0019】
本発明はさらに、対応する非癌組織と比較して乳癌の大半でその発現が顕著に上昇している新規ヒト遺伝子B1194、 A2282V1、A2282V2、およびA2282V3を提供する。単離されたB1194遺伝子は、SEQ ID NO:1に記載されたポリヌクレオチド配列を含む。具体的には、B1194 cDNAは、1587ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2338ヌクレオチドを含む(SEQ ID NO:1)。本発明はさらに、SEQ ID NO:1に示されたポリヌクレオチド配列とハイブリダイズし、B1194タンパク質またはその機能的同等物をコードする範囲でそれに対して少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%相補的なポリヌクレオチドも含む。このようなポリヌクレオチドの例は、SEQ ID NO:1の縮重物および対立遺伝子突然変異体である。一方、単離されたA2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子は、それぞれSEQ ID NO:3、5、および7に記載されたポリヌクレオチド配列を含む。具体的には、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3 cDNAは、それぞれ1956、1860、および1743ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2501、2368、および2251ヌクレオチドを含む(それぞれSEQ ID NO:3、5、および7)。本発明はさらに、それぞれSEQ ID NO:3、5、および7に示されたポリヌクレオチド配列とハイブリダイズし、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質またはその機能的同等物をコードする範囲でそれに対して少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%相補的なポリヌクレオチドも含む。このようなポリヌクレオチドの例は、SEQ ID NO:3、5、および7の縮重物および対立遺伝子突然変異体である。
【0020】
本明細書で用いる場合、単離された遺伝子とは、その構造が、どの天然のポリヌクレオチドの構造とも同一でなく、別個の遺伝子3つを上回る範囲の天然のゲノムポリヌクレオチドのいかなる断片の構造とも同一でない、ポリヌクレオチドのことである。このため、この用語には、例えば(a)自然下で生物のゲノム中に存在し、天然のゲノムDNA分子の部分の配列を有するDNA、(b)結果として生じる分子がどの天然のベクターまたはゲノムDNAとも同一でないような様式で、ベクター中または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み入れられたポリヌクレオチド、(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じた断片または制限断片などの独立した分子、および(d)ハイブリッド遺伝子の部分である組換えヌクレオチド配列、すなわち融合ポリペプチドをコードする遺伝子、が含まれる。
【0021】
したがって、1つの局面において、本発明は、本明細書に記載のポリペプチドまたはその断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。単離されたポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1、3、5、または7に示されたヌクレオチド配列と少なくとも60%同一なヌクレオチド配列を含むことが好ましい。単離された核酸分子は、SEQ ID NO:1、3、5、または7に示されたヌクレオチド配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であることがより好ましい。参照配列、例えばSEQ ID NO:1、3、5、または7よりも長いか長さの等しい単離されたポリヌクレオチドの場合には、参照配列の完全長との比較が行われる。単離されたポリヌクレオチドが参照配列よりも短い、例えばSEQ ID NO:1、3、5、または7よりも短い場合には、同じ長さ(相同性の算出に必要なループは除外して)の参照配列のセグメントとの比較が行われる。
【0022】
本発明はまた、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を用いて宿主細胞のトランスフェクションまたは形質転換を行うこと、およびそのポリヌクレオチド配列を発現させることによる、タンパク質の産生方法も提供する。加えて、本発明は、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、およびB1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするポリヌクレオチドを保有する宿主細胞も提供する。このようなベクターおよび宿主細胞は、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の産生のために用いることができる。
【0023】
B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質を認識する抗体も、本出願によって提供される。一部には、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド(例えば、アンチセンスDNA)、リボザイムおよびsiRNA(低分子干渉RNA)も提供される。
【0024】
本発明はさらに、標本の生物試料におけるB1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルを決定する段階、および、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルを正常試料におけるものと比較する段階を含む、乳癌の診断のための方法であって、試料における、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の高い発現レベルが乳癌の指標となる方法を提供する。
【0025】
さらに、乳癌の治療に有用な化合物のスクリーニング方法も提供される。本方法は、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドを被験化合物と接触させる段階、およびB1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階を含む。
【0026】
本発明はさらに、乳癌の治療に有用な化合物のスクリーニング方法であって、B1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドを被験化合物と接触させる段階、およびB1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドの生物学的活性を抑制する被験化合物を選択する段階を含む方法も提供する。
【0027】
本出願はまた、乳癌の治療に有用な薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、例えば抗癌薬であってよい。薬学的組成物は、それぞれSEQ ID NO:1、3、5、または7に提示および記載されたB1194、 A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリヌクレオチド配列のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはsiRNAの少なくとも一部として記載することができる。siRNAの適した標的配列の例には、SEQ ID NO:38、39、40、および41に示されたヌクレオチド配列が含まれる。SEQ ID NO:38または39のヌクレオチド配列を有するものを含む、B1194に対するsiRNAの標的配列は、乳癌の治療に好適に用いられる可能性があり;SEQ ID NO:40または41のヌクレオチド配列を有するものを含む、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3に対するsiRNAの標的配列もまた、乳癌の治療に好適に用いられる可能性がある。本発明の薬学的組成物には、乳癌の治療に有用な化合物に関する本スクリーニング方法によって選択される化合物も含まれる。
【0028】
薬学的組成物の作用経路は、癌性細胞の増殖を阻害するものであることが望ましい。薬学的組成物は、ヒトおよび飼い慣らされた哺乳動物を含む、哺乳動物に対して適用しうる。
【0029】
本発明はさらに、本発明によって提供される薬学的組成物を用いて乳癌を治療するための方法を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドを投与する段階を含む、乳癌の治療または予防のための方法も提供する。このようなB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドの投与により、抗腫瘍免疫が誘導される事が期待される。したがって、本発明はまた、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドを投与する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法、ならびにB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3ポリペプチドを含む、乳癌の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。
【0031】
本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、以下の詳細な説明が、添付の図面および実施例と併せて読まれると、さらに十分に明確になると考えられる。しかしながら、上記の本発明の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであって、本発明または本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないことが理解されるべきである。
【0032】
好ましい態様の詳細な説明
I.概観
本出願は、対応する非癌性組織と比較して乳癌でその発現が顕著に亢進している新規なヒト遺伝子B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3を同定している。B1194 cDNAは、SEQ ID NO:1に示された1587ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2338ヌクレオチドからなる。このオープンリーディングフレームは、528アミノ酸のタンパク質と推定されるものをコードする。同様に、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3のcDNAは、それぞれ1956、1860、および1743ヌクレオチド(それぞれSEQ ID NO:3、5、および7)のオープンリーディングフレームを含む2501、2368、および2251ヌクレオチドを含む。SEQ ID NO:5および7のヌクレオチド配列(それぞれA2282V2およびA2282V3)は、日本DNAデータバンク(DNA Databank of Japan)(DDBJ)に提出されており、それぞれアクセッション番号AB183427およびAB183428が割り当てられている。このタンパク質の発現は乳癌で上方制御されるため、これらのタンパク質はそれぞれA2282V1、A2282V2、およびA2282V3(乳癌で上方制御される)と命名された。
【0033】
細胞におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3の外因性発現は常に細胞増殖の増加をもたらし、一方、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)によるその発現の抑制は癌細胞の顕著な増殖阻害をもたらした。これらの所見は、B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3が癌細胞に発癌活性を与えること、およびこれらのタンパク質の活性の阻害が癌の治療のための有望な戦略となりうることを示唆する。
【0034】
より詳細には、FLJ-10252仮想的タンパク質遺伝子に対して設計されるB1194が、乳癌の発現プロファイルを経て顕著に上方制御されることが本明細書で明らかになった。この知見は、臨床試料を用いた半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析によって確かめられた。さらに、この遺伝子の発現は遍在的な事象というよりは癌特異的であることが見いだされた。低分子干渉RNA(siRNA)による乳癌細胞の処理はB1194の発現を効果的に阻害し、乳癌細胞株T47Dの細胞/腫瘍増殖を抑制した。これらの知見を総合すると、FLJ-10252仮想的タンパク質が乳癌薬開発のための卓越した新規分子候補であることが示唆される。
【0035】
さらに、ゲノムワイドcDNAマイクロアレイ手段を用いた乳癌の厳密な発現プロファイルにより、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞で顕著に過剰発現される新規遺伝子A2282が単離された。乳癌細胞をsiRNAで処理すると、A2282の発現が効果的に阻害され、乳癌の細胞/腫瘍増殖が有意に抑制された。
【0036】
ツメガエルおよびマウスの胚の発生過程で同定されたKIN1/PAR-1/MARKファミリーの新たなメンバーであるMELK(Blot Jら、(2002). Dev Biol, 241, 327-338;Heyer BSら、(1999). Dev Dyn, 215, 344-351)に対して設計されたA2282を、乳癌におけるその発現が顕著に亢進している事から、検討のために選択した。ヒトMELK遺伝子の5種類の変異型が同定され、それらのうち約2.4kbの転写物は癌特異的な発現を示したが、他の2つの転写物はほぼすべての臓器で翻訳不能であった。配列解析により、2種類の転写物ではN末端の触媒ドメインにおける内部欠失が判明し、これらはその後にV2およびV3と命名された。これらの欠失は、同一のリーディングフレーム中に代替的な開始コドンを有し、V2またはV3の新規な開始翻訳コドンを生成させ、N末端部分の欠失を生じさせる、より短いタンパク質の翻訳につながる早期の翻訳終結を引き起こした。この3種類の変異型のアミノ酸配列のアラインメントにより、V2およびV3は依然として部分的なキナーゼドメインは保っているが、膜貫通領域と推定されるものは保っていないことが明らかに示された。しかしながら、この欠失がこのタンパク質の速度論的活性に影響を及ぼすか否かは不明である。
【0037】
これらの転写物の特徴を明確にするために、これらの変異型のリン酸化状態を細胞周期に沿って調べた。以前の研究(Davezac Nら、(2002). Oncogene, 21, 7630-7641)に一致して、V1は有糸分裂中に強くリン酸化されることが示された。しかしながら、リン酸化V2およびV3は細胞周期のいずれの時期にも観察されなかった。興味深いことに、同期化したHeLa細胞におけるこれらの転写物の一過性発現の影響には幾分違いがあった。V1の発現は最初の細胞周期の短縮およびその後のG2/M期の停止をもたらした。これに対して、V2およびV3の誘導は、トランスフェクションを行っていない対照細胞に比べて最初の細胞周期を延長させた。初期的な結果の差異にもかかわらず、すべての変異型が最終的には細胞をG2/M期で停止させることができた。同様の結果はこれまでにも報告されている(Davezac Nら、(2002). Oncogene, 21, 7630-7641;Vulsteke Vら、(2004). J Biol Chem, 279, 8642-7)。さらに、最近の証拠からは、MELKのC末端ドメインはMELKのキナーゼ活性の強力な阻害因子であり得るることが示唆されている(Vulsteke Vら、(2004). J Biol Chem, 279, 8642-7)。この知見は、MELKのキナーゼドメインが乳癌における細胞周期の短縮の一因となること、およびその活性がそのC末端ドメインの負の調節下で厳密に制御され得ることを推測させる。
【0038】
以上を総合すると、これらの知見は、A2282が、同定されていないシグナル伝達経路を介した癌細胞増殖のために必須である不可欠な癌特異的遺伝子であることを示している。これらの結果に基づくと、MELKは乳癌治療のための有望な分子標的であるように思われる。
【0039】
II.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、別に特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0040】
本発明の文脈において、2つのタンパク質間の「結合の阻害」とは、タンパク質間の結合を少なくとも減少させることを指す。したがって、場合によっては、試料中の結合対のパーセンテージは、適切な(例えば、被験化合物で処理されていない、または非癌試料もしくは癌試料からの)対照と比較して減少していると考えられる。結合しているタンパク質の量の減少は、対照試料中の結合した対よりも、例えば、90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、25%未満、10%未満、5%未満、1%未満、またはそれ未満(例えば、0%)であってよい。
【0041】
化合物の「薬学的有効量」とは、個体における癌を治療および/または改善するために十分な量のことである。薬学的有効量の一例は、動物に対して投与された場合に、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3の発現を低下させるために必要な量であってよい。低下は、例えば、発現の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%の変化であってよい。
【0042】
「薬学的に許容される担体」という語句は、薬剤の希釈剤または媒体として用いられる不活性物質のことを指す。
【0043】
本発明において、「機能的に等価な」という用語は、対象ポリペプチドが、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のように、細胞増殖を促進させて、癌細胞に発癌活性を付与する活性を有することを意味する。加えて、機能的に等価なポリペプチドが、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3タンパク質に付随するタンパク質キナーゼ活性を有してもよい。このような活性を決定するためのアッセイは当技術分野で周知である。例えば、対象ポリペプチドが細胞増殖活性を有するか否かは、対象ポリペプチドをコードするDNAを、各々のポリペプチドを発現している細胞に導入して、細胞の増殖の促進またはコロニー形成活性の上昇を検出することによって判断する事ができる。このような細胞には、例えば、B1194およびA2282V1、A2282V2、A2282V3に対するCOS7細胞およびNIH3T3細胞が含まれる。
【0044】
「単離された」および「生物的に純粋な」という用語は、天然の状態で認められるように通常それに付随する成分を実質的または本質的に含まない物質のことを指す。しかしながら、「単離された」という用語は、電気泳動ゲルまたは他の分離用媒質中に存在する成分のことは指さないものとする。単離された成分はこのような分離用媒質を含まず、別の用途に直ちに用いる事ができる形態、または新たな用途/環境にてすでに用いられている形態にある。
【0045】
本発明の文脈において、「配列同一性の割合」は、最適なアラインメントがなされた2つの配列を比較ウィンドウにわたって比較することによって決定され、この際、比較ウィンドウ内にあるポリヌクレオチド配列の部分は、この2つの配列の最適なアラインメントのために、付加も欠失も含まない参照配列(例えば、本発明のポリペプチド)との比較で付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。この割合は、両方の配列に同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置の数を決定して一致する位置の数を求め、一致した位置の数を比較ウィンドウにおける位置の総数で除算し、その結果に100を掛けて配列同一性の割合を求めることによって算出される。
【0046】
2つまたはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、「同一な」または「同一性」の割合という用語は、同一の配列である2またはそれ以上の配列または部分配列のことを指す。2つの配列は、比較ウィンドウにわたって、または以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いるかもしくは手作業によるアラインメントおよび目視検査によって測定された指定された領域にわたって、最大の対応関係が得られるように比較およびアラインメントを行った場合に、同一(すなわち、特定の領域にわたって、または特定されていない場合には配列全体にわたって、60%の同一性、任意で65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%の同一性)であるアミノ酸残基またはヌクレオチドが特定の割合であれば、「実質的に同一」である。任意で、同一性は、少なくとも約50ヌクレオチド長の領域にわたって、またはより好ましくは少なくとも100〜500もしくは1000もしくはそれ以上のヌクレオチド長の領域にわたって存在する。
【0047】
配列比較のためには、1つの配列を、被験配列と比較するための参照配列として用いることが一般的である。配列比較アルゴリズムを用いる場合には、被験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列の座標を指定して、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターを指定する。デフォルトのプログラムパラメーターを用いることもでき、または別のパラメーターを指定することもできる。続いて、プログラムのパラメーターに基づいて、参照配列に対する被験配列の配列同一性の割合を配列比較アルゴリズムが計算する。
【0048】
本明細書で用いる「比較ウィンドウ」は、2つの配列の最適なアラインメントを行った後に、ある配列を同じ数の連続した位置の参照配列と比較しうる、20〜600個、通常は約50〜約200個、より一般的には約100〜約150個からなる群から選択される数の連続した位置のうち任意の1つの位置の区域に対する言及を含んでいる。比較のための配列のアラインメントの方法は当技術分野で周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えばSmith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482-489の局所的相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48: 443の相同性アラインメントアルゴリズムにより、Pearson and Lipman (1988) Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85: 2444の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ・インプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)により、または手作業によるアラインメントおよび目視検査によって行うことができる(例えば、Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」(1995年補遺)を参照されたい)。
【0049】
配列同一性の割合および配列類似性の決定のために適したアルゴリズムの2つの例はBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれAltschulら、(1977) Nuc. Acids Res. 25: 3389-3402およびAltschulら、(1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウエアは米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)を通して公的に入手可能である。このアルゴリズムでは、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントを行った場合に何らかの正値の閾値スコアTと一致するかまたはそれを満たす、長さWの短いワードをクエリー配列中に同定することにより、高スコア配列ペア(HSP)をまず同定する。Tは近隣ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschulら、前記)。これらの初期の近隣ワードでのヒットは、それらを含む長いHSPを見いだすための検索を開始する源としての役割を果たす。ワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加可能である限り、各配列の両方向に対して延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(一致する残基対に関する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に関するペナルティスコア;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合には、累積スコアの算出にスコア行列を用いる。各方向へのワードヒットの延長は以下の場合に停止する:累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低くなった場合:1つもしくは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積のために累積スコアがゼロまたはそれ未満になった場合;または配列のいずれかの端に達した場合。BLASTアルゴリズムのパラメーターであるW、T、およびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラムは(ヌクレオチド配列の場合)、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両ストランドの比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムはデフォルトとしてワード長3および期待値(E)10、ならびにBLOSUM62スコア行列(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915を参照)のアラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両ストランドの比較を用いる。
【0050】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列の間の類似性に関する統計分析も行う(例えば、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7を参照)。BLASTアルゴリズムによって得られる類似性の基準の1つは最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、ある核酸は、被験核酸と参照核酸との比較における最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満の場合に、参照配列と類似しているとみなされる。
【0051】
本明細書で用いる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、DNAまたはmRNAの特定領域を構成するものに対応するヌクレオチドが完全に相補的であるものを意味するだけでなく、1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチがあるものも、DNAまたはmRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドがSEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズしうる限りは意味する。
【0052】
このようなポリヌクレオチドは、「少なくとも15個の連続したヌクレオチド配列の領域」内に、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するものとして含まれる。相同性の決定には本明細書に述べたアルゴリズムを用いることができる。このようなポリヌクレオチドは、以下の実施例の項で述べるように本発明のポリペプチドをコードするDNAの単離もしくは検出のためのプローブとして、または増幅用のプライマーとして有用である。
【0053】
「標識」または「検出可能な標識」という用語は、本明細書において、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、または化学的手段によって検出可能な任意の組成物を指すために使用される。このような標識には、標識ストレプトアビジン結合物を用いる染色のためのビオチン、磁気ビーズ(例えば、DYNABEADS(商標))、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14C、または32P)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびELISAに一般に用いられる他の酵素)、ならびにコロイド金または着色ガラスもしくは合成樹脂製(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズなどの熱量測定標識が含まれる。このような標識の使用を教示している特許には、米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号;および第4,366,241号が含まれる。このような標識を検出する手段は当業者に周知である。したがって、例えば、放射性標識は写真フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出することができ、蛍光マーカーは放射光を検出するための光検出器を用いて検出することができる。酵素標識は典型的には酵素に基質を与え、基質上の酵素の作用によって生成される反応産物を検出することによって検出され、熱量測定標識は着色標識を単に可視化することによって検出される。
【0054】
本明細書で用いる「抗体」という用語には、天然に存在する抗体のほか、例えば一本鎖抗体、キメラ抗体、二機能性抗体、およびヒト化抗体、さらにはそれらの抗原結合断片(例えば、Fab'、F(ab')2、Fab、FvおよびrIgG)を含む天然に存在しない抗体も包含される。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)も参照されたい。また、例えば、Kuby, J., Immunology, 3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1998)も参照されたい。このような天然に存在しない抗体は、固相ペプチド合成を用いて構築すること、組換え的に生産すること、または例えば、参照として本明細書に組み入れられる、Huseら、Science 246:1275-1281(1989)によって記載されたように、種々の重鎖および種々の軽鎖からなるコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングによって得ることができる。例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDRグラフト抗体、一本鎖抗体および二機能性抗体などを作製するこれらおよび他の方法は、当業者に周知である(Winter and Harris, Immunol. Today 14:243-246(1993);Wardら、Nature 341:544-546(1989);Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York, 1988;Hilyardら、Protein Engineering: A practical approach(IRL Press 1992);Borrebaeck, Antibody Engineering, 2d ed.(Oxford University Press 1995);これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)。
【0055】
「抗体」という用語にはポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方が含まれる。この用語には、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)およびヘテロ結合型(heteroconjugate)抗体(例えば、二重特異性抗体)といった遺伝子的に操作した形態も含まれる。この用語は組換え一本鎖Fv断片(scFv)のことも指す。抗体という用語には、二価分子または二重特異性分子、二重特異性抗体(diabody)、三重特異性抗体(triabody)、および四重特異性抗体(tetrabody)も含まれる。二価分子および二重特異性分子に関しては、例えば、Kostelnyら、(1992) J Immunol 148: 1547, Pack and Pluckthun (1992) Biochemistry 31: 1579, Hollingerら、(1993) Proc Natl Acac Sci USA. 90:6444, Gruberら、 (1994) J Immunol:5368, Zhuら、(1997) Protein Sci 6: 781, Huら、(1997) Cancer Res. 56: 3055, Adamsら、(1993) Cancer Res. 53: 4026, およびMcCartneyら、(1995) Protein Eng. 8: 301に記載されている。
【0056】
一般に、抗体は重鎖および軽鎖を有する。重鎖および軽鎖のそれぞれは定常領域および可変領域を含む(これらの領域は「ドメイン」としても知られる)。軽鎖および重鎖の可変領域は4つの「フレームワーク」領域を含み、それらは「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる3つの超可変領域により分断されている。フレームワーク領域およびCDRの範囲は定められている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、単一の種内では比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は構成要素である軽鎖および重鎖が組み合わされたフレームワーク領域であり、CDRを三次元空間に配置させて整列させる働きをする。
【0057】
CDRは抗原のエピトープとの結合の主な原因となる。各鎖のCDRは通常、N末端から順に番号を付してCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれ、これらはまた一般に、特定のCDRが位置している鎖によっても識別される。したがって、VH CDR3は、それが見出される抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、一方、VL CDR1は、それが見出される抗体の軽鎖の可変ドメインに由来するCDR1のことである。「VH」に対する言及は、Fv、scFv、またはFabの重鎖を含む、抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域のことを指す。「VL」に対する言及は、Fv、scFv、dsFv、またはFabの軽鎖を含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域のことを指す。
【0058】
「一本鎖Fv」または「scFv」という語句は、従来の二本鎖抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインが連結されて一本鎖を形成した抗体のことを指す。通常は、適切なフォールディングおよび活性結合部位の生成が可能となるように、この2つの鎖の間にリンカーペプチドが挿入される。
【0059】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が、クラス、エフェクター機能、および/もしくは種が異なるもしくは改変された定常領域と、またはキメラ抗体に新たな性質を付与する全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬物などと結合するように、定常領域またはその一部分が改変、置換、もしくは交換されている;または(b)可変領域またはその一部分が、異なるもしくは改変された抗原特異性を有する可変領域により改変、置換、もしくは交換されている、免疫グロブリン分子のことである。
【0060】
「ヒト化抗体」とは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む免疫グロブリン分子のことである。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体が、レシピエント抗体にも導入されるCDRまたはフレームワーク配列にも認められない残基を含んでもよい。一般にヒト化抗体は、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えられ、その中のCDR領域のすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、フレームワーク(FR)領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク(FR)領域である。ヒト化抗体はまた、任意で免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、一般的にはヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)を含むと考えられる(Jonesら、Nature 321: 522-525 (1986);Riechmannら、Nature 332: 323-327 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992))。ヒト化は本質的には、Winterらの方法に従って(Jonesら、Nature 321: 522-525 (1986);Riechmannら、Nature 332: 323-327 (1988);Verhoeyenら、Science 239: 1534-1536 (1988))、齧歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに用いることにより、行うことができる。したがって、このようなヒト化抗体は、無傷のヒト可変ドメインには実質的に及ばないものが非ヒト種由来の対応する配列によって置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。
【0061】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、抗体が結合する抗原の部位のことを指す。エピトープは、連続したアミノ酸、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的なアミノ酸のいずれによっても形成されうる。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは一般に変性溶媒に曝露させても保たれるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは一般に変性溶媒で処理すると失われる。エピトープは通常、特有の空間コンフォメーションにある少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間コンフォメーションを決定する方法には、例えば、X線結晶学の方法および二次元核磁気共鳴法が含まれる。例えば、Epitope Mapping Protocols, Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996)を参照されたい。
【0062】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基の重合体を指すために本明細書で互換的に用いられる。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的な模倣化学物質であるアミノ酸重合体、さらには修飾残基および天然に存在しないアミノ酸重合体を含む天然のアミノ酸重合体に対しても適用される。
【0063】
「アミノ酸」という用語は、天然のアミノ酸および合成アミノ酸のほか、天然のアミノ酸と同じように機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物のことも指す。天然のアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるもののほか、後に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンのこともいう。アミノ酸類似体とは、天然のアミノ酸と同じ基本的な化学構造を有する、例えば水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基と結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムのことを指す。この種の類似体は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)または改変されたペプチド骨格を有するが、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持している。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが天然アミノ酸と類似した様式で機能する化学物質のことを指す。
【0064】
アミノ酸は本明細書において、一般的に知られたそれらの三文字記号、またはIUPAC-IUBの生化学物質命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨している一文字記号のいずれかによって表すことができる。ヌクレオチドも同じく、一般的に認められている一文字記号によって表すことができる。
【0065】
細胞、核酸、タンパク質、またはベクターなどに言及して用いる場合、「組換え」という用語は、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入もしくは天然の核酸もしくはタンパク質の改変によって改変されたこと、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。このため、例えば、組換え細胞は、天然型(非組換え型)の細胞に認められない遺伝子を発現する、または、異常発現される、低発現される、もしくは全く発現されないような天然遺伝子を発現する。本明細書において「組換え核酸」という用語は、一般に例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いた核酸の操作により、自然界では通常認められない形態で、最初はインビトロで形成された核酸のことを意味する。このようにして、異なる配列の機能的な結合が実現される。すなわち、線状形態にある単離された核酸、または通常は結合していないDNA分子を連結することによってインビトロで形成された発現ベクターは、本発明の目的にはいずれも組換えであるとみなされる。ひとたび組換え核酸が作製され、宿主細胞または生物に再び導入されれば、それが非組換え的に、すなわちインビトロ操作ではなく宿主細胞のインビボの細胞機構を用いて複製すると考えられる事が理解されるが、;しかしながら、このような核酸は、ひとたび組換え的に作製されれば、その後は非組換え的に複製しても、本発明の目的には依然として組換え性であるとみなされる。同様に、「組換えタンパク質」とは、組換え技術を用いて、すなわち上に示したように組換え核酸の発現を通じて、作製されたタンパク質のことである。
【0066】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術的および科学的な用語は、本発明が属する分野の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。対立が生じた場合には、定義を含め、本明細書が支配的であるものとする。
【0067】
III.新規なヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、および宿主細胞
本発明は、SEQ ID NO:1に記載されたポリヌクレオチド配列を含む新規ヒト遺伝子B1194のほか、その縮重物および突然変異体も、それらがSEQ ID NO:2に示されたアミノ酸配列を含むB1194タンパク質またはその機能的等価物をコードする範囲で含む。B1194と機能的に等価なポリペプチドの例には、例えば、ヒトB1194タンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質のほか、ヒトB1194タンパク質の突然変異体が含まれる。
【0068】
本発明はまた、それぞれSEQ ID NO:3、5、7に記載されたポリヌクレオチド配列を含む新規ヒト遺伝子A2282V1、A2282V2、およびA2282V3のほか、それらの縮重物および突然変異体も、それらがSEQ ID NO:4、6、8に示されたアミノ酸配列を含むA2282V1、A2282V2、もしくはA2282V3タンパク質またはその機能的等価物をコードする範囲で含む。A2282V1、A2282V2、またはA2282V3と機能的に等価なポリペプチドの例には、例えば、ヒトA2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質のほか、ヒトA2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の突然変異体が含まれる。
【0069】
所定のタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを作製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に突然変異を導入する既知の方法が含まれる。例えば、当業者は、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを、これらのタンパク質のいずれかのアミノ酸配列に部位特異的突然変異誘発法によって適切な突然変異を導入することによって作製することができる(Hashimoto-Gotohら、Gene 152: 271-5 (1995);ZollerおよびSmith、Methods Enzymol 100: 468-500 (1983);Kramerら、Nucleic Acids Res. 12: 9441-9456 (1984);KramerおよびFritz、Methods Enzymol 154: 350-67 (1987);Kunkel、Proc Natl Acad Sci USA 82: 488-92 (1985);Kunkel、Methods Enzymol 204: 125-139 (1991))。アミノ酸突然変異は自然下でも起こりうる。その結果生じる突然変異ポリペプチドがヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等であるという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が突然変異したヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が本発明のポリペプチドに含まれる。このような突然変異体において突然変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。
【0070】
突然変異タンパク質、またはある特定のアミノ酸配列の1つもしくは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/もしくは付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である改変タンパク質は、元の生物学的活性を保つことが知られている(Markら、Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);ZollerおよびSmith、Nucleic Acids Res 10: 6487-500 (1982);Dalbadie-McFarlandら、Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。
【0071】
突然変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に突然変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる方法)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および、以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の一文字略号を示すことに注意されたい。
【0072】
機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換の表は当技術分野で周知である。このような保存的に改変された変異型は、本発明の多型変異型、種間相同体、および対立遺伝子に加わるものであり、それらが除外されるわけではない。例えば、以下の8つの群はそれぞれ、互いの保存的な置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins(1984)を参照されたい)。
【0073】
ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物のことであり、これは本発明に含まれる。融合タンパク質は、本発明のヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするDNAを他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結し、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させるといった当業者に周知の技法によって作製しうる。本発明のタンパク質と融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はない。
【0074】
本発明のタンパク質と融合させるペプチドとして用いうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hoppら、Biotechnology 6: 1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、β-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質と融合させうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0075】
融合タンパク質は、上に考察したように融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAと、本発明のポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって作製しうる。
【0076】
機能的に同等なポリペプチドを単離するための当技術分野で知られた代替的な方法には、例えば、ハイブリダイゼーション法を用いる方法がある(Sambrookら、「Molecular Cloning」第2版、9.47-9.58、Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、A2282V3タンパク質をコードするDNA配列(すなわち、SEQ ID NO:1、3、5、または7)の全体または部分に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを単離することができる。本発明のポリペプチドには、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするDNA配列の全体または部分とハイブリダイズするDNAによってコードされ、そしてヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドには、ヒト由来のタンパク質に対応する哺乳動物相同体(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子によってコードされるポリペプチド)が含まれる。例えば、ヒトB1194タンパク質をコードするDNAに対して高度に相同なcDNAを動物から単離する際には、精巣または乳癌細胞株からの組織を用いることが特に好ましい。また、ヒトA2282V1、A2282V2、またはA2282V3をコードするDNAに対して高度に相同なcDNAを動物から単離する際には、乳癌細胞株からの組織を用いることが特に好ましい。
【0077】
ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって慣行的に選択されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid-hyb緩衝液」(アマシャムライフサイエンス(Amersham LIFE SCIENCE))を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行いうる。低ストリンジェント条件とは、例えば、42℃、2X SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2X SSC、0.1%SDSのことである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件の例は、例えば、室温の2X SSC、0.01%SDS中での20分間の洗浄を3回行った後に、37℃の1× SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を3回行い、50℃の1× SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を2回行うことを含む。しかしながら、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0078】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを、タンパク質をコードするDNAの配列情報(SEQ ID NO:1、3、5、または7)に基づいて合成したプライマーを用いて単離するために用いることもできる。
【0079】
以上のハイブリダイゼーション法または遺伝子増幅法によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドは、通常、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは一般に、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を指す。ポリペプチドの相同性は、「WilburおよびLipman、Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0080】
本発明のポリペプチドは、その産生のために用いる細胞もしくは宿主または用いる精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態に関して差異があってもよい。しかしながら、それが本発明のヒトB1194、A2282V1、A2282V2、A2282V3タンパク質のポリペプチドと同等な機能を有する限り、それは本発明の範囲に含まれる。
【0081】
本発明のポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質として調製することもでき、または天然タンパク質として調製することもできる。組換えタンパク質は、本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して抽出物を入手した上で、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにかけることによって、または上述のカラムの複数を組み合わせることによってポリペプチドを精製することにより、調製することができる。
【0082】
同様に、本発明のポリペプチドを宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)の内部でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを追加した組換えタンパク質として発現させる場合には、発現した組換えタンパク質をグルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。また、本発明のポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジン、またはFLAGで標識したタンパク質として発現させる場合には、それぞれc-myc、His、またはFLAGに対する抗体を用いてそれを検出して精製することができる。
【0083】
融合タンパク質を精製した後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のポリペプチド以外の領域を除外することも可能である。
【0084】
天然のタンパク質は、当業者に知られた方法によって、例えば、下記のB1194、A2282V1、A2282V2、A2282V3タンパク質と結合する抗体を結合させたアフィニティーカラムを、本発明のポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物と接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0085】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの部分(partial)ペプチドも含む。部分ペプチドは、本発明のポリペプチドに対して特異的なアミノ酸配列を有し、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドに対する抗体を作製するために、本発明のポリペプチドと結合する化合物をスクリーニングするために、および本発明のポリペプチドの促進物質または阻害物質をスクリーニングするために、用いることができる。
【0086】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子操作により、既知のペプチド合成方法により、または本発明のポリペプチドを適切なペプチダーゼで消化することにより、作製可能である。ペプチド合成のためには、例えば、固相合成または液相合成を用いうる。
【0087】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、上記のように本発明のポリペプチドのインビボもしくはインビトロでの産生のために用いることができる。mRNA、RNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成されたポリヌクレオチドを含む、本発明のポリヌクレオチドのいかなる形態を、それが本発明のポリペプチドをコードする限りは、用いることができる。本発明のポリヌクレオチドには、所定のヌクレオチド配列を含むDNAのほかに、その縮重配列も、結果として生じるDNAが本発明のポリペプチドをコードする限りは、含まれる。
【0088】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に知られた方法によって作製することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のDNA(例えば、SEQ ID NO:1、3、5、または7)の部分配列をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行うことにより、本発明のポリペプチドを発現する細胞からのcDNAライブラリーに由来されうる。cDNAライブラリーは、例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法によって作製しうる;または、市販のcDNAライブラリーを用いてもよい。cDNAライブラリーは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からRNAを抽出し、本発明のDNA(例えば、SEQ ID NO:1、3、5、または7)の配列に基づいてオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプライマーとして用いてPCRを行い、そして本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅することによって作製することもできる。
【0089】
さらに、得られたcDNAのヌクレオチドのシークエンシングを行うことにより、cDNAによりコードされる翻訳領域を慣行的に決定し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を容易に得ることができる。その上、得られたcDNAまたはその部分を用いてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0090】
より具体的に述べると、mRNAをまず、本発明の対象ポリペプチドが発現される細胞、組織、または臓器(例えば、B1194の場合は精巣または乳癌細胞株;およびA2282V1、A2282V2、またはA2282V3の場合は乳癌細胞株)から調製する。mRNAの単離には既知の方法を用いうる;例えば、全RNAはグアニジン超遠心(Chirgwinら、Biochemistry 18: 5294-9 (1979))またはAGPC法(ChomczynskiおよびSacchi、Anal Biochem 162: 156-9 (1987))によって調製しうる。さらに、mRNAをmRNA精製キット(ファルマシア(Pharmacia))などを用いて全RNAから精製してもよく、または、mRNAをQuickPrep mRNA精製キット(ファルマシア)によって直接精製してもよい。
【0091】
得られたmRNAは、逆転写酵素を用いてcDNAを合成するために用いられる。cDNAは、AMV逆転写酵素第一鎖cDNA合成キット(生化学工業)などの市販のキットを用いて精製しうる。または、本明細書に記載のプライマー等、5'-Ampli FINDER RACEキット(Clontech)、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる5'-RACE法(Frohmanら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 8998-9002 (1988);Belyavskyら、Nucleic Acids Res 17: 2919-32 (1989))に従って、cDNAの合成および増幅を行うこともできる。
【0092】
所望のDNA断片をPCR産物から調製し、ベクターDNAと連結する。この組換えベクターを大腸菌などの形質転換に用い、選択したコロニーから所望の組換えベクターを調製する。所望のDNAのヌクレオチド配列を、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法(dideoxynucleotide chain termination)などの従来の方法によって検証する。
【0093】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、発現のために用いる宿主におけるコドン使用頻度を考慮に入れることにより、より効率的に発現されるように設計することもできる(Granthamら、Nucleic Acids Res 9: 43-74 (1981))。さらに、本発明のポリヌクレオチドの配列を、市販のキットまたは従来の方法によって改変することもできる。例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドもしくは適切なポリヌクレオチド断片の挿入、リンカーの付加、または開始コドン(ATG)および/もしくは終止コドン(TAA、TGAまたはTAG)の挿入によって配列を改変することができる。
【0094】
特に好ましい態様において、本発明のポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列を含むDNAを含む。
【0095】
さらに、本発明は、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記の本発明のB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。上記の様に、当業者はストリンジェントな条件を適切に選択してよい。例えば、低ストリンジェント条件を用いることができる。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。これらの条件は上述されている。上記のハイブリダイズさせるDNAはcDNAまたは染色体DNAであることが好ましい。
【0096】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが内部に挿入されたベクターも提供する。本発明のベクターは、宿主細胞において本発明のポリヌクレオチド、特にDNAに本発明のポリペプチドを発現させるために有用である。
【0097】
大腸菌が宿主細胞として選択され、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)の内部で大量に増幅および産生させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅させるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13シリーズのベクター、pUCシリーズのベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを用いることができる。さらに、上記のベクター同様、pGEM-T、pDIRECT、およびpT7も、cDNAのサブクローニングおよび抽出のために用いることができる。本発明のタンパク質の産生のためにベクターを用いる場合には、発現ベクターが特に有用である。例えば、大腸菌内で発現させようとする発現ベクターは、大腸菌内で増幅させるための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合には、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら、Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Betterら、Science 240: 1041-3 (1988))、またはT7プロモーターなどを有する必要がある。その点に関しては、例えば、pGEX-5X-1(ファルマシア)、「QIAexpressシステム」(キアゲン(Qiagen))、pEGFPおよびpET(この場合、宿主はT7RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を上記のベクターの代わりに用いてもよい。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌の周辺質(periplasm)へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Leiら、J Bacteriol 169: 4379-83 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法および電気穿孔法が含まれる。
【0098】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物細胞由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロジェン(Invitrogen))およびpEGF-BOS(Mizushima S., Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(ギブコBRL(GIBCO BRL))、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(インビトロジェン)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生のために用いることもできる。
【0099】
ベクターをCHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、この種の細胞における発現のために必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulliganら、Nature 277: 108-14 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら、Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーターなどを有する必要があるほか、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有することが好ましい。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0100】
さらに、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅するために用いることもできる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入した後に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子の一過性発現の場合には、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)を、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に含むCOS細胞に形質転換導入する方法を用いることができる。
【0101】
以上のようにして得られた本発明のポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋な均一なポリペプチドとして精製することができる。所定のポリペプチドに言及して本明細書で用いられる「実質的に純粋な」とは、そのポリペプチドが他の生体高分子から実質的に遊離していることを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量にして純度が少なくとも75%(例えば、少なくとも80、85、95または99%)である。純度は任意の適切な標準的方法により、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定しうる。ポリペプチドの単離および精製のための方法は何らかの特定の方法には限定されない;実際には任意の標準的な方法を用いうる。
【0102】
例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0103】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行ってもよい。したがって、本発明は、以上の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0104】
本発明のポリペプチドを、精製の前または後に適切なタンパク質修飾酵素でそれを処理することにより、随意に改変すること、または部分的に欠失させることも可能である。有用なタンパク質修飾酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、タンパク質キナーゼ、グルコシダーゼなどが非制限的に含まれる。
【0105】
IV.抗体
本発明はまた、本発明のポリペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これにはウサギなどの動物を本発明のポリペプチドで免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0106】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のポリペプチドは、任意の動物種に由来するものでよいが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から入手しうる。
【0107】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全タンパク質でもよく、またはタンパク質の部分ペプチドでもよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドのアミノ(N)末端またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。
【0108】
本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を既知の発現ベクターに挿入し、その後に本明細書に記載したような宿主細胞の形質転換に用いてもよい。所望のポリペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法によって宿主細胞の内部または外部から回収し、後に抗原として用いることができる。または、ポリペプチドを発現する細胞全体もしくはその可溶化物、または化学合成したポリペプチドを抗原として用いてもよい。
【0109】
いかなる哺乳動物も抗原で免疫することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯目、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長目(Primate)の動物が用いられる。齧歯目の動物には、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長目の動物には、例えば、狭鼻猿類(Catarrhini)(旧世界サル)のサル、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ(sacred baboon)およびチンパンジーが含まれる。
【0110】
動物を抗原で免疫するための方法は当技術分野で周知である。例えば、抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物の免疫化のための標準的な方法である。より具体的に述べると、抗原を希釈して適切な量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などの中に懸濁させる。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合して乳濁液とした上で哺乳動物に対して投与してもよい。その後に、適切な量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原の投与を4〜21日毎に数回行うことが好ましい。適切な担体を免疫化のために用いてもよい。上記のような免疫化の後に、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的方法によって検討する。
【0111】
本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を、血清中の所望の抗体の増加に関して検討した免疫後の哺乳動物から血液を採取し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって調製することもできる。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することもできる。免疫グロブリンGまたはMは、本発明のポリペプチドのみを認識する画分から、例えば、本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いた上で、この画分をプロテインAカラムまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製して、調製することができる。
【0112】
モノクローナル抗体を調製するためには、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を収集し、上記の通りに血清中の所望の抗体のレベル上昇について確かめた上で、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は脾臓から入手することが好ましい。上記の免疫細胞と融合させるためのその他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞の選択のための獲得特性を有する骨髄腫細胞が含まれる。
【0113】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、既知の方法、例えば、Milsteinら(GalfreおよびMilstein、Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0114】
細胞融合によって結果として得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択しうる。細胞培養は通常、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である、数日間から数週間にわたって続けられる。その後に、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングのために標準的な限界希釈を行う。
【0115】
ハイブリドーマ調製用に非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫後のリンパ球を、無限に分裂しうるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、ポリペプチドと結合しうる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63-17688号)。
【0116】
得られたハイブリドーマを続いてマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製しうる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のポリペプチドのアゴニストおよびアンタゴニストの候補としても用いることができる。さらに、この抗体を、本発明のポリペプチドと関連のある疾患に対する抗体療法に適用することもできる。得られた抗体を人体に対して投与する場合には(抗体療法)、免疫原性を抑えるためにヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0117】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物から選択される抗原で免疫することができる。続いて、抗体産生細胞を動物から採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、そのハイブリドーマからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0118】
または、免疫したリンパ球のような、抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化させ、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
【0119】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製してもよい(例えば、BorrebaeckおよびLarrick、「Therapeutic Monoclonal Antibodies」、MacMillan Publishers LTD(英国)より刊行(1990)、を参照)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫リンパ球などの免疫細胞からクローニングして適切なベクターに挿入した上で、宿主細胞に導入し、組換え抗体を調製することができる。本発明はまた、上記のようにして調製した組換え抗体も提供する。
【0120】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片を適切なリンカーによって連結した一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Hustonら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的に述べると、パパインまたはペプシンなどの酵素で抗体を処理することによって抗体断片を作製することもできる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して発現ベクターに挿入した上で、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Coら、J Immunol 152: 2968-76 (1994);BetterおよびHorwitz、Methods Enzymol 178: 476-96 (1989);PluckthunおよびSkerra、Methods Enzymol 178: 497-515 (1989);Lamoyi、Methods Enzymol 121: 652-63 (1986);Rousseauxら、Methods Enzymol 121: 663-9 (1986);BirdおよびWalker、Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0121】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)などの種々の分子と結合させることによって修飾することもできる。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾方法は当技術分野で慣例的である。
【0122】
または、本発明の抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、フレームワーク領域(FR)およびヒト抗体由来の定常領域を含むヒト化抗体として入手することもできる。このような抗体は、既知の技術を用いて調製可能である。
【0123】
以上のようにして得られた抗体を均一になるまで精製してもよい。例えば、抗体を、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って分離および精製することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動など(しかしながら、これらには限定されない)を適切に選択・組み合わせることにより、抗体を分離および単離することができる(「A Laboratory Manual」、HarlowおよびDavid Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムはアフィニティーカラムとして用いうる。用いられるプロテインAカラムの例には、例えば、ハイパーD、POROSおよびセファロースF.F.(ファルマシア)が含まれる。
【0124】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順を、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うこともできる。
【0125】
本発明の抗体の抗原結合活性を測定するには、例えば、吸光度アッセイ法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)および/または免疫蛍光検査法を用いうる。ELISAの場合には、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートに対して添加した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体といった所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄の後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加して、試料の抗原結合活性を評価するために吸光度を測定する。C末端断片またはN末端断片といったポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。BIAcore(ファルマシア)を、本発明による抗体の活性の評価に用いてもよい。
【0126】
以上の方法は、本発明の抗体を本発明のポリペプチドを含むと想定される試料に対して曝露させ、抗体およびポリペプチドによって形成された免疫複合体を検出または測定することにより、本発明のポリペプチドの検出または測定を可能にする。
【0127】
本発明によるポリペプチドの検出または測定の方法はポリペプチドを特異的に検出または測定することが可能であるため、本方法はポリペプチドが用いられる種々の実験に有用と思われる。
【0128】
V.アンチセンスオリゴヌクレオチド
上記のように、本発明はまた、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするポリヌクレオチド(SEQ ID NO:1、3、5、または7)またはその相補鎖とハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするDNAと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであることが好ましい。本明細書で用いる「特異的にハイブリダイズする」という用語は、他のタンパク質のコードするDNAとのクロスハイブリダイゼーションが、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、顕著には起こらないことを意味する。このようなポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするDNAまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズする、プローブ、プライマー、ヌクレオチド、およびヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイム)が含まれる。さらに、このようなポリヌクレオチドをDNAチップの調製のために利用することもできる。
【0129】
したがって、本発明は、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列の内部のいずれかの部位とハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列のうち少なくとも15個の連続したヌクレオチドに対するものであることが好ましい。上記の少なくとも15個の連続したヌクレオチド中に1つの開始コドンを含む、上記のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、さらに好ましい。
【0130】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物をアンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることもできる。このような修飾産物の例には、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型などの低級アルキルホスホネート修飾物、ホスホロチオエート修飾物、およびホスホロアミデート修飾物が含まれる。
【0131】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、ポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、本発明のポリペプチドの発現を阻害して、それによってポリペプチドの機能を阻害することにより、本発明のポリペプチドを産生する細胞に対して作用する。
【0132】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、誘導体に対して活性のない適した基材と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0133】
同様に、必要に応じて、誘導体を、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは通常の方法に従って調製可能である。
【0134】
アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、罹患部位に対して直接外用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に対して投与してもよい。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス用マウント培地を用いることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が含まれるがこれらに限定されない。
【0135】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に従って適切に調整した上で、望ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0136】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。siRNAを細胞に導入するためには、RNAを転写するための鋳型としてDNAを用いることを含む、標準的な技法が用いられる。本発明のsiRNAは、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質をコードするポリヌクレオチド(SEQ ID NO:1、3、5、または7)のセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物(二本鎖RNA)が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0137】
標的細胞におけるsiRNAとB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3に対応する転写物との結合は、細胞によるタンパク質産生の減少を引き起こす。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物程度の長さであってもよい。本オリゴヌクレオチドは75、50、25ヌクレオチド長よりも短いことが好ましい。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは19〜25ヌクレオチド長である。癌細胞の増殖を阻害するB1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3 siRNAオリゴヌクレオチドの例には、SEQ ID NO:38〜41を含む標的配列が含まれる。
【0138】
さらに、siRNAの阻害活性を高めるために、ヌクレオチド「u」を標的配列のアンチセンス鎖の3’末端に付加することもできる。付加される「u」の数は少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3’末端で一本鎖を形成する。
【0139】
B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3 siRNAを、mRNA転写物と結合しうる形態で細胞に直接導入することもできる。または、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3 siRNAをコードするDNAが、ベクター中に含まれてもよい。
【0140】
ベクターは例えば、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3標的配列を、両方の鎖の(DNA分子の転写による)発現を可能にするような様式で、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3配列に隣接する機能的に結合した調節配列を有する発現ベクター中にクローニングすることによって作製される(Lee, N.Sら、(2002) Nature Biotechnology 20: 500-505)。B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3 mRNAに対するアンチセンスであるRNA分子は第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写され、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3 mRNAに対するセンス鎖であるRNA分子は第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖はインビボでハイブリダイズして、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を生じさせる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するような、ヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることができる。
【0141】
さらに、ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明は、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'(式中、[A]は、ヌクレオチド配列SEQ ID NO:38〜41に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、かつ[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である)を有するsiRNAも提供する。ループ配列は好ましくは3〜23ヌクレオチド長の任意の配列からなってもよい。ループ配列は例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。本発明のsiRNA中には、siRNAの阻害活性を高めるために、ヌクレオチド「u」を[A']の3’末端に付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列からも活性のあるsiRNAを得ることができる(Jacque, J.-M. ら、Nature 418: 435-438(2002))。
- CCC、CCACC、またはCCACACC: Jacque, J. M.ら、Nature, Vol. 418: 435-438 (2002);
- UUCG: Lee, N.S.ら、Nature Biotechnology 20 : 500-505.; Fruscoloni, P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-1644 (2003);および
- UUCAAGAGA: Dykxhoorn, D. M.ら、Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-467 (2003)。
【0142】
本発明のヘアピンループ構造を有する好ましいsiRNAの例を以下に示す。以下の構造において、ループ配列はCCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択する事ができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
guauaucuugcccucugaa-[B]-uucagagggcaagauauac(SEQ ID NO:38の標的配列用);
guccgaacacaucuuuguu-[B]-aacaaagauguguucggac(SEQ ID NO:39の標的配列用);
gacauccuaucuagcugca-[B]-ugcagcuagauaggauguc(SEQ ID NO:40の標的配列用);
aguucauuggaacuaccaa-[B]-uugguaguuccaaugaacu(SEQ ID NO:41の標的配列用)。
【0143】
B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3配列に隣接する調節配列は、それらの発現が独立して、または時間的もしくは空間的な様式で調節されるように、同一であるかまたは異なっている。siRNAは、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子テンプレートを、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6またはヒトH1 RNAプロモーター由来のRNAポリメラーゼIII転写単位を含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するためには、トランスフェクション促進物質を用いることができる。FuGENE(Roche Diagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)およびNucleofactor(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進物質として有用である。
【0144】
siRNAのヌクレオチド配列は、Ambion社のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手しうるsiRNA設計用のコンピュータプログラムを用いて設計することができる。siRNAに関するヌクレオチド配列は、コンピュータプログラムにより、以下のプロトコールに基づいて選択される。
【0145】
siRNA標的部位の選択:
1.目的の転写物のAUG開始コドンから開始して、AAジヌクレオチド配列に関して下流へとスキャンする。各AAおよび3'側に隣接した19ヌクレオチドの出現率をsiRNA標的の可能性がある部位として記録する。Tuschlら、Genes Dev 13(24):3191-7(1999)は、siRNAを5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン付近(75塩基内)の領域に対しては設計しないように推奨しておらず、これは、これらの領域には調節タンパク質の結合部位が多く含まれる可能性があるためである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2.標的の可能性がある部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列と明らかな相同性を有するどの標的領域も検討から除外する。相同性検索はBLAST(Altschul SFら、J Mol Biol. 1990;215:403-10; Altschul SFら、Nucleic Acids Res. 1997;25:3389-402)を用いて行うことができ、これはNCBIのサーバー:www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/上にある。
3.合成用の適格な標的配列を選択する。Ambion社では、遺伝子の全長に沿っていくつかの標的配列を評価用に選択することができる。
【0146】
B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3 mRNAのオリゴヌクレオチドならびにそれらのさまざまな部分に対して相補的なオリゴヌクレオチドを、腫瘍細胞(例えば、T47DまたはMCF7乳癌細胞株を用いて)におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3の産生を低下させる能力に関して、標準的な方法に従ってインビトロで試験した。候補siRNA組成物と接触させた細胞におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子産物の、候補組成物の非存在下で培養した細胞との比較による減少は、B1194、A2282V1、A2282V2、もしくはA2282V3特異的抗体または他の検出方法を用いて検出することができる。続いて、インビトロの細胞アッセイまたは無細胞アッセイにおいてB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3の産生を低下させる配列を、細胞増殖に対する阻害効果について試験することができる。インビトロの細胞アッセイで細胞増殖を阻害する配列を、悪性新生物を有する動物におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3の産生低下および腫瘍細胞の増殖低下を確認するために、ラットまたはマウスにおいてインビボで試験する。
【0147】
同じく本発明に含まれるものには、標的配列、例えばヌクレオチドSEQ ID NO:38〜41の核酸配列を含む二本鎖分子がある。本発明において、二本鎖分子はセンス鎖およびアンチセンス鎖を含み、センス鎖はSEQ ID NO:38〜41に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖は該センス鎖に対して相補的なリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖および該アンチセンス鎖は互いにハイブリダイズして該二本鎖分子を形成し、該二本鎖分子はB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子を発現する細胞に導入されると、該遺伝子の発現を阻害する。本発明において、単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合には、ヌクレオチド配列中の塩基「t」を「u」に置き換えるべきである。本明細書で用いる場合、「相補的な」という用語は、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン-クリックまたはフーグスティーン塩基対合のことを指し、「結合」という用語は、2つのポリペプチドもしくは化合物または付随するポリペプチドもしくは化合物またはそれらの組み合わせの間の物理的または化学的な相互作用を意味する。
【0148】
相補的な核酸配列は、適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチを少数しかまたは全く含まない安定な二重鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成することができる。1つの好ましい態様において、このような二重鎖が10個のマッチ毎に含むミスマッチは1個を上回らない。二重鎖が完全に相補的である特に好ましい態様において、このような二重鎖はミスマッチを全く含まない。例えば、核酸分子は500、200、または75ヌクレオチド長未満である。本発明には、本発明に記載の1つまたは複数の核酸を含むベクター、および本ベクターを含む細胞も含まれる。本発明の単離された核酸は、B1194、A2282V1、A2282V2、もしくはA2282V3に対するsiRNAのため、またはこのsiRNAをコードするDNAのために有用である。核酸をsiRNAまたはそれをコードするDNAのために用いる場合には、センス鎖は19ヌクレオチドよりも長いことが好ましく、21ヌクレオチドよりも長いことがより好ましい。
【0149】
VI.乳癌の診断
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは本発明のポリペプチドの発現を阻害し、そのため、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質も、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害しうるという点で有用である。このため、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は乳癌の治療に有用である。さらに、本発明は、本発明のポリペプチドの発現レベルを診断マーカーとして利用して、乳癌を診断するための方法も提供する。
【0150】
本発明の診断方法は、好ましくは(a)本発明のB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルを検出する段階、および(b)発現レベルの上昇を乳癌と関連づける段階を含む。
【0151】
個々の標本におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルは、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子に対応するmRNA、またはCXADRL1、GCUD1もしくはRNF43遺伝子によってコードされるタンパク質を定量することによって評価することができる。mRNAの定量法は当業者に周知である。例えば、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子に対応するmRNAのレベルは、ノーザンブロット分析またはRT-PCRによって評価しうる。B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子の完全長ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1、3、5、または7に示されているため、当業者はいずれも、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマーのヌクレオチド配列を設計することができる。
【0152】
B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルも、遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の量を決定するための方法は以下に示されている。例えば、免疫アッセイ法は、生物材料におけるタンパク質の決定に有用である。いかなる生物材料も、タンパク質またはその活性の決定に有用な可能性がある。例えば、血液試料は、血清マーカーによってコードされるタンパク質の評価を目的として分析してもよい。一方、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するためには、分析しようとする各タンパク質の活性に応じて適した方法が選択されうる。
【0153】
本発明の方法に従って、標本(被験試料)におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルを評価し、正常試料における発現レベルと比較する。このような比較によって標的遺伝子の発現レベルが正常試料における発現レベルよりも高いことが示された場合には、その対象は乳癌に罹患していると判断される。正常試料由来および対象由来の標本におけるB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3遺伝子の発現レベルは同時に決定してもよい。または、あらかじめ対照群から採取しておいた標本を分析することから得た結果に基づく統計学的方法によって、発現レベルの正常範囲を決定することもできる。対象の試料から得た結果をその正常範囲と比較する;その結果が正常範囲内に収まらない場合には、対象は乳癌に罹患していると判断される。
【0154】
本発明においては、乳癌を診断するための診断薬も提供される。本発明の診断薬は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または本発明のポリペプチドと結合する抗体をこのような化合物として用いることが好ましい。
【0155】
VII.乳癌治療のモニタリング
B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子の発現レベルは、乳癌の治療の経過をモニターすることも可能にする。この方法では、乳癌に対する治療を受ける対象から被験細胞集団を得る。必要に応じて、治療前、治療中、および/または治療後といったさまざまな時点で対象から被験細胞集団を入手する。続いて、細胞集団におけるB1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子のうち1つまたは複数の発現を決定し、乳癌の状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は関心対象の治療を受けた経験があるべきではない。
【0156】
参照細胞集団が乳癌細胞を含まない場合には、被験細胞集団および参照細胞集団におけるB1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子のうち1つまたは複数の発現に類似性があることにより、関心対象の治療が有効であることが示される。しかしながら、被験集団およ正常対照参照細胞集団においてこれらの遺伝子の発現に差があることは、臨床的な結果または予後がそれほど好ましくないことを示す。同様に、参照細胞集団が乳癌細胞を含む場合には、被験細胞集団および参照細胞集団における本発明の遺伝子の1つまたは複数の発現に差があることは、関心対象の治療が有効であることを示し、一方、被験集団および参照細胞集団におけるこのような遺伝子の発現に類似性があることは、臨床的な結果または予後がそれほど好ましくないことを示す。
【0157】
さらに、治療後に入手した対象由来の生物試料において決定された本発明の遺伝子の発現レベル(すなわち、治療後レベル)を、治療開始前に得られた対象由来の生物試料において決定されたB1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子のうちの1つまたは複数の発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較することもできる。治療後試料における発現レベルの低下によって関心対象の治療が有効であることが示され、一方、治療後試料における発現レベルが上昇するか維持されていることにより、臨床的な結果または予後がそれほど好ましくないことが示される。
【0158】
本明細書で用いる場合、「有効な」という用語は、治療が、対象における、病的に上方制御された遺伝子の発現低下、病的に下方制御された遺伝子の発現増大、または乳管癌のサイズ、波及度、もしくは転移潜在性の低下をもたらすことを示している。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」という用語は、治療が乳房腫瘍の形成を遅延もしくは防止すること、または臨床的な乳癌の症状を遅延、防止、もしくは軽減することを意味する。乳房腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行うことができる。
【0159】
さらに、有効性を、乳癌の診断または治療のための任意の既知の方法に関連して判定することもできる。乳癌を例えば、症候性の異常、例えば体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐および全身倦怠感、脱力、ならびに黄疸を特定することによって診断することができる。
【0160】
VIII.乳癌の治療
本発明はさらに、本発明のポリペプチドを用いる、乳癌の治療に有用な化合物のスクリーニング方法を提供する。このようなスクリーニング方法の1つの態様には、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドと接触させる段階、(b)本発明のポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階、および(c)本発明のポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階が含まれる。
【0161】
スクリーニングに用いる本発明のポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成ミクロ分子化合物(synthetic micromolecular compound)、および天然化合物を用いることができる。被験化合物と接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0162】
本発明のポリペプチドを用いて、タンパク質、例えば本発明のポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降方法を用いて、具体的には以下の様式で行うことができる。pSV2neo、pcDNA IおよびpCD8といった外来遺伝子用の発現ベクターに対して遺伝子を挿入することにより、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を動物細胞で発現させる。発現のために用いるプロモーターは一般に用いられる任意のプロモーターでよく、これには例えば、SV40初期プロモーター(Rigby、Williamson(編)、「Genetic Engineering」第3巻、Academic Press、London、83-141 (1982))、EF-1αプロモーター(Kimら、Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwaら、Gene 108: 193-9 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen、Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebeら、Mol Cell Biol 8: 466-72 (1988))、CMV最初期プロモーター(SeedおよびAruffo、Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(GheysenおよびFiers、J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufmanら、Mol Cell Biol 9: 946-58 (1989))、HSV TKプロモーターなどが含まれる。外来遺伝子を発現させるための動物細胞への遺伝子の導入は任意の方法に従って行うことができ、これには例えば、電気穿孔法(Chuら、Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(ChenおよびOkayama、Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopataら、Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984);SussmanおよびMilman、Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard、B Cell 7: 1025-37 (1994);Lambら、Nature Genetics 5: 22-30 (1993):Rabindranら、Science 259: 230-4 (1993))などがある。本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドのN末端またはC末端に対する特異性が判明しているモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ-抗体系を用いることもできる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を、マルチクローニングサイトを用いることによって発現させうるベクターが市販されている。
【0163】
融合によって本発明のポリペプチドの性質を変えないように数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって作製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0164】
免疫沈降の場合には、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞可溶化物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、本発明のポリペプチド、そのポリペプチドとの結合親和性を有するポリペプチド、および抗体からなる。以上のエピトープに対する抗体を用いることに加えて、免疫沈降を本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて行うこともでき、これらの抗体は上記の通りに調製することができる。
【0165】
免疫複合体は、抗体がマウスIgG抗体であれば、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈降させることができる。本発明のポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合タンパク質として作製する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する基質、例えばグルタチオン-セファロース4Bを用いて、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる時と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0166】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(HarlowおよびLane、「Antibodies」、511-52、Cold Spring Harbor Laboratory publications、New York (1988))。
【0167】
SDS-PAGEは免疫沈降したタンパク質の分析に一般に用いられており、結合したタンパク質はゲルを適切な濃度で用いてタンパク質の分子量によって分析することができる。本発明のポリペプチドと結合したタンパク質をクーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質に関する検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培養液中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識した上でタンパク質を検出することによって改善することができる。タンパク質の分子量がわかっている場合には、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製して、その配列を決定することができる。
【0168】
ポリペプチドを用いる、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnikら、Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。具体的には、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質は、細胞、組織、臓器(例えば、B1194と結合するタンパク質のスクリーニングのためには精巣および乳癌細胞株;A2282V1、A2282V2、A2282V3と結合するタンパク質のスクリーニングのためには乳癌細胞株などの組織)、または本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞から、ファージベクター(例えば、ZAP)を用いてcDNAライブラリーを作製し、タンパク質をLB-アガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識がなされた本発明のポリペプチドを上記のフィルターと反応させ、かつ本発明のポリペプチドと結合したタンパク質を発現するプラークを標識によって検出することによって得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または本発明のポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは本発明のポリペプチドと融合したペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識しうる。放射性同位体または蛍光などを用いる方法を用いてもよい。
【0169】
または、本発明のスクリーニング方法のもう1つの態様において、細胞を利用する2-ハイブリッド系を用いることもできる(「MATCHMAKER 2-ハイブリッド系(MATCHMAKER Two-Hybrid system)」「哺乳動物MATCHMAKER 2-ハイブリッドアッセイキット(Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit)」「MATCHMAKER 1-ハイブリッド系(MATCHMAKER one-Hybrid system)」(Clontech);「HybriZAP 2-ハイブリッドベクター系(HybriZAP Two-Hybrid Vector System)」(Stratagene);参考文献「DaltonおよびTreisman、Cell 68: 597-612 (1992)」「FieldsおよびSternglanz、Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0170】
2-ハイブリッド系では、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞から、ライブラリーが発現した場合にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合させるように、cDNAライブラリーを作成する。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAによってコードされるタンパク質は、以上のようにして単離したcDNAを大腸菌に導入してタンパク質を発現させることによって調製しうる。
【0171】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0172】
本発明のポリペプチドと結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化し、本発明のポリペプチドと結合しうるタンパク質を含む被験化合物をカラムに対して適用してもよい。本明細書における被験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞可溶化物などであってよい。被験化合物のローディング後に、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドと結合した化合物を調製することができる。
【0173】
被験化合物がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を分析して、その配列に基づいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAを、タンパク質をコードするDNAを得るためのプローブとして用いて、cDNAライブラリーをスクリーニングする。
【0174】
表面プラスモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合した化合物の検出または定量のための手段として本発明に用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識を行わずに、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラスモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、ファルマシア)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0175】
本発明の固定化されたポリペプチドを合成化合物、または天然物バンク、またはランダムなファージペプチドディスプレイライブラリーに対して曝露させた場合に結合する分子をスクリーニングする方法、および、本発明のタンパク質と結合するタンパク質だけでなく化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するための、コンビナトリアル化学に基づくハイスループット技法を用いたスクリーニング方法(Wrightonら、Science 273: 458-63 (1996);Verdine、Nature 384: 11-13 (1996))は当業者に周知である。
【0176】
または、本発明のスクリーニング方法は、
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階(この際、1つまたは複数のマーカー遺伝子はB1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3からなる群より選択される);
(b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する段階;および
(c)前記レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを、被検化合物の非存在下で検出された、前記レポーター遺伝子の発現または活性のレベルと比較して低下させる化合物を選択する段階を含みうる。
【0177】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって作製しうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に知られている場合には、事前の配列情報を用いることによってレポーター構築物を作製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。
【0178】
このスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬剤の候補であって、結果として、乳癌の治療および予防に用いられ得る。本発明のポリペプチドに対する結合活性を有する、本スクリーニング方法によって得られた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0179】
さらにもう1つの態様において、本発明は、乳癌の治療において標的となる可能性のある候補物質をスクリーニングするための方法を提供する。以上に詳細に考察したように、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の発現レベルを制御することにより、乳癌の発症または進行を制御することが可能である。このため、乳癌の治療における標的の可能性がある候補物質を、B1194、A2282V1、A2282V2、A2282V3の発現レベルおよび活性を指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の状況において、このようなスクリーニングには、例えば、
(a)候補化合物を、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質を発現する細胞と接触させる段階;および
(b)B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階が含まれていてもよい。
【0180】
B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のうち少なくとも1つを発現する細胞には、例えば、乳癌から樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる。発現レベルは当業者に周知の方法によって評価しうる。このスクリーニング方法では、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3のうち少なくとも1つの発現レベルを低下させる化合物を候補薬剤として選択することができる。
【0181】
本発明の、乳癌の治療に有用な化合物のスクリーニング方法のもう1つの態様において、本方法は、本発明のポリペプチドの生物学的活性を指標として用いる。本発明のB1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3タンパク質は細胞増殖を促進する活性を有するため、本発明のこれらのタンパク質のいずれかのこの活性を阻害する化合物を、この活性を指標として用いてスクリーニングすることができる。さらに、本発明において、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3タンパク質がタンパク質キナーゼ活性を有する事と確認した。したがって、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のタンパク質キナーゼ活性を阻害する化合物を、この活性を指標として用いてスクリーニングすることができる。このスクリーニング方法は、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドと接触させる段階、(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階、および(c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較してポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階を含む。
【0182】
いかなるポリペプチドも、それらがB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の生物学的活性を有する限り、スクリーニングに用いることができる。このような生物学的活性には、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、A2282V3タンパク質の細胞増殖活性、またはA2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のタンパク質キナーゼ活性が含まれる。例えば、ヒトB1194、A2282V1、A2282V2、A2282V3タンパク質を用いることができ、これらのタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを用いることもできる。このようなポリペプチドは細胞によって内因性に発現させても外因性に発現させてもよい。
【0183】
本発明において、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の生物活性は好ましくはタンパク質キナーゼ活性である。当業者はタンパク質キナーゼ活性を推定することができる。例えば、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のうち少なくとも1つを発現する細胞を、[γ-32P]-ATPの存在下で被験化合物と接触させることができる。次に、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質のタンパク質キナーゼ活性によってリン酸化したタンパク質を測定することができる。リン酸化タンパク質の検出のためには、SDS-PAGEまたは免疫沈降を用いることができる。さらに、リン酸化チロシン残基を認識する抗体をリン酸化タンパク質レベルに関して用いることもできる。
【0184】
任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成ミクロ分子化合物、天然化合物を用いることができる。
【0185】
このスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドとの結合によってそのポリペプチドの機能を阻害する分子を指す。さらに、このスクリーニングによって単離された化合物は、本発明のポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補でもある。
【0186】
本方法において検出しようとする生物学的活性が細胞増殖である場合には、実施例の項に記載したように、例えば、本発明のポリペプチドを発現する細胞を作製し、細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を評価し、細胞周期などを測定することにより、さらにはコロニー形成活性を測定することにより、生物学的活性を検出することができる。
【0187】
IX.単離された化合物および薬学的組成物
上記のスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬剤の候補であり、乳癌の治療に応用することができる。より具体的に述べると、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の生物学的活性を指標として用いる場合には、本方法によってスクリーニングされた化合物は乳癌の治療のための薬剤の候補としての役を果たす。
【0188】
さらに、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0189】
本発明の方法によって単離された化合物を、乳癌を治療するために、ヒトおよび他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、チンパンジーに対して調合薬として投与する場合には、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬剤調製法を用いて剤形に製剤化してもよい。例えば、必要に応じて、薬剤を糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口投与することもでき、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、化合物を、一般に認められる薬剤の実現のために必要な単位用量の形で、薬理学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、媒質、保存料、結合剤などと混合することができる。これらの製剤における有効成分の量により、指定された範囲内にある適した投与量が得られる。
【0190】
錠剤およびカプセル剤に混合しうる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの結合剤;結晶セルロースなどの媒質;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸などの膨潤剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味料;ペパーミント、冬緑油およびチェリーなどの香味剤がある。単位投与剤形がカプセル剤である場合には、油などの液体担体も上記の成分にさらに含めることができる。注射用の滅菌混合物は、通常の薬剤の実現に倣って、注射用の蒸留水などの媒体を用いて製剤化することができる。
【0191】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールおよび塩化ナトリウムなどの佐剤を含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは適した可溶化剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール、Polysorbate 80(商標)およびHCO-50などの非イオン性界面活性剤などと組み合わせて用いることができる。
【0192】
ゴマ油またはダイズ油は油脂性液体として用いることができ、これらを可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて用いることもでき、さらにこれらをリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液;塩酸プロカインなどの鎮痛薬;ベンジルアルコール、フェノールなどの安定剤;および抗酸化剤とともに製剤化することもできる。調製された注射剤は適したアンプルに充填することができる。
【0193】
本発明の医薬化合物を、例えば動脈内注射、静脈内注射、皮下注射として、および同じく鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与または経口投与として患者に対して投与するためには、当業者によく知られた方法を用いることができる。投与量および投与方法は患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて異なる;しかしながら、当業者は慣行的にそれらを選択しうる。前記化合物がDNAによってコードされうる場合には、DNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、治療を行うためにそのベクターを投与することができる。投与量および投与方法は患者の体重、年齢および症状に応じて異なるが、当業者はそれらを適切に選択しうる。
【0194】
例えば、症状によって若干の違いはあるものの、本発明のポリペプチドと結合してその活性を調節する化合物の投与量は、標準的な成人(体重60kg)に対して経口投与する場合、約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、より好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0195】
標準的な成人(体重60kg)に対して注射剤の形態として非経口的に投与する場合には、患者、標的臓器、症状および投与方法に応じて若干の違いはあるものの、約0.01mg〜約30mg/日、好ましくは約0.1〜約20mg/日、より好ましくは約0.1〜約10mg/日の用量を静脈注射することが好都合である。同じく、他の動物の場合にも、体重60kgに換算した量を投与することが可能である。
【0196】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる、乳癌の治療または予防のための方法を提供する。本方法によれば、本発明のポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する。B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3タンパク質の発現は癌細胞で上方制御されている上に、これらのタンパク質の発現の抑制は細胞増殖活性の低下をもたらすため、抗体とこれらのタンパク質との結合により、乳癌の治療または予防が可能であると考えられる。このため、本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のタンパク質の活性を低下させるのに十分な投与量(これは0.1〜約250mg/kg/日の範囲にある)で投与してもよい。成人に対する用量の範囲は一般に約5mg 〜約17.5g/日であり、好ましくは約5mg 〜約10g/日、最も好ましくは約100mg 〜約3g/日である。
【0197】
または、腫瘍細胞に特異的な細胞表面マーカーと結合する抗体を薬物送達のためのツールとして用いることもできる。例えば、細胞障害物質と結合させた抗体を、腫瘍細胞を損傷させるのに十分な用量として投与する。
【0198】
X.抗腫瘍免疫および腫瘍ワクチンを含む方法
本発明はまた、抗腫瘍免疫を誘導する方法であって、B1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3タンパク質もしくはその免疫活性断片、またはタンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはその断片を投与する段階を含む方法にも関する。B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3タンパク質またはその免疫活性断片は、乳癌に対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態として投与することもできる。DCの抗原提示能力が高いことから、APCの中でDCを用いることが最も好ましい。
【0199】
本発明において、乳癌に対するワクチンとは、動物に接種した時に抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
‐ 乳癌に対する細胞障害性リンパ球の誘導
‐ 乳癌を認識する抗体の誘導、および
‐ 抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0200】
このため、ある特定のタンパク質が、動物に接種した時にこれらの免疫応答を誘導する場合には、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用を有すると考えられる。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出しうる。
【0201】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出するための方法はよく知られている。生体の内部に進入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に対して提示される。APCにより提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答したT細胞は、抗原による刺激のために細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後に増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、特定のペプチドによるCTL誘導は、そのペプチドをAPCによりT細胞に対して提示させ、CTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCにはCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球およびNK細胞を活性化する作用もある。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も抗腫瘍免疫において重要であるため、これらの細胞の活性化作用を指標として用いてペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0202】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価するための方法は当技術分野で周知である。DCはAPCの中でも最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、まず被験ポリペプチドをDCと接触させ、続いてこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後に目的の細胞に対する細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞を誘導する活性を持つことが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば、51Cr標識した腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法もよく知られている。
【0203】
DC以外に、末梢血単核細胞(PBMC)をAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、PBMCをGM-CSFおよびIL-4の存在下で培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによっても誘導されることが示されている。
【0204】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化作用とそれに続くCTL誘導活性とを有するポリペプチドである。このため、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCも腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLを腫瘍に対するワクチンとして用いることもできる。APCおよびCTLに起因する抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するこのような治療方法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0205】
一般に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合には、構造の異なる複数のポリペプチドを併用し、それらをDCと接触させることによってCTL誘導の効率が高まることが知られている。このため、DCをタンパク質断片で刺激する場合には、多くの種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0206】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導された場合、および腫瘍細胞の増殖がこのような抗体によって抑制された場合には、そのポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力があると判定することができる。
【0207】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導により、乳癌の治療および予防が可能になる。癌に対する治療法または癌の発症の予防は、癌細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発症の抑制といった段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども癌の治療または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は統計学的に有意であることが好ましい。例えば、観測値で、乳癌に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較して、5%またはそれ未満は有意水準である。統計分析には、例えば、スチューデントのt検定、マン-ホイットニーのU検定またはANOVAを用いうる。
【0208】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質、またはタンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と同時に(または連続して)投与した場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらには限定されない。さらに、本発明のワクチンを薬学的に許容される担体と適宜配合してもよい。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などが含まれる。さらに、ワクチンが必要に応じて、安定剤、懸濁剤、保存料、界面活性剤などを含んでもよい。ワクチンは全身的または局所的に投与される。ワクチン投与は単回投与によって行ってもよく、または多回投与による追加刺激を行ってもよい。
【0209】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして用いる場合に、腫瘍を、例えばエクスビボの方法によって治療または予防することができる。より具体的に述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を対象に対して投与することができる。ポリペプチドをコードするベクターをPBMC中にエクスビボで導入することによってAPCを誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷させる活性の高い細胞のクローニングおよび増殖を行うことにより、細胞免疫療法をさらに効率的に行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体における細胞免疫療法のみならず、他の個体の同様の種類の腫瘍にも用いうる。
【0210】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、乳癌の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。本薬学的組成物は抗腫瘍免疫を生じさせるために用いうる。B1194の通常の発現は精巣および卵巣に限局しており、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3の発現は通常の臓器においては観察されなかった。このため、これらの遺伝子の抑制は他の臓器には有害な影響を及ぼさないと考えられる。したがって、B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3ポリペプチドは乳癌を治療するのに好ましい。本発明において、ポリペプチドまたはその断片は抗腫瘍免疫を誘導するのに十分な投与量で投与され、これは0.1mg〜10mg、好ましくは0.3mg〜5mg、より好ましくは0.8mg〜1.5mgの範囲である。投与は反復される。抗腫瘍免疫を誘導するには、例えば、1mgのペプチドまたはその断片を2週間毎に4回投与するとよい。
【0211】
以下では、実施例を参照することにより、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、以下の材料、方法、および例は本発明の諸局面を例示しているに過ぎず、本発明の範囲を限定するものでは全くない。このため、本明細書で記載したものに類似するか等価である方法および材料を、本発明の実施または検討のために用いることができる。
【0212】
実施例
以上に提示した開示から理解されるように、本発明には多岐にわたる用途がある。したがって、以下の例は例示を目的として提供されるものであり、本発明に関する限定であるとみなされることはいかなる形であれ意図していない。当業者は、重要ではない種々のパラメーターを変更または改変しても本質的に類似した結果が得られることを容易に理解すると考えられる。
【0213】
発明を実施するための最良の形態
本発明は以下の実施例によって詳細に例示されるが、これらの実施例には限定されない。
【0214】
実施例1−材料および方法
(1)細胞株および臨床材料
ヒト乳癌細胞株HBL100、HCC1937、MCF7、MDA-MB-435S、YMB1、SKBR3、T47D、子宮頸部腺癌HeLaおよびCOS-7細胞株をAmerican Type Culture Collection(ATCC)から購入し、それぞれの寄託者の推奨に従って培養した。HBC4、HBC5、およびMDA-MB-231細胞株は、癌研究会癌化学療法センター分子薬理学部門(Molecular Pharmacology, Cancer Chemotherapy Center of the Japanese Foundation for Cancer Research)のYamori博士に寄贈いただいた。
【0215】
すべての細胞は適切な培地中で培養した;すなわち、RPMI-1640(Sigma, St. Louis, MO)をHBC4、HBC5、SKBR3、T47D、YMB1、およびHCC1937に対して用い(2mM L-グルタミン酸を添加);ダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)をHBL100、COS7に対して用い;EMEM(Sigma)に0.1mM必須アミノ酸(Roche)、1mMピルビン酸ナトリウム(Roche)、0.01mg/mlインスリン(Sigma)を加えたものをMCF-7に対して用い;L-15(Roche)をMDA-MB-231およびMDA-MB-435Sに対して用いた。それぞれの培地には、10%ウシ胎仔血清(Cansera)および1%抗生物質/抗真菌薬溶液(Sigma)を加えた。MDA-MB-231細胞およびMDA-MB-435S細胞は、CO2を含まない加湿空気雰囲気中で37℃に保った。他の細胞株は、5% CO2を含む加湿空気雰囲気中で37℃に保った。臨床試料(乳癌および正常乳管)は、すべての患者からインフォームドコンセントを得た上で、手術標本から入手した。
【0216】
(2)cDNAマイクロアレイ上の新規ヒト遺伝子の単離
cDNAマイクロアレイスライドの作製については別に記載されている(Ono K,ら、(2000). Cancer Res, 60, 5007-5011)。それぞれの発現プロファイルの分析に関しては、実験的な変動を少なくするために、27,648個のcDNAスポットを含むスライドを2セットずつ用意した。手短に述べると、レーザーマイクロダイセクションを行った細胞の各試料から全RNAを精製し、マイクロアレイ実験を行うのに十分な量のRNAを得るためにT7に基づくNA増幅を行った。乳癌細胞および正常乳管細胞由来の増幅されたRNAのアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)を用いる逆転写によって標識した。ハイブリダイゼーション、洗浄、および検出は以前の記載の通りに行った(Ono Kら、(2000)、Cancer Res, 60: 5007-5011)。乳癌で一般的に上方制御される遺伝子を検出するために、マイクロアレイ上の27,648種の遺伝子の全体的な発現パターンをスクリーニングし、77例の閉経前乳癌症例全例のうち50%より多く存在する発現比が2.0を上回っているものを選択した。最終的に、腫瘍細胞において上方制御されるように思われる合計468の遺伝子が同定された。
【0217】
乳癌で一般的に上方制御される遺伝子を検出するために、マイクロアレイ上の27,648の遺伝子の全体的な発現パターンをスクリーニングし、(i)77例の閉経前乳癌症例全例、(ii)69例の侵襲性腺管癌、(iii)31例の高分化型病変、(iv)14例の中程度分化型病変、または(v)24例の低分化型病変のそれぞれのうち50%より多く存在する、発現比が3.0を上回っているものを選択した。最終的に、腫瘍細胞において上方制御されるように思われる合計493の遺伝子が選択された。
【0218】
(3)半定量的RT-PCR分析
レーザー捕捉した細胞のそれぞれの集団から全RNAを抽出し、続いてT7に基づく増幅および逆転写を以前の記載の通りに行った(Kitahara Oら、Cancer Res 61, 3544-3549(2001))。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を定量用内部対照としてモニタリングすることにより、その後のPCR増幅のための各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。PCRプライマー配列は以下の通りとした。
GAPDHに対しては、5'- CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3' (SEQ ID NO:9) および 5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(SEQ ID NO:10);
B1194に対しては、5'-TGGGTAACAAGAGAATGGTTCA-3'(SEQ ID NO:11) および 5'- ATCCAAGTCCTAATCCCTTTGG-3'(SEQ ID NO:12);
A2282に対しては、5'- GCTGCAAGGTATAATTGATGGA-3'(SEQ ID NO:13) および 5'-CAGTAACATAATGACAGATGGGC-3'(SEQ ID NO:14)。
【0219】
(4)ノーザン-ブロット分析
すべての乳癌細胞株から、RNeasyキット(QIAGEN)を製造元の指示に従って用いて全RNAを抽出した。DNアーゼI(ニッポン・ジーン、大阪、日本)による処理の後に、mRNA精製キット(Amersham Biosciences)を製造元の指示に従って用いて、mRNAを単離した。各mRNAの1μgのアリコートを、正常成人の肺、心臓、肝臓、腎臓、骨髄、脳から単離したポリA(+)RNA(BD, Clontech, Palo Alto, CA)と共に1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜に移行させた(乳癌ノーザンブロット)。ヒト多組織ノーザンブロット(Clontech, Palo Alto, CA)および乳癌ノーザンブロットを、RT-PCRによって調製したB1194およびA2282の[α32P]-dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた(下記参照)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は供給元の推奨に従って行った。ブロットのオートラジオグラフィーは増感スクリーンを-80℃で14日間用いて行った。B1194(411bp)に対する特異的プローブは、以下のプライマーセット:5’-TGG GTAACAAGAGAATGGTTCA-3’ (SEQ ID NO:11) および 5’-ATCCAAGTCCTAATCCCTTTGG-3’ (SEQ ID NO:12)を用いるPCRによって調製した。A2282(554bp)の変異型1、2、および3ならびにA2282(170bp)の変異型1および2に対しては、以下のプライマーセット:554bp 5’-TTATCACTGTGCTCACCAGGAG-3’ (SEQ ID NO:15) および 5’-CAGTAACATAATGACAGATGGGC-3’ (SEQ ID NO:14);170bp 5’-AAACTTGCCTGCCATATCCTTA-3’ (SEQ ID NO:16), および 5’-ATTTTGTTGGCTGTCTCTAGCA-3’ (SEQ ID NO:17) を用いるPCRによって調製した上で、メガプライムDNA標識システム(Amersham bioscience)により放射性標識した。
【0220】
(5)cDNAライブラリーのスクリーニング
superscript(商標)プラスミドシステムを、cDNA合成およびクローニング用のキット(Invitrogen)のためのgateway(商標)技術ならびに乳癌細胞株T47Dから入手したポリ(A)+RNAと共に用いてcDNAライブラリーを構築し、このライブラリーの、V1変異型のヌクレオチド1〜1112に対応するcDNAプローブを用いて3×106個の独立したクローンをスクリーニングした。
【0221】
(6)インビトロ翻訳アッセイ
A2282の4種類の突然変異体(V1、V2、V3、およびV4)を、上記のようにcDNAライブラリーの構築に用いたpSPORT-1発現ベクター中にそれぞれクローニングし、続いてインビトロでの転写/翻訳実験のためのテンプレートとして用いた。プラスミド(1μg)の転写および翻訳を、TNT結合網状赤血球溶解物システム(TNT Coupled Reticulocyte Lysate System)(Promega, Madison, WI)を用いて、製造元の指示に従ってε標識ビオチン化リジン-tRNAの存在下で行った。タンパク質産物を、5〜20%勾配のSDS-ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動によって分離した。エレクトロブロット法の後に、ビオチン化タンパク質を、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させた後に化学発光検出(Amersham Biosciences)を行うことによって視覚化した。
【0222】
(7)発現ベクターの構築
哺乳動物発現ベクターを構築するために、B1194 cDNAの全コード配列を、KOD-Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO、大阪、日本)を以下のプライマーセットと共に用いてPCRによって増幅した:5’-AAAGAATTCGGGTGTCGTTAATGTTCGGGG-3’ (SEQ ID NO:18); および 5’-AAAGCGGCCGCTTAGGCGGATTTTCCTGCA-3’ (SEQ ID NO:19)。PCR産物をpCMV-N-myc発現ベクター(Clontech)のEcoRI部位およびNotI部位に挿入した。
【0223】
A2282発現ベクターのV1、V2、およびV3変異型を構築するために、A2282 cDNAの各変異型の全コード配列を、KOD-Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO、大阪、日本)を以下のプライマーセットと共に用いてPCRによって増幅した:5’-CGGAATTCACTATGAAAGATTATGATGAAC-3’ (SEQ ID NO:20); および 5’-AAACTCGAGTACCTTGCAGCTAGATAGGAT-3’ (SEQ ID NO:21)。これはすべての変異型が同じORFの5’配列を含むためである。PCR産物をpCAGGS-HA発現ベクターのEcoRI部位およびXhoI部位に挿入した。これらの構築物、すなわちpCMV-myc-B1194およびpCAGGS-A2282-HAを、DNAシークエンシングによって確認した。
【0224】
(8)免疫細胞化学染色
B1194の細胞内局在について検討するために、B1194をトランスフェクトしたCOS7細胞を、Lab-Tek(登録商標)II Chamber Slide System(Nalgen Nunc International)に1ウェル当たり5×104個の密度で播き、続いて4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定し、0.1%Triton X-100を含むPBSで4℃で3分間透過処理を行った。3%BSAを含むPBSで室温で1時間ブロッキングした後に、細胞をマウス抗myc 9E10モノクローナル抗体(0.2μg/ml、Santa Cruz Biotechnology)と共に室温で1時間インキュベートした。続いて細胞をFITC結合ヤギ抗マウス二次抗体で染色し、その後TCS SP2 AOBS顕微鏡(Leica、東京、日本)で視覚化した。
【0225】
(9)ウエスタンブロット分析
外因性B1194およびA2282タンパク質の発現を検討するために、B1194発現プラスミド、pCAGGS-A2282-HAまたは陰性対照としてのpCMV-N-myc(擬似)を、それぞれCOS7細胞またはHeLa細胞に一過性にトランスフェクトした。細胞溶解物を5%〜10%のSDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロース膜に移行させた後に、BlockAce(商標)粉末(大日本製薬)でブロッキングした上で、マウス抗myc 9E10モノクローナル抗体またはマウス抗HA抗体(0.4μg/ml、Santa Cruz Biotechnology)、またはタンパク質に関するローディング対照として1:1000希釈で用いたモノクローナルβ-アクチン抗体(クローンAC-15、Sigma-Aldrich, MO)で処理した。洗浄の後に、ブロットをβ-アクチン抗体に対する西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗マウスIgG(Amersham Biosciences)で処理し、西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させた後に化学発光検出(Amersham Biosciences)を行うことによってタンパク質を視覚化した。
【0226】
(10)同期化およびフローサイトメトリー分析
HeLa細胞(1×106個)に対して、FuGENE6(Roche)を供給元のプロトコールに従って用いて、8μgのpCAGGS-A2282-HA発現ベクターをトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に、アフィジコリン1(μg/ml)を用いて細胞をG1期にさらに16時間停止させた。細胞周期は、新鮮な培地で3回洗浄する事で解放され、細胞は指定された時点に収集される。細胞を分裂期に停止させるために、細胞を収集16時間前にノコダゾール(250ng/ml)と共にインキュベートした。
【0227】
FACS分析のためには、同期化した付着細胞および剥離細胞の400μlのアリコートを混合し、4℃で70%エタノールにより固定した。PBS(-)で2回洗浄した後に、1μgのRNアーゼIを含む1μlのPBSと共に細胞を37℃で30分間インキュベートした。続いて細胞を、50μgのヨウ化プロピジウム(PI)を含む1mlのPBS中で染色した。細胞周期の各画分の比率を、フローサイトメーター(FACScalibur:Becton Dickinson, San Diego, CA)において少なくとも10000個の細胞から決定した。
【0228】
(11)B1194またはA2282に特異的なsiRNA発現ベクターの構築
ベクターに基づくRNAiシステムを、以前の報告(Shimokawa Tら、(2003). Cancer Res, 63, 6116-6120)に従って、psiH1BX3.0 siRNA発現ベクターを用いて確立した。B1194に対するsiRNA発現ベクター(psiH1BX-B1194Si-1およびSi-5)およびA2282に対するsiRNA発現ベクター(psiH1BX-A2282 Si-3およびSi-4)を、psiH1BXベクターのBbsI部位への、表1の二本鎖オリゴヌクレオチドのクローニングによって調製した。対照プラスミドであるpsiH1BX-SCおよびpsiH1BX-LUCは、二本鎖オリゴヌクレオチド、
5’- TCCCGCGCGCTTTGTAGGATTCGTTCAAGAGACGAATCCTACAAAGCGCGC -3’ (SEQ ID NO:22) および
5’-AAAAGCGCGCTTTGTAGGATTCGTCTCTTGAACGAATCCTACAAAGCGCGC-3’ (SEQ ID NO:23)(SC(スクランブル対照)用);ならびに
5'-TCCCCGTACGCGGAATACTTCGATTCAAGAGATCGAAGTATTCCGCGTACG -3'(SEQ ID NO:24) および
5'-AAAACGTACGCGGAATACTTCGATCTCTTGAATCGAAGTATTCCGCGTACG -3' (SEQ ID NO:25)(LUC(ルシフェラーゼ対照)用)
をそれぞれ、psiH1BX3.0ベクターのBbsI部位にクローニングすることによって調製した。
【0229】
(表1)siRNA発現ベクター中に挿入された特異的二本鎖オリゴヌクレオチドの配列

各siRNAの標的配列は表2に示されている。
【0230】
(表2)

【0231】
(12)B1194またはA2282の遺伝子サイレンシング作用
ヒト乳癌細胞株T47DまたはMCF-7を15cm ディッシュにプレーティングし(4×106個/ディッシュ)、FuGENE6試薬を供給元の推奨(Roche)に従って用いて、psiH1BX-LUC(ルシフェラーゼ対照)、psiH1BX-SC(スクランブル対照)(陰性対照として)、psiH1BX-A2282、およびpsiH1BX-B1194の各16μgをトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を、コロニー形成アッセイ(3×106細胞/10cm ディッシュ)、RT-PCR(1×106細胞/10cm ディッシュ)、およびMTTアッセイ(5×105細胞/ウェル)のために再び播いた。T47DまたはMCF-7細胞におけるB1194またはA2282の導入細胞を、それぞれ0.7mg/mlまたは0.6mg/mlのネオマイシン(Geneticin, Gibco)を含む培地を用いて選択した。その後、本発明者らは培地を3週間にわたり2日毎に交換した。siRNAの機能を評価するために、ネオマイシン選択から4日後の時点で細胞から全RNAを抽出し、その後B1194またはA2282およびβ2MGに対する以下の特異的なプライマーを用いる半定量的RT-PCRにより、siRNAのノックダウン作用を確かめた:β2MGに対して、内部対照として、5’-TTAGCTGTGCTCGCGCTACT-3’ (SEQ ID NO:26) および 5’-TCACATGGTTCACACGGCAG-3’ (SEQ ID NO:27);B1194に対して、5’- TTAAGTGAAGGCTCTGATTCTAGTT-3’ (SEQ ID NO:28) および 5’-GTCCTTATTGGCTGGTTCGTT-3’ (SEQ ID NO:29);ならびにA2282に対して、5’-TTATCACTGTGCTCACCAGGAG -3(SEQ ID NO:15) および 5’- CAGTAACATAATGACAGATGGGC -3’ (SEQ ID NO:14)。
【0232】
さらに、T47D細胞またはMCF-7細胞を用いた、siRNAを発現するトランスフェクタントを、0.7mg/mlのネオマイシンを含む選択培地中で28日間増殖させた。4%パラホルムアルデヒドで固定した後に、コロニー形成を評価するためにトランスフェクト細胞をギムザ液で染色した。細胞の生存度を定量するためにはMTTアッセイを行った。ネオマイシンを含む培地中で7日間培養した後に、MTT溶液(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)(Sigma)を濃度0.5mg/mlとして添加した。37℃で2.5時間インキュベートした後に、酸-SDS(0.01N HCl/10% SDS)を添加し;紺青色の結晶を溶解するために、この懸濁液を激しく混合し、その後37℃で一晩インキュベートした。570nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー 550(BioRad)を用いて測定した。各実験は3回ずつ行う。
【0233】
(13)pCAGGS-HAベクターを用いた切断型A2282タンパク質の構築
すべての構築物は、以下のプライマーセットに応じたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって調製した。(完全長フォワード:5’- CGGAATTCACTATGAAAGATTATGATGAAC -3’ (SEQ ID NO:20);切断型No.1フォワード:5’- ACGGAATTCATCATGCAAGATTACAACTATCC -3’ (SEQ ID NO:42);切断型No.2フォワード:5’- GACGGAATTCAATATGGAGGAGACTCCAAAAAG -3’ (SEQ ID NO:43)、および共通のリバースプライマー:5’- CCCTCGAGTACCTTGCAGCTAGATAGGATG -3’ (SEQ ID NO:44))。続いてこれらのORFを、pCAGGS-HAベクターのEcoRIおよびXhoI制限部位に、血球凝集素(HA)タグとインフレームとなるように連結した。
【0234】
(14)潜在的なリン酸化部位の同定のための細胞培養
トランスフェクションの前に、集密度80%に達するまでHBC5細胞を10cm ディッシュで培養した。各構築物の8μgを、製造元の推奨に従って(FuGENE 6)、HBC5細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから36時間後に、細胞をアフィジコリン1μg/ml(Sigma A-0781)およびノコダゾール0.5μg/ml(sigma M-1404)でさらに18時間処理した。
【0235】
(15)λホスファターゼアッセイ
ホスファターゼアッセイは、製造元(New England)による記載の通りに行った。手短に述べると、細胞溶解物を1μlのλホスファターゼと共に30℃で1時間インキュベートした。
【0236】
(16)インビトロキナーゼアッセイのための突然変異体A2282発現ベクターの作製
突然変異体構築物D150A、T167A、およびT478Aを、QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene Cat 200518-5)により、pCAGGS-A2282-HAを鋳型として用いて、製造元の推奨に従って作製した。
【0237】
(17)免疫沈降のためのトランスフェクションおよび細胞培養
HEK 293細胞に対して、各構築物の16μgをトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後に、溶解バッファー(50mM Tris-HCl(pH 7.5)、150mM NaCl、1%NP-40、40mM NAF、40mM β-グリセロリン酸、プロテアーゼ阻害薬混合物)および抗HAラット抗体(Roche)を用いて免疫沈降を行った。タンパク質が結合したRec-プロテインGセファロース4Bビーズ(ZYMED)を溶解バッファーで2回、キナーゼバッファー(50mM Tris-HCl、(pH 7.5)、10mM MgCl、25mM NaCl、1mM DTT)で1回洗浄した。
【0238】
(18)インビトロキナーゼアッセイ
20μlのIP産物を、5μgのヒストンH1(UPSTATE, Lake Placid, NY 12946)と共に、50μMのATPおよび10ciの[γ32P]-ATPを含む30μlのキナーゼバッファーの存在下にて30℃で30分間インキュベートした。反応は、10μlのSDSサンプルバッファーを添加して3分間煮沸することによって停止させた。
【0239】
実施例2−B1194
(1)乳癌で上方制御される遺伝子としてのB1194の同定
27,648のヒト遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いた、77例の閉経前乳癌患者由来の乳癌細胞の遺伝子発現プロファイルからの候補遺伝子に対する選択基準により、正常乳管細胞遺伝子と比較して乳癌細胞において一般に少なくとも2倍上方制御される468の遺伝子が同定された(材料および方法の項参照)。それらの中から、FLJ-10252(Genbankアクセッション番号NM_018040)を設計するB1194が選択された。マイクロアレイ上で、B1194遺伝子の発現は、情報的価値のある41例の乳癌症例のうち24例で亢進していた。その後の半定量的RT-PCRにより、B1194の弱い発現は乳腺および心臓で観察されるものの、B1194が12例の臨床標本(高分化型)のうち8例(図1a)および9種の乳癌細胞株のほぼすべて(図1b)で、正常乳管細胞および他の正常組織と比較して顕著に上方制御されることが確かめられた。B1194の発現パターンをさらに検討するために、ヒト多組織および乳癌細胞株を用い、411bpのcDNA断片をプローブとして用いてノーザンブロット分析を行った(材料および方法の項参照)。その結果、B1194は精巣に限定して発現し(図2a)、かつすべての乳癌細胞株で特異的に過剰発現し(図2b)、このことからB1194が抗癌剤の開発のための優れた候補標的であることが示唆された。B1194は10個のエクソンからなり、FLJ-10252仮想的タンパク質を設計し、染色体1q41上に位置していた。B1194の完全長cDNA配列は2338ヌクレオチドを含み、528アミノ酸をコードする(58kDa)。SMARTコンピュータプログラムにより、この遺伝子産物が高度に保存されたG-パッチ、グリシンリッチ核酸結合ドメインをそのカルボキシル末端に有することが予測され、このことからそれがRNA結合機能を有すると予測されることが示唆された。このオープンリーディングフレーム(ORF)はエクソン1で始まり、エクソン10で終わる。
【0240】
(2)B1194の細胞内局在
PSORTIIコンピュータプログラムにより、B1194遺伝子産物は主として核に局在することが予測された。B1194の特徴についてさらに検討するために、この遺伝子産物の細胞内局在を哺乳動物細胞で調査した。B1194タンパク質を発現するプラスミド(pCMV(+)-myc-B1194)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトしたところ、免疫細胞化学染色により、外因性B1194がCOS7細胞の核全体にわたって局在し(図3a)、分子量は58kDaであること(図3b)が明らかになった。
【0241】
(3)B1194に対するsiRNAの増殖阻害作用
B1194の増殖を促進する役割を評価するために、B1194の過剰発現が示されている乳癌細胞株T47D(図1bおよび2bを参照)において、内因性B1194の発現を、哺乳動物ベクターに基づいたRNA干渉(RNAi)技術(材料および方法の項参照)によってノックダウンした。B1194の発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。図4aに示されているように、検討した遺伝子の2種類のsiRNA構築物の中で、B1194特異的siRNA(si1およびsi5)は、対照siRNA構築物(psiH1BX-SC)と比較してB1194の発現を有意に抑制した。B1194特異的siRNAによる細胞増殖阻害を確かめるためにMTTアッセイを行った。その結果、B1194特異的siRNA(si1およびsi5)構築物の導入は、発現低下という上記の結果に一致して、T74D細胞の増殖を抑制した(図4b)。それぞれの結果は3回の独立した実験によって実証された。このため、本所見は、B1194が乳癌の細胞増殖において重要な機能を有することを示唆している。
【0242】
実施例3−A2282
(1)乳癌で上方制御される遺伝子としてのA2282の同定
77例の閉経前乳癌患者由来の癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、27,648のヒト遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて分析したところ、乳癌細胞で一般的に上方制御される493の遺伝子が同定された。それらの中から、母体胚性ロイシンキナーゼ(maternal embryonic leucine kinase)に対して設計されたA2282を選択した。MELK(Genbankアクセッション番号NM_014791)は染色体9p13.1に位置し、mRNA転写物は2501塩基長であり、18個のエクソンからなる。A2282の発現は、発現データが得られた33例の乳癌症例のうち25例(76%)、特に中等度分化型の乳癌標本14例の症例のうち10例(71%)で亢進していた。興味深いことに、A2282は主に、エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の状態が陰性である患者で発現される。乳癌におけるこの遺伝子の発現パターンを確かめるために、乳癌細胞株、および正常乳房細胞を含む正常ヒト組織を用いて半定量的RT-PCR分析を行った。その結果、12例の臨床乳癌標本(中程度分化型)のうち11例で正常乳管細胞および他の正常な重要組織と比較して発現の亢進が認められたA2282(図5a)が、骨髄における発現は観察されたものの、6種の乳癌細胞株のすべてで過剰発現されること(図5b)も見いだされた。この遺伝子の発現パターンをさらに検討するために、ヒト多組織および乳癌細胞株を用い、A2282の3’ UTR内部に位置するcDNA断片(554bp)をプローブとして用いてノーザンブロット分析を行った(図6a)。予想外のことに、明らかな2種類の転写物(約1.4kbおよび0.5kb)が、正常ヒト組織のすべてにおいて偏在的に発現されることが観察された。特に、0.5kb転写物はほとんどの正常組織で1.4kb転写物よりも発現が高度であった(図6b)。これに対して、乳癌-ノーザンブロット分析で見いだされた約2.4kbの転写物は乳癌細胞株で特異的に過剰発現していた(図6c)。
【0243】
(2)A2282の乳癌特異的に発現される転写物の単離
A2282の乳癌特異的に発現される変異型を単離するために、乳癌細胞株T47Dから入手したポリ(A)+ RNAを用いて構築したcDNAライブラリーをスクリーニングした。5種類の異なる変異型が単離された(図7a)。それらのうち3つの転写物は約2.4kbでサイズが同程度であり、転写物において完全長、133塩基欠失、および250塩基欠失であることに応じてV1、V2、およびV3と命名された。他の2種類の転写物であるV4およびV5は、それぞれ1.23kbおよび0.5kbである。どの転写物が正常乳房と比較して乳癌細胞で過剰発現するかを調査するため、V1およびV2に特異的な配列をプローブとして用いて(ヌクレオチド214〜383)、ノーザンブロット分析を行った。ある程度予想されたこととして、A2282遺伝子のV1およびV2転写物は、乳癌細胞株のすべてにおいて特異的に過剰発現した(図7b)。このため、A2282のV1、V2、およびV3転写物を選択した。MELKに対して設計されたA2282 V1は、セリントレオニンキナーゼ触媒ドメインをN末端に有し、キナーゼ関連ドメイン(KA1)をC末端付近に有する75kDaタンパク質をコードする。ヒトMELKタンパク質は複数の種の間で進化的に保存されており、ツメガエルおよびマウスのMELKタンパク質との同一性はそれぞれ65%(Heyer BSら、Dev Dyn. 1999;215: 344-51)および29.91%(Gilardi-Hebenstreit, P.ら、(1992)Oncogene 7(12), 2499-2506)であることから、ヒトMELKタンパク質がインビボで同様の機能または結合パートナーを有し得ることが示唆される。ツメガエルMELKキナーゼは、細胞極性の確立、ならびに微小管動態および細胞骨格の組織化の両方に関与するKIN1/PAR-1/MARKファミリーの新たなメンバーとして報告されている。最も重要なこととして、これはツメガエル胚形成において細胞周期調節に重要な役割を果たすと信じられている(Blot Jら、(2002) Dev Biol 241, 327-338)。ヒトMELKタンパク質も細胞周期の進行に関与することが示唆されている(Davezac Nら、(2002). Oncogene, 21, 7630-7641)。しかしながら、正確な分子経路および機構はまだ解明されていない。
【0244】
(3)インビトロ翻訳
これらの5種類の異なる変異型が潜在的に機能的タンパク質へと翻訳されうるか否かをさらに検討するために、インビトロ翻訳実験を行った。V1、V2、およびV3転写物はインビトロで翻訳可能であり、予想されるタンパク質の分子量はそれぞれ75kDa、71kDa、および66kDaであることが確かめられた(図8)。しかしながら、V4に関しては乳癌細胞株でバンドは検出されなかった。これらの知見は、A2282のV1、V2、およびV3転写物が、新規な抗癌剤の開発のための分子標的として優れた候補であることを示唆している。
【0245】
(4)任意の細胞周期時期でのA2282タンパク質のV1、V2、およびV3の発現
ヒトMELKは細胞周期調節に関与すると報告されており、そのキナーゼ活性およびリン酸化状態は分裂期に最大レベルに達することが観察されていることから(Davezac Nら、(2002). Oncogene, 21, 7630-7641)、V2およびV3もV1の特徴を有するか否かを検討するためにウエスタンブロット分析およびフローサイトメトリー分析を行った。それにより、同期化されたHeLa細胞において分裂期に、より遅く移動するV1タンパク質の余分なバンドが観察された(図9a、b);しかしながら、V2およびV3タンパク質には余分なバンドが認められず、このことはV2およびV3タンパク質のリン酸化はいずれの細胞周期時期にも起こらないという可能性を示唆している。
【0246】
(5)A2282に対するsiRNAの増殖阻害作用
A2282の増殖促進の上での役割を評価するために、それぞれA2282を過剰発現することが示されている乳癌細胞株T47DおよびMCF-7において、内因性A2282の発現を、哺乳動物ベクターに基づくRNA干渉(RNAi)技術(材料および方法の項参照)によってノックダウンした(図10)。A2282の発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。図10aに示されているように、A2282(si3およびsi4)特異的siRNAは、対照siRNA構築物(psiH1BX-LUCまたは-SC)と比較して発現を有意に抑制した。A2282特異的siRNAによる細胞増殖阻害を確かめるために、MTTアッセイおよびコロニー形成アッセイをそれぞれ行った(図10b、c)。その結果、A2282特異的siRNA構築物の導入は、この遺伝子の発現低下という上記の結果に一致して、T74D細胞およびMCF-7細胞の増殖を抑制した。それぞれの結果は3回の独立した実験によって実証された。このため、本所見は、A2282が乳癌の細胞増殖において重要な機能を有することを示唆している。
【0247】
(6)キナーゼドメインでのA2282タンパク質のリン酸化
潜在的なリン酸化部位を同定するために、A2282の野生型(WT)および2種類のキナーゼドメイン欠失タンパク質をリン酸化に関して調べた(図11a)。図11bに示されている通り、WTタンパク質はすべての細胞周期時期で、特に分裂期において不明瞭なバンドとして移動した。しかしながら、切断型構築物(TC1およびTC2)では不明瞭なバンドはみられなかった。WTタンパク質の不明瞭なバンドがリン酸化であるか否かを調査するために、λホスファターゼアッセイを行った(図11c)。λホスファターゼ処理によって不明瞭なバンドは単一のバンドへと減少し、このことからWTタンパク質がM期に広範にリン酸化されたことが示唆された。これに対して、他の2種類のキナーゼ切断型タンパク質では2つのバンドも不明瞭なバンドも観察されなかった。これらのデータから、リン酸化部位はA2282タンパク質のキナーゼ領域に位置する可能性が高いことが示された。
【0248】
(7)リン酸化によるA2282キナーゼ活性の調節
MARK関連キナーゼおよびAMPK関連キナーゼの活性化は、それらのT-ループトレオニン残基のリン酸化によって調節されることが報告されている(Drewes G and Nurse P, FEBS Lett. 2003; 554: 45-9;Spicer Jら、 Oncogene. 2003; 22: 4752-6)。したがって、いくつかの置換型および欠失型の突然変異体(材料および方法の項参照)を構築した。免疫沈降法を哺乳動物細胞で行い、これらの構築物のキナーゼ活性を、以前の報告で用いられた基質であるヒストンH1を用いて検討した。予想されるATP結合パケット(D150残基)およびリン酸化されたトレオニンの可能性のあるもの(T167残基)を、材料および方法の項に記載したようにアラニン残基に置き換えた。報告されているリン酸化部位(Vulsteke Vら、J Biol Chem. 2004; 279(10): 8642-7)であるThr 478も対照として突然変異させた(図12a)。HEK293細胞株では、ウエスタンブロット法で認められたように、すべての転写物がリン酸化されることも見いだされた(図12b)。キナーゼ活性については、野生型タンパク質および無傷のキナーゼドメインを有するT478Aタンパク質ではインビトロでリン酸化ヒストンH1が観察された(図12c)。この活性はT167A突然変異体では著しく損なわれており、D150Aタンパク質では完全に消失していた。さらに、75kDaに位置するバンドはWT、T167A、およびT478Aでは観察されたが、D150Aでは観察されず、このことはA2282タンパク質の自己リン酸化の可能性を示している。
【0249】
以上の実施例は、本発明を例示するために提示されているが、その範囲を限定することは意図していない。本発明の他の変異型も当業者には容易に理解されると考えられ、それらは添付した特許請求の範囲に含まれる。
【0250】
産業上の利用可能性
新規ヒト遺伝子B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3の発現は、非癌性ヒト組織と比較して乳癌において顕著に亢進している。したがって、これらの遺伝子は癌の診断マーカーとして役立つ可能性があり、それらによってコードされるタンパク質は癌の診断アッセイに用いられ得る。
【0251】
本明細書では、新規タンパク質B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3の発現は細胞増殖を促進することが示され、一方、B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3遺伝子に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAによって細胞増殖は抑制された。これらの知見は、B1194、A2282V1、A2282V2、およびA2282V3タンパク質のそれぞれが発癌活性を刺激することを示唆する。したがって、これらの新規な癌タンパク質はそれぞれ抗癌剤の開発のための有用な標的である。例えば、B1194、A2282V1、A2282V2、もしくはA2282V3の発現を阻止する、またはその活性を妨げる作用物質には、抗癌剤、特に乳癌の治療用の抗癌剤としての治療的有用性がある可能性がある。このような作用物質の例には、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、およびB1194、A2282V1、A2282V2、またはA2282V3を認識する抗体が含まれる。
【0252】
本明細書で引用したすべての刊行物、データベース、Genbank配列、特許、および特許出願は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0253】
本発明を、その具体的な態様に言及しながら詳細に説明してきたが、発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および修正をそれに加えることができ、その範囲が添付される特許請求の範囲によって定められることは当業者には明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0254】
【図1】遺伝子B1194の過剰発現を実証するためのRT-PCRの結果を示した一連の写真で構成されている。図1(a)の列1〜12は、逆転写の前に、T7に基づいた増幅に1回供した臨床試料であり、図1(b)の列1〜9は乳癌細胞株である。「プレ(pre)」という略号は、正常乳管細胞の混合物を表し、これは本明細書ではマイクロアレイ実験に関する共通の対照として用いられる。
【図2】ノーザンブロット分析の結果、特に(a)多数の正常組織、(b)乳癌細胞株のそれぞれにおけるB1194の発現パターンを示した一連の写真で構成されている。「#」は重要臓器を示している。
【図3】図3(a)は、COS7細胞におけるB1194タンパク質の細胞内局在を表した一連の写真で構成されている。DAPI(核);B1194(FITC)、およびそれらの合成像が、それぞれ写真1、2、および3に示されている。図3(b)は、B1194タンパク質のウエスタンブロット分析の写真である。
【図4】図4(a)は、半定量的RT-PCRの結果を表した、特にT47D細胞株における内因性B1194のノックダウン効果を示した一連の写真で構成されている。図4(b)は、si1およびsi5培養物における低い増殖性を示したMTTアッセイの結果を表す棒グラフである。
【図5】半定量的RT-PCRの結果、詳細にはA2282の発現を表した一連の写真で構成されている。図5(a)の列1〜12は、逆転写の前に、T7に基づいた増幅に1回供した臨床試料である。図5(b)の列1〜6は癌細胞株である。ここでも、「プレ(pre)」という略号は正常乳管細胞の混合物を表し、これは本明細書ではcDNAマイクロアレイ分析に関する共通の対照として用いられる。
【図6】図6(a)は、A2282のゲノム構造を表している。図6(b)および6(c)は、ノーザンブロット分析の結果を表した、特に(b)多数の正常組織、(c)乳癌細胞株および正常組織のそれぞれの発現パターンを示した写真である。「#」は重要臓器を示している。
【図7】図7(a)は、A2282変異型の構造を表している。A2282の5種類の転写物をcDNAライブラリースクリーニングによって単離した。ATGおよびTAAはそれぞれ翻訳開始コドンおよび終止コドンを表している。黒および網掛け入りのブロックは、非翻訳領域およびコード配列を示している。図7(b)は、乳癌細胞株および正常組織におけるノーザンブロット分析の結果を表した写真である。
【図8】4種類のA2282転写物のインビトロでの翻訳能力を示した写真である。予想されるタンパク質分子量が、各変異型の隣の括弧内に示されている。Nは陰性対照を表している。
【図9】図9(a)は、ウエスタンブロット分析の結果を示した、特にA2282タンパク質の発現を示した写真である。略号「E」および「M」はそれぞれ、薬剤処置を行わなかったもの(指数増殖)および分裂期を示している。βアクチン(ACTB)を内部対照として用いた。それぞれの列には等しい総量のタンパク質(10μg)をローディングした。図9(b)は、細胞周期分析の結果を示した一連のグラフで構成されている。細胞周期移行に対する3種類のA2282転写物の影響を、同期化させたG1期のHeLa細胞において、フローサイトメトリーにより検討した。非トランスフェクト細胞を対照として用いている。
【図10】図10(a)は、MCF-7細胞株およびT47D細胞株における内因性A2282のノックダウン効果を示した半定量的RT-PCRの写真である。図10(b)は、MTTアッセイの結果を表した、特にNo.3およびNo.4の培養物における低い増殖性を示した一連の棒グラフで構成されている。図10(c)は、A2282遺伝子ノックダウン培養物におけるコロニー密度の低下を示したコロニー形成アッセイの結果を表す一連の写真で構成されている。
【図11】A2282タンパク質がキナーゼドメインでリン酸化されることを示している。具体的には、図11(a)は野生型A2282タンパク質および2種類の切断型A2282タンパク質を体系的に提示したものである。図11(b)は、抗HA抗体を用いた、3種類の転写物すべてに関するウエスタンブロット分析の結果を表している。図11(c)は、野生型A2282タンパク質のリン酸化を確かめたλ-PPアーゼアッセイの結果を表している。
【図12】免疫沈降アッセイおよび免疫複合体キナーゼアッセイの結果を表している。具体的には、図12(a)は、野生型および突然変異体の転写物を体系的に提示したものである。図12(b)は、HEK 293細胞株における3種類の突然変異体のリン酸化状態を調べている。図12(c)は、免疫複合体キナーゼアッセイによって3種類の突然変異体のキナーゼ活性を評価している。ヒストンH1をインビトロ基質として用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される、実質的に純粋なポリペプチド:
(a)SEQ ID NO:6または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:6または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:6または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(c)SEQ ID NO:6または8のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:5または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項2記載のポリヌクレオチドまたは請求項3記載のベクターを保有する宿主細胞。
【請求項5】
請求項1記載のポリペプチドを生産するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)請求項4記載の宿主細胞を培養する段階;
(b)宿主細胞にポリペプチドを発現させる段階;および
(c)発現されたポリペプチドを収集する段階。
【請求項6】
請求項1記載のポリペプチドと結合する抗体。
【請求項7】
請求項2記載のポリヌクレオチドまたはその相補鎖に対して相補的であり、かつ少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項2記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNA。
【請求項9】
そのセンス鎖が、SEQ ID NO:38、39、40、および41のヌクレオチド配列からなる群より選択される、請求項8記載の低分子干渉RNA。
【請求項10】
乳癌の診断のための方法であって、以下の段階を含む方法
(a)生物試料における、SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列をコードする遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b)発現レベルの上昇を乳癌と関連づける段階。
【請求項11】
発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれか1つによって検出される、請求項10記載の方法:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列をコードするmRNAを検出すること、
(b)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出すること、および
(c)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物活性を検出すること。
【請求項12】
乳癌の治療に有用な化合物に関するスクリーニングの方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)被験化合物を、以下からなる群より選択されるポリペプチドと接触させる段階:
(1)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(3)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
(b)ポリペプチドと被験化合物との間の結合活性を検出する段階;ならびに
(c)ポリペプチドと結合する化合物を選択する段階。
【請求項13】
乳癌の治療に有用な化合物に関するスクリーニングの方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列を含む1つまたは複数のポリヌクレオチドを発現する細胞と接触させる段階;および
(b)被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列を含む1つまたは複数のポリヌクレオチドの発現レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【請求項14】
乳癌の治療に有用な化合物に関するスクリーニングの方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)被験化合物を、以下からなる群より選択されるポリペプチドと接触させる段階:
(1)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(3)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;ならびに
(c)被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して、ポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階。
【請求項15】
生物活性が細胞増殖活性である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
SEQ ID NO:4、6、および8からなるポリペプチドの生物活性がキナーゼ活性である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
乳癌の治療に有用な化合物に関するスクリーニングの方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、1つまたは複数のマーカー遺伝子がSEQ ID NO:1、3、5、および7からなる群より選択されるヌクレオチド配列のいずれか1つを含む段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;および
(c)被験化合物の非存在下で検出される該レポーター遺伝子の発現または活性のレベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを低下させる化合物を選択する段階。
【請求項18】
乳癌を治療するための組成物であって、有効成分としての、以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量、ならびに薬学的に許容される担体を含む組成物:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(c)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項19】
乳癌を治療するための組成物であって、有効成分としての、以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量、ならびに薬学的に許容される担体を含む組成物:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(c)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項20】
乳癌を治療するための組成物であって、有効成分としての、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項21】
乳癌を治療するための方法であって、以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を投与する段階を含む方法:
(1)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(3)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項22】
乳癌を治療するための方法であって、以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する段階を含む方法:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド;および
(c)SEQ ID NO:2、4、6、または8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、または7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項23】
乳癌を治療するための方法であって、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む方法。
【請求項24】
乳癌を治療または予防するための方法であって、以下の(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を投与する段階を含む方法:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/もしくは付加されたSEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド、またはその断片;
(c)SEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、もしくは7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項25】
乳癌に対する抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、以下の(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチドを抗原提示細胞と接触させる段階、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもしくはそのポリヌクレオチドを含むベクターを抗原提示細胞に導入する段階を含む方法:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/もしくは付加されたSEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド、またはその断片;
(c)SEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、もしくは7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項26】
対象に対して抗原提示細胞を投与する段階をさらに含む、請求項25記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項27】
乳癌を治療または予防するための薬学的組成物であって、有効成分としての、以下の(a)〜(c)の群より選択されるポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量、ならびに薬学的に許容される担体を含む組成物:
(a)SEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)1つまたは複数のアミノ酸が置換、除去、挿入、および/もしくは付加されたSEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物活性を有するポリペプチド、またはその断片;および
(c)SEQ ID NO:2、4、6、もしくは8のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物活性を有する、SEQ ID NO:1、3、5、もしくは7のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項28】
ポリヌクレオチドが発現ベクター中に組み入れられている、請求項27記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−509652(P2008−509652A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507598(P2007−507598)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/JP2005/014369
【国際公開番号】WO2006/016525
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】