説明

乳癌に関連する遺伝子およびポリペプチド

本出願は、乳癌においてその発現が顕著に増大している新規ヒト遺伝子B7330Nを提供する。該遺伝子および該遺伝子にコードされるポリペプチドは、例えば、乳癌の診断において、該疾患に対する薬剤を開発するための標的分子として、および、乳癌の細胞成長を減弱させるために、使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は生物科学の分野に関し、具体的には癌の治療及び診断の分野に関する。特に、本発明は、乳癌に関連する新規遺伝子B7330Nにコードされる新規ポリペプチドに関する。更に、本発明は新規遺伝子B7330Nに関する。本発明の遺伝子およびポリペプチドは、例えば、乳癌の診断において、疾患に対する薬剤を開発するための標的分子として、および、乳癌の細胞成長を減弱させるために、用いることができる。なお本出願は、2005年7月29日に出願された米国仮特許出願第60/703,658号の恩典を主張し、その内容は全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
乳癌は遺伝的に不均一な疾患であり、女性で最も一般的な悪性疾患である。全世界で毎年、推定約800000例の新たな症例が報告されている(Parkin DM, et al., 1999, CA Cancer J Clin 49: 33-64)。本疾患の治療のための同時併用的な選択肢のうち第一のものは乳房切除術である。原発性腫瘍の外科的除去を行っても、診断時点では検出不可能な微小転移(Saphner T, et al., 1996, J Clin Oncol, 14, 2738-46)であるため、局所または遠隔部位での再発が起こる可能性がある。このような残存細胞または前癌細胞を死滅させることを狙いとして、手術後には通常、アジュバント療法として細胞傷害物質が投与される。
【0003】
従来の化学療法剤による治療は経験に拠ることが多く、主として組織学的腫瘍パラメータに基づいており、具体的なメカニズムの理解が欠如している。このため、標的指向性薬剤が乳癌に対する基礎的な治療となりつつある。タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害剤はこの種の代表的な2つであり、転移性乳癌を有する患者においてアジュバントまたは化学予防薬として用いた場合に良好な反応を有することが証明されている(Fisher B, et al., (1998) J Natl Cancer Inst, 90, 1371-88; Cuzick J, et al., (2002) Lancet 360, 817-24)。しかしながら、エストロゲン受容体を発現している患者しか、これらの薬剤に対する感受性を有さないことが欠点である。最近では、特に、長期のタモキシフェン治療が子宮内膜癌を引き起こす可能性、ならびにアロマターゼを処方された患者のうち閉経後の女性における骨折への有害な影響による、これらの副作用に関する懸念さえ生じている(Coleman RE, et al., (2004) Oncology. 18 (5 Suppl 3),16-20)。
【0004】
副作用および薬剤耐性の出現のために、特定された作用機序に基づく、選択的で有用な薬剤の新たな分子標的を探索することが明らかに必要である。この目標を達成するために、本発明者らは、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)と、27,648遺伝子に相当するcDNAマイクロアレイとの組み合わせによって精製したDCIS 8例およびIDC 69例を含む、乳腺腫瘍77例の発現プロファイルを解析した。これらの実験からのデータは、乳腺腫瘍形成に関して重要な情報を提供するはずであるのみならず、その産物が診断マーカーおよび/または乳癌の処置に関する分子標的として役立つ可能性がある候補遺伝子を同定するために非常に貴重である。
【0005】
本発明において、本発明者らは、乳癌の発現プロファイルを通して、乳癌細胞において有意に過剰発現された新規遺伝子B7330Nを単離し、かつさらに、半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析によって、B7330Nが乳癌細胞において過剰発現されていることを確認した。本発明者らは、乳癌細胞をsiRNAで治療するとB7330Nの発現が効果的に阻害され、乳癌の細胞/腫瘍成長が有意に抑制されることを示した。併せて、本発明者らは、GALNT6とも呼ばれるB7330Nを、診断マーカーおよび乳癌薬物開発のための卓越した新規候補分子として提案する。
【0006】
発癌機構を解明するために設計された研究は、抗腫瘍薬剤の分子標的の同定を既に促進している。例えば、Rasに関連する成長-シグナル伝達経路を阻害するように当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼインヒビター(FTI)(その活性は翻訳後のファルネシル化に依存する)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効である(Sun J, et al., Oncogene 16: 1467-73 (1998))。原癌遺伝子受容体HER2/neuに拮抗するために、抗癌剤と、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブとの組み合わせを用いるヒトに対する臨床試験が実施されており、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が得られている(Molina MA, et al., Cancer Res 61:4744-4749 (2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化するチロシンキナーゼインヒビターSTI-571が、慢性骨髄性白血病(bcr-ablチロシンキナーゼの構成的な活性化が白血球の形質転換に重要な役割を果たす)を治療するために開発されている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(O'Dwyer ME and Druker BJ, Curr Opin Oncol 12:594-7 (2000))。したがって、癌細胞において共通してアップレギュレートされる遺伝子産物は、新たな抗癌剤を開発するための潜在的な標的となりうる。
【0007】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識し、腫瘍細胞を溶解することが実証されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以降、他にも多くのTAAが免疫学的アプローチを用いて発見されている(Boon, Int J Cancer 54: 177-80 (1993); Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996); van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991); Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993); Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994))。発見されたTAAの一部は現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが実証された遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanaka et al., Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukaya et al., Int J Cancer 80: 92-7 (1999))等が含まれる。
【0008】
TAAに関する基礎研究および臨床研究における著しい進歩にもかかわらず(Rosenberg et al., Nature Med 4: 321-7 (1998); Mukherji et al., Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995); Hu et al., Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸癌を含む腺癌の治療に利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において大量に発現し、かつ同時に発現が癌細胞に制限されるTAAは、免疫療法の標的の有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新しいTAAが同定されることにより、さまざまな種類の癌を対象としたペプチドワクチン接種戦略の臨床使用に弾みがつくと期待される(Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996); van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991); Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993); Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994); Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998); Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997); Harris, J Natl Cancer Inst 88: 1442-55 (1996); Butterfield et al., Cancer Res 59: 3134-42 (1999); Vissers et al., Cancer Res 59: 5554-9 (1999); van der Burg et al., J Immunol 156: 3308-14 (1996); Tanaka et al., Cancer Res 57: 4465-8 (1997); Fujie et al., Int J Cancer 80: 169-72 (1999); Kikuchi et al., Int J Cancer 81: 459-66 (1999); Oiso et al., Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0009】
ペプチドに刺激された特定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、該ペプチドに反応して有意なレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイにおいてHLA-A24またはHLA-A0201に限定的な様式で腫瘍細胞に対する細胞傷害性を生じることはほとんどないと、繰り返し報告されている(Kawano et al., Cancer Res 60: 3550-8 (2000); Nishizaka et al., Cancer Res 60: 4830-7 (2000); Tamura et al., Jpn J Cancer Res. 92: 762-7 (2001))。しかし、HLA-A24とHLA-A0201の両方とも、白人集団と同様に日本人において一般的なHLA対立遺伝子の1つである(Date et al., Tissue Antigens 47: 93-101 (1996); Kondo et al., J Immunol 155: 4307-12 (1995); Kubo et al., J Immunol 152: 3913-24 (1994); Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065 (1992); Williams et al., Tissue Antigen 49: 129 (1997))。このため、これらのHLAによって提示される癌の抗原ペプチドは、日本人および白人集団における癌の治療に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常、高濃度ペプチドの使用に起因することが公知であり、これにより抗原提示細胞(APC)上で高レベルの特異的ペプチド/MHC複合体が生成され、これが、該CTLを効率的に活性化すると考えられる(Alexander-Miller et al., Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
乳癌の治療のための新規分子標的を単離するために、本発明者らは、cDNAマイクロアレイとレーザーマイクロビームマイクロダイセクションの組み合わせを用いることによって、閉経前乳癌を有する症例77例の正確なゲノム全体の発現プロフィールを調べた。アップレギュレートされた遺伝子の中で、本発明者らは、UDP-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ6(GALNT6)とも呼ばれるB7330Nを同定したが、これは本発明者らが発現データを得ることができた乳癌症例77例中27例(35%)において3倍を上回って過剰発現された。その後の半定量的RT-PCRからも、乳管細胞または正常乳房を含む正常ヒト臓器と比較して、臨床乳癌試料12例中7例および乳癌細胞株20例中7例でB7330Nがアップレギュレートされたことが確認された。ノーザンブロット分析により、B7330N転写物が、乳癌細胞株ならびに正常なヒト胎盤、膵臓、胃、気管、乳腺、および骨髄のみにおいて発現されることが判明した。免疫細胞化学染色により、外来のB7330Nの細胞下局在が、COS7細胞において分泌小胞内に顆粒状パターンとして現れたことが示されている。COS7細胞へのB7330N cDNAの誘導により、培養培地への遺伝子産物の分泌が起こり、細胞成長の増強がもたらされた。低分子干渉RNA(siRNA)による乳癌細胞の治療は、B7330Nの発現を効果的に阻害するとともに乳癌細胞株T47DおよびBT-20の細胞/腫瘍成長を抑制し、このことからこの遺伝子が、自己分泌様式で細胞の成長と増殖に重要な役割を果たすことが示唆された。証拠を組み合わせると、B7330Nが、分子標的療法を開発するための有望な候補物質であり、かつ乳癌患者に関する卓越した診断用腫瘍マーカーとして役立ちうることが示唆される。
【0011】
B7330Nは、622アミノ酸からなるタンパク質をコードする。ノーザンブロット分析により、B7330Nの発現が、乳癌細胞株ならびに正常なヒト胎盤、膵臓、胃、気管、乳腺、および骨髄に限局されることが示された。
【0012】
多くの抗癌剤は、癌細胞のみならず、正常に成長している細胞に対しても毒性を持つ。しかし、B7330Nの正常な発現が胎盤、膵臓、胃、気管、乳腺、および骨髄に限局されるという事実によって、B7330Nの発現を抑制する作用物質は他の臓器に有害な影響を及ぼさない可能性があり、かつしたがって、乳癌を治療または予防するために簡便に用いられうる。
【0013】
したがって、本発明は、乳癌の診断マーカーの候補であるとともに、診断のための新たな戦略および有効な抗癌剤を開発するための有望な潜在的標的でもある、単離された遺伝子B7330Nを提供する。さらに、本発明は、この遺伝子にコードされるポリペプチドに加えて、その産生および使用も提供する。より具体的には、本発明は、乳癌細胞においてその発現が上昇している新規ヒトポリペプチドB7330Nまたはその機能的同等物を提供する。
【0014】
好ましい態様において、B7330Nポリペプチドは、配列番号:24または26のオープンリーディングフレームにコードされる622アミノ酸のタンパク質を含む。B7330Nポリペプチドは、好ましくは、配列番号:25に示されたアミノ酸配列を含む。また本出願は、B7330Nポリヌクレオチド配列に、または配列番号:24もしくは26に示された配列に少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%相補的なポリヌクレオチド配列の少なくとも一部にコードされる、単離されたタンパク質も提供する。
【0015】
本発明はさらに、対応する非癌性の乳管上皮と比較して乳癌の大半でその発現が顕著に増大している新規ヒト遺伝子B7330Nを提供する。単離されたB7330N遺伝子は、配列番号:24または26に記載されたポリヌクレオチド配列を含む。特に、B7330N cDNAは、1869ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む4381または4556ヌクレオチドを含む(配列番号:24または26)。本発明はさらに、B7330Nタンパク質またはその機能的同等物をコードする限りにおいて、配列番号:24または26に示されたポリヌクレオチド配列にハイブリダイズしかつそれに少なくとも15%、より好ましくは少なくとも25%相補的なポリヌクレオチドを包含する。このようなポリヌクレオチドの例は、配列番号:24または26の配列にコードされるB7330Nの縮重体および対立遺伝子変異体である。
【0016】
本明細書で用いられる単離された遺伝子とは、その構造が、どの天然ポリヌクレオチドの構造とも同一でなく、かつ別個の4遺伝子以上にわたる天然ゲノムポリヌクレオチドのいかなる断片の構造とも同一でないポリヌクレオチドである。したがって、この用語は例えば以下を含む:(a)天然の生物ゲノムにおいて天然のゲノムDNA分子の一部の配列を有するDNA;(b)原核生物または真核生物のベクターまたはゲノムDNAに、得られる分子がどの天然のベクターまたはゲノムDNAとも同一とならないような様式で組み入れられた、ポリヌクレオチド;(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって作製される断片、または制限酵素切断断片などの別個の分子;ならびに(d)ハイブリッド遺伝子(すなわち融合ポリペプチドをコードする遺伝子)の一部である組換えヌクレオチド配列。
【0017】
したがって一つの局面では、本発明は、本明細書に記載されたポリペプチドまたはその断片をコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。単離されたポリヌクレオチドは、配列番号:24または26に示されたヌクレオチド配列と少なくとも60%同一なヌクレオチド配列を含むことが好ましい。単離された核酸分子は、配列番号:24または26に示されたヌクレオチド配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であることがより好ましい。参照配列、例えば配列番号:24または26よりも長いか長さが等しい単離されたポリヌクレオチドの場合には、参照配列の完全長との比較が行われる。単離されたポリヌクレオチドが参照配列よりも短い、例えば配列番号:24または26よりも短い場合には、同じ長さ(相同性の算出に必要な全ループは除外する)の参照配列のセグメントとの比較が行われる。
【0018】
本発明はまた、B7330Nタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を用いて宿主細胞のトランスフェクションまたは形質転換を行う段階、および該ポリヌクレオチド配列を発現させる段階による、タンパク質の産生方法も提供する。加えて、本発明は、B7330Nタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、およびB7330Nタンパク質をコードするポリヌクレオチドを保有する宿主細胞も提供する。このようなベクターおよび宿主細胞を、B7330Nタンパク質の産生のために用いることができる。
【0019】
B7330Nタンパク質を特異的に認識する結合剤も、本出願によって提供される。例えば、結合剤はB7330Nタンパク質に対して作製された抗体であってよい。または、結合剤は、該タンパク質に特異的なリガンド、または該タンパク質に特異的に結合する合成ポリペプチドであってよい(例えば国際公開公報第2004044011号を参照されたい)。B7330N遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド(例えば、アンチセンスDNA)、リボザイム、およびsiRNA(低分子干渉RNA)も提供される。
【0020】
本発明はさらに、乳癌の診断法を提供し、該方法は、対象からの生物試料における遺伝子の発現レベルを決定する段階、B7330N 遺伝子の発現レベルを正常試料における発現レベルと比較する段階、および、試料におけるB7330N 遺伝子の高い発現レベルにより対象が乳癌に罹患しているかその発症リスクを有することが示されることを定義する段階を含む。
【0021】
さらに、乳癌の治療または予防のための化合物のスクリーニング法も本発明によって提供される。本方法は、B7330Nポリペプチドと被験化合物を接触させる段階、および、B7330Nポリペプチドに結合するかその生物活性を阻害する被験化合物を選択する段階を含む。
【0022】
本発明はさらに、乳癌の治療または予防のための化合物のスクリーニング法を提供し、該方法は、被験化合物を、B7330Nポリペプチドを発現する細胞に、またはレポーター遺伝子の上流にB7330Nの転写調節領域を含むベクターが導入された細胞に接触させる段階、およびレポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を抑制する被験化合物を選択する段階を含む。
【0023】
本発明はまた、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供し、該方法は、被験化合物をB7330Nポリペプチドに、またはB7330Nポリペプチドを発現する細胞に接触させる段階、およびB7330Nポリペプチドのグリコシル化レベルを抑制する被験化合物を選択する段階を含む。これらの態様において、グリコシル化レベルとは、B7330Nポリペプチドのアスパラギン476のグリコシル化レベルである。
【0024】
本出願はまた、乳癌の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、例えば抗癌剤であってよい。薬学的組成物は、それぞれ配列番号:24または26に提示および記載されたB7330Nポリヌクレオチド配列に対するアンチセンスS-オリゴヌクレオチド、siRNA分子、またはリボザイムの少なくとも一部を含むことができる。適切なsiRNA標的は、配列番号:18または22の配列である。したがって、本発明のsiRNAには、配列番号:18または22由来のヌクレオチド配列が含まれる。好ましくは、これは、本発明による乳癌の治療または予防のための標的として選択されうる。薬学的組成物は、乳癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための化合物に関する本スクリーニング方法によって選択された化合物を含むものであってもよい。
【0025】
薬学的組成物の作用経路は、乳癌などの癌細胞の成長を阻害することが望ましい。薬学的組成物は、ヒトおよび家畜を含む哺乳動物に対して適用されうる。
【0026】
本発明はさらに、本発明によって提供される薬学的組成物を用いて乳癌を治療または予防するための方法を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、B7330Nポリペプチドを投与する段階を含む、癌の治療または予防のための方法も提供する。B7330Nポリペプチドの投与により、抗腫瘍免疫が誘導されることが期待される。したがって、本発明は、B7330Nポリペプチドを投与する段階を含む抗腫瘍免疫を誘導するための方法、ならびに、B7330Nポリペプチドを含む、癌の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。
【0028】
前述の発明の概要および以下の詳細な説明の両方は、好ましい態様であり、本発明または本発明の他の代替的な態様を制限するものではないことが、理解されるべきである。
【0029】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの(a)」、「ある(an)」および「その(the)」という用語は、特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。本明細書および添付の特許請求の範囲の全体を通して、文脈上必要とされない限り、「含む(comprise)」という用語、ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」のような変形は、提示された整数または段階もしくは整数または段階の群を含むが、その他のいかなる整数または段階もしくは整数または段階の群も排除するものではないことを意味すると理解されるであろう。
【0030】
乳癌の機序を開示するため、ならびにこれらの腫瘍の治療および/または予防のための新規診断マーカーおよび/または薬物標的を同定するために、本発明者らは、ゲノム全体のcDNAマイクロアレイとレーザーマイクロビームマイクロダイセクションを併用して、乳癌における遺伝子の発現プロファイルを分析した。その結果、乳癌細胞において特異的に過剰発現するB7330Nが同定された。さらに、低分子干渉RNA(siRNA)によるB7330N遺伝子の発現抑制により、癌細胞の有意な成長阻害が引き起こされた。これらの所見は、B7330Nが癌細胞に発癌活性を与えること、ならびにこれらのタンパク質活性の阻害が乳癌などの増殖性疾患の治療および予防のための有望な戦略となりうることを示唆するものである。
【0031】
B7330N
本発明は、B7330N遺伝子を提供する。B7330NのcDNAは、1869ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む4381または4556ヌクレオチドからなる(配列番号:24または26;GenBankアクセッション番号AB265820)。これらのオープンリーディングフレームは、622アミノ酸のタンパク質をコードする。
【0032】
したがって、本発明は、配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む、これらの遺伝子によってコードされる実質的に純粋なポリペプチド、及びその機能的同等物を、これらがB7330Nタンパク質をコードする限りにおいて提供する。B7330Nと機能的に同等なポリペプチドの例には、例えば、ヒトB7330Nタンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質、およびヒトB7330Nタンパク質の変異体が含まれる。
【0033】
本発明において、「機能的に同等な」という用語は、対象ポリペプチドが、B7330Nタンパク質のように細胞増殖を促進し、かつ癌細胞に発癌活性を付与する活性を有することを意味する。対象ポリペプチドが細胞増殖活性を有するか否かは、対象ポリペプチドをコードするDNAを細胞に導入し、各ポリペプチドを発現させ、該細胞の増殖の促進またはコロニー形成活性の増大を検出することによって、判定できる。このような細胞には、例えばNIH3T3、COS7、およびHEK293が含まれる。
【0034】
所定のタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを作製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する既知の方法が含まれる。例えば、当業者は、これらのタンパク質のアミノ酸配列に部位特異的突然変異誘発法によって適切な変異を導入することによって、ヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを作製することができる(Hashimoto-Gotoh et al., Gene 152:271-5 (1995); Zoller and Smith, Methods Enzymol 100: 468-500 (1983); Kramer et al., Nucleic Acids Res. 12:9441-56 (1984); Kramer and Fritz, Methods Enzymol 154: 350-67 (1987); Kunkel, Proc Natl Acad Sci USA 82: 488-92 (1985); Kunkel, et al., Methods Enzymol 204: 125-39 (1991))。アミノ酸の変異は天然の状態で生じる場合もある。得られる変異ポリペプチドがヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等であるという条件で、本発明のポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトB7330Nタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。このような変異体において変異が導入されるアミノ酸の数は、一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。
【0035】
変異タンパク質、または、ある特定のアミノ酸配列のアミノ酸残基の1つもしくは複数の置換、欠失、挿入、および/もしくは付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である改変タンパク質は、元の生物活性を保持していることが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984); Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982); Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。
【0036】
変異されるアミノ酸残基は、好ましくはアミノ酸側鎖の特性が保存されるような別のアミノ酸へと変異される(保存的アミノ酸置換として知られる過程)。アミノ酸側鎖の特性の例としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖などが挙げられる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含む側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);ならびに芳香族基を含む側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字が、アミノ酸の1文字コードを意味することに注意されたい。
【0037】
本発明において、B7330Nタンパク質の好ましい機能的同等物は、そのグリコシル化部位を保存している。たとえば、B7330Nタンパク質は476Nでグリコシル化されていることが確認された。したがって、好ましい態様において、B7330Nタンパク質の機能的同等物は、相同な配列において、476Nを含むか、または476Nと相同であるアミノ酸配列からなる。B7330Nタンパク質の機能的同等物のアミノ酸配列、第476位と相同な位置は、アミノ酸配列を比較することによって決定できる。関心対象における位置は、必ずしも第476位である必要はない。例えば、例えば一つまたは複数のアミノ酸の付加、挿入、および/または欠失によって改変されているB7330Nタンパク質の構造を有するタンパク質の場合、相同な位置は、第476位以外の位置であってもよい。そのようなタンパク質において、B7330Nタンパク質における第476位と相同な位置を決定するために、必要ならば両アミノ酸配列に適当なギャップを挿入することによって、互いのアミノ酸が、ならびに類似の特性を有するアミノ酸が可能な限り一致するように、両タンパク質のアミノ酸配列を整列させる。このように、B7330Nタンパク質における第476位と相同な位置に対応する関心対象のタンパク質における位置が決定されうる。そのような技術は当業者に公知であり、市販の、または公開されたコンピューターソフトウェア、たとえば分析ソフトウェアGENETYX-MAC VER. 10(Software)などを用いて容易に実行することができる。
【0038】
ヒトB7330Nタンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、ヒトB7330Nタンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、ヒトB7330Nタンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物であり、これは本発明に含まれる。融合タンパク質は、本発明のヒトB7330Nタンパク質をコードするDNAを他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結させ、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させることなどによる、当業者に周知の技法によって作製できる。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関する制限はない。
【0039】
本発明のタンパク質と融合させるペプチドとして用いられうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp et al., Biotechnology 6: 1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6xHis、10xHis、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質に融合可能なタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリンの定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0040】
融合タンパク質は、上に考察したような融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAと本発明のポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって、作製できる。
【0041】
機能的に同等なポリペプチドを単離するための当技術分野で公知の代替的な方法は、例えば、ハイブリダイゼーション技術を用いる方法である(Sambrook et al., Molecular Cloning 2nd ed. 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、ヒトB7330Nタンパク質をコードするDNA配列(すなわち、配列番号:24または26)の全体または一部に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを単離することができる。本発明のポリペプチドには、ヒトB7330Nタンパク質をコードするDNA配列の全体または一部とハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドは、ヒトに由来するタンパク質に対応する哺乳動物ホモログ(例えばサル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子にコードされるポリペプチド)を含む。ヒトB7330Nタンパク質をコードするDNAに対して高い相同性を有するcDNAを動物から単離する際には、乳癌細胞及び、正常なヒトの胎盤、膵臓、胃、気管、乳腺、および骨髄由来の組織を用いることが特に好ましい。
【0042】
ヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって慣行的に選択されうる。例えばハイブリダイゼーションは、「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて68℃で30分間またはそれ以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、その後、68℃で1時間またはそれ以上加温することにより、実施されうる。以下の洗浄段階は、例えば低ストリンジェントな条件で行うことができる。低ストリンジェントな条件は、例えば42℃、2×SSC、0.1% SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェントな条件とは、例えば、2×SSC、0.01% SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、続いて、1×SSC、0.1% SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回、および、1×SSC、0.1% SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回である。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0043】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、ヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを、該タンパク質をコードするDNAの配列情報(配列番号:24または26)に基づいて合成したプライマーを用いて単離することもできる。
【0044】
上記のハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドは、通常、ヒトB7330Nタンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは、典型的には、ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列と参照配列との間の40%またはそれ以上の相同性、好ましくは60%またはそれ以上の相同性、より好ましくは80%またはそれ以上の相同性、さらにより好ましくは85%、90%、93%、95%、98%、99%、またはそれ以上の相同性を意味する。「%相同性」(「%同一性」とも呼ばれる)とは、典型的に、最適に整列化された2つの配列間で行われたものである。比較のための配列の整列化法は、当技術分野において周知である。配列の最適な整列化および比較は、例えば「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムを用いて実施できる。
【0045】
本発明のポリペプチドは、その産生のために用いる細胞もしくは宿主または使用する精製法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態に関して差異を有する。言うまでもなく、本発明のヒトB7330Nタンパク質のポリペプチドと同等な機能を有する限り、それは本発明の範囲に含まれる。
【0046】
本発明のポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質として、または天然タンパク質として調製できる。本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号:24または26のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入し;該ベクターを適切な宿主細胞に導入し;抽出物を入手し;その後、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーに供することにより、または複数の上述のカラムを組み合わせることによりポリペプチドを精製することによって、組換えタンパク質を調製することができる。
【0047】
同様に、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを付加した組換えタンパク質として、本発明のポリペプチドを宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)内で発現させる場合には、発現した組換えタンパク質をグルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。または、本発明のポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジン、またはFLAGで標識したタンパク質として発現させる場合には、それぞれc-myc、His、またはFLAGに対する抗体を用いてそれを検出及び精製することができる。
【0048】
融合タンパク質を精製した後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のポリペプチド以外の領域を除外することも可能である。
【0049】
当業者に公知の方法によって、例えば、後述のB7330Nタンパク質と結合する抗体を結合させたアフィニティーカラムを、本発明のポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物に接触させることによって、天然のタンパク質を単離することができる。抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体でありうる。
【0050】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの部分ペプチドも含む。部分ペプチドは、本発明のポリペプチドに特異的なアミノ酸配列を有し、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは9アミノ酸またはそれ以上からなる。例えば、本発明のポリペプチドに対する抗体を調製するために、本発明のポリペプチドと結合する化合物をスクリーニングするために、および本発明のポリペプチドの阻害物質をスクリーニングするために、部分ペプチドを用いることができる。
【0051】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子操作により、既知のペプチド合成法により、または本発明のポリペプチドを適切なペプチダーゼで消化することにより、作製可能である。ペプチド合成のために、例えば固相合成法または液相合成法を使用することができる。
【0052】
本発明はさらに、上記のようなB7330Nポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、上述の本発明のポリペプチドのインビボもしくはインビトロにおける産生のために用いることができ、または、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の遺伝子異常に起因する疾患に対する遺伝子治療に適用することもできる。本発明のポリペプチドをコードする限りは、mRNA、RNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成ポリヌクレオチドを含む本発明のポリヌクレオチドのいかなる形態も、用いることができる。得られるDNAが本発明のポリペプチドをコードする限り、本発明のポリヌクレオチドには、所定のヌクレオチド配列を含むDNAおよびその縮重配列が含まれる。
【0053】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に周知の方法によって調製することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からcDNAライブラリを調製し、本発明のDNA(例えば、配列番号:24または26)の部分配列をプローブとして用いたハイブリダイゼーションを行うことによって調製できる。cDNAライブラリは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法によって調製でき、または、市販のcDNAライブラリを用いてもよい。またcDNAライブラリは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からRNAを抽出し、本発明のDNA(例えば、配列番号:24または26)の配列に基づいてオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプライマーとして用いてPCRを行い、その後本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅することによって調製することもできる。
【0054】
さらに、得られたcDNAのヌクレオチドの配列決定を行うことにより、cDNAにコードされる翻訳領域を慣行的に決定し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を容易に得ることができる。その上、得られたcDNAまたはその一部をプローブとして用いてゲノムDNAライブラリをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0055】
より具体的には、まず、本発明の対象ポリペプチドが発現される細胞、組織、または臓器(例えば、乳癌細胞、ならびに正常なヒトの胎盤、腎臓、胃、気管、乳腺、及び骨髄)からmRNAが調製されうる。mRNAの単離には既知の方法を用いることができる;例えば、全RNAは、グアニジン超遠心(Chirgwin et al., Biochemistry 18:5294-9 (1979))またはAGPC法(Chomczynski and Sacchi, Anal Biochem 162:156-9 (1987))によって調製されうる。さらに、mRNAをmRNA精製キット(Pharmacia)などを用いて全RNAから精製してもよい。または、mRNAをQuickPrep mRNA精製キット(Pharmacia)によって直接精製してもよい。
【0056】
得られたmRNAを用いて、逆転写酵素によってcDNAを合成する。cDNAは、AMV逆転写酵素第一鎖cDNA合成キット(Seikagaku Kogyo)などの市販のキットを用いて合成されうる。または、本明細書に記載のプライマー等、5'-Ampli FINDER RACEキット(Clontech)、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる5'-RACE法(Frohman et al., Proc Natl Acad Sci USA 85: 8998-9002 (1988); Belyavsky et al., Nucleic Acids Res. 17: 2919-32 (1989))に従って、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
【0057】
所望のDNA断片をPCR産物から調製し、ベクターDNAにライゲーションする。このような組換えベクターを用いて大腸菌などを形質転換し、選択されたコロニーから、所望の組換えベクターを調製する。所望のDNAのヌクレオチド配列は、ジデオキシヌクレオチド鎖停止法などの従来の方法で確認することができる。
【0058】
発現用に使用する宿主におけるコドン使用頻度を考慮に入れることにより、本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、より効率的に発現されるように設計することができる(Grantham et al., Nucleic Acids Res. 9: 43-74 (1981))。本発明のポリヌクレオチドの配列を、市販のキットまたは従来の方法によって改変することができる。例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドもしくは適切なポリヌクレオチド断片の挿入、リンカーの付加、または開始コドン(ATG)および/もしくは終止コドン(TAA、TGAまたはTAG)の挿入によって配列を改変することができる。
【0059】
具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:24または26のヌクレオチド配列を含むDNAを包含する。
【0060】
さらに、本発明は、配列番号:24または26のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記の本発明のB7330Nタンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。当業者であれば、ストリンジェントな条件を適切に選択することができる。例えば低ストリンジェント条件を使用することができる。より好ましくは、高ストリンジェントな条件を使用することができる。これらの条件は上述の条件と同じである。上述のハイブリダイズDNAは、好ましくはcDNAまたは染色体DNAである。
【0061】
本発明はまた、ヒトB7330Nタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:24または26)またはその相補鎖に対して相補的であって、少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のB7330NポリペプチドをコードするDNAと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであることが好ましい。本明細書で用いる「特異的にハイブリダイズする」という用語は、通常のハイブリダイゼーション条件下で、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、他のタンパク質をコードするDNAとの交差ハイブリダイゼーションが生じないことを意味する。このようなポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするDNAまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズする、プローブ、プライマー、ヌクレオチド、およびヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイム)が含まれる。さらに、このようなポリヌクレオチドはDNAチップの調製に使用できる。
【0062】
ベクターおよび宿主細胞
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが内部に導入されたベクターおよび宿主細胞も提供する。本発明のベクターは、本発明のポリヌクレオチド、特にDNAを宿主細胞中で維持するために、本発明のポリペプチドを発現させるために、または遺伝子治療用に本発明のポリヌクレオチドを投与するために有用である。
【0063】
大腸菌が宿主細胞であって、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)の内部で大量に増幅および産生させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅されるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬物によって選択される薬物耐性遺伝子)を有する必要がある。例えばM13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを使用することができる。さらに、上記のベクター同様、pGEM-T、pDIRECT、およびpT7も、cDNAのサブクローニングおよび抽出のために用いることができる。本発明のタンパク質を作製するためにベクターを使用する場合は、発現ベクターが特に有用である。例えば大腸菌内で発現させる発現ベクターは、大腸菌内で増幅するための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合には、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Ward et al., Nature 341: 544-6 (1989); FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Better et al., Science 240: 1041-3 (1988))、T7プロモーターなどを有する必要がある。この点に関して、例えばpGEX-5X-1(Pharmacia)、「QIAexpressシステム」(Qiagen)、pEGFP、およびpET(この場合、宿主は好ましくはT7 RNAポリメラーゼを発現するBL21)を上記ベクターの代わりに使用することができる。さらにベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列を含んでもよい。大腸菌の周辺質へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Lei et al., J Bacteriol. 169: 4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入する手段には、例えば、塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法が含まれる。
【0064】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)およびpEF-BOS(Mizushima S and Nagata S., Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(GIBCO BRL)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生のために用いることもできる。
【0065】
ベクターをCHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277: 108 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーターなどの、そのような細胞における発現のために必要なプロモーター、および好ましくは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬物(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬物耐性遺伝子)を有する必要がある。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0066】
ポリペプチドの産生
さらに本発明は、本発明のポリペプチドを産生するための方法を提供する。ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターを保持している宿主細胞を培養することによって、ポリペプチドを調製してもよい。必要に応じて、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅するために用いることができる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入し、次に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子を一過性発現させる場合は、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)により、染色体上にSV40 T抗原発現遺伝子を含むCOS細胞を形質転換する方法を使用することができる。
【0067】
以上のようにして得られた本発明のポリペプチドを、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋で均一なポリペプチドとして精製することができる。所与のポリペプチドに関する、本明細書で用いる「実質的に純粋」という用語は、ポリペプチドが他の生物学的高分子を実質的に含まないことを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量で少なくとも75%(例えば少なくとも80%、85%、95%、または99%)純粋である。純度は、任意の適切な標準的方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC解析により、測定することができる。ポリペプチドの単離および精製のための方法は、いずれの特定の方法にも限定されず、実際には、任意の標準的な方法を用いることができる。
【0068】
例えば、カラムクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0069】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって実施することができる。したがって、本発明は、上述の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0070】
本発明のポリペプチドを、精製の前または後に適切なタンパク質修飾酵素で処理することにより、任意で、改変するまたは部分的に欠失させることができる。有用なタンパク質修飾酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
抗体
本発明は、本発明のポリペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これには、ウサギなどの動物を本発明のポリペプチドで免疫化することによって得られる抗血清、全クラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0072】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のポリペプチドは、任意の動物種に由来しうるが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物に、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示されるヌクレオチドまたはアミノ酸配列から入手できる。
【0073】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全タンパク質でもよく、またはタンパク質の部分ペプチドでもよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドのアミノ(N)末端断片またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。
【0074】
本明細書において、抗体は、本発明のポリペプチドの完全長または断片のいずれかと反応するタンパク質として定義される。
【0075】
本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を既知の発現ベクターに挿入してもよく、これはその後、本明細書に記載の宿主細胞の形質転換に用いられる。所望のポリペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法によって宿主細胞の外部または内部から回収することができ、続いて、抗原として用いることができる。または、ポリペプチドを発現する細胞全体もしくはその溶解物、または化学合成したポリペプチドを、抗原として用いてもよい。
【0076】
任意の哺乳動物を抗原で免疫化することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯類(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長類(Primate)の動物が用いられる。齧歯類の動物には、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長類の動物には、例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ(sacred baboon)およびチンパンジーなどの狭鼻猿類(Catarrhini)(旧世界サル)のサルが含まれる。
【0077】
動物を抗原で免疫化する方法は当技術分野で公知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳類を免疫化する標準的な方法である。具体的には、抗原は適量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)や生理食塩水などで希釈および懸濁することができる。必要に応じて、抗原懸濁液をフロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合し、乳濁液を作製して、その後哺乳動物に対して投与してもよい。好ましくは、これに続いて、適量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原を、4〜21日毎に複数回投与する。適切な担体を免疫化に使用することもできる。上記のように免疫化を行った後に、所望の抗体量の増加に関して、標準的な方法で血清を調べる。
【0078】
血清中の所望の抗体の増加に関して検討した免疫化哺乳動物から血液を採取し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって、本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を調製することができる。ポリクローナル抗体には、ポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することができる。本発明のポリペプチドのみを認識する画分から、例えば、本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いて、この画分をプロテインAカラムまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製することによって、免疫グロブリンGまたはMを調製することができる。
【0079】
モノクローナル抗体を調製するため、抗原で免疫化した哺乳動物から免疫細胞を回収し、上述のように血清中の所望の抗体レベルの上昇を調べ、細胞融合に供する。細胞融合に使用する免疫細胞は、好ましくは脾臓から得られる。上記の免疫細胞と融合される他の好ましい親細胞には、例えば哺乳動物の骨髄腫細胞、およびより好ましくは、薬物によって融合細胞を選択するための特性を獲得した骨髄腫細胞などが含まれる。
【0080】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、公知の方法、例えばMilsteinらの方法に従って融合させることができる(Galfre and Milstein, Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))。
【0081】
細胞融合によって得られたハイブリドーマは、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択されうる。細胞培養は通常、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(融合していない細胞)を死滅させるのに十分な期間である数日から数週間、継続される。次に、標準的な限界希釈を行い、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0082】
ハイブリドーマ調製用に非ヒト動物を抗原で免疫化する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの溶解物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫化リンパ球を、無限に分裂できるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、ポリペプチドと結合可能な所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63-17688号)。
【0083】
続いて、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔に移植して、腹水を取り出す。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫安沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製できる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のポリペプチドのアゴニストおよびアンタゴニストの候補としても用いることができる。さらに、この抗体を、本発明のポリペプチドと関連する疾患に対する抗体療法に適用することもできる。得られた抗体をヒトの身体に投与する場合(抗体療法)は、免疫原性を低下させるためにヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0084】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの溶解物から選択される抗原で免疫化されうる。その後、抗体産生細胞を動物から回収し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを入手し、そこからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0085】
または、免疫化されたリンパ球などの、抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化して、モノクローナル抗体の調製に使用することができる。
【0086】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製することもできる(例えば、MacMillan Publishers LTD(英国)より刊行されたBorrebaeck and Larrick, Therapeutic Monoclonal Antibodies (1990)を参照)。組換え抗体を調製するために、例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫化リンパ球などの免疫細胞からクローニングし、適切なベクターに挿入して、宿主細胞に導入することができる。本発明は、上述のように調製された組換え抗体も提供する。
【0087】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、または、H鎖およびL鎖由来のFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston et al., Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインやペプシンなどの酵素で処理することにより作製することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co et al., J Immunol 152: 2968-76 (1994); Better and Horwitz, Methods Enzymol 178: 476-96 (1989); Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol 178: 497-515 (1989); Lamoyi, Methods Enzymol 121: 652-63 (1986); Rousseaux et al., Methods Enzymol 121: 663-9 (1986); Bird and Walker, Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0088】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との接合によって修飾することができる。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。このような修飾法は当技術分野で常套的なものである。
【0089】
または、本発明の抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として入手することもできる。このような抗体は、既知の技術に従って調製可能である。ヒト化は、ヒト抗体の対応する配列の代わりに、齧歯類のCDRまたはCDR配列を用いることによって実施され得る(例えば、Verhoeyen et al., Science 239:1534-6 (1988)を参照されたい)。したがって、このようなヒト化抗体は、完全なヒト可変ドメインより実質的に短い領域が、非ヒト種由来の対応する配列によって置き換えられたキメラ抗体である。
【0090】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加えて、ヒト可変領域を含む完全ヒト抗体もまた用いることができる。このような抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロ法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381 (1992))。同様に、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによって、ヒト抗体を作製することができる。このアプローチは例えば、米国特許第6,150,584号、同第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号に記載されている。
【0091】
上述のように得られた抗体を、均一になるまで精製することができる。例えば、抗体の分離および精製は、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って実施することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))(しかし、これらには限定されない)を適切に選択し組み合わせて用いることにより、抗体を分離および単離することができる。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティーカラムとして使用することができる。用いられるプロテインAカラムの例には、例えば、Hyper D、POROSおよびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0092】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィー以外に、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順は、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0093】
本発明の抗体の抗原結合活性を測定するために、例えば、吸光度測定、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光検査法を用いてもよい。ELISAの場合には、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートに適用した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を適用する。次に、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された、一次抗体を認識する二次抗体を適用し、プレートをインキュベートする。続いて洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、試料の抗原結合活性を評価する。C末端断片またはN末端断片などのポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。本発明により、BIAcore(Pharmacia)を用いて、抗体の活性を評価することができる。
【0094】
上述の方法は、本発明のポリペプチドを含むと想定される試料に本発明の抗体を曝露し、該抗体および該ポリペプチドによって形成された免疫複合体を検出または測定することにより、本発明のポリペプチドの検出または測定を可能にする。
【0095】
本発明によるポリペプチドの検出または測定の方法はポリペプチドを特異的に検出または測定することが可能であるため、本方法は、ポリペプチドが用いられる種々の実験において有用である可能性がある。
【0096】
アンチセンスポリヌクレオチド、低分子干渉RNA、およびリボザイム
本発明は、配列番号:24または26のヌクレオチド配列の内部のいずれかの部位とハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号:24または26のヌクレオチド配列のうち少なくとも15個の連続したヌクレオチドに対するものであることが好ましい。上述の少なくとも15個の連続したヌクレオチド中に開始コドンを含む上述のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、さらにより好ましい。
【0097】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物も、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることができる。このような修飾産物の例には、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型、ホスホロチオエート修飾、およびホスホロアミデート修飾などの低アルキルホスホネート修飾が含まれる。
【0098】
本明細書で用いる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、DNAまたはmRNAの特定領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが完全に相補的であるものを意味するだけでなく、DNAまたはmRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号:24または26のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズできる限り、1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するものも意味する。
【0099】
このようなポリヌクレオチドは、「少なくとも約15個の連続したヌクレオチド配列領域」中に、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは約90%またはそれ以上、さらにより好ましくは約95%またはそれ以上の相同性を有するように含まれる。本明細書に記載されたアルゴリズムを用いて相同性を決定することができる。当技術分野において公知のアルゴリズムを用いて相同性を決定することができる。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物を、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして本発明で使用することもできる。このような修飾産物の例には、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型、ホスホロチオエート修飾、およびホスホロアミデート修飾などの低アルキルホスホネート修飾が含まれる。
【0100】
このようなアンチセンスポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするDNAの単離もしくは検出のためのプローブとして、または増幅用のプライマーとして有用である。
【0101】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、本発明のポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、本発明のポリペプチドの発現を阻害し、それによって該ポリペプチドの機能を阻害することによって、該ポリペプチドを産生する細胞に対して作用する。
【0102】
また本発明は、配列番号:24または26のヌクレオチド配列のセンス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む、低分子干渉RNA(siRNA)も含む。より具体的には、B7330Nの発現を抑制するためのそのようなsiRNAには、配列番号:18または22のヌクレオチド配列を標的とするものが含まれる。
【0103】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる2本鎖RNA分子を意味する。siRNAを細胞内に導入するためには、RNAを転写するための鋳型としてDNAが用いられる技法を含む標準的な技法が用いられる。siRNAは、ヒトB7330Nタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:24または26)のセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、単一の転写物(二本鎖RNA)が、標的遺伝子由来のセンス配列と相補的アンチセンス配列の双方を、例えばヘアピンを有するように構築される。
【0104】
標的細胞においてsiRNAがB7330Nに対応する転写産物と結合することにより、該細胞によるタンパク質産生が減少する。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然に存在する転写物と同じ長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドの長さは約75ヌクレオチド未満、約50ヌクレオチド未満、または約25ヌクレオチド未満である。より好ましくは、オリゴヌクレオチドは約19〜約25ヌクレオチド長である。癌細胞の成長を阻害するB7330N siRNAオリゴヌクレオチドの例には、配列番号:18または22を含む標的配列が含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を増大させるために、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的には約2個から約10個であり、好ましくは約2個から約5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0105】
B7330N siRNAは、mRNA転写物に結合可能な形態で細胞に直接導入される。これらの態様において、本発明のsiRNA分子は典型的に、アンチセンス分子に関して上述したように修飾される。その他の修飾も可能であり、例えば、コレステロールと接合したsiRNAは、改良された薬理学的特性を示す(Song et al. Nature Med. 9:347-51 (2003))。または、B7330N siRNAをコードするDNAはベクター内に存在する。
【0106】
ベクターは、例えば、B7330N標的配列を、B7330N配列に隣接する機能的に連結された制御配列を有する発現ベクター中に、(DNA分子の転写により)両鎖の発現が可能になるような様式でクローニングすることによって、作製される(Lee, N.S. et al., (2002) Nature Biotechnology 20 : 500-5)。B7330N mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子は、第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'にあるプロモーター配列)によって転写され、B7330N mRNAのセンス鎖であるRNA分子は、第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'にあるプロモーター配列)によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖はインビボでハイブリダイズして、B7330N遺伝子サイレンシングのためのsiRNA構築物を生じる。または、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製するために、2種類の構築物が用いられる。クローニングされたB7330Nは、二次構造(例えばヘアピン)を有する構築物をコードすることができ、ここで、単一の転写物は、標的遺伝子に由来するセンス配列と相補的アンチセンス配列の両方を有する。
【0107】
さらに、ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列の間に配置してもよい。したがって、本発明はまた、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有するsiRNAを提供し、式中、[A]は、B7330N遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、[A]は、配列番号:24の417〜435位または配列番号:26の623〜641位(配列番号:18)および配列番号:24の1366〜1384位または配列番号:26の1572〜1590位(配列番号:22)のヌクレオチドの配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、 [B]は、約3〜約23個のヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は、[A]の相補的配列からなるリボヌクレオチド配列である。ループ配列は、好ましくは、3〜23ヌクレオチド長を有する任意の配列からなってよい。ループ配列は、例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。本発明のsiRNAにおいて、siRNAの阻害活性を増大させるために、[A']の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的には約2個〜約10個であり、好ましくは約2個〜約5個である。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque, J. M., et al., (2002) Nature 418: 435-8)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M., et al., Nature, Vol. 418: 435-8 (2002);
UUCG:Lee, N.S., et al., (2002) Nature Biotechnology 20: 500-5.; Fruscoloni, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-44 (2003);および
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-67 (2003)。
【0108】
例えば、本発明のヘアピン構造を有する好ましいsiRNAを以下に示す。以下の構造では、ループ配列を、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
gcacuguuucaaugccuuu-[B]-aaaggcauugaaacagugc(配列番号:18の標的配列に対して)
gagaaauccuucggugaca-[B]-ugucaccgaaggauuucuc(配列番号:22の標的配列に対して)
【0109】
B7330N配列に隣接する調節配列は、それらの発現を独立して調節できるように、または時間的もしくは空間的に調節できるように、同一であるかまたは異なる。例えば核内低分子RNA(snRNA)U6またはヒトH1 RNAプロモーター由来のRNAポリメラーゼIII転写単位を含むベクターにB7330N遺伝子鋳型をクローニングすることによって、siRNAが細胞内で転写される。ベクターを細胞内に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE6(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)がトランスフェクション促進剤として有用である。
【0110】
siRNAのヌクレオチド配列は、Ambionウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計用コンピュータプログラムを用いて設計することができる。siRNAのヌクレオチド配列は、以下のプロトコールを元にコンピュータプログラムによって選択される。
【0111】
siRNA標的部位の選択:
1. 対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschlら、Genes Dev 13(24): 3191-7 (1999) は、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位においてより豊富である可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計することを推奨していない。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2. 潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列に対して有意な相同性をもついかなる標的配列も検討対象から除く。相同性検索は、BLAST(Altschul SF, et al., Nucleic Acids Res. 1997; 25(17):3389-402.; J Mol Biol. 1990;215(3):403-10)を用いて実行することができるが、これは、NCBIサーバ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)において見出される。
3. 合成に適した標的配列を選択する。Ambionでは、好ましくは、評価する遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0112】
B7330N mRNAの様々な部分に相補的なオリゴヌクレオチドを、(例えば、乳癌細胞株HBL-100、HCC1937、MCF-7、MDA-MB-435s、YMB1、SKBR3、T47D、BT-20、BT-474、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA-MB-157、MDA-MB453、OUCB-F、ZR-75-1を用いて)腫瘍細胞内でのB7330N産生を減少させる能力に関して、標準的な方法に従ってインビトロで試験した。候補siRNA組成物と接触させた細胞では、候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較してB7330N遺伝子産物が減少することを、B7330N特異的抗体または他の検出法を用いて検出する。次いで、インビトロ細胞アッセイまたは無細胞アッセイにおいてB7330Nの産生を減少させる配列を、細胞成長に対する阻害作用について試験する。悪性新生物を有する動物におけるB7330N産生の減少および腫瘍細胞成長の低下を確認するために、インビトロ細胞アッセイにおいて細胞成長を阻害する配列をラットまたはマウスにおいてインビボで試験する。
【0113】
同様に、標的配列の核酸配列、例えば、配列番号:24の417〜435位または配列番号:26の623〜641位(配列番号:18)および配列番号:24の1366〜1384位または配列番号:26の1572〜1590位(配列番号:22)のヌクレオチドを含む二本鎖分子も、本発明に含まれる。本発明において、二本鎖分子は、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、ここで、センス鎖は配列番号:18または22に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖は該センス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖および該アンチセンス鎖は互いにハイブリダイズして該二本鎖分子を形成し、かつ、該二本鎖分子はB7330N遺伝子を発現する細胞に導入されると該遺伝子の発現を阻害する。本発明において、単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合、ヌクレオチド配列内の塩基「t」は「u」に置換されなければならない。本明細書において使用される「相補的な」という用語は、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン-クリック型またはフーグスティーン型の塩基対形成を指し、「結合」という用語は、2つの核酸もしくは化合物の間の物理的もしくは化学的な相互作用、または会合した核酸もしくは化合物もしくはそれらの組み合わせを意味する。
【0114】
相補的な核酸配列は、適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんどまたは全く含まない安定な二重鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成することができる。好ましい態様において、このような二重鎖は10マッチあたり1以下のミスマッチを含む。特に好ましい態様において、二重鎖の鎖が完全に相補的な場合、このような二重鎖はミスマッチを含まない。核酸分子は、(配列番号:24に関して)4381ヌクレオチド長未満か、または(配列番号:26に関して)4556ヌクレオチド長未満である。例えば、核酸分子は、500ヌクレオチド長未満、200ヌクレオチド長未満、または75ヌクレオチド長未満である。また、本明細書に記載の核酸の1つまたは複数を含むベクター、およびベクターを含む細胞も、本発明に含まれる。本発明の単離された核酸は、B7330Nに対するsiRNAまたは該siRNAをコードするDNAに関して有用である。核酸がsiRNAまたはそのコードDNAのために用いられる場合、センス鎖は、好ましくは約19ヌクレオチドより長く、より好ましくは約21ヌクレオチドより長い。
【0115】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害するので、本発明のポリペプチドの生物活性を抑制するのに有用である。また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害剤は、それらが本発明のポリペプチドの生物活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、乳癌を治療するのに有用である。哺乳動物細胞において発現を阻害するB7330N siRNAオリゴヌクレオチドの例には、配列番号:18または22を含む標的配列が含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を増大させるために、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的には約2個〜約10個であり、好ましくは約2個〜約5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0116】
また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害剤は、それらが本発明のポリペプチドの生物活性を阻害できるという点において有用である。このため、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、乳癌などの細胞増殖性疾患の治療に有用である。
【0117】
さらに、本発明は、本発明のB7330Nポリペプチドの発現を阻害するリボザイムを提供する。
【0118】
一般にリボザイムは、大型リボザイムと小型リボザイムに分類される。大型リボザイムは、核酸のリン酸エステル結合を開裂する酵素として知られている。大型リボザイムとの反応後、反応部位は5'-リン酸基および3'-ヒドロキシル基からなる。大型リボザイムはさらに、(1)グアノシンによる5'-スプライス部位におけるエステル交換反応を触媒するグループIイントロンRNA;(2)投げ縄構造を介した2段階反応による自己スプライシングを触媒するグループIIイントロンRNA;ならびに(3)加水分解によってtRNA前駆体を5'部位で切断するリボヌクレアーゼPのRNA成分に分類される。一方、小型リボザイムは大型リボザイムと比べて小さく(約40 bp)、RNAを切断して5'-ヒドロキシル基および2'-3'環状リン酸を生じる。ハンマーヘッド型リボザイム(Koizumi et al., FEBS Lett 228: 225 (1988))およびヘアピン型リボザイム(Buzayan, Nature 323: 349 (1986); Kikuchi and Sasaki, Nucleic Acids Res 19: 6751 (1991))は、小型リボザイムに含まれる。リボザイムを設計および構築する方法は、当技術分野において公知である(Koizumi et al., FEBS Lett 228: 228 (1988); Koizumi et al., Nucleic Acids Res. 17: 7059 (1989); Kikuchi and Sasaki, Nucleic Acids Res 19: 6751 (1991)を参照されたい)。このため、本発明のポリペプチドの発現を阻害するリボザイムを、それらの配列情報(配列番号:24または26)およびこれらの従来の方法に基づいて構築することも可能である。
【0119】
B7330N遺伝子に対するリボザイムは、過剰発現されるB7330Nタンパク質の発現を阻害するので、タンパク質の生物活性を抑制するのに有用である。したがって、リボザイムは乳癌の治療または予防に有用である。
【0120】
乳癌の診断
さらに、本発明は、本発明の遺伝子の発現レベルを診断マーカーとして利用して、乳癌などの細胞増殖性疾患を診断するための方法を提供する。また本発明は、患者由来の生物試料(組織試料など)における本発明の遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における乳癌に対する素因を決定する方法も提供する。ある遺伝子の発現レベルが該遺伝子の正常対照レベルと比較して変化していること、例えば上昇していることにより、対象が乳癌に罹患しうるまたはその発症リスクを有しうることが示される。
【0121】
本発明の文脈において用いる場合、「乳癌に対する素因」という用語は、乳癌に罹患しやすい、傾向を有する、有病率を有する、傾斜を有する、または感受性を有する対象の状態を含む。さらにまた、該用語は、対象が乳癌獲得のリスクを有することも包含する。
【0122】
この診断法は以下の段階を含む:(a) 本発明のB7330N遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b) 発現レベルの上昇を乳癌と関連づける段階。同様に、乳癌に対する素因を決定する方法において、上述の段階と同様の段階が適用される。
【0123】
生物試料におけるB7330N遺伝子の発現レベルは、B7330N遺伝子に対応するmRNAまたはB7330N遺伝子にコードされるタンパク質を定量することによって、推定することができる。mRNAの定量法は当業者に公知である。例えば、B7330N遺伝子に対応するmRNAのレベルは、ノーザンブロット分析またはRT-PCRによって推定できる。B7330N遺伝子の完全長ヌクレオチド配列は配列番号:24または26に示されているため、全ての当業者は、B7330N遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマー用のヌクレオチド配列を設計することができる。
【0124】
同じくB7330N遺伝子の発現レベルも、該遺伝子にコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。B7330Nタンパク質の量を決定するための方法を以下に示す。例えば、免疫アッセイ法は、生物材料におけるタンパク質の決定に有用である。乳癌患者の試料においてマーカー遺伝子(B7330N遺伝子)が発現している限り、タンパク質またはその活性を決定するための生物試料として、任意の生物材料を用いることができる。例えば、そのような生物試料として乳管上皮を挙げることができる。しかし、血液および尿などの体液を分析することもできる。一方、分析対象の各タンパク質の活性に従って、B7330N遺伝子にコードされるタンパク質の活性の測定のために適切な方法を選択することができる。
【0125】
生物試料におけるB7330N遺伝子の発現レベルを推定し、正常試料(例えば非罹患対象に由来する試料)における発現レベルと比較する。このような比較によって標的遺伝子の発現レベルが正常試料における発現レベルよりも高いことが示された場合には、その対象は乳癌に罹患していると判定される。正常対象および診断される対象に由来する生物試料におけるB7330N遺伝子の発現レベルは、同時に決定してもよい。または、発現レベルの正常範囲を、対照群から事前に採取した試料における遺伝子の発現レベルを分析することによって得た結果に基づき、統計学的方法によって決定してもよい。対象の試料を比較することによって得られた結果を、正常範囲と比較し;その結果が正常範囲内に収まらない場合には、対象は乳癌に罹患しているかその発症リスクを有すると判定される。
【0126】
本発明において、乳癌などの細胞増殖性疾患を診断するための診断薬も提供する。本発明の診断薬は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または本発明のポリペプチドと結合する抗体を、このような化合物として用いることが好ましい。または、RNA、DNA、またはペプチドアプタマーなどのアプタマーを使用することができる。
【0127】
本発明の乳癌診断法は、対象における乳癌の治療の有効性を評価するために応用することもできる。本方法に従って、被験細胞集団などの生物試料を、乳癌に対する治療を受けている対象から入手する。評価のための方法は、従来の乳癌診断法に従って行うことができる。
【0128】
必要に応じて、生物試料を、治療前、治療中、または治療後のさまざまな時点で被験者から得る。次に、生物試料におけるB7330N遺伝子の発現レベルを決定し、例えばその乳癌の状態が既知である細胞(すなわち、癌細胞または非癌細胞)を含む参照細胞集団に由来する対照レベルと比較する。対照レベルは、治療に供されていない生物試料において決定される。
【0129】
対照レベルが癌細胞を含まない生物試料に由来する場合には、対象由来の生物試料における発現レベルと対照レベルとの間に類似性があることは、治療が有効であることを示す。対象由来の生物試料中のB7330N遺伝子の発現レベルと対照レベルとの間に差異があることは、臨床結果または予後がそれほど望ましくないことを意味する。
【0130】
「有効」という用語は、治療によって、病理学的にアップレギュレートされる遺伝子(B7330N遺伝子)の発現の減少、または乳癌細胞のサイズ、罹患率もしくは増殖能の低下が対象にもたらされることを指す。治療が予防的に適用される場合には、「有効」とは、治療によって乳癌の発生が遅延するまたは防止されることを示す。乳癌の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行うことができる。さらに、治療の有効性は、乳癌の診断または治療のための任意の既知の方法に関して判定される。
【0131】
またさらに、本発明の乳癌診断法は、被験細胞集団などの患者由来の生物試料におけるB7330N遺伝子の発現レベルを対照レベルと比較することにより乳癌を有する対象の予後を評価するためにも、応用可能である。または、患者の予後を評価するために、患者由来の生物試料におけるB7330N遺伝子の発現レベルを、疾患の諸病期の全体にわたって測定することができる。
【0132】
正常対照レベルと比較したB7330N遺伝子の発現レベルの上昇は、予後がそれほど良好でないことを示す。正常対照レベルとB7330N遺伝子の発現レベルに類似性がある場合、患者の予後が比較的良好であることが示される。
【0133】
化合物のスクリーニング
B7330N遺伝子、該遺伝子にコードされるタンパク質、または該遺伝子の転写調節領域を用いて、該遺伝子の発現または該遺伝子にコードされるポリペプチドの生物活性を変化させる化合物をスクリーニングすることができる。このような化合物は、乳癌の治療または予防のための薬物として使用される。
【0134】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチドを用いて乳癌を治療または予防するための化合物のスクリーニング法を提供する。本スクリーニング法の一つの態様は以下の段階を含む:(a) 被験化合物と本発明のポリペプチドとを接触させる段階;(b) 本発明のポリペプチドと被験化合物との間の結合活性を検出する段階;および(c) 本発明のポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、及び/又は宿主細胞に関して本明細書に記載された全態様は、該ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、及び/又は宿主細胞を適用する、本明細書において開示されたスクリーニング法にも、必要な変更を加えて適用される。
【0135】
スクリーニングに用いる本発明のポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。被験化合物と接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0136】
本発明のポリペプチドを用いて、タンパク質、例えば本発明のポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。そのようなスクリーニングを、例えば免疫沈降法によって、具体的には以下の様式で実施することができる。pSV2neo、pcDNAI、pcDNA3.1、pCAGGS、およびpCD8などの外来遺伝子用の発現ベクターに、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を挿入することにより、該遺伝子を宿主(例えば動物)細胞などにおいて発現させる。発現用に使用されるプロモーターは、一般的に使用されうる任意のプロモーターであってよく、例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF-αプロモーター(Kim et al., Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108: 193 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーターなどを含む。外来遺伝子を発現させるための宿主細胞への遺伝子の導入は、以下の任意の方法に従って行うことができる:例えば、エレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984); Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B, Cell 76: 1025-37 (1994); Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993): Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))など。本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドのN末端またはC末端に対する特異性が判明しているモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ-抗体系を用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。自身のマルチクローニングサイトを利用して、例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現することができるベクターが、市販されている。
【0137】
融合によって本発明のポリペプチドの性質を変えないように数個〜十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって作製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0138】
免疫沈降においては、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞溶解物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、本発明のポリペプチド、該ポリペプチドとの結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。上記のエピトープに対する抗体を用いることに加えて、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて免疫沈降を行うこともでき、これらの抗体は上記の通りに調製することができる。
【0139】
抗体がマウスのIgG抗体の場合は、免疫複合体を、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈殿させることができる。本発明のポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する基質、例えばグルタチオン-セファロース4Bを用いて、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる時と同じ様式で免疫複合体を形成することができる。
【0140】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))。
【0141】
SDS-PAGEは一般に、免疫沈降タンパク質の解析用に使用され、適切な濃度のゲルを用いて、結合状態のタンパク質を、該タンパク質の分子量によって解析することができる。本発明のポリペプチドに結合しているタンパク質は、クーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法では検出が難しいため、放射性同位元素である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培地中で細胞を培養し、細胞中のタンパク質を標識して、該タンパク質を検出することにより、タンパク質の検出感度を改善することができる。タンパク質の分子量が明らかであれば、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製することが可能であり、その配列を決定することができる。
【0142】
本発明のポリペプチドを用いて該ポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングするための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。具体的には、細胞、組織、臓器(例えば、乳癌細胞株、ならびに正常なヒトの胎盤、膵臓、胃、気管、乳腺、及び骨髄などの組織)、または、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞(例えば、HBC4、HBC5、MCF-7、MDA-MB-231、YMB1、SKBR3、T47D)から、ファージベクター(例えば、ZAP)を用いてcDNAライブラリを調製し、該タンパク質をLB-アガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識された本発明のポリペプチドを上記フィルターと反応させ、その後、標識にしたがって本発明のポリペプチドと結合したタンパク質を発現するプラークを検出することによって、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または本発明のポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは本発明のポリペプチドに融合したペプチドかポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識されうる。放射性同位元素または蛍光などを用いる方法を使用することもできる。
【0143】
または、本発明のスクリーニング法の別の態様において、細胞を利用する2-ハイブリッド系を用いることもできる(「MATCHMAKER 2-ハイブリッド系」「哺乳動物MATCHMAKER 2-ハイブリッドアッセイキット」「MATCHMAKER 1-ハイブリッド系」(Clontech);「HybriZAP 2-ハイブリッドベクター系」(Stratagene);参考文献 “Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)”, “Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)”)。
【0144】
2-ハイブリッド系では、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。発現した場合にライブラリがVP16またはGAL4転写活性化領域と融合するように、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞から、cDNAライブラリを調製する。続いてcDNAライブラリを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンから、ライブラリ由来のcDNAを単離する(本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出可能になる)。cDNAにコードされるタンパク質は、上記のように単離されたcDNAを大腸菌に導入し、該タンパク質を発現させることで調製できる。
【0145】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0146】
本発明のポリペプチドと結合する化合物は、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化でき、次に、本発明のポリペプチドと結合できるタンパク質を含む被験化合物をカラムに適用する。本明細書における被験化合物には例えば、細胞抽出物や細胞溶解物などがある。被験化合物のローディング後に、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドと結合した化合物を調製することができる。
【0147】
被験化合物がタンパク質の場合は、得られたタンパク質のアミノ酸配列を解析し、該配列を元にオリゴDNAを合成し、その後、オリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリをスクリーニングして、該タンパク質をコードするDNAを得る。
【0148】
表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、本発明における結合状態の化合物を検出または定量する手段として使用することができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識を行うことなく、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0149】
固定化された本発明のポリペプチドを合成化合物または天然物バンクまたはランダムなファージペプチドディスプレイライブラリに曝露した場合に結合する分子をスクリーニングする方法、および、本発明のタンパク質と結合するタンパク質だけでなく化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するためのコンビナトリアル化学技術に基づくハイスループット技法を用いたスクリーニング法(Wrighton et al., Science 273: 458-64 (1996); Verdine, Nature 384: 11-13 (1996); Hogan, Nature 384: 17-9 (1996))は、当業者に周知である。
【0150】
または、本発明は、以下の段階を含む、本発明のポリペプチドを用いて乳癌を治療または予防するための化合物のスクリーニング法を提供する:
(a) 被験化合物を本発明のポリペプチドに接触させる段階;
(b) 段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c) 該被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して、該ポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階。
【0151】
本発明のB7330Nタンパク質は乳癌細胞の細胞増殖を促進する活性を有するため、本発明の該タンパク質のこの活性を阻害する化合物を、この活性を指標として用いてスクリーニングすることができる。
【0152】
B7330Nタンパク質の生物活性を含む限り、いかなるポリペプチドも、スクリーニングに用いることができる。このような生物活性には、ヒトB7330Nタンパク質の細胞増殖活性が含まれる。例えば、ヒトB7330Nタンパク質を使用することができ、同様に、これらのタンパク質に機能的に同等なポリペプチドも使用することができる。このようなポリペプチドは細胞によって内因的に発現させても外因的に発現させてもよい。
【0153】
以下で詳述するように、本発明は、癌細胞の増殖にかかわるB7330Nタンパク質の新規グリコシル化の発見に部分的に基づく。B7330は、細胞増殖のためのシグナル伝達の活性化を通じて、細胞成長の自己分泌調節において役割を果たす(図5a及び5b)。476N(アスパラギン)がA(アラニン)で置換されたN476A変異体において、グリコシル化は観察されなかった(図3b)。外来野生型B7330Nは培養培地中に分泌されたが、N476Aタンパク質は、培養培地中に検出されず、このことは、B7330Nタンパク質のAsn-476でのグリコシル化が分泌に必要であることを示唆している(図3c)。さらに、B7330Nの野生型を発現する細胞は、N476Aをトランスフェクトした細胞よりずっと速く成長した(図8b)。したがって、乳癌の細胞成長は、B7330Nのグリコシル化の阻害によって抑制される可能性がある。
【0154】
このように、本発明は、以下の段階を含む、B7330Nのグリコシル化レベルを調節する、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する:
(a) B7330Nポリペプチドまたはその機能的同等物を発現する細胞を、被験化合物と接触させる段階;
(b) ポリペプチドのグリコシル化レベルを検出する段階;および
(c) 該被験化合物の非存在下で検出されるグリコシル化レベルと比較して、該ポリペプチドのグリコシル化レベルを抑制する化合物を選択する段階。
【0155】
または、本発明は、以下の段階を含む、本発明のポリペプチドを用いて乳癌を治療または予防するための化合物のスクリーニング法を提供する:
(a) B7330NポリペプチドまたはB7330Nポリペプチドのグリコシル化部位を含む部分ポリペプチドを、該ペプチドをグリコシル化できる条件下で、試験化合物と接触させる段階;
(b) 該ポリペプチドのグリコシル化レベルを検出する段階;および
(c) 該被験化合物の非存在下で検出されるグリコシル化レベルと比較して、該ポリペプチドのグリコシル化レベルを抑制する化合物を選択する段階。
【0156】
中でも本発明のポリペプチドのグリコシル化レベルの検出を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする前述の方法の好ましい局面において、該グリコシル化レベルは、本発明のポリペプチドのアスパラギン476のグリコシル化レベルであり、特に、配列番号:25のアミノ酸配列またはその相同部分のアスパラギン476のグリコシル化レベルである。上述したように、当業者は、配列番号:25のアミノ酸配列の476位に対応する位置を本発明のポリペプチドにおいて容易に決定することができる。
【0157】
これらの方法は、B7330Nポリペプチドもしくはグリコシル化部位を有するその機能的同等物を発現する細胞またはポリペプチド自身を、一つもしくは複数の候補化合物と接触させる段階、および、接触したB7330Nまたは機能的同等物のグリコシル化レベルを検出する段階によって、実践される。
【0158】
B7330Nまたは機能的同等物のグリコシル化レベルを調節する化合物がそれによって同定される。
【0159】
本発明において、「機能的に同等な」という用語は、対象タンパク質が、B7330Nと同じ又は実質的に同じグリコシル化レベルを有することも意味する。特に、グリコシル化部位が含まれるタンパク質または該タンパク質の部分アミノ酸は、グリコシル化により触媒される。対象タンパク質が標的活性を有するか否かを本発明によって決定することができる。すなわち、B7330Nタンパク質のグリコシル化レベルは、該タンパク質のグリコシル化にて適した条件下で、ポリペプチドを被験化合物に接触させることによって、検出できる。
【0160】
本発明において、B7330Nポリペプチドのグリコシル化レベルは、当技術分野において公知の方法によって決定できる。たとえば、ポリペプチドのグリコシル化は、分子量を比較することによって検出されうる。グリコシル化タンパク質の分子量は、グリコシド鎖の付加によってポリペプチドのアミノ酸配列から計算された予想サイズの分子量より大きい。さらに、グリコシル化タンパク質の分子量がグリコシダーゼ処置によって低減される可能性がある場合、分子量の差は、グリコシド鎖の付加によって引き起こされることが確認された。タンパク質の分子量を推定する方法は周知である。
【0161】
または、ポリペプチドへのグリコシド鎖の付加を検出するために、グリコシル化用の放射標識ドナーを用いてもよい。放射標識のB7330Nタンパク質への移行は、例えば、SDS-PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出することができる。または、反応に続き、B7330Nペプチドを濾過によってグリコシルドナーから分離し、フィルター上に保持された放射標識の量をシンチレーション計数法によって定量することができる。グリコシルドナーに結合し得る他の適切な標識、例えば発色性標識および蛍光標識、ならびにこれらの標識のB7330Nタンパク質への転位を検出する方法は、当技術分野で公知である。または、B7330Nのグリコシル化レベルは、ポリペプチドのグリコシル化レベルを選択的に認識する試薬によって決定できる。たとえば、B7330Nポリペプチドおよび候補化合物を、該ポリペプチドをグリコシル化できる条件下でインキュベートした後、該ポリペプチドのグリコシル化レベルを、免疫学的方法によって検出することができる。グリコシル化ポリペプチドを認識する抗体を用いる任意の免疫学的技術を、検出のために用いることができる。たとえば、グリコシル化ポリペプチドに対する抗体が市販されている。グリコシル化ポリペプチドを認識する抗体を用いるELISAまたはイムノブロット法を、本発明のために用いることができる。
【0162】
抗体を用いる代わりに、グリコシル化タンパク質を、高い親和性でグリコシド鎖に選択的に結合する試薬を用いて検出することができる。そのような試薬は当技術分野で公知であり、または当技術分野で公知のスクリーニングアッセイ法によって決定することもできる。たとえば、レクチンは、グリコシド鎖特異的プローブとして周知である。アルカリホスファターゼのような検出可能な標識に接合したレクチン試薬も同様に市販されている。
【0163】
細胞におけるポリペプチドのグリコシル化レベルは、細胞溶解物を分離することによって推定されうる。例えば、SDS-ポリアクリルアミドゲルを、ポリペプチドの分離用に使用することができる。ゲルにおいて分離されたポリペプチドを、イムノブロッティング分析のためにニトロセルロース膜に転写する。
【0164】
このスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドとの結合によって該ポリペプチドの機能を活性化する分子を指す。同様に、「アンタゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドとの結合によって該ポリペプチドの機能を阻害する分子を指す。さらに、このスクリーニングによって単離された化合物は、本発明のポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補でもある。
【0165】
本方法において検出しようとする生物活性が細胞増殖である場合には、実施例の項に記載したように、例えば、本発明のポリペプチドを発現する細胞を調製し、細胞を被験化合物の存在下で培養して、コロニー形成活性を測定することのほか、細胞増殖の速度を決定することや、細胞周期などを測定することにより、生物活性を検出することができる。
【0166】
さらなる態様において、本発明は、乳癌の治療または予防のための化合物のスクリーニング法を提供する。先に詳細に考察したように、B7330Nの発現レベルを制御することによって、乳癌の発症および進行を制御することができる。このため、乳癌の治療または予防に用いられうる化合物を、B7330Nの発現レベルを指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a) B7330Nを発現する細胞を、被験化合物と接触させる段階;および
(b) B7330Nの発現レベルを被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる化合物を、選択する段階。
【0167】
B7330Nの少なくとも1つを発現する細胞には、例えば、乳癌から樹立された細胞株が含まれ;このような細胞を本発明の上記のスクリーニングに用いることができる(例えば、HBC4、HBC5、MCF-7、MDA-MB-231、YMB1、SKBR3、T47D、BT-20、HCC1500、又はMDA-MB-453など)。発現レベルは当業者に周知の方法によって予想できる。スクリーニング法において、B7330Nの発現レベルを低下させる化合物を、乳癌の治療または予防のために用いる候補作用物質として選択することができる。
【0168】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
(a) B7330Nであるマーカー遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と、被験化合物を接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
(c) 被験化合物の非存在下で検出した対照レベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる化合物を選択する段階。
【0169】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いて調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知である場合、レポーター構築物は、これまでの配列情報を用いて調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合、該マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントをゲノムライブラリから単離することができる。
【0170】
タンパク質を結合させるために用いうる支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖類、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれる;上記の材料から作製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を用いることが好ましい。ビーズを用いる場合、それらをカラムに充填してもよい。
【0171】
タンパク質の支持体への結合は、化学結合や物理吸着などの常用の方法によって実施することができる。または、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して、該タンパク質を支持体に結合させてもよい。さらに、アビジンおよびビオチンを利用して、タンパク質を支持体に結合させることもできる。
【0172】
タンパク質同士の結合は、緩衝液がタンパク質同士の結合を阻害しない限りは、例えばこれらに限定されないがリン酸緩衝液およびTris緩衝液の緩衝液中で行われる。
【0173】
本発明において、表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合したタンパク質の検出または定量のための手段として用いることができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識を行うことなく、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。
【0174】
または、B7330Nポリペプチドを標識してもよく、結合したタンパク質の標識を用いて、結合したタンパク質の検出または測定を行うことができる。具体的には、タンパク質の一方をあらかじめ標識した後に、標識したタンパク質を被験化合物の存在下でもう一方のタンパク質と接触させ、洗浄後、結合したタンパク質を標識によって検出または測定する。
【0175】
本方法におけるタンパク質の標識のために、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いることができる。タンパク質を放射性同位体で標識する場合には、検出または測定を液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識したタンパク質は、呈色などの基質の酵素的変化を検出するために酵素基質を添加して、吸光光度計で検出または測定することもできる。さらに、標識として蛍光物質を使用する場合は、結合状態のタンパク質を蛍光光度計を用いて検出または測定することができる。
【0176】
抗体を本スクリーニングに用いる場合には、抗体を上記の標識物質のいずれかで標識し、標識物質に基づいて検出または測定を行うことが好ましい。または、B7330Nポリペプチドまたはアクチンに対する抗体を、標識物質で標識した二次抗体によって検出されるべき一次抗体として用いてもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質と結合した抗体は、プロテインGまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定することもできる。
【0177】
任意の被験化合物(例えば細胞抽出物、細胞培養物上清、発酵微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質もしくは未精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物)を、本発明のスクリーニング法に使用することができる。本発明の被験化合物は、(1)生物学的ライブラリ、(2)空間的に位置指定可能な(spatially addressable)平行固相もしくは液相ライブラリ、(3)複雑な形状の解析(deconvolution)を必要とする合成ライブラリ法、(4)「1ビーズ-1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリ法、ならびに(5)アフィニティークロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリ法を含む、当技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリ法における任意の多くのアプローチを用いても得られる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、他の4種類のアプローチは、化合物のペプチドライブラリ、非ペプチドオリゴマーライブラリ、または小分子ライブラリに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145)。分子ライブラリの合成法の例は当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678; Cho et al. (1993) Science 261: 1303; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233)。化合物のライブラリは、溶液中に(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412を参照されたい)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865)、もしくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386; Devlin (1990) Science 249: 404; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301; 米国特許出願第2002103360号)上に、提示されうる。
【0178】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物は、例えば、乳癌などの細胞増殖性疾患に起因する疾患の治療または予防のための、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬物の候補である。本発明のスクリーニング法によって得られた化合物の構造の一部が、付加、欠失および/または置換によって変換された化合物は、本発明のスクリーニング法によって得られる化合物に含まれる。
【0179】
乳癌の治療または予防のための薬学的組成物
本発明は、本発明のスクリーニング法によって選択される任意の化合物を含む、乳癌の治療または予防のための組成物を提供する。
【0180】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物を、細胞増殖性疾患(例えば、乳癌)を治療するために、ヒトまたは他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、チンパンジーに対する薬剤として投与する場合には、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬剤調製法を用いて投与剤形に製剤化してもよい。例えば、必要に応じて、薬物を、糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口投与することもでき、または、水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、このような化合物は、薬理学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ビヒクル、保存剤、結合剤などと共に、一般に容認された薬剤使用に必要な単位用量剤形で混合することができる。これらの調製物における有効成分の量によって、表記の範囲内の適切な投与量を得ることができる。
【0181】
錠剤およびカプセル剤と混合可能な添加物の例は、結合剤(ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントガム、およびアラビアゴムなど);賦形剤(結晶性セルロースなど);膨張剤(コーンスターチ、ゼラチン、およびアルギン酸など);潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムなど);甘味剤(ショ糖、乳糖、またはサッカリン);香味剤(ペパーミント、アカモノ(Gaultheria adenothrix)オイル、およびチェリーなど)である。単位投与剤形がカプセルの場合、液状担体(オイルなど)も上記成分中にさらに含めることができる。注射用の滅菌成分を、通常の薬剤使用にしたがって、注射用蒸留水などのビヒクルを用いて製剤化することができる。
【0182】
生理食塩水、グルコース、および、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなどのアジュバントを含む他の等張液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール(例えばプロピレングリコールやポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)やHCO-50))などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。
【0183】
ゴマ油またはダイズ油は、油性溶液として使用することができ、可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールとともに使用することができ、かつ、緩衝液(リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液など);鎮痛薬(塩酸プロカインなど);安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど);ならびに抗酸化剤を用いて製剤化することができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0184】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的化合物を、例えば動脈内注射、静脈内注射、経皮内注射として、また鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与、または経口投与として患者に投与することができる。投与量および投与法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変動するが、当業者であればこれらを慣例的に選択することができる。該化合物がDNAによってコード可能である場合、該DNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、該ベクターを投与して治療を実施することができる。投与量および投与法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者であればこれらを適切に選択することができる。
【0185】
例えば、症状によって若干の違いはあるものの、本発明のポリペプチドと結合してその活性を調節する化合物の用量は、正常な成人(体重60kg)に対して経口投与する場合、約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、より好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0186】
注射液の形状で正常な成人(体重60 kg)に非経口的に投与する場合は、患者、標的器官、症状、および投与方法によって若干の違いはあるものの、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1 mg/日〜約20 mg/日、より好ましくは約0.1 mg/日〜約10 mg/日の用量を静脈内に注射することが好都合である。また他の動物の場合でも、体重60kgに換算した量を投与することが可能である。
【0187】
さらに、本発明は、B7330N遺伝子の発現を阻害する有効成分を含む、乳癌の治療または予防のための薬学的組成物を提供する。このような有効成分には、B7330N遺伝子に対するアンチセンスポリヌクレオチド、siRNAもしくはリボザイム、または、該アンチセンスポリヌクレオチド、siRNAもしくはリボザイムの誘導体(例えば発現ベクター)が含まれる。
【0188】
これらの有効成分は、誘導体に対して不活性である適切な基材と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。同じく、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、それらを錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは通常の方法に従って調製可能である。
【0189】
有効成分は、罹患部位に対して直接塗布することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に対して投与される。持続性および膜透過性を高めるために封入剤を用いることもできる。封入剤の例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が含まれる。
【0190】
本発明のこのような組成物の投与量は、患者の状態に従って適切に調整することができ、かつ、所望の量で用いることができる。例えば0.1 mg/kg〜100 mg/kg、好ましくは0.1 mg/kg〜50 mg/kgの用量範囲で投与することができる。
【0191】
本発明のもう1つの態様は、B7330N遺伝子によってコードされるポリペプチドに対する抗体、または該ポリペプチドと結合する抗体の断片を含む、乳癌の治療または予防のための組成物である。
【0192】
症状に応じて若干の違いはあるものの、乳癌を治療または予防するための抗体またはその断片の用量は、正常な成人(体重60kg)に対して経口投与する場合には、約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、より好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0193】
注射剤の形状で正常な成人(体重60 kg)に非経口投与する場合は、患者の状態、疾患の症状、および投与方法によって若干の違いはあるものの、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、より好ましくは約0.1〜約10 mg/日の用量を静脈内注射することが好都合である。また他の動物の例でも、体重60 kgに換算した量を投与することが可能である。
【0194】
乳癌の治療または予防のための方法
本発明は、対象における乳癌の治療または予防のための方法を提供する。乳癌に罹患したかその発症リスクを有する(もしくは感受性のある)対象に、予防または治療目的で治療用化合物を投与する。このような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはB7330Nの異常な発現レベルもしくは活性を検出することによって同定される。予防的投与は、疾患または障害が妨げられるかまたはその進行が遅延するように、疾患の明らかな臨床症状が現れる前に行う。
【0195】
治療法には、B7330N遺伝子の発現又は機能を減少させることが含まれる。これらの方法では、対象において過剰発現される遺伝子(B7330N遺伝子)を減少させる化合物の有効量を用いて対象を処置する。投与は、全身投与または局所投与とすることができる。治療用化合物には、乳癌細胞内に内因的に存在する遺伝子の発現レベルを低下させる化合物(すなわち、過剰発現される遺伝子の発現をダウンレギュレートする化合物)が含まれる。このような治療用化合物の投与は、対象の細胞における異常な過剰発現遺伝子の影響を相殺し、該対象の臨床状態を改善することが期待される。このような化合物は、上述した本発明のスクリーニング法によって得ることができる。
【0196】
また、B7330N遺伝子の発現を阻害するかそれに対して拮抗する核酸を対象に投与することを含む、当技術分野で公知の複数の方法のいずれかによって、該遺伝子の発現を阻害することもできる。該遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAまたはリボザイムを、該遺伝子の発現を阻害するために用いることができる。B7330N遺伝子の発現を妨害するのに使用可能なアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAまたはリボザイムは、本明細書において上述されている。
【0197】
上に述べた通り、B7330N遺伝子のヌクレオチド配列に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、B7330N遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることができる。具体的には、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、B7330N遺伝子にコードされるポリペプチドのいずれか、またはこれに対応するmRNAに結合し、それによって該遺伝子の転写または翻訳を阻害して、該mRNAの分解を促進して、かつ/または該遺伝子にコードされるタンパク質の発現を阻害して、最終的にB7330Nタンパク質の機能を阻害することによって、作用しうる。
【0198】
アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびその誘導体を、該誘導体に対して不活性である適切な基剤と混合することによって、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができ、かつ、本発明の乳癌の治療または予防のための方法に用いることができる。
【0199】
また、過剰発現される遺伝子の遺伝子産物を阻害する核酸には、B7330N遺伝子をコードするヌクレオチド配列のセンス鎖核酸とアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む低分子干渉RNA(siRNA)も含まれる。siRNAを細胞に導入する標準的な技術は、DNAがRNA転写用の鋳型である技術を含み、本発明の治療または予防において使用可能である。siRNAは、単一の転写物が、標的遺伝子に由来するセンス配列と相補的なアンチセンス配列の両方を有するように構築される(例えば、ヘアピン)。
【0200】
この方法を用いて、B7330N遺伝子の発現がアップレギュレートされた細胞の遺伝子発現を抑制する。標的細胞内でsiRNAとB7330N遺伝子の転写物とが結合することによって、該細胞によるB7330Nタンパク質の産生が減少する。
【0201】
また、過剰発現する遺伝子の遺伝子産物を阻害する核酸には、過剰発現する遺伝子(B7330N遺伝子)に対するリボザイムも含まれる。
【0202】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる、乳癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための方法を提供する。本方法により、本発明のポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量が投与される。B7330Nタンパク質の発現は乳癌細胞においてアップレギュレートされており、かつこれらのタンパク質の発現抑制によって細胞増殖活性の低下がもたらされるため、抗体とこれらのタンパク質との結合によって細胞増殖性疾患を治療または予防できることが予想される。このため、本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のタンパク質の活性を低下させるのに十分な投与量で投与され、これは0.1〜約250mg/kg/日の範囲内である。成人の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日であり、好ましくは約5 mg〜約10 g/日であり、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。
【0203】
あるいは、腫瘍細胞に特異的な細胞表面マーカーと結合する抗体を、薬物送達のツールとして用いることができる。例えば、細胞傷害物質と接合させた抗体を、腫瘍細胞を損傷させるのに十分な用量で投与する。
【0204】
本発明の別の局面とは、乳癌を治療又は予防するための方法であり、該方法は、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列の、特に配列番号:25のポリペプチドのアミノ酸配列のアスパラギン476のグリコシル化を阻害する作用物質の薬学的有効量を投与する段階を含む。
【0205】
また本発明は、抗腫瘍免疫を誘導する方法にも関し、該方法は、B7330Nタンパク質もしくはその免疫活性断片、または該タンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはその断片を投与する段階を含む。B7330Nタンパク質またはその免疫活性断片は、乳癌などの細胞増殖性疾患に対するワクチンとして有用である。場合によっては、本タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態で、または、マクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態で投与することができる。DCが強い抗原提示能力を有するため、APCの中でもDCの使用が最も好ましい。
【0206】
本発明において、細胞増殖性疾患に対するワクチンとは、動物に接種した時に抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。一般に、抗腫瘍免疫は以下のような免疫応答を含む:
-腫瘍に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
-腫瘍を認識する抗体の誘導、および
-抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0207】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか1つを誘導する場合、該タンパク質は抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判断される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、該タンパク質に対する宿主における免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出できる。
【0208】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。生体に侵入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激のために細胞傷害性T細胞(または細胞傷害性Tリンパ球;CTL)に分化し、後に増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTLの誘導は、ペプチドをAPCによってT細胞に提示させ、CTLの誘導を検出することで評価できる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。またCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞は抗腫瘍免疫においても重要なので、これらの細胞の活性化効果を指標として用いることによって、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0209】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価する方法は当技術分野で周知である。DCは、APCの中で最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、被験ポリペプチドをまずDCに接触させて、次にこのDCをT細胞に接触させる。DCとの接触後に関心対象の細胞に対して細胞傷害作用を有するT細胞が検出されることによって、被験ポリペプチドが細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いることによって、検出できる。あるいは、3H-チミジンの取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)の放出を指標として用いることによって腫瘍細胞損傷の程度を評価する方法も周知である。
【0210】
DCのほかに、末梢血単核球(PBMC)をAPCとして使用することもできる。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによって誘導されることが示されている。
【0211】
これらの方法によってCTL誘導活性をもつことが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果と、引き続くCTL誘導活性とを有するポリペプチドである。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触することによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞傷害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いたそのような腫瘍治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0212】
一般に、細胞免疫療法にポリペプチドを用いる場合、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせてこれらをDCに接触させることにより、CTL誘導の効率が高くなることが知られている。したがって、DCをタンパク質断片で刺激する場合、複数種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0213】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することで確認できる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、該ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の成長が該抗体によって抑制される場合には、該ポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力を有すると判定することができる。
【0214】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、かつ、抗腫瘍免疫の誘導により、乳癌などの細胞増殖性疾患の治療および予防が可能になる。癌に対する治療法または癌の発症の予防は、癌細胞の成長の阻害、癌の退縮、および癌の発症の抑制といった段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども、癌の治療効果または予防効果として含まれる。このような治療効果および予防効果は、統計的に有意であることが好ましい。例えば、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えばスチューデントのt検定、Mann-WhitneyのU検定、またはANOVAを統計解析に用いることができる。
【0215】
免疫活性を有する上記のタンパク質または該タンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫活性を有するタンパク質と同時に(または連続的に)投与した場合、該タンパク質に対する免疫応答を増大させる化合物を意味する。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせることができる。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などがある。また、ワクチンは必要に応じて安定剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤などを含む場合がある。ワクチンは全身投与または局所投与する。ワクチン投与は、1回投与で実施してもよく、または複数回投与によって追加免役してもよい。
【0216】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、例えばエクスビボ法によって腫瘍を治療または予防することができる。より具体的には、治療法または予防法を受ける対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を対象に投与することができる。またAPCは、ポリペプチドをコードするベクターをPBMCにエクスビボで導入することによって誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLを、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する活性が高い細胞をクローニングして成長させることによって、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のためにも用いることができる。
【0217】
さらに、薬学的有効量のB7330Nポリペプチドを含む、乳癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いられうる。B7330Nの正常な発現は、胎盤、膵臓、胃、気管、乳腺、及び骨髄に限定されている。このため、これらの遺伝子の抑制は他の臓器には有害な影響を及ぼさないと考えられる。したがって、B7330Nポリペプチドは、細胞増殖性疾患、特に乳癌を治療するのに好ましい。さらに、癌細胞で特異的に発現されるタンパク質のペプチド断片は該癌に対する免疫応答を誘導することが判明しているため、B7330Nのペプチド断片を、乳癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための薬学的組成物中で用いることもできる。本発明において、ポリペプチドまたはその断片は抗腫瘍免疫を誘導するのに十分な投与量で投与され、これは0.1mg〜10mg、好ましくは0.3mg〜5mg、より好ましくは0.8mg〜1.5mgの範囲内である。投与は反復して行う。抗腫瘍免疫を誘導するには、例えば、1mgのペプチドまたはその断片を2週間毎に4回投与するとよい。
【0218】
さらに、B7330Nをコードするポリヌクレオチドまたはその断片を、抗腫瘍免疫を惹起するために用いることができる。このようなポリヌクレオチドを、治療される対象においてB7330Nまたはその断片を発現させるための発現ベクターに組み入れてもよい。したがって本発明は、B7330Nをコードするポリヌクレオチドまたはその断片が、乳癌などの細胞増殖性疾患に罹患したかその発症リスクを有する対象に投与される、抗腫瘍免疫を誘導するための方法を含む。
【0219】
当然ながら、乳癌の治療もしくは予防のための方法又は抗腫瘍免疫、特に抗乳腺腫瘍免疫の誘導法について本明細書に記載された態様は、必要な変更を加えて、対象において、乳癌を治療もしくは予防するため又は抗腫瘍免疫、特に抗乳腺腫瘍免疫を誘導するために、本明細書記載の該乳癌の治療もしくは予防のための方法又は該抗腫瘍免疫の誘導法において適用される任意の化合物の使用を適用する。
【0220】
以下の実施例は、本発明を例示するため、ならびに、当業者がそれを実施および使用することを補助するために、提示される。これらの実施例は、いかなる場合も本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0221】
特記する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載したのと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書で言及するすべての特許、特許出願および刊行物は、参照として組み入れられる。本明細書におけるいかなる記載も、本発明が先行発明によりそのような公開に先行する権利を有さないことの承認として解釈されるべきでない。
【0222】
発明を実施するための最良の形態
本発明を、以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0223】
材料および方法
乳癌細胞株及び腫瘍標本
ヒト乳癌細胞株HBL-100、HCC1937、MCF-7、MDA-MB-435s、YMB1、SKBR3、T47D、BT-20、BT-474、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA-MB-157、MDA-MB453、OUCB-F、ZR-75-1、およびCOS-7細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)から購入し、それぞれの寄託者の推奨に従って培養した。HBC4、HBC5およびMDA-MB-231細胞株は、財団法人癌研究会癌化学療法センター分子薬理部(Molecular Pharmacology、Cancer Chemotherapy Centre of the Japanese Foundation for Cancer Research)の矢守博士により寄贈いただいた。全ての細胞を適切な培地で培養した;すなわち、HBC4、HBC5、T47D、YMB1、OUCB-F、ZR-75-1、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599およびHCC1937についてRPMI-1640(Sigma, St. Louis, MO)を使用し(2mM L-グルタミンを添加);BT474、HBL100、COS7についてダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用し;BT-20およびMCF-7について、0.1mM必須アミノ酸(Roche)、1mMピルビン酸ナトリウム(Roche)、0.01mg/mlインスリン(Sigma)を加えたEMEM(Sigma)を使用し;SKBR3についてMcCoy(Sigma)を使用し(1.5mM L-グルタミンを添加);MDA-MB-231、MDA-MB-157、MDA-MB453およびMDA-MB-435sについてL-15(Roche)を使用した。それぞれの培地には、10%ウシ胎仔血清(Cansera)および1%抗生物質/抗菌性溶液(Sigma)を加えた。MDA-MB-231細胞およびMDA-MB-435s細胞は、COを含まない加湿空気雰囲気下、37℃で維持した。他の細胞株は、5% COを含む加湿空気雰囲気下、37℃で維持した。臨床試料(乳癌および正常乳管)は、すべての患者からインフォームドコンセントを得た上で、手術標本から入手した。
【0224】
本発明者らのcDNAマイクロアレイ上にスポット番号B7330Nとして示された新規ヒト遺伝子の単離
cDNAマイクロアレイスライドの作製については他で記載されている(Ono K, et al., (2000) Cancer Res., 60, 5007-11)。発現プロファイルの各分析に関しては、実験的な変動を少なくするために、27,648個のcDNAスポットを含むスライドを2セットずつ用意した。簡潔に述べると、レーザーマイクロダイセクションに供した細胞の各試料から全RNAを精製し、T7に基づくRNA増幅を行って、マイクロアレイ実験を行うのに十分な量のRNAを得た。乳癌細胞および正常乳管細胞から増幅されたRNAのアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences、Buckinghamshire、UK)を用いる逆転写によって標識した。ハイブリダイゼーション、洗浄、及び検出は、以前に記載されたように実施した(Ono K, et al., (2000) Cancer Res., 60, 5007-11)。乳癌において共通してアップレギュレートされる遺伝子を検出するために、マイクロアレイ上の27,648遺伝子の全体的な発現パターンをスクリーニングし、(i) 77例の閉経前乳癌症例すべて、(ii) 69例の浸潤性乳管癌、(iii) 31例の高分化型病変、(iv) 14例の中程度分化型病変、または(v) 24例の低分化型病変のそれぞれにおいて50%を上回って存在する、発現比が3.0を上回る遺伝子を選択した。腫瘍細胞においてアップレギュレートされていると思われた493遺伝子の中から、本発明者らは、情報の得られた乳癌症例の30%超において発現比が3.0を上回るとの理由から、施設内識別番号B7330Nの遺伝子に着目した。
【0225】
半定量的RT-PCR分析
本発明者らは、レーザー捕捉細胞の各集団から全RNAを抽出し、その後、以前記載されたように、T7に基づく増幅および逆転写を行った(Kitahara O, et al., (2001) Cancer Res., 61, 3544-9)。本発明者らは、定量的内部対照としてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をモニタリングすることにより、その後のPCRのための各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。PCRプライマー配列は、以下の通りであった:
GAPDHに対して、5'-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3'(配列番号:1)および
5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(配列番号:2);ならびに
B7330Nに対して、5'-GAGTCCAGGTAAGTGAATCTGTCC-3'(配列番号:3)および
5'-ATTTCCACCGAGACCTCTCATC-3'(配列番号:4)。
【0226】
ノーザンブロット分析
すべての乳癌細胞株から、RNeasyキット(QIAGEN)を製造元の指示に従って用いて全RNAを抽出した。DNase I(Nippon Gene、大阪、日本)による処理の後に、mRNA精製キット(Amersham Biosciences)を製造元の指示に従って用いて、mRNAを単離した。各mRNAの1μgアリコートを、正常成人の乳房(BioChain)、肺、心臓、肝臓、腎臓、骨髄(BD, Clontech, Palo Alto, CA)から単離したポリA(+) RNAとともに1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜に転写した(乳癌ノーザンブロット)。乳癌ノーザンブロットおよびHuman multiple-tissue Northern blot(Clontech, Palo Alto, CA)を、RT-PCRによって調製したB7330Nの[α32P]-dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた(下記参照)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は、業者の推奨にしたがって実施した。ブロットのオートラジオグラフィーは増感スクリーンを用いて-80℃で14日間行った。B7330N(502bp)に対する特異的プローブは、以下のプライマーセット:5'-GAGTCCAGGTAAGTGAATCTGTCC-3'(配列番号:3)および5'-ATTTCCACCGAGACCTCTCATC-3'(配列番号:4)を用いるRT-PCRによって調製し、メガプライムDNA標識システム(Amersham bioscience)により放射標識した。
【0227】
B7330N発現ベクターの構築
B7330N発現ベクターを構築するため、B7330N cDNAの全コード配列を、KOD-Plus DNAポリメラーゼ(Toyobo, Osaka, Japan)及び以下のプライマーを用いるPCRによって増幅した:
フォワード:5'-CGGAATTCATGAGGCTCCTCCGCAG-3'(配列番号:5)(下線はEcoR I部位を示す);リバース:5'-CCGCTCGAGGACAAAGAGCCACAACTGATG-3'(配列番号:6)(下線はXho I部位を示す)。
PCR産物を、pCAGGS-HA発現ベクターのEocR I部位およびXho I部位に挿入した。B7330N変異体を構築するために、本発明者らは、PCR部位特異的変異導入キット(Invitrogen)及び以下のプライマーを用いて、B7330Nタンパク質におけるN-グリコシル化部位の可能性があると予想された2つのアスパラギン残基(Asn-476及びAsn-611)を、アラニン残基に置換した:
N476A-F:5'-ACAACTGCACTGTCACGCCTTTTCCTGGTACCTGC-3'(配列番号:7)および
N476A-R:5'-GCAGGTACCAGGAAAAGGCGTGACAGTGCAGTTGT-3'(配列番号:8);
N611A-F:5'-CATGGCCCCCTGCGCACCCAGTGACCCCC-3'(配列番号:9)およびN611A-R:5'-GGGGGTCACTGGGTGCGCAGGGGGCCATG-3'(配列番号:10)。
これらの構築物(pCAGGS-B7330N-HA、pCAGGS-N476A-HA、およびpCAGGS-N611A-HA)は、DNA配列決定によって確認された。二量体化実験用の構築物を作製するために、B7330Nの全コード配列をpcDNA3.1-myc-his ベクター(Invitrogen)にクローニングした。
【0228】
免疫細胞化学染色
まず外来B7330Nの細胞内局在を調べるため、本発明者らは、外来発現用にCOS7細胞を1×10個/ウェルで播種した。72時間後に、本発明者らは、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を製造元の指示に従って用いて、それぞれ1μgのpCAGGS-B7330N-HAをCOS7細胞に対して一過的にトランスフェクトした。次に、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで細胞を15分間固定し、0.1% Triton X-100を含むPBSを用いて4℃で2.5分間処理することで透過化させた。続いて、非特異的なハイブリダイゼーションを阻止するために、細胞を3% BSAを含むPBSにより4℃で12時間覆った。次に、B7330N-HAをトランスフェクトしたCOS7細胞を、1:1000希釈したラット抗HA抗体(Roche)とともにインキュベートした。PBS(-)で洗浄した後に、トランスフェクト細胞を、1:1000希釈したAlexa488接合抗ラット二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。核は、4', 6-ジアミジノ-2'-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で対比染色した。蛍光画像はTCS SP2 AOBS顕微鏡(Leica、東京、日本)を用いて得られた。
【0229】
抗B7330N特異的ポリクローナル抗体の作製
Hisタグ付きエピトープをN末端及びC末端に有するB7330N(35〜239 a.a.)の2つの断片を発現するよう設計されたプラスミドを、pET28ベクター(Novagen, Madison, WI)を用いて調製した。大腸菌BL21 codon-plus株(Stratagene, La Jolla, CA)内で組み換えペプチドを発現させ、Ni-NTA樹脂アガロース(Qiagen)を供給元の手順に従って用いて、これを精製した。精製した組み換えタンパク質を、ウサギの免疫化に用いた。標準的な方法論に従って、組み換えタンパク質(35〜239 a.a.)を用いて免疫血清をアフィニティーカラムで精製した。アフィニティー精製した抗B7330N抗体を、後述のウエスタンブロット分析、免疫細胞染色、および免疫組織染色に用いた。
【0230】
乳癌細胞株における内在性B7330Nの発現
乳癌細胞株(HBC5、MDA-MB-231、SKBR3、およびT47D)およびHMEC(ヒト乳腺上皮細胞)において内在性B7330Nを検出するために、上述の通りに細胞を溶解緩衝液中で溶解させた。全細胞の量をタンパク質アッセイキット(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて推定し、その後、SDS-試料緩衝液と混合して、煮沸してから、上述の10% SDS-PAGEゲルにロードした。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロースメンブレン(GE Healthcare)にブロットした。タンパク質を含むメンブレンをブロッキング溶液によってブロックし、内在性B7330Nタンパク質を検出するために抗B7330Nポリクローナル抗体と共にインキュベートした。最後に、メンブレンをHRP接合二次抗体と共にインキュベートして、タンパク質バンドをECL検出試薬(GE Healthcare)によって可視化した。ロード対照として用いるため、β-アクチンを調べた。
【0231】
乳癌細胞株T47Dにおける内在性B7330Nタンパク質の細胞内局在をさらに調べるために、本発明者らは、細胞を1×105個/ウェル(Lab-Tek II chamber slide, Nalgen Nunc International, Naperville, IL)で播種した。インキュベーションの24時間後、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)で細胞を15分間固定し、0.1% Triton X-100を含むPBS(-)を用いて4℃で2.5分間処理することで透過化させた。次に、非特異的ハイブリダイゼーションを遮断するために、3%BSAを含むPBS(-)で細胞を4℃で12時間覆った後、1:1000希釈のウサギ抗-B7330Nポリクローナル抗体と共にインキュベートした。PBS(-)で洗浄した後に、細胞を、1:1000希釈したAlexa488接合抗ウサギ二次抗体(Molecular Probe, Eugene, OR)によって染色した。核は4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で対比染色した。蛍光画像はTCS SP2 AOBS顕微鏡(Leica、東京、日本)を用いて得られた。
【0232】
免疫組織化学染色
乳癌および正常組織におけるB7330Nタンパク質の発現パターンを、以前に記述されたように(Kitahara O, et al. Cancer Res 61, 3544-3549 (2001))、アフィニティ精製抗B7330Nポリクローナル抗体を用いて調べた。正常臓器を調べるため、本発明者らは、心臓、肺、肝臓、腎臓、および膵臓(Biochain)の市販の組織切片を購入した。簡単に説明すると、パラフィン抱埋標本をキシレンおよびエタノールによって処置して、タンパク質ブロッキング試薬(Dako Cytomation, Carpinteria, CA)によってブロックした。抗B7330N抗体(1:50)を含む抗体希釈溶液を加えた後、基質-色素原(DAKO liquid DAB chromogen, DakoCytomation)によって染色した。最後に、組織標本をヘマトキシリンによって染色し、核を細胞質と識別した。
【0233】
psiU6BX3.0を用いた、B7330N特異的siRNA発現ベクターの構築
本発明者らは、ベクターに基づくRNAiシステムを、以前の報告(国際公開公報第2004076623号)に従って、psiU6BX3.0 siRNA発現ベクターを用いて確立した。B7330Nに対するsiRNA発現ベクター(psiU6BX-B7330N)は、表1中の二本鎖オリゴヌクレオチドを、psiH1BX3.0ベクター内のBbsI部位へクローニングすることによって調製した。対照プラスミドであるpsiU6BX-Mockは、psiU6BX3.0ベクターにおけるマルチクローニング部位のBsiIおよびHind IIIによってそれぞれ調製した。
【0234】
(表1)siRNA発現ベクターに挿入された二本鎖オリゴヌクレオチドの配列

下線は、B7330N特異的siRNAを示す。
【0235】
B7330N特異的siRNAの遺伝子サイレンシング効果
ヒト乳癌細胞株T47DまたはBT-20を15cm培養皿に播種し(4×10細胞/皿)、FuGENE6試薬を供給元(Roche)の推奨に従って用いて、陰性対照としてのpsiU6BX-Mock、およびpsiU6BX-B7330Nの各16μgをトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、コロニー形成アッセイ(2×10細胞/10cm皿)、RT-PCR(2×10細胞/10cm皿)、およびMTTアッセイ(2×10細胞/ウェル)のために細胞を再び播種した。本発明者らは、T47DまたはBT-20細胞において、それぞれ0.7mg/mlまたは0.6mg/mlのネオマイシン(Geneticin, Invitrogen)を含む培地を用いて、B7330N導入細胞を選択した。その後に、本発明者らは3週間にわたり培地を2日毎に交換した。siRNAの機能を評価するために、ネオマイシン選択後7日目に細胞から全RNAを抽出し、その後、B7330NおよびGAPDHに対する以下の特異的なプライマーセットを用いる半定量的RT-PCRにより、siRNAのノックダウン効果を確認した:
内部対照としてのGAPDHに対する5'-ATGGAAATCCCATCACCATCT-3'(配列番号:11)および5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(配列番号:2);ならびにB7330Nに対する5'-GGATGAAACATACCCCATCA-3'(配列番号:12)および 5'-ATGACACTAGTGCCCTTGG-3'(配列番号:13)。
さらに、T47DまたはBT-20細胞株を用いてsiRNAを発現するトランスフェクタントを、ネオマイシンを含む選択培地中でそれぞれ28日間成長させた。4%パラホルムアルデヒドで固定した後に、コロニー形成を評価するためにトランスフェクトした細胞をギムザ液で染色した。細胞生存度を定量するためにMTTアッセイ法を行った。ネオマイシンを含む培地中で10日間培養した後に、MTT溶液(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)(Sigma)を濃度0.5mg/mlで添加した。37℃で2.5時間インキュベートした後に、酸-SDS(0.01N HCl/10%SDS)を添加した;懸濁液を激しく混合した後、37℃で一晩インキュベートして、紺青色の結晶を溶解させた。570nmでの吸光度をMicroplate Reader 550(BioRad)を用いて測定した。siRNAの機能を評価するために、選択から7日後に細胞から全RNAを抽出し、選択から10日後にCell Counting Kit-8(Dojindo)を製造元のプロトコールに従って用いてMTTアッセイ法を行う。Microplate Reader 550(BioRad)を用いて、吸光度を波長570nmで測定する。コロニー形成アッセイに関しては、細胞を4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、その後ギムザ液(Merck)で染色した。各実験は3連で行った。
【0236】
B7330Nを安定に発現するNIH3T3細胞の確立
完全長のB7330NおよびN476A変異体発現ベクターを、先に記述したようにFUGENE6を用いてNIH3T3細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、0.9 mg/mlゲネチシン(G418)(Invitrogen)を含む培養培地においてインキュベートした。クローニングしたNIH3T3細胞を限界希釈法によってサブクローニングした。HAタグ付きB7330Nの発現および細胞内局在を、抗HAモノクローナル抗体を用いて、ウェスタンブロット分析および免疫細胞化学によってそれぞれ査定した。最終的にいくつかのクローンが確立されて、WT-B7330NおよびN476A-B7330Nと命名された。野生型-B7330NまたはN476A-B7330Nの成長促進効果を調べるために、本発明者らは、独立した2つのWT-B7330N-NIH3T3(WT-1、および-2)、独立した2つの細胞N476A-B7330N-NIH3T3(N476A-1および-2)、ならびに独立した2つのMOCK-NIH3T3(Mock-1、および-2)をそれぞれ5000個播種して、MTTアッセイ法によって6日間毎日細胞数を計数した。実験は3回ずつ行った。
【0237】
外来B7330Nのウエスタンブロット分析
本発明者らは、pCAGGS-B7330N-HA、pCAGGS-N476A-HA、またはpCAGGS-N611A-HAトランスフェクトCOS7細胞、および陰性対照としてのMockを用いて、COS7細胞における外来B7330Nタンパク質の発現を試験した。細胞を、50 mmol/Lトリス-塩酸(pH 8.0)、150 mmol/L NaCl、および0.1%プロテアーゼカクテル阻害剤III(Calbiochem, San Diego, CA)を含む0.1%NP-40溶解緩衝液において溶解させた。細胞溶解物を8%SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロースメンブレンに転写した後、一次抗体としてのラット抗HA pAbと共にインキュベートした。二次抗体としてのヒツジ抗ラットIgG-HRP(Amersham Biosciences)と共にインキュベートした後、ECLキット(Amersham Biosciences)によってシグナルを可視化した。分泌されたB7330Nタンパク質を検出するために、B7330N-、N476A-、またはN611A-トランスフェクトCOS7細胞を、トランスフェクション後48時間、無血清培地中で維持した後、4日間培養した。細胞溶解物および濃縮細胞培地中のB7330Nタンパク質も同様に、ラット抗HA-pAbおよび抗ラットIgG-HRPによって検出した。β-アクチンpAb(1:2000希釈)を、タンパク質に関するローディング対照とした(クローンAC-15、Sigma-Aldrich, MO)。B7330Nタンパク質のグリコシル化を確認するために、細胞溶解物も、プロテアーゼカクテル阻害剤IIIを含めずに、上述されたように最初に調製した。細胞溶解物各10μlを、溶解緩衝液10μlおよびN-グリコシダーゼF(Calbiochem, San Diego, CA)1 Uと混合した後、37℃で1時間インキュベートした。反応物をSDS試料緩衝液と共に沸騰させた。
【0238】
自己分泌アッセイ法
B7330NトランスフェクトCOS7細胞をFCS非含有培地中で2日間維持した後、細胞成長の自己分泌刺激を確認するために、培地中にB7330Nを含むまたは含まない親COS7細胞を4日間培養した。B7330Nが細胞成長に及ぼす効果を、先に記述したように血球計算盤およびMTTアッセイ法を用いて細胞数を計数することによってモニタリングした。細胞(5×103 個/ウェル)を、0.1% FCSを含むDMEM中で培養した。
【0239】
抗B7330N抗体による中和効果
抗B7330N抗体が細胞成長に及ぼす効果を、血球計算盤を用いて細胞を計数することによってモニタリングした。乳癌細胞株T47DおよびHBL-100を12ウェルマイクロプレート(5×104個/ウェル)に播種し、10.2μg/mlアフィニティ精製抗B7330N pAbまたは陰性対照としてのPBS(-)を添加した1%FBS含有マッコイ5A培地において、5日間培養した。細胞数は、上述の通りに決定した。
【0240】
結果
乳癌細胞内でアップレギュレートされた遺伝子としての、UDP-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ6と呼ばれるB7330Nの同定
本発明者らは、77例の閉経前乳癌患者からの癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、27,648種のヒト遺伝子を提示したcDNAマイクロアレイを用いて解析したところ、乳癌細胞において共通してアップレギュレートされている493遺伝子を同定した。本発明者らは、中でも、UDP-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ6(GALNT6)と呼ばれるB7330Nに注目したが、これは、第12q13染色体に存在して、エキソン11個からなる4381または4556塩基長のmRNA転写物を有する。B7330Nの発現は、発現データを得ることができた乳癌症例77例中27例(35%)において増大した。この遺伝子の乳癌における発現パターンを確かめるために、本発明者らは、乳癌細胞株および(正常乳房細胞を含む)正常ヒト組織を用いた半定量的RT-PCR分析を行った。その結果、正常乳管細胞および他の正常組織と比較して、B7330Nは臨床乳癌標本(低分化型病変)12例中7例において発現の増大を示すこと(図1a)、ならびに乳癌細胞株20例中7例において過剰発現されること(図1b)が、本発明者らによって見出された。この遺伝子の発現パターンをさらに調べるために、本発明者らは、B7330NのcDNA断片をプローブとして用いて、多数のヒト組織および乳癌細胞株によるノーザンブロット分析を行った。その結果、本発明者らは、約5 kbの転写物が正常ヒト胎盤、膵臓、胃、および気管に限って発現されることを認めた(図1c)。乳癌ノーザンブロットを用いてこれらの転写物の発現パターンをさらに調べたところ、本発明者らは、この転写物が、乳腺及び骨髄を含む正常ヒト組織と比較して、乳癌細胞株において特異的に過剰発現されることを見出した(図1d)。
【0241】
GALNT6遺伝子は、インビトロでフィブロネクチンペプチドをグリコシル化することができる622アミノ酸のタンパク質をコードし、線維芽細胞株において発現されるが、このことは、これが腫瘍胎児性フィブロネクチンの合成に関係しうることを示している。SMARTおよびPFAMコンピューター予測によって、GALNT6が、シグナルペプチドであるGlycos_transf_2モチーフを180〜370残基に、および、RICINモチーフを496〜622残基に含むことが示されている。
【0242】
外来B7330Nの発現
B7330Nの特徴をさらに詳細に調べるために、本発明者らは、哺乳動物細胞におけるこれらの遺伝子産物の細胞内局在を調べた。まず、本発明者らがB7330Nタンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-B7330N-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトしたところ、抗HAタグ抗体を用いた免疫細胞化学分析により、外来B7330Nタンパク質がトランスフェクション後72時間の間に全てのトランスフェクトCOS7細胞内で分泌小胞における顆粒状パターンとして出現したことが判明している(図2a)。次に、B7330Nの細胞外分泌を試験するために、本発明者らは、B7330Nを発現するように設計されたプラスミドを一過性にトランスフェクトした(材料および方法の項を参照されたい)COS7細胞の細胞溶解物および培養培地を用いてウェスタンブロット分析を行ったところ、C末端HA-タグ抗体により培養培地へのタンパク質の分泌が検出された(図2b)。
【0243】
ウェスタンブロット分析によって推定されたB7330N産物の分子量は、cDNA配列から計算された予想される大きさを上回ることが見いだされた(図2b)。B7330Nの一次アミノ酸配列は、予想される二つのN-連結グリコシル化コンセンサス配列を含むことから、これら二つのより大きなB7330N産物がグリコシル化であるか否かを確認するために、本発明者らはまずタンパク質をN-グリコシダーゼで処置した。その結果、最も大きいB7330Nタンパク質は細胞溶解物から消失しており、このことは、このタンパク質が哺乳動物細胞においてグリコシル化されたことを示す(図3a)。次に、N-連結グリコシル化部位を決定するために、本発明者らは、B7330Nタンパク質の予想されるN-グリコシル化部位の変異体構築物を確立した(材料および方法の項を参照されたい)。その後、本発明者らは、これらのプラスミド、野生型、N476A、またはN611AをそれぞれCOS-7細胞にトランスフェクトし、抗HA-タグ抗体を用いてイムノブロットを行った。興味深いことに、本発明者らは、N476Aトランスフェクト細胞の最大のバンドが消失したが野生型およびN611Aは細胞溶解物において変化しなかったことを認めたが、これは、Asn-476が推定のグリコシル化部位であることを示している(図3b)。さらに、グリコシル化がB7330N分泌にとって必要であるか否かを決定するために、本発明者らは、COS7細胞における外来N476Aおよび野生型B7330Nタンパク質が培養培地に分泌されるか否かを試験した。興味深いことに、外来野生型B7330Nは培養培地中に分泌されたが、一方でN476Aタンパク質は培養培地中で検出されず、このことは、B7330Nタンパク質のAsn-476でのグリコシル化が分泌に必要であることを示唆している(図3c)。
【0244】
乳癌細胞における内在性B7330Nの発現
本発明者らは、B7330Nに対するポリクローナル抗体を開発して、ウエスタンブロット分析によって、乳癌細胞株SKBR3、T47D、および実験の対照としてのHMEC(ヒト哺乳動物上皮細胞)由来の細胞溶解物におけるB7330Nタンパク質の内在性発現を調べた(図7a)。双方の乳癌細胞株は高レベルのB7330N発現を示したが、正常な乳腺上皮細胞株HMEC細胞は発現を示さなかった。次に、抗B7330Nポリクローナル抗体を用いて乳癌細胞株T47Dの免疫細胞化学分析を行ったところ、内在性B7330Nタンパク質の局在が、外来性発現されたB7330Nタンパク質と同様に、乳癌細胞株内の分泌小胞における顆粒状パターンとして出現することが示された(図7b)。乳癌および正常組織切片におけるB7330N発現をさらに調べるために、本発明者らは、抗B7330N抗体による免疫組織化学染色も同様に行った。本発明者らは、乳癌の二つの異なる組織学的サブタイプである乳頭-乳管癌(571T)および管内癌(164T)の細胞質において強い染色を同定したが、その発現は、正常乳房組織(425N)ではほとんど検出されなかった(図7c)。さらに、ノーザンブロット分析の結果と一致して、心臓、肺、肝臓、腎臓、および膵臓のいずれにおいても発現は認められなかった(図7d)。
【0245】
B7330Nの発現を低下させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の成長阻害効果
B7330Nの成長促進的役割を評価するために、本発明者らは、B7330Nの過剰発現を示した乳癌細胞株T47DおよびBT-20(図4)において、哺乳動物ベクターに基づくRNA干渉(RNAi)技術(材料および方法の項を参照されたい)によって内在性B7330Nの発現をノックダウンした。本発明者らは、B7330Nの発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。図4aにおいて示されるように、試験した遺伝子の二つのsiRNA構築物のうち、B7330N特異的siRNA(si1およびsi2)は、対照siRNA構築物(psiU6BX-Mock)と比べて発現を抑制した。B7330N特異的siRNAによる細胞成長阻害を確認するために、本発明者らはMTTアッセイ法およびコロニー形成アッセイ法をそれぞれ行った(図4b、c)。その結果、B7330N siRNA構築物の導入によりこれらの乳癌細胞の成長が抑制されたが、このことは、本遺伝子の発現が低下した上記の結果に一致した。それぞれの結果は、独立した三回の実験によって確認した。したがって、本発明者らの所見は、B7330Nが乳癌の細胞成長において重要な機能を有することを示唆している。
【0246】
B7330Nの成長促進効果をさらに確認するために、本発明者らは、外来B7330Nを安定に発現するNIH3T3誘導細胞(NIH3T3-WT-B7330N-1、-2およびNIH3T3-N476A-B7330N-1、-2細胞)を確立した。ウエスタンブロット分析によって、二つの誘導体クローンにおける、高レベルの外来WT-およびN476A-B7330Nタンパク質がそれぞれ示された(図8a)。その後のMTTアッセイ法により、三つの誘導体細胞株、NIH3T3-B7330N-1および-2が、偽プラスミドをトランスフェクトした細胞(NIH3T3-Mock-1、-2、および-3細胞)よりもずっと速く成長することが示されたが、一方で、N476A-B7330Nタンパク質細胞はWT-B7330N-1、-2と比較して適度に成長し(図8b)、このことは、B7330N発現が発現依存性によって細胞成長を増強する可能性があることを示した。
【0247】
さらに、本発明者らは、WT-B7330N細胞においてN-グリコシル化型を認めたが、N476A-B7330N細胞ではこれを認めなかった(図8a)。これらの結果によって、上述のN-グリコシダーゼアッセイ法の処置の後に比較的大きなバンドが消失したことが確認された(データは示さず)。
【0248】
B7330N成長増強の自己免疫性
本発明者らは、B7330N過剰発現COS7細胞を成長させるために用いられた培地に由来するB7330Nタンパク質を含む培養培地を調製して(図5a)、この培地において親COS7細胞を培養した。天然のB7330Nを用いるこの実験によって、COS7細胞の成長の増強が判明した(図5)この結果は、分泌分子であるB7330Nが、乳癌細胞の増殖に不可欠な自己分泌成長因子として機能するという本発明者らの結論を強く支持する。さらに、乳癌細胞株T47D細胞を支持する培養培地に抗B7330N pAbを加えると、この細胞株の成長は、PBS(-)処置と比較して有意に抑制されたが(図5b;左のパネル)、B7330Nを発現しないHBL-100細胞は、このpAbのこの処置による影響を受けなかった(図5b;右のパネル)。
【0249】
B7330Nの二量体化
グリコシルトランスフェラーゼの一部は細胞内で二量体を形成することが報告されているので(El-Battari A, et al., Glycobiology. 2003;13(12):941-53)、本発明者らは、免疫沈殿によってB7330Nも同様にオリゴマー化できるか否かを試験した。
【0250】
外来pCAGGS-B7330N-HAタンパク質が抗HA抗体によって免疫沈殿された際、抗HA抗体を用いるウエスタンブロット分析から、予想される分子量の2倍に対応するバンドの形で外来B7330Nタンパク質が示された。
【0251】
その仮説を調べるために、本発明者らは、2種類のタグ付けB7330N構築物を設計してホモオリゴマー化を試験した。pCAGGS-B7330N-HAおよびpcDNA3.1-B7330N-mycを、COS-7細胞に同時トランスフェクトして、抗HA抗体または抗myc抗体をそれぞれ用いて同時免疫沈殿させた。図6に示すように、pcDNA3.1-B7330N-mycを低下させるために抗myc抗体を用いると、pCAGGS-B7330N-HAの同時免疫沈殿が引き起こされ、pCAGGS-B7330N-HAを低下させるために抗HA抗体を用いると、pcDNA3.1-B7330N-mycの同時免疫沈殿が引き起こされた。これらの知見によって、B7330Nが生体細胞においてしかホモオリゴマー複合体を構築できないことが示された。
【0252】
本発明において、ゲノム全体にわたるcDNAマイクロアレイを用いた乳癌の正確な発現プロファイルにより、本発明者らは、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞において有意に過剰発現される新規遺伝子であるB7330Nを単離した。
【0253】
UDP-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ6(GALNT6)と呼ばれるB7330Nは、乳癌において発現が有意に増大されるので、研究のために選択される。本発明者らは、約5kbの転写物が癌特異的な発現を示すことを同定した。本発明者らは、乳癌細胞をsiRNAで処理するとB7330Nの発現が効果的に阻害されること、および、乳癌の細胞/腫瘍成長が有意に抑制されることを実証した。これらの所見は、B7330Nが腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たすとともに、抗癌剤開発のための有望な標的となる可能性を示唆するものである。
【0254】
考察
本報告において、ゲノム全体にわたるcDNAマイクロアレイを用いた乳癌の正確な発現プロファイルにより、本発明者らは、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞において有意に過剰発現される新規遺伝子B7330Nを単離した。さらに本発明者らは、乳癌細胞をsiRNAで処理すると標的遺伝子B7330Nの発現が効果的に阻害され、乳癌の細胞/腫瘍成長が有意に抑制されることを実証した。これらの所見は、B7330Nが腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たすとともに、抗癌剤開発のための有望な標的となる可能性を示唆するものである。
【0255】
UDP-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ6(GALNT6)と呼ばれるB7330Nは、乳癌において発現が有意に増大されるので、研究のために選択される。本発明者らは、約5kbの転写物が癌特異的な発現を示すことを同定した。本発明者らは、乳癌細胞をsiRNAで処理するとB7330Nの発現が効果的に阻害されること、および、乳癌の細胞/腫瘍成長が有意に抑制されることを実証した。これらの所見は、B7330Nが腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たすとともに、抗癌剤開発のための有望な標的となる可能性を示唆するものである。
【0256】
産業上の利用可能性
ヒト遺伝子B7330Nの発現は、非癌性の乳管上皮と比較して乳癌において顕著に増大している。したがって、この遺伝子は乳癌の診断マーカーとして有用であり、それにコードされるタンパク質は乳癌の診断アッセイ法において有用である。
【0257】
また本発明者らは、新規タンパク質B7330Nの発現が細胞成長を促進する一方、B7330N遺伝子に対応する低分子干渉RNAによって細胞成長が抑制されることも示した。これらの知見によって、B7330Nタンパク質が発癌活性を刺激することが示された。このため、これらの新規腫瘍性タンパク質はそれぞれ抗癌剤の開発のための有用な標的である。例えば、B7330Nの発現を阻止するかまたはその活性を妨げる薬剤には、抗癌剤特に乳癌治療用の抗癌剤としての治療的有用性が見出される。このような作用物質の例には、B7330N遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、およびリボザイム、ならびに、B7330Nを認識する抗体が含まれる。
【0258】
本発明を、その具体的な態様を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、それに対してさまざまな変更および修正を行いうることは、当業者には明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0259】
【図1】半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析の結果を示す。(a)乳癌患者由来の腫瘍細胞および正常ヒト組織、(b)乳癌細胞株(HBC4、HBC5、HBL-100、HCC1937、MCF-7、MDA-MB-231、SKBR3、T47D、YMB1(上図)、BT-20、BT-474、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA-MB-157、MDA-MB-435s、MDA-MB-453、OCUCB-F、およびZR-75-1(下図))ならびに乳腺における、B7330Nの発現を示す。様々なヒト組織(c)ならびに乳癌細胞株および正常ヒト生体臓器(d)における、B7330N転写物のノーザンブロット分析を示す。
【図2】図2(a)は、外来B7330Nタンパク質の細胞下局在を示す。図2(b)は、ウエスタンブロット分析によってB7330Nタンパク質の外来発現を示す。
【図3】図3(a)は、B7330Nタンパク質に対するN-グリコシダーゼ処置を示す。図3(b)は、細胞溶解物における野生型B7330N、N476A変異体、およびN611A変異体を用いたウエスタンブロット分析を示す。図3(c)は、N-グリコシル化がB7330Nタンパク質の分泌に与える効果を示す。
【図4】T47D細胞及びBT-20細胞におけるB7330Nの発現を減少させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の成長阻害効果を示す。図4(a)は、乳癌細胞株T47D及びBT-20におけるB7330Nの内在性発現の抑制を示す半定量的RT-PCRを示す。GAPDHを内部対照として用いた。図4(b)は、T47D細胞及びBT-20細胞におけるB7330Nのノックダウンによるコロニー数の減少を示すMTTアッセイ法を示す。図4(c)は、T47D細胞及びBT-20細胞におけるB7330Nのノックダウンによるコロニー数の減少を示すコロニー形成アッセイ法を示す。
【図5】B7330Nの自己分泌作用の検出を示す。a:B7330Nを含む培地におけるCOS7培養物が、B7330Nを含まない培地におけるCOS7細胞と比較して、細胞成長の増大を示した。b:抗B7330N pAbに対する曝露後の乳癌細胞成長の減衰。細胞を、濃度10.2μg/mLの免疫前ウサギIgGまたは抗HIG2 pAbに、5日間曝露した。ヒストグラムは、3回の実験からの平均値±SDを示す。
【図6】B7330Nタンパク質のホモ二量体化を示す。Mock、及びpCAGGS-B7330N-HA、及びpcDNA3.1-B7330N-mycでトランスフェクトしたCOS-7細胞の免疫沈降分析。
【図7】乳癌細胞株および組織切片におけるB7330Nの発現。a:アフィニティ精製抗B7330N抗体を用いたウエスタンブロット分析によって試験した、HMEC細胞株と比較した乳癌細胞株における内在性B7330Nタンパク質の発現。b:2種類の乳癌細胞系であるSKBR3およびT47Dを、抗B7330N抗体(赤色)及びDAPI(青色)を用いて免疫細胞化学的に染色し、核を識別した(材料及び方法の項を参照されたい)。c:乳癌(571Tおよび164T)および正常乳房(425N)組織切片を免疫組織化学的に染色した結果。内在性B7330Nタンパク質を、抗B7330N pAbの使用によって染色した。正常乳房組織(425N)からの発現はほとんど検出されなかったが、管内組織(164T)および乳頭管状組織(571T)を含む、試験した全ての癌組織の細胞質において癌細胞は強く染色された。代表的な図は、顕微鏡による観察に由来するものであり、当初の倍率で、上段が×100、下段が×200である。d:正常な生体臓器の免疫組織化学的染色の結果である。内在B7330Nタンパク質を、抗B7330N pAbの使用によって染色した。心臓、肺、肝臓、腎臓、及び膵臓のいずれにおいても発現は認められなかった。
【図8】NIH3T3細胞における外来B7330Nの成長促進効果。a:外来B7330Nを高レベルで発現する細胞または偽ベクターをトランスフェクトした細胞のウエスタンブロット分析。B7330N発現の外来導入は、抗HAタグ付きモノクローナル抗体を用いて確認した。β-アクチンを、ロード対照として用いた。b:NIH3T3-B7330N細胞のインビトロ成長。MTTアッセイ法で測定された、WT-B7330N(WT-B7330N-#1および-#2)および偽(NIH3T3-Mock-#1および-#2)でトランスフェクトしたNIH3T3細胞。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、乳癌を診断するための方法:
(a) 生物試料における、配列番号:25のアミノ酸配列をコードする遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b) 発現レベルの上昇を該疾患と関連づける段階。
【請求項2】
発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれか1つによって検出される、請求項1記載の方法:
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列をコードするmRNAの検出;
(b) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むタンパク質の検出;および
(c) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物活性の検出。
【請求項3】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) (1) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2) 配列番号:25のアミノ酸配列または配列番号:25に対して少なくとも約80%の相同性を有する配列を含む、ポリペプチド;および
(3) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;ならびに
(c) ポリペプチドと結合する化合物を選択する段階。
【請求項4】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) (1) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2) 配列番号:25のアミノ酸配列または配列番号:25に対して少なくとも約80%の相同性を有する配列を含む、ポリペプチド;および
(3) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(b) 段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;ならびに
(c) 被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して、ポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階。
【請求項5】
生物活性が細胞増殖活性である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) (1) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2) 配列番号:25のアミノ酸配列または配列番号:25に対して少なくとも約80%の相同性を有する配列を含む、ポリペプチド;
(3) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド;および
(4) (1)〜(3)のポリペプチドのいずれか1つのグリコシル化部位を含む、配列番号:25の部分アミノ酸配列を含むポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(b) ポリペプチドのグリコシル化レベルを検出する段階;ならびに
(c) 被験化合物の非存在下で検出されるグリコシル化レベルと比較して、ポリペプチドのグリコシル化レベルを抑制する化合物を選択する段階。
【請求項7】
グリコシル化レベルが、配列番号:25のアミノ酸配列のアスパラギン476またはその相同部位のグリコシル化レベルである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) (1) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2) 配列番号:25のアミノ酸配列または配列番号:25に対して少なくとも約80%の相同性を有する配列を含む、ポリペプチド;
(3) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド;および
(4) (1)〜(3)のポリペプチドのいずれか1つのグリコシル化部位を含む、配列番号:25の部分アミノ酸配列を含むポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドを発現する細胞を被験化合物に接触させる段階;ならびに
(b) 被験化合物の非存在下で検出されるグリコシル化レベルと比較して、ポリペプチドのグリコシル化レベルを抑制する化合物を選択する段階。
【請求項9】
グリコシル化レベルが、配列番号:25のアミノ酸配列のアスパラギン476またはその相同部位のグリコシル化レベルである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを発現する細胞を被験化合物に接触させる段階;および
(b) 被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、配列番号:24または26のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの発現レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【請求項11】
細胞が乳癌細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) マーカー遺伝子の転写調節領域および転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞を、被験化合物に接触させる段階であって、マーカー遺伝子が配列番号:24または26のヌクレオチド配列を含む、段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;ならびに
(c) 該被験化合物の非存在下で検出される該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる化合物を選択する段階。
【請求項13】
ポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、乳癌を治療または予防するための組成物であって、該ポリヌクレオチドが、有効成分としての
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;ならびに
(c) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有し、かつ薬学的に許容される担体を有する、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、組成物 。
【請求項14】
上記低分子干渉RNAが、標的配列として配列番号:18または22のヌクレオチド配列を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
上記siRNAが一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有し、式中、[A]は配列番号:18または22のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
トランスフェクション促進剤を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項17】
有効成分としての
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;ならびに
(c) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量、ならびに薬学的に許容される担体を含む、乳癌を治療または予防するための組成物。
【請求項18】
有効成分としての、請求項3〜12のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量と、薬学的に許容される担体とを含む、乳癌を治療または予防するための組成物。
【請求項19】
有効成分としての、配列番号:25のアミノ酸配列のアスパラギン476のグリコシル化を阻害する作用物質の薬学的有効量と、薬学的に許容される担体とを含む、乳癌を治療または予防するための組成物。
【請求項20】
(1) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;ならびに
(3) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を投与する段階を含む、乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項21】
上記siRNAが、標的配列として配列番号:18または22のヌクレオチド配列を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
上記siRNAが一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有し、式中、[A]は配列番号:18または22のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
上記組成物がトランスフェクション促進剤を含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;ならびに
(c) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する段階を含む、乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項25】
請求項3〜12のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む、乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項26】
配列番号:25のアミノ酸配列のアスパラギン476のグリコシル化を阻害する作用物質の薬学的有効量を投与する段階を含む、乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項27】
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその断片;
(b) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有し、かつ、配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;ならびに
(c) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチドまたはその断片
からなる群より選択されるポリペプチド、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を投与する段階を含む、乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項28】
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその断片;
(b) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;
(c) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチドまたはその断片
からなる群より選択されるポリペプチドを抗原提示細胞と接触させる段階、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、もしくは該ポリヌクレオチドを含むベクターを抗原提示細胞に導入する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項29】
対象に対して抗原提示細胞を投与する段階をさらに含む、請求項28記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項30】
有効成分としての
(a) 配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその断片;
(b) 1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:25のアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号:25のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物活性を有する、ポリペプチド;
(c) 配列番号:24または26のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであって、有効成分としての配列番号:25のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物活性を有する、ポリペプチドまたはその断片
の群より選択されるポリペプチド、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量、ならびに薬学的に許容される担体を含む、乳癌を治療または予防するための薬学的組成物。
【請求項31】
ポリヌクレオチドが発現ベクターに組み入れられている、請求項30記載の薬学的組成物。
【請求項32】
配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または配列番号:25のアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する抗体を含む、診断薬。
【請求項33】
センス鎖が配列番号:18または22に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖が該センス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖および該アンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして該二本鎖分子を形成し、かつ、該二本鎖分子がB7330N遺伝子を発現する細胞に導入されると該遺伝子の発現を阻害する、センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖分子。
【請求項34】
上記センス鎖が、配列番号:24に由来する約19個から約25個の連続したヌクレオチドを含む、請求項33記載の二本鎖分子。
【請求項35】
上記センス鎖が配列番号:18または22に対応するリボヌクレオチド配列からなる、請求項33記載の二本鎖分子。
【請求項36】
単一のリボヌクレオチド転写物がセンス鎖およびアンチセンス鎖を含み、二本鎖分子が、該センス鎖および該アンチセンス鎖に結合する一本鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項33記載の二本鎖分子。
【請求項37】
請求項33記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項38】
二次構造を有する転写物をコードするベクターであって、該転写物がセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、請求項37記載のベクター。
【請求項39】
転写物が、上記センス鎖および上記アンチセンス鎖に結合する一本鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項37記載のベクター。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−502111(P2009−502111A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501501(P2008−501501)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/JP2006/315341
【国際公開番号】WO2007/013670
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】