乳癌の検出方法
【課題】従来乳癌組織を用いて検討された検査法に代わり、より簡便で精度の高い乳癌の診断又は予後予測を可能とする腫瘍マーカーを提供する。
【解決手段】被検試料中のカテプシンEの量を測定し、当該測定結果と乳癌の可能性又は乳癌の予後とを関連付ける乳癌の検出方法。被検試料中のカテプシンEの量が例えば35U/g以下のときは、乳癌の可能性がある、又は乳癌の再発があると判定することができる。また、使用される被検試料は血清であることが好ましい。
【解決手段】被検試料中のカテプシンEの量を測定し、当該測定結果と乳癌の可能性又は乳癌の予後とを関連付ける乳癌の検出方法。被検試料中のカテプシンEの量が例えば35U/g以下のときは、乳癌の可能性がある、又は乳癌の再発があると判定することができる。また、使用される被検試料は血清であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌の診断又は予後予測を可能とする腫瘍マーカーに関する。また本発明は、カテプシンEタンパク質、カテプシンEの変異タンパク質、前記カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片、並びにカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌を予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「カテプシンE」(Cathepsin E: 本明細書において「CatE」と表示する場合もある)は、ヒトでは1q31-q32に存在する遺伝子にコードされる、396アミノ酸残基からなるタンパク質であり(非特許文献1:Azuma et al., J. Biol. Chem., Vol.267, No. 3, pp. 1609-1614 (1992))、ペプシン・スーパーファミリーに属するエンドリソソーム系アスパラギン酸プロテイナーゼである(非特許文献2:Sastradipura et al., J. Neurochem., Vol. 70, No.5, pp. 2045-2056, (1998);非特許文献3:Nishioku et al., J. Biol. Chem., Vol.277, No. 7, pp.4816-4822 (2002))。カテプシンEは、主に免疫系細胞に多く発現しており、具体的には、胃粘膜細胞などの消化管上皮細胞、リンパ球、抗原定細胞(マクロファージ、樹状細胞、ミクログリアなど)、泌尿器系細胞、破骨細胞及び血球系細胞等で発現している。マクロファージやマイクログリア等の抗原提示細胞では、その多くがエンドソーム区画内に存在する。
【0003】
カテプシンEを欠損させたマウスは、細菌感染に対して高感受性を示し、通常飼育環境下ではアトピー性皮膚炎症状を呈することなどが報告されている (非特許文献4:Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 134, No. 6, pp.893-902 (2003);非特許文献5:Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 140, No. 1, pp.57-66 (2006))。カテプシンE欠損マウス由来のマクロファージは、LAMP-1、LAMP-2等の主要なリソソーム膜糖タンパク質の異常な蓄積を特徴とするリソソーム蓄積症状を呈し、リソソーム性pHの著明な上昇を伴って細胞機能に著しい障害をきたすことも報告されている(非特許文献6:Yanagawa et al., J. Biol. Chem., Vol.282, No. 3, pp.1851-1862 (2007))。更に、カテプシンEは、ヒト前立腺癌細胞の増殖停止とアポトーシスを誘導することも報告されている(非特許文献7:Kawakubo et al., Cancer Res., Vol.67, No. 22, pp.10869-10878 (2007))。
【0004】
このように、カテプシンEについては複数の報告がなされているが、カテプシンE自体の機能については、未だに不明な点が多い。特にカテプシンEの乳癌に関連する機能ついては、現在何らの報告もなされていない。
現在、乳癌の予後予測は、腫瘍径、リンパ節転移個数、乳癌の異型度(組織学的異型度、核異型度)、乳癌組織でのエストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、HER2発現状況等を指標として行っている。最近は、乳癌組織の遺伝子発現プロファイルを用いた予後予測評価システムが開発されており、過去20年以上もの間、世界中で乳癌の予後因子(再発の可能性を予測する因子)を同定する研究が行われてきた。しかしながら、これらの評価システムは、いずれも乳癌組織を用いて検討されたものばかりであり、患者への侵襲や苦痛を伴うものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Azuma et al., J. Biol. Chem., Vol.267, No. 3, pp. 1609-1614 (1992)
【非特許文献2】Sastradipura et al., J. Neurochem., Vol. 70, No.5, pp. 2045-2056, (1998)
【非特許文献3】Nishioku et al., J. Biol. Chem., Vol.277, No. 7, pp.4816-4822 (2002)
【非特許文献4】Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 134, No. 6, pp.893-902 (2003)
【非特許文献5】Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 140, No. 1, pp.57-66 (2006)
【非特許文献6】Yanagawa et al., J. Biol. Chem., Vol.282, No. 3, pp.1851-1862 (2007)
【非特許文献7】Kawakubo et al., Cancer Res., Vol.67, No. 22, pp.10869-10878 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、乳癌組織を用いることなく血清中のマーカーで乳癌である可能性の予測、および乳癌の予後予測を可能とする検査する方法は報告されていない。そこで本発明は、従来乳癌組織を用いて検討された検査法に代わり、より簡便で精度の高い乳癌の診断又は予後予測を可能とする腫瘍マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、血清中のカテプシンEが乳癌の診断又は予後診断に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)被検試料中のカテプシンEの量を測定し、当該測定結果と乳癌の可能性又は乳癌の予後とを関連付けることを特徴とする、乳癌の検出方法。
本発明において、被検試料中のカテプシンEの量が例えば35U/g以下のときは、乳癌の可能性がある、又は乳癌の再発があると判定することができる。また、本発明において使用される被検試料は血清であることが好ましい。
本発明において、カテプシンEの測定法としては、例えばカテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、又はカテプシンEに対するアプタマーを用いた測定が挙げられる。
(2)カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体及びカテプシンEに対するアプタマーからなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の検出用キット。
(3)カテプシンEタンパク質、カテプシンEの変異タンパク質、前記カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片、並びにカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の予防用医薬組成物。
(4) カテプシンEをコードする遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物からなる、乳癌モデル動物。
(5)前記モデル動物に被検物質を接触させ、該動物において乳癌を抑制する物質を選択することを特徴とする乳癌治療薬又は予防薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、乳癌の腫瘍マーカーが提供される。被検者から採取された血清中のカテプシンE(CatE)の量を測定することにより、その量を指標として、健常人においては乳癌に罹患しているかどうか、及び乳癌患者においては予後(再発のリスク)を予測することが可能となる。その結果、健常人においては乳癌に罹患しているかどうかの精密検査の必要性を、また乳癌患者に対して有効な治療方法、あるいは再発予防(微小転移の根絶)のための適切な治療法を決定することが可能となる。
【0009】
本発明によれば、使用する試料が血液サンプルであり、組織を用いずに検査することができるため患者への侵襲や苦痛がなく、また、組織を用いた検査結果と遜色のない高い測定精度の結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒト血清中に検出される合成基質KYS-1の分解活性を、抗カテプシンE抗体による免疫沈降反応により調べた結果を示す図である。血清中のKYS-1分解活性は90%以上がカテプシンEによることが示されている。
【図2】健常人及び種々の乳癌患者における血清カテプシンEの量を合成基質KYS-1で測定した結果を示す図である。健常人及び非浸潤癌患者と浸潤癌患者の間には統計学的に有意な差異が認められる。
【図3】健常人並びに非浸潤癌及び浸潤癌を有する乳癌患者における血清カテプシンEの量を合成基質KYS-1で測定した結果を示す図である。健常人並びに非浸潤癌患者及び病期I〜IIIの再発のない乳癌患者と、病期I〜IIIの再発有りの患者及び病期IVの乳癌患者との間には統計学的に有意な差異が認められる。
【図4】カテプシンEのタンパク質量(μg/μl)とKYS-1分解活性(U/ml)との相関関係を示す図である。
【図5】血清カテプシンE量と、浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係をKaplan-Meier法で求めた結果を示す図である。
【図6】血清カテプシンE量の臨界値(cut-off値)を3.3 U/mlと設定し、この臨界値と、浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係をKaplan-Meier法で求めたときの結果を示す図である。
【図7】血清カテプシンE量の臨界値(cut-off値)を3.3 U/mlと設定し、この臨界値と、リンパ節転移のない乳癌患者の生存率と血清カテプシンE量との関係をKaplan-Meier法で求めたときの結果を示す図である。
【図8】乳癌患者の乳腺組織におけるカテプシンEの発現を免疫組織化学的に示した図である。
【図9】同系(C57/BL6)の各種経産雌マウスの無菌飼育環境下(SPF)における乳腺癌自然発症率を示す図である。カテプシンEの生体内発現量と乳腺癌発症率の間に負の相関が認められる。
【図10】乳腺癌が自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスにおける肉眼的所見(パネルa〜c)と肺転移(パネルd〜e)を示す図である。
【図11】乳腺癌を自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスの病理学的解析結果を示す図である。この乳腺癌は、増殖能および浸潤能の高い悪性腫瘍であることが示されている。
【図12】マウス乳腺におけるカテプシンE発現について、mRNA量およびタンパク質量をそれぞれ定量的RT-PCR法およびウェスタンブロット法で解析した結果を示す図である。
【図13】野生型マウスにおける乳腺組織のHE染色、及び抗カテプシンE抗体を用いた免疫組織染色による解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、乳癌患者又は健常人由来の被検試料において、カテプシンEのレベルを指標として、乳癌の有無を検出し、あるいは乳癌における予後を検出する方法に関するものである。
これまで乳癌患者および健常人(400症例以上)の血清中のカテプシンE(蛋白質分解酵素の一種)の存在量を発明者らが開発した特異的基質KYS-1を使って定量した結果、以下の事項が明らかにされた。
(1)健常人女性の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高い。
(2)非浸潤性乳癌患者の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高い。
(3)再発した患者の血清カテプシンE量は再発のない患者に比べて有意に低い。また、健常人女性、非浸潤性乳癌患者、及び再発のない浸潤性乳癌患者(病期I-III)の血清カテプシンE量は遠隔転移のある乳癌患者(病期IV)に比べて有意に高い。
(4)浸潤性乳癌患者(病期I-III)において、再発のない患者の血清カテプシンE量は再発した浸潤性乳癌患者(病期I-III)に比べて有意に高い
(5)血清カテプシンE量が高い患者は血清カテプシンE量が低い患者に比べて有意に無再発健存率、全生存率(5年生存および10年生存)ともに高い。
(6)リンパ節転移(遠隔転移・浸潤度)を示す乳癌患者の血清カテプシンE量はそうでない患者に比べて有意に低い。
(7)エストロゲンレセプター陰性患者の血清カテプシンE量は陽性患者に比べて有意に低い。
(8) 乳癌患者の乳腺組織でカテプシンEの発現が検出されたのは374症例中わずか11症例のみであった。
【0012】
これらの知見に基づき、カテプシンEが乳癌の有無又は予後のマーカーとして利用し得ることが判明し、本発明においては、血清カテプシンE量を測定することにより、乳癌を検査することが可能となった。所定のカテプシンE量は、乳癌であるか否かを検出又は診断するための臨界値となるものである。なお、臨界値と乳癌との関連性については後述する。
【0013】
2.カテプシンEの量の測定
カテプシンE量の測定に用いる生体試料としては、例えば、被検者由来の血液を用いることができる。被検者から採血する方法は公知である。
被検者は、例えば、乳癌患者、あるいは乳癌に罹患していない者であり、特に限定されるものではない。
カテプシンEの量は、血清中のカテプシンEのタンパク質濃度又は活性値、あるいは血液細胞中のカテプシンEのタンパク質濃度又は活性値、あるいはmRNA量として測定される。
カテプシンEの測定に用いる生体試料としては、例えば、健常人や乳癌患者から採取された血液サンプルを用いることができ、血清を用いることが好ましい。採血する方法及び血清を調製する方法は、当業者において周知である。
カテプシンEの測定は、例えば、カテプシンEの基質、カテプシンEに結合する抗体、あるいはカテプシンEに対して特異的に親和性を有するペプチド性化合物(アプタマー)を利用することができる。以下、それぞれの測定方法について説明する。
【0014】
(1)カテプシンEの基質を用いた測定
KYS-1は、下記式:
MOCAc-Gly-Ser-Pro-Ala-Phe-Leu-Ala-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2
(MOCAcは(7-methoxycoumarin-4-yl)acetylを表わし、Dnpはdinitrophenylを表わす)
で示される構造を有し(配列番号3)、Yamamotoらによってデザイン・合成された物質である(特開2003-246798号公報、Yasuda Y. et al., Biol Chem, Vol. 386, pp. 293-305, 2005)。本基質は、類似酵素であるカテプシンDやペプシン、さらには他のタンパク質分解酵素のカテプシンB,L,Hなどでは分解されない高い特異性を有する。通常の測定では、80μlの緩衝液(50 mM 酢酸緩衝液(pH 4.0))、10 μlの200μM KYS-1、および酵素溶液10 μlを含む反応液(全量100μl)を40℃で10分間インキュベーションし、その後、2 mlの5%トリクロロ酢酸を加えて反応を止め、蛍光分光光度計(蛍光波長393 nm、励起波長328 nm)を用いて反応中に基質分解によって発生した蛍光を測定する。本基質はペプチド合成により得ることができるが、市販品(株式会社ペプチド研究所)として入手可能である。
【0015】
(2)カテプシンEに対する抗体
カテプシンEに対する抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。
まず、カテプシンEをコードする塩基配列は下記の通り公知であることから、抗原であるカテプシンEは、遺伝子工学的手法を用いて大腸菌等により発現させて得ることができる(具体的手法については、Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照)。
GeneBankTM/EMBL Data Bank:アクセッション番号 J05036 (ヒト)、M88652(モルモット)、L08418(ウサギ)、D38104(ラット)、Y10928(マウス)
本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体でもよい。例えば、カテプシンEに対するポリクローナル抗体は、抗原であるカテプシンEを感作した哺乳動物(ラット、マウス、ウサギ等のヒト以外の実験動物)から採血し、公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じ各種クロマトグラフィーを用いて、この血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに精製することもできる。
また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を採取して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から目的のモノクローナル抗体を回収することができる。
カテプシンEに対する抗体を用いた測定には、免疫測定法又はプロテインチップが採用されるが、操作が容易で高感度である点で免疫測定法を用いた方法が好ましい。
免疫測定法としては、例えば放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme-linked Immunosorbent assay (ELISA)、イムノクロマト法、ラッテクス粒子凝集法)などが挙げられる。
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S、又は32Pが挙げられ、FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、又はTexas-Redなどが挙げられる。また、免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン等が挙げられ、酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等が挙げられる。さらに、抗体又は抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0016】
(3)アプタマーを用いた測定
アプタマーとは、特異的に標的物質に結合する能力を持つ合成DNA又はRNA分子及びペプチド性分子である。アプタマーは、試験管内において化学的に短時間で合成することができる。例えば、in vitro selection法又はSELEX法として知られている進化工学的手法により得ることができる。
核酸アプタマーは、血流中ではヌクレアーゼにより速やかに分解及び除去される。このため、必要に応じて2'-フッ化ピリミジンやポリエチレングリコール(PEG)鎖などによる分子修飾を行い、核酸アプタマーの半減期を1日以上に伸ばすことが好ましい。
【0017】
ところで、「cDNAディスプレイ法」は、従来のディスプレイ技術である「ファージディスプレイ法」や「リボソームディスプレイ法」、「mRNAディスプレイ法」に比べて、ライブラリーサイズや安定性、要する作製日数、可変性等において優位性を有している。この「cDNAディスプレイ法」を基盤技術とするタンパク質高速分子進化技術を活用して得られるカテプシンEに特異的に親和性を有する阻害性ならびに非阻害性ププチドアプタマーは、血清や細胞抽出液などの生体試料中のカテプシンEを特異的に検出することができる。具体的には、1012-13/mlサイズの多様性からなるDNAライブラリーを作製し、そこからペプチドライブラリーを合成し、その中からカテプシンEに特異的に親和性を有するペプチドアプタマーを得る。さらに、カテプシンE結合特異性に基づいて新たなライブラリー(二次ライブラリー)を作製し、取得したペプチドアプタマーに対する淘汰を繰り返すことで、より特異性の高い、安全で安価な親和性ペプチドが取得される。
本発明においては、上記アプタマーを使用することができる。
【0018】
ペプチドアプタマーを用いた測定は、例えば以下の通り行うことができる。
イムノクロマト法の原理を利用し、カテプシンE特異的アプタマーをろ紙片等の基材に固定化し、それを血清や細胞抽出液等の生体試料に浸した後、トラップされたカテプシンEを発色基質溶液に浸潤することで定量する。また、金コロイド標識カテプシンE特異的アプタマー1を固定化した基材に血清や細胞抽出液等の生体試料を滴下し、親和性クロマト法によって展開した後、トラップしたカテプシンE/金コロイド標識アプタマー複合体を基材の異なる位置(展開先)に固定化された別のカテプシンE特異的アプタマー2でトラップし定量する。さらに、2種類の異なるカテプシンE特異的アプタマーをラテックスビーズに固定化し、これらを血清や細胞抽出液等の生体試料と混合し、トラップされたカテプシンEの親和性凝集反応を分光分析装置で定量する。
【0019】
3.乳癌の検出
カテプシンEの量は、乳癌の患者由来の血清で発現が低下しているため、被検者由来の血液試料(例えば血清)中のカテプシンEは、乳癌を検出するための腫瘍マーカーとして利用することができる。すなわち、本発明は、被検者由来の血液試料中のカテプシンEの量を測定することを含む、乳癌の検出方法を提供する。
【0020】
本発明は、被検者由来の血液試料中のカテプシンEの量を測定し、カテプシンEの量を指標として、測定結果と乳癌の有無又は予後とを関連付けする工程を含む。
そして、血中のカテプシンE量の臨界値(cut-off値)は、血清中濃度で、例えば14.0U/ml. 13.5U/ml、13.0U/ml、12.5U/ml、12.0U/ml、11.5U/ml、11.0U/ml、10.5U/ml、10.0U/ml、9.5U/ml、9.0U/ml、8.5U/ml、8.0U/ml、7.5U/ml、7.0U/ml、6.5U/ml、6.0U/ml、5.5U/ml、5.0U/ml、4.5U/ml、4.0U/ml、3.5U/ml、3.3U/ml、2.5U/ml、2.0U/ml、1.5U/ml又は1.0U/mlであり、好ましくは3.3U/mlである。
ここで、cut-off値を決定するためのカテプシンEの量は、例えば、次のように求めることができる。先ず、乳癌患者由来の生体試料におけるカテプシンE量を測定する。このとき、対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、10例以上、50例以上、100例以上又は500例以上である。また、2例以上の正常試料におけるカテプシンE量も測定しておくことが好ましく、対象となる正常試料の例数は、例えば2例以上、10例以上、50例以上、100例以上又は500例以上である。そして、乳癌患者由来の生体試料群と正常試料群の両方を含む全体から、カテプシンE量の至適閾値(cut-off値)を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、Kaplan-Meier解析等が挙げられる。統計解析を行うための症例は、乳癌患者間において、病期、再発の有無、転移の有無等により分類することもできる。さらに、統計処理は、健常人のカテプシンEの測定値と、乳癌患者において癌の種類(浸潤癌及び非浸潤癌)、再発の有無及び転移の有無により分類したときのカテプシンEの測定値とを適宜組み合わせて行うこともできる。
【0021】
上記条件下でカテプシンE活性を測定した場合において、1分間に1 nmolの蛍光基MOCAcが切断されて生じる蛍光強度に相当する活性量を1unit(U)と定義すると、3.3U/mlは0.45μg/ml(5.2 nmol)に相当する。
この場合、測定されたカテプシンE量が、上記cut-off値以下であるときに、乳癌が検出されたと判断できる。本発明においては、前記判定のための血清中濃度の値に上限値を設けても良く、例えば、上記各cut-off値以上であって、かつ、所定上限値以下(例えば14.0U/ml 以下、好ましくは5U/ml以下、4U/ml以下、3U/ml以下又は2U/ml以下)であるときに、乳癌を検出することができる。
乳癌患者のカテプシンEの量は、被検試料(例えば血清)中の濃度が4U/ml以下であれば健常人との統計学的差異は90%以上であり、3.5U/ml以下において健常人との統計学的差異は95%である。従って、これらの濃度以下であれば乳癌患者と健常人との間で区別することができる。
【0022】
ここで、「検出」とは、カテプシンEの量を指標として乳癌と関連づけることを意味し、 (a) 乳癌である可能性、(b) 再発のリスク、(c) 癌の転移、(d) 5年生存および10年生存の可能性などの判断に結びつけるものである。これらの項目は、単独で、あるいは複数項目を適宜組み合わせて用いることができる。
被検者由来の試料は、健康診断等の集合検診により得られる場合もあれば、乳癌と診断された患者から得られる場合もある。従って、検出の内容は、目的に応じて適宜使い分けることができる。例えば、被検者が健康診断を目的とした場合は、上記(a)項目が主な判断の対象になり、被検者が乳癌の患者の場合は、その予後を観察するために、上記 (b)、(c)、(d)項目が主な判断の対象になる。但し、これらの内容は例示であり限定されるものではない。
【0023】
さらに、本発明の別の態様において、一人の患者のサンプルから測定されたカテプシンE量を上記cut-off値と比較することで乳癌との関連性を検出するほかに、複数の患者由来の生体試料を用いてカテプシンEの量を測定する場合がある。従って、予め規定された数の患者(1次母集団)において上記カテプシンEの量を測定し、得られた測定値を基本データとして、この基本データと、2次母集団における検出の対象となる個々の患者由来の試料におけるカテプシンEの量とを比較することができる。
あるいは、それぞれの患者のデータを前記母集団の値に組み込んでカテプシンEの量を再度データ処理し、対象となる患者(母集団)の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、カテプシンEの臨界値の精度を高め、これにより検出又は診断精度を高めることができる。
【0024】
本発明においては、(i)被験者の生体試料におけるカテプシンE量と、(ii)正常試料におけるカテプシンE量との比較を行うことも可能である。
そして、前記(i)の場合のカテプシンE量が、前記(ii)の場合のカテプシンE量と比較して低い場合、例えば、正常試料におけるカテプシンE量の約90%以下、約80%以下、約70%以下、約60%以下、約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、又は約10%以下の場合に、乳癌が検出されたと判断できる。なお、ここで使用する「検出」の用語の意味は、前記と同様である。
【0025】
4.乳癌の検出用キット
本発明は、(i)カテプシンEの基質、(ii)カテプシンEに対する抗体、及び(iii)カテプシンEのアプタマーからなる群から選択される少なくとも1つを含有する乳癌の検出薬キットを提供する。本発明のキットは、乳癌の臨床診断や予後診断のための試薬として使用される。
カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体及びカテプシンEに対するアプタマーは前記の通りである。
カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、及びカテプシンEに対するアプタマーは、それぞれ単独で、あるいは任意に組み合わせてキットに含めることができる。
【0026】
本発明のキットは、上記カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、及びカテプシンEに対するアプタマーの他に、試薬又は被検試料の収容容器、及びキットが乳癌の検出に使用されることが示されたラベルを含んでいてもよい。また、上記基質、抗体又はアプタマーを使用して乳癌を検出する方法を記載した使用説明書等をさらに含めることもできる。
【0027】
5.乳癌の予防用医薬組成物
本発明においては、前記検出により乳癌が検出された被検者(特に、乳癌が疑われた被検者、再発が疑われた被検者等)に対し、カテプシンE又はその変異タンパク質及びペプチド断片又はカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質を投与することにより、上記乳癌を予防することができる。
カテプシンEの変異タンパク質及びペプチド断片又はカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質とは、カテプシンEと同様の生物学的機能を奏するタンパク質を意味する。
本発明の別の態様では、カテプシンE又はその変異タンパク質及びペプチド断片又はカテプシンEタンパク質の発現および活性の促進作用を有する物質を含む、乳癌の予防用医薬組成物(乳癌の予防剤)が提供される。
【0028】
本発明の医薬組成物の有効成分としては、(1)カテプシンEタンパク質、(2)カテプシンEの変異タンパク質、(3) カテプシンEタンパク質のペプチド断片、(4)カテプシンEの変異タンパク質のペプチド断片、並びに(5)カテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質が挙げられる。
ヒトのカテプシンEのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
「カテプシンEの変異タンパク質」とは、カテプシンEのアミノ酸配列(配列番号2)において、1又は複数(例えば、1又は数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつカテプシンEと同様の生物学的機能を奏するタンパク質を意味する。ここで、本発明において「カテプシンEと同様の生物学的機能」とは、乳癌を改善、防止又は遅延させる機能を意味する。
【0029】
カテプシンEタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1又は複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。また、これらの変異によってアミノ酸に新たな修飾(糖鎖付加など)が生じてもよい。 「カテプシンEのアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」の例としては、配列番号2に示すアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0030】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸;
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0031】
カテプシンEの変異タンパク質の例としては、配列番号2のアミノ酸配列と85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつカテプシンEと同様の生物学的機能を有するタンパク質が挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0032】
アミノ酸配列の同一性は、FASTA(Science 227(4693): 1435-1441, (1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTPと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTPを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 50、wordlength = 3とする。
【0033】
「カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片」とは、上記カテプシンEタンパク質又はカテプシンEの変異タンパク質の部分配列からなるペプチド断片であって、カテプシンEと同様の生物学的機能を奏するものを意味する。ここで、本発明において「カテプシンEと同様の生物学的機能」とは、「カテプシンEの変異タンパク質」の説明で述べた通りである。「カテプシンEタンパク質又はカテプシンEの変異タンパク質の部分配列からなるペプチド断片」とは、カテプシンEタンパク質若しくはカテプシンEの変異タンパク質の、N末端部分、C末端部分又はこれらの両部分が喪失したペプチド断片を意味するものであり、このようなペプチド断片は、ペプチダーゼ等を用いたカテプシンEタンパク質若しくはカテプシンEの変異タンパク質の断片化、又はカテプシンEタンパク質のペプチド断片若しくはカテプシンEの変異タンパク質のペプチド断片をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させること等によって得ることができる。
【0034】
「カテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質」とは、その物質を対象に投与することにより、対象の全身又は身体の一部において、投与前と比べて投与後にカテプシンEタンパク質の発現量又は濃度又は活性が上昇する物質を意味する。このような発現量を促進する物質の例としては、インターフェロンγ(Nishioku et al., J. Biol. Chem., Vol.277, No. 7, pp.4816-4822 (2002))及びリポ多糖(LPS)(Yanagawa et al., J. Oral Biosci., Vol. 48, No. 3, pp. 218-225 (2006))が挙げられ、活性を促進する物質の例としては、ATPやGTPなどの核酸関連物質(Thomas et al., FEBS Lett, Vol. 243, No. 2, 145-148 (1989))やNa5P3O10などのポリリン酸化合物(Yamamoto et al., Adv Exp Med Biol Vo. 306, 297-306 (1991))などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
カテプシンEタンパク質は、動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトに由来する組織又は細胞から抽出したものを使用してもよく、あるいはカテプシンEタンパク質をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させたものを用いてもよい。
カテプシンEタンパク質をコードする遺伝子は、好ましくは配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである。本明細書において、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。
カテプシンEタンパク質をコードする遺伝子の例としては、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAが挙げられる。
【0036】
カテプシンEの変異タンパク質は、天然に存在する変異タンパク質を使用してもよく、あるいはカテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させたものを用いてもよい。カテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子は、天然に存在する変異タンパク質を発現する細胞から抽出するか、あるいは、カテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子(配列番号1)のポリペプチドをベースとして、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431(1985)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488(1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、人為的に取得することもできる。但し、変異導入の方法は、上記に限定されるものではなく、変異は当業者に公知のいずれかの方法で導入でき、そのような方法の例としては、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"に記載される方法が挙げられる。
【0037】
アミノ酸配列と遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。
【0038】
本発明において、DNAの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0039】
塩基配列の決定は、プラスミドベクターを用いて作製された形質転換体の場合、宿主が大腸菌(エシェリヒア・コリ)であれば試験管等で培養を行い、常法に従ってプラスミドを調製する。得られたプラスミドをそのまま鋳型とするか、あるいは挿入断片を取り出してM13ファージベクター等にサブクローニングした後に、ジデオキシ法により塩基配列を決定する。ファージベクターで作製された形質転換体の場合も基本的に同様な操作により塩基配列を決定することができる。これら培養から塩基配列決定までの基本的な実験法については、例えば、T.Maniatisらの”Molecular Cloning, A Laboratory Manual”等に記載されている。
また、カテプシンE遺伝子または該遺伝子が組み込まれたベクターから、カテプシンEタンパク質を製造することも可能である。すなわち、いわゆる無細胞タンパク質合成系を採用して、カテプシンEタンパク質を産生することが可能である。
【0040】
無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管などの人工容器内でタンパク質を合成する系である。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。
【0041】
ここで、上記細胞抽出液は、真核細胞由来または原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されていないものであってもよい。
【0042】
細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。さらに本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTMSystem(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)などが挙げられる。
【0043】
カテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子の例としては、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、カテプシンEと同様の生物学的機能を奏するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0044】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
【0045】
本明細書中、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い同一性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0046】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling and Detection System(GE Healthcare)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1%(w/v)SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0047】
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLAST等の相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1の塩基配列と75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するDNAを挙げることができる。
【0048】
なお、塩基配列の同一性は、FASTA(Science 227 (4693): 1435-1441, (1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 100、wordlength = 12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。 カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片は、ペプチダーゼ等を用いてカテプシンEタンパク質又はカテプシンEの変異タンパク質を断片化することによって得られるものを用いてもよく、あるいは、カテプシンEタンパク質のペプチド断片又はカテプシンEの変異タンパク質のペプチド断片をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させたものを用いてもよい。
【0049】
カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片をコードするポリヌクレオチドは、上記カテプシンEタンパク質の遺伝子又はカテプシンEの変異タンパク質の遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に切断部位を有する制限酵素による処理、該遺伝子の開始コドンより下流(3’側)かつ終止コドンより上流(5’側)の領域内の塩基配列に相補的な配列を有するプライマーを用いたPCR増幅、または開始コドンより下流かつ終止コドンより上流の領域内に終止コドンを導入することにより得ることができる。これらの分子生物学的手法は、当業者に公知であり、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"に記載されている。
【0050】
本発明の医薬組成物の投与の対象者は、乳癌の予防を目的とする者、すなわち上記「検出」の定義に該当する被検者のうち乳癌が疑われる患者又は健常者(特にカテプシンE量が前記cut-off値以下の被検者)である。
本発明の医薬組成物の体内への投与は、例えば、非経口又は経口等の公知の用法で行うことができ、好ましくは非経口投与である。
【0051】
これら各種用法に用いる製剤(非経口剤や経口剤等)は、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0052】
本発明の医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(カテプシンE)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、アレルギーの重症度、投与経路、投与回数、投与期間等を勘案し、適宜設定することができる。
【0053】
本発明の医薬組成物を非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤等のいずれであってもよい。
各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供することができる。非経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形剤や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0054】
非経口剤の投与量(1回あたり)は限定されるものではなく、例えば適用対象(患者)の体重1kgあたり0.01mg〜10g、好ましくは0.1mg〜1000mgであることが好ましく、より好ましくは1mg〜500mgである。投与回数は、症状の改善の程度により1回から数十回、好ましくは1回から数回である。
【0055】
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にすることもできる経口剤には、前記有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形剤や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有させることができる。賦形剤及び添加剤としては、例えば結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
経口剤の投与量(1回あたり)は限定されるものではなく、例えば適用対象(患者)の体重1kgあたり0.01mg〜10g、好ましくは0.1mg〜1000mgであることが好ましく、より好ましくは1mg〜500mgである。投与回数は、症状の改善の程度により1回から数十回、好ましくは1回から数回である。
【0056】
6.カテプシンEノックアウト非ヒト哺乳動物
本発明は、カテプシンEが欠損した非ヒト哺乳動物を提供する。
本発明におけるカテプシンEをコードする遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物とは、配列番号1に示されるカテプシンEをコードする内在性遺伝子の全部又は一部が、破壊、欠失及び置換等により不活性化され、カテプシンEを発現する機能を喪失した非ヒト哺乳動物を意味する。
換言すれば、本発明の非ヒト哺乳動物は、カテプシンE遺伝子の機能が染色体上で喪失した動物であると言うこともできる。詳しくは、本発明の非ヒト哺乳動物とは、カテプシンEホモ欠損の遺伝子型〔(-/-)〕又はヘテロ欠損の遺伝子型〔(+/-)〕を有する非ヒト哺乳動物を意味し、野生型の遺伝子型〔(+/+)〕は除かれる。
【0057】
本発明に用い得る非ヒト哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ及びウマ等のヒトを除く哺乳類動物が挙げられ、中でも、マウス、ラット及びモルモット等の齧歯類(ネズミ目)動物が好ましく、より好ましくはマウスである。
【0058】
本発明の非ヒト哺乳動物は、カテプシンEが欠損したときに乳癌を自然発症する動物であり、乳癌のモデル動物となるものである。経産雌カテプシンE欠損マウスを観察すると、生後25週齢頃から乳癌を自然発症することが見出された。同様の観察下において、同系経産雌の野生型(CatE+/+)およびカテプシンE遺伝子過剰発現トランスジェニックマウス(CatETg)は、寿命まで(約2年間)乳癌を発症しなかった。
カテプシンE遺伝子をノックアウトする方法は特に限定されるものではなく、当分野において公知の手法を採用することができる。以下、ノックアウトマウスの作出を例に説明する。
【0059】
まず組換えDNA技術を用いて、カテプシンE遺伝子の一部又は全部を、例えばネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換し、さらに、ジフテリアトキシン遺伝子又は単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子等の遺伝子を導入して、ターゲッティングベクターを作製する。作製したターゲッティングベクターを直鎖化(線状化)した後、エレクトロポレーション法等によってES細胞に導入し、相同組換えを行う。得られた相同組換え体の中から、G418等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。ここで、選択されたES細胞が目的とする組換え体であるかどうか、サザンブロット法等により確認しておくことが好ましい。
【0060】
次に、上記の組換えES細胞を、マウスの桑実胚又は胚盤胞中にマイクロインジェクションし、この桑実胚又は胚盤胞を仮親のマウスに戻して、生殖系列のキメラマウスを作製する。このキメラマウスと野生型のマウスを交配させることによりヘテロ接合体マウス(カテプシンEヘテロ欠損マウス)を得ることができ、さらに、このヘテロ接合マウス同士を交配させることによりカテプシンEノックアウトマウス(カテプシンEホモ欠損マウス)を得ることができる。
【0061】
得られたノックアウトマウスにおいて、カテプシンE遺伝子の機能が染色体上で喪失しているか否かを確認する方法としては、例えば、サザンブロット法等により確認する方法、当該マウスの組織からRNAを単離してノーザンブロット法等により確認する方法、及び当該マウスにおけるカテプシンEの発現をPCR法やウエスタンブロット法等により確認する方法などが挙げられる。 このようにしてカテプシンE遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物は、乳癌を自然発症するモデル動物として使用される。
【0062】
7.スクリーニング方法
本発明は、上記カテプシンEノックアウト非ヒト哺乳動物を用いて、乳癌に対する抗癌剤をスクリーニングする方法を提供する。
上記動物が経産雌カテプシンEノックアウトマウスの場合、生後25週齢頃から乳癌が自然発症し始める。従って、本発明のカテプシンEノックアウト非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させ、乳癌を抑制するかどうかを指標として、当該被検物質を抗乳癌薬として選択することができる。
「抗乳癌薬」とは、乳癌の治療薬及び予防薬のいずれをも意味する。カテプシンEノックアウト動物が乳癌を自然発症する前に候補となる被検物質を投与した際、自然発症する日数を超えても乳癌が発症しなければ、使用された被検物質は乳癌の予防薬として選択される。また、乳癌が自然発症した後に候補となる被検物質を投与し、その後乳癌の増殖が抑制され、あるいは乳癌が縮小したときは、当該被検物質は乳癌の治療薬として選択することができる。
【0063】
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、被検非ヒト動物に候補物質を接触させる工程、及び被験非ヒト動物について乳癌の状態を比較評価する工程を含む。
【0064】
これら各工程について以下に説明する。
(i) 接触工程
被検非ヒト動物に接触させる候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物(高分子又は低分子化合物)、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液又は血液成分などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよく、また天然であっても人為的に合成されたものでもよい。さらに、これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸や有機酸など)や塩基(例えば金属酸など)等との塩が用いられる。
【0065】
候補物質の接触は、具体的には経口又は非経口投与により行うことができ、限定されるものではなく公知の投与方法及び投与条件等を採用できる。投与量についても、被検非ヒト動物の種類及び状態、並びに候補物質の種類等を考慮して、適宜設定することができる。
【0066】
(ii) 評価工程
本工程において評価の対象としては、例えば、乳癌発症の有無、乳癌縮小の有無又は度合い、乳癌細胞の増殖の有無又は度合い等が挙げられる。これらの評価は、動物の外見、組織学的解析、動物におけるカテプシンEの発現量等を指標として行うことができる。
【0067】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0068】
合成基質KYS-1の分解活性の測定(抗カテプシンE抗体による免疫沈降反応)
まず、カテプシンEを含むヒト血清(20μl)に250μlの20mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.0)を加え、それに各種抗体(Yamamotoらによって作製された抗カテプシンE抗血清、抗プロカテプシンE抗体、精製抗カテプシンE抗体)およびコントロールの正常ウサギ血清をそれぞれ20μl 添加し、37℃、10分間インキュベーションした後、4℃で一晩放置して抗原―抗体複合体を形成させた。次に、生じた複合体をセファロースビーズに固相されたプロテインGと共存させ4℃で一晩反応させた。遠心後の上清中カテプシンE活性量を前述の合成基質KYS-1で測定した。
結果を図1に示す。図1より、抗カテプシンE抗体と血清中カテプシンEが抗原抗体反応を引き起こし、その結果、免疫沈降後の上清中KYS-1活性値がコントロールの上清中KYS-1活性値に比べて有意に低値であることが示された。また、血清抗カテプシンE抗体や抗プロカテプシンE抗体では血清中カテプシンEは反応しなかった。前者の結果は、血清中のカテプシンEあるいはカテプシンE類似酵素が免疫反応後も残存し、活性に影響したためと思われる。後者の結果は、ヒト血清中カテプシンEが活性型で存在することを示している。これらの結果から、ヒト血清中に検出されるKYS-1分解活性は90%以上がカテプシンEによるものであることが分かる。なお、活性値は血清1mlあたりのユニット(U)で示されている。
【実施例2】
【0069】
健常人及び種々の乳癌患者における血清カテプシンEの量の測定
80 μlの緩衝液(50 mM 酢酸緩衝液(pH 4.0))、10μlの200 μM KYS-1、および血清1μlを含む反応液(全量100μl)を40℃で10分間インキュベーションし、その後、2 mlの5%トリクロロ酢酸を加えて反応を止め、蛍光分光光度計(蛍光波長393 nm、励起波長328 nm)を用いて反応中に基質分解によって発生した蛍光を測定した。さらに、カテプシンEのタンパク質量(μg/μl)とKYS-1分解活性(Unit/ml)との相関関係を調べるため、精製したリコンビナントヒトカテプシンEのタンパク量を測定し、そのKYS-1活性量を測定した。
結果を図2〜4に示す。活性値は血清1gあたりのユニット(U)で示されている。図2より、再発した患者の血清カテプシンE量は再発のない患者に比べて有意に低いこと、また、健常人女性、非浸潤性乳癌患者、及び再発のない浸潤性乳癌患者(病期I-III)の血清カテプシンE量は遠隔転移のある乳癌患者(病期IV)に比べて有意に高いこと、さらには浸潤性乳癌患者(病期I-III)において、再発のない患者の血清カテプシンE量は再発した浸潤性乳癌患者(病期I-III)に比べて有意に高いことが示された。
また、図3より、健常人女性の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高いこと、非浸潤性乳癌患者の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高いことが示された。なお、活性値は血清1mlあたりのユニット(U)で示されている。
【0070】
さらに、図4より、近似式はY = 5383.5 X(但しYはKYS-1活性(U/ml)、XはカテプシンEタンパク質量(mg/ml)で表されることが示された。
【実施例3】
【0071】
血清カテプシンE量と浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係
カテプシンEの測定方法は実施例2と同じであり、統計解析はKaplan-Meier法で求めた。
結果を図5に示す。図5より、血清カテプシンE量が高い患者は血清カテプシンE量が低い患者に比べて有意に無再発健存率(局所再発を含む)、全生存率(5年生存および10年生存)ともに高いことが示された。
【0072】
次に、血清カテプシンE量の臨界値(cut-off値)を3.3 U/mlと設定し、浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係をKaplan-Meier法で求めた。測定方法は実施例2と同じである。
結果を図6に示す。図6より、Cut-off値を3.3U/mlとした場合、無再発健存率(局所再発を含む)、全生存率ともに浸潤癌患者血清におけるカテプシンE活性値が有意に低値であることが示された。
【0073】
さらに、リンパ節転移のない乳癌患者の生存率と血清カテプシンE量の関係をKaplan-Meier法で求めた。測定方法は実施例2と同じである。
結果を図7に示す。図7より、リンパ節転移(遠隔転移・浸潤度)を示す乳癌患者の血清カテプシンE量はそうでない患者に比べて有意に低いことが示された。
【実施例4】
【0074】
乳癌患者由来乳腺組織の免疫組織化学的検査
乳癌患者の乳腺組織でのカテプシンEの発現が検出されたのは374症例中11例であったが、そのうちの1症例における乳癌組織におけるカテプシンEの発現を免疫組織化学的に検査した(図8)。
具体的な方法として、10%中性緩衝ホルマリン溶液に浸透させた乳癌組織をパラフィン包埋し、その後3μmに薄切した。脱パラフィン後、抗原賦活化はEDTA緩衝液にて100℃、90分間行い、内因性ペルオキシダーゼの除去を行った後、一次抗体(抗カテプシンE抗体)で30分間反応後、二次抗体で8分間反応させた。発色はDABを用い、対比染色にはヘマトキシリン溶液を用いた。
結果を図8に示す。図8より、乳癌組織中に検出されたカテプシンEの局在は細胞質であること、また、カテプシンEが検出された数少ない症例の中でも、その発現レベルは非常に低いことが示された。
【実施例5】
【0075】
各種経産雌マウスの乳腺癌自然発症率の検討
<トランスジェニックマウス及びノックアウトマウスの作製>
(1)マウス
野生型マウス(CatE+/+)、カテプシンE欠損マウス(CatE-/-)及びカテプシンE過剰発現トランスジェニックマウス(CatETg)は同じ遺伝的背景を有するC57BL/6Nマウスである。野生型マウスはセアック吉冨(福岡、日本)から購入した。
(2)カテプシンE欠損マウスの作製
カテプシンE欠損マウス(CatE-/-)は公知方法(Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 134, No. 6, pp.893-902 (2003))に従って作製した。
(3)カテプシンE過剰発現トランスジェニックマウスの作製
カテプシンE過剰発現トランスジェニックマウス(CatETg)は公知方法(Kawakubo et al., Cancer Res., Vol.67, No. 22, pp.10869-10878 (2007)) (Supplementary Fig. S2)に記載の方法に従って作製した。
(4)マウスの飼育環境
同系(C57/BL6)の各種経産雌マウスは、無菌飼育環境下(SPF)において12時間明暗リズム、温度21±2℃、湿度55%のSPFバリアシステムで飼育した。
【0076】
<結果>
結果を図9に示す。図9より、カテプシンE過剰発現マウス、野生型マウスでは、乳腺癌自然発症率は限りなくゼロに近いが、カテプシンE欠損マウスでは、経時的に発症頻度が高くなり78週齢のカテプシンE欠損経産雌マウスにおいては、90%以上が乳腺癌を発症することが示された。
【0077】
次に、乳腺癌が自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスにおける肉眼的所見と肺転移を調べた。マウス乳腺は部位によって頸部、胸部、腹部、鼠径部に分けられるが、乳腺癌発症における部位特異性はない。前述のSPF飼育下でのカテプシンE欠損経産雌マウスに生じた自然発症乳腺癌を図10に示す。これらの乳腺癌は、観察を続けるとほぼ全てのマウスにおいて肺転移が認められた。
【0078】
また、乳腺癌を自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスについて、組織学的解析を行った。
摘出した乳腺癌組織を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋後、約3μmの厚さで薄切し、染色はHE染色を施した。
結果を図11に示す。図11より、カテプシンE欠損マウスに生じた乳腺癌には浸潤像が認められ、一視野における細胞分裂像が非常に多いことから、増殖・浸潤能が非常に高い癌種であることが示された。
【実施例6】
【0079】
マウス乳腺におけるカテプシンE発現の解析
本実施例は、マウス乳腺におけるカテプシンE発現をmRNA量およびタンパク質量をそれぞれ定量的RT-PCR法およびウェスタンブロット法で解析したものである。
まず、C57BL/6野生型雌マウスから乳腺組織を含めた各臓器を摘出し、total RNAをRNeasy Mini Kit(QIAGEN. Valencia, CA)を用いて採取した。total RNAはReady-to-Go RT-PCR Beads(Amersham Biosciences Co., Piscataway, NJ)を用いて逆転写反応を行い、得られたcDNAを用いて定量的PCRを行った(DyNAmo HS SYBR Green qPCR Kit(Finnzymes, Espoo, Finland), Rotor-Gene 3000(NIPPN TechnoCluster, Inc., Tokyo, Japan))。内部標準としての遺伝子にはGAPDHを用いた。
また、タンパク質の解析のために、マウス乳腺組織をホモジナイズし、遠心後に得られた上清を用いて細胞抽出液とした。酸処理は、0.1 M sodium acetate 緩衝液(pH 3.5)で37℃、10分間インキュベーションした後、0.1 M Tris-HCl緩衝液(pH 9.0)を加え、反応液を中性に戻した。また、ウエスタンブロッティング法は還元条件下で行った。
結果を図12に示す。図12より、メッセージレベルでの発現量は胃や脾臓より少ないものの、脳や膵臓よりも多いことが示された。しかしながらこの実験では、全乳腺組織でのRNAを試料としているため、必ずしも乳腺上皮細胞におけるカテプシンEの発現レベルを示すものではないことを追記する。また、タンパク質レベルにおいてもカテプシンEは乳腺組織に発現が確認され、酸処理での分子量の変動がなかったことから、乳腺組織においてカテプシンEが成熟型として存在していることが示された。
【実施例7】
【0080】
乳腺の組織解析
本実施例では、野生型マウスにおける乳腺組織のHE染色ならびに抗カテプシンE抗体を用いた免疫組織学的解析を行った。
結果を示す図である。HE染色は実施例5と同様に行い、カテプシンEに対する免疫染色は実施例4と同様に行った。
結果を図13に示す。図13より、カテプシンEはマウス乳腺組織の中でも特に、乳腺上皮細胞に非常に多く発現していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、乳癌の腫瘍マーカーが提供される。被検者から採取された血清中のカテプシンE(CatE)の量を測定することにより、その量を指標として、乳癌に罹患しているかどうか、あるいは乳癌治療後の予後を検査することが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
配列番号3:合成ペプチド
配列番号3:(7-methoxycoumarin-4-yl)acetyl(存在位置:1)
配列番号3:dinitrophenyl(存在位置:8)
配列番号3: D体アミノ酸(存在位置:9)
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌の診断又は予後予測を可能とする腫瘍マーカーに関する。また本発明は、カテプシンEタンパク質、カテプシンEの変異タンパク質、前記カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片、並びにカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌を予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「カテプシンE」(Cathepsin E: 本明細書において「CatE」と表示する場合もある)は、ヒトでは1q31-q32に存在する遺伝子にコードされる、396アミノ酸残基からなるタンパク質であり(非特許文献1:Azuma et al., J. Biol. Chem., Vol.267, No. 3, pp. 1609-1614 (1992))、ペプシン・スーパーファミリーに属するエンドリソソーム系アスパラギン酸プロテイナーゼである(非特許文献2:Sastradipura et al., J. Neurochem., Vol. 70, No.5, pp. 2045-2056, (1998);非特許文献3:Nishioku et al., J. Biol. Chem., Vol.277, No. 7, pp.4816-4822 (2002))。カテプシンEは、主に免疫系細胞に多く発現しており、具体的には、胃粘膜細胞などの消化管上皮細胞、リンパ球、抗原定細胞(マクロファージ、樹状細胞、ミクログリアなど)、泌尿器系細胞、破骨細胞及び血球系細胞等で発現している。マクロファージやマイクログリア等の抗原提示細胞では、その多くがエンドソーム区画内に存在する。
【0003】
カテプシンEを欠損させたマウスは、細菌感染に対して高感受性を示し、通常飼育環境下ではアトピー性皮膚炎症状を呈することなどが報告されている (非特許文献4:Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 134, No. 6, pp.893-902 (2003);非特許文献5:Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 140, No. 1, pp.57-66 (2006))。カテプシンE欠損マウス由来のマクロファージは、LAMP-1、LAMP-2等の主要なリソソーム膜糖タンパク質の異常な蓄積を特徴とするリソソーム蓄積症状を呈し、リソソーム性pHの著明な上昇を伴って細胞機能に著しい障害をきたすことも報告されている(非特許文献6:Yanagawa et al., J. Biol. Chem., Vol.282, No. 3, pp.1851-1862 (2007))。更に、カテプシンEは、ヒト前立腺癌細胞の増殖停止とアポトーシスを誘導することも報告されている(非特許文献7:Kawakubo et al., Cancer Res., Vol.67, No. 22, pp.10869-10878 (2007))。
【0004】
このように、カテプシンEについては複数の報告がなされているが、カテプシンE自体の機能については、未だに不明な点が多い。特にカテプシンEの乳癌に関連する機能ついては、現在何らの報告もなされていない。
現在、乳癌の予後予測は、腫瘍径、リンパ節転移個数、乳癌の異型度(組織学的異型度、核異型度)、乳癌組織でのエストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、HER2発現状況等を指標として行っている。最近は、乳癌組織の遺伝子発現プロファイルを用いた予後予測評価システムが開発されており、過去20年以上もの間、世界中で乳癌の予後因子(再発の可能性を予測する因子)を同定する研究が行われてきた。しかしながら、これらの評価システムは、いずれも乳癌組織を用いて検討されたものばかりであり、患者への侵襲や苦痛を伴うものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Azuma et al., J. Biol. Chem., Vol.267, No. 3, pp. 1609-1614 (1992)
【非特許文献2】Sastradipura et al., J. Neurochem., Vol. 70, No.5, pp. 2045-2056, (1998)
【非特許文献3】Nishioku et al., J. Biol. Chem., Vol.277, No. 7, pp.4816-4822 (2002)
【非特許文献4】Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 134, No. 6, pp.893-902 (2003)
【非特許文献5】Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 140, No. 1, pp.57-66 (2006)
【非特許文献6】Yanagawa et al., J. Biol. Chem., Vol.282, No. 3, pp.1851-1862 (2007)
【非特許文献7】Kawakubo et al., Cancer Res., Vol.67, No. 22, pp.10869-10878 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、乳癌組織を用いることなく血清中のマーカーで乳癌である可能性の予測、および乳癌の予後予測を可能とする検査する方法は報告されていない。そこで本発明は、従来乳癌組織を用いて検討された検査法に代わり、より簡便で精度の高い乳癌の診断又は予後予測を可能とする腫瘍マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、血清中のカテプシンEが乳癌の診断又は予後診断に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)被検試料中のカテプシンEの量を測定し、当該測定結果と乳癌の可能性又は乳癌の予後とを関連付けることを特徴とする、乳癌の検出方法。
本発明において、被検試料中のカテプシンEの量が例えば35U/g以下のときは、乳癌の可能性がある、又は乳癌の再発があると判定することができる。また、本発明において使用される被検試料は血清であることが好ましい。
本発明において、カテプシンEの測定法としては、例えばカテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、又はカテプシンEに対するアプタマーを用いた測定が挙げられる。
(2)カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体及びカテプシンEに対するアプタマーからなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の検出用キット。
(3)カテプシンEタンパク質、カテプシンEの変異タンパク質、前記カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片、並びにカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の予防用医薬組成物。
(4) カテプシンEをコードする遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物からなる、乳癌モデル動物。
(5)前記モデル動物に被検物質を接触させ、該動物において乳癌を抑制する物質を選択することを特徴とする乳癌治療薬又は予防薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、乳癌の腫瘍マーカーが提供される。被検者から採取された血清中のカテプシンE(CatE)の量を測定することにより、その量を指標として、健常人においては乳癌に罹患しているかどうか、及び乳癌患者においては予後(再発のリスク)を予測することが可能となる。その結果、健常人においては乳癌に罹患しているかどうかの精密検査の必要性を、また乳癌患者に対して有効な治療方法、あるいは再発予防(微小転移の根絶)のための適切な治療法を決定することが可能となる。
【0009】
本発明によれば、使用する試料が血液サンプルであり、組織を用いずに検査することができるため患者への侵襲や苦痛がなく、また、組織を用いた検査結果と遜色のない高い測定精度の結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒト血清中に検出される合成基質KYS-1の分解活性を、抗カテプシンE抗体による免疫沈降反応により調べた結果を示す図である。血清中のKYS-1分解活性は90%以上がカテプシンEによることが示されている。
【図2】健常人及び種々の乳癌患者における血清カテプシンEの量を合成基質KYS-1で測定した結果を示す図である。健常人及び非浸潤癌患者と浸潤癌患者の間には統計学的に有意な差異が認められる。
【図3】健常人並びに非浸潤癌及び浸潤癌を有する乳癌患者における血清カテプシンEの量を合成基質KYS-1で測定した結果を示す図である。健常人並びに非浸潤癌患者及び病期I〜IIIの再発のない乳癌患者と、病期I〜IIIの再発有りの患者及び病期IVの乳癌患者との間には統計学的に有意な差異が認められる。
【図4】カテプシンEのタンパク質量(μg/μl)とKYS-1分解活性(U/ml)との相関関係を示す図である。
【図5】血清カテプシンE量と、浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係をKaplan-Meier法で求めた結果を示す図である。
【図6】血清カテプシンE量の臨界値(cut-off値)を3.3 U/mlと設定し、この臨界値と、浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係をKaplan-Meier法で求めたときの結果を示す図である。
【図7】血清カテプシンE量の臨界値(cut-off値)を3.3 U/mlと設定し、この臨界値と、リンパ節転移のない乳癌患者の生存率と血清カテプシンE量との関係をKaplan-Meier法で求めたときの結果を示す図である。
【図8】乳癌患者の乳腺組織におけるカテプシンEの発現を免疫組織化学的に示した図である。
【図9】同系(C57/BL6)の各種経産雌マウスの無菌飼育環境下(SPF)における乳腺癌自然発症率を示す図である。カテプシンEの生体内発現量と乳腺癌発症率の間に負の相関が認められる。
【図10】乳腺癌が自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスにおける肉眼的所見(パネルa〜c)と肺転移(パネルd〜e)を示す図である。
【図11】乳腺癌を自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスの病理学的解析結果を示す図である。この乳腺癌は、増殖能および浸潤能の高い悪性腫瘍であることが示されている。
【図12】マウス乳腺におけるカテプシンE発現について、mRNA量およびタンパク質量をそれぞれ定量的RT-PCR法およびウェスタンブロット法で解析した結果を示す図である。
【図13】野生型マウスにおける乳腺組織のHE染色、及び抗カテプシンE抗体を用いた免疫組織染色による解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、乳癌患者又は健常人由来の被検試料において、カテプシンEのレベルを指標として、乳癌の有無を検出し、あるいは乳癌における予後を検出する方法に関するものである。
これまで乳癌患者および健常人(400症例以上)の血清中のカテプシンE(蛋白質分解酵素の一種)の存在量を発明者らが開発した特異的基質KYS-1を使って定量した結果、以下の事項が明らかにされた。
(1)健常人女性の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高い。
(2)非浸潤性乳癌患者の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高い。
(3)再発した患者の血清カテプシンE量は再発のない患者に比べて有意に低い。また、健常人女性、非浸潤性乳癌患者、及び再発のない浸潤性乳癌患者(病期I-III)の血清カテプシンE量は遠隔転移のある乳癌患者(病期IV)に比べて有意に高い。
(4)浸潤性乳癌患者(病期I-III)において、再発のない患者の血清カテプシンE量は再発した浸潤性乳癌患者(病期I-III)に比べて有意に高い
(5)血清カテプシンE量が高い患者は血清カテプシンE量が低い患者に比べて有意に無再発健存率、全生存率(5年生存および10年生存)ともに高い。
(6)リンパ節転移(遠隔転移・浸潤度)を示す乳癌患者の血清カテプシンE量はそうでない患者に比べて有意に低い。
(7)エストロゲンレセプター陰性患者の血清カテプシンE量は陽性患者に比べて有意に低い。
(8) 乳癌患者の乳腺組織でカテプシンEの発現が検出されたのは374症例中わずか11症例のみであった。
【0012】
これらの知見に基づき、カテプシンEが乳癌の有無又は予後のマーカーとして利用し得ることが判明し、本発明においては、血清カテプシンE量を測定することにより、乳癌を検査することが可能となった。所定のカテプシンE量は、乳癌であるか否かを検出又は診断するための臨界値となるものである。なお、臨界値と乳癌との関連性については後述する。
【0013】
2.カテプシンEの量の測定
カテプシンE量の測定に用いる生体試料としては、例えば、被検者由来の血液を用いることができる。被検者から採血する方法は公知である。
被検者は、例えば、乳癌患者、あるいは乳癌に罹患していない者であり、特に限定されるものではない。
カテプシンEの量は、血清中のカテプシンEのタンパク質濃度又は活性値、あるいは血液細胞中のカテプシンEのタンパク質濃度又は活性値、あるいはmRNA量として測定される。
カテプシンEの測定に用いる生体試料としては、例えば、健常人や乳癌患者から採取された血液サンプルを用いることができ、血清を用いることが好ましい。採血する方法及び血清を調製する方法は、当業者において周知である。
カテプシンEの測定は、例えば、カテプシンEの基質、カテプシンEに結合する抗体、あるいはカテプシンEに対して特異的に親和性を有するペプチド性化合物(アプタマー)を利用することができる。以下、それぞれの測定方法について説明する。
【0014】
(1)カテプシンEの基質を用いた測定
KYS-1は、下記式:
MOCAc-Gly-Ser-Pro-Ala-Phe-Leu-Ala-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2
(MOCAcは(7-methoxycoumarin-4-yl)acetylを表わし、Dnpはdinitrophenylを表わす)
で示される構造を有し(配列番号3)、Yamamotoらによってデザイン・合成された物質である(特開2003-246798号公報、Yasuda Y. et al., Biol Chem, Vol. 386, pp. 293-305, 2005)。本基質は、類似酵素であるカテプシンDやペプシン、さらには他のタンパク質分解酵素のカテプシンB,L,Hなどでは分解されない高い特異性を有する。通常の測定では、80μlの緩衝液(50 mM 酢酸緩衝液(pH 4.0))、10 μlの200μM KYS-1、および酵素溶液10 μlを含む反応液(全量100μl)を40℃で10分間インキュベーションし、その後、2 mlの5%トリクロロ酢酸を加えて反応を止め、蛍光分光光度計(蛍光波長393 nm、励起波長328 nm)を用いて反応中に基質分解によって発生した蛍光を測定する。本基質はペプチド合成により得ることができるが、市販品(株式会社ペプチド研究所)として入手可能である。
【0015】
(2)カテプシンEに対する抗体
カテプシンEに対する抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。
まず、カテプシンEをコードする塩基配列は下記の通り公知であることから、抗原であるカテプシンEは、遺伝子工学的手法を用いて大腸菌等により発現させて得ることができる(具体的手法については、Sambrook, Fritsch and Maniatis, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual” 2nd Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照)。
GeneBankTM/EMBL Data Bank:アクセッション番号 J05036 (ヒト)、M88652(モルモット)、L08418(ウサギ)、D38104(ラット)、Y10928(マウス)
本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体でもよい。例えば、カテプシンEに対するポリクローナル抗体は、抗原であるカテプシンEを感作した哺乳動物(ラット、マウス、ウサギ等のヒト以外の実験動物)から採血し、公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じ各種クロマトグラフィーを用いて、この血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに精製することもできる。
また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を採取して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から目的のモノクローナル抗体を回収することができる。
カテプシンEに対する抗体を用いた測定には、免疫測定法又はプロテインチップが採用されるが、操作が容易で高感度である点で免疫測定法を用いた方法が好ましい。
免疫測定法としては、例えば放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme-linked Immunosorbent assay (ELISA)、イムノクロマト法、ラッテクス粒子凝集法)などが挙げられる。
RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、125I、131I、14C、3H、35S、又は32Pが挙げられ、FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、又はTexas-Redなどが挙げられる。また、免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン等が挙げられ、酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GO)等が挙げられる。さらに、抗体又は抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0016】
(3)アプタマーを用いた測定
アプタマーとは、特異的に標的物質に結合する能力を持つ合成DNA又はRNA分子及びペプチド性分子である。アプタマーは、試験管内において化学的に短時間で合成することができる。例えば、in vitro selection法又はSELEX法として知られている進化工学的手法により得ることができる。
核酸アプタマーは、血流中ではヌクレアーゼにより速やかに分解及び除去される。このため、必要に応じて2'-フッ化ピリミジンやポリエチレングリコール(PEG)鎖などによる分子修飾を行い、核酸アプタマーの半減期を1日以上に伸ばすことが好ましい。
【0017】
ところで、「cDNAディスプレイ法」は、従来のディスプレイ技術である「ファージディスプレイ法」や「リボソームディスプレイ法」、「mRNAディスプレイ法」に比べて、ライブラリーサイズや安定性、要する作製日数、可変性等において優位性を有している。この「cDNAディスプレイ法」を基盤技術とするタンパク質高速分子進化技術を活用して得られるカテプシンEに特異的に親和性を有する阻害性ならびに非阻害性ププチドアプタマーは、血清や細胞抽出液などの生体試料中のカテプシンEを特異的に検出することができる。具体的には、1012-13/mlサイズの多様性からなるDNAライブラリーを作製し、そこからペプチドライブラリーを合成し、その中からカテプシンEに特異的に親和性を有するペプチドアプタマーを得る。さらに、カテプシンE結合特異性に基づいて新たなライブラリー(二次ライブラリー)を作製し、取得したペプチドアプタマーに対する淘汰を繰り返すことで、より特異性の高い、安全で安価な親和性ペプチドが取得される。
本発明においては、上記アプタマーを使用することができる。
【0018】
ペプチドアプタマーを用いた測定は、例えば以下の通り行うことができる。
イムノクロマト法の原理を利用し、カテプシンE特異的アプタマーをろ紙片等の基材に固定化し、それを血清や細胞抽出液等の生体試料に浸した後、トラップされたカテプシンEを発色基質溶液に浸潤することで定量する。また、金コロイド標識カテプシンE特異的アプタマー1を固定化した基材に血清や細胞抽出液等の生体試料を滴下し、親和性クロマト法によって展開した後、トラップしたカテプシンE/金コロイド標識アプタマー複合体を基材の異なる位置(展開先)に固定化された別のカテプシンE特異的アプタマー2でトラップし定量する。さらに、2種類の異なるカテプシンE特異的アプタマーをラテックスビーズに固定化し、これらを血清や細胞抽出液等の生体試料と混合し、トラップされたカテプシンEの親和性凝集反応を分光分析装置で定量する。
【0019】
3.乳癌の検出
カテプシンEの量は、乳癌の患者由来の血清で発現が低下しているため、被検者由来の血液試料(例えば血清)中のカテプシンEは、乳癌を検出するための腫瘍マーカーとして利用することができる。すなわち、本発明は、被検者由来の血液試料中のカテプシンEの量を測定することを含む、乳癌の検出方法を提供する。
【0020】
本発明は、被検者由来の血液試料中のカテプシンEの量を測定し、カテプシンEの量を指標として、測定結果と乳癌の有無又は予後とを関連付けする工程を含む。
そして、血中のカテプシンE量の臨界値(cut-off値)は、血清中濃度で、例えば14.0U/ml. 13.5U/ml、13.0U/ml、12.5U/ml、12.0U/ml、11.5U/ml、11.0U/ml、10.5U/ml、10.0U/ml、9.5U/ml、9.0U/ml、8.5U/ml、8.0U/ml、7.5U/ml、7.0U/ml、6.5U/ml、6.0U/ml、5.5U/ml、5.0U/ml、4.5U/ml、4.0U/ml、3.5U/ml、3.3U/ml、2.5U/ml、2.0U/ml、1.5U/ml又は1.0U/mlであり、好ましくは3.3U/mlである。
ここで、cut-off値を決定するためのカテプシンEの量は、例えば、次のように求めることができる。先ず、乳癌患者由来の生体試料におけるカテプシンE量を測定する。このとき、対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、10例以上、50例以上、100例以上又は500例以上である。また、2例以上の正常試料におけるカテプシンE量も測定しておくことが好ましく、対象となる正常試料の例数は、例えば2例以上、10例以上、50例以上、100例以上又は500例以上である。そして、乳癌患者由来の生体試料群と正常試料群の両方を含む全体から、カテプシンE量の至適閾値(cut-off値)を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、Kaplan-Meier解析等が挙げられる。統計解析を行うための症例は、乳癌患者間において、病期、再発の有無、転移の有無等により分類することもできる。さらに、統計処理は、健常人のカテプシンEの測定値と、乳癌患者において癌の種類(浸潤癌及び非浸潤癌)、再発の有無及び転移の有無により分類したときのカテプシンEの測定値とを適宜組み合わせて行うこともできる。
【0021】
上記条件下でカテプシンE活性を測定した場合において、1分間に1 nmolの蛍光基MOCAcが切断されて生じる蛍光強度に相当する活性量を1unit(U)と定義すると、3.3U/mlは0.45μg/ml(5.2 nmol)に相当する。
この場合、測定されたカテプシンE量が、上記cut-off値以下であるときに、乳癌が検出されたと判断できる。本発明においては、前記判定のための血清中濃度の値に上限値を設けても良く、例えば、上記各cut-off値以上であって、かつ、所定上限値以下(例えば14.0U/ml 以下、好ましくは5U/ml以下、4U/ml以下、3U/ml以下又は2U/ml以下)であるときに、乳癌を検出することができる。
乳癌患者のカテプシンEの量は、被検試料(例えば血清)中の濃度が4U/ml以下であれば健常人との統計学的差異は90%以上であり、3.5U/ml以下において健常人との統計学的差異は95%である。従って、これらの濃度以下であれば乳癌患者と健常人との間で区別することができる。
【0022】
ここで、「検出」とは、カテプシンEの量を指標として乳癌と関連づけることを意味し、 (a) 乳癌である可能性、(b) 再発のリスク、(c) 癌の転移、(d) 5年生存および10年生存の可能性などの判断に結びつけるものである。これらの項目は、単独で、あるいは複数項目を適宜組み合わせて用いることができる。
被検者由来の試料は、健康診断等の集合検診により得られる場合もあれば、乳癌と診断された患者から得られる場合もある。従って、検出の内容は、目的に応じて適宜使い分けることができる。例えば、被検者が健康診断を目的とした場合は、上記(a)項目が主な判断の対象になり、被検者が乳癌の患者の場合は、その予後を観察するために、上記 (b)、(c)、(d)項目が主な判断の対象になる。但し、これらの内容は例示であり限定されるものではない。
【0023】
さらに、本発明の別の態様において、一人の患者のサンプルから測定されたカテプシンE量を上記cut-off値と比較することで乳癌との関連性を検出するほかに、複数の患者由来の生体試料を用いてカテプシンEの量を測定する場合がある。従って、予め規定された数の患者(1次母集団)において上記カテプシンEの量を測定し、得られた測定値を基本データとして、この基本データと、2次母集団における検出の対象となる個々の患者由来の試料におけるカテプシンEの量とを比較することができる。
あるいは、それぞれの患者のデータを前記母集団の値に組み込んでカテプシンEの量を再度データ処理し、対象となる患者(母集団)の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、カテプシンEの臨界値の精度を高め、これにより検出又は診断精度を高めることができる。
【0024】
本発明においては、(i)被験者の生体試料におけるカテプシンE量と、(ii)正常試料におけるカテプシンE量との比較を行うことも可能である。
そして、前記(i)の場合のカテプシンE量が、前記(ii)の場合のカテプシンE量と比較して低い場合、例えば、正常試料におけるカテプシンE量の約90%以下、約80%以下、約70%以下、約60%以下、約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、又は約10%以下の場合に、乳癌が検出されたと判断できる。なお、ここで使用する「検出」の用語の意味は、前記と同様である。
【0025】
4.乳癌の検出用キット
本発明は、(i)カテプシンEの基質、(ii)カテプシンEに対する抗体、及び(iii)カテプシンEのアプタマーからなる群から選択される少なくとも1つを含有する乳癌の検出薬キットを提供する。本発明のキットは、乳癌の臨床診断や予後診断のための試薬として使用される。
カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体及びカテプシンEに対するアプタマーは前記の通りである。
カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、及びカテプシンEに対するアプタマーは、それぞれ単独で、あるいは任意に組み合わせてキットに含めることができる。
【0026】
本発明のキットは、上記カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、及びカテプシンEに対するアプタマーの他に、試薬又は被検試料の収容容器、及びキットが乳癌の検出に使用されることが示されたラベルを含んでいてもよい。また、上記基質、抗体又はアプタマーを使用して乳癌を検出する方法を記載した使用説明書等をさらに含めることもできる。
【0027】
5.乳癌の予防用医薬組成物
本発明においては、前記検出により乳癌が検出された被検者(特に、乳癌が疑われた被検者、再発が疑われた被検者等)に対し、カテプシンE又はその変異タンパク質及びペプチド断片又はカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質を投与することにより、上記乳癌を予防することができる。
カテプシンEの変異タンパク質及びペプチド断片又はカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質とは、カテプシンEと同様の生物学的機能を奏するタンパク質を意味する。
本発明の別の態様では、カテプシンE又はその変異タンパク質及びペプチド断片又はカテプシンEタンパク質の発現および活性の促進作用を有する物質を含む、乳癌の予防用医薬組成物(乳癌の予防剤)が提供される。
【0028】
本発明の医薬組成物の有効成分としては、(1)カテプシンEタンパク質、(2)カテプシンEの変異タンパク質、(3) カテプシンEタンパク質のペプチド断片、(4)カテプシンEの変異タンパク質のペプチド断片、並びに(5)カテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質が挙げられる。
ヒトのカテプシンEのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
「カテプシンEの変異タンパク質」とは、カテプシンEのアミノ酸配列(配列番号2)において、1又は複数(例えば、1又は数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつカテプシンEと同様の生物学的機能を奏するタンパク質を意味する。ここで、本発明において「カテプシンEと同様の生物学的機能」とは、乳癌を改善、防止又は遅延させる機能を意味する。
【0029】
カテプシンEタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1又は複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。また、これらの変異によってアミノ酸に新たな修飾(糖鎖付加など)が生じてもよい。 「カテプシンEのアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」の例としては、配列番号2に示すアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0030】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸;
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0031】
カテプシンEの変異タンパク質の例としては、配列番号2のアミノ酸配列と85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつカテプシンEと同様の生物学的機能を有するタンパク質が挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0032】
アミノ酸配列の同一性は、FASTA(Science 227(4693): 1435-1441, (1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTPと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTPを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 50、wordlength = 3とする。
【0033】
「カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片」とは、上記カテプシンEタンパク質又はカテプシンEの変異タンパク質の部分配列からなるペプチド断片であって、カテプシンEと同様の生物学的機能を奏するものを意味する。ここで、本発明において「カテプシンEと同様の生物学的機能」とは、「カテプシンEの変異タンパク質」の説明で述べた通りである。「カテプシンEタンパク質又はカテプシンEの変異タンパク質の部分配列からなるペプチド断片」とは、カテプシンEタンパク質若しくはカテプシンEの変異タンパク質の、N末端部分、C末端部分又はこれらの両部分が喪失したペプチド断片を意味するものであり、このようなペプチド断片は、ペプチダーゼ等を用いたカテプシンEタンパク質若しくはカテプシンEの変異タンパク質の断片化、又はカテプシンEタンパク質のペプチド断片若しくはカテプシンEの変異タンパク質のペプチド断片をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させること等によって得ることができる。
【0034】
「カテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質」とは、その物質を対象に投与することにより、対象の全身又は身体の一部において、投与前と比べて投与後にカテプシンEタンパク質の発現量又は濃度又は活性が上昇する物質を意味する。このような発現量を促進する物質の例としては、インターフェロンγ(Nishioku et al., J. Biol. Chem., Vol.277, No. 7, pp.4816-4822 (2002))及びリポ多糖(LPS)(Yanagawa et al., J. Oral Biosci., Vol. 48, No. 3, pp. 218-225 (2006))が挙げられ、活性を促進する物質の例としては、ATPやGTPなどの核酸関連物質(Thomas et al., FEBS Lett, Vol. 243, No. 2, 145-148 (1989))やNa5P3O10などのポリリン酸化合物(Yamamoto et al., Adv Exp Med Biol Vo. 306, 297-306 (1991))などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
カテプシンEタンパク質は、動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトに由来する組織又は細胞から抽出したものを使用してもよく、あるいはカテプシンEタンパク質をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させたものを用いてもよい。
カテプシンEタンパク質をコードする遺伝子は、好ましくは配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである。本明細書において、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。
カテプシンEタンパク質をコードする遺伝子の例としては、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAが挙げられる。
【0036】
カテプシンEの変異タンパク質は、天然に存在する変異タンパク質を使用してもよく、あるいはカテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させたものを用いてもよい。カテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子は、天然に存在する変異タンパク質を発現する細胞から抽出するか、あるいは、カテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子(配列番号1)のポリペプチドをベースとして、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431(1985)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488(1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、人為的に取得することもできる。但し、変異導入の方法は、上記に限定されるものではなく、変異は当業者に公知のいずれかの方法で導入でき、そのような方法の例としては、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"に記載される方法が挙げられる。
【0037】
アミノ酸配列と遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。
【0038】
本発明において、DNAの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0039】
塩基配列の決定は、プラスミドベクターを用いて作製された形質転換体の場合、宿主が大腸菌(エシェリヒア・コリ)であれば試験管等で培養を行い、常法に従ってプラスミドを調製する。得られたプラスミドをそのまま鋳型とするか、あるいは挿入断片を取り出してM13ファージベクター等にサブクローニングした後に、ジデオキシ法により塩基配列を決定する。ファージベクターで作製された形質転換体の場合も基本的に同様な操作により塩基配列を決定することができる。これら培養から塩基配列決定までの基本的な実験法については、例えば、T.Maniatisらの”Molecular Cloning, A Laboratory Manual”等に記載されている。
また、カテプシンE遺伝子または該遺伝子が組み込まれたベクターから、カテプシンEタンパク質を製造することも可能である。すなわち、いわゆる無細胞タンパク質合成系を採用して、カテプシンEタンパク質を産生することが可能である。
【0040】
無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管などの人工容器内でタンパク質を合成する系である。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。
【0041】
ここで、上記細胞抽出液は、真核細胞由来または原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されていないものであってもよい。
【0042】
細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。さらに本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTMSystem(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)などが挙げられる。
【0043】
カテプシンEの変異タンパク質をコードする遺伝子の例としては、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、カテプシンEと同様の生物学的機能を奏するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0044】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
【0045】
本明細書中、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い同一性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0046】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling and Detection System(GE Healthcare)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1%(w/v)SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0047】
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLAST等の相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1の塩基配列と75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するDNAを挙げることができる。
【0048】
なお、塩基配列の同一性は、FASTA(Science 227 (4693): 1435-1441, (1985))や、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 100、wordlength = 12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。 カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片は、ペプチダーゼ等を用いてカテプシンEタンパク質又はカテプシンEの変異タンパク質を断片化することによって得られるものを用いてもよく、あるいは、カテプシンEタンパク質のペプチド断片又はカテプシンEの変異タンパク質のペプチド断片をコードする遺伝子を適切な宿主細胞に導入して発現させたものを用いてもよい。
【0049】
カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片をコードするポリヌクレオチドは、上記カテプシンEタンパク質の遺伝子又はカテプシンEの変異タンパク質の遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に切断部位を有する制限酵素による処理、該遺伝子の開始コドンより下流(3’側)かつ終止コドンより上流(5’側)の領域内の塩基配列に相補的な配列を有するプライマーを用いたPCR増幅、または開始コドンより下流かつ終止コドンより上流の領域内に終止コドンを導入することにより得ることができる。これらの分子生物学的手法は、当業者に公知であり、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"に記載されている。
【0050】
本発明の医薬組成物の投与の対象者は、乳癌の予防を目的とする者、すなわち上記「検出」の定義に該当する被検者のうち乳癌が疑われる患者又は健常者(特にカテプシンE量が前記cut-off値以下の被検者)である。
本発明の医薬組成物の体内への投与は、例えば、非経口又は経口等の公知の用法で行うことができ、好ましくは非経口投与である。
【0051】
これら各種用法に用いる製剤(非経口剤や経口剤等)は、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0052】
本発明の医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(カテプシンE)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、アレルギーの重症度、投与経路、投与回数、投与期間等を勘案し、適宜設定することができる。
【0053】
本発明の医薬組成物を非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤等のいずれであってもよい。
各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供することができる。非経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形剤や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0054】
非経口剤の投与量(1回あたり)は限定されるものではなく、例えば適用対象(患者)の体重1kgあたり0.01mg〜10g、好ましくは0.1mg〜1000mgであることが好ましく、より好ましくは1mg〜500mgである。投与回数は、症状の改善の程度により1回から数十回、好ましくは1回から数回である。
【0055】
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されるものではなく、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にすることもできる経口剤には、前記有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形剤や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有させることができる。賦形剤及び添加剤としては、例えば結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
経口剤の投与量(1回あたり)は限定されるものではなく、例えば適用対象(患者)の体重1kgあたり0.01mg〜10g、好ましくは0.1mg〜1000mgであることが好ましく、より好ましくは1mg〜500mgである。投与回数は、症状の改善の程度により1回から数十回、好ましくは1回から数回である。
【0056】
6.カテプシンEノックアウト非ヒト哺乳動物
本発明は、カテプシンEが欠損した非ヒト哺乳動物を提供する。
本発明におけるカテプシンEをコードする遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物とは、配列番号1に示されるカテプシンEをコードする内在性遺伝子の全部又は一部が、破壊、欠失及び置換等により不活性化され、カテプシンEを発現する機能を喪失した非ヒト哺乳動物を意味する。
換言すれば、本発明の非ヒト哺乳動物は、カテプシンE遺伝子の機能が染色体上で喪失した動物であると言うこともできる。詳しくは、本発明の非ヒト哺乳動物とは、カテプシンEホモ欠損の遺伝子型〔(-/-)〕又はヘテロ欠損の遺伝子型〔(+/-)〕を有する非ヒト哺乳動物を意味し、野生型の遺伝子型〔(+/+)〕は除かれる。
【0057】
本発明に用い得る非ヒト哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ及びウマ等のヒトを除く哺乳類動物が挙げられ、中でも、マウス、ラット及びモルモット等の齧歯類(ネズミ目)動物が好ましく、より好ましくはマウスである。
【0058】
本発明の非ヒト哺乳動物は、カテプシンEが欠損したときに乳癌を自然発症する動物であり、乳癌のモデル動物となるものである。経産雌カテプシンE欠損マウスを観察すると、生後25週齢頃から乳癌を自然発症することが見出された。同様の観察下において、同系経産雌の野生型(CatE+/+)およびカテプシンE遺伝子過剰発現トランスジェニックマウス(CatETg)は、寿命まで(約2年間)乳癌を発症しなかった。
カテプシンE遺伝子をノックアウトする方法は特に限定されるものではなく、当分野において公知の手法を採用することができる。以下、ノックアウトマウスの作出を例に説明する。
【0059】
まず組換えDNA技術を用いて、カテプシンE遺伝子の一部又は全部を、例えばネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換し、さらに、ジフテリアトキシン遺伝子又は単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子等の遺伝子を導入して、ターゲッティングベクターを作製する。作製したターゲッティングベクターを直鎖化(線状化)した後、エレクトロポレーション法等によってES細胞に導入し、相同組換えを行う。得られた相同組換え体の中から、G418等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。ここで、選択されたES細胞が目的とする組換え体であるかどうか、サザンブロット法等により確認しておくことが好ましい。
【0060】
次に、上記の組換えES細胞を、マウスの桑実胚又は胚盤胞中にマイクロインジェクションし、この桑実胚又は胚盤胞を仮親のマウスに戻して、生殖系列のキメラマウスを作製する。このキメラマウスと野生型のマウスを交配させることによりヘテロ接合体マウス(カテプシンEヘテロ欠損マウス)を得ることができ、さらに、このヘテロ接合マウス同士を交配させることによりカテプシンEノックアウトマウス(カテプシンEホモ欠損マウス)を得ることができる。
【0061】
得られたノックアウトマウスにおいて、カテプシンE遺伝子の機能が染色体上で喪失しているか否かを確認する方法としては、例えば、サザンブロット法等により確認する方法、当該マウスの組織からRNAを単離してノーザンブロット法等により確認する方法、及び当該マウスにおけるカテプシンEの発現をPCR法やウエスタンブロット法等により確認する方法などが挙げられる。 このようにしてカテプシンE遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物は、乳癌を自然発症するモデル動物として使用される。
【0062】
7.スクリーニング方法
本発明は、上記カテプシンEノックアウト非ヒト哺乳動物を用いて、乳癌に対する抗癌剤をスクリーニングする方法を提供する。
上記動物が経産雌カテプシンEノックアウトマウスの場合、生後25週齢頃から乳癌が自然発症し始める。従って、本発明のカテプシンEノックアウト非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させ、乳癌を抑制するかどうかを指標として、当該被検物質を抗乳癌薬として選択することができる。
「抗乳癌薬」とは、乳癌の治療薬及び予防薬のいずれをも意味する。カテプシンEノックアウト動物が乳癌を自然発症する前に候補となる被検物質を投与した際、自然発症する日数を超えても乳癌が発症しなければ、使用された被検物質は乳癌の予防薬として選択される。また、乳癌が自然発症した後に候補となる被検物質を投与し、その後乳癌の増殖が抑制され、あるいは乳癌が縮小したときは、当該被検物質は乳癌の治療薬として選択することができる。
【0063】
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、被検非ヒト動物に候補物質を接触させる工程、及び被験非ヒト動物について乳癌の状態を比較評価する工程を含む。
【0064】
これら各工程について以下に説明する。
(i) 接触工程
被検非ヒト動物に接触させる候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物(高分子又は低分子化合物)、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液又は血液成分などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよく、また天然であっても人為的に合成されたものでもよい。さらに、これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸や有機酸など)や塩基(例えば金属酸など)等との塩が用いられる。
【0065】
候補物質の接触は、具体的には経口又は非経口投与により行うことができ、限定されるものではなく公知の投与方法及び投与条件等を採用できる。投与量についても、被検非ヒト動物の種類及び状態、並びに候補物質の種類等を考慮して、適宜設定することができる。
【0066】
(ii) 評価工程
本工程において評価の対象としては、例えば、乳癌発症の有無、乳癌縮小の有無又は度合い、乳癌細胞の増殖の有無又は度合い等が挙げられる。これらの評価は、動物の外見、組織学的解析、動物におけるカテプシンEの発現量等を指標として行うことができる。
【0067】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0068】
合成基質KYS-1の分解活性の測定(抗カテプシンE抗体による免疫沈降反応)
まず、カテプシンEを含むヒト血清(20μl)に250μlの20mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.0)を加え、それに各種抗体(Yamamotoらによって作製された抗カテプシンE抗血清、抗プロカテプシンE抗体、精製抗カテプシンE抗体)およびコントロールの正常ウサギ血清をそれぞれ20μl 添加し、37℃、10分間インキュベーションした後、4℃で一晩放置して抗原―抗体複合体を形成させた。次に、生じた複合体をセファロースビーズに固相されたプロテインGと共存させ4℃で一晩反応させた。遠心後の上清中カテプシンE活性量を前述の合成基質KYS-1で測定した。
結果を図1に示す。図1より、抗カテプシンE抗体と血清中カテプシンEが抗原抗体反応を引き起こし、その結果、免疫沈降後の上清中KYS-1活性値がコントロールの上清中KYS-1活性値に比べて有意に低値であることが示された。また、血清抗カテプシンE抗体や抗プロカテプシンE抗体では血清中カテプシンEは反応しなかった。前者の結果は、血清中のカテプシンEあるいはカテプシンE類似酵素が免疫反応後も残存し、活性に影響したためと思われる。後者の結果は、ヒト血清中カテプシンEが活性型で存在することを示している。これらの結果から、ヒト血清中に検出されるKYS-1分解活性は90%以上がカテプシンEによるものであることが分かる。なお、活性値は血清1mlあたりのユニット(U)で示されている。
【実施例2】
【0069】
健常人及び種々の乳癌患者における血清カテプシンEの量の測定
80 μlの緩衝液(50 mM 酢酸緩衝液(pH 4.0))、10μlの200 μM KYS-1、および血清1μlを含む反応液(全量100μl)を40℃で10分間インキュベーションし、その後、2 mlの5%トリクロロ酢酸を加えて反応を止め、蛍光分光光度計(蛍光波長393 nm、励起波長328 nm)を用いて反応中に基質分解によって発生した蛍光を測定した。さらに、カテプシンEのタンパク質量(μg/μl)とKYS-1分解活性(Unit/ml)との相関関係を調べるため、精製したリコンビナントヒトカテプシンEのタンパク量を測定し、そのKYS-1活性量を測定した。
結果を図2〜4に示す。活性値は血清1gあたりのユニット(U)で示されている。図2より、再発した患者の血清カテプシンE量は再発のない患者に比べて有意に低いこと、また、健常人女性、非浸潤性乳癌患者、及び再発のない浸潤性乳癌患者(病期I-III)の血清カテプシンE量は遠隔転移のある乳癌患者(病期IV)に比べて有意に高いこと、さらには浸潤性乳癌患者(病期I-III)において、再発のない患者の血清カテプシンE量は再発した浸潤性乳癌患者(病期I-III)に比べて有意に高いことが示された。
また、図3より、健常人女性の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高いこと、非浸潤性乳癌患者の血清カテプシンE量は浸潤性乳癌患者に比べて有意に高いことが示された。なお、活性値は血清1mlあたりのユニット(U)で示されている。
【0070】
さらに、図4より、近似式はY = 5383.5 X(但しYはKYS-1活性(U/ml)、XはカテプシンEタンパク質量(mg/ml)で表されることが示された。
【実施例3】
【0071】
血清カテプシンE量と浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係
カテプシンEの測定方法は実施例2と同じであり、統計解析はKaplan-Meier法で求めた。
結果を図5に示す。図5より、血清カテプシンE量が高い患者は血清カテプシンE量が低い患者に比べて有意に無再発健存率(局所再発を含む)、全生存率(5年生存および10年生存)ともに高いことが示された。
【0072】
次に、血清カテプシンE量の臨界値(cut-off値)を3.3 U/mlと設定し、浸潤癌を有する乳癌患者の生存率との関係をKaplan-Meier法で求めた。測定方法は実施例2と同じである。
結果を図6に示す。図6より、Cut-off値を3.3U/mlとした場合、無再発健存率(局所再発を含む)、全生存率ともに浸潤癌患者血清におけるカテプシンE活性値が有意に低値であることが示された。
【0073】
さらに、リンパ節転移のない乳癌患者の生存率と血清カテプシンE量の関係をKaplan-Meier法で求めた。測定方法は実施例2と同じである。
結果を図7に示す。図7より、リンパ節転移(遠隔転移・浸潤度)を示す乳癌患者の血清カテプシンE量はそうでない患者に比べて有意に低いことが示された。
【実施例4】
【0074】
乳癌患者由来乳腺組織の免疫組織化学的検査
乳癌患者の乳腺組織でのカテプシンEの発現が検出されたのは374症例中11例であったが、そのうちの1症例における乳癌組織におけるカテプシンEの発現を免疫組織化学的に検査した(図8)。
具体的な方法として、10%中性緩衝ホルマリン溶液に浸透させた乳癌組織をパラフィン包埋し、その後3μmに薄切した。脱パラフィン後、抗原賦活化はEDTA緩衝液にて100℃、90分間行い、内因性ペルオキシダーゼの除去を行った後、一次抗体(抗カテプシンE抗体)で30分間反応後、二次抗体で8分間反応させた。発色はDABを用い、対比染色にはヘマトキシリン溶液を用いた。
結果を図8に示す。図8より、乳癌組織中に検出されたカテプシンEの局在は細胞質であること、また、カテプシンEが検出された数少ない症例の中でも、その発現レベルは非常に低いことが示された。
【実施例5】
【0075】
各種経産雌マウスの乳腺癌自然発症率の検討
<トランスジェニックマウス及びノックアウトマウスの作製>
(1)マウス
野生型マウス(CatE+/+)、カテプシンE欠損マウス(CatE-/-)及びカテプシンE過剰発現トランスジェニックマウス(CatETg)は同じ遺伝的背景を有するC57BL/6Nマウスである。野生型マウスはセアック吉冨(福岡、日本)から購入した。
(2)カテプシンE欠損マウスの作製
カテプシンE欠損マウス(CatE-/-)は公知方法(Tsukuba et al., J. Biochem., Vol. 134, No. 6, pp.893-902 (2003))に従って作製した。
(3)カテプシンE過剰発現トランスジェニックマウスの作製
カテプシンE過剰発現トランスジェニックマウス(CatETg)は公知方法(Kawakubo et al., Cancer Res., Vol.67, No. 22, pp.10869-10878 (2007)) (Supplementary Fig. S2)に記載の方法に従って作製した。
(4)マウスの飼育環境
同系(C57/BL6)の各種経産雌マウスは、無菌飼育環境下(SPF)において12時間明暗リズム、温度21±2℃、湿度55%のSPFバリアシステムで飼育した。
【0076】
<結果>
結果を図9に示す。図9より、カテプシンE過剰発現マウス、野生型マウスでは、乳腺癌自然発症率は限りなくゼロに近いが、カテプシンE欠損マウスでは、経時的に発症頻度が高くなり78週齢のカテプシンE欠損経産雌マウスにおいては、90%以上が乳腺癌を発症することが示された。
【0077】
次に、乳腺癌が自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスにおける肉眼的所見と肺転移を調べた。マウス乳腺は部位によって頸部、胸部、腹部、鼠径部に分けられるが、乳腺癌発症における部位特異性はない。前述のSPF飼育下でのカテプシンE欠損経産雌マウスに生じた自然発症乳腺癌を図10に示す。これらの乳腺癌は、観察を続けるとほぼ全てのマウスにおいて肺転移が認められた。
【0078】
また、乳腺癌を自然発症したカテプシンE欠損経産雌マウスについて、組織学的解析を行った。
摘出した乳腺癌組織を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋後、約3μmの厚さで薄切し、染色はHE染色を施した。
結果を図11に示す。図11より、カテプシンE欠損マウスに生じた乳腺癌には浸潤像が認められ、一視野における細胞分裂像が非常に多いことから、増殖・浸潤能が非常に高い癌種であることが示された。
【実施例6】
【0079】
マウス乳腺におけるカテプシンE発現の解析
本実施例は、マウス乳腺におけるカテプシンE発現をmRNA量およびタンパク質量をそれぞれ定量的RT-PCR法およびウェスタンブロット法で解析したものである。
まず、C57BL/6野生型雌マウスから乳腺組織を含めた各臓器を摘出し、total RNAをRNeasy Mini Kit(QIAGEN. Valencia, CA)を用いて採取した。total RNAはReady-to-Go RT-PCR Beads(Amersham Biosciences Co., Piscataway, NJ)を用いて逆転写反応を行い、得られたcDNAを用いて定量的PCRを行った(DyNAmo HS SYBR Green qPCR Kit(Finnzymes, Espoo, Finland), Rotor-Gene 3000(NIPPN TechnoCluster, Inc., Tokyo, Japan))。内部標準としての遺伝子にはGAPDHを用いた。
また、タンパク質の解析のために、マウス乳腺組織をホモジナイズし、遠心後に得られた上清を用いて細胞抽出液とした。酸処理は、0.1 M sodium acetate 緩衝液(pH 3.5)で37℃、10分間インキュベーションした後、0.1 M Tris-HCl緩衝液(pH 9.0)を加え、反応液を中性に戻した。また、ウエスタンブロッティング法は還元条件下で行った。
結果を図12に示す。図12より、メッセージレベルでの発現量は胃や脾臓より少ないものの、脳や膵臓よりも多いことが示された。しかしながらこの実験では、全乳腺組織でのRNAを試料としているため、必ずしも乳腺上皮細胞におけるカテプシンEの発現レベルを示すものではないことを追記する。また、タンパク質レベルにおいてもカテプシンEは乳腺組織に発現が確認され、酸処理での分子量の変動がなかったことから、乳腺組織においてカテプシンEが成熟型として存在していることが示された。
【実施例7】
【0080】
乳腺の組織解析
本実施例では、野生型マウスにおける乳腺組織のHE染色ならびに抗カテプシンE抗体を用いた免疫組織学的解析を行った。
結果を示す図である。HE染色は実施例5と同様に行い、カテプシンEに対する免疫染色は実施例4と同様に行った。
結果を図13に示す。図13より、カテプシンEはマウス乳腺組織の中でも特に、乳腺上皮細胞に非常に多く発現していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、乳癌の腫瘍マーカーが提供される。被検者から採取された血清中のカテプシンE(CatE)の量を測定することにより、その量を指標として、乳癌に罹患しているかどうか、あるいは乳癌治療後の予後を検査することが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
配列番号3:合成ペプチド
配列番号3:(7-methoxycoumarin-4-yl)acetyl(存在位置:1)
配列番号3:dinitrophenyl(存在位置:8)
配列番号3: D体アミノ酸(存在位置:9)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中のカテプシンEの量を測定し、当該測定結果と乳癌の可能性又は乳癌の予後とを関連付けることを特徴とする、乳癌の検出方法。
【請求項2】
被検試料中のカテプシンEの量が35U/g以下のときは、乳癌の可能性がある、又は乳癌の再発があると判定するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被検試料が血清である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
測定がカテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、又はカテプシンEに対するアプタマーを用いた測定である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体及びカテプシンEに対するアプタマーからなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の検出用キット。
【請求項6】
カテプシンEタンパク質、カテプシンEの変異タンパク質、前記カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片、並びにカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の予防用医薬組成物。
【請求項7】
カテプシンEをコードする遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物からなる、乳癌モデル動物。
【請求項8】
請求項7に記載の動物に被検物質を接触させ、該動物において乳癌を抑制する物質を選択することを特徴とする乳癌治療薬又は予防薬のスクリーニング方法。
【請求項1】
被検試料中のカテプシンEの量を測定し、当該測定結果と乳癌の可能性又は乳癌の予後とを関連付けることを特徴とする、乳癌の検出方法。
【請求項2】
被検試料中のカテプシンEの量が35U/g以下のときは、乳癌の可能性がある、又は乳癌の再発があると判定するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被検試料が血清である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
測定がカテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体、又はカテプシンEに対するアプタマーを用いた測定である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カテプシンEの基質、カテプシンEに対する抗体及びカテプシンEに対するアプタマーからなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の検出用キット。
【請求項6】
カテプシンEタンパク質、カテプシンEの変異タンパク質、前記カテプシンEタンパク質又はその変異タンパク質のペプチド断片、並びにカテプシンEタンパク質の発現及び活性の促進作用を有する物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む、乳癌の予防用医薬組成物。
【請求項7】
カテプシンEをコードする遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物からなる、乳癌モデル動物。
【請求項8】
請求項7に記載の動物に被検物質を接触させ、該動物において乳癌を抑制する物質を選択することを特徴とする乳癌治療薬又は予防薬のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−137685(P2011−137685A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297006(P2009−297006)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
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