説明

乳癌の治療を目的としたPAX2ターゲティング

本明細書はPAX2の発現を阻害することによる対象における乳癌の予防および/または治療の方法を提供する。一定の実施形態においては、PAX2の発現を阻害する方法は対象に対してPAX2に対するsiRNAをコードする核酸を投与することである。DEFB1を投与することによるかまたはDEFB1の発現を増加することによって対象における癌を治療する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本明細書は2010年2月18日出願の米国特許出願番号第12/708,294号の優先権を主張し、かつ2009年8月24日出願の米国特許出願番号第12/546,292号の優先権を主張する。
【0002】
乳癌は、米国において女性の癌の最も多い原因でありかつ2番目に多い女性の癌死亡原因である。新規乳癌の大多数はマンモグラム上に異常が見られた結果として診断される一方、乳房組織における塊または硬さの変化も疾患の警戒徴候となることがある。過去数十年間の乳癌リスクに対する認識の高まりによって、スクリーニングを目的としたマンモグラフィを受ける女性の数が増加し、より早いステージでの癌の検出および結果としての生存率の改善につながっている。それでもなお、乳癌は45〜55歳の女性における最も多い死因である。
【0003】
多くの種類の癌が遺伝子の異常、すなわち突然変異によって引き起こされることが知られている。突然変異の蓄積および細胞の制御機能の低下は、正常な組織像から上皮内腫瘍(IEN)などの初期前癌、徐々に重度のIEN、表層癌さらに最終的に浸潤性疾患へと進行性の表現型変化を引き起こす。一部の症例においてはこの過程が比較的急激であることがあるものの、概して数年、さらには数十年にわたって比較的緩やかに発生する。癌遺伝子依存は、癌細胞が悪性表現型を維持するために単一癌遺伝子の持続的活性化または過剰発現に生理的に依存することである。この依存は、腫瘍進行を特徴付ける他の変化の状況において発生する。
【0004】
浸潤性癌への長い進行期間は臨床的介入の機会を提供する。したがって、浸潤性癌の発生を予防または遅延させるための治療手段を取ることができるよう、前癌状態を示すバイオマーカーを特定することが重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、対象における乳房状態を予防または治療するための方法に関する。方法は、対象の乳房組織に対して、PAX2発現またはPAX2活性を阻害する組成物を投与することを含む。
【0006】
1つの実施形態においては、乳房状態は乳癌または乳房上皮内腫瘍(MIN)である。
【0007】
他の実施形態においては、PAX2の発現を阻害することは対象の乳癌組織またはMIN組織に対してPAX2に対するsiRNAをコードする核酸を投与することを含む。
【0008】
関連する実施形態においては、siRNAは配列番号3〜6および11〜15からなる群から選択される配列を含む。
【0009】
他の実施形態においては、組成物はDEFB1プロモーターと結合するPAX2を阻害するオリゴヌクレオチドを含む。
【0010】
関連する実施形態においては、オリゴヌクレオチドはフォワード方向またはリバース方向の配列番号1を含む。
【0011】
関連する実施形態においては、オリゴヌクレオチドは、X1およびX2が、DEFB1コード配列中の配列番号1に近接するヌクレオチドに対して相補的な0から30個のヌクレオチドであることを特徴とするX1GGAACX2の配列を含む。
【0012】
関連する実施形態においては、オリゴヌクレオチドは配列番号18〜21、25、26、28および29からなる群から選択される配列を含む。
【0013】
他の実施形態においては、組成物はRASシグナリング経路の遮断剤を含む。
【0014】
他の実施形態においては、組成物はアンジオテンシンIIの拮抗剤、アンジオテンシンII受容体の拮抗剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の拮抗剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)の拮抗剤、(細胞外シグナル調節キナーゼ)ERK1,2の拮抗剤、およびシグナル伝達性転写因子3(STAT3)の拮抗剤からなる群から選択される拮抗剤を含む。
【0015】
対象における乳癌またはMINを治療する方法であって、対象における乳癌組織またはMIN組織におけるDEFB1の発現を亢進することを含む方法も開示される。
【0016】
1つの実施形態においては、DEFB1の発現を亢進することは対象の乳癌組織またはMIN組織に対してDEEB1の有効な量を投与することを含む。
【0017】
他の実施形態においては、DEFB1の発現を亢進することは対象の乳癌組織またはMIN組織に対してDEEB1をコードする発現ベクターの有効な量を投与することを含む。
【0018】
対象における乳房状態を治療するための方法であって:(a)前記対象からの罹患乳房組織におけるPAX2対DEFB1発現比率を測定すること;(b)前記対象からの前記罹患乳房組織のER/PR状態を測定すること;および(c)(a)および(b)の結果に基づき、前記対象の乳房組織に(1)PAX2発現またはPAX2活性を阻害するか、(2)DEFB1を発現するか、または(3)PAX2発現またはPAX2活性を阻害しかつDEFB1を発現する組成物を投与することを含む方法も開示される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
付属の図面は本発明の1つまたはそれ以上の実施形態を例示し、かつ、書面の記述と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。可能な場合常に、同一の参照番号は当該図面全体において実施形態の同一または類似の要素を指すために用いられる。
【0020】
【図1A−C】βディフェンシン−1(DBFB1)発現の定量的RT−PCR(QRT−PCR)分析を示す。
【図1D】同上
【図2】膜完全性および細胞形態のDEFB1誘導性変化の顕微鏡分析を示す。膜ラフリングは黒い矢印で示され、かつアポトーシス小体は白い矢印で示される。
【図3】前立腺癌細胞におけるDEFB1細胞毒性の分析を示す。前立腺細胞株DU145、PC3およびLNCaPをPonAで1〜3日間処理してDEFB1発現を誘導し、その後MMT分析を実施して細胞の生存率を測定した。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図4A】DU145およびPC3細胞におけるDEFB1による細胞死の誘導を示す。
【図4B】同上
【図5】DEFB1導入後のパンカスパーゼ分析を示す。
【図6】ペアードボックスホメオチック遺伝子2(PAX2)siRNA処理後のPAX2タンパク質発現のサイレンシングを示す。
【図7】PAX2 siRNA処理後の前立腺癌細胞増殖の分析を示す。
【図8】PAX2のsiRNAサイレンシング後の細胞死の分析を示す。結果は平均±標準偏差、n=9を表す。
【図9−1】カスパーゼ活性の分析を示す。
【図9−2】カスパーゼ活性の分析を示す。
【図10】PAX2 siRNA処理後のアポトーシス因子の分析を示す。
【図11】PAX2とDNA認識配列の結合のモデルを示す。
【図12】DEFB1リポーター構築物を例示する。
【図13】PAX2を阻害するとDEFB1が発現することを示す。
【図14】PAX2阻害によってDEFB1プロモーター活性が増加することを示す。
【図15】DEFB1発現が膜完全性の低下を引き起こすことを示す。
【図16】PAX2阻害によって膜完全性が低下することを示す。
【図17】DEFB1プロモーターと結合したPAX2のChIP分析を示す。図17Aにおいて、レーン1は分子量100bpのマーカーを含む。レーン2は、架橋および免疫沈降前にDU145から増幅したDEFB1プロモーターの160bp領域を示す陽性対照である。レーン3は、DNAを用いずに実施したPCRを表す陰性対照である。レーン4および5は、それぞれ架橋したDU145およびPC3由来のIgGを用いて実施した免疫沈降からのPCRを表す陰性対照である。架橋後に抗PAX2抗体で免疫沈降したDNA25pg(レーン6および8)および50pg(レーン7および9)のPCR増幅は、それぞれDU145およびPC3において160bpのプロモーターフラグメントを示す。図17Bにおいて、レーン1は分子量100bpのマーカーを含む。レーン2は、架橋および免疫沈降の前にDU145から増幅したDEFB1プロモーターの160bp領域を表す陽性対照である。レーン3は、DNAを用いずに実施したPCRを表す陰性対照である。レーン4および5は、それぞれ架橋したDU145およびPC3由来のIgGを用いて実施した免疫沈降からのPCRを表す陰性対照である。架橋後に抗PAX2抗体で免疫沈降したDNA25pg(レーン6および8)および50pg(レーン7および9)のPCR増幅は、それぞれDU145およびPC3において160bpのプロモーターフラグメントを示す
【図18】DNAを有するPrdPDおよびPrdHDの予測構造を示す。
【図19】各ペアードドメインのコンセンサス配列の比較を示す。図面の上部には、Prd−ペアードドメイン±DNA複合体の結晶構造分析で報告されているタンパク質±DNA接点の模式図を描出する。白いボックスはaヘリックスを示し、網掛けボックスはb−シート、太線はb−ターンを示す。接触するアミノ酸は1文字コードで示す。直接アミノ酸±塩基接点のみを示す。白丸は主溝接点を示し、同時に赤い矢印は副溝接点を示す。このスキームを、ペアードドメインタンパク質の全ての公知コンセンサス配列と整合化する(トップストランドのみを示す)。コンセンサス配列間の縦線は保存塩基対を示す。図の下部に位置番号を示す。
【図20】化学予防戦略としてのPAX2のターゲティングを示す。
【図21】DU145細胞におけるアンジオテンシンII(AngII)のPAX2発現への影響を示す。
【図22】DU145におけるロサルタン(Los)のPAX2発現への影響を示す。
【図23】DU145においてLosがAngIIのPAX2発現に対する影響を阻害することを示す。
【図24】AngIIがDU145細胞増殖を増加することを示す。
【図25】DU145細胞におけるLosおよびMAPキナーゼ阻害剤のPAX2発現に対する影響を示す。図25AはDU145をロサルタンで処理するとホスホ−ERK1/2およびPAX2発現が抑制されることを示し;図25BはMEKキナーゼ阻害剤およびAICARがPAX2タンパク質発現を抑制することを示し;図25CはMEKキナーゼ阻害剤およびロサルタンがホスホ−STAT3タンパク質発現を抑制することを示す。
【図26】DU145細胞におけるLosおよびMEKキナーゼ阻害剤のPAX2活性化に対する影響を示す。
【図27】hPrEC細胞においてAngIIがPAX2を増加しかつDEFB1発現を減少することを示す。
【図28】AngIIシグナリングおよびPAX2前立腺癌の模式図を示す。
【図29】前立腺癌に対する治療法としてのPAX2発現遮断の模式図を示す。
【図30】DEFB1およびPAX2発現とグリーソンスコアの比較を示す。
【図31】前立腺癌発生の予測因子としてのPAX2−DEFB1比率を示す。
【図32】ドナルド予測係数(DPF)が相対PAX2−DEFB1発現比率に基づいていることを示す。
【図33】ヒト前立腺組織におけるhBD−1発現の分析を示す。
【図34】前立腺細胞株におけるhBD−1発現の分析を示す。図34Aは、hBD−1誘導前後の前立腺癌細胞株における、hPrEC細胞に対して比較したhBD−1発現レベルを示す。アスタリスクはhPrECと比較して統計的に高い発現レベルを示す。二重アスタリスクは、hBD−1誘導前の細胞株と比較した発現の統計的有意水準を示す(Studentのt検定、p<0.05)。図34Bは、前立腺癌細胞株DU145において免疫細胞化学検査によって検証した異所性hBD−1発現を示す。hPrEC細胞を、陽性対照としてのhDB−1について染色した(A:DICおよびB:蛍光)。DU145細胞をhBD−1でトランスフェクトし、18時間誘導した(C:DICおよびD:蛍光)。サイズバー=20μM。
【図35】前立腺細胞株におけるhBD−1細胞毒性の分析を示す。各棒グラフは、3回実施した独立した3つの実験の平均±標準誤差を示す。
【図36】ヒト前立腺正常、PINおよび腫瘍LCM組織切片におけるhBD−1およびcMYC発現のQRT−PCR分析を示す。各遺伝子の発現はβアクチンと比較した発現比率として示す。図36Aは正常、PINおよび腫瘍切片におけるhBD−1発現レベルの比較を示す。図36Bは正常、PINおよび腫瘍切片におけるcMYC発現レベルの比較を示す。
【図37】siRNAを用いたPAX2ノックダウン後のhBD1発現のQRT−PCR分析を示す。hBD−1発現レベルはβアクチンと比較した発現比率として示す。アスタリスクは、PAX2 siRNA処理前の細胞株と比較して統計的に高い発現水準を示す(Studentのt検定、p<0.05)。
【図38】PAX2 siRNA処理後のPAX2タンパク質発現のサイレンシングを示す。図38Aは、ウェスタンブロット分析によって検討したHPrEC前立腺一次細胞(レーン1)ならびにDU145(レーン2)、PC3(レーン3)およびLNCaP(レーン4)前立腺癌細胞におけるPAX2発現を示す。ブロットを剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブして装填が均一であることを確認した。図38Bは、DU145、PC3およびLNCaPのウエスタンブロット分析のいずれでも、PAX2 siRNAデュプレックスによるトランスフェクション後のPAX2発現のノックダウンが確認されたことを示す。ブロットを再度剥離し、内部対照としてのβアクチンについてリプローブした。
【図39】PAX2 siRNA処理後の前立腺癌細胞増殖の分析を示す。バー=20μm。
【図40】PAX2のsiRNAサイレンシング後の細胞死の分析を示す。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。
【図41】カスパーゼ活性の分析を示す。バー=20μm。
【図42A−B】PAX2 siRNA処理後のアポトーシス因子の分析を示す。結果は平均±標準偏差、n=9に相当する。アスタリスクは統計的な差を示す(p<0.05)。
【図42C】同上
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の1つの態様は、対象における乳癌を予防または治療する方法を提供する。方法は、対象に対してPAX2発現またはPAX2活性阻害剤、もしくはDEFB−1発現またはDEFB−1活性賦活剤を投与することを含む。1つの実施形態においては、対象は乳房上皮内腫瘍(MIN)と診断される。
【0022】
一部の実施形態においては、PAX2はMIN以前に乳房組織においてアップレギュレートされる。したがって、対象におけるMINを治療または予防するための方法も開示される。方法は、対象に対してPAX2発現またはPAX2活性阻害剤、もしくはDEFB−1発現またはDEFB−1活性賦活剤を含む組成物を投与することを含む。
【0023】
タンパク質の「活性」は、たとえば転写、翻訳、細胞内転座、分泌、キナーゼによるリン酸化、プロテアーゼによる開裂、他のタンパク質との同族親和性または異種親和性結合、ユビキチン化を含む。一部の態様においては、「PAX2活性」は具体的にPAX2とDEFB−1プロモーターとの結合を指す。
【0024】
(乳癌)
乳癌のために一般的に用いられるスクリーニング法は自己および臨床的乳房検査、X線マンモグラフィ、および乳房磁気共鳴影像法(MRI)である。乳癌スクリーニングを目的とした最新技術は、X線マンモグラフィに用いられる危険な放射線照射を用いることなく、音波を用いて3次元画像を作製しかつ乳癌を検出する超音波コンピューター断層撮影法である。遺伝子検査を用いることもある。乳癌の遺伝子検査は、典型的にはBRCA遺伝子における突然変異の検査を包含する。乳癌のリスクが高い者を除き、一般的に推奨される技術ではない。
【0025】
米国において、女性に最も多い死因の1つである乳癌の発生率はこの30年の間に徐々に増加している。乳癌の病因が不明である一方で、特に30歳未満の女性では、正常乳房上皮の悪性表現型へのトランスフォーメーションは遺伝的因子の結果でありうる。最近では、BRCA1およびBRCA2の発見およびキャラクタライゼーションによって家族性乳癌に寄与することのある遺伝的因子についての我々の知見が拡大している。これら2つの座位内の生殖細胞系突然変異は、乳癌および/または卵巣癌の生涯リスクの50から85%と関連する。しかし、他の非遺伝的因子も疾患の病因に対して著しい影響を有する可能性がある。その由来にかかわらず、乳癌がその進行における初期に検出されない場合、その罹患率および死亡率は有意に上昇する。したがって、乳房組織における細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍形成の早期検出には相当な労力が集中されている。
【0026】
現在、乳癌を鑑別するための主な方法は高密度腫瘍組織の存在の検出を介する。これは、乳房の外部の直接的検査によって、もしくはマンモグラフィまたは他のX線撮像法によって、異なる有効性の度合いで達成されうる。しかし、後者の手法は相当な費用を伴う。マンモグラフを撮影するたびに、患者は検査時に用いる放射線の電離性によって乳房腫瘍が誘発されるというわずかなリスクを負う。さらに、当該プロセスは高価でありかつ技術者の主観的解釈が不正確さにつながることがあり、たとえばある研究では、調査対象の放射線科医群が1組のマンモグラムを個別に解釈したところ、約3分の1に大きな臨床的不一致があったことが示されている。さらに、多くの女性はマンモグラムの受診は苦痛を伴う経験であると見なしている。したがって、米国国立癌研究所は、50歳未満の女性はこれより年長の女性ほど乳癌を発症する可能性が高くないので、この集団に対してマンモグラムを推奨していない。しかし、50歳未満の女性に発生する乳癌はわずかに約22%であるものの、閉経前女性における乳癌の方が悪性度が高いことがデータより示唆されていることは認めざるを得ない。
【0027】
(PAX2)
PAX遺伝子は、核転写因子をコードする9つの発生制御遺伝子のファミリーである。胚形成において重要な役割を果たし、かつ非常に整然とした時間的および空間的パターンで発現する。いずれも、進化の過程において高度に保持されるDNA結合ドメインをコードする384塩基対の「ペアードボックス」領域を含む(Stuart,ET et al.,1994)。発生プロセスに対するPAX遺伝子の影響は、PAX遺伝子におけるヘテロ接合性不全にも直接起因すると考えることのできる数多くの天然マウスおよびヒト症候群によって証明されている。PAX2配列はDressler他、1990に示されている。ヒトPAX2タンパク質およびその変異型のアミノ酸配列、さらには当該タンパク質をコードするDNA配列は、配列番号39〜50(配列番号39、ヒトPAX2遺伝子のエクソン1によりコードされるアミノ酸配列;配列番号40、ヒトPAX2遺伝子プロモーターおよびエクソン1;配列番号41、ヒトPAX2のアミノ酸配列;配列番号42、ヒトPAX2遺伝子;配列番号43、ヒトPAX2遺伝子変異型bのアミノ酸配列;配列番号44、ヒトPAX2遺伝子変異型b;配列番号45、ヒトPAX2遺伝子変異型cのアミノ酸配列;配列番号46、ヒトPAX2遺伝子変異型c;配列番号47、ヒトPAX2遺伝子変異型dのアミノ酸配列;配列番号48、ヒトPAX2遺伝子変異型d;配列番号49、ヒトPAX2遺伝子変異型eのアミノ酸配列;配列番号50ヒトPAX2遺伝子変異型e)。PAX2は、DEFB1 TATAボックスに隣接する5’−CCTTG−3’(配列番号1)認識部位におけるDEFB−1プロモーターと結合することによりDEFB−1発現を抑制すると報告されている(Bose SK et al., Mol Immunol.2009, 46:1140−8)。一部の参照文献においては、結合部位は3’−GTTCC−5’(配列番号1)または逆鎖の配列である5’−CAAGG−3’(配列番号2)認識部位と呼ばれる。2つの配列はいずれもDEFB1プロモーター上のPAX2結合部位を指す。PAX2発現が検出されている癌の例を表1(PAX2を発現している癌)に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(DEFB1)
βディフェンシンは、上皮および白血球の産生物である広域抗微生物活性スペクトラムを有する陽イオン性ペプチドである。単一遺伝子の産物であるこれら2つのエクソンは上皮表面に発現し、皮膚、角膜、舌、歯肉、唾液腺、食道、腸、腎臓、尿生殖路、および呼吸上皮を含む部位において分泌される。これまで、ヒトにおいては5つの上皮由来βディフェンシン遺伝子が同定およびキャラクタライゼーションされている:DEFB1(Bensch et al., 1995),DEFB2(Harder et al., 1997)、DEFB3(Harder et al., 2001;Jia et al., 2001)、DEFB4およびHE2/EP2。ヒトDEFB1のアミノ酸配列およびヒトDEFB1遺伝子配列は、それぞれ配列番号63および64に示される。
【0030】
各βディフェンシン遺伝子産物の一次構造は、小さなサイズ、6個のシステインモチーフ、高い正電荷、およびこれらの特性以外は多様性が非常に大きいことを特徴とする。ディフェンシンタンパク質の最も特徴的な性質は、3個のジスルフィド結合ネットワークを形成するその6個のシステインモチーフである。βディフェンシンタンパク質における3個のジスルフィド結合はC1−C5,C2−C4およびC3−C6間にある。隣接するシステイン残基の最も一般的な間隔は6、4、9、6、0である。βディフェンシンタンパク質におけるシステインの間隔は、カルボキシ末端に最も近いC5およびC6を除いて1または2アミノ酸異なることがある。全ての公知の脊椎動物βディフェンシン遺伝子においては、これら2つのシステイン残基は互いに隣接している。
【0031】
βディフェンシンタンパク質の第2の特徴はその小さなサイズである。各βディフェンシン遺伝子はサイズの範囲が59〜80アミノ酸であり平均サイズが65アミノ酸であるプレプロタンパク質をコードする。この遺伝子産物は未知の機構によって開裂され、サイズの範囲が36〜47アミノ酸であり平均サイズが45アミノ酸である成熟ペプチドを作製する。これらの範囲の例外は、βディフェンシンモチーフを含みかつ精巣上体に発現するEP2/HE2遺伝子産物である。
【0032】
βディフェンシンタンパク質の第3の特徴は、高い陽イオン残基濃度である。成熟ペプチドの正電荷残基(アルギニン、リジンおよびヒスチジン)の個数の範囲は6〜14であり平均は9である。
【0033】
βディフェンシン遺伝子産物の最後の特徴は、その一次構造は多様であるが三次構造は見かけ上維持されることである。6個のシステイン以外には、このタンパク質ファミリーの全公知メンバーにおいて所与の位置に保持されているアミノ酸はない。しかし、二次および三次構造および機能にとって重要と見られる位置は維持されている。
【0034】
βディフェンシンタンパク質の一次アミノ酸配列の多様性は大きいものの、このタンパク質ファミリーの三次構造が維持されていることは限定的データによって示唆される。BNBD−12およびDEFB2によってコードされるタンパク質が例示するように、構造の中核は3本鎖逆平行βシートである。3本のβ鎖がβターンとαヘアピンループによって連結され、かつ2本目のβ鎖はβバルジも含む。これらの構造がその固有の三次構造に折りたたまれるとき、一見ランダムであった陽イオンおよび疎水性残基の配列が球状タンパク質の2つの面に集中する。一方の面は親水性でありかつ正電荷側鎖の多くを含み、もう一方は疎水性である。溶液中では、DEFB2遺伝子によってコードされるHBD−2タンパク質は、過去にα−ディフェンシンの溶液構造またはβディフェンシンBNDBD−12に帰せられていなかったN末端近傍のαヘリックスセグメントを示した。その側鎖がタンパク質の表面を向いたアミノ酸はβディフェンシンタンパク質間で保持されることがより少ない一方で、コアβシートの3本のβ鎖のアミノ酸残基はより高度に維持されている。
【0035】
βディフェンシンペプチドはプレプロペプチドとして産生された後、開裂してC末端活性ペプチドフラグメントを遊離するが;気道上皮のヒトβディフェンシンペプチドの細胞内プロセシング、貯蔵および遊離経路は未知である。
【0036】
(PAX2発現またはPAX2活性阻害剤)
(機能的核酸)
開示される方法の阻害剤は、PAX2発現を阻害する機能的核酸とすることができる。機能的核酸は、標的分子と結合するかまたは特定の反応を触媒するといった特定の機能を有する核酸分子である。機能的核酸分子は、制限することを意図しない以下のカテゴリーに分類することができる。たとえば、機能的核酸はアンチセンス分子、アプタマー、リボザイムおよびトリプレックス形成分子、RNAiおよび外部ガイド配列を含む。機能的核酸分子は標的分子が有する特定の活性の作用因子、阻害剤、調節剤および刺激剤として作用することができるか、または機能的核酸分子は他のいかなる分子にも依存しない新規の活性を有することができる。
【0037】
機能的核酸分子は、DNA、RNA、ポリペプチド、または糖鎖などのあらゆる高分子と相互作用することができる。したがって、機能的核酸はPAX2のmRNAまたはPAX2のゲノムDNAと相互作用することができるか、もしくはポリペプチドPAX2と相互作用することができる。機能的核酸は、しばしば標的分子と当該機能的核酸分子の間の配列相同性に基づいて他の核酸と相互作用するよう設計される。他の状況においては、機能的核酸分子と標的分子の間の特異的認識は、機能的核酸分子と標的分子の間の配列相同性に基づくのではなく、むしろ特異的認識が発生することを可能とする三次構造の形成に基づく。
【0038】
アンチセンス分子は、カノニカルまたは非カノニカル塩基対合を介して標的核酸分子と相互作用するよう設計される。アンチセンス分子と標的分子の相互作用は、たとえばRNAseH介在性RNA−DNAハイブリッド分解などによる標的分子の破壊を促進するよう設計される。代替的に、アンチセンス分子は、転写または複製などといった標的分子上で通常発生するであろうプロセシング機能に干渉するよう設計される。アンチセンス分子は、標的分子の配列に基づいて設計することができる。標的分子の最もアクセスしやすい領域を発見することでアンチセンス効率を最適化するための数多くの方法が存在する。例示的な方法は、DMSおよびDEPCを用いたインビトロ選択実験およびDNA修飾試験であろう。アンチセンス分子は、10−6、10−8、10−10または10−12未満またはこれと等しい解離定数(Kd)で標的分子と結合することが好ましい。
【0039】
アプタマーは標的分子と、好ましくは特異的な様式で相互作用する分子である。典型的なアプタマーは、ステムーループまたはGカルテットなどの、規定された二次および三次構造に折りたたまれる長さの範囲が15〜50塩基の小さな核酸である。アプタマーは、ATPおよびテオフィリインなどの小分子、ならびに逆転写酵素およびトロンビンなどの大分子と結合することができる。アプタマーは、10−12M未満からのKdで標的分子と非常に強く結合することができる。アプタマーが10−6、10−8、10−10または10−12未満のKdで標的分子と結合することが好ましい。アプタマーは非常に高度な特異性で標的分子と結合することができる。たとえば、標的分子と分子上の1位置のみが異なる他の分子の結合親和性の差が10,000倍を上回るアプタマーが分離されている。アプタマーは、バックグラウンド結合分子とのKdの少なくとも10、100、1000、10,000または100,000分の1の標的分子とのKdを有することが好ましい。たとえばポリペプチドについて比較を行うとき、バックグラウンド分子が異なるポリペプチドであることが好ましい。
【0040】
リボザイムは、化学反応を分子内または分子間で触媒することのできる核酸分子である。したがってリボザイムは触媒性核酸である。リボザイムが分子間反応を触媒することが好ましい。ハンマーヘッドリボザイム、ヘアピンリボザイム、およびテトラヒメナリボザイムなどの、天然の系に認められるリボザイムに基づくヌクレアーゼまたは核酸ポリメラーゼ型反応を触媒する数多くの異なる種類のリボザイムがある。また、天然の系には認められないが、特定の反応を触媒するよう新規に操作されたリボザイムも数多くある。好ましいリボザイムはRNAまたはDNA基質を開裂し、より好ましくはRNA基質を開裂する。リボザイムは、典型的には標的基質の認識および結合とその後の開裂によって核酸基質を開裂する。この認識は、主としてカノニカルまたは非カノニカル塩基対相互作用に基づくことが多い。標的基質の認識は標的基質配列に基づいているので、この性質によってリボザイムは核酸の標的特異的開裂にとって特に良好な候補となる。
【0041】
トリプレックス形成機能的核酸分子は、2本鎖または1本鎖核酸のいずれかと相互作用することのできる分子である。トリプレックス分子が標的領域と相互作用するとき、ワトソン−クリックおよびフーグスティーン塩基対合の両者に依存する複合体を形成するDNAの3本鎖があるトリプレックスと呼ばれる構造が形成される。トリプレックス分子は、標的領域と高い親和性および特異性で結合することができるので好適である。トリプレックス形成分子は、10−6、10−8、10−10または10−12未満のKdで標的分子と結合することが好ましい。
【0042】
外部ガイド配列(EGS)は、複合体を形成する標的核酸分子と結合する分子であり、かつこの複合体は標的分子を開裂するRNasePによって認識される。EGSは、選択したRNA分子を特異的な標的とするよう設計することができる。RNAsePは、細胞内の転移RNA(tRNA)をプロセシングする際に支援する。細菌RNAsePを補充することで、標的RNA:EGS複合体に天然tRNA基質を模倣させるEGSを用いて、ほとんどあらゆるRNA配列を開裂することができる。同様に、真核生物のEGS/RNAseP誘導性RNA開裂を用いて、真核生物細胞内で所望の標的を開裂させることができる。
【0043】
遺伝子発現は、RNA干渉(RNAi)により高度に特異的な様式で有効にサイレンシングすることもできる。このサイレンシングは、当初2重鎖RNA(dsRNA)の添加によって認められた。一旦dsRNAが細胞に入ると、RNaseIII様酵素ダイサーによって開裂され、3’末端上に2ヌクレオチドオーバーハングを含む長さ21〜23ヌクレオチドの2重鎖短鎖干渉性RNA(siRNA)となる。ATP依存性段階において、siRNAは、siRNAを標的RNA配列にガイドするRNAi誘導性サイレンシング複合体(RISC)として周知であるマルチサブユニットタンパク質複合体に組み込まれる。ある点で、siRNAデュプレックスはほどかれ、アンチセンス鎖はRISCに結合したままであり、かつエンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼの組合せによって相補的mRNA配列の分解を誘導すると見られる。しかし、iRNAまたはsiRNAの効果もしくはその使用はいかなる種類の機構にも限定されない。
【0044】
短鎖干渉性RNA(siRNA)は、配列特異的転写後遺伝子サイレンシングを誘導することによって遺伝子発現を低下、またはさらに阻害することのできる2本鎖RANである。1つの実施例においては、siRNAは、siRNAと標的RNAの両者の間の配列同一領域内でmRNAなどの相同RNA分子の特異的分解を引き起こす。たとえば国際公開番号02/44321は、3’オーバーハング末端で塩基対合する時に標的mRNAを配列特異的に分解する能力のあるsiRNAを開示し、これらのsiRNAを作製する方法について参照文献として本明細書に援用される。配列特異的遺伝子サイレンシングは、哺乳類細胞において、酵素ダイサーによって産生されるsiRNAを模倣した合成短鎖2本鎖RNAを用いて達成することができる。siRNAは化学的にまたはインビトロで合成することもあれば、または短鎖2本鎖ヘアピン様RNA(shRNA)が細胞内でプロセシングされてsiRNAとなった結果であることもある。合成siRNAは、一般的にアルゴリズムおよび従来のDNA/RNA合成装置を用いて設計される。供給業者はAmbion(テキサス州オースチン)、ChemGenes(マサチューセッツ州アッシュランド)、Dharmacon(コロラド州ラファイエット)、Glen Research(バージニア州スターリング)、MWB Biotech(ドイツ、エーベルスベルク)、Proligo(コロラド州ボールダー)およびQiagen(オランダ、ヴェント)を含む。siRNAはAmbionのSILENCER(登録商標)siRNA構築キットなどのキットを用いてインビトロで合成することもできる。本明細書には、PAX2の配列に基づき上記に記載した方法に従って設計されたあらゆるsiRNAが開示される。
【0045】
ベクターからのsiRNAの産生は、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)の転写によって行われることがより一般的である。shRNAを含むベクターの産生を目的としたキットは、たとえば、ImgenexのGENSUPPRESSOR(商標)構築キットおよびInvitrogenのBLOCK−IT(商標)誘導RNAiプラスミドおよびレンチウイルスベクターなどが入手可能である。本明細書には、本明細書に開示された炎症調節因子の配列に基づき上記に記載した方法に従って設計されたあらゆるshRNAが開示される。
【0046】
一定の実施形態においては、機能的核酸はPAX2の発現を阻害するsiRNA(抗PAX2 siRNA)を含む。抗PAX2 siRNAの例は以下の配列(5’から3’方向)を有するsiRNAを含むが、これに限定されない:
AUAGACUCGACUUGACUUCUU(配列番号3)、
AUCUUCAUCACGUUUCCUCUU(配列番号4)、
GUAUUCAGCAAUCUUGUCCUU(配列番号5)、
GAUUUGAUGUGCUCUGAUGUU(配列番号6)、
ACCCGACTATGTTCGCCTGG(配列番号11)、
AAGCTCTGGATCGAGTCTTTG(配列番号12)、
ATGTGTCAGGCACACAGACG(配列番号13)、
GUCGAGUCUAUCUGCAUCCUU(配列番号14)、
GGAUGCAGAUAGACUCGACUU(配列番号15)、および
少なくとも10核酸のフラグメントおよびその保存的変異体;およびその組合せ。
【0047】
他の実施形態においては、機能的核酸はPAX2に対するアンチセンスRNAおよびPAX2とDEFB1プロモーターの結合に干渉またはこれを阻害するオリゴヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは、DEFB1プロモーターと結合するPAX2の配列と相補的とすることができる。代替的に、オリゴヌクレオチドはDEFB1との結合を阻害する様式でPAX2と相互作用することができる。この相互作用は、一次ヌクレオチド配列ではなく三次元構造に基づくことがある。
【0048】
PAXタンパク質は、進化の間に保持されていた転写因子のファミリーであり、かつ「ペアードドメイン」および「ホメオドメイン」と呼ばれるドメインを介して特定のDNA配列と結合することができる。ペアードドメイン(PD)は一定のPAXタンパク質(例:PAX2およびPAX6)によって共有されるコンセンサス配列である。PDは、DNA−タンパク質複合体を形成するα3−ヘリックス内に位置するアミノ酸のDNA結合の方向を決定する。PAX2については、HDのアミノ酸がCCTTG(配列番号1)DNAコア配列を認識し、これと特異的に相互作用する。オリゴヌクレオチドがこの配列を含むか、またはその相補体が阻害物質であると予測される。DEFB1プロモーターにおけるPAX2タンパク質結合に対して決定的なDNA領域は、AAGTTCACCCTTGACTGTG(配列番号16)の配列を有する。
【0049】
1つの実施形態において、オリゴヌクレオチドは、VおよびWが1から35個のヌクレオチドであることを特徴とする、V−CCTTG−Wの配列(配列番号17)を有する。一定の実施形態において、VまたはWまたはその両者は、通常はDEFB1プロモーターのPAX2結合部位を挟む隣接(連続)するヌクレオチド配列を含む。代替的に、PAX2認識配列による干渉を回避するために、Vおよび/またはWのヌクレオチド配列がDEFB1プロモーターと無関係でありかつ無作為に選択されてもよい。
【0050】
DEFB1プロモーターと結合するPAX2を阻害するオリゴヌクレオチドの他の例は以下の配列(5’から3’方向)を有するsiRNAを含むが、これに限定されない:
CTCCCTTCAGTTCCGTCGAC(配列番号18)、
CTCCCTTCACCTTGGTCGAC(配列番号19)、
ACTGTGGCACCTCCCTTCAGTTCCGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号20)、および
ACTGTGGCACCTCCCTTCACCTTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号21)。
【0051】
(その他の阻害剤)
機能的ヌクレオチドの他に、PAX2発現またはPAX2活性の阻害剤はPAX2とDEFB1プロモーターとの結合に干渉またはこれを阻害するあらゆる小分子とすることができる。PAX2発現またはPAX活性の阻害剤は、アンジオテンシンIIの拮抗剤またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)の拮抗剤とすることができる。たとえば、阻害剤はエナラプリルまたは/およびアンジオテンシンIIタイプ1受容体(AT1R)の拮抗剤とすることができる。阻害剤はバルサルタン、オルメサルタン、または/およびテルミサルタンとすることができる。阻害剤はMEKの拮抗剤、ERK1、2の拮抗剤または/およびSTAT3の拮抗剤とすることができる。一部の実施形態においては、PAX2発現または活性の開示された阻害剤はAT1R受容体拮抗剤ではない。用語「拮抗剤」は、標的の活性を阻害する薬剤を指す。
【0052】
MEKおよび/またはERK1、2の拮抗剤はU0126およびPD98059を含む。U0126は、始めは細胞AP−1拮抗剤として認識され、またそのすぐ上流の活性化物質であるマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1および2(MEK1およびMEK2としても知られ、それぞれIC50:70および60nM)を阻害することによってマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードの非常に選択的かつ強度の高い阻害剤となることが確認された、化学的に合成された有機化合物である。U0126は、不活性型MEKの活性化のみを阻害するPD98059と異なり、活性型および不活性型MEK1,2を共に阻害する。MEKの活性化を遮断すれば、AP−1複合体の成分であるc−Fosおよびc−Junの上流のインデューサーであるp62TCF(Elk−1)を含む数多くの因子の下流リン酸化が妨げられるであろう。またU0126によるMEK/ERK経路の阻害によって、発癌性H−RasおよびK−Rasの効果も全て妨げられ、増殖因子によって引き起こされる効果の一部も阻害され、また炎症性サイトカインおよびマトリクスメタロプロテイナーゼの産生も遮断される。
【0053】
PD98059は、インビボでMEK1活性化およびMAPキナーゼカスケードの選択性の高い阻害剤として作用することが示されている。PD98059はMEK1の不可性型と結合し、かつc−Rafなどの上流活性化物質による活性化を妨げる。PD98059は、MEK1およびMEK2の活性化をそれぞれIC50値4μMおよび50μMで阻害する。
【0054】
一定の実施形態においては、PAX2の発現は対象の乳癌組織またはMIN組織に対してRASシグナリング経路遮断剤を投与することによって阻害される。
【0055】
他の一定の実施形態においては、PAX2発現またはPAX2活性の阻害剤は腫瘍組織をターゲティングする抗体、受容体またはリガンドとコンジュゲートされる。
【0056】
(DEFB−1発現またはDEFB−1活性の賦活剤)
DEFB−1発現またはDEFB−1活性の賦活剤は、DEFB−1タンパク質を発現するベクターとすることができる。PAX2はDEFB−1発現を阻害するため、PAX2発現またはPAX2活性の阻害剤もDEFB−1発現の賦活剤である。
【0057】
(送達系)
核酸をインビトロまたはインビボで細胞に送達するために用いることのできる数多くの組成物および方法がある。これらの方法および組成物は2種類に大別することができる:ウイルス送達系および非ウイルス送達系。たとえば、核酸は電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿法、プラスミド、ウイルスベクター、ウイルス核酸、ファージ核酸、ファージ、コスミドといった数多くの直接送達系を経て、または陽イオン性リポソームなどの細胞または担体における遺伝物質の転送を介して送達することができる。そのような方法は技術上周知でありかつ本明細書に記載の組成物および方法と共に使用するために容易に適合化することができる。一定の場合には、方法は大きなDNA分子によって特異的に機能するよう変更されるであろう。さらに、これらの方法を用い、担体のターゲティング特性を用いることによって一定の疾患および細胞集団を標的とすることができる。
【0058】
(核酸送達系)
PAX2発現またはPAX2活性の阻害剤およびDEFB1発現またはDEFB1活性の賦活剤は、プラスミドおよびウイルスベクターなどの核酸送達系を用いて標的細胞に送達してもよい。本明細書で用いるところのプラスミドまたはウイルスベクターは、PAX2 siRNAなどの開示される核酸を分解することなく細胞内に送達し、かつその中に送達する細胞において遺伝子の発現をもたらすプロモーターを含む物質である。一部の実施形態においては、ベクターはウイルスまたはレトロウイルスのいずれかに由来する。ウイルスベクターは、たとえばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、エイズウイルス、神経向性ウイルス、シンドビスウイルスおよび他のRNAウイルスであり、HIVバックボーンを伴うこれらのウイルスを含む。それらをベクターとしての使用に適したものとするこれらのウイルスの特性を共有するあらゆるウイルスファミリーも好適である。レトロウイルスは、マウスマロニー白血病ウイルス、MMLV、およびベクターとしてMMLVの望ましい特性を発現するレトロウイルスが含まれる。レトロウイルスベクターは、他のウイルスベクターよりも大きな遺伝子ペイロード、すなわち導入遺伝子またはマーカー遺伝子を担持することができ、この理由により一般的に用いられるベクターである。しかし、非増殖細胞においてはさほど有用ではない。アデノウイルスベクターは比較的安定でありかつ扱いやすく、高い力価を有し、かつエアロゾル製剤の形態で送達することができ、かつ非分裂細胞にトランスフェクトすることができる。ポックスウイルスベクターは大きく、かつ遺伝子を挿入するための部位を数ヶ所有し、熱安定性でかつ室温で保存することができる。ウイルスベクターは、細胞に遺伝子を導入する化学的または物理的方法よりも高いトランザクション(遺伝子を導入する能力)能力を有することができる。典型的には、ウイルスベクターは非構造初期遺伝子、構造後期遺伝子、RNAポリメラーゼIII転写物、複製およびキャプシド形成に必要な逆転末端反復、およびウイルスゲノムの転写および複製を制御するプロモーターを含む。ベクターとして構築される時、典型的には、ウイルスは1つまたはそれ以上の初期遺伝子が除去されかつ除去されたウイルスDNAの代わりに遺伝子または遺伝子/プロモーターカセットがウイルスゲノムに挿入される。この種の構築物は外来遺伝物質を約8kbまで担持することができる。除去された初期遺伝子の必要な機能は、典型的には初期遺伝子の遺伝子産物をトランスで発現するように操作された細胞株により提供される。
【0059】
細胞に送達される核酸は、典型的には発現制御系を含む。たとえば、ウイルスおよびレトロウイルス系に挿入された遺伝子は、通常は所望の遺伝子産物の発現の制御を支援するプロモーター、および/またはエンハンサーを含む。プロモーターは、一般に、転写開始部位に対して相対的に固定された位置にある時に機能する1つまたは複数のDNA配列である。プロモーターは、RNAポリメラーゼと転写因子との基本的相互作用に必要なコアエレメントを含み、かつ上流エレメントおよび応答エレメントを含んでもよい。
【0060】
哺乳類宿主細胞においてベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、たとえば:ポリオーマ、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスなど、および最も好ましくはサイトメガロウイルスなどのウイルスのゲノムなどの多様な起源、またはたとえばβアクチンプロモーターなどの異種哺乳類プロモーターから入手してもよい。
【0061】
エンハンサーは、一般的に転写開始部位からの固定されない距離で機能し、かつ転写単位に対して5’側または3’側のいずれかとすることができるDNA配列を指す。さらに、エンハンサーはイントロン内、さらにコード配列内であってもよい。通常は長さが10と300bpの間であり、かつシスで機能する。エンハンサーは近隣プロモーターからの転写を高めるよう機能する。エンハンサーは、転写の調節を媒介する応答エレメントも含むことが多い。プロモーターも転写の調節を媒介する応答エレメントを含むことがある。エンハンサーは、遺伝子の発現の調節を決定することが多い。現在哺乳類の遺伝子に由来する多くのエンハンサー配列が公知であるが(グロブリン、エラスターゼ、アルブミン、−フェトプロテイン、およびインスリン)、典型的には、一般的発現には真核細胞ウイルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。好ましい例は複製起点の後期側のSV40エンハンサー(bp100〜270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーである。
【0062】
プロモーターおよび/またはエンハンサーは光またはその機能を引き起こす特定の化学事象によって特異的に活性化してもよい。系はテトラサイクリンおよびデキサメタゾンなどの試薬によって調節することができる。ガンマ線照射などの照射またはアルキル化化学療法薬への曝露によってウイルスベクター遺伝子発現を促進する様式もある。
【0063】
所定の実施形態においては、プロモーターおよび/またはエンハンサー領域は、転写する転写単位の領域の発現を最大化する構成プロモーターおよび/またはエンハンサーとして作用することができる。一定の構築物においては、特定の時間に特定の種類の細胞においてのみ発現される場合であっても、プロモーターおよび/またはエンハンサー領域は全ての真核細胞型において活性である。この種の好ましいプロモーターはCMVプロモーター(650塩基)である。他の好ましいプロモーターはSV40プロモーター、サイトメガロウイルス(全長プロモーター)、およびレトロウイルスベクターLTRである。
【0064】
全ての特異的調節エレメントをクローニングおよび使用し、黒色腫細胞などの特定の細胞型において選択的に発現される発現ベクターを構築することができることが示される。グリア由来の細胞において遺伝子を選択的に発現するために、グリア線維性酸性細胞(GFAP)プロモーターが用いられている。
【0065】
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトまたは有核細胞)において用いられる発現ベクターは、mRNA発現に影響することもある転写終了に必要な配列も含みうる。これらの領域は、組織因子タンパク質をコードするmRNAの未翻訳部分においてポリアデニル化セグメントとして転写される。3’未翻訳領域も転写終了部位を含む。転写単位もポリアデニル化領域を含むことが好ましい。この領域の利点の1つは、転写された単位がmRNAと同様にプロセシングおよび輸送される可能性を高めることである。発現構築物におけるポリアデニル化シグナルの同定および使用は、十分に確立されている。転写遺伝子構築物において同種ポリアデニル化シグナルを用いることが好ましい。一定の転写単位においては、ポリアデニル化領域はSV40初期ポリアデニル化シグナルに由来し、かつ約400塩基よりなる。他の標準的な配列単独あるいは上記の配列との組合せを含む転写される単位が、構築物からの発現またはその安定性を改善することが好ましい。
【0066】
ウイルスベクターはマーカー産物をコードする核酸配列を含んでもよい。このマーカー産物は、遺伝子が細胞に送達されているかおよび一旦送達されたならば発現されているか測定するために用いられる。好ましいマーカー遺伝子は、β−ガラクトシダーゼをコードするE.Coli lacZ遺伝子、および緑色蛍光タンパク質である。
【0067】
一部の実施形態においては、マーカーは選択的マーカーであってもよい。哺乳類細胞に適した選択的マーカーの例はジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシンアナログG418、ハイグロマイシンおよびピューロマイシンである。そのような選択的マーカーが哺乳類宿主細胞へ成功裏に移行する時、選択圧力下にあれば形質転換された哺乳類宿主細胞は生存することができる。広範に用いられる選択レジームの異なるカテゴリーが2つある。第1のカテゴリーは細胞の代謝、および補充培地に依存せずに増殖する能力を欠いた突然変異細胞株の使用に基づく。2つの例は:CHO DHFR細胞およびマウスLTK細胞である。これらの細胞はチミジンまたはヒポキサンチンなどの栄養を添加せずに増殖する能力を欠く。これらの細胞は完全なヌクレオチド合成経路に必要な一定の遺伝子を欠くので、補充培地において失われたヌクレオチドが提供されない限り生存することができない。培地に補充することの代替策は、DHFRまたはTK遺伝子を欠いた細胞にそれぞれの遺伝子を無傷で導入することによりその増殖要件を変化させることである。DHFRまたはTK遺伝子で形質転換されなかった個々の細胞は、非補充培地において生存することはできないであろう。
【0068】
第2のカテゴリーは、あらゆる細胞型において用いられる選択スキームを指す優性選択であり、突然変異細胞株の使用は必要でない。これらのスキームは、典型的には宿主細胞の増殖を停止させる薬物を用いる。新規遺伝子を有する細胞は薬物耐性を付与するタンパク質を発現し、かつ選択を生き延びると思われる。そのようなドミナント選択の例は、薬剤ネオマイシン、ミコフェノール酸、またはハイグロマイシンを用いる。3つの例においては、真核制御下で細菌遺伝子を用いてそれぞれ適切な薬剤G418またはネオマイシン(ゲネチシン)、xgpt(ミコフェノール酸)、またはハイグロマイシンに対する耐性を付与した。その他のものはネオマイシンアナログG418およびピューロマイシンを含む。
【0069】
(非核酸系)
PAX2発現またはPAX2活性の阻害剤およびDEFB1発現またはDEFB1活性の賦活剤は、多様な様式によっても標的細胞に送達しうる。たとえば、組成物は電気穿孔法によって、またはリポフェクションによって、またはリン酸カルシウム沈殿法によって送達することができる。選択された送達機構は、標的とする細胞の種類および送達がたとえばインビボ発生するのかまたはインビトロで発生するのかに部分的に依存するであろう。
【0070】
したがって、組成物は陽イオン性リポソーム(例:DOTMA、DOPE、DC−コレステロール)または陰イオン性リポソームなどのリポソームを含むことができる。リポソームは、所望であれば特定の細胞のターゲティングを促進するタンパク質をさらに含む。化合物および陽イオン性リポソームを含む組成物の投与は、標的臓器に流入する血管に投与することも、または気道の細胞を標的とするために気道に吸入することもできる。さらに、化合物は、マクロファージなどの特定の細胞型を標的とすることができるか、または化合物の拡散またはマイクロカプセルからの化合物の送達が特定の速度または用量で設計されたマイクロカプセルの成分として投与することができる。
【0071】
対象の細胞への外因性DNAの投与および取り込み(すなわち遺伝形質導入またはトランスフェクション)を含む上記の方法において、細胞への組成物の送達は多様な機構を介したものとすることができる。1つの例として、送達はリポソームを介したものとし、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO−BRL Inc.、メリーランド州ゲーザーズバーグ)、SUPERFECT(Qiagen,Inc.、ドイツ、ヒルデン)およびTRANSFECTAM(Promega Biotec,Inc.、ウィスコンシン州マジソン)などの市販のリポソーム製剤、さらには当技術分野において標準的な手順に従って開発した他のリポソームを用いることができる。さらに、開示された核酸またはベクターは、Genetronics社(カリフォルニア州サンディエゴ)から入手可能な技術である電気穿孔法およびSONOPORATION機器(ImaRx Pharmaceutical Corp.、アリゾナ州トゥーソン)によってインビボで送達することができる。
【0072】
材料は溶液、懸濁液(たとえば微粒子、リポソームまたは細胞に取り込まれる)とすることができる。これらは、抗体、受容体または受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的とすることができる。「ステルス」および他の抗体コンジュゲートリポソーム(結腸癌に対する脂質介在性薬剤ターゲティングを含む)などの媒体、細胞特異的リガンドによるDNAの受容体介在性ターゲティング、リンパ球誘導腫瘍ターゲティング、およびインビボマウス神経膠腫細胞の高特異的治療的レトロウイルスターゲティング。一般的に、受容体は構造的あるいはリガンド誘導的にエンドサイトーシスの経路に関与している。これらの受容体は、クラスリンで被覆された窪みでクラスター形成し、クラスリン被覆小胞を経て細胞内に入り、受容体が選別される酸性化エンドソームを通過し、その後細胞表面に再循環するか、細胞内に貯留されるか、またはリポソームで分解される。インターナリゼーション経路は、栄養素取り込み、活性化タンパク質の除去、高分子のクリアランス、ウイルスおよび毒素の日和見的侵入、リガンドの解離および分解、ならびに受容体レベルの調節などの多様な機能を果たす。多くの受容体は、細胞の種類、受容体濃度、リガンドの種類、リガンドの原子価、およびリガンド濃度に応じて2つ以上の細胞内経路に従う。
【0073】
細胞に送達されて宿主細胞ゲノムに取り込まれる核酸は、典型的には組込配列を含む。これらの配列は、特にウイルス系を用いる場合はウイルス関連配列であることが多い。これらのウイルス組込み系は、送達系に含まれる核酸が宿主ゲノムに取り込まれて到達することができるよう、リポソームなどの非核酸送達系を用いて送達する核酸に組み入れられることもできる。
【0074】
宿主ゲノムに組込むための他の一般的技術は、たとえば宿主ゲノムとの相同組換えを促進するよう設計された系などを含む。これらの系は、典型的には、ベクター核酸と標的核酸の間の組換えが発生する宿主細胞ゲノムの内部の標的配列に対して十分な相同性を有する、発現しようとする核酸を挟む配列に依拠し、送達された核酸を宿主ゲノムに組み込ませる。相同組換えを促進するために必要なこれらの系および方法は当業者に公知である。
【0075】
PAX2発現またはPAX2活性の阻害剤およびDEFB1発現またはDEFB1活性の賦活剤は、多様な方法によって標的細胞に送達することができ、医薬品として許容できる担体に加えて投与することができ、かつ技術上周知である多様な機構(例:裸のDNAの取り込み、リポソーム融合、遺伝子銃を介したDNAの筋肉内注射、エンドサイトーシスなど)によって対象細胞にインビボおよび/またはエクスビボで送達することができる。
【0076】
エクスビボ法を用いる場合、技術上周知である標準的なプロトコルにしたがって細胞または組織を摘出しかつ体外で維持することができる。組成物は、たとえばリン酸カルシウム沈降介在性遺伝子送達、電気穿孔法、マイクロインジェクション、またはプロテオリポソームなどのあらゆる遺伝子転移機構によって細胞に導入することができる。その後、形質導入された細胞は(例:医薬品として許容できる担体に加えて)注入するか、または細胞または組織の種類について標準的な方法に従って当該対象にホモトピカルに移植して戻すことができる。対象に対する多様な細胞の移植または注入については標準的な方法が公知である。
【0077】
(組成物およびキット)
本発明の他の態様は、癌を治療または予防するための組成物およびキットに関する。組成物はPAX2発現またはPAX2活性阻害剤、および/またはDEFB−1発現またはDEFB−1活性賦活剤、および医薬品として許容できる担体を含む。
【0078】
「医薬品として許容できる」は、生物学的または他の点で望ましくなくない材料を意味し、すなわち材料は、いかなる望ましくない生物学的作用を引き起すことも、あるいはそれを含有する医薬組成物の他のいずれかの成分と有害な様式で相互作用することもなく、核酸またはベクターと共に対象に投与しうる。担体は、当然ながら、当業者に周知であるように活性成分のあらゆる分解を最小化するよう、かつ対象におけるあらゆる有害な副作用を最小化するよう選択されるであろう。
【0079】
適切な担体およびその製剤は、Remington:「薬学の科学と実践」(第19版)A.R.Gennaro編、Mack Publishing Company、ペンシルバニア州イーストン、1995に記載されている。典型的には、製剤に適量の薬学的に許容できる塩を用いて製剤を等張性にすることができる。医薬品として許容できる担体の例は生理食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液を含むが、これに限定されない。溶液のpHは、好ましくは約5から約8,かつより好ましくは約7から約7.5である。さらなる担体は、抗体を含有する固形疎水性ポリマーの半透過性マトリクスであって、当該マトリクスがたとえばフィルムなどの成型品、リポソームまたは微粒子などの形態にあるマトリクスなどの徐放性製剤が含まれる。たとえば投与経路および組成物を投与する濃度などによっては一定の担体がより好ましいことがあることは、当業者に自明となるであろう。
【0080】
医薬担体は当業者に公知である。これらは、最も典型的には、滅菌水、生理食塩水、および生理学的pHに緩衝化した溶液などの溶液を含む、ヒトに対する薬剤の投与を目的とした標準的な担体であろう。組成物は筋肉内または皮下投与することができる。その他の化合物は、当業者が用いる標準的な手順に従って投与されるであろう。
【0081】
医薬組成物は、選択分子に加えて担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存料、界面活性剤などを含みうる。医薬組成物は、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤などの1つまたはそれ以上の活性成分も含みうる。
【0082】
非経口投与製剤は無菌水溶液または非水溶液、懸濁剤、および乳剤を含む。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチエレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体は、生理食塩水および緩衝化媒体を含む、水、アルコール/水性溶液、乳剤または懸濁剤を含む。非経口媒体は塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳糖加リンゲル液、または不揮発性油を含む。静脈内媒体は液状および栄養補充液、電解質補給液(リンゲルデキストロース液ベースのものなど)などを含む。たとえば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどの保存料および他の添加物も存在しうる。
【0083】
局所投与用製剤は軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、滴剤、坐剤、スプレー剤、液剤および散剤を含みうる。従来の医薬担体、水性、粉末または油性基剤、増粘剤などが必要または望ましいこともある。
【0084】
経口投与用の組成物は散剤または顆粒剤、水または非水性媒体中の懸濁剤または溶液剤、カプセル剤、サシェ剤、または錠剤を含む。増粘剤、香料、希釈剤、乳化剤、分散補助剤または結合剤が望ましいこともある。
【0085】
組成物の一部は、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸およびリン酸などの無機酸、およびギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸およびフマル酸などの有機酸との反応、または水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基およびモノ、ジ、トリアルキルおよびアリールアミンおよび置換エタノールアミンなどの有機塩基との反応によって形成される、医薬品として許容できる酸または塩基付加塩として投与される可能性もある。
【0086】
材料は溶液、懸濁液(たとえば微粒子、リポソームまたは細胞に取り込まれる)の形態とすることができる。これらは、抗体、受容体または受容体リガンドを介して特定の細胞型を標的とすることができる。「ステルス」および他の(結腸癌に対する脂質介在性薬剤ターゲティングを含む)抗体コンジュゲートリポソームなどの媒体、細胞特異的リガンドによるDNAの受容体介在性ターゲティング、リンパ球誘導腫瘍ターゲティング、およびインビボにおけるマウス神経膠腫細胞の高特異的治療的レトロウイルスターゲティング。一般的に、受容体は構造的あるいはリガンド誘導的エンドサイトーシス経路に関与している。これらの受容体は、クラスリンで被覆された窪みでクラスター形成し、クラスリン被覆小胞を経て細胞内に入り、受容体が選別される酸性化エンドソームを通過し、その後細胞表面に再循環するか、細胞内に貯留されるか、またはリポソームで分解される。インターナリゼーション経路は、栄養素取り込み、活性化たんぱく質の除去、高分子のクリアランス、ウイルスおよび毒素の日和見的侵入、リガンドの解離および分解、ならびに受容体レベルの調節などの多様な機能を果たす。多くの受容体は、細胞の種類、受容体濃度、リガンドの種類、リガンドの原子価、およびリガンド濃度に応じて2つ以上の細胞内経路に従う。
【0087】
上記の材料および他の材料は、開示された方法を実施、またはこれを実施することを支援するために有用なキットとして、何らかの適切な組合せで合わせてパッケージ化することができる。所与のキットのキット構成要素が、開示された方法において共に使用するために設計および適合化されていれば有用である。たとえば、前立腺癌、PIN、乳癌およびMINを検出、治療または予防するためのキットが開示される。キットはPAX2発現またはPAX2活性阻害剤、および/またはDEFB1発現またはDEFB1活性賦活剤を含む。1つの実施形態においては、キットはPAX2またはDEFB1と特異的に結合するペプチドまたは抗体を含む。
【0088】
本明細書に開示される組成物は、局所治療が所望であるかまたは全身治療が所望であるか、および治療する領域に応じて数多くの様式で投与しうる。たとえば、組成物は経口的、非経口的(例:静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内注射)、吸入によって、体外的、局所的(経皮、眼球、膣、直腸、鼻腔内を含む)などで投与しうる。
【0089】
本明細書で用いるところの「局所的鼻腔内投与」は、一方または両方の鼻孔を経た鼻および鼻腔経路への組成物の送達を意味し、スプレー機構または滴下機構による、または核酸またはベクターのエアロゾル化による送達を含むことができる。吸入剤による組成物の投与は、噴霧または滴下機構による送達を介して鼻または口を経たものとすることができる。送達は、挿管により呼吸器系の任意の領域(例:肺)に対する直接的なものとすることもできる。
【0090】
組成物の非経口投与を用いる場合は、一般的に注射によって特徴付けられる。注射剤は、液状溶液または懸濁液、注射前の液体中での懸濁に適した固形形態、または乳剤として従来の形態で調製することができる。より最近改訂された非経口投与の手法は、一定用量が維持されるような遅延放出または持続放出系の使用を包含する。
【0091】
必要とされる組成物の厳密な量は、種、年齢、体重および対象の全般的な状態、治療するアレルギー性疾患の重症度、使用する特定の核酸またはベクター、その投与形態などに応じて対象毎に異なるであろう。適量は、当業者が本明細書の教示を考慮して常用実験のみを用いて決定することができる。したがって、有効用量および組成物を投与するスケジュールは経験的に決定してもよく、かつそのような決定を下すことは本技術分野の範囲である。組成物の投与のための用量範囲は、症状疾患が影響を受ける所望の効果をもたらすために十分大きいものである。用量は、望ましくない交叉反応、アナフィラキシー反応などの有害副作用を引き起こすほど大きなものであってはならない。全般的に、用量は患者の年齢、状態、性別および疾患の程度、投与経路、または他の薬剤がレジメンに含まれるか否かによって変動すると思われ、かつ当業者が決定することができる。用量は、何らかの禁忌がある場合に個々の医師が調節することができる。用量は変動させることができ、かつ1日に1回またはそれ以上の投与を1日または数日間投与することができる。所与のクラスの医薬品についての適切な用量については、文献に手引きを確認することができる。
【0092】
たとえば、単独で用いられる開示された組成物の典型的な1日用量の範囲は、上述の因子に応じて1日に約1μg/kgから100mg/kg体重またはそれ以上となるかもしれない。一定の実施形態においては、治療方法は罹患組織のPAX2対DEFB1発現比率(P/D比率)およびエストロゲン受容体(ER)/プロゲステロン受容体(PR)状態に基づいて適合化される。表2は、P/D比率およびER/PR状態に基づく治療選択肢を示す。正常乳房組織、MINおよび低グレード乳癌においては、PAX2状態とER状態の間に正の相関がある。PAX2はエストロゲン受容体を介してERBB2発現、およびその後にHer2/neu発現も調節する。反対に、PAX2発現と高グレード(または浸潤性)乳癌の間には逆関係がある。したがって、PAX2発現レベルのモニタリングを用いて、薬物応答または耐性を予測し、さらにDEFB1または抗PAX2療法の候補となりうる患者を特定することができる。用語「抗PAX2療法」は、PAX2発現またはPAX2活性を阻害するための方法を指す。用語「DEFB1療法」は、DEFB1発現を高めるための方法を指す。用語「DEFB1療法」は、PAX2発現またはPAX2活性を阻害するための方法を含まないものの、そのような方法によってもDEFB1発現が増加する。
【0093】
表2(乳房状態の治療を目的としたPAX2対DEFB1比率の使用)に示すように、抗PAX2療法および/またはDEFB1療法は、抗ホルモン療法(例:タモキシフェン)、抗ERBB2療法(例:ハーセプチン)、抗Her2療法(例:トラスツズマブ)、および抗AIB−1/SRC−3療法などの1つまたはそれ以上の他の乳癌治療と共に用いてもよい。
【0094】
【表2】

【0095】
(PAX2対DEFB1発現比率)
これ以降用いるところの用語「PAX2対DEFB1発現比率」は、所与の細胞または組織における機能的PAX2タンパク質またはその変異型の量と機能的DEFB1タンパク質またはその変異体の量の比率を指す。細胞または組織におけるPAX2およびDEFB1の発現レベルは、技術上公知であるあらゆる方法によって測定することができる。一定の実施形態においては、乳房組織におけるPAX2およびDEFB1発現のレベルは、乳房組織から直接採取された1個または複数の細胞におけるPAX2およびDEFB1のレベルを測定することによって測定される。
【0096】
「PAX2対DEFB1発現比率」はタンパク質レベルで直接的に、またはRNAレベルで間接的に測定することができる。タンパク質レベルはタンパク質アレイ、イムノアッセイおよび酵素分析で測定してもよい。RNAレベルは、たとえばDNAアレイ、RT−PCRおよびノーザンブロッティングで測定してもよい。一定の実施形態においては、PAX2対DEFB1発現比率は、対照遺伝子の発現比率に対するPAX2遺伝子の発現レベルを測定し、同一の対照遺伝子の発現レベルに対するDEFB1遺伝子の発現レベルを測定し、かつPAX2およびDEFB1の発現レベルに基づいてPAX2対DEFB1発現比率を算出することによって測定される。1つの実施形態においては、対照遺伝子はグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子である。
【0097】
(イムノアッセイ)
イムノアッセイは、その最も単純かつ直接的意味においては、抗体と抗原の間の結合を包含する結合分析である。多くのイムノアッセイの種類およびフォーマットが公知であり、いずれも開示されるバイオマーカーを検出するのに適している。イムノアッセイの例は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、放射免疫沈降アッセイ(RIPA)、イムノビーズキャプチャーアッセイ、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、ゲルシフトアッセイ、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズアレイ、磁気キャプチャー、インビボイメージング、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、およびフォトブリーチング後の蛍光回復/局在測定(FRAP/FLAP)である。
【0098】
一般的に、イムノアッセイは、免疫複合体の形成を可能とするのに有効な条件において、場合に応じ、(本明細書に開示されるバイオマーカーなどの)該当分子を含むと疑われるサンプルを該当分子に対する抗体と接触させること、または(本明細書に開示されるバイオマーカーに対する抗体などの)該当分子に対する抗体を当該抗体と結合することのできる分子と接触させることを包含する。多くの形態のイムノアッセイにおいて、その後に組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウェスタンブロットといったサンプル−抗体組成物を洗い、あらゆる非特異的結合抗体種を除去し、一次免疫複合体内で特異的に結合する抗体のみを検出することを可能とする。
【0099】
放射免疫沈降アッセイ(RIPA)は、放射標識した抗原を用いて血清中の特異抗体を検出する高感度測定法である。抗原を血清と反応させた後、たとえばプロテインAセファロースビーズなどの特殊な試薬を用いて沈降させる。結合した放射標識免疫沈降物は、その後一般的にはゲル電気泳動により測定する。放射免疫沈降アッセイ(RIPA)は、HIV抗体の存在を診断するための確認検査としてしばしば用いられる。RIPAは、当分野ではファールアッセイ、プレシピチンアッセイ、放射免疫プレシピチンアッセイ、放射免疫沈降分析、放射免疫沈降分析、および放射免疫沈降分析などとも呼ばれる。
【0100】
固形支持体(例:試験管、ウェル、ビーズ、またはセル)上のタンパク質またはタンパク質に対して特異的な抗体を検出する方法と組み合わせた、タンパク質またはタンパク質に対して特異的な抗体が支持体と結合してそれぞれ該当抗体またはタンパク質をサンプルから捕捉することを特徴とするイムノアッセイも考慮される。そのようなイムノアッセイの例はラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズ分析法、および磁気キャプチャーを含む。
【0101】
タンパク質アレイは、ガラス、膜、マイクロタイターウェル、質量分析計プレート、およびビーズまたは他の粒子を含む表面に固定したタンパク質を用いる固相リガンド結合アッセイである。アッセイは並列性が高く(多重)かつしばしば極小化される(マイクロアレイ、タンパク質チップ)。その利点は迅速かつ自動化可能である、高感度とすることができる、試薬に関して経済的、かつ1回の実験で豊富なデータが得られることなどを含む。バイオインフォルマティクス支援は重要である;データハンドリングには高度なソフトウェアおよびデータ比較分析を要求される。しかし、多くのハードウェアおよび検出システムがそうであるように、ソフトウェアはDNAアレイに対して用いられるものから適合化することができる。
【0102】
キャプチャーアレイは診断チップおよび発現プロファイリング用アレイの基盤を形成する。従来の抗体、シングルドメイン、人工スカフォールド、ペプチドまたは核酸アプタマーなどの高親和性キャプチャー試薬を用いて、高スループットで特定の標的リガンドと結合およびこれを検出する。抗体アレイは市販されている。従来の抗体に加えて、FabおよびscFvフラグメント、ラクダまたは組換えヒト同等物由来のシングルVドメイン(ドマンティス、マサチューセッツ州ウォルサム)も、アレイにおいて有用となりうる。
【0103】
非タンパク質捕捉分子、特に高い特異性および親和性でタンパク質リガンドと結合する1本鎖核酸アプタマー(ソマロジック、コロラド州ボールダー)もアレイにおいて用いられる。アプタマーは、セレックス(商標)法によってオリゴヌクレオチドのライブラリから選択し、またそのタンパク質との相互作用は、ブロモデオキシウリジン取り込みおよびUV活性化架橋による共有結合によって強化することができる(フォトアプタマー)。リガンドとの光架橋によって、特異的立体要件によるアプタマーの交差反応性が低下する。アプタマーは、自動化オリゴヌクレオチド合成による精製の容易さおよびDNAの安定性および堅牢性という利点を有し;フォトアプタマーアレイ上では、汎用的蛍光タンパク質染色を用いることができる。
【0104】
キャプチャー分子のアレイの代替物は、ペプチド(例:タンパク質のC末端領域由来)を、重合可能なマトリクス内に構造的に相補的な配列特異的空隙を作製するための鋳型として用いる「分子インプリンティング」技術によって形成されるものであり;空隙はその後適切な一次アミノ酸配列を有する(変性)タンパク質を特異的に捕捉することができる(ProteinPrint(商標)、Aspira Biosystems、カリフォルニア州バーリンゲーム)。
【0105】
診断的にかつ発現プロファイリングにおいて用いることができる他の方法論は、固相クロマトグラフィー表面が血漿または腫瘍抽出物などの混合物に由来する同様の電荷または疎水性特性を有するタンパク質と結合し、さらにSELDI−TOF質量分析を用いて保持されたタンパク質を検出するProteinChip(登録商標)アレイ(Ciphergen、カリフォルニア州フリーモント)である。
【0106】
他の有用な方法論は、チップ上に多数の精製タンパク質を固定することによって構築される大スケール機能性チップ、および多重ビーズアッセイを含む。
(抗体)
【0107】
本明細書においては、用語「抗体」は広義に用いられかつポリクローナルおよびモノクローナル抗体を共に含む。無傷の免疫グロブリン分子に加えて、たとえばPAX2がDEFB1と相互作用することを妨げるよう、PAX2またはDEFB1と相互作用する能力について選択されている限り、それらの免疫グロブリン分子のフラグメントまたはポリマー、および免疫グロブリン分子のヒトまたはヒト化バージョンまたはそのフラグメントも用語「抗体」に含まれる。PAX2とDEFB1との相互作用に関与するPAX2またはDEFB1の開示領域と結合する抗体も開示される。抗体は、本明細書に記載のインビトロアッセイまたは類似の方法を用いて、その所望の活性について試験することができ、その後に公知の臨床的検査法に従ってインビボ治療および/または予防活性を試験する。
【0108】
本明細書のモノクローナル抗体は、所望の拮抗活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種に由来するかまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である一方で、残余の鎖が他の種に由来するかまたは他の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応配列と同一または相同である「キメラ抗体」、さらにはこうした抗体のフラグメントを具体的に含む(米国特許第4,816,567号およびMorrison et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851 6855 (1984)を参照)。
【0109】
本明細書で用いるところの用語「抗体」または「複数の抗体」は、ヒト抗体および/またはヒト化抗体も指すことがある。多くの非ヒト抗体(例:マウス、ラットまたはウサギに由来するものなど)は天然ではヒトに対して抗原性であるので、ヒトに投与するとき望ましくない免疫応答を引き起こすことがある。したがって、方法においてヒトまたはヒト化抗体を使用することは、ヒトに投与された抗体が望ましくない免疫応答を惹起する確率を低下させるのに役立つ。非ヒト抗体をヒト化する方法は技術上周知である。
【0110】
(DNAアレイ)
DNAまたはオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、フィーチャーと呼ばれる、それぞれが少量(典型的にはピコモルの範囲)の特異的オリゴヌクレオチド配列を含む、整列した一連の複数のオリゴヌクレオチドの顕微鏡的スポットよりなる。特異的オリゴヌクレオチド配列は、厳密度の高い条件下でcDNAまたはcRNAサンプルをハイブリダイズするためのプローブとして用いられる短い遺伝子の切片または他のオリゴヌクレオチドエレメントとすることができる。通常、プローブ標的ハイブリダイゼーションは、標的における核酸配列の相対的な存在度を測定することを目的とした蛍光体標識した標的の蛍光ベース検出によって検出および定量される。
【0111】
プローブは、典型的には(エポキシ−シラン、アミノ−シラン、リジン、ポリアクリルアミドなどを介した)化学的マトリクスとの共有結合により固形物表面に結合する。固形物表面はガラスまたはシリコンチップまたは顕微鏡的ビーズとすることができる。オリゴヌクレオチドアレイは、ヌクレオチドを測定するのか、それともその検出系の一部としてオリゴヌクレオチドを用いるかという点でのみ、他の種類のマイクロアレイと異なる。
【0112】
オリゴヌクレオチドアレイを用いて標的組織または細胞における遺伝子発現を検出するために、目的の核酸を標的組織または細胞より精製する。ヌクレオチドは、発現プロファイリングを目的とした全RNA、比較ハイブリダイゼーションを目的としたDNAまたは後成的または調節研究を目的として免疫沈降させた(ChIPオンチップ)特定のタンパク質と結合したDNA/RNAである。
【0113】
1つの実施形態においては、全RNAはチオシアン酸グアニジウム−フェノール−クロロホルム抽出(例:トリゾール)によって分離される(核または細胞質そのままの全体)。精製されたRNAは品質(例:キャピラリー電気泳動により)および量(例:ナノドロップ分光器を用いて)について分析してもよい。全RNAとは、ポリTプライマーまたはランダムプライマーによりDNAに逆転写されるRNAである。PCRによってDNA産物を任意に増幅してもよい。RT手順において、または増幅後の追加的な手順がある場合はその手順において、増幅産物に標識を付加する。標識は蛍光標識または放射標識とすることができる。次に、標識DNA産物をマイクロアレイにハイブリダイズする。次にマイクロアレイを洗い、さらにスキャンする。目的の遺伝子の発現レベルは、技術上周知の方法を用いたハイブリダイゼーションの結果に基づいて測定される。
【0114】
(ゲノム薬理)
他の実施形態においては、乳癌のゲノム薬理を測定するためにPAX2および/またはDEFB1発現プロフィールが用いられる。ゲノム薬理は、個体の遺伝子型とその個体の外来化合物または薬剤に対する応答の関係を指す。薬理活性薬剤の用量と血中濃度の関係を変化させることによって、治療薬の代謝の差が重度の毒性または治療の失敗につながることがある。したがって、医師または臨床家は、抗癌薬を投与するか否か判定する際、さらには抗癌薬による治療の用量および/または治療レジメンを調節する際に、関連するゲノム薬理研究において得られた知見を適用することを考慮してもよい。
【0115】
ゲノム薬理は、患者における薬剤の処理および異常な作用が原因となる、薬剤に対する応答における臨床的に重大な遺伝的変異を扱う。一般的には、2種類のゲノム薬理的条件を識別することができる。薬剤が身体に作用する様式を変化させる単一の因子(薬剤作用の変化)として伝達される遺伝的条件または身体が薬剤に作用する様式を変化させる単一の因子(薬剤代謝の変化)として伝達される遺伝的条件。これらの遺伝薬理学的条件はまれな遺伝的欠損として、または天然に発生する遺伝多型として起こることがある。たとえば、グルコース6−リン酸デヒドロゲナーゼ欠損(G6FD)は、主な臨床的合併症が酸化薬剤(抗マラリア薬、スルホンアミド、鎮痛薬、ニトロフラン)摂取およびソラ豆の摂取後の溶血である一般的な遺伝性酵素病である。
【0116】
「ゲノムワイド関連」として知られる薬剤応答を予測する遺伝子を同定するための1つのゲノム薬理学的手法は、既知の遺伝子間連部位(例:それぞれが2つの変異型を有するヒトゲノム上の60,000〜100,000個の多型または可変部位からなる「両アレル」遺伝子マーカーマップなど)からなるヒトゲノムの高分解度マップに主として依拠している。そのような高分解度遺伝子マップは、第II/III相医薬品治験に参加する統計的に相当な数の被験者のそれぞれのゲノムのマップと比較し、具体的に観察される薬剤応答または副作用と関連する遺伝子を同定することができる。代替的に、ヒトゲノムにおける数千万個の公知の一塩基多型(SNP)の組合せからそのような高分解度マップを作製することができる。本明細書で用いるところの「SNP」は、DNAの全長内の単一のヌクレオチド塩基において発生する普通の変化である。たとえば、SNPはDNAの1,000塩基につき1回発生しうる。SNPは疾患の過程に関与することもある。しかし、大多数のSNPは疾患と関連しないと思われる。このようなSNPの発生に基づく遺伝子マップがある場合、個体はその個体ゲノムにおける特定のSNPパターンに応じて遺伝的カテゴリーに分類することができる。このようにして、遺伝的に類似した個体間に共通した特性を考慮に入れ、このような遺伝的に類似した個体集団に対して治療レジメンを適合化することができる。したがって、PAX2および/またはDEFB1を乳房患者のSNPマップに位置づけることにより、本明細書に記載の遺伝的方法に従ってこれらの遺伝子をより容易に同定することが可能となりうる。
【0117】
代替的に、薬剤応答を予想する遺伝子を特定するために「候補遺伝子アプローチ」と呼ばれる方法を用いることができる。この方法によれば、薬剤の標的をコードする遺伝子が判明している場合、集団においてその遺伝子の全ての一般変異体を比較的容易に同定することができ、かつ他のバージョンの遺伝子に対してあるバージョンを有することが特定の薬剤応答に関連しているか測定することができる。
【0118】
1つの例示的実施形態として、薬剤代謝酵素の活性は薬剤作用の強度および持続時間の両者の主要な決定因子である。薬物代謝酵素(例:N−アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2))およびチトクロームP450酵素CYP2D6およCYPZC19)の遺伝子多型の発見は、ある薬剤の標準的かつ安全な用量の摂取後に一部の対象が予測された薬剤効果を得ることができないか、または過大な薬剤応答および重篤な毒性を示す理由についての説明を提供している。これらの多型は、母集団において2つの表現型、高代謝群および低代謝群として表される。低代謝表現型の有病率は母集団によって異なる。たとえば、CYP2D6をコードする遺伝子は多型性が高く、かつ低代謝群において数種類の変異型が特定され、そのいずれもが機能的CYP2D6の欠損につながっている。CYP2D6およびCYP2C19の低代謝群は、標準用量を投与されるときに非常に高い頻度で過大な薬剤応答および副作用を経験する。CYP2D6が形成する代謝物モルヒネを介したコデインの鎮痛効果で示されているように、代謝物が活性治療成分である場合、低代謝群は治療応答を示さない。もう一方の極は標準用量に応答しない、いわゆる超高速代謝群である。最近、超高速代謝の分子的根拠はCYP2D6遺伝子増幅によることが確認されている。
【0119】
代替的に、「遺伝子発現プロファイリング」と呼ばれる方法を用いて薬剤応答を予想する遺伝子を特定することができる。たとえば、薬剤を投与された動物の遺伝子発現は毒性と関連する遺伝子系路が活性化したか否かの目安とすることができる。
【0120】
上記のゲノム薬理学的手法のうち2つ以上から得られた情報を用いて、個体の予防的または治療的処置のための適切な用量および治療レジメンを決定することができる。この知見を投与または薬剤の選択に適用するとき、副作用または治療の失敗を回避することができるため、乳房疾患を有する患者を治療する際に治療的または予防的有効性を向上させることができる。
【0121】
1つの実施形態においては、ある対象におけるPAX2および/またはDEFB1の発現プロフィール、さらにはER/PR状態を用いて、乳房疾患を有する個体に対する適切な治療レジメンを決定する。
【0122】
他の実施形態においては、トリプルネガティブ乳癌患者(すなわちエストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)陰性)に対してPAX2発現レベル(典型的にはアクチン遺伝子またはGAPDH遺伝子のような対照遺伝子に対して測定)を用い、癌治療の有効性を決定するか、治療コースを決定するか、または癌の再発をモニタリングする。
【0123】
本発明は、制限的と解釈すべきでない以下の実施例によってさらに例示される。本明細書全体において引用された全ての参照文献、特許および公開特許明細書、さらには図面および表はその全体を本明細書に参照文献として援用する。
【実施例1】
【0124】
(ヒトβディフェンシン−1は後期ステージ前立腺癌に対して細胞毒性でありかつ前立腺癌腫瘍免疫において役割を果たす)
この実施例においては、DEFB1を誘導可能な発現系にクローニングし、正常な前立腺上皮細胞、およびアンドロゲン受容体陽性(AR+)およびアンドロゲン受容体陰性(AR−)前立腺癌細胞株に対してどのような効果を有するか検討した。DEFB1発現の誘導により、AR−細胞DU145およびPC3の細胞増殖は低下したが、AR+前立腺癌細胞LNCaPの増殖には影響しなかった。DEFB1はカスパーゼ介在性アポトーシスの迅速な誘発も引き起こした。本実施例に示したデータは、生得的腫瘍免疫におけるその役割のエビデンスを提供し、かつその低下が前立腺癌における腫瘍進行に寄与することを示す初めてのものである。
【0125】
(材料と方法)
細胞株:細胞株DU145はDMEM培地で培養し、PC3はF12培地で増殖させ、さらにLNCaPはRPMI培地で増殖させた(Life Technologies,Inc.、ニューヨーク州グランドアイランド)。3つの細胞株全ての増殖培地に10%(v/v)胎仔ウシ血清(Life Technologies)を添加した。hPrEC細胞を前立腺上皮基礎培地(Cambrex Bio Science,Inc.、メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養した。全ての細胞株は37℃で5%CO下に維持した。
【0126】
組織サンプルおよびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション:施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクを通じ、根治的前立腺切除術を受けた同意患者から採取した前立腺組織を入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタライゼーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。凍結組織切片の病理学的検査の後、アッセイする組織サンプルが純粋な良性前立腺細胞集団よりなることを確認するために、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を実施した。分析した各組織切片について、良性組織を含めた3つの異なる領域でLCMを実施し、その後さらに採取した細胞をプールした。
【0127】
根治的前立腺切除術を受ける前にインフォームド・コンセントを行った患者より前立腺組織を採取した。施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクよりサンプルを入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタラーぜーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。外科医および病理学者より受領した前立腺検体は、OCTコンパウンド中で速やかに保存した。各OCTブロックを切り出して連続切片とし、染色して検査した。良性細胞、前立腺上皮内腫瘍(PIN)および癌を含む領域を特定し、我々がArcturus PixCell IIシステム(カリフォルニア州、サニーヴェール)を用いて未染色スライドから選択する際の指標とするために用いた。キャプチャーした材料を収容するカップを、Arcturus Pico Pure RNA分離キットのライセート20μLに曝露し、速やかに処理した。RNAの量および品質は、5’アンプリコンを生成するプライマーセットを用いて評価した。セットはリボソームタンパク質L32用(3’アンプリコンと5’アンプリコンの間隔298塩基)、グルコースリン酸イソメラーゼ用(391塩基間隔)、およびグルコースリン酸イソメラーゼ用(843塩基間隔)のものを含む。通常、多様な調製組織に由来するサンプルを用いるとき、これらのプライマーセットについては0.95から0.80の比率が得られた。病理学者が追加的な腫瘍および正常サンプルを肉眼で切り出し、液体窒素で瞬間凍結してhBD−1およびcMYC発現について評価した。
【0128】
DEFB1遺伝子のクローニング:逆転写PCRを用いて、RNAからDEFB1 cDNAを作製した。PCRプライマーはClaIおよびKpnI制限部位を含むよう設計された。DEFB1 PCR産物をClaIおよびKpnIによって制限消化し、さらにTAクローニングベクターにライゲーションした。次に、TA/DEFB1ベクターを熱ショックによりE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。Cell Culture DNA Midiprep(QIAGEN、カリフォルニア州バレンシア)でプラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングで配列の完全性を検証した。次に、方向決定用の中間ベクターとして役立つClaIおよびKpnIで消化したpTRE2に、DEFB1遺伝子フラグメントをライゲーションした。次に、pTRE2/DEFB1構築物をApaIおよびKpnIで消化してDEFB1インサートを切り出し、これを同じくApaIおよびKpnIで二重消化したEcdysone Inducible Expression System(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)のpINDベクターにライゲーションした。構築物を再度E.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりpIND/DEFB1の配列完全性を再検証した。
【0129】
トランスフェクション:100mmペトリ皿に細胞(1×10個)を播種し、1晩増殖させた。次に、Lipofectamine 2000(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて、ヘテロ二量体エクジソン受容体を発現するpVgRXRプラスミド1μgおよびpIND/DEFB1ベクター構築物または空のpIND対照ベクター1μgと共にオプティMEM培地(Life Technologies Inc.、ニューヨーク州グランドアイランド)中で細胞に同時トランスフェクトした。
【0130】
RNAの分離および定量的RT−PCR:DEFB1構築物をトランスフェクトした細胞におけるDEFB1タンパク質発現を検証するために、ポナステロンA(PonA)による24時間誘導後にRNAを採取した。簡潔に述べると、SV Total RNA Isolation System(Promega、ウィスコンシン州マジソン)を用いて、トリプシン処理により回収した約1×10個の細胞より全RNAを分離した。この場合、細胞を溶解させ、さらにスピンカラムで遠心分離することにより全RNAを分離した。LCMによって採取した細胞については、メーカーのプロトコルに従いPicoPure RNA Isolation Kit(Arcturus Biosciences、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて全RNAを分離した。ランダムプライマー(Promega)を用いて、両採取源からの全RNA(各反応につき0.5μg)をcDNAに逆転写した。メーカーのプロトコルに従い、第1鎖の合成にはAMV逆転写酵素II酵素(各反応につき500単位;Promega)を、第2鎖の合成にはTfl DNAポリメラーゼ(各反応につき500単位;Promega)を用いた。それぞれの場合、各後続PCRにつきcDNAを50pg用いた。TaqMan Reverse Transcription SystemのMultiScribe Reverse TranscripataseおよびSYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、作製したcDNAに対して2段階QRT−PCRを実施した。
【0131】
DEFB1に対するプライマー対は公開DEFB1配列(GenBankアクセション番号U50930)から作製した。プライマー配列は以下の通りである:
QRT−PCRプライマーの配列
センス(5’−3’)
βアクチン 5’−CCTGGCACCCAGCACAAT−3’ 配列番号51
DEFB1 5’−GTTGCCTGCCAGTCGCCATGAGAACTTCCTAC−3’ 配列番号53
アンチセンス(5’−3’)
βアクチン 5’−GCCGATCCACACGGAGTACT−3’ 配列番号52
DEFB1 5’−TGGCCTTCCCTCTGTAACAGGTGCCTTGAATT−3’ 配列番号54
【0132】
アニーリング温度56℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてβアクチン(表2)を増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。DEFB1発現をDEFB1とβアクチンの相対発現比率として算出し、さらにDEFB1発現誘導細胞株と非誘導株、さらにはLCM良性前立腺組織と比較した。陰性対象として、cDNA鋳型を用いないQRT−PCR反応も実施した。全ての反応は3本ずつ3回実施した。
【0133】
MTT細胞生存率アッセイ:細胞の増殖に対するDEFB1の影響を検討するために、代謝3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを実施した。pVgRXRプラスミドおよびpIND/DEFB1構築物または空のpINDベクターを同時トランスフェクトしたPC3、DU145およびLNCaPを、96ウェルプレート上に1〜5×10細胞/ウェルで播種した。播種より24時間後、10μMポナステロンAを含有する新鮮な増殖培地を毎日添加してDEFB1発現を24、48および72時間誘導した後、メーカーの取扱説明書(Promega)に従ってMTT分析を実施した。反応は3本ずつ3回実施した。
【0134】
フローサイトメトリー:DEFB1発現系を同時トランスフェクトしたPC3およびDU145細胞を60mmの皿で培養し、10μMポナステロンAにより12、24および48時間誘導した。各インキュベーション時間後、(非付着細胞があれば保持するために)プレートから培地を採取し、プレートを洗うのに用いたPBSと合わせた。残りの付着細胞をトリプシン処理により回収し、さらに非付着細胞およびPBSと合わせた。次に細胞を4℃で5分間ペレット化し(500×g)、PBSで2回洗い、アネキシンV−FITC 5μLおよびPI 5μLを含む1×アネキシン結合バッファー(pH7.4の0.1M Hepes/NaOH、1.4M NaCl、25mM CaCl)100uLに再懸濁した。細胞を室温で遮光して15分間インキュベートし、その後1×アネキシン結合バッファー400μLで希釈し、FACスキャン(Becton Dickinson、カリフォルニア州サンホセ)で分析した。全ての反応は3回実施した。
【0135】
顕微鏡分析:位相差顕微鏡により細胞の形態を分析した。ベクターを含まないか、空のプラスミドまたはDEFB1プラスミドを含有するDU145、PC3およびLNCaP細胞を6ウェル培養プレートに播種した(BD Falcon、米国)。翌日、10μMポナステロンAを含有する培地でプラスミド含有細胞を48時間誘導する一方で、対照細胞には新鮮な培地を与えた。次に、細胞を倒立型Zeiss IM35顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ)の下で観察した。SPOT Insight Mosaic 4.2カメラ(Diagnostic Instruments、米国)を用いて、細胞の1視野の位相差写真を撮影した。倍率32倍の位相差顕微鏡で細胞を検査し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとし保存し、さらに画像処理およびハードコピーの提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems、カリフォルニア州サンホセ)にエクスポートした。
【0136】
カスパーゼの検出:APO LOGIX(商標)Carboxyfluorescin Caspase検出キット(Cell Technology、カリフォルニア州マウンテンビュー)を用いて、前立腺癌細胞株におけるカスパーゼ活性の検出を実施した。活性カスパーゼは、活性カスパーゼと不可逆的に結合するFAM−VAD−FMK阻害剤の使用によって検出した。簡便に述べると、DEFB1発現系を含有するDU145およびPC3細胞(1.5〜3×10)を35mmガラス底マクロウェル皿(Matek、マサチューセッツ州アッシュランド)に撒き、培地のみまたは前述したところのPonA含有培地で24時間処理した。次に、カルボキシフルオレセイン標識ペプチドフルオロメチルケトン(FAM−VAD−FMK)の30×作業希釈液10μLを培地300μLに添加し、35mm皿にそれぞれ加えた。次に、細胞を5%CO下において37℃で1時間インキュベートした。次に、培地を吸引し、1×作業用洗浄バッファー希釈液2mLで細胞を2回洗った。細胞を、微分干渉コントラスト(DIC)または488nmのレーザー励起の下で観察した。共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 5 Pascal)および63×DIC油浸レンズをVario 2RGB Laser Scanning Moduleで用いて蛍光信号を分析した。
【0137】
統計解析:統計的な差は、対応のない数値に対するスチューデントのt検定を用いて評価した。両側計算によりp値を決定し、p値が0.05未満であれば統計的に有意であると見なした。
【0138】
(結果)
前立腺組織および細胞株におけるDEFB1発現:良性および悪性前立腺組織、hPrEC前立腺上皮細胞ならびにDU145、PC3およびLNCaP前立腺癌細胞におけるDEFB1発現レベルをQRT−PCRにより測定した。全ての良性臨床サンプルにおいてDEFB1発現が検出された。相対DEFB1発現の平均量は0.0073であった。さらに、hPrEC細胞におけるDEFB1相対発現は0.0089であった。良性前立腺組織サンプルとhPrECにおいて検出されたDEFB1発現には統計的な差がなかった(図1A)。前立腺癌細胞株における相対DEFB1発現レベルの分析により、DU145、PC3およびLNCaPにおけるレベルが有意に低いことが明らかとなった。さらなる基準点として、患者番号1215からの前立腺組織の隣接悪性切片における相対DEFB1発現を測定した。3つの前立腺癌細胞株に認められたDEFB1発現のレベルは、患者番号1215からの悪性前立腺組織と比較して有意差がなかった(図1B)。さらに、4サンプル全てにおける発現レベルは、内因性DEFB1発現がほとんど確認されない鋳型を含まない陰性対象に近かった(データは示さず)。DEFB1発現系をトランスフェクトした前立腺癌細胞株に対してもQRT−PCRを実施した。24時間の誘導時間後の相対発現レベルはDU145で0.01360、PC3で0.01503、かつLNCaPで0.138であった。ゲル電気泳動により増幅産物を検証した。
【0139】
良性、PINおよび癌を含むLCM組織領域に対してQRT−PCRを実施した。DEFB1の相対発現は良性領域で0.0146であるのに対し、悪性領域では0.0009であった(図1C)。これは94%の減少に相当し、有意な発現のダウンレギュレーションを再度証明する。さらに、PINの分析によりDEFB1発現レベルは70%の減少である0.044と判明した。患者番号1457における発現を、他の6例の患者の良性領域で認められた平均発現レベルと比較すると(図1A)、ほぼ2倍の発現に相当する比率1.997が明らかとなった(図1D)。しかし、良性組織における平均発現レベルと比較した発現比率はPINにおいて0.0595であり悪性組織において0.125であった。
【0140】
DEFB1は細胞膜透過性およびラフリングを引き起こす:前立腺癌細胞株におけるDEFB1発現を誘導したところDU145およびPC3の細胞数は低下したが、LNCaPの増殖には影響しなかった(図2)。陰性対照として、空のプラスミドを含有する全3種類の細胞株において増殖をモニタリングした。PonA添加後のDU145、PC3またはLnCaP細胞における細胞の形態には、観測可能な変化はなかった。さらに、DEFB1誘導の結果としてDu145およびPC3のいずれにも形態学的変化が発生した。この場合、細胞の外観はより円形でありかつ細胞死を示す膜ラフリングを呈した。両細胞株にはアポトーシス小体も存在していた。
【0141】
DEFB1発現により細胞生存率が低下する:MTTアッセイにより、PC3およびDU145細胞においてDEFB1による細胞生存率の低下が示されたが、LNCaP細胞に対する有意な影響は示されなかった(図3)。24時間後の相対的細胞生存率はDU145で72%およびPC3で56%であった。誘導から48時間後の分析ではDU145の細胞生存率が49%でありかつPC3における細胞生存率が37%であることが判明した。DEFB1発現から72時間後には、DU145およびPC3細胞における相対細胞生存率はそれぞれ44%および29%となった。
【0142】
DEFB1は後期前立腺癌細胞において迅速なカスパーゼ介在性アポトーシスを引き起こす:PC3およびDU145に対するDEFB1の作用が細胞分裂抑制性であるかあるいは細胞毒性であるか測定するためにFACS分析を実施した。通常の増殖条件下において、PC3およびDU145培養の90%以上が生存しておりかつ非アポトーシス(左下象限)でありかつアネキシンVまたはPIで染色されなかった。PC3細胞におけるDEFB1発現誘導後のアポトーシス細胞数(右下および右上象限)は12時間で合計10%、24時間で20%、かつ48時間で44%であった(図4B)。DU145細胞については、アポトーシス細胞は誘導より12時間で合計12%、24時間で34%、かつ48時間で59%であった(図4A)。PonAによる誘導後に空のプラスミドを含有する細胞においてアポトーシスの増加は認められなかった(データは示さず)。
【0143】
カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析によって測定した(図5)。DU145およびPC3細胞のDEEFB1発現を誘導し、活発なアポトーシスを被る細胞における緑色蛍光FAM−VAD−FMKのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。DIC下での細胞の分析により、0時間において生存可能な対照DU145(パネルA)、PC3(パネルE)およびLNCaP(パネルI)細胞の存在が示された。488nmの共焦点レーザーによって励起すると、検出可能な緑色染色は生成されず、DU145(パネルB)、PC3(パネルF)またはLNCaP(パネルJ)にカスパーゼ活性がないことが示された。24時間の誘導後、DU145(パネルC)、PC3(パネルG)およびLNCaP(パネルK)細胞はDIC下で再度可視となった。蛍光下の共焦点分析により、DU145(パネルD)およびPC3(パネルH)細胞においてカスパーゼ活性を示す緑色染色が判明した。しかし、LNCaP(パネルL)においては緑色染色がなく、DEFB1によるアポトーシスの誘導がないことが示された。
【0144】
結論として、この研究により前立腺癌におけるDEFB1の機能的役割が提供される。さらに、これらの所見よりDEFB1が腫瘍免疫に関与する生得免疫系の一部であることが示される。本実施例に提示するデータは、生理的レベルで発現されるDEFB1はAR−ホルモン不応性前立腺癌細胞に対して細胞毒性であるが、AR+ホルモン感受性前立腺癌細胞または正常前立腺上皮細胞に対してはそうでないことを証明する。DEFB1が正常前立腺細胞において細胞毒性を伴わずに構造的に発現されることを考慮すると、末期AR−前立腺癌細胞は自らをDEFB1細胞毒性に対して感受性とするような異なる表現型特性を有するかもしれない。したがって、DEFB1は後期前立腺癌の治療に対して有効な治療薬であり、また他の癌に対しても同様である可能性がある。
【実施例2】
【0145】
(PAX2発現のsiRNA介在性ノックダウンによりp53状態に依存しない前立腺癌細胞死が起こる)
本実施例は、p53遺伝子の状態が異なる前立腺癌細胞におけるRNA干渉によるPAX2発現阻害の効果を検討する。結果より、PAX2阻害によってp53状態とは無関係に細胞死がもたらされることが証明され、前立腺癌においてはPAX2によって阻害される追加的な腫瘍抑制遺伝子または細胞死経路が存在することが示される。
【0146】
(材料と方法)
PAX2のsiRNAサイレンシング:効率的な遺伝子サイレンシングを達成するために、ヒトPAX2 mRNA(アクセション番号NM_003989.1)を標的とした4つの相補的短鎖干渉性リボヌクレオチド(siRNA)のプールを合成した(Dharmacon Research、米国コロラド州ラファイエット)。4つのsiRNAの第2プールを内部標準として用い、PAX2 siRNAの特異性を試験した。合成した配列のうち2つはGL2ルシフェラーゼmRNA(アクセション番号X65324)を標的とし、2つは非配列特異的であった(表3)。siRNAをアニーリングするために、35Mの1本鎖をアニーリングバッファー(100mM酢酸カリウム、30mM HEPES−KOH pH7.4、2mM酢酸マグネシウム)において90℃で1分間インキュベートした後、37℃で1時間インキュベートした。表3:PAX2 siRNA配列
【0147】
【表3】

【0148】
ウェスタン分析:簡潔に述べると、トリプシン処理により細胞を回収し、PSBで2回洗った。メーカーの取扱説明書(Sigma)に従って溶解バッファーを調製し、その後細胞に添加した。オービタルシェーカー上において4℃で15分間インキュベーション後、細胞ライセートを採取し、12000×gで10分間遠心分離して細胞デブリをペレット化した。その後タンパク質を含有する上清を採取して定量した。次に、タンパク質抽出物25μgを8〜16%グラジエントSDS−PAGE(Novex)に装填した。電気泳動後にタンパク質をPVDF膜に転写し、その後TTBS(0.05%Tween20および100mM Tris−Cl)中5%脱脂粉乳液で1時間ブロッキングした。次に、ブロットを1:2000希釈ウサギ抗PAX2一次抗体(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートした抗ウサギ抗体(1:5000希釈;Sigma)と共に膜をインキュベートし、Alpha Innotech Fluorchem 8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いてシグナル検出を可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン一次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0149】
位相差顕微鏡分析:実施例1の記載に従い、位相差顕微鏡分析により、細胞増殖に対するPAX2ノックダウンの効果を分析した。
【0150】
MTT細胞毒性アッセイ:メーカーのプロトコル(Promega)に従い、Codebreakerトランスフェクション試薬を用いてDU145、PC3およびLNCaP細胞(1×10)にPAX2 siRNAプールまたは対照siRNAプール0.5μgをトランスフェクトした。次に、細胞懸濁液を希釈し、さらに1〜5×10細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、さらに2、4、または6日間増殖させた。培養後、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド、MTT(Promega)の着色ホルマザン生成物への変換を測定することにより細胞生存率を測定した。走査型マルチウェル分光光度計上で540nmにおける吸光度を読み取った。
【0151】
パンカスパーゼ検出:前立腺癌細胞株におけるカスパーゼ活性の検出は、実施例1の記載に従って実施した。
【0152】
定量的リアルタイムRT−PCR:PAX2 siRNA処理後のPC3、DU145およびLNCaP細胞株における遺伝子発現を確認するために、実施例1の記載に従って定量的リアルタイムRT−PCRを実施した。GAPDH(対照遺伝子)、BAX、BIDおよびBADのプライマー対は:
センス(5’−3’)
GAPDH 5’−CCACCCATGGCAAATTCCATGGCA−3’ 配列番号55
BAD 5’−CTCAGGCCTATGCAAAAAGAGGA−3’ 配列番号57
BID 5’−AACCTACGCACCTACGTGAGGAG−3’ 配列番号59
BAX 5’−GACACCTGAGCTGACCTTGG−3’ 配列番号61
アンチセンス(5’−3’)
GAPDH 5’−TCTAGACGGCAGGTCAGGTCAACC−3’ 配列番号56
BAD 5’−GCCCTCCCTCCAAAGGAGAC−3’ 配列番号58
BID 5’−CGTTCAGTCCATCCCATTTCTG−3’ 配列番号60
BAX 5’−GAGGAAGTCCAGTGTCCAGC−3’ 配列番号62
【0153】
反応はMicroAmp Optical 96−ウェル反応プレート(PE Biosystems)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回繰り返して得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。遺伝子発現は、プロアポトーシス遺伝子とGAPDH間の相対発現比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0154】
(結果)
PAX2タンパク質のsiRNA阻害:siRNAがPAX2 mRNAを有効にターゲティングしていることを確認するために、ウェスタン分析を実施して6日間の処理期間中のPAX2タンパク質発現レベルをモニタリングした。細胞に対してPAX2 siRNAのプールによるトランスフェクションを1ラウンド実施した。結果より、DU145(図6、パネルA)においては4日目まで、およびPC3においては6日目まで(図6、パネルB)にPAX2タンパク質のノックダウンが示されたことで、PAX2 mRNAの特異的ターゲティングが確認された。
【0155】
PAX2のノックダウンにより前立腺癌細胞の増殖が阻害される:培地のみ、陰性対照非特異的siRNAまたはPAX2 siRNAによる6日間処理後に細胞を分析した(図7)。DU145(パネルA)、PC3(パネルD)およびLNCaP(パネルG)細胞は、培地のみを含む培養皿において全て少なくとも90%のコンフルエントに達した。DU145(パネルB)、PC3(パネルE)およびLNCaP(パネルH)を陰性対照非特異的siRNAで処理しても細胞の増殖に影響せず、細胞はやはり6日後にコンフルエントに達した。しかし、PAX2 siRNAで処理したところ細胞数は有意に減少した。DU145細胞は約15%コンフルエント(パネルC)であり、PC3は10%コンフルエントに過ぎなかった(パネルF)。siRNA処理後のLNCaP細胞は5%コンフルエントであった。
【0156】
細胞毒性分析:2、4、および6日間曝露後に細胞生存率を測定し、さらに処理細胞の570〜630nm吸光度を未処理細胞のそれで割った比率として表す(図8)。2日間処理後の相対細胞生存率はLNCaPにおいて77%、DU145において82%、およびPC3において78%であった。4日後の相対的細胞生存率はLNCaPで46%、DU145で53%およびPC3で63%であった。6日間処理後の相対的細胞生存率はLNCaPで31%、PC3で37%およびDU145で53%まで低下した。陰性対照として、陰性対照非特異的siRNAまたはトランスフェクション試薬のみによる6日間処理後に細胞生存率を測定した。いずれの条件についても、通常増殖培地と比較して細胞生存率に統計的に有意な変化はなかった。
【0157】
パンカスパーゼ検出:カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析法によって検出した。DU145、PC3およびLNCaP細胞をPAX2 siRNAで処理し、蛍光緑色となる活発なアポトーシスを被る細胞におけるFAM標識ペプチドのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。培地のみで処理した細胞のDIC分析により、0時間における生存可能なDU145(A)、PC3(E)およびLNCaP(I)細胞の存在が示される(図9)。488nmの共焦点レーザーによって励起したところ、検出可能な緑色染色は生成されず、未処理DU145(B)、PC3(F)またはLNCaP(J)にカスパーゼ活性がないことが示される。PAX2 siRANによる4日間処理後、DU145(C)、PC3(G)およびLNCaP(K)細胞はDIC下で再度可視となった。蛍光下で、処理されたDU145(D)、PC3(H)およびLNCaP(L)細胞は、カスパーゼ活性を示す緑色染色を呈した。
【0158】
PAX2阻害のプロアポトーシス因子に対する影響:DU145、PC3およびLNCaP細胞をPAX2に対するsiRNAで6日間処理し、p53転写調節依存性および非依存性プロアポトーシス遺伝子の発現を測定し、細胞死経路をモニタリングした。BAXについては、LNCaPにおいては1.81倍、DU145においては2.73倍、およびPC3においては1.87倍の増加があった(図10、パネルA)。BIDの発現レベルはLNCaPにおいて1.38倍およびDU145において1.77倍増加した(図10、図B)。しかしPC3においては、BID発現レベルは処理後に1.44分の1に低下した(図10、パネルC)。BADの分析により、LNCaPにおいては2.0倍、DU145については1.38倍、およびPC3については1.58倍の発現増加が判明した。
【0159】
これらの結果より、前立腺癌細胞の生存がPAX2発現に依存性であることが証明される。p53発現細胞株LNCaP、p53突然変異株DU145、およびp53欠損株PC3においてPAX2ノックダウンの結果としてp53が活性化され、その後いずれの細胞株においてもカスパーゼ活性が検出され、プログラム細胞死が開始することが示された。BAX発現は、3細胞株のいずれにおいてもp53状態非依存的にアップレギュレートされた。プロアポトーシス因子BADの発現も、PAX2阻害後に3細胞株の全てにおいて増加した。PAX2 siRNA処理後、BID発現はLNCaPおよびDU145において増加したものの、実はPC3細胞において低下した。これらの結果より、前立腺癌において認められた細胞死はp53発現の影響は受けるものの、これに依存しないことが示された。前立腺癌細胞におけるアポトーシスはp53状態と無関係に他の細胞死経路によって開始することから、PAX2が他の腫瘍抑圧因子を阻害することが示される。
【実施例3】
【0160】
(PAX2癌遺伝子の阻害は前立腺癌細胞のDEFB1介在性細胞死をもたらす)
新規癌治療薬の開発の標的として役立つ腫瘍特異的分子の同定は、癌研究における主要な目標であると見なされている。実施例1は、前立腺癌において高頻度のDEFB1発現の低下があること、およびDEFB1発現の誘導はアンドロゲン受容体陰性ステージ前立腺癌において迅速なアポトーシスをもたらすことを証明した。これらのデータは、DEFB1が前立腺腫瘍抑制において役割を果たすことを示す。さらに、天然に発生する正常前立腺上皮の免疫系の成分であることを考慮すれば、DEFB1はほとんど副作用のない有効な治療薬となると期待される。実施例2は、PAX2発現阻害によりp53に非依存的な前立腺癌細胞死がもたらされることを証明した。これらのデータは、PAX2によって阻害される追加プロアポトーシス因子または腫瘍抑圧因子があることを示す。さらに、データより前立腺癌において過剰発現している発癌因子PAX2がDEFB1の転写リプレッサーであることが示される。本試験の目的は、DEFB1発現の低下がPAX2癌遺伝子の異常発現によるものであるか、およびPAX2を阻害することによってDEFB1の発現およびDEFB1介在性細胞死がもたらされるか否かを測定することである(図11)。
【0161】
(材料と方法)
RNAの分離および定量的RT−PCR:RNAの分離およびDEFB1の定量的RT−PCRは、実施例1の記載に従って実施した。
【0162】
DEFB1レポーター構築物の作製:pGL3ルシフェラーゼレポータープラスミドを用いてDEFB1レポーター活性をモニタリングした。この場合、DEFB1転写開始部位から160塩基上流の領域はDEFB1 TATAボックスを含んだ。領域はPAX2結合に必要なCCTTG(配列番号1)配列も含んだ。PCRプライマーはKpn1およびNhe1制限部位を含むよう設計した。DEFB1プロモーターのPCR産物をKpnIおよびNheIで制限消化し、さらに同様に制限消化したpGL3プラスミドにライゲーションした(図12)。構築物をE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択および拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりDEFB1/pGL3構築物の配列完全性を再度検証した。
【0163】
ルシフェラーゼレポーター分析:この場合、DEFB1レポーター構築物または対照pGL3プラスミド1μgを1×10個のDU145細胞にトランスフェクトした。次に、0.5×10個の細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種し、1晩増殖させた。次に、PAX2 siRNAを含む新鮮培地または培地のみを添加し、細胞を48時間インキュベートした。メーカーのプロトコル(Promega)に従い、BrightGloキットによりルシフェラーゼを検出し、さらにプラスミドをVeritas自動96ウェルルミノメーターで読み取った。プロモーター活性は関連する発光として表した。
【0164】
膜透過性の分析:アクリジンオレンジ(AO)/臭化エチジウム(EtBr)二重染色を実施し、凝集クロマチン染色により細胞膜完全性の変化、およびアポトーシス細胞を鑑別した。AOは生存細胞および初期のアポトーシス細胞を染色する一方、EtBrは膜透過性を喪失した後期アポトーシス細胞を染色する。簡潔に述べると、細胞を2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON、米国)に播種した。空のpINDプラスミド/pvgRXRまたはpIND DEFB1/pvgRXRでトランスフェクトした細胞を、10μMポナステロンAを含む培地により24または48時間誘導した。対照細胞には24および48時間後に新鮮培地を供給した。膜完全性に対するPAX2阻害の効果を測定するために、DU145、PC3およびLNCaPを含む別個の培養スライドをPAX2 siRNAで処理しさらに4日間インキュベートした。この後、細胞をPBSで1回洗いさらにAO(Sigma、米国)とEtBr(Promega、米国)の混合溶液(1:1)(5ug/mL)2mLで5分間染色した。染色後、細胞を再度PBSで洗った。Zeiss LSM 5 Pascal Vario 2レーザースキャニング共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ・イェナ)で蛍光を観察した。励起カラーホイールは、AOから発光した緑色光は緑色チャネルに、EtBrからの赤色光は赤色チャネルに分離させるためのBS505−540(緑色)およびLP560(赤色)フィルターブロックを含む。各個別の実験内のレーザー出力およびゲイン制御設定は対照とDEFB1誘導細胞の間で同一であった。AOについては波長543nmおよびEtBrについては488nmの波長でKr/Ar混合ガスレーザーにより励起を提供した。スライドを倍率40倍の位相差顕微鏡で分析し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとし保存し、画像処理およびハードコピー提示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems、カリフォルニア州サンホセ)にエクスポートした。
【0165】
PAX2のChIP分析:クロマチン免疫沈降(ChIP)により、転写因子によるプロモーターのインビボ占有および免疫沈降による転写因子結合クロマチンの集積に基づくDNA結合性タンパク質の結合部位の同定が可能となる。Farnham研究所が報告したプロトコルの変法を用いた;http://mcardle.oncology.wisc.edu/farnham/においてオンライン閲覧もできる)。DU145およびPC3細胞株はPAX2タンパク質を過剰発現するが、DEFB1は発現しない。細胞を1.0%ホルムアルデヒドを含有するPBSで10分間インキュベートし、タンパク質をDNAに架橋させた。その後サンプルを超音波処理して平均長600bpのDNAを得た。事前にプロテインAダイナビーズで清澄化した超音波処理クロマチンをPAX2特異抗体または「無抗体」対照[アイソタイプでマッチングした対照抗体]と共にインキュベートした。その後洗った免疫沈降物を採取した。架橋を元に戻した後、プロモーター特異的プライマーを用いてDNAをPCRで分析し、PAX2免疫沈降サンプル中にDEFB1が示されるか否か測定した。プライマーは、DEFB1 TATAボックスおよび機能的CCTTG(配列番号1)PAX2認識部位を含むDEFB1 mRNA開始部位よりすぐ上流の160bp領域を増幅するよう設計された。これらの研究については、陽性対照に(免疫沈降の前であるが架橋は戻してある)入力クロマチンの一部のPCRを含めた。全ての手順はプロテアーゼ阻害剤の存在下で実施した。
【0166】
(結果)
PAX2タンパク質のsiRNA阻害はDEFB1発現を増加する:siRNA処理前のDEFB1発現のQRT−PCR分析により、相対発現レベルがDU145で0.00097、PC3で0.00001、およびLNCaPでは0.00004であることが判明した(図13)。PAX2のsiRNAノックダウン後は、相対発現はDU145で0.03294(338倍増加)、PC3で0.00020(22.2倍増加)およびLNCaPにおいて0.00019(4.92倍増加)であった。陰性対照として、PAX2欠損株であるヒト前立腺上皮細胞株(hPrEC)は処理前の発現レベルが処理前は0.00687かつsiRNA処理後は0.00661と判明し、DEFB1発現に統計的変化がないことが確認された。
【0167】
PAX2のsiRNA阻害はDEFB1プロモーター活性を増加する:図14はPAX2阻害によってDEFB1プロモーター活性が増加することを示す。PC3プロモーター/pGL3およびDU145プロモーター/pGL3構築物を作製し、それぞれPC3およびDU145細胞にトランスフェクトした。siRNAによるPAX2阻害の前後のプロモーター活性を比較した。処理後のDEFB1プロモーター活性はDU145で2.65倍およびPC3で3.78倍増加した。
【0168】
DEFB1は細胞膜透過性を引き起こす:共焦点分析法によって膜完全性をモニタリングした。図15に示すように、無傷の細胞は膜透過性であるAOにより緑色に染色される。さらに、原形質膜が崩壊した細胞は膜非透過性であるEtBrによって赤色に染色されるであろう。未誘導DU145(A)およびPC3(D)細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。しかしDU145(B)およびPC3(E)におけるDEFB1の誘導は、いずれも24時間後に赤色染色で示される細胞質へのEtBrの蓄積をもたらした。48時間後までに、DU145(C)およびPC3(F)は核が凝集し見かけ上黄色となるが、これはAOおよびEtBrの蓄積が原因でそれぞれ緑色および赤色染色が共存することによる。
【0169】
PAX2の阻害によって膜透過性がもたらされる:細胞をPAX2 siRNAで4日間処理し、さらに共焦点分析により膜完全性を再度モニタリングした。図16に示すように、DU145およびPC3は共に凝集した核を有し、見かけ上黄色となった。しかし、LNCaP細胞の細胞質および核はsiRNA処理後も緑色のままであった。細胞周辺部の赤色染色も、細胞膜の完全性の維持を示す。これらの所見は、PAX2の阻害によって、DU1145およびPC3においては特異的にDEFB1介在性細胞死が起こるが、LNCaP細胞では起こらないことを示す。LNCaPにおいて認められる死は、LNCapにおけるPAX2阻害後の既存の野生型p53のトランス活性化によるものである。
【0170】
PAX2はDEFB1プロモーターと結合する:DU145およびPC3細胞に対してChIP分析を実施し、PAX2転写リプレッサーがDEFB1プロモーターと結合するか測定した(図17)。レーン1は分子量100bpのマーカーを含む。レーン2は、架橋および免疫沈降前にDU145から増幅したDEFB1プロモーターの160bp領域を表す陽性対照である。レーン3は、DNAを用いずに実施したPCRを表す陰性対照である。レーン4および5は、それぞれ架橋したDU145およびPC3由来のIgGを用いて実施した免疫沈降物からのPCRを表す陰性対照である。架橋後に抗PAX2抗体で免疫沈降したDNA25pg(レーン6および8)および50pg(レーン7および9)のPCR増幅は、それぞれDU145およびPC3において160bpのプロモーターフラグメントを示す。
【0171】
図18はDNAを有するPrdPDおよびPrdHDの予測構造を示す。DNAと結合したPrdPD(Xu et al.,1995)とDNAと結合したPrdHD(Wilson et al.,1995)の構造の座標を用い、2つのドメインがPH0部位と結合した際のそのモデルを構築した。指定された特定の向きで相互に隣接するように個々の結合部位を配置する。REDドメインは、PrdPD結晶構造に基づいて向きを決めた。
【0172】
図19は各ペアードドメインのコンセンサス配列の比較を示す。図面の上部には、Prd−ペアードドメインアDNA複合体の結晶構造分析で報告されているタンパク質アDNA接点の模式図を示す。白いボックスはaヘリックスを示し、網掛けボックスはb−シート、太線はb−ターンを示す。接触するアミノ酸は1文字コードで示す。直接アミノ酸±塩基接点のみを示す。白丸は主な主溝接点を示し、同時に赤い矢印は副溝接点を示す。このスキームを、ペアードドメインタンパク質の全既知のコンセンサス配列と整列させる(トップストランドのみを示す)。コンセンサス配列間の縦線は保存塩基対を示す。図の下部に位置番号を示す。
【0173】
これらの結果は、発癌因子PAX2がDEFB1発現を抑制することを証明する。抑制は転写レベルで発生する。さらに、DEFB1プロモーターのコンピュータ分析により、DEFB1 TATAボックスに隣接するPAX2転写リプレッサーに対するCCTTG(配列番号1)DNA結合部位の存在が明らかとなった(図1)。ディフェンシン細胞毒性の証拠の1つは、膜完全性の破壊である。これらの結果より、前立腺癌細胞においてDEFB1が異所性発現すると、細胞膜の崩壊が原因となって膜電位が減少することが示される。同じ現象はPAX2タンパク質発現の阻害後にも認められる。したがって、PAX2発現または機能の抑制によって、DEFB1発現が再確立し、かつその後DEFB1介在性細胞死が発生する。また、この結果より、生得免疫を介した前立腺癌治療、および潜在的に他の癌治療のための治療法としてのDEFB1の有用性が確立される。
【実施例4】
【0174】
(移植腫瘍細胞におけるDEFB1発現の影響)
DEFB1の抗腫瘍能力を、DEFB1を過剰発現した腫瘍細胞をヌードマウスに注射することによって評価する。両方向テトラサイクリン応答性プロモーターを有するpBI−EGFPベクターにDEFB1をクローニングする。Tet−Off細胞株は、pTet−OffをDU145、PC3およびLNCaP細胞にトランスフェクトし、さらにG418で選択することによって作製される。pBI−EGFP−DEFB1プラスミドはpTK−Hygと共にTet−off細胞株に同時トランスフェクトし、ハイグロマイシンによって選択する。生存率>90%の単一細胞懸濁液のみを用いた。各動物に対し、約500,000個の細胞を雌性ヌードマウスの右側腹部に皮下投与する。ベクターのみのクローンを投与された対照群およびDEFB1を過剰発現するクローンを注射された群の2群がある。統計学者の判定に従い、各群マウス35匹とする。動物は週2回体重測定し、キャリパーで腫瘍増殖をモニタリングし、さらに以下の式を用いてに腫瘍体積を測定する:体積=0.5×(幅)×長さ。全ての動物は、腫瘍のサイズが2mmに達した時または移植より6ヶ月後にCO過剰投与によって屠殺し;腫瘍を切除し、秤量し、病理検査のために中性緩衝化ホルマリンに保存する。腫瘍の成長の群間差を、要約統計量および図面表示により記述的にキャラクタライゼーションする。統計的有意性は、t検定またはノンパラメトリックな同等法のいずれかで評価する。
【実施例5】
【0175】
(移植腫瘍細胞に対するPAX2 siRNAの作用)
インビトロ試験で用いたヘアピンPAX2 siRNA鋳型オリゴヌクレオチドを用いて、インビボでDEFB1発現アップレギュレーションの影響を検討する。センスおよびアンチセンス鎖(表3参照)をアニーリングし、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーターの制御の下で、pSilencer 2.1 U6 hygro siRNA発現ベクター(Ambion)にクローニングする。クローン化プラスミドをシーケンシングし、検証し、PC3、Du145およびLNCap細胞株にトランスフェクトする。スクランブルshRNAをクローニングし、本試験における陰性対照として用いる。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、マウスに細胞を皮下導入し、さらに腫瘍の成長を上述の通りにモニタリングする。
【実施例6】
【0176】
(小分子PAX2結合阻害剤の移植腫瘍細胞に対する作用)
PAX2結合についてのDNA認識配列は、ヌクレオチド−75と−71の間のDEFB1プロモーター内に存在する(+1は転写開始部位を表す)。PAX2 DNA結合ドメインに相補的な短鎖オリゴヌクレオチドが提供される。そのようなオリゴヌクレオチドの例は、以下で提供されるCCTTG(配列番号1)認識配列を含む20量体および40量体オリゴヌクレオチドを含む。これらの鎖長は無作為に選択したが、他の鎖長は結合遮断剤として有効であると予測される。陰性対照としてスクランブル配列(CTCTG)(配列番号22)を有するオリゴヌクレオチドを設計して特異性を検証した。オリゴヌクレオチドは、Lipofectamine試薬またはCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)によって前立腺癌細胞およびHPrEc細胞にトランスフェクトする。DNA−タンパク質相互作用を確認するために、2本鎖オリゴヌクレオチドを[32P]dCTPで標識し、電気泳動移動度シフトアッセイを実施する。さらに、オリゴヌクレオチドで処理した後にQRT−PCRおよびウェスタン分析によりDEFB1発現をモニタリングする。最後に、前述のようにMTTアッセイおよびフローサイトメトリーにより細胞死を検出する。
認識配列No.1:CTCCCTTCAGTTCCGTCGAC(配列番号18)
認識配列No.2:CTCCCTTCACCTTGGTCGAC(配列番号19)
スクランブル配列No.1:CTCCCTTCACTCTGGTCGAC(配列番号23)
認識配列No.3:ACTGTGGCACCTCCCTTCAGTTCCGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号20)
認識配列No.4:ACTGTGGCACCTCCCTTCACCTTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号21)
スクランブル配列No.2:ACTGTGGCACCTCCCTTCACTCTGGTCGACGAGGTTGTGC(配列番号24)
【0177】
本発明のオリゴヌクレオチドのさらなる例は以下のものを含む:
認識配列No.1:5’−AGAAGTTCACCCTTGACTGT−3’(配列番号25)
認識配列No.2:5’−AGAAGTTCACGTTCCACTGT−3’(配列番号26)
スクランブル配列No.1:5’−AGAAGTTCACGCTCTACTGT−3’(配列番号27)
認識配列No.3:
5’−TTAGCGATTAGAAGTTCACCCTTGACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号28)
認識配列No.4:
5’−GTTAGCGATTAGAAGTTCACGTTCCACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号29)
スクランブル配列No.2:
5’−GTTAGCGATTAGAAGTTCACGCTCTACTGTGGCACCTCCC−3’(配列番号30)
【0178】
この代替的な阻害性オリゴヌクレオチド群は、PAX2結合ドメインおよびホメオボックスに対する認識配列に相当する。これらはDEFB1プロモーターに由来する実際の配列を含む。
【0179】
PAX2遺伝子は、前立腺を含む多様な癌細胞の増殖および生存のために必要とされる。さらに、PAX2発現の阻害によって生得的免疫成分DEFB1を介した細胞死が起こる。DEFB1発現および活性の抑制は、PAX2タンパク質のDEFB1プロモーター内CCTTG(配列番号1)認識部位との結合によって完遂される。したがって、この経路は前立腺癌の治療に有効な治療的標的を提供する。この方法においては、配列はPAX2 DNA結合部位と結合し、さらにPAX2とDEFB1プロモーターの結合を遮断することによって、DEFB1発現および活性を可能とする。上述のオリゴヌクレオチド配列および実験は、さらなるPAX2阻害薬の設計のための実施例でありかつそのためのモデルを示す。
【0180】
インターロイキン−3、インターロイキン−4、インスリン受容体などにCCTTG(配列番号1)配列が存在することを考慮すると、PAX2はその発現および活性も調節する。したがって、本明細書に開示のPAX2阻害剤は、前立腺炎などの炎症および良性前立腺肥大(BPH)と関連した方向のものを含む数多くの他の疾患においても有用性を有する。
【実施例7】
【0181】
(DEFB1発現の減少によって発癌が増加する)
機能低下マウスの作製:Cre/loxPシステムは、前立腺発癌の基盤をなす分子的機構の解明において有用となっている。この場合、前立腺内における誘導崩壊にDEFB1 Cre条件付きKOが用いられている。DEFB1 Cre条件付きKOは、DEFB1コードエクソンを挟むloxP部位を含むターゲティングベクターの作製、このベクターを有する標的ES細胞、およびのこれらの標的ES細胞からの生殖細胞系列キメラマウスの作製を包含する。ヘテロ接合体を前立腺特異的Creトランスジェニック体と交配し、ヘテロ接合体交雑雑種を用いて前立腺特異的DEFB1 KOマウスを作製する。4つの遺伝毒性化学化合物がげっ歯類に前立腺癌を誘発することが確認されている:N−メチル−N−ニトロソ尿素(MNU)、N−ニトロソビス2−オキソプロピルアミン(BOP)、3,2X−ジメチル−4−アミノ−ビフェニル(MAB)および2−アミノ−1−メチル−6−フェニルイミダゾール4,5−ビピリジン(PhIP)。DEFB1−トランスジェニックマウスは、前立腺腫および腺癌誘発試験用にこれらの発癌化合物を胃内投与または静脈内注射して処理する。組織学、免疫組織学、mRNAおよびタンパク質分析により腫瘍増殖の差異および遺伝子発現の変化について前立腺サンプルを試験する。
【0182】
GOFマウスの作製:PAX2誘導可能GOFマウスについては、PAX2 GOF(バイトランスジェニック)および野生型(モノトランスジェニック)の同腹仔に対し、5週齢よりドキシサイクリン(Dox)を投与して前立腺特異性PAX2発現を誘発する。簡潔に述べると、PROBASIN−rtTAモノトランスジェニックマウス(tet依存性rtTA誘導物質の前立腺細胞特異性発現)を我々のPAX2トランスジェニック応答動物系と交配した。バイトランスジェニックマウスに対し、誘導のために飲料水よりDoxを給餌した(週2回500μg/Lを新たに調製して投与)。バイトランスジェニックマウスにおけるトランスジェニックファウンダー系統を用い、初回の実験より低いバックグラウンドレベル、良好な誘導性ならびにPAX2およびEGFPレポーターの細胞型特異的発現を確認する。実験群のサイズについては、各群(野生型およびGOF)において年齢および性別でマッチングした5〜7個体によって統計的有意性を考慮する。本試験における全動物について、始めに分析および比較のために前立腺組織を1週間おきに採取し、発癌時間パラメーターを決定する。
【0183】
PCR遺伝子型決定、RT−PCRおよびqPCR:以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、PROBASIN−rtTAトランスジェニックマウスの遺伝子型を決定する:
PROBASIN5(フォワード)5’−ACTGCCCATTGCCCAAACAC−3’(配列番号31);
RTTA3(リバース)5’−AAAATCTTGCCAGCTTTCCCC−3’(配列番号32);
95℃で5分間変性、その後95℃で30秒、57℃で30秒、72℃で30秒の30サイクル、その後72℃で5分間伸長し、600bp産物を回収。以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、PAX2誘導可能トランスジェニックマウスの遺伝子型を決定する:
PAX2フォワード5’−GTCGGTTACGGAGCGGACCGGAG−3’(配列番号33);
逆5IRES 5’−TAACATATAGACAAACGCACACCG−3’(配列番号34);
95℃で5分間変性、その後95℃で30秒、63℃で30秒、72℃で30秒の34サイクル、その後72℃で5分間伸長し、460bp産物を回収。
【0184】
以下のPCRプライマーおよび条件を用いて、immortoマウスヘミ接合体の遺伝子型を決定する:Immol1、5’−GCGCTTGTGTC GCCATTGTATTC−3’(配列番号35);Immol2,5’−GTCACACCACAGAAGTAAGGTTCC−3’(配列番号36);
94℃で30秒、58℃で1分、72℃で1分30秒、30サイクルで約1kb導入遺伝子バンドを得る。PAX2ノックアウトマウスの遺伝子型を決定するために、以下のPCRプライマーおよび条件を用いる:
PAX2フォワード5’−GTCGGTTACGGAGCGGACCGGAG−3’(配列番号37);
PAX2リバース5’−CACAGAGCATTGGCGATCTCGATGC−3’(配列番号38);
94℃1分、65℃1分、72℃30秒、36サイクルで280bpバンドを得る。
【0185】
DEFB1ペプチド動物試験:Charles River Laboratoriesより購入した6週齢の雄性胸腺欠損(ヌード)マウスの肩甲骨皮下に、10個の生存PC3細胞を注射する。注射より1週間後、動物を3群のうち1群に無作為割り付けする−I群:対照;II群:DEFB1を100μg/日、週5日、2〜14週間腹腔内注射;III群:DEFB1を100μg/日、週5日、8〜14週間腹腔内注射。動物は、1ケージにつき4匹として無菌飼育で維持し、毎日観察する。腫瘍は10日おきにキャリパーを用いて測定し、腫瘍の体積はV=(L×W)/2を用いて算出した。
【実施例8】
【0186】
(上皮内腫瘍および癌の化学予防を目的としたPAX2発現のターゲティング)
癌化学予防は、癌の予防、もしくは前癌状態またはさらにより早期における治療と定義される。侵襲性癌への進行期間が長いことは重要な科学的機会であるが、化学予防薬候補の臨床的利点を示すことに対する経済的な障害でもある。したがって、近年の化学予防薬開発研究の重要な構成要素は、薬剤の臨床的利益または癌発生率減少効果を正確に予測する(癌より)早期のエンドポイントまたはバイオマーカーを特定することとなっている。多くの癌において、IENは前立腺癌などの早期エンドポイントである。PAX2/DEFB1経路がIEN中に、およびおそらくより早期の病理組織学的状態で調節解除されることを考慮すれば、これは強力な予測的バイオマーカーかつ癌化学予防のためのすぐれた標的となる。前立腺癌に対する化学予防薬としての有用性を有しうる、PAX2を抑制しかつDEFB1発現を高める数多くの化合物が示される。
【0187】
表1に示すように、PAX2遺伝子は数多くの癌において発現される。さらに、数種類の癌が異常PAX2発現を有することが示されている(図20)。アンジオテンシンII(AngII)は、血圧および心血管系恒常性の主な調節因子であり、かつ強力なマイトジェンとして認識されている。AngIIは、G−タンパク質共役受容体スーパーファミリーに属するが組織分布および分子内シグナリング経路が異なる2つの受容体サブタイプ、アンジオテンシンI型受容体(AT1R)およびアンジオテンシンII型受容体(AT2R)と結合することより、その生物学的効果を媒介する。AngIIは、その血圧に対する効果に加えて、創傷治癒などの組織リモデリング、心肥大および発生を包含する多様な病理的状況においてある役割を果たすことが示されている。実際に、前立腺を含む多様な癌細胞および組織におけるレニンーアンジオテンシン系(RAS)のいくつかの成分の局所的発現が、最近の研究で明らかになっている。AT1Rのアップレギュレーションは、アポトーシスおよび増殖調節因子を回避することを学習した癌細胞に対して相当な利点をもたらす。今日、数多くの癌がPAX2を異常に発現していることが示されている。標的PXA2発現を介した化学予防は、癌関連死亡に対して大きな影響をもたらしうる
【0188】
(材料と方法)
細胞培養:細胞株DU145、LnCapおよびPC3は、実施例1の記載に従って培養した。hPrEC細胞は前立腺上皮基礎培地(Cambrex Bio Science Inc.、メリーランド州ウォーカーズビル)中で培養し、37℃かつ5%COで維持した。
【0189】
試薬および処理:細胞は、5または10uM AngII、5uM ATR1拮抗剤Los、5uM ATR2拮抗剤PD123319、25uM MEK阻害剤U0126、20uM MEK/ERK阻害剤PD98059もしくは250μM AMPキナーゼ誘発物質AICARで処理した。
【0190】
ウェスタン分析:ウェスタンブロットは実施例2の記載に従って実施した。次にブロットを、1:1000〜2000希釈の一次抗体(抗−PAX2、−ホスホPAX2、−JNK、−ホスホJNK、−ERK1/2または−ホスホERK1/2)(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(1:5000希釈;Sigma)とコンジュゲートした抗ウサギ抗体と共に膜をインキュベートし、アルファイノテックフルオロケム8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いてシグナル検出を可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン1次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0191】
QRT−PCR分析:PC3およびDU145前立腺細胞株ならびにLNCaP正常前立腺上皮細胞株におけるPAX2ノックダウン後の遺伝子発現における変化を確認するために、実施例1の記載にしたがって定量的リアルタイムRT−PCRを実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回繰り返して得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。相対発現は、各遺伝子とGAPDHの比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。
【0192】
チミジン取り込み:細胞の増殖は、[H]チミジンリボチド([H]TdR)のDNAへの取り込みによって測定した。DU145細胞の0.5×10個/ウェル懸濁液をその適切な培地に撒いた。細胞は、指示された濃度のAngIIの存在下または非存在下で72時間インキュベートした。細胞を同一培地中で37kBq/mL[メチル−H]チミジンに6時間曝露した。付着細胞を5%トリクロロ酢酸で固定し、SDS/NaOH溶解バッファーで1晩溶解した。Beckman LS3801液体シンチレーションカウンター(カナダ)で放射能を測定した。懸濁細胞培養は、セルハーベスター(Packard instrument Co.、コネティカット州メリデン)で回収し、また1450 microbeta 液体シンチレーションカウンター(PerkinElmer Life Sciences)で放射能を測定した。
【0193】
(結果)
DU145前立腺癌細胞におけるPAX2に対するAngIIの影響を検討するために、AngIIで30分から48時間にわたって処理した後にPAX2発現を検討した。図21に示すように、PAX2発現はAngII処理後に時間と共に徐々に増加した。LosでDU145を処理することでRASシグナリングを遮断すると、PAX2発現は有意に低下した。この場合、未処理DU145細胞と比較したLos処理より48時間後のPAX2発現は37%であり、72時間後は50%であった(図22A)。AT2R受容体がAT1Rの作用を妨害することは公知である。したがって、AT2R受容体の遮断がPAX2発現にもたらす影響を検討した。DU145をAT2R遮断剤PD123319で処理することにより、PAX2発現は48時間処理後に7倍、96時間後に8倍上昇した(図22B)。まとめると、これらの所見よりPAX2発現はATR1受容体によって調節されることが証明される。
【0194】
AngIIがAT1R介在性MAPK活性化およびSTAT3のリン酸化を経て前立腺癌細胞の増殖に直接影響することは公知である。DU145をAngIIで処理したところ増殖率は2から3倍増加した(図23)。しかし、Losで処理することによって増殖率は50%低下した。さらに、Losで30分間前処理することでAT1R受容体を遮断したところ、AngIIの増殖に対する影響が抑制された。
【0195】
PAX2発現および活性化の調節におけるAT1Rシグナリングの役割をさらに検討するために、多様なMAPキナーゼシグナリング経路成分の遮断によるPAX2発現への影響を検討した。この場合、MEK阻害剤U0126でDU145細胞を処理したところPAX2発現が有意に低下した(図24)。さらに、MEK/ERK阻害剤PD98059で処理してもPAXは低下した。DU145細胞をLosで処理してもERKタンパク質レベルには影響がないが、ホスホERKの量は低下した(図25A)。しかし、DU145をLosで処理するとPAX2発現は有意に減少した。U0126およびPD98059によっても同様の結果が認められた(図25B)。PAX2発現はERKの下流の標的であるSTAT3によって調節されることも公知である。DU145をLos、U0126、およびPD98059で処理したところホスホSTAT3タンパク質レベルが低下した(図25C)。これらの結果は、前立腺癌細胞においてPAX2はAT1Rを介して調節されることを証明する。
【0196】
さらに、JNKによるPAX2活性化に対するAT1Rシグナリングの影響を検討した。DU145をLos、U0126、およびPD98059で処理したところ、いずれもホスホPAX2タンパク質レベルが有意に低下するかまたは抑制された(図26A)。しかし、LosおよびU0126はホスホJNKタンパク質レベルを低下させなかった(図26B)。したがって、ホスホPAX2の低下はPAX2レベルの低下よるものであって、リン酸化の低下によるものではないとみられる。
【0197】
5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド−1−β−4−リボフラノシド(AICAR)は、エネルギー恒常性および代謝ストレスに対する応答を調節するAMPキナーゼ活性化物質として幅広く用いられる。最近の報告では、活性化AMPKの抗増殖およびプロアポトーシス作用が、薬剤またはAMPK過剰発現を用いて示されている。AMPK活性化は、脂肪酸シンターゼ経路の阻害ならびにストレスキナーゼおよびカスパーゼ3の誘導を含む多様な機構によって、ヒト胃癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌、膵臓細胞および肝臓癌細胞においてアポトーシスを誘導し、かつマウス神経芽細胞において酸化ストレス誘導アポトーシスを亢進させることが示されている。さらに、PC3前立腺癌細胞を処理したところ、p21,p27およびp53タンパク質の発現およびPI3K−Akt経路の阻害が増加した。これらの経路はいずれもPAX2によって直接的または間接的に調節される。前立腺癌細胞をAICARで処理したところ、PAX2発現(図25B)、さらにはその活性化体ホスホPAX2(図26A)が抑制された。さらに、PAX2発現を調節するホスホSTAT3も抑制された(図25C)。
【0198】
最後に、PAX2のアップレギュレーションおよび過剰発現につながる異常RASシグナリングがDEFB1腫瘍抑制因子遺伝子の発現を抑制するという仮説が立てられた。これを検討するために、正常前立腺上皮一次培養hPrECをAngIIで処理し、さらにPAX2およびDEFB1発現レベルを検討した。前立腺癌細胞に対する正常前立腺細胞において、DEFB1とPAX2発現の間の逆関係が発見された。図27に示すように、未処理hPrECは、PC3前立腺癌細胞における発現と比較して10%の相対PAX2発現を示した。逆に、未処理PAX2は、hPrECにおける発現と比較してわずか2%の相対DEFB1発現を示した。10uM AngIIによる72時間処理後、DEFB1発現は未処理hPrECと比較して35%低下し、96時間後までにDEFB1発現は未処理hPrECと比較して50%低下した。しかし、未処理hPrEC細胞と比較して、PAX2発現は72時間で66%増加し、96時間後までにPAX2発現は79%増加した。さらに、hPrECにおける72時間後のPAX2発現の増加は、PC3前立腺癌細胞で認められたPAX2レベルの77%となった。AngII処理より96時間後のPAX2発現は、PC3におけるPAX2発現の89%となった。これらの結果より、調節解除されたRASシグナリングは前立腺細胞においてPAX2発現のアップレギュレーションを介してDEFB1発現を抑制することが証明される。
【0199】
アポトーシスの阻害は、癌の発生に寄与する重要な病態生理学的因子である。癌治療の顕著な進歩にもかかわらず、進行性疾患の治療においてはほとんど進歩していない。発癌は多年にわたる多段階、多経路の疾患進行であることを考慮し、この過程を阻害、遅延、または逆行させるための医薬品または他の薬剤の使用による化学予防は癌研究において非常に有望な領域であると認識される。この前立腺癌の化学予防を目的とした薬物療法の成功には、癌発生を抑制するという全般的な目標を有し、宿主に対する臨床的影響を最小限に維持しながら、標的細胞に対する特異的効果を有する治療薬を用いることが必要とされる。したがって、早期ステージ発癌の機構を理解することは特定の治療法の有効性を判定する上で重要である。異常PAX2発現およびそのアポトーシスの抑止の重要性は、その後の腫瘍形成に対する寄与と共に、これが前立腺癌治療のための適切な標的となりうることを示唆している。前立腺癌においてPAX2はAT1Rにより調節される(図28)。この場合、RASシグナリングが調節解除されるとPAX2癌遺伝子発現が増加し、さらにDEFB1腫瘍抑制因子の発現が減少する。したがって、AT1R拮抗剤の使用によりPAX2発現が低下しかつDEFB1の再発現を介した前立腺癌細胞死が増加する(図29)。これらの結果によって、レニン−アンジオテンシンシグナリング経路、AMPキナーゼ経路またはPAX2タンパク質の不活性化(すなわち抗PAX2抗体接種)を包含する他の方法を介したPAX2発現のターゲティングは、癌予防にとって有用な標的となりうるという新たな所見が提供される(表4:化学予防を目的としてPAX2発現を阻害するために用いられる化合物)。
【0200】
【表4】

【0201】
この研究より、前立腺癌におけるPAX2癌遺伝子のアップレギュレーションはRASシグナリングの調節解除によるものであることが証明される。PAX2発現は、アンジオテンシンI型受容体によって媒介されるERK1/2シグナリング経路によって調節される。さらに、ロサルタン(Los)によってAT1Rを遮断することによりPAX2発現が抑制される。さらに、AMPK活性化剤であるAICARもPAX2阻害剤の候補として有望性を示している。まとめると、これらの試験より、これらの薬剤クラスがPAX2発現阻害剤の候補として関係付けられ、かつ最終的に新規化学予防剤として役立ちうることが強く指摘される。
【実施例9】
【0202】
(前立腺組織の等級付け手段および前立腺癌発生の予測因子としてのPAX2−DEFB1発現レベル)
(材料と方法)
QRT−PCR分析:根治的前立腺切除術を受けた患者から前立腺切片を採取した。病理検査後、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを実施して正常、増殖性上皮内腫瘍(PIN)および癌組織の領域を分離した。前述の方法によりQRT−PCR分析を実施して発現を評価した。各領域のDEFB1およびPAX2発現およびGAPDHを内部標準として用いた。
【0203】
採血およびRNA分離:メーカーのプロトコルに従い、QRT−PCR用に各個人よりPAXgene(商標)Blood RNA試験管(QIAGEN)に血液(2.5mL)を採取した。全血をPAX gene安定化剤と完全に混合し、RNA抽出前に6時間室温保存した。次に、メーカーの指示書(QIAGEN)に従い、PAXgene(商標)Blood RNAキットを用いて全RNAを抽出した。汚染ゲノムDNAを除去するために、PAXgene(商標)Blood RNA Systemスピンカラムに吸収させた全RNAサンプルをDNase I(QIAGEN)と共に25℃で20分間インキュベートし、ゲノムDNAを除去した。全RNAは溶離、定量し、さらにPAX2とDEFB1発現比率を比較するために前述の方法に従ってQRT−PCRを実施する。
【0204】
(結果)
LCM正常組織のQRT−PCR分析により、相対DEFB1発現レベルが0.005を上回る患者は、0.005未満の発現レベルを有する者と比較してグリーソンスコアが低いことが証明された(図30)。したがって、DEFB1発現とグリーソンスコアの間には逆関係がある。逆に、悪性前立腺組織およびPINにおけるPAX2発現とグリーソンスコアの間には正の相関があった(図30、パネルB)。
【0205】
別個の患者からの正常、PINおよび癌組織におけるPAX2およびDEFB1発現レベルを算出および比較した(図31Aおよび31B)。全般的に、GAPDH内部対照に対するPAX2発現レベルの範囲は、正常(良性)組織では0〜0.2、PINにおいては0.2〜0.3、および癌(悪性)組織においては0.3〜0.5であった(図32)。DEFB1については、PAX2と比較して逆関係があった。この場合、GAPDH内部対照に対するDEFB1発現レベルの範囲は、正常(良性)組織で0.06〜0.005、PINにおいて0.005〜0.003、および癌(悪性)組織において0.003〜0.001であった。したがって、良性、前癌(PIN)および悪性前立腺組織の予後決定因子としてPAX2−DEFB1発現比率を用いる、ドナルド予測因子(DPF)と呼ばれる予測スケールが開示される。DPFに基づくPAX2−DEFB1比率が0〜39である組織は正常(病理学的に良性)に相当するであろう。PAX2−DEFB1比率が40〜99の組織は、DPFスケールに基づきPIN(前癌)に相当するであろう。最後に、PAX2−DEFB1比率が100〜500の組織は悪性(低〜高度の癌)となるであろう。
【0206】
現在、前立腺癌発生の予測バイオマーカーに対する決定的なニーズがある。前立腺癌の発症がPSA検査または直腸指診といった現行のスクリーニング法によって疾患が検出可能となるはるか以前に起こることは公知である。前立腺癌の進行および早期発生のモニタリングが可能な信頼度の高い検査法であれば、より有効な疾患管理によって死亡率を大きく低下させると考えられる。本明細書には、医師が前立腺の病理学的状態を事前に十分に知ることを可能とする予測指標が開示される。DPFは、前立腺疾患の進行と関連するPAX2−DEFB1発現比率の低下を測定する。この強力な指標は、患者が前立腺癌を発症する可能性を予測できるのみならず、前悪性癌の初期発症を特定することもある。最終的に、この手段は、医師がより悪性度の高い疾患を有する患者をそうでない患者から識別することを可能とする。
【0207】
癌特異的マーカーの同定は、循環腫瘍細胞(CTC)の同定を支援するために用いられている。末梢血中に播種された腫瘍細胞を検出することにより、腫瘍のステージング、予後判定、および補助療法の有効性を初期評価する代替的マーカーを同定するための臨床的に重要なデータを提供することができることを証明する新たなエビデンスも得られている。さらに、全循環細胞の遺伝子発現プロフィールを比較することにより、前立腺癌の早期検出のための予後決定因子として、それぞれ「免疫監視」および「癌生存」において重要な役割を果たすDEFB1およびPAX2遺伝子の発現を検討することができる。
【実施例10】
【0208】
(宿主防御ペプチドヒトβディフェンシン−1の機能分析:癌におけるその潜在的役割についての新たな洞察)
(材料と方法)
細胞培養:前立腺癌細胞株は、実施例1の記載に従って培養した。hPrEC細胞一次培養をCambrex Bio Science社(メリーランド州ウォーカーズビル)より入手し、さらに細胞を前立腺上皮基礎培地中で培養した。
【0209】
組織サンプルおよびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション:根治的前立腺切除術を受ける前にインフォームド・コンセントを提出した患者より前立腺組織を採取した。施設内倫理委員会が承認したプロトコルに従い、Hollings癌センター腫瘍バンクよりサンプルを入手した。これにはサンプルの処理、切片化、組織学的キャラクタラーぜーション、RNA精製およびPCR増殖のガイドラインが含まれた。外科医および病理学者より受領した前立腺検体は、OCTコンパウンド中で速やかに凍結させた。各OCTブロックを切り出して連続切片とし、染色して検査した。良性細胞、前立腺上皮内腫瘍(PIN)および癌を含む領域を同定し、我々がArcturus Pix Cell IIシステム(カリフォルニア州、サニーヴェール)を用いて未染色スライドから領域を選択する際の指標とするために用いた。キャプチャーした材料を収容するカップを、Arcturus Pico Pure RNA分離キットのライセート20μLに曝露し、速やかに処理した。RNAの量および品質は、5’アンプリコンを生成するプライマーセットを用いて評価した。セットはリボソームタンパク質L32用(3’アンプリコンと5’アンプリコンの間隔は298塩基)、グルコースリン酸イソメラーゼ用(391塩基間隔)、およびグルコースリン酸イソメラーゼ用(843塩基間隔)のものを含む。通常、多様な調製組織に由来するサンプルを用いるとき、これらのプライマーセットについては0.95から0.80の比率が得られた。病理学者が追加的な腫瘍および正常サンプルを肉眼で切り出し、液体窒素で瞬間凍結してhBD−1およびcMYC発現について評価した。
【0210】
hBD−1遺伝子のクローニング:hBD−1 cDNAは、公開hBD−1配列(アクセション番号U50930)から作製したプライマーを用いて逆転写PCRによりRNAから作製した(Ganz,2004)。PCRプライマーはClaIおよびKpnI制限部位を含むよう設計された。hBD−1 PCR産物はClaIおよびKpnIによって制限消化され、さらにTAクローニングベクターにライゲーションされた。次に、TA/hBD1ベクターを熱ショックによりE.coliのXL−1 Blue株にトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。Cell Culture DNAMidiprep(QIAGEN、カリフォルニア州バレンシア)でプラスミドを分離し、さらに配列の完全性を自動シーケンシングで検証した。次に、hBD−1遺伝子フラグメントを、方向決定を目的とした中間ベクターとして役立つ、ClaIおよびKpnIで消化したpTRE2にライゲーションした。pTRE2/hBD−1構築物をApaIおよびKpnIで消化してhBD−1インサートを切り取った。インサートを、これもApaIおよびKpnIで二重消化したエクジソーム誘導発現系(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)のpINDベクターにライゲーションした。構築物をE.coliにトランスフェクトし、さらに個々のクローンを選択して拡張した。プラスミドを分離し、さらに自動シーケンシングによりpIND/hBD−1の配列完全性を再度検証した。
【0211】
トランスフェクション:100mmペトリ皿に細胞(1×10個)を播種し、1晩増殖させた。次に、Opti−MEM培地(Life Technologies Inc.)中で、Lipofectamine2000(Invitrogen)を用いて、ヘテロ二量体エクジソン受容体を発現しているpvgRXRプラスミド1μg、およびpIND/hBD−1ベクター構築物またはpIND/β−ガラクトシダーゼ(β−gal)対照ベクター1μgで細胞を同時トランスフェクトした。トランスフェクション効率は、ポナステロンA(PonA)によりβ−gal発現を誘導し、さらに細胞をβ−ガラクトシダーゼ検出キット(Invitrogen)で染色することによって測定した。細胞株について60〜85%の細胞がβガラクトシダーゼを発現していることを証明した陽性染色(青色)コロニーを計数することによるトランスフェクション効率の評価。
【0212】
免疫細胞化学:hBD−1タンパク質発現を検証するために、DU145およびhPrEC細胞を1.5〜2×10細胞/チャンバーで2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON、米国)に播種した。pvgRXRのみ(対照)またはhBD−1プラスミドをトランスフェクトしたDU145細胞を10μM PonAを含む培地で18時間誘導する一方で、非トランスフェクト細胞には新鮮な増殖培地を与えた。誘導後、細胞を1×PBSで洗い、4%パラホルムアルデヒドにより室温で1時間固定した。次に、細胞を1×PBSで6回洗い、さらに2%BSA、0.8%正常ヤギ血清(Vector Laboratories Inc.、カリフォルニア州バーリングゲーム)および0.4%Triton−X100を添加した1×PBSを用いて室温で1時間ブロッキングした。次に、ブロッキング溶液で1:1000に希釈したウサギ抗ヒトBD−1一次ポリクローナル抗体(PeproTech Inc.、ニュージャージー州ロッキーヒル)内で細胞を1晩インキュベートした。この後、細胞をブロッキング液で6回洗い、ブロッキング液で1:1000希釈したAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体中で1時間室温でインキュベートした。細胞をブロッキング液で6回洗った後、カバースリップをGel Mount (Biomeda、カリフォルニア州フォスターシティ)で載置した。最後に、微分干渉コントラスト(DIC)および488nmのレーザー励起の下で細胞を観察した。Vario 2RGBレーザースキャニングモジュールで63×DIC油浸レンズを用いて、共焦点顕微鏡分析(Zeiss LSM5 Pascal)により蛍光信号を分析した。デジタル画像は、画像処理およびハードコピー提示のためにPhotoshopCSソフトウェア(Adobe Systems)にエクスポートした。
【0213】
RNA分離および定量的RT−PCR:前述の方法によりQRT−PCR分析を実施した(Gibson et al., 2007)。簡単に言うと、ランダムプライマー(Promega)を用いて、組織切片に由来する全RNA(各反応につき0.5μg)をcDNAに逆転写した。TaqMan Reverse Transcription SystemのMultiScribe Reverse TranscripataseおよびSYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて、作製したcDNAに対して2段階QRT−PCRを実施した。公開配列からhBD−1およびc−MYCのプライマー対を作製した(表5)。hBD−1およびc−MYCに56.4℃およびPAX2に55℃のアニーリング温度を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。さらに、ハウスキーピング遺伝子としてβアクチン(表5:QRT−PCRプライマーの配列)を増幅し、全cDNAの初期含有量を正規化した。良性前立腺組織サンプルにおける遺伝子発現をβアクチンと比較した発現比率として算出した。誘導前後の悪性前立腺組織、hPREC前立腺一次培養、および前立腺癌細胞株におけるhBD−1発現レベルを、hPrEC細胞における平均hBD−1発現レベルに対して算出した。陰性対象として、cDNA鋳型を用いないQRT−PCR反応も実施した。全ての反応は最低3回実施した。
【0214】
【表5】

【0215】
MTT細胞生存率アッセイ:細胞の増殖に対するhBD−1の影響を検討するために、代謝3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを実施した。pvgRXRプラスミドおよびpIND/hBD−1構築物または対照pvgRXRプラスミドを同時トランスフェクトしたDU145、LNCaP、PC3およびPC3/AR+細胞を、96ウェルプレート上に1〜5×10細胞/ウェルとして播種した。播種より24時間後、10μMのPonAを含有する新鮮な増殖培地を毎日添加してhBD−1発現を24、48および72時間誘導した後、メーカーの取扱説明書(Promega)に従ってMTTアッセイを実施した。反応は3本ずつ3回実施した。
【0216】
膜完全性の分析:アクリジンオレンジ(AO)/臭化エチジウム(EtBr)二重染色を実施し、細胞膜完全性の変化、および凝集クロマチン染色によるアポトーシス細胞を鑑別した。AOは生存細胞および初期のアポトーシス細胞を染色する一方、EtBrは膜が崩壊した後期アポトーシス細胞を染色する。簡潔に述べると、PC3、DU145およびLNCaP細胞を2穴チャンバー培養スライド(BD FALCON)に播種した。空のプラスミドまたはhBD−1プラスミドでトランスフェクトした細胞を、10μM PonAを含む培地で24または48時間誘導する一方で、対照細胞には新鮮な培地を与えた。誘導後、細胞をPBSで1回洗いさらにAO(Sigma、ミズーリ州セントルイス)とEtBr(Promega)の混合(1:1)(5μg/mL)溶液2mLで5分間染色し、さらにPBSで再度洗った。
【0217】
Zeiss LSM 5 Pascal Vario 2レーザースキャニング共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)で蛍光を観察した。励起カラーホイールは、AOから発光した緑色光は緑色チャネルに、EtBrからの赤色光は赤色チャネルに分離するためのBS505−540(緑色)およびLP560(赤色)フィルターブロックを含む。各個別の実験内において、レーザー出力およびゲイン制御設定は対照とhBD−1誘導細胞の間で同一であった。AOについては543nmおよびEtBrについては488nmの波長でKr/Ar混合ガスレーザーにより励起を提供した。スライドを倍率40倍で分析し、デジタル画像を無圧縮TIFFファイルとして保存し、画像処理およびハードコピーの表示のためにPhotoshop CSソフトウェア(Adobe Systems)にエクスポートした。
【0218】
フローサイトメトリー:hBD−1発現系をトランスフェクトしたPC3およびDU145細胞を60mmの皿上で増殖させ、10μM PonAにより12、24および48時間誘導した。細胞を回収し、実施例1の記載にしたがってフローサイトメトリーで分析した。
【0219】
カスパーゼの検出:前立腺癌細胞株におけるカスパーゼ活性の検出は、実施例1の記載にしたがって実施した。
【0220】
PAX2のsiRNAサイレンシング:siRNAノックダウンおよび検証は実施例2の記載にしたがって実施した。
【0221】
(結果)
前立腺組織におけるhBD−1発現:分析した前立腺癌凍結組織切片のうち82%はhBD−1発現をほとんど示さなかった(Donald et al.,2003)。hBD1−1発現レベルを比較するために、無作為選択した悪性領域に隣接する正常前立腺組織の肉眼的切除またはLCMによって採取した正常前立腺組織に対し、QRTPCR分析を実施した。この場合、肉眼的に切除した正常臨床サンプルの全てにおいて、約6.6倍の発現レベルの差に相当する発現範囲でhBD−1が検出された(図33A)。LCMでキャプチャーした正常組織サンプルは、32倍の発現差に相当する範囲のレベルでhBD−1を発現した(図33B)。サンプル数を対応する患者プロフィールに対してマッチングしたところ、大半の症例において、グリーソンスコア6の患者サンプルにおけるhBD−1発現レベルはグリーソンスコア7の患者サンプルにおけるよりも高いことが判明した。さらに、同一の患者番号1343より肉眼的切除およびLCMによって採取した組織においてhBD−1発現レベルを比較したところ、2つの分離法の間に854倍の発現差があることが証明された。したがって、これらの結果よりLCMは前立腺組織におけるhBD−1発現を評価するより高感度の技術を提供することが示される。
【0222】
前立腺細胞株におけるhBD−1発現:前立腺癌細胞株においてhBD−1発現系をトランスフェクトした後のhBD−1アップレギュレーションを検証するために、QRTPCRを実施した。さらに、鋳型のない陰性対照も実施し、また増幅産物をゲル電気泳動法により検証した。この場合、前立腺癌細胞株におけるhBD−1発現はhPrEC細胞と比較して有意に低くなった。DU145、PC3およびLNCaPにおける24時間誘導後のhBD−1相対発現レベルは、hBD−1誘導前の当該細胞株と比較して有意に上昇した(図34A)。
【0223】
次に、免疫細胞化学により、PonAによる誘導後にhBD−1発現系でトランスフェクトしたDU145細胞において、hBD−1のタンパク質発現を検証した。陽性対照として、hBD−1を発現しているhPrEC前立腺上皮細胞も検討した。細胞をhBD−1に対する一次抗体で染色し、さらにタンパク質発現を二次抗体の緑色蛍光に基づいてモニタリングした(図34B)。DIC下で細胞を分析することにより、18時間後にhBD−1発現が誘導されたhPrEC細胞およびDU145細胞の存在を検証する。488nmの共焦点レーザーの生成による励起によって、陽性対照としてのhPrCEにおけるhBD−1タンパク質の存在を示す緑色蛍光が判明した。しかし、対照DU145細胞および空のプラスミドを誘導したDU145細胞においては検出可能な緑色蛍光はなく、hBD−1発現は示されなかった。hBD−1発現を誘導したDU145細胞の共焦点分析により、PonAによる誘導後のhBD−1タンパク質の存在を示す緑色蛍光が判明した。
【0224】
hBD−1発現により細胞生存率が低下する:DU145、PC3、PC3/AR+およびLNCaP前立腺癌細胞株における相対細胞生存率に対するhBD−1発現の影響を評価するために、MTTアッセイを実施した。空のベクターによるMTT分析では細胞生存率に統計的に有意な変化は示されなかった。hBD−1誘導より24時間後の相対細胞生存率はDU145細胞で72%およびPC3細胞で56%であり、また48時間後の細胞生存率はDU145において49%およびPC3細胞において37%低下した(図35)。hBD−1誘導より72時間後の相対細胞生存率はDU145細胞で44%およびPC3細胞で29%までさらに低下した。逆に、LNCaP細胞の生存率には有意な影響はなかった。LNCaPに認められたhBD−1細胞毒性に対する耐性の原因がアンドロゲン受容体(AR)の存在であるか否か評価するために、異所性AR発現(PC3/AR+)によってPC3細胞におけるhBD−1細胞毒性を検討した。この場合、PC3/AR+とPC3細胞の間に差はなかった。したがって、データよりhBD−1は後期ステージ前立腺癌細胞に対して特異的な細胞毒性を有することが示される。
【0225】
PC3およびDU145に対するhBD−1の影響が細胞分裂抑制性であるか、あるいは細胞毒性であるか測定するために、FACS分析を実施して細胞死を測定した。通常の増殖条件において、PC3およびDU145培養の90%以上が生存しておりかつ非アポトーシス性(左下象限)でありかつアネキシンVまたはPIで染色されなかった。PC3細胞においてhBD−1発現を誘導した後、初期アポトーシスおよび後期アポトーシス/壊死を被った細胞の個数(それぞれ右下および右上象限)は12時間で合計10%、24時間で20%、かつ48時間で44%であった(図4B)。DU145細胞については、初期アポトーシスおよび後期アポトーシス/壊死を被った細胞の個数は誘導12時間後で合計12%、24時間で34%、かつ48時間で59%であった(図4A)。PonAによる誘導後の空のプラスミドを含有する細胞においては、アポトーシスの増加は認められなかった。アネキシンVおよびヨウ化プロピジウム取り込み試験より、hBD−1はDU145およびPC3前立腺癌細胞に対して細胞毒性を有することが判明しており、また結果より細胞死の機構としてのアポトーシスが示される。
【0226】
hBD−1は膜完全性およびカスパーゼ活性の変化を引き起こす:hBD−1誘導後の前立腺癌細胞に認められた細胞死がカスパーゼ介在性アポトーシスであるか否かを検討した。hBD−1発現に関与する細胞機構をより良く理解するために、hBD−1発現を誘導したDU145およびLNCaP細胞に対して共焦点レーザー顕微鏡分析を実施した(図5)。活発なアポトーシスを被る細胞における緑色蛍光FAM−VAD−FMKのカスパーゼとの結合および開裂に基づいてパンカスパーゼ活性をモニタリングした。DIC下での細胞の分析により、0時間における生存対照DU145(パネルA)およびLNCaP(パネルE)細胞の存在が示された。488nmの共焦点レーザーによって励起すると、検出可能な緑色染色は生成されず、DU145(パネルB)またはLNCaP(パネルF)対照細胞にカスパーゼ活性がないことが示された。24時間の誘導後、DU145(パネルC)およびLNCaP(パネルG)細胞をDIC下で再度可視化した。蛍光下の共焦点分析により、hBD−1発現後のパンカスパーゼ活性を示すDU145(パネルD)細胞の緑色染色が判明した。しかし、hBD−1発現を誘導したLNCaP(パネルH)細胞においては緑色染色はなかった。したがって、hBD−1誘導後に認められた細胞死はカスパーゼ介在性アポトーシスであった。
【0227】
提唱されているディフェンシンペプチドの抗微生物活性は、細孔形成による微生物膜の崩壊である(Papo and Shai、2005)。hBD−1発現が膜完全性を変化させたか測定するために、共焦点分析によりEtBr取り込みを検討した。無傷の細胞は膜透過性であるAOによって緑色に染まる一方で、原形質膜が崩壊した細胞のみが膜不透過性EtBrの取り込みによって赤色に染まった。対照DU145およびPC3細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。しかしDU145およびPC3においてhBD−1を誘導したところ、いずれも細胞質において24時間で赤色染色で示されるEtBr蓄積が見られた。48時間までに、DU145およびPC3は凝集した核を有し、それぞれAOおよびEtBrによる緑色および赤色染色の共存によって見かけ上黄色となった。逆に、AOによって緑色蛍光が陽性であるが赤色EtBr蛍光がないことで示されるように、誘導48時間後のLNCaP細胞の膜完全性には観測可能な変化はなかった。この所見より、hBD−1発現に応答した膜完全性および透過性の変化は初期ステージ前立腺癌細胞と後期ステージ細胞の間で異なることが示される。
【0228】
hBD−1とcMYCの発現レベルの比較:3例の患者より採取したLCM前立腺組織切片に対してQRT−PCR分析を実施した(図34)。患者番号1457においては、hBD−1発現により正常からPINまで2.7分の1の減少、PINから腫瘍まで3.5分の1の減少、および正常から腫瘍まで9.3分の1の減少を示した(図36A)。同様に、患者番号1457においてcMYC発現は正常からPINまで1.7分の1に減少、PINから腫瘍まで1.7分の1に減少、および正常から腫瘍まで2.8分の1に減少という同様の発現パターンに従った(図36B)。さらに、他の2例の患者におけるcMYC発現には統計的に有意な減少があった。患者番号1569は正常からPINまで2.3分の1の減少があったのに対し、患者番号1586では正常からPINまで1.8分の1の減少、PINから腫瘍まで4.3分の1の減少および正常から腫瘍まで7.9分の1の減少があった。
【0229】
PAX2阻害後のhBD−1発現の誘導:hBD−1発現を調節する際のPAX2の役割をさらに検討するために、siRNAを用いてPAX2発現をノックダウンし、さらにhBD−1発現をモニタリングするためにQRT−PCRを実施した。PAX2 siRNAでhPrEC細胞を処理したところ、hBD−1発現に対して影響を示さなかった(図37)。しかし、PAX2をノックダウンしたところhBD−1発現は未処理細胞と比較してLNCaPは42倍、PC3は37倍、およびDU145は1026倍増加した(図10a)。陰性対照として、細胞を非特異的siRNAで処理したところ、hBD−1発現には有意な影響を示さなかった。
【実施例11】
【0230】
(p53状態の異なる前立腺癌細胞においてPAX2発現を阻害すると代替的な細胞死経路が誘導される)
(材料と方法)
細胞株:いずれもp53変異状態が異なる癌細胞株PC3、DU145およびLNCaP(表6)を、実施例1に記載に従って培養した。前立腺上皮細胞株hPrEC細胞をCambrex Bio Science社(メリーランド州ウォーカーズビル)より入手し、さらに前立腺上皮基礎培地中で培養した。細胞は37℃で5%CO下に維持した。表6:前立腺癌細胞株におけるp53遺伝子変異
【0231】
【表6】

【0232】
PAX2のsiRNAサイレンシング:PAX2のsiRNAサイレンシングは実施例2の記載で実施した。
【0233】
ウェスタン分析:ウェスタンブロットは実施例2の記載に従って実施した。次に、ブロットを1:1000希釈ウサギ抗PAX2一次抗体(Zymed、カリフォルニア州サンフランシスコ)でプローブした。洗浄後、膜をセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギ抗体(HRP)(1:5000希釈;Sigma)と共にインキュベートし、シグナル検出をAlpha Innotech Fluorchem 8900上で化学発光試薬(Pierce)を用いて可視化した。対照として、ブロットを剥離し、マウス抗βアクチン一次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体(1:5000,Sigma−Aldrich)でリプローブし、シグナル検出を再度可視化した。
【0234】
位相差顕微鏡分析:実施例1の記載に従い、位相差顕微鏡分析により、細胞数に対するPAX2ノックダウンの効果を分析した。
【0235】
MTT細胞毒性アッセイ:MTT細胞毒性アッセイは実施例1の記載にしたがって実施した。
【0236】
パンカスパーゼ検出:前立腺癌細胞株におけるカスパーゼ活性の検出は、実施例1の記載に従って実施した。
【0237】
定量的リアルタイムRT−PCR:PC3、DU145およびLNCaP細胞株におけるPAX2ノックダウン後の遺伝子発現の変化を確認するために、実施例1の記載に従って定量的リアルタイムRT−PCRを実施した。公開配列からBAX、BID、BCL−2,AKTおよびBADのプライマー対を作製した(表7)。反応はMicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(PE Biosystems)中で実施した。アニーリング温度60℃を用いて、標準的な条件下でPCRを40サイクル実施した。定量値は、指数的増幅が始まったサイクル数(閾値)により決定し、さらに3回の反復より得られた値を平均した。メッセージレベルと閾値の間には逆関係があった。さらにGAPDHをハウスキーピング遺伝子として用い、全cDNAの初期含有量を正規化した。相対発現は、各遺伝子とGAPDHの比率として算出した。全ての反応は3本ずつ実施した。表10:定量的RT−PCRプライマー。
【0238】
【表7】

【0239】
膜透過性アッセイ:膜透過性アッセイは実施例3の記載で実施した。
【0240】
(結果)
前立腺細胞におけるPAX2タンパク質発現の分析:HPrEC前立腺一次培養およびLNCaP、DU145およびPC3前立腺癌細胞株において、ウェスタン分析によりPAX2タンパク質発現を検討した。この場合、全ての前立腺癌細胞株においてPAX2タンパク質が検出された(図38A)。しかし、HPrECに検出可能なPAX2タンパク質はなかった。ブロットを剥離し、内部対照としてβアクチンについてリプローブして装填が均一であることを確認した。DU145、PC3およびLNCaP前立腺癌細胞株において、PAX2特異的siRNAによる選択的ターゲティングおよび阻害後のPAX2タンパク質発現もモニタリングした。細胞には、PAX2 siRNAのプールによるトランスフェクションを6日間の処理期間にわたって1ラウンド実施した。PAX2タンパク質は培地のみで処理した対照細胞に発現していた。3つの細胞株全てにおいて、PAX2タンパク質のノックダウンを観察することによりPAX2 mRNAの特異的ターゲティングを確認した(図38B)。
【0241】
PAX2ノックダウンの前立腺癌細胞増殖に対する影響:光学顕微鏡分析およびMTT分析により、PAX2 siRNAの細胞数および細胞生存率に対する影響を分析した。PAX2 siRNAの細胞数に対する影響を検討するために、PC3、DU145およびLNCaP細胞株を培地のみ、非特異的siRNA、またはPAX2 siRNAで6日間トランスフェクトした。各細胞株は培地のみを含む60mm培養皿において80〜90%コンフルエントに到達した。非特異的siRNAによるHPrEC、DU145、PC3およびLNCaP細胞の処理は、培地のみで処理した細胞と比較して細胞増殖にほとんど影響がないようであった(それぞれ図39、パネルA、CおよびE)。PAX2−欠損細胞株HPrECをPAX2 siRNAで処理したところ、細胞増殖には有意な影響がないようであった(図39パネルB)。しかし、前立腺癌細胞株DU145、PC3およびLNCaPをPAX2 siRNAで処理したところ細胞数が有意に減少した(それぞれ図39、パネルD、FおよびH)。
【0242】
PAX2ノックダウンの前立腺癌細胞生存率に対する影響:細胞生存率は2、4および6日間曝露後に測定した。生存百分率は、PAX2 siRNAで処理した細胞の570〜630nmの吸光度を未処理対照細胞で割った比率として算出した。陰性対照として、陰性対照非特異的siRNAまたはトランスフェクション試薬のみによる各処理期間後に細胞生存率を測定した。相対細胞生存率は、PAX2 siRNA処理後の生存百分率を非特異的siRNAによる処理後の生存百分率で割ることにより算出した(図40)。2日間処理後の相対細胞生存率はDU145において116%、PC3において81%、およびLNCaPにおいて98%であった。4日間処理後の相対細胞生存率はDU145で69%、PC3で79%およびLNCaPで80%まで低下した。最終的に、6日までの相対的細胞生存率はDU145で63%、PC3で43%およびLNCaPで44%であった。さらに、トランスフェクション試薬のみで処理した後の細胞生存率も測定した。この場合、各細胞株は細胞生存率の有意な低下を示さなかった。
【0243】
パンカスパーゼ活性の検出:カスパーゼ活性は共焦点レーザー顕微鏡分析法によって検出した。LNCaP、DU145およびPC3細胞をPAX2 siRNAで処理し、緑色蛍光を発する活発なアポトーシスを被る細胞におけるFAM標識ペプチドのカスパーゼとの結合に基づいて活性をモニタリングした。培地のみの細胞を分析したところ、生存LNCaP、DU145およびPC3細胞の存在がそれぞれ示された。488nmの共焦点レーザーによって励起したところ検出可能な緑色染色は生成されず、このことより未処理細胞にカスパーゼ活性がないことが示された(それぞれ図41パネルA、CおよびE)。PAX2 siRANによる4日間処理後、LNCaP、DU145およびPC3細胞は蛍光下でカスパーゼ活性を示す緑色染色を呈した(それぞれ図41パネルB、DおよびF)。
【0244】
PAX2阻害のアポトーシス因子に対する影響:LNCaP、DU145およびPC3細胞をPAX2に対するsiRNAで4日間処理し、さらにQRTPCRによりプロおよび抗アポトーシス因子を共に測定した。PAX2ノックダウン後にBADを分析したところ、LNCaPで2倍、DU145で1.58倍およびPC3で1.375倍であることが明らかとなった(図42A)。BIDの発現レベルはLNCaPでは1.38倍かつDU145では1.78倍増加したが、PAX2発現抑制後のPC3に認められたBIDには統計的有意差はなかった(図42B)。抗アポトーシス因子AKTを分析したところ、処理後の発現はLNCaPにおいては1.25分の1にかつDU145においては1.28分の1に低下することが判明したが、PC3では変化が認められなかった(図42C)。
【0245】
膜完全性および壊死の分析:LNCaP、DU145およびPC3細胞において共焦点分析により膜完全性をモニタリングした。この場合、無傷の細胞は膜透過性であるAOによって緑色に染まる一方で、原形質膜が崩壊した細胞は膜不透過性EtBrの細胞質への取り込みによって赤色に、かつ核内はAOとEtBrの共存により黄色に染まるであろう。未処理LNCaP、DU145およびPC3細胞はAO染色陽性でかつ緑色発光したが、EtBrでは染色されなかった。PAX2ノックダウン後は、AOによる緑色蛍光が陽性であるが赤色EtBr蛍光がないことで示されるように、LNCaP細胞の膜完全性に観測可能な変化はなかった。これらの所見より、LNCaP細胞はPAX2ノックダウン後にアポトーシス性ではあるが壊死性ではない細胞死を被ることがあることがさらに示される。逆に、DU145およびPC3におけるPAX2ノックダウンの結果、赤色染色で示されるようにEtBrが細胞質に蓄積した。さらに、DU145およびPC3は共に凝集した核を有し、それぞれAOおよびEtBrによる緑色および赤色染色の共存によって見かけ上黄色であった。これらの結果より、DU145およびPC3は、LNCaPと比較して、壊死的細胞死を包含する代替的な細胞死経路を被ることを示している。
【実施例12】
【0246】
(乳癌細胞株および腺管または小葉上皮内腫瘍を有する乳房組織におけるPAX2およびDEFB−1発現)
PAX2およびDEFB−1発現は、腺管または小葉上皮内腫瘍の乳癌生検サンプル、および以下の乳癌細胞株において測定されるであろう:
【0247】
BT−20:原発性浸潤性腺管癌より分離され;細胞はE−カドヘリン、ER、EGFRおよびuPAを発現する。
【0248】
BT−474:原発性浸潤性腺管癌より分離され;細胞はE−カドヘリン、ER、PRを発現し、かつHER2/neuが増幅されている。
【0249】
Hs578T:原発性浸潤性腺管癌より分離され;Hs578Bstと呼ばれる正常隣接組織からも細胞株が確立された。
【0250】
MCF−7:胸水より確立された。細胞はERを発現しかつエストロゲン反応性乳癌細胞の最も一般的な例である。
【0251】
MDA−MB−231:胸水より確立された。細胞はER陰性であり、E−カドヘリン陰性でありかつインビトロ分析において浸潤性が高い。
【0252】
MDA−MB−361:脳転移より確立された。細胞はER、PR、EGFRおよびHER2/neuを発現する。
【0253】
MDA−MB−435:胸水より確立された。細胞はER陰性であり、E−カドヘリン陰性でありかつ免疫不全マウスにおいて浸潤性が高くかつ転移性である。
【0254】
MDA−MB−468:胸水より確立された。細胞はEGFRが増幅されかつER陰性である。
【0255】
SK−BR−3:胸水より確立された。細胞はHER/2neuが増幅され、EGFRを発現し、かつER陰性である。
【0256】
T−47D:胸水より確立された。細胞はE−カドヘリン、ERおよびPRの発現を保持する。
【0257】
ZR−75−1:腹水より確立された。細胞はER、E−カドヘリン、HER2/neuおよびVEGFを発現する。
【0258】
PAX2対DEFB1発現比率は、実施例9に記載の方法を用いて測定されるであろう。
【実施例13】
【0259】
(乳癌細胞におけるDEFB1の発現)
DEFB1は、実施例1に記載の方法を用いて乳癌細胞に発現されるであろう。細胞生存率およびカスパーゼ活性は、実施例1に記載の方法を用いて測定されるであろう。
【実施例14】
【0260】
(乳癌細胞におけるPAX2発現の阻害)
乳癌細胞におけるPAX2発現は、実施例2に記載のsiRNAを用いて阻害されるであろう。BAX、BIDおよびBADなどのプロアポトーシス遺伝子の発現レベル、細胞生存率およびカスパーゼ活性は、実施例2の記載に従って測定されるであろう。
【実施例15】
【0261】
(インビボにおけるDEFB1発現の腫瘍増殖に対する影響)
DEFB1の抗腫瘍能力は、DEFB1を過剰発現した乳癌細胞をヌードマウスに注射することによって評価されるであろう。乳癌細胞は、DEFB1遺伝子を担持する発現ベクターによってトランスフェクトされるであろう。外因性DEFB1遺伝子を発現する細胞を選択およびクローニングするであろう。生存率>90%の単一細胞懸濁液のみを用いる。各動物に対し、約500,000個の細胞を雌性ヌードマウスの右側腹部に皮下投与する。ベクターのみのクローンを注射された対照群およびDEFB1を過剰発現するクローンを注射された群の2群がある。統計学者の判定に従い、各群マウス35匹とする。動物は週2回体重測定し、キャリパーで腫瘍増殖をモニタリングし、さらに以下の式を用いてに腫瘍体積を測定する:体積=0.5×(幅)×長さ。全ての動物は、腫瘍のサイズが2mmに達した時または移植より6ヶ月後にCO過剰投与によって屠殺し;腫瘍を切除し、秤量し、病理検査のために中性緩衝化ホルマリンに保存する。腫瘍の増殖の群間差を、要約統計量および図面表示により記述的にャラクタライゼーションする。統計的有意性は、t検定またはノンパラメトリックな同等法のいずれかで評価する。
【実施例16】
【0262】
(インビボにおけるPAX2 siRNAの腫瘍増殖に対する影響)
インビトロ試験で用いたヘアピンPAX2 siRNA鋳型オリゴヌクレオチドを用いて、インビボでDEFB1発現アップレギュレーションの影響を検討する。センスおよびアンチセンス鎖(表3参照)をアニーリングし、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーターの制御の下で、pSilencer 2.1 U6 hygro siRNA発現ベクター(Ambion)にクローニングする。クローン化プラスミドをシーケンシングし、検証し、さらに乳癌細胞株にトランスフェクトする。スクランブルshRNAをクローニングし、本試験における陰性対照として用いる。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、マウスに細胞を皮下導入し、さらに腫瘍の増殖を上述の通りにモニタリングする。
【実施例17】
【0263】
(小分子量PAX2結合阻害剤の乳癌細胞に対する影響)
実施例6に記載された代替的な阻害性オリゴヌクレオチドは、Lipofectamine試薬またはCodebreakerトランスフェクション試薬(Promega Inc.)を用いて乳癌細胞にトランスフェクトされるであろう。DNA−タンパク質相互作用を確認するために、2本鎖オリゴヌクレオチドを[32P]dCTPで標識し、電気泳動移動度シフト分析を実施する。オリゴヌクレオチド処理後にQRT−PCRおよびウェスタン分析によりDEFB1発現をモニタリングするであろう。最後に、前述のようにMTTアッセイおよびフローサイトメトリーにより細胞死を検出するであろう。
【0264】
上記の記載は、当業者に対して本発明をどのように実践するか教示することを目的としており、当業者が本記述を読む際に明白となるであろうそれらの明白な変更およびその変法の詳細を述べることは意図していない。しかし、全てのそのような明白な変更および変法は、以下の請求項に定義される本発明の範囲内に含まれることを意図する。請求項は、文脈が具体的に反対のことを示さない限り、そこに意図された目的にかなうために有効なあらゆる順序にある請求された構成要素および手順を包含することを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の乳房状態を治療するための方法であって、前記対象の乳房組織に対し、PAX2発現および/またはPAX2活性を阻害する組成物を投与することを含み、
前記組成物がPAX2に対するsiRNAをコードするポリヌクレオチド、PAX2のDEFB1プロモーターとの結合を阻害するポリヌクレオチド、アンジオテンシンIIの拮抗剤、アンジオテンシンII受容体の拮抗剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の拮抗剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)の拮抗剤、細胞外シグナル調節キナーゼ1,2(ERK1,2)の拮抗剤、シグナル伝達性転写因子3(STAT3)の拮抗剤、およびRASシグナリング経路の遮断剤からなる群から選択される1つまたはそれ以上の成分を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記乳房状態が乳癌または乳房上皮内腫瘍(MIN)であることを特徴とする前記方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物が配列番号3〜6および11〜15からなる群から選択される配列を含むsiRNAをコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物が配列番号1をフォワードまたはリバース方向で含むポリヌクレオチドを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、VおよびWがDEFB1プロモーターの前記PAX2結合部位を挟む1から35個のヌクレオチドの隣接するヌクレオチド配列であることを特徴とするV−CCTTG−W配列、およびその相補配列を前記ポリヌクレオチドが含むことを特徴とする前記方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記ポリヌクレオチドが配列番号18〜21、25、26、28および29からなる群から選択される配列を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物がエナラプリルを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物がバルサルタン、オルメサルタンまたはテルミサルタンを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物がU0126またはPD98059を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項10】
対象における乳癌またはMINを治療する方法であって、前記対象における乳癌組織またはMIN組織におけるDEFB1の発現を亢進させることを含む前記方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記のDEFB1の発現を亢進させることが前記対象の前記乳癌組織またはMIN組織に対してDEEB1の有効量を投与することを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、前記のDEFB1の発現を亢進させることが前記対象の前記乳癌組織またはMIN組織に対してDEEB1をコードする発現ベクターの有効量を投与することを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって:
前記対象に抗ホルモン剤の有効量を投与する手順をさらに含む前記方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記抗ホルモン剤がタモキシフェンであることを特徴とする前記方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって:
前記対象に抗ERBB−2剤の有効量を投与する手順をさらに含む前記方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記抗ERBB−2剤がハーセプチンであることを特徴とする前記方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって:
前記対象に抗Her−2剤の有効量を投与する手順をさらに含む前記方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記抗Her−2剤がトラスツズマブであることを特徴とする前記方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって:
前記対象に抗AIB−1/SRC−3剤の有効量を投与する手順をさらに含む前記方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物が抗ホルモン剤、抗ERBB−2剤、抗Her−2剤、および抗AIB−1/SRC−3剤からなる群から選択される1つまたはそれ以上の薬剤をさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項21】
対象における乳房状態を治療するための方法であって:
(a)前記対象由来の罹患乳房組織におけるPAX2対DEFB1発現比率を測定すること;
(b)前記対象由来の前記罹患乳房組織のER/PR状態を測定すること;および
(c)(a)および(b)の結果に基づき、前記対象の乳房組織に対して(1)PAX2発現またはPAX2活性を阻害するか、(2)DEFB1を発現するかまたは(3)PAX2発現またはPAX2活性を阻害しかつDEFB1を発現する第1の組成物を投与することを含む前記方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記乳房状態が乳癌またはMINであることを特徴とする前記方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記第1の組成物が配列番号3〜6および11〜15からなる群から選択される配列を含むsiRNAをコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項24】
請求項21に記載の方法であって、前記第1の組成物が配列番号1をフォワードまたはリバース方向で含むポリヌクレオチドを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、VおよびWがDEFB1プロモーターの前記PAX2結合部位を挟む1から35個のヌクレオチドの隣接するヌクレオチド配列であることを特徴とするV−CCTTG−W配列、およびその相補配列を前記ポリヌクレオチドが含むことを特徴とする前記の方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、前記ポリヌクレオチドが配列番号18〜21、25、26、28および29からなる群から選択される配列を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項27】
請求項21に記載の方法であって、前記第1の組成物がアンジオテンシンIIの拮抗剤、アンジオテンシンII受容体の拮抗剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の拮抗剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)の拮抗剤、細胞外シグナル調節キナーゼ1,2(ERK1,2)の拮抗剤、シグナル伝達性転写因子3(STAT3)の拮抗剤からなる群から選択される拮抗剤を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項28】
請求項21に記載の方法であって、前記第1の組成物がRASシグナリング経路の遮断剤を含むことを特徴とする前記の方法。
【請求項29】
請求項21に記載の方法であって、前記第1の組成物が前記対象における腫瘍組織を標的とする抗体、受容体、またはリガンドとコンジュゲートされた抗PAX2剤であることを特徴とする前記方法。
【請求項30】
請求項21に記載の方法であって、前記第1の組成物がPAX2のDEFB1プロモーターとの結合に干渉するかまたはこれを阻害する小分子を含む抗PAX2剤であることを特徴とする前記方法。
【請求項31】
請求項21に記載の方法であって、前記手順(c)が抗ホルモン剤を含む第2の組成物を投与することをさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、前記抗ホルモン剤がタモキシフェンであることを特徴とする前記方法。
【請求項33】
請求項21に記載の方法であって、前記手順(c)が抗ERBB−2剤を含む第2の組成物を投与することをさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、前記抗ERBB−2剤がハーセプチンであることを特徴とする前記方法。
【請求項35】
請求項21に記載の方法であって、前記手順(c)が抗Her−2剤を含む第2の組成物を投与することをさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法であって、前記抗Her−2剤がトラスツズマブであることを特徴とする前記方法。
【請求項37】
請求項21に記載の方法であって、前記手順(c)が抗AIB−1/SRC−3剤を含む第2の第2の組成物を投与することをさらに含むことを特徴とする前記方法。

【図1A−C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42A−B】
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【図42C】
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【公表番号】特表2013−503162(P2013−503162A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526740(P2012−526740)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/024740
【国際公開番号】WO2011/025556
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512044714)ファイジェニクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】