説明

乳癌を診断する方法

【課題】患者由来の生物学的試料(組織試料など)におけるBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における乳癌に対する素因を診断または判定する方法を提供する。
【解決手段】乳癌(BRC)を検出および診断するための方法を示す。1つの態様において、本診断方法は、BRC細胞と正常細胞とを識別するBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することを含む。もう1つの態様において、本診断方法は、BRC細胞の中でのDCIS細胞とIDC細胞とを識別するBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することを含む。また、リンパ節転移を伴う乳癌細胞において特有の変化した発現パターンを有するBRC関連遺伝子を用いて、乳癌転移を予測し予防するための手段を提供する。さらに、乳癌の治療において有用な治療薬のスクリーニング方法、乳癌を治療する方法、および対象への乳癌に対するワクチン接種の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、乳癌の検出および診断の方法、ならびに乳癌および乳癌転移を治療および予防する方法に関する。
【0002】
本出願は、2003年9月24日に提出された米国特許仮出願第60/505,571号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
乳癌は遺伝的に不均一な疾患であり、女性で最も一般的な悪性腫瘍である。全世界で毎年、推定で約80万件の新たな症例が報告されている(Parkin DM, Pisani P, Ferlay J (1999)。CA Cancer J Clin 49: 33-64/非特許文献1)。本疾患の治療のための同時併用的な選択肢のうち第一のものは乳房切除術である。原発性腫瘍の外科的除去を行っても、診断時点では検出不可能な微小転移のために局所または遠隔部位での再発が起こる可能性がある(Saphner T, Tommey DC, Gray R (1996). J Clin Oncol, 14, 2738-2746/非特許文献2)。このような残存細胞または前癌細胞を死滅させることを狙いとして、手術後には通常、アジュバント療法として細胞毒性薬剤が投与される。
【0004】
従来の化学療法薬による治療は経験に拠ることが多く、ほとんどは組織学的腫瘍パラメーターに基づき、具体的な機序は解明されていない。このため、標的指向性薬剤が乳癌に対する基礎的な治療となりつつある。タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬はこの種のものを代表する2つであり、転移性乳癌を有する患者にアジュバントまたは化学予防薬として用いた場合に大きな反応があることが証明されている(Fisher B, Costantino JP, Wickerham DL, Redmond CK, Kavanah M, Cronin WM, Vogel V, Robidoux A, Dimitrov N, Atkins J, Daly M, Wieand S, Tan-Chiu E, Ford L, Wolmark N (1998). J Natl Cancer Inst, 90, 1371-1388/非特許文献3;Cuzick J (2002). Lancet 360, 817-824/非特許文献4)。しかし、その欠点は、これらの薬剤に対する感受性があるのはエストロゲン受容体を発現している患者のみであることである。最近では、副作用、特に長期のタモキシフェン治療が子宮内膜癌を引き起こす可能性、ならびにアロマターゼを処方された患者のうち閉経後の女性における骨折への有害な影響に関する懸念さえ生じている(Coleman RE (2004). Oncology. 18 (5 Suppl 3),16-20/非特許文献5)。副作用および薬剤耐性の出現のために、同定された作用機序に基づく、選択的で有用な薬剤の新たな分子標的を探索することが明らかに必要になっている。
【0005】
乳癌は、非常に多くの遺伝的変化との関連性がある複合的な疾患である。これらの異常が乳癌発生の原因であるか否かはほとんど分かっていないが、これらは、異型乳管過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)および浸潤性乳管癌(IDC)の段階を含む、正常細胞の形質転換と概して同一視しうる多段階過程によって起こることが報告されている。前癌病変のうち浸潤癌に進行するのは一部分に過ぎず、それ以外の病変は自然退行するという証拠が得られている。原発性乳癌の発生、その進行およびその転移の形成をもたらす分子的関与に関するこの説明は、予防および治療を目標とする新たな戦略の主な焦点となる。
【0006】
cDNAマイクロアレイ解析によって作成された遺伝子発現プロファイルは、個々の癌の性質に関して、従来の組織病理学的方法が与えうるよりもかなり多くの詳細を提供することができる。このような情報が有望とされている理由は、新生物性疾患の治療および新規薬剤の開発のための臨床的戦略を進歩させる可能性があるという点にある(Petricoin, E. F., 3rd, Hackett, J. L., Lesko, L. J., Puri, R. K., Gutman, S. I., Chumakov, K., Woodcock, J., Feigal, D. W., Jr., Zoon, K. C. and Sistare, F. D.「Medical applications of microarray technologies:a regularory science perspective.」Nat Genet, 32 Suppl:474-479, 2002/非特許文献6)。この目標のため、本発明者らは、種々の組織からの一つまたは複数の腫瘍の発現プロファイルをcDNAマイクロアレイによって解析した(Okabe, H. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in human hepatocellular carcinomas using cDNA microarray:identification of genes involved in viral carcinogenesis and tumor progression.」Cancer Res, 61:2129-2137, 2001/非特許文献7;Hasegawa, S. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in intestinal-type gastric cancers using a complementary DNA microarray representing 23,040 genes.」Cancer Res, 62:7012-7017, 2002/非特許文献8;Kaneta, Y. et al., and Ohno, R.「Prediction of Sensitivity to STI571 among Chronic Myeloid Leukemia Patients by Genome-wide cDNA Microarray Analysis.」Jpn J Cancer Res, 93:849-856, 2002/非特許文献9;Kaneta, Y. et al.,「Genome-wide analysis of gene-expression profiles in chronic myeloid leukemia cells using a cDNA microarray.」Int J Oncol, 23:681-691, 2003/非特許文献10;Kitahara, O. et al.,「Alterations of gene expression during colorectal carcinogenesis revealed by cDNA microarrays after laser-capture microdissection of tumor tissues and normal epithelia.」Cancer Res, 61:3544-3549, 2001/非特許文献11;Lin, Y. et al.「Molecular diagnosis of colorectal tumors by expression profiles of 50 genes expressed differentially in adenomas and carcinomas.」Oncogene, 21:4120-4128, 2002/非特許文献12;Nagayama, S. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in synovial sarcomas using a cDNA microarray.」Cancer Res, 62:5859-5866, 2002/非特許文献13;Okutsu, J. et al.,「Prediction of chemosensitivity for patients with acute myeloid leukemia, according to expression levels of 28 genes selected by genome-wide complementary DNA microarray analysis.」Mol Cancer Ther, 1:1035-1042, 2002/非特許文献14;Kikuchi, T. et al.,「Expression profiles of non-small cell lung cancers on cDNA microarrays:identification of genes for prediction of lymph-node metastasis and sensitivity to anti-cancer drugs.」Oncogene, 22:2192-2205, 2003/非特許文献15)。
【0007】
最近ではcDNAマイクロアレイを利用した数千種もの遺伝子の発現レベルが検討された結果、種々のタイプの乳癌における個別のパターンが発見されている(Sgroi, D. C. et al.,「In vivo gene expression profile analysis of human breast cancer progression.」Cancer Res, 59:5656-5661, 1999/非特許文献16;Sorlie, T. et al.,「Gene expression patterns of breast carcinomas distinguish tumor subclasses with clinical implications.」Proc Natl Acad Sci U S A, 98:10869-10874, 2001/非特許文献17;Kauraniemi, P. et al.,「New amplified and highly expressed genes discovered in the ERBB2 amplicon in breast cancer by cDNA microarrays.」Cancer Res, 61:8235-8240, 2001/非特許文献18;Gruvberger, S. et al., S.「Estrogen receptor status in breast cancer is associated with remarkably distinct gene expression patterns.」Cancer Res, 61:5979-5984, 2001/非特許文献19;Dressman, M. et al.,「Gene expression profiling detects gene amplification and differentiates tumor types in breast cancer.」Cancer Res, 63:2194-2199, 2003/非特許文献20)。
【0008】
乳癌における遺伝子発現プロファイルに関する研究により、診断マーカーまたは予後判定プロファイルのための候補として役立つ可能性のある遺伝子が同定されている。しかし、乳癌細胞は高度の炎症反応を伴う固形腫瘤(solid mass)として存在し、種々な細胞成分を含むため、主として腫瘍塊から得られたこれらのデータは乳癌発生過程における発現変化を十分には反映できない。したがって、以前に公開されたマイクロアレイデータは混成の(heterogenous)プロファイルを反映している可能性が高い。
【0009】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究によって、いくつかの抗腫瘍物質の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、Rasに関連する増殖-シグナル伝達経路を阻害するように当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)(この活性は翻訳後のファルネシル化に依存する)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効であることが示されている(He et al., Cell 99:335-45(1999)/非特許文献21)。同様に、抗癌剤と、原癌遺伝子受容体HER2/neuに拮抗するための抗HER-2モノクローナル抗体であるトラスツズマブを併用したヒトに対する臨床試験が実施されており、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が得られている(Lin et al., Cancer Res. 61:6345-9(2001)/非特許文献22)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を治療するためにようやく開発されてきている。これらの種類の物質は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(Fujita et al., Cancer Res. 61:7722-6(2001)/非特許文献23)。よって、癌性細胞において一般的に上方制御されている遺伝子産物が、新規抗癌剤を開発するための有力な標的として役立つ可能性があることは理解できる。
【0010】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することがさらに証明されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他にも多くのTAAが発見されている(Boon, Int. J. Cancer 54:177-80(1993)/非特許文献24;Boon and van der Bruggen, J. Exp. Med. 183:725-9(1996)/非特許文献25;van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991)/非特許文献26;Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993)/非特許文献27;Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994)/非特許文献28)。新しく発見されたTAAのいくつかにおいては、免疫治療の標的として現在臨床開発が行われている。これまで発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991)/非特許文献29)、gp100(Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994)/非特許文献30)、SART(Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998)/非特許文献31、およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997)/非特許文献32)が含まれる。一方、腫瘍細胞において特に過剰発現されることが示されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit. J. Cancer 84:1052-7(2001)/非特許文献33)、HER2/neu(Tanaka et al., Brit. J. Cancer 84:94-9(2001)/非特許文献34)、CEA(Nukaya et al., Int. J. Cancer 80:92-7(1999)/非特許文献35)等が含まれる。
【0011】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にもかかわらず(Rosenberg et al., Nature Med. 4:321-7(1998)/非特許文献36;Mukherji et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:8078-82(1995)/非特許文献37;Hu et al., Cancer Res. 56:2479-83(1996)/非特許文献38)、結腸癌を含む腺癌の治療に現在利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において豊富に発現されると共にさらにその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補物質となるであろう。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン法の臨床応用を促進すると期待される(Boon and van der Bruggen, J. Exp. Med. 183:725-9(1996)/非特許文献39;van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991)/非特許文献40;Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993)/非特許文献41;Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994)/非特許文献42;Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998)/非特許文献43;Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997)/非特許文献44;Harris, J. Natl. Cancer Inst. 88:1442-5(1996)/非特許文献45;Butterfield et al., Cancer Res. 59:3134-42(1999)/非特許文献46;Vissers et al., Cancer Res. 59:5554-9(1999)/非特許文献47;van der Burg et al., J. Immunol. 156:3308-14(1996)/非特許文献48;Tanaka et al., Cancer Res. 57:4465-8(1997)/非特許文献49;Fujie et al., Int. J. Cancer 80:169-72(1999)/非特許文献50;Kikuchi et al., Int. J. Cancer 81:459-66(1999)/非特許文献51;Oiso et al., Int. J. Cancer 81:387-94(1999)/非特許文献52)。
【0012】
ペプチド刺激された特定の健康なドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr-放出アッセイにおいてHLA-A24または-A0201拘束的に腫瘍細胞に対して細胞障害性を発揮することはまれであることは繰り返し報告されている(Kawano et al., Cancer Res. 60:3550-8(2000)/非特許文献53;Nishizaka et al., Cancer Res. 60:4830-7(2000)/非特許文献54;Tamura et al., Jpn. J. Cancer Res. 92:762-7(2001)/非特許文献55)。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人集団のみならず、日本人集団における一般的なHLA対立遺伝子である(Date et al., Tissue Antigens 47:93-101(1996)/非特許文献56;Kondo et al., J. Immunol. 155:4307-12(1995)/非特許文献57;Kubo et al., J. Immunol. 152:3913-24(1994)/非特許文献58;Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference, Oxford University Press, Oxford, 1065(1992)/非特許文献59;Williams et al., Tissue Antigen 49:129(1997)/非特許文献60)。このように、これらのHLAによって提示される癌の抗原性ペプチドは、日本人および白人における癌の治療において特に有用となる可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は、通常、高濃度のペプチドの使用によって、CTLを効果的に活性化する高レベルの特異的なペプチド/MHC複合体を抗原提示細胞(APC)上に生成する結果であろうことは知られている(Alexander-Miller et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:4102-7(1996)/非特許文献61)。
【0013】
このため、癌に関係する発癌機構の解明、および新規抗癌剤を開発するための有望な標的の同定を目的とした取り組みとして、本発明者らは23,040種の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて、12例の非浸潤性乳管癌(DCIS)および69例の浸潤性乳管癌(IDC)を含む乳癌細胞の精製集団において見られる、遺伝子発現プロファイルの大規模な全ゲノム解析を行った。
【非特許文献1】Parkin DM, Pisani P, Ferlay J (1999). CA Cancer J Clin 49: 33-64
【非特許文献2】Saphner T, Tommey DC, Gray R (1996). J Clin Oncol, 14, 2738-2746
【非特許文献3】Fisher B, Costantino JP, Wickerham DL, Redmond CK, Kavanah M, Cronin WM, Vogel V, Robidoux A, Dimitrov N, Atkins J, Daly M, Wieand S, Tan-Chiu E, Ford L, Wolmark N (1998). J Natl Cancer Inst, 90, 1371-1388
【非特許文献4】Cuzick J (2002). Lancet 360, 817-824
【非特許文献5】Coleman RE (2004). Oncology. 18 (5 Suppl 3),16-20
【非特許文献6】Petricoin, E. F., 3rd, Hackett, J. L., Lesko, L. J., Puri, R. K., Gutman, S. I., Chumakov, K., Woodcock, J., Feigal, D. W., Jr., Zoon, K. C. and Sistare, F. D.Nat Genet, 32 Suppl:474-479, 2002
【非特許文献7】Okabe, H. et al.,Cancer Res, 61:2129-2137, 2001
【非特許文献8】Hasegawa, S. et al.,Cancer Res, 62:7012-7017, 2002
【非特許文献9】Kaneta, Y. et al., and Ohno, R.Jpn J Cancer Res, 93:849-856, 2002
【非特許文献10】Kaneta, Y. et al.,Int J Oncol, 23:681-691, 2003
【非特許文献11】Kitahara, O. et al.,Cancer Res, 61:3544-3549, 2001;
【非特許文献12】Lin, Y. et al.Oncogene, 21:4120-4128, 2002
【非特許文献13】Nagayama, S. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in synovial sarcomas using a cDNA microarray.」Cancer Res, 62:5859-5866, 2002
【非特許文献14】Okutsu, J. et al.,Mol Cancer Ther, 1:1035-1042, 2002
【非特許文献15】Kikuchi, T. et al.,Oncogene, 22:2192-2205, 2003
【非特許文献16】Sgroi, D. C. et al.,Cancer Res, 59:5656-5661, 1999
【非特許文献17】Sorlie, T. et al.,Proc Natl Acad Sci U S A, 98:10869-10874, 2001
【非特許文献18】Kauraniemi, P. et al.,Cancer Res, 61:8235-8240, 2001
【非特許文献19】Gruvberger, S. et al., S.Cancer Res, 61:5979-5984, 2001
【非特許文献20】Dressman, M. et al.,Cancer Res, 63:2194-2199, 2003
【非特許文献21】He et al., Cell 99:335-45(1999)
【非特許文献22】Lin et al., Cancer Res. 61:6345-9(2001)
【非特許文献23】Fujita et al., Cancer Res. 61:7722-6(2001)
【非特許文献24】Boon, Int. J. Cancer 54:177-80(1993)
【非特許文献25】Boon and van der Bruggen, J. Exp. Med. 183:725-9(1996)
【非特許文献26】van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991)
【非特許文献27】Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993)
【非特許文献28】Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994)
【非特許文献29】van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991)
【非特許文献30】Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994)
【非特許文献31】Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998)
【非特許文献32】Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997)
【非特許文献33】Umano et al., Brit. J. Cancer 84:1052-7(2001)
【非特許文献34】Tanaka et al., Brit. J. Cancer 84:94-9(2001)
【非特許文献35】Nukaya et al., Int. J. Cancer 80:92-7(1999)
【非特許文献36】Rosenberg et al., Nature Med. 4:321-7(1998)
【非特許文献37】Mukherji et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:8078-82(1995)
【非特許文献38】Hu et al., Cancer Res. 56:2479-83(1996)
【非特許文献39】Boon and van der Bruggen, J. Exp. Med. 183:725-9(1996)
【非特許文献40】van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991)
【非特許文献41】Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993)
【非特許文献42】Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994)
【非特許文献43】Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998)
【非特許文献44】Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997)
【非特許文献45】Harris, J. Natl. Cancer Inst. 88:1442-5(1996)
【非特許文献46】Butterfield et al., Cancer Res. 59:3134-42(1999)
【非特許文献47】Vissers et al., Cancer Res. 59:5554-9(1999)
【非特許文献48】van der Burg et al., J. Immunol. 156:3308-14(1996)
【非特許文献49】Tanaka et al., Cancer Res. 57:4465-8(1997)
【非特許文献50】Fujie et al., Int. J. Cancer 80:169-72(1999)
【非特許文献51】Kikuchi et al., Int. J. Cancer 81:459-66(1999)
【非特許文献52】Oiso et al., Int. J. Cancer 81:387-94(1999)
【非特許文献53】Kawano et al., Cancer Res. 60:3550-8(2000)
【非特許文献54】Nishizaka et al., Cancer Res. 60:4830-7(2000)
【非特許文献55】Tamura et al., Jpn. J. Cancer Res. 92:762-7(2001)
【非特許文献56】Date et al., Tissue Antigens 47:93-101(1996)
【非特許文献57】Kondo et al., J. Immunol. 155:4307-12(1995)
【非特許文献58】Kubo et al., J. Immunol. 152:3913-24(1994)
【非特許文献59】Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference, Oxford University Press, Oxford, 1065(1992)
【非特許文献60】Williams et al., Tissue Antigen 49:129(1997)
【非特許文献61】Alexander-Miller et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:4102-7(1996)
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、乳癌(BRC)と相関する遺伝子発現パターンの発見に基づく。乳癌において差次的に発現される遺伝子は、本明細書において「BRC核酸」または「BRCポリヌクレオチド」と総称され、コードされる対応するポリペプチドは「BRCポリペプチド」または「BRCタンパク質」と呼ばれる。
【0015】
したがって、本発明は、患者由来の生物学的試料(組織試料など)におけるBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することによる、対象における乳癌に対する素因を診断または判定する方法を提供する。「BRC関連遺伝子」という用語は、BRC細胞における発現レベルが正常細胞と比較して異なることを特徴とする遺伝子を指す。正常細胞は乳房組織から得られたものである。本発明の文脈において、BRC関連遺伝子は、表3〜8に列挙された遺伝子(すなわちBRC番号123〜512の遺伝子)である。遺伝子の発現レベルがその遺伝子の正常対照レベルと比較して変化していること、例えば上昇または低下していることにより、対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0016】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料で検出されるタンパク質発現レベルを指し、これには正常対照レベルおよび乳癌対照レベルの両方が含まれる。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであっても、または複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであってもよい。例えば、対照レベルが、以前に試験を行った細胞からの発現パターンのデータベースであってもよい。「正常対照レベル」とは、正常で健康な個体において、または乳癌に罹患していないことが判明している個体の集団において検出される遺伝子の発現レベルを指す。正常個体とは、乳癌の臨床症状がない個体のことである。これに対して、「BRC対照レベル」とは、BRCに罹患した集団で認められるBRC関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0017】
被験試料において検出される、表3、5および7に列挙された一つまたは複数のBRC関連遺伝子(すなわち、BRC番号123〜175、374〜398および448〜471)の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることにより、(試料を入手した)対象がBRCに罹患しているか、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。対照的に、被験試料中に検出される、表4、6および8に列挙された一つまたは複数のBRC関連遺伝子(すなわち、BRC番号176〜373、399〜447および472〜512)の発現レベルが正常対照レベルと比較して低下していることにより、対象がBRCに罹患していること、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0018】
または、試料におけるBRC関連遺伝子の一群の発現を、同じ遺伝子の一群のBRC対照レベルと比較することもできる。試料での発現とBRC対照での発現との間に類似性があれば、(試料を提供した)対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0019】
本発明によれば、遺伝子発現レベルは、対照レベルと比較して10%、25%、または50%上昇または低下している場合に「変化している」とみなされる。または、発現レベルは、対照レベルと比較して少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上上昇または低下している場合に変化しているとみなしてもよい。発現は、例えばアレイ上で、BRC関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される。
【0020】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料は、被験対象から、例えば、BRCを有することが判明しているかその疑いがある患者から得られる任意の試料である。例えば、組織には上皮細胞が含まれてもよい。より具体的には、組織は乳管癌からの上皮細胞でありうる。
【0021】
本発明はまた、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子のうち2つまたはそれ以上に関する遺伝子発現レベルを含む、BRC基準発現プロファイルも提供する。または、BRC基準発現プロファイルが、表3、5および7に列挙されたBRC関連遺伝子または表4、6および8に列挙されたBRC関連遺伝子のうち2つまたはそれ以上に関する発現レベルを含んでもよい。
【0022】
本発明はさらに、BRC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験化合物と接触させること、BRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を決定することによって、BRC関連遺伝子、例えば表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子の発現または活性を阻害または増強する作用因子を同定する方法も提供する。被験細胞は、乳癌から得られた上皮細胞などの上皮細胞であってよい。上方制御されるBRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が、その遺伝子または遺伝子産物の正常対照レベルまたは活性と比較して低下していることにより、被験作用因子がBRC関連遺伝子の阻害因子であることが示され、これはBRCの症状、例えば、表3、5および7に列挙された一つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現を緩和するために用いてもよい。または、下方制御されるBRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が、遺伝子または遺伝子産物の正常対照レベルまたは活性と比較して上昇していることにより、被験作用因子がBRC関連遺伝子の発現または機能に対する増強因子であることが示され、これはBRCの症状、例えば、表4、6および8に列挙された一つまたは複数のBRC関連遺伝子の低発現を緩和するために用いてもよい。
【0023】
本発明はまた、一つまたは複数のBRC核酸またはBRCポリペプチドと結合する検出試薬を含むキットも提供する。一つまたは複数のBRC核酸と結合する核酸のアレイも提供される。
【0024】
本発明の治療方法には、対象におけるBRCを治療または予防する方法であって、アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は特異的な標的遺伝子の発現を低下させる。例えば、アンチセンス組成物は、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子からなる群より選択されるBRC関連遺伝子配列に対して相補的なヌクレオチドを含みうる。または、本方法が、低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、siRNA組成物は、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子からなる群より選択されるBRC核酸の発現を低下させる。さらにもう1つの方法において、対象におけるBRCの治療または予防を、リボザイム組成物を対象に投与することによって実施することもできる。本発明の文脈において、核酸特異的なリボザイム組成物は、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子からなる群より選択されるBRC核酸の発現を低下させる。実際、表に列挙されたBRC関連遺伝子に対するsiRNAの阻害作用が確認された。例えば、表7のBRC-456(GenBankアクセッション番号AF237709、TOPK;T-LAK細胞から生じるプロテインキナーゼ)に対するsiRNAが乳癌細胞の細胞増殖を阻害することが、実施例の項で明確に示されている。したがって、本発明において、表3、5および7に列挙されたBRC関連遺伝子、特にBRC-456は、乳癌の好ましい治療標的である。他の治療方法には、対象に、表4、6および8に列挙されたBRC関連遺伝子のうちの一つもしくは複数の発現、または表4、6および8に列挙されたBRC関連遺伝子のうちの一つもしくは複数によってコードされるポリペプチドの活性を高める化合物を投与するものが含まれる。
【0025】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象におけるBRCを治療または予防する方法が、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、またはこのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、免疫学的活性断片とは、完全長の天然型タンパク質よりも長さは短いものの、完全長タンパク質によって誘導される免疫応答に類似した免疫応答を誘導するポリペプチドのことである。例えば、免疫学的活性断片は、少なくとも8残基長であって、T細胞またはB細胞などの免疫細胞を刺激しうるものであるべきである。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の生成、または抗体の産生を検出することによって測定可能である。
【0026】
さらに、本発明は、乳癌の転移を治療または予防するための標的分子を提供する。本発明によれば、表11に列挙された遺伝子(すなわち、BRC番号719〜752の遺伝子)が、リンパ節転移を伴う乳癌細胞において特有の変化した発現パターンを有する遺伝子として同定された。したがって、VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される、上方制御される遺伝子またはそれらの遺伝子産物の発現または活性の抑制を介して、乳癌の転移を治療または予防することができる。または、癌細胞におけるUBA52、GenBankアクセッション番号AA634090、CEACAM3、C21orf97、KIAA1040、EEF1D、FUS、GenBankアクセッション番号AW965200およびKIAA0475の発現または活性を増強することによって、乳癌の転移を治療または予防することもできる。
【0027】
本発明はまた、乳癌の転移を予測するための方法も提供する。詳細には、本方法は、表11に列挙された遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子の発現レベルを測定する段階を含む。これらのマーカー遺伝子は、本明細書において、リンパ節転移を伴う患者の乳癌細胞において特有の変化した発現パターンを有する遺伝子として同定されている。このため、対象由来の試料において検出された発現レベルが、参照試料におけるリンパ節転移陽性症例または陰性症例の平均発現レベルと近いか否かを判定することによって、対象における乳癌の転移を予想することができる。
【0028】
上方制御される遺伝子の中から、本発明者らは、発現データを得ることができた乳癌の39症例中30例(77%)で、特に浸潤性乳管癌標本が得られた36症例中29例(81%)で、3倍を上回って過剰発現された、T-LAK細胞から生じるプロテインキナーゼ(TOPK)と呼ばれるA7870を同定した。その後の半定量的RT-PCRからも、A7870が、乳管細胞または正常乳房を含む正常ヒト臓器と比較して、12例の臨床乳癌試料中7例および20個の乳癌細胞株中17個で上方制御されることが確認された。ノーザンブロット分析により、A7870転写産物は乳癌細胞株ならびに正常ヒト精巣および胸腺のみで発現されることが判明した。TOPK抗体を用いた免疫細胞化学染色により、乳癌細胞株T47D、BT20およびHBC5において内因性A7870の細胞内局在は細胞質中および核膜周辺に観察された。低分子干渉RNA(siRNA)による乳癌細胞の処置は、A7870の発現を効果的に阻害するとともに乳癌細胞株T47DおよびBT-20の細胞/腫瘍成長を抑制し、このことからこの遺伝子が細胞の成長増殖に重要な役割を果たすことが示唆された。これらの所見は、A7870の過剰発現が乳癌発生に関与する可能性とともに、乳癌患者に対する特異的治療法のための有望な戦略となる可能性があることを示唆する。
【0029】
特に定義していなければ、本明細書において用いた科学技術用語は全て、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を下記に記述する。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は、説明するために限られ、制限することを意図しない。
【0030】
本明細書に記述の方法の一つの長所は、乳癌の明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明のその他の特徴および長所は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0031】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という用語は、別に特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0032】
一般に、乳癌細胞は、高度の炎症反応を有するとともに種々の細胞成分を含む固形腫瘤として存在する。このため、これまでに発表されたマイクロアレイデータは混成のプロファイルを反映している可能性が高い。
【0033】
これらの問題を考慮して、本発明者らは、乳癌細胞および正常乳房上皮乳管細胞の精製された集団をレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)法によって調製し、23,040遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて、12例の非浸潤性乳管癌(DCIS)および69例の浸潤性乳管癌(IDC)を含む81例のBRCの全ゲノム遺伝子発現プロファイルを、解析した。これらのデータは、乳癌発生に関する重要な情報を提供するだけでなく、その産物が診断マーカーとしておよび/または乳癌患者の治療のための分子標的として役立つとともに、臨床的に意味のある情報を提供する可能性がある、候補遺伝子の同定を容易にする。
【0034】
本発明は部分的には、BRCの患者の上皮細胞と癌との間で、多数の核酸の発現パターンが変化しているという発見に基づく。遺伝子の発現の差異は網羅的cDNAマイクロアレイシステムによって同定された。
【0035】
12例のDCISおよび69例のIDCを含む81例のBRC由来の癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、23,040個の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイをレーザーマイクロダイセクション法と組み合わせて用いることにより解析した。レーザーマイクロダイセクション法によってのみ選択された、BRCと診断された患者からの癌細胞と正常乳管上皮細胞の発現パターンを比較することにより、102個の遺伝子(表3、5および7に示されている)がBRC細胞で高頻度に上方制御されるものとして同定され、そのうち100個の遺伝子を本発明のBRC関連遺伝子として選択した。同様に、288個の遺伝子(表4、6および8に示されている)が、BRC細胞で高頻度に下方制御されるものとして同定された。さらに、患者の血清中または痰中の癌関連タンパク質を検出する能力を有する候補分子マーカーの選別を行い、ヒトBRCにおけるシグナル抑制方法の開発のための標的となる可能性のあるものがいくつか発見された。表3および4は、それらのうち、DCISおよびIDCを含むBRCと正常組織との間で発現が変化している遺伝子の一覧を提供する。DCISおよびIDCにおいて通常、上方制御または下方制御されている遺伝子は、それぞれ表3および表4に示されている。DCISからIDCへの移行において発現が上昇または低下する遺伝子は、それぞれ表5および表6に列記されている。さらに、正常組織と比較してIDCにおいて通常、上方制御または下方制御される遺伝子は、それぞれ表7および表8に列記されている。
【0036】
本明細書で同定された、差次的に発現されるこれらの遺伝子には、BRCマーカーおよびBRC遺伝子標的としての診断上の有用性がみられ、その発現は、BRC症状の治療または軽減を目的に変化されうる。または、本明細書で同定された、DCISとIDCとの間で差次的に発現される遺伝子には、IDCをDCISと区別するためのマーカーおよびBRC遺伝子標的としての診断上の有用性がみられ、IDC症状の治療または軽減を目的にその発現が変化されうる。
【0037】
BRC患者において発現レベルが変化している(すなわち、上昇または低下している)遺伝子は表3〜8にまとめられており、本明細書において「BRC関連遺伝子」、「BRC核酸」、または「BRCポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされるポリペプチドは「BRCポリペプチド」または「BRCタンパク質」と呼ばれる。別に指示する場合を除き、「BRC」とは、本明細書中に開示した配列のうち任意のものを指す(例えば、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子)。前述の遺伝子群はデータベースのアクセッション番号とともに示している。
【0038】
細胞の試料における種々の遺伝子の発現を測定することにより、BRCを診断することができる。同様に、種々の物質に応答したこれらの遺伝子の発現を測定することにより、BRCを治療するための物質を同定することができる。
【0039】
本発明は、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子の少なくとも1つ、最大ですべての発現を決定すること(例えば、測定すること)を含む。既知の配列に関するGenBank(商標)データベースの登録情報によって得られる配列情報を使用し、当業者に周知の手法を用いてBRC関連遺伝子を検出および測定することができる。例えば、BRC関連遺伝子に対応する配列データベース登録情報中の配列を、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析において、BRC関連遺伝子に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築するために用いることができる。プローブは、典型的には参照配列のうちの少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、または少なくとも200ヌクレオチドを含む。別の例としては、これらの配列は、例えば増幅に基づいた検出方法(逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応など)におけるBRC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築するのに用いることができる。
【0040】
続いて、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料における、BRC関連遺伝子の一つまたは複数の発現レベルを、参照集団における同じ遺伝子の発現レベルと比較する。参照細胞集団は、比較されるパラメーターが既知である一つまたは複数の細胞、すなわち、乳管癌細胞(例えば、BRC細胞)または正常乳管上皮細胞(例えば、非BRC細胞)を含む。
【0041】
被験細胞集団における遺伝子発現のパターンが、参照細胞集団と比較してBRCまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非BRC細胞から構成される場合には、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現パターンに類似性があることにより、被験細胞集団が非BRCであると示される。その反対に、参照細胞集団がBRC細胞から構成される場合には、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現プロファイルに類似性があることにより、被験細胞集団がBRC細胞を含むと示される。
【0042】
被験細胞集団におけるBRCマーカー遺伝子の発現レベルは、それと参照細胞集団における対応するBRCマーカー遺伝子の発現レベルとの違いが1.0倍を上回る、1.5倍を上回る、2.0倍を上回る、5.0倍を上回る、10.0倍を上回る、またはそれ以上の倍数を上回るならば「変化している」とみなされる。
【0043】
被験細胞集団と参照細胞集団との間の差次的な遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞が癌状態にあるか非癌状態にあるかによっての差がないことが判明している核酸である。対照核酸の発現レベルは、被験集団および参照集団におけるシグナルレベルを標準化するのに用いることができる。対照遺伝子の例には、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒドβ-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が非制限的に含まれる。
【0044】
被験細胞集団は複数の参照細胞集団と比較することができる。多数の参照集団のそれぞれは既知のパラメーターに関して差があってもよい。したがって、被験細胞集団を、例えばBRC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、ならびに例えば非BRC細胞(正常細胞)を含むことが判明している第2の参照集団と比較してもよい。被験細胞は、BRC細胞を含むことが判明しているかまたはBRC細胞を含むことが疑われる対象からの組織試料または細胞試料中に含まれてもよい。
【0045】
被験細胞は、体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液または痰など)から得られる。例えば、被験細胞を乳房組織から精製してもよい。好ましくは被験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、好ましくは乳管癌であるか乳管癌であることが疑われる組織からのものである。
【0046】
参照細胞集団中の細胞は、被験細胞の組織型と類似した組織型に由来すべきである。任意には、参照細胞集団は細胞株、例えば、BRC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常非BRC細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメーターまたは条件に関して既知である細胞の分子情報のデータベースに由来していてもよい。
【0047】
対象は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物の例には、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシが非制限的に含まれる。
【0048】
本明細書に開示した遺伝子の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質レベルまたは核酸レベルで決定することができる。例えば、遺伝子発現を決定するには、これらの核酸配列の一つまたは複数を特異的に認識するプローブによるノーザンハイブリダイゼーション分析を用いてもよい。または、遺伝子発現は、例えば、差次的に発現される遺伝子配列に対して特異的なプライマーを用いて逆転写に基づくPCRアッセイにより測定することもできる。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち、本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルまたはその生物学的活性を測定することによって決定することもできる。この種の方法は当技術分野で周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を利用したイムノアッセイが非制限的に含まれる。遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性は一般に周知である。
【0049】
乳癌の診断
本発明の文脈において、BRCは、被験細胞集団(すなわち、患者由来の生物学的試料)からの一つまたは複数のBRC核酸の発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは被験細胞集団は、上皮細胞、例えば、乳房組織から得られた細胞を含む。遺伝子発現を、血液または他の体液(尿など)から測定することもできる。他の生物学的試料をタンパク質レベルの測定のために用いることもできる。例えば、診断しようとする対象から得た血液または血清中のタンパク質レベルを、イムノアッセイまたは従来の生物学的アッセイによって測定することができる。
【0050】
一つまたは複数のBRC関連遺伝子、例えば、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子の発現を、被験細胞試料または生物学的試料において決定し、アッセイした一つまたは複数のBRC関連遺伝子に付随する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、BRCに罹患していないことが判明している集団で一般に認められるBRC関連遺伝子の発現プロファイルのことである。患者由来の組織試料における一つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベルに変化(例えば、上昇または低下)があることにより、対象がBRCに罹患しているかBRCを発症するリスクを有することが示される。例えば、被験集団における、表3、5、および7に列挙された、上方制御されたBRC関連遺伝子のうち一つまたは複数の発現が正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その対象がBRCに罹患しているかBRCを発症するリスクを有することが示される。逆に、被験集団における、表4、6および8に列挙された一つまたは複数の下方制御されるBRC関連遺伝子の発現が正常対照レベルと比較して低下していることにより、その対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0051】
被験集団におけるBRC関連遺伝子のうち一つまたは複数が、正常対照レベルと比較して変化していることにより、その対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。例えば、BRC関連遺伝子群(表3〜8に列挙された遺伝子)のうち、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%またはそれ以上が変化していることにより、その対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0052】
BRCの組織病理学的分化度の同定:
本発明は、対象におけるBRCの組織学的分化度を特定するための方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(a)検査する対象から採取した組織試料における一つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子が表1および表10に列挙された遺伝子からなる群より選択される段階;ならびに
(b)一つまたは複数のマーカー遺伝子の検出された発現レベルを、高分化型症例および低分化型症例に付随してみられる発現レベルと比較する段階;
(c)一つまたは複数のマーカー遺伝子の検出された発現レベルが高分化型症例のものと同程度である場合に、組織試料が高分化型であると判定され、一つまたは複数のマーカー遺伝子の検出された発現レベルが低分化型症例のものと同程度である場合に、組織試料が低分化型であると判定される段階。
【0053】
本発明において、BRCの組織学的分化度を特定するためのマーカーは、表1および10に示された231個の遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子であってよい。それらの遺伝子のヌクレオチド配列およびそれらによってコードされるアミノ酸配列は当技術分野で公知である。遺伝子のアクセッション番号については表1および表10を参照されたい。
【0054】
BRC関連遺伝子の発現を阻害または増強する作用因子の同定
BRC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する作用因子は、BRCに関連して上方制御される遺伝子を発現する被験細胞集団を被験作用因子と接触させた後に、BRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を決定することによって同定することができる。作用因子の存在下での、BRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが、被験作用因子の非存在下でのその発現または活性レベルと比較して低下していることにより、その作用因子がBRCに関連して上方制御される遺伝子の阻害因子であって、BRCを阻害するのに有用であることが示される。
【0055】
または、BRCに関連して下方制御される遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増強する作用因子は、BRCに関連して下方制御される遺伝子を発現する被験細胞集団を被験作用因子と接触させた後に、BRCに関連して下方制御される遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって同定することができる。作用因子の存在下での、BRC関連遺伝子の発現レベルが、被験作用因子の非存在下でのその発現または活性レベルと比較して上昇していることにより、その作用因子がBRCに関連して上方制御される遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増大させることが示される。
【0056】
被験細胞集団は、BRC関連遺伝子を発現する任意の細胞であってもよい。例えば、被験細胞集団には、乳房組織由来の細胞などの上皮細胞が含まれうる。さらに、被験細胞は癌細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、被験細胞は、BRC関連遺伝子をトランスフェクトされた細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に結合したBRC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクトされた細胞であってもよい。
【0057】
対象におけるBRCの治療有効性の評価
本明細書で同定された、差次的に発現されるBRC関連遺伝子は、BRCの治療の経過をモニターすることも可能にする。この方法では、BRCに対する治療を受けようとする対象から被験細胞集団を得る。必要に応じて、治療前、治療中、および/または治療後といった種々の時点で被験細胞集団を対象から入手する。続いて、細胞集団におけるBRC関連遺伝子の一つまたは複数の発現を決定し、BRCの状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は、関心対象の治療を受けていない必要がある。
【0058】
参照細胞集団がBRC細胞を含まない場合には、被験細胞集団および参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子の発現に類似性があることにより、関心対象の治療が有効であることが示される。しかし、被験集団および正常対照参照細胞集団においてBRC関連遺伝子の発現に差があれば、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示される。同様に、参照細胞集団がBRC細胞を含む場合には、被験細胞集団および参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子の発現に差があることにより、関心対象の治療が有効であることが示されるが、被験集団および癌対照参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子の発現に類似性があれば、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示される。
【0059】
さらに、治療後に入手した対象由来の生物学的試料において決定された一つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療後レベル)を、治療開始前に入手した対象由来の生物学的試料において決定された一つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較することもできる。BRC関連遺伝子が上方制御される遺伝子である場合、治療後試料における発現レベルが低下していることによって関心対象の治療が有効であることが示され、一方、治療後試料における発現レベルが上昇しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示される。反対に、BRC関連遺伝子が下方制御される遺伝子である場合、治療後試料における発現レベルが上昇していることによって関心対象の治療が有効であることが示され、一方、治療後試料における発現レベルが低下しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示されうる。
【0060】
本明細書で用いる場合、「有効な」という用語は、治療が、対象における、病理学的に上方制御される遺伝子の発現低下、病理学的に下方制御される遺伝子の発現増大、または乳管癌の大きさ、波及度もしくは転移能の低下をもたらすことを指す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」という用語は、治療が乳房腫瘍の形成を遅延もしくは防止する、または臨床的なBRCの症状を遅延、予防、もしくは軽減することを示す。乳房腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行える。
【0061】
さらに、有効性を、BRCの診断または治療のための任意の既知の方法に付随して判定することもできる。例えば、BRCを、症候性の異常、例えば、体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身倦怠感、衰弱、および黄疸を特定することによって診断することができる。
【0062】
特定の個体にとって適切なBRC治療用の治療物質の選択
個体における遺伝的構成の差によって、個体が様々な薬剤を代謝する相対的能力に差が起こりうる。対象において代謝されて抗BRC物質として作用する物質は、対象の細胞において、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化しうる。したがって、物質が対象において適したBRC阻害物質であるか否かを決定するために、本明細書に開示される発現差のあるBRC関連遺伝子によって、選択された対象由来の被験細胞集団において、治療効果があるまたは予防効果があると推定されるBRC阻害物質が適切かどうかを調べることができる。
【0063】
特定の対象にとって適切であるBRCの阻害物質を同定するために、対象からの被験細胞集団を治療剤に曝露して、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子の一つまたは複数の発現を決定する。
【0064】
本発明の方法における文脈では、被験細胞集団は、BRC関連遺伝子を発現するBRC細胞を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補物質の存在下でインキュベートし、被験細胞集団の遺伝子発現パターンを測定して、一つまたは複数の参照プロファイル、例えばBRC参照発現プロファイルまたは非BRC参照発現プロファイルと比較することができる。
【0065】
BRCを含む参照細胞集団と比較して、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子の一つもしくは複数の発現が減少するか、または表4、6、および8に列挙されたBRC関連遺伝子の一つもしくは複数の発現が被験細胞集団において増加することは、物質に治療効果を発揮する可能性があることを示している。
【0066】
本発明の文脈において、被験物質はいかなる化合物または組成物であってよい。被験物質の例には、限定されないが免疫調節剤が含まれる。
【0067】
治療剤を同定するためのスクリーニングアッセイ
本明細書に開示した、差次的に発現されるBRC関連遺伝子を、BRCを治療するための候補治療剤を同定するのに用いることもできる。本発明の方法は、候補治療剤が、BRC状態に特徴的な表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子のうち一つまたは複数の発現プロファイルを、非BRC状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変換させうるか否かを判定することを目的に、候補治療剤をスクリーニングすることを含む。
【0068】
本方法では、細胞を被験物質または複数の被験物質(逐次的にまたは組み合わせで)に対して曝露させ、細胞における表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子のうち一つまたは複数の発現を測定する。被験集団でアッセイしたBRC関連遺伝子の発現プロファイルを、被験物質に曝露されていない参照細胞集団における同じBRC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0069】
低発現遺伝子の発現を刺激しうるか、または過剰発現される遺伝子の発現を抑制しうる物質は、臨床的に有益な可能性がある。このような物質はさらに、動物または被験対象における乳管癌増殖を防止する能力に関して試験することができる。
【0070】
さらなる態様において、本発明は、BRCの治療における標的となる可能性のある候補物質をスクリーニングするための方法を提供する。以上に詳述したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたはそれらの遺伝子産物の活性を制御することにより、BRCの発症および進行を制御することができる。このため、BRCの治療における標的となる可能性のある候補物質を、このような発現レベルおよび活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング方法によって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の段階を含みうる:
a)被験化合物を、表3、4、5、6、7、または8に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階。
【0071】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含みうる:
a)候補化合物を、表3、4、5、6、7、または8に列挙された遺伝子からなる群より選択される一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に接触させる段階;および
b)表3、5、および7に列挙された遺伝子からなる群より選択される、一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、または表4、6、および8に列挙された遺伝子からなる群より選択される、一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
マーカー遺伝子を発現する細胞には、例えば、BRCから樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングに用いることができる。
【0072】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含みうる:
a)被験化合物を、表3、4、5、6、7、または8に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、表3、5、および7に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、または表4、6、および8に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を高める化合物を選択する段階。
【0073】
本発明のスクリーニング方法に用いるためのタンパク質は、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質に関する情報に基づき、当業者は、タンパク質の任意の生物学的活性をスクリーニングのための指標として選択し、選択した生物学的活性に関するアッセイのために適した任意の測定方法を選択することができる。
【0074】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含んでもよい:
a)候補化合物を、表3、4、5、6、7、または8に列挙された遺伝子からなる群より選択される一つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に接触させる段階;
b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
c)該マーカー遺伝子が表3、5、および7に列挙された遺伝子からなる群より選択される、上方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現または活性を減少させるか、または該マーカー遺伝子が表4、6、および8に列挙された遺伝子からなる群より選択される、下方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現レベルを高める、候補化合物を選択する段階。
【0075】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。本発明のスクリーニング方法に適したレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製しうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知である場合には、その既知の配列情報を用いることによってレポーター構築物を調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。
【0076】
スクリーニングによって単離された化合物は、マーカー遺伝子の発現またはマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害し、かつ乳癌の治療または予防に適用することができる薬物の開発において候補となる。
【0077】
その上、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物として含まれる。
【0078】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳類のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取されうる。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。これらの調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0079】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、以下に限定されないが、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料が含まれる。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体を上記の成分にさらに含めることができる。注射用滅菌組成物は、注射用に適した蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って調製することができる。
【0080】
生理食塩液、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールのようなアルコール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール;ポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤といった適した溶解剤と共に用いることができる。
【0081】
ゴマ油または大豆油を油脂性液体として用いることができ、安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを溶解剤として共に用いてもよく、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤;ならびに/または抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0082】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、または経皮注射として投与してもよく、鼻腔内、気管支内、筋肉内、または経口投与として投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかし、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。該化合物がDNAによってコードされうる場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0083】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、用量は、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、一般に約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0084】
正常な成人(体重60 kg)に化合物を注射剤形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合においては、慣行的に体重60 kgに換算して適切な用量を計算してもよい。
【0085】
乳癌の転移に対する治療薬を同定するためのスクリーニングアッセイ
本発明は、乳癌の転移を治療または予防するための標的分子を提供する。本発明のBRC転移に関するスクリーニングアッセイは、上記のBRCに対する方法に従い、BRC転移との関連性のあるマーカー遺伝子を用いて行うことができる。
【0086】
本発明において、表11に列挙された遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子は、スクリーニングのために有用である。この表に示された34個の遺伝子はリンパ節転移と関連している。これらの遺伝子のうち、リンパ節陽性腫瘍において25個の遺伝子(+)は相対的に上方制御され、9個の遺伝子(-)は下方制御される(表11および図10)。本発明によって得られた、上方制御される遺伝子のうち一つもしくは複数の発現またはそれらの遺伝子産物の活性を抑制する作用因子は、リンパ節転移を伴うBRCの治療または予防のために有用である。または、本発明によって得られた、一つもしくは複数の下方制御される遺伝子の発現またはそれらの遺伝子産物の活性を増強する作用因子も、リンパ節転移を伴うBRCの治療または予防のために有用である。
【0087】
本発明において、表11に列挙された遺伝子の発現レベルを調節する作用因子は、BRC関連遺伝子の発現を阻害または増強する作用因子の同定と同じ方法で同定することができる。または、それらの遺伝子産物の活性を調節する作用因子を、BRC関連遺伝子の産物を阻害または増強する作用因子の同定と同じ方法で同定することもできる。
【0088】
乳癌を有する対象の予後の評価
本発明はまた、BRCを有する対象の予後を評価する方法であって、被験細胞集団における一つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現を、全疾患病期にわたる患者から得られた参照細胞集団における同じBRC関連遺伝子の発現と比較する段階を含む方法も提供する。被験細胞集団および参照細胞集団における一つもしくは複数のBRC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することにより、または対象から得られた被験細胞集団の経時的な遺伝子発現のパターンを比較することにより、対象の予後を評価することができる。
【0089】
例えば、表3、5、および7に列挙されたような上方制御されるBRC関連遺伝子の一つもしくは複数の発現が正常対照と比較して上昇すること、または表4、6、および8に列挙されたような下方制御されるBRC遺伝子のうち一つもしくは複数の発現が正常対照と比較して低下することは、予後がそれほど好ましくないことを意味する。その反対に、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子のうちの一つまたは複数の発現が正常対照と比較して類似していることは、対象の予後が比較的好ましいことを意味する。好ましくは、対象の予後を、表3、4、5、6、7、および8に列挙された遺伝子からなる群より選択される遺伝子の発現プロファイルを比較することによって評価できる。発現プロファイルを比較するために分類スコア(CS)を用いることもできる。
【0090】
キット
本発明にはまた、BRC検出試薬、例えばBRC核酸の一部と相補的なオリゴヌクレオチド配列のような、一つもしくは複数のBRC核酸に特異的に結合するかもしくはそれを同定する核酸か、またはBRC核酸にコードされる一つもしくは複数のタンパク質に結合する抗体が含まれる。検出試薬は、キットの形で共に包装されていてもよい。例えば検出試薬、例えば核酸または抗体(固相マトリクスに結合させるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、ならびに/または検出標識は、異なる容器に包装されていてもよい。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM等)がキットに含まれていてもよい。キットのアッセイフォーマットは、当技術分野でいずれも既知であるノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであってもよい。
【0091】
例えば、BRC検出試薬は、少なくとも一つのBRC検出部位を形成するために多孔性ストリップのような固相マトリクスに固定することができる。多孔性ストリップの測定または検出領域には、それぞれに核酸を含む多数の部位が含まれてもよい。試験ストリップはまた、陰性および/または陽性対照のための部位を含んでもよい。または、対照部位は、試験ストリップとは異なるストリップに存在していてもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定された核酸を含んでもよく、すなわち第一の検出部位はより多い量を含み、それに続く部位ではより少ない量を含んでもよい。被験試料を加えると、検出可能なシグナルを示す部位の数が、試料に存在するBRCの量の定量的指標を提供する。検出部位は、任意の適した検出可能な形状で構成されてもよく、典型的に試験ストリップの幅に及ぶバーまたはドットの形状である。
【0092】
または、キットは、一つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイを含みうる。アレイ上の核酸は、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子によって示される一つまたは複数の核酸配列を特異的に同定する。表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50個またはそれ以上の発現は、アレイ試験小片またはチップへの結合レベルによって同定されうる。基質アレイは、例えば固相基質上、例えば参照として本明細書にその内容全体が組み入れられる米国特許第5,744,305号に記載される「チップ」上に存在しうる。
【0093】
アレイと複数性
本発明にはまた、一つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイも含まれる。アレイ上の核酸は、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子によって示される一つまたは複数の核酸配列に特異的に対応する。表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50個またはそれ以上の発現レベルは、アレイに結合する核酸を検出することによって同定されうる。
【0094】
本発明にはまた、単離された複数の核酸(すなわち、二つまたはそれ以上の核酸の混合物)が含まれる。核酸は、液相または固相に存在し、例えばニトロセルロースメンブレンのような固相支持体に固定されていてもよい。複数には、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子によって示される核酸の一つまたは複数が含まれる。様々な態様において、複数には、表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50個またはそれ以上が含まれる。
【0095】
乳癌を阻害する方法
本発明はさらに、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子のうちの一つまたは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を低下させるか、または表4、6、および8に列挙されたBRC関連遺伝子のうちの一つまたは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を上昇させることにより、対象におけるBRCの症状を治療または軽減するための方法も提供する。適した治療用化合物を、BRCに罹患している対象またはBRC発症のリスク(もしくはそれに対する感受性)を有する対象に対して、予防的または治療的に投与することができる。このような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、または表3〜8に列挙されたBRC関連遺伝子のうちの一つまたは複数の異常な発現レベルもしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することにより、同定することができる。本発明の文脈において、適した治療薬には、例えば、細胞周期調節、細胞増殖、およびプロテインキナーゼ活性の阻害物質が含まれる。
【0096】
本発明の治療方法は、BRC細胞の由来である同じ種類の組織の正常細胞と比較して、BRC細胞において発現が低下している遺伝子(「下方制御される」または「低発現される」遺伝子)の一つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を増大させる段階を含む。これらの方法において、対象は、対象における低発現される(下方制御される)遺伝子のうち一つまたは複数の量を増加させる化合物の有効量によって治療される。投与は全身的でも局所的でもよい。適した治療用化合物には、低発現される遺伝子のポリペプチド産物、その生物活性断片、ならびに低発現される遺伝子をコードしBRC細胞における発現を可能にする発現制御エレメントを有する核酸;例えば、BRC細胞にとって内因性であるこのような遺伝子の発現レベルを増大させる作用因子(すなわち、低発現される一つまたは複数の遺伝子の発現を上方制御するもの)が含まれる。このような化合物の投与は、対象の乳房細胞における、異常に低発現される一つまたは複数の遺伝子の影響に対抗し、対象の臨床状態を改善する。
【0097】
または、本発明の治療方法は、乳房細胞において発現が異常に上昇している遺伝子(「上方制御される」または「過剰発現される」遺伝子)の一つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能またはその両方を低下させる段階を含む。発現は、当技術分野で公知のいくつかのやり方のうち任意のものによって阻害させることができる。例えば、過剰発現される一つまたは複数の遺伝子の発現を阻害するまたはそれに拮抗する核酸を、例えば、過剰発現される一つまたは複数の遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することによって発現を阻害することができる。
【0098】
アンチセンス核酸
上記のように、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸は、遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることができる。乳癌において上方制御される、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子に対応するアンチセンス核酸は、乳癌の治療のために有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子またはそれらに対応するmRNAと結合することによって作用し、それによって遺伝子の転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/または表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を阻害し、それらによってタンパク質の機能を阻害することができる。本明細書で用いる「アンチセンス核酸」という用語には、標的配列に対して完全に相補的なヌクレオチドと、アンチセンス核酸が標的配列と特異的にハイブリダイズしうるという条件付きで、一つまたは複数のヌクレオチドにミスマッチがあるヌクレオチドとの両方が含まれる。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個の連続したヌクレオチドの範囲にわたって少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは少なくとも80%またはそれ以上、より好ましくは少なくとも90%またはそれ以上、さらにより好ましくは少なくとも95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には当技術分野で知られたアルゴリズムを用いうる。
【0099】
本発明のアンチセンス核酸は、BRCに関連したマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、これらのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合することによって作用し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、タンパク質の発現を阻害して、その結果タンパク質の機能を阻害する。
【0100】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性の適切な基剤と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0101】
同じく、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、本発明のアンチセンス核酸を、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬、および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは既知の方法に従って調製可能である。
【0102】
本発明のアンチセンス核酸は、罹患部位に直接適用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に投与することができる。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス封入用媒質を用いることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が非制限的に含まれる。
【0103】
本発明のアンチセンス核酸誘導体の投与量は、患者の状態に従って適切に調整でき、所望の量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0104】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害し、そのため、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害物質も、本発明のタンパク質の生物学的活性を阻害しうるため、有用である。
【0105】
本発明の方法は、細胞における、上方制御されるBRC関連遺伝子の発現、例えば、細胞の悪性転換に起因する上方制御を変化させるために用いることができる。標的細胞におけるsiRNAと表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子のいずれか1つに対応する転写物との結合は、細胞によるタンパク質産生の低下を引き起こす。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物程度の長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは19〜25ヌクレオチド長である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは75、50、25ヌクレオチド長未満である。
【0106】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を付与するためにチオエート化オリゴヌクレオチドを用いることもできる。
【0107】
また、マーカー遺伝子に対するsiRNAを、マーカー遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることもできる。本明細書において「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。細胞中のDNAがRNAが転写されて生じる鋳型であるものを含め、siRNAを細胞に導入するための標準的な手法を用いることができる。本発明の文脈において、siRNAは、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子等の上方制御されるマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0108】
表3、5、および7に列挙されたようなBRC関連遺伝子のsiRNA は、標的mRNAとハイブリダイズし、正常な一本鎖mRNA転写物と会合することによって、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子によりコードされるポリペプチドの産生を低下または阻害し、それにより翻訳を妨げ、タンパク質の発現を妨げる。本発明の文脈において、siRNAは好ましくは、500, 200、100、50、または25ヌクレオチド長未満である。より好ましくは、siRNAは19〜25ヌクレオチド長である。TOPK siRNAの作製のための核酸配列の例には、標的配列としてのSEQ ID NO:25、28、および31のヌクレオチドの配列が含まれる。siRNAの阻害活性を高める目的で、ヌクレオチド「u」を、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することもできる。付加する「u」の数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端に一本鎖を形成する。
【0109】
表3、5、および7に列挙されたようなBRC関連遺伝子のsiRNAは、mRNA転写物と結合しうる形態で、細胞に直接導入することができる。または、siRNAをコードするDNAを、ベクター中にある状態で送達することもできる。
【0110】
ベクターは、例えば、BRC関連遺伝子標的配列を、前記配列に隣接する機能的に結合した調節配列を有する発現ベクター中に、両方の鎖の発現が(DNA分子の転写によって)可能になるような様式でクローニングすることによって作製しうる(Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li,M.-J., Ehsani, A., Salvaterra、P. and Rossi, J. (2002) 「Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells.」Nature Biotechnology 20:500-505)。BRC関連遺伝子のmRNAに対するアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、BRC関連遺伝子のmRNAに対するセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖およびアンチセンス鎖をインビボでハイブリダイズさせて、BRC関連遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を生成させる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたBRC関連遺伝子は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するような、ヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることができる。
【0111】
ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明は、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'(式中、[A]は表3、5、または7から選択される遺伝子の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である)を有するsiRNAも提供する。領域[A]は[A']とハイブリダイズし、すると領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は好ましくは3〜23ヌクレオチド長である。ループ配列は例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列によって活性のあるsiRNAを得ることもできる(Jacque, J.-M., Triques,K. and Stevenson,M. (2002) 「Modulation of HIV-1 replication by RNA interference.」Nature 418:435-438)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M.Triques,K. and Stevenson, M (2002) 「Modulation of HIV-1 replication by RNA interference.」Nature, Vol. 418:435-438。
UUCG:Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li, M.-J., Ehsani, A., Salvaterra, P. and Rossi, J. (2002) 「Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells.」Nature Biotechnology 20:500-505。Fruscoloni, P., Zamboni, M. and Tocchini-Valentini, G. P. (2003) 「Exonucleolytic degradation of double-stranded RNA by an activity in Xenopus laevis germinal vesicles.」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4):1639-1644。
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., Novina, C. D. and Sharp, P. A. (2002) 「Killing the messenger:Short RNAs that silence gene expression.」Nature Reviews Molecular Cell Biology 4:457-467。
【0112】
したがって、ループ配列を、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる。
TOPK-siRNAに対して:
gaacgauauaaagccagcc-[b]-ggcuggcuuuauaucguuc(SEQ ID NO:25の標的配列に対して);
cuggaugaaucauaccaga-[b]-ucugguaugauucauccag(SEQ ID NO:28の標的配列に対して);
guguggcuugcguaaauaa-[b]-uuauuuacgcaagccacac(SEQ ID NO:31の標的配列に対して)。
【0113】
適切なsiRNAのヌクレオチド配列は、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計することができる。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0114】
siRNA標的部位の選択
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。有望なsiRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接ヌクレオチド19個の出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位により富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害しうる。
2.有望な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する如何なる標的配列も検討から除外する。相同性検索は、NCBIサーバー、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において認められうるBLASTを用いて行うことができる。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。アンビオンでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0115】
BRC関連遺伝子配列に隣接する調節配列は同一でもよく、またはそれらの発現を独立的に、または時間的もしくは空間的に調節しうるように異なっていてもよい。siRNAは、BRC関連遺伝子鋳型のそれぞれを、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNA pol III転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進物質を用いることができる。FuGENE(Roche diagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進物質として有用である。
【0116】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害するので、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質は、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、乳癌を治療するのに有用である。
【0117】
抗体
または、BRCにおいて過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する化合物、さもなければ遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害されうる。例えば、化合物は、一つまたは複数の過剰発現された遺伝子産物に結合する抗体である。
【0118】
本発明では、抗体、特に上方制御されたマーカー遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の断片の使用に言及する。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち上方制御されたマーカー遺伝子の遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに、抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の一つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-5883(1988))。より詳しく述べると、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンのような酵素によって処理することによって産生してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co M.S. et al., J. Immunol. 152:2968-2976(1994);Better M. and Horwitz A.H., Methods Enzymol. 178:476-496(1989);Pluckthun A. and Skerra A., Methods Enzymol. 178:497-515(1989);Lamoyi E., Methods Enzymol. 121:652-663(1986);Rousseaux J. et al., Methods Enzymol. 121:663-669(1986);Bird R.E. and Walker B.W., Trends Biotechnol. 9:132-137(1991)を参照されたい)。
【0119】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような多様な分子に結合させることによって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0120】
または、抗体には、ヒト以外の抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域とを有するキメラ抗体、またはヒト以外の抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体が含まれうる。そのような抗体は、既知の技術を用いて調製することができる。
【0121】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を治療するためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F, Tortora G.「A novel approach in the treatment of cancer:targeting the epidermal growth factor receptor.」Clin Cancer Res. 2001 Oct;7(10):2958-70. Review.;Slamon DJ, Leyland-Jones B, Shak S, Fuchs H, Paton V, Bajamonde A, Fleming T, Eiermann W, Wolter J, Pegram M, Baselga J, Norton L.「Use of chemotherapy plus a monoclonal antibody against HER2 for metastatic breast cancer that overexpresses HER2.」N Engl J Med. 2001 Mar 15;344(11):783-92.;Rehwald U, Schulz H, Reiser M, Sieber M, Staak JO, Morschhauser F, Driessen C, Rudiger T, Muller-Hermelink K, Diehl V, Engert A.「Treatment of relapsed CD20+ Hodgkin lymphoma with the monoclonal antibody rituximab is effective and well tolerated:results of a phase 2 trial of the German Hodgkin Lymphoma Study Group.」Blood. 2003 Jan 15;101(2):420-424.;Fang G, Kim CN, Perkins CL, Ramadevi N, Winton E, Wittmann S and Bhalla KN. (2000). Blood, 96, 2246-2253)。これらの薬物は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬物は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的薬物は、標準的な化学療法と併用して用いた場合に、その有効性を増強することができる(Gianni, L. (2002), Oncology 63 suppl 1, 47-56;Klejman A., Rushen L., Morrione A., Slupianek A and Skorski T. (2002), Oncogene 21:5868-5876)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬物を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の異なる特徴をねらった標的特異的薬物と併用することを含むであろう。
【0122】
これらの調節方法は、エクスビボもしくはインビトロで行うこともでき(例えば、細胞を物質とともに培養することにより)、またはインビボで行うこともできる(例えば、物質を対象に投与することにより)。本方法は、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを、差次的に発現される遺伝子の異常な発現またはそれらの遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療法として投与することを含む。
【0123】
遺伝子および遺伝子産物のそれぞれ発現レベルまたは生物学的活性が(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)上昇していることによって特徴づけられる疾患および障害は、過剰発現される一つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、それを低下させるまたは阻害する)治療薬によって治療される可能性がある。活性に拮抗する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。
【0124】
したがって、本発明の文脈において利用しうる治療薬には、例えば以下のものが含まれる:(i)過剰発現または低発現される一つまたは複数の遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体;(ii)過剰発現される遺伝子または遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現または低発現される一つまたは複数の遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸、または「機能欠損」である核酸(すなわち、一つまたは複数の過剰発現される遺伝子の核酸内部への非相同的挿入のため);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、阻害物質、過剰発現または低発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させるアゴニストおよびアンタゴニスト)。機能欠損アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために用いられる(例えば、Capecchi, Science 244:1288-1292 1989を参照)。
【0125】
生物学的活性の低下(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)によって特徴づけられる疾患および障害は、活性を上昇させる(すなわち、それに対するアゴニストである)治療薬によって治療してもよい。活性を上方制御する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。用いうる治療薬は、ポリペプチド(またはその類似体、誘導体、断片もしくはホモログ)、または生物学的利用能を高めるアゴニストを含むが、これらに限定されない。
【0126】
レベルの上昇または低下は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を得て(例えば、生検組織から)、これをRNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロでアッセイすることによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、イムノアッセイ(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンアッセイ、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるがこれらに限定されない。
【0127】
予防的投与は、疾患もしくは障害が予防されるように、またはその進行が遅れるように、疾患の明白な臨床症状が発現する前に行われる。
【0128】
本発明の治療方法は、細胞を、差次的に発現される遺伝子の遺伝子産物の活性のうち一つまたは複数を調節する作用因子と接触させる段階を含んでもよい。タンパク質活性を調節する作用因子の例には、核酸、タンパク質、このようなタンパク質の天然の同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣物およびその他の低分子が含まれるが、これらに限定されない。例えば、適した作用因子は、差次的に低発現される一つまたは複数の遺伝子の一つまたは複数のタンパク質活性を賦活化しうる。
【0129】
乳癌に対するワクチン接種
本発明はまた、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子(すなわち、上方制御される遺伝子)からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防する方法にも関する。ポリペプチドの投与は、対象において抗腫瘍免疫を誘導する。抗腫瘍免疫を誘導するために、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または該ポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを、治療または予防が必要な患者に投与する。さらに、表5および7に列挙されたBRC関連遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドは、乳癌およびIDCの浸潤に対してそれぞれ抗腫瘍免疫を誘導しうる。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片はBRCに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形で投与してもよく、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB-細胞のような抗原提示細胞(APC)によって提示された形で投与してもよい。DCの強い抗原提示能のため、APCの中では、DCを用いることが最も好ましい。
【0130】
本発明において、BRCに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明によると、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子にコードされるポリペプチドまたはその断片は、表3、5、および7に列挙されたBRC関連遺伝子を発現するBRC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導する可能性があるHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープであることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般的に、抗腫瘍免疫には、以下のような免疫応答が含まれる:
−腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
−腫瘍を認識する抗体の誘導、および
−抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0131】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると決定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の反応をインビボまたはインビトロで観察することによって検出することができる。
【0132】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによるT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0133】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、被験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCに接触させた後に、対象細胞に対して細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞の誘導活性を有することを示している。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳糖デヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も同様に周知である。
【0134】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0135】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであると見なされる。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触させることによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞障害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0136】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって増加することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0137】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、そして腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なすことができる。
【0138】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、BRCを治療および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。癌を有する個体の死亡率および疾病率の低下、血液中の腫瘍マーカーのレベルの減少、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計学的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えば、スチューデントのt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いてもよい。
【0139】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用してもよい。アジュバントは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合にタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適当に組み合わせてもよい。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等が含まれる。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身または局所投与されうる。ワクチン投与は、1回投与によって行ってもよく、または複数回投与によって追加刺激してもよい。
【0140】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より詳しく述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取して、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させて、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法をより効率よく行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを用いて、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0141】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖疾患を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0142】
BRCまたは悪性BRCを阻害するための薬学的組成物
本発明の文脈において、適切な薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で用量単位ごとに個別に包装される。
【0143】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。適切な製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス舐剤またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、および/または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で一つまたは複数の製剤成分との圧縮または成形によって作製してもよい。圧縮錠は、粉剤または顆粒剤のような流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、および/または分散剤と混合して、適した装置において圧縮することによって調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製してもよい。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれてもよい)、および/または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月服用される錠剤1錠を含んでよい。
【0144】
非経口投与用の適切な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤および対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでいてもよい水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁剤および/または濃化剤を含む水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量で容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤は、連続注入用であってもよい。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0145】
直腸投与用の適切な製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内への、例えば口腔内または舌下への局所投与用の適切な製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、もしくは分散性の粉末として、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤も含む水性または非水性基剤によって調製してもよい。
【0146】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達するための他の都合のよい手段によって化合物を都合よく送達することができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガスのような適した噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定してもよい。
【0147】
または、吸入または吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与されうるカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形としてもよい。
【0148】
他の製剤には、治療剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0149】
望ましければ、活性成分を持続的に放出するように適合された上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、および/または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0150】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の物質が含まれていてもよいと理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでいてもよい。
【0151】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分またはその適当な分画の有効量を含む。
【0152】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で経口または注射によって投与されうる。成人ヒトの用量範囲は一般的に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。錠剤または個別の単位で提供される他の単位投与剤形は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含みうる。
【0153】
用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療しようとする詳細な障害およびその重症度を含む、さまざまな要因に依存すると考えられる。また、投与の経路も状態およびその重症度に依存して変化しうる。いずれにしても、適切で最適な投与量は、当業者により、上述した要因を考慮した上で慣行的に計算されうる。
【0154】
本発明のいくつかの局面を以下の実施例に記載しているが、これらは、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例は、BRC細胞において差次的に発現される遺伝子の同定および特性決定を例示的に説明したものである。
【0155】
実施例
疾病状態、例えば、BRCにおいて差次的に発現される遺伝子を同定するために、罹患組織(例えば、BRC由来の上皮細胞)および正常組織から入手した組織を評価した。アッセイは以下の通りに行った。
【0156】
患者および組織試料
癌研究会附属病院乳腺外科部門(Department of Breast Surgery、Cancer Institute Hospital、東京、日本)で治療を受けた81例の患者(非浸潤性乳管癌12例および浸潤性乳管癌69例、2cm〜5cm(T2)、年齢の中央値45歳、21〜68歳の範囲)から、インフォームドコンセントを伴って原発性乳癌を入手し(表12)、このことに関しては全ての患者からインフォームドコンセントを得た。臨床情報を診療記録から入手し、かつそれぞれの腫瘍を病理学者が病理組織学的なサブタイプおよびグレードに従って診断した。腫瘍組織を用いて腫瘍の種類を評価した(世界保健機構(World Health Organization)の分類および日本癌学会の分類による)。臨床病期はJBCSのTNM分類に従って判断した。リンパ節陽性症例とリンパ節陰性症例との間に有意差は観察されなかった。血管侵入性増殖および広範囲にわたるリンパ球浸潤の存在は病理学者が判定した。エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)の発現はEIAにより判定した(13fmol/mgタンパク質未満であればER陰性、BML)。閉経前乳癌患者15例または閉経後患者12例からの正常乳管細胞の混合物をそれぞれ正常対照として用いた。試料はすべて直ちに凍結し、-80℃で保存した。
【0157】
組織試料およびLMM
腫瘍に関する臨床情報および病理学的情報は表12に詳述されている。試料はTissueTek OCT媒質(Sakura)中に包埋した後に使用時まで-80℃で保存した。凍結標本をクリオスタットで連続的に切片化して8μmの切片とし、分析する領域を規定するためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。癌細胞と非癌細胞の交差汚染を避けるために、EZ Cut LMM System(SL Microtest GmbH)を製造元のプロトコールにいくつかの修正を加えて用いることによって、これら2つの集団を調製した。貯蔵工程および組織採取の間の影響を最小化するために、癌組織を同じ手順によって慎重に取り扱った。RNAの質を調べるために、各症例の残りの組織から抽出した全RNAを変性アガロースゲル中で電気泳動し、リボソームRNAバンドの存在によってそれらの質を確認した。
【0158】
RNA抽出およびT7に基づくRNA増幅
レーザーで捕捉した細胞の各集団から、全RNAを350μlのRLT可溶化バッファー(QIAGEN)中に抽出した。抽出したRNAを、30単位のDNase I(QIAGEN)により室温で30分間処理した。70℃において10分間失活させた後に、製造元の推奨に従ってRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用い、RNAを精製した。DNase Iで処理したRNAすべてを、Ampliscribe T7転写キット(Epicentre Technologies)を用いた、T7に基づく増幅に供した。2回の増幅により、各試料に関して28.8〜329.4μgの増幅RNA(aRNA)が得られ、一方、15例の閉経前患者または12例の閉経後患者からの正常試料からのRNAを増幅した場合には、それぞれ合計2240.2μgおよび2023.8μgが得られた。それぞれの癌性乳管細胞および非癌性乳管細胞からのaRNAの2.5μgアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences)の存在下で逆転写させた。
【0159】
cDNAマイクロアレイ
National Center for Biotechnology Information(NCBI)のUniGeneデータベース(ビルド番号131)から選択した23,040種のcDNAを含む「ゲノムワイド」cDNAマイクロアレイシステムを確立した。cDNAマイクロアレイスライドの製作については別稿に記載されている(Ono K, Tanaka T, Tsunoda T, Kitahara O, Kihara C, Okamoto A, Ochiai K, Katagiri T and Nakamura Y.「Identification by cDNA Microarray of Genes Involved in Ovarian Carcinogenesis.」Cancer Res., 60, 5007-11, 2000)。手短に述べると、種々のヒト臓器から単離したポリ(A)+RNAを鋳型として用いる逆転写PCRによってcDNAを増幅した;アンプリコンの長さは反復配列またはポリ(A)配列を含まずに200〜1100bpの範囲とした。Lucidea Array Spotter(Amersham Biosciences)を用いて、PCR産物を7型スライドガラス(Amersham Bioscience)上に2箇所ずつスポットした;4,608種または9,216種の遺伝子を単一のスライド上に2箇所ずつスポットした。それぞれ同じ52種類のハウスキーピング遺伝子および2種類の陰性対照遺伝子もスポットした、3種類の異なるスライドのセット(合計23,040種の遺伝子)を調製した。
【0160】
ハイブリダイゼーションおよびデータの収集
ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、すべての工程をAutomated Slide Processor(Amersham Biosciences)により行った点を除き、以前に記載されたプロトコールに従って行った(Giuliani, N. et al., V.「Human myeloma cells stimulate the receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand (RANKL) in T lymphocytes:a potential role in multiple myeloma bone disease.」Blood, 100:4615-4621, 2002)。各ハイブリダイゼーションシグナルの強度を、ArrayVisionコンピュータプログラム(Amersham Biosciences)により測定光度を算出し、バックグラウンド強度を差し引いた。52種のハウスキーピング遺伝子からの平均化シグナルを用いて、平均Cy5/Cy3比が得られるように、各標的スポットに対するCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を調整した。低いシグナル強度から得られるデータの信頼性は低いため、各スライド上のシグナル強度に対してカットオフ値を設定し、Cy3色素およびCy5色素の両方でカットオフ値よりも低いシグナル強度が得られた場合には、遺伝子をさらなる分析から除外した。各発現レベルに関するカットオフ値は、バックグラウンド変動に従って自動的に計算された。Cy5およびCy3のシグナル強度がいずれもカットオフ値より低い場合には、その試料において対応する遺伝子の発現は存在しないとして評価した。Cy5/Cy3比は相対的な発現比として算出した。他の遺伝子に関しては、各試料の生データを用いてCy5/Cy3比を算出した。
【0161】
23,040個のスポットからのCy3およびCy5のシグナル強度を定量し、ArrayVisionソフトウエア(Imaging Research, Inc., St. Catharines, Ontario, Canada)を用いて、バックグラウンドを差し引くことによって解析した。続いて、各標的スポットに関するCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を、アレイ上の52個のハウスキーピング遺伝子の平均Cy3/Cy5比が1と等しくなるように調整した。低いシグナル強度から得られるデータの信頼性は低いため、各スライド上でカットオフ値を以前に記載されたように設定し(Ono K., et al., Identification by cDNA Microarray of Genes Involved in Ovarian Carcinogenesis. Cancer Res., 60, 5007-11, 2000)、Cy3色素およびCy5色素の両方でカットオフ値よりも低いシグナル強度が得られた場合には、それらの遺伝子をさらなる分析から除外した(Saito-Hisaminato, A., Katagiri, T., Kakiuchi, S., Nakamura, T., Tsunoda, T. and Nakamura, Y. Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res, 9: 35-45, 2002)。他の遺伝子に関しては、各試料の生データを用いてCy5/Cy3比を算出した。
【0162】
混入率の算出:
cDNAマイクロアレイを用いた29個の正常ヒト組織における遺伝子発現プロファイルによると、ペリリピン(PLIN)および脂肪酸結合タンパク質4(FABP4)は脂肪組織および乳腺組織でのみ発現された(Saito-Hisaminato, A. et al., Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res, 9: 35-45, 2002)。これらを、マイクロダイセクションされた正常乳管上皮細胞の集団に存在する脂肪細胞の割合の評価に用いた。正常全乳腺(Clontech)から単離されたポリA+RNA、およびマイクロダイセクションされた正常乳管上皮細胞のそれぞれのaRNAを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTPの存在下で逆転写させた。マイクロアレイスライド上でのハイブリダイゼーションの後に、Cy5/Cy3比を算出した。それぞれの比の平均を、閉経前患者および閉経後患者における乳腺組織およびマイクロダイセクションされた正常乳管細胞を用いた結果によって決定した。
【0163】
遺伝子発現プロファイルによる、81例の乳癌を伴う102例の試料のクラスター分析:
遺伝子および腫瘍の両方に対して教師なし階層クラスタリングの方法を適用した。102例の試料の分類に関して再現性のあるクラスターを得るために、実験の80%で有効データが得られていて、その発現比が1.1を上回る標準偏差で変化した710個の遺伝子を選択した。分析は、M. Eisenが作成した、ウェブ上で入手可能なソフトウエア(「Cluster」および「TreeView」)(http://genome-www5.stanford.edu/MicroArray/SMD/restech.html)を用いて行った。クラスタリングアルゴリズムを適用する前に、各スポットに関する蛍光比を対数変換し、続いて実験的偏りを除くために各試料に関してデータの中央値のセンタリングを行った上で平均連結法を用いた。
【0164】
DCISとIDCとの間で上方制御または下方制御される遺伝子の同定:
各遺伝子の相対的発現比(Cy5/Cy3強度比)を、4つのカテゴリーのいずれかに分類した:(A)上方制御される(発現比>2.0);(B)下方制御される(発現比<0.5);(C)変化なし(発現比が0.5〜2.0の間);および(D)発現されず(またはわずかな発現はあるが検出のカットオフレベル未満)。これらのカテゴリーを用いて、試料間での発現比の変化が共通している遺伝子のセットを検出した。各群において通常上方制御または下方制御される候補遺伝子を検出するために、23,040個の遺伝子の全体的な発現パターンをまずスクリーニングして、分類された群の50%超に存在し、発現比が>3.0または<1/3である遺伝子を選択した。
【0165】
半定量的RT-PCR:
上方制御される5つの遺伝子を選択し、半定量的RT-PCR実験を適用することによってそれらの発現レベルを調べた。各試料からのaRNAの1μgのアリコートを、ランダムプライマー(Taniguchi, K., et al., Mutational spectrum of beta-catenin、AXIN1 and AXIN2 in hepatocellular carcinomas and hepatoblastomas. Oncogene, 21: 4863-4871, 2002)およびSuperscript II(Life Technologies, Inc.)を用いて一本鎖cDNAへと逆転写した。各cDNA混合物を、表9に示したプライマーセットを用いるPCR増幅を次に行うために希釈した。GAPDHの発現を内部対照として用いた。PCR反応は、産物強度が直線的増幅期に確実にあるようにサイクル数に関して最適化した。
【0166】
乳癌における組織病理学的状態、ER状態、およびリンパ節転移の原因となる遺伝子の同定
識別性のある遺伝子を、以下の2つの基準を用いて選択した:(1)シグナル強度が、症例の少なくとも70%(ER状態)または50%(組織病理学的状態およびリンパ節転移)でカットオフレベルを上回る;(2)症例の|Medr-Medn|が1を上回る(ER状態)または0.5を上回る(組織病理学的状態およびリンパ節転移)(ここでMedは、リンパ節陽性症例または陰性症例における対数変換された相対的発現比から得られた中央値である)。次に、ランダム順列検定を、一方の群(A群)ともう一方の群(B群)との間で差次的に発現される遺伝子を同定するために適用した。平均(μ)および標準(σ)偏差を、A群(r)およびB群(n)の症例における各遺伝子の対数変換された相対的発現比から算出した。各遺伝子に関する識別スコア(DS)は以下の通りに定義した:
DS=(μ)/(σ+σ
順列検定は、個々の遺伝子がA群とB群とを識別する能力を評価する目的で行い;2つのクラス間での試料のランダムな並び替えを10,000回行った。各遺伝子のDSデータセットは正規分布を示したため、ユーザー定義によるグループ分けに関してP値を算出した(Golub, T. et al., Molecular classification of cancer:class discovery and class prediction by gene expression monitoring. Science, 286: 531-537, 1999)。
【0167】
リンパ節転移に関する予測スコアの算出
予測スコアを、以前に記載された手順に従って算出した(Golub, T. et al., Molecular classification of cancer:class discovery and class prediction by gene expression monitoring. Science, 286: 531-537, 1999)。各遺伝子(gi)は、試料における発現レベル(xi)が参照試料におけるリンパ節陰性または陽性のいずれの平均発現レベルに近いかどうかに応じて、リンパ節陰性またはリンパ節陽性のいずれかに票を投じる。得票の多さ(vi)は、試料における発現レベルの、2つのクラスの平均からの偏差を反映する:
V= | x-(μ+μ)/2 |
【0168】
得票を合計して、リンパ節陰性(Vr)およびリンパ節陽性(Vn)に関する総得票を得た上で、PS値を以下の通りに算出する:
PS =(V-V)/(V+V)×100、これはリンパ節陰性またはリンパ節陽性のいずれかの方向への優位度を反映している。PS値は-100〜100の範囲にあり;PSの絶対値が高いほど、強力な予測であることを示す。
【0169】
分類の評価およびLeave-One-Out検定:
分類スコア(CS)を、各遺伝子セットにおけるリンパ節陰性(PSr)およびリンパ節陽性(PSn)の予測スコアから、以下の通りに算出した。:
CS =(μPSrPSn)/(σPSr+σPSn
【0170】
CSの値が大きいほど、2つの群が予測スコアシステムによってより良好に分離されることを示す。leave-one-out検定に関しては、1つの試料を保留した上で、残りの試料を用いて順列p値および平均発現レベルを算出し、続いて保留した試料のクラスを、その予測スコアを算出することによって評価した。この手順を20例の試料のそれぞれに関して繰り返した。
【0171】
細胞株
ヒト乳癌細胞株HBL-100、HCC1937、MCF-7、MDA-MB-435s、YMB1、SKBR3、T47D、BT-20、BT-474、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA-MB-157、MDA-MB453、OUCB-F、ZR-75-1、COS-7細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)から購入し、それぞれの寄託者の推奨に従って培養した。HBC4、HBC5およびMDA-MB-231細胞株は、財団法人癌研究会癌化学療法センター分子薬理部(Molecular Pharmacology、Cancer Chemotherapy Centre of the Japanese Foundation for Cancer Research)の矢守博士により寄贈いただいた。細胞はすべて適切な培地中で培養した。すなわち、RPMI-1640(Sigma, St. Louis, MO)をHBC4、HBC5、T47D、YMB1、OUCB-F、ZR-75-1、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599およびHCC1937に対して使用し(2mM L-グルタミンを添加);ダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)をBT474、HBL100、COS7に対して使用し;0.1mM必須アミノ酸(Roche)、1mMピルビン酸ナトリウム(Roche)、0.01mg/mlインスリン(Sigma)を加えたEMEM(Sigma)をBT-20およびMCF-7に対して使用し;McCoy(Sigma)をSKBR3に対して使用し(1.5mM L-グルタミンを添加);L-15(Roche)をMDA-MB-231、MDA-MB-157、MDA-MB453およびMDA-MB-435Sに対して使用した。それぞれの培地には、10%ウシ胎仔血清(Cansera)および1%抗生物質/抗菌性溶液(Sigma)を加えた。MDA-MB-231細胞およびMDA-MB-435S細胞は、COを含まない加湿空気雰囲気中で37℃に保った。他の細胞株は、5% COを含む加湿空気雰囲気中で37℃に保った。臨床試料(乳癌および正常乳管)は、すべての患者からインフォームドコンセントを得た上で、手術標本から入手した。
【0172】
ノーザンブロット分析
すべての乳癌細胞株から、RNeasyキット(QIAGEN)を製造元の指示に従って用いて全RNAを抽出した。DNA分解酵素I(Nippon Gene、大阪、日本)による処理の後に、mRNA精製キット(Amersham Biosciences)を製造元の指示に従って用いて、mRNAを単離した。各mRNAの1μgのアリコートを、正常成人の乳房(Biochain)、肺、心臓、肝臓、腎臓、骨髄(BD, Clontech, Palo Alto, CA)から単離したポリA(+)RNAとともに1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜に転写した(乳癌ノーザンブロット)。乳癌ノーザンブロットおよびヒト多組織ノーザンブロット(Clontech, Palo Alto, CA)を、RT-PCRによって調製したA7870の[α32P]-dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた(下記参照)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、供給元の推奨に従って行った。ブロットのオートラジオグラフィーは増感スクリーンを用いて-80℃で14日間行った。A7870(320bp)に対する特異的プローブは、以下のプライマーセット:5'-AGACCCTAAAGATCGTCCTTCTG-3'(SEQ ID NO:13)および5'-GTGTTTTAAGTCAGCATGAGCAG-3'(SEQ ID NO:14)を用いるRT-PCRによって調製し、メガプライムDNA標識システム(Amersham bioscience)により放射性標識した。
【0173】
免疫細胞化学染色
A7870発現ベクターを構築するため、A7870 cDNAの全コード配列を、KOD-Plus DNAポリメラーゼ(Toyobo、大阪、日本)を用いるPCRによって増幅した。そのPCR産物を、pCAGGSn3FH-HA発現ベクターのEocRI部位およびXhoI部位に挿入した。この構築物(pCAGGS-A7870-HA)をDNAシークエンシングによって確認した。次に、外因性A7870の細胞内局在をまず調べるために、本発明者らは外因性発現用にCOS7細胞を1×10個/ウェルで播いた。24時間後に、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を製造元の指示に従って用いて、COS7細胞に対してそれぞれ1μgのpCAGGS-A7870-HAを一時的にトランスフェクトした。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドを含むPBSにより15分間固定し、0.1% Triton X-100を含むPBSを4℃で2.5分間用いて透過させた。続いて、非特異的なハイブリダイゼーションをブロックするために、細胞を3% BSAを含むPBSにより4℃で12時間覆った。次に、A7870-HAをトランスフェクトしたCOS7細胞を、1:1000に希釈したマウス抗HA抗体(SANTA CRUZ)および1:1000に希釈した抗TOPKポリクローナル抗体(Cell Signaling)とともにインキュベートした。PBSで洗浄した後に、両方のトランスフェクト細胞を、1:5000に希釈したAlexa594結合抗マウス二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。
【0174】
本発明者らはさらに、2×10個/ウェルの乳癌細胞株T47D、BT-20およびHBC5における内因性A7870タンパク質の細胞内局在についても確認した。細胞を、ヒトPBK/TOPKのc末端にある数アミノ酸に対応する合成ペプチドからなるウサギ抗TOPKポリクローナル抗体(1:1000希釈)で処置した。PBSで洗浄した後に、細胞を、1:3000に希釈したAlexa488結合抗ウサギ二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。核は4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で対比染色した。蛍光画像はTCS SP2AOBS顕微鏡(Leica、東京、日本)を用いて得られた。
【0175】
psiU6BX3.0を用いた、A7870特異的siRNA発現ベクターの構築
本発明者らは、ベクターに基づくRNAiシステムを、以前の報告に従って、psiU6BX3.0 siRNA発現ベクターを用いて確立した(Shimokawa T, Furukawa Y, Sakai M, L. M.Miwa N, Lin YM, Nakamura Y (2003) Cancer Res、63, 6116-6120)。A7870に対するsiRNA発現ベクター(psiU6BX-A7870)は、psiH1BX3.0ベクターのBbsI部位への、表13中の二本鎖オリゴヌクレオチドのクローニングによって調製した。対照プラスミドであるpsiU6BX-SCおよびpsiU6BX-LUCは、SC(スクランブル対照)用の5'-TCCCGCGCGCTTTGTAGGATTCGTTCAAGAGACGAATCCTACAAAGCGCGC-3'(SEQ ID NO:15)および5'-AAAAGCGCGCTTTGTAGGATTCGTCTCTTGAACGAATCCTACAAAGCGCGC-3'(SEQ ID NO:16);LUC(ルシフェラーゼ対照)用の5'-TCCCCGTACGCGGAATACTTCGATTCAAGAGATCGAAGTATTCCGCGTACG-3'(SEQ ID NO:17)および5'-AAAACGTACGCGGAATACTTCGATCTCTTGAATCGAAGTATTCCGCGTACG-3'(SEQ ID NO:18)の二本鎖オリゴヌクレオチドを、それぞれpsiU6BX3.0ベクターのBbsI部位にクローニングすることによって調製した。
【0176】
A7870の遺伝子サイレンシング作用
ヒト乳癌細胞株T47DまたはBT-20を15cm皿に播き(4×10細胞/皿)、FuGENE6試薬を供給元(Roche)の推奨に従って用いて、psiU6BX-LUC(ルシフェラーゼ対照)、陰性対照としてpsiU6BX-SC(スクランブル対照)、およびpsiU6BX-A7870の各16μgでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞をコロニー形成アッセイ(2×10細胞/10cm皿)、RT-PCR(2×10細胞/10cm皿)、およびMTTアッセイ(2×10細胞/ウェル)のために再び播いた。T47DまたはBT-20細胞におけるA7870導入細胞を、それぞれ0.7mg/mlまたは0.6mg/mlのネオマイシン(Geneticin、Gibco)を含む培地を用いて選択した。その後に、本発明者らは培地を3週間にわたり2日毎に交換した。siRNAの機能を評価するために、ネオマイシン選択後11日目に細胞から全RNAを抽出し、A7870およびGAPDHに対する以下の特異的なプライマーセットを用いる半定量的RT-PCRにより、siRNAのノックダウン作用を確認した;内部対照としてGAPDH用に5'-ATGGAAATCCCATCACCATCT-3'(SEQ ID NO:19)および5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(SEQ ID NO:20)、ならびにA7870用に5'-GCCTTCATCATCCAAACATT-3'(SEQ ID NO:21)および5'-GGCAAATATGTCTGCCTTGT-3'(SEQ ID NO:22)。
【0177】
さらに、T47DまたはBT-20細胞株を用いた、siRNAを発現するトランスフェクタントを、それぞれネオマイシンを含む選択培地中で23日間増殖させた。4%パラホルムアルデヒドで固定した後に、トランスフェクトした細胞をコロニー形成を評価するためにギムザ液で染色した。細胞の生存度を定量するためにMTTアッセイを行った。ネオマイシンを含む培地中で10日間培養した後に、MTT溶液(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)(Sigma)を濃度0.5mg/mlで添加した。37℃で2.5時間インキュベートした後に、酸-SDS(0.01N HCl/10%SDS)を添加した。紺青色の結晶を溶解するために、この懸濁液を激しく混合し、37℃で一晩インキュベートした。570nmでの吸光度をMicroplate Reader 550(BioRad)を用いて測定した。siRNAの機能を評価するために、選択から7日後に細胞から全RNAを抽出し、選択後10日目にCell Counting Kit-8(Dojindo)を製造元のプロトコールに従って用いてMTTアッセイを行う。Microplate Reader 550(BioRad)を用いて、吸光度を波長570nmで測定する。コロニー形成アッセイに関しては、細胞を4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、その後ギムザ液(Merck)で染色した。各実験は3連で行った。
【0178】
結果
乳癌の正確な遺伝子発現プロファイルに基づく分類分析
乳癌は腫瘍塊の中に癌細胞の少数集団を含み、正常上皮乳管細胞から発生するため、周囲の非癌細胞または正常でない乳管上皮細胞の混入を避けるためにマイクロダイセクション法を行った。乳房組織中の細胞の大部分は脂肪細胞であるため、この臓器における癌特異的発現プロファイルを分析するために乳房組織全体を用いることは適切でないと考えられた。図1に示されているように、DCIS(症例10326T)、IDC(10502T)および正常乳管上皮(10341N)の各臨床標本由来の代表例をマイクロダイセクションした。これにより、以降の遺伝子発現プロファイルをより正確に得ることが可能になる。普遍的な対照としての役割を果たす、正常乳管上皮細胞のマイクロダイセクションされた集団に混入した脂肪細胞の割合を、以前に記載されたように、脂肪および乳腺組織で高発現される2つの遺伝子(すなわち、PLINおよびFABP4)のシグナル強度を測定することによって調べた(Saito-Hisaminato, A., et al., Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res, 9: 35-45, 2002)。これらの遺伝子のシグナル強度を、多数の脂肪細胞を含む全乳腺組織で調べたところ、これらの遺伝子のシグナル強度の比の平均は約99.4%であった。マイクロダイセクションされた正常乳管上皮細胞における比は約0.6%であった(「材料および方法」の混入率の項を参照されたい)。したがって、対照細胞の集団における混入脂肪細胞の平均的な割合は、マイクロダイセクション後には0.6%であると推定された。まず、遺伝子群に対して、102個の臨床試料、すなわちマイクロダイセクションされた81個の異なる乳癌臨床標本、10個体においてマイクロダイセクションされた11個の異なる組織型、2個の全乳癌組織、マイクロダイセクションされた6個の正常乳管細胞、および2個の全乳腺組織)における、それらの発現パターンの類似性に基づき、教師なし二次元階層クラスタリングアルゴリズムを適用した。再現性のあるクラスターが710個の遺伝子から得られた(「材料および方法」を参照)。102個の試料にわたるそれらの発現パターンを図2Aに示す。試料軸には、102個の試料が、それらの発現プロファイルに基づいて3つの主な群(群A、B、およびC)にクラスター化されている。次に、この分類を臨床的パラメーター、特にEIAを用いて判定したエストロゲン受容体(ER)と関連づけた。55例のER陽性腫瘍のうち、45例は腫瘍樹状図の同じ分枝(B群)にクラスター化され、このことからER状態の傾向が示唆された。さらに、独立した実験で標識およびハイブリダイゼーションを行った、異なる組織型の10例のうち7例(試料番号10864、10149、10818、10138、10005、10646および10435)は、同じ群内に非常に近接してクラスター化された。特に、これらのうち、重複した1例(10149a1および10149a1T)はまた、最も短い分枝中にクラスター化され、このことからこのマイクロアレイデータの再現性および信頼性が裏づけられた。注目されることに、C群はマイクロダイセクションされた非癌細胞、およびマイクロダイセクションされた1例の腫瘍症例を除く乳癌の全組織を含んでおり、このことはこのデータが正確な乳癌特異的発現プロファイルを示すことを示唆している。
【0179】
さらに、8例の乳癌患者からマイクロダイセクションされた2つの分化病変を有する16例の試料において、89個の遺伝子の二次元階層クラスター分析を行った。その結果、表現型の異なる病変を有する乳癌試料は近接していた(図2B)。次に、マイクロダイセクションを行った8例の癌標本由来の、表現型が高分化型および低分化型の患者を一致させた病変において、差次的に発現される遺伝子を同定するためにランダム順列検定を行った。図2Cに示されているように、差次的に発現される25個の遺伝子を用いたクラスター分析により、高分化型と低分化型の浸潤性乳管癌細胞を区別することができる。これらの25個の遺伝子(表1)には、浸潤および細胞増殖における役割の可能性が以前に報告されている、以下の重要な因子がいくつか含まれていた:TNFSF11、ITGA5、およびNFAT5(Giuliani, N., et al., Human myeloma cells stimulate the receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand (RANKL) in T lymphocytes: a potential role in multiple myeloma bone disease)」. Blood, 100: 4615-4621, 2002;Sebastien J. et al., The role of NFAT transcription factors in integrin-mediated carcinoma invasion. Nature cell biology, 4: 540-544, 2002;Klein, S. et al., Alpha 5 beta 1 integrin activates an NF-kappa B-dependent program of gene expression important for angiogenesis and inflammation. Mol Cell Biol, 22: 5912-5922, 2002)。
【0180】
次に、IDCにおける41例のER陽性腫瘍および28例のER陰性腫瘍において差次的に発現される遺伝子を同定するために、ランダム順列検定を行った。これらの試料はすべて閉経前患者由来であった。順列P値0.0001未満でER陽性とER陰性とを識別することができた97個の遺伝子を列挙した(「材料および方法」参照)(図3および表2)。それらのうち、96個の遺伝子を本発明のBRC関連遺伝子として選択した。ER陰性群と比較してER陽性群においてこれらの遺伝子のうち92個では発現レベルが高く、他の5個では低かった。これらの遺伝子のうち、GATA結合タンパク質3(GATA3)、トレフォイル因子3(TFF3)、サイクリンD1(CCND1)、MAPKKホモログ(MAP2K4)およびメタロプロテアーゼ組織阻害因子1(TIMP1)、インスリン受容体基質1(IRS1)、Xボックス結合タンパク質1(XBP1)、GLI-KruppelファミリーメンバーGLI3(GLI3)は、ER陽性のものにおいて過剰発現されていた(表2)。さらに、エストロゲン受容体(ESR1)は、p値の大きさに基づいて6番目の遺伝子として順位付けられたため(図3の下図)、ERの発現プロファイルに従って乳癌を識別しうる可能性がある。
【0181】
DCISまたはIDCにおいて通常上方制御または下方制御される遺伝子の同定
乳癌の発生の基礎をなす機序を明らかにするために、DCISおよびIDCにおいて通常、上方制御または下方制御される遺伝子をそれぞれ調べた。77例の乳癌(DCIS 8例およびIDC 69例の閉経前患者)における遺伝子発現プロファイルにより、通常発現に変化がみられる325個の遺伝子が同定された(図4A、4B)。78個の遺伝子は通常、正常乳管細胞におけるレベルと比較して3倍を上回って上方制御されるが(図4A、図4B、表3、表5)、247個の遺伝子は乳癌細胞において発現が1/3未満に低下した(図4A、4B、表4、6)。特に、図4Bに示されているように、25個の遺伝子の発現レベルは、DCISからIDCへの移行において上昇し、49個の遺伝子のそれは低下した(表5および表6)。発現が上昇した遺伝子の中には、乳癌で過剰発現されると既に報告されているフィブロネクチン(FN1)が含まれていた(表4)(Mackay, A. et al., cDNA microarray analysis of genes associated with ERBB2 (HER2/neu) overexpression in human mammary luminal epithelial cells. Oncogene, 22: 2680-2688, 2003;Lalani, E. N. et al., Expression of the gene coding for a human mucin in mouse mammary tumor cells can affect their tumorigenicity. J Biol Chem, 266: 15420-15426, 1991.22; Martin-Lluesma, S., et al., A. Role of Hec1 in spindle checkpoint signaling and kinetochore recruitment of Mad1/Mad2. Science, 297: 2267-2270, 2002)。一方、発現が低下した遺伝子の中には、腫瘍抑制因子として機能することが知られているST5およびSCHIP1も含まれていた(表6)。
【0182】
次に、IDCのみで特異的に発現の変化がみられる遺伝子について調べた。その結果、24個の上方制御される遺伝子(図4C、表7)および41個の下方制御される遺伝子(図4C、表8)が同定された。上方制御される遺伝子のうち、ERBB2、CCNB1、BUB1Bは、乳癌発生に関与することが既に知られている(Latta, E. K., et al., The role of HER2/neu overexpression/amplification in the progression of ductal carcinoma in situ to invasive carcinoma of the breast. Mod Pathol, 15: 1318-1325, 2002;Takeno, S., et al., Prognostic value of cyclin B1 in patients with esophageal squamous cell carcinoma. Cancer, 94: 2874-2881, 2002;Slamon, D. J., et al., Human breast cancer: correlation of relapse and survival with amplification of the HER-2/neu oncogene. Science, 235: 177-182, 1987)。下方制御される遺伝子の中には、AXINによって誘導され、肺癌、肝臓癌、結腸癌および腎臓癌において下方制御されることが多い遺伝子であるAXUD1(Ishiguro, H., et al., Identification of AXUD1, a novel human gene induced by AXIN1 and its reduced expression in human carcinomas of the lung, liver, colon and kidney. Oncogene, 20: 5062-5066, 2001)が含まれることから、AXUD1は乳癌の発生にも関与している可能性が示唆される。
【0183】
選択された遺伝子の半定量的RT-PCRによる検証
cDNAマイクロアレイ解析によって得られた発現データの信頼性を確認するため、情報の得られた高分化型症例において高度に上方制御されていた3個の遺伝子(アクセッション番号AI261804、AA205444、AA167194)、および有益な低分化型症例において同様に高度に上方制御されていた2個の遺伝子(AA676987およびH22566)に対して、半定量的RT-PCR実験を行った。被験症例の大部分において、RT-PCRの結果はマイクロアレイ解析の結果とよく一致した(図5、表9)。
【0184】
乳癌細胞において上方制御される遺伝子としての、T-LAK細胞起源のプロテインキナーゼと呼ばれるA7870の同定
本発明者らは、IDCにおいて上方制御される24個の遺伝子を同定した(表7)。それらのうち、本発明者らは、T-LAK細胞から生じるプロテインキナーゼ、TOPK(Genbankアクセッション番号NM_018492)と呼ばれ、mRNA転写産物が8つのエクソンからなる1899塩基長であって、染色体8p21.2上に位置する、A7870に注目した。A7870の発現は、発現データが入手可能であった乳癌症例39例中30例(77%)において上昇しており、特に浸潤性乳管癌標本を含む36症例中29例(81%)で上昇していた。この遺伝子の乳癌における発現パターンを確かめるために、本発明者らは、乳癌細胞株および(正常乳房細胞を含む)正常ヒト組織を用いた半定量的RT-PCR分析を行った。その結果、A7870は12個の臨床的乳癌標本(高分化型)中7個で、正常乳管細胞および他の正常組織と比較して発現が上昇し(図6a)、20個の乳癌細胞株のうち17個で過剰発現される(図6b)ことが見いだされた。この遺伝子の発現パターンをさらに調べるために、本発明者らは、ヒト多組織および乳癌細胞株を用いて、A7870のcDNA断片(320bp)をプローブとして用いるノーザンブロット分析を行った(図7a)。その結果、正常ヒト精巣および胸腺では2つの転写産物(約1.9kbおよび1.8kb)のみが発現されていた。乳癌ノーザンブロットを用いてこれらの転写産物の発現パターンをさらに調べたところ、本発明者らは、この両方の転写産物が正常ヒト組織と比較して、乳癌細胞株において特異的に過剰発現されることを見いだした(図7b)。
【0185】
A7870の乳癌特異的に発現される転写産物の単離
A7870の2つの転写産物のシークエンシング解析により、A7870の2つの変種は同じオープンリーディングフレーム(ORF)を含むため、本発明者らは、二重特異性のマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)ファミリーに関連するセリン/トレオニンキナーゼであるタンパク質をコードする、TOPK(Genbankアクセッション番号NM_018492)に注目した。SMARTコンピュータ予測により、TOPKはpfam、pキナーゼモチーフを32〜320残基に含むことが示され、これによりこのタンパク質は、細胞形態形成および細胞増殖において役割を果たすシグナル伝達経路に関与する可能性が示唆される。
【0186】
A7870の細胞内局在
A7870の特徴をさらに詳細に調べるために、本発明者らは、哺乳動物細胞におけるこれらの遺伝子産物の細胞内局在を調べた。まず、A7870タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-A7870-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトしたところ、抗HAタグ抗体およびTOPKポリクローナル抗体を用いた免疫細胞化学分析により、外因性A7870タンパク質が細胞質に局在し、特にトランスフェクトされた全てのCOS7細胞において核膜周囲に強いシグナルがみられることが判明した(図8a)。さらに、本発明者らは、抗TOPKポリクローナル抗体を用いる免疫細胞化学染色により、内因性タンパク質の細胞内局在を調べた。この場合も同様に、A7870タンパク質はT47D、BT-20およびHBC5細胞において細胞小器官および核周囲にあることが観察された(図8b)。
【0187】
A7870の発現を低下させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害作用
A7870の増殖促進の役割を評価するために、本発明者らは、A7870の過剰発現を示した乳癌細胞株T47DおよびBT-20において、哺乳動物ベクターに基づくRNA干渉(RNAi)法(「材料および方法」参照)によって内因性A7870の発現をノックダウンした。A7870の発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。A7870(si1、si3およびsi4)特異的siRNAは、対照siRNA構築物(psiU6BX-LUCまたは-SC)と比較して発現を有意に抑制した。A7870特異的siRNAによる細胞増殖阻害を確認するため、本発明者らはコロニー形成アッセイおよびMTTアッセイをそれぞれ行った。その結果、A7870 siRNA構築物の導入によりこれらの乳癌細胞の増殖が抑制され、これはこの遺伝子の発現が低下した上記の結果に一致した。それぞれの結果は3回の独立した実験によって検証された。したがって、本発明者らの所見は、A7870が乳癌の細胞増殖において重要な機能を有することを示唆している。
【0188】
組織病理学的型において差次的に発現される遺伝子の同定、および個々の患者における表現型の差異
本発明の1つの目標は、一部の患者において、異なる表現型で一貫して上方制御または下方制御される遺伝子を発見することであった。しかし、乳癌は不均一な様々な表現型を示すため、顕微鏡による組織病理学的な分化は、図2に示されたような遺伝子発現パターンによる教師なし分類を用いて、明確には識別されなかった。この観察をさらに詳細に調べるために、ランダム順列検定を行い、高分化型と低分化型症例とを識別しうる206個の遺伝子を抽出した。これらの206個の識別性のある遺伝子はすべて、31例の高分化型癌と24例の低分化型癌の間でP<0.01のレベルで有意であった(図9、表10)。これらの206個の遺伝子を用いた二次元階層クラスター分析により、IDCの異なる構成要素(高分化型、中分化型および低分化型)に関して群を分類することができた。A群クラスターには、低分化型試料で著しく発現が亢進していた遺伝子(横の列における分枝1);細胞外マトリックス構造(COL1A2、COL3A1およびP4HA2)、細胞接着(LOXL2、THBS2およびTAGLN2)が含まれ、B群クラスターには、主として高分化型および中分化型の試料において発現が亢進していた遺伝子(横の列における分枝2);転写調節(BTF、WTAP、HTATSF1)、細胞周期調節因子(CDC5L、CCT7)が含まれた。しかしながら、B群における2例の低分化型試料(試料番号10709および10781)は、低分化型よりむしろ高分化型の特徴に類似した発現パターンを示した。いくつかの高分化型試料は、低分化型に特徴的ないくつかの遺伝子の共発現を示した。
【0189】
リンパ節転移に関する予測スコアの開発
乳癌では、腋窩リンパ節への浸潤が最も重要な予後因子である(Shek, L. L. and Godolphin, W. Model for breast cancer survival: relative prognostic roles of axillary nodal status, TNM stage, estrogen receptor concentration, and tumor necrosis. Cancer Res, 48: 5565-5569, 1988)。選択した遺伝子の発現プロファイルを用いて、腋窩リンパ節転移の予測のためのスコア化パラメーターを得るための式を開発するために、20例のリンパ節陽性症例および20例のリンパ節陰性症例の発現プロファイルを比較した。上記の基準に従って、0.0001未満の順列p値を示した93個の識別性のある遺伝子をまず選択した。続いて、候補リストから、リンパ節陽性症例と陰性症例との最も良い分離を示した上位34個の遺伝子を得た(表11)。図10Aに示されているように、これらの34個の遺伝子を用いた階層クラスター分析により、40例の乳癌症例がすべて、リンパ節の状態にしたがって2つの群のいずれかに分類された。
【0190】
最終的に、34個の遺伝子のセットの発現プロファイルを用いて、リンパ節陽性症例をリンパ節陰性症例と明確に識別しうる予測スコアシステムを構築した。このスコアシステムをさらに検証するために、スコアシステムの構築に用いたものではない20例のリンパ節陽性症例および20例のリンパ節陰性症例のスコアを算出した(「材料および方法」参照)。陽性転移群および陰性群に属する40例の患者が明確に区別される境界スコアを15.8とし(図10B)、15.8を上回るスコアを「陽性」、15.8またはそれ未満を「陰性」とした。システムをさらに明確にするために、識別性のある遺伝子の選択のための最初の手順に含まれなかった17例のリンパ節陽性症例および20例の陰性症例に関して、原発性腫瘍からの転移の予測スコアを算出した。図10Bおよび10Cに示されているように、リンパ節転移を伴う17症例のうち全症例が本明細書の定義による陽性スコアを示し、一方、リンパ節転移を伴わない20症例のうち18例(90%)は陰性スコアを示した。77症例のうち75例(97%)はリンパ節の状態に従って正しく位置づけられたが、2例のリンパ節陰性症例は誤って位置づけられたか、または境界領域もしくは陽性領域に位置づけられた。
【0191】
考察
乳癌は、遺伝因子、環境因子およびホルモン因子間の相互作用の結果として発生する多因子疾患である。乳癌の明確なの病理学的病期が記載されているが、これらの病期の間の分子的な差異はほとんど明らかになっていない(McGuire, W. L. Breast cancer prognostic factors: evaluation guidelines. J Natl Cancer Inst, 83: 154-155, 1991.;Eifel, P., et al., National Institutes of Health Consensus Development Conference Statement:adjuvant therapy for breast cancer. November 1-3, 2000. J Natl Cancer Inst, 93: 979-989, 2001.;Fisher, B., et al., Twenty-year follow-up of a randomized trial comparing total mastectomy, lumpectomy, and lumpectomy plus irradiation for the treatment of invasive breast cancer. N Engl J Med, 347: 1233-1241, 2002)。
【0192】
遺伝子発現の全ゲノム解析、および乳癌の純粋な癌細胞集団を単離するレーザーマイクロダイセクション(LMM)法の開発は、癌特異的分類を有する分子標的遺伝子に関する検索、様々な種類の腫瘍、特に乳癌における治療および結果の予測を可能にする。
【0193】
脂肪細胞は乳腺組織の90%超を占め、癌腫が発生する元となる臓器内の上皮細胞は極めてわずかな割合にしか相当しないため、癌組織全体および正常乳腺全体を用いた遺伝子発現プロファイルの分析は、調べる組織における特定の細胞の混合物によって大きな影響を受ける。脂肪細胞、線維芽細胞および炎症細胞の割合の違いは、乳癌発生に関与する遺伝子の著しく特異的な発現を覆い隠す可能性がある。したがって、手術標本から得られる癌細胞および正常上皮細胞の集団をできる限り精製するため、LMMシステムを用いた(Hasegawa, S., et al. Genome-wide analysis of gene expression in intestinal-type gastric cancers using a complementary DNA microarray representing 23,040 genes. Cancer Res, 62: 7012-7017, 2002;Kitahara, et al. and Tsunoda, T. Alterations of gene expression during colorectal carcinogenesis revealed by cDNA microarrays after laser-capture microdissection of tumor tissues and normal epithelia. Cancer Res, 61: 3544-3549, 2001;Kikuchi, T., et al. Expression profiles of non-small cell lung cancers on cDNA microarrays: identification of genes for prediction of lymph-node metastasis and sensitivity to anti-cancer drugs. Oncogene, 22: 2192-2205, 2003.;Gjerdrum, L. M., et al., Laser-assisted microdissection of membrane-mounted paraffin sections for polymerase chain reaction analysis: identification of cell populations using immunohistochemistry and in situ hybridization. J Mol Diagn, 3: 105-110, 2001)(図1)。マイクロダイセクションされた細胞集団の純度を評価するために、脂肪組織および乳腺において高発現されるPLINおよびFABP4の発現を、cDNAマイクロアレイを用いて、29個の正常ヒト組織における遺伝子発現プロファイルにより分析した(Saito-Hisaminato, A., et al., Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res, 9: 35-45, 2002)。ダイセクション手順の後、正常乳管上皮細胞中に混入している脂肪細胞の割合は0.6%未満であると推定された。特に、PLINの発現レベルを調べた場合(Nishiu, J., et al., Isolation and chromosomal mapping of the human homolog of perilipin (PLIN), a rat adipose tissue-specific gene, by differential display method. Genomics, 48: 254-257, 1998)、LMM技術に供した細胞集団の純度は約100%になる可能性があった。図2に示されているように、教師なしクラスター分析からは、乳癌全組織はLMMによりマイクロダイセクションされた乳癌細胞と区別されるが、正常乳管細胞および乳腺は同じ分枝にクラスター化されることが示された。このため、いくつかの研究では、乳癌特異的発現プロファイルを正確に得るために、乳癌細胞と、乳癌の起源となる正常乳管上皮細胞のマイクロダイセクションが不可欠である。LMMとcDNAマイクロアレイ解析との併用により、乳癌の発生および進行を取り巻く正確な分子イベントを解明し、乳癌細胞の多段階癌発生および腫瘍の不均一性の機序を理解するための、強力なアプローチが提供される。
【0194】
図2Aに示されているように、発現プロファイルに基づく教師なし分類分析により、原発性乳癌が2つの群に分けられること、およびEIAによるER状態と関連することを示すことができる。ER陽性腫瘍およびER陰性腫瘍は全く異なる遺伝子発現表現型を呈することが見いだされた。この結果は、これらの2つの組織学的に異なる病変が、乳癌の発生において重要な役割を果たす可能性のある異なる生物学的性質を有することを示唆し、さらにER状態を利用してアジュバント存在下でのホルモン療法の必要性を確認しうることを示唆する(Eifel, P., et al. National Institutes of Health Consensus Development Conference Statement:adjuvant therapy for breast cancer. November 1-3, 2000. J Natl Cancer Inst, 93: 979-989, 2001.;Hartge、P. Genes, hormones, and pathways to breast cancer. N Engl J Med, 348: 2352-2354, 2003)。加えて、教師あり統計分析により、ホルモン依存的な進行を調べるために、ER陽性をER陰性と区別することができた遺伝子のサブセットを選択し、抗癌薬のための新規な分子標的を探索した。閉経前患者からなるこれらの二群間で発現が有意差に異なる97個の遺伝子を、ランダム順列検定によって同定した(図3)。これらの遺伝子の中には、SAPK経路の中心に位置するメディエーターであるMAP2K4が含まれた。本研究および他の研究で乳癌におけるER発現との強い関連性を示す遺伝子である、Cyclin D1(May, F. E. and Westley, B. R. Expression of human intestinal trefoil factor in malignant cells and its regulation by oestrogen in breast cancer cells. J Pathol, 182: 404-413, 1997)も含まれていた。エストロゲンは正常乳腺における増殖および分化の重要な調節因子であり、乳癌の発生および進行においても重要である(Shek, L. L. and Godolphin, W. Model for breast cancer survival: relative prognostic roles of axillary nodal status, TNM stage, estrogen receptor concentration, and tumor necrosis. Cancer Res, 48: 5565-5569, 1988)。エストロゲンはERを介して遺伝子発現を調節するが、下流の遺伝子標的に対するエストロゲンの作用、補助因子の役割、および他のシグナル伝達経路との相互干渉の詳細については決して十分には解明されていない。乳癌全体の約3分の2は診断時点ではER陽性であるため、この受容体の発現は生物学的および治療的に重要な意味を持つ。最近、新規な選択的エストロゲン受容体調節物質(SERM)がER陽性乳癌患者に対するホルモン治療薬として開発されつつあるため、ER状態と関連性のあるこれらの遺伝子はSERMの新規な分子標的候補である可能性がある(Smith, I.E. and Dowsett, M. Aromatase inhibitors in breast cancer. N Engl J Med, 348: 2431-2442, 2003)。これらの所見は、発現プロファイルおよびER状態の比較が、ER依存的乳癌細胞の細胞増殖および進行のホルモン性調節を解明するための有用な情報を提供することを示唆する。
【0195】
乳癌および他のヒト悪性腫瘍に対する、分子に基づく治療法の開発および利用には、患者組織の詳細な分子遺伝学的分析が必要である。組織学的な証拠からは、浸潤性乳癌に先立って、いくつかの前癌状態が存在することが示唆される。これらの組織学的病変には、異型乳管過形成、異型小葉過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)および上皮内小葉癌が含まれる(Lakhani, S. R. The transition from hyperplasia to invasive carcinoma of the breast. J Pathol, 187: 272-278, 1999)。これらの病変は、正常乳房上皮または乳癌が生じる乳管小葉単位終末から、最終的な浸潤性乳癌までの組織学的な連続体のいずれかに該当すると考えられる。いくつかのモデルが、前癌と新生物の間の遺伝的異常を説明するために提案されている。
【0196】
DCISとIDCとの比較のように、病理学的に異なる病期の間で高頻度に、発現の上昇または低下を示す種々の遺伝子が観察され、その結果として合計325個の遺伝子が同定された。これらの遺伝子は、乳癌の病理的段階の分子的基盤をなす可能性があり、これらの遺伝子の発現レベルは進行期腫瘍段階と相関した。DCISおよびIDCにおいて通常上方制御される78個の遺伝子(表3、表5)および通常下方制御される247個の遺伝子(表4、表6)も同定された。上方制御される遺伝子のうち、乳癌において過剰発現されることが報告されていたNAT1、HEC、GATA3およびRAI3は、前浸潤期にも発現される可能性があることが指摘された(Geylan, Y. S., et al., Arylamine N-acetyltransferase activities in human breast cancer tissues. Neoplasma, 48: 108-111, 2001.;Chen, Y., et al., HEC, a novel nuclear protein rich in leucine heptad repeats specifically involved in mitosis. Mol Cell Biol, 17: 6049-6056, 1997.;Bertucci, F., et al., Gene expression profiling of primary breast carcinomas using arrays of candidate genes. Hum Mol Genet, 9: 2981-2991, 2000.;Cheng、Y. and Lotan, R. Molecular cloning and characterization of a novel retinoic acid-inducible gene that encodes a putative G protein-coupled receptor. J Biol Chem, 273: 35008-35015, 1998)。一方、本発明において下方制御される遺伝子として含まれたTGFBR2は、悪性度の低下を招くことが知られている(Sun, L., et al., Expression of transforming growth factor beta type II receptor leads to reduced malignancy in human breast cancer MCF-7 cells. J Biol Chem, 269: 26449-26455, 1994)。これらの所見は、これらの遺伝子がDCISからIDCへの移行に関与する可能性を示唆する。
【0197】
具体的には、DCISからIDCへの移行において発現が上昇または低下する、25個の上方制御される遺伝子(表5)および49個の下方制御される遺伝子(表6)が同定された。上方制御されるエレメントのリストには、シグナル伝達経路および細胞周期に関与し、浸潤癌の発生において重要な役割を果たすタンパク質ならびに転写因子をコードする遺伝子が含まれた。FoxM1およびCyclin B1の過剰発現は、様々な腫瘍で報告されている。FoxM1の過剰発現はCyclin B1発現を刺激する(Leung TW, et al., 2001)。CCNB1はG2期の通過および有糸分裂に必要な細胞周期制御タンパク質である(Pines, J. and Hunter, T. Cyclins A and B1 in the human cell cycle. Ciba Found Symp, 170: 187-196;discussion 196-204, 1992)。TOP2A阻害因子は肺癌治療における化学療法薬として広く用いられている(Miettinen, H. E., et al., High topoisomerase II alpha expression associates with high proliferation rate and and poor prognosis in oligodendrogliomas. Neuropathol Appl Neurobiol, 26: 504-512, 2000)。BUB1Bは、分裂チェックポイントを経ての腫瘍進行および遺伝子不安定性に寄与する、染色体不安定性表現型の原因となる可能性がある(Bardelli, A., et al. Carcinogen-specific induction of genetic instability. Proc Natl Acad Sci U S A, 98: 5770-5775, 2001)。MMP11はその発現が患者の生存期間に直接的に有害な影響を及ぼすことが示された(Boulay, A., et al. High cancer cell death in syngeneic tumors developed in host mice deficient for the stromelysin-3 matrix metalloproteinase. Cancer Res, 61: 2189-2193, 2001)。ECM1は血管新生作用を有し、乳癌細胞で発現されている(Han, Z., et al., Extracellular matrix protein 1 (ECM1) has angiogenic properties and is expressed by breast tumor cells. Faseb J, 15: 988-994, 2001)。これらの機能のほとんどは依然として不明であるが、これらの遺伝子の機能解析の評価により、これらが浸潤活性の媒介において役割を果たしていることが示される。
【0198】
本報告において、本発明者らは、全ゲノムcDNAマイクロアレイを用いた乳癌の正確な発現プロファイルにより、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞で顕著に過剰発現される新規遺伝子、A7870を単離した。さらに本発明者らは、乳癌細胞をsiRNAで処理すると標的遺伝子A7870の発現が効果的に阻害され、乳癌の細胞/腫瘍成長が有意に抑制されることを示した。これらの所見は、A7870が腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たすとともに、抗癌薬の開発のための有望な標的である可能性を示す。
【0199】
MAPKKファミリーの新たなメンバーであるTOPKと呼ばれるA7870を、乳癌におけるその顕著な発現亢進のため研究用に選択した。本発明者らは、約1.8kbおよび1.9kbの転写産物が癌特異的な発現を示すことを同定した。これらの転写産物は5'UTR配列が異なり、ORFは同一であった。本発明者らは、乳癌細胞をsiRNAで処理するとA7870の発現が効果的に阻害され、乳癌の細胞/腫瘍成長が有意に抑制されることを示した。これらの所見は、A7870が腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たすとともに、抗癌薬の開発のための有望な標的である可能性を示す。
【0200】
しかし、いくつかの基準は、疾患の進行および臨床的結果を予測する能力の点で完全ではない。より侵襲性の強い疾患を有する患者は、アジュバント化学療法またはホルモン療法により恩恵を受けることができ、これは現在、年齢、腫瘍のサイズ、腋窩リンパ節の状態、組織型および癌の病的段階、ならびにホルモン受容体状態といった複数の基準の組み合わせによって同定されている。組織学的に異なる腫瘍は、遺伝子のサブセットによって分類されており、このプロセスは病理学的に関連する情報を提供する。大部分の研究者は、腫瘍が組織学的に著しく高い割合で低分化状態を示す場合、患者の予後は不良であることを示唆している。
【0201】
本研究による驚くべき結果は、各患者における異なる組織型の発現プロファイルに著しい類似性があったことである。マイクロダイセクションおよび全体的な遺伝子発現解析により、浸潤および予後と関連性のある遺伝子発現の変化を、高分化型および低分化型の乳癌細胞からのmRNA発現プロファイルを用い、教師あり分析を用いて調べた。発現プロファイルに基づく教師なし分類分析により、乳癌は2つの群に分けることができ、異なる病理学的病変と関連することを示すことができる。各患者からなるこれらの二群間で発現に有意差がみられる25個の遺伝子を、ランダム順列検定によって同定した(図2C)。これらの遺伝子のうち、活性化T細胞核因子5(NFAT5)は癌細胞の遊走促進に限定され、このことはこれらの転写因子によって誘導される異なる遺伝子がある可能性を強く示す(Sebastien J. et al., The role of NFAT transcription factors in integrin-mediated carcinoma invasion. Nature cell biology, 4: 540-544, 2002)。トロンボスポンジン2(THSB2)は、細胞接着および細胞遊走に役割を果たすと思われる細胞外マトリックスタンパク質である。LMMに基づくアプローチの重要な利点の一つは、1つの標本から種々の表現型を有する癌細胞を選択しうる点である。遺伝子発現パターンの体系的分析により、浸潤の生物学的機序および病理過程を解明する手段が提供される。
【0202】
さらに、リンパ節転移は腫瘍進行における決定的な段階であり、乳癌患者の予後が不良である主な要因である(Shek, L. L. and Godolphin, W. Model for breast cancer survival: relative prognostic roles of axillary nodal status, TNM stage, estrogen receptor concentration, and tumor necrosis. Cancer Res, 48: 5565-5569, 1988)が、診断時に臨床的に検出可能な転移を示す患者はわずかに過ぎない。診断時点でのリンパ節の状態は、将来の再発および全生存期間の最も重要な尺度であるが、これはせいぜい不完全な代用物に過ぎない。例えば、検出可能なリンパ節の併発がみられなかった患者の約3分の1で、10年以内に疾患が再発する(Saphner, T., et al., Annual hazard rates of recurrence for breast cancer after primary therapy. J Clin Oncol, 14: 2738-2746, 1996)。前哨リンパ節生検は腋窩リンパ節の調査において精度の高い処置であることが示されており、これは乳癌の手術関連死を顕著に減少させうるとともに、腋窩切除の回避をも可能にした。核グレード、患者の年齢、腫瘍サイズといった他のパラメーターは、腋窩リンパ節の状態を予測することができず、前哨リンパ節生検によってリンパ節の状態を有効に診断することも不可能である。このため、リンパ節陽性腫瘍とリンパ節陰性腫瘍との間で差次的に発現される遺伝子のサブセットが今回同定されたことは、臨床的診断および正確な生物物理学的イベントの理解を向上させることに貢献しうる。クラスター分析(図10)は、リンパ節転移のある症例を転移を伴わない症例と区別することを示唆している。リンパ節転移の状態に応じた2つの患者群の区別に寄与した遺伝子は、転移に関する分子マーカーとして役立つ可能性がある(Ramaswamy, S., et al., A molecular signature of metastasis in primary solid tumors. Nat Genet, 33: 49-54, 2003)。例えば、これらの34個の遺伝子のうち、脂肪肉腫における転移についてTLSとして知られているFUSは、リンパ節陰性癌では減少し、ヒト骨髄性白血病において転写因子ERG-1をコードする遺伝子とともに転移する。野生型FUSの重要な機能の一つは、ゲノムの維持、特にゲノム安定性の維持である(Hicks, G. G., et al., Fus deficiency in mice results in defective B-lymphocyte development and activation, high levels of chromosomal instability and perinatal death. Nat Genet, 24: 175-179, 2000)。転移陽性群における遺伝子のいくつかは陰性群と比較して発現レベルが上昇していた。例えば、EEF1Dに関しては、腫瘍におけるEF-1δの発現がより高いことから、インビボでの悪性転換は細胞周期への進入および移行のために翻訳因子、mRNAおよびタンパク質合成の増加を必要とすることが示唆された。CFL1、Rhoタンパク質シグナル伝達およびRhoファミリーGTPアーゼは、細胞骨格および細胞遊走を調節し、腫瘍で通常過剰発現されている(Yoshizaki, H., et al., Activity of Rho-family GTPases during cell division as visualized with FRET-based probes. J Cell Biol, 162: 223-232, 2003;Arthur, W. T., et al., Regulation of Rho family GTPases by cell-cell and cell-matrix adhesion. Biol Res, 35: 239-246, 2002)。B-RafキナーゼであるBRAFは、増殖因子刺激の結果としてMEKのリン酸化および活性化をしうることが示された。これらの遺伝子のうちの一部の機能は依然として不明であるが、これらの遺伝子産物の機能を解明することにより、乳癌の転移におけるそれらの役割が明らかになる可能性がある。
【0203】
再発の原因および臨床的な経過は現時点では不明である。さらに、利用しうる臨床的、病理学的および遺伝的なマーカーに基づいて結果を高い信頼性で予測することも不可能である。これらの34個の遺伝子の発現プロファイルを利用する本発明の予測スコアシステムは、予後予測の改善のために有用である可能性はあるものの、臨床な段階に導入するためには多数の症例を用いた検証が必要と思われる。いずれにしても、本発明は、従来の組織学的診断では正しく理解されていない癌細胞の生物学的性質に関する、正確な情報を提供と考えられる。
【0204】
癌細胞で起こる特定の分子変化に向けた癌治療法は、進行乳癌の治療のためのトラスツズマブ(ハーセプチン)などの抗癌薬の臨床開発および規制認可によって実証されている(Coussens, L., et al. Tyrosine kinase receptor with extensive homology to EGF receptor shares chromosomal location with neu oncogene. Science, 230: 1132-1139, 1985)。この薬剤は臨床的に有効であり、これは形質転換細胞のみを標的とするために従来の抗癌薬よりも耐容性が優れている。したがって、この薬剤は癌患者の生存および生活の質を改善するだけでなく、分子標的癌療法の概念をも実証している。さらに、標的薬剤は、標準的な化学療法と併用した場合に、それらの効力を増強する(Gianni、L. and Grasselli, G. Targeting the epidermal growth factor receptor a new strategy in cancer treatment. Suppl Tumori, 1: S60-61, 2002.;Klejman, A., et al., Phosphatidylinositol-3 kinase inhibitors enhance the anti-leukemia effect of STI571. Oncogene, 21: 5868-5876, 2002)。このため、将来の癌治療はおそらく、従来の薬剤と、血管新生および浸潤性のような癌細胞の種々の特徴を対象とする標的特異的薬剤との併用を含むと考えられる。さらに、本発明は、乳癌を有する女性の血中または乳頭吸引液中に異常な量で存在しうる物質のような新規腫瘍マーカーを、早期乳癌を検出するために日常的に用いられるのに十分な信頼性がある可能性も示している。
【0205】
現在、進行乳癌の患者に対して用いうる有効な治療法は存在しない。このため、新たな治療アプローチおよびオーダーメイドの治療法が至急に必要である。乳癌において上方制御および下方制御される遺伝子を含む、本発明の癌特異的発現プロファイルは、患者の治療のための分子標的を同定するための有用な情報を提供するはずである。
【0206】
(表1)組織学的表現型における高分化型と低分化型との間で発現に変化がみられる遺伝子の一覧

【0207】
(表2)ER陽性腫瘍とER陰性腫瘍との間で発現に変化がみられる遺伝子の一覧




【0208】
(表3)DCISおよびIDCにおいて通常上方制御される遺伝子


【0209】
(表4)DCISおよびIDCにおいて通常下方制御される遺伝子







【0210】
(表5)DCISからIDCへの移行において発現が上昇する遺伝子

【0211】
(表6)DCISからIDCへの移行において発現が低下する遺伝子


【0212】
(表7)IDCにおいて通常上方制御される遺伝子

【0213】
(表8)IDCにおいて通常下方制御される遺伝子


【0214】
(表9)半定量的RT-PCR実験用のプライマー配列

【0215】
(表10)単一の症例における高分化型と低分化型との間で発現に変化がみられる遺伝子の一覧








【0216】
(表11)リンパ節陽性腫瘍とリンパ節陰性腫瘍との間で発現に変化がみられる遺伝子の一覧


【0217】
(表12)組織臨床学的情報


【0218】
(表13)

【0219】
産業上の利用可能性
レーザービームを用いた切除法(laser-capture dissection)とゲノム全体のcDNAマイクロアレイとの組み合わせによって得られた、本明細書に記載の乳癌の遺伝子発現解析によって、癌の予防および治療の標的となる特異的遺伝子が同定された。これらの発現差のある遺伝子サブセットの発現に基づいて、本発明は、乳癌を同定および検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0220】
本明細書に記載の方法はまた、乳癌の予防、診断、および治療のさらなる分子標的の同定に有用である。本明細書において報告したデータは、乳癌の包括的な理解を増大させて、新規診断方法の開発を促進し、治療薬および予防剤の分子標的を同定する手がかりを提供する。そのような情報は、乳房腫瘍形成のより深い理解に寄与し、乳癌を診断、治療、および究極的には予防するための新規方法を開発するための指標を提供する。
【0221】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。さらに、特定の態様を参照して本発明を詳細に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変を本発明に加えることができることは、当業者に明らかであると考えられる。
【0222】
さらに、本発明を、詳細に、その特定の態様に言及しながら説明してきたが、前記の記載は例示的および説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を例示することを意図していることが理解されるであろう。当業者は、慣行的な実験により、発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および修正をそれに加えうることを直ちに認識すると考えられる。したがって、本発明は以上の記載によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって規定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】マイクロダイセクション前の細胞(レーンA)、マイクロダイセクション後の細胞(レーンB)およびマイクロダイセクションされた細胞(レーンC)の像を示す。DCIS細胞、IDC細胞および正常乳管上皮細胞のマイクロダイセクションを、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)法を用いて行った。各標本からの、DCIS細胞(症例10326T)、IDC細胞(10502T)および正常乳管上皮細胞(10341N)をヘマトキシリンおよびエオシン染色した切片からマイクロダイセクションした。
【図2A】102例の試料にわたる、710個の遺伝子の教師なし二次元階層クラスター分析の結果を示す。図2(A)において、横の各行は乳癌患者を表し、縦の各々の列は単一の遺伝子を示す。赤色および緑色で示された各ウェルの色はそれぞれ、転写産物レベルが、全試料にわたるその遺伝子の中央値より高いこと、および低いことを示す。星印は主な組織型を示し、シャープ印は同一症例における少数の組織型を示す。四角は重複症例(10149a1および10149a1T)を示す。黒い四角は変化がなかった発現を示す。ERはEIAによって測定したER状態を指し、LNはリンパ節転移の状態を指し、ESR1はこのマイクロアレイにおけるESR1の発現プロファイルを指す。
【図2B】図2(B)は、8例の乳癌患者からマイクロダイセクションした、2つの分化病変を有する16例の試料にわたる、89個の遺伝子の二次元階層クラスター分析を示す。
【図2C】図2(C)は、25個の遺伝子を用いたクラスター分析を示し、これは高分化型および低分化型の浸潤性乳管癌細胞の間で発現に差異があることを示す。
【図3】ランダム順列検定によって選択した97個の遺伝子を用いた、遺伝子の教師あり階層クラスター分析を示す。横の行には、41例のER陽性試料および28例のER陰性試料(閉経前患者から選択)が示されている。縦の列には、97個の遺伝子を相対的発現比の類似性に従って異なる分枝にクラスター化した。図2(A)と同様に、下方の主分枝にある遺伝子はESR1の発現レベルと類似した様式で選択的に発現された。上方の分枝にあるものはESR1と反比例した。
【図4】正常乳管と比較してDCISで、さらにDCISと比較してIDCで発現の変化がみられる遺伝子を示す。図4(A)は、DCISおよびIDCにおいて通常、上方制御または下方制御される251個の遺伝子のクラスターを示す。図4(B)は、DCISからIDCへの移行において発現が上昇または低下する74個の遺伝子のクラスターを示す。図4(C)は、IDCにおいて特異的に上方制御または下方制御される65個の遺伝子のクラスターを示す。
【図5】高発現される遺伝子の半定量的RT-PCRによる検証の結果を示す。具体的には、5個の遺伝子(高分化型の12症例におけるAI261804、AA205444およびAA167194、ならびに低分化型の12症例におけるAA676987およびH22566)およびGAPDH(内部対照)の発現を半定量的RT-PCRによって調べた。マイクロアレイのシグナルは半定量的RT-PCR実験の結果に対応した。正常乳管細胞は、このマイクロアレイに用いた15人の閉経前患者における正常乳管上皮細胞から調製した。MGはヒト全乳腺を指す。
【図6】半定量的RT-PCRの結果を示す。(a)12人の乳癌患者、(b)乳癌細胞株(HBC4、HBC5、HBL100、HCC1937、MCF7、MDA-MB-231、SKBR3、T47D、YMB1、BT-20、BT-474、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA-MB-157、MDA-MB-435S、MDA-MB-453、OCUB-FおよびZR-75-1)由来の腫瘍細胞、ならびに正常ヒト組織におけるA7870の発現レベルを示す。
【図7】(a)種々のヒト組織、ならびに(b)乳癌細胞株および正常なヒトの生命維持に必要な臓器における、A7870転写産物のノーザンブロット分析の結果を示す。
【図8A】トランスフェクトされたCOS7細胞における外因性A7870の細胞内局在を示す。
【図8B】T47D、BT-20およびHBC5細胞における外因性A7870の細胞内局在を示す。
【図9】ランダム順列検定によって選択した206個の遺伝子を用いた、遺伝子の教師あり階層クラスター分析を示す。横の行には、69例の試料(IDC患者から選択)が示されている。縦の列には、97個の遺伝子が、相対的発現比の類似性に従って異なる分枝にクラスター化された。分枝1および分枝2にある遺伝子は、低分化型および高分化型の発現レベルに類似して選択的に発現された。
【図10A】図10(A)は、予測スコアシステムを確立するため、ランダム順列検定後に分類の評価およびleave-one-out検定によって選択した34個の遺伝子を用いた、二次元階層クラスター分析の結果を示す。上方の主分枝にある遺伝子はリンパ節転移を伴う症例で選択的に発現され;下方の分枝にあるものはリンパ節陰性症例でより高度に発現された。
【図10B】図10(B)は、非転移性(リンパ節陰性)腫瘍を転移性(リンパ節陽性)腫瘍と区別するための、10(A)にみられる遺伝子の強度を示す。四角はリンパ節陽性症例を表し;三角は陰性症例を表す。17個の白四角はリンパ節陽性の被験症例を表し、20個の白三角はリンパ節陰性の被験症例を表し、これらは予測スコアの確立に用いなかったものである。
【図10C】図10(C)は、転移に関する予測スコアと実施後の臨床情報との間の相関を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における乳癌または乳癌を発症する素因を診断する方法であって、患者由来の生物試料における乳癌関連遺伝子の発現のレベルを決定する段階を含み、該試料の発現レベルが該遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇または低下していることによって、該対象が乳癌に罹患しているまたは乳癌を発症するリスクを有することが示される方法。
【請求項2】
乳癌関連遺伝子がBRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択され、さらに、試料の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることによって、対象が乳癌に罹患しているまたは乳癌を発症するリスクを有することが示される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項2記載の方法。
【請求項4】
乳癌関連遺伝子がBRC番号176〜373、399〜447および472〜512の遺伝子からなる群より選択され、さらに試料の発現レベルが正常対照レベルと比較して低下していることによって、対象が乳癌に罹患しているまたは乳癌を発症するリスクを有することが示される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
乳癌がIDCである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
乳癌関連遺伝子がBRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択され、さらに試料の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることによって、対象がIDCに罹患しているまたはIDCを発症するリスクを有することが示される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項7記載の方法。
【請求項9】
乳癌関連遺伝子がBRC番号472〜512の遺伝子からなる群より選択され、さらに試料の発現レベルが正常対照レベルと比較して低下していることによって、対象がIDCに罹患しているまたはIDCを発症するリスクを有することが示される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項9記載の方法。
【請求項11】
複数の乳癌関連遺伝子の発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
遺伝子発現レベルが、以下からなる群より選択される方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a)乳癌関連遺伝子のmRNAを検出する段階、
(b)乳癌関連遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する段階、および
(c)乳癌関連遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性を検出する段階。
【請求項13】
検出がDNAアレイ上で行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
患者由来の生物試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
患者由来の生物試料が乳癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
患者由来の生物試料が乳癌細胞由来の上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
BRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される、2つまたはそれ以上の乳癌関連遺伝子に関する遺伝子発現のパターンを含む、乳癌基準発現プロファイル。
【請求項18】
BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される、2つまたはそれ以上の乳癌関連遺伝子に関する遺伝子発現のパターンを含む、乳癌基準発現プロファイル。
【請求項19】
BRC番号176〜373、399〜447および472〜512からなる群より選択される、2つまたはそれ以上の乳癌関連遺伝子に関する遺伝子発現のパターンを含む、乳癌基準発現プロファイル。
【請求項20】
乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)被験化合物を、BRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;ならびに
(c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項21】
乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)候補化合物を一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される段階;ならびに
(b)対照と比較して、BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはBRC番号176〜373、399〜447および472〜512の遺伝子からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる、候補化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項22】
細胞が乳癌細胞を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)被験化合物を、BRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;ならびに
(c)BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して抑制するか、またはBRC番号176〜373、399〜447および472〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して高める、被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項24】
乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)候補化合物を、一つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c)該マーカー遺伝子がBRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される、上方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現もしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子がBRC番号176〜373、399〜447および472〜512の遺伝子からなる群より選択される、下方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現レベルを高める候補化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項25】
乳癌がIDCであって、
(a)被験化合物をBRC番号448〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;ならびに
(c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階
を含む、請求項20記載の方法。
【請求項26】
乳癌がIDCであって、
(a)候補化合物を一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号448〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される段階;ならびに
(b)対照と比較して、BRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはBRC番号472〜512の遺伝子からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる、候補化合物を選択する段階
を含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
細胞がIDC細胞を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
乳癌がIDCであって、
(a)被験化合物を、BRC番号448〜449および451〜512からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;ならびに
(c)BRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して抑制するか、またはBRC番号472〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して高める、被験化合物を選択する段階、
を含む、請求項23記載の方法。
【請求項29】
乳癌がIDCであって、
(a)候補化合物を、一つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号448〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c)該マーカー遺伝子がBRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される、上方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現もしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子がBRC番号472〜512の遺伝子からなる群より選択される、下方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現レベルを高める、候補化合物を選択する段階
を含む、請求項24記載の方法。
【請求項30】
(a)BRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される2つもしくはそれ以上の核酸配列、または(b)それらによってコードされるポリペプチド、と結合する検出用試薬を含むキット。
【請求項31】
BRC番号123〜169、171〜449および451〜512の遺伝子からなる群より選択される一つまたは複数の核酸配列と結合する2つまたはそれ以上の核酸を含むアレイ。
【請求項32】
対象における乳癌を治療または予防する方法であって、アンチセンス組成物を該対象に投与する段階を含み、該アンチセンス組成物がBRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む方法。
【請求項33】
対象における乳癌を治療または予防する方法であって、siRNA組成物を該対象に投与する段階を含み、該siRNA組成物がBRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる方法。
【請求項34】
siRNAが、SEQ ID NO:25、28、および31のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
対象における乳癌を治療または予防するための方法であって、BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する、抗体またはその免疫活性断片の薬学的有効量を、該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項36】
対象における乳癌を治療または予防する方法であって、以下を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法:(a)BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫活性断片、または(c)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項37】
抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、抗原提示細胞を、ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターと接触させる段階を含み、該ポリペプチドがBRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471からなる群より選択される遺伝子によってコードされるか、またはその断片である方法。
【請求項38】
抗原提示細胞を対象に投与する段階をさらに含む、請求項37記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項39】
対象における乳癌を治療または予防する方法であって、(a)BRC番号176〜373、399〜447および472〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現、または(b)それによってコードされるポリペプチドの活性を高める化合物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項40】
対象における乳癌を治療または予防するための方法であって、請求項20〜24のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物を投与する段階を含む方法。
【請求項41】
対象における乳癌を治療または予防する方法であって、(a)BRC番号176〜373、399〜447および472〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b)それによってコードされるポリペプチドを含む、作用因子の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項42】
乳癌がIDCであって、アンチセンス組成物が、BRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む、請求項32記載の方法。
【請求項43】
乳癌がIDCであって、siRNA組成物がBRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる、請求項33記載の方法。
【請求項44】
siRNAが、SEQ ID NO:25、28、および31のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項43記載の方法。
【請求項45】
乳癌がIDCであって、抗体またはその断片が、BRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する、請求項35記載の方法。
【請求項46】
乳癌がIDCであって、ワクチンが、(a)BRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫活性断片、または(c)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項36記載の方法。
【請求項47】
IDCに対する抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、抗原提示細胞に、ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターを接触させる段階を含み、該ポリペプチドがBRC番号448〜449および451〜471からなる群より選択される遺伝子によってコードされるか、またはその断片である方法。
【請求項48】
抗原提示細胞を対象に投与する段階をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
乳癌がIDCであって、化合物が、(a)BRC番号472〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現または(b)それによってコードされるポリペプチドの活性を高める、請求項39記載の方法。
【請求項50】
乳癌がIDCであって、化合物が請求項25〜29のいずれか一項記載の方法によって得られる、請求項40記載の方法。
【請求項51】
乳癌がIDCであって、さらに作用因子が、(a)BRC番号472〜512の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b)それによってコードされるポリペプチドを含む、請求項41記載の方法。
【請求項52】
乳癌を治療または予防するための組成物であって、BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAの薬学的有効量を含む組成物。
【請求項53】
siRNAが、SEQ ID NO:25、28、および31のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項52記載の組成物。
【請求項54】
乳癌を治療または予防するための組成物であって、BRC番号123〜169、171〜175、374〜398、448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する、抗体またはその断片の薬学的有効量を含む組成物。
【請求項55】
乳癌を治療または予防するための組成物であって、有効成分としての請求項20〜24のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項56】
乳癌がIDCであって、ポリヌクレオチドがBRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される、請求項52記載の組成物。
【請求項57】
siRNAが、SEQ ID NO:25、28、および31のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項56記載の組成物。
【請求項58】
乳癌がIDCであって、タンパク質がBRC番号448〜449および451〜471の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされる、請求項54記載の組成物。
【請求項59】
乳癌がIDCであって、化合物が請求項25〜29のいずれか一項記載の方法によって選択される、請求項55記載の組成物。
【請求項60】
乳癌の浸潤を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)被験化合物を、BRC番号374〜447の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項61】
乳癌の浸潤を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)候補化合物を一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号374〜447の遺伝子からなる群より選択される段階;および
(b)対照と比較して、BRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはBRC番号399〜447の遺伝子からなる群より選択される一つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる、候補化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項62】
細胞が乳癌細胞を含む、請求項61記載の方法。
【請求項63】
乳癌の浸潤を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)被験化合物を、BRC番号374〜447の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c)BRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して抑制するか、またはBRC番号399〜447の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して高める、被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項64】
乳癌の浸潤を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)候補化合物を、一つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号374〜447の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;および
(c)該マーカー遺伝子がBRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択される上方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現もしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子がBRC番号399〜447の遺伝子からなる群より選択される下方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現レベルを高める、候補化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項65】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防する方法であって、アンチセンス組成物を該対象に投与することを含み、該アンチセンス組成物がBRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む方法。
【請求項66】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防する方法であって、siRNA組成物を該対象に投与する段階を含み、該siRNA組成物がBRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる方法。
【請求項67】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防するための方法であって、BRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項68】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防する方法であって、以下を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法:(a)BRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫活性断片、または(c)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項69】
乳癌の浸潤に対する抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、抗原提示細胞に、ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターを接触させる段階を含み、該ポリペプチドがBRC番号374〜398からなる群より選択される遺伝子によってコードされるかまたはその断片である方法。
【請求項70】
抗原提示細胞を対象に投与する段階をさらに含む、請求項69記載の方法。
【請求項71】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防する方法であって、(a)BRC番号399〜447の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現または(b)該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの活性を高める化合物を、該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項72】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防するための方法であって、請求項60〜64のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物を投与する段階を含む方法。
【請求項73】
対象における乳癌の浸潤を治療または予防する方法であって、(a)BRC番号399〜447の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたは(b)該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを含む、作用因子の薬学的有効量を該対象に投与することを含む方法。
【請求項74】
乳癌の浸潤を治療または予防するための組成物であって、BRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む組成物。
【請求項75】
乳癌の浸潤を治療または予防するための組成物であって、BRC番号374〜398の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む組成物。
【請求項76】
乳癌の浸潤を治療または予防するための組成物であって、有効成分として請求項60〜64のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項77】
対象における乳癌の転移を予測するための方法であって、
(a)該対象から採取した標本における一つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階であって、一つまたは複数のマーカー遺伝子がBRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該標本における一つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを転移陽性症例および転移陰性症例のものと比較する段階;ならびに
(c)標本の発現レベルが転移陽性症例と同程度であることによって乳癌の転移のリスクが高いことが示され、標本の発現レベルが転移陰性症例と同程度であることによって乳癌の転移のリスクが低いことが示される段階
を含む方法。
【請求項78】
段階(c)が以下の段階を用いて予測スコアを算出する段階をさらに含む、請求項77記載の方法:
i)以下の式:
Vi= | xi-(μr+μn)/2 |
によって得票の多さ(magnitude of the vote)(Vi)を算出する段階であって、式中、Xiは試料における発現レベルであり、μrは転移陰性症例における平均発現レベルであり、μnは転移陽性症例における平均発現レベルである段階、
ii)以下の式:
PS=((Vr-Vn)/(Vr+Vn))×100
によってPS値を算出する段階であって、式中、VrおよびVnはそれぞれ転移陰性症例および転移陽性症例に関する総得票数である段階、ならびに
iii)PS値が15.8未満であれば対象が乳癌の転移を有するリスクが高いと判定され、PS値が15.8を上回れば乳癌の転移を有するリスクが低いと判定される段階。
【請求項79】
BRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現のパターンを含む、乳癌基準発現プロファイル。
【請求項80】
遺伝子発現が、リンパ節転移を伴う患者またはリンパ節転移を伴わない患者の乳癌細胞に由来する、請求項79記載の発現プロファイル。
【請求項81】
(a)BRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される2つもしくはそれ以上の核酸配列または(b)該遺伝子によってコードされるポリペプチドと結合する、検出用試薬を含むキット。
【請求項82】
BRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される一つまたは複数の核酸配列に結合する、2つまたはそれ以上の核酸を含むアレイ。
【請求項83】
乳癌の治療または乳癌転移の予防のための化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)被験化合物を、BRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるポリペプチドと接触させる段階:
(2)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(3)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項84】
乳癌の治療または乳癌転移の予防のための化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)被験化合物を、BRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(2)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;ならびに
(3)VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して低下させるか、またはUBA52、GenBankアクセッション番号AA634090、CEACAM3、C21orf97、KIAA1040、EEF1D、FUS、GenBankアクセッション番号AW965200およびKIAA0475からなる群より選択される遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して上昇させる、被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項85】
乳癌の治療または乳癌転移の予防のための化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)被験化合物を一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、該マーカー遺伝子がBRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される段階;ならびに
(2)VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択されるマーカー遺伝子のうち一つもしくは複数の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して低下させるか、またはUBA52、GenBankアクセッション番号AA634090、CEACAM3、C21orf97、KIAA1040、EEF1D、FUS、GenBankアクセッション番号AW965200およびKIAA0475からなる群より選択されるマーカー遺伝子のうち一つもしくは複数の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して上昇させる、化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項86】
一つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞が乳癌細胞を含む、請求項85記載の方法。
【請求項87】
乳癌の治療または乳癌転移の予防のための化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)BRC番号719〜752の遺伝子からなる群より選択される遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の下流かつ制御下にあるレポーター遺伝子を含む、ベクターを構築する段階;
(2)段階(1)のベクターを用いて細胞を形質転換する段階;
(3)被験化合物を段階(2)の細胞と接触させる段階;
(4)レポーター遺伝子の発現または活性を検出する段階;ならびに
(5)該マーカー遺伝子が、VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される上方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現もしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子が、UBA52、GenBankアクセッション番号AA634090、CEACAM3、C21orf97、KIAA1040、EEF1D、FUS、GenBankアクセッション番号AW965200およびKIAA0475からなる群より選択される下方制御されるマーカー遺伝子である場合、対照と比較して該レポーター遺伝子の発現もしくは活性を高める、被験化合物を選択する段階
を含む方法。
【請求項88】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための方法であって、請求項83〜87のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物の薬学的有効量を対象に投与する段階を含む方法。
【請求項89】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための方法であって、VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される一つまたは複数の遺伝子に対するアンチセンス核酸またはsiRNAの薬学的有効量を対象に投与する段階を含む方法。
【請求項90】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための方法であって、VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を対象に投与する段階を含む方法。
【請求項91】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための方法であって、ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターの薬学的有効量を対象に投与する段階を含み、該ポリペプチドがUBA52、GenBankアクセッション番号AA634090、CEACAM3、C21orf97、KIAA1040、EEF1D、FUS、GenBankアクセッション番号AW965200およびKIAA0475からなる群より選択される遺伝子によってコードされるか、またはその断片である方法。
【請求項92】
抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、抗原提示細胞を、ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターと接触させる段階を含み、該ポリペプチドがVAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される遺伝子によってコードされるか、またはその断片である方法。
【請求項93】
抗原提示細胞を対象に投与する段階をさらに含む、請求項92記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項94】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための組成物であって、請求項83〜87のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物の薬学的有効量を含む組成物。
【請求項95】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための組成物であって、VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される、一つまたは複数の遺伝子に対するアンチセンス核酸またはsiRNAの薬学的有効量を含む組成物。
【請求項96】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための組成物であって、VAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する、抗体またはその断片の薬学的有効量を含む組成物。
【請求項97】
対象における乳癌の治療または乳癌転移の予防のための組成物であって、(a)ポリペプチド、(b)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または(c)該ポリヌクレオチドを含むベクターの薬学的有効量を含み、該ポリペプチドがVAMP3、MGC11257、GSPT1、DNM2、CFL1、CLNS1A、SENP2、NDUFS3、NOP5/NOP58、PSMD13、SUOX、HRB2、LOC154467、THTPA、ZRF1、LOC51255、DEAF1、NEU1、UGCGL1、BRAF、TUFM、FLJ10726、DNAJB1、AP4S1およびMRPL40からなる群より選択される遺伝子によってコードされるか、またはその断片である組成物。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate


【公開番号】特開2008−92949(P2008−92949A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237927(P2007−237927)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【分割の表示】特願2006−527773(P2006−527773)の分割
【原出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】