説明

乳癌マーカーおよびそれを用いた診断

【課題】乳癌の新規診断マーカーの提供。
【解決手段】被験者より採取した生体試料(好ましくは体液、より好ましくは血清、血漿等)中の、分子量約2030、約2143、約2553、約2860、約3570、約3836、約3947、約4829、約6739および約9990の10種のペプチドからなる群より選択される1種以上のペプチドの量を測定する(好ましくは質量分析もしくは該ペプチドを特異的に認識する抗体を用いて測定する)ことを特徴とする、該被験者における乳癌の診断のための検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌の新規診断マーカー、並びにそれを利用した乳癌の診断方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、米国の女性にみられる癌では皮膚癌に次いで多く、女性の癌の中では肺癌に続いて多い死亡原因となっている。2001年の1年間に、米国では約20万人の女性が乳癌と診断され、そのうち乳癌が原因で死亡する割合は、約5人に1人であると見積もられている。即ち、乳癌は、早期に診断と治療が行われれば治癒が十分に望める病気である。したがって、乳癌の場合には、発症リスク要因の改善等よりも、むしろ早期発見を常に心がけることの方がはるかに重要である。
【0003】
乳癌の検診としては、乳房の視触診、乳腺超音波検査、乳腺レントゲン(マンモグラフィー)検査があるが、多くの場合、乳房の視触診のみで終わってしまうことが多い。しかし、乳癌の中にはしこりを作らない癌もあり、また、小さなしこりは触診だけでは見落とされる可能性があるので、できるだけ乳腺超音波検査または乳腺レントゲン検査を併用した精度の高い検診を受けることが望ましい。実際、視触診で見つかる乳癌のうち、早期癌は50%なのに対し、マンモグラフィー検診では90%が早期癌である。
しかし、マンモグラフィーで効果的に検診を行うには、一定の水準を満たした機器とフィルム、撮影する技師と読影する医師の能力が不可欠であるが、それらすべての水準を満たしている検査施設は限定されている。したがって、より簡便に、精度の高い乳癌診断を可能にする新規な手法が切望されている。
【0004】
生体内のタンパク質発現を網羅的に解析するプロテオミクス研究の進展に伴い、プロテオミクスを利用した新規バイオマーカーの探索が精力的に行われている。例えば、Hondaら(非特許文献1)は、膵臓癌患者の血漿サンプルをSELDI-TOFMS技術を用いて分析し、健常者と比較してピーク強度が有意に異なる4つの質量ピーク(m/z 8,766、17,272、28,080、14,779)を同定し、膵臓癌マーカーとして報告している。また、いくつかの癌患者の血清中の蛋白質分解産物パターンが調べられ、フィブリノペプチドA(FPA)およびそのフラグメント、フィブリノーゲンα鎖のフラグメント並びにITIH4のフラグメントが、前立腺癌、膀胱癌、乳癌で変動することが報告されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】ホンダ(Honda)ら, 「キャンサー・リサーチ(Cancer Res.)」, 第65巻(第22号), pp. 10613-10622(2005年)
【非特許文献2】ヴィラヌエヴァ(Villanueva)ら, 「ザ・ジャーナル・オヴ・クリニカル・インヴェスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)」, 第116巻(第1号), pp. 271-284(2006年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、乳癌の新規診断マーカー、並びにそれを利用した乳癌の有効な診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはまず、乳癌患者および乳腺良性腫瘍患者から採取した血清を質量分析により調べ、両患者血清間でディファレンシャルプロファイリング解析を行い、T検定で0.05以下のP値を与えるペプチド群を選択し、それらの中から目視により不適当と思われるものを排除して52個のマーカーを選別した。この52個のマーカーを用いてランダムフォレスト法により全患者検体のクラスタリングを行い、クラスタリング結果に最も有効な5個のマーカーを選別した。次に、選別された5個のマーカーを用いてトレーニングセットに対して再度ランダムフォレストを実施し、その結果をテストセットで検証した結果、感度(有病正診率)約98%、特異度(無病正診率)約89%という、極めて信頼性の高い悪性/良性の判定が可能であることを見出した。
本発明者らはまた、悪性/良性腫瘍間の2群比較により、上記5個のマーカーのうちの1つを含む、両群間で顕著に変動している6種のペプチドを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づいて、これら10種のペプチドを乳癌の診断マーカーとして新たに同定し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]被験者より採取した生体試料中の、分子量約2030、約2143、約2553、約2860、約3570、約3836、約3947、約4829、約6739および約9990の10種のペプチドからなる群より選択される1種以上のペプチドの量を測定することを特徴とする、該被験者における乳癌の診断のための検査方法;
[2]測定するペプチドが、分子量約2030、約2143、約3570、約3836および約4829の5種のペプチドからなる群より選択される、上記[1]記載の方法;
[3]測定するペプチドが2〜5種である、上記[1]または[2]記載の方法;
[4]測定するペプチドが、分子量約2030、約2143、約3570、約3836および約4829の5種のペプチドである、上記[2]記載の方法;
[5]生体試料が体液である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法;
[6]体液が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、眼房水、硝子体液およびリンパ液からなる群より選択される、上記[5]記載の方法;
[7]生体試料を質量分析にかけることを含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法;
[8]各ペプチドを特異的に認識する抗体を用いることを特徴とする、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法;
[9]患者から時系列で生体試料を採取し、該試料における各ペプチドの量の経時変化を調べることを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法;および
[10]乳癌患者における治療効果の評価のための検査方法であって、治療が施される前後に該患者から採取した生体試料における、分子量約2030、約2143、約2553、約2860、約3570、約3836、約3947、約4829、約6739および約9990の10種のペプチドからなる群より選択される1種以上のペプチドの量の変化を調べることを特徴とする方法
などを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳癌を迅速・的確に判定できるので、該疾患の早期発見、早期治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、10種の新規かつ有用な乳癌の診断マーカーペプチド(以下、10種のペプチドを包括して「本発明のペプチド」という場合もある)を提供する。
【0010】
本発明の10種のペプチドは、ヒト血清中に見出される、質量分析による見かけの分子量が、それぞれ約2030、約2143、約2553、約2860、約3570、約3836、約3947、約4829、約6739および約9990である(順にペプチド1、ペプチド2、・・・ペプチド10という場合がある)。分子量の実測値は、用いられる測定方法・測定機器に応じて若干変動し得る。したがって、これらの分子量における「約」とは、例えば、質量分析計を用いる方法による場合は、±0.5%、好ましくは±0.3%、より好ましくは±0.1%の誤差を含む意味で用いられる。
【0011】
これらのペプチドのうち、ペプチド1(約2030)、ペプチド2(約2143)、ペプチド3(約2553)およびペプチド6(約3836)の血清レベルは、乳癌患者において、非乳癌患者もしくは健常者と比較して顕著に低下している(括弧内の数値は分子量を示す。以下同様。)。一方、ぺプチド4(約2860)、ペプチド5(約3570)、ペプチド7(約3947)、ペプチド8(約4829)、ペプチド9(約6739)およびペプチド10(約9990)の血清レベルは、乳癌患者において、非乳癌患者もしくは健常者と比較して顕著に上昇している。
【0012】
本発明はまた、乳癌に罹患していると疑われる患者由来の生体試料中の、1種以上の本発明のペプチドの量を測定することによる、該患者における乳癌の診断のための検査方法を提供する。ここで「診断のための検査」とは、該ペプチド量の測定および必要に応じて対照サンプルにおける測定値との比較を意味する。「乳癌に罹患していると疑われる患者」は、患者本人が主観的に疑いを抱くものであっても、何らかの客観的な根拠に基づくものであってもよいが、好ましくは、従来公知の臨床検査および/または診察の結果、乳癌への合理的な罹患可能性があると医師が判断した患者、あるいはそれと同等の病態を有するヒトである。特に、本発明は、乳房に腫瘍の存在が確認された患者において、該腫瘍が悪性であるか良性であるかを判定するのに有用である。
また、乳癌の治療においては、早期発見、早期治療が大原則とされるが、本発明のペプチドは、病気分類(1997年、UICC)全6期のうちの早期症例においても、非乳癌患者もしくは健常者と有意差をもって生体レベルが変動することから、本発明のペプチドを指標とする定期診断を採用することにより、乳癌の早期発見・早期治療に寄与し得る可能性がある。
【0013】
測定対象となるペプチドは、上記10種の本発明のペプチドから選択される限り特に制限はないが、好ましくは、ペプチド1(約2030)、ペプチド2(約2143)、ペプチド5(約3570)、ペプチド6(約3836)およびペプチド8(約4829)の5種のペプチドから選択されるものである。また、本発明のペプチド、好ましくは上記5種のペプチドから選ばれる少なくとも1種のペプチドを含む限り、本発明のペプチド以外の乳癌マーカーとなりうる1種以上のペプチドの量を、さらに測定してもよい。そのようなペプチドとしては、例えば、前記非特許文献2に開示される各種の蛋白質フラグメントなどが挙げられる。
【0014】
被験試料となる患者由来の生体試料は特に限定されないが、患者への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液など生体から容易に採取できるものや、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液など比較的容易に採取されるものが挙げられる。
血清や血漿を用いる場合、常法に従って患者から採血し、液性成分を分離することにより調製することができる。検出対象である本発明のペプチドは必要に応じて、スピンカラムなどを用いて、予め高分子量の蛋白質画分などを分離除去しておくこともできる。
【0015】
生体試料中の、本発明のペプチドの検出は、例えば、生体試料を各種の分子量測定法、例えば、ゲル電気泳動や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計など)を組み合わせる方法等に供し、該ペプチドの分子量と一致するバンドもしくはスポット、あるいはピークを検出することにより行うことができるが、これらに限定されない。本発明のペプチドはアミノ酸配列が既知であるので、該アミノ酸配列を認識する抗体を作製して、ウェスタンブロッティングや各種イムノアッセイにより該ペプチドを検出する方法が、より好ましく用いられ得る。さらに上記方法のハイブリッド型検出法も有効である。
【0016】
本発明のペプチドは、それぞれ上記の通りの分子量を有するが、用いられる測定方法・測定機器に応じて、実測値は若干変動し得ることはいうまでもない。例えば、質量分析計を用いる方法による場合は、計算値±0.5%(好ましくは±0.3%、より好ましくは±0.1%)の位置に出現するピーク強度を測定することが好ましい。
【0017】
本発明の検査方法における特に好ましい測定法の1つは、飛行時間型質量分析に使用するプレートの表面に被験試料を接触させ、該プレート表面に捕捉された成分の質量を飛行時間型質量分析計で測定する方法が挙げられる。
飛行時間型質量分析計に適合可能なプレートは、検出対象である本発明のペプチドを効率よく吸着し得る表面構造を有している限り、いかなるものであってもよい。そのような表面構造としては、例えば、官能基付加ガラス、Si、Ge、GaAs、GaP、SiO2、SiN4、改質シリコン、広範囲のゲル又はポリマー(例えば、(ポリ)テトラフルオロエチレン、(ポリ)ビニリデンジフロリド、ポリスチレン、ポリカーボネート、又はこれらの組合せなど)によるコーティングが挙げられる。複数のモノマー又はポリマー配列を有する表面構造としては、例えば、核酸の直鎖状及び環状ポリマー、ポリサッカライド、脂質、α-、β-又はω-アミノ酸を有するペプチド、クロマトグラフィーで使用されるゲル表面の担体(陰イオン性/陽イオン性化合物、炭素鎖1〜18からなる疎水性化合物、親水性化合物(例えば、シリカ、ニトロセルロース、セルロースアセテート、アガロース等)と架橋した担体など)、人工ホモポリマー(例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート等)、上記化合物のいずれかに既知の薬物又は天然化合物が結合(共有及び非共有結合)したヘテロポリマー等によるコーティングが挙げられる。
【0018】
好ましい実施態様においては、質量分析用プレートとして用いられる支持体は、ポリビニリデンジフロリド(PVDF)、ニトロセルロースまたはシリカゲル、特に好ましくはPVDFで薄層コーティングされた基材[通常、質量分析用プレートにおいて使用されているものであれば、特に限定されず、例えば、絶縁体(ガラス、セラミクス、プラスチック・樹脂等)、金属(アルミニウム、ステンレス・スチール等)、導電性ポリマー、それらの複合体などが挙げられるが、好ましくはアルミニウムプレートが用いられる]である(WO 2004/031759を参照)。支持体の形状は、使用する質量分析装置の、特に試料導入口に適合するような形状に適宜考案され得るが、それらに限定されない。かかるPVDFで薄層コーティングされた質量分析用プレートとして、好ましくはプロトセラ社のブロットチップ(登録商標)などが挙げられる。
【0019】
好ましくは、コーティングは、メンブレンのように予め成型された構造体を支持体上に重層するのではなく、コーティング分子が分散した状態で支持体上に堆積されて形成される薄層をいう。コーティング分子が堆積される態様は特に制限されないが、後述の質量分析用プレートの調製方法において例示される手段が好ましく用いられる。
薄層の厚さは、組織もしくは細胞に含まれる分子の転写効率および質量分析の測定感度等に好ましくない影響を与えない範囲で適宜選択することができるが、例えば、約0.001〜約100 μm、好ましくは約0.01〜約30 μmである。
【0020】
質量分析用プレート(支持体)は自体公知の方法により調製することができるが、例えば、上記の好ましい質量分析用プレートは、PVDF等のコーティング分子で支持体表面を薄層コーティングすることにより調製される。コーティングの手段としては、塗布、噴霧、蒸着、浸漬、印刷(プリント)、スパッタリングなどが好ましく例示される。
「塗布」する場合、コーティング分子を、適当な溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(dimethyl formamide;DMF)などの有機溶媒に適当な濃度(例えば、約1〜約100 mg/mL程度)で溶解したもの(コーティング分子含有溶液)を、刷毛などの適当な道具を用いて基材に塗布することができる。
「噴霧」する場合、上記と同様にして調製したコーティング分子含有溶液を噴霧器に入れ、基材上に均一にPVDFが堆積されるように噴霧すればよい。
「蒸着」する場合、通常の有機薄膜作製用真空蒸着装置を用い、基材を入れた真空槽中でコーティング分子(固体でも溶液でもよい)を加熱・気化させることにより、基材表面上に該分子の薄層を形成させることができる。
「浸漬」させる場合、上記と同様にして調製したコーティング分子含有溶液中に基材を浸漬させればよい。
「印刷(プリント)」する場合は、基材の材質に応じて通常使用され得る各種印刷技術を適宜選択して利用することができ、例えば、スクリーン印刷などが好ましく用いられる。
「スパッタリング」する場合は、例えば、真空中に不活性ガス(例、Arガス等)を導入しながら基材とコーティング分子間に直流高電圧を印加し、イオン化したガスを該分子に衝突させて、はじき飛ばされたコーティング分子を基材上に堆積させて薄層を形成させることができる。
コーティングは基材全面に施してもよいし、質量分析に供される面(画分)のみに施してもよい。
【0021】
コーティング分子は、コーティング手段に応じて適宜好ましい形態で使用することができ、例えば、コーティング分子含有溶液、コーティング分子含有蒸気、固体コーティング分子などの形態で基材にアプライされ得るが、コーティング分子含有溶液の形態でアプライすることが好ましい。「アプライする」とは、接触後にコーティング分子が支持体上に残留・堆積されるように支持体に接触させることをいう。アプライ量は特に制限はないが、コーティング分子量として、例えば、約10〜約100,000 μg/cm2、好ましくは約50〜約5,000 μg/cm2挙げられる。アプライ後に溶媒は自然乾燥、真空乾燥などにより除去する。
【0022】
質量分析用プレートにおける基材は、コーティング分子でコーティングする前に予め適当な物理的、化学的手法により、その表面を修飾(加工)しておいてもよい。具体的には、プレート表面を磨く、傷を付ける、酸処理、アルカリ処理、ガラス処理(テトラメトキシシランなど)等の手法が例示される。
【0023】
被験試料の質量分析用プレート(支持体)への移行は、被験試料となる患者由来の生体試料を未処理のままで、あるいは抗体カラムその他の方法で高分子タンパク質を除去、濃縮した後に、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動もしくは等電点電気泳動に付し、泳動後ゲルをプレートと接触させて転写(ブロッティング)することにより行われる。転写装置としては公知のものを用いることができる。転写の方法自体は公知である。好ましくは電気転写が用いられる。泳動後ゲルに展開された試料は、種々の方法(拡散、電気力その他)によって質量分析用プレートに移行される。電気転写時に使用する緩衝液としては、pH 7〜9、低塩濃度のものを用いることが好ましい。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液などが例示される。トリス緩衝液としては、トリス/グリシン/メタノール緩衝液、SDS-トリス−トリシン緩衝液など、リン酸緩衝液としては、ACN/NaCl/等張リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム/ACNなど、ホウ酸緩衝液としては、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、トリス−ホウ酸塩/EDTA、ホウ酸塩/ACNなど、酢酸緩衝液としては、トリス−酢酸塩/EDTAなどが挙げられる。好ましくは、トリス/グリシン/メタノール緩衝液、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液である。トリス/グリシン/メタノール緩衝液の組成としては、トリス10〜15 mM、グリシン70〜120 mM、メタノール7〜13%程度が例示される。ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液の組成としては、ホウ酸ナトリウム5〜20 mM程度が例示される。
【0024】
これにより、標的分子を含めて、被験試料中に存在する分子は支持体表面上に効率よく捕捉される。プレートを乾燥させた後、後の質量分析(MALDI法による場合)に有利なように、レーザー光を吸収し、エネルギー移動を通じて分析対象物分子のイオン化を促進するためにマトリックスと呼ばれる試薬を添加することもできる。当該マトリックスとしては、質量分析において公知のものを用いることができる。例えば、シナピン酸(sinapinic acid;SPA (=3,5-dimethoxy-4-hydoroxycinammic acid))、インドールアクリル酸(Indoleacrylic acid;IAA)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-dihydroxybenzoic acid;DHB)、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinammic acid;CHCA)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、DHBまたはCHCAである。
【0025】
上記の方法により支持体表面上に捕捉された被験試料中の分子を質量分析することにより、分子量に関する情報から、標的分子である本発明のペプチドの存在および量を同定することができる。
質量分析装置は、ガス状の試料をイオン化した後、その分子や分子断片を電磁場に投入し、その移動状況から質量数/電荷数によって分離、物質のスペクトルを求めることにより、物質の分子量を測定・検出する装置である。試料とレーザー光を吸収するマトリックスを混合、乾燥させて結晶化し、マトリックスからのエネルギー移動によるイオン化とレーザー照射による瞬間加熱により、イオン化した分析対象物を真空中に導くマトリックス支援レーザー脱イオン化(MALDI)と、初期加速による試料分子イオンの飛行時間差で質量数を分析する飛行時間型質量分析(TOFMS)とをあわせて用いるMALDI-TOFMS法、1分析対象物を1液滴にのせて液体から直接電気的にイオン化する方法、試料溶液を電気的に大気中にスプレーして、個々の分析対象物多価イオンをunfoldの状態で気相に導くナノエレクトロスプレー質量分析(nano-ESMS)法等の原理に基づく質量分析装置を使用することができる。
質量分析用プレート上の分子を質量分析する方法自体は公知である。例えば、WO 2004/031759に記載の方法を、必要に応じて適宜改変して使用することができる。
【0026】
質量分析の結果から、標的分子の分子量情報に基づいて、被験試料中の標的分子の有無およびその量が同定され得る。この工程において、質量分析装置からの情報を、任意のプログラムを用いて、非乳癌患者もしくは健常者由来の生体試料における質量分析データと比較して、示差的な(differential)情報として出力させることも可能である。そのようなプログラムは周知であり、また、当業者は、公知の情報処理技術を用いて、容易にそのようなプログラムを構築もしくは改変することができることが理解されよう。
【0027】
特に好ましい態様においては、質量分析用プレートとしてプロトセラ社のブロットチップを用いて、上記の各工程を実施し、MALDI型質量分析装置で本発明のペプチドを定量比較(ディファレンシャル解析)する。さらに、必要に応じて、同一チップに残存する該ペプチドを同定することもできる。あるいは、被験試料の定量比較(ディファレンシャル解析)までをプロトセラ社のブロットチップシステムを用いて実施し、該ペプチドの同定を、高速液体クロマトグラフィーとイオンスプレー型質量分析装置の組み合わせ装置(LC-MS/MS)で実施することも可能である。
【0028】
本発明の検査方法における本発明のペプチドの測定は、それに対する抗体を用いて行うこともできる。かかる方法は、最適化されたイムノアッセイ系を構築してこれをキット化すれば、上記質量分析装置のような特殊な装置を使用することなく、高感度かつ高精度に該ペプチドを検出することができる点で、特に有用である。
【0029】
本発明のペプチドに対する抗体は、例えば、本発明のペプチドを、これを発現する患者由来の生体試料から単離・精製し、該ペプチドを抗原として動物を免疫することにより調製することができる。あるいは、得られるペプチド量が少量である場合等は、該ペプチドをペプチダーゼ等によって部分消化し、得られる断片のアミノ酸配列をエドマン法などにより決定し、その配列を基に該ペプチドをコードする核酸とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドを合成、これをプローブとして該患者由来のcDNAラリブラリーを鋳型にハイブリダイゼーション法により該ペプチドを含む蛋白質をコードするcDNAを得るか、あるいは該オリゴヌクレオチドをプライマーとして該患者由来のRNAを鋳型にしてRT-PCRを行うことにより、該ペプチドをコードするcDNA断片を得て、該cDNA断片を適当な発現ベクターに組み込んで適当な宿主細胞に導入し、得られる形質転換体を培養して組換えペプチドを採取することによって、本発明のペプチドを大量に調製することができる。あるいは上記のようにして得られるcDNAを鋳型として、無細胞転写・翻訳系を用いて本発明のペプチドを取得することもできる。さらに有機合成法により大量に調製することも可能である。
【0030】
あるいは、上記の質量分析による検出において、タンデム質量分析(MS/MS)法を用いることにより、直接本発明のペプチドのアミノ酸配列を同定し、該配列情報に基づいて該ペプチドの全部もしくは一部を合成し、これを抗原(ハプテン)として利用することもできる。MS/MS法を用いたペプチド同定法としては、MS/MSスペクトルを解析してアミノ酸配列を決定するde novo sequencing法と、MS/MSスペクトル中に含まれる部分的な配列情報(質量タグ)を用いてデータベース検索を行い、ペプチドを同定する方法等が挙げられる。
【0031】
本発明のペプチドに対する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する場合がある)は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子だけでなくそのフラグメントをも包含し、例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、minibody等が挙げられる。
【0032】
例えば、ポリクローナル抗体は、上記のいずれかの方法または他の方法によって調製された本発明のペプチドもしくはその部分ペプチド(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアータンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0033】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、本発明のペプチドもしくはその部分ペプチドを市販のアジュバントと共にマウスに2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該ペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、このましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
【0034】
本発明の抗体を用いる本発明の検査方法は、特に制限されるべきものではなく、被験試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法等が好適に用いられる。
【0035】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0036】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0037】
サンドイッチ法においては、不溶化した本発明の抗体に被験試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被験試料中の本発明のペプチド量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。
【0038】
本発明のペプチドに対するモノクローナル抗体を、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることもできる。
競合法では、被験試料中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被験試料中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被験試料の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被験試料中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被験試料中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被験試料中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0039】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のペプチドの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies)) (以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0040】
本発明のペプチドはタンパク質分解産物からなるため、通常の「サンドイッチELISAシステム」では、未分解のタンパク質や、切断部位が共通の類似ペプチド等様々な分子が測定値に影響を与える可能性がある。そこで、第1工程において、生体試料を抗体により免疫アフィニティ精製し、抗体に結合したフラクションを、第2工程において質量分析に付し、精緻な分子量を基準に同定、定量する、いわゆる免疫質量分析法を利用することができる(例えば、Rapid Commun. Mass Spectrom. 2007, 21: 352-358を参照)。例えば、生体試料として血液試料を用いる場合、該試料をそのままMALDI型質量分析計で測定しても、バイオマーカーのピークは観察されないが、免疫質量分析法によれば、未分解のタンパク質も類似ペプチドも、質量分析計で完全に分離され、バイオマーカーの正確な分子量を基準に高い特異性と感度で定量が可能となる。
【0041】
あるいは、本発明の抗体を用いる別の本発明の検査方法として、該抗体を上記したような質量分析計に適合し得るプローブの表面上に固定化し、該プローブ上の該抗体に被検試料を接触させ、該抗体に捕捉された生体試料成分を質量分析にかけ、該抗体が認識するマーカーペプチドの分子量に相当するピークを検出する方法が挙げられる。
【0042】
上記のいずれかの方法により測定された被験者由来試料中の本発明のペプチドのレベルが、非乳癌患者もしくは健常者由来の対照試料中の該ペプチドレベルに比べて有意に変動している場合、該被験者は乳癌に罹患している可能性が高いと診断することができる。
【0043】
より具体的には、本発明のペプチドがペプチド1(約2030)、ペプチド2(約2143)、ペプチド3(約2553)またはペプチド6(約3836)である場合、試料中の該ペプチドのレベルが、対照試料中の該ペプチドレベルに比べて有意に減少している場合、該被験者は乳癌に罹患している可能性が高いと診断することができる。
【0044】
一方、本発明のペプチドがぺプチド4(約2860)、ペプチド5(約3570)、ペプチド7(約3947)、ペプチド8(約4829)、ペプチド9(約6739)またはペプチド10(約9990)である場合、該ペプチドのレベルが、対照試料中の該ペプチドレベルに比べて有意に上昇している場合、該被験者は乳癌に罹患している可能性が高いと診断することができる。
【0045】
本発明の10種のペプチドは、それぞれ単独でも乳癌の診断マーカーとして利用することができるが、2種以上を組み合わせることにより、感度(有病正診率)および特異度(無病正診率)をより高めることができる。マーカーとして用いるペプチドの数およびその組み合わせは特に制限されないが、好ましくは2〜5種であり、より好ましくはペプチド1(約2030)、ペプチド2(約2143)、ペプチド5(約3570)、ペプチド6(約3836)およびペプチド8(約4829)の5種のペプチドから選択される2〜5種のペプチドである。
【0046】
2種以上のペプチドをマーカーとして用いる場合の診断手法としては、例えば、(1) 測定対象であるすべてのペプチドについてレベルが有意に変動する場合に乳癌であると判定し、いずれかのペプチドについてレベルが有意に変動しない場合に乳癌でないと判定する方法、(2) 測定対象であるすべてのペプチドについてレベルが有意に変動しない場合に乳癌でないと判定し、いずれかのペプチドについてレベルが有意に変動した場合に乳癌であると判定する方法、(3) 測定対象であるn個のペプチドのうち、例えば、2〜(n-1)個以上のペプチドについて、レベルが有意に変動する場合に乳癌であると判定する方法、さらに各ペプチド間で重みを持たせる方法などが考えられる。しかしながら、上記(1)の方法によれば、偽陽性の頻度を低減する(即ち、特異度を上げる)ことはできるが、偽陰性の頻度が多くなり、感度が低下する可能性がある。一方、(2)の方法によれば、偽陰性の頻度を低減する(即ち、感度を上げる)ことはできるが、偽陽性の頻度が多くなり、特異性が低下する可能性がある。好ましくは、相当サンプル数の既知乳癌患者および非乳癌対照由来試料中の各ペプチドの測定値に基づいて判別式(多元方程式)を作成し、該判別式に被験者由来試料中の各ペプチドの実測値を代入して解を求め、その値に従って、被験者が乳癌であるか否かを判定する。
【0047】
しかしながら、本発明のペプチドの測定手段として質量分析などの変動係数(cv)の大きな方法を用いる場合には、上記判別式の作成が困難であるので、かかる実施態様においては、集団学習法を用いて被験者が乳癌であるか否かを判定することが好ましい。集団学習法は、必ずしも精度が高いとはいえない複数の結果を組み合わせて精度を向上させる方法である。代表的なものとして、例えば、バギング法、ブースティング法、ランダムフォレスト法などがあり、いずれの方法も本発明の検査方法において適用可能であるが、好ましくはランダムフォレスト法である。
【0048】
ランダムフォレスト法を用いた乳癌の診断について、実施例1を具体例にして説明する。まず、既知の乳癌患者30例および乳腺良性腫瘍患者23例をトレーニングセット(乳癌22例、良性腫瘍16例)とテストセット(乳癌8例、良性腫瘍7例)とに分ける。ランダムに作成した10組のトレーニングセットBi(i=1-10)について、ペプチド1(約2030)、ペプチド2(約2143)、ペプチド5(約3570)、ペプチド6(約3836)およびペプチド8(約4829)の5種のペプチドを変数として、未剪定の最大の決定木Tiを生成する。Tiの構築を行う際の各分岐ノードは異なる木を多数生成するため、ランダムにm個の変数をサンプリングし、その中から最も分岐のよい変数を用いる。各決定木に各テストセットのデータを当てはめ、感度および特異度を計算する。実施例1では、10回の平均感度約98%、平均特異度約89%であり、この方法による診断が、極めて信頼性の高いものであることを示している。次に、被験者由来の試料中のペプチド1、2、5、6および8を測定し、得られた測定データを上記各決定木Tiに当てはめて被験者の腫瘍が悪性か良性かを判定する。10通りの判定結果Riについて多数決をとり、最終的に悪性/良性を判定する。
【0049】
別の実施態様においては、2もしくは3種の本発明のペプチドをマーカーとして用いる場合、相当サンプル数の既知乳癌患者および非乳癌対照由来試料中の各ペプチドの測定値を2次元もしくは3次元座標にプロットして散布図を作成することにより、乳癌と非乳癌とがどの領域に分布するかを可視化し、次いで、被験者由来試料中の各ペプチドの測定値を該散布図上にプロットすることにより、被験者が乳癌に罹患しているか否かを容易に判定することができる。散布図に基づいて各ペプチドのカットオフ値を決定し、被験者由来試料中の各ペプチドの測定値をこれと比較することによっても判定が可能である。
【0050】
本発明の検査方法は、患者から時系列で生体試料を採取し、各試料における本発明のペプチドの発現の経時変化を調べることにより行うことが好ましい。生体試料の採取間隔は特に限定されないが、患者のQOLを損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましく、例えば、血漿もしくは血清を試料として用いる場合、約1分〜約12時間の間隔で採血を行うことが好ましい。本発明のペプチドのうち、ペプチド1(約2030)、ペプチド2(約2143)、ペプチド3(約2553)およびペプチド6(約3836)は、乳癌が進行するに従って血清・血漿レベルが減少する傾向にある。従って、これらのペプチドのレベルが経時的に増加した場合には、該患者における乳癌が改善されている可能性が高いと判定することができる。一方、ぺプチド4(約2860)、ペプチド5(約3570)、ペプチド7(約3947)、ペプチド8(約4829)、ペプチド9(約6739)およびペプチド10(約9990)は、乳癌が進行するに従って血清・血漿レベルが上昇する傾向にある。従って、これらのマーカーのレベルが経時的に減少した場合には、該患者における乳癌が改善されている可能性が高いと判定することができる。
【0051】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる乳癌の検査方法は、前回サンプリングと当回サンプリングとの間に、被験者である患者に対して該疾患の治療措置が講じられた場合に、当該措置による治療効果を評価するのに用いることができる。即ち、治療の前後にサンプリングした試料について、治療後の状態が治療前の状態と比較して病態の改善が認められると判定された場合に、当該治療の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較して病態の改善が認められない、あるいはさらに悪化していると判定された場合には、当該治療の効果がなかったと評価することができる。
【0052】
さらに本発明のペプチドは、診断以外に積極的な乳癌の創薬ターゲットを提供することもできる。即ち、該ペプチドそれ自体が該疾患の治療(寛解)方向に生理機能を持つ(「治療ペプチド」という)場合、該ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質を患者に投与することにより、また、該ペプチドそれ自体が該疾患の増悪方向に生理機能を持つ場合(「増悪ペプチド」という)、該ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質を投与することにより、それぞれ該疾患を治療することができる。
【0053】
本発明はまた、本発明のペプチドが治療ペプチドとして作用する場合に、該ペプチドの量もしくは活性を増大させる、および/または、本発明のペプチドが増悪ペプチドとして作用する場合に、該ペプチドの量もしくは活性を低減させることによる、乳癌の治療方法を提供する。該治療方法は、具体的には、治療ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および/または増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質の有効量を、乳癌患者に投与することを含む。従って、本発明はまた、治療ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および/または増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質を含有してなる、乳癌治療剤を提供する。
【0054】
具体的には、治療ペプチドとしての本発明のペプチドの活性を増大させる物質としては、該ペプチド自体あるいはそれと同様のアゴニスト作用を有する分子が挙げられる。あるいは、治療ペプチドとしての本発明のペプチドの活性を増大させる物質として、該ペプチドの非中和抗体、好ましくはアゴニスト抗体なども挙げることができる。一方、増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの活性を低減させる物質としては、該ペプチドのアンタゴニスト作用を有する分子、あるいは該ペプチドに対する中和抗体などが挙げられる。
また、治療ペプチドとしての本発明のペプチドの産生を増大させる物質としては、生体内に存在する親蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素、該ペプチドのN末側および/またはC末側に該分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含む、該分解酵素の基質もしくは基質アナログ分子、該分解酵素の産生を促進する分子(類似化合物を含む)、該分解酵素の活性を促進する分子、該分解酵素のインヒビターの産生を抑制する分子などが挙げられる。該ペプチドのN末側および/またはC末側のアミノ酸配列から、該ペプチドを遊離させる分解酵素の存在が示唆され、該ペプチドのN末側および/またはC末側のアミノ酸配列をプローブにした分解酵素探索と同定が可能となる。こうして同定された分解酵素の基質もしくは基質アナログ分子、即ち、該ペプチドのN末側および/またはC末側に該分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含むペプチド分子は、乳癌患者の体内で該分解酵素により切断されて治療ペプチドとしての本発明のペプチドもしくはそのアナログ分子を遊離するので、同様の治療効果を奏することができる。一方、同定された分解酵素の産生および/または活性を促進する物質も、間接的に治療ペプチドとしての本発明のペプチドの産生を増大させることができる。これらの物質は、標的の分解酵素が同定されれば、自体公知の手法によりスクリーニングし、あるいは分子設計することができる。
【0055】
一方、増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの産生を低減させる物質としては、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素の産生を抑制する分子、該分解酵素のインヒビター、該インヒビターの産生を促進する分子などが挙げられる。増悪ペプチドとしての本発明のペプチドを遊離する分解酵素は、上記治療ペプチドとしての本発明のペプチドと同様の手法により探索・同定することができる。こうして同定された分解酵素を用いて、自体公知の手法により、該分解酵素の産生もしくは活性を直接または間接的に抑制(阻害)する物質をスクリーニングし、あるいは分子設計することができる。
【0056】
治療ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質は、常套手段に従って製剤化することができる。
例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記化合物またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、上記化合物またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。
【0057】
上記の経口用または非経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが例示され、それぞれの投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mgの上記化合物が含有されていることが好ましい。
なお前記した各組成物は、上記治療ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質または増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質との配合により、好ましくない相互作用を生じない限り、他の活性成分を含有してもよい。
【0058】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトに対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
治療ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および増悪ペプチドとしての本発明のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質の投与量は、その作用、投与ルート、患者の重篤度、年齢、体重、薬物受容性などにより差異はあるが、例えば、成人1日あたり活性成分量として約0.0008〜約25mg/kg、好ましくは約0.008〜約2mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0060】
参考例1 BlotChipを用いたプロファイリング解析
乳癌患者30例(早期25例、後期3例、不明2例)の血清並びに乳腺良性腫瘍患者23例の血清1.5μLを電気泳動用サンプル処理液(NuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer 4x ;Invitrogen)4.5μLと混合し70℃で10分間、加熱処理した後、4-12%グラジェントポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)にアプライし電気泳動を行った。電気泳動終了後、ゲルを切り出しBLOTCHIP(登録商標)(Protosera, Inc.)に積層し電気転写用バッファー(BLOTBufferTM;Protosera, Inc.)中で90mA、120分間転写した。転写終了後、チップの表面を超純水でリンスし、チップ全体にマトリックス(α-Cyano-4-hydroxy cinamic acid)を塗布後、matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight (MALDI-TOF) mass spectrometer (Bruker Daltnics社製Ultra-FlexII)で質量分析を行った。測定パラメータは、Detector voltage 1685V, Supression1000, Laser Intensity は28〜35のFuzzyモードで、1チップあたり415点、1点あたり500回のレーザー照射で、総計207,500回レーザー照射を行った。得られたスペクトル中の各ピーク強度をM/z 毎に積算し、1個の積算スペクトルに変換した。積算スペクトルをClinProTools (Bruker Daltonik GmbH) を用いて、乳癌患者血清と良性腫瘍患者血清の間でディファレンシャルプロファイリング解析を行い、ピーク強度や悪性/良性のピーク比に関係なく、0.05以下のP値を与えるペプチド群を選択し、目視により不適当と思われるものを除外した結果、52個のマーカー候補が抽出された。これら52個のマーカーを用いて、上記53症例に対しクラスター(ヒートマップ)解析を実施した。その結果、図1に示すとおり、悪性腫瘍と良性腫瘍でクラスターが形成された。
【0061】
参考例2 ランダムフォレストと変数の絞込み
参考例1で得られた52のバイオマーカーから、分子量が1,000台のものを除いた43個のバイオマーカーを使用してランダムフォレストを実施した。上記53症例をテストセット(悪性8例、良性7例)とトレーニングセット(悪性22例、良性16例)とに分けて、ランダムに選択した15組のトレーニングセットについてクラスタリングを実施した。各組について、それぞれテストセットデータを用いて検証を行った。その結果、平均感度97.5%、平均特異度93.3%と極めて高い精度で乳腺腫瘍の悪性/良性を判定できることが示された(表1)。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1 ランダムフォレストによる5個のバイオマーカーの抽出
参考例1で得られた52個のバイオマーカーを用いてランダムフォレストによる上記53症例のクラスタリングを行い、変数の重要度ランキングを構築して上位5個のバイオマーカー(それぞれ、分子量約2030、約2143、約3570、約3836、約4829)を選別した。これら5個のバイオマーカーを用いて、トレーニングセット(悪性22例、良性16例)に対して再度ランダムフォレストを実施し、その結果をランダムに割り付けた10組のテストセット(悪性8例、良性7例)で検証し、感度と特異度を算出した。その結果、平均感度97.5%、平均特異度88.6%と、5個のバイオマーカーのみを用いて、極めて高い精度で乳腺腫瘍の悪性/良性を判定できることが明らかとなった(表2)。また、選択された5個のバイオマーカーの各血清レベルを悪性腫瘍(30例)、良性腫瘍(23例)ごとに箱ひげ図(boxplot)により表示したところ、悪性/良性間で比較的差の大きいマーカーが選択されていることが示された(図2)。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例2 ディファレンシャルプロファイリング解析によるバイオマーカーの選別
参考例1で得られた52のバイオマーカーから、P値0.01以下、ピーク強度(患者、対照のいずれか大きい方)20以上、患者/対照のピーク比が2より大きいか、0.5より小さいものという基準でマーカーの絞込みを行った。その結果、6個のバイオマーカー(それぞれ、分子量約2143、約2553、約2860、約3947、約6739、約9990)が抽出された(図3A〜F)。分子量約2143のバイオマーカーは、実施例1でランダムフォレスト法により選別されたマーカーの1つと同一のペプチドであった。
次に、分子量2143のバイオマーカーのピーク強度と、他の5種のバイオマーカーの各々のピーク強度とを、それぞれプロットして2次元散布図を作成したところ、悪性腫瘍のクラスター領域と良性腫瘍のクラスター領域とが明瞭に区別された(図4A〜E)。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の新規な乳癌診断マーカーを利用した臨床検査方法は、乳癌を迅速且つ的確に判断できるので、該疾患の早期発見、早期治療が可能となる点で有用である。また、本発明における測定対象たる本発明のペプチドは、それ自体、これらの疾患における創薬ターゲットとなり得るので、乳癌の新規治療薬のスクリーニング、並びにそれらを用いた該疾患の治療に利用し得る点で、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】参考例1で選別された52個のバイオマーカーを用いた悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例のクラスター解析の結果を示す図である。
【図2】実施例1で選別された5個のバイオマーカーの1.悪性腫瘍(乳癌)30例および2.良性腫瘍23例における血清レベルの箱ひげ図である。
【図3A】実施例2で選別されたバイオマーカー(分子量約2143)の、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピークの積算スペクトル(左図)および各症例におけるピーク強度のプロット(右図)を示す図である。
【図3B】実施例2で選別されたバイオマーカー(分子量約2553)の、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピークの積算スペクトル(左図)および各症例におけるピーク強度のプロット(右図)を示す図である。
【図3C】実施例2で選別されたバイオマーカー(分子量約2860)の、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピークの積算スペクトル(左図)および各症例におけるピーク強度のプロット(右図)を示す図である。
【図3D】実施例2で選別されたバイオマーカー(分子量約3947)の、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピークの積算スペクトル(左図)および各症例におけるピーク強度のプロット(右図)を示す図である。
【図3E】実施例2で選別されたバイオマーカー(分子量約6739)の、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピークの積算スペクトル(左図)および各症例におけるピーク強度のプロット(右図)を示す図である。
【図3F】実施例2で選別されたバイオマーカー(分子量約9990)の、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピークの積算スペクトル(左図)および各症例におけるピーク強度のプロット(右図)を示す図である。
【図4A】実施例2で選別された分子量約2143のバイオマーカーと、分子量約2553のバイオマーカーとの、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピーク強度の2次元散布図である。
【図4B】実施例2で選別された分子量約2143のバイオマーカーと、分子量約2860のバイオマーカーとの、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピーク強度の2次元散布図である。
【図4C】実施例2で選別された分子量約2143のバイオマーカーと、分子量約3947のバイオマーカーとの、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピーク強度の2次元散布図である。
【図4D】実施例2で選別された分子量約2143のバイオマーカーと、分子量約6739のバイオマーカーとの、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピーク強度の2次元散布図である。
【図4E】実施例2で選別された分子量約2143のバイオマーカーと、分子量約9990のバイオマーカーとの、悪性腫瘍(乳癌)30例および良性腫瘍23例の質量分析におけるピーク強度の2次元散布図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者より採取した生体試料中の、分子量約2030、約2143、約2553、約2860、約3570、約3836、約3947、約4829、約6739および約9990の10種のペプチドからなる群より選択される1種以上のペプチドの量を測定することを特徴とする、該被験者における乳癌の診断のための検査方法。
【請求項2】
測定するペプチドが、分子量約2030、約2143、約3570、約3836および約4829の5種のペプチドからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
測定するペプチドが2〜5種である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
測定するペプチドが、分子量約2030、約2143、約3570、約3836および約4829の5種のペプチドである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
生体試料が体液である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
体液が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、眼房水、硝子体液およびリンパ液からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生体試料を質量分析にかけることを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
各ペプチドを特異的に認識する抗体を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
患者から時系列で生体試料を採取し、該試料における各ペプチドの量の経時変化を調べることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
乳癌患者における治療効果の評価のための検査方法であって、治療が施される前後に該患者から採取した生体試料における、分子量約2030、約2143、約2553、約2860、約3570、約3836、約3947、約4829、約6739および約9990の10種のペプチドからなる群より選択される1種以上のペプチドの量の変化を調べることを特徴とする方法。

【図2】
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【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【公開番号】特開2010−71953(P2010−71953A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242981(P2008−242981)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【出願人】(504150782)株式会社プロトセラ (8)
【Fターム(参考)】