説明

乳癌治療および予後におけるESRコピー数変化の利用方法

本発明は、癌患者、特に乳癌患者の治療処置の有効性を推測するための方法に関する。推測は、インサイチュでのエストロゲン受容体α遺伝子(ESR1)の異常の状態の測定、および任意に、ESR1に関連する遺伝子の異常の状態の測定に基づく。特に、本発明は、患者の腫瘍細胞内のESR1遺伝子の有無の測定に関し、存在する場合は、異常の型、例えば、増幅、重複、倍数体化、欠失または転座の測定に関する。さらに、本発明は、ESR1およびESR1関連遺伝子の異常の状態をインサイチュで測定するためのプローブを含むパーツキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌患者、特に乳癌患者の治療の有効性の推定方法に関する。推定は、インサイチュでのエストロゲンレセプターα遺伝子(ESR1)の異常の状態および任意にESR1に関連する遺伝子の異常の状態の判定に基づくものである。特に、本発明は、患者の腫瘍細胞におけるESR1遺伝子の存在または非存在および存在する場合にはESR1遺伝子の増幅、複製、倍数体化、欠失または転移などの種類の異常の判定に関する。本発明は、インサイチュでESR1遺伝子およびESR1関連遺伝子の異常の状態を判定するためのプローブを含むパーツキット(kit-in-parts)にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
エストロゲンレセプター
エストロゲンレセプター(ER)は、予測および予後の有用性の両方を有し、癌、特に乳癌の臨床判定に最も広く使用されているマーカーである(概説について、(Goldhirsch A,ら, Ann of Oncology, 16:15-69-1583, 2005参照)。免疫組織化学(IHC)アッセイを用いて、使用されるカットオフに依存して乳癌患者の70%〜85%がエストロゲンレセプター陽性腫瘍を有する。エストロゲンの効果はエストロゲンレセプターの2つの形態、ERα(本明細書でERとして呼ばれる)およびERβによって媒介されるが、ERβの機能は未だ不明である。ERアイソフォームの両方の活性が、癌に関連している(Shupnik, M.A., Piit, L.K., Soh, A.Y., Anderson, A., Lopes, M.B., Laws, E.R., Jr: Selective expression of estrogen receptor alpha and beta isoforms in human pituitary tumors. J. Clin. Endocr. Metab. 83:3965-3972, 1998:Skliris GP, Leygue E, Curtis-Snell L, Watson PH, Murphy LC. Expression of oestrogen receptor-beta in oestrogen receptor-alpha negative human breast tumours. Br J Cancer. 4;95(5):616-26, 2006; Satake M, Sawai H, Go VL, Satake K, Reber HA, Hines OJ, Eibl G. Estrogen receptors in pancreatic tumors. Pancreas. 33(2):119-27, 2006)。
【0003】
エストロゲンの効果としては、生殖組織における増殖および分化が挙げられ、乳癌の発症および進行に関連している。ER陽性細胞の割合は正常の乳房で変化するが、上皮細胞のわずか15〜25%がER陽性であり、ほとんどの部分は分裂しない。エストロゲンによって誘導される増殖は、管腔上皮細胞周辺のER陰性細胞で主に起こる。これと異なって、乳房腫瘍におけるER陽性上皮細胞の増殖は、エストロゲンで調節される。ER依存性に置き換えられる背後の機構は、明らかに説明されていない。
【0004】
ERは、染色体6q25.1に位置するESR1遺伝子によってコードされる。ホルモン依存性から非依存性までのヒト乳癌の進行において役割を果たしていると提案されている1つの機構は、エストロゲンレセプターの変異体および/またはバリアント形態の発現または変化した発現である。2つの主要な種類である切断転写物およびエクソン欠失転写物のバリアントESR1 mRNAがこれまでのところヒト乳房生検試料で報告されている。野生型より大きなESR1 mRNA RT-PCR産物は、212個の解析されたヒト乳房腫瘍のうち9.4%で検出された。これらの大きなRT-PCR産物のクローニングおよび配列決定により、3つの異なる種類:7.5%のエクソン6の完全な複製;1つの腫瘍でのエクソン3および4の完全な複製;ならびに3つの腫瘍でのエクソン5と6との間の69bp(塩基対)挿入が示された。ESR1の大まかな構造再配置はサザンハイブリダイゼーションを使用した188個の一連の原発性乳癌で同定されておらず、続く研究によってESR1トランスロケーションおよびコピー数変化が乳癌で普通でないことが確認された。しかし、これらの観察は、最近ESR1のコピー数が乳癌で変化することが報告されたように、検査される試料の実際の遺伝子状態よりも応用技術の低い感度を反映しているかもしれない。
【0005】
転写活性化は、2つの活性化ドメイン(AF)、AF-1およびAF-2によって媒介される。AF-1ドメインは、レセプターのN-末端に位置し、有糸分裂活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路のリン酸化によって促進することができるリガンド非依存性機能を有する。AF-2ドメインは、リガンド依存性機能を有し、レセプターのC-末端のリガンド結合部分に位置する。
【0006】
コレギュレーター
遺伝子活性化には、転写因子およびコアクチベーターの結合作用が必要とされ、コアクチベーターの発現は遺伝子調節の実質的な構成要素である。コアクチベーターおよびコリプレッサーの主な研究は1994年に開始され、リガンド依存性様式で大部分のタンパク質とエストロゲンレセプターとの相互作用が示された。多くの構成要素が同定された事実にも関わらず、転写因子によるこれらの複合体の交換をもたらす様式は未だ不明である。2つの独立したモデルが提案されている。1つのモデルによれば、別個のコアクチベーターおよびコリプレッサーの複合体が、核レセプターの活性化によってクロマチンに組み込まれる前形成状態で存在することが提案されている。別のモデルによって、コアクチベーターおよびコリプレッサーが同じ複合体に存在し、転写活性化のために整列されるだけであることが提案されている。転写因子によるコアクチベーターおよびコリプレッサー複合体の交換は、これらの複合体中の構成要素の同定にも関わらず未だに不明である。複合体中のコアクチベーターおよびコリプレッサーの共存、例えば、NCOA3(AIB1)、N-CoRおよびSMRTの間での相互作用が繰り返し報告されている。
【0007】
NCOA3(AIB1)は、20q12にマッピングされる核レセプターコアクチベーター3をコードする。NCOA3は、核レセプターに直接結合し、リガンド依存性様式で転写活性を刺激する。NCOA1、NCOA2、およびNCOA3を含むNCOAファミリーは、広く発現し、ERを含む大半の核レセプターを同時活性化する。AIB1、pCIP、RAC3、SRC3、およびACTRとしても公知のNCOA3は、癌、特に乳癌および前立腺癌の制御に対して劇的な影響があるように思われる(H Chen 1997)。増幅に続くNCOA3の高いレベルが、乳癌で見出されており、従って別名AIB1(乳癌増幅1 (amplified in breast cancer 1))である。NCOA3は、ERβよりも高い程度でERαを同時活性化し、タモキシフェンの作用をアンタゴナイズするかもしれない(J Font de Mora 2000)。AIB1またはNCOA3はERに限定されるものではなく、siRNAによるAIB1の不活性化が癌増殖を減少させる。NCOA1(SRC-1)は、最初にクローニングされたステロイドコアクチベーターであり、ERとPgRとの相互作用はアゴニストおよびアンタゴニストによって影響を受けるように思われる。NCOA2(TIF2またはGRIP1)はまた、リガンド依存性様式でステロイドレセプターと相互作用する。
【0008】
ステロイドレセプターとコリプレッサーとの間の相互作用の分子的根拠は、コアクチベーターとの相互作用よりもさらに不明である。核レセプターコリプレッサーNCOR1(N-CoR)ならびにレチノイドおよび甲状腺ホルモンレセプターのためのサイレンシングメディエーターNCOR2(SMRT)は、非リガンド化レチノイン酸および甲状腺ホルモンレセプターと関連する抑制の構成要素として最初に認識された。ER陽性原発性乳房を有する患者の腫瘍におけるNCOR1 mRNAの低い発現は、有意に短い再発なし生存と関連している。NCOR1は、高いレベルの増幅に基づいて選択された。NCOR2は、12q24に位置し、構造上NCOR1と非常に類似しているが、NCOR1と同じレベルに増幅されるようには思われない。NCOR1およびNCOR2の他に、コリプレッサー活性がまた、MTA、REA、RTAおよびNR0B1(DAX1)を含むいくつかの他の分子について示されている。
【0009】
骨格結合因子(Scaffold attachment factor)B1(SAFB/SAFB1/HET)およびB2(SAFB2/KIAA0138)は、19p13.3上で近接して存在し、転写制御および多くの他の細胞プロセスに不可欠である。腫瘍抑制機能が、両方の変異として予測されるかもしれないし、SAFB1の大きな欠失が、乳癌で同定されている。SAFB発現が、乳癌の約20%で失われ、不良な生存と関連している。
【0010】
ホルモンレセプターに関する癌治療
アロマターゼインヒビター
乳癌における腫瘍内アロマターゼ活性は、特に閉経後の患者において、これらの腫瘍で悪性増殖を維持する大部分のエストロゲンを示すことができる。エストラジオールの細胞内濃度は、血漿よりも20倍高い。従って、腫瘍内アロマターゼの高い含有量を有する患者は、特にアロマターゼインヒビターを用いた治療から恩恵を受けることができる。性腺外エストロゲン生合成のセントラルドグマは、コレステロールからC19ステロイドへの変換が副腎皮質および卵巣だけで起こるというものである。循環プロホルモンまたはC19前駆体は、活性な性ステロイドのオーダーよりも大きなオーダーの濃度で閉経後の女性の循環系中に存在し、テストステロン、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、デヒドロエピアンドロステロンスルフェート(DHEAS)が挙げられる。この大きなプールの前駆体は、エストロゲンゲンへの変換のために末梢組織で利用可能である。10人の患者は、7人が女性であり、CYP19の遺伝変異を有すると報告されている。性別の影響は、脂質および炭水化物代謝に関して、エストロゲン除去のこれらの患者において観察されなかった。
【0011】
アロマターゼインヒビターは、本質的に有効性および選択性に関連する作用および生成の機構によって分類することができる。第三世代(3G)アロマターゼインヒビターは、アロマターゼ酵素の有効で選択的なインヒビターである。アナストロゾールおよびレトロゾールは、アロマターゼ酵素のp450ドメインに対して高く可逆的な結合能力を有するトリアゾールおよびイミダゾールの非ステロイド誘導体である。エキセメスタンは、基質ポケットに不可逆的に結合するステロイド化合物であり、従ってアロマターゼインアクチベーターと称されている。エキセメスタンの主な代謝産物である17-ヒドロエキセメスタンは、アンドロゲン性活性を有し、用量依存的な様式でsex結合グロブリンを抑制する。アロマターゼインヒビターの活性の直接測定は、エストロゲンアッセイの感度の低下によって阻害される。代わりに、体全体のアロマターゼ化の算出がエストロゲン代謝産物のアイソトープ比に基づいた、3H-アンドロステンジオンおよび14C-エストロンの二重トレーサー注入が、使用されている。二重トレーサー技術によって、第一および第二世代アロマターゼインヒビターで50〜90%の範囲、ならびに第三世代の化合物で98%以上のアロマターゼ阻害が明らかにされている。アナストロゾールおよびレトロゾールを小さなクロスオーバー試験で比較した場合に、レトロゾールによって、全ての患者においてアロマターゼ活性のより実質的な抑制がもたらされ、同時に血漿エストロゲンレベルの高い抑制がもたらされた。従って、臨床的に関連する差異は、第三世代アロマターゼインヒビター間でも存在するかもしれない。
【0012】
第三世代(3G)アロマターゼインヒビターは、閉経後の乳癌患者においてホルモンレセプター陽性転移性乳癌の第一線内分泌治療のために考慮されるべきである。さらに、3Gアロマターゼインヒビターは、タモキシフェンと連続してまたはホルモンレセプター陽性乳癌を有する閉経後の患者の補助治療のみのいずれかで使用されるべきであり、また、術前内分泌治療が必要とされる場合に考慮されるべきである。
【0013】
エストロゲンレベルは第三世代アロマターゼインヒビターによって過剰に抑制されるが、前臨床試験は、エストロゲンの非存在またはエストロゲンの低いレベルで乳癌細胞がエストロゲンに感受性になる場合があることを示唆している。超低のポイントからも、エストロゲンレベルのさらなる減少は、理論的観点から有利である場合があり、COXインヒビターの治療説明がこの設定で現在調査中である。
【0014】
エストロゲンレセプターモジュレーター
30年を超える期間にわたって、タモキシフェンは、ホルモンレセプター陽性侵潤性乳癌の全ての局面(術前、補助および進行)だけでなく、インサイチュの管癌および乳癌の予防にも、有効な治療剤であると示されている。1970年代初期以来、タモキシフェンは、乳癌治療の本質的な要素であったが、ホルモンレセプター陽性乳癌を有する閉経前の患者における標準補助内分泌治療を問題にしていない。最近まで、タモキシフェンはまた、乳癌を有する閉経後の女性において単なる補助治療の内分泌標準であったが、アロマターゼインヒビターと連続して考慮されるかもしれない。
【0015】
プロゲスチンおよび選択的ステロイドスルファターゼインヒビター
ステロイドスルファターゼ経路の阻害の他に、プロゲスチンは、プロゲステロン、アンドロゲン、およびグルココルチコイドレセプターなどのレセプター結合、ならびにエストラジオール、エストロン、テストステロン、アンドロステニジオン、副腎皮質ホルモンおよびコルチゾールレベルの低下などの、複数の細胞作用を有する。1960年代の半ばのStollの画期的な仕事の後に、転移性乳癌を有する患者においてメドロキシプロゲステロンアセテート(MPA)およびメゲストロールアセテート(MA)を用いたいくつかの試験が行われた。1342人の患者を含む、16の試験からの結果の複雑な状況は、26%の応答率(14〜44%の範囲)を示し、タモキシフェンおよびアロマターゼインヒビターと同等の有効性が示された。しかし、主な体重増加および潜在的に生命を脅かす血栓塞栓性事象は、MAおよびMPAの使用を明らかに制限する。
【0016】
ERおよびPgRアッセイ
エストロゲンおよびプロゲステロンレセプター(PgR)状態による内分泌治療が、現在、乳癌患者に推奨されている。レセプターの状態を判定するために、以下に説明されるアッセイが現在使用されている。
【0017】
デキストランコーティングチャコールアッセイ(DCC)などのリガンド結合アッセイ(LBA)は最初に標準化されたERアッセイであり、これらのアッセイはいくつかの状況で確認されている。LBAアッセイは、切除直後に液体窒素中で凍結された腫瘍組織を使用する。組織は液体窒素中で粉砕され、サイトゾルが調製される。標識リガンド(例えば、3Hエストラジール)によって、ER含有量の量子化が可能になり、第二リガンドの添加によってERおよびPgRの二重の量子化が可能になる。LBAは、多量の新鮮凍結組織を必要とし、厳密にロジスティックで複雑な状況をもたらす。LBAは、技術的に多量の労働を要し、放射性試薬を要する。LBAは、組織全体のホモジネートに基づいており、良性および腫瘍細胞の割合における避けられない差が感度および特異性を制限する。
【0018】
ER特異的なモノクローナル抗体が25年以上も前に開発され、IHC技術は、LBAに対していくつかの潜在的な利点を有し、特に良性と腫瘍細胞を区別する能力を有する。さらに、IHCは、技術的に労力を要さず、安定的であり、細胞吸引物、凍結組織およびパラフィン包埋組織などの種々の範囲の試料に適用可能であり、結果的に費用が安い。それでも、IHCの結果は、主に様々の異なる実験室プロトコールおよび抗体(例えばH222、H226、D547、D75、1D5)、結果をスコアリングするためのしばしば任意のいくつかの方法の使用ならびに標準化の全体的な欠如のために、常に変動している。
【0019】
ASCO腫瘍マーカーパネルには、ERおよびPgRに基づく予後値、ならびに予測物(prognosticator)としての使用を推奨しているNIHおよびSt.Gallen両方のガイドラインが認められる。しかし、主にERの一次使用は、乳癌の補助設定および進行設定における内分泌治療の選択マーカーとしてのものである。
【0020】
ER陽性のためのカットオフは、おそらく方法の制限のために、LBAについて完全に認められていない。いくつかの研究において、内分泌治療に対する応答が、LBAを用いて4〜10fmol/mgタンパク質と同じ程度に低いERレベルを有する患者で観察されている。他の研究では、下限カットオフとして10fmol/mgが使用されている。タモキシフェンを利用したERならびに卵巣抑制としての他の内分泌治療剤およびアロマターゼインヒビターのカットオフを調べた全ての研究は、いくつかの理由で、低いレベルのERを有する患者で有効であるかもしれない。
【0021】
LBAからIHCへと代わる際に、ほとんどの実験室が、10%または20%陽性腫瘍細胞である任意のカットオフを使用した。これは、LBAおよびIHCの両方を使用して、同じ腫瘍のER状態を比較した場合に89%〜90%の一致を見出す多くの研究に基づくものである。Allredスコアは、染色細胞の割合および染色強度の両方によってIHC結果を分類する。補助タモキシフェンからの利益は3と同程度に低いAllredスコア(1%〜10%と同程度に少ない弱陽性細胞に対応)で示されるが、ほとんどの機関はこれらの患者に内分泌治療を提供していない。
【0022】
LBAまたはIHCのいずれも使用せずに、乳癌患者の内分泌応答のERに対する下限カットオフを正確に定義することは可能ではない。両方の方法は、弱陽性腫瘍において感度および特異性が低く、このことは治療決定に悪い影響を及ぼすかもしれない。
【発明の概要】
【0023】
発明の概要
本発明は、ホルモン治療された癌患者またはホルモン治療の経過中の癌患者において、癌患者に有効な治療を選択し、治療のために癌患者を層別化し、かつ疾患再発のリスクを推定する、選択された癌治療の有効性を推定するための新規方法に関する。
【0024】
本発明の方法は、癌患者におけるESR1遺伝子の異常の状態および任意にESR1に関連する1つ以上の遺伝子の異常の状態の判定を含むものであり、用語「異常の状態」とは、患者の腫瘍細胞におけるインサイチュでの該遺伝子の異常の存在または非存在および異常が存在する場合にはESR1遺伝子の増幅、複製、倍数体化、欠失または転移などの種類の異常のことをいう。ESR1遺伝子および任意にESR1関連遺伝子の判定された異常の状態は、ホルモンまたは併用癌治療(化学治療と組み合わせたホルモン)の有効性の予後因子として使用される。
【0025】
本発明は、患者(用語「患者」は本明細書で用語「被験体」または「癌患者」と互換可能に使用される)におけるインサイチュでのESR1遺伝子の異常の存在または非存在、特にESR1遺伝子の増幅が、ホルモン治療に対して該患者を非応答性にするが、該癌患者はそれでも代替的な化学治療から恩恵を受けるかもしれないという予期しない発見に基づいている。
【0026】
さらに、癌患者におけるESR1の異常がしばしば、いくつかのESR1関連遺伝子の異常と相関することを予期せず見い出された。用語「ESR1関連遺伝子」は、本発明の状況において、ESR1遺伝子と遺伝関連がある遺伝子、例えば同じ染色体座に位置する遺伝子、またはESR1遺伝子と制御関連がある遺伝子、例えばESR1の活性もしくはESR1関連産物、即ちRNAおよびタンパク質の活性の制御に関わる遺伝子のことをいう。ESR1遺伝子に関連する遺伝子は、限定されないが、核レセプターコアクチベーター(NCOA1、NCOA2、およびNCOA3)、核レセプターコリプレッサーNCOR1(N-CoR)、骨格結合因子B1およびB2、レチノイドおよび甲状腺ホルモンレセプターのためのサイレンシングメディエーターNCOR2(SMRT)、プロゲステロンレセプター(PGR)、HER2(ERBB2)をコードする遺伝子から選択されてもよい。例示的な遺伝子は、その状態がさらにあるいはまた判定され得るが、エストロゲン合成に関わる遺伝子、核レセプターおよび補因子から選択されてもよい。これらの遺伝子の非限定的な例を以下で説明する。ESR1関連遺伝子は、限定されないが、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、PTGS2およびFASNから選択されてもよい。従って、本発明によれば、いくつかの態様においてESR1の異常の状態の判定は、任意に1つ以上のESR1関連遺伝子の異常の状態の判定によって補足されてもよい。かかる判定は、任意であり、ESR1の異常の状態の判定は予後に十分であるかもしれない。しかし、インサイチュでのESR1および1つ以上のESR1関連遺伝子の異常データに基づいた予後は、より重要であるかもしれない。
【0027】
本発明によれば、インサイチュで増幅されたESR1および任意に増幅された1つ以上のESR1関連遺伝子の検出は、これらの遺伝子が増幅した癌患者におけるホルモン治療の不十分な結果と相関しており、従ってホルモン治療耐性を予測するための重要なツールとして機能するかもしれない。ESR1の欠失はホルモン治療が患者に最適な治療でないことを示すかもしれないが、ESR1の異常の非存在、即ち正常ESR1は患者のホルモン治療の成功の指標であるかもしれない。従って、患者は、ESR1および任意に1つ以上のESR1関連遺伝子の判定された異常の状態に基づいて、特定の治療のために層別化されてもよい。また、後者の遺伝子のいずれかまたは全ての増幅が、ホルモン治療および化学治療の併用の結果の予測に使用されてもよい。
【0028】
本発明の方法は、同じ目的で当該技術分野に現在使用されているアプローチを有利に拡張するものである。本発明の方法は、単独で使用することができ、即ち、同じ目的で現在使用されている任意のさらなる試験によって補足されず、即ち、癌患者に有効な治療を選択し、選択された治療の有効性を推定し、種々の治療のために患者を層別化する方法であり、あるいはこれらの方法は当該技術分野で現在使用されている同じまたは異なるアプローチに基づいた任意のさらなる試験と併用することができる。
【0029】
本発明はまた、インビトロアッセイにおけるインサイチュでの上記の遺伝子の異常の判定に有用な構成物、例えばパーツキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、インサイチュでのESR1遺伝子のコピー数の検出のためのFISHプローブミックスの一般的な設計を示す。該プローブは、テキサスレッド標識プローブおよびフルオレセイン標識プローブの混合物として構築され、赤色BAC(細菌人工染色体)DNAベースプローブは6q25のESR1遺伝子に特異的であり、緑色PNA(ペプチド核酸)ベース参照プローブは染色体6の動原体領域に特異的である。
【図2】図2は、ゲノムESR1配列(矢印で示す)の位置に対する、ESR1プローブ(長方形で示す)の構築に使用されるBACクローンの染色体6q25の位置を示す。
【図3】図3は、正常ヒト中期染色糸(spread)に対して、6q25(4つの実線矢印によって示される4つの赤色シグナル)および染色体6の動原体領域(2つの点線矢印によって示される2つの緑色シグナル)に対するESR1プローブ混合物の特異的なハイブリダイゼーションを示すFISH解析の結果を示す。赤色シグナルは、実線矢印によって示され、緑色シグナルは点線矢印によって示される。
【図4】図4は、ESR1欠失を有する乳癌FFPE組織に対するESR1/CEN-6 FISHプローブミックスのFISH試験の結果を示す。A=ESR1プローブ(テキサスレッドフィルター);B=CEN-6プローブ(フルオロセインフィルター);C=DAPIカウンター染色(DAPIフィルター);D=3重フィルターのESR1/CEN-6 FISHプローブミックス。
【図5】図5は、BCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5、COX2(5遺伝子パネルI)のいずれかの複製を含む腫瘍を有したタモキシフェン処理患者がまた、これらの5遺伝子のいずれかの複製を含まない腫瘍を有するタモキシフェン処理患者と比べて、(疾患の再発として判断される)治療の悪い結果を有したことを示す。p値は0.0001である。
【図6】図6は、BCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5、COXおよびESR1(6遺伝子パネル)の増幅を含む腫瘍を有したタモキシフェン処理患者がまた、これらの6遺伝子のいずれかの増幅を含まない腫瘍を有するタモキシフェン処理患者と比べて、(疾患の再発として判断される)治療の悪い結果を有したことを示す。p値は0.0001である。
【図7】図7は、BCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5、FASN、ERS2、およびESR1(7遺伝子パネル)のいずれかの増幅を含む腫瘍を有したタモキシフェン処理患者がまた、7遺伝子のいずれかの増幅を含まない腫瘍を有するタモキシフェン処理患者と比べて、(疾患の再発として判断される)治療の悪い結果を有したことを示す。p値は0.0001である。
【図8】図8は、5遺伝子パネルIIの遺伝子であるESR1、PGR、SCUBE2、BCL2およびBIRC5の増幅が、疾患の再発の高い可能性およびタモキシフェン治療の悪い結果と関連することを示す。p値は0.0001である。
【図9】図9は、BCL2、SCUBE2、BIRC5およびESR1(4遺伝子パネル)のいずれかの増幅を含む腫瘍を有したタモキシフェン治療患者がまた、4遺伝子のいずれかの増幅を含まない腫瘍を有するタモキシフェン処理患者と比べて、悪い結果を有することを示す。p値は0.0001である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、癌、例えば乳癌におけるESR1およびESR1関連遺伝子群のコピー数変化の予後値に関する新規方法を提供する(用語「ESR1遺伝子」は本明細書で用語「ESR1」または「エストロゲンレセプター遺伝子」と互換可能に使用され、用語「ESR1関連遺伝子」とは、ESR1遺伝子と遺伝関連を有する遺伝子、例えば同じ染色体座に位置する遺伝子、またはESR1遺伝子と制御関連を有する遺伝子、例えばESR1の活性またはESR1関連産物、即ちRNAおよびタンパク質の活性の制御に関わる遺伝子のことをいう)。本発明の方法は、ホルモン治療された患者またはホルモン治療を用いた治療中の患者において、癌治療、特に乳癌治療の有効性の推定、種々の治療のための癌患者の層別化、疾患の再発の可能性の推定に有用である。
【0032】
本発明の方法は、ESR1の異常の状態および任意にESR1関連遺伝子、例えばESR2、COX、BCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5、FASNの少なくとも1つの異常の状態を判定する工程を含み、判定された状態は選択された治療が癌患者に有効であるか否かを示す。癌患者は、ESR1遺伝子および少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態が判定されるが、異なる癌治療のためにこの状態に基づいて層別化されてもよい。
【0033】
用語「遺伝子異常」は、遺伝子のDNA配列における任意の変化または遺伝子に関連する配列/領域、例えば遺伝子の制御染色体領域における変化を意味する。用語「遺伝子」は、本発明の状況において、染色体上の特定の座を占める遺伝単位を意味し、制御領域、転写領域および/または他の機能活性を有する他の領域が含まれる。好ましい遺伝子異常は、限定されないが、遺伝子の完全長DNA配列、遺伝子DNA配列の断片/部分および/または対象ゲノムの遺伝子関連DNA配列もしくは該DNA配列の断片/部分、または隣接領域を含む完全長遺伝子(アンプリコンとしても公知)の増幅、複製、倍数体化、欠失および/または転移から選択されてもよい。遺伝子異常には、目的の遺伝子を有する染色体のコピー数の増加が含まれてもよい。
【0034】
用語「遺伝子の異常の状態」とは、対象ゲノム中の遺伝子の異常の存在または非存在および異常が存在する場合には患者から得られた組織試料におけるインサイチュでのESR1遺伝子の増幅、複製、倍数体化、欠失または転移などの種類の異常のことをいう。異常が存在しない場合、遺伝子は正常であり、即ち、遺伝子は染色体DNAに正常コピー数で存在し、該コピー数は正常な染色体位置に位置するゲノムDNAを正常に含むものである。本発明の状況において用語「正常」は、癌、特に乳癌を有しないまたは有すると疑われない被験体に関する。対象ゲノム中の目的の(1つまたは複数の)遺伝子の異常が存在しない場合の状態は、本明細書で正常遺伝子と呼ばれる。遺伝子の増幅または欠失は、対象ゲノム中の遺伝子のコピー数の増大または減少の存在、即ち増幅の場合には増大(または複製もしくは倍数体化)および欠失の場合には減少を反映する。目的の遺伝子が対象ゲノムで増大したコピー数で存在する場合の状態は、本明細書で遺伝子増幅と呼ばれ、遺伝子が対象ゲノムで減少したコピー数で存在する場合の状態は、本明細書で遺伝子欠失と呼ばれる。さらに、遺伝子は、転移によって別の位置に移動してもよい。また、遺伝子は、遺伝子の一部の転移によって2つの以上の部分に分断されてもよい。
【0035】
用語「ゲノム」は、個体または細胞が保有する全部の遺伝子の組のことをいう。
【0036】
異常の状態が判定される配列/遺伝子/領域は、本明細書で「標的配列/遺伝子/領域」または「目的の配列/遺伝子/領域」と称される。
【0037】
目的の遺伝子の異常の状態の判定は、好ましくは遺伝子解析を用いることによって行われ、用語「遺伝子解析」は、遺伝子を解析するために適切であってもよい任意の解析、例えばインサイチュハイブリダイゼーション、RT-PCR、配列決定、サザンブロッティング、CGH、およびアレイCGHを意味する。いくつかの好ましい態様において、ESR1および任意に少なくとも1つのERS1関連遺伝子の異常の状態が、インサイチュハイブリダイゼーション解析によってインビトロで判定される。
【0038】
遺伝子解析、特にインサイチュハイブリダイゼーションを行うために、様々なプローブが使用され得る。
【0039】
本明細書で使用される「プローブ」は、検出または視覚化される遺伝子に関連する(1つまたは複数の)領域/配列に結合できる任意の分子または分子の構成物を意味する。
【0040】
別の態様において、本発明は、異なる種類のプローブに関し、例えば、いくつかの態様において、本発明は、特異的なプローブに関する。
【0041】
「特異的なプローブ」は、検出される領域、例えば異常の状態が判定される遺伝子に関連するゲノム配列、またはタンパク質もしくはRNA分子などの遺伝子産物の配列に特異的に結合できる任意のプローブを意味する(特異的なプローブの非限定例を以下で説明する)。
【0042】
別の態様において、本発明は、ブロッキングプローブに関する。
【0043】
「ブロッキングプローブ」は、他のプローブまたは分子で検出される領域の相互作用をブロッキングし、抑制し、または妨げることができる任意のプローブを意味する。
【0044】
別の態様において、本発明のプローブの由来はまた、異なってもよいし、例えば、いくつかの態様において、プローブの由来は核酸プローブであってもよい。
【0045】
「核酸プローブ」は、天然の塩基からなる任意の分子を意味する。好ましくは、本発明の核酸プローブの塩基は、互いに結合し、塩基配列を形成する。核酸プローブは、単なるヌクレオチドまたはそのアナログを含むオリゴマーまたはポリマー分子によって表される塩基配列含有プローブであってもよく、該ヌクレオチドは、ヌクレオチド配列を形成するように互いに結合した1つの構成要素、モノマーであり、本明細書で使用される「ヌクレオチド」は、プリンまたはピリミジン塩基およびリン酸基に結合したリボースまたはデオキシリボース糖からなる任意のいくつかの化合物を意味し、本明細書で使用される「オリゴマー」は、3〜50個のヌクレオチド、塩基などのモノマーの配列を意味し、本明細書で使用される「ポリマー」は、50個より多いヌクレオチド、塩基などのモノマーの配列を意味する。本発明の核酸プローブは、天然核酸分子、例えばオリゴデオキシ核酸(例えばDNA)、オリゴリボ核酸(例えばRNA、mRNA、siRNA)、またはその断片から作製されてもよい。
【0046】
別の態様において、プローブは、核酸アナログプローブであってもよい。
【0047】
用語「核酸アナログプローブ」とは、天然核酸分子ではない任意の分子または少なくとも1つの修飾ヌクレオチドもしくはヌクレオチドの修飾から直接派生したサブユニットを含む任意の分子のことをいう。核酸アナログプローブの例は、PNAの配列を含むプローブであってもよく、「PNA」はペプチド核酸の略語である。PNA骨格は、ペプチド結合によって結合されたN-(2-アミノエチル)-グリシン単位の繰り返しから構成される。様々なプリン塩基およびピリミジン塩基が、メチレンカルボニル結合によって骨格に結合されている。PNAは、ペプチドと同様に説明され、第一(左)位置にN末端および右にC末端がある。PNAの骨格は電荷のないリン酸基を含むために、PNA/DNA鎖間の結合は、静電気反発の欠如によりDNA/DNA鎖間よりも強い。修飾天然分子の別の非限定例は、ロックド核酸(LNA)であってもよい。LNAは、修飾RNAヌクレオチドである。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2'および4’の炭素を連結する外部架橋で修飾されている。架橋は、しばしばDNAまたはRNAのA形態で見られる3'エンド構造配置においてリボースを「ロック」する。LNAヌクレオチドは、所望される場合はいつでもオリゴヌクレオチド中でDNAまたはRNA塩基と混合することができる。
【0048】
なお、別の態様において、プローブは、ペプチドプローブまたはタンパク質プローブであってもよい。
【0049】
ペプチドプローブおよびタンパク質プローブは、完全長タンパク質またはその断片によって表されてもよい。かかるタンパク質の非限定例は、抗体、レセプター、リガンド、成長因子、DNA結合タンパク質である。ペプチドプローブおよびタンパク質プローブは、組み換え技術を用いてまたは合成して、例えば化学合成を用いることによって調製されてもよい。ペプチドプローブは、通常、タンパク質プローブより短く、天然および非天然アミノ酸残基の両方を含んでもよい。
【0050】
ゲノム配列を認識して特異的に結合することができるプローブの設計の原理は、当該技術分野で周知であり、これらは多くの教科書、例えばSambrook J.,およびRussel. D.W. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSHL 第3版, Cell Press 2001に見ることができる。異なる種類のプローブ(本発明のプローブ)の調製技術も周知である。また、プローブは、注文して、多くの市販の製造業者によって設計および調製することができる。
【0051】
核酸プローブ、核酸アナログプローブおよびタンパク質プローブの全ては、インビトロアッセイにおいて、インサイチュでの目的の領域と結合してもよい。プローブは、標的領域、例えば隣接領域を有する完全長遺伝子配列、目的の遺伝子内のアンプリコン、または参照配列、例えば動原体領域の配列を検出するように適切な任意の長さを有し得る。プローブは、1つの個々の配列、またはヌクレオチド、アミノ酸残基、もしくは他のモノマーからなってもよく、従って1つのプローブを表す。かかるプローブは、比較的長い配列によって表され、2メガベース(Mb)までの範囲に及んでもよい。しかし、約0.5キロベース(kb)〜約50kbまでの短いヌクレオチド配列も使用されてもよい。プローブはいくつかの個々のプローブを含んでもよく、例えばプローブが全部で約30kb〜約2Mbの範囲に及ぶように様々なサイズ(例えば、約50bp[塩基対]〜約500bpのそれぞれ)のヌクレオチド配列の小さい断片から作製される。核酸プローブまたは核酸アナログプローブの配列は、固有の配列の領域および繰り返し配列の領域の両方を含んでもよい。かかる繰り返し配列がプローブ配列中で望ましくない場合に、繰り返し配列は、例えばブロッキングプローブを用いることによって、除去またはブロックすることができる。
【0052】
PNAプローブなどの核酸アナログプローブは、通常、核酸プローブより短く、十分に定義された配列を有する。PNAプローブは、典型的に、約10〜約25個の塩基を含む。PNAプローブは、通常、それぞれが10〜25個の塩基単位を有する、いくつかの個々のPNA分子から構成される。
【0053】
核酸プローブ、核酸アナログプローブおよびタンパク質プローブは、別個の解析にまたは同じ解析で組み合わせて、使用されてもよい。例えば、1つの試験で、1組の核酸プローブが目的の配列の検出に使用されてもよく、核酸プローブ、核酸アナログプローブおよび/またはタンパク質プローブを含む別の組のプローブが参照配列またはタンパク質もしくはRNAなどの参照遺伝子産物の検出に使用されてもよい。
【0054】
いくつかの態様において、プローブは、標識されてもよく、好ましくは標識される。
【0055】
プローブの標識は、当該技術分野で周知の任意の方法を用いることによって、例えば、酵素または化学方法の手段によって、行われてもよい。当該技術分野で公知の任意の標識方法は、本発明の目的、例えばDNAの場合のニックトランスレーションとしても公知である切断DNAおよび標識モノマー挿入のためのDNaseIおよびDNAポリメラーゼIの併用、および例えばPNAの場合のアミノ誘導体化オリゴヌクレオチドまたはアナログの化学修飾のために、プローブの標識に使用することができる。
【0056】
プローブは、標的遺伝子配列または参照配列に結合してもよく、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしてもよい。ハイブリダイゼーションのストリンジェンジーを課すまたは調節するために一般的に使用される因子には、ホルムアミド濃度(または他の化学変性試薬)、塩濃度(即ち、イオン強度)、ハイブリダイゼーション温度、界面活性剤濃度、pHおよびカオトロピック剤の存在または非存在が含まれることを、ハイブリダイゼーションの当業者は理解している。プローブ/マーカー配列組み合わせに最適なストリンジェンシーは、しばしば、いくつかの前記ストリンジェンシー因子を固定し、次に1つのストリンジェンシー因子の変化の効果を決定する周知技術によって見出される。同じストリンジェンシー因子を調節して、それによってPNAのハイブリダイゼーションがイオン強度とかなり独立していることを除いて、核酸へのPNAのハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整することができる。アッセイに最適なストリンジェンシーは、所望の識別度が達成されるまで各ストリンジェンシー因子の検査によって実験で決定され得る。一般的に、核酸汚染を生じるバックグラウンドが標的配列により密接に関連するほど、ストリンジェンシーはより注意深く調整される必要がある。従って、適切なハイブリダイゼーション条件には、アッセイが(アッセイに望ましい寛容内で)正確なおよび再現可能な結果を生じるように所望の識別度が達成される条件が含まれる。にもかかわらず、日常業務の実験および本明細書に提供される開示以下の補助によって、当業者は、本明細書に記載される方法および構成物を利用するアッセイを実施するために適切なハイブリダイゼーション条件を容易に決定することができる。
【0057】
ストリンジェント条件の非限定例は以下の実験法に記載され、さらなる非限定例は、Peptide Nucleic Acids, Protocols and Applications, 第2版, 編集者Peter E Nielsen, Horizon Scientific Press, 2003の第11章に見ることができる。
【0058】
上記のように、本発明の一局面は、ESR1の異常の状態および任意に少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態の判定に関する。異常の状態が、ゲノム参照配列に関して判定されてもよい。
【0059】
用語「ゲノム参照配列」は、目的の遺伝子/配列/領域と同じでないインサイチュでの配列を意味する。目的の遺伝子と同じ染色体に位置する参照配列を利用することによって、所定の染色体の特異的倍数体化レベルは、ゲノム標的配列(異常の状態が判定される配列)が増幅、欠失、複製、転移または正常であるか否かを測定する。
【0060】
参照配列に結合するプローブは、目的の遺伝子が位置する染色体の動原体領域に対して標的とされてもよい。核酸プローブおよび核酸アナログプローブの両方ならびにタンパク質プローブが、参照プローブとして使用されてもよい。全てのヒト染色体の動原体DNAにおける高いホモロジーにも関わらず、固有の配列が同定され、ヒト染色体特異的動原体の繰り返し配列を含むクローンが、インサイチュハイブリダイゼーションアッセイでの参照配列としての使用のために、ほとんどのヒト染色体について構築されている。参照プローブの長さは、動原体繰り返し配列を標的とするプローブが使用される場合に、シグナル強度を減少せずに劇的に減少されてもよい。動原体参照プローブを使用する利点は、プローブが短い構成要素および散在した構成要素(SINEおよびLINEのそれぞれ)を含まないためにプローブがバックグラウンド染色に寄与しないということである。
【0061】
動原体領域、例えば目的の遺伝子が位置する染色体の動原体領域または別の染色体の動原体領域は、クローン動原体配列由来のインサイチュハイブリダイゼーションプローブによって特異的に同定することができる。これらのクローン配列は、参照プローブとして使用されてもよい。しかし、合成PNAプローブが、インサイチュでの動原体検出に好ましくあってもよい。動原体領域の検出に有用なPNAプローブは、10〜25個の塩基から作製される。動原体領域参照プローブのいくつかの非限定例を、以下に記載する。
【0062】
癌細胞の倍数体化レベルを測定するために、任意の染色体の動原体が使用されてもよい。乳癌で最小の頻度で変化する染色体は、染色体2である(Mitelman)。従って、染色体2の動原体は、目的の遺伝子の位置に関係なく、乳癌における一般的な参照プローブとして有用である。
【0063】
座特異的プローブ(LSP)は、代替的な参照プローブとして使用されてもよい。かかるプローブは、好ましくは全腕欠失が生じる場合に原因となる解析のエラーを排除するために、目的の遺伝子の腕よりも反対の染色体腕を標的とする。LSP参照プローブは、癌のゲノム異常に対する任意の関連を有する領域に配置されるべきではない。
【0064】
上記のプローブが本発明の目的に使用されてもよい当該技術分野で公知の多くの遺伝子解析がある。
【0065】
蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)は、細胞の特定のDNA配列の数、サイズおよび/または位置の決定に重要なツールであり、本発明の方法に利用されてもよい。典型的に、プローブが蛍光標識を含むハイブリダイゼーション反応によって、インサイチュでの標的配列が蛍光染色され、その位置、サイズおよび/または数は、蛍光顕微鏡、Ligth cycler、タックマン、フローサイトメトリーまたは蛍光の検出に適切な任意の他の装置を用いることによって測定することができる。市販器具使用と組み合わせた現在のインサイチュハイブリダイゼーション技術を用いて、全ゲノムから数キロベースまでの範囲のDNA配列を試験することができる。比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)において、全ゲノムが染色され、異常コピー数を有する領域の検出について正常参照ゲノムと比較される。m-FISH技術(マルチカラーFISH)において、それぞれ別個の正常染色体が別個の色で染色される(Eilsら Cytogenetics Cell Genet 82: 160-71 (1998))。プローブは、異常物質に使用される場合に、異常染色体を染色し、それによって染色体が由来する正常染色体を推定する(Macville M ら, Histochem Cell Biol. 108: 299-305(1997))。FISHベース染色は十分に明瞭であるために、ハイブリダイゼーションシグナルが中期染色糸および中間期の核の両方でみることができる。核酸プローブを用いた単色および多色FISHは、種々の臨床用途、例えば出生前診断、白血病診断、および腫瘍細胞遺伝学に利用されており、分子細胞遺伝学として一般的に公知である。
【0066】
本発明の目的に使用されてもよい他の遺伝子解析法は、リアルタイムPCR(RT-PCR)、アレイCGH、および発色性インサイチュハイブリダイゼーション(CISH)である。これらの技術のいずれかの組み合わせも利用可能である。特に、FISHおよびCISHの組み合わせが使用されてもよく、例えばFISHシグナルおよびCISHシグナルの別個の検出および同時の検出を可能にするように、1つのプローブが蛍光標識で標識されてもよいし、別のプローブが発色性標識で標識されてもよい。
【0067】
本発明によれば、遺伝子プローブおよび参照プローブは、例えばそれぞれ赤色および緑色などの異なる色を生じる標識などで別々に標識されるべきである。かかる標識の非限定例は、テキサスレッドおよびフルオロセインなどの蛍光標識であってもよい。青色DAPIは、組織局在および同定を補助するためのカウンター染色に使用されてもよい。対照ヘマトキシリン-エオシンの切断切片の利用可能性も有用であるかもしれない。
【0068】
遺伝子解析は、好ましくは患者から得られた組織試料、例えば生検試料を用いて行われる。インサイチュハイブリダイゼーション解析を行う最も単純な方法は、パラフィン包埋組織から関連する数の切片を切り出し、各切片にプローブをハイブリダイズさせることであってもよい。代替的に、凍結組織またはインプリントを使用することができる。ハイブリダイゼーションには、標準条件だけが要求される。ほとんどのプローブについて、例えば動原体プローブなどの内部参照が好ましくは含まれるべきである。
【0069】
遺伝子の異常の状態は、試料中に存在する目的の配列の実際のコピー数、例えば遺伝子のコピー数、即ち、本発明のESR1遺伝子のコピー数および/またはESR1関連遺伝子のコピー数として判定されてもよい。
【0070】
いくつかの態様において、遺伝子の異常の状態は、試料中の遺伝子産物の実際の量、例えば対応するRNAまたはタンパク質の全量として判定されてもよい。他の態様において、遺伝子の異常の状態は、目的の配列の量を参照配列の量と相関させる比として定義されてもよい。いくつかの態様において、後者の評価を使用することが好ましい。他の態様において、遺伝子の異常の状態は、カットオフ値と呼ばれてもよい。
【0071】
他の態様において、遺伝子の異常の状態は、インサイチュでの遺伝子の状態のインビトロ解析および試料中の遺伝子産物の解析の組み合わせを使用して、例えばFISHおよびIHCもしくはCISHおよびIHC、またはFISH/CISHならびに1つ以上の遺伝子産物の発現レベルの評価の組み合わせによって判定されてもよい。
【0072】
例えば、正常細胞において、ESR1遺伝子のそれぞれの2つのコピーが存在する。理論上、相補的DNA鎖に結合したプローブに由来する2つのシグナルが可視化されるべきである。しかし、いくつかの態様において、パラフィン包埋組織から切片を切り出すために、インサイチュハイブリダイゼーションによる遺伝子解析を行うために調製された試料において、核全体は存在しなくてもよい。従って、シグナルの理論の数と実際の数との間での差が観察される場合があり、細胞あたりのシグナルの正常数と異常数との間でのカットオフ値が実験で決定される必要がある。参照プローブを使用して、2つの参照プローブシグナルが正常細胞で見られるはずであり、理論上、遺伝子プローブと参照プローブからのシグナルの比は1であるはずである。しかし、技術的、生物学的および統計学的理由で、この絶対値は、例えばHER2 FISH(パッケージ挿入物、Dako HER2 FISH pharmDxTM kit, code K5331)の場合のように、例えば0.8〜2.0の範囲などの範囲として決定される。FISHアッセイは、1つ以上の参照プローブの有り無しで行うことができる。参照プローブなしで、標的遺伝子プローブからの1色のシグナルだけがスコア化され、正常遺伝子配列と増幅遺伝子配列との間のカットオフ値は、3より大きく、好ましくは4または5であるが、理論値は2である。しかし、欠失は、参照プローブまたは参照試料なしではアッセイでスコア化することができない。
【0073】
FISHアッセイは、遺伝子プローブの他に1つ以上の参照プローブ、例えば異なる蛍光標識で別々に標識されたESR1遺伝子プローブおよび動原体プローブを含んでもよい。遺伝子コピー数は、次に参照プローブを使用することによって計算されてもよい。各遺伝子コピーからのシグナルおよび対応する参照配列からのシグナルが検出され、比を計算する。既に言及したように、参照配列は倍数体化レベルの基準であり、従ってこれは染色体コピー数を示す。正常遺伝子コピー数の最も受け入れられたカットオフ値は、0.8〜2.0の比によって示される。遺伝子欠失は、0.8未満の比によって示され、遺伝子増幅は、≧2.0の比によって示される。
【0074】
正常遺伝子コピー数のカットオフ値はまた、正常物質、即ち対照個体から得られた試料の解析から確立されてもよい。従って、正常試料の代替的カットオフレベルは、0.93〜1.19または0.8〜1.6であってもよい。従って、欠失と正常の比を区別するカットオフは、0.8〜0.96であってもよく、正常と増幅を区別するカットオフは、1.19〜2.0であってもよい。
【0075】
本発明によれば、0.8〜2のカットオフ値は正常遺伝子コピー数を示し、患者のホルモン治療の有効性を予測する患者の良好な再発なし生存または全体の生存を予測し、一方で遺伝子コピー数の減少(0.8未満のカットオフ値)または増大(2より大きなカットオフ値)を反映する遺伝子の異常の存在は、ホルモン治療の経過を有する患者の悪い再発なし生存または全体の生存などの、悪い予後を示す。
【0076】
従って、定義された遺伝子の異常の状態は、目的の状態、即ち疾患、特に乳癌におよび治療に対する状態の応答に相関する。従って、これは、治療の結果、疾患の発症、および治療の有効性の推定を予測するために使用されてもよい。
【0077】
ESR1遺伝子およびいくつかのESR1関連遺伝子の判定された異常の状態の予後値を、非限定例によって本明細書に示す(実施例参照)。
【0078】
発明の態様
一態様において、本発明は、
- 癌患者から得られた試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の異常の状態を判定する工程;および
- 癌患者から得られた試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の判定された異常の状態に基づいて、治療の有効性を予測する工程
を含む、癌患者の治療の有効性の予測方法に関する。
【0079】
別の態様において、本発明は、
- 癌患者から得られた試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の異常の状態を判定する工程;および
- 癌患者から得られた試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の判定された異常の状態に基づいて、癌患者に有効である可能性がある癌治療を選択する工程
を含む、癌患者のための治療の選択方法に関する。
【0080】
別の態様において、本発明は、
- 癌患者から得られた試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の異常の状態を判定する工程;および
- 種々の治療処置に癌患者を層別化する工程であり、治療の選択が癌患者の試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の判定された異常の状態に基づくものである工程
を含む、治療のための癌患者の層別化方法に関する。
【0081】
別の態様において、本発明は、
- 癌患者から得られた試料中のエストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の異常の状態を判定する工程:および
- エストロゲンレセプター遺伝子(ESR1)の判定された異常の状態に基づいて、癌患者における疾患再発を予測する工程
を含む、癌患者における疾患再発の予測方法に関する。
【0082】
全ての上記方法は、ESR1の異常の状態を判定するために、癌患者から得られた試料の遺伝子解析の工程を含む。遺伝子解析の方法は、インサイチュでの遺伝子の解析に適切な任意の方法、例えば上記の方法の1つであってもよい。
【0083】
上記のように、ESR1の増幅のみは、ESR1が増幅された患者において、ホルモン治療の不良な結果を示す。しかし、驚くべきことに、ESR1の増幅は、しばしば例えばPGR、ESR2、SCUBE2、BCL2、BIRC5、PTGS2および/またはFASN(本明細書で「ESR1関連遺伝子」と呼ばれる)などのエストロゲン代謝に関連するいくつかの他の遺伝子の増幅に関連することが見出された。従って、ESR1の異常の状態の判定の他にこれらの遺伝子の異常の状態の判定は、特定の治療のための癌患者の信頼性の高い分類または治療の結果の予後、例えば疾患の再発の可能性の予測に有益である。従って、別の態様において、本発明の方法は、ESR1関連遺伝子の異常の状態を判定する工程をさらに含む。既に上記のように、本発明の状況において用語「ESR1関連遺伝子」は、ESR1と遺伝関連を有する遺伝子、例えば同じ染色体座に位置する遺伝子、またはESR1と制御関連を有する遺伝子、例えばESR1活性またはESR1関連産物、即ちRNAおよびタンパク質の活性の制御に関与する遺伝子のことをいう。ESR1に関連する遺伝子は、限定されないが、核レセプターコアクチベーター(NCOA1、NCOA2、およびNCOA3)、核レセプターコリプレッサーNCOR1(N-CoR)、骨格結合因子B1およびB2、レチノイドおよび甲状腺ホルモンレセプターのためのサイレンシングメディエーターNCOR2(SMRT)、プロゲステロンレセプター(PGR)、HER2(ERBB2)をコードする遺伝子から選択されてもよい。その状態がさらにあるいはまた判定され得る例示的な遺伝子は、エストロゲン合成に関わる遺伝子、核レセプターおよび補因子から選択されてもよい。これらの遺伝子の非限定例を、以下の表1に示す。いくつかの好ましいESR1関連遺伝子は、PGR、ESR2、SCUBE2、BCL2、BIRC5、PTGS2、COXおよびFASNであってもよいが、本発明は後者の遺伝子に限定されない。
【0084】

【0085】
一態様において、本発明の方法のいずれかのさらなる1つの工程は、ESR1関連遺伝子の1つ、例えば、PGR、FASN、COX、SCUBE2、BCL2、BIRC5またはPTGS2の異常の状態を測定する工程を含み得る。別の態様において、さらなる工程は、2つ、3つまたはそれ以上のESR1関連遺伝子の異常の状態を測定する工程を含み得る。驚いたことに、ESR1遺伝子の異常の状態の測定と一緒にいくつかのESR1遺伝子のパネルの異常の状態を測定することは、本発明の予後目的に非常に有用であり得ることがわかった。かかる遺伝子パネル(pane)の非限定的な例を実施例に記載する。したがって、異なる態様において、2、3、4、5、6または7個のESR1関連遺伝子を含むパネルが、異常の存在について検査され得る。
【0086】
ESR1またはESR1関連遺伝子の異常の状態は、好ましくは、遺伝子のコピー数としてインサイチュで測定される。遺伝子のコピー数は、典型的に、カットオフ値として測定される。既に上記のように、一態様において、遺伝子の異常の状態は、遺伝子配列の増幅としてインサイチュで、または遺伝子配列の一部分の増幅として測定され、これは、測定された状態がインサイチュでの遺伝子配列のコピー数の増加であることを意味する。別の態様において、異常は、該遺伝子の欠失であり得、該欠失は、全遺伝子配列の欠失または遺伝子配列の一部分の欠失であり得、これは、測定される遺伝子配列コピー数が減少するか、またはないことを意味する。さらに別の態様において、判定された該遺伝子の異常の状態は、異常なしであり得、これは、遺伝子配列がインサイチュで、正常/通常のコピー数で提示されることを意味する。
【0087】
一態様において、増幅された遺伝子配列、または増幅された遺伝子配列の一部分、または該遺伝子の調節エレメント、例えばプロモーターなどの増幅された配列は、該遺伝子の発現に影響する、例えば、低い遺伝子発現もしくは遺伝子無発現または該遺伝子の非機能性産物、例えばRNA分子、タンパク質の産生をもたらす変異を含む。
【0088】
任意の該遺伝子の異常の状態は、好ましくは、インサイチュハイブリダイゼーションによってインビトロで測定される。インサイチュハイブリダイゼーションの好ましい方法は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)または発色インサイチュハイブリダイゼーション解析(CISH)である。しかしながら、異なる遺伝子解析方法の組合せが異なる態様で使用され得る。
【0089】
本発明の一態様によれば、インサイチュハイブリダイゼーションは、遺伝子領域または遺伝子領域の一部分、例えば、ESR1領域に標的化される少なくとも1つのプローブ、および少なくとも1つの参照プローブを用いてインビトロで行なわれる。遺伝子標的化プローブおよび参照プローブの両方のプローブは、好ましくは、核酸プローブ、核酸アナログプローブおよびタンパク質プローブからなる群から選択される。本発明の目的のための他の可能なプローブは上記のものである。一態様において、遺伝子領域に標的化される少なくとも1つのプローブは核酸プローブである。
【0090】
一態様において、少なくとも1つの参照プローブは、染色体の動原体領域、例えば、第6染色体または任意の他のヒト染色体、例えば、本発明において使用される第1、2、11、17もしくは18染色体の動原体領域に標的化される。一態様において、少なくとも1つの参照プローブは核酸アナログプローブ、例えば、PNAプローブである。
【0091】
別の態様において、参照プローブは、染色体の反対の腕(標的遺伝子配列が存在する腕の反対側)上に位置する参照配列に標的化され得る。かかる参照配列は乳癌において異常な任意の遺伝子と関連していないことが好ましい。
【0092】
プローブは、好ましくは、遺伝子標的化プローブの標識が参照プローブ標識と識別され得るように、例えば、標識が異なる波長の蛍光を生成するように、または異なる酵素標識もしくは発色団を含むように、異なる標識で標識される。
【0093】
上記の方法は、ホルモン、非ホルモン化学療法またはその併用のいずれかである治療処置に関する。本文脈における用語「ホルモン療法」は、患者の細胞、特に癌細胞内のERの発現、代謝および/または活性を調節するように、あるいは性腺または乳房組織に対する調節効果を有するように、ERに標的化される薬物の使用を含む治療処置をいう。本文脈における用語「非ホルモン化学療法」は、ER分子以外に標的化される薬物、例えば、細胞傷害性化学療法剤およびトラツズマブの使用を含む治療処置をいう。
【0094】
乳癌のためのホルモン化学療法では、現在、(i)選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、ファスロデックス、
(ii)アロマターゼ阻害薬、例えば、アナスタゾール、レトロゾール、エキセメスタン、(iii)卵巣剥離または抑制因子、例えば、ブセルリン、ゴセレリン、ロイプロレリン、ナファレリン、(iv)プロゲスチン、例えば、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロール、(v)エストロゲン、例えば、エストラジオール、リン酸ポリエストラジオール、(vi)ステロイドスルファターゼ阻害薬、(vii)細胞内でERの分解を促進する化合物、例えば、ICI 182,780が使用される。測定されたESRの異常の状態は、本明細書において、これらおよび類似した薬物に対する乳癌病変の感受性を測定するために使用される。
【0095】
該方法に関連する癌患者は、癌を有する患者、または癌を有することが疑われる患者であり、癌は、乳房、卵巣、前立腺 頚部、子宮体の癌および子宮内膜の癌腫であり得る。
【0096】
目的の任意の遺伝子の異常の状態は、癌患者から得られた試料中で測定される。好ましくは組織試料である。組織試料は、生検材料試料、凍結組織切片またはパラフィン包埋組織切片、スミア、滲出液、腹水、血液、骨髄、痰、尿の試料、または固定剤で処理した任意の組織試料であり得る。
【0097】
本発明の別の局面は、少なくとも2つのプローブを含む組成物、例えば、少なくとも1つのプローブがインサイチュでESR1の異常の状態の測定のためであり、別のプローブが参照プローブであるパーツキット(kit-in-parts)に関する。
【0098】
したがって、一態様において、パーツキットは、ESR1遺伝子領域に標的化される少なくとも1つのプローブ、参照プローブである少なくとも1つのプローブを含む。参照プローブは、好ましくは、ヒト第6染色体の動原体領域(CEN-6)に標的化されるプローブ、または別のヒト染色体、例えば第2染色体の動原体領域(CEN-2)に標的化されるプローブである。好ましくは、ESR1遺伝子領域に標的化されるプローブはDNAプローブであり、参照プローブはPNAプローブである。
【0099】
別の態様において、パーツキットは、上記の異なる標的遺伝子に標的化されるいくつかのプローブ、およびいくつかの参照プローブを含み得る。参照プローブは、異なるヒト染色体の動原体領域、好ましくは、第1染色体の動原体領域(CEN-1)、第2染色体の動原体領域(CEN-2)、第6染色体の動原体領域(CEN-6)、第11染色体の動原体領域(CEN-11)、および第18染色体の動原体領域(CEN-11)に標的化されるプローブであり得る。好ましくは、遺伝子標的化プローブは、DNAプローブであり、参照プローブはPNAプローブである。本発明のパーツキットは、任意の遺伝子標的化プローブと参照プローブの組合せを含み得る。特定の標的遺伝子プローブと参照プローブのいくつかの組合せを以下の表2に示す。
【0100】

【0101】
上記のように、キットの各プローブは標識を含み得る。該遺伝子領域に標的化されるプローブの標識は、好ましくは、参照プローブの標識と異なる。
【0102】
標識は、蛍光、色原体または酵素標識から選択され得る。好ましくは、標的遺伝子領域に標的化されるプローブの標識および動原体領域に標的化されるプローブの標識は2つの異なる蛍光標識である。別の好ましい態様において、標識は2つの異なる色原体標識である。別の好ましい態様において、標識は2つの異なる酵素標識である。
【0103】
インサイチュハイブリダイゼーションを用いた試料の解析および結果の評価は、手動プロトコルまたは一部もしくは完全自動化プロトコルを使用することにより行なわれ得る。
【0104】
本発明の一態様において、該方法は、さらに画像解析システムを利用する。
【0105】
多くの試料の手動による結果の読取は非常に時間がかかる。したがって、自動化システムを利用できることは大きな助けとなり得る。例えば、多くのハイブリダイゼーションフィールドの読取は、高速スキャニング設備を用いる蛍光画像解析によって補助され得る。MetaSystemsは、使用され得る画像解析システムの供給元の一例である。
【0106】
上記のすべての態様を、以下の非限定的な実施例によって以下に説明する。
【実施例】
【0107】
実施例
実施例1:プローブ
図1は、以下の実施例に記載する実験に使用されるESR1遺伝子コピー数の検出のためのFISHプローブミックスの一般的な設計を示す。プローブは、テキサスレッド標識プローブおよびフルオレセイン標識プローブの混合物として構築され、赤色BAC(細菌人工染色体)DNA系プローブは、6q25のESR1遺伝子に特異的であり、緑色PNA(ペプチド核酸)系参照プローブは、第6染色体の動原体領域に特異的である。
【0108】
図2は、ゲノムESR1配列の位置(矢印で表示)に対するESR1プローブの構築に使用されるBACクローンの染色体6q25の位置(四角で表示)を示す。
【0109】
ESR1ゲノム配列は、152.220.800位から152.516.520位までの295.721bpを含む第6染色体q腕の領域2バンド5(6q25)に位置する。標識DNAプローブの供給源は、2つのBACクローンRP11-450E24およびRP11-54K4であり、ともに152.175.459位から152.555.252位(2つのBACクローン挿入部間の166bp gabを除く)を含む。ESR1プローブに使用されたBACクローンの同一性の確認は、制限解析、BAC末端配列決定および正常ヒト血液中期試料に対する精製テキサスレッド標識BAC DNAのインサイチュハイブリダイゼーションによって行なった(図3)。
【0110】
第6染色体参照プローブは、第6染色体の動原体領域に特異的なα-サテライト反復配列に相補的なフルオレセイン標識PNAオリゴ構築物の混合物で構成される。以下の検査混合物は、4つの異なるPNAオリゴで構成される。個々のPNAオリゴは、Dako Denmark A/Sによる機能的検査によって設計、合成および選択され、CEN-6特異的混合物に合わせた。
【0111】
図3は、正常ヒト中期染色糸に対する6q25(4つの赤シグナル- 4つの黒矢印で示す)および第6染色体の動原体領域(2つの緑シグナル-2つの点線矢印で示す)へのESR1プローブ混合物の特異的ハイブリダイゼーションを示す。
【0112】
以下の表は、以下の実施例に記載の実験で使用した他の遺伝子のプローブの概要を示す。





【0113】
プロトコル
プロトコル1:BACクローンの確認:各BACクローンをLuria-Bertani (LB)、クロラムフェニコール寒天プレート(3%LB-ブイヨン寒天、2%グルコース、20μg/mLクロラムフェニコール)上で画線培養し、37℃で一晩インキュベートした。10mLのLB、クロラムフェニコール液体培地(2.5%LB-ブイヨン基本培地、10mM Tris-HCl pH 7.5、20μg/mLクロラムフェニコール)中に播種された単一の単離コロニーからなる予備培養液を激しい攪拌(1分間に200〜250回(rpm))下で、37℃で一晩インキュベートし、良好な曝気を確実にした。-70℃での長期保存用のグリセロールストック(20%)を調製し、残りの細菌をDNA断片化に使用した。グリセロールストックの1つの穿刺培養から液体予備培養への誘導工程を繰り返し、BACクローンで新たなグリセロールストックを作製した。最後に、後者のグリセロールストックからのクローンをLB、クロラムフェニコール寒天プレート上で再度画線培養し、37℃で一晩インキュベートした。続いて、5つの単離コロニーを10mLのLB、クロラムフェニコール液体培地中に別々に播種し、攪拌(200〜250rpm)下で、37℃で一晩インキュベートした。5つのクローンをBamHIでのDNA断片化によって解析した。
【0114】
プロトコル2:精製:QIAGEN Plasmid MAXIキットを用いて、制限酵素解析用の培養液を精製した。Beckman遠心機で4,000gで10分間の遠心分離によって細菌を回収した。氷上で、RNase A (100μg/mL)を含有する0.4mLの冷却P1再懸濁バッファー中に細菌ペレットを再懸濁した。0.4mLのP2溶解バッファー(SDS、NaOH)を添加し、チューブを6回反転させることにより混合し、室温で5分間インキュベートした。その後、0.4mLの冷却P3中和バッファー(酢酸カリウム)を添加し、チューブを再度6回反転させ、氷上で10分間インキュベートした。Ole Dich Microcentrifuge内でチューブを4℃、20,000gで15分間遠心分離した。続いて、プラスミドDNAを含有する上清みを回収した。0.7mLのイソプロパノールを添加し、Ole Dich Microcentrifuge内で4℃、20,000gで30分間内容物を遠心分離した。上清みを廃棄し、0.5mLの70%EtOHでペレットを洗浄した。再懸濁なしで、Ole Dich内で4℃、20,000gで5分間チューブを遠心分離した。上清みを除去し、ペレットを10〜20分間空気乾燥した後、25μLのTEバッファー(10mM Tris-HCl、0.1mM EDTA、pH 8.0)中に再懸濁した。
【0115】
プロトコル3:DNA断片化:17μLのDNA溶液をBamHI DNA断片化に使用した。プラスミドDNAを氷上に維持し、2μLの10倍濃縮REactR3反応バッファーと混合した。1μLのBamHI(10U/μL)を添加し、混合物 を37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、混合物を氷上に配置し、2.2μLの10×ゲル負荷バッファーを添加した。臭化エチジウム(0.4μg/mL)を加えた1×TAEバッファー(40mM Tris-HCL、0.1mM EDTA)中0.8%アガロース(Seakem Gold)ゲルを用い、ゲル電気泳動によってDNA断片を分離した。10μLの1 Kb Plus DNAラダーを参照として使用した。ゲルを30Vで約16時間泳動させた。電気泳動後、ゲルをUV光下に配置し、デジタル写真を撮影した。
【0116】
プロトコル4:播種プロトコル:確認プロセス(プロトコル1)で行なわれた最終作製グリセロールストックの1つから、細菌溶液をLB、クロラムフェニコール寒天プレート(3%LB-ブイヨン寒天、2%グルコース、20μg/mLクロラムフェニコール)上で画線培養し、37℃で一晩インキュベートした。単一の充分単離されたコロニーを25mLのLBクロラムフェニコール液体培地(2.5%LB-ブイヨンベース、10mM Tris-HCl、pH 7.5、20μg/mLクロラムフェニコール)中に播種することにより予備培養を行なった。予備培養液を激しい攪拌(200〜250rpm)下で、37℃で一晩インキュベートした。予備培養液を1Lの予備加熱LB、クロラムフェニコール液体培地中に播種し、攪拌(200〜250rpm)下、37℃で5時間インキュベートした。0、2.5、および5時間の時点で、600nmにおける光学濃度(OD600)を測定した。5時間後、Beckman遠心機(JA 10)を6,000rpmで15分間4℃で用いて細菌を回収した。上清みを除去し、続いて、ペレットからDNAを精製した。プロトコル5参照。
【0117】
プロトコル5:播種後のプラスミドDNAの精製:Macherey-Nagel Nucleobond(登録商標)Xtra Kitを用いて、大規模BAC DNAを精製した。回収後、1Lの培養液からの細菌ペレットを、RNase A (100μg/mL)を含有する60mLの冷却Nucleobond(登録商標)Xtra RESバッファー溶液中に再懸濁し、氷上で維持した。60mLのNucleobond(登録商標)Xtra LYSバッファー溶液(NaOH、SDS)を添加することにより細菌を溶解した。チューブを6回反転させ、室温で5分間インキュベートした。続いて、60mLの冷却Nucleobond(登録商標)Xtra NEUバッファー溶液(酢酸カリウム)を添加し、チューブを再度6回反転させ、氷上で10分間インキュベートした。溶液を9,500rpm、4℃で30分間遠心分離した(Beckman JA-10)。25mLのNucleobond(登録商標)Xtra EQUバッファー溶液を添加することによりNucleobond(登録商標)Xtra Maxi Columnおよびフィルターを調製した。プラスミドDNAを含有する上清みをカラムに添加した。上清みを通し、その後フィルターを除去したとき、15mLのNucleobond(登録商標)Xtra EQU溶液バッファーを添加した。25mLのNucleobond(登録商標)Xtra WASHバッファー溶液を添加した。15mLのNucleobond(登録商標)Xtra ELUバッファー溶液によってBAC DNAを溶出した。その後、10.5mLの0.7容量のイソプロパノールでプラスミドDNAを沈殿させ、溶液を14,000rpm、4℃で30分間遠心分離した(Beckman JA-20)。上清みを除去し、5mLの室温70%エタノールを添加することによりDNAペレットを洗浄した後、14,000rpmで10分間4℃で遠心分離した。DNAペレットを含むチューブをおよそ20分間空気乾燥した。その後、DNAペレットを500μLのTE-バッファー(10mM Tris-HCl、0.1mM EDTA、pH 8.0)中に溶解し、<-18℃で保存した。
【0118】
プロトコル6:DNA断片化:酵素BamHIおよびKpnIを用いたDNA断片化によって精製DNAを特徴付けした。2μgのDNAを滅菌MilliQ水中で17μLの容量に希釈した。DNA溶液をBamHIおよびKpnIについてそれぞれ、2μLの10倍濃縮REactR3およびREactR4制限バッファーと混合した。1μLの制限酵素を添加し、混合物を37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、混合物を氷上に配置し、2.2μLの10×ゲル負荷バッファーを添加した。臭化エチジウム(0.4μg/mL)を添加した1×TAEバッファー(40mM Tris-HCL、0.1mM EDTA)中0.8%アガロース(Seakem Gold)ゲルを用いたゲル電気泳動によってDNA断片を分離し、10μLの1 Kb Plus DNAラダーを参照として使用した。ゲルを30Vでおよそ16時間泳動させた。電気泳動後、ゲルをUV光下に配置し、デジタル写真を撮影した。
【0119】
プロトコル7:テキサスレッドニックトランスレーション標識:すべての試料および試薬を氷上で維持した。15μgの精製DNAを各ニックトランスレーションに使用した。エッペンドルフチューブ内でDNAを滅菌MilliQ水と混合して総量を180μLとした。60μLの5×フルオロフォア標識用混合物(滅菌MilliQ水中2.5mM dATP、2.5mM dGTP、2.5mM dTTP、2.5mM dCTP、1.0mM テキサスレッド-X-OBEA-dCTP)を添加し、60μLのニックトランスレーション混合物(DNase Iおよび大腸菌DNAポリメラーゼI)を添加する前に混合物をボルテックスし、遠心分離した。水浴中15℃で6時間のインキュベーションの前に穏やかに溶液を混合し、遠心分離した。15μLのEDTA(0.5M)を添加し、混合物を65℃で水浴中で10分間インキュベートすることにより反応を不活性化し、酵素を変性させた。その後、混合物を氷上に配置した。
【0120】
プロトコル8:標識プローブの精製:NICK Sephadex G-50 カラム上で精製を行なった。標識後、混合物をSpeed Vacで凍結乾燥した。混合物を30μLの滅菌MilliQ水中に再溶解した。カラムを空にし、3mLのTE-バッファー(1mM Tris-HCl、10μM EDTA、pH 8.0)で洗浄することにより調製し、続いて、3mlのTE-バッファーで平衡化した。TE-バッファーを流すとき、標識プローブ溶液を添加した。400μLのTE-バッファーを添加し、流出分を廃棄した。標識DNAをさらなる400μLのTE-バッファーで溶出した。流出分をSpeed Vacで蒸発させ、およそ100〜150μL(約250ng/μL)の試料容量を得た。
【0121】
プロトコル9:標識プローブのアガロースゲル電気泳動:アガロースゲル電気泳動によって標識DNA断片を分離した。500ngの標識DNAをMilliQ水で希釈して20μLの総容量とした。DNA混合物を95℃で3分間変性し、氷上に配置した。参照として50bp DNAラダーを使用し、E-ゲル系を用いて2%アガロースゲル上でDNAを分離した。マーカーがゲルの底部から2cmになるまで、ゲルを60Vでほぼ30分間泳動させた。電気泳動後、ゲルをUV光下に配置し、デジタル写真を撮影した。
【0122】
実施例2. 非悪性乳房試料中のESR1遺伝子コピー数
患者試料:乳房の大きさを小さくする手術を受けた120名の患者由来の試料をHerlev大学病院で採取した。病理検査部門(Department of Pathology)のアーカイブから組織塊を収集し、組織が非癌性であることをH&E染色で調べて確認した。各患者由来の2.0μmの円筒形標本(core)で6つの組織のマイクロアレイ(TMA)を作製した。各TMAは、2つの対照試料とともに20名の患者由来の試料を含んだ。
【0123】
FISH解析:プロトコル10または11(下記)に従ってFISHアッセイを行なった。
【0124】
プロトコル10:細胞学FISH:スライドを3.7%ホルムアルデヒド(pH 7.6)中で2分間室温で前処理した。スライドを1×洗浄バッファー中で2×5分間室温で洗浄した。その後、一連の冷却EtOH(70%、85%および96%)中でそれぞれ2分間標的組織を脱水し、空気乾燥した。各標的領域において、10μLのハイブリダイゼーション混合物(ハイブリダイゼーションバッファー:45%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、0.3M NaCl、5mMリン酸ナトリウムおよびPNAブロッキング配列中で希釈した標的および参照プローブ)を添加した。カバースリップを適用してハイブリダイゼーション領域を覆い、カバースリップの端をゴムセメントでシールした。スライドをHybridizerTMに配置し、82℃で5分間変性し、続いて、45℃で14〜20時間ハイブリダイズした。ハイブリダイゼーション後、カバースリップを除去し、スライドを1×ストリンジェンシー洗浄バッファー中に室温で配置し、その後、65℃に予備加熱した1×ストリンジェンシー洗浄バッファー中で10分間すすいだ。スライドを1×洗浄バッファー中、室温で2×3分間洗浄した。次に、強度を70%、85%および96%に上げた一連の冷却EtOH中でそれぞれ2分間組織を脱水し、空気乾燥した。DAPIを加えた15μLのマウント媒体退色防止溶液を各スライドにマウントし、カバースリップでシールし、シグナル検出前に暗所で保存した。
【0125】
プロトコル11:組織学FISH:スライドをキシレン中に2×5分間配置することにより腫瘍材料からパラフィンを除去した。続いて、96%EtOH中で2×2分間および70%EtOH中で2×2分間組織を再水和した。スライドを1×洗浄バッファー中、室温で2分間洗浄した。1×前処理溶液中にスライドを10分間浸漬した。スライドを含む溶液を予備加熱し、次いで、マイクロ波を用いて100℃で10分間インキュベートした。スライドを前処理溶液中で15分間冷却させた。続いて、1×洗浄バッファー中、室温で2×2分間スライドを洗浄した。過剰の溶液を除去した後、5〜8滴の冷却既製ペプシンを各スライドの標的領域に添加し、その後、37℃で3分間のインキュベートした。その後、洗浄バッファー中で2×3分間スライドを洗浄し、一連の冷却EtOH70%、85%および96%中でそれぞれ2分間脱水した。スライドを空気乾燥し、個々の組織試料に、10〜15μLのプローブ混合物(標的プローブ、参照プローブ、およびハイブリダイゼーションバッファー:45%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、0.3M NaCl、5mMリン酸ナトリウムおよびPNAブロッキング配列)を添加し、TMAに25μLを添加した。スライドをカバースリップで覆い、ゴムセメントでシールし、HybridizerTM中で82℃で5分間、続いて、45℃で14〜20時間インキュベートした。ハイブリダイゼーション後、接着剤およびカバースリップを除去し、65℃まで予備加熱した1×ストリンジェント洗浄バッファー中でスライドを10分間洗浄する前に、スライドを1×ストリンジェント洗浄バッファー中に室温で配置した。1×洗浄バッファー中で室温でスライドを2×3分間洗浄し、それぞれ70%、85%および96%の一連の冷却EtOH溶液中で2分間脱水した。スライドをおよそ20分間空気乾燥し、単一の組織試料について15μlの蛍光マウント媒体(DAPIおよび退色防止剤)で、およびTMAについて25μLで対比染色した。スライドをマウントし、シグナル計数の前に暗所で保存した。
【0126】
赤シグナルと緑シグナルの比を、正常細胞を含む120の患者試料に関するFISHによって評価した。患者1人あたり合計60の細胞を計数し、赤シグナル1つおよび緑シグナル1つの両方を含む細胞のみを評価した。シグナルの直径以下の間隔の同じ色のシグナルは1つとして評価した。
【0127】
結果:
正常な非癌性細胞の各核は、ESR1プローブ由来の2つの赤シグナルおよびCEN-6 参照プローブ由来の2つの緑シグナルを含み得る。しかしながら、パラフィン包埋組織中に存在する核がしばしば、切片の厚さよりも大きいという事実により、癌組織と正常な非癌性組織を明白に識別する参照範囲を確立することは重要である。
【0128】
各試料から、60個の核をスコアリングし、赤シグナルおよび緑シグナルの数を計数した。赤シグナルの数は、60個の核において95〜115シグナルの間で異なり、平均は細胞1つあたり赤シグナル1.78個であった。緑シグナルの数は、60個の核において84〜112シグナルの間で異なり、平均は細胞1つあたり緑シグナル1.69個であった。各試料での比は、0.96〜1.29の間で異なり、平均は1.06±0.04であった。
【0129】
2つの試料をアウトライアーとみなした。これらは、赤シグナルが多すぎ、異常と思われた。これらの2つの試料は、最初にスコアリングできなかったため、コホート内の2つの他の試料で置き換えた。2つのアウトライアーを再度染色し、良好に再スコアリングされた。一方の試料は1.40の比を示したが、他方は2.17の比を有した。HER2スコアリングのガイドラインによれば、1.8〜2.2の比はボーダーラインとみなされ、再スコアリングすべきである(Wolff et al,American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists guideline recommendations for human epidermal growth factor receptor 2 testing in breast cancer. J Clin Oncol. 2007,25(1):118-45)。
【0130】
表3(以下)は、120の患者試料の解析の結果を示す。





【0131】
考察および結論:データは、ESR1コピー数について解析した場合、正常乳房被検物が122の被検物のうち1つだけ異常という結果をもたらしたことを示す。さらなる1例をアウトライアーとみなした;しかしながら、再スコアリングにより正常と示されたが、比は1.4に上昇した。
【0132】
残りの120例は、1.06の平均比を示し、標準偏差は0.04である。3つの標準偏差(99%区間)範囲を用いて、正常比の範囲は0.93〜1.19である。この区間によれば、1.29の比を有するさらに1つの例がアウトライアーと分類されるべきであった。HER2の確立されたカットオフ0.8〜2.0に加えて、正常比の代替範囲は、0.93〜1.19、0.9〜1.3または0.85〜1.5であるとみなされ得る。
【0133】
計算された平均比の理由は、理論値1.0が緑参照シグナルが動原体プローブに由来するという事実に関連し得るということである。動原体配列は、高頻度に核膜に付着し、そのため、組織切片を切断すると、赤シグナルよりも多くの緑シグナルの減少がもたらされる。理論的には、正常細胞は、1.0の比を有するはずであるが、実際の値は1.06である。同様に、1コピーの遺伝子の減少を有する四倍体細胞は比0.75(3/4)を有するが、6%の加算により実際の値は0.8となる。1コピーの遺伝子を得た三倍体細胞は1.5の理論比を有し、6%の加算により実際の比は1.6となる。したがって、正常試料の範囲は、0.8〜2.0ではなく0.8〜1.6であり得る。本明細書に示した実施例2〜4では、HER2ガイドラインの確立されたカットオフ値、すなわち0.8〜2.0に従った。
【0134】
実施例3:ESR1遺伝子の検出
ESR1欠失の存在を示した初期実験は、IHC試験によってER陰性と同定された9つのFFPE乳癌組織において行なった。9つの組織はDako組織バンクから得た。組織試料に関するさらなる情報はなかった。標準的な方法および試薬(Dako Histology FISH Accessory Kit K5599)の使用によって、9つの組織をESR1/CEN-6 FISHプローブ混合物とハイブリダイズさせた。
【0135】
ハイブリダイズさせた試料は、2名の技術者によってスコアリングされ、各々、少なくとも60個の赤シグナルを計数し、表4に示す結果が得られた。
【0136】

【0137】
現行の標準(比≦0.8)に従って欠失を規定すると、2名の技術者は、9つの試料のうち欠失例をそれぞれ6および5と同定し、両方の技術者によって欠失と同定されたのは4例であった。個人間のばらつきとは無関係に、実験は、ESR1欠失 がER陰性乳癌試料の共通した現象であることを明白に示した。ESR1欠失は、以前に報告されたことがないため、実施例5に記載のより大規模な試験を開始した。
【0138】
図4は、ESR1欠失を有する乳癌FFPE組織におけるESR1/CEN-6 FISHプローブ混合物を示す。A=ESR1プローブ(テキサスレッドフィルター);B=CEN-6プローブ(フルオレセインフィルター);C=DAPI対比染色(DAPIフィルター);D=トリプルフィルターにおけるESR1/CEN-6 FISHプローブ混合物。
【0139】
実施例4. タモキシフェンで治療した患者由来の試料中のESR1遺伝子コピー数
エストロゲン受容体(ER)は、タモキシフェンの標的であり、ER陰性乳癌を有する患者はタモキシフェンの恩恵を受けにくい。残念ながら、内分泌療法は、ER陽性腫瘍を有する患者すべてに恩恵があるわけではなく、したがって、本発明者らは、エストロゲン受容体をコードするESR1遺伝子のコピー数の変化が抵抗性を付与すると推測した。
【0140】
患者試料:初期乳癌の根治的手術後5年間毎日20mgのタモキシフェンに割り当てられた連続系列の閉経後の患者において、本発明者らは、アジュバントタモキシフェンの開始後4年以内に再発する61名患者および7年後以降に再発する48名の患者を同定した。原発腫瘍のアーカイブ組織は109名の患者のうち100名(92%)から入手可能であった。100名の乳癌患者由来の試料を4つの病理検査部門(大学病院のHerlev、Roskilde、GlostrupおよびGentofte)で収集した。組織塊を病理検査部門のアーカイブから収集し、切片を解析した。
【0141】
FISH解析: FISHを用いて腫瘍試料をESR1コピー数の変化について解析した。FISHアッセイは、実施例2に記載のプロトコルに従って行なった。100の患者試料においてFISHによって赤シグナルと緑シグナルの比を評価した。患者1人あたり合計60個の細胞を計数し、赤シグナル1つおよび緑シグナル1つの両方を含む細胞のみを評価した。シグナルの直径以下の間隔の同じ色のシグナルは1つとして評価した。
【0142】
結果:ESR1に関するFISH解析は100名の患者のうち94名(94%)において良好であった。7年後以降もなお再発のない42名の患者のうち2名(5%)と比べて、早期再発(<4年)を有する52名のうち11名(21%)において増幅が観察された(p=0.03)。
【0143】
以下の表5は、2つの患者群における異常の分布を示し、表6は、全患者のスコアリングの詳細を示す。
【0144】

【0145】



【0146】
結論:この試験は、ESR1の増幅が、手術可能なER陽性乳癌を有する患者におけるタモキシフェン抵抗性のマーカーであり得るという考えを支持する。
【0147】
実施例5. 臨床試験DBCG 89Dに登録された患者におけるESR1欠失および増幅の頻度
臨床試験DBCG 89D (Ejlertsen;2007)に登録された患者は、以前に、TOP2A遺伝子異常の予後予測値について試験されたことがある(Knoop;2005)。患者コホートは、高頻度のER陰性患者を有し、したがって、ESR1欠失の存在およびIHCによって試験されるESR1遺伝子異常とERタンパク質の関係の調査によく適した資料である。本試験では、DBCG 89-D治験においてESR1とERの関係を調べる。
【0148】
材料および方法:DBCG 89-D治験では、962高リスクデンマーク人乳癌患者を、9つの内分泌療法なしのCMFまたはCEF系列に無作為化した。全体的に、DFSおよびOSに関して、CEFはCMFよりも優れていた。TMAを構築し、FISHを用いて主にER発現およびESR1コピー数の変化について解析した。一変量および多変量統計学を用いてバイオマーカーとDFSとの関係を解析した。
【0149】
結果:667個の塊(全適格分の69%)を収集し、ESR1試験は607個(91%)において合格であった。8名の患者(1%)がESR1増幅(比>2)を有し、162名(27%)がESR1欠失(比<0.8)を有した。ER発現はESR1異常と関連していた(p<0.01)が、排他的に依存していなかった。ESR1欠失は、他の確立された予後因子、例えば、陽性結節、腫瘍サイズ、悪性度、HER2またはTOP2Aとは有意に関連していなかった(以下の表7参照)。

【0150】
結論:DBCG 89D治験において、ER陰性患者を主とした大きな群で、ESR1における欠失が存在した。
【0151】
参考文献
1. Ejlertsen B,Mouridsen HT,Jensen MB,Andersen J,Cold S,Edlund P,et al. Improved outcome from substituting methotrexate with epirubicin:Results from a randomised comparison of CMF versus CEF in patients with primary breast cancer. Eur J Cancer 2007;43(5):877-84.
2. Knoop AS,Knudsen H,Balslev E,Rasmussen BB,Overgaard J,Nielsen KV,et al. retrospective analysis of topoisomerase IIa amplifications and deletions as predictive markers in primary breast cancer patients randomly assigned to cyclophosphamide,methotrexate,and fluorouracil or cyclophosphamide,epirubicin,and fluorouracil:Danish Breast Cancer Cooperative Group. J Clin Oncol 2005;23(30):7483-90.
【0152】
実施例6. タモキシフェンで治療された患者由来の試料中のBCL2、FASN、SCUBE2、ESR2、PGR、BIRC5およびCOX2の遺伝子コピー数
材料および方法:腫瘍材料を86名の閉経後のER-陽性乳癌患者から収集した。患者は、原発性の手術可能な乳癌を有し、手術後、DBCGガイドライン(DBCG 95-C)に従って、5年間のタモキシフェンに割当てられた。患者は、2つの群に適合するように選択された。一方の群は、アジュバントタモキシフェン治療の開始から7年後、再発なしであった。他方の群は、タモキシフェン療法の開始から4年以内に疾患再発、他の悪性疾患、または死亡を有した。再発群の患者は、非再発群の患者よりも有意に多くの数の陽性リンパ節(P=0.0003)および高い悪性腫瘍の悪性度(P=0.0009)を有した。
【0153】
パラフィン包埋組織塊を上記の患者から収集し、TMAを構築した。各患者由来の浸潤性腫瘍細胞の代表的な領域を、対応するヘマトキシリン(hematoxylen)およびエオシン(HE)-染色切片から選択し、各患者の2つの2mm直径の円筒形標本を空のブロック内に規則正しい様式で挿入することによりTMAを行なった。向きの参照として各TMAに腎臓組織および肝臓組織の2つの試料を乳癌腫組織内に組み込んだ。続いて、TMA塊から3μmの切片を接着剤を塗布したスライド上に切り出し、これを65℃で一晩ベーキングした。
【0154】
FISHを用いて遺伝子コピー数について腫瘍試料を解析した。FISHアッセイは、実施例1および発明の詳細な説明に記載の方法に従って行なった。
【0155】
少数の観察を可能にするフィッシャーの正確確率両側検定の使用により、観察されたGCV(ゲノムコピー数バリアント(Genomic Copy number Variant))と臨床結果との相関を行なった。P<0.05の値を統計学的に有意とみなした。1つ以上の遺伝子状態の結果が欠けている患者は、統計解析から排除した。GCVは、所定の患者に対するGCV(増幅/欠失)が1つの標的遺伝子において最小1つのGCVと規定されるパネルにおいて解析した。遺伝子の増幅および欠失は、それぞれ、非増幅(欠失を加えた正常)および非欠失(増幅を加えた正常)に対して試験した。
【0156】
コピー数の異常は、実施例4に記載の患者コホートを用いて、ESR1関連遺伝子のうち5つの遺伝子、すなわちBCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5およびCOX2において試験した(結果を表8)および図5に示す)。86名の患者に関するデータ。
【0157】
5つの遺伝子をプロフィール(5遺伝子パネルI):BCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5およびCOXにまとめた。FISH解析は、合計86の患者試料において良好であった。5つの遺伝子のいずれかの増幅を含む腫瘍を有するタモキシフェン治療患者は、5つの遺伝子のいずれにも増幅を含まない腫瘍を有するタモキシフェン治療患者と比較すると、悪い治療結果を有し、p-値は0.0001であった。

【0158】
5遺伝子プロフィールへのESR1の追加により、BCL2、SCUBE2、PGR、BIRC5、COXおよびESR1からなる6遺伝子プロフィール(分類体)を作製し、試験した。試験の結果を表9および図6に示す。6つの遺伝子のいずれかに増幅を含む腫瘍を有するタモキシフェン治療患者も同様に、考慮した6つの遺伝子のいずれにも増幅を含まない腫瘍を有するタモキシフェン治療患者と比較すると、悪い治療結果を有し、p-値は0.0001であった。

【0159】
試験の感度(試験によって正しく同定された陰性の割合)は、Altman,D.G. 1991 (Statistics for Medical Research,Chapman & Hallによる試験によって正しく同定された陽性の割合。遺伝子パネルの感度は53%である。特異性
86%である。
【0160】
実施例7. 7遺伝子プロフィール:タモキシフェンで治療された患者由来の試料中のESR1、BCL2、FASN、SCUBE2、PGR、BIRC5およびESR2のコピー数の推定値は、治療結果の予測値を有する
6個のESR1関連遺伝子ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、およびFASNを、2つの再発群において異なる遺伝子状態の分布について個々に試験した。いずれの遺伝子でも有意差は見られなかった。また、該遺伝子を、非再発患者群対再発患者群において欠失の数の差についても個々に試験した。7つの遺伝子いずれにおいても有意差はみられなかった。また、6つの遺伝子をESR1、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、およびFASNを含む7遺伝子パネルとして試験した(n=79)。実験は、実施例5に記載のようにして行なった。
【0161】
7つの遺伝子を、2つの再発群において異なる遺伝子増幅の分布について個々に試験した。再発群は、非再発群の患者よりも有意に多くのBIRC5増幅を有した(P=0.032)。他の6つの遺伝子ESR1、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、およびFASNいずれかに関する増幅の数において2つの群に有意差は観察されなかった。7遺伝子パネルは、非再発群(n=21)対再発群(n=29)で観察された欠失の数において差を示さなかった。
【0162】
ESR1、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、およびFASNの7遺伝子パネルを、2つの再発群で遺伝子増幅の非類似分布について試験した。表11および12ならびに図7参照。再発群の患者は、7遺伝子パネルのすべての遺伝子において、非再発群の患者よりも有意に多くの増幅を有した(P=0.0003)。
【0163】
表10は、乳癌患者におけるESR1、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、およびFASNの遺伝子状態の概要である。遺伝子状態の総数を示し、非再発群と再発群に分ける。所定の群の遺伝子状態の総数に対する相対割合を各観察結果の右側に示す。

【0164】
表11は、非再発患者群および再発患者群におけるESR1、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、およびFASNからなる7遺伝子パネルの遺伝子の非増幅および増幅に関するデータの概要である。

【0165】
7遺伝子パネルの感度は53%であり、該パネルの特異性は86%である。
【0166】
より高い感度を得るため、ESR2およびFASNを除外し、ESR1、PGR、SCUBE2、BCL2、およびBIRC5からなる5遺伝子パネルIIを構築した(n=82)。表12および図8参照。
【0167】
表12は、非再発患者群および再発患者群における5遺伝子パネルIIの遺伝子、すなわちESR1、PGR、SCUBE2、BCL2、およびBIRC5で検出された非増幅および増幅に関するデータの概要である。

【0168】
再発群の乳癌患者は、非再発群の遺伝子における増幅の数と比べて、5遺伝子パネルIIの遺伝子(ESR1、PGR、SCUBE2、BCL2、およびBIRC5)において有意に多くの増幅を有した(P=0.0001)。5遺伝子パネルIIの感度は48%であり、特異性は92%である。
【0169】
実施例8. 4遺伝子パネルの遺伝子ESR1、SCUBE2、BCL2およびBIRC5の増幅は、タモキシフェン治療の結果を予測する
材料および方法:ホルモン受容体陽性初期乳癌の根治的手術後5年間毎日20mgのタモキシフェンに割り当てられた連続系列の閉経後の患者において、本発明者らは、アジュバントタモキシフェンの開始後4年以内に再発する61名の患者および7年後以降に再発する48名の患者を同定した。原発腫瘍のアーカイブ組織は109名の患者のうち100名(92%)から収集した。各遺伝子を含むプローブおよび特定の染色体の動原体を含む参照プローブを使用するFISHを用いて、腫瘍試料をコピー数の変化について解析した。FISHは、Dako Histology FISH付属キットを用いて行なった。
【0170】
結果:4遺伝子すべてに関するFISH解析は、100名の患者のうち83名(83%)で良好であった。7年以上再発がなかった36名のうち3名(8%)の患者と比べて、4年以内に再発した47名のうち21名(45%)の患者では、増幅(遺伝子/動原体比≧2)が観察された(p=0.0002)。両方の群において、欠失(遺伝子/動原体比<0.8)を有する患者もまた同定された。非再発患者群および再発患者群におけるパネル遺伝子ESR1、SCUBE2、BCL2、およびBIRC5の正常および増幅を有する場合の数を評価した試験の結果のまとめを以下の表13および図9に示す。
【0171】
表13は、非再発患者群および再発患者群における4遺伝子パネルIIの遺伝子、すなわちESR1、SCUBE2、BCL2、およびBIRC5において検出された非増幅および増幅に関するデータの概要である。

【0172】
考察:この試験は、ESR1および本発明のESR1関連遺伝子群から選択された3つの遺伝子、すなわちSCUBE2、BCL2またはBIRC5を含む4遺伝子の増幅が手術可能でER陽性乳癌を有する患者におけるタモキシフェン抵抗性のインジケータとしての機能を果たし、ホルモン療法処置の結果の予後マーカーとして使用され得ることを示す。また、本試験により、患者におけるこれらの遺伝子の欠失の存在が明らかとなった。このパネルの遺伝子の後者の状態を、エストロゲン治療に関する予後因子および予測因子として使用することもまた可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 癌患者から得られた試料中のESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態を判定する工程;
- 判定されたESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、判定された少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態に基づいて、治療処置の有効性を予測する工程
を含む、癌患者の治療処置の有効性を予測するための方法。
【請求項2】
- 患者から得られた試料中のESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態を判定する工程;
- 判定されたESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、判定された少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態に基づいて、患者に有効と思われる治療処置を選択する工程
を含む、癌患者に治療処置を選択するための方法。
【請求項3】
- 癌患者から得られた試料中のESR1遺伝子の異常の状態を判定する工程;
- 判定されたESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、判定された少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態に基づいて、癌患者を種々の治療処置に層別化する工程
を含む、癌患者を種々の治療処置に層別化するための方法。
【請求項4】
- 癌患者から得られた試料中のESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態を判定する工程;
- 判定されたESR1遺伝子の異常の状態、および任意に、判定された少なくとも1つのESR1関連遺伝子の異常の状態に基づいて、患者の疾患の再発の可能性を予測する工程
を含む、治療処置過程を受けた、または受けている癌患者の癌の再発の可能性の予測方法。
【請求項5】
治療処置が、抗癌ホルモン療法または化学療法から選択される、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
癌患者が、乳房、卵巣、前立腺、頚部、子宮体の癌または子宮内膜の癌腫を有するか、または有することが疑われる患者である、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項7】
試料が組織試料である、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項8】
組織試料が、生検材料、凍結組織切片、パラフィン包埋組織切片、スミア、滲出液、腹水、血液、骨髄、痰、尿または固定剤で処理した任意の組織である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ESR1関連遺伝子が、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、FASNまたはCOX遺伝子から選択される、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項10】
異常が、前記遺伝子(1つもしくは複数)、前記遺伝子(1つもしくは複数)の部分(1つもしくは複数)、または該遺伝子(1つもしくは複数)の発現を制御する核酸配列(1つもしくは複数)を含む染色体(1つもしくは複数)の部分(1つもしくは複数)の増幅、重複、倍数体化、欠失または転座である、請求項1〜4または9いずれか記載の方法。
【請求項11】
異常の状態が異常の有無として判定される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
異常の状態が、インビトロでの組織試料のインサイチュハイブリダイゼーション解析工程を含む方法によって判定される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
インサイチュハイブリダイゼーション解析が、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)または発色インサイチュハイブリダイゼーション解析(CISH)から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項14】
インサイチュハイブリダイゼーション解析が、ESR1遺伝子領域に標的化される少なくとも1つのプローブおよび少なくとも1つの参照プローブの使用を含む、請求項14記載の方法。
【請求項15】
参照プローブが動原体領域に標的化される、請求項15記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの参照プローブが第6染色体の動原体領域に標的化される、請求項16記載の方法。
【請求項17】
少なくとも2つの異なる遺伝子標的化プローブが使用される、請求項14〜16いずれか記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのプローブがESR1遺伝子領域に標的化され、少なくとも1つの遺伝子標的化プローブがESR1関連遺伝子に標的化される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
遺伝子標的化プローブおよび参照プローブが標識を含み、遺伝子標的化プローブの標識が参照プローブの標識と識別され得る、請求項14記載の方法。
【請求項20】
患者の試料中のESR1の増幅の存在が、患者のホルモン療法抵抗性および疾患の高い再発可能性と相関される、請求項11記載の方法。
【請求項21】
ESR1の異常の状態および1つ以上のESR1関連遺伝子の異常の状態を判定する工程を含む、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項22】
患者の試料中の1つ以上のESR1関連遺伝子における異常の存在が、患者のホルモン療法抵抗性および疾患の高い再発可能性と相関される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ESR1遺伝子または前記遺伝子の一部分に標的化される少なくとも1つのプローブ、および少なくとも1つの参照プローブを含むインサイチュハイブリダイゼーションのための少なくとも2つの異なるプローブを含むパーツキット。
【請求項24】
少なくとも1つの参照プローブが、染色体の動原体領域に標的化されるプローブである、請求項23記載のパーツキット。
【請求項25】
さらに、ESR2、PGR、SCUBE2、BCL2、BIRC5、FASNおよびCOX遺伝子を含むESR1関連遺伝子の1つ以上に標的化される1つ以上のプローブを含む、請求項22または24記載のパーツキット。
【請求項26】
該遺伝子領域に標的化されるプローブがDNAプローブであり、参照プローブがPNAプローブである、請求項23〜25いずれか記載のパーツキット。
【請求項27】
プローブのそれぞれが標識を含む、請求項23〜26いずれか記載のパーツキット。
【請求項28】
該遺伝子領域に標的化されるプローブの標識が参照プローブの標識と異なる、請求項27記載のパーツキット。
【請求項29】
標識が蛍光、色原体または酵素標識から選択される、請求項28記載のパーツキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−527620(P2010−527620A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509676(P2010−509676)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【国際出願番号】PCT/DK2008/000184
【国際公開番号】WO2008/145125
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(506006795)ダコ デンマーク アクティーゼルスカブ (10)
【Fターム(参考)】