説明

乳癌耐性蛋白質に選択的な核医学診断薬

【課題】乳癌耐性蛋白質(BCRP)に選択的な新規な化合物、その製造方法及び前記化合物を含む核医学診断薬を提供すること
【解決手段】下記式で表される化合物FUN−4を18Fで標識したPET薬剤[18F]FUN−4を開発することに成功し、この化合物を用いることにより、化合物FUN−4がBCRPに選択的な基質化合物であることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な乳癌耐性蛋白質に選択的な核医学診断薬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液脳関門(BBB)は、生体内において薬物あるいは毒物の脳侵入に対する防御壁として機能している。BBBには、いくつかの防御機構が存在しており、中でも薬剤排出輸送体(ABCトランスポーター群)がその中核を担っているとされている。ABCトランスポータ一群の中でもP糖蛋白質(Pgp)や乳癌耐性蛋白質(BCRP)は、BBBにおいて発現が多く確認されており、重要な役割を果たしていることが知られている(非特許文献1〜3参照)。中枢神経系を対象とした創薬において、BBBによる薬剤排出は、薬効の低下を引き起こすため、これらの機能を抑制することは重要である。このような背景から、PgpやBCRPに対する阻害剤が開発され、これらに放射性同位元素を標識することにより、PET(陽電子放射断層法)を用いて、PgpやBCRPの機能評価が行われるようになってきた。
近年では、BBBにおけるPgpやBCRPの機能を評価できる放射薬剤開発が数多く報告されており、代表的なものとして、[11C]loperamide、[11C]verapamil、[11C]gefitinib、[11C]GF120918等が報告されている。これらの分子プロープの多くは、PgpだけでなくBCRPに対しても親和性があるものの、Pgpへの選択性がより強いことから、Pgpの機能評価に使用されている。
一方、BCRPの阻害剤として、例えばKo143等が報告されている(非特許文献4参照)。しかしながら、BCRPに対して強い選択性を持ち、更に、核医学診断薬として用いることができる薬剤は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Loscher W, Potschka H. NeuroRx. 2: 86-98, 2005
【非特許文献2】Kawamura K, Yamasaki T, et al. Nucl Med Chem. 36: 239-46,2009
【非特許文献3】Kawamura K, Yamasaki T, et al. Mol Imaging Biol. DOI: 10.1007/s11307-010-0313-1
【非特許文献4】Allen JD, et al. Mol. Cancer Ther. 1: 417-25, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、乳癌耐性蛋白質(BCRP)に選択的な新規な化合物およびその製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、BCRPに選択的な親和性を有する新規の核医学診断薬を提供することである。
本発明の他の目的は、BCRPの機能に選択的な親和性を有する化合物、あるいは生体におけるBCRPの薬剤排出機能を評価出来る核医学診断薬を提供する。
本発明の更なる目的は、BCRPに選択的な新規な化合物を用いて、生体におけるBCRPに依存した薬剤排出機構の評価法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、下記式で表される化合物FUN−4を18Fで標識したPET薬剤[18F]FUN−4を開発することに成功し、この化合物を用いることにより、化合物FUN−4がBCRPにより、選択的に組織外へ排出されていることを初めて見いだした。

前記式中、Xはハロゲン原子である。
【0006】
すなわち、[18F]FUN−4を作成して、(A)Pgp/BCRPノックアウトマウス、(B)Pgpノックアウトマウス、(C)BCRPノックアウトマウス、(D)野生型のマウスについてそれぞれ、脳内への移行量をPET画像により測定したところ、(A)および(C)のBCRPがノックアウトされているマウスにおいて、[18F]FUN−4の脳移行性が顕著に高くなり、BCRPに依存的な排出を受けている事が認められた。
また、BCRPに対して選択的な阻害剤であるKo143および非標識FUN−4を[I8F]FUN−4と同時にマウスに投与したところ、いずれも、非投与群と比較して[I8F]FUN−4の脳移行性が約2倍増加した。
これらの結果から、FUN−4はBCRPに対して選択的な基質であることが明らかになった。また、[I8F]FUN−4はBCRPの機能に依存して脳内移行する分子プロープであることが明らかとなり、BCRPの機能を測定する核医学診断薬として用いることができることが示された。
【0007】
本発明は、以下を提供する。
(1)下記式で表される化合物:

前記式中、Xはハロゲン原子その放射性同位元素である。
(2)Xが、ハロゲン原子の放射性同位元素である、上記(1)記載の化合物。
(3)上記(1)または(2)に記載の化合物を含む、核医学診断薬。
(4)核医学診断がPET画像診断である、上記(3)記載の核医学診断薬。
(5)上記(1)または(2)に記載の化合物を含む、乳癌耐性蛋白質(BCRP)選択的競合阻害剤。
(6)上記(1)または(2)に記載の化合物を用いることを特徴とする、乳癌耐性蛋白質(BCRP)の機能の測定方法。
(7)下記工程(A)及び(B)を含む上記(1)または(2)に記載の化合物の製造方法。
(A)下記式で表される2−ハロゲン置換ピリジン化合物(1)の3位にアジド基を挿入して、3−アジド−2−ハロゲン−ピリジン(2)を製造し、これに、トリブチル(1−プロピニル)チンを加えて、溶媒中で加熱還流を行い、下記式で表される1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾール化合物(3)を製造する。

(B)工程(A)により得られたトリアゾール(3)化合物、7−キノリニルトリフレート、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、フッ化セシウム、ヨウ化銅を溶媒に溶解し、加熱することにより、下記式で表される7−[1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン(4)を製造する。

【発明の効果】
【0008】
本発明のBCRP(乳癌耐性蛋白質)に選択的な基質化合物を用いることにより、BBB(血液脳関門)において発現が多く確認されており、かつ中枢神経系を対照とした創薬において、脳への薬物の移行性を制限していることが報告されているBCRPの機能を測定することができる。
更に本発明のBCRPに選択的な基質化合物を用いることにより、BCRPの機能を選択的に競合阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ノックアウトマウスにおける[18F]FUN−4の脳PET画像(A)と時間放射能曲線(B)を示す。
【図2】BCRPの阻害剤Ko143投与によるPET画像(A)と時間放射能曲線(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の化合物は下記式で表される。

前記式中、Xはハロゲン原子である。ハロゲン原子は、好ましくは、Cl、F、BrおよびI並びにこれらの放射性同位元素からなる群より選択される。
Xとして好ましいハロゲン原子は、BrまたはFである。
放射性同位元素として18F、123I、124I、76Br、34Clが挙げられ、特に18Fが好ましい。
【0011】
上記化合物は、例えば下記工程を含む方法により製造することができるが、これに限定されない。
(A)下記式で表される2−ハロゲン置換ピリジン化合物(1)の3位にアジド基を挿入して、3−アジド−2−ハロゲン−ピリジン類(2)を製造し、これに、トリブチル(1−プロピニル)チンを加えて、溶媒中で加熱還流を行い、1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾール化合物(3)を製造する。
【0012】
工程(A)

【0013】
上記工程(A)の原料である、2−ハロゲン置換ピリジン化合物(1)は、3位が非置換の2−ハロゲン置換ピリジン(1a)であってもよく、また、3位にアミノ基を有する化合物(1b)であってもよい。
【0014】
3位が非置換の化合物(1a)を出発原料とする場合、アジド基の導入は以下のように行うことができる。
ジイソプロピルアミンに対し等モルのn−ブチルリチウムのヘキサン溶液を加え、−78℃〜室温の範囲で、数分〜1時間程度反応させて、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)を調製する。
LDA溶液に、等モルの2−ハロゲン置換ピリジンのTHF溶液を添加する。その後、アルキルベンゼンスルホンアジドのTHF溶液を滴下し、−78℃で30分〜2時間攪拌する。反応液に水を加えて反応を停止し、その後、反応液を酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出し、溶媒を留去し、3−アジド−2−ハロゲン−ピリジン(2)を得る。アジド化合物は不安定であるため、精製せず、そのまま使用することが好ましい。
【0015】
3位がアミノ基の化合物(1b)を出発原料とする場合、アジド基への変換は以下のように行うことができる。
3−アミノ−2−ハロゲン−ピリジンをテトラフルオロホウ酸水溶液に溶解し、反応溶液を0℃に冷却後、亜硝酸ナトリウム水溶液をゆっくり滴下する。0℃で1〜3時間反応させた後、アジ化ナトリウム水溶液をゆっくりと滴下し、0℃でさらに1〜3時間撹拌する。飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和し、有機溶媒で抽出し、溶媒を留去して、3−アジド−2−ハロゲン−ピリジン(2)を得る。アジド化合物は不安定であるため、精製せず、そのまま使用することが好ましい。
【0016】
得られたアジド化合物(2)にトリブチル(1−プロピニル)チンのトルエン溶液を加え、100℃以上の温度で6〜24時間還流する。反応溶液を室温まで冷却した後、溶媒を留去して1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾール(3)を得る。トリアゾ−ル化合物は、シリカゲルクロマトグラフィーなどにより更に精製して用いても良い。
【0017】
(B)工程(A)により得られたトリアゾール(3)化合物、7−キノリニルトリフレート、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、フッ化セシウム、ヨウ化銅を溶媒に溶解し、加熱することにより、7−[1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン(4)を製造する。
【0018】
工程(B)

【0019】
上記工程(B)において、反応に用いる溶媒としてはDMF、THF、ジオキサンなどが挙げられるが、DMFを用いて行うのが好ましい。加熱は、60〜100℃の温度で6〜24時間程度行う。反応溶液中に酢酸エチルを加えて反応を停止させた後、懸濁した反応液をセライトろ過し、ろ液を酢酸エチルで抽出、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去する。残渣をシリカゲルクロマトグラフィーなど公知の手法により精製し、7−[1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン(4)を得る。
【0020】
工程(B)で得られたキノリン化合物(4)の2位を放射性同位元素により置換する場合には、公知のハロゲン置換反応により行うことができる。
例として、下記工程(C)を例示する。
(C)K18Fの水溶液を4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8,8,8]ヘキサコサンのアセトニトリル溶液に溶解し、溶液中の水とアセトニトリルを真空下で留去する。工程(C)により得られた7−[1−(2−ブロモ(あるいはヨウ素)−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン(1mg)のDMSO溶液をヘリウムガスにより[18F]フッ化物イオンなどの放射性同位元素イオンの入った容器内へ圧送し、加熱下反応させる。
【0021】
本発明の化合物を製造する方法の具体例として、下記スキーム1、2を例示する。
【0022】
スキーム1

【0023】
スキーム2

【0024】
本発明の化合物は、核医学診断薬として用いることができる。本明細書において、核医学診断薬とは、放射性同位元素(radioisotope; RI)やその化合物の生体内や試験管内の挙動を追跡し、生体機能や疾病の診断、治療を行う方法(核医学診断方法)において用いる、18F、99mTcなど生体の機能及び代謝を反映する放射性標識核種を含む薬剤を意味する。核医学診断方法には、例えば、生体機能を反映した画像をPET(陽電子放射断層法)やガンマカメラなどによって診断する方法が挙げられる。
従って、本発明の新規な化合物のうち、放射性同位元素で標識された化合物を、上記核医学診断薬として用いることができる。特にPET画像診断に用いることができる。
【0025】
本発明の新規化合物は、血液脳関門に存在する薬剤排出輸送体(ABCトランスポーター群)の一つであるBCRPに高親和性であるため、BCRPの機能そのもの、あるいはBCRPの機能を阻害あるいは抑制する薬剤の効果をPET画像診断により評価することができる。
【0026】
より具体的には、例えば、BBB(血液脳関門)におけるBCRPの機能が損なわれている場合には、本発明の放射性同位元素で標識された化合物は脳内へ移行するので、脳のPETを用いた画像診断が可能である。
また、BCRP機能の阻害剤の候補薬について、その機能を診断することができる。
更に、本発明の新規な化合物は、BCRPに選択的な基質であるため、BCRPの競合阻害剤として使用することができる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
工程(A)
1−(2−フルオロ−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾールの製造

【0028】
窒素雰囲気下、ジイソプロピルアミン(0.53mL,3.8mmol)のTHF(5mL)溶液を−78℃に冷却後、この溶液に、1.6Mのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.4mL,3.8mmol)をゆっくりと滴下した。滴下後、5分間撹拌し、0℃においてさらに5分間撹拌した後、再び−78℃まで冷却した。続いて、2−フルオロピリジン(0.33mL,3.8mmol)のTHF溶液(2mL)を滴下後、10分間温度を維持しながら撹拌した。n−ドデシルベンゼンスルホンアジド(0.89g,2.5mmol)のTHF(3mL)溶液を滴下し、反応溶液を−78℃で1時間撹拌した後、水を加えて反応を停止させた。反応溶液を酢酸エチルで抽出、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、得られた茶褐色油状物にトリブチル(1−プロピニル)チン(0.91mL,3.0mmol)とトルエン(20mL)を加え、12時間還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1+トリエチルアミン(1%))を用いて精製し、表題化合物を茶色油状物として489mg(42%)得た。
【0029】
1HNMR(300MHz,CDCl3)δ:0.90(9H,t,J=7.1Hz),1.121.42(12H,m),1.541.62(6H,m),2.29(3H,d,J=2.2Hz),7.407.45(1H,m),7.968.02(1H,m),8.378.39(1H,m).HRMS(FAB)calcd for C20344FSn:469.1789;found:469.1761(M+).
【0030】
7−キノリニルトリフレートの製造

【0031】
窒素雰囲気下、7−キノリノール(145mg,1mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)にピリジン(0.16mL,2mmol)を加えた。反応溶液を0℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.2mL,1.2mmol)を滴下した後、室温で一晩撹拌した。反応溶液をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン+トリエチルアミン(1%))を用いて精製し、表題化合物を白色固体として184mg(67%)得た。
【0032】
工程(B)
7−[1−(2−フルオロ−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリンの製造


【0033】
窒素雰囲気下、1−(2−フルオロ−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾール(1.1 g,2.1 mmol)、7−キノリニルトリフレート(554 mg,2 mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(115 mg,0.1 mmol)、フッ化セシウム(608 mg,4 mmol)、ヨウ化銅(38 mg,0.2 mmol)をDMF(8 mL)に溶解させ、80℃で12時間加熱撹拌した。反応溶液中に酢酸エチルを加えた後、懸濁した反応液をセライトろ過し、ろ液を酢酸エチルで抽出、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去することで茶褐色の残渣を得た。この残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:3+トリエチルアミン(1%))を用いて精製することにより白色粉末結晶を335mg(46%)得た。
【0034】
1HNMR(CDCl3)δ:2.61(d,J=1.8Hz,3H),7.43−7.53(m,2H),7.98(d,J=8.4Hz,1H),8.11(dt,J=1.8,7.3Hz,1H),8.23(t,J=8.1Hz,2H),8.36(s,1H),8.47(d,J=4.0Hz,1H),8.97(dd,J=1.1,2.9Hz,1H).
【0035】
(実施例2)
工程(A)
1−(2−ブロモ−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾールの製造

【0036】
3−アミノ−2−ブロモピリジン(1.04g,6.0mmol)を42%テトラフルオロホウ酸水溶液(10mL)に溶解させ、反応溶液を0℃に冷却後、亜硝酸ナトリウム(500mg,7.2mmol)水溶液(2mL)をゆっくり滴下し、0℃で2時間撹拌した。アジ化ナトリウム(390mg,6.0mmol)水溶液(2mL)をゆっくりと滴下した後、0℃でさらに2時間撹拌した。反応溶液を飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去して茶褐色の油状物を得た。この残渣に、トリブチル(1−プロピニル)チン(2.7mL,9.0mmol)のトルエン(10mL)を加え、12時間還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1+トリエチルアミン(1%))を用いて精製し、表題化合物を黄色油状物として2.03g(64%)得た。
【0037】
1H−NMR(300MHz,CDCl3)δ:0.90(t,J=7.1Hz,9H),1.12−1.39(m,12H),1.55−1.63(m,6H),2.22(s,3H),7.47−7.51(m,1H),7.73−7.77(m,1H),8.55−8.57(m,1H)HRMS(FAB)calcd forC20344BrSn:529.0989;found:529.1019(M+).
【0038】
工程(B)
7−[1−(2−ブロモ−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリンの製造

【0039】
窒素雰囲気下、1−(2−ブロモ−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾール(1.1g,2.1mmol)、7−キノリニルトリフレート(554mg,2mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(115mg,0.1mmol)、フッ化セシウム(608mg,4mmol)、ヨウ化銅(38mg,0.2mmol)をDMF(8mL)に溶解させ、80℃で12時間加熱撹拌した。反応溶液中に酢酸エチルを加えた後、懸濁した反応液をセライトろ過し、ろ液を酢酸エチルで抽出、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去することで茶褐色の残渣を得た。この残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:3+トリエチルアミン(1%))を用いて精製することにより白色粉末結晶を335mg(46%)得た。
【0040】
1HNMR(CDCl3)δ:2.56(s,3H),7.45(m,1H),7.57(m,1H),7.87(dd,J=1.6,6.2Hz,1H),7.98(d,J=8.4Hz,1H),8.22(d,J=8.1Hz,1H),8.30(dd,J=1.5,7.0Hz,1H),8.37(s,1H),8.64(dd,J=1.5,3.3Hz,1H),8.96(dd,J=1.5,2.6Hz,1H).
【0041】
(実施例3)
7−[1−(2−[18F]フルオロ−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン([18F]FUN−4)の製造

【0042】
18O−同位体水(18O−H2O)を用いて製造した[18F]フッ化物イオンを炭酸カリウム(3.3 mg/300 μL)水溶液を用いて、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8,8,8]ヘキサコサン(クリプトフィックス 222,25 mg)のアセトニトリル溶液(1.5 mL)の入った反応容器に溶出させた。溶液中の水とアセトニトリルを真空下120℃、15分で留去した。7−[1−(2−ブロモ−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン(1mg)のDMSO溶液(300μL)を流速(50 mL/min)のヘリウムガスにより、[18F]フッ化物イオンの入った容器内へ圧送し、150℃、10分間反応させた。反応をCH3OH/H2O/Et3N(5/5/0.05,500 μL)溶液を加えて停止させた後、反応混合物をCAPCELL PAK TYPE UG80 カラム(10 mm IDX250 mm)、溶離液CH3OH/H2O/Et3N(5/5/0.05)、流速5.0 mL/minにおいて分離精製した。分取した溶液をTween80(100 μL)と25%アスコルビン酸(100 μL)の入った無菌フラスコ内に捕集し、溶媒を真空下で留去、無菌生理食塩水(3 mL)でフラスコ内を洗浄した。得られた溶液を0.22 μmミリポアフィルターを通して回収バイアル内へ捕集することで表題化合物を得た。
【0043】
(実施例4)
1.使用動物
FVB(♂、27〜28g、10〜12週令、タコニック社),Mdr1a/b(/)(Pgp発現遺伝子ノックアウトマウス)(♂、27〜32g、10〜12週令、タコニック社)Bcrp1(/)(BCRP発現遺伝子ノックアウトマウス)(♂、25〜30g、10〜12週令、タコニック社),Mdr1a/b(/)Bcrp1(/)(Pgp及びBCRP発現遺伝子ノックアウトマウス(♂、25〜28g、10〜12週令、タコニック社)、ddY(♂、33〜37g、8週令、日本SLC)を用いた。すべてのマウスは、当研究所にて12H light/darkサイクル(12時間明暗サイクル)下で25℃にて飼育された。本項目にある動物実験は、当研究所における実験動物倫理委員会の許可を得て実験を行い、苦痛軽減や最小限の個体数を考慮し、行った。
【0044】
2.小動物PET
上記により合成された本発明の化合物[18F]FUN−4を用いて、ノックアウトマウスにおけるPET撮像を行った。小動物PETスキャナーはシーメンス社(Knoxville,TN,USA)のものを使用した。
マウスを1.5%濃度のイソフルランで麻酔し、尾静脈より29Gのカテーテル付き針によってルートを確保した。その後、40℃の温水マットが敷かれてあるPETの台座に麻酔をしたまま固定し、撮像の適した位置に移動した。[18F]FUN−4を、マウスの尾静脈より3.7〜7.4 MBq/0.2mLで投与した。ダイナミックスキャンは3Dモードで60分間行った(1分×4フレーム、2分×8フレーム、5分×8フレーム)。
【0045】
3.阻害剤の投与
BCRPの選択的阻害剤であるKo143及び非標識FUN−4を用いて[18F]FUN−4の脳の集積に変化が見られるか、小動物PETによって評価した。
Ko143及び非標識FUN−4は10mg/kgの濃度で0.1mL DMSOに溶解し、PET撮像開始5分前にマウス尾静脈より、それぞれ投与した。
【0046】
4.データ解析
小動物PETにより得られた画像から、ASIPro(シーメンス社)を用いて参照領域(ROI)における時間放射能曲線(TAC)を描いた。放射能は減衰補正し、%SUVによって示す。
%SUV=(参照領域の放射能(Bq/cc)/投与された放射能)×マウス体重(g)×100
得られた結果を図1及び2に示す。
【0047】
5.結果
図1に示すように、本発明の化合物[18F]FUN−4は野生型(wild type)の脳においては集積が殆どみられなかったが、Pgp及びBCRPのノックアウトマウス(Mdr1a/b-/-Bcrp1-/-)では、2〜3倍に集積が増加した。更に、Pgp単独欠損マウス(Mdr1a/b-/-)の脳では、殆ど集積が見られなかったが、BCRP単独欠損マウス(Bcrp1-/-)の脳で、2倍程度に集積が増加した。
この結果より、本発明の化合物[18F]FUN−4はBCRPによって、より選択的に脳侵入を制限されている事が推測された。
図2に、BCRPに特異的な阻害剤で知られるKo143と非標識FUN−4を投与したPET実験結果を示す。コントロール(vehicle)の脳では、[18F]FUN−4の集積は殆ど見られなかったが、阻害剤であるKo143投与群では、2〜3倍程度増加した。同様に非標識FUN−4投与群においても、[18F]FUN−4の脳集積は2倍程度増加した。
上記のノックアウトマウスや阻害剤を用いたPET実験によって、[18F]FUN−4はPgpよりもBCRPに選択的に排出を受ける核医学診断薬であることが判明した。同様に、非標識FUN−4についてもBCRPに選択的な阻害効果を持つ薬剤として期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される化合物:

前記式中、Xはハロゲン原子あるいはその放射性同位元素である。
【請求項2】
Xが、ハロゲン原子の放射性同位元素である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含む、核医学診断薬。
【請求項4】
核医学診断がPET画像診断である、請求項3記載の核医学診断薬。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物を含む、乳癌耐性蛋白質(BCRP)選択的競合阻害剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載の化合物を用いることを特徴とする、乳癌耐性蛋白質(BCRP)の機能の測定方法。
【請求項7】
下記工程(A)及び(B)を含む請求項1または2に記載の化合物の製造方法。
(A)下記式で表される2−ハロゲン置換ピリジン化合物(1)の3位にアジド基を挿入して、3−アジド−2−ハロゲン−ピリジン(2)を製造し、これに、トリブチル(1−プロピニル)チンを加えて、溶媒中で加熱還流を行い、下記式で表される1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−4−トリブチルスタニル−1H−1,2,3−トリアゾール化合物(3)を製造する。

(B)工程(A)により得られたトリアゾール(3)化合物、7−キノリニルトリフレート、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、フッ化セシウム、ヨウ化銅を溶媒に溶解し、加熱することにより、下記式で表される7−[1−(2−ハロゲン−3−ピリジル)−5−メチル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル]キノリン(4)を製造する。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−136444(P2012−136444A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287728(P2010−287728)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】