説明

乳癌関連遺伝子ZNFN3A1

乳癌(BRC)を検出および診断する客観的な方法を本明細書に記載する。乳癌および乳癌転移を処置および予防する方法、ならびに乳癌対象の予後および乳癌治療の有効性を評価する方法もまた提供する。1つの態様において、本診断方法は、乳癌において発現が有意に上昇し、そのためBRC細胞と正常細胞とを識別するために使用され得るZNFN3A1の発現レベルを決定する段階を含む。本発明はさらに、BRCの処置に有用な治療剤をスクリーニングする方法、BRCを処置する方法、および対象にBRCのワクチン接種をする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、乳癌を検出および診断する方法、ならびに乳癌および乳癌転移を処置および予防する方法に関する。
【0002】
本出願は、2005年2月28日に出願した米国仮特許出願第60/657,581号の恩典を主張し、その内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
乳癌(BRC)は遺伝的に不均一な疾患であり、女性に最も多く見られる悪性腫瘍である。全世界で毎年、推定800,000件の新たな症例が報告されている(Parkin DM. et al.,(1999) CA Cancer J Clin 49:33-64)。現在、乳房切除術が本疾患に対する第一の治療選択肢である。しかしながら、原発腫瘍を外科切除しても、診断時に存在した検出不可能な微小転移のために、局所または遠位部位での再発が起こり得る(Saphner T. et al.,(1996) J Clin Oncol 14, 2738-2749)。このような残存細胞または前癌細胞を死滅させるため、手術後には通常、補助療法として細胞毒性剤が投与される。
【0004】
従来の化学療法剤による処置は経験に拠ることが多く、主として組織学的腫瘍パラメータに基づき、具体的なメカニズムの理解が欠如している。そのため、標的指向性薬物がBRCの基礎的な処置となりつつある。タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害剤はこの種の代表的な2つであり、転移性BRCを有する患者にアジュバントまたは化学予防薬として用いた場合、良好な反応が達成されている(Fisher B. et al.,(1998) J Natl Cancer Inst 90, 1371-88;Cuzick J(2002) Lancet 360, 817-24)。しかしながら、その欠点は、エストロゲン受容体を発現している患者しか、これらの薬物に対して感受性がないことである。さらに最近では、長期のタモキシフェン処置が子宮内膜癌を引き起こす可能性、およびアロマターゼによる処置を受けた閉経後女性における骨折の悪影響に、特に的を絞った副作用に関する懸念が生じている(Coleman RE(2004) Oncology. 18(5 Suppl 3), 16-20)。副作用および薬剤耐性が出現するために、特徴が明らかにされた作用メカニズムに基づく、選択的で巧妙な薬物の新たな分子標的の探索および同定が現在必要とされている。
【0005】
BRCは、非常に多くの遺伝的変化との関連性がある複合的な疾患である。これらの異常が乳癌発生の原因であるか否かはほとんど分かっていないが、これらは、異型乳管過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)および浸潤性乳管癌(IDC)の段階を介すことを含む、正常細胞の形質転換と概して同一視され得る多段階過程によって起こることが報告されている。前癌病変のうち浸潤癌に進行するのは一部分に過ぎず、それ以外の病変は自然退行するという証拠が得られている。原発性BRCの発生、その進行およびその転移の形成をもたらす分子的関与に関するこの説明は、予防および処置を目標とする新たな戦略の主な焦点となる。
【0006】
cDNAマイクロアレイ解析によって作成された遺伝子発現プロファイルは、個々の癌の性質に関して、従来の組織病理学的方法が与え得るよりもかなり多くの詳細を提供することができる。このような情報の有用性は、腫瘍性疾患の処置および新規薬剤の開発のための臨床的戦略を改善する可能性があるという点にある(Petricoin, E. F. et al.,(2002) Nat Genet, 32 Suppl:474-9)。この目的のため、本発明者らは、種々の組織由来の腫瘍の発現プロファイルをcDNAマイクロアレイを用いて分析した(Okabe, H. et al.,(2001) Cancer Res, 61:2129-37.;Hasegawa, S. et al.,(2002) Cancer Res, 62:7012-7.;Kaneta, Y. et al.,(2002) Jpn J Cancer Res, 93:849-56.;Kaneta, Y. et al.,(2003) Int J Oncol, 23:681-91.;Kitahara, O. et al.,(2001) Cancer Res, 61:3544-9.;Lin, Y. et al.(2002) Oncogene, 21:4120-8.;Nagayama, S. et al.,(2002) Cancer Res, 62:5859-66.;Okutsu, J. et al.,(2002) Mol Cancer Ther, 1:1035-42.;Kikuchi, T. et al.,(2003) Oncogene, 22:2192-205)。
【0007】
最近では、cDNAマイクロアレイを使用することにより数千もの遺伝子の発現レベルが検討され、種々のタイプのBRCにおける異なるパターンが発見されている(Sgroi, D. C. et al.,(1999) Cancer Res, 59:5656-61.;Sorlie, T. et al.,(2001) Proc Natl Acad Sci U S A, 98:10869-74.;Kauraniemi, P. et al.,(2001) Cancer Res, 61:8235-40.;Gruvberger, S. et al.,(2001) S. Cancer Res, 61:5979-84.;Dressman, M. et al.,(2003) Cancer Res, 63:2194-2199)。
【0008】
BRCにおける遺伝子発現プロファイルに関する以前の研究により、診断マーカーおよび/または予後判定プロファイルの候補となり得る遺伝子が同定されている。しかしながら、BRC細胞は、高度の炎症反応を伴い、様々な細胞成分を含む固形腫瘤として存在するため、主に腫瘍塊から得られたこれらのデータは、乳癌発癌過程に起こる発現変化を適切に反映していない。したがって、以前に公表されたマイクロアレイデータは、不均一なプロファイルを反映している可能性が高い。
【0009】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究により、ある種の抗腫瘍薬の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、その活性化が翻訳後ファルネシル化に依存するRasに関連した増殖シグナル伝達経路を阻害するように当初開発された、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の処置に有効であることが示されている(Sun J et al.,(1998) Oncogene 16:1467-73)。同様に、抗癌剤と、癌原遺伝子受容体HER2/neuに拮抗することを目的とした抗HER2モノクローナル抗体、トラスツズマブを併用したヒトに対する臨床試験では、BRC患者の臨床応答および総生存率の改善が達成されている(Molina MA, et al.,(2001) Cancer Res.;61(12):4744-9)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤、STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を処置するためにようやく開発された。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(O'Dwyer ME & Druker BJ.(2000) Curr Opin Oncol.;12(6):594-7)。したがって、癌細胞において一般に上方制御される遺伝子産物が、新規抗癌剤を開発するための有力な標的となり得ることは明白である。
【0010】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することがさらに実証されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他の多くのTAAが発見されている(Boon,(1993) Int J Cancer 54:177-80;Boon and van der Bruggen,(1996) J Exp Med 183:725-9;van der Bruggen et al.,(1991) Science 254:1643-7;Brichard V et al.,(1993) J Exp Med 178:489-95;Kawakami Y et al.,(1994) J Exp Med 180:347-52)。新たに発見されたTAAのいくつかについては、現在、免疫療法の標的として臨床開発が行われている。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al.,(1991) Science 254:1643-7)、gp100(Kawakami Y et al.,(1994) J Exp Med 180:347-52)、SART(Shichijo S et al.,(1998) J Exp Med 187:277-88)、およびNY-ESO-1(Chen YT et al.,(1997) Proc Natl Acad Sci USA 94:1914-8)が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが実証されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano Y et al.,(2001) Brit J Cancer 84:1052-7)、HER2/neu(Tanaka H et al.,(2001) Brit J Cancer 84:94-9)、CEA(Nukaya I et al.,(1999) Int J Cancer 80:92-7)などが含まれる。
【0011】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にも関わらず(Rosenberg SA et al.,(1998) Nature Med 4:321-7.;Mukherji B et al.,(1995) Proc Natl Acad Sci USA 92:8078-82.;Hu X et al.,(1996) Cancer Res 56:2479-83)、結腸直腸癌を含む腺癌の処置に現在利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAのみである。癌細胞において大量に発現され、さらにその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補となると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAの同定は、様々なタイプの癌に対するペプチドワクチン戦略の臨床的使用を促進すると考えられる(Boon and van der Bruggen,(1996) J Exp Med 183:725-9.;van der Bruggen et al.,(1991) Science 254:1643-7.;Brichard V et al.,(1993) J Exp Med 178:489-95.;Kawakami Y et al.,(1994) J Exp Med 180:347-52.;Shichijo S et al.,(1998) J Exp Med 187:277-88.;Chen YT et al.,(1997) Proc Natl Acad Sci USA 94:1914-8.;Harris CC,(1996) J Natl Cancer Inst 88:1442-5.;Butterfield LH et al.,(1999) Cancer Res 59:3134-42.;Vissers JL et al.,(1999) Cancer Res 59:5554-9.;van der Burg SH et al.,(1996) J Immunol 156:3308-14.;Tanaka F et al.,(1997) Cancer Res 57:4465-8.;Fujie T et al.,(1999) Int J Cancer 80:169-72.;Kikuchi M et al.,(1999) Int J Cancer 81:459-66.;Oiso M et al.,(1999) Int J Cancer 81:387-94)。
【0012】
ペプチド刺激された特定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して有意なレベルのIFN-αを産生するが、51Cr放出アッセイにおいてHLA-A24またはA0201制限様式で腫瘍細胞に対して細胞傷害性を発揮することは稀であることが繰り返し報告されている(Kawano K et al.,(2000) Cancer Res 60:3550-8.;Nishizaka S et al.,(2000) Cancer Res 60:4830-7.;Tamura M et al.,(2001) Jpn J Cancer Res 92:762-7)。しかしながら、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人集団と同様に日本人集団においても一般的なHLA対立遺伝子である(Date Y et al.,(1996) Tissue Antigens 47:93-101.;Kondo A et al.,(1995) J Immunol 155:4307-12.;Kubo RT et al.,(1994) J Immunol 152:3913-24.;Imanishi T et al.,(1992) Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065.;Williams F et al.,(1997) Tissue Antigen 49:129)。したがって、これらのHLAによって提示される癌腫の抗原ペプチドは、日本人および白人集団における癌腫の処置に特に有用となり得る。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常は高濃度でのペプチドの使用に起因することが公知であり、これにより抗原提示細胞(APC)上で高レベルの特異的ペプチド/MHC複合体が生成され、これらのCTLが効率的に活性化されることになる(Alexander-Miller MA et al.,(1996) Proc Natl Acad Sci. USA 93:4102-7)。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
本発明は、ZNFN3A1遺伝子の発現が乳癌(BRC)細胞において特異的かつ有意に上昇するという発見に基づく。ZNFN3A1(「SMYD3」とも称される)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、それぞれSEQ ID NO:4および5に記載する。これらの配列はまた、「SMYD3」という遺伝子記号でGenbankアクセッション番号AB057595からも利用できる。
【0014】
したがって、本発明は、組織試料のような患者由来の生体試料におけるZNFN3A1の発現レベルを決定することによる、対象におけるBRCの素因を診断または判定する方法を提供する。正常細胞とは、乳房組織から得られたものである。遺伝子の発現レベルがその遺伝子の正常対照レベルと比較して変化していること、例えば上昇または低下していることにより、対象がBRCに罹患しているかまたはBRCを発症するリスクがあることが示される。
【0015】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるタンパク質発現レベルを指し、かつ正常対照レベルおよびBRC対照レベルの両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団由来の単一の発現プロファイル、または複数の発現プロファイル由来の単一の発現プロファイルであり得る。例えば、対照レベルは、以前に試験した細胞由来の発現プロファイルのデータベースであり得る。「正常対照レベル」とは、正常な健常個体において、またはBRCに罹患していないことが判明している個体の集団において検出される遺伝子の発現レベルを指す。正常個体とは、BRCの臨床症状を有さない個体のことである。これに対して、「BRC対照レベル」とは、BRCに罹患した集団で認められるZNFN3A1の発現プロファイルを指す。
【0016】
正常対照レベルと比較して、被験試料中に検出されるZNFN3A1の発現レベルが上昇していることにより、(試料を採取した)対象がBRCに罹患しているかまたはBRCを発症するリスクがあることが示される。
【0017】
本発明によれば、遺伝子発現レベルは、遺伝子の発現が対照レベルと比較して少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%もしくはそれ以上上昇または低下している場合に「変化している」と見なされる。または、発現レベルは、遺伝子発現が対照レベルと比較して少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、もしくは少なくとも10倍もしくはそれ以上上昇または低下している場合に、「上昇している」または「低下している」と見なされる。発現は、例えば患者由来の組織試料中の遺伝子転写産物に対するZNFN3A1プローブのハイブリダイゼーションを検出することにより決定され得る。
【0018】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料は、被験対象、例えばBRCを有することが判明しているかまたはその疑いがある患者から得られる任意の組織であり得る。例えば、組織は上皮細胞を含み得る。より具体的には、組織は乳管癌由来の上皮細胞であり得る。
【0019】
本発明はさらに、ZNFN3A1を発現する被験細胞を被験化合物と接触させ、ZNFN3A1の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を決定することにより、ZNFN3A1の発現もしくは活性を阻害または増強する物質を同定する方法を提供する。被験細胞は、乳癌から得られた上皮細胞のような上皮細胞であり得る。ZNFN3A1の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が、被験化合物の非存在下で検出される発現レベルまたはその遺伝子産物の活性と比較して低下していることにより、被験物質がZNFN3A1の阻害剤であり、したがってBRCの症状を軽減するために使用され得ることが示される。
【0020】
本発明のさらなる目的は、患者由来の生体試料中のZNFN3A1レベルを対照試料のZNFN3A1レベルと比較することにより、乳癌を有する患者の予後を評価または判定する方法を提供することである。発現レベルの上昇は、生存率が低いことを示す。特に、患者由来の試料において測定されたZNFN3A1の発現レベルが高いほど、処置後の寛解、回復、および/または生存率に関する予後はより悪く、臨床転帰が不良である可能性がより高くなる。
【0021】
本発明のさらなる目的は、処置後に採取した患者由来の生体試料中のZNFN3A1レベルを、処置前に採取した患者由来の生体試料のZNFN3A1レベルまたは対照試料のZNFN3A1レベルと比較する段階を含む、乳癌の処置過程をモニターする方法を提供することである。処置後のZNFN3A1発現レベルの低下は、処置が有効であることおよび/または予後が良好であることを示す。逆に、処置後のZNFN3A1発現レベルの上昇または変化の欠如は、処置が無効であることおよび/または予後が不良であることを示す。
【0022】
本発明はまた、ZNFN3A1核酸配列またはポリペプチドに結合する検出試薬を含む、乳癌を検出するためのキットを提供する。
【0023】
本発明の治療法には、アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、対象におけるBRCを処置または予防する方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は特定の標的遺伝子の発現を低下させる。例えば、アンチセンス組成物は、ZNFN3A1配列に相補的なヌクレオチドを含み得る。または本方法は、低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階を含み得る。本発明の文脈において、siRNA組成物はZNFN3A1の発現を低下させる。さらにもう1つの方法では、対象におけるBRCの処置または予防は、リボザイム組成物を対象に投与することにより行われ得る。本発明の文脈において、核酸特異的リボザイム組成物はZNFN3A1の発現を低下させる。実際に、ZNFN3A1に対するsiRNAの阻害効果が本明細書において確認される。例えば、本出願の実施例により、ZNFN3A1に対するsiRNAがBRC細胞の細胞増殖を阻害することが明確に実証される。したがって、本発明において、ZNFN3A1は乳癌の好ましい治療標的である。
【0024】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象におけるBRCを処置または予防する方法は、ZNFN3A1の核酸によってコードされるポリペプチド、またはそのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを対象に投与する段階を含み得る。本発明の文脈において、免疫学的活性断片とは、完全長の天然型タンパク質よりも長さは短いものの、完全長タンパク質によって誘導される免疫応答に類似した免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、免疫学的活性断片は、少なくとも8残基長であり、かつT細胞またはB細胞のような免疫細胞を刺激し得るものであるべきである。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の生成、および/または抗体の産生を検出することによって測定可能である。
【0025】
本明細書に記載する方法の1つの利点は、BRCの明白な臨床症状が検出される前に疾患が同定されることである。本発明のその他の目的、特徴、および利点は、添付の図面および実施例ならびに本明細書に添付する特許請求の範囲と併せて以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【0026】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、特記しない限り「少なくとも1つの」を意味する。
【0027】
本明細書において引用した特許、特許出願、および刊行物はすべて、その全文が参照により組み入れられる。
【0028】
特記しない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解される意味と同じ意味を有する。しかしながら、矛盾する場合、定義も含め本明細書が優先する。
【0029】
一般に、BRC細胞は、高度の炎症反応を有し、種々の細胞成分を含む固形腫瘤として存在する。そのため、以前に公表されたマイクロアレイデータは、不均一なプロファイルを反映している可能性が高い。
【0030】
本発明は、BRCを有する患者由来の細胞においてZNFN3A1の発現が上昇しているという発見に一部基づく。
【0031】
SEQ ID NO:4に示されるように、ZNFN3A1 cDNAは、ジンクフィンガーモチーフを有する推定428アミノ酸タンパク質をコードする1284ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む1622ヌクレオチドからなる。ジンクフィンガードメイン(MYND)はコドン49〜87に位置し、SET(Su 3-9, Enhancer-of-zeste, Trihorrax)ドメインはコドン117〜246に位置する。ZNFN3A1タンパク質は、好ましくはSEQ ID NO:5に記載のアミノ酸配列を含む。
【0032】
ZNFN3A1遺伝子は、肝細胞癌および結腸直腸癌において発現が上方制御される遺伝子として以前に同定された(WO 2003/027143を参照されたい)。さらに、ZNFN3A1のsiRNAは、肝細胞癌および結腸直腸腺癌の処置における有用性が実証されている(WO 2004/76623を参照されたい)。興味深いことに、ZNFN3A1タンパク質の細胞内局在性は、細胞周期の進行過程において、または培養細胞の密度により変化することが示されている;ZNFN3A1タンパク質は、細胞がS期の中期〜後期にあるかまたは低密度状態で培養された場合、核内に特異的に蓄積するが、細胞がその他の期にあるかまたは高密度状態で増殖している場合、細胞質および核に局在する。さらに、ZNFN3A1はRNAヘリカーゼKIAA0054と直接会合して、RNAポリメラーゼIIと複合体を形成し、次いでこの複合体は、上皮増殖因子受容体(EGFR)を含む下流遺伝子の転写を、その複合体と5'隣接領域中のエレメント「(C)CCCTCC(T)」との直接結合を介して活性化することが示されている。NIH3T3細胞でのZNFN3A1の外因性発現により、細胞増殖が増進されることが示されており、この発現をアンチセンスS-オリゴヌクレオチドで抑制すると、癌細胞の増殖が有意に阻害された。これらの知見は、ZNFN3A1が、RNAヘリカーゼおよびRNAポリメラーゼIIとの複合体を介して、EGFRを含む標的遺伝子の転写を活性化することにより、癌細胞に発癌活性を与えることを示唆している。BRCを有する患者から得られた細胞においてその発現が上昇していることから、ZNFN3A1またはその複合体の活性の阻害は、BRCを処置するための有望な戦略を意味する。
【0033】
本明細書において、cDNAマイクロアレイを用いて92例の乳癌を分析したところ、腫瘍対正常組織比のカットオフを2超過とした場合に、69例の浸潤性乳管癌(IDC)のうち36例において、および11例の非浸潤性乳管癌(DCIS)のうち6例において、ZNFN3A1発現が上昇していることが明らかになった。したがって、本発明は、BRCの症状を処置または軽減するためにその発現が変更され得る、BRCのマーカーとしておよびBRC遺伝子標的として同定されたZNFN3A1の診断有用性に関する。特に、細胞試料中のZNFN3A1の発現を測定することにより、BRCを診断することができる。同様に、種々の物質に応答したZNFN3A1の発現を測定することにより、BRCを処置するための物質を同定することができる。
【0034】
本発明は、ZNFN3A1の発現を決定する(例えば、測定する)段階を含む。既知配列に関するGenBank(商標)データベース登録情報によって提供される配列情報を使用し、当業者に周知の技法を用いてZNFN3A1を検出および測定することができる。例えば、ZNFN3A1に対応する配列データベース登録情報中の配列を用いて、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析においてZNFN3A1に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築することができる。別の例としては、これらの配列を用いて、例えば増幅に基づく検出法(逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応など)においてZNFN3A1核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。
【0035】
次いで、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料におけるZNFN3A1の発現レベルを、参照集団におけるZNFN3A1の発現レベルと比較する。参照細胞集団は、比較するパラメータが既知である1つまたは複数の細胞、すなわち乳管癌細胞(例えば、BRC細胞)または正常乳管上皮細胞(例えば、非BRC細胞)を含む。
【0036】
被験細胞集団における遺伝子発現のパターンが、参照細胞集団と比較してBRCまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非BRC細胞から構成される場合、被験細胞集団と参照細胞集団の間の遺伝子発現プロファイルの類似性が、被験細胞集団が非BRCであることを示す。反対に、参照細胞集団がBRC細胞から構成される場合、被験細胞集団と参照細胞集団の間の遺伝子発現プロファイルの類似性が、被験細胞集団がBRC細胞を含むことを示す。
【0037】
被験細胞集団におけるZNFN3A1遺伝子の発現レベルは、それが参照細胞集団における対応するZNFN3A1遺伝子の発現レベルと、1.1倍を上回る、1.5倍を上回る、2.0倍を上回る、5.0倍を上回る、10.0倍を上回る、またはそれ以上異なる場合、「変化している」とみなされる。
【0038】
被験細胞集団と参照細胞集団との間の差次的な遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞の癌性または非癌性状態に応じて差がないことが知られている核酸である。対照核酸の発現レベルは、被験集団および参照集団におけるシグナルレベルを標準化するのに用いることができる。例示的な対照遺伝子に、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が含まれるがそれらに限定されない。
【0039】
被験細胞集団は複数の参照細胞集団と比較することができる。複数の参照集団のそれぞれは、公知のパラメータが異なってもよい。したがって、被験細胞集団を、例えばBRC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、ならびに例えば非BRC細胞(正常細胞)を含むことが判明している第2の参照集団と比較してもよい。被験細胞は、BRC細胞を含むことが判明しているかまたはBRC細胞を含むことが疑われる対象からの組織型または細胞試料中に含まれてもよい。
【0040】
被験細胞は、好ましくは体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液、尿、または痰など)から得られる。例えば、被験細胞を乳房組織から精製してもよい。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、好ましくは乳管癌であることが判明しているか、または乳管癌であることが疑われる組織由来である。
【0041】
参照細胞集団における細胞は、被験細胞の組織型と類似した組織型に由来すべきである。任意で、参照細胞集団は細胞株、例えば、BRC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常非BRC細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメーターまたは条件に関して公知である細胞由来の分子情報のデータベースに由来していてもよい。
【0042】
対象は好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシが含まれるが、それらに限定されない。
【0043】
本明細書に開示したZNFN3A1の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質または核酸レベルで決定することができる。例えば、その配列を特異的に認識するプローブを使用して、ノーザンハイブリダイゼーション分析により、遺伝子発現を決定することができる。または、例えばZNFN3A1配列に特異的なプライマーを使用して、逆転写に基づくPCRアッセイにより遺伝子発現を測定してもよい。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルまたはその生物活性を測定することによって決定してもよい。そのような方法は当技術分野において周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を利用した免疫測定法が含まれるが、これに限定されない。ZNFN3A1遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性は、当技術分野において一般に周知である。例えば、ZNFN3A1はHELZ(RNAヘリカーゼ)またはRNAポリメラーゼIIと相互作用すること、およびメチルトランスフェラーゼ活性を有することが示されている(WO 2005/71102を参照されたく、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる)。
【0044】
BRCの診断:
本発明の文脈において、BRCは、細胞の被験集団(すなわち、患者由来の生体試料)におけるZNFN3A1の発現レベルを測定することにより診断される。好ましくは、被験細胞集団は、上皮細胞、例えば乳房組織から得られた細胞を含む。遺伝子発現は、血液または尿のような他の体液から測定することもできる。タンパク質レベルを測定するために、他の生体試料を使用することも可能である。例えば、診断する対象由来の血液または血清中のタンパク質レベルを、免疫測定法または他の従来の生物学的アッセイ法により測定することができる。
【0045】
本発明に従って、ZNFN3A1の発現を被験細胞または生体試料において決定し、ZNFN3A1に関連する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、BRCに罹患していないことが判明している集団で典型的に認められるZNFN3A1の発現プロファイルである。患者由来の組織試料におけるZNFN3A1の発現レベルの変化(例えば、上昇)は、対象がBRCに罹患しているかまたはBRCを発症するリスクがあることを示す。例えば、被験集団におけるZNFN3A1の発現が正常対照レベルと比較して上昇していることは、その対象がBRCに罹患しているかまたはBRCを発症するリスクがあることを示す。
【0046】
被験集団におけるZNFN3A1が、正常対照レベルと比較して変化していることは、その対象がBRCに罹患しているかまたはBRCを発症するリスクがあることを示す。
【0047】
ZNFN3A1の発現を阻害する物質の同定:
ZNFN3A1の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する物質は、ZNFN3A1を発現する被験細胞集団を被験物質と接触させ、次いでZNFN3A1の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を決定することにより同定することができる。物質の存在下でのZNFN3A1の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが、当該被験物質の非存在下での発現または活性レベルと比較して低下していることは、その物質がZNFN3A1の阻害物質であり、BRCを阻害するのに有用であることを示す。
【0048】
被験細胞集団は、ZNFN3A1を発現する任意の細胞であり得る。例えば、被験細胞集団は、乳房組織由来の細胞ような上皮細胞を含み得る。さらに、被験細胞は癌細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、被験細胞は、ZNFN3A1をトランスフェクションした細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に連結したZNFN3A1由来の制御配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクションした細胞であってもよい。
【0049】
対象におけるBRC処置の有効性の評価:
本明細書において同定されたZNFN3A1の差次的発現により、BRCの処置過程をモニターすることも可能になる。本方法において、BRCに対する処置を受ける対象から被験細胞集団が提供される。必要に応じて、処置前、処置中、および/または処置後といった様々な時点で被験細胞集団を対象から入手する。次いで、当該細胞集団におけるZNFN3A1の発現を決定し、BRC状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は、関心対象の処置に曝露されてはならない。
【0050】
参照細胞集団がBRC細胞を含まない場合、被験細胞集団および参照細胞集団におけるZNFN3A1の発現に類似性があることが、関心対象の治療が有効であることを示す。しかしながら、被験集団と正常対照参照細胞集団におけるZNFN3A1の発現の差は、あまり好ましくない臨床転帰または予後を示す。同様に、参照細胞集団がBRC細胞を含む場合、被験細胞集団および参照細胞集団におけるZNFN3A1の発現の差が、関心対象の処置が有効であることを示すが、被験集団および癌対照参照細胞集団におけるZNFN3A1の発現の類似性は、臨床転帰または予後があまり好ましくないことを示す。
【0051】
さらに、処置後に採取された対象由来生物試料において決定されるZNFN3A1の発現レベル(すなわち、処置後レベル)を、処置を開始する前に採取された対象由来生物試料において決定されるZNFN3A1の発現レベル(すなわち、処置前レベル)と比較することができる。処置後試料におけるZNFN3A1の発現レベルの低下は、関心対象の処置が有効であることを示し、一方、処置後試料における発現レベルの上昇または維持は、臨床転帰または予後があまり好ましくないことを示す。
【0052】
本明細書で用いる場合、「有効な」という用語は、処置が、対象における、病理学的に上方制御される遺伝子の発現低下、病理学的に下方制御される遺伝子の発現上昇、または乳管癌の大きさ、波及度、もしくは転移能の低下をもたらすことを示す。関心対象の処置が予防的に適用される場合、「有効な」という用語は、処置が乳房腫瘍の形成を遅延もしくは防止する、または臨床的なBRCの症状を遅延、予防、もしくは軽減することを示す。乳房腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行うことができる。
【0053】
さらに、有効性を、BRCの診断または処置のための任意の公知の方法と関連して判定することもできる。例えば、BRCを、症候性の異常、例えば、体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身倦怠感、衰弱、および黄疸を特定することによって診断することができる。
【0054】
特定の個体に対して適切なBRC処置のための治療剤の選択:
個体の遺伝子構成の差は、様々な薬物を代謝するそれらの相対的能力における差をもたらす。対象において代謝されて抗BRC物質として作用する物質は、対象の細胞において、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化し得る。したがって、本明細書に開示される差次的に発現したZNFN3A1は、物質が対象においてBRCの適した阻害物質であるか否かを決定するために、選択された対象由来の被験細胞集団において試験される、BRCの治療的または予防的阻害物質の推定を可能にする。
【0055】
特定の対象に適したBRCの阻害物質を同定するため、対象由来の被験細胞集団を治療剤に曝露し、ZNFN3A1の発現を決定する。
【0056】
本発明の方法の文脈において、被験細胞集団は、ZNFN3A1を発現するBRC細胞を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補物質の存在下でインキュベートし得、かつ被験細胞集団の遺伝子発現パターンを測定し、一つもしくは複数の参照プロファイル、例えばBRC参照発現プロファイルまたはZNFN3A1を含む非BRC参照発現プロファイルと比較することができる。
【0057】
BRCを含む参照細胞集団と比較した被験細胞集団におけるZNFN3A1の発現の低下は、その物質が治療的可能性を有することを示す。
【0058】
本発明の文脈において、被験物質はいかなる化合物または組成物であってよい。例示的な被験物質は、免疫調節剤を含むがそれに限定されない。
【0059】
治療剤を同定するためのスクリーニングアッセイ:
本明細書に開示した差次的に発現されるZNFN3A1を用いて、BRCを処置するための候補治療剤を同定することもできる。本発明の方法は、候補治療剤をスクリーニングし、候補治療剤がBRC状態に特徴的なZNFN3A1の発現プロファイルを非BRC状態に特徴的な遺伝子発現プロファイルへと変換させ得るかどうかを判定する段階を含む。
【0060】
本方法では、細胞を1つまたは複数の被験物質に(逐次的にまたは組み合わせで)曝露し、細胞におけるZNFN3A1の発現を測定する。被験集団でアッセイしたZNFN3A1の発現プロファイルを、被験物質に曝露していない参照細胞集団で検出されたZNFN3A1の発現レベルと比較する。
【0061】
ZNFN3A1のような過剰発現遺伝子の発現を抑制し得る物質は、臨床的に有益な可能性がある。このような物質はさらに、動物または被験対象における乳管癌増殖を防止する能力に関して試験することができる。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、BRCの処置における潜在的標的に作用する候補物質をスクリーニングする方法を提供する。上記で詳述したように、ZNFN3A1の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を調節することにより、BRCの発症および進行を調節することができる。したがって、BRCの処置における潜在的標的に作用する候補物質を、このような発現レベルおよび活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング法によって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
a) 被験化合物をZNFN3A1のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c) ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【0063】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
a) 候補化合物をZNFN3A1を発現する細胞と接触させる段階;および
b) 候補化合物の非存在下で検出されるZNFN3A1の発現レベルと比較して、ZNFN3A1の発現レベルを低下させる候補化合物を選択する段階。
ZNFN3A1遺伝子を発現する細胞には、例えば、BRCから樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は、本発明の上記スクリーニングに用いることができる。
【0064】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
a) 被験化合物をZNFN3A1のポリヌクレオチドよってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
b) 段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
c) 被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して、ZNFN3A1のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を抑制する化合物を選択する段階。
【0065】
本発明のスクリーニング法に使用するためのタンパク質は、ZNFN3A1のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。ZNFN3A1およびそれによってコードされるタンパク質に関する情報に基づき、当業者は、スクリーニングの指標としてタンパク質の任意の生物活性を選択し、かつ選択した生物活性についてアッセイする適した任意の測定法を選択することができる。
【0066】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
a) 候補化合物を、ZNFN3A1の転写制御領域およびその転写制御領域の調節下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
b) レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
c) 候補化合物の非存在下で検出されるレポーター遺伝子の発現レベルまたは活性と比較して、レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる候補化合物を選択する段階。
【0067】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。本発明のスクリーニング法に適したレポーター構築物は、ZNFN3A1の転写制御領域を用いて調製することができる。ZNFN3A1の転写制御領域が当業者に公知である場合、以前の配列情報を用いてレポーター構築物を調製することができる。ZNFN3A1の転写制御領域が未知である場合、ZNFN3A1のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写制御領域を含むヌクレオチド部分をゲノムライブラリーから単離することができる。
【0068】
スクリーニングによって単離された化合物は、ZNFN3A1の発現またはZNFN3A1によってコードされるタンパク質の活性を阻害し、BRCの処置または予防に適用することができる薬物を開発するための候補となる。
【0069】
さらに、ZNFN3A1によってコードされるタンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換により変換された化合物もまた、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物として含まれる。
【0070】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーを含むがそれらに限定されない他の哺乳動物のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。本発明によって企図される薬学的組成物および製剤、ならびにその作成および使用方法は、引き続くセクションでさらに記載する。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口摂取するか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取することができる。例えば、化合物は、滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などを含むがそれらに限定されない薬学的に許容される担体または媒体と共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。これらの調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0071】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料が含まれるがそれらに限定されない。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体が上記の成分にさらに含まれ得る。注射用滅菌組成物は、注射用に適した蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って調製することができる。
【0072】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールのようなアルコール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール;ポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤といった適した溶解剤と共に用いることができる。
【0073】
ゴマ油または大豆油は、溶解剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと併用して用いてもよく、かつリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤;ならびに/または抗酸化剤と共に製剤化してもよい油脂性液体の例である。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0074】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、もしくは経皮注射として投与してもよく、または、鼻腔内、気管支内、筋肉内、もしくは経口投与として投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかしながら、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。化合物がDNAによってコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、それらのパラメーターの選択および最適化は当業者の権限内である。
【0075】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、一般的に、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0076】
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で化合物を非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合、適した投与量は、体重60 kgに変換してルーチン的に算出され得る。
【0077】
BRCを有する対象の予後の評価:
本発明はまた、被験細胞集団におけるZNFN3A1の発現を、全病期にわたる患者由来の参照細胞集団におけるZNFN3A1の発現と比較する段階を含む、BRCを有する対象の予後を評価する方法を提供する。被験細胞集団および参照細胞集団におけるZNFN3A1の遺伝子発現を比較することにより、または対象由来の被験細胞集団の経時的な遺伝子発現のパターンを比較することにより、対象の予後を評価することができる。
【0078】
例えば、ZNFN3A1の発現が正常対照と比較して上昇することは、予後が良好でないことを示す。逆に、ZNFN3A1の発現が正常対照と比較して類似していることは、対象の予後がより良好であることを示す。好ましくは、対象の予後は、ZNFN3A1の発現プロファイルを比較することにより評価することができる。
【0079】
キット:
本発明はまた、BRC検出試薬、例えば、ZNFN3A1核酸の一部に相補的なオリゴヌクレオチド配列のような、ZNFN3A1核酸に特異的に結合するかもしくはこれを同定する核酸、またはZNFN3A1核酸によってコードされるタンパク質に結合する抗体を含む、乳癌を検出するためのキットを提供する。検出試薬は、キットの形態で共に包装され得る。例えば、検出試薬、例えば核酸または抗体(固相マトリクスに結合してあるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは個別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または検出可能な標識は、個別の容器に包装され得る。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROMなど)もまた、キットに含まれ得る。キットのアッセイ形式は、当技術分野においていずれも公知であるノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであり得る。
【0080】
例えば、BRC検出用試薬を多孔性ストリップのような固体マトリックス上に固定し、少なくとも1つのBRC検出部位を形成してもよい。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが1つの核酸を含む複数の部位を含んでもよい。試験ストリップは、陰性対照部位および/または陽性対照部位を含む場合もある。または、対照部位を検査ストリップとは別のストリップ上に配置してもよい。任意で、異なる検出部位が異なる量の固定化核酸を含んでもよく、すなわち、第1の検出部位でより多く、以後の部位でより少なく含んでもよい。被験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈している部位の数により、試料中に存在するBRC量の定量的指標が得られる。検出部位は任意の適した検出可能な形態として構成することができ、典型的に検査ストリップの幅全体にわたる棒状またはドット状の形態にある。
【0081】
BRCを阻害する方法:
本発明はさらに、ZNFN3A1の発現(もしくはその遺伝子産物の活性)を低下させることにより、対象におけるBRCの症状を処置または軽減するための方法を提供する。適した治療用化合物を、BRCに罹患しているか、または発症するリスク(またはそれに対する感受性)を有する対象に、予防的または治療的に投与することができる。そのような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはZNFN3A1の異常な発現レベルもしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することにより同定することができる。本発明の文脈において、適した治療剤には、例えば、細胞周期調節および細胞増殖の阻害物質が含まれる。
【0082】
または、本発明の治療方法は、乳房細胞において発現が異常に上昇しているZNFN3A1(「上方制御される」または「過剰発現される」遺伝子)の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を低下させる段階を含み得る。発現は、当技術分野で公知のいくつかの方法のいずれかによって阻害することができる。例えば、過剰発現される遺伝子の発現を阻害または拮抗する核酸、例えば、過剰発現される遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することにより、発現を阻害することができる。
【0083】
アンチセンス核酸およびsiRNA:
上記のように、ZNFN3A1のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸を用いて、遺伝子の発現レベルを低下させることができる。BRCにおいて上方制御されるZNFN3A1に対応するアンチセンス核酸は、BRCの処置に有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、ZNFN3A1のヌクレオチド配列またはそれらに対応するmRNAと結合することにより作用し得、それによって遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/またはZNFN3A1によってコードされるタンパク質の発現を阻害し、それによってタンパク質の機能を阻害する。本明細書で用いる「アンチセンス核酸」という用語は、標的配列に完全に相補的なヌクレオチド、およびアンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズし得る限り、1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの両方を包含する。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個の連続したヌクレオチドの範囲にわたって、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは少なくとも80%またはそれ以上、より好ましくは少なくとも90%またはそれ以上、さらにより好ましくは少なくとも95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には、当技術分野において公知のアルゴリズムを使用することができる。
【0084】
本発明のアンチセンス核酸は、ZNFN3A1によってコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、そのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合し、それらの転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつタンパク質の発現を阻害することによって作用し、その結果タンパク質の機能を阻害する。
【0085】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性の適切な基剤と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0086】
同様に、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、本発明のアンチセンス核酸を、例えば錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬、および凍結乾燥製剤として薬学的に製剤化することもできる。これらは以下の公知の方法によって調製することができる。
【0087】
本発明のアンチセンス核酸は、罹患部位に直接適用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に投与することができる。アンチセンスを含む溶媒を使用することで、持続性および膜透過性を高めることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が含まれるがそれらに限定されない。
【0088】
本発明のアンチセンス核酸誘導体の用量は、患者の状態に応じて適切に調節され、所望の量で用いることができる。例えば0.1 mg/kg〜100 mg/kg、好ましくは0.1 mg/kg〜50 mg/kgの用量範囲で投与することができる。
【0089】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害し、そのため、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害物質も、本発明のタンパク質の生物学的活性を阻害し得るため、有用である。
【0090】
本発明の方法を用いて、細胞におけるZNFN3A1の発現、例えば細胞の悪性形質転換に起因する上方制御を変更することができる。標的細胞においてsiRNAがZNFN3A1に対応する転写産物と結合することにより、細胞によるタンパク質産生が低下する。
【0091】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、チオエート化オリゴヌクレオチドを用いて、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与することができる。
【0092】
同様に、ZNFN3A1に対するsiRNAを用いて、ZNFN3A1の発現レベルを低下させることができる。本明細書において「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。細胞にsiRNAを導入する標準的な技法が用いられ得るが、これにはDNAがRNA転写の鋳型となる技法が含まれる。本発明の文脈において、siRNAは、ZNFN3A1などの上方制御されるマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写産物が標的遺伝子のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0093】
ZNFN3A1のsiRNAは標的mRNAにハイブリダイズし、その結果、通常一本鎖mRNA転写産物と会合し、それによって翻訳およびひいてはタンパク質の発現を妨害することにより、ZNFN3A1によってコードされるポリペプチドの産生を減少させるかまたは阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、ストリンジェントな条件下でZNFN3A1のmRNAに特異的にハイブリダイズする能力により定義され得る。本発明の目的において、「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」という用語は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」下でハイブリダイズする能力を指すために用いられる。本明細書で使用する「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、典型的には核酸の複雑な混合物中で核酸分子がその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列には検出可能な程度にハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列に依存し、種々の状況によって異なる。配列が長いほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)において見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、特定の配列について、規定のイオン強度pHでの融解温度(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tmとは、標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である(標的配列が過剰に存在する場合、Tmでは、プローブの50%が平衡状態で占有されている)。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によっても達成され得る。選択的または特異的なハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルとは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、以下のものが含まれる:50%ホルムアミド、5×SSC、および1% SDS中での42℃におけるインキュベーション、または5×SSC、1% SDS中での65℃におけるインキュベーション、0.2×SSCおよび0.1% SDS中での50℃における洗浄を伴う。
【0094】
本発明の文脈において、siRNAは好ましくは、500、200、100、50、もしくは25ヌクレオチド長またはそれ未満である。より好ましくは、siRNAオリゴヌクレオチドは約19〜25ヌクレオチド長である。ZNFN3A1 siRNAを作製するための例示的な核酸配列には、標的配列としてのSEQ ID NO:1のヌクレオチドの配列が含まれる。siRNAの阻害活性を増強する目的で、ヌクレオチド「u」を標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することができる。付加する「u」の数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端において一本鎖を形成する。
【0095】
ZNFN3A1のsiRNAは、mRNA転写産物と結合し得る形態で、細胞内に直接導入することができる。これらの態様において、本発明のsiRNA分子は典型的には、アンチセンス分子に関して上記のように修飾される。その他の修飾もまた可能であり、例えば、コレステロール結合siRNAは薬理学的特性を改善することが示されている(Song et al.,(2003) Nature Med. 9:347-51)。または、siRNAをコードするDNAを、ベクターに含めて送達することもできる。
【0096】
ベクターは、例えば、ZNFN3A1標的配列を、その配列に隣接する機能的に連結された制御配列を有する発現ベクター中に、両鎖の発現が(DNA分子の転写により)可能になるような様式でクローニングすることによって作製してもよい(Lee, N.S. et al.,(2002) Nature Biotechnology 20:500-5)。ZNFN3A1のmRNAに対してアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、ZNFN3A1のmRNAに対してセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖とアンチセンス鎖はインビボでハイブリダイズして、ZNFN3A1をサイレンシングするためのsiRNA構築物を生じる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたZNFN3A1は、単一の転写産物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有する、例えばヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることも可能である。
【0097】
ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明はまた、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'(式中、[A]は、ZNFN3A1のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である)を有するsiRNAを提供する。好ましい態様において、[A]はZNFN3A1の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。領域[A]は[A']とハイブリダイズし、次いで領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は、好ましくは3〜23ヌクレオチド長であり得る。ループ配列は、例えば、以下の配列からなる群より選択され得る(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque, J.-M. et al.,(2002) Nature 418:435-8)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M, et al.,(2002) Nature, Vol. 418:435-8。
UUCG:Lee, N.S., et al.,(2002) Nature Biotechnology 20:500-5。Fruscoloni, P., et al.,(2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4):1639-44。
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., et al.,(2002) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4:457-67。
【0098】
したがって、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択され得る。好ましいループ配列は、UUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。本発明の文脈における使用に適した例示的なヘアピンsiRNAには、以下のものが含まれる:
ZNFN3A1-siRNAに関して(SEQ ID NO:1の標的配列に関して)
5'-aacaucuaccagcugaaggug-[b]-caccuucagcugguagauguu-3'(SEQ ID NO:2)および
5'-aacaucuaccagcugaaggug-[b]-caccuucagcugguagauguu-3'(SEQ ID NO:3)。
【0099】
適切なsiRNAのヌクレオチド配列は、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/ misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計することができる。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0100】
siRNA標的部位の選択:
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位により富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列に対して有意な相同性をもついかなる標的配列も検討対象から除く。相同性検索は、NCBIのサーバー上(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にあるBLASTを用いて実施することができる。
3.合成に適した標的配列を選択する。アンビオンでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0101】
ZNFN3A1遺伝子に隣接する調節配列は、それらの発現が独立に、または時間的もしくは空間的様式で調節されることが可能なように、同一の場合もあれば異なる場合もある。siRNAは、ZNFN3A1鋳型をそれぞれ、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNAポリメラーゼIII転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進剤として有用である。
【0102】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害し、したがって本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質は、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、BRCを処置するのに有用である。
【0103】
さらに、本発明は、本発明のZNFN3A1ポリペプチドの発現を阻害するリボザイムを提供する。一般に、リボザイムは大型リボザイムと小型リボザイムに分類される。大型リボザイムは、核酸のリン酸エステル結合を切断する酵素として知られている。大型リボザイムとの反応後、反応した部位は5'リン酸基および3'ヒドロキシル基からなる。大型リボザイムはさらに、(1)グアノシンによる5'スプライス部位でのエステル交換反応を触媒するI群イントロンRNA;(2)投げ縄構造を介した2段階反応による自己スプライシングを触媒するII群イントロンRNA;および(3)加水分解によりtRNA前駆体を5'部位で切断するリボヌクレアーゼPのRNA成分に分類される。一方、小型リボザイムは大型リボザイムと比較してサイズが小さく(約40 bp)、RNAを切断して5'ヒドロキシル基および2'-3'環状リン酸を生じる。ハンマーヘッド型リボザイム(Koizumi M et al.,(1988) FEBS Lett 228:228)およびヘアピン型リボザイム(Buzayan,(1986) Nature 323:349;Kikuchi Y and Sasaki N,(1991) Nucleic Acids Res 19:6751)は小型リボザイムに含まれる。リボザイムを設計および構築する方法は、当技術分野において公知である(Koizumi M et al.,(1988) FEBS Lett 228:228;Koizumi M et al.,(1989) Nucleic Acids Res 17:7059;Kikuchi Y and Sasaki N,(1991) Nucleic Acids Res 19:6751を参照されたい)。したがって、本発明のポリペプチドの発現を阻害するリボザイムを、それらの配列情報(SEQ ID NO:4)およびこれらの従来の方法に基づいて構築することも可能である。
【0104】
ZNFN3A1転写産物に対するリボザイムは、過剰発現されるZNFN3A1タンパク質の発現を阻害し、このタンパク質の生物活性を抑制し得る。したがって、これらのリボザイムは乳癌の処置または予防に有用である。
【0105】
抗体:
または、BRCにおいて過剰発現されるZNFN3A1の遺伝子産物の活性または機能は、遺伝子産物に結合するか、または別の方法でその機能を阻害する化合物を投与することによって阻害することができる。例えば、化合物は、ZNFN3A1の遺伝子産物に結合する抗体である。
【0106】
本発明は、抗体の使用、特に、ZNFN3A1によってコードされるタンパク質に対する抗体またはそのような抗体の断片の使用に言及する。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち上方制御されたマーカーの遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに、抗体は、ZNFN3A1によってコードされるタンパク質に結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖由来のFv断片が適切なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston J. S. et al., (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-83)。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインやペプシンなどの酵素で処理することにより作製することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞で発現させることができる(例えばCo M. S. et al., (1994) J. Immunol. 152:2968-76.;Better M. and Horwitz A. H. (1989) Methods Enzymol. 178:476-96.;Pluckthun A. and Skerra A. (1989) Methods Enzymol. 178:497-515.;Lamoyi E. (1986) Methods Enzymol. 121:652-63.;Rousseaux J. et al., (1986) Methods Enzymol. 121:663-9.;Bird R. E. and Walker B. (1991) W. Trends Biotechnol. 9:132-7を参照されたい)。
【0107】
抗体は、例えばポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0108】
または、抗体には、非ヒト抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域とを有するキメラ抗体、または非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体が含まれ得る。そのような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。ヒト化は、ヒト抗体の対応する配列の代わりに、齧歯類のCDRまたはCDR配列を用いることによって行われ得る(例えば、Verhoeyen M et al., (1988) Science 239:1534-6を参照されたい)。したがって、このようなヒト化抗体は、実質的にヒト可変ドメインの全長より短い領域が、非ヒト種由来の対応する配列によって置き換えられたキメラ抗体である。
【0109】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加えてヒト可変領域をも含む完全ヒト抗体を用いることもできる。このような抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロ法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, (1991) J. Mol. Biol. 227:381-8)。同様に、ヒト免疫グロブリン座位を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによってヒト抗体を作製することもできる。このアプローチは例えば、米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0110】
上記のようにして得られた抗体は、均一になるまで精製してもよい。例えば、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って、抗体の分離および精製を行うことができる。例えば、これらに限定されないが、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、および等電点電気泳動を適切に選択しかつ組み合わせて使用することにより、抗体を分離および単離することができる(Antibodies:A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane,(1988) Cold Spring Harbor Laboratory)。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティーカラムとして使用することができる。用いられる例示的なプロテインAカラムには、例えば、ハイパーD、POROS、およびセファロースF.F(Sepharose F.F)(Pharmacia)が含まれる。
【0111】
例示的なクロマトグラフィーには、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.,(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。クロマトグラフィー手順は、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0112】
本発明の抗体の抗原結合活性を測定するために、例えば、吸光度測定、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光検査法を用いてもよい。ELISAの場合、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートに添加し、次いで抗体産生細胞の培養上清または精製抗体といった所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。続いて洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して試料の抗原結合活性を評価する。抗体の結合活性を評価するには、C末端断片またはN末端断片といったポリペプチドの断片を抗原として使用することもできる。本発明の抗体の活性評価には、BIAcore(Pharmacia)を用いてもよい。
【0113】
本発明の抗体を本発明のポリペプチドが含まれると予測される試料に対して曝露し、抗体とポリペプチドによって形成される免疫複合体を検出または測定することにより、上記の方法によって本発明のZNFN3A1ポリペプチドの検出または測定が可能になる。
【0114】
本発明によるポリペプチドの検出または測定の方法は、ポリペプチドを特異的に検出または測定することができるため、ポリペプチドを使用する種々の実験において有用である。癌細胞において起こる特定の分子変化を対象にした癌治療は、進行性BRC処置のためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのメシル酸イマチニブ(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、B細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)などの抗癌剤の臨床開発および規制認可により確認されている(Ciardiello F. et al.,(2001) Clin Cancer Res.;7(10):2958-70. Review.;Slamon DJ. et al.,(2001) N Engl J Med.;344(11):783-92.;Rehwald U. et al.,(2003) Blood.;101(2):420-4.;Fang G.et al.,(2000). Blood, 96, 2246-53)。これらの薬物は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬物は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的化薬物は、標準的な化学療法と併用して用いた場合、その有効性を増強することができる(Gianni L. (2002). Oncology, 63 Suppl 1, 47-56.; Klejman A. et al., (2002) Oncogene, 21, 5868-76)。したがって、将来の癌処置はおそらく、血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の異なる特徴をねらった標的特異的薬剤と従来の薬剤の併用を含むであろう。
【0115】
これらの調節方法は、エクスビボもしくはインビトロで行うこともでき(例えば、細胞を物質とともに培養することにより)、またはインビボで行うこともできる(例えば、物質を対象に投与することにより)。本方法は、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを、差次的に発現される遺伝子の異常な発現またはそれらの遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療法として投与する段階を含む。
【0116】
遺伝子および遺伝子産物の発現レベルまたは生物学的活性がそれぞれ(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)上昇していることによって特徴付けられる疾患および障害は、過剰発現される一つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、それを低下させるまたは阻害する)治療薬によって処置される可能性がある。活性に拮抗する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。
【0117】
したがって、本発明の文脈において利用できる治療薬には、例えば以下のものが含まれる:(i)過剰発現される遺伝子もしくは遺伝子産物に対する抗体;(ii)アンチセンス核酸、もしくは「機能不全」である核酸(すなわち、過剰発現される遺伝子の核酸内への異種挿入による);(iii)低分子干渉RNA(siRNA);または(iv)調節因子(すなわち、過剰発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させる阻害物質、拮抗剤)。機能不全アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために利用される(例えば、Capecchi MR,(1989) Science 244:1288-92を参照されたい)。
【0118】
レベルの上昇は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を得て(例えば、生検組織から)、これをRNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロでアッセイすることによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、免疫学的分析(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーション分析(例えば、ノーザン分析、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるがこれらに限定されない。
【0119】
予防的投与は、疾患または障害の出現が妨げられるか、またはその進行が遅れるように、疾患の明瞭な臨床症状が現れる前に行う。
【0120】
本発明の治療方法は、細胞を、差次的に発現される遺伝子の遺伝子産物の活性のうち一つまたは複数を調節する物質と接触させる段階を含んでもよい。タンパク質活性を調節する物質の例には、核酸、タンパク質、このようなタンパク質の天然の同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣物およびその他の低分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
BRCに対するワクチン接種:
本発明はまた、ZNFN3A1の核酸によってコードされるポリペプチド、そのようなポリペプチドの免疫学的活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象におけるBRCを処置または予防する方法に関する。ポリペプチドの投与により、対象において抗腫瘍免疫が誘導される。抗腫瘍免疫を誘導するため、ZNFN3A1の核酸によってコードされるポリペプチド、そのようなポリペプチドの免疫学的活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを、それを必要とする対象に投与する。さらに、ZNFN3A1の核酸によってコードされるポリペプチドは、BRCおよびIDCの浸潤に対してそれぞれ抗腫瘍免疫を誘導し得る。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片は、BRCに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合させた形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)により提示させた形態で投与してもよい。DCは抗原提示能が強いため、APCの中でもDCを用いることが最も好ましい。
【0122】
本発明において、BRCに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明によると、ZNFN3A1によってコードされるポリペプチドまたはその断片は、ZNFN3A1を発現するBRC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導する可能性があるHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープであることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般に抗腫瘍免疫は、以下のような免疫応答を含む:
-腫瘍に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
-腫瘍を認識する抗体の誘導、および
-抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0123】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると決定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、そのタンパク質に対する宿主における免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することで検出できる。
【0124】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによるT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0125】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、被験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCとの接触後に対象細胞に対して細胞傷害作用を有するT細胞が検出されることは、被験ポリペプチドが、細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することを示す。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または3H-チミジンの取り込み活性、またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)の放出を指標として用いることで、腫瘍細胞の損傷度を評価する方法も周知である。
【0126】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0127】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであると見なされる。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触させることによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞傷害性を獲得したCTLも、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0128】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって増加することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0129】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することで確認できる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、かつ腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なすことができる。
【0130】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、BRCを処置および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。癌を有する個体の死亡率および疾病率の低下、血液中の腫瘍マーカーのレベルの低下、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。このような治療および予防効果は、好ましくは統計的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えば、スチューデントt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いてもよい。
【0131】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と同時に(または連続的に)投与した場合、タンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を意味する。例示的アジュバントには、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体を適切に組み合わせることができる。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等が含まれるが、それらに限定されない。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身または局所投与され得る。ワクチン投与は、1回投与によって行ってもよく、または複数回投与によって追加刺激してもよい。
【0132】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって処置または予防することができる。より具体的には、処置または予防を受ける対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させ、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を破壊する高い活性を有する細胞をクローン化して増やすことで、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0133】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖疾患を処置または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0134】
BRCまたは悪性BRCを阻害するための薬学的組成物:
本発明の文脈において、適切な薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で、個別の用量単位に包装される。経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれるが、それらに限定されない。適切な製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス、舐剤、またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、および/または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で1つもしくは複数の製剤成分を用いて、圧縮または成形により作製することができる。圧縮錠は、粉剤または顆粒剤のような流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、および/または分散剤と混合して、適した機械において圧縮することによって調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製してもよい。錠剤は、当技術分野で周知の方法にしたがってコーティングすることができる。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれてもよい)、および/または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、月に1回服用される1個の錠剤を含む場合がある。
【0135】
非経口投与に適した製剤には、例えば抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤および対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を任意で含む水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁剤および/または濃化剤を含む水性および非水性滅菌懸濁液が含まれるが、それらに限定されない。製剤は、単位用量または複数回用量で容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤を持続注入用とすることができる。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に説明した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0136】
直腸投与用の適切な製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内への、例えば口腔内または舌下への局所投与用の適切な製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれるが、それらに限定されない。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、もしくは分散性の粉末として、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤も含む水性または非水性基剤によって製剤化してもよい。
【0137】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達するための他の都合のよい手段によって化合物を都合よく送達することができる。加圧容器は、適切な噴霧剤(ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス、または他の適切なガス)を含む場合がある。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、一定量を送達するバルブを提供することで決定することができる。
【0138】
または、吸入もしくは吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与され得るカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形としてもよい。
【0139】
他の製剤には、治療剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0140】
望ましい場合、活性成分が徐放性となるように適合した上記の製剤を使用することができる。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、および/または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0141】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の物質が含まれていてもよいと理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでいてもよい。
【0142】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分またはその適当な分画の有効量を含む。
【0143】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で経口または注射によって投与され得る。成人の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日であり、好ましくは約5 mg〜約10 g/日であり、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される錠剤または他の単位投与剤型は、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常は約100 mg〜約500 mgを含む量を都合よく含んでもよい。
【0144】
使用される用量は、対象の年齢および性別、処置する正確な疾患、およびその重症度を含む、いくつかの因子に依存する。投与経路も、条件および重症度によって変動する場合がある。いずれにしても、適切で最適な投与量は、当業者により、上述した要因を考慮した上で慣行的に計算され得る。
【0145】
本発明の局面を以下の実施例に記載するが、これらは、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限するものではない。以下の実施例は、BRC細胞において差次的に発現される遺伝子の同定および特徴付けを説明する。しかしながら、本明細書に記載する方法および材料と類似した、またはそれらと同等である方法および材料を、本発明の実施または試行において使用することも可能である。
【0146】
[実施例1]
BRCにおけるZNFN3A1発現の増強
92例の乳癌からcDNAマイクロアレイを用いて得られた包括的な遺伝子発現プロファイルデータから、腫瘍対正常組織比のカットオフを2超過とした場合に、69例の浸潤性乳管癌(IDC)のうち36例において、および11例の非浸潤性乳管癌(DCIS)のうち6例において、ZNFN3A1発現が上昇していることが明らかになった(図1a)。この上昇は、マイクロアレイに使用したcDNAを使用して半定量的RT-PCRにより、ランダムに選択した12例のIDCのうち7例において、正常乳管細胞と比較して確認された(図1b)。BRC組織におけるZNFN3A1タンパク質発現を調べるため、6例の塊状BRC組織およびそれらの対応する非癌性乳房組織から抽出されたタンパク質を用いて、ウェスタンブロット分析を行った。6例の腫瘍組織において、ZNFN3A1の顕著な蓄積が一貫して認められた(図1c)。
【0147】
ZNFN3A1タンパク質のウェスタンブロット分析すべてにおいて、43 kDaおよび45 kDaのサイズの2つのバンドが検出されたため(図1c)、2つの形態のタンパク質についてさらに検討した。抽出物をホスファターゼ処理したが、いずれのバンドも強度に変化は見られなかった(データは示さず)。興味深いことに、野生型プラスミドをトランスフェクションした細胞の抽出物を用いてウェスタンブロット分析を行ったところ、抗ZNFN3A1抗体により2つのバンドが示されたが(図2b、左パネル、レーン1)、抗Flag抗体では単一の45-kDaバンドが示された(図2b、右パネル、レーン1)。プラスミドは、アミノ酸末端においてFlagタグと融合された野生型ZNFN3A1を発現したために、小さい方のバンドはZNFN3A1タンパク質の切断型であると推定された。そのため、種々の欠失型ZNFN3A1を発現するZNFN3A1プラスミドを調製し(図2a)、ウェスタンブロット分析により変異型タンパク質について調べた。アミノ酸末端を含まない欠失変異体(p3xFlag-ZNFN3A1-Δ1、-Δ2、および-Δ3)は、抗ZNFN3A1抗体により単一のバンドを示した(図2b、左パネル)。このデータは、43 kDa型のZNFN31Aが、コドン1と45の間における切断に起因するという見解と一致する。加えて、抗ZNFN3A1抗体はC末端欠失型の変異体ZNFN3A1タンパク質(p3xFlag-ZNFN3A1-Δ4および-Δ5)に対応するどのバンドも検出しなかったため(図2b左パネル)、この抗体はコドン250と428の間にあるエピトープを認識するはずである。
【0148】
この抗体を用いてZNFN3A1の免疫組織化学的染色を行ったところ、調べた4つの癌組織において、乳癌細胞では強い染色が検出されたが、間質細胞では染色は検出されなかった(図3)。
【0149】
[実施例2]
ZNFN3A1 siRNAによるBRC細胞の増殖抑制
ZNFN3A1を抑制することで、BRC細胞においてアポトーシスが誘導され得るかどうかを試験するため、結腸癌細胞および肝臓癌細胞においてZNFN3A1発現を効率的に抑制したZNFN3A1 siRNA-12(WO2004/076623を参照されたい、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる)を用いて、細胞生存アッセイを行った。ZNFN3A1 siRNA発現ベクターの構築に使用したオリゴヌクレオチド(SEQ ID NO:1の標的配列に関して)は、以下の通りである:
psiU6BX-ZNFN3A1-12、フォワード:5'-AACATCTACCAGCTGAAGGTGTTCAAGAGACACCTTCAGCTGGTAGATGTT-3' (SEQ ID NO:2)、
リバース:5'-AACATCTACCAGCTGAAGGTGTCTCTTGAACACCTTCAGCTGGTAGATGTT-3' (SEQ ID NO:3)。
10種のBRC細胞株のウェスタンブロット分析から、10種のBRC細胞のうち、例えばBT-20、HBL-100、MDA-MB-231、MCF7、およびT47D細胞などの8種のBRC細胞において、ZNFN3A1が大量に発現されていることが明らかになった(図4a)。MDA-MB-231、MCF7、およびT47D細胞にpsiU6BX-ZNFN3A1-12、psiU6-ルシフェラーゼ、またはpsiU6(偽)をトランスフェクションし、これらを適切な濃度のG418と共に培養し、細胞計数キットにより細胞生存度を分析した。その結果、psiU6BX-ZNFN3A1-12は、3種の細胞株において、psiU6BX-ルシフェラーゼまたはpsiU6BX-偽と比較して有意な増殖阻害効果を示した(図4b)。したがって、ZNFN3A1を阻害することは、BRCを処置するための合理的な戦略であると考えられる。
【0150】
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャーダイセクションとゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイの組み合わせによって得られた、本明細書に記載のBRCの遺伝子発現解析により、癌の予防および治療の標的として、特異的遺伝子であるZNFN3A1が同定された。この差次的に発現される遺伝子の発現に基づいて、本発明は、BRCを同定および検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0151】
本明細書に記載した方法はまた、BRCの予防、診断、および処置のさらなる分子標的の同定に有用である。本明細書において報告したデータは、BRCの包括的な理解を深め、新規診断戦略の開発を促し、治療薬および予防薬の分子標的を同定するための手がかりを提供する。このような情報は乳房腫瘍形成のより深い理解に寄与し、BRCの診断、処置、および最終的には予防に向けた新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0152】
さらに、本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、上記の説明は事実上、例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。当業者は、日常的な実験を通して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正がなされ得ることを容易に理解すると考えられる。したがって、本発明は上記の説明によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって規定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】BRC組織と関連したZNFN3A1発現の上昇を示す。(a)部は、異なる組織像を有する92例のBRC組織の本マイクロアレイデータにおいて、異なる基準により、ZNFN3A1発現の上昇を示す試料の数を記載する。(b)部は、半定量的RT-PCRにより分析された、12例の癌組織、15名の閉経前患者由来の正常乳管上皮細胞の混合物(混合)、ならびに全正常乳腺(MG)におけるZNFN3A1発現を示す。GAPDHの発現を内部対照とした。(c)部は、ウェスタンブロット分析により測定された、BRC組織(T)および対応する非癌性乳房組織(N)におけるZNFN3A1タンパク質の存在を示す。GAPDHの発現を対照とした。
【図2】細胞内での切断型ZNFN3A1タンパク質を示す。(a)部は、ZNFN3A1の野生型および欠失型を発現するプラスミドの概略図を示す。(b)部は、抗ZNFN3A1抗体(左パネル)または抗Flag抗体(右パネル)を用いた、野生型および変異体ZNFN3A1のウェスタンブロット分析の結果を示す。
【図3】4種のBRC組織におけるZNFN3A1タンパク質の免疫組織化学的染色の結果を示す。凍結切片をH&E(上パネル)および抗ZNFN3A1抗体(下パネル)で染色した。
【図4】BRC細胞の増殖におけるZNFN3A1の関与を示す。(a)部は、BRC細胞株におけるZNFN3A1発現を示す。(b)部は、BRC細胞の増殖に対するZNFN3A1のノックダウン効果を示す。特に、ZNFN3A1-siRNA#12(si#12)は、偽またはルシフェラーゼ-siRNA(siLuc)と比較して、それらの増殖を有意に抑制した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来の生体試料におけるZNFN3A1の発現レベルを決定する段階を含む、対象における乳癌または乳癌を発症する素因を診断する方法であって、該試料の発現レベルが該遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることが、該対象が乳癌に罹患しているかまたは乳癌を発症するリスクがあることを示す方法。
【請求項2】
試料の発現レベルが正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遺伝子発現レベルが、以下からなる群より選択される方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a) ZNFN3A1のmRNAを検出する段階、
(b) ZNFN3A1によってコードされるタンパク質を検出する段階、および
(c) ZNFN3A1によってコードされるタンパク質の生物活性を検出する段階。
【請求項4】
患者由来の生体試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者由来の生体試料が乳癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者由来の生体試料が乳癌細胞由来の上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
以下の段階を含む、乳癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 被験化合物をZNFN3A1のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c) ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【請求項8】
以下の段階を含む、乳癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 候補化合物をZNFN3A1を発現する細胞と接触させる段階;および
(b) ZNFN3A1の発現レベルを、候補化合物の非存在下で検出されるZNFN3A1の発現レベルと比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項9】
細胞が乳癌細胞を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、乳癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 被験化合物をZNFN3A1のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) 段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c) 被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して、段階(a)のポリペプチドの生物活性を抑制する被験化合物を選択する段階。
【請求項11】
以下の段階を含む、乳癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 候補化合物を、ZNFN3A1の転写制御領域およびその転写制御領域の調節下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
(c) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項12】
(a) ZNFN3A1、または(b) ZNFN3A1によってコードされるポリペプチドに結合する検出試薬を含む、乳癌を検出するためのキット。
【請求項13】
アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を処置または予防する方法であって、該アンチセンス組成物がZNFN3A1のコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、方法。
【請求項14】
siRNA組成物を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を処置または予防する方法であって、該siRNA組成物がZNFN3A1の発現を低下させる、方法。
【請求項15】
siRNAが、SEQ ID NO:1のヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
siRNAが一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有する請求項15記載の方法であって、式中、[A]はSEQ ID NO:1の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、方法。
【請求項17】
ZNFN3A1のタンパク質に結合する抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を処置または予防する方法。
【請求項18】
(a) ZNFN3A1の核酸によってコードされるポリペプチド、(b) 該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または(c) そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を処置または予防する方法。
【請求項19】
ZNFN3A1によってコードされるポリペプチド、ZNFN3A1ポリヌクレオチド、またはZNFN3A1ポリヌクレオチドを含むベクターを抗原提示細胞と接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項20】
抗原提示細胞を対象に投与する段階をさらに含む、請求項19記載の抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項21】
請求項7〜11のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物を投与する段階を含む、対象における乳癌を処置または予防する方法。
【請求項22】
ZNFN3A1のポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAの薬学的有効量を含む、乳癌を処置または予防するための組成物。
【請求項23】
siRNAが、SEQ ID NO:1のヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
siRNAが一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有する、請求項23記載の組成物であって、式中、[A]はSEQ ID NO:1の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、方法。
【請求項25】
ZNFN3A1によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を含む、乳癌を処置または予防するための組成物。
【請求項26】
有効成分として、請求項7〜11のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、乳癌を処置または予防するための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−530974(P2008−530974A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526081(P2007−526081)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際出願番号】PCT/JP2006/302683
【国際公開番号】WO2006/092958
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】