説明

乳製品製造装置および乳製品製造方法

【課題】簡単な工程及び装置構成であり、菌の増殖が起こりやすい温度での工程も無い乳製品を製造する。
【解決手段】乳製品の原料である生乳を貯留する貯留槽10と、貯留槽10内で貯留される生乳に気泡を供給する気泡供給部11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳製品を製造する乳製品製造装置及び乳製品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳製品の製造には、多くの工程が必要とされていた。例えば、バターを製造する場合、生乳からクリームを遠心分離により分離して回収する工程(工程1:分離)、クリームを殺菌し、冷却する工程(工程2:殺菌)、脂肪分(脂肪球)を均一な結晶にする工程(工程3:エージング)、エージングしたクリームを攪拌して脂肪球を凝集してバター粒を生成する工程(工程4:チャーニング)、バター粒を水洗いする工程(工程5:水洗)、食塩を加える工程(工程6:加塩)、バター粒を練り合わせる工程(工程7:ワーキング)、出来上がったバターを容器に充填又は包装する工程(工程8:充填・包装)の、複数の工程がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
工程4の「チャーニング」から工程7の「ワーキング」までの工程は連続式製造機で行なわれるものの、それでも複数の工程が必要となり、長い処理時間が必要になるばかりでなく、装置構成も複雑になる。この複数の工程では最適な処理温度が異なるため、工程ごとに温度の上げ下げが必要であり、熱利用効率も良くはなかった。また、バターの製造ばかりでなく、ヨーグルトやチーズの製造過程においても、脂肪分の調整である分離工程等を含め、複数の工程及び長い処理時間が必要であるとともに、複雑な製造装置が必要であった。
【0004】
これに対し、バターは、生乳から作られた脂肪分が高いクリーム(脂肪分35〜40%程度)から製造することができ、例えば、ホイップクリームを作る過程で誤ってバター状の物質が生成されることもある(例えば、特許文献1及び2)。
【0005】
また、近年、気泡を様々な分野で利用する方法が開発されており、例えば、超微細気泡を用いて、水中の汚れを浮上させる技術がある(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−84869号公報
【特許文献2】特開平2−34594号公報
【特許文献3】特許3306440号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】バターの製造方法 社団法人日本乳業協会、[online]、[2011年3月8日検索]、http://www.nyukyou.jp/dairy/butter/butter02.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、バター状の物質であればホイップクリームを作る過程でも予期せずに生成されることもあるものの、従来の乳製品製造プロセスには、脂肪分の調整を含め、多くの工程が必要であった。また、従来の乳製品製造プロセスの一工程である分離工程の際に生乳温度を40℃程度に上げると成分分離効率(脂肪分分離効率)が上がる。しかし、この生乳温度40℃の条件下では菌が繁殖しやすく、衛生面で好ましくない。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、簡単な工程及び装置構成であり、菌の増殖が起こりやすい温度での工程も無い乳製品を製造する乳製品製造装置及び乳製品製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、乳製品を製造する乳製品製造装置であって、乳製品の原料である生乳を貯留する貯留槽と、前記貯留槽内で貯留される生乳に気泡を供給する気泡供給部とを備える。
【0011】
請求項2の発明は、前記気泡供給部は、供給する気泡の径を制御する第1制御手段を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、前記気泡供給部は、供給する気泡を生成する気体の種類を制御する第2制御手段を有することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、乳製品を製造する乳製品製造方法であって、貯留槽内に乳製品の原料である生乳を供給するステップと、前記貯留槽内で貯留される生乳に気泡を供給するステップとを備える。
【0014】
請求項5の発明は、前記貯留槽内で貯留される生乳中の特定成分を供給された気泡に付着させるステップを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乳製品を簡単な工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る乳製品製造装置を利用した乳製品の製造について説明する図である。
【図2】図1の乳製品製造装置を利用して乳製品を製造した例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る乳製品製造装置及び乳製品製造方法について説明する。実施形態では、乳製品としてバターを製造するバター製造装置について説明する。図1に示すように、実施形態に係るバター製造装置1は、バターの原料である生乳20を貯留する貯留槽10と、貯留槽10内で貯留される生乳20に気泡21を供給する気泡供給装置11とを備えている。また、バター製造装置1では、貯留槽10の後段に、後処理部(図示せず)を備えている。
【0018】
貯留槽10は、内部で貯留する生乳20をバターの生成に適した温度(例えば、5℃)に冷却する冷却機能を有している。この貯留槽10の形状及びサイズは、バターの生成に適量な形状及びサイズであればよい。
【0019】
請求項2、請求項3の発明は、気泡供給装置11に関する。気泡供給装置11は、生乳に供給する気泡の径を制御する第1制御手段111を備えている。例えば、気泡供給装置11は、第1制御手段111で制御し、マイクロバブルやナノバブル等の微細気泡を生乳20に供給する。気泡21の生成方法は、流動を伴う方式(旋回液流式、スタティックミキサー式、エジェクター式、ベンチュリー式、加圧溶解式)であっても、流動を伴わない方式(細孔式、回転式、超音波式、蒸気凝縮式、電気分解式)であっても利用することができる。例えば、流動を伴う場合、バター製造装置1は、生乳を流動させる流動手段を備えているが、図1では図示を省略している。
【0020】
ここで気泡供給装置11が供給する気泡は、空気で生成する他、窒素ガスやオゾンガスのような空気以外の気体を利用して生成された気泡でもよく、気泡供給装置11は、第2制御手段112を備えている。例えば、窒素ガスを利用した場合、酸化やカビを防止する効果を期待することができる。またオゾンガスを利用した場合、殺菌効果を期待することができる。なお、空気以外の気体で生成された気泡の供給は、期待する効果を得られる量の気体を供給することができれば、バターの生成の際に一時的に供給するようにしてもよい。すなわち、第2制御手段112は、空気による気泡の生成の前、後又は途中に空気以外の気体を利用して気泡の生成をするように制御することができる。
【0021】
また、バター製造装置1は、貯留槽10内の生乳20の温度を調整する温度調整装置12を備えることができる。すなわち、生乳の温度が高くなると菌が繁殖しやすくなる。したがって、温度調整装置12で生乳20の温度を菌が繁殖する所定温度より低く調整することで、生乳20中での菌の繁殖を防ぐことができる。
【0022】
このバター製造装置1では、図1(a)に示すように、貯留槽10で貯留される生乳20に貯留槽10の底面側から気泡21を供給する。請求項5にあるように、気泡21は、貯留槽10の生乳20内で浮上するが、その際、図1(b)に示すように生乳20中の脂肪分22を付着して浮上する。したがって、貯留槽10の液面には、生乳20から分離された脂肪分(脂肪球)22が結晶化し、バター(バター粒)23を生成して水面に浮遊する。また、生乳は、脂肪分22が分離されると、バターミルクとなる。
【0023】
すなわち、バター製造装置1では、単に貯留槽10内の生乳20に気泡21を供給することで、従来のような、「分離」、「エージング」および「チャーニング」の工程を経ずに、「分離」、「エージング」および「チャーニング」の工程と同等の効果を得ることが可能となり、生乳20中の脂肪分を浮上分離することができる。
【0024】
また、「分離」の工程で遠心分離を利用する場合、均質化(ホモジナイズ)により脂肪球が細かく砕かれた生乳(牛乳)は脂肪球が小さく分離できないため、均質化されていない生乳を使用していた。これに対し、バター製造装置1では、「分離」の工程で遠心分離を利用しないため、均質化されていない生乳だけでなく、均質化された生乳もバターの原料とすることができる。
【0025】
さらに、バター製造装置1で気泡供給装置11がマイクロバブルやナノバブル等の微細気泡を供給する場合、微細気泡を利用した分離では、遠心分離よりも短時間で、殺菌増殖が懸念される温度よりも低い温度で生乳20から脂肪分22を分離させることができる。
【0026】
また、バター製造装置1で気泡供給装置11がマイクロバブルやナノバブル等の微細気泡を供給する場合、このような微細気泡は、殺菌作用を有している。したがって、バター製造装置1では、生乳20に微細気泡を供給することで、「分離」、「エージング」および「チャーニング」とともに殺菌することができ、単独で「殺菌」の工程を経る必要はない。
【0027】
または、バター製造装置1で気泡供給装置が供給する気泡が殺菌効果を有するガスの気泡である場合、バター製造装置1では、生乳20に殺菌効果を有するガスを気泡として供給することで、「分離」、「エージング」および「チャーニング」とともに殺菌することができ、単独で「殺菌」の工程を経る必要はない。
【0028】
貯留槽10の後段に設けられる後処理部は、貯留槽10内で得られたバター(バター粒)23を「水洗」、「加塩」および「ワーキング」する機能を備えている。なお、「加塩」は必須の要件ではなく、「加塩」の工程がある場合には有塩バターとなり、「加塩」の工程がない場合には無塩バターが生成される。
【0029】
上述したように、実施形態に係るバター製造装置1では、生乳20に気泡21を供給することで、従来の「分離」、「殺菌」、「エージング」及び「チャーニング」を行なうことができるため、処理工程を短縮することができ、処理時間も短縮することができる。また、バター製造装置1は、「分離」、「殺菌」、「エージング」及び「チャーニング」を全て貯留槽10内で処理できるため、装置構成を簡単にすることができる。
【0030】
また、製造工程及び装置構成を簡素化したことで、業務用のバター製造装置の他、小型の家庭用のバター製造装置を実現することもできる。
【0031】
(実施例1)
一実施例として、市販の牛乳(無脂乳固形分8.8%以上、乳脂肪分4.5%以上)に30〜50μmの径の空気マイクロバブルを45分導入したところ、脂肪分が分離され上部に蓄積された。分離された脂肪分を分析した結果、水分と脂肪分の比率は市販のバターと同じ水分16%、脂肪分83%となった。
【0032】
(実施例2)
他の実施例として、実施例1と同様の牛乳で、牛乳の温度と泡の径を変化させてバターを製造し、製造されたバターの量を測定した。なお、泡の導入時間は5時間とした。
【0033】
まず、図2(a)は、牛乳を25℃にして250μm、500μm又は10000μm径の窒素ガスの気泡を導入した場合と、牛乳を25℃にして気泡を導入しない場合のバターの生成量を表している。250μmの径の気泡を導入した場合(泡条件1)には1.38gのバターが製造され、500μmの径の気泡を導入した場合(泡条件2)には0.82gのバターが製造され、10000μmの径の気泡を導入した場合(泡条件3)には、0.49gのバターが製造された。また、気泡を導入しない場合(泡条件4)にはバターは製造されなかった。
【0034】
次に、図2(b)は、牛乳を5℃にし、250μm、500μm又は10000μm径の窒素ガスの気泡を導入した場合、気泡を導入しない場合の例のバターの生成量を表している。250μmの径の気泡を導入した場合(泡条件1)には0.29gのバターが製造され、500μmの径の気泡を導入した場合(泡条件2)には0.21gのバターが製造された。また、10000μmの径の気泡を導入した場合(泡条件3)及び気泡を導入しない場合(泡条件4)には、バターは製造されなかった。したがって、図2の例からは、牛乳の温度は5℃よりも25℃の方がよく、気泡の径は小さいほうがよいことがわかる。
【0035】
〈変形例1〉
続いて、実施形態の変形例1に係る乳製品製造装置及び乳製品製造方法について説明する。図1を用いて上述した実施形態では、乳製品としてバター(非発酵バター)を製造するバター製造装置について説明したが、変形例1として、発酵バターを製造するバター製造装置1について説明する。変形例1に係るバター製造装置の構成についての図示は省略するが、図1を用いて上述したバター製造装置1と同一の貯留槽10と気泡供給装置11を備える構成である。
【0036】
変形例1に係るバター製造方法では、乳製品の材料である生乳20に、バターを発酵させる菌を添加する。菌が存在することにより、貯留槽10内で生乳20に気泡21が供給され、気泡とともに脂肪分(脂肪球)22が、貯留槽10の上層で発酵したバター(バター粒)23として浮上する。
【0037】
〈変形例2〉
続いて、実施形態の変形例2に係る乳製品製造装置及び乳製品製造方法について説明する。図1を用いて上述した実施形態では、乳製品としてバターを製造するバター製造装置について説明したが、変形例2として、チーズを製造するチーズ製造装置について説明する。変形例2に係るチーズ製造装置の構成についての図示は省略するが、図1を用いて上述したバター製造装置1と同一の貯留槽10と気泡供給装置11を備えるとともに、後処理装置として、凝固装置を備えている。
【0038】
変形例2に係るチーズ製造方法では、乳製品の材料である生乳20に、菌又は酵素を添加する。菌又は酵素が存在することにより、貯留槽10内で生乳20に気泡21が供給され、貯留槽10内で発酵しながら所定の脂肪率のクリームと、脱脂乳とに分離させる。具体的には、貯留槽10内では、上層に発酵したクリーム、下層に脂肪乳と分離するため、上層のクリームが所定の脂肪率となったときに、クリームを後処理装置に移動し、水分を除去して凝固させる。
【0039】
このように、菌または酵母の働きにより、所定の脂肪率のクリームを容易に製造して、乳製品として、チーズを製造することができる。
【0040】
以上、各実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…バター製造装置
10…貯留槽
11…気泡供給装置(気泡供給部)
111…第1制御手段
112…第2制御手段
12…温度調整装置
20…生乳
21…気泡
22…脂肪分
23…バター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳製品を製造する乳製品製造装置であって、
乳製品の原料である生乳を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽内で貯留される生乳に気泡を供給する気泡供給部と、
を備えることを特徴とする乳製品製造装置。
【請求項2】
前記気泡供給部は、供給する気泡の径を制御する第1制御手段を有すること
を特徴とする請求項1に記載の乳製品製造装置。
【請求項3】
前記気泡供給部は、供給する気泡を生成する気体の種類を制御する第2制御手段を有すること
を特徴とする請求項1に記載の乳製品製造装置。
【請求項4】
乳製品を製造する乳製品製造方法であって、
貯留槽内に乳製品の原料である生乳を供給するステップと、
前記貯留槽内で貯留される生乳に気泡を供給するステップと、
を備えることを特徴とする乳製品製造方法。
【請求項5】
前記貯留槽内で貯留される生乳中の特定成分を供給された気泡に付着させるステップ
を備えることを特徴とする請求項4に記載の乳製品製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−55936(P2013−55936A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181784(P2012−181784)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000241957)北海道電力株式会社 (78)
【Fターム(参考)】