説明

乳酸および乳酸の製造方法

【課題】
本発明は、乳酸の直接脱水縮合反応によって熱安定性、機械的強度および色相の物性バランスの優れたポリ乳酸を製造するのに適した乳酸を提供することを課題とする。
【解決手段】
90%乳酸水溶液中において、不純物としてメタノールを70ppm以下、ピルビン酸を200ppm以下、フルフラールを15ppm以下、5−ヒドロキシメチルフルフラールを15ppm以下、乳酸メチルを600ppm以下、酢酸を500ppm以下、2−ヒドロキシ酪酸を500ppm以下および化学式(1)で表される化合物を0.3ppm未満含有し、かつ光学純度が90%e.e.以上である、乳酸。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法および該乳酸の製造方法により得られた乳酸を原料とするポリ乳酸の製造方法、ならびに該製造方法により得られる乳酸およびポリ乳酸に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、食品用、医薬用などといった用途の他に、生分解性プラスチックのモノマー原料として工業的用途にまで広く適用され、需要が増加している。2−ヒドロキシプロピオン酸、即ち乳酸は、微生物による発酵により生産されることが知られており、微生物はグルコースに代表される炭水化物を含有する基質を乳酸に変換する。乳酸は、カルボニルα位の炭素に結合している置換基の立体配座により、(L)−体および(D)−体の光学異性体に分類される。微生物発酵によれば、微生物を適宜選択することにより(L)−体または(D)−体の乳酸を選択的に、または(L)−体及び(D)−体の混合体(ラセミ体)の乳酸を生産することができる。
【0003】
一般に、微生物発酵による乳酸の生産は培養液中にアルカリ性物質を添加することで微生物発酵に最適なpHに保持されながら行われる。微生物発酵により生産された酸性物質である乳酸の多くは、アルカリ性物質が添加されることで、培養液中では乳酸塩として存在している。この場合、フリーの乳酸は、発酵終了後、培養液に酸性物質を添加することで得られる。具体的には、培養液中に添加するアルカリ性物質の例の1つとして水酸化カルシウムが用いられるが、この場合、微生物発酵により生産された乳酸は培養液中では乳酸カルシウムとして存在している。その後、培養終了後の培養液に酸性物質(例えば、硫酸)を添加することで、フリーの乳酸含有溶液を得ることができるが、カルシウム塩(例えば、硫酸カルシウム)が副生する。
【0004】
フリーの乳酸含有溶液から高純度の乳酸を回収する方法としては、フリーの乳酸含有溶液をナノ濾過膜に通じて濾過し、得られる濾液を蒸留する方法(特許文献1)や、フリーの乳酸含有溶液をイオン交換処理し、処理液を蒸留する方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、特許文献1および2に開示される乳酸の製造方法により得られる高純度乳酸が直接脱水重縮合によるポリ乳酸の製造に適した乳酸であるかどうかについてはこれまでに知られていない。
【0005】
また、特許文献3〜6には、乳酸の直接脱水重縮合により高分子量のポリ乳酸を得る場合、乳酸に含まれる特定の不純物が特定量以下である必要性について開示されているが、それら不純物がポリ乳酸の加工性に重要な因子であるポリ乳酸の熱安定性、機械的強度、色相に及ぼす影響については開示されておらず、直接脱水重縮合によりポリ乳酸を製造するのに適した乳酸の性状についてはこれまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/004922
【特許文献2】特表2001−506274号公報
【特許文献3】特開平6−279577号公報
【特許文献4】特開平7−133344号公報
【特許文献5】特開平8−188642号公報
【特許文献6】特開平9−31170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乳酸の直接脱水縮合反応によって熱安定性、機械的強度および色相の物性バランスの優れたポリ乳酸を製造するのに適した乳酸、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、直接脱水重縮合反応によって熱安定性、機械的強度および色相の物性バランス、特に色相の優れたポリ乳酸を製造するのに適した乳酸の物性値と該乳酸の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(6)から構成される。
【0010】
(1)90%乳酸水溶液中において、不純物としてメタノールを70ppm以下、ピルビン酸を200ppm以下、フルフラールを15ppm以下、5−ヒドロキシメチルフルフラールを15ppm以下、乳酸メチルを600ppm以下、酢酸を500ppm以下、2−ヒドロキシ酪酸を500ppm以下および化学式(1)で表される化合物を0.3ppm未満含有し、かつ光学純度が90%e.e.以上である、乳酸。
【0011】
【化1】

【0012】
(2)(1)に記載の乳酸を原料にして得られる、ポリ乳酸。
【0013】
(3)(1)に記載の乳酸を原料にして直接脱水重縮合反応により得られる、ポリ乳酸。
【0014】
(4)微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法であって、該培養液中の乳酸を乳酸塩として晶析する工程A、工程Aで得られた乳酸塩に酸性物質を添加してフリーの乳酸含有溶液を得る工程B、工程Bで得られた乳酸含有溶液をイオン交換処理する工程C、工程Cで得られた乳酸含有をナノ濾過膜に通じて濾過する工程Dおよび工程Dで得られた乳酸含有溶液を1Pa以上大気圧以下の圧力下において25℃以上200℃以下で蒸留して乳酸を回収する工程Eを含む、乳酸の製造方法。
【0015】
(5)前記工程Cが少なくとも陰イオン処理工程を含む、(4)に記載の乳酸の製造方法。
【0016】
(6)(4)または(5)に記載の乳酸の製造方法により得られる乳酸を直接脱水重縮合反応により重合することを特徴とする、ポリ乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、熱安定性、機械的強度、色相の物性バランスの優れたポリ乳酸が得られ、該ポリ乳酸は汎用プラスチックとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いたナノ濾過膜分離装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【図2】本発明で用いたナノ濾過膜分離装置のナノ濾過膜が装着されたセル断面図の一つの実施の形態を示す概要図である。
【図3】比較例1で得られた乳酸水溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果を示す図である。
【図4】比較例1で得られた乳酸水溶液を高速液体クロマトグラフィー分析した際の、溶出時間23.2分の成分の吸収スペクトル解析結果を示す図である。
【図5】化学式(1)で表される化合物のH−NMR分析結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
[高純度乳酸の製造]
本発明の乳酸の製造方法は、微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法であって、該培養液中の乳酸を乳酸塩として晶析する工程A、工程Aで得られた乳酸塩に酸性物質を添加してフリーの乳酸とする工程B、工程Bで得られた乳酸含有溶液をイオン交換樹脂に通じる工程C、工程Cで得られた乳酸含有溶液をナノ濾過膜に通じて濾過する工程D、および工程Dで得られた乳酸含有溶液を1Pa以上大気圧以下の圧力下において25℃以上200℃以下で蒸留して乳酸を回収する工程Eを含むものである。
【0021】
微生物の乳酸発酵培養に使用する発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である乳酸を良好に生産させうるものであればよく、炭素源、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、更には酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、グリセリンなども使用される。窒素源としてはアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素(例えば、アミノ酸など)を必要とする場合には、その栄養物をそれ自体もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用してもよい。本発明において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。培養液に追加する発酵原料の組成は、目的とする乳酸の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0022】
微生物の乳酸発酵培養は、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に、連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から原料培養液の供給及び培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。原料培養液には上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得るのに好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。
【0023】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、通常、単一の発酵槽で行うのが、培養管理上好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵槽の数は問わない。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0024】
本発明で使用される微生物については特に制限はないが、光学純度が90%e.e.以上、好ましくは95%e.e.以上、より好ましくは99%e.e.以上、さらに好ましくは99.9e.e.%以上の乳酸を製造する場合、所望の光学純度の乳酸を製造しうる微生物を選択すればよい。微生物種としては、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、乳酸菌、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌などが挙げられ、また、動物細胞、昆虫細胞等の培養細胞であってもよい。そして、光学純度が90%e.e.以上の微生物は、自然環境から単離されたものや、突然変異や遺伝子組換え等の当業者に公知の手法によって一部性質が改変されたものの中から、当業者に公知の手法によりスクリーニングすることにより取得することができる。
【0025】
微生物による乳酸発酵培養においては、培養時のpH調整のためにアルカリ性物質が添加されることが好ましい。アルカリ性物質を添加しながら乳酸発酵培養をした場合、培養液中の乳酸は乳酸塩として存在することになる。添加されるアルカリ性物質の具体例としては、後述の乳酸塩の晶析工程で添加されうるアルカリ性物質が挙げられる。また、乳酸塩の具体例としては、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸アルミニウムまたは乳酸アンモニウムあるいはこれらの混合物が挙げられるが、乳酸塩が乳酸カルシウムまたは乳酸マグネシウムである場合、後述の晶析工程Aにおける乳酸塩の回収率が高くなるため、好ましい。
【0026】
本発明では、最初に微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を乳酸塩として晶析する(工程A)。培養液を晶析工程に供することで、培養液中に含まれる発酵原料由来の糖、タンパク質など多くの不純物をあらかじめ低減することができ、後段の工程における不純物除去効率をさらに高めることができる。
【0027】
乳酸塩として晶析するためには、晶析操作の前に培養液に含まれる乳酸を乳酸塩に変換する必要がある。乳酸を乳酸塩に変換する方法としては、培養液にアルカリ性物質を添加する方法が挙げられる。また、前述の通り培養時のpH調整の際にアルカリ性物質を添加することで、そのまま晶析工程に供することができる乳酸塩を含む培養液が得られる。乳酸を乳酸塩に変換するために添加されるアルカリ性物質としては特に限定されないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムまたはアンモニアが好ましく用いられ、その結果として培養液には、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸アルミニウムまたは乳酸アンモニウムが形成される。そして、本発明では培養液に含まれる乳酸塩が乳酸カルシウムまたは乳酸マグネシウムである場合において晶析操作における乳酸塩の回収率が高いことから、培養時に添加されるアルカリ性物質としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酢酸カルシウムまたは酢酸マグネシウムがより好ましく用いられ、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムがさらに好ましく用いられる。
【0028】
晶析工程に供される培養液に含まれる乳酸塩濃度は特に限定されないが、10〜30重量%が好ましい。10重量%以上であれば晶析による回収率が高いが、30重量%を越えると、晶析槽内部を均一に撹拌できないなど、操作性に問題が生じる可能性があるためである。
【0029】
晶析温度は、培養液の乳酸塩濃度に依存するが、30℃以下で行うことが好ましい。また、乳酸塩回収率を上げるためには、より低温で晶析を行えばよいが、低温過ぎると多量の冷却エネルギーを必要とするため、10〜30℃で晶析を行うことがより好ましい。
【0030】
晶析した乳酸塩は固液分離により回収できる。固液分離の方法に特に限定はなく、定性濾紙による濾過や遠心分離など、当業者にとって公知の方法を適用できる。また、固液分離後の母液は、乳酸塩を含んだ培養液と混合し、再度晶析工程に供することができ、乳酸塩の回収率を向上することができる。さらに、回収した乳酸塩は純水または高純度の飽和乳酸塩含有溶液で洗浄してもよいが、洗浄による乳酸塩の損失を抑制するという観点から、飽和乳酸塩含有溶液で洗浄することが好ましい。
【0031】
なお、晶析工程に供する前に、培養液に含まれる乳酸塩をエバポレーターや逆浸透膜に代表される濃縮装置を用いて濃縮することが好ましい。培養液を濃縮することで、溶液中の乳酸塩の濃度を高めることができ、晶析工程における乳酸塩の回収効率を高めることができる。特に、逆浸透膜による濃縮は培養液を低エネルギーで濃縮することができるため、乳酸塩晶析のコストを低減化できることから好ましい。ここでいう逆浸透膜とは、被処理水の浸透圧以上の圧力差を駆動力にイオンや低分子量分子を濾別できる濾過膜である。
【0032】
乳酸塩の濃縮のための逆浸透膜の膜素材としては、一般に市販されている酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができるが、該1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。
【0033】
乳酸塩の濃縮に好ましく使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。また、とりわけポリアミド系の逆浸透膜は乳酸塩の回収率が高いことから、本発明においてはポリアミド系の逆浸透膜がより好ましく用いられる。
【0034】
逆浸透膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
【0035】
逆浸透膜の具体例としては、東レ株式会社製のポリアミド系逆浸透膜UTC−70、SU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720P、SU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、SU−610、SU−620、TM800、TM800C、TM800A、TM800H、TM800E、TM800L、東レ株式会社製の酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製のNTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製のRO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、NF99、NF99HF、GE製のGE Sepa、OSMO BEV NF Series、HL Series、Duraslick Series、MUNI NF Series、CK Series、DK Series、Seasoft Series、Duratherm HWS Series、KOCH製のSelRO Series、Filmtec製のBW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040、NF45、NF90、NF200、NF400などが挙げられる。
【0036】
乳酸塩を含んだ培養液を逆浸透膜に通じる際は、培養液の温度を30〜60℃、好ましくは35〜55℃に調整することが好ましい。逆浸透膜による濃縮は、通常、固形分が析出しない濃度まで濃縮できるが、乳酸塩の飽和溶解度は、温度が高くなるほど大きくなるため、乳酸塩を含んだ培養液の温度が30℃以上であれば、乳酸塩を析出させずに高濃度の濃縮液を調整することができる。一方、逆浸透膜に通じる操作温度が60℃を越えると、逆浸透膜の構造変化により次第に透水性が低下し、長期間の逆浸透膜濾過運転に問題が生じる。
【0037】
乳酸塩を含んだ培養液を逆浸透膜に通じる際の操作圧力は、1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、1〜8MPaの範囲であることが好ましい。また、濾過圧が1〜7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、水を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、2〜6MPa以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0038】
次に、工程Aで得られた乳酸塩に酸性物質を添加して、フリーの乳酸含有溶液を得る(工程B)。工程Bでは、工程Aで得られた乳酸塩から乳酸塩含有溶液を調整し、該乳酸含有溶液に酸性物質を添加する。その場合、乳酸塩含有溶液の乳酸塩濃度は特に限定はないが、濃度が低すぎると、後段の工程で多量の濃縮エネルギーを必要とし、逆に濃度が高すぎると攪拌操作に問題を生じる可能性があることから、5〜30重量%であることが好ましい。
【0039】
工程Bで添加する酸性物質は特に限定はなく、硫酸、塩酸、炭酸、リン酸、硝酸などを用いることができるが、後述の難溶性塩を形成する観点から硫酸を用いることが好ましい。
【0040】
工程Bでは、乳酸塩含有溶液に酸性物質を添加してフリーの乳酸含有溶液に変換するとともに、乳酸塩の陽イオン成分を難溶性塩として除去することが好ましい。乳酸塩含有溶液に酸性物質を添加し、該溶液中の陽イオン成分を難溶性塩として沈殿、濾別等により固液分離することで、乳酸塩由来の陽イオンが除去されたフリーの乳酸含有溶液を得ることができる。難溶性塩の固液分離の方法に特に限定はなく、定性濾紙による濾過や遠心分離など、当業者にとって公知の方法を適用できる。なお、難溶性塩を難溶性硫酸カルシウムとして沈殿、濾別する場合、乳酸塩水溶液に添加する酸性物質の当量が陽イオン成分の当量を超えると、後段のイオン交換工程にかかる負荷が大きくなり、イオン交換樹脂再生の頻度が高くなるため、酸性物質の添加量は陽イオン成分の当量以下であることが好ましい。
【0041】
次に、工程Bで得られたフリーの乳酸含有溶液をイオン交換処理する(工程C)。フリーの乳酸含有溶液をイオン交換処理することで、フリーの乳酸含有溶液にわずかに溶存した乳酸塩の陽イオン成分由来の難溶性塩を除去することができるため、後段の工程Dでナノ濾過膜の原水側に濃縮された難溶性塩が飽和溶解度を超えて析出し、膜のファウリング(目詰まり)を起こすことを抑制できる。また、フリーの乳酸含有溶液にわずかに溶存した難溶性塩は、後段の工程E(蒸留工程)での乳酸のラセミ化やオリゴマー化を促進する触媒としても働き、蒸留収率を低減するおそれがあるため、イオン交換処理によりそれを防ぐことができる。
【0042】
イオン交換処理は、陰イオン交換処理または陽イオン交換処理の単独処理であっても、陰イオン交換処理および陽イオン交換処理の併用処理であってもよい。なお、これらイオン交換処理の中でも、陰イオン交換処理は、フリーの乳酸含有溶液にわずかに溶存した難溶性塩の陰イオン成分を低減できる他、乳酸発酵培養時の副生産物であって乳酸よりも酸性度の高い有機酸、例えばピルビン酸を吸着除去することが可能である。ピルビン酸はポリ乳酸の色相を低下させるため、ポリ乳酸の品質を大きく損なうおそれがある。したがって、工程Cにおいては、少なくとも陰イオン交換処理することが好ましく、陰イオン交換処理および陽イオン交換処理の併用処理であることがより好ましい。なお、陰イオン交換処理および陽イオン交換処理の併用処理である場合、その順序は特に限定されない。
【0043】
イオン交換処理は、イオン交換樹脂による処理であることが好ましく、その場合、イオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂または強塩基性陰イオン交換樹脂がより好ましい。これらイオン交換樹脂としては、一般に公知のものが使用でき、具体例として、“アンバーライト”(登録商標)(ダウ・ケミカル社製)、“ダイヤイオン”(登録商標)(三菱化学株式会社製)などが挙げられる。また、これらのイオン交換樹脂はいわゆるゲル型でもポーラス型の樹脂のいずれでも使用できる。なお、フリーの乳酸含有溶液を通じる前に、陽イオン交換樹脂は酸型(H型)、陰イオン交換樹脂は塩基型(OH型)または乳酸型に調製することで、効率的に無機塩、ピルビン酸などの不純物を除去することができる。また、フリーの乳酸含有溶液をイオン交換樹脂と接触させる方法としては、バッチ方式(攪拌槽式)およびカラム方式(固定床流通方式)のいずれの方式も採用することができるが、操作性が良いことから、カラム方式が好ましい。なお、イオン交換樹脂カラムによるイオン交換処理の場合の乳酸含有溶液の流速は特に制限はないが、通常、イオン交換樹脂の単位体積当たりの空間速度(SV)が0.1〜20hr−1となるようにすればよい。また、イオン交換樹脂カラムと乳酸含有溶液の接触温度は特に限定はなく、常温で好適に使用できる。
【0044】
次いで、工程Cで得た乳酸含有溶液をナノ濾過膜に通じて濾過する(工程D)。ナノ濾過膜とは、ナノフィルター(ナノフィルトレーション膜、NF膜)とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオン、塩類等を阻止するために用いられる。また、「ナノ濾過膜に通じて濾過する」とは、工程Cで得られた乳酸含有溶液をナノ濾過膜に通じて濾過し、溶存している無機塩、中性物質であるアルコールや糖類、タンパク質などを非透過側に除去または阻止または濾別し、乳酸含有溶液を濾液として透過させることを意味する。ここで、無機塩には、乳酸含有溶液中に含まれる無機塩のいずれの形態のものも含まれ、すなわち、乳酸含有溶液中において溶解しているもの、工程Cで除去しきれずに溶液中に析出もしくは沈殿して含まれているもののいずれも含まれる。これに加えて、ナノ濾過膜は糖類を阻止する機能を持つことから、乳酸含有溶液をナノ濾過膜に通じて濾過することで、乳酸発酵培養液由来の残糖を除去する効果も兼ね備えている。前工程C(イオン交換処理工程)では、中性の糖類はイオン交換樹脂で吸着除去することが困難である。糖を含有した乳酸含有溶液を加熱すると、着色成分を生じ、乳酸の品質が低下するため、加熱工程である蒸留工程Eの前段として本工程Dで残糖を除去することは最終的な乳酸の品質向上において効果的である。
【0045】
ナノ濾過膜に供する乳酸含有溶液のpHは、2.0以上4.5以下であることが好ましい。ナノ濾過膜は、溶液中にイオン化している物質の方が、イオン化していない物質に比べて非透過側に除去または阻止しやすいことが知られていることから、乳酸含有溶液のpHを4.5以下とすることで、乳酸が培養液中で解離して乳酸イオンとして存在している割合を少なくし、乳酸が透過しやすくなる。また、pHが2.0未満である場合、ナノ濾過膜の損傷に影響するおそれがある。さらに、乳酸のpKaが3.86であることから、pHを3.86以下とする場合、乳酸イオンと水素イオンに解離していない乳酸の方が培養溶液中に多く含まれるため、効率的に乳酸をナノ濾過膜に透過することができることから、より好ましい。
【0046】
本発明で使用されるナノ濾過膜の素材には、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができるが、前記1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。複合膜としては、例えば、特開昭62−201606号公報に記載の、ポリスルホンを膜素材とする支持膜にポリアミドの機能層からなるナノフィルターを構成させた複合膜を用いることができる。
【0047】
これらの中でも高耐圧性と高透水性、高溶質除去性能を兼ね備え、優れたポテンシャルを有する、ポリアミドを機能層とした複合膜が好ましい。また、操作圧力に対する耐久性と、高い透水性、阻止性能を維持できるためには、ポリアミドを機能層とし、それを多孔質膜や不織布からなる支持体で保持する構造のものが適している。
【0048】
ポリアミドを機能層とするナノ濾過膜(以下、ポリアミド系ナノ濾過膜、という。)において、ポリアミドを構成する単量体の好ましいカルボン酸成分としては、例えば、トリメシン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメリット酸、ピロメット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ピリジンカルボン酸などの芳香族カルボン酸が挙げられるが、製膜溶媒に対する溶解性を考慮すると、トリメシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびこれらの混合物がより好ましい。
【0049】
前記ポリアミドを構成する単量体の好ましいアミン成分としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ベンジジン、メチレンビスジアニリン、4,4’−ジアミノビフェニルエーテル、ジアニシジン、3,3’,4−トリアミノビフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルエーテル、3,3’−ジオキシベンジジン、1,8−ナフタレンジアミン、m(p)−モノメチルフェニレンジアミン、3,3’−モノメチルアミノ−4,4’−ジアミノビフェニルエーテル、4,N,N’−(4−アミノベンゾイル)−p(m)−フェニレンジアミン−2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾイミダゾール)、2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾオキサゾール)、2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾチアゾール)等の芳香環を有する一級ジアミン、ピペラジン、ピペリジンまたはこれらの誘導体等の二級ジアミンが挙げられ、中でもピペラジンまたはピペリジンを単量体として含む架橋ポリアミドを機能層とするナノ濾過膜は耐圧性、耐久性の他に、耐熱性、耐薬品性を有していることから好ましく用いられる。より好ましくは前記架橋ピペラジンポリアミドまたは架橋ピペリジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式(2)で示される構成成分を含有するポリアミドであり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式(2)で示される構成成分を含有するポリアミドである。また、化学式(2)中、n=3のものが好ましく用いられる。架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ化学式(2)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とするナノ濾過膜としては、例えば、特開昭62−201606号公報に記載のものが挙げられ、具体例として、架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式(2)中、n=3のものを構成成分として含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製の架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜のUTC60が挙げられる。
【0050】
【化2】

【0051】
(式中、Rは−Hまたは−CH、nは0から3までの整数を表す。)。
【0052】
ナノ濾過膜は一般にスパイラル型の膜エレメントとして使用されるが、本発明で用いるナノ濾過膜も、スパイラル型の膜エレメントとして好ましく使用される。好ましいナノ濾過膜エレメントの具体例としては、酢酸セルロース系ナノ濾過膜エレメントの“GEsepa”(商標)(GE Osmonics社製)、ポリアミド系ナノ濾過膜エレメントのNF99またはNF99HF(アルファラバル社製)、架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜のNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400(フィルムテック社製)、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(2)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が挙げられ、より好ましくはポリアミド系ナノ濾過膜エレメントのNF99またはNF99HF(アルファラバル社製)、架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜エレメントのNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400(フィルムテック社製)、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(2)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜モジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(2)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜モジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610である。
【0053】
ナノ濾過膜による濾過は圧力をかけてもよく、その濾過圧は、0.1MPa以上8MPa以下の範囲が好ましい。濾過圧が0.1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるおそれがある。また、濾過圧が0.5MPa以上7MPa以下で用いれば、膜透過流束が高いことから、乳酸含有溶液を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、1MPa以上6MPa以下で用いることが特に好ましい。
【0054】
ナノ濾過膜に通じて濾過する乳酸含有溶液の乳酸濃度は特に限定されないが、高濃度であれば、透過液中に含まれる乳酸の濃度も高いため、濃縮する時間を短縮することができることからコスト削減に好適である。
【0055】
ナノ濾過膜に通じて濾過することによって乳酸含有溶液から不純物を分離する際の、乳酸のナノ濾過膜透過率(乳酸透過率)は、高速液体クロマトグラフィーにより、原水(工程Cで得られる乳酸含有溶液)の乳酸濃度(原水乳酸濃度)および透過液の乳酸濃度(透過液乳酸濃度)を測定することで、式1によって算出することができる。
【0056】
乳酸透過率(%)=(透過液乳酸濃度/原水乳酸濃度)×100・・・(式1)。
【0057】
また、同様の方法により、乳酸含有溶液中の糖類のナノ濾過膜透過率(糖透過率)を算出して評価することができる。糖透過率は、高速液体クロマトグラフィーにより、原水(工程Cで得られる乳酸含有溶液)の糖濃度(原水糖濃度)および透過液の糖濃度(透過液糖濃度)を測定することで、式2によって算出することができる。
【0058】
糖透過率(%)=(透過液糖濃度/原水糖濃度)×100・・・(式2)。
【0059】
工程Dで得られる乳酸含有溶液を蒸留することで高純度の乳酸が得られる(工程E)。蒸留工程に供する乳酸含有溶液の乳酸濃度に特に限定はなく、工程Dで得られる乳酸含有溶液をそのまま蒸留してもよく、後述の濃縮工程に供してから蒸留を行ってもよい。ただし、溶液中の乳酸濃度が低すぎると蒸留設備が大きくなり、濃度が高すぎるとオリゴマー化して収率が低下するおそれがあるため、50〜95重量%、より好ましくは60〜90重量%であれば好適に蒸留を行うことができる。また、蒸留工程は、1Pa以上大気圧(常圧、約101kPa)以下の減圧下で行われる。10Pa以上30kPa以下の減圧下で行えば、蒸留温度を低減できることからより好ましい。減圧下で行う場合の蒸留温度は、20℃以上200℃以下で行われるが、180℃以上で蒸留を行った場合、不純物の影響により、乳酸がラセミ化するおそれがあるため、50℃以上180℃以下、より好ましくは60℃以上150℃以下であれば、好適に乳酸の蒸留を行うことができる。なお、乳酸は構造上、脱水条件(加熱、減圧)によりオリゴマー化しやすいため、可能な限り滞留時間を低減させることが好ましい。したがって、蒸留装置として、落下フィルム蒸発装置、拭き取りフィルム蒸発装置などの薄膜蒸発装置を用いることで短時間の蒸留を達成できるため、乳酸の回収率を向上できることから好ましい。
【0060】
蒸留工程に供する前に、工程Dで得られる乳酸含有溶液を、一旦エバポレーターに代表される濃縮や、逆浸透膜による濃縮により乳酸濃度を高める工程に供してもよいが、濃縮エネルギー削減という観点から、逆浸透膜による濃縮工程が好ましく採用できる。ここでいう逆浸透膜とは、前述の培養液濃縮に使用する逆浸透膜と同等のものを好適に使用できる。本発明の工程Cおよび工程Dで2価のイオンを大部分除去できているため、逆浸透膜面でのスケールの生成もなく安定した膜濃縮が行える。
【0061】
[高純度乳酸]
前記乳酸の製造方法により得られる本発明の乳酸の第1の特徴は、90%乳酸水溶液中において、不純物としてメタノールを70ppm以下、好ましくは65ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下で含有していることである。90%乳酸水溶液中におけるメタノール含有量は、ガスクロマトグラフ法(GC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中におけるメタノールの含有量が70ppmを越えるような乳酸である場合、該乳酸を直接脱水重縮合して得られるポリ乳酸の重量平均分子量が低く、機械的強度が劣るため、好ましくない。
【0062】
本発明の乳酸の第2の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、ピルビン酸を200ppm以下、好ましくは100ppm以下で含有していることである。90%乳酸水溶液中におけるピルビン酸含有量は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中におけるピルビン酸の含有量が200ppmを越えるような乳酸は、該乳酸を重合したポリ乳酸の色相において好ましくない。ポリ乳酸の色相は着色度によって評価することができ、着色度を示す指標として、APHA単位色数を用いることができる。なお、APHA単位色数(ハーゼン単位色数)は、JISK0071−1(1998年10月20日制定)の測定法に従って求められる値である。
【0063】
本発明の乳酸の第3の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、フルフラールを15ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下で含有していることである。90%乳酸水溶液中におけるフルフラール含有量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中におけるフルフラールの含有量が10ppmを越えるような乳酸は、該乳酸を重合したポリ乳酸の色相および熱安定性において好ましくない。なお、ポリ乳酸の熱安定性は、熱重量減少率によって評価することができる。
【0064】
本発明の乳酸の第4の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、5−ヒドロキシメチルフルフラールを15ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下で含有していることである。90%乳酸水溶液中における5−ヒドロキシメチルフルフラール含有量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中における5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が10ppmを越えるような乳酸を重合して得られるポリ乳酸は色相および熱安定性において好ましくない。
【0065】
本発明の乳酸の第5の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、乳酸メチルを600ppm以下、好ましくは400ppm以下、より好ましくは100ppm以下で含有していることである。90%乳酸水溶液中における乳酸メチル含有量はガスクロマトグラフ法(GC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中における乳酸メチルの含有量が600ppmを越えるような乳酸である場合、該乳酸を重合して得られるポリ乳酸の重量平均分子量が低く、機械的強度が劣るため、好ましくない。
【0066】
本発明の乳酸の第6の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、酢酸を500ppm以下、好ましくは400ppm以下、より好ましくは300ppm以下で含有していることである。90%乳酸水溶液中における酢酸含有量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中における酢酸の含有量が500ppmを越えるような乳酸を重合して得られるポリ乳酸は熱安定性において好ましくない。
【0067】
本発明の乳酸の第7の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、2−ヒドロキシ酪酸を500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下で含有することである。90%乳酸水溶液中における2−ヒドロキシ酪酸含有量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中における2−ヒドロキシ酪酸の含有量が500ppmを越えるような乳酸を重合して得られるポリ乳酸は熱安定性において好ましくない。
【0068】
本発明の乳酸の第8の特徴は、90%乳酸水溶液での不純物として、前記化学式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)という。)を0.3ppm未満、好ましくは検出限界以下で含有することである。90%乳酸水溶液中における前記化合物(1)含有量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。90%乳酸水溶液中における前記化合物(1)の含有量が0.3ppm以上であるような乳酸を重合して得られるポリ乳酸は色相に劣り、重量平均分子量が低く、機械的強度に劣るため、好ましくない。
【0069】
本発明の乳酸の製造方法によれば、(L)−体または(D)−体の乳酸のどちらか一方のみ、または(L)−体及び(D)−体の混合体の乳酸を含有するいずれの培養液からでも、不純物含有量の極めて少ない乳酸を得ることができる。ただし、高分子量体として十分な機械的強度と融点を有するポリ乳酸を得るためには、精製乳酸の光学純度として少なくとも90%e.e.以上を必要とし、より好ましくは95%e.e.以上、さらに好ましくは99%e.e.以上、最も好ましくは99.9%e.e.以上である。
【0070】
[ポリ乳酸]
ポリ乳酸とは、L−乳酸単位またはD−乳酸単位のホモポリマーや、ポリ−L−乳酸単位からなるセグメントとポリ−D−乳酸単位からなるセグメントにより構成されるポリ乳酸ブロック共重合体や、乳酸以外の他のモノマーとの共重合体を含む。共重合体である場合、乳酸以外の他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉相酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記他の共重合成分の共重合量は、全単量体成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
【0071】
前記ポリ乳酸の製造方法は特に限定されず、一般のポリ乳酸の製造方法を利用することができる。具体的には、乳酸を原料として、一旦、環状2量体であるラクチドを生成せしめ、その後、開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水重縮合反応を行う一段階の直接重合法などが知られており、いずれの製法を利用してもよい。
【0072】
重合反応に触媒を用いることにより、重合時間を短縮することができる。触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウムなどの金属及びその誘導体が挙げられる。誘導体としては、金属アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的には、塩化錫、オクチル酸錫、塩化亜鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられ、これらの中でも錫化合物が好ましく、酢酸錫またはオクチル酸錫がより好ましい。
【0073】
重合反応は、上記触媒の存在下、触媒種によっても異なるが通常100〜200℃の温度で行うことができる。また、重合反応に伴って生成する水を除くために、重合反応は減圧条件下で行われることが望ましく、好ましくは7kPa以下、より好ましくは1.5kPa以下である。
【0074】
重合反応時には水酸基またはアミノ基を分子内に2個以上含有する化合物を重合開始剤として用いてもよい。ここで、重合開始剤として用いる水酸基またはアミノ基を分子内に2個以上含有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)などの多価アルコール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、メラミンなどの多価アミンなどが挙げられ、なかでも、多価アルコールがより好ましい。
【0075】
前記重合開始剤の添加量は、特に限定されるものではないが、使用する原料(L−乳酸、D−乳酸、L,L−ラクチドまたはD,D−ラクチド)100重量部に対して0.001〜5重量部が好ましく、0.01〜3重量部がより好ましい。
【0076】
直接重合法によりポリ乳酸を製造する場合、原料の乳酸が高純度であることが必要とされるが、本発明の乳酸であれば、直接重合法に十分適用可能である。また、直接重合法を行う溶媒としては、重合に影響を及ぼさなければ特に制限は無く、水や有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の場合、例えば、芳香族炭化水素類が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン、ナフタレン、クロロベンゼン、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。また、直接重合法によりポリ乳酸を製造する場合、縮合反応で生成する水を系外に排出することにより、重合を促進することができる。系外に排出する方法としては、減圧条件下で重合を行うことが好ましく、具体的には、7kPa以下、より好ましくは1.5kPa以下である。
【0077】
本発明の乳酸を原料とするポリ乳酸は、重量平均分子量が170,000以上、かつ、窒素雰囲気下、200℃一定、加熱時間20分での熱重量減少率において、6.5%以下、かつ、APHA単位色数が15以下であることを特徴としている。重量平均分子量が170000以上、好ましくは200,000以上であれば、機械的強度が優れ、熱重量減少率が6.5%以下、好ましくは6.0%以下であれば、熱安定性に優れ、APHA15以下、好ましくは10以下であれば、色相に優れることから、繊維、フィルム、成型品など、多岐用途に適する。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
参考例1 乳酸生産能力を持つ酵母株の作製
乳酸生産能力を持つ酵母株を下記のように造成した。具体的には、ヒト由来L−LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでL−乳酸生産能力を持つ酵母株を造成した。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、“La−Taq”(宝酒造株式会社製)、あるいは“KOD−Plus−polymerase”(東洋紡株式会社製)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
【0080】
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、“TORIZOL Reagent”(インビトロジェン社製)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型として“SuperScript Choice System”(インビトロジェン社製)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを続くPCRの増幅鋳型とした。
【0081】
上記操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとした“KOD−Plus−polymerase”によるPCRによりL−LDH遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端を“T4 Polynucleotide Kinase”(宝酒造株式会社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、“DNA Ligation Kit Ver.2”(宝酒造株式会社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することによりヒト由来L−LDH遺伝子(アクセッションナンバー;AY009108、配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−LDH遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてヒト由来L−LDH遺伝子発現プラスミドpL−LDH5を得た。
【0082】
ヒト由来L−LDH遺伝子を含むプラスミドpL−LDH5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.3kbのヒト由来L−LDH遺伝子、及びサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた1.3kb断片、1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子及びTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を常法に従い調製した。この2.5kbのDNA断片で出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
【0083】
得られた形質転換細胞がヒト由来L−LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のように行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより0.7kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS 2000 EDITION、CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することで確認した。
【0084】
カラム:Shim−Pack SPR−H(株式会社島津製作所製)、移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)、反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)、検出方法:電気伝導度、温度:45℃。
【0085】
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
【0086】
カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー株式会社製)、移動相 :1mM 硫酸銅水溶液、流速:1.0ml/min、検出方法 :UV254nm、温度 :30℃。
【0087】
また、L−乳酸の光学純度は式3で計算した。ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0088】
光学純度(%e.e.)=100×(L−D)/(L+D)・・・(式3)。
【0089】
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことを確認した。得られた形質転換細胞を酵母SW−1株として、続く実施例に用いた。
【0090】
参考例2 バッチ発酵によるL−乳酸の製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を行い、その乳酸生産性を評価した。表1に示す乳酸発酵培地を用い、バッチ発酵試験を行った。該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。微生物として参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、参考例1に示したHPLCを用いて評価し、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(和光純薬工業株式会社製)を用いた。参考例2の運転条件を以下に示す。
【0091】
反応槽容量(乳酸発酵培地量):2(L)、 温度調整:30(℃)、反応槽通気量:0.2(L/min)、反応槽攪拌速度:400(rpm)、pH調整:1N 水酸化カルシウムによりpH5に調整。
【0092】
まず、SW−1株を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。温度調整、pH調整を行い、発酵培養を行った。この時の菌体増殖量は、600nmでの吸光度で15であった。回分発酵の結果を表2に示す。参考例2で得られた乳酸発酵液(乳酸濃度30g/L、光学純度99%e.e.)を以下の実施例で精製した。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
比較例1 乳酸の製造例
(乳酸塩の晶析)
図1に示す、膜濾過装置の原水槽1に参考例2で得られた培養液40Lを注入した。図1の符号2に逆浸透膜として、スパイラル型4インチエレメント“TM−810”(東レ株式会社製、膜面積7m)をセットし、原水槽1の温度を45℃に調整し、操作圧力5MPaで乳酸カルシウムが析出するまで透過液4および、濃縮液を原水槽1から回収した。その後、濃縮液を、20℃に保温したガラス製容器に移し、20℃、200rpmで2時間撹拌して晶析を行った。2時間後、乳酸カルシウムスラリーを遠心分離機で固液分離し、ウエット結晶を得た。乳酸カルシウム回収率を式4の方法で算出した。
【0096】
乳酸カルシウム回収率(%)=100×ウエット結晶中の乳酸カルシウム量(g)/逆浸透膜濃縮後乳酸カルシウム量(g)・・・(式4)。
【0097】
その結果、乳酸カルシウムの回収量(ウェット結晶中の乳酸カルシウム量)は823g、回収率は60%、光学純度は99.9%e.e.であった。
【0098】
(酸性物質添加によるフリー乳酸の取得)
上記で得られた乳酸カルシウムを純水7.6Lに溶解させ、10重量%の乳酸カルシウム水溶液とした。次いで、前記水溶液を攪拌しながら濃硫酸(和光純薬株式会社製)をpH2.5になるまで滴下し、析出した硫酸カルシウムを定性濾紙No.2(アドバンテック製)を用いて濾別し、濾液を回収した。
【0099】
(ナノ濾過膜による濾過)
上記濾液として回収した乳酸水溶液をナノ濾過膜モジュールSU−610(東レ株式会社製)を用いて、操作圧力2.0MPaで濾過し、不純物を除去した。ナノ濾過膜処理前後の乳酸水溶液に含まれる硫酸イオン、カルシウムイオンの濃度をイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により以下の条件で分析した。
【0100】
陰イオン;カラム(AS4A−SC(DIONEX製))、溶離液(1.8mM炭酸ナトリウム/1.7mM炭酸水素ナトリウム)、温度(35℃)。
【0101】
陽イオン;カラム(CS12A(DIONEX製))、溶離液(20mMメタンスルホン酸)、温度(35℃)。
【0102】
また、グルコース濃度を参考例1と同様に“グルコーステストワコーC”(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定し、乳酸およびピルビン酸濃度を参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。分析結果を表4に示す。
【0103】
(乳酸水溶液の濃縮・蒸留)
上記ナノ濾過膜透過液を逆浸透膜モジュールSU−810(東レ株式会社製)を用いて濃縮し、さらに、ロータリーエバポレーター(東京理化器械株式会社製)を用いて、減圧下(50hPa)で水を蒸発させて濃縮し、80%水溶液を得た。次いで、133Pa、130℃で減圧蒸留を行い、乳酸286gを得た。
【0104】
(乳酸中の不純物分析)
上記で得られた乳酸に純水を添加して90%水溶液とし、含まれる不純物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)またはGC(ガスクロマトグラフィー)により下記の条件で分析した。分析結果を表5に示す。
【0105】
HPLC法による、酢酸、ピルビン酸、2−ヒドロキシ酪酸の分析
カラム:Shim−Pack SPR−H(島津製作所製)、移動相:5mMp−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)、反応液:5mMp−トルエンスルホン酸、20mMビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)、検出方法:電気伝導度、温度:45℃。
【0106】
HPLC法による、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の分析
カラム:Synergie HydroRP(Phenomenex製)、移動相:5%アセトニトリル水溶液(流速1.0mL/min)、検出方法:UV(283nm)、温度:40℃。
【0107】
GC法による、メタノール、乳酸メチルの分析
カラム:DB−5(0.25mm×30m、J&W製)、カラム温度:50℃から250℃(8℃/分)、注入口温度:250℃、キャリアガス:ヘリウム、キャリア圧:65kPa。
【0108】
(乳酸の着色度分析)
上記90%乳酸水溶液の着色度を比色計(日本電色工業株式会社製)によりAPHA単位色数として分析した。
【0109】
(新規不純物の同定)
上記で得られた乳酸に水を添加して90%乳酸水溶液とし、不純物測定を行ったところ、既知不純物(酢酸、ピルビン酸、2−ヒドロキシ酪酸、フルフラール、HMF、メタノール、乳酸メチル)以外に未知の着色性不純物が存在することがわかったため、該着色性不純物の単離同定を行った。まず、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を下記条件で運転し、溶出時間22.7分〜23.5分の未知不純物を分取した。
【0110】
カラム:Inertsil ODS−3 分取カラム(GL Science製)、移動相:水(0.08%トリフルオロ酢酸含有)(A液)、アセトニトリル(0.08% トリフルオロ酢酸含有)(B液)、グラジエント条件:5% B液(0〜5分)、5〜20% B液(5〜20分)、20〜70% B液(20〜40分)、70〜99% B液(40〜42分)、99〜5% B液(42〜45分)、流速:4.0mL/分、検出方法:PDA(フォトダイオードアレイ)、温度:40℃。
【0111】
上記HPLCによる分析では、PDA検出器により、多波長での解析が可能である。この解析のうち、波長350nmにおける解析結果を図3に、溶出時間23.2分の成分における、波長200〜500nmの吸収スペクトルの解析結果を図4に示す。図3より、測定波長350nmでは、6.4〜8.0分の乳酸の弱いピークの他、22.7〜23.5分に分取した未知不純物の強いピークが検出された。また、図4より、分取した未知不純物のピークは約350nmを極大吸収波長とし、可視領域にも吸収を持つ、着色性の不純物であることがわかった。
【0112】
次いで、分取した未知不純物をLC−MS(アジレント・テクノロジー株式会社製)によって下記条件で分析した。
【0113】
カラム:XDB−C18(アジレント・テクノロジー株式会社製)、移動相:水(0.1% ギ酸含有)(A液)、アセトニトリル(0.1% ギ酸含有)(B液)、グラジエント:1%B液(0〜1分)、1〜80% B液(1〜3.5分)、80〜1% B液(3.5〜5分)、流速:0.5mL/分、検出方法:375nm、温度:40℃。
【0114】
LC−MS分析の結果、197の正イオンピーク、195の負イオンピークが検出されたことから、前記未知不純物の分子量は196であることがわかった。
【0115】
さらに、H−NMR(日本電子株式会社製)により、重水を溶媒として分析し、構造を決定した(周波数:400MHz)。H−NMR測定によるNMRスペクトル(図5)および前述の分子量測定結果より、未知不純物が前記化合物(1)であることが同定された。
【0116】
なお、着色度(APHA4)の90%乳酸水溶液に、濃度が1ppmとなるように化合物(1)を添加して、再度着色度を測定した結果、APHA値が14まで増大したことから、化合物(1)は着色性不純物として乳酸の品質を大きく低下させることがわかった。
【0117】
(乳酸中の新規不純物(化合物(1))の分析)
乳酸に純水を添加して90%水溶液とし、含まれる新規不純物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により下記の条件で分析した。分析結果を表5に示す。
【0118】
カラム:Synergie HydroRP(Phenomenex製)、移動相:5%アセトニトリル水溶液(流速1.0mL/min)、検出方法:UV(283nm)、温度:40℃。
【0119】
比較例2 乳酸の製造例
乳酸カルシウムの晶析工程を行わなかった以外は比較例1と同様の手順で乳酸を製造した。
【0120】
(酸性物質添加によるフリー乳酸の取得)
参考例2で得られた培養液40Lに、溶液のpHが2.5となるまで濃硫酸(和光純薬製)を添加後、硫酸カルシウムを濾別し、フリーの乳酸を得た。
【0121】
(ナノ濾過膜による濾過)
上記乳酸水溶液を比較例1と同様の条件でナノ濾過膜モジュールSU−610(東レ株式会社製)で濾過したところ、運転の途中で硫酸カルシウムの析出が見られた。ナノ濾過膜処理前後の乳酸水溶液の透過液に含まれる硫酸イオン、カルシウムイオンの濃度を比較例1と同様の条件でイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により測定し、グルコース濃度を参考例1と同様に“グルコーステストワコーC”(和光純薬工業株式会社製)用いて測定し、乳酸およびピルビン酸の濃度を参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。分析結果を表4に示す。
【0122】
(乳酸水溶液の濃縮・蒸留)
次に、上記ナノ濾過膜透過液を比較例1と同様の条件で水を蒸発させて濃縮し、80%乳酸水溶液を得た。次いで、133Pa、130℃で減圧蒸留を行い、乳酸223gを得た。
【0123】
(乳酸中の不純物分析)
上記で得られた、乳酸に純水を添加して90%水溶液とし、含まれる不純物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)またはGC(ガスクロマトグラフィー)により比較例1と同様の条件で分析した。分析結果を表5に示す。
【0124】
(乳酸の着色度分析)
比較例1と同様の条件で分析した。分析結果を表5に示す。
【0125】
実施例1 乳酸の製造例
(乳酸塩の晶析)
参考例2で得られた培養液40Lを2バッチ(実施例1−1、実施例1−2)準備し、それぞれについて比較例1と同様の条件で乳酸カルシウムを晶析した。その結果、実施例1−1および実施例1−2とも乳酸カルシウムの回収量(ウェット結晶中の乳酸カルシウム量)は846g、回収率は62%、光学純度は99.9%e.e.であった。
【0126】
(酸性物質添加によるフリー乳酸の取得)
上記で得られた乳酸カルシウムを純水7.6Lに溶解させ、10重量%の乳酸カルシウム水溶液とした。次いで、前記水溶液を攪拌しながら濃硫酸(和光純薬株式会社製)をpH2.5になるまで滴下し、析出した硫酸カルシウムを定性濾紙No.2(アドバンテック製)を用いて濾別し、濾液を回収した。
【0127】
(イオン交換処理による無機塩、ピルビン酸の除去)
上記乳酸水溶液を、あらかじめ乳酸型に調製した強塩基性陰イオン交換樹脂“ダイヤイオン”(登録商標)SA10A(三菱化学株式会社製)200mLを充填したカラムに2SV/hの速度で供給し、次いで、その流出液を、あらかじめH型に調製した強酸性陽イオン交換樹脂“ダイヤイオン”(登録商標)SK1B(三菱化学株式会社製)300mLを充填したカラムに2SV/hで供給し、流出液を回収した。
【0128】
実施例1−2のイオン交換処理前後の乳酸水溶液中の硫酸イオン、カルシウムイオンの濃度を比較例1と同様にイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により測定し、グルコース濃度を、参考例1と同様に“グルコーステストワコーC”(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定し、乳酸およびピルビン酸濃度を参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。分析結果は表3に示す通りであり、イオン交換処理により、無機塩およびピルビン酸を効率的に除去できることがわかった。
【0129】
【表3】

【0130】
(ナノ濾過膜による濾過)
上記イオン交換処理した乳酸水溶液を比較例1と同様の条件でナノ濾過膜に通じて濾過し、不純物を除去した。実施例1−2のナノ濾過膜処理前後の乳酸水溶液に含まれる硫酸イオン、カルシウムイオンの濃度を上記と同様の条件でイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により測定し、グルコース濃度を参考例1と同様に“グルコーステストワコーC”(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定し、乳酸およびピルビン酸の濃度を参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により測定した。分析結果は表4に示す通りであり、ナノ濾過膜による濾過により無機塩およびグルコースを高効率で除去できることが示された。
【0131】
【表4】

【0132】
(乳酸水溶液の濃縮・蒸留)
次に、上記ナノ濾過膜透過液を比較例1と同様の条件で水を蒸発させて濃縮し、80%乳酸水溶液を得た。次いで、133Pa、130℃で減圧蒸留を行い、実施例1−1および実施例1−2とも乳酸314gを得た。
【0133】
(乳酸中の不純物分析)
上記で得られた、乳酸に純水を添加して90%水溶液とし、含まれる不純物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)またはGC(ガスクロマトグラフィー)により比較例1と同様の条件で分析した。分析結果を表5に示す。その結果、実施例1−1では全ての分析項目において0ppm(検出限界以下)あった。また、実施例1−1および実施例1−2では、無機塩およびピルビン酸のいずれも効率的に除去されている一方、比較例1および2ではピルビン酸の除去が不十分であった。
【0134】
(乳酸の着色度分析)
比較例1と同様の条件で分析した。分析結果を表5に示す。
【0135】
【表5】

【0136】
以上の実施例及び比較例の結果から、工程A(晶析)および工程C(イオン交換処理)に供することで、ポリ乳酸の品質に影響を与える不純物含有量を低減させ、着色も少ない、高品質な乳酸を取得できることが分かった。
【0137】
実施例2 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−1および実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液を重合し、ポリ乳酸の物性を分析した(実施例2−1、実施例2−2)。
【0138】
実施例1−1、および実施例1−2で得られた乳酸150gを、撹拌装置のついた反応容器中で、800Pa、160℃、3.5時間加熱し、オリゴマーを得た。次いで、酢酸錫(II)(関東化学株式会社製)0.12g、メタンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)0.33gをオリゴマーに添加し、500Pa、180℃、7時間加熱し、プレポリマーを得た。次いで、プレポリマーをオーブンで120℃、2時間加熱して結晶化した。得られたプレポリマーを、ハンマー粉砕機を用いて粉砕し、ふるいにかけて平均粒子径0.1mmの大きさの粉体を得た。固相重合工程では、150gのプレポリマーを取り、油回転ポンプを接続したオーブンに導入して、加熱減圧処理を行った。圧力は50Pa、加熱温度は140℃:10時間、150℃:10時間、160℃:20時間とした。得られたポリ乳酸は以下の条件でGPC(東ソー株式会社製)による重量平均分子量分析、DSC(エスアイアイ・テクノロジー製)による融点分析、TG(エスアイアイ・テクノロジー製)による熱重量減少率分析を行った。
【0139】
(ポリ乳酸の重量平均分子量分析)
重合したポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量の値である。GPC測定は、GPCシステムとしてHLC8320GPC(東ソー株式会社製)を用い、カラムにTSK−GEL SuperHM−M(東ソー株式会社製)を直列に2本接続したものを使用し、示差屈折計によって検出した。測定条件は、流速0.35mL/分とし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液0.02mL注入した。
【0140】
(ポリ乳酸の融点分析)
重合したポリ乳酸の融点は、示差走査型熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー製)により測定した値であり、測定条件は、試料10mg、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で行った。
【0141】
(ポリ乳酸の熱重量減少率分析)
重合したポリ乳酸の熱重量減少率は、示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA7200(エスアイアイ・ナノテクノロジー製)を用いて測定した。測定条件は、試料10mg、窒素雰囲気下、200℃一定、加熱時間20分とした。
【0142】
(ポリ乳酸の着色度分析)
重合したポリ乳酸0.5gを、クロロホルム9.5gに完全に溶解させ、着色度を比色計(日本電色工業株式会社製)によりAPHA単位色数として分析した。
【0143】
乳酸の直接重合により得られたポリ乳酸は、実施例2−1では重量平均分子量213000、融点169℃、熱重量減少率5.1%、着色度APHA5、実施例2−2では重量平均分子量201000、融点168℃、熱重量減少率5.3%、着色度APHA6であった。
【0144】
比較例3 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
比較例1で得られた90%乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0145】
比較例4 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
比較例2で得られた90%乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0146】
比較例5 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、メタノール100ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0147】
比較例6 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、ピルビン酸300ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0148】
比較例7 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、フルフラール25ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0149】
比較例8 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、5−ヒドロキシメチルフルフラール25ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0150】
比較例9 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、乳酸メチル650ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0151】
比較例10 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、酢酸700ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0152】
比較例11 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、2−ヒドロキシ酪酸750ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0153】
比較例12 乳酸の重合試験、ポリ乳酸の物性評価
実施例1−2で得られた90%乳酸水溶液の不純物のうち、化合物(1)3ppmになるように成分を添加・調整した乳酸水溶液150gを用いた他は、実施例1と同様にポリ乳酸を重合、分析した。
【0154】
実施例2−1、実施例2−2、および比較例3〜12で得られたポリ乳酸の重量平均分子量、融点、重量減少率、着色度APHAを表6に示す。
【0155】
【表6】

【0156】
表6に示すように、実施例2−1、実施例2−2においては、重量平均分子量、融点、熱重量減少率、着色度すべての項目について高度な物性を持つポリ乳酸が得られた。しかしながら、比較例5、および9では、重量平均分子量が小さいため機械的強度が低く、比較例3、4、および6、12では、重量平均分子量が小さいため機械的強度が低い上、着色度が高かった。また、比較例7、8では、熱重量減少率が高く、着色度が高かった。比較例10〜11では、熱重量減少率が高かった。以上の結果から、乳酸中の不純物として規定量以下であれば、重量平均分子量、融点が高く、重量減少率、着色度の低いポリ乳酸が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の乳酸は、食品、医薬品のほか、生分解性プラスチックであるポリ乳酸のモノマー原料として好適に用いられる。また、本発明の乳酸を原料とするポリ乳酸は、熱安定性、機械的強度、色相の物性バランスの優れており、汎用プラスチックとして各種産業用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0158】
1 原水槽
2 ナノ濾過膜または逆浸透膜が装着されたセル
3 高圧ポンプ
4 膜透過液の流れ
5 膜濃縮液の流れ
6 高圧ポンプにより送液された培養液の流れ
7 ナノ濾過膜
8 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
90%乳酸水溶液中において、不純物としてメタノールを70ppm以下、ピルビン酸を200ppm以下、フルフラールを15ppm以下、5−ヒドロキシメチルフルフラールを15ppm以下、乳酸メチルを600ppm以下、酢酸を500ppm以下、2−ヒドロキシ酪酸を500ppm以下および化学式(1)で表される化合物を0.3ppm未満含有し、かつ光学純度が90%e.e.以上である、乳酸。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の乳酸を原料にして得られる、ポリ乳酸。
【請求項3】
請求項1に記載の乳酸を原料にして直接脱水重縮合反応により得られる、ポリ乳酸。
【請求項4】
微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法であって、該培養液中の乳酸を乳酸塩として晶析する工程A、工程Aで得られた乳酸塩に酸性物質を添加してフリーの乳酸含有溶液を得る工程B、工程Bで得られた乳酸含有溶液をイオン交換処理する工程C、工程Cで得られた乳酸含有をナノ濾過膜に通じて濾過する工程Dおよび工程Dで得られた乳酸含有溶液を1Pa以上大気圧以下の圧力下において25℃以上200℃以下で蒸留して乳酸を回収する工程Eを含む、乳酸の製造方法。
【請求項5】
前記工程Cが少なくとも陰イオン処理工程を含む、請求項4に記載の乳酸の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の乳酸の製造方法により得られる乳酸を直接脱水重縮合反応により重合することを特徴とする、ポリ乳酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−12322(P2012−12322A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149553(P2010−149553)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】