説明

乳酸の回収方法

【課題】ポリ乳酸樹脂又はポリ乳酸樹脂を含む固形物を比較的低温で、短時間に分解することができ、また、生成された乳酸を効率よく回収することのできる、乳酸の回収方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂又は該ポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒とを混合し、その混合物を加熱して前記ポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成する。解重合触媒は、元素の周期表における2A族、4A族、5A族、6A族、7A族、8族、1B族、2B族、3B族、及び4B族から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、炭酸塩、又は水酸化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性高分子に属するポリ乳酸樹脂(脂肪族ポリエステル)を分解して液化する技術に係わり、特に廃プラスチックとしてのポリ乳酸樹脂やこれを含むポリマーブレンドをはじめとするポリマーアロイなどを熱分解し、ポリ乳酸樹脂の原料などとして利用可能な乳酸を回収する、乳酸の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油化学工業の発展とプラスチックの合成加工技術の進歩により、種々のプラスチック製品が大量に生産され、これに伴って使用済みのプラスチック製品が廃プラスチックとして多量に排出されるという実情にある。例えば、平成15年の我が国における廃プラスチックの排出量は、年間1000万トン近くにまで達している。そして、その排出量は減少する傾向になく、寧ろ増大傾向が顕著であり、廃プラスチックの処分問題は深刻な状況となっている。
【0003】
現在、廃プラスチックの40%強は焼却か埋め立てによって処分されているが、燃焼熱カロリーの高い廃プラスチックを一般ゴミと一緒に通常のゴミ焼却場で焼却処分すると、異常燃焼して炉壁を傷める上、二酸化炭素やダイオキシン類が大気中に放出されて地球温暖化や大気汚染を惹起するという問題がある。
【0004】
一方、埋め立て処分によれば、水質汚染や最終処分場の用地不足といった問題を抱え、将来に亘って継続することは至極困難である。
【0005】
このような状況の下、石油資源の枯渇や供給不安といった問題も手伝って、石油原料を植物由来原料に代替することで、酸素や微生物により最終的に水と炭酸ガスに分解される生分解性高分子(プラスチック)の研究開発が盛んに行われ、これを用いた製品が実用化されるに至っている。
【0006】
中でも、トウモロコシなどの澱粉を原料としたポリ乳酸樹脂は、生分解性を有することは勿論のこと、再生可能資源である植物由来の環境低負荷樹脂であることから、その技術開発やポリ乳酸樹脂を利用した製品の開発が盛んに行われている。
【0007】
例えば、ポリ乳酸樹脂を利用してフィルムや包装材料を製造する技術が開発され、既にその製品が一般に広く賞用されている。又、ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上させる技術などが開発され、最近では自動車の内装部品をはじめ、電子機器やOA機器の筐体といった高機能性商品などの分野でもポリ乳酸樹脂が採用され始めている。
【0008】
また、ポリ乳酸樹脂は、焼却や埋め立てをせずして微生物などにより分解することができるので、公害や処分場の用地確保といった問題を発生させず、自然環境を保護する上で都合がよいが、資源の有効使用という観点からすれば、その廃棄物を再資源化するべくその原料となる乳酸を高い収率で回収することが望まれる。
【0009】
従来、係る技術として、ポリ乳酸を適量の水と混合し、これを高温下で処理することによりポリ乳酸を分解してモノマー化した乳酸を回収することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−300927号公報
【特許文献2】特開2005−330211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、2では、ポリ乳酸(生分解性ポリエステル)樹脂と水との混合比、及びその加熱温度や加熱時間について検討しているが、加熱温度が特許文献1では200〜350℃、特許文献2では160〜200℃とそれぞれ高く、加熱時間も比較的長いものであり、リサイクルの観点からすれば、更に回収処理にかかるエネルギー消費量が少なくて済む、より高効率の乳酸の回収方法が望まれている。
【0011】
ところで、水中におけるポリ乳酸樹脂の加熱分解、液化に際して、水に水酸化ナトリウムを加えると、ポリ乳酸樹脂の液化が促進され、その分解液化にかかる時間を短縮することができるが、水酸化ナトリウムは水に可溶(易溶性ともいう)であるため、その添加によってポリ乳酸樹脂の分解を促進できても、乳酸モノマーとして生成されるポリ乳酸樹脂の液化物と水酸化ナトリウムとの分離が困難であり、両者の分離の点で効率のよい方法であるとは言えず、実際には殆ど行われていないのが現状であり、さらなる改善が望まれている。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポリ乳酸樹脂又はポリ乳酸樹脂を含む固形物を比較的低温、例えば160℃以下の加熱温度で、短時間、例えば300分以下の加熱時間で分解することができ、また、生成された乳酸を効率よく回収することのできる、乳酸の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本願各発明は次の手段を有する。
1)ポリ乳酸樹脂又は該ポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒とを混合し、その混合物を加熱して前記ポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成することを特徴とする乳酸の回収方法である。
2)ポリ乳酸樹脂又は該ポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒と、前記ポリ乳酸樹脂が溶解または膨潤し、かつ水に難溶または不溶であり該水と相分離する有機溶媒と、を混合し、その混合物を加熱して前記ポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成することを特徴とする乳酸の回収方法である。
3)前記有機溶媒は、トルエン,キシレン,塩化メチレン,クロロホルム,及び四塩化炭素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする2)項記載の乳酸の回収方法である。
4)前記解重合触媒は、元素の周期表における2A族、4A族、5A族、6A族、7A族、8族、1B族、2B族、3B族、及び4B族から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、炭酸塩、又は水酸化物であることを特徴とする1)項乃至3)項のいずれか1項記載の乳酸の回収方法である。
5)前記解重合触媒は、ベリリウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、インジウム、スズ、鉛、及びケイ素の群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることを特徴とする1)項乃至3)項のいずれか1項記載の乳酸の回収方法である。
6)前記解重合触媒は、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マンガン、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸銅、炭酸銀、炭酸亜鉛、炭酸カドミウム、炭酸鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化金、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、及び水酸化鉛の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1)項乃至3)項のいずれか1項記載の乳酸の回収方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂又はポリ乳酸樹脂を含む固形物を比較的低温、例えば160℃以下の加熱温度で、短時間、例えば300分以下の加熱時間で分解することができ、また、生成された乳酸を効率よく回収することのできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により以下に説明する。
【0016】
ポリ乳酸樹脂(Poly lactic acid:PLA)は、トウモロコシの澱粉(コーンスターチ)などを発酵させることにより生成される乳酸を縮重合して得られる脂肪族ポリエステルに属する熱可塑性の生分解性高分子である。
また、ポリ乳酸樹脂は、ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)とがあり、これらの軟化点は約55〜60℃であり、融点は約175℃である。
【0017】
本発明は、上述したポリ乳酸樹脂の単体、またはこれを含んだ固形物を基材とし、その基材からポリ乳酸樹脂の原料と成り得る乳酸を回収する、乳酸の回収方法に関するものである。
【0018】
まず、ポリ乳酸樹脂又はポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒とを混合する混合工程、及びその混合工程により得られた混合物を加熱してポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成する分解工程、を有するポリ乳酸の回収方法について説明する。
ここで、水に対して難溶または不溶とは、水に対する溶解度が1wt%以下のものを示す。
【0019】
まず、混合工程について説明する。
【0020】
ポリ乳酸樹脂又はその含有固形物には、これら成型物の廃材を好適に用いることができる。
また、ポリ乳酸樹脂含有固形物としては、ポリ乳酸樹脂と他の合成樹脂との混合物であるポリマーブレンド(ポリマーアロイ)などを用いることができる。
ポリ乳酸樹脂以外の合成樹脂としては、ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,及びポリカーボネート等の水不溶性のもの、その中でも特にポリ乳酸樹脂より熱分解温度または融点が高いものが好ましく、これによれば上記の分解工程後においてポリ乳酸樹脂と他の合成樹脂との分離を容易に行うことができる。
【0021】
解重合触媒は、ポリ乳酸樹脂がポリマーからモノマーに分解する反応を助長する働きをする触媒であり、水に難溶または不溶な解重合触媒である。
このような解重合触媒として、元素の周期表における2A族、4A族、5A族、6A族、7A族、8族、1B族、2B族、3B族、及び4B族から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、炭酸塩、又は水酸化物を用いることができる。
【0022】
また、上述した、元素の周期表における2A族、4A族、5A族、6A族、7A族、8族、1B族、2B族、3B族、及び4B族に属する元素の酸化物、炭酸塩、又は水酸化物として、例えば、上記酸化物には、酸化ベリリウム[BeO:水難溶性],酸化マグネシウム[MgO:水難溶性],酸化チタン[TiO:水不溶性],酸化ジルコニウム[ZrO:水不溶性],酸化バナジウム[V:水難溶性],酸化クロム[Cr:水不溶性],酸化マンガン[MnO、Mn:水不溶性],酸化レニウム[ReO:水不溶性],酸化鉄[FeO、Fe:水不溶性],酸化ルテニウム[RuO:水不溶性],酸化コバルト[CoO、Co:水不溶性],酸化ニッケル[NiO:水不溶性],酸化銅[CuO、CuO:水不溶性],酸化銀[AgO:水難溶性],酸化亜鉛[ZnO:水不溶性],酸化カドミウム[CdO:水不溶性],酸化アルミニウム[Al:水不溶性],酸化インジウム[In:水不溶性],酸化スズ[SnO、SnO:水不溶性],酸化鉛[PbO:水難溶性、PbO:水不溶性],及び酸化ケイ素[SiO:水難溶性]を用いることができる。
【0023】
また、上記炭酸塩には、例えば、炭酸マグネシウム[MgCO:水難溶性],炭酸カルシウム[CaCO:水難溶性],炭酸バリウム[BaCO:水難溶性],炭酸マンガン[MnCO:水難溶性],炭酸コバルト[CoCO:水不溶性],炭酸ニッケル[NiCO:水難溶性],炭酸銅[CuCO:水不溶性],炭酸銀[AgCO:水難溶性],炭酸亜鉛[ZnCO:水難溶性],炭酸カドミウム[CdCO:水難溶性],及び炭酸鉛[PbCO:水不溶性]を用いることができる。
【0024】
また、上記水酸化物には、水酸化マグネシウム[Mg(OH):水難溶性],水酸化カルシウム[Ca(OH):水難溶性],水酸化クロム[Cr(OH):水不溶性],水酸化鉄[Fe(OH):水不溶性],水酸化ニッケル[Ni(OH):水不溶性],水酸化金[AuOH:水不溶性],水酸化亜鉛[Zn(OH):水難溶性],水酸化アルミニウム[Al(OH):水不溶性],及び水酸化鉛[Pb(OH):水不溶性]を用いることができる。
【0025】
また、上述した解重合触媒は、1種に限らず、2種以上を同時に用いることができる。
【0026】
上述した解重合触媒とポリ乳酸樹脂とを混合する混合工程において、上記解重合触媒をポリ乳酸樹脂100重量部当り、0.1重量部〜40重量部、好ましくは0.5重量部〜30重量部、より好ましくは2重量部〜20重量部、混合する。
上記解重合触媒の混合比が上記範囲の下限値未満であると、ポリ乳酸樹脂の分解に長時間、例えば300分以上を要し、また、上記範囲の上限値を超えてもポリ乳酸樹脂の分解時間をそれ以上大幅に短縮させることはできず、寧ろ解重合触媒の回収に時間を要するため、全体として処理効率が悪くなる。
【0027】
また、ポリ乳酸樹脂と水との混合比は、ポリ乳酸樹脂100重量部当り、水が25重量部〜25000重量部、好ましくは50重量部〜2500重量部、より好ましくは100重量部〜300重量部である。
ポリ乳酸樹脂と水との混合比が上記範囲の下限値未満であると、ポリ乳酸樹脂全てを分解液化することができず、乳酸の回収率が低下し、また、上記範囲の上限値を超えてもポリ乳酸樹脂の分解に変化は認められず、寧ろ分解工程において所定温度までの加熱に要する時間が長くなるのみならず熱エネルギーの損失となる。
【0028】
ポリ乳酸樹脂又はその含有固形物と水と解重合触媒との混合は、
(1)これらを所定の容量を有する分解槽にほぼ同時に投入して混合する方法、
(2)先にポリ乳酸樹脂又はその含有固形物を分解槽に投入し、このポリ乳酸樹脂又はその含有固形物が加熱によって溶融若しくは軟化し始めた頃に水及び解重合触媒を分解槽に投入して混合する方法、
(3)ポリ乳酸樹脂又はその含有固形物が溶融若しくは軟化した後に、水及び解重合触媒を投入して混合する方法、
の何れでもよく、これらの分解槽への投入は、単発的、間欠的、あるいは連続的に行うことができる。
【0029】
次に、分解工程について説明する。
分解工程では、分解槽内においてポリ乳酸樹脂又はその含有固形物と水と解重合触媒との混合物を加熱する。
上記混合物を加熱する加熱温度は、ポリ乳酸樹脂の量や解重合触媒の種類等にもよるが、60〜160℃である。また、加熱温度を高くする場合には分解槽内を高圧状態(0.2M〜2MPa)に維持することが望ましい。
また、分解槽内にはアルゴンや窒素等からなる不活性ガスを充填し、その雰囲気下において上記混合物を加熱することが好ましく、これによれば回収すべき乳酸が意図せぬ化学反応により変質することを防止することができる。
【0030】
上述した分解工程により、ポリ乳酸樹脂は、熱の影響により骨格の弱い部分が開裂してエステル部分に水が作用することにより、エステル交換生成物である乳酸に分解して液化する。
【0031】
分解工程後の解重合触媒は、濾過などの方法によって液体成分と分別(主に濾別)することができ、分離された解重合触媒は上述したポリ乳酸樹脂の分解液化処理に繰り返し利用することができる。
【0032】
また、基材としてポリ乳酸を含む固形物(特にポリマーアロイ)を用いた場合、ポリ乳酸樹脂以外の樹脂がポリ乳酸樹脂より高融点で水不溶性のものであれば、これも乳酸モノマーと化したポリ乳酸樹脂の液化物と容易に分別することができるし、当該樹脂と解重合触媒も比重選別などにより効率よく分別することができる。
【0033】
また、分解槽内の液体成分は乳酸及び水が主体であるから、余分な水を除去することにより、高粘性の乳酸を効率よく回収することができる。
【0034】
次に、ポリ乳酸樹脂又はポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒と、ポリ乳酸樹脂が溶解または膨潤し、かつ水に難溶または不溶であり該水と相分離する有機溶媒とを混合する混合工程、及びその混合工程により得られた混合物を加熱してポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成する分解工程、を有するポリ乳酸の回収方法について説明する。
ここで、解重合触媒及び有機溶媒において、水に対して難溶または不溶とは、水に対する溶解度がそれぞれ1wt%以下のものを示す。
【0035】
ポリ乳酸樹脂含有固形物及び解重合触媒は、上述した各材料と同様のものを用いることができる。
上記有機溶媒としては、トルエン,キシレン,塩化メチレン,クロロホルム,及び四塩化炭素を用いることができる。
また、上述した有機溶媒は、1種に限らず、2種以上を同時に用いることができる。
【0036】
混合工程において、上記有機溶媒を、ポリ乳酸樹脂100重量部当り、0.1重量部〜3000重量部、好ましくは1重量部〜300重量部、より好ましくは10重量部〜30重量部、混合する。
上記有機溶媒の混合比が上記範囲の下限値未満であると、有機溶媒を添加しない場合との効果の差がほとんどなく、また、上記範囲の上限値を超えてもポリ乳酸樹脂の分解時間をそれ以上大幅に短縮させることはできず、寧ろ分解工程において所定温度までの加熱に要する時間が長くなるのみならず熱エネルギーの損失となる。
【0037】
上述したポリ乳酸樹脂が溶解または膨潤し、かつ水に難溶または不溶であり該水と相分離する有機溶媒を用いることにより、ポリ乳酸樹脂は有機溶媒中に溶解または膨潤し、ポリ乳酸樹脂が分離することにより生成された乳酸は水に対して可溶なため水中に溶解する。
そして、上記混合物を撹拌することにより、有機溶媒と水との接触効率が向上するので、有機溶媒中のポリ乳酸樹脂を効率的に分解できると共に、この分解によって生成された乳酸を水中に効率的に溶解させることができる。
また、有機溶媒と水とは相分離しているため、乳酸が溶解している水のみを回収し、水分を除去することにより、この乳酸を効率的に回収することができる。
また、分離された有機溶媒及び解重合触媒は、上述したポリ乳酸樹脂の分解液化処理に繰り返し利用することができる。
【0038】
[実施例1]
まず、混合工程として、ペレット状のポリ乳酸樹脂(三井化学社製、商品名レイシアH100J)20g、水50g、及び解重合触媒である酸化鉄粉末(Fe)0.8gを、外部から内部の様子を観察することのできる耐圧密閉型で収容容量が約200mlの分解槽に入れて混合した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りの解重合触媒は4重量部である。
【0039】
次に、分解工程として、その混合物を約1MPa(メガパスカル)の圧力下で、150℃に加熱して、ポリ乳酸樹脂の分解液化反応を行った。また、分解槽内は窒素雰囲気とした。
【0040】
分解工程中、分解槽内を観察し、ポリ乳酸樹脂が分解消失して液化するまで加熱を行い、その液化するまでの加熱時間を測定したところ、ポリ乳酸樹脂の液化に要した加熱時間は10分であった。尚、加熱時間は分解槽内が150℃に達したときを測定開始点として測定したものである。
【0041】
ポリ乳酸樹脂の液化後、分解槽を強制空冷方式で冷却し、その内容物を濾過により固液分離(酸化鉄粉末と液状物とに分離)し、液状物を高速液体クロマトグラフィー及び水系ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて分析したところ、ポリ乳酸樹脂が全て乳酸に分解されていることを確認した。
【0042】
[実施例2]
実施例1で使用した解重合触媒を、Feに替えて同量の酸化銅(CuO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0043】
[実施例3]
実施例1で使用した解重合触媒を、Feに替えて同量の酸化亜鉛(ZnO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0044】
[実施例4]
実施例1で使用した解重合触媒を、Feに替えて同量の酸化アルミニウム(Al)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0045】
[実施例5]
実施例1で使用した解重合触媒を、Feに替えて同量の酸化スズ(SnO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0046】
[実施例6]
実施例1で使用した解重合触媒を、Feに替えて同量の酸化チタン(TiO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0047】
[実施例7]
実施例1で使用した解重合触媒を、Feに替えて同量の酸化バナジウム(V)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0048】
[実施例8]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の酸化クロム(Cr)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0049】
[実施例9]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の酸化マンガン(MnO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0050】
[実施例10]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の酸化マグネシウム(MgO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0051】
[実施例11]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の炭酸カルシウム(CaCO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0052】
[実施例12]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の炭酸マグネシウム(MgCO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0053】
[実施例13]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の炭酸バリウム(BaCO)とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0054】
[実施例14]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の水酸化マグネシウム(Mg(OH))とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0055】
[実施例15]
実施例1で使用した解重合触媒をFeに替えて同量の水酸化カルシウム(Ca(OH))とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0056】
[実施例16]
実施例1で使用した解重合触媒(Fe)の量を0.8gに替えて0.2gとし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りの解重合触媒は1重量部である。
【0057】
[実施例17]
実施例1で使用した解重合触媒(Fe)の量を0.8gに替えて0.04gとし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りの解重合触媒は0.2重量部である。
【0058】
[実施例18]
実施例1で使用した解重合触媒(Fe)の量を0.8gに替えて5gとし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りの解重合触媒は25重量部である。
【0059】
[実施例19]
実施例1ではポリ乳酸樹脂を分解液化させるための加熱温度を150℃としたが、実施例19ではこの加熱温度を135℃とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0060】
[実施例20]
実施例1ではポリ乳酸樹脂を分解液化させるための加熱温度を150℃としたが、実施例19ではこの加熱温度を160℃とし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0061】
[実施例21]
混合工程として、ペレット状のポリ乳酸樹脂(三井化学社製、商品名レイシアH100J)20g、水50g、解重合触媒である酸化鉄粉末(Fe)0.8g、及びポリ乳酸樹脂が溶解または膨潤し、かつ水に難溶または不溶な有機溶媒であるトルエン4gを、外部から内部の様子を観察することのできる耐圧密閉型で収容容量が約200mlの分解槽に入れて混合した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当り、解重合触媒は4重量部であり、トルエンは20重量部である。
その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0062】
[実施例22]
実施例21で使用した有機溶媒をトルエンに替えて同量のキシレンとし、その他については実施例21と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りキシレンは20重量部である。
【0063】
[実施例23]
実施例21で使用した有機溶媒をトルエンに替えて同量の塩化メチレンとし、その他については実施例21と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当り塩化メチレンは20重量部である。
【0064】
[実施例24]
実施例21で使用した有機溶媒をトルエンに替えて同量のクロロホルムとし、その他については実施例21と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りクロロホルムは20重量部である。
【0065】
[実施例25]
実施例21で使用した有機溶媒をトルエンに替えて同量の四塩化炭素とし、その他については実施例21と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当り四塩化炭素は20重量部である。
【0066】
[比較例]
解重合触媒を用いずに、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
【0067】
[参考例]
実施例1で使用した解重合触媒(Fe)の量を0.8gに替えて0.01gとし、その他については実施例1と同条件で同様の実験を行い、ペレット状のポリ乳酸樹脂が液化するまでの加熱時間を測定した。
換言すれば、ポリ乳酸樹脂100重量部当りの解重合触媒は0.05重量部である。
【0068】
上述した実施例1〜25,比較例,及び参考例におけるポリ乳酸樹脂が分解液化するまでの各加熱時間を表1にまとめた。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、実施例1〜25では、160℃以下の加熱温度で、かつポリ乳酸樹脂が分解液化するまでの加熱時間をそれぞれ300分以下と短い時間にすることができるが、比較例及び参考例では、上記加熱時間が300分を越えてしまうことを確認した。
160℃以下の加熱温度で、短時間、例えば300分以下の加熱時間で分解することができ
【0071】
また、ポリ乳酸樹脂を含む固形物として、ポリ乳酸樹脂50重量部とポリカーボネート樹脂50重量部とから成るポリマーアロイについても、これを基材として実施例1と同様にポリ乳酸樹脂の分解液化を行ったが、ポリカーボネート樹脂は150℃では分解せず原形を留めるため、ポリ乳酸樹脂が十分に分解液化したか否かは目視により確認することができないので、大まかに加熱時間を200分として、その後に分解槽における液状物と固形物の各物性を調べた。
その結果、ポリ乳酸樹脂は全て分解液化し、水中に乳酸として溶出した状態となっており、固形物として残存したものはポリカーボネート樹脂と解重合触媒(酸化鉄粉末)のみであることを確認した。
【0072】
ポリカーボネート樹脂と酸化鉄粉末とは比重が大きく異なるので、比重選別法によりそれぞれを互いに容易に分離することができる。
ところで、解重合触媒を加えずに同様の実験を行ったところ、300分の加熱時間でもポリ乳酸樹脂は殆ど分解液化しない状態であった。
【0073】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂又は該ポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒とを混合し、その混合物を加熱して前記ポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成することを特徴とする乳酸の回収方法。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂又は該ポリ乳酸樹脂を含む固形物と、水と、水に難溶または不溶な解重合触媒と、前記ポリ乳酸樹脂が溶解または膨潤し、かつ水に難溶または不溶であり該水と相分離する有機溶媒と、を混合し、その混合物を加熱して前記ポリ乳酸樹脂を分解することにより乳酸を生成することを特徴とする乳酸の回収方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、トルエン,キシレン,塩化メチレン,クロロホルム,及び四塩化炭素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の乳酸の回収方法。
【請求項4】
前記解重合触媒は、元素の周期表における2A族、4A族、5A族、6A族、7A族、8族、1B族、2B族、3B族、及び4B族から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、炭酸塩、又は水酸化物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の乳酸の回収方法。
【請求項5】
前記解重合触媒は、ベリリウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、インジウム、スズ、鉛、及びケイ素の群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の乳酸の回収方法。
【請求項6】
前記解重合触媒は、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マンガン、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸銅、炭酸銀、炭酸亜鉛、炭酸カドミウム、炭酸鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化金、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、及び水酸化鉛の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の乳酸の回収方法。

【公開番号】特開2008−50351(P2008−50351A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194291(P2007−194291)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】