説明

乳酸の発酵方法

【課題】 乳酸増殖を促進する方法を提供する。
【解決手段】 オーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)に属する多糖生産菌を培養して得られるβ―グルカンをスターターカルチャーと共に脱脂乳に添加してなり、好ましくは、スターターカルチャーとして乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)B-5bを使用することである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は乳酸の発酵方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】乳酸発酵は微生物の作用によってミルクにおいて進行し、乳酸の生成に続きカゼインが凝固する。発酵乳製品はスターターカルチャーとして、乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)B-5bを用いて製造するのが一般である。
【0003】乳酸発酵の際に微生物の増殖に及ぼす各種物質の影響については種々の研究がなされている 。例えば、発酵培地に天然物を添加すると、微生物の増殖が改善されることがよく知られており、これらには、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキスなどが含まれている。そして、発酵培地にこれらの物質を添加することは、主としてビタミン、アミノ酸、核酸及び無機質などを含む増殖必須栄養素を供することであると考えられていた。しかしながら、増殖開始の発生に関連する誘因物質については、依然として不明瞭である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は乳酸発酵の増殖を促進する物質について種種の研究を重ねた結果、本発明を完成したもので、その目的は新規な物質を添加することによって乳酸増殖を促進する方法を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】多量の多糖が微生物に存在し、抽象的な内容について多く関与していることが明らかにされているが、その中には物理的及び化学的な性質についての事項や、抗腫瘍性について関与していることが明らかにされている。微生物増殖や乳酸発酵に及ぼす影響についてはよく分かっていない。
【0006】本発明者は乳酸発酵の増殖を促進する物質として酵母様かびであるオーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)によって産生される細胞外水溶性多糖のβ―グルカンに着目した。この多糖は反復グルコース単位のリン酸塩を含むポリマーであり、主鎖はβ(1→3)結合、分岐鎖はβ(1→6)結合からなる。
【0007】本発明は上記の着目に基づいて完成されたもので、オーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)に属する多糖生産菌を培養して得られるβ―グルカンをスターターカルチャーと共に脱脂乳に添加してなることを特徴とする乳酸の発酵方法である。
【0008】また、本発明は、好ましくは、スターターカルチャーとして乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)B-5bを脱脂乳に添加してなることを特徴とする乳酸の発酵方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明者らは、オーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)ATCC. No. 20524菌と乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) B-5b菌を用いて、複数の条件を組み合わせ、脱脂乳培地で微生物の培養実験を行い、詳しい調査と大量のデータの分析により、脱脂乳培地に多糖であるβ―グルカンを添加すると本菌の増殖と乳酸発酵が促進されることを明らかにした。
【0010】本発明で用いられる前記のオーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)に属する多糖生産菌はAureobacidium pullulans ATCC. No. 20524(微工研寄託)の菌であり、原糖から分離した不完全真菌の菌種である、本発明で用いられるもう一つ微生物はスターターカルチャーとして使用される菌で、ここではLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus B-5b(理化研より入手したもの)の菌を用い、これは乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)B-5bに属する菌でる。
【0011】以下に、本発明の実施例について説明する。
【0012】<ATCC. No. 20524菌による多糖(β―グルカン)の生産>β―グルカンはオーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)ATCC. No.20524の液体培地より調整した。具体的には、オーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)の1白金耳を、次の成分からなる培地を入れた300ml容量のエレンマイヤーフラスコに接種した。培地の組成は、1%(w/v)蔗糖、0.2%(w/v)米糠、0.2%(w/v)ビタミンCであった。最初のpHは、5-6に調整した。この培地は、120rpmの振盪培養装置を用いて、0.5リットル/分の通気を行いながら25℃、72時間培養を行った。次に、培地は121℃、15分滅菌を行い、細胞を除去するために、5000×g、15分間遠心分離し、上澄みは蒸留水を時々換えて4℃、2日間透析を行い、β―グルカン溶液に含まれているタンパク質を除去する方法に従った。
【0013】<β―グルカンの同定>β―グルカンは、フェノールー硫酸法に従い、標準液としてグルコースを用いて490nmでの吸光度を測定する方法で定量した。
【0014】<脱脂乳培地の調製>12%(w/w)還元脱脂乳培地に、終濃度が0.05、0.10、0.15また0.20%(w/w)になるようにβ―グルカンを添加した。添加して混合した培地は75℃、15分加熱し、37℃に冷却して、スターターカルチャーとして無菌的に3%(w/v)乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp.)Lactobacillus bulgaricus B-5bを接種した。脱脂乳培地の一般組成は常法にしたがって分析した。水分、タンパク質、乳糖および灰分含量は、それぞれ88.31、4.12、6.24及び0.96%(w/v)であった。
【0015】<pH及び滴定酸度の測定>脱脂乳培地のpH 値はpHメータ(HM-305、掘場、京都)を用いて、培養中2時間毎に測定した。脱脂乳培地の滴定酸度は、ビアンコとリチャードソン(BIANCO, L. J. and RICHARDSO, G. H., Standard Methods of the Examination of Dairy Products, 14 nd Ed. Amer. Publi. Health Assoc, Washington (1978))にしたがって、12時間培養中2時間毎に測定した。酸度は乳酸%で表した。
【0016】<微生物増殖の測定>微生物増殖相は全細胞数の測定によって検討した。その測定の方法は、滅菌水9mlに各培地1mlを加えた。6000×g、30分遠心分離後、沈殿物を集め、滅菌水5mlに懸濁した。660nm(OD660)の吸光度を細菌細胞数の指標として測定した。さらに、細菌細胞数は、1.5%(w/w)ペプトン、1%(w/w)トリプトン、1%(w/w)グルコース、0.1%(w/w)Tween 80及び1.2%(w/w)寒天を含むATP寒天を用いる平板希釈法によっても測定した。微生物増殖を測定する前に、各寒天培地は121℃、15分滅菌を行った。各試料の段階的希釈試料は2回平板にとり、平板は37℃、48時間培養を行った。結果は、コロニー生成数(cfu)/mlとして表した。そして、脱脂乳培地の細菌数は、12時間培養中2時間毎に測定した。なお、測定結果は3回測定の平均値をもって示した。
【0017】図1と図2には、それぞれβ―グルカンを添加した場合と添加しない場合の脱脂乳培地の水素イオン(pH)及び酸度の時間的経過を示している。
【0018】この図から明らかなように、図1に示すのは、0−2時間の期間では、β―グルカン添加の有無によって脱脂乳培地のpHに大きな変化や相違はなかった。しかし、2時間培養後、脱脂乳培地のpHの変化は、β―グルカン未添加に比較して添加の方がかなり大であった。β―グルカン未添加では、カゼインの等電点である、pH4.6に達するのに必要な時間は9時間であったが、β―グルカンの添加は、脱脂乳培地のpH低下に著しく影響し、pH4.6になるまでの0.05、0.10、0.15及び0.20%β―グルカン添加群の所要時間は、それぞれ約7、5.8、5.5および5.2時間であった。また、pHは脱脂乳培地に添加したβ―グルカンの増加とともに急速に減少する結果が認められた。
【0019】図2は遅滞期のβ―グルカンを加えた脱脂乳中の酸性度を示し、0−2時間培養時間中には緩慢な変化であり、この時間は微生物増殖の遅滞期であった。この時間において乳酸生成能は非常に低かった。しかし、2時間培養後、β―グルカン添加が未添加よりも急速に酸度が上昇し始めた。さらに、β―グルカン添加が増加するにしたがって、酸度上昇度が顕著になることが明らかになった。
【0020】水素イオン(pH)と酸度の両者の数値はミルク中の乳酸菌増殖の間接的指標として用いることができることは知られており、一般に、ミルクカルチャーのpH及び酸度の両者の変化は、乳酸生成によるものであり。乳酸の生成が速くなれば、pHの低下及び酸度の上昇がともに迅速になることも知られている。
【0021】従って、これらの結果から、β―グルカンの添加は、細菌増殖を促進して乳酸発酵を促進し、その影響はβ―グルカンの添加量の増加とともに大きくなることを示している。
【0022】図3及び図4は、β―グルカン添加の有無が微生物増殖に及ぼす影響を示し、図3は全細胞数を示し、図4はコロニー生成数を示している。
【0023】図3及び図4から明らかなように、この細菌の遅滞期は、β―グルカン添加群の方が未添加の方よりも短縮されることを示し。このことは、β―グルカンの添加は、細菌増殖の遅滞期を短縮することを示している。対数増殖期において、図4に示すように、この細菌の増殖度はβ―グルカン添加培地の方が、未添加培地よりも大であった。
【0024】したがって、以上の結果から、β―グルカンは微生物増殖を促進する効果を有することが明らかになった。また、この促進効果は、β―グルカンの添加量の増加にしたがって顕著になることも明らかとなった。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、脱脂乳培地にβ―グルカンの添加することによって、遅滞期の短縮によって乳酸発酵に対して促進効果をもたらし、微生物増殖を促進し、またβ―グルカン添加量の増加に応じてその効果が顕著となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 β―グルカンを加えた脱脂乳中の酸性度(pH)を示すグラフ。
【図2】 β―グルカンを加えた脱脂乳中の水素イオン指数(%)を示すグラフ。
【図3】 β―グルカンを加えた脱脂乳中の微生物成長―全細胞数(OD660)を示すグラフ。
【図4】 β―グルカンを加えた脱脂乳中の微生物成長―コロニー生成数(cfu/ml)を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 オーレオバシディウム属(Aureobacidium pullulans)に属する多糖生産菌を培養して得られるβ―グルカンをスターターカルチャーと共に脱脂乳に添加してなることを特徴とする乳酸の発酵方法。
【請求項2】 前記スターターカルチャーとして乳酸菌デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)を使用してなることを特徴とする請求項1記載の乳酸の発酵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−231589(P2001−231589A)
【公開日】平成13年8月28日(2001.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−41246(P2000−41246)
【出願日】平成12年2月18日(2000.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1999年8月23日 西日本畜産学会発行の「西日本畜産学会報 第42巻」に発表
【出願人】(594063474)株式会社ソフィ (3)
【Fターム(参考)】