説明

乳酸の製造方法

【課題】本発明の課題は、ポリ乳酸から乳酸を製造する方法を提供することである。
【解決手段】グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン及び絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることを特徴とする、乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳酸の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ポリ乳酸から乳酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラスチック廃棄物の処理が問題になっている。プラスチック廃棄物の処理方法としては焼却や埋め立てが主であるが、焼却は地球温暖化の促進、埋め立ては埋立地の減少等の問題を抱え、生物学的分解処理法が注目されている。ポリ乳酸は生分解性を有し、次世代のプラスチックとして種々の用途開発が進められているが、近い将来、現在使用されているプラスチック同様廃棄物問題がクローズアップされることが十分に予想される。
【0003】
ポリ乳酸は水系の中で加水分解する高分子であり、現在医療や医薬用材料として応用されているが、澱粉等の再生可能な資源から乳酸醗酵を通して合成できることから、環境分解が困難である汎用プラスチックに代わる生分解性樹脂の素材としても注目されている。しかしながら、ポリ乳酸の生分解性という観点からは、ポリ乳酸の自然界における分解速度は遅く、更にポリ乳酸を分解する微生物の分布も限定されているという問題点がある。このため、ポリ乳酸を迅速に分解処理する技術の確立と共に、今後ポリ乳酸樹脂の廃棄物が益々増大するであろうことを考慮すると、廃棄物となったポリ乳酸樹脂を有効利用する技術を確立することは、極めて有用である。
【0004】
廃棄物となったポリ乳酸樹脂を有効利用という観点からは、廃棄物中に含まれるポリ乳酸を乳酸に分解して、得られた乳酸をポリ乳酸の原料として再利用する方策が有効である。ここで、ポリ乳酸を分解する方法としては、ポリ乳酸分解酵素やプロテイナーゼK等の酵素を作用させる方法が知られている。しかしながら、ポリ乳酸にこれらの酵素を単に作用させる方法では、主として乳酸オリゴマーが生成し、乳酸はほとんど生成せず、乳酸の製造方法としては実用できるものではなかった。このような従来技術を背景として、ポリ乳酸の有効利用方法として、ポリ乳酸から乳酸を製造する技術の開発が望まれていた。
【0005】
【非特許文献】
ハーダニング・プラナムダ(Hardaning Pranamuda)等著、Polylactide degradation by an Amycolatopsis sp. 、「アプライド・アンドエンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Enviromental Microbiology)」、1997年、Vol. 63、No. 4、第1637−1640頁
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決することである。より詳細には、本発明は、ポリ乳酸から乳酸を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ゼラチンの存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることによって、乳酸が効率的に製造できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は下記に掲げる乳酸の製造方法である:
項1.グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン及び絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることを特徴とする、乳酸の製造方法。
項2. ゼラチンの存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることを特徴とする、乳酸の製造方法。
項3. ポリ乳酸100重量部に対して、ゼラチンが1〜400重量部の割合で存在する、項2に記載の乳酸の製造方法。
項4. ポリ乳酸分解酵素又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物がTritirachium属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属、treptomyces属、Bacillus属、Streptoalloteichu属、Kibdelosporangium属、Lentzea属、Saccharomonospora属、Staphylococcus属及びSaccharopolyspora属のいずれかに属する微生物である、項1乃至3のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の乳酸の製造方法は、グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン及び絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることを特徴とするものである。
【0010】
ここで、ポリ乳酸とは、ポリマーの主要な構成単位として乳酸を有するポリマーをいい、例えば、ポリL−乳酸やポリD−乳酸等の乳酸ホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも1種とアラニン、グリコール酸、グリコリド、グリシン、ε−カプロラクトン、グルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、糖類、多価アルコールの少なくとも1種との乳酸コポリマー、ポリD,L−乳酸等を挙げることができる。これらの中で、好ましくは、乳酸ホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも1種とアラニン若しくはグリコリドとの乳酸コポリマー、ポリD,L−乳酸であり、さらに好ましくはL−乳酸及びD−乳酸の少なくとも1種とグリコリドとの乳酸コポリマー、ポリL−乳酸である。ポリ乳酸の数平均分子量は特に制限されないが、好ましくは5×10〜1×10、さらに好ましくは5×10〜4×10である。ポリ乳酸中の乳酸単位の重量比率は特に制限されないが、好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上である。又、上記ポリ乳酸の市販されているものとして、「ラクティー」(ポリ乳酸、島津製作所社製)、商品名「エコプレイ」(ポリ乳酸、Cargil−Dow社製)等が知られているが、本発明の方法はこれらに限定されるものではない。本発明において使用するポリ乳酸は、上記ポリ乳酸1種単独からなるものであっても、又2種以上の組み合わせからなるものであってもよい。更に、本発明に使用するポリ乳酸は、ポリ乳酸以外の成分を含有する樹脂組成物であってもよい。ポリ乳酸及び他の成分を含有する樹脂組成物を使用する場合、該組成物中のポリ乳酸の配合割合については、特に制限されないが、乳酸の効率的な製造という観点からは、例えば、該組成物100重量%中に、ポリ乳酸が総量で5〜99.99重量%、好ましくは10〜99.99重量%、更に好ましくは30〜99.99重量%となる範囲にあるものである。又、本発明に用いるポリ乳酸としては、その由来は特に制限されないが、廃棄物の有効利用という観点からは、各種産業廃棄物や家庭廃棄物となったポリ乳酸を好適に使用できる。
【0011】
本発明において使用するポリ乳酸の形態については、特に制限されず、粉末、フィルム、不織布、シート、板体、発泡体、ボトル状等の各種形状のものを使用することができる。乳酸の効率的な製造という観点からは、好ましくは、粉末又はフィルム状のものである。なお、本発明の方法を実施するに際して、フィルム、不織布、シート、板体、発泡体、ボトル状等形態のポリ乳酸については、粉末状に調製するために粉砕等の前処理に供することもできる。
【0012】
ここで、該ポリ乳酸と上記微生物との共存下でのポリ乳酸の濃度としては、使用するポリ乳酸の種類や量、使用する微生物の種類、共存方法等に応じて、適宜設定することができる。一例として、該ポリ乳酸が総量で0.05〜50重量%、好ましくは0.07〜25重量%となる範囲を挙げることができる。
【0013】
本発明の方法は、上記ポリ乳酸と上記微生物との共存環境中に、グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン及び絹フィブロイン加水分解物(以下、これらをインデューサー成分という。)からなる群から選択される少なくとも1種が存在するものである。これらのインデューサー成分の中で、好ましくは、グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン及び絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種である。さらに好ましくは、バリン、アラニン、グリシン、アラニル−アラニンジペプチド、グリシル−アラニンジペプチド、バリル−グリシンジペプチド、グリシル−バリンジペプチド、アラニル−アラニル−アラニントリペプチド、グリシル−グリシル−アラニントリペプチド、グリシル−グリシル−グリシントリペプチド、グリシル−バリル−グリシントリペプチド、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種である。より好ましくは、ゼラチンである。
【0014】
上記オリゴペプチドとしては、2〜20個程度のアミノ酸残基で構成され、アミノ酸残基としてグリシン、アラニン、バリンの少なくとも1種を少なくとも1個有するオリゴペプチドを挙げることができる。グリシン残基、アラニン残基及びバリン残基の数、並びにこれらの配列位置や結合態様は特に制限されない。また、好ましいアミノ酸残基の個数は2〜5個である。好ましいオリゴペプチドの具体例としては、アラニル−アラニンジペプチド(以下、(Ala)とする)、グリシル−アラニンジペプチド(以下、Gly−Alaとする)、バリル−グリシンジペプチド(以下、Val−Glyとする)、グリシル−バリンジペプチド(以下、Gly−Valとする)、アラニル−アラニル−アラニントリペプチド(以下、(Ala)とする)、グリシル−グリシル−アラニントリペプチド(以下、(Gly)−Alaとする)、グリシル−グリシル−グリシントリペプチド(以下、(Gly)とする)、グリシル−バリル−グリシントリペプチド(以下、Gly−Val−Glyとする)などが挙げられる。本発明には、上記オリゴペプチドを1種単独で使用しても、又2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
上記大豆は、大豆を水解、変性したものも包含する。大豆の形態としては様々な形態のものが使用可能である。表面積を大きくする点では粉末状が好ましい。また、経済性や窒素源の観点からは大豆かすが使用される。本発明には、上記大豆を1種単独で使用しても、又2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
上記グリシン、アラニン、バリン、コラーゲン、エラスチン、ケラチンは、特に制限されず、市販のものを使用できる。
【0017】
上記絹フィブロインは、好ましくは生糸を精練することによりセリシンを除いた不溶性タンパク質である。絹フィブロインの形態は特に制限されず、例えば、繊維状、粉末状、ペレット状、小片状等の形態の絹フィブロインが使用されるが、表面積が大きいため微生物が利用しやすい粉末状の絹フィブロインが好ましく使用される。
【0018】
上記絹フィブロイン加水分解物は、絹フィブロインを加水分解して得られる、アミノ酸残基の数が2〜50個、好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜5個のペプチドをいう。絹フィブロインの加水分解の方法は、絹フィブロイン加水分解物が得られる限り特に制限されない。例えば、加水分解剤としては、塩酸、硫酸、ヨウ化水素酸、苛性ソーダ、水酸化バリウム等の酸加水分解剤、炭酸ナトリウムなどのアルカリ加水分解剤、トリプリン、キモトリプシン、パンクレアチンなどの加水分解酵素などが使用される。加水分解条件は、特に制限されないが、塩酸を使用する場合、例えば絹フィブロインの1倍量以上の3〜6N塩酸で10〜160℃で0.1〜24時間する条件を挙げることができる。また、酵素で処理する場合には、絹フィブロインを可溶化してから酵素処理しても良いし、可溶化せずに酵素処理しても良い。本発明には、上記絹フィブロインを1種単独で使用しても、又2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
又、上記ゼラチンとは、コラーゲンを加水分解して得られる水溶性タンパク質のことであり、通常、牛骨、牛皮、又は他のほ乳類の骨、皮膚を原料として用い、酸処理又はアルカリ処理することによって製造される。本発明では、ゼラチンの起源や製法については特に制限されず、上記方法で製造されたゼラチンを広く使用することができる。又、コラーゲンを加熱変性させてゼラチンとしたものを使用することもできる。更には、側鎖の水酸基をアセチル化したゼラチン、側鎖のカルボキシル基をエステル化したゼラチン、側鎖のアミノ基をアセチル化又はグアニジル化したゼラチン等のゼラチン誘導体を使用することもできる。なお、本発明には、上記ゼラチンを1種単独で使用しても、又2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ここで、上記ポリ乳酸と上記微生物との共存下での該インデューサー成分の濃度は、使用するインデューサー成分の種類、使用するポリ乳酸の種類や量、使用する微生物の種類、共存方法等に応じて、適宜設定される。例えば、インデューサー成分がゼラチンの場合であれば、上記ゼラチンが総量で通常0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%となる範囲を挙げることができる。又、上記ポリ乳酸と上記微生物との共存下におけるポリ乳酸に対するゼラチンの割合としては、ポリ乳酸を100重量部とした場合、例えば上記ゼラチンが総量で1〜400重量部、好ましくは10〜300重量部を挙げることができる。ゼラチンが1重量部より著しく少ないと、乳酸の生成が十分に行われない傾向が現れ、又400重量部よりも著しく多くても乳酸の生成量にさほど影響がない。
【0021】
一方、本発明において、ポリ乳酸分解酵素産生微生物は、ポリ乳酸分解酵素を生産する微生物であれば特に制限されない。かかる微生物として、例えば、Tritirachiu属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属、Streptomyces属、Bacillus属、Streptoalloteichus属、Kibdelosporangium属、Lentzea属、Saccharomonospora属、Saccharopolyspora属、Staphylococcus属に属する微生物を挙げることができる。好ましくは、Tritirachium属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属、Kibdelosporangium属、Lentzea属、Streptomyces属に属する微生物が挙げられ、さらに好ましくは、Tritirachium属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属に属する微生物があげられる。かかる微生物として具体的にはTritirachium album(以下、. albumとする。)、Amycolatopsis orientalis subsp. orientalis(以下、orientalisとする。)、Saccharothrix waywayandensis(以下、waywayandensisとする)等を例示することができる。
【0022】
また、本発明において、プロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物は、プロテイナーゼKまたはプロテイナーゼK様プロテアーゼを産生する微生物であれば特に制限されない。ここでプロテイナーゼK様プロテアーゼとは、例えば、タンパク質をペプチド結合鎖の中ほどから切断するセリンプロテアーゼの一種で、分子量が約29000、至適pHが7.5〜12.0程度、等電点がpH8.9程度のような性質を有するプロテアーゼである。かかる微生物として、例えば、Tritirachium属、Amycolatopsi属、Saccharothrix属、Streptomyces属、Bacillus属、Streptoalloteichus属、Kibdelosporangium属、Lentzea属、Saccharomonospora属、Saccharopolyspora属、Staphylococcus属に属する微生物を挙げることができ。好ましくは、Tritirachium属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属、Kibdelosporangium属、Lentzea属、Streptomyces属に属する微生物が挙げられ、さらに好ましくは、Tritirachium属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属に属する微生物が挙げられる。かかる微生物として具体的にはalbumorientaliswaywayandensis等を挙げることができる。
【0023】
本発明には、上記ポリ乳酸分解酵素産生微生物及びプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物の中から1種を選択し、それを単独で使用してもよく、又これらの微生物の中から2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明において、上記インデューサー成分存在下で上記ポリ乳酸と上記微生物とを共存させる方法については、上記微生物の生育が可能であることを限度として、特に制限されない。例えば、インデューサー成分及びポリ乳酸に加えて、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源、グルコース、シュクロース等の炭素源、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩、ビタミン類等の上記微生物の生育に必要な栄養成分を混合し、該混合物の水分含量及びpHを適宜調整して、これに上記微生物を植菌、培養することにより行うことができる。この場合、上記微生物を植菌する上記混合物のpHとしては、上記微生物が生育可能である限り特に制限されないが、一例として5.5〜9、好ましくは6.5〜8となる範囲を挙げることができる。
【0025】
又、簡便には、ゼラチン存在下で上記ポリ乳酸と上記微生物とを共存させるには、インデューサー成分、ポリ乳酸及び適当量の上記微生物が生育可能な液体培地を混合し、これに上記微生物を植菌、培養することにより行うことができる。ここで、上記微生物が生育可能な培地としては、従来から用いられているカビ、放線菌、酵母、細菌用培地等を使用できる。例えば、蒸留水1000ml当たり、酵素エキス100mg、FeSO・7HO 10mg、MgSO・7HO 200mg、(NHSO 1000mg、CaCl・2HO 20mg、NaCl 100mg、NaMoO・2HO 0.5mg、NaWO 0.5mg、MnSO 0.5mg、pH6.8〜7.2である。また、水道水1000ml当たり、牛肉エキス100mg、ペプトン100mg、pH6.8〜7.2のような培地も例示される。
【0026】
培養条件については、使用する微生物、ポリ乳酸の種類や量、ゼラチンの種類や量、共存方法等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば、培養温度としては20〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜35℃を挙げることができる。又、培養時間については、特に制限されないが、通常24〜200時間、好ましくは72〜144時間を挙げることができる。なお、培養については、溶存酸素濃度、pH、栄養成分、水分含量等を適宜制御しながら、必要に応じて流加、還流等の培養を行うこともできる。
【0027】
斯くして得られた培養物中には、乳酸が生成しているので、濾過、遠心分離、フィルタープレス等の公知の分離手段を用いて、該培養物から微生物及び固形分を除去し、更に公知・慣用の乳酸回収手段を用いて濃縮又は精製等を行うことによって乳酸を回収することができる。又、培養物中に残存するポリ乳酸については、回収して、再度同様の処理を行うことにより、乳酸の原料として再使用することもできる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、下記実施例で使用したポリ乳酸フィルムは、ポリL−乳酸ペレット(ラクティ#1012(数平均分子量(Mn)=1.3×10))(島津製作所社製)を20μmの肉厚となるように成形したものである。
【0029】
実施例1 Saccharothrix waywayandensisを用いた乳酸の製造
ポリ乳酸フィルム100mg(85×85mm)を5%(wt/vol)次亜塩素酸ナトリウムで前もって殺菌し、これを無菌的に0.1(g/v)%ゼラチン(Difco Laboratories, Michigan, USA)を含有する液体培地[蒸留水1000ml中に、酵素エキス100mg、FeSO・7HO 10mg、MgSO・7HO 200mg、(NHSO 1000mg、CaCl・2HO 20mg、NaCl 100mg、NaMoO・2HO 0.5mg、NaWO 0.5mg、MnSO 0.5mg、KHPO 1600mg、KHPO 200mg含有、pH7.1]100mlに、添加した。これにSaccharothrix waywayandensis(JCM 9114)を植菌して、30℃、180rpmで4日間振とう培養を行った。培養後、残存するフィルムを、クロロホルム100mlで抽出しエバポレーターで乾燥することによって培養液から直接回収した。次いで、その重量を測定することによって、フィルムの残存率(%)を評価した。培養液中のL−乳酸の蓄積量をエンジマティックバイオアナライシスキット(ベーリンガーカンハイム社)を用いて酵素的手法により評価した。尚、比較として、微生物を植菌しないこと以外は上記と同様の条件でポリ乳酸フィルムを処理したもの(比較例1)、及びゼラチンを添加しないこと以外は上記と同様の条件でポリ乳酸フィルムを処理したもの(比較例2)についても試験した。
【0030】
結果を表1に示す。この結果、Saccharothrix waywayandensis非存在下(比較例1)ではポリ乳酸フィルムが分解されず、又ゼラチン非存在では(比較例2)の下ではポリ乳酸フィルムは30%程度分解されるが乳酸はほとんど生成していなかったのに対して、0.1(g/v)%ゼラチン存在下でポリ乳酸フィルムとSaccharothrix waywayandensisを共存させたもの(実施例1)ではポリ乳酸フィルムが高い割合で分解されて乳酸が生成蓄積することが確認された。更に、本試験に使用したSaccharothrix waywayandensis(JCM 9114)では、ポリ乳酸から高い割合で乳酸が生成できたので、該微生物は本発明の乳酸の製造に適した微生物であることが示唆された。
【0031】
【表1】



【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン及び絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の存在下でポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることにより、ポリ乳酸から効率的に乳酸を製造することが可能となる。このように、本発明は、ポリ乳酸から乳酸を製造できるので、産業廃棄物或いは家庭廃棄物として排出されるポリ乳酸の有効利用という点においても有用である。
【0033】
更に、本発明の乳酸の製造方法は、実施例1に示すように、Saccharothrix属に属する微生物を使用することによって、一層効率的に乳酸を製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシン残基を含むオリゴペプチド、アラニン残基を含むオリゴペプチド、バリン残基を含むオリゴペプチド、バリン、アラニン、グリシン、ゼラチン、大豆、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、絹フィブロイン及び絹フィブロイン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種の存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることを特徴とする、乳酸の製造方法。
【請求項2】
ゼラチンの存在下で、ポリ乳酸とポリ乳酸分解酵素及び/又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物とを共存させることを特徴とする、乳酸の製造方法。
【請求項3】
ポリ乳酸100重量部に対して、ゼラチンが1〜400重量部の割合で存在する、請求項2に記載の乳酸の製造方法。
【請求項4】
ポリ乳酸分解酵素又はプロテイナーゼK様プロテアーゼ産生微生物がTritirachium属、Amycolatopsis属、Saccharothrix属、Streptomyces属、Bacillus属、Streptoalloteichus属、ibdelosporangium属、Lentzea属、Saccharomonospora属、Staphylococcus属及びSaccharopolyspora属のいずれかに属する微生物である、請求項1乃至3のいずれかに記載の乳酸の製造方法。

【公開番号】特開2004−147515(P2004−147515A)
【公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−313541(P2002−313541)
【出願日】平成14年10月28日(2002.10.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(398057178)株式会社オールマイティー (17)
【Fターム(参考)】