説明

乳酸の製造方法

【課題】本発明は、キャッサバパルプから、高収率でしかも安価に乳酸を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】キャッサバパルプから乳酸を製造する方法であって、(1)キャッサバパルプを一次乳酸発酵に供する工程;(2)工程(1)で得られた一次乳酸発酵物をアミラーゼで処理する工程;及び(3)工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を二次乳酸発酵に供する工程、を含むことを特徴とする乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳酸の製造方法に関する。より詳細には、キャッサバパルプから、高収率でしかも安価に乳酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キャッサバは、アフリカ、南米、東南アジアで広く栽培されているデンプン質の植物であり、主にタピオカデンプンの原料として使用されている。キャッサバを用いたタピオカデンプンの製造において、タピオカデンプンと共にタピオカデンプンの抽出後の搾り粕(以下、キャッサバパルプという。)が副生しており、このキャッサバパルプの副生量は、乾燥重量当たりでタピオカデンプンの生産量と同程度にも及んでいる。このように大量に排出されているキャッサバパルプは、その一部が飼料として利用されているものの、その大部分が有効に利用されることなく廃棄されているのが現状であり、その有効利用が望まれている。
【0003】
キャッサバパルプには繊維質に加えて乾燥重量比で10〜70%程度ものデンプンが残存していることが分かっている。これまでに、キャッサバパルプ中のデンプンの有効利用について種々検討されており、その中でキュッサバパルプ中のデンプンを利用した乳酸の製造が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
キャッサバパルプから乳酸を製造する方法としては、キャッサバパルプに含まれるデンプンをアミラーゼ等の酵素の作用によってグルコースに分解し、このグルコースを利用して乳酸発酵する方法が知られている。かかるキャッサバパルプを利用した乳酸の製造方法には、従来、デンプンをグルコースに酵素分解し易くするために蒸煮等によりデンプンの結晶構造を崩壊(デンプンの糊化)させる工程が不可欠であった。
【0005】
しかしながら、上記デンプンの結晶構造を崩壊させる処理には多大なコストや煩雑な工程を要する反面、そのデンプンの結晶構造を崩壊させる効果は十分ではなかった。そのため、従来の方法では酵素処理(アミラーゼ処理)を行ってもデンプンを十分に分解することができず、結果として、従来の方法に従って製造される乳酸の収率はキャッサバパルプに含まれるデンプン100重量%に対して約40〜50%と満足できるものではなかった。
【0006】
このように、高収率でしかも安価にキャッサバパルプから乳酸を製造する方法は、未だ見出されておらず、その開発が待たれている。
【0007】
【非特許文献1】
クラナロング・シリロス(Klanarong Sriroth)等著、Processing of cassavawaste for improved biomass utilization 、「バイオリソーステクノロジー(BIORESOURCE TECHNOLOGY)」、エルセバー・サイエンス社(Elsevier Science Ltd.)社発行、2000年、71巻、第63−69頁
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決することである。より詳細には、本発明は、キャッサバパルプから、高収率でしかも安価に乳酸を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討していたところ、(1)キャッサバパルプを一次乳酸発酵に供し、(2)得られた一次乳酸発酵物をアミラーゼで処理し、更に(3)得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を二次乳酸発酵に供することによって、キャッサバパルプから高収率でしかも安価に乳酸が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、下記に掲げる乳酸の製造方法である:
項1.キャッサバパルプから乳酸を製造する方法であって、
(1)キャッサバパルプを一次乳酸発酵に供する工程、
(2)工程(1)で得られた一次乳酸発酵物をアミラーゼで処理する工程、及び(3)工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を二次乳酸発酵に供する工程、
を含むことを特徴とする乳酸の製造方法。
項2.アミラーゼとしてα−アミラーゼとグルコアミラーゼの双方を用いて工程(2)のアミラーゼ処理に供する、項1に記載の乳酸の製造方法。
項3.水含有量を30〜99.5重量%となるように調整したキャッサバパルプを工程(1)の一次乳酸発酵に供する、項1又は2に記載の乳酸の製造方法。
項4.水含有量を45〜99.9重量%となるように調整したアミラーゼ処理乳酸発酵物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、項1乃至3のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
項5.工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、得られた固形残渣を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、項1乃至4のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
項6.工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を抽出処理し、得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、項1乃至4のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
項7.工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、得られた固形残渣を抽出処理し、次いで得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、項1乃至4のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
(A)本発明の乳酸の製造方法は、図1に示すように、下記の工程(1)〜(3)を含む、キャッサバパルプから乳酸を製造する方法である。
(1)キャッサバパルプを一次乳酸発酵に供する工程
(2)工程(1)で得られた一次乳酸発酵物をアミラーゼで処理する工程
(3)工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を二次乳酸発酵に供する工程
本発明の乳酸の製造方法において原料として使用するキャッサバパルプとは、植物キャッサバの繊維質成分を広く意味するものであるが、好ましくは産業廃棄物の有効利用という観点から、タピオカデンプンの製造においてキャッサバからデンプンを抽出した残りの残存物(粕)を利用することができる。本発明では、タピオカデンプンの製造で副生されたキャッサバパルプをそのままの状態で使用することができ、又これを乾燥したものを使用することもできる。前者のキャッサバパルプを使用するとキャッサバパルプの乾燥工程を要しない点で有利であり、一方、後者のキャッサバパルプを使用するとキャッサバパルプを長期間の輸送或いは貯蔵等する必要がある場合にキャッサバパルプに雑菌が繁殖するのを抑制できる点で有利である。以下、本発明を工程毎に説明する。
【0011】
工程(1)
工程(1)において、キャッサバパルプを一次乳酸発酵に供する。
【0012】
工程(1)の一次乳酸発酵において、キャッサバパルプは乳酸発酵を行う微生物の培地成分として使用される。なお、工程(1)の一次乳酸発酵には、当該発酵に用いられる培地100重量%に含まれる水含有量が、例えば30〜99.5重量%、好ましくは35〜85重量%、更に好ましくは45〜75重量%となるように、該培地中のキャッサバパルプの配合割合並びに水含有量を調整することが好ましい。培地の水含有量を上記範囲に調整することによって、後述する一次乳酸発酵を促進することが可能となる。
【0013】
又、一次乳酸発酵に使用する培地(キャッサバパルプ含有培地)のpHとしては、後述する微生物が生育可能である範囲内にある限り制限されないが、例えば4〜7.5、好ましくは5〜6.5に調整することができる。このようなpHの調整には、pH調整剤として通常使用されている塩酸、酢酸、クエン酸等の酸或いは炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリを用いることができる。
【0014】
更に、必要に応じて、酵母エキス、コーンスティープリカー、ポリペプトン、肉エキス、大豆抽出物、カゼイン加水分解物等の培養補助成分やその他の任意の成分を上記キャッサバパルプと併用して用いることもできる。一例として、培養補助成分として酵母エキスを添加する場合、その添加割合としては、キャッサバパルプ含有培地100重量%中に酵母エキスが0.01〜5重量%となる範囲を挙げることができる。かかる範囲内になるように酵母エキスを添加することよって、一次乳酸発酵を促進することが可能となる。
【0015】
上記のように調製したキャッサバパルプ含有培地については、必要に応じて、蒸気殺菌(例えば、120℃、30分間)或いはアルカリ殺菌(例えば、pH11以上、10℃以下、20分間以上)等の通常使用されている殺菌処理を行うこともできる。特に、キャッサバパルプ中に約1×10CFU/g(キャッサバパルプ乾燥重量)以上の微生物が雑菌として存在している場合には、これらの微生物による一次乳酸発酵への悪影響が懸念されるため、殺菌処理を行うことが望ましい。
【0016】
本工程(1)の一次乳酸発酵は、上記のように調整したキャッサバパルプを含有する培地に微生物を植菌することによって開始される。かかる一次乳酸発酵において用いられる微生物としては、糖を分解して乳酸を生成し得るものであれば、特に制限されるものではない。このような微生物としては、例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ペジオコッカス(Pediococcus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属、ラクトバシラス(Lactobacillus)属等の微生物を挙げることができる。これらの中でも、ホモ乳酸発酵を行うことができるストレプトコッカス(Streptococcus)属、ペジオコッカス(Pediococcus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属等の微生物が好ましい。上記微生物は、1種単独で用いてもよく、又2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。更に、これらの微生物として、担体に担持されている微生物剤を使用することもできる。又、本発明において、簡便には、上記微生物として市販されているものを用いることもできる。
【0017】
一次乳酸発酵の発酵条件については、使用する微生物の種類、培地の水含有量、キャッサバパルプに含まれるグルコース量、発酵対象物の量、発酵槽の大きさ等に応じて、適宜設定することができる。
【0018】
例えば、一次乳酸発酵における上記微生物の植菌量としては、1×10〜1×1011CFU/g(キャッサバパルプ含有培地重量)、好ましくは1×10〜1×10CFU/gの範囲に設定することができる。
【0019】
一次乳酸発酵の発酵温度としては、上記乳酸菌が生育できる範囲であれば特に制限されない。一例としては、4〜60℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜30℃の範囲を挙げることができる。又、発酵槽の雰囲気は、使用する微生物に応じて、好気的或いは嫌気的条件に適宜設定することができる。
【0020】
又、一次乳酸発酵における発酵槽内の攪拌条件については特に制限されない。例えば、使用するキャッサバパルプ含有培地の水含有量が少なく乳酸発酵対象物が固体状である場合には非攪拌条件下で乳酸発酵を行うことができ、又使用するキャッサバパルプの水含有量が多く乳酸発酵対象物が液状である場合には攪拌条件下で乳酸発酵を行うことができる。
【0021】
一次乳酸発酵の発酵時間としては、使用する微生物の種類や発酵条件等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば2〜14日、好ましくは5〜14日を挙げることができる。このような一次乳酸発酵の終了の判断基準として、例えば培地中のpHが4以下程度であることを目安とすることができる。
【0022】
工程(2)
工程(2)において、工程(1)で得られた一次乳酸発酵物は、アミラーゼで処理される。
【0023】
工程(2)のアミラーゼ処理において、アミラーゼ処理の対象物として一次乳酸発酵物をそのまま使用することができるが、必要に応じて一次乳酸発酵物(100重量%)の水含有量が、例えば40〜99.5重量%、好ましくは50〜80重量%、更に好ましくは55〜70重量%となる範囲に調整して使用することもできる。又、必要に応じて、一次乳酸発酵物にpH調整剤を添加して、該工程で使用するアミラーゼが効果的に作用できるように、一次乳酸発酵物のpHを適宜調整することができる。具体的には、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等の公知のpH調整剤を用いて、一次乳酸発酵物のpHを3〜10、好ましくは5.5〜9、更に好ましくは6〜7.5に調整することができる。このように水含有量及びpHを調整することでアミラーゼを効率的に作用させることが可能となる。
【0024】
工程(2)において用いることができるアミラーゼとしては、例えばα−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、β−アミラーゼ、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼ等を挙げることができる。これらの酵素の中で、好ましくは耐熱性を備えるものである。又、これらの酵素の由来についても特に制限されるものではなく、例えば、かびや細菌等の微生物由来、植物由来、動物由来、遺伝子工学的手法を用いて製造されたもの等を用いることができる。これらの中で、カビ由来のアミラーゼはデンプン分解力が強いので好ましい。又、これらの酵素は1種単独で用いてもよく、又2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、α−アミラーゼとグルコアミラーゼ、或いはグルコアミラーゼとプルラナーゼを組み合わせて使用することによって、デンプン分解力を一層増強することができる。α−アミラーゼとグルコアミラーゼを併用する場合、その併用割合としては、例えばα−アミラーゼ1Uに対してグルコアミラーゼを0.05〜0.8U、好ましくは0.05〜0.2U、さらに好ましくは0.005〜0.1Uとなるよう設定することができる。又、グルコアミラーゼとプルラナーゼを併用する場合、その併用割合としては、例えばグルコアミラーゼ1Uに対してプルラナーゼを0.001〜1U、好ましくは0.05〜0.5U、さらに好ましくは0.05〜0.2Uとなるよう設定することができる。なお、本発明において、アミラーゼの活性単位は、標準測定条件下で、1時間に5.26gのデンプン(Merck Amylum solubile. Erg・B6, Batch 99472575)を分解する酵素活性量を1Uとして示すものである。該アミラーゼ活性の詳細な測定条件については、「アミラーゼ」(学会出版センター、谷口肇/編)の記載に従うことができる。
【0025】
なお、上記アミラーゼは必ずしも精製されている必要はなく、他の酵素や他のタンパク質等が混在している粗酵素であってもよい。又、上記アミラーゼとして、簡便には、商業的に入手できるものを使用することができる。商業的に入手できるものとしては、例えば商品名「クライスターゼT」(α−アミラーゼ、大和化成社製)、商品名「スミチームA−1」(α−アミラーゼ、新日本化学社製)、商品名「ネオピターゼPG−2」(α−アミラーゼ、ナガセ生化学社製)、商品名「スピターゼHR」(α−アミラーゼ、ナガセ生化学社製)、商品名「ヒメラーゼ」(α−アミラーゼ、シーピーアール社製)、商品名「スミチームAN」(グルコアミラーゼ、新日本化学社製)、商品名「ダイザイム」(グルコアミラーゼ、大和化成社製)、商品名「スピターゼMK」(グルコアミラーゼ、ナガセ生化学社製)、商品名「ヒメラーゼCTA」(グルコアミラーゼ、シーピーアール社製)、商品名「オプティマックス」(プルラナーゼ、ジェネンコール社製)、商品名「スプレンターゼ」(プルラナーゼ、天野エンザイム社製)、商品名「プロモザイム200L」(プルラナーゼ、ノボ社製)、商品名「スピターゼXL−4」(グルコアミラーズ・プルラナーゼ混合物、ナガセ生化学社製)等を挙げることができる。
【0026】
上記アミラーゼの添加量としては、アミラーゼ処理対象物(工程(1)で得られた一次乳酸発酵物又はその処理物)乾燥重量1g当たりにアミラーゼ活性で例えば0.01〜2U、好ましくは0.02〜1U、更に好ましくは0.1〜0.5Uとなる範囲を挙げることができる。
【0027】
又、上記アミラーゼと共に、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ等の他の酵素を添加してもよく、これらの酵素を併用することによってアミラーゼによる作用を増強することができる。
【0028】
工程(2)において、アミラーゼの処理温度としては、使用するアミラーゼの性質に応じて適宜設定することができるが、例えば30〜120℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜75℃を挙げることができる。
【0029】
アミラーゼの処理時間としては、使用するアミラーゼの種類、力価、量、反応温度等によって異なり、一律に規定できないが、例えば1分〜2時間、好ましくは5〜30分間を挙げることができる。
【0030】
なお、2種以上の酵素を組み合わせて使用する場合の反応形態については、使用する酵素の特性や至適反応条件等に応じて適宜設定することができ、使用する2種以上の酵素を同時に反応させてもよく、又使用する酵素毎に逐次反応させてもよい。具体的には、グルコアミラーゼとプルラナーゼを併用する場合にはこれらの酵素を同時に反応させる方法を、又耐熱性α−アミラーゼとグルコアミラーゼを併用する場合には耐熱性α−アミラーゼ、グルコアミラーゼの順で各々の酵素の至適条件で逐次反応させる方法を例示することができる。
【0031】
かかるアミラーゼ処理によって、一次乳酸発酵物に含まれるデンプンはアミラーゼの作用によって低分子化される。
【0032】
工程(3)
工程(3)において、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物は二次乳酸発酵に供される。
【0033】
工程(3)の二次乳酸発酵において、上記アミラーゼ処理乳酸発酵物は乳酸発酵を行う微生物の培地成分として使用される。
【0034】
二次乳酸発酵には、上記アミラーゼ処理乳酸発酵物を培地としてそのまま使用してもよく、又アミラーゼ処理乳酸発酵物(100重量%)の水含有量が、例えば45〜99.5重量%、好ましくは50〜80重量%、更に好ましくは55〜70重量%となるように調整したもの培地として使用してもよい。更に、必要に応じて、酵母エキスやコーンスティープリカー、ポリペプトン、肉エキス、大豆抽出物、カゼイン加水分解物等の培養補助成分やその他任意の成分を添加してもよい。又、二次乳酸発酵に使用する微生物の種類等に応じて、アミラーゼ処理乳酸発酵物にpH調整剤を適宜添加して、例えばpHが3〜10、好ましくは5.5〜9となるように調整してもよい。
【0035】
上記のように調整された二次乳酸発酵対象物を培地として利用して二次乳酸発酵を行う。かかる二次乳酸発酵において用いる微生物としては、工程(1)の一次乳酸発酵に関して記載した微生物を同様に使用することができる。又、二次乳酸発酵の発酵条件については、使用する微生物の種類、培地の水含有量、キャッサバパルプに含まれるグルコース量、発酵対象物の量、発酵槽の大きさ等に応じて、適宜設定することができる。
【0036】
例えば、上記微生物の植菌量としては、例えば、菌濃度が1×10〜1×1011CFU/g(培地)、好ましくは1×10〜1×10CFU/g(培地)となる範囲を挙げることができる。
【0037】
二次乳酸発酵の発酵温度としては、使用する微生物の種類等に応じて適宜設定することができるが、例えば4〜60℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜30℃を挙げることができる。又、二次乳酸発酵槽の雰囲気については、使用する微生物に応じて好気的或いは嫌気的条件に適宜設定することができる。
【0038】
又、二次乳酸発酵の発酵時間としては、使用する微生物の種類や発酵条件等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば2〜14日、好ましくは5〜10日を挙げることができる。
【0039】
かくして得られる二次乳酸発酵物から、濾過、遠心分離、フィルタープレス等の手段を用いて固形残渣を除去して、濾液や上清等の溶液画分を回収し、これを更に常法に従って濃縮・精製することによって乳酸を回収することができる。
【0040】
一方、二次乳酸発酵物から回収される固形残渣については、乾燥して、家畜や家禽の飼料、或いは食品素材として利用することが可能である。特に、この残渣に一定量の乳酸を残存させておくことによって、乳酸含有素材としての付加価値を該固形残渣に備えさせることも可能である。
【0041】
(B)本発明は、図2に示すように、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、分離した固形残渣を工程(3)の二次乳酸発酵に供することもできる。このようにアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離することによって、アミラーゼ処理乳酸発酵物が有するべたつき等に起因する製造に及ぼす悪影響(例えば、アミラーゼ処理乳酸発酵物の二次乳酸発酵槽への移送等の作業性の悪化等)を回避することが可能となる。
【0042】
アミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離する方法としては、特に制限されるものではなく、濾過、遠心分離、フィルタープレス等の公知の固液分離手段を用いることができる。当該アミラーゼ処理乳酸発酵物の固液分離処理は、得られる固形残渣100重量%中に、水分含量が通常35〜75重量%程度、好ましくは、40〜65重量%程度、更に好ましくは50〜55重量%程度の範囲となるように行われる。
【0043】
アミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して得られる液体画分については、一次乳酸発酵によって生成した乳酸が含有されているので、公知の乳酸回収手段を用いて濃縮又は精製等を行うことにより、該液体から乳酸を回収することができる。
【0044】
又、アミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して得られる固形残渣については、上述した工程(3)の二次乳酸発酵と同様の条件で二次乳酸発酵を行うことにより、固形残渣に含まれるグルコースを乳酸に変換することができる。
【0045】
かくして得られる二次乳酸発酵物を、濾過、遠心分離、フィルタープレス等の手段を用いて固液分離し、得られた液体画分を更に公知の乳酸回収手段を用いて濃縮、精製等を行うことによって乳酸を回収することができる。
【0046】
一方、当該固液分離によって回収された固形残渣については、上述したように、乾燥して、家畜や家禽の飼料、或いは食品素材として利用することが可能である。
【0047】
(C)又、本発明は、図3に示すように、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を抽出処理に供し、得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供することもできる。このアミラーゼ処理乳酸発酵物から抽出された抽出物には糖(主にグルコース)が含まれていることから、当該抽出物を用いて二次乳酸発酵することによって、二次乳酸発酵の際のハンドリングや発酵効率を向上させることが可能となる。
【0048】
アミラーゼ処理乳酸発酵物の抽出方法としては、特に限定されるものではなく、当該技術分野において公知或いは慣用されている方法を用いることができる。具体的には、アミラーゼ処理乳酸発酵物に水を添加して水溶性成分を抽出処理した後、濾過、遠心分離、フィルタープレス等の手段によって固液分離を行い、抽出物を液体画分として回収する方法を例示することができる。かかる方法においてアミラーゼ処理乳酸発酵物に対する水の添加量としては、アミラーゼ処理乳酸発酵物(乾燥重量)100重量部に対して、例えば200〜2000重量部、好ましくは500〜1500重量部、さらに好ましくは750〜1250重量部を挙げることができる。かかる範囲となるように水の添加量を調整することによって、固液分離により得られる液体は微生物の生育に適したグルコース濃度を有しており、そのまま二次乳酸発酵に使用することができる。
【0049】
上記のようにして抽出した抽出物中に含まれる糖(主にグルコース)を炭素源として使用し、必要に応じて酵母エキスやコーンスティープリカー、ポリペプトン、肉エキス、大豆抽出物、カゼイン加水分解物等の培養補助成分やその他任意の成分を加えて二次乳酸発酵用培地を調製し、これを用いて二次乳酸発酵を行う。かかる二次乳酸発酵用培地としては、乳酸を生成する微生物が生育できる限り、特に制限されるものではないが、例えば、培地中のグルコース濃度を1〜15重量%、好ましくは2〜13重量%、更に好ましくは5〜10重量%に調整することができる。かかる範囲になるようにグルコース濃度を調整することで、微生物による乳酸発酵を促進することができる。
【0050】
二次乳酸発酵については、上述した工程(3)の二次乳酸発酵と同様の条件で行うことができる。
【0051】
かくして得られた二次乳酸発酵物(培養液)から、濾過、遠心分離等の手段を用いて微生物を除去し、更に公知の乳酸回収手段を用いて濃縮又は精製等を行うことによって乳酸を回収することができる。
【0052】
一方、アミラーゼ処理乳酸発酵物を抽出処理することによって副生する抽出残り粕については、乾燥することによって、家畜や家禽の飼料成分或いは食品素材として有効に利用することができる。
【0053】
(D)更に、本発明は、図4に示すように、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、得られた液体画分から乳酸を回収し、一方得られた固形残渣については更に抽出処理に供し、次いで該抽出処理で得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供することによって実施することができる。このようにアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して固形残渣を得る工程と該固形残渣を抽出処理して得られた抽出物を二次乳酸発酵する工程を組み合わせることによって、乳酸の製造における作業性や二次乳酸発酵の発酵効率等が向上し、工業的規模でも乳酸の効率的な生産が可能となる。
【0054】
アミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離する方法としては、上述した(B)と同様の方法を用いることができる。アミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して得られた液体については、一次乳酸発酵によって生成した乳酸を含有しているので、公知・慣用の乳酸回収手段を用いて濃縮又は精製等を行うことにより、該液体から乳酸を回収することができる。一方、アミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して得られた固形残渣については、更に抽出処理に供され、次いで得られた抽出物は二次乳酸発酵工程に供される。
【0055】
アミラーゼ処理乳酸発酵物の固液分離によって得られた固形残渣を抽出処理に供して、得られた抽出物を更に二次乳酸発酵する方法としては、上述した(C)と同様の方法を用いることができる。
【0056】
かくして得られる二次乳酸発酵物(培養液)から微生物を除去し、更に公知・慣用の乳酸回収手段を用いて濃縮又は精製等を行うことによって乳酸を回収することができる。一方、固形残渣を抽出処理することによって副生する抽出残り粕については、乾燥することによって、家畜や家禽の飼料成分或いは食品素材として有効に利用することができる。
【0057】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例等により何ら限定されるものではない。なお、以下記載する実施例及び比較例において、乳酸の回収量は、L−乳酸測定キット(ベーリンガーマンハイム社製)を用いて乳酸濃度を測定し、該乳酸濃度の値から算出した。
【0058】
実施例
乾燥したキャッサバパルプ(デンプン含量32重量%、萬磅薯工業有限公司製)200gに酵母エキスを1g、水800gを添加して、一次乳酸発酵用の培地(pH6.5)を調製した。このように調整した一次乳酸発酵用の培地にLactobacillus casei(NRIC 1042)を4×10CFU/g(培地)となるように植菌して、30℃で5日間静置して、一次乳酸発酵を行った。一次乳酸発酵終了時点での一次乳酸発酵物のpHは3.4であった。
【0059】
次に、得られた一次乳酸発酵物にアンモニアを添加してpHを6.5に調整した。これにカビ由来のα−アミラーゼ(商品名「スミチームL」、新日本化学社製)0.1gを添加して、95℃で10分間酵素反応を行った。次いで、これにグルコアミラーゼ(商品名「スピターゼMK」、ナガセ生化学社製)を0.1g添加して40℃で一昼夜酵素分解反応を行った。
【0060】
このようにして得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物をフィルタープレスによって、固形残渣320gと液体680gを分離した。かくして得られた液体を5L容器エバポレーター(ロータリーエバポレーターNE、東京理化器機株式会社製)にて70℃で24時間蒸留することによって乳酸6.9gを回収した。更に、上記アミラーゼ処理乳酸発酵物固形残渣に水1000gを添加して、十分攪拌した後、濾過によって上清(液体画分)980gと固形残渣340gに分離した。
【0061】
次いで、この上清(液体画分)980gに酵母エキス1gを加え、更に炭酸カルシウムを添加してpHを5.8に調整した。これにLactobacillus casei(NRIC 1042)を4×10CFU/mLとなるように植菌して、37℃で7日間、二次乳酸発酵を行った。発酵終了後、遠心分離によって乳酸菌を除去した後、5L容器エバポレーター(ロータリーエバポレーターNE、東京理化器機株式会社製)にて70℃で24時間蒸留することによって乳酸51.7gを回収した。得られた乳酸をアミラーゼ処理後に得られた前記の乳酸と合わせた。
【0062】
この結果、本乳酸の製造方法では、キャッサバパルプ(デンプン含量32重量%)200gから、乳酸を総量で58.6g製造することができ、キャッサバパルプに含まれるデンプンに対する乳酸の収率は91.6%と下記する比較例1の方法で得られる収率に比して非常に高いことが明らかとなった。
【0063】
比較例1
下記方法に従ってキャッサバパルプを製造した。
【0064】
まず、乾燥したキャッサバパルプ(デンプン含量32重量%、萬磅薯工業有限公司製)500gに水500gを添加してスラリー状にした後、これにα−アミラーゼ(商品名「スピターゼHR」、ナガセ生化学社製)0.065g添加して、1℃/分の昇温速度で120℃まで昇温した後、120℃で5分間保つことにより、キャッサバパルプ中のデンプンを糊化した。その後、これを室温まで冷ました後、塩酸を用いてpHを4.5に調整して、アミラーゼ(グルコアミラーゼ及びプルラナーゼの混合物、商品名「スピターゼXL−4」、ナガセ生化学社製)0.3gを添加して、60℃で20時間反応を行い、グルコースを遊離させた(斯くして得られた反応溶液を以下糖化処理液という。)。糖化処理液中のグルコース濃度は124mg/g(反応溶液重量)であった。
【0065】
上記糖化処理液1kgをジャーファーメンター(MBF−500、東京理化学器械株式会社製)に入れ、更にポリペプトン10g、酵母エキス2g、リン酸一カリウム1g、リン酸二ナトリウム二水和物4g、硫酸マグネシウム7水和物1gを添加して、pHを5.8に調整した後、Lactobacillus casei(NRIC 1042)を植菌して、37℃、攪拌回転数120rpm、非通気条件下で200時間培養を行った。
【0066】
培養後、培養液中には、乳酸が54mg/g(培養溶液重量)の濃度で遊離していた。一方、培養液中のグルコース濃度は0.4mg/g(培養溶液重量)であり、殆ど培地中のグルコースが消費されていることが確認された。即ち、本試験結果から、従来の方法では、キャッサバパルプ(デンプン含量32重量%)500gから、乳酸を総量で55g製造することができ、キャッサバパルプに含まれるデンプンに対する乳酸の収率は34.3%であることが確認された。
【0067】
【発明の効果】
本発明の乳酸の製造方法の一次乳酸発酵において、キャッサバパルプに含まれるグルコースが乳酸に変換されると共に、当該乳酸の作用によりキャッサバパルプに含まれるデンプンの結晶構造が崩壊してアミラーゼの作用を受け易い構造に変化する。よって、本発明によれば、かかる一次乳酸発酵を行うことによって、アミラーゼ処理の前処理として必要なデンプンの糊化工程が省略できるので、従来の製造方法に比して製造工程の簡略化、製造コストの低減ができる。又、一次乳酸発酵物中のデンプンは、蒸煮処理等によってデンプンを糊化したものに比べて、デンプンの結晶構造の崩壊率が高いため、アミラーゼの作用をより受け易く、デンプンをグルコースに効率的に分解することが可能となり、その結果として、製造できる乳酸の収率が向上する。
【0068】
本発明の方法によって得られた乳酸は、食品添加物として清酒、ビール、清涼飲料、漬け物、醤油等の製造に利用することができ、又各種添加剤として医薬品や医薬部外品等の製造に利用することができる。更に、本発明の方法で製造された乳酸は安価であるため、生分解性ポリマーであるポリ乳酸の原料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、工程(1)から工程(3)を含む本発明の乳酸製造方法における製造工程フローを示す図である。
【図2】図2は、本発明の乳酸製造方法において、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、分離した固形残渣を工程(3)の二次乳酸発酵に供する場合の製造工程フローを示す図である。
【図3】図3は、本発明の乳酸製造方法において、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を抽出処理に供し、得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する場合の製造工程フローを示す図である。
【図4】図4は、本発明の乳酸製造方法において、工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、得られた液体画分から乳酸を回収し、一方得られた固形残渣を更に抽出処理に供し、次いで該抽出処理で得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する場合の製造工程フローを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャッサバパルプから乳酸を製造する方法であって、
(1)キャッサバパルプを一次乳酸発酵に供する工程、
(2)工程(1)で得られた一次乳酸発酵物をアミラーゼで処理する工程、及び(3)工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を二次乳酸発酵に供する工程、
を含むことを特徴とする乳酸の製造方法。
【請求項2】
アミラーゼとしてα−アミラーゼとグルコアミラーゼの双方を用いて工程(2)のアミラーゼ処理に供する、請求項1に記載の乳酸の製造方法。
【請求項3】
工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、得られた固形残渣を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、請求項1又は2に記載の乳酸の製造方法。
【請求項4】
工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を抽出処理し、得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、請求項1又は2に記載の乳酸の製造方法。
【請求項5】
工程(2)で得られたアミラーゼ処理乳酸発酵物を固液分離して、得られた固形残渣を抽出処理し、次いで得られた抽出物を工程(3)の二次乳酸発酵に供する、請求項1又は2に記載の乳酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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