説明

乳酸カリウム水溶液

【課題】改善された官能特性を有する乳酸カリウム水溶液を与えるより簡単な方法および該乳酸カリウム水溶液を含有する食品製品又は飲料製品を提供する。
【解決手段】65重量%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液が、蒸発により、65重量%〜85重量%の乳酸カリウム濃度を有する溶液に濃縮され、次に分離される方法る方法であって、該蒸発が、2段階で、任意的に2つの蒸留装置において、プレート式エバポレーションプロセスにより実施され、また、該蒸発が活性炭による該溶液の処理により、先行される、又は、後に続かれる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸カリウム水溶液を製造する方法、それにより得られた水溶液、及びこれを含有する食品製品又は飲料製品に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸カリウム水溶液は、当技術分野で知られており、かつ、市販入手可能である。乳酸カリウムは、主として食肉産業において用いられている製品である。それは、乳酸ナトリウムと同じ適用の為に、すなわち保存期間の延長及び安全性強化の為に、用いられる。乳酸ナトリウムは高血圧を引き起こすと信じられている故に、乳酸カリウムの使用がますます好まれる。そのような乳酸カリウム水溶液の不利点は、それらの望ましくない味及び香りであり、特に苦いあと味を引き起こす。
【0003】
国際公開第02/090311号パンフレット及び欧州特許出願公開第1385815号公報において、乳酸カリウム溶液を活性炭により処理することによる、乳酸カリウム溶液から望ましくない味及び香りの除去の方法が記載された。得られる乳酸カリウムは、より苦くなく、かつ、より好ましい味と香りのプロファイルを有し、そして従って、大部分の人により受け入れられる。乳酸カリウムは水溶液の状態で処理される。処理されるべき溶液中の乳酸カリウムの濃度は、水と乳酸の合計された重量に基づき40から80重量%であり、そして、該方法は連続的又は回分式に実施されうる。
【0004】
発酵による乳酸の製造の間、発酵ブロスを中和する為に、通常は中和剤が用いられる。例えば、独国特許出願公開第907321号公報において、硫酸カルシウムが、乳酸カルシウムが形成されるように中和剤として用いられることが記載されている。その後、カルシウムイオンがイオン交換を用いて水素により置換されるが、ナトリウムイオン又はカリウムイオンによっても置換されうる。このようにして得られる溶液は、悪い香及び悪い味を生じるエタノール、アセトアルデヒド、ポリサッカライド、ジアセチル、2−ブタノン、2,3−ペンタンジオン、及び2−ブテナールのような不純物の相当量を含有する故に、食品の適用にとって適当でない。カリウム塩でなくて遊離の乳酸は、更なる精製及び濃縮に付されうる。
【0005】
従来技術の方法に従い精製された乳酸カリウム製品は、例えば、Purac Biochem BV、オランダ、による60%溶液として市販入手可能なPURASAL HiPure(商標) Pである。乳酸を乳酸カリウムに転化する場合、この方法において理論上60%より高い濃度が得られうるが、実用的でない。該反応は高度に発熱的であり、かつ、より高い濃度を作成するいずれの試みも必然的に、容認できない危険な反応状態をもたらし、そして更に過度の高温の故に副産物の形成をもたらすだろう。
【0006】
従来技術に従う活性炭方法による乳酸カリウム溶液の精製はいくつかの欠点を有する。第1に、該活性炭処理は、その手間のかかるかつ時間消費的な再生の故に高価であり、それが意図される使用にとって安くあることが必要とされる製品のコストを相当に増大させる。第2に、この方法の再生された炭の品質が変動する故に、乳酸カリウムの品質も変動する。第3に、この製品の味及び香りの特性はなお改善を受ける余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それ故に、本発明の目的は、改善された官能特性を有する乳酸カリウム水溶液を与える、より簡単な方法を提供することであり、そしてここで、炭が、もし用いられたならば、より容易に再生されうる。得られる乳酸カリウム水溶液は、食品製品及び飲料製品における更なる適用の為の用意ができている形にあり、そして、いずれの追加の複雑な処理技術を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、乳酸カリウム水溶液の調製の方法に関係し、ここで、65重量%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液は、蒸発により、65重量%から85重量%の乳酸カリウム濃度を有する溶液へと濃縮され、次に分離される。
【発明の効果】
【0009】
該分離された製品は、直接に食品製品及び飲料製品に適用され、或いは、食品製品及び飲料製品における更なる適用の為に、詰められそして顧客へと運搬されうる。主要芳香化合物が該製品から除去されていると見える故に、本方法により得られた、分離された製品の製品品質は改善された。該分離された製品は、様々な食品製品及び飲料製品における、そして特には魚介を含む食肉及び鶏肉における、更なる適用のために適当である形態を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましくは、該乳酸カリウム溶液は、67〜82重量%、より好ましくは70〜80重量%、そして最も好ましくは76〜79重量%の乳酸カリウムを含有する溶液へと濃縮される。何故なら、上述の濃度範囲において、香り及び味の感覚の点において最適である官能プロファイルを有する乳酸カリウム溶液が得られるからである。更に、上述の範囲にある該製品は、エタノール、アセトアルデヒド、ジアセチル、2−ブタノン、2,3−ペンタジオン及び2(E)−ブテナールのような主要芳香化合物の最小の合計濃度を含有する。これら主要芳香化合物を合わせた全濃度は、15ppm未満であり、そして70から80重量%の溶液については10ppm未満さえである。エタノール濃度は、上述の乳酸カリウム濃度範囲については10ppm未満であり、そして、70〜80重量%乳酸カリウムを含有する溶液については5ppm未満さえであり、これは、炭素処理されただけの60重量%乳酸カリウムを含有する市販入手可能な乳酸カリウム溶液と比較してほぼ10倍の減少である。
【0011】
76〜79重量%乳酸カリウム含量を有する溶液は更に、乳酸カリウム溶液の濃度と粘度との間の最適なバランスを示す。それ故に、これらの溶液は、食品製品及び飲料製品における更なる取扱い又は適用の為に、特に効率的でありかつ適当である。
【0012】
市販入手可能な乳酸カリウム溶液は一般に約60重量%の乳酸カリウム濃度を有するので、そのような溶液を第1の(出発)乳酸カリウム溶液として用いることが好ましい。
【0013】
60%乳酸カリウムをなお有する、より高品質の産物を得るために、該第1の乳酸カリウム溶液が、65と85%の間の或る濃度に濃縮されてよく、そしてその次に、再度60%に希釈されてよい。
【0014】
蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜式蒸留(wiped film distillation)、短行程蒸留、減圧蒸留、ロータリー蒸発、回転円錐カラム(spinning cone column)蒸発、及びその同様なもののような、蒸発の為の任意の方法を用いて、蒸発は実施されうる。時々、複数の、例えば2の、別個の蒸留段階において蒸留が実施されることが好まれる。第1の蒸留段階において、該第1の乳酸カリウム溶液は、例えば60%から67%へと、濃縮されてよく、そして第2の蒸留段階において、この部分的に濃縮された乳酸カリウム溶液はさらに、該67%から例えば78%へと、濃縮されうる。もし2つの蒸留段階が用いられるならば、これらの段階を2つの異なる蒸留ユニットにおいて実施することがさらに好まれるが、多くの蒸発装置は多段階のエバポレーターとして用いられうるので、1つの装置において該蒸発は起こってもよい。適当な例として、プレート式エバポレーター(plate evaporator)の使用が言及され、ここで該液体は、あわせ面上に加熱媒体を有する薄いプレートの間に注入され、その後、産物が、産生された蒸気と一緒に蒸発され、高い粘度のコアを形成する。
【0015】
説明されたように、もし可能ならば、活性炭段階を、蒸発段階により置換することが有利である。しかしながら、最終産物の着色の故に、更なる脱色が望ましいいくつかの場合におけるそのような段階はなお好ましいだろう。そのような段階が、例えば出発材料としてPURASAL HiPure Pを用いることにより、蒸発段階に先立って実施されてよく、又は代替的に、蒸発段階の後に活性炭処理が実施されてもよい。そのような活性炭/蒸発が組み合わせられた方法が、最高品質の最終産物を与えることが見出された。蒸発に先立って実施された場合、味と香りに関する実質的な改良が達成されたことが発見された。蒸発後に実施された場合、再生された炭、従って得られる乳酸カリウムは、より少ない品質の変動を示したことが発見された。
【0016】
65%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液を、65〜85%の濃度を有する乳酸カリウム溶液へと蒸発させることにより、該第1の乳酸カリウム溶液から悪い味及び/又は悪い香りを除去し、そして、任意的に該溶液を例えば65%未満へと又は約60%へと再度希釈する、精製の方法を提供することが、本発明の更なる目的である。
【0017】
65〜85%の乳酸カリウム濃度を有し、かつ少なくとも悪い味及び/又は悪い香りが無い又は少なくとも乏しい乳酸カリウム水溶液を提供することも、本発明の目的である。そのような製品は、追加の活性炭精製段階を有する又は有さない、上記の蒸発方法により入手可能である。
【0018】
85重量%より高い濃度は、例えば、4℃のような低温が用いられる食肉製造において、適切さが比較的低く、かつ取り扱うのにより困難である粘性の溶液をもたらすが、該溶液は輸送の為にはなお適当である。本発明に従い得られる濃縮された溶液は、任意の希釈された濃度に、例えば65重量%未満又は約60重量%の乳酸カリウム濃度を含有する溶液に希釈されうる。しかしながら、より高い濃度の溶液は、同じ量の乳酸カリウムについてより少ない容器スペースを必要とする故に、バルク量がより容易に輸送されうるという追加の利点を有する。
【0019】
好ましい乳酸カリウム溶液は、67〜82重量%、より好ましくは70〜80重量%の乳酸カリウム濃度を有する。特に有用な濃度は、出来る限り高い乳酸カリウム濃度を有する76〜79重量%であり、溶液の高すぎる粘度と対峙すること無く、非常に効率的な溶液を結果する。上述の溶液は、食品製品又は飲料製品における、及び特には食肉製品における取扱い及び適用の為に非常に適当である。該溶液は更に、以下の主要芳香化合物の存在の点で、非常に低いプロファイルを有する:アセトアルデヒド、エタノール、ジアセチル、2−ブタノン、2,3−ペンタジオン及び1(E)−ブテナール。これら化合物全てが合わせて、本発明の方法に従い得られる76〜79重量%の乳酸カリウム溶液中に、10ppm未満の全含有量で存在する。
【0020】
本発明に従う蒸発方法により得られる、65〜85重量%の間の乳酸カリウム濃度を有する溶液は、10ppm未満のエタノール濃度を含有したことが更に発見された。70〜80重量%の間の乳酸カリウム溶液は、5ppm未満さえのエタノールを含んだ。
【0021】
本発明は、さらに、以下の非限定的な実施例により説明される。
【0022】
実験
【0023】
60%の乳酸カリウムを含有する5つの試料が、濃縮された溶液を得るために、SPD(短行程蒸留)により蒸発された。
【0024】
加熱油の温度は、種々の濃度を得るために、変えられた。表1は、試料の最終濃度を与える。
【0025】

【0026】
GC−MS結果
【0027】
GC−MSにより見られた主要芳香化合物の相対的な面積が表2において与えられる。濃縮された乳酸カリウム溶液は、分析に先立ち、60%に希釈された。
【0028】

【0029】
味と香り
【0030】
香りと味が官能パネルにより試験された。GC−MS結果に基づき、4つの試料が選択された。これらの試料は、試料P−Lac(商標)、60%乳酸カリウム(Wilke Resources Inc.、米国、から)と比較された。
【0031】
香り試験についての試料は、60%固形分へと希釈された。味についての試料は、試料を1.12%固形分へと希釈することにより試験された。6のパネルメンバーが味について試料を判定し、そして、4のパネルメンバーが香りについて試料を判定した。試料は1(低)から5(高)に等級付けされた。
【0032】
表3及び4は、香りと味の試験の結果を夫々示す。
【0033】

【0034】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸カリウム水溶液の調製の方法であって、65重量%未満の乳酸カリウム濃度を有する第1の乳酸カリウム溶液が、蒸発により、65重量%〜85重量%の乳酸カリウム濃度を有する溶液へと濃縮され、次に分離される、上記方法。
【請求項2】
該第1の乳酸カリウム溶液が、60重量%の乳酸カリウム濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該蒸発が、2段階で、任意的に2つの蒸留装置において、実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該蒸発が、プレート式エバポレーションプロセスにより実施される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該蒸発が、活性炭による該溶液の処理により、先行される、又は、後に続かれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該濃縮された乳酸カリウム溶液が希釈される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られる乳酸カリウム溶液であって、10ppmのエタノール濃度を有する上記溶液。
【請求項8】
67〜82重量%、好ましくは70〜80重量%、より好ましくは76〜79重量%の乳酸カリウム溶液を有する、請求項7に記載の乳酸カリウム溶液。
【請求項9】
請求項7又は8の乳酸カリウム溶液を含有する、食品製品又は飲料製品。

【公開番号】特開2012−130353(P2012−130353A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49410(P2012−49410)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【分割の表示】特願2008−542765(P2008−542765)の分割
【原出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】