説明

乳酸菌のフリーズドライのための凍結保護剤

本発明は、フリーズドライした乳酸菌(LAB)の種々の温度での長期安定性を達成するために、スキムミルクまたは任意の他の動物由来化合物を含まない効果的な凍結保護剤組成物の知見および開発を含んでなり、これによりフリーズドライしたLABの生存能の保持は、貯蔵6カ月後、好ましくは貯蔵9カ月後、さらに好ましくは貯蔵12カ月後で50%より高い。本発明はフリーズドライしたバクテリア、特に乳酸菌の生産の分野に関する。より詳細には本発明はフリーズドライ後のバクテリアの生存能を上げ、容易な粉砕のために凍結乾燥ケークのテクスチャーを改善し、そしてフリーズドライしたバクテリアの種々の温度条件での長期安定性を改善するための凍結保護剤の新規組み合わせ物の使用に関する。さらに本発明は、そのようなフリーズドライしたバクテリアの食品工業またはヒトもしくは動物の健康のための応用への使用に関する。詳細には本発明は異種タンパク質またはペプチドを発現することができ、そしてヒトもしくは動物に治療もしくはワクチン接種の目的で投与される組換えバクテリアの生存能および長期貯蔵の上昇に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーズドライ(freeze drying)した後の乳酸菌の生育能(viability)を上げ、容易に粉砕するために凍結乾燥(lyofilized)したケークのテクスチャーを改善し、そしてフリーズドライしたバクテリアの種々の温度条件での長期安定性を改善するための凍結保護剤の新規組み合わせ物の使用に関する。
【0002】
発明の分野
本発明はフリーズドライしたバクテリア、特に乳酸菌の生産の分野である。より詳細には本発明は、フリーズドライ後のバクテリアの生育能を上げ、容易な粉砕のために凍結乾燥したケークのテクスチャーを改善し、そしてフリーズドライしたバクテリアの種々の温度条件での長期安定性を改善するために、凍結保護剤の新規な組み合わせ物の使用に関する。さらに本発明は、そのようにフリーズドライしたバクテリアを食品産業またはヒトもしくは動物の健康への応用に使用することに関する。より詳細には本発明は、異種タンパク質またはペプチドを発現することができ、そしてヒトもしくは動物に治療もしくはワクチン接種の目的で投与される組換えバクテリアの生存能および長期貯蔵の上昇に関する。
【背景技術】
【0003】
乳酸菌(LAB)は、発酵可能な炭水化物を主に乳酸に転換することができる分類学上多様なグラム陽性バクテリアの一群であり、プロセス中で成長培地を酸性化する。一般にLAB種はそれらの用途について、食品産業、特に乳製品のような発酵食品およびある種の肉で最も良く知られている。例えばチーズ、ヨーグルトおよびサワークリームの生産を包含する酪農発酵工業の商業的重要性は世界的に良く認識されている。
【0004】
過去数十年にわたり、LABに対する関心が劇的に増大した。選択したLAB株が腸内生理学に影響を及ぼすことができるという事実は広く認識されている。L.ラクティス(lactis)は異種タンパク質の生産宿主として、そして最終的にはその場での生産および生物学的に活性な分子の送達システムとして関心を集めてきた(以下を参照にされたい)。
【0005】
現在、サイトカイン、抗体断片、増殖因子、ホルモンおよび神経ペプチドを含む生物学的薬物の生産および局所的な粘膜投与のための送達道具として、遺伝的に操作された(GM)LAB種の使用に多くの努力が向けられている。(例えば[非特許文献6−12])。特に操作された食品級のバクテリアであるラクトコッカス(Lactococcus) ラクティス(L.lactis)は、生物学的に活性なポリペプチドの治療的送達のための好適な微生物として選択された。明らかに操作されたL.ラクティス株による経口治療用タンパク質の送達概念は、刺激的な可能性を開く。しかし製薬学的製品に必要な特性は、典型的には予め定めた貯蔵条件下で少なくとも24ケ月の長期安定性(貯蔵寿命)である。このために、効率的で、測定でき、そして信頼性のある製造プラットホームが、操作されたL.ラクティスに基づく薬物(DS:Drug Substance)および薬剤(DP:Drug Product)配合物に開発される必要がある。
【0006】
製造、そして引き続く貯蔵中、製品の安定性に重要なパラメーターは、操作されたバクテリアの長期生育能である(通常、貯蔵時間の関数でグラム当たりのコロニー形成単位(CFU)として表される)。LAB株の製造、貯蔵および最終的な治療的使用は、バクテリアに重大なストレスを課す[非特許文献4]。工業的状況で、LABは液体中に保存され、そして分配され、噴霧乾燥され、凍結または凍結乾燥された(フリーズドライ)形態となる可能性がある。食品工業ではこれらのすべての調製物が出発培養物としての使用に
適することになり得るが、高い細胞生育能および代謝活性は(生物)製薬学的((bio)pharmaceutical)応用に先行必要条件と考えられるので、これらのパラメーターを促進する長期保存法が益々強調されてきている。生育能力があり、かつ代謝的に活性なバクテリアが所望する治療効果をインシトウ(in situ)で誘導するために絶対的に必要となる事実を考慮すると、生存を最大にするためには、選択した凍結保護剤をバイオマスに添加し、そして続いて凍結乾燥することが特に重要な工程となる。
【0007】
フリーズドライはしっかりとした、そして固体の最終的配合物を達成することを目的として、バクテリアの最適な脱水工程の一つとして広く認識されている[非特許文献4]。たとえフリーズドライ後および貯蔵中の生存率が株により変動しても、フリーズドライは微生物の細胞培養物を貯蔵するために最も良く使用される方法の一つである[非特許文献5]。フリーズドライ後の生存は、急速な凍結および乾燥の影響、例えば膜の脂質酸化および幾つかの標的部位での細胞の損傷に耐える細胞の能力を反映している[非特許文献5]。保護されていないバクテリアのフリーズドライは、ほとんどのバクテリアを殺し、生き残ったバクテリアも貯蔵で急速に死ぬことが良く知られている。したがって凍結乾燥および貯蔵で生きているバクテリアの数を増やすために幾つかの試みがなされたが、成功は限定された(以下を参照にされたい)。
【0008】
凍結乾燥はこれまで、排他的ではないにしても長期貯蔵寿命を達成するために最も頻繁に使用されている方法である[非特許文献16]。適切な乾燥媒質/凍結保護剤混合物の選択が、凍結乾燥および続く貯蔵の間にLABの生存率を上げるために重要である[非特許文献4]。フリーズドライおよび/または続く貯蔵中にLABの生存率を上げることを試す幾つかの実験が報告された(総説には[非特許文献4]を参照にされたい)。しかしこれらいずれの公報も、製薬学的応用に必要とされるような、特に室温(25℃)または2〜8℃での、フリーズドライしたバクテリアの十分長期な安定性(例えば1年後に80%より高い生存)を示していない。
【0009】
商業目的の酪農工業用LAB培養物の多くは、スキムミルク粉末が細胞膜成分を安定化し、再水和を促進し、そして細胞上に保護コーティングを形成することから、スキムミルク粉末を乾燥媒質として選択している[非特許文献4]。スキムミルクを追加の凍結保護剤に補充すると、その本来の保護効果を強化することができる。
【0010】
Font de Valdez et al.は、フリーズドライにかけた12株のLABについて、10%スキムミルク中のアドニトールの保護効果を記載する[非特許文献17]。凍結乾燥中の高い生存率が報告されるが(その株に依存して42〜100%の範囲)、長期安定性のデータは提供されなかった。Castro et al.はフリーズドライ後のラクトバチルス ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)の生存について、スキムミルク(11%)またはトレハロース(5%)の有利な効果を評価し、水単独中の〜1%に比べて25%の保持率(生育可能細胞数)を示した[非特許文献18]。ここでも続く貯蔵中の安定性に関するデータは報告されなかった。
【0011】
Carvalho et al.(2003)は、スキムミルク中に懸濁されたLABに別個に加えられたソルビトールまたはグルタミン酸(モノ)ナトリウム(MSG)のいずれかの安定化効果を、凍結乾燥および続いて3〜6カ月間の貯蔵中の生存について示した[非特許文献19]。しかし安定性がスキムミルク単独に比べて上昇したという事実にもかかわらず、ソルビトールまたはMSGの存在下で報告された生存率は、大変低かった(<0.1%)。さらにフリーズドライした細胞を、空気中、20℃で密閉容器中に貯蔵し、そして暗中8カ月まで維持した長期生存は、経時的に1より大きい対数の有意な減少を示した。
【0012】
Carcoba and Rodriguezは、再構成スキムミルク(RSM)に個別に加えた種々の化合物の、フリーズドライ後のL.ラクティスの細胞生存および代謝活性に及ぼす効果について研究した[非特許文献16]。彼らは糖のトレハロースおよびシュクロース、ポリオールのソルビトールおよびアドニトール、ならびにアミノ酸のβアラニンおよびグルタミン酸が、RSM単独で記録された44.3%を上回り、細胞生育能を強化できることを見いだした。しかし補充した媒質を用いた実際の生存率は含まれず、そして長期貯蔵データは開示されなかった。
【0013】
最後の例として、Huang et al.による実験で、ラクトバチルス デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)用に保護媒質が開発および至適化され、これはフリーズドライ後に86%の細胞生育能を生じた[非特許文献20]。この媒質の組成は:シュクロース66.40g/リットル、グリセロール101.20g/リットル、ソルビトール113.00g/リットル、およびスキムミルク130.00g/リットルであった。ここでも長期安定性の結果は報告されなかった。
【0014】
Huyghebaert et al.は、許容し得る貯蔵寿命の生育可能なGM L.ラクティスバクテリアを含むフリーズドライ粉末配合物を開発することを目指した[非特許文献21]。マトリックスをフリーズドライする影響を調査するために、2種類の媒質を使用した:0.5%グルコースを補充したM17ブロス(GM17を得るために)、または0.5%グルコースおよび0.5%カゼイン加水分解物を補充した10(重量/容量)%のスキムミルク(GC−ミルクを得るために)。フリーズドライした後、凍結乾燥パラメーター、フリーズドライマトリックスおよび種々の貯蔵条件の影響を短期および長期生育能について評価した。
【0015】
従来のGM17ブロス中でフリーズドライした場合、絶対的生育能は10%未満であり、一方GC−ミルクマトリックス中でのフリーズドライは、有意により高い生育能を生じた(60.0±18.0%)。しかしフリーズドライ手順を標準化するための幾つかの試みにもかかわらず、有意なバッチ毎の変動性を回避することはできなかった。
【0016】
短期安定性実験では、フリーズドライおよび1週間の貯蔵後に生育能はすでに±20%低下したことを示した(GC−ミルクマトリックス)。長期安定性実験では、1カ月貯蔵後の相対的生育能は高度に低下し、その後数カ月の貯蔵中に対数的に低下し(GC−ミルクマトリックス、種々の貯蔵条件)、長期安定性は達成できなかったことを示した。
【0017】
従来技術全体を考えると、スキムミルクがLABのフリーズドライ媒質として繰り返し使用されている成分であることは明らかであり、したがってバクテリアの生育能に必須であると思われる。しかし新規製薬学的組成物中でのミルク誘導体の使用は、特にその使用に伴う伝染性海綿状脳障害(TSE)のリスクの観点から強く阻まれる。
【0018】
生産後の高い生育能に次いで、フリーズドライしたLABは製薬学的応用に許容し得る長期貯蔵寿命も有するべきである。安定化された乾燥バクテリア組成物は、例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載されている。特許文献1では、乾燥したバクテリア組成物が、それらが大部分の安定化剤を含んでなると特性決定される。例えば特許文献1の[055]を参照にすると、ここで安定化剤の量が少なくとも40(重量/容量)%を占めている。特許文献3では、シュクロースまたはシュクロースとマルトデキストリンがバクテリアの細胞培養物の安定性を改善することが示されたが、−20℃でのみであった。この文献では、フリーズドライしたバクテリアを含んでなる組成物の長期貯蔵寿命(室温で)をどのように改善するかを示していない。特許文献2では、すべての実験が無脂肪ミルク中の異なるラクトバチルス種の培養物から始まり、これは続いて場合によりL−アスコルビン酸(その可食塩を含む)、およびグルタミン酸またはアスパラギン酸(そ
の塩を含む)から選択される安定化増強剤の存在下でフリーズドライされる。そのようなミルク成分は安定化された乾燥バクテリア組成物の重要な構成成分である。
【0019】
換言すれば、従来技術では長期貯蔵寿命の下、十分な生存能および安定性があるミルク成分を置き換える取り組みはなされていない。実際に、これら実験のほとんどは初期の生育能、安定性およびバクテリア密度について正確なデータを欠いている。最後にそれらのいずれもGMバクテリアのフリーズドライおよび/またはそれらの特性の維持について報告していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許出願第2005/0100559号明細書
【特許文献2】米国特許第3897307号明細書
【特許文献3】国際出願第2004/065584号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Bibiloni R,Fedorak RN,Tannock GW,Madsen KL,Gionchetti P,Campieri M,De Simone C,Sartor RB.VSL#3 probiotic−mixture induces remission in patients with active ulcerative colitis.Am J Gastroenterol 2005;100(7):1539−1546
【非特許文献2】Rioux KP,Fedorak RN.Probiotics in the treatment of inflammatory bowel disease.J Clin Gastroenterol 2006;40(3):260−263
【非特許文献3】Shanahan F.Probiotics in inflammatory bowel disease−therapeutic rationale and role.Adv Drug Deliv Rev 2004;56(6):809−818
【非特許文献4】Carvalho AS,Silva J,Ho P,Teixeira P,Malcata FX,Gibbs P.Relevant factors for the preparation of freeze−dried lactic acid bacteria.International Dairy Journal 2004;14(10):835−847
【非特許文献5】Miyamoto−Shinohara Y,Sukenobe J,Imaizumi T,Nakahara T.Survival of freeze−dried bacteria.J Gen Appl Microbiol 2008;54(1):9−24
【非特許文献6】Braat H,Rottiers P,Hommes DW,Huyghebaert N,Remaut E,Remon JP,van Deventer SJ,Neirynck S,Peppelenbosch MP,Steidler L.A phase I trial with transgenic bacteria expressing lnterleukin−10 in Crohn’s disease.Clinical Gastroenterology and Hepatology 2006:4:754−759
【非特許文献7】Vandenbroucke K,Hans W,Van Huysse J,Neirynck S,Demetter P,Remaut E,Rottiers P,Steidler L.Active delivery of trefoil factors by genetically modified Lactococcus lactis prevents and heals acute colitis in mice.Gastroenterology 2004;127:502−513
【非特許文献8】Steidler L,Neirynck S,Huyghebaert N,Snoeck V,Vermeire A,Goddeeris B,Cox E,Remon JP,Remaut E.Biological containment of genetically modified Lactococcus lactis for intestinal delivery of human interleukin 10.Nat Biotechnol 2003;21:785−789
【非特許文献9】Steidler L,Wells JM,Raeymaekers A,Vandekerckhove J,Fiers W,Remaut E.Secretion of biologically active murine interleukin−2 by Lactococcus lactis subsp.lactis.Applied and Environmental Microbiology 1995;61:1627−1629
【非特許文献10】Steidler L,Robinson K,Chamberlain L,Schofield KM,Remaut E,Le Page RWF,Wells JM.Mucosal delivery of murine interleukin−2(IL−2)and IL−6 by recombinant strains of Lactococcus lactis coexpressing antigen and cytokine.Infection and Immunity 1998:66:3183−3189
【非特許文献11】Steidler L,Hans W,Schotte L,Neirynck S,Obermeier F,FaIk W,Fiers W,Remaut E.Treatment of murine colitis by Lactococcus lactis secreting interleukin−10.Science 2000;289:1352−1355
【非特許文献12】Frossard CP,Steidler L,Eigenmann PA.Oral administration of an IL−10−secreting Lactococcus lactis strain prevents food−induced IgE sensitization.J Allergy Clin Immunol 2007;119(4):952−959
【非特許文献13】Wells JM,Wilson PW,Le Page RW.Improved cloning vectors and transformation procedure for Lactococcus lactis.J Appl Bacteriol 1993;74(6):629−636
【非特許文献14】Ahmed FE.Genetically modified probiotics in foods.Trends Biotechnol 2003;21(11):491−497
【非特許文献15】Kleerebezem M,Hugenholtz J.Metabolic pathway engineering in lactic acid bacteria.Curr Opin Biotechnol 2003;14(2):232−237
【非特許文献16】Carcoba R1 Rodriguez A.Influence of cryoprotectants on the viability and acidifying activity of frozen and freeze−dried cells of the novel starter strain Lactococcus lactis ssp.lactis CECT 5180.European Food Research and Technology 2000;211(6):433−437
【非特許文献17】de Valdez GF,de Giori GS,de Ruiz Holgado AA,Oliver G.Protective effect of adonitol on lactic acid bacteria subjected to freeze−drying.Appl Environ Microbiol 1983;45(1):302−304
【非特許文献18】H.P.Castro PMTRK.Evidence of membrane damage in Lactobacillus bulgaricus following freeze drying.In;1997:87−94
【非特許文献19】Ana SC,Joana S,Peter H,Paula T,Malcata FX,Paul G.Protective effect of sorbitol and monosodium glutamate during storage of freeze−dried lactic acid bacteria.In;2003:203−210
【非特許文献20】Huang L,Lu Z,Yuan Y,Lu F,Bie X.Optimization of a protective medium for enhancing the viability of freeze−dried Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus based on response surface methodology.J lnd Microbiol Biotechnol 2006;33(1):55−61
【非特許文献21】Huyghebaert N,Vermeire A,Neirynck S,Steidler L,Remaut E,Remon JP.Development of an enteric−coated formulation containing freeze−dried,viable recombinant Lactococcus lactis for the ileal mucosal delivery of human interleukin−10.European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 2005;60:349−359
【発明の概要】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、フリーズドライした乳酸菌(LAB)の種々の温度での長期安定性を達成するために、スキムミルクまたは任意の他の動物由来化合物を含まない効果的な凍結保護剤組成物の知見および開発を含んでなり、これによりフリーズドライしたLABの生育能の保持は、貯蔵6カ月後、好ましくは貯蔵9カ月後、さらに好ましくは貯蔵12カ月後で50%より高く、好ましくは60%より高く、より好ましくは70%より高く、さらにより一層好ましくは80%より高い。この凍結保護剤組成物配合物の主な利点は、フリーズドライ中、通常の製造操作条件に短期間暴露されている間、および包装後に長期貯蔵されている間に高度に感受性のバクテリアの保護を提供することである。
【0023】
本発明は、フリーズドライ、フリーズドライしたケークの粉化(milling)および篩分け、およびその後の貯蔵にLABの高度な生存能をもたらす安定化剤(凍結保護剤)の組み合わせ物を提供する。生存能を最大にするために、種々の安定化化合物(凍結保護剤)の組み合わせ物を、フリーズドライ前にバクテリアのバイオマスに加える。澱粉加水分解物およびグルタミン酸塩および/またはポリオールを含んでなるこの安定化化合物の組み合わせ物は、フリーズドライしたLABの生存能および安定性に改善をもたらす。特に本発明はフリーズドライ後のバクテリアの生育能を上げ、容易な粉砕のために凍結乾燥したケークのテクスチャーを改善し、そしてフリーズドライしたバクテリアの種々の温度条件での長期安定性を改善するための凍結保護剤の新規組み合わせ物の使用に関する。
【0024】
これから実施例で詳細に説明するように、選択した凍結保護剤混合物の存在下でフリーズドライ後に高い生育能の細胞収量(>6×10E+11コロニー形成単位[CFU]/g)を得た。驚くことに、これらフリーズドライした細胞の生育能は、周囲条件(下流の製薬学的配合物および製造プロセスを模したもの[例えばカプセルの充填])で24時間(25℃/35%RH)の暴露による影響を受けず、そして細胞生育能の長期保存が、異なる貯蔵条件で観察された。
【0025】
周知の凍結保護剤、例えばトレハロースおよびシュクロースと組み合わせてグルタミン酸ナトリウムまたはソルビトールおよびデキストランのいずれかを含有する凍結保護剤の組み合わせ物は、好適な凍結保護剤配合物(コードD)に匹敵する生育可能な細胞収量をフリーズドライ直後にもたらした。短期暴露試験は、そのような澱粉加水分解物およびグルタミン酸塩および/またはポリオールの組み合わせ物を含んでなる凍結保護剤配合物が、25℃/35%RHで24時間の非保護(unprotected)貯蔵で、フリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを保護することを明らかに証明した。本発明でグルタミン酸塩は好ましくはグルタミン酸ナトリウムである。本発明のポリオールは好ましくはソルビトールまたはマンニトールであるが、本発明の澱粉加水分解物は好ましくはデキストランである。
【0026】
ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)sAGX0037株の、フリーズドライサンプルならびに空気に暴露したサンプルについて、生育可能細胞数により測定した生存分析結果は、澱粉加水分解物(例えばデキストラン500)、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオール(例えばマンニトール)の好適な組み合わせ物(コードD)(実施例1、2および3で提示する)が、フリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを、25℃および35%RHで24時間、非保護で貯蔵した時に保護したことを示した。
【0027】
フリーズドライしたLABの安定化の「ゴールデンスタンダード」として知られているシュクロース配合物と比較して、3種の凍結保護剤の組み合わせ物は明らかに貯蔵に優れており、そして25℃/35%RHに対する短期暴露で生育可能細胞数>6×10E+11CFU/gを生じる唯一の安定化剤組み合わせ物である。グルタミン酸ナトリウムのみをバクテリアに加えた場合、短期暴露でバクテリアの生存は観察されなかった。
【0028】
澱粉加水分解物(例えばトウモロコシ(maize)澱粉由来のデキストリン)、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオール(例えばソルビトール)の凍結保護剤の組み合わせ物は、フリーズドライした安定なLAB粉末を導き、生育可能なバクテリアの長期安定性および生存を確実にする(−20℃および5℃で保存した微粉化および篩分けしたフリーズドライケークの生育可能細胞数に有意な減少は観察されず、そして1年間の貯蔵中に初期の生育可能細胞数の90%より多くが保存され、大変高いCFU濃度、最高>5×10E+11CFU/gを生じた)。25℃、60%RHで、生育可能細胞数にわずかな減少が観察されたが、それでも25℃/60%RHで1年間貯蔵した後、高いCFU濃度、最高>3×10E+11CFU/gが得られた。
【0029】
したがって本発明の目的は、澱粉加水分解物、グルタミン酸塩およびポリオールの組み合わせ物を含んでなるフリーズドライしたバクテリア組成物を提供することである。以下の実施例から明らかになるように、該組成物中に使用する澱粉加水分解物の量は、約2.0%〜約10(重量/容量)%;特に約2.5%〜約5(重量/容量)%である。該組成物中に使用するグルタミン酸塩の量は、約2.0%〜約10(重量/容量)%;特に約5.0%〜約7.5(重量/容量)%である。該組成物中に使用するポリオールの量は、約5.0%〜約30(重量/容量)%;特に約10%〜約20(重量/容量)%;さらに特に約7.5%〜約15(重量/容量)%である。
【0030】
本明細書で使用する「ポリオール」は、一般に数種の糖アルコールの混合物、例えばソルビトール、マルチトール、そして中でもマンニトールを指す。これはトウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉または小麦澱粉から加水分解され、これはアミラーゼ酵素によりグルコース、デキストリン、マルト−デキストリンおよびポリデキストリンのような小単位に分解される。続く水素化段階で、該小単位は糖アルコール、例えばソルビトール、マルチトール、マンニトールおよびより長鎖の水素化糖(マルトトリリトール(maltitriitol)のような)に転換される。本発明の特定の態様では、ポリオールはマンニトール、ソルビトールまたはソルビトールとマンニトールの組み合わせである。該態様では、該ポリオールのそれぞれ、すなわちソルビトールまたはマンニトールがそれぞれ独立して約5.0%〜約15(重量/容量)%;特に約7.0%〜約15(重量/容量)%の量で存在する。さらなる態様では、該ポリオール成分のそれぞれが同量、すなわち約7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%または15(重量/容量)%で存在する。
【0031】
本明細書で使用する「グルタミン酸塩」は一般に、グルタミン酸およびその可食性の水溶性塩を指す。そのような「可食性」塩は、ヒトの食品に使用されることが認可されているものであり、そしてグルタミン酸のナトリウムおよび/またはカリウム塩のような食品級である。本発明の特定の態様では、グルタミン酸塩はグルタミン酸一ナトリウム(グルタミン酸ナトリウムおよびMSGとしても知られている)である。さらなる態様では、該グルタミン酸ナトリウムは約2.0%〜約10(重量/容量)%;特に約5.0%〜約7.5(重量/容量)%で存在する。
【0032】
本明細書で使用する「澱粉加水分解物」とは、一般に澱粉またはデキストランのような多数のグルコース単位からなる分枝多糖の加水分解産物を指す。澱粉では、構成単位は直鎖および螺旋状アミロース、および分枝アミロペクチンからなる。デキストランでは、直鎖がグルコース分子間のα−1,6グリコシド結合からなり、一方分枝鎖はα−1,4結合から始まる(そしてα−1,2およびα−1,3結合の場合もある)。特定の態様では、ここで使用するような澱粉加水分解物は、デキストラン1、デキストラン5、デキストラン10、デキストラン20、デキストラン40、デキストラン60、デキストラン70、デキストラン110またはデキストラン500の任意の1つからなり、ここで数字はkDaで表される標準分子量を指し、より特定の態様では澱粉加水分解物はデキストラン500である。さらなる態様では、該デキストランは約2.0%〜約10(重量/容量)%、特に約2.5%〜約5(重量/容量)%で存在する。
【0033】
本明細書の記載および実施例で使用するように、“a”、“an”および“the”のような単数形は、文脈から明らかに他を示さない限り単数および複数の両方の指示対象を含む。例えば“a cell”は1つの細胞というより1もしくは複数の細胞を指す。
【0034】
本明細書で使用する用語「含んでなる(“comprising”)」、“comprises”および“comprised of”は、「含む(“including”)」、“includes”または“containing”、“contains”と同義語であり、そして包括的すなわち限度を設定せず、そして言及していない追加の員、要素または方法工程を含む。
【0035】
終点による数値範囲の列挙は、その範囲を包含するすべての数字および画分、ならびに列挙する終点を含む。
【0036】
本明細書で使用する用語「約」は、パラメーター、量、時間の期間などのような測定可
能な値を指す場合、特定した値から+/−20%以下、好ましくは+/−10%以下、より好ましくは+/−5%以下、さらにより好ましくは+/−1%以下、そしてさらにより一層好ましくは+/−0.1%以下の変動を包含することを意味し、その程度においてそのような変動は開示した発明を行うために妥当である。
【0037】
本明細書に引用するすべての文書は、参照により全部、本明細書に編入する。特に本明細書で具体的に言及したすべての文書の教示は、参照により編入する。
【0038】
他に定めない限り、本発明の開示で使用するすべての用語は、技術的および科学的用語を含め、本発明が属する分野の当業者が普通に理解している意味を有する。さらなる指針により、定義を確実にすることが本発明の教示をより良く理解するために含まれる。
【0039】
用語「組換え核酸」とは、一般に組換えDNA技術を使用して一緒に連結されたセグメントを含んでなる核酸を称する。組換え核酸が宿主微生物内で複製する場合、複製した(progeny)核酸も「組換え核酸」の用語に含まれる。
【0040】
組換えDNA技術の一般原理を説明する標準的な参考研究には、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,vol.1−3,ed.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,ニューヨーク州、1989;Current Protocols in Molecular Biology,ed.Ausubel et al.,Greene Publishing and Wiley−lnterscience,ニューヨーク、1992(定期的に更新)(“Ausubel et al.1992”);lnnis et al.,PCR Protocols:A Guide to Methods and
Applications,Academic Press:San Diego,1990を含む。微生物学の一般原理は例えば、Davis,B.D.et al.,Microbiology,3rd edition,Harper & Row出版社、フィラデルフィア、ペンシルバニア州(1980)に説明されている。
【0041】
所定のORFとプロモーターとの間の関係を指す場合、用語「異種」とは、該プロモーターが通常は該ORFと自然に結合していない、すなわち通常は該ORFの転写を自然に制御していないことを意味する。換言すると、この結合は組換えDNA技術により本発明の組換え核酸中に作成される。
【0042】
用語「乳酸菌」は一般に、ラクトコッカス(Lactococcus)種、ラクトバチルス(Lactobacillus)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ペディオコッカス(Pediococcus)種、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)種およびロイコノストック(Leuconostoc)種からなる群から選択されるバクテリアを指し、そして当該技術分野でそれに属すると分類される任意の分類群(例えば種、亜種、株)を包含する。
【0043】
ラクトコッカス(Lactococcus)は一般にラクトコッカス(Lactococcus)属を指し、そして当該技術分野でそれに属すると分類される任意の分類群(例えば種、亜種、株)を包含する。例によれば、ラクトコッカス(Lactococcus)にはラクトコッカス ガルビエ(Lactococcus garvieae)種、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)種、ラクトコッカス ピシウム(Lactococcus piscium)種、ラクトコッカス プランタルム(Lactococcus plantarum)種およびラクトコッカス ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)種、およびそ
の任意の亜種および株を含む。
【0044】
本発明の好適な態様では、ラクトコッカス(Lactococcus)はラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)である。ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)には、限定するわけではないがラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種クレモリス(cremoris)、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種ホールドニアエ(hordniae)、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種ラクティス、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種 b.v.ジアセチラクティス(diacetylactis)を含む。
【0045】
本発明のさらに好適な態様では、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)はラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種クレモリス(cremoris)またはラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種ラクティス、より好ましくはラクトコッカス
ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種ラクティスであり、そして例えばラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種クレモリスSK11またはラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の亜種ラクティスMG1363のようなその任意の株を含む。
【0046】
したがって一つの態様では、フリーズドライしたバクテリアは、発現産物、好ましくは個体、好ましくはヒトもしくは動物個体に治療的応答を誘発することができるポリペプチドをコードする組換え核酸の1もしくは複数のオープンリーディングフレーム(open
reading frame)を含む。
【0047】
特に有用な例の、そして限定するわけではない態様では、本発明の組換え核酸の該1もしくは複数のオープンリーディングフレームは、抗原および/または非ワクチン原性(non−vaccinogenic)の治療的に活性なポリペプチドをコードすることができる。
【0048】
本明細書で使用するように、用語「抗原」は一般に身体に対して外来の物質(特に抗原が投与されるヒトもしくは動物個体の身体に対して)を指し、これは免疫応答(液性(humoral)免疫および/または細胞性免疫応答を含む)を誘発し、そして免疫応答の生成物、例えば抗体またはT細胞に結合することができる。したがって好適な例では、抗原は投与された個体から生理学的応答を誘導するためにその個体の機能する免疫系が必要である。
【0049】
本発明の抗原は、ヒトまたは動物個体でポリペプチドに対する免疫応答が治療的に有用となる任意のポリペプチドから誘導することができ、例えば病原体から、例えばウイルス、原核生物(例えばバクテリア)もしくは真核生物病原体から、非生理学的タンパク質(例えばガン組織由来のタンパク質)から、アレルゲン(例えば免疫寛容を誘導するために)等から誘導することができる。
【0050】
用語「非ワクチン原性の治療に活性なポリペプチド」とは、一般にそれが投与されるヒトまたは動物個体にそれ自体に対する免疫応答を誘導せず、しかも治療的効果を達成することができるポリペプチドを指す。したがってそのようなポリペプチドの治療効果は、個体に免疫原性および/または免疫防御的抗原として作用することにより治療効果を生じるというようは、むしろポリペプチドに独自の自然な生物学的機能に直接関連し、これによりポリペプチドが個体の体内に特定の効果を達成できると予想される。したがって非ワク
チン原性の治療に活性なポリペプチドは、その発現された形態で生物学的に活性であるべきであり、または少なくとも発現している宿主細胞からいったん放出されれば生物学的に活性な形態に転換されなければならない。好ましくは該ポリペプチドのそのような生物学的に活性な形態は、その天然の立体配置(configuration)と同じかまたは極めて類似の2次そして好ましくは3次の立体配座(conformation)を提示することができる。
【0051】
好ましくは非ワクチン原性の治療に活性なポリペプチドは、非毒性かつ非病原性である。
【0052】
好適な態様では、非ワクチン原性の治療に活性なポリペプチドはヒトまたは動物から誘導することができ、そして好ましくはそれが投与されるヒトまたは動物個体と同じ分類群に対応することができる。
【0053】
適切な非ワクチン原性の治療に活性なポリペプチドの非限定的例には、局所的または全身的に機能することができるものを含み、例えばそれは局所的または全身的な代謝に影響を及ぼす内分泌活性を発揮できるポリペプチドであり、および/または生物学的に活性なポリペプチド(1もしくは複数)は、免疫造血(immunohaemopoeitic)系に属する細胞の活性を調節できるものであり、および/または1もしくは複数の生物学的に活性なポリペプチドは、体内の様々な正常または新形成細胞の生育能、成長および分化に影響を及ぼすことができるか、または損傷および感染に対する急性期炎症応答の免疫調節または誘導に影響を及ぼすことができ、および/または1もしくは複数の生物学的に活性なポリペプチドは、細胞および組織の感染に対して、ケモカインがそれらの標的細胞受容体に作用することにより媒介される耐性、あるいは上皮細胞の増殖または創傷治癒の促進を強化または誘導することができるものであり、および/または1もしくは複数の生物学的に活性なポリペプチドは、体内の細胞による物質発現または生産をモジュレートするものである。
【0054】
そのようなポリペプチドの具体例には、限定するわけではないがインスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体化ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管作動性腸管ポリペプチド、サイトカイン類、例えばIL−2,IL−3,IL−4,IL−5,IL−6,IL−7,IL−9,IL−10,IL−11,IL−12,IL−13,任意のIL−14〜IL−32、GM−CSF,M−CSF,SCF,IFNs,EPO,G−CSF,LIF,OSM,CNTF,GH,PRL,サイトカインのTNFファミリー、例えばTNFa,TNFb,CD40,CD27またはFASリガンド、サイトカインのIL−1ファミリー、繊維芽細胞増殖因子ファミリー、血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、および神経発育因子、サイトカインの上皮増殖因子ファミリー、インスリン関連サイトカインなどがある。あるいは治療に活性なポリペプチドは、上記定義の治療に活性なポリペプチドの受容体またはアンタゴニストであることができる。さらにそのような適切なポリペプチドの具体例は、例えば国際公開第96/11277号パンフレット、14頁、1−30行(参照により本明細書に編入する)、国際公開第97/14806号パンフレット、12頁、1行から13頁、27行(参照により本明細書に編入する)、または米国特許第5,559,007号明細書、8カラム、31行から9カラム、9行(参照により本明細書に編入する)に列挙されている。
【0055】
したがって一つの態様では、組換え核酸は抗原および/または非ワクチン原性の治療に活性なポリペプチドをコードし、ここで該抗原は免疫応答、好ましくは防御免疫応答をヒトまたは動物個体に誘発することができ、および/またはこの非ワクチン原性の治療に活性なポリペプチドは、ヒトまたは動物個体に治療効果を生じることができる。
【0056】
国際公開第97/14806号パンフレットは、抗原と例えばインターロイキン類、例えばIL−2またはIL−6のような免疫応答刺激分子とのバクテリアによる同時発現をさらに具体的に開示する。したがってそのような同時発現に本発明のフリーズドライしたバクテリアも企図されている。
【0057】
さらに好適な態様では、本発明のオープンリーディングフレームは、ORFにコードされるポリペプチドと同調する分泌シグナルをコードする配列をさらに含んでなる。有利なことに、これは発現したポリペプチドの宿主細胞からの分泌を可能とし、これにより例えば単離または送達を容易にすることができる。
【0058】
典型的には、分泌シグナル配列は約16〜約35個のアミノ酸セグメントを表し、このセグメントは通常は脂質二重層膜に埋め込まれるようになる疎水性アミノ酸残を含有し、そして分泌シグナルにより同伴するタンパク質またはペプチド配列の宿主細胞からの分泌を可能とし、そして通常これはタンパク質またはペプチドから開裂される。好ましくは分泌シグナル配列は、該シグナル配列を含んでなる核酸を用いた使用を意図する宿主細胞、例えばバクテリア宿主細胞、好ましくは乳酸菌、より好ましくはラクトコッカス(Lactococcus)、さらに一層好ましくはラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)内でそのように活性(so−active)となることができる。
【0059】
適切な宿主細胞中で活性な分泌シグナル配列は当該技術分野で知られており、例となるラクトコッカス(Lactococcus)のシグナル配列には、usp45(米国特許第5,559,007号明細書を参照)のもの、およびその他を含み、例えばPerez−Martinez et al.1992(MoI Gen Genet 234:401−11);Sibakov et al.1991(Appl Environ Microbiol 57(2):341−8)を参照にされたい。好ましくはシグナル配列はプロモーター配列とORFとの間に配置され、すなわちシグナル配列はプロモーター配列から3’側に位置し、そして目的のポリペプチドのORFに先行する。好適な態様では、シグナル配列はアミノ酸配列
MKKKIISAIL MSTVILSAAA PLSGVYA(usp45)をコードする。
【0060】
さらなる観点では、本発明のフリーズドライしたバクテリアは、組換え核酸を含有するベクターを含んでなる。
【0061】
本明細書で使用するように、「ベクター」は核酸分子、典型的にはDNAを称し、ここに核酸フラグメントが挿入され、そしてクローン化され、すなわち増やされる。したがってベクターは典型的には1もしくは複数の独自な制限部位を含み、そして定めた宿主または媒介微生物中で自律複製することができるので、クローン化配列は複製可能である。ベクターには限定するわけではないが、適宜プラスミド、ファジェミド、バクテリオファージ、バクテリオファージ由来ベクター、PAC、BAC、線状核酸、例えば線状DNAなどを含んでよい(例えば、Sambrook et al.,1989;Ausubel
1992を参照にされたい)。
【0062】
本発明の組換え核酸またはベクターは、宿主細胞中で染色体外に存在することができ、そして好ましくは独自の複製起点(origin)を使用して自律的(autonomously)に複製するか、あるいはバクテリアのゲノムDNA、例えばバクテリアの染色体、例えばラクトコッカス(Lactococcus)の染色体に組み込まれることができる。後者の場合では、該核酸の単一または複数のコピー、好ましくは単一コピーが組み
込まれ、この組み込みは染色体の無作為部位で起こる可能性があり、あるいは上記のように、それらの予め定めた部位、好ましくは例えば好適ではあるが限定するわけではない例としてラクトコッカス(Lactococcus)、例えばラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)のthyA座のような予め定めた部位に生じることができる。
【0063】
関連する観点では、本発明は必要があるヒトまたは動物個体へのフリーズドライしたバクテリアの組換え核酸の1もしくは複数のオープンリーディングフレームを含んでなるフリーズドライしたバクテリアの製造法を提供し、この必要は該ヒトまたは動物に、該核酸で形質転換した治療に有効な量のそのようなバクテリアを投与することを含んでなる。
【0064】
動物は好ましくは、例えば家畜、農場動物、動物園の動物、スポーツ動物、ペットおよび実験動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、畜牛、乳牛のような哺乳動物;霊長類、例えば類人猿(ape)、サル、オラウータンおよびチンパンジー;イヌ科、例えばイヌおよびオオカミ;ネコ科、例えばネコ、ライオンおよびトラ;ウマ科、例えばウマ、ロバおよびシマウマ;食用動物、例えば牛、ブタ、ヒツジ;有蹄動物、例えばシカおよびキリン;齧歯類、例えばマウス、ラット、ハムスターおよびモルモットなどでよい。
【0065】
本明細書で使用する用語「処置する」または「処置」とは、治療的処置および予防または防止的手段の両方を称し、ここで対象は望ましくない生理学的変化または障害を防止または遅らされ(減らされ)る。「処置が必要なヒトまたは動物」には、所定状態の処置から利益を受ける者を含む。
【0066】
「治療に有効な量」とは、個体、例えばヒトまたは動物の疾患または障害を処置するために、すなわち所望の局所的または全身的効果および能力(performance)を得るために有効な治療物質または組成物の量を指す。例として、治療に有効な量のバクテリアは例えば単回もしくは反復用量で、少なくとも1バクテリア、または少なくとも10バクテリア、または少なくとも10バクテリア、または少なくとも10バクテリア、または少なくとも10バクテリア、または少なくとも10バクテリア、または少なくとも10バクテリア、また少なくとも10バクテリア、または少なくとも10バクテリア、または少なくとも10、または少なくとも1010、または少なくとも1011、または少なくとも1012、または少なくとも1013、または少なくとも1014、または少なくとも1015、またはそれ以上の宿主細胞、例えばバクテリアを含んでなることができる。
【0067】
本発明のフリーズドライした細胞は、単独または1もしくは複数の活性化合物と組み合わせて投与することができる。後者は該フリーズドライ細胞の投与前、後またはそれと同時に投与することができる。
【0068】
抗原および/または治療に活性なポリペプチドの送達についての多数の従来技術の開示が存在し、そしてそのような開示は本発明の強力なプロモーターでさらに有利に修飾できると考えられる。例として限定するわけではないが、消化管の疾患を処置するためのトレフォイル(trefoil)ペプチドのバクテリア送達(例えば国際公開第01/02570号パンフレットを参照にされたい)、大腸炎を処置するためのインターロイキン、特にIL−10の送達(例えば国際公開第00/23471号パンフレットを参照にされたい)、ワクチンとしての抗原の送達(例えば国際公開第97/14806号パンフレット)を使用でき、GLP−2および関連する類似体の送達は、短腸(short bowel)疾患、クローン病、骨粗鬆症を処置し、そして癌の化学療法中に補助療法などとして使用することができる。本発明のフリーズドライした細胞を使用して、さらなる治療的応
用が企図される。
【0069】
さらに本発明の治療用ポリペプチドの送達によりヒトまたは動物で処置できる疾患の種類の例は、限定するわけではないが、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(例えばIL−lraまたはIL−10またはトレフォイルペプチドで処置可能);限定するわけではないが乾癬、関節リウマチ、エリテマトーデスを含む自己免疫疾患(例えばIL−lraまたはlL−10で処置可能);限定するわけではないがアルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮側索硬化症を含む神経学的障害(例えば脳由来神経栄養因子および毛様体神経栄養因子で処置可能);癌(例えばIL−1、コロニー刺激因子またはインターフェロン−Wで処置可能);骨粗鬆症(例えばトランスフォーミング増殖因子f3で処置可能);糖尿病(例えばインスリンで処置可能);心血管疾患(例えば組織プラスミノーゲンアクチベータで処置可能);アテローム硬化症(例えばサイトカインおよびサイトカインアンタゴニストで処置可能);血友病(例えば凝固因子で処置可能);変性性肝疾患(例えば肝細胞増殖因子またはインターフェロンaで処置可能);嚢胞性線維症のような肺疾患(例えばアルファアンチトリプシンで処置可能);肥満;病原体感染、例えばウイルスもしくはバクテリア感染(例えば任意の数の上で述べた組成物もしくは抗原で処置可能);などがある。
【0070】
さらなる観点で、このように本発明は上記のように核酸および/またはベクターで形質転換されていてもいなくても本発明により製造されたフリーズドライしたバクテリアを含んでなる製薬学的組成物も提供する。
【0071】
好ましくはそのような配合物は、治療に有効な量の本発明により製造されたフリーズドライしたバクテリア、および製薬学的に許容され得る担体、すなわち1もしくは複数の製薬学的に許容され得る担体物質および/または添加剤、例えばバッファー、担体、賦形剤、安定化剤等を含んでなる。本明細書で使用する用語「製薬学的に許容され得る」とは、技術的に矛盾せず、そして製薬学的組成物中の他の成分と適合し、そしてその受容体に有害ではないことを意味する。本発明に従い凍結乾燥されたフリーズドライしたバクテリアは、カプセル、錠剤、粒末および粉末の状態に調製されることができ、これらそれぞれは経口経路で投与することができる。
【0072】
あるいは本発明に従い凍結乾燥されたフリーズドライしたバクテリアは、適切な媒質中の水性懸濁液として調製することができ、あるいは凍結乾燥したバクテリアは使用直前に適切な媒質に懸濁することができる。
【0073】
経口投与には、胃内抵抗性の経口剤形を調剤することができ、この剤形は宿主細胞の制御型放出を提供する化合物を含んでもよく、そしてこれにより中にコードされる所望のタンパク質の制御型放出を提供する。例えば経口剤形(錠剤、ペレット、粒末、粉末を含む)は、胃での溶解または崩壊には抵抗するが腸ではしない賦形剤の薄層(通常、ポリマー、セルロース誘導体および/または脂肪親和性材料)でコートすることができ、これにより腸での崩壊、溶解そして吸収のために胃の通過を可能とする。
【0074】
経口剤形は、例えば制御型放出、徐放性放出、長期放出、持続的作用錠剤またはカプセルのように、宿主細胞およびその組換えタンパク質の遅延放出を可能とするように設計することができる。これらの剤形は通常、従来の、そして周知の賦形剤、例えば脂肪親和性、ポリマー性、セルロース性、不溶性、膨潤性賦形剤を含む。制御型放出製剤も、腸、結腸、生物接着または舌下の送達(すなわち歯粘膜送達)および気管支送達を含む任意の他の送達部位に使用することができる。本発明の組成物が直腸または膣に投与される場合、製薬学的製剤は、座薬およびクリームを含むことができる。この場合、宿主細胞は脂質も含む通例の賦形剤の混合物中に懸濁される。前記の各製剤は当該技術分野では周知であり
、そして例えば以下の文献に記載されている:Hansel et al.(1990,Pharmaceutical dosage forms and drug delivery systems,5th edition,William and Wilkins);Chien 1992,Novel drug delivery system,2nd edition,M.Dekker);Prescott et al.(1989,Novel drug delivery,J.Wiley & Sons);Cazzaniga et al.,(1994,Oral delayed release system for colonic specific delivery,Int.J.Pharm.iO8:7’)。
【0075】
好ましくは、浣腸配合物を直腸投与に使用することができる。用語「浣腸」とは、直腸使用を意図する液体調製物を網羅するために使用される。浣腸は通常、単回用量の容器で供給され、そして水、グリセロールまたはマクロゴールまたは他の適切な溶媒に溶解または分散された1もしくは複数の活性物質を含む。
【0076】
このように本発明に従い、好適な態様では、所望する遺伝子をコードする組換え宿主細胞は、粘膜例えば口腔、鼻、直腸、膣または気管支経路を介して、特定の経路に適用できる最先端の製剤の任意の1つにより動物またはヒトに投与することができる。投与のための宿主細胞の投薬用量は、バクテリアの種類およびそれによりコードされる遺伝子、処置する疾患の種類および重篤度、および使用する投与経路を含む多数の因子に依存して変動する。
【0077】
このように正確な投薬用量は本発明のあらゆる態様について定めることはできないが、当業者はいったん本発明に着手すれば容易に明らかとなるだろう。この投薬用量は、ELISAまたはBiacore(実施例を参照にされたい)のような周知の方法を使用して、予め定めた数の細胞を投与した後、組換えタンパク質の血清レベルの濃度を測定することにより、ケースバイケースの方法でどのみち決定することができる。送達される組換えタンパク質の動力学的プロファイルおよび半減期の分析により、形質転換した宿主細胞について効果的な投薬用量範囲の決定を可能にする十分な情報が提供される。
【0078】
一つの態様では、本発明に従い製造されるフリーズドライしたバクテリアが抗原を発現する場合、このように本発明はワクチンを提供することができる。
【0079】
用語「ワクチン」は、有効量で動物またはヒト個体に投与された場合に、ワクチンに含まれる免疫原に対する抗体を誘導し、かつ/または個体に防御免疫を誘発することができる製薬学的に許容され得る組成物である。
【0080】
本発明のワクチンは、本発明の核酸またはベクターで形質転換された宿主細胞、およびさらに場合により賦形剤を含んでなる。そのようなワクチンはアジュバント、すなわち抗原に対する免疫応答を強化する化合物または組成物を含んでなってもよい。アジュバントには、限定するわけではないが、フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、サポニン、鉱物ゲル、例えば水酸化アルミニウム、表面活性物質、例えばリソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油または炭化水素エマルジョン、および潜在的に有用な製薬学的に許容され得るヒトのアジュバント、例えばBCG(カルメット−ゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム パルバム(Corynebacterium parvum)を含む。
【0081】
本発明のフリーズドライした乳酸菌は、一般に食品産業において食品添加物として、または特に出発培養物、例えばヨーグルトの出発培養物またはチーズの出発培養物として使用することができる。典型的にはそのような組成物は濃縮された形態のバクテリアを含ん
でなり、典型的には1グラムの組成物あたり少なくとも10<5> CFU、例えば少なくとも10<6> CFU/gのような、少なくとも10<7> CFU/g、例えば少なくとも10<8> CFU/g、例えば少なくとも10<11> CFU/gのような少なくとも10<10> CFU/g、例えば少なくとも10<12>である生育可能細胞の濃度を有する、凍結し乾燥した、すなわちフリーズドライした濃縮物を含む。組成物はさらなる成分として、酵母エキス、糖およびビタミンのような栄養を含む通常の添加剤を含有することができる。
【0082】
本発明は、非殺菌(原)乳を含む乳、肉、小麦生地、ワインおよび植物材料、例えば野菜、果実または飼料作物のような様々な可食性製品成分または材料に有用なフリーズドライした乳酸菌を製造する方法を提供する。本明細書で使用する用語「乳」は、任意の種類の乳または乳成分、例えば牛乳、ヒトの乳、バッファローの乳、ヤギの乳、ヒツジの乳、そのような乳から作られた乳製品、またはホエーを含むことを意味することを意図する。本発明のフリーズドライした乳酸菌の特別な利点は、高レベルの生育能および長期貯蔵能力である。出発培養物は、多数の生育可能細胞を生じる量で加えられ、その量は1グラムの可食性製品出発材料あたり少なくとも<3>コロニー形成単位(CFU)、例えば1グラムの可食性製品出発材料あたり少なくとも10<4> CFU/g、少なくとも10<5> CFU/gを含み、例えば少なくとも10<6> CFU/g、例えば少なくとも10<7> CFU/g、例えば少なくとも10<8> CFU/g、例えば少なくとも10<9> CFU/g、例えば少なくとも10<10> CFU/g、例えば少なくとも10<11> CFU/g、例えば少なくとも10<12>/gである。
【0083】
また本発明は、本発明の安定化化合物の組み合わせ物を含んでなる、食品または動物飼料の生産のための出発培養物組成物の状態、あるいは香気(aroma)を生産するための培養物の状態のフリーズドライした乳酸菌を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】種々の凍結保護剤混合物を使用したL.ラクティスsAGX0037株の生育可能な細胞数(コロニー形成単位[CFU]/gで表す):フリーズドライ直後および25℃/35%RHで24時間暴露後のデータ。凍結保護剤混合物の詳細な組成は表1に記載する。
【図2】種々の凍結保護剤混合物を使用したL.ラクティスsAGX0037株の生育可能な細胞数(コロニー形成単位[CFU]/gで表す):フリーズドライ直後および25℃/35%RHで24時間暴露後のデータ。凍結保護剤混合物の詳細な組成は表3に記載する。
【図3】凍結保護剤混合物Z4(20%グルタミン酸ナトリウム、10%ソルビトールおよび10%デキストラン500)を使用し、25℃および35℃の最終棚温度でフリーズドライしたL.ラクティスsAGX0037株の生育可能な細胞数(コロニー形成単位[CFU]/gで表す):フリーズドライ直後および25℃/35%RHで4および24時間暴露後のデータ。バクテリアおよび凍結保護剤混合組成物の詳細な組成は表4に記載する。
【図4】フリーズドライ中および3つの異なる貯蔵条件で長期貯蔵したL.ラクティスsAGX0037株に対する、グルタミン酸ナトリウム、デキストラン(メイズ澱粉由来)およびソルビトールの組み合わせ物の安定化効果:PET/ALUバック中、−20℃;5℃および25℃/60%RH。バクテリアおよび凍結保護剤混合組成物の詳細な組成は表5に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明を限定するとは考えない実施例を用いてさらに具体的に説明する。
【0086】
実施例
本発明は、以下に続く実験的詳細を参照にすることにより、より良く理解されるが、当業者はこれから後に続く特許請求の範囲においてさらに完全に記載されるので、これらは本発明の具体的説明だけであると容易に理解するだろう。他の態様、特にラクトコッカス(Lactococcus)種のような他の乳酸菌、例えばラクトバチルス(Lactobacillus)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ペティオコッカス(Pediococcus)種、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)種およびロイコノストック(Leuconostoc)種、および当該技術分野でそのような分類に属する任意の分類群(例えば種、亜種、株)を含んでなる態様がこれらの実施例に照らして当業者により行われるだろう。
【実施例1】
【0087】
フリーズドライ中、および25℃/35%RHへの非保護短期(24時間)暴露に対するデキストラン、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオールの組み合わせ物の安定化効果
L.ラクティスsAGX0037株を5リットルの発酵槽で増殖させ、800μMのチミジンを含有する精製水で2回洗浄し、そして10倍に濃縮した。濃縮したバクテリアを1:1の容量比で凍結保護剤混合物(1mlのサンプル+1mlの凍結保護剤)と混合した。生じた配合物を2mlの容量で35個のバイアルに分けた。バイオリアクターからバイアルまでの全工程に約8時間かかり、この間、温度は平均10℃であった。最終濃度が様々な配合物(すなわちバクテリアを含む)は、表1に示す。バイアルはそれらをフリーズドライヤーに配置するまで、固形CO2ペレット中で凍結させた。
【0088】
【表1】

【0089】
フリーズドライしたケークの生育能を試験するために、周囲条件(下流の製剤プロセスを模したもの[例えばカプセルの充填])に暴露した後、3つのバイアルをフリーズドライ直後および25℃および35%RHで24時間貯蔵した後、生育可能な細胞数について分析した。
【0090】
フリーズドライしたサンプルならびに空気に暴露したサンプルについて生育可能細胞数により測定したL.ラクティスsAGX0037株の生存分析の結果は、澱粉加水分解物(デキストラン500)、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオール(例えばマンニトール)の組み合わせ物(コードDにより提示するような)が、25℃および35%RHで24時間、非保護で貯蔵した時ニフリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを保護したことを示した。
【0091】
トレハロースおよびシュクロースのような周知の凍結保護剤と組み合わせたグルタミン酸ナトリウムまたはソルビトールとデキストランのいずれかを含有する組み合わせ物(配合物コードA、BおよびC)は、配合物コードDに匹敵するフリーズドライ直後の生育可能細胞収量を生じ(>1×10E+11 CFU/g)、短期暴露実験は澱粉加水分解物およびグルタミン酸塩および/またはポリオールの組み合わせ物を含有する配合物Dのみが、25℃および35%RHで24時間、非保護で貯蔵した時にフリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを保護したことを明らかに示した。
【0092】
フリーズドライしたLABの安定化に「ゴールデンスタンダード」として知られているシュクロース配合物(コードE)に比べて、選択した組み合わせ物(D)は貯蔵に優れ、そしてこの実施例で25℃および35%RHへの短期暴露で生育可能細胞数>1×10E+11 CFU/gを生じる唯一の組み合わせ物である。
【0093】
バクテリアに安定化剤を加えない場合、図1、配合物コードFに示すように短期暴露でバクテリアの生存は観察されなかった。
【実施例2】
【0094】
フリーズドライ中、および25℃/35%RHへの短期(24時間)暴露に対するデキストラン、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオールの組み合わせ物の安定化効果
L.ラクティスsAGX0037株のプレカルチャー(100ml)を、5リットルのM17c培地(組成は表2に列挙する)を含有する7リットルのContinuously Stirred Tank Reactor(CSTR)に接種するために使用した。
【0095】
【表2】

【0096】
バイオリアクターは30℃の温度およびpH7(5MのNH4OHの添加による)を維
持するように設定した。撹拌速度は200rpmに設定した。発酵はグルコース消費が完了した時に発酵槽を4℃に冷却することにより停止した。「発酵の終了」のサンプルを取り、そして乾燥細胞重量(DCW)の測定に使用した。いったん発酵が終了すれば、3.5リットルの発酵ブロスを濃縮し、そして限外濾過/膜分離法により1400cm2 500kDaの中空ファイバーフィルターを使用して洗浄した。
【0097】
全量3.5リットルのブロスを、約10倍に濃縮し、5リットルのバルクボトルを精製水含有のボトルに変え、そして膜分離法に使用した。膜分離中、乳酸塩濃度は浸透液の分析によりモニターした。膜分離はいったん乳酸塩濃度が5〜10g/リットルに達すれば停止した。
【0098】
濃縮および膜分離の直後に、バクテリア細胞懸濁液を13部に分け、これに種々の凍結保護剤を加えた(表3に列挙する)。凍結保護剤を細胞懸濁液と混合した後、各混合物を25バイアルに小分けし(2mlの最終容量)、そしてフリーズドライした。
【0099】
【表3】

【0100】
フリーズドライしたケークのバクテリアの生存能を試験するために、周囲条件(下流の製剤プロセスを模したもの[例えばカプセルの充填])に暴露した後の3つのバイアルを、フリーズドライ直後および25℃および35%RHで24時間貯蔵した後、生育可能な
細胞数について分析した。
【0101】
凍結乾燥したサンプルならびに空気に暴露したサンプルについて生育可能細胞数により測定したL.ラクティスsAGX0037株の生存分析の結果は、澱粉加水分解物(デキストラン500)、ポリオール(例えばマンニトールおよび/またはソルビトール)、およびグルタミン酸ナトリウムの組み合わせ物(コードD1により提示するような)が、フリーズドライ直後に高い生育可能細胞数(例えば>3E+11 CFU/g)を生じ、そして25℃および35%RHで24時間、非保護で貯蔵した時にフリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを安定化し、高い生育可能細胞数を生じた(>2E+11 CFU/g)ことを示した。
【0102】
A1、A2、B1、C1およびC2とコードされる配合物(グルタミン酸ナトリウムまたはソルビトールのいずれか、およびデキストランを、トレハロースおよびシュクロースのような周知の凍結保護剤と組み合わせて含有する組み合わせ物)は、フリーズドライ直後の生育可能細胞数にD1にコードされる配合物に匹敵する収量を生じたが、短期暴露実験は配合物D1およびD2(少なくとも澱粉加水分解物[デキストラン500]、ポリオール[例えばマンニトールおよび/またはソルビトール]およびグルタミン酸ナトリウムの混合物を含有する)が、25℃および35%RHで24時間、非保護で貯蔵した時にフリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを安定化したことを明らかに示す。
【0103】
シュクロース配合物(コードE1)に比べて、フリーズドライしたLABの安定化の「ゴールデンスタンダード」である3種の凍結保護剤の組み合わせ物は、明らかに貯蔵に優れており、そして25℃/35%RHに短期暴露した際にこの実施例で生育可能細胞数>2×10E+11CFU/gを生じた唯一の安定化剤の組み合わせ物であった。
【0104】
グルタミン酸ナトリウムを単独でバクテリアに加えた時、図2、配合物コードF2に示すように短期暴露ではバクテリアの生存は観察されなかった。
【実施例3】
【0105】
フリーズドライ中、および25℃/35%RHへの非保護での短期暴露(4および24時間)に対するデキストラン、グルタミン酸ナトリウムおよびソルビトールの組み合わせ物の安定化効果
L.ラクティスsAGX0037株のプレカルチャー(100ml)は、5リットルのM17c培地(組成は上記表2に列挙する)を含有する7リットルのCSTRに接種するために使用した。バイオリアクターは30℃およびpH7(5MのNH4OHの添加による)を維持するように設定した。撹拌速度は200rpmに設定した。発酵はグルコース濃度が0.5g/リットル未満に落ちた時、発酵槽を4℃に冷却することにより停止した。「発酵の終了」のサンプルを取り、そしてDCW測定に使用した。いったん発酵が終了すれば、3.5リットルの発酵ブロスを濃縮し、そして限外濾過/膜分離法により1400cm2 500kDの中空ファイバーフィルターを使用して洗浄した。
【0106】
全量3.5リットルのブロスを、約10倍に濃縮し、5リットルのバルクボトルを精製水含有のボトルに変え、そして膜分離法に使用した。膜分離中、乳酸塩濃度は浸透液の分析によりモニターした。膜分離は乳酸塩濃度が5〜10g/リットルに達したら停止した。
【0107】
バクテリア懸濁液を種々の凍結保護剤と混合し、その組成を表4に記載する。凍結保護剤を懸濁液と混合した後、各混合物を異なるフリーズドライ容器(55mlのアリコート)に無菌状態で小分けした。小分けした後、容器を平らなプレートに置いて−70℃のフリーザーにフリーズドライするまで入れた。2種の2次乾燥温度をフリーズドライ工程中
に評価した:25℃および35℃の棚温。
【0108】
【表4】

【0109】
凍結乾燥したサンプルならびに空気に暴露したサンプルについて生育可能細胞数により測定したL.ラクティスsAGX0037株の生育可能分析の結果(図3)は、澱粉加水分解物(デキストラン500)、ポリオール(例えばマンニトールおよび/またはソルビトール)、およびグルタミン酸ナトリウムの組み合わせ物が、フリーズドライ直後に高い生育可能細胞数(例えば>6E+11 CFU/g)を生じ、そして25℃および35%RHで4および24時間、非保護で暴露した時にフリーズドライしたL.ラクティスバクテリアを安定化したことを示した。高い生育可能細胞の安定性がこの暴露試験の後に観察され、それぞれ4時間の暴露後6E+11 CFU/gより高い、そして24時間の暴露後に5E+11 CFU/gより高い生育可能細胞収量を生じた。
【0110】
【表4a】

【実施例4】
【0111】
デキストリン、グルタミン酸ナトリウムおよびソルビトールの組み合わせ物のフリーズドライ中、および種々の貯蔵条件での長期間貯蔵に対する安定化効果
L.ラクティスsAGX0037株の200リットル規模の工業的発酵後、蓄積したバイオマスを濃縮し、そして精製水で限外濾過/膜分離法によりそれぞれ洗浄した。膜分離は乳酸塩濃度がいったん5g/リットル(55ミリモル/リットル)未満に達したら停止した。限外濾過および膜分離中、容器のジャケットは4℃に水冷した。
【0112】
続いて凍結乾燥工程の観点では、バクテリアの安定化は選択した凍結保護剤溶液をUF/DF工程から得たバイオマスに加えることにより実行した。最終的な凍結保護剤溶液は、表5に記載するように澱粉加水分解物(メイズ澱粉からのデキストリン)、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオール(ソルビトール)からなった。
【0113】
【表5】

【0114】
加える凍結保護剤溶液に必要とされる重量は、約17.0kgの細胞懸濁液および4.8kgの凍結保護剤溶液であり、最終的に細胞懸濁液が配合された約21.8kgの配合物重量を得た。この配合物を手早く適切なバルク凍結乾燥トレイに乗せ、そして確認およびモニター条件下でフリーズドライした。トレイをフリーズドライヤーの棚に乗せ、続いて−50℃に凍結した。全凍結時間は約9時間だった。
【0115】
凍結工程後、チャンバーの圧力を下げ、そして1次乾燥は多段上昇工程(multiple ramp steps)で棚温を−22℃、−10℃、20℃、25℃、そして最後に35℃の棚温に上げることにより開始した。1次乾燥の終わりに、圧の上昇試験を行って、1次乾燥フェイズの終わりを定めた。圧の上昇は起こらず、そしてフリーズドライ工程は2次乾燥フェイズにより続行された。フリーズドライ工程の全時間は、約93時間であった。
【0116】
フリーズドライサイクルの終わりに、チャンバーは乾燥した滅菌濾過窒素ガス(0.22μmの孔サイズ膜で濾過)で加圧した。トレイを降ろし、そして蒸気不浸透アルミニウム(Alu)ホイルパウチで18〜26℃、および30〜70%RHでそれぞれ包んだ。
【0117】
次いでフリーズドライしたケークを約1時間、Class100,000生産室で制御された温度(19〜23℃)および湿度(<20% RH)に平衡化し、続いて凍結乾燥したケークを手動で粉砕することにより粉末とし(PEバッグ中)、続いて篩にかけた(410μm)。篩分け後、粉末を手動で均一化し(PEバック中)、そして分析および安定性試験のためにサンプルは得られた最終フリーズドライバルクの薬物(Drug Substance:DS、L.ラクティスsAGX0037バクテリアおよび凍結保護剤を含有する)から取った。
【0118】
サンプルはPET/Aluバックに500mgづつ包装し、そして−20±5℃、5±3℃、および25±2℃、60±5%RHで貯蔵した。サンプルは12カ月間モニターした。図4に示すように、−20℃および5℃で貯蔵された粉末化フリーズドライバクテリアの生育可能細胞数に有意な減少は観察されず、そして>90%の初期生育可能細胞数が1年間の貯蔵中に保存され、最高>5×10E+11 CFU/gの大変高いCFU濃度が得られた。25℃、60%RHでは、生育可能細胞数にわずかな減少が観察されただけで、25℃/60%RHで1年間貯蔵した後に最高>3×10E+11 CFU/gの高いCFU濃度が得られた。
【0119】
これらのデータは、澱粉加水分解物(例えばメイズ澱粉由来デキストリン)、グルタミン酸ナトリウムおよびポリオール(例えばソルビトール)の凍結保護剤組み合わせ物が、安定なフリーズドライLAB粉末を導き、長期安定性および生育可能バクテリアの生存を確実にすることを明らかに証明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリーズドライした乳酸菌の生存能および安定性を改善するための、澱粉加水分解物およびグルタミン酸塩および/またはポリオールを含んでなる安定化化合物の組み合わせ物。
【請求項2】
−澱粉加水分解物の量が約2.0%〜約10(重量/容量)%の範囲であり;
−グルタミン酸塩の量が約2.0%〜約10(重量/容量)%の範囲であり;そして
−ポリオールの量が約5.0〜約30(重量/容量)%の範囲である、
請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項3】
グルタミン酸塩がグルタミン酸ナトリウムである請求項1または2に記載の安定化化合物の組み合わせ物。
【請求項4】
ポリオールがソルビトールまたはマンニトールである請求項1ないし3のいずれかに記載の安定化化合物の組み合わせ物。
【請求項5】
澱粉加水分解物がデキストランである請求項1ないし4のいずれかに記載の安定化化合物の組み合わせ物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の安定化化合物の組み合わせ物が使用される、乳酸菌のフリーズドライ法。
【請求項7】
さらに請求項1ないし5のいずれかに記載の安定化化合物の組み合わせ物を含んでなる、フリーズドライした乳酸菌。
【請求項8】
上記乳酸菌が、そのバクテリアとは異種の1もしくは複数の組換え核酸をさらに含んでなる請求項7に記載のフリーズドライした乳酸菌。
【請求項9】
薬剤または食品材料として使用するための請求項7または8に記載のフリーズドライした乳酸菌。
【請求項10】
食品への応用または食品加工に使用するための請求項7または8に記載のフリーズドライした乳酸菌。
【請求項11】
食品または動物飼料の生産のための出発培養物組成物の状態、あるいは香気の生産用の培養物の状態である請求項10に記載のフリーズドライした乳酸菌。
【請求項12】
乳酸菌がラクトコッカス(Lactococcus)種、ラクトバチルス(Lactobacillus)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ペディオコッカス(Pediococcus)種、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)種およびロイコノストック(Leuconostoc)種からなる群から選択される、請求項1ないし5のいずれかに記載の安定化化合物の組み合わせ物、あるいは請求項6に記載の乳酸菌のフリーズドライ法、あるいは請求項7ないし10のいずれかに記載のフリーズドライしたバクテリア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−525122(P2012−525122A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507635(P2012−507635)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002604
【国際公開番号】WO2010/124855
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507055501)アクトジェニックス・エヌブイ (11)
【氏名又は名称原語表記】Actogenix NV
【Fターム(参考)】