説明

乳酸菌含有フィルム及び乳酸菌含有フィルムの製造方法

【課題】口腔内で容易に溶解または崩壊すると共に、乳酸菌を安定的に含有する乳酸菌含有フィルム、及び、該乳酸菌含有フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸菌含有フィルム10は、可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層1と、第一層と積層され、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層2とを具備し、フィルム状に形成されている。その製造方法は、可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層用混合液を調製する第一層用混合液調製工程と、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層用混合液を調製する第二層用混合液調製工程と、第一層用混合液及び第二層用混合液の一方をベースフィルム上に流延して乾燥し、その上に他方を流延して乾燥するフィルム積層化工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌が可食性フィルムに含有されている乳酸菌含有フィルム、及び該乳酸菌含有フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
慢性の細菌感染症による口腔内疾患であるウ蝕及び歯周病の罹患率は、わが国において他の疾患に比べて極めて高い。ウ蝕及び歯周病の原因としてプラーク(歯垢)の付着があるが、プラークは正常な口腔内常在菌に口腔内疾患の原因菌が加わった400種以上の細菌の複雑な集合体であり、粘着性が高く歯面に強固に付着する。付着したプラークを除去するには、歯ブラシなどを用いた機械的な除去が効果的ではあるが、歯周ポケットなどが存在すれば細菌は再定着し易く、再びプラークが付着してしまう。また、プラークの付着予防として、殺菌剤を用いて口腔内細菌を殺菌する方法もあるが、プラーク中の細菌は菌体外マトリックスによって覆われているため、殺菌剤がプラークの内部まで浸透せず、殺菌効果には限界がある。
【0003】
本発明者らは、有用細菌の一つである乳酸菌が、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)等のウ蝕の原因菌や、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)等の歯周病の原因菌の増殖を抑制することに着目した。また、乳酸菌が腸管機能を改善する作用や腸内腐敗を抑制する作用は従前より知られており、乳酸菌を含有する錠剤や粉末状の製剤あるいは食品が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
本発明者らは、上記のようにウ蝕や歯周病の予防に資すると共に整腸作用に優れる乳酸菌を、錠剤や粉末状剤より携帯し易く、より容易に服用できる形態について検討した結果、乳酸菌を含有する製剤または食品としては新規な形態であるフィルム状の製剤または食品を開発しようと考えるに至った。
【0005】
一方、本発明者らは、かねてより可食性フィルムを用いた技術に関して研究開発を進めてきており、例えば、口腔内で速やかに溶解または崩壊すると共にハンドリング上問題のない実用的な強度を有する経口投与用のフィルム状製剤について、提案している(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、乳酸菌が口腔内疾患の原因菌の増殖を抑制する効果は、死菌では認められない。そして、従来のフィルム状製剤の製造方法をそのまま適用したのでは、乳酸菌が生菌の状態で安定的に含有されるフィルムを得ることは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、口腔内で容易に溶解または崩壊すると共に、乳酸菌を安定的に含有する乳酸菌含有フィルム、及び、該乳酸菌含有フィルムの製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる乳酸菌含有フィルムは、「可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層と、該第一層と積層され、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層とを具備し、フィルム状に形成されている」ものである。
【0009】
本発明において、「フィルム状」とは、厚さが5μm〜500μmの薄膜状の形態を指している。
【0010】
「可食性の水溶性フィルム形成剤」としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、水溶性ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ペクチン、アラビノキシラン、大豆多糖類、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、プルラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等を例示することができる。また、複数種類のフィルム形成剤を適宜配合して使用することもできる。
【0011】
「香料」は、香り付けを目的として食品や製剤に添加されている周知の香料を指しており、メントール、スペアミント油、レモン油、カミツレ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油などを例示することができる。なお、「香料」は矯味剤を兼ねて用いられることもある。
【0012】
「乳酸菌」の菌種は特に限定されず、ストレプトコッカス・フェカリス、ストレプトコッカス・フェシウム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス、ラクノコッカス・プランタラム等の乳酸球菌、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ファーメンタム等の乳酸桿菌、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス等のビフィズス菌を使用することができ、好ましくは、ストレプトコッカス・フェカリス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ビフィドバクテリウム・ロンガムであり、特に好ましくはストレプトコッカス・フェカリスWB2000株、ラクトバチルス・サリバリウスWB21株、ラクトバチルス・ガッセリWB2001株、ビフィドバクテリウム・ロンガムWB1001株である。上記乳酸菌のうち、ストレプトコッカス・フェカリスWB2000株、ラクトバチルス・サリバリウスWB21株、ラクトバチルス・ガッセリWB2001株、ビフィドバクテリウム・ロンガムWB1001株は、出願人において使用実績が豊富であり、食品、医薬品、医薬部外品として用いた場合に人体に与える悪影響がなく、安全性に優れていることが確認されているため好ましく、そのうちストレプトコッカス・フェカリスWB2000株は更に安全性に優れているため、より好ましい。
【0013】
本発明者らは、香料の存在によって乳酸菌が死滅しやすいことを見出した。しかしながら、仮に香料を含有させないこととすると、口腔内で溶解または崩壊させるフィルムとしては使用しにくく実用的ではない。そこで、本発明では、乳酸菌を含有するが香料を含有しない層と、香料を含有するが乳酸菌を含有しない層とを別個に設け、積層構造のフィルムとした。これにより、乳酸菌の安定性に悪影響を及ぼすことなく、乳酸菌含有フィルムに香料を含有させることができる。
【0014】
従って、上記構成により本発明によれば、フィルム状という乳酸菌を含有する製剤または食品としては新規な形態であって、乳酸菌を安定的に含有すると共に、香料を含有し使用しやすい実用的な乳酸菌含有フィルムを提供することができる。
【0015】
そして、本発明の乳酸菌含有フィルムは水溶性のフィルム形成剤を使用しているため、口腔内において短時間で速やかに、フィルムが部分的に崩壊または溶解し、溶けてゼリー状となり、乳酸菌を含んだ状態で口腔内に粘着する。その結果、乳酸菌を口腔内に留まらせることが可能となる。これにより、乳酸菌がウ蝕や歯周病の原因菌の増殖を抑制する作用により、プラークの付着を抑制して、ウ蝕や歯周病を予防すると共に口臭を予防することができる。
【0016】
本発明にかかる乳酸菌含有フィルムは、上記構成に加え、「前記第一層は、0.3重量%を超える可塑剤を含有しない」ものとすることができる。
【0017】
「可塑剤」としては、グリセリン、クエン酸トリエチル、ソルビトール、トリアセチン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリソルベート、マクロゴール、モノステアリン酸グリセリン、マンニトール等を例示することができる。
【0018】
従来のフィルム状の製剤や食品では、ひび割れや破れを防止しフィルムの柔軟性を高める目的で、可塑剤が添加されている。ところが、可塑剤の存在が乳酸菌の安定性に影響を及ぼすことを、本発明者らは見出した。これは、可塑剤の添加によってフィルムの保水性・吸湿性が高まり、水分の存在によって乳酸菌が死滅しやすくなるためと考えられた。そして、フィルムにひび割れや破れが発生しない限度で、乳酸菌を含有する第一層への可塑剤の添加量をできるだけ抑えることによって乳酸菌の安定性を高めることが可能であり、後述のように、第一層の可塑剤の含有率が0.3重量%を超えない場合に有効であることが分かった。
【0019】
従って、上記構成の本発明によれば、乳酸菌をより安定的に含有する乳酸菌含有フィルムを提供することができる。
【0020】
本発明にかかる乳酸菌含有フィルムは、上記構成に加え、「水分含有率が2%〜4%である」ものとすることができる。ここで、「水分含有率」は、日本薬局方の一般試験法における乾燥減量試験法により測定するものとする。
【0021】
乳酸菌は水分の存在によって死滅しやすく、後述のように、水分含有率を2%〜4%とした場合に、乳酸菌の安定性が大きく上昇するということが分かった。従って、水分含有率を2%〜4%とし、フィルムにひび割れや破れが発生しない限度で、できるだけ水分含有率を低く抑えることにより、乳酸菌の安定性が高い乳酸菌含有フィルムを提供することができる。なお、水分含有率が2%未満の場合はフィルムが脆くなり、フィルムの形成がしにくくなる傾向があるため、水分含有率を3〜4%とすればより好適である。
【0022】
ここで、水分含有率は、例えば第一層及び第二層への可塑剤の添加量によって調整することができる。
【0023】
そして、本発明の乳酸菌含有フィルムは、口腔内の唾液のみで容易に崩壊または溶解するため、水や湯などを用いることを必要としない。これにより、本発明の乳酸菌含有フィルムによれば、水分によって安定性が低下する乳酸菌を、できるだけ生きた状態で口腔内に留まらせることができる。
【0024】
次に、本発明にかかる乳酸菌含有フィルムの製造方法は、「可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層用混合液を調製する第一層用混合液調製工程と、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層用混合液を調製する第二層用混合液調製工程と、前記第一層用混合液及び前記第二層用混合液の一方をベースフィルム上に流延して乾燥し、その上に前記第一層用混合液及び前記第二層用混合液の他方を流延して乾燥するフィルム積層化工程とを」具備するものである。
【0025】
上記の構成により、本発明によれば、乳酸菌を含有するが香料を含有しない第一層と、香料を含有するが乳酸菌を含有しない第二層との積層構造であり、上記の優れた作用効果を奏する乳酸菌含有フィルムを製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の効果として、口腔内で容易に溶解または崩壊すると共に、乳酸菌を安定的に含有する乳酸菌含有フィルム、及び、該乳酸菌含有フィルムの製造に適した製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態の乳酸菌含有フィルムの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の乳酸菌含有フィルムの製造方法を示す工程図である。
【図3】製剤A及び製剤Bの製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の最良の一実施形態である乳酸菌含有フィルム、及び、該乳酸菌含有フィルムの製造方法について、例として図1及び図2を用いて説明する。
【0029】
本実施形態の乳酸菌含有フィルム10は、図1示すように、可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層1と、第一層1と積層され、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層2とを具備し、フィルム状に形成されている。なお、図1ではフィルムの厚さを誇張して図示している。
【0030】
また、本実施形態の乳酸菌含有フィルム10の製造方法は、例えば図2に示すように、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層用混合液を調製する第二層用混合液調製工程S1と、可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層用混合液を調製する第一層用混合液調製工程S1’と、第二層用混合液をベースフィルム上に流延する第一流延工程S2と、流延された第二層用混合液を乾燥しフィルム化する第二層形成工程S3と、形成された第二層の上に第一層用混合液を流延する第二流延工程S4と、流延された第一層用混合液を乾燥してフィルム化する第一層形成工程S5と、乳酸菌含有フィルムをベースフィルムから剥離する剥離工程S6とを具備している。なお、第一流延工程S2、第二層形成工程S3、第二流延工程S4、及び第一層形成工程S5が、本発明の「フィルム積層化工程」に相当する。
【0031】
より詳細に説明すると、第二層用混合液調製工程S1では、可食性の水溶性フィルム形成剤、香料、その他の添加剤を、水又は/及び有機溶媒と混合・攪拌し、粘ちょうな第二層用混合液とする。一方、第一層用混合液調製工程S1’では、可食性の水溶性フィルム形成剤を水溶液とし、乳酸菌を混合して攪拌し、粘ちょうな第一層用混合液とする。これらの工程では、必要に応じて加温処理や脱泡処理を行うことができる。
【0032】
第一流延工程S2では、ガラス板などの平滑な平面にベースフィルム(PP、PET製)を固定し、そのベースフィルム上に、第二層用混合液をコーター機などを用いて均一にコーティングする。一方、第二流延工程S4では、ベースフィルム上に形成された第二層の上に、同じくコーター機などを用いて第一層用混合液を均一にコーティングする。なお、第一層及び第二層の厚さは、それぞれ第一層用混合液及び第二層用混合液の濃度、粘度、コーティング速度に依存するため、所望の厚さとなるように適宜調整を行う。
【0033】
第二層形成工程S3及び第一層形成工程S5では、送風によって、それぞれコーティングされた第二層用混合液及び第一層用混合液から水分を蒸発させ、フィルム化する。乳酸菌は熱にも弱いため、30℃以下の温度で乾燥させることが望ましい。そして、剥離工程S6においてベースフィルムを剥離すれば、第二層に第一層が積層された乳酸菌含有フィルムを得ることができる。
【0034】
次に、本実施形態の乳酸菌含有フィルムを、上記構成とした根拠について、フィルム状の製剤A〜Dについての検討結果を示して説明する。ここで、製剤C及び製剤Dが本実施形態の乳酸菌含有フィルムに相当する。
【0035】
乳酸菌として、乳酸菌粉末ストレプトコッカス・フェカリスWB2000株(わかもと製薬製)を使用し、可食性の水溶性フィルム形成剤としてヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達製)、ヒプロメロース(信越化学工業製)、添加剤として炭酸カルシウム(白石カルシウム製)、日本薬局方濃グリセリン(花王製)、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ製)、ミントフレーバー(高砂香料製)、L−メントール(東洋薄荷製)、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ製)、及びポリソルベート80(日本油脂製)を用い、表1に示す処方でフィルム状の製剤A〜Dをそれぞれ作製した。ここで、製剤A及び製剤Bは単層構造であり、製剤C及び製剤Dは乳酸菌を含有する第一層と乳酸菌を含有しない第二層との積層構造である。また、製剤Aと製剤Bとは、香料(ミントフレーバー、L−メントール)の添加の有無で相違している。更に、製剤Cと製剤Dとは、第二層における可塑剤(グリセリン)の添加の有無で相違している。なお、炭酸カルシウムは賦形剤、ショ糖脂肪酸エステルは乳化剤、スクラロースは甘味料として添加している。また、表中の数値はフィルム全体に対する重量%である。
【0036】
【表1】

【0037】
製剤A及び製剤Bの製造方法は、図2を用いて説明した本実施形態の製造方法とは異なっている。製剤A及び製剤Bは、図3に示すように、それぞれ表1に示した全成分をイオン交換水とエタノールとの混合溶媒に添加し、混合・撹拌して粘ちょうな混合液とする工程P1と、調製された混合液をベースフィルム上に流延する工程P2と、流延された混合液を乾燥してフィルム化する工程P3と、形成されたフィルムをベースフィルムから剥離する工程P4を具備する製造方法により作製した。
【0038】
製剤C及び製剤Dの製造方法は、図2を用いて説明した本実施形態の製造方法であり、表1における(a)の成分をイオン交換水に添加し混合・撹拌後に脱気・脱泡して得た混合液が、それぞれ第一層用混合液であり、表1における(b)の成分をイオン交換水とエタノールとの混合溶媒に添加し混合・撹拌して得た混合液が、それぞれ第二層用混合液である。
【0039】
製剤A〜製剤Dについて、水に対する溶解性、引張強度、質量均一性の評価を行った結果を示す。
【0040】
<水に対する溶解性>
各製剤を10mm×20mmにカットして試験片とした。ビーカーに30℃のイオン交換水200mlを入れて水面の高さを85mmとした。試験片の長辺方向を鉛直方向とし、試験片の上端から10mmまでの部分をピンセットで挟み、試験片を水中に浸漬してビーカー底から55mmの位置に保持した。そして、崩壊しながら溶解する試験片が、ビーカー底に到達するまでの時間(秒)を測定した。試験片の重量のばらつきを補正するため、到達時間を試験片の質量で除し、単位質量あたりの到達時間(秒/mg)を、水に対する溶解性の指標とした。各製剤について三つの試験片について試験を行い、平均値を求めた。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
<引張強度>
各製剤を温度20±1℃,相対湿度65±2%の環境下に24時間放置した後、15mm×150mmの短冊状にカットして試験片とした。その際、フィルム特性の異方性を考慮し、フィルムの配向方向に垂直な試験片(CD)と、平行な試験片(MD)との二種類を作製した。JIS規格K7127:1999「プラスチック−引張特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件」に準拠し、つかみ間隔を100mmとして、一定の引張速度で引張試験を行った。試験には、FUDOHレオメーター(島津製作所製AGS−J)を用いた。各製剤について三つの試験片について試験を行い、平均値を求めた。その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
<質量均一性>
各製剤を20mm×30mmにカットして試験片とした。第十五改正日本薬局方における製剤均一性試験法の「質量偏差試験」に準拠し、各製剤について十枚の試験片について質量を測定し、質量偏差を求めた。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表2に示すように、水に対する溶解性はフィルムの厚さに依存するが、製剤A〜Dの何れの試験片も水中で速やかに崩壊及び溶解し、口腔内においても速やかに崩壊及び溶解すると考えられた。また、表3に示すように、引張強度は、単層構造の製剤A及び製剤Bでは二層構造でフィルムが厚い製剤C及び製剤Dより劣るものの、何れの製剤もハンドリング可能な引張強度を有していた。また、質量均一性については、日本薬局方では判定値が15%を超えない場合に「適合」と判断すると規定されているところ、表4に示すように製剤A〜Dの何れも15%を大きく下回り、「適合」と判定された。
【0047】
上述のように、製剤A〜Dは、何れも口腔内で速やかに溶解または崩壊させる実用的なフィルムとしての要件は満たしていた。次に、乳酸菌の安定性についての検討結果を示す。
<安定性試験>
各製剤を20mm×30mmに切断した試験片を、温度40℃,相対湿度75%の環境下(保存条件1)で2,4週間保存した後、乳酸菌の生菌数を測定し、保存開始時の生菌数に対する百分率(生菌率)を求めた。同様に、温度25℃の環境下(保存条件2)で1,2,6ヵ月保存した後に、乳酸菌の生菌数を測定し生菌率を求めた。
【0048】
ここで、乳酸菌の生菌数は、日本薬局方外医薬品規格においてラクトミン(乳酸菌)の項に記載されている、「ラクトミンの定量法」に準拠して測定した。具体的には、各試験片から試料約5gを精密に量り採り、希釈液によって全量を50mlとしてよく振り混ぜ試料原液とした。更に、希釈液を用いた十倍希釈法によって、1ml中の生菌数が20〜200個となるように試料原液を希釈して試料溶液とした。三枚のペトリ皿にそれぞれ試料溶液を1mlずつ入れ、50℃に保ったラクトミン試験用カンテン培地を20mlずつ加えてすばやく混和し、固化させた。これを、温度37℃で24時間培養し、出現した集落数の平均値と希釈倍率から試料1g中の生菌数を求めた。
【0049】
製剤A〜Dについて、保存条件1における生菌率を表5に、保存条件2における生菌率を表6に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
表5及び表6に示したように、製剤Aでは、乳酸菌を生菌の状態で保存することはできなかった。製剤Aから香料であるL−メントール及びミントフレーバーを除いた処方である製剤Bは、製剤Aより乳酸菌の生菌率が上昇した。このことから、乳酸菌は香料の存在によって死滅しやすいと考えられた。
【0053】
しかしながら、実際には、口腔内で溶解させるフィルムに香料が含まれていないとすると、使用しにくく実用的ではない。そこで、乳酸菌を含有する層と香料を含有する層とを、別個にフィルム化して積層構造とした製剤C及び製剤Dについて検討した。上記の添加成分である炭酸カルシウム、グリセリン、ショ糖脂肪酸エステル、ミントフレーバー、L−メントール、スクラロース、ポリソルベートのうち、ポリソルベート以外の成分をフィルム形成剤によってフィルム化した第二層と、乳酸菌及びポリソルベートをフィルム形成剤によってフィルム化した第一層との積層構造である製剤Cは、保存条件1及び保存条件2における2ヶ月経過までは製剤Bと同程度の安定性を示した。また、保存条件2における6ヵ月経過後では製剤Cの生菌率は約4割であり、同時点で生菌率が3割に満たない製剤Bに比べて長期保存後の安定性が上昇した。すなわち、乳酸菌の安定性に影響を及ぼす香料を乳酸菌を含有する層とは別個の層に含有させたことにより、製剤Cは香料を含有していても、香料を含有しない製剤Bと同等以上に乳酸菌は安定であった。
【0054】
製剤Cの第二層から可塑剤であるグリセリンを除いた処方である製剤Dは、その他の製剤A,B,Cに比べると乳酸菌の生菌率が高く、常温下での保存(保存条件2)では、2ヵ月経過後までほぼ100%の乳酸菌が生存し、6ヵ月経過後にも9割近くの乳酸菌が生存していた。これは、水分の存在によって乳酸菌が死滅しやすく、保水性・吸湿性の高いグリセリンを含有させないことによって、表7に製造直後の水分含有率を示すように、フィルムの水分含有率を2〜4%と低く抑えることができたためと考えられた。そして、第一層及び第二層にグリセリンを添加しないことによってフィルム全体としての水分含有率を低く抑えることにより、乳酸菌の安定性を高めることができると考えられた。
【0055】
【表7】

【0056】
また、上記のように可塑剤は乳酸菌の安定性に影響を及ぼすが、第一層のポリソルベートの添加量が0.3重量%である製剤C,Dについての安定性試験の結果より、可塑剤の添加量がこの値までであれば、高い安定性で乳酸菌を含有する製剤を製造できると考えられた。また、第二層に可塑剤を含有せず、第一層にのみ可塑剤(ポリソルベート)を0.3重量%含有する製剤Dが、製剤Cより乳酸菌の安定性に優れていた結果から、フィルム全体としての可塑剤の含有率を0.3重量%に抑えることにより、より高い安定性で乳酸菌を含有する製剤を製造できると考えられた。
【0057】
製剤Dについて、20mm×30mmに切断した試験片を、ガスバリア性の高いアルミニウムパックで一枚ずつ個別包装して保存したところ、表8に示すように、保存条件2より過酷な保存条件1下においても生菌率が大きく向上し、4週間後にも7割近い乳酸菌が生存していた。
【0058】
【表8】

【0059】
次に、製剤D中の乳酸菌の増殖について検討した結果を示す。
<増殖試験>
製剤Dを20mm×30mmに切断した試験片を、0.7%グルコースを添加したGAM液体培地(日水製薬製)10mlに一枚入れ、37℃で静置培養した。培養開始時及び2,4,6,8時間培養後にそれぞれ0.1mlの培養液を分取し、乳酸菌生菌数を上記の方法で測定した。測定は、三枚の試験片について行った。対照として、製剤化しない乳酸菌粉末ストレプトコッカス・フェカリスWB2000株(わかもと製薬製)について、同様の測定を行った。その結果を表9に示す。
【0060】
【表9】

【0061】
表9から明らかなように、製剤D中の乳酸菌は製剤化されない場合とほぼ同じように増殖していることが示された。従って、製剤Dでは、乳酸菌の増殖性に影響を及ぼすことなく製剤化することができ、その結果として、上記のように長期保存後も高い生菌率を保つことができると考えられた。
【0062】
次に、乳酸菌の種類が異なる場合の本実施形態の乳酸菌含有フィルムとして、製剤E,F,Gを示す。製剤E,F,Gの処方は、表10に示すように、乳酸菌の種類を除けば製剤Dの処方と同一である。乳酸菌としては、製剤Dではストレプトコッカス・フェカリスWB2000株を使用したのに対し、製剤Eではラクトバチルス・サリバリウスWB21株を、製剤Fではラクトバチルス・ガッセリWB2001株を、製剤Gではビフィドバクテリウム・ロンガムWB1001株を使用している(乳酸菌は、何れもわかもと製薬製)。ここで、ラクトバチルス・サリバリウスWB21株は、ストレプトコッカス・フェカリスWB2000株と同様、ウ蝕や歯周病の原因菌の増殖を抑制する作用に優れている。また、ラクトバチルス・ガッセリWB2001株及びビフィドバクテリウム・ロンガムWB1001株は、整腸作用に優れている。
【0063】
【表10】

【0064】
上記のように乳酸菌の種類が異なっても、製剤Dと同様の乳酸菌含有フィルムを製造することができた。加えて、ウ蝕や歯周病の予防効果に優れる乳酸菌を含有する乳酸菌含有フィルムも、整腸作用に優れる乳酸菌を含有する乳酸菌含有フィルムも、同様の方法で製造できることが確認された。
【0065】
以上のように本実施形態の乳酸菌含有フィルム(製剤C,D〜G)、及びその製造方法によれば、乳酸菌を含有する製剤としては新規な剤形の製剤であって、口腔内で容易に崩壊または溶解すると共に、乳酸菌を安定的に含有する乳酸菌含有フィルムを提供することができる。
【0066】
また、乳酸菌を含有する第一層とは別の第二層にL−メントール及びミントフレーバーを含有させた積層構造の実施形態では、乳酸菌の安定性に影響を及ぼすことなくこれらの香料を含有させることができた。従って、清涼感を感じさせるこれらの香料によって、口腔内で溶解させて使用し易く、口腔内衛生用の乳酸菌含有フィルムとして適している。
【0067】
更に、上記のような積層構造とすることにより、高い生菌率で乳酸菌を可食性フィルムに含有させることができた。具体的には、製剤Dの常温下での保存では、6ヵ月後の生菌率は約9割という高率であった。また、アルミニウムパックで個別包装することにより、温度40℃,相対湿度75%という厳しい条件下でも、4週間後の生菌率を約7割まで高めることが可能であった。
【0068】
これは、可塑剤の添加量の調整により、水分含有率が2〜4%と、フィルムにひび割れや破れが発生しない限度でできるだけ水分含有率が低く抑えられていることにより、水分により死滅しやすい乳酸菌を安定的に可食性フィルムに含有させることができたものと考えられる。
【0069】
そして、製剤C,D〜Gには、25重量%という高い含有率で、安定的に乳酸菌を含有させることができた。従って、口腔内で容易に溶解または崩壊して口腔内に粘着する乳酸菌含有フィルムが、乳酸菌を生菌の状態で高含有率で含有していることにより、乳酸菌の作用でウ蝕や歯周病の原因の増殖を効果的に抑制することができ、これらの口腔内疾患を予防すると共に口臭を防止することができると期待される。
【0070】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0071】
例えば、上記の実施形態では、第二層を先に形成し、その上に第一層を積層する場合を例示したが、これに限定されず、第一層を先に形成し、その上に第二層を積層することもできる。
【0072】
また、上記の実施例では製剤について例示したが、本発明の乳酸菌含有フィルムは医薬製剤として用いられるものに限定されず、医薬部外品や食品として用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 第一層
2 第二層
10 乳酸菌含有フィルム
S1 第二層用混合液調製工程
S1’ 第一層用混合液調製工程
S2 第一流延工程(フィルム積層化工程)
S3 第二層形成工程(フィルム積層化工程)
S4 第二流延工程(フィルム積層化工程)
S5 第一層形成工程(フィルム積層化工程)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】
【特許文献1】特許第4023791号公報
【特許文献2】特開2008−169138号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層と、
該第一層と積層され、可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層とを具備し、
フィルム状に形成されていることを特徴とする乳酸菌含有フィルム。
【請求項2】
前記第一層は、0.3重量%を超える可塑剤を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の乳酸菌含有フィルム。
【請求項3】
水分含有率が2%〜4%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乳酸菌含有フィルム。
【請求項4】
可食性の水溶性フィルム形成剤及び乳酸菌を含有し、香料を含有しない第一層用混合液を調製する第一層用混合液調製工程と、
可食性の水溶性フィルム形成剤及び香料を含有し、乳酸菌を含有しない第二層用混合液を調製する第二層用混合液調製工程と、
前記第一層用混合液及び前記第二層用混合液の一方をベースフィルム上に流延して乾燥し、その上に前記第一層用混合液及び前記第二層用混合液の他方を流延して乾燥するフィルム積層化工程と
を具備することを特徴とする乳酸菌含有フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−132653(P2010−132653A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255385(P2009−255385)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(591091043)株式会社ツキオカ (38)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】