説明

乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法、及び加熱処理における乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制する方法

【課題】乳酸菌の免疫賦活活性を低下あるいは失活させることなく100℃を超える高温で乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法を、提供すること。
【解決手段】乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、乳酸菌含有飲食品に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、を含む、免疫賦活活性の低下を抑制して、乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制して乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法、及び、加熱処理の際に生じる乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌には様々な特性を有するものが数多く知られ、健康の維持や疾患の予防、治療に有効であることから飲食品、医薬品等に広く利用されている。
例えば、乳酸菌には感染症に対する予防、治療作用が知られており、この作用は乳酸菌による宿主の細胞性免疫の賦活化や、腸管や呼吸器等の粘膜からのIgAの分泌の亢進に基づくことが知られている(非特許文献1)。
また、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)に属する乳酸菌は、宿主の免疫担当細胞からのインターロイキン−12(IL−12)やインターフェロン−γ(IFN−γ)等のサイトカイン産生を誘導することで、宿主の細胞性免疫を不活化し、インフルエンザ・ウイルス等の感染を防御することが知られている(非特許文献2〜4)。
【0003】
IL−12やIFN−γは、ナイーブ・ヘルパーT細胞をタイプ1ヘルパーT細胞(Th1)へ分化誘導する作用や、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化、マクロファージ等の細胞の貪食作用を亢進する作用を持つサイトカインで、ウイルスや細菌による感染防御作用や宿主の抗腫瘍効果に関わっている。従って、感染症等の疾患に対する効果的な予防、治療方法として強いIL−12産生誘導能を有する乳酸菌を利用することが有効であると考えられる。
【0004】
一般に乳酸菌は、食品や医薬品に利用するときは乳酸菌死菌体を用いることがある。乳酸菌は通常、100℃以下で加熱処理されて乳酸菌死菌体が製造される。
これは、IL−12産生促進活性や抗アレルギー活性といった乳酸菌の免疫賦活活性は、高温加熱すると活性が損なわれることが知られているためである。
【0005】
例えば、特許文献1には、乳酸菌死菌体の調製方法として、ラクトバチルス・デルブルッキイ・サブスピーシーズ・ラクチスSBT2083株死菌体を、90℃、30分程度の条件で加熱する方法が開示されている(特許文献1)。
また、例えば、特許文献2には、別の乳酸菌死菌体の調製方法として、ラクトバチルス属の乳酸菌を死滅させる加熱温度として、約65〜100℃が開示されている(特許文献2)。
また、例えば、特許文献3には、別の乳酸菌死菌体の調製方法として、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株若しくはその変異株を60℃以上100℃未満で10分以上60分未満の条件で加熱処理する方法が開示されている(特許文献3)。
【0006】
一方で、飲食品は、安全性の確保や食品衛生法等の法令遵守の観点から、100℃以上の高温で加熱殺菌されることが通常である。このような条件で行われる殺菌としては、牛乳や乳飲料等の殺菌やレトルト食品等の殺菌などがある。
【0007】
例えば、日本国では、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)に基づいて「食品、添加物等の規格基準」が規定されており、このなかでいわゆるレトルト食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)の製造基準として、加圧加熱殺菌について、「そのpHが4.6を超え,かつ,水分活性が0.94を超える容器包装詰加圧加熱殺菌食品にあつては,中心部の温度を120℃で4分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法であること。」と要求している。
このように、飲食品においては、安全性の確保や食品衛生法等の法令遵守の観点から、100℃を超える高温での加圧加熱殺菌、特に120℃以上での加圧加熱殺菌が、重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−132579号公報
【特許文献2】特開2010−95465号公報
【特許文献3】特開2008−245569号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Curr. Issues Mol. Biol.、第10巻、2008年、p.37−54
【非特許文献2】Clin. Diagn. Lab. Immunol.、第9巻、2002年、p.105−108
【非特許文献3】Clin. Exp. Immunol.、第146巻、2006年、p.109−115
【非特許文献4】Clin. Exp. Immunol.、 第143巻、2005年、p.103−109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、飲食品においては、100℃を超える高温での加熱殺菌、特に120℃以上での加熱殺菌が、重要である。
一方で、乳酸菌による免疫賦活活性は高温で加熱すると失われるために、通常は100℃以下の加熱処理によって乳酸菌死菌体が製造されている。
しかし、この乳酸死菌体を、飲食品に含有させて、高温で加熱殺菌すると、免疫賦活活性は、低下しあるいは失活してしまう。
そのために、免疫賦活作用を有する乳酸菌を配合した飲食品の加熱殺菌工程では、高温加熱によって十分な加熱殺菌を行うと同時に、乳酸菌免疫賦活活性の失活や低下を抑制することが求められていた。
したがって、本発明の目的は、乳酸菌の免疫賦活活性を低下あるいは失活させることなく、100℃を超える高温で乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、乳酸菌の免疫賦活活性を低下あるいは失活させることなく、100℃を超える高温で加圧加熱殺菌する方法を、探求してきたところ、低いpH条件(酸性条件)とした場合には、100℃を超える高温での加圧加熱殺菌、さらに120℃以上での高温による加圧加熱殺菌を行っても、乳酸菌の免疫賦活活性が、十分に維持されることを独自に見いだした。
この発見は有用であるが、しかし、加圧加熱殺菌の対象となる飲食品では、多くの場合にそのpHは中性付近であり、酸性条件ではない。
上記と同じ条件において、中性付近のpH(pH6.8以上)の乳酸菌溶液(乳酸菌分散液)を、加熱温度118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理をすると、乳酸菌の免疫賦活活性が大きく損なわれてしまった。
【0012】
そこで、本発明者らは、独自に見いだしたこの課題を解決するために、さらに、中性付近のpHにおいても、乳酸菌の免疫賦活活性を低下あるいは失活させることなく、100℃を超える高温で加圧加熱殺菌する方法を、鋭意研究してきた。
その結果、本発明者らは、中性付近のpH(pH6.8以上)の乳酸菌溶液(乳酸菌分散液)を、加熱温度118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱殺菌処理をするにあたって、濃度が0.1質量%以上となるように塩化物を添加することによって、加圧加熱殺菌を行っても、乳酸菌の免疫賦活活性が、十分に維持されることを見いだして、本発明に到達した。
本発明において、乳酸菌溶液を乳酸菌分散液ということがある。乳酸菌分散液は、好適な実施の態様において、乳酸菌含有飲食品とすることができる。
【0013】
したがって、本発明は、以下のA)及びB)の条件で加熱処理して生じる乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制する方法であって、
1)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるように塩化物が添加されることを含む方法にある:
A)加熱処理する乳酸菌溶液のpHが6.8以上であること、
B)加熱処理が118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理であること。
本発明は、さらに、2a)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるようにL−アスコルビン酸が添加されること、が好ましい。
本発明は、さらに、2b)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるようにL−システインが添加されること、が好ましい。
本発明は、塩化物が塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群より選択されることが好ましい。
本発明は、免疫賦活活性の低下を抑制する方法が、乳酸菌の免疫賦活活性の残存率16%以上とする方法であることが好ましい。
本発明は、免疫賦活活性がIL−12産生促進活性であることが好ましい。
本発明は、乳酸菌がラクトバチルス・パラカゼイ MCC1375株(FERM BP−11313)、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株、およびラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、以下のA)及びC)の条件で加熱処理して生じる乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制する方法であって、
1)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるように塩化物が添加されることを含む方法にある:
A)加熱処理する乳酸菌溶液のpHが6.8以上であること、
C)加熱処理が118〜160℃でF値14.7〜129に相当する加熱処理であること。
【0015】
さらに、本発明は、次の(1)〜(9)にもある。
(1)
次のA)及びB)の条件で行われる加熱処理による殺菌によって生じる乳酸菌含有飲食品の免疫賦活活性の低下を抑制する方法:
A)加熱処理する乳酸菌含有飲食品のpHが6.8以上である、
B)加熱処理が118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理である、
であって、
加熱処理する乳酸菌含有飲食品に、塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む方法。
(2)
pHが6.8以上で118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理がなされる乳酸菌含有飲食品に、塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、加熱殺菌によって生じる、乳酸菌含有飲食品の免疫賦活活性の低下を抑制する方法。
(3)
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
乳酸菌含有飲食品に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、
を含む、免疫賦活活性の低下を抑制して、乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法。
(4)
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
調製した乳酸菌含有飲食品に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、
を含む、加熱殺菌済免疫賦活活性乳酸菌含有飲食品を製造する方法。
(5)
次のA)及びB)の条件で行われる加熱処理によって生じる乳酸菌分散液の免疫賦活活性の低下を抑制する方法:
A)加熱処理する乳酸菌分散液のpHが6.8以上である、
B)加熱処理が118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理である、
であって、
加熱処理する乳酸菌分散液に、塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む方法。
(6)
pHが6.8以上で118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理がなされる乳酸菌分散液に、塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、加熱殺菌によって生じる、乳酸菌分散液の免疫賦活活性の低下を抑制する方法。
(7)
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌分散液を調製する工程、
乳酸菌分散液に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、
を含む、免疫賦活活性の低下を抑制して、乳酸菌分散液を加熱殺菌する方法。
(8)
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌分散液を調製する工程、
調製した乳酸菌分散液に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、
を含む、加熱殺菌済免疫賦活活性乳酸菌分散液を製造する方法。
(9)
乳酸菌分散液が、乳酸菌含有飲食品である、(5)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【0016】
さらに本発明は次の(10)〜(13)にもある。
(10)
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程の前、後、又は同時に行われる工程として、
加熱処理する乳酸菌含有飲食品に、L−アスコルビン酸及び/又はその塩を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、(1)又は(2)に記載の方法。
(11)
乳酸菌含有飲食品を調製する工程が、
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上であり、L−アスコルビン酸及び/又はその塩の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
である、(3)又は(4)に記載の方法。
(12)
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程の前、後、又は同時に行われる工程として、
加熱処理する乳酸菌含有飲食品に、L−システイン及び/又はその塩を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、(1)、(2)、(10)のいずれかに記載の方法。
(13)
乳酸菌含有飲食品を調製する工程が、
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上であり、L−システイン及び/又はその塩の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
である、(3)〜(4)、(11)のいずれかに記載の方法。
【0017】
さらに本発明は次の(14)〜(17)にもある。
(14)
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程の前、後、又は同時に行われる工程として、
加熱処理する乳酸菌分散液に、L−アスコルビン酸及び/又はその塩を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、(5)又は(6)に記載の方法。
(15)
乳酸菌分散液を調製する工程が、
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上であり、L−アスコルビン酸及び/又はその塩の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌分散液を調製する工程、
である、(7)又は(8)に記載の方法。
(16)
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程の前、後、又は同時に行われる工程として、
加熱処理する乳酸菌分散液に、L−システイン及び/又はその塩を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、(5)、(6)、(14)のいずれかに記載の方法。
(17)
乳酸菌分散液を調製する工程が、
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上であり、L−システイン及び/又はその塩の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌分散液を調製する工程、
である、(7)、(8)、(15)のいずれかに記載の方法。
【0018】
さらに本発明は次の(18)〜(21)にもある。
(18)
塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムからなる群から選択された1以上の塩化物である、(1)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)
pHが6.8以上7.2以下である、(1)〜(18)のいずれかに記載の方法。
(20)
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程が、
塩化物を0.1質量%以上4.0質量%以下の濃度となるように添加する工程である、(1)〜(2)、(5)〜(6)、(9)、(10)、(12)、(14)、(16)、(18)〜(19)のいずれかに記載の方法。
(21)
塩化物の濃度が0.1質量%以上4.0質量%以下である、(3)〜(4)、(7)〜(9)、(11)、(13)、(15)、(17)、(18)〜(19)のいずれかに記載の方法。
【0019】
好ましい実施の態様において、L−アスコルビン酸及び/又はその塩は、濃度を0.1質量%以上4.0質量%以下とすることができ、この濃度となるように添加することができる。
好ましい実施の態様において、L−システイン及び/又はその塩、濃度を0.1質量%以上4.0質量%以下とすることができ、この濃度となるように添加することができる。
好ましい実施の態様において、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理は、118〜160℃でF値14.7〜129の加熱処理とすることができる。
好ましい実施の態様において、免疫賦活活性の低下の抑制は、乳酸菌の免疫賦活活性の残存率を16%以上とするものである。
好ましい実施の態様において、免疫賦活活性はIL−12産生促進活性である。
好ましい実施の態様において、免疫賦活活性の低下が抑制される乳酸菌は、ラクトバチルス・パラカゼイ MCC1375株(FERM BP−11313)、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株、およびラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株からなる群から選択される1以上とすることができる。
【0020】
上記使用される乳酸菌は、生菌であっても死菌体であってもよい。好ましい実施の態様において、あらかじめ調製した死菌体を使用することができる。また、上述の方法において生菌を使用することもできるので、本発明は、加熱処理によって、免疫賦活活性の低下を抑制しつつ、乳酸菌の生菌から、乳酸菌の死菌体を製造する方法にもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来は不可能であった、中性付近のpH条件、100℃を超える加熱処理による殺菌条件において、乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制することができる。
そこで、本発明によれば、中性付近のpH条件で100℃を超える加熱処理による殺菌条件において加熱殺菌された加熱殺菌済免疫賦活活性乳酸菌含有飲食品を、得ることができる。従来の技術によれば、添加する乳酸菌の免疫賦活活性が低下又は失活してしまうために、このような飲食品は製造することができなかった。
本発明は、乳酸菌の免疫賦活活性を保護するため添加物として、飲食品によく使用される塩化物、好ましくは塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを使用できることから、従来の製造工程や手順を大きく変更することなく、きわめて容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は加熱温度と加熱後の乳酸菌のIL−12産生量との関係を示す。
【図2】図2は、塩化物を添加してラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株を加熱処理したときの免疫賦活活性の残存率を示す。
【図3】図3は、塩化物を添加してラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株を加熱処理したときの免疫賦活活性の残存率を示す。
【図4】図4は、塩化物を添加してラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株を加熱処理したときの免疫賦活活性の残存率を示す。
【図5】図5は、塩化物及びL−アスコルビン酸、又は塩化物及びL−システインを添加してラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株を加熱処理したときの免疫賦活活性の残存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
[加熱処理]
本発明の加熱処理条件は、飲食品、医薬品、飼料等の製造工程において、品質確保するために行われる殺菌工程での加圧加熱処理を想定したものである。
本発明の好適な実施の態様において、乳酸菌の加熱条件は、A)加熱処理する乳酸菌溶液のpHが6.8以上であること、及び、B)加熱処理が118〜160℃で60分間〜1秒間に相当する加熱処理がされること、を満たすものでもある。
本発明は、本来、乳酸菌の免疫賦活活性の低下や不活化を生じるような加圧加熱処理において、乳酸菌の免疫賦活活性の低下を抑制することができる。
本発明において、乳酸菌溶液を乳酸菌分散液ということがある。乳酸菌分散液は、好適な実施の態様において、乳酸菌含有飲食品とすることができる。したがって、以下の乳酸菌溶液についての記載は、乳酸菌分散液及び乳酸菌含有飲食品についても、記載したものである。
【0024】
乳酸菌としては、免疫賦活活性を備えたものであれば、生菌及び死菌体のいずれを使用することもできる。
乳酸菌の生菌を使用した場合には、本発明の加熱条件で、殺菌されて乳酸菌死菌体となるが、この乳酸菌死菌体は免疫賦活活性を維持したものとなる。
本発明において、乳酸菌の免疫賦活活性の低下の抑制には、乳酸菌の免疫賦活活性の維持、乳酸菌の免疫賦活活性の保護が含まれる。
【0025】
本発明の加熱処理は、例えば、加熱温度を121℃としたときは、加熱時間が5〜60分間であることが好ましく、10〜30分間であることがより好ましく、10〜20分間であることがさらに好ましい。
同様に、加熱温度を130℃としたときは、10秒間〜20分間であることが好ましく、30秒間〜15分間であることが好ましい。
さらに、加熱温度を140℃としたときは、5秒間〜15分間であることが好ましく、10秒間〜10分間であることが好ましい。
さらに、加熱温度を151℃としたときは、1〜30秒間であることが好ましく、1〜10秒間であることがより好ましく、1〜5秒間であることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度を160℃としたときは、1〜10秒間であることが好ましく、1〜5秒間であることがより好ましく、1〜3秒間であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の加熱処理は、100℃を超える高温とすることができ、好ましくは、118℃以上、さらに好ましくは120℃以上、さらに好ましくは121℃以上、とすることができる。高温による加熱は、低温による加熱と比較して、より短時間の加熱によって同様の殺菌効果を得ることができるために、飲食品の風味を維持するという点から好ましい。本発明の加熱処理は、温度の上限は、乳酸菌の免疫賦活活性の低下の抑制される限りは、特に制限はないが、例えば、一般に180℃以下、あるいは170℃以下、あるいは160℃以下、あるいは150℃以下、あるいは140℃以下とすることができる。
本発明の加熱処理は、上述の温度とするために必要な加圧条件で、好適に実施することができる。このような加圧条件の圧力は、例えば、その温度における水の蒸気圧に相当する圧力である。このような加圧条件は、水の入った圧力釜などの圧力容器の中で加熱することで、容易に実現することができる。
【0027】
[F値]
F値とは、一定温度で一定数の細菌を死滅させるのに要する加熱時間を意味するものであって、加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)の加圧加熱処理の強度の指標として使用される。
従って、本発明の加熱処理の条件は、加熱温度と加熱時間の組合せに代えて、加熱温度とF値の組合せで表すことができる。
本発明のF値とは、ボツリヌス菌(クロストリジウム・ボツリナム Clostridium botulinum)のZ値=10を使用して下記式で算出される値である。
F値=t×10(T-120.1)/Z=t×10(T-120.1)/10
(但し、T:殺菌温度、t:殺菌時間)
【0028】
本発明の好適な実施の態様において、加熱処理条件は、A)加熱処理する乳酸菌溶液のpHが6.8以上であること、かつ、B)加熱処理が118〜160℃で60分間〜1秒間加熱処理されること、を満たすものである。
本発明の加熱温度と時間をF値に換算すると、120℃、60分間ではF値46.6であり、121℃、15分間ではF値14.7であり、155℃、2秒間ではF値81.8であり、160℃、1秒間ではF値129である。
従って、本発明の加熱処理条件は、A)加熱処理する乳酸菌溶液のpHが6.8以上であること、C)加熱処理が118〜160℃でF値14.7〜129に相当する加熱処理がされること、と表すことができる。
本発明の加熱条件は、加熱処理が120〜160℃でF値14.7〜81.8に相当する加熱処理がさらに好ましい。
なお、加熱処理条件についてF値を基準としてみると、155℃、2秒間の加熱処理は、130℃、約11分間の加熱処理に相当し、121℃、15分間の加熱処理は、130℃、約2分間の加熱処理に相当する。
【0029】
[乳酸菌]
本発明に使用される乳酸菌は、免疫賦活活性を有する乳酸菌を使用することができる。 免疫賦活活性を有する乳酸菌であれば生菌、死菌に関わらず、特に制限なく使用することができる。
免疫賦活活性を有する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス属菌(Lactobacillus)、ラクトコッカス属菌(Lactococcus)、ストレプトコッカス属菌(Streptococcus)、ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium)等であって免疫賦活活性を有する乳酸菌株が挙げられる。
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)MCC1375株(FERM BP−11313)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)ATCC14917T株、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)ATCC53103を使用することが好ましい。
【0030】
本発明に使用される乳酸菌として生菌を使用する場合には、例えば、その乳酸菌に適した培地で培養した後の培地そのもの、培養後の培地から遠心分離等で集菌した乳酸菌や、集菌した乳酸菌を凍結乾燥した凍結乾燥菌体等を、使用することができる。
本発明で用いる乳酸菌の培養に用いる培地は、当該乳酸菌が生育可能な培地であればよく、天然培地や合成培地、半合成培地などを用いて培養することができる。本発明に用いられる培地としては、MRS培地を挙げることができる。
乳酸菌の培養温度は20℃〜50℃、培養時間は1時間から96時間とすることができるが、乳酸菌の種類により適宜変更することができる。
【0031】
本発明に使用される乳酸菌として死菌体を使用する場合には、その死菌体の製造方法は、乳酸菌の免疫賦活活性を失活しない処理方法であれば特に制限はなく、例えば、乳酸菌の生菌を60℃〜100℃、30分間〜1分間で加熱処理する方法、紫外線照射、化学的処理等により免疫賦活活性を有したまま死滅させる方法等を、使用することができる。もちろん、このような死菌体の製造に使用されている従来の加熱条件は、本発明における加熱条件と比較してごく低温であるので、加圧加熱殺菌食品の製造には、不十分な加熱条件である。
【0032】
[免疫賦活活性]
免疫賦活活性は、具体的には抗アレルギー活性、抗ウイルス活性、インターロイキン産生促進活性等が含まれる。好適な実施の態様において、免疫賦活活性は、例えば、乳酸菌のIL−12産生量を測定することにより、その状態を決定することができる。すなわち、免疫賦活活性の失活又は低下の抑制は、例えば、乳酸菌のIL−12産生量を測定することにより、知ることができる。
【0033】
[IL−12産生量]
本発明では、乳酸菌のIL−12産生量は、公知の方法によって測定することができ、例えば、ELISA法(酵素免疫法)によって測定することができる。
【0034】
[乳酸菌溶液(乳酸菌分散液)]
本発明の方法における乳酸菌溶液とは、乳酸菌を含む溶液であり、乳酸菌が分散された分散液(乳酸菌分散液)ともいう。このような乳酸菌溶液(乳酸菌分散液)としては、乳酸菌を含む医薬、飲食品、又は飼料を製造する上で必要な加熱殺菌工程に供される乳酸菌を含む医薬原料溶液、乳酸菌を含む飲食品原料溶液、又は乳酸菌を含む飼料原料溶液を例示することができる。
【0035】
本発明の方法には、免疫賦活活性を有する乳酸菌を医薬や飲食品や飼料の原料に添加して、それぞれ乳酸菌を含有する医薬や飲食品や飼料を製造した場合であって、加熱処理による免疫賦活活性の低下が効果的に抑制された乳酸菌を含有する医薬や飲食品や飼料を製造するための方法も含まれる。
【0036】
そして、本発明における乳酸菌溶液(乳酸菌分散液)は、当該溶液のpHが6.8以上の場合において、加熱処理による免疫賦活活性の低下が効果的に抑制されるものである。
換言すれば、製造工程中、pHが6.8以上の環境で加熱殺菌処理工程が実施される医薬や飲食品や飼料において、当該医薬、飲食品又は飼料の原料に乳酸菌を添加した乳酸菌を含む医薬原料溶液、飲食品原料溶液、又は飼料原料溶液を、本発明の方法を参酌して製造することによって、乳酸菌に基づく免疫賦活活性が十分に享受された医薬や飲食品や飼料が提供される。
【0037】
なお、pHが6.8以上の乳酸菌溶液とは、乳酸菌を含むpHが6.8以上の医薬原料溶液、乳酸菌を含むpHが6.8以上の飲食品原料溶液、又は乳酸菌を含むpHが6.8以上の飼料原料溶液を例示することができる。
なかでも、乳酸菌を含むpHが6.8以上の飲食品原料溶液としては、当該飲食品として、pHが6.8以上の清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、アイスクリームやアイスシャーベット、かき氷等の冷菓、加工乳等の乳製品、ソース、たれ等の調味料、スープ等をそれぞれ例示することができる。
【0038】
乳酸菌分散液(乳酸菌溶液)は、医薬原料溶液、飲食品原料溶液、又は飼料原料溶液であってもよいが、液体又は流動体の飲食品に、乳酸菌が分散されたものであってもよい。すなわち、好適な実施の態様において、乳酸菌分散液は、乳酸菌含有飲食品とすることができる。したがって、本発明は、加圧加熱処理による殺菌によって生じる乳酸菌分散液の免疫賦活活性の低下を抑制する方法にもある。また、本発明は、加圧加熱殺菌によって生じる、乳酸菌含有飲食品組成物の免疫賦活活性の低下を抑制する方法にもある。また、本発明は、免疫賦活活性の低下を抑制して、乳酸菌含有飲食品組成物を加圧加熱殺菌する方法にもある。また、本発明は、加圧加熱殺菌済免疫賦活活性乳酸菌含有飲食品を製造する方法にもある。
【0039】
[塩化物]
本発明の好ましい実施の態様において、加熱処理する乳酸菌溶液に塩化物を濃度が0.1質量%以上となるように添加することができる。
本発明で使用される塩化物としては、溶液(分散液)のなかに塩化物イオンを生じさせるものを使用することができる。このような塩化物として、例えば、アルカリ金属塩化物、及びアルカリ土類金属塩化物等を例示することができる。アルカリ金属塩化物としては、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウムを使用することができる。アルカリ土類金属塩化物としては、好ましくは、塩化マグネシウム、塩化カルシウムを使用することができる。好適な実施の態様において、塩化物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムからなる群から選択された1以上の塩化物を、使用することができる。好適な実施の態様において、塩化物は、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを使用することができる。
塩化物は、乳酸菌溶液に固体のまま添加してもよく、水に溶解して塩化物水溶液を調製してから添加してもよい。
乳酸菌溶液中の塩化物の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上とすることができる。
乳酸菌溶液中の塩化物の濃度は、例えば、10質量%以下、あるいは7.0質量%以下、あるいは5.0質量%以下、あるいは4.0質量%以下、あるいは3.0質量%以下とすることができる。
【0040】
[L−アスコルビン酸]
本発明の好ましい実施の態様において、1)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるように塩化物を添加する工程、に加えて、2)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるようにL−アスコルビン酸を添加する工程、を含むものとすることができる。
溶液中のL−アスコルビン酸濃度を0.1質量%以上に調整することにより、高温加熱の際、塩化物との相乗効果により、乳酸菌の免疫賦活活性の低下を一層抑制することができる。
乳酸菌溶液中のL−アスコルビン酸の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上とすることができる。
乳酸菌溶液中のL−アスコルビン酸の濃度は、例えば、10質量%以下、あるいは7.0質量%以下、あるいは5.0質量%以下、あるいは4.0質量%以下、あるいは3.0質量%以下とすることができる。
L−アスコルビン酸としては、L−アスコルビン酸結晶やL−アスコルビン酸ナトリウムなどの塩を使用することができる。
L−アスコルビン酸は、粉末で添加してもよく、水に溶解して水溶液で添加してもよい。
また、L−アスコルビン酸等の添加は、前記1)塩化物を添加する工程の前であってもよく、前記1)塩化物を添加する工程の後であってもよい。
【0041】
[L−システイン]
本発明の好ましい実施の態様において、1)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるように塩化物を添加する工程、に加えて、3)加熱処理する乳酸菌溶液に、濃度が0.1質量%以上となるようにL−システインを添加する工程、を含むものとすることができる。
乳酸菌溶液中のL−システイン濃度を0.1質量%以上に調整することにより、高温加熱処理の際、塩化物との相乗効果により、乳酸菌の免疫賦活活性の低下を一層抑制することができる。
乳酸菌溶液中のL−システインの濃度は、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上とすることができる。
乳酸菌溶液中のL−システインの濃度は、例えば、10質量%以下、あるいは7.0質量%以下、あるいは5.0質量%以下、あるいは4.0質量%以下、あるいは3.0質量%以下とすることができる。
L−システインとしては、L−システイン粉末やL−システイン水和物、あるいはL−システインの塩を使用することができる。
L−システインは、粉末で添加してもよく、水に溶解して水溶液で添加してもよい。
また、L−システインの添加は、前記1)塩化物を添加する工程の前であってもよく、前記1)塩化物を添加する工程の後であってもよい。
【0042】
本発明の好ましい実施の態様において、L−アスコルビン酸及び/又はその塩と、L−システイン及び/又はその塩を、同時に添加して、使用することもできる。L−アスコルビン酸及び/又はその塩を添加する工程と、L−システイン及び/又はその塩の添加する工程とは、いずれを先に行ってもよく、それぞれ、塩化物を添加する工程の前であってもよく、後であってもよい。
【0043】
[免疫賦活活性の低下抑制]
本発明において、乳酸菌の免疫賦活活性の低下の抑制は、乳酸菌の免疫賦活活性の残存率で表すことができる。
本発明において、乳酸菌の免疫賦活活性の低下の抑制は、乳酸菌の免疫賦活活性の残存率が16%以上であるものが好ましい。
さらには、乳酸菌の免疫賦活活性の低下の抑制は、乳酸菌の免疫賦活活性の残存率が18%以上であるものがより好ましく、20%以上であることがより好ましく、24%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
乳酸菌の免疫賦活活性の残存率とは、「従来通りに100℃の温度で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量」(100℃で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量)と、「塩化物を添加することなく100℃より高い温度で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量」(100℃より高い温度で加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量)と、「本発明にしたがって塩化物を添加して100℃より高い温度で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量」(本発明によって100℃より高い温度で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量)とを、測定して、以下の式によって求めて百分率で表したものである。
【0045】
<乳酸菌の免疫賦活活性の残存率(%)> = [<本発明によって100℃より高い温度で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量(pg/ml)> − <100℃より高い温度で加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量(pg/ml)>] / [<100℃で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量(pg/ml)> − <100℃より高い温度で加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量(pg/ml)>] ×100(%)
【0046】
このように、本発明によって加熱処理した乳酸菌の免疫賦活活性の残存率とは、本発明にしたがうことなく100℃より高い温度で加熱処理したために失われたIL−12産生量を分母として、本発明にしたがって100℃より高い温度で加熱処理したために維持された(失われなかった)IL−12産生量を分子として、得られた値を、百分率で示した数値である。したがって、本発明において、乳酸菌の免疫賦活活性の残存率とは、上記式によって求められる、IL−12産生促進活性の残存率である。
なお、以下の実施例では、実施例として、本発明にしたがって塩化物を添加する等を行って、100℃より高い温度で加熱処理した(加圧加熱処理した)試料を示し、コントロールとして、本発明にしたがうことなく、塩化物を添加する等を行うことなく、100℃より高い温度で加熱処理した(加圧加熱処理した)試料を示す。
【実施例】
【0047】
[試験例1]
本試験では、加熱処理における乳酸菌の免疫賦活活性の低下と加熱温度との関係について検討した。
免疫賦活活性を有する乳酸菌として、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株を使用した。
【0048】
[方法]
ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株をMRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco製)で24時間培養した後、PBS(phosphate buffered saline)で2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に蒸留水で懸濁し、凍結乾燥したものを試料とした。
乳酸菌を溶解する溶媒として、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)を使用した。
初めにラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥試料を乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように10mMリン酸緩衝液に溶解して乳酸菌溶液を調製した。乳酸菌溶液2mlをガラス試験管に分注し、オートクレーブ(TOMY社製)を用いて90℃、100℃、110℃、121℃の温度でそれぞれ15分間の加熱処理をして乳酸菌死菌体試料を調製した。
乳酸菌のIL−12産生量を測定するために、6週齢のオスBALB/cマウス(チャールズリバー)を入手し、7〜9週齢時に解剖し脾臓を採取した。
採取した脾臓から脾細胞を採取し、赤血球溶血液(0.144M塩化アンモニウム、17mMトリスアミノメタン、pH7.65)にて3分間処理し、赤血球を除去したものを調製した。調製した脾細胞を、RPM11640(SIGMA製)に10%FCS(Gibco製)、100IU/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシンを加えた培地で、2.5×106cells/mlになるように懸濁し、乳酸菌死菌体試料を終濃度5μg/mlになるように添加し、96穴のマイクロプレート(FALCON製)にて37℃、5%CO2存在下で培養した。2日後に培養上清を回収し、培養上清中のIL−12p70の濃度をELISA法で測定した(R&Dsystems製)。
測定結果を図1に示した。
【0049】
[結果]
図1において、*はt検定によってコントロールと比較したときの危険率5%以下の統計学的有意差を示す。コントロールは90℃、15分の条件で加熱処理した乳酸菌死菌体のIL−12産生量である。110℃、15分及び121℃、15分の加熱条件で処理した試料のIL−12産生量は、90℃、15分で加熱処理した試料の活性を基準として有意に減少した。
加熱条件を90℃、15分とした試料は218.3pg/ml、及び、加熱条件を100℃、15分とした試料は194.4pg/mlと高いIL−12産生促進活性を有していた。
一方、110℃、15分で加熱処理した試料では141.7pg/mlとなり、IL−12産生量の有意な減少は見られたものの、90℃、15分の試料と比較して約65%の活性を有していた。
しかしながら、121℃、15分の条件で加熱処理した試料は、IL−12産生量が10.6pg/mlとなり、90℃、15分の試料と比較して約5%と大きく減少した。
【0050】
図1の110℃及び121℃のIL−12産生量から近似直線を作成したところ、Y=−11.918X+1452.7となった。
図1からわかるように、IL−12産生量は、120℃付近(例えば、118℃)では、非常に低いものとなっている。
図1において、118℃の温度での加熱では、近似直線の計算から、免疫賦活活性の残存率が16%となっていた。そこで、免疫賦活活性の残存率が16%を超えるかどうかに注目して評価を行った。
【0051】
[試験例2]
本試験では、加熱処理における乳酸菌の免疫賦活活性の低下とpHとの関係について検討した。
[試験方法]
[方法]
乳酸菌として試験例1で調製したラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥試料を使用した。
乳酸菌の溶媒として、10mMクエン酸及び水酸化ナトリウムを用いてpH4.3の溶媒を調製した。また、10mMリン酸二水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムを用いてpH6.8の溶媒を調製した。
初めにラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥試料を乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように、pH調製された2種類の溶媒に溶解して乳酸菌溶液を調製した。
続いて、乳酸菌溶液2mlをガラス試験管に分注し、121℃、15分の加熱処理をして乳酸菌死菌体を調製した。
乳酸菌のIL−12産生量の測定は、試験例1と同様の方法で行った。
測定結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
[結果]
表1から、溶媒がpH4.3のときは121℃、15分の加熱処理によっても、乳酸菌死菌体のIL−12産生量は681pg/mlとなり、免疫賦活活性が維持された。
一方、溶媒がpH6.8のときは同様の加熱処理によって乳酸菌死菌体のIL−12産生量が30pg/mlとなり、免疫賦活活性がほとんど失われた。
本結果から、乳酸菌溶液の加熱処理による免疫賦活活性の低下は、溶媒のpHが6.8以上のときに乳酸菌のIL−12産生促進活性が大きく減少することが明らかになった。
【0054】
[試験例3]
試験例3では、本発明に使用する乳酸菌のIL−12産生量を確認した。
本試験では、乳酸菌としてラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株、及び、ラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株を用いた。
溶媒として10mMリン酸緩衝液(pH6.8)を使用した。
【0055】
[試験方法]
ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株を、MRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco)で24時間培養した後、PBS(phosphate buffered saline)で2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に蒸留水で懸濁し、凍結乾燥して試料とした。
ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株及びラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株についても同様の方法で各試料を調製した。
【0056】
はじめに、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥物を、10mMリン酸緩衝液(pH6.8)に投入し、乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように懸濁した。この乳酸菌の懸濁液をそれぞれ100℃、15分の条件で加熱処理した。
同様の方法で、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株又はラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株を使用して調製した試料を調整した。
そして、加熱処理後の試料について、試験例1と同様の方法でIL−12産生量を測定した。IL−12産生量は3回測定して平均値を求めた。
乳酸菌溶液を100℃、15分で加熱する加熱条件は、一般的な乳酸菌死菌体を調製する際の加熱条件としたものである。
【0057】
[結果]
結果を、表2に示す。
L.パラカゼイMCC1375株は424.6pg/ml、L.プランタラムATCC14917T株は336.3pg/ml、L.ラムノーサスATCC53103株は247.4pg/mlとなり、それぞれが高い免疫賦活活性を有していることが明らかになった。
【0058】
【表2】

【0059】
[試験例4]
試験例4では、本発明の方法によって、100℃を超える加熱処理(加圧加熱処理)による乳酸菌の免疫賦活活性の低下が抑制されることを確認した。
本試験では、乳酸菌としてラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株、及び、ラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株を用いた。
溶媒として10mMリン酸緩衝液(pH6.8)を使用した。
さらに添加物として、塩化ナトリウム(ナカライテクス工業製)、塩化カリウム(ナカライテクス工業製)、L−アスコルビン酸結晶(和光純薬工業製)、L−システイン塩酸塩一水和物(関東化学工業製)及び緑茶由来カテキン混合物(和光純薬工業製)を使用した。
【0060】
[試験方法]
ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株を、MRS(de Man Rogasa Sharpe)培地(Difco)で24時間培養した後、PBS(phosphate buffered saline)で2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に蒸留水で懸濁し、凍結乾燥して試料とした。
ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株及びラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株についても同様の方法で各試料を調製した。
続いて、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株を、塩化物を添加して塩濃度を調整した溶媒に懸濁した。調製した溶媒を表3に示す。
100℃、15分の加熱条件で加熱処理した試料(No.1)を調製した。乳酸菌溶液を100℃、15分で加熱する加熱条件は一般的な乳酸菌死菌体を調製する際の加熱条件としたものである。
なお、MCC1375菌株、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株及びラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株は、溶液のpH6.8で、100℃、15分間の加熱処理では、加熱処理後にIL−12産生量が減少しないことを確認している。
また、緩衝液を塩類を添加せずに用いた試料をコントロールとして調製した(No.2)。
そして、10mMリン酸緩衝液に塩化ナトリウム又は塩化カリウムを0.1〜2.0質量%の範囲で添加した試料を調製した(No.3〜10)。さらに、リン酸緩衝液をカテキン濃度0.1質量%に調製したものを対照試料1とした(No.11)。
【0061】
はじめに、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥物を、表1のNo.1〜11に示した溶液に投入し、乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように懸濁した。この乳酸菌の懸濁液をそれぞれ121℃、15分の条件で加熱処理した。
同様の方法で、ラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株に代えてラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株又はラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株を使用して調製した試料を調整した。
但し、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株又はラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株を使用した試験では、添加物を添加しない試料(No.1、2)、塩化物濃度を0.1質量%又は0.9質量%とした試料(No.3、5、7、9)のみ実施した。
IL−12産生量の測定方法は、試験例1と同様の方法で実施した。
これらの実験条件を、次の表3にまとめて示す。
【0062】
【表3】

【0063】
[結果]
各乳酸菌のIL−12産生量の測定結果を図2〜4に示した。
図2はラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の乳酸菌の免疫賦活活性の残存率(IL−12産生促進活性の残存率)を示す。図2において、横軸は各試料を示し、縦軸は乳酸菌の免疫賦活活性の残存率(IL−12産生促進活性の残存率)(%)を示す。
なお、本試験のMCC1375株では、<121℃で加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量>は、<100℃で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量>から、94.5%が失われたものであった。つまり、MCC1375株では、本発明にしたがうことなく121℃で加熱処理した場合には、IL−12産生量の94.5%が失われてしまった。
【0064】
同様に、図3はラクトバチルス・プランタラムATCC14917T株の乳酸菌の免疫賦活活性の残存率(IL−12産生促進活性の残存率)を示す。
なお、本試験のATCC14917T株では、<121℃で加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量>は、<100℃で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量>から、80.9%が失われたものであった。つまり、ATCC14917T株では、本発明にしたがうことなく121℃で加熱処理した場合には、IL−12産生量の80.9%が失われてしまった。
【0065】
さらに、図4はラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103株の乳酸菌の免疫賦活活性の残存率(IL−12産生促進活性の残存率)を示す。
なお、本試験のATCC53103株では、<121℃で加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量>は、<100℃で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量>から、93.8%が失われたものであった。つまり、ATCC53103株では、本発明にしたがうことなく121℃で加熱処理した場合には、IL−12産生量の93.8%が失われてしまった。
【0066】
図2において、MCC1375株の乳酸菌の免疫賦活活性の残存率(IL−12産生促進活性の残存率)は、塩化ナトリウムを添加した試料では20.2〜65.8%となった。
また、塩化カリウムを添加した試料では残存率が16.6〜68%となった。
一方、緑茶カテキン混合物を添加した試料では残存率が4.1%となった。
【0067】
図3において、ラクトバチルス・プランタラムATCC14917T 株の残存率は、塩化ナトリウムを添加した試料で40.4〜49.3%となり、塩化カリウムを添加した試料では残存率が41.7〜54.0%となった。
【0068】
図4において、ATCC53103株の残存率は、塩化ナトリウムを添加した試料で24.7〜97.4%となり、塩化カリウムを添加した試料では18.9%となった。
これらの結果より、免疫賦活活性の残存率はいずれも16%以上であった。
【0069】
[試験例5]
本試験は、乳酸菌溶液に塩化物を添加することに加えて、L−アスコルビン酸を添加することにより、100℃より高い温度での加熱処理(加圧加熱処理)から乳酸菌の免疫賦活活性を顕著に保護することを明らかにすることを目的とした。
また、本試験は、乳酸菌溶液に塩化物を添加することに加えて、L−システインを添加することにより、100℃より高い温度での加熱処理(加圧加熱処理)から乳酸菌の免疫賦活活性を顕著に保護することを明らかにすることを目的とした。
【0070】
[試験方法]
初めに、試験例1で使用したラクトバチルス・パラカゼイMCC1375の凍結乾燥品を10mMリン酸緩衝液(pH6.8)に懸濁し、懸濁液中の乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように調製した。そして、100℃又は121℃、15分間の加熱処理を行った。調製した乳酸菌死菌体試料のIL−12産生促進活性(IL−12誘導能)を、実施例1と同様の方法によって測定した。
【0071】
[結果]
図5はMCC1375株の免疫賦活活性の残存率(IL−12産生促進活性の残存率)を示す。
なお、乳酸菌溶液を100℃、15分で加熱する加熱条件は一般的な乳酸菌死菌体を調製する際の加熱条件としたものである。
図中の数値とバーは、3回行った試験の平均値と標準偏差を示す。
また、図中の*はt検定によってコントロールと比較したときの危険率5%以下の統計学的有意差を示す。
なお、本試験のMCC1375株では、<121℃加熱処理したコントロールの乳酸菌のIL−12産生量>は、<100℃で加熱処理した乳酸菌のIL−12産生量>から、98.5%が失われたものであった。つまり、MCC1375株では、本発明にしたがうことなく121℃で加熱処理した場合には、IL−12産生量の98.5%が失われてしまった。
【0072】
図5において、MCC1375株の免疫賦活活性の残存率は、塩化ナトリウム0.1質量%及びL−システイン濃度0.1質量%とした試料では41.7%となり、塩化ナトリウム0.1質量%及びアスコルビン酸0.1質量%とした試料では52.1%となった。
これらの結果より、免疫賦活活性の残存率はいずれも16%以上であった。
すなわち、pH6.8以上の乳酸菌溶液中に塩化ナトリウムとL−システインを組み合わせて添加することにより、加圧加熱処理によって減少する乳酸菌の免疫賦活活性の低下が効果的に抑制されることが明らかになった。
同様に、pH6.8以上の乳酸菌溶液中に塩化ナトリウムとL−アスコルビン酸を組み合わせて添加することにより、加圧加熱処理によって減少する乳酸菌の免疫賦活活性の低下が効果的に抑制されることが明らかになった。
【0073】
[参考例1]
[乳酸菌含有飲料]
試験例1で調製したラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥物を、乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように10mMリン酸緩衝液(pH6.8)1000mlに溶解した。
続いて、乳酸菌溶液に、塩化ナトリウム1.0gを添加して溶液の塩濃度を0.1質量%に調整した。
そして、塩濃度を調整した乳酸菌溶液をオートクレーブ(TOMY社製)にて121℃、15分で殺菌して乳酸菌含有飲料を調製した。このときのF値は14.7である。
これとは別に、殺菌前の乳酸菌溶液をオートクレーブにて100℃で15分間加熱処理した対照試料を調製した。
調製した乳酸菌含有飲料について、試験例1に記載のIL−12産生量の測定方法で測定したところ、対照試料に対してIL−12産生量が25%残存していた。
【0074】
[参考例2]
[乳酸菌含有飲料2]
試験例1で調製したラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥物を、乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように10mMリン酸緩衝液(pH6.8)1000mlに溶解した。
続いて、乳酸菌溶液に、塩化ナトリウム1.0gを添加して溶液の塩濃度を0.1質量%に調整した。さらに、乳酸菌溶液にL−アスコルビン酸ナトリウム1.0gを添加して溶液のL−アスコルビン酸濃度を0.1質量%に調製した。
塩濃度及びL−アスコルビン酸濃度を調整した乳酸菌溶液をオートクレーブ(TOMY社製)にて121℃、15分で殺菌して乳酸菌含有飲料を調製した。このときのF値は14.7であった。
調製した乳酸菌含有飲料について、試験例1に記載のIL−12産生量の測定方法で測定したところ、参考例1の対照試料に対してIL−12産生量が52%残存していた。
【0075】
[参考例3]
[乳酸菌含有飲料3]
試験例1で調製したラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株の凍結乾燥物を、乳酸菌濃度が10mg/mlとなるように10mMリン酸緩衝液(pH6.8)1000mlに溶解した。
続いて、乳酸菌溶液に、塩化ナトリウム1.0gを添加して溶液の塩濃度を0.1質量%に調整した。さらに、乳酸菌溶液にL−システイン塩酸塩一水和物1.0gを添加して溶液のL−システイン濃度を0.1質量%に調製した。
塩濃度及びL−システイン濃度を調整した乳酸菌溶液をオートクレーブ(TOMY社製)にて121℃、15分で殺菌して乳酸菌含有飲料を調製した。このときのF値は14.7である。
調製した乳酸菌含有飲料について、試験例1に記載のIL−12産生量の測定方法で測定したところ、参考例1の対照試料に対してIL−12産生量が42%残存していた。
【0076】
[参考例4]
[液状栄養組成物]
難消化性デキストリン(松谷化学工業社製)187g、塩化ナトリウム(日本食塩製造社製)14.3g、及びミネラル混合物176.4gを70℃の温湯9.5kgに溶解し、原料溶液を調製した。原料溶液にラクトバチルス・パラカゼイMCC1375株196.35ml(菌体重量21.4mg/ml)を添加した後、高圧均質機(APV社製)を使用して全圧50MPa、2段目5MPaの圧力で均質した。均質して得られた溶液に、デキストリン(松谷化学工業社製)3723g、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.26g及びビタミン混合物8.7gを添加した後、全体の液量を14.3kgに調整した。調整後の溶液を、殺菌機(森永乳業社製)を用いて155℃、2秒間加熱処理し、滅菌された液状栄養組成物を得た。このときのF値は81.8であった。
【0077】
滅菌処理後の液状栄養組成物の液温を4℃として、遠心分離機SCR20B(日立製)で10,000G、30分の条件で遠心分離して沈殿した菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水で2回洗浄した後に凍結乾燥処理を行い、乾燥重量を測定し、滅菌後試料とした。
一方、滅菌処理前の栄養組成物の液を、滅菌処理後の試料と同様の方法で遠心分離し、洗浄し、凍結乾燥処理して、滅菌前試料とした。
滅菌前試料及び滅菌後試料を、試験例1と同様の方法でIL−12産生量を測定した。
滅菌後試料のIL−12産生量は滅菌前試料のIL−12産生量の116%であり、乳酸菌免疫賦活活性の低下がみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、乳酸菌によるIL−12の産生量が効果的に維持されることから、本発明の方法によれば、衛生面、安全面に優れ、かつ、高い免疫賦活活性を有する飲食品、医薬品、飼料等を製造することができる。本発明は産業上有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
乳酸菌含有飲食品に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、
を含む、免疫賦活活性の低下を抑制して、乳酸菌含有飲食品を加熱殺菌する方法。
【請求項2】
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
調製した乳酸菌含有飲食品に対して、118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理を行う工程、
を含む、加熱殺菌済免疫賦活活性乳酸菌含有飲食品を製造する方法。
【請求項3】
乳酸菌含有飲食品を調製する工程が、
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上であり、L−アスコルビン酸及び/又はその塩の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
乳酸菌含有飲食品を調製する工程が、
乳酸菌を含み、pHが6.8以上であり、塩化物の濃度が0.1質量%以上であり、L−システイン及び/又はその塩の濃度が0.1質量%以上である、乳酸菌含有飲食品を調製する工程、
である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
pHが6.8以上で118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理がなされる乳酸菌分散液に、塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、加熱殺菌によって生じる、乳酸菌含有飲食品の免疫賦活活性の低下を抑制する方法。
【請求項6】
次のA)及びB)の条件で行われる加熱処理によって生じる乳酸菌分散液の免疫賦活活性の低下を抑制する方法:
A)加熱処理する乳酸菌分散液のpHが6.8以上である、
B)加熱処理が118〜160℃で60分間〜1秒間の加熱処理である、
であって、
加熱処理する乳酸菌分散液に、塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む方法。
【請求項7】
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程の前、後、又は同時に行われる工程として、
加熱処理する乳酸菌含有飲食品に、L−アスコルビン酸及び/又はその塩を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
塩化物を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程の前、後、又は同時に行われる工程として、
加熱処理する乳酸菌含有飲食品に、L−システイン及び/又はその塩を0.1質量%以上の濃度となるように添加する工程、
を含む、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムからなる群から選択された1以上の塩化物である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
pHが6.8以上7.2以下である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
免疫賦活活性がインターロイキン−12産生促進活性である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
乳酸菌がラクトバチルス・パラカゼイ MCC1375株(FERM BP−11313)である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−213352(P2012−213352A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80392(P2011−80392)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】