説明

乳酸菌用培地および乳酸菌培養方法

【課題】乳酸菌製造において経済的、かつ廃棄物処理に有益な、培養技術を提供する。
【解決手段】黒糖焼酎粕をアルカリ溶液で中和し、又は中和後グルコースを添加して調製する、乳酸菌培養用培地。さらに、乳酸菌培養用培地を膜処理、減圧加熱処理、スプレードラヤー、凍結乾燥により、濃縮物培地および乾燥物培地を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌培地および乳酸菌培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒糖焼酎は焼酎乙類に区分されるいわゆる本格焼酎である。平成17年度では奄美群島で約17,000kLを生産量している。それに伴い平成17年度で奄美群島から発生する黒糖焼酎粕も24,183トンに達している。この処理法として農地還元73.9%、堆肥化18.6%、メタン発酵7.3%、もろみ酢製造0.2%となっている(非特許文献1)。黒糖焼酎粕の直接散布による農地還元による処理法は散布する農地の確保、地域土壌や地下水等の環境汚染が懸念され、この処理法を継続することは望ましくない。
一方、黒糖焼酎粕はビタミン、タンパク質、アミノ酸、カリウムに富む成分であることから、他の用途としては期待される未利用資源でもある。
近年、健康志向に伴い、乳酸菌やビフィズス菌が注目されている。これらの乳酸菌・ビフィズス菌は免疫増進、腸内のウェルシュ菌の増殖抑制、コレステロール抑制作用を有することが報告されている(非特許文献2,3)。これら乳酸菌には実験室レベルでは菌の増殖率が良いMRSブロス培地が一般に使用されている。しかしMRS培地は高価なため乳酸菌の大量培養にはホエーにカゼイン酵素分解物や酵母エキスを強化した培地が報告されている(特許文献1)。また、大麦焼酎蒸留残液を固液分離した液体成分を培地としたものも報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再公表特許WO2005/097972号公報
【特許文献2】特許第3527661号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】経済産業省 九州経済産業局 資源エネルギー環境部、奄美地域における黒糖焼酎粕の高度利用可能性調査報告書、平成19年3月
【非特許文献2】安井久子、整腸ならびに免疫調節作用、発酵乳の科学:細野明義編、2002年、アイ・ケイコーポレーション、p.136
【非特許文献3】米山史紀、善藤威史他、乳酸菌・ビフィズス菌の産生する有用物質、乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス:日本乳酸菌学会編、2010年、京都大学学術出版会、p.309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの培地はMRS培地より安価になったもののホエーのみ、又は大麦焼酎蒸留残液の分離液のみの培地では乳酸菌を培養するには栄養価が不足しており、このため窒素成分、カリウムさらに微量のミネラル成分等を追加する必要がある。また、上述のホエーを含有する培地は窒素成分が特に不足しており、カゼイン酵素分解物や酵母エキスを強化する必要があるため、新たな製造工程や窒素源を加えるため、大幅な培地のコスト減とはならない。大麦焼酎蒸留残液の分離液に関しても同様で大麦焼酎残液を固液分離するには十分なエネルギーを必要とし、大量の培地を得るには容易なことではない。
本発明は、上記の観点から検討されたものであり、安価に且つ容易に培地を製造することを可能とし、得られた培地は栄養価に優れ、工業的規模で乳酸菌増殖作用を有する培地を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る培地は、黒糖焼酎粕をアルカリ溶液で中和し、若しくは中和後グルコースを添加し、ろ過することによって容易に得られ、乳酸菌を接種し、30〜35℃で20時間培養すると10〜1010cfu/mLの乳酸菌に増殖することを特徴とする。
さらに、培地輸送コストを抑制するため黒糖焼酎粕、若しくは調製した培地を逆浸透膜装置、減圧濃縮、スプレードライ、又は凍結乾燥等で濃縮、又は粉体にすることができる。乳酸菌培養する際、元の濃度に精製水で戻し、乳酸菌培地として使用することを見出した。尚、培地の濃縮法はこれらの方法に限定されるものではない。黒糖焼酎粕を濃縮する際、逆浸透膜装置を使用すると膜の通過液は排水基準を満たしており、特に処理することなく河川に流すことを可能とし、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、黒糖焼酎粕をアルカリ溶液で中和(pH6.0〜7.0)、若しくは中和後グルコースを添加することで栄養価のバランスの良い乳酸菌培地が得られ、滅菌後乳酸菌を接種し、30〜35℃で培養すると10〜1010cfu/mLの乳酸菌に増殖する培地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は黒糖焼酎粕を水酸化ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液等のアルカリ溶液で中和後、若しくは中和後グルコースを添加することで栄養価のバランスが良い乳酸菌培地が得られる。
これらの培地に乳酸菌を接種し、30〜35℃で20時間、培養すると10〜1010cfu/mLの菌数の乳酸菌が得られた。また、黒糖焼酎粕をそのまま移送するには多額の輸送コストが発生するので上記処理した培地を逆浸透膜装置、減圧濃縮等で培地を1/10〜1/20程度に濃縮し、または減圧乾固、スプレードライ装置、凍結乾燥等で粉体にして輸送し、乳酸菌培養する際、元の濃度に精製水で希釈し、液体培地とすることができる。さらに、黒糖焼酎粕を濃縮する際、逆浸透膜を使用すると膜の通過液は処理することなく河川に流すことができる。その通過液はBOD120mg/L以下、COD120mg/L以下、T−N60mg/L以下、T−P8mg/L以下でとなり、省令で定めた基準以下の濃度にすることが出来た。
従って本発明は乳酸菌製造において経済性の向上に貢献できる上に、廃棄物の処理に関与する環境保全にも貢献し、産業的にも社会的にも有益な技術を提供することができる。
本発明に係る乳酸菌培地を製造する方法について説明する。本発明の培地は、黒糖焼酎粕を水酸化ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、水酸化カルシウム溶液等のアルカリ溶液を用いて中和後、グルコースを0.1〜5.0wt%、好ましくは0.5~2.0wt%添加・溶解し、ろ過することで得られる。乳酸菌の特性に応じて酵母エキス、ペプトンや微量成分を追加することがあるが、基本的にはこれで十分MRS培地に相当する乳酸菌の増殖性を有する。
(黒糖焼酎粕培地の乳酸菌増殖効果)
【実施例1】
【0009】
奄美の黒糖焼酎粕1Lに対してグルコース10g(1wt%)加え、1N水酸化ナトリウム溶液にてpH6.5に調製した。その後、珪藻土10g(1wt%)加え、撹拌後、ろ板を使用し、加圧ろ過し、澄明な溶液を得た(黒糖焼酎粕培地)。これを200mL三角フラスコに100mLの黒糖焼酎培地を入れ、シリコ栓をし、121℃、15分間、オートクレーブ処理した後、室温まで冷却した。
上述した方法にて調製した培地に各種の乳酸菌培養液100μL(MRSブロス培地で培養培養)をクリーンベンチ内で接種し、35℃で20時間培養した。別途、比較としてpH調整後グルコース無添加の黒糖焼酎粕培地およびMRSブロス培地を調製し、同様な操作を行った。各培養液を希釈し、MRS寒天培地を用い、35℃で2日間培養し、乳酸菌コロニーをカウントした。
【0010】
各乳酸菌の各培地による乳酸菌の増殖作用結果を表1に示した。
グルコース無添加の黒糖焼酎粕培地はグルコース添加培地と比較すると若干、乳酸菌増殖は少なかったが、それでも109オーダーcfu/mLの乳酸菌が得られた。
【0011】
【表1】

【0012】
表1の試験結果、黒糖焼酎粕培地はMRSブロス培地に相当する乳酸菌増殖率を示した。
(黒糖焼酎粕培地の濃縮物および乾燥物の乳酸菌増殖効果)
【実施例2】
【0013】
実施例1で調製した100L黒糖焼酎粕培地を60℃に加温しながら逆浸透膜装置を用いて10Lまで濃縮を行った(黒糖焼酎粕濃縮培地)。ろ液の分析を行った結果、BOD120mg/L以下、COD120mg/L以下、T−N60mg/L以下、T−P8mg/L以下であることを確認した。
上記濃縮で得た黒糖焼酎粕濃縮培地100mLに精製水900mLを加え、元の濃度の還元黒糖焼酎粕培地1Lを作製した。これらの培地100mLを200mL三角フラスコに入れ、シリコ栓をし、121℃、15分間、オートクレーブ処理した後、室温まで冷却した。
これらの濃縮工程および乾燥工程を得た培地に各乳酸菌培養液(MRSブロス培地で培養培養)100μLをクリーンベンチ内で接種し、35℃で20時間培養した。別途、比較としてpH調整後グルコース無添加の黒糖焼酎粕培地およびMRSブロス培地を調製した。乳酸菌は実施例1と同じ方法にて測定した。
【0014】
各乳酸菌の各培地による乳酸菌の増殖作用結果を表2に示した。その結果、黒糖焼酎粕培地はいずれの乳酸菌においてもMRSブロス培地と同等の良好な乳酸菌増殖率を示した。
【実施例3】
【0015】
実施例1で調製した黒糖焼酎粕培地1Lをエバポレーターのフラスコスに入れ、60〜80℃で減圧乾固して黒糖焼酎粕培地の乾固物66gを得た。再度この乾固物66gに精製水を加え、元の容量の1Lに調製し、黒糖焼酎粕の乾固物の培地溶液を得た。これらの培地100mLを200mL三角フラスコに入れ、シリコ栓をし、121℃、15分間、オートクレーブ処理した後、室温まで冷却した。
これに各種の乳酸菌培養液100μLをクリーンベンチ内で接種し、35℃で20時間培養した。別途、比較としてpH調整後グルコース無添加の黒糖焼酎粕培地およびMRSブロス培地を調製した。乳酸菌は実施例1と同じ方法にて測定した。
【0016】
その結果、黒糖焼酎粕培地はいずれの乳酸菌においてもMRSブロス培地と同等の良好な乳酸菌増殖率を示した。
【0017】
【表2】



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒糖焼酎粕をアルカリ溶液で中和し、若しくは中和後グルコースを添加することを特徴とする乳酸菌培養用培地。
【請求項2】
請求項1の培地を濃縮、又は粉体にすることを特徴とする乳酸菌培養用培地。
【請求項3】
請求項2に記載の工程により濃縮、および乾燥工程により得られた培地に再び水を加え元の容量の液体培地に調製し、乳酸菌を培養することを特徴とする乳酸菌の培養方法。