説明

乳酸重合体および脂肪族ポリエステル共重合体とそれらの製造方法ならびに成型体

【課題】 脂肪族ポリエステル共重合体を製造するための原料として好適な乳酸重合体とその製造方法、及び該乳酸重合体を含む脂肪族ポリエステル共重合体ならびに成型体を提供することを目的とする。
【解決手段】 重クロロホルムを溶媒として、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定した時に、5.2ppmと4.4ppmに現れるシグナルの積分強度の比から計算した重合体の数平均分子量が500以上であり、かつ5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れるシグナルの積分強度が0.003以下である乳酸重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル共重合体の原料となる乳酸重合体とその製造方法及び該乳酸重合体を含む脂肪族ポリエステル共重合体ならびに成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは一般に環境中で、言い換えれば水中や地中で微生物、酵素などの作用によって分解される、所謂生分解性を有するので、環境に優しい高分子材料として知られている。例えば乳酸を構成要素とする脂肪族ポリエステルは、環境中で分解されることはもちろんであるが、生体内でも分解され、分解されて生成する乳酸は元々生体内に存在するものなので安全性も高い。そこで、この種の重合体の一つの用途として医療用の材料への展開が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1には、乳酸を構成要素の一つとする脂肪族ポリエステル共重合体を利用した生体適合性多孔質シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-36134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳酸の単独重合体は硬くて脆い性質があり用途が制限される。そこで、共重合によりこの性質を改質する方法が知られている。すなわち乳酸と共に、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸等を共重合させ、脂肪族ポリエステル共重合体を得る方法が知られている。また、材料として用いるためには、強度など機械物性が優れている必要があり、そのためには脂肪族ポリエステル共重合体の分子量が高いことが好ましい。この際、乳酸の単量体を原料とするよりも、乳酸の重合体を原料とする方が好ましく、分子量の高い乳酸重合体を原料とする方が、一般に、高分子量の脂肪族ポリエステル共重合体を得るのに好ましい。
【0006】
ところが、本発明者らの検討によれば、この乳酸重合体の分子量および性状によっては、これを原料として製造した脂肪族ポリエステル共重合体の分子量を十分に高くするものとすることができず、なお改善の余地があることがわかってきた。例えば特許文献1には、乳酸重合体(乳酸オリゴマー)を原料として脂肪族ポリエステル共重合体を調整する方法が開示されているが、この方法で乳酸重合体(乳酸オリゴマー)を調整しても、乳酸重合体(乳酸オリゴマー)の数平均分子量は500未満と低い分子量にとどまる。そして、この乳酸重合体を原料として製造した脂肪族ポリエステル共重合体の分子量を高くすることができない。
【0007】
そこで本発明は、脂肪族ポリエステル共重合体を製造するための原料として好適な乳酸重合体とその製造方法を提供することを目的とするととともに、該乳酸重合体を含む脂肪族ポリエステル共重合体ならびに成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、重クロロホルムを溶媒として、NMRスペクトルを測定した時に、テトラメチルシランを0.0ppmとした時の化学シフト
が、5.2ppmと4.4ppmに現れるシグナルの積分強度の比から計算した重合体の数平均分子量が500以上であり、かつ5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れるシグナルの積分強度が0.003以下である乳酸重合体を見出した。
【0009】
また、反応温度が150℃より高く、230℃より低い温度で、かつ最終減圧度が0.5kPaより高く10kPaより低い圧力の条件で重合反応を行なうことにより、上記の乳酸重合体を製造できることを見出した。
そして、該乳酸重合体を含む、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC
と記載する)で測定した数平均分子量が30000以上である脂肪族ポリエステル共重合体ならびに成型体を見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、下記に存する。
(1)重クロロホルムを溶媒として、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定した時に、5.2ppmと4.4ppmに現れるシグナルの積分強度の比から計算した重合体の数平均分子量が500以上であり、かつ5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れるシグナルの積分強度が0.003以下であることを特徴とする、乳酸重合体。
(2)反応温度が150℃より高く、230℃より低い温度で、かつ減圧度が0.5kPaより高く10kPaより低い圧力の条件で重合反応を行なう工程を有することを特徴とする、
乳酸重合体の製造方法。
(3)(2)に記載の製造方法で得られた乳酸重合体。
(4)(1)又は(3)に記載の乳酸重合体を構造中に含むことを特徴とする、脂肪族ポリエステル共重合体。
(5)(1)又は(3)に記載の乳酸重合体を原料として用いることを特徴とする、脂肪族ポリエステル共重合体の製造方法。
(6)原料として、さらにポリアルキレングリコール、脂肪族カルボン酸を用い、共重合させることを特徴とする、(5)に記載の脂肪族ポリエステル共重合体の製造方法。
(7)(5)又は(6)に記載の製造方法で得られた脂肪族ポリエステル共重合体
(8)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が30000以上であることを特徴とする、(4)又は(7)に記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
(9)(4)、(7)又は(8)に記載の脂肪族ポリエステル共重合体を用いることを特徴とする、成型体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の乳酸重合体を原料として脂肪族ポリエステル共重合体の製造に用いることにより、得られる共重合体の分子量を十分に高くすることができる。また、本発明の乳酸重合体を原料として脂肪族ポリエステル共重合体の製造に用いることにより、得られる共重合体の強度を高くすることができ、破断しにくい機械特性に優れた材料を提供することができる。また、本発明の乳酸重合体の製造方法によれば、前記の乳酸重合体を、簡便かつ効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
[乳酸重合体およびその製造方法]
本発明の乳酸重合体は、重クロロホルムを溶媒として、NMRスペクトルを測定した時に、テトラメチルシランを0.0ppmとした時の化学シフトについて、5.2ppmに現れるシグナルの積分強度と4.4ppmに現れるシグナルの積分強度の比から計算した
重合体の数平均分子量が500以上であることを特徴とする。さらに好ましくは800以上である。数平均分子量が小さすぎると、この乳酸重合体を原料として脂肪族ポリエステル共重合体を製造したときに、共重合体の分子量を高くすることが困難である。
【0013】
なお、5.2ppmのシグナルは乳酸重合体のエステル結合中のメチンプロトンによるものであり、4.4ppmのシグナルは水酸基末端に隣接するメチンプロトンによるものである。従って、この前者の積分強度を後者の積分強度で除することにより、乳酸重合体の分子量を計算することができる。
また、乳酸重合体は、5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れるシグナルの積分強度が0.003以下であることを特徴とする。好ましくは0.002以下であり、さらに好ましくは0.001以下である。前記積分強度の値が大きすぎると、この乳酸重合体を原料として脂肪族ポリエステル共重合体を製造したときに、共重合体の分子量を高くすることが困難である。
【0014】
なお、2.5ppmに現れるシグナルは、末端にアルデヒド基が存在する場合、そのアルデヒド基に隣接したメチンプロトン、もしくはケトン構造を有するカルボニル基に隣接したメチンプロトンに起因するものと推定できる。このような構造(異種構造)ができるためには、乳酸重合体末端のカルボキシル基が副反応を起こさなければならず、このことはカルボキシル基末端が減少することを意味する。すなわちカルボキシル基末端が減少するということは、水酸基とカルボキシル基の末端バランスが崩れることに繋がるので、その後このような性状の乳酸重合体を原料として脂肪族ポリエステル共重合体を製造すると、共重合体の分子量を高くすることが困難になっているものと推定できる。本発明の乳酸重合体を製造するには、特に限定はないが、乳酸単量体を溶融重合することが好ましい。乳酸単量体は、市販の50から90%水溶液のものを用いることができる。乳酸重合体を製造するには、反応温度と減圧度の範囲をそれぞれ制御する重合反応工程を有することが好ましい。
【0015】
重合反応工程は、昇温および又は減圧をともなっていてもよい。
本発明の乳酸重合体の重合反応温度は、150℃より高く230℃より低い温度であることを特徴とする。下限は、好ましくは160℃、より好ましくは170℃、上限は、好ましくは220℃、より好ましくは210℃である。重合温度が低すぎると、分子量の高い乳酸重合体が得られない点で問題がある。また高すぎると、環状二量体などの副生成物や、前記の異種構造が生成しやすく、前者の場合は乳酸重合体の収率が低下する点で問題があり、後者の場合は乳酸重合体の水酸基とカルボキシル基の末端バランスが崩れることに繋がるので、製造する共重合体の分子量を高くするのが困難となる点で問題がある。
【0016】
また、重合反応の減圧度については、0.5kPaより高く10kPaより低い圧力であることを特徴とする。下限は、好ましくは0.6kPa、より好ましくは0.7kPa、上限は、好ましくは9kPa、より好ましくは8kPaである。減圧度が低すぎると、環状二量体などの副生成物が生成しやすく乳酸重合体の収率が低下する点で問題があり、また減圧度が高すぎると、分子量の高い乳酸重合体が得られない点で問題がある。
【0017】
また、この製造を行う際に触媒を使用しても良い。触媒としては、オクチル酸錫、酸化錫、塩化錫、乳酸錫、錫粉末等の金属錫又は錫化合物、亜鉛粉末、酸化亜鉛、硫酸亜鉛等の金属亜鉛又は亜鉛化合物、酸化アルミ、塩化アルミ、硫酸アルミ等の金属アルミ又はアルミ化合物等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、触媒としては錫化合物等が好ましく、オクチル酸錫がより好ましい。
触媒の使用量は特に制限されないが、原料成分の総量に対する比率で、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましく
は5重量%以下の範囲である。
【0018】
[脂肪族ポリエステル共重合体とその製造方法]
本発明の脂肪族ポリエステル共重合体とは、本発明の乳酸重合体を含むポリエステルである。その製造方法は特に制限されないが、乳酸重合体、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸等からなる原料成分を重合反応させることにより製造することができる。
【0019】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール類、ヘキサンジオール類、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。
【0020】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸などが挙げられる。
脂肪族オキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ポリカプロラクトン、リンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。
本発明の脂肪族ポリエステル共重合体を製造するには、重合反応を触媒の存在下で行なうことが好ましい。触媒の種類と使用量としては、上記の乳酸重合体の製造方法と同様の方法を用いてもよい。
【0021】
前記重合反応は、溶液重合で行なうことが好ましい。上記の原料成分、触媒、および溶媒を、反応器内で混合することにより重合反応を行うことができる。なお、混合の順序については特に制限されず、適宜採用することができる。
溶液重合で得られた脂肪族ポリエステル共重合体は、必要に応じ共重合体を溶解できる溶媒で溶解した後貧溶媒に投入する、いわゆる再沈法により精製し、回収することができる。
【0022】
こうして得られた脂肪族ポリエステル共重合体の数平均分子量は30000以上であることが好ましく、35000以上であることがより好ましく、40000以上であることがさらに好ましく、45000以上であることが最も好ましい。数平均分子量が小さすぎると、強度や破断伸びなどの機械物性が不良となり、材料として使用できる分野に制約を受ける可能性がある。
【0023】
[成型体]
本発明の成型体は、上記で得られた脂肪族ポリエステル共重合体を成型して得ることができる。成型方法に制限はないが、通常ポリエステルで行なわれている方法、例えば、射出成型、押出成型、ブロー成型、プレス成型、溶媒を用いたキャスト成型などで行なうことができる。このような方法で各種成型体、シート、フィルム、発泡体などを得ることができる。
溶媒を用いたキャスト成型方法の例としては、脂肪族ポリエステル共重合体を適当な溶媒に溶解し、テフロン(登録商標)シート上にキャストした後、アプリケーターを用いてフィルムとする方法が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により限定されるものではない。
なお、以下の記載中、特に断り書きのない限り、「部」は「重量部」を表わす。
[NMRの測定]
装置はBruker社製AVANCE 400を用い、重クロロホルムを溶媒として常温で測定した。
化学シフトはテトラメチルシランを0.0ppmとした時の値を採用した。
【0025】
[分子量の測定]
1.乳酸重合体
上記と同様のNMR装置を用いた。分子量は5.2ppmと4.4ppmに現れるシグナルの積分強度の比から計算した
2.脂肪族ポリエステル共重合体
GPCで測定した。装置は東ソー社製のGPC8020、カラムはTSKgelGMHXL-Nを用
い、THFを溶離液とし40℃で測定した。分子量は標準ポリスチレン換算の値を採用した。
[引張試験]
オリエンテック社製卓上型材料試験機STA−1225を用い、引張速度 50mm/min
で測定した。
【0026】
〔実施例1〕
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、原料としてL−乳酸モノマー(Purac社製88%水溶液)150重量部を仕込んで、以下のとおり重
合反応を行った。
【0027】
容器内容物を攪拌下、容器内に窒素ガスを導入し、減圧置換によって系内を窒素雰囲気にした。系内を攪拌しながら常圧のまま30分で150℃に昇温し(第1工程(昇温))、この温度で2時間反応させ水を留出させた(第2工程(脱水))。次に1.5時間かけて200℃に昇温し、1.5時間温度を200℃に保った(第3工程(昇温・減圧)。なお、この際に減圧を適用し3時間で8kPaまで減圧した(第3工程(昇温・減圧)。その後さらに200℃で2時間かけて2.7kPaまで減圧し(第4工程(減圧))、そのままの状態で2時間重合反応を続けた(第5工程(最終反応))。
【0028】
反応終了後内容物を取り出し、無色透明の乳酸重合体が得られた。この乳酸重合体は数平均分子量870であった。またNMRによる5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れたシグナルの積分強度が0.0008であった。
【0029】
〔実施例2〕
最後の反応時間(第5工程(最終反応))を6時間とした以外、実施例1と同様に行なった。
反応終了後内容物を取り出し、無色透明の乳酸重合体が得られた。この乳酸重合体は数平均分子量1800であった。またNMRによる5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れたシグナルの積分強度が0.0007であった。
【0030】
〔実施例3〕
触媒としてオクチル酸スズ(ナカライテスク社製)0.25重量部を添加し最後の200℃、2.7kPaでの反応(第5工程(最終反応))を4時間とした以外、実施例1と同様に行なった。
【0031】
反応終了後内容物を取り出し、無色透明の乳酸重合体が得られた。この乳酸重合体は数平均分子量2400であった。またNMRによる5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れたシグナルの積分強度が0.0005であった。
【0032】
〔比較例1〕
特許文献1の方法を追試する目的で、以下の実験を行った。
第3工程(昇温・減圧)の条件を、温度150℃一定とし、0.5時間で13kPaまで減圧して2時間保持し、第4工程(減圧))の条件を0.5時間で4kPaまで減圧して2時間保持し、第5工程(最終反応)の条件を0.5時間で2.7kPaまで減圧し、そのまま2時間反応させた以外は、実施例1と同様に行なった。
反応終了後内容物を取り出し、無色透明の乳酸重合体が得られた。この乳酸重合体は数平均分子量430であった。またNMRによる5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れたシグナルの積分強度が0.0005であった。
【0033】
〔比較例2〕
第3工程(昇温・減圧)の条件を、温度230℃に昇温し、同時に減圧を適用し3時間で8kPaまで減圧し、第4工程(減圧)の条件をに230℃で2時間かけて4kPaまで減圧し、第5工程(最終反応)の条件をそのままの状態で1時間30分反応を続けたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0034】
反応終了後内容物を取り出し、無色透明の乳酸重合体が得られた。この乳酸重合体は数平均分子量900であった。またNMRによる5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れたシグナルの積分強度が0.0036であった。
【0035】
〔比較例3〕
第3工程(昇温・減圧)の温度を230℃とし、第5工程(最終反応)の温度を230℃とし、2.5時間反応を続けたこと以外は、実施例3と同様に行った。
反応終了後内容物を取り出し、無色透明の乳酸重合体が得られた。この乳酸重合体は数平均分子量13000であった。またNMRによる5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れたシグナルの積分強度が0.0048であった。
乳酸重合体の製造例と結果をまとめて表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
〔脂肪族ポリエステル共重合体製造例〕
〔実施例4〕
攪拌機及び油液分離器付き冷却管を備えたフラスコに、ポリエチレングリコール(数平均分子量4000、和光純薬社製)3部、コハク酸0.118部、実施例1で製造した乳酸重合体17部、オクチル酸錫0.14部、及びジフェニルエーテル9部を仕込み、1時間かけて減圧し、2.7kPa、180℃の条件下で16時間重合を行なった。重合中は冷却水を60℃にし、縮合水は系外へ排出し、溶媒は系内に戻した。得られた重合溶液をクロロホルムに溶解させた後、大量のメタノールに投入して再沈し、ポリマーを濾過して回収した後、再度クロロホルムに溶解させた後、再度大量のメタノールに投入するという操作を繰り返すことにより、生成ポリマーを精製し、熱風乾燥機で乾燥して白色の共重合体を得た。
【0038】
また、この共重合体について、GPC測定により求めた数平均分子量は45000、重量平均分子量は87000であった。
〔実施例5、6、比較例4〜6〕
実施例1で製造した乳酸重合体の代わりに、表2に示した乳酸重合体を用いた以外実施
例4と同様に行なった。結果を表1に示した。
【0039】
また、本発明の脂肪族ポリエステル共重合体10重量部を30重量部のクロロホルムに溶解した後、テフロン(登録商標)シート上にキャストし、100μmのアプリケーターを用いてフィルムを成型した。このフィルムを60℃で24時間真空乾燥した後、10mm幅の短冊片を切り出し、引張試験を行なった。共重合体製造例と結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の乳酸重合体及び該乳酸重合体を含む脂肪族ポリエステル共重合体は、生分解性を有する環境に優しい高分子材料として使用することができる。またこの脂肪族ポリエステル共重合体は特に生体内でも分解され、分解されて生成する乳酸等は安全性も高いので、その成型体は医療用の材料として使用することができ、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重クロロホルムを溶媒として、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定した時に、5.2ppmと4.4ppmに現れるシグナルの積分強度の比から計算した重合体の数平均分子量が500以上であり、かつ5.2ppmのシグナルの積分強度を1とした時の2.5ppmに現れるシグナルの積分強度が0.003以下であることを特徴とする、乳酸重合体。
【請求項2】
反応温度が150℃より高く、230℃より低い温度で、かつ減圧度が0.5kPaより高く10kPaより低い圧力の条件で重合反応を行なう工程を有することを特徴とする、乳酸重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法で得られた乳酸重合体。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の乳酸重合体を構造中に含むことを特徴とする、脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の乳酸重合体を原料として用いることを特徴とする、脂肪族ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項6】
原料として、さらにポリアルキレングリコール、脂肪族カルボン酸を用い、共重合させることを特徴とする、請求項5に記載の脂肪族ポリエステル共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法で得られた脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項8】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が30000以上であることを特徴とする、請求項4又は7に記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項9】
請求項4、7又は8に記載の脂肪族ポリエステル共重合体を用いることを特徴とする、成型体。

【公開番号】特開2011−168644(P2011−168644A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31364(P2010−31364)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】