説明

乳頭保護具

【課題】乳頭部の潰れ変形が維持されることがなく、乳頭部の変形により授乳を行う者の乳頭部に痛みや不快な刺激を与えず、乳房に当接する際に刺激を低減して跡が残ることを防止し、確実に乳頭を保護できる乳頭保護具を提供すること。
【解決手段】全体が柔軟な材料で成形されており、先端に貫通孔11aを備える中空の乳頭部11と、該乳頭部から連続して前記中空の内部空間を徐々に拡径した拡径部12を備えるとともに、拡大した内径部分を延長して形成した大径部13を有する胴部19と、該胴部の端部の開口周縁に形成したリング状のフランジ部である乳房当接部15とを備えており、前記大径部には、外径を縮径して形成したくびれ部14と、前記空間と外部とを連通する通気用の貫通孔18を有している乳頭保護具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、授乳の際に母乳を与える人の乳頭部を覆い保護するための乳頭保護具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
母親等が母乳を乳児に与える授乳の際には、その母親等の乳首・乳頭にトラブルがある場合等において、当該乳頭の保護具を用いる場合がある。
すなわち、母親等の乳首が、扁平であったり、陥没していたりして、乳児が吸いつきにくい場合には、乳頭部を覆って吸引できる補助具としての乳頭保護具が用いられている。
また、母親等の乳頭に亀裂があるなど傷ついている場合に、乳児がその乳頭を直接口に含むと、刺激が強すぎて痛むという問題がある。そのまま授乳を続けると、痛みによるストレスで母乳の出が悪くなり、そのため、乳児がより多くの母乳を吸い出そうとして、さらに強く吸うということを繰り返すと、乳頭部の傷をさらに悪化させる。
このような場合にも、当該乳頭部を覆い保護するための授乳補助具として、乳頭保護具が用いられている。
【0003】
このような用途の乳頭保護具としては、従来より、さまざまなタイプのものが提案され、市販されてきたが、その中に図4に示す乳頭保護具がある(特許文献1参照)。
図4(a)は乳頭保護具1の正面図、図4(b)は乳頭保護具1の断面図である。
この乳頭保護具1は、全体としてゴムのような性質を持つ合成樹脂で、軽く弾力性のあるものとして形成されている。
【0004】
この乳頭保護具1は、「吸着盤付乳房型哺乳器」とされているもので、下方へ開口した中空の構造であり、細い頭部乳首2と、該頭部乳首2に一体に連設された椀状もしくはドーム状に広がる吸着盤胴部3を有している。
吸着盤胴部3の開口となった底部には、内接部4と外接部5を備えている。
乳頭保護具1の吸着盤胴部3を母親等の乳房7の前面に当て、頭部乳首2を乳児が口に含んで吸引すると、内部空間6が負圧となり、乳頭保護具1を乳房に対して吸着固定することができる。同時に内部空間6内に収容された母親等の乳首(乳頭)8からは母乳が負圧により吸い出される。
かくして、乳幼児の口が、乳頭と直接接触することなく、授乳が行われるというものである。
【0005】
この場合、吸着盤胴部3は、母親等の乳房7の前面に強く押し付けられることにより、図4(b)の点線に示すように変形するが、その際に乳房7表面は内接部4と外接部5に強く当接し、内側の空気が外接部5の外に押し出されることで、該内側が負圧となり、吸着盤胴部3は乳房7の前面に吸着保持される。
【0006】
【特許文献1】実開昭53−61385号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような乳頭保護具1にはいくつかの問題がある。
第1に、該乳頭保護具1が、柔軟な材料で形成されていると、頭部乳首2を乳児が口に含んで吸引することで負圧にする際に、母乳の出るタイミングと吸引との関係で、頭部乳首2が潰れて変形した状態となってしまう。
第2に、乳児による吸引の際に、乳児がくわえる頭部乳首2は扁平な吸着盤胴部3と接近していることから、頭部乳首2が潰れると、該吸着盤胴部3もともに潰れるように変形することになる。このため、これら乳頭8の内面または吸着盤胴部3の内面が、母親等の乳頭8に直接当たり、該頭部乳首2が傷ついている場合には痛みを生じることになる。
第3に、この乳頭保護具1は、全体が一体に同じ材料で形成されており、このような変形によるつぶれが生じない程度に形保持できる材料で形成されている場合には、図4(b)で説明したように吸着盤胴部3を乳房7の前面に吸着保持されると、内接部4および外接部5が母親等の乳房7の表面に食い込むから、所定の授乳時間の間この状態が続くと、乳房7の前面に丸く赤い跡が残ったり、食い込んだ箇所に痛みを感じるという欠点がある。
【0008】
本発明は、以上のような欠点を解消するためになされたものであり、乳頭部が潰れたまま変形が維持されてしまうことがなく、乳頭部の変形により間接的に授乳を行う者の乳頭部に痛みや不快な刺激を与えないとともに、授乳を行う者の乳房に当接する際に刺激を低減して跡が残ったりすることがなく確実に乳頭を保護できる乳頭保護具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、第1の発明にあっては、全体が柔軟な材料で成形されており、先端に貫通孔を備える中空の乳頭部と、該乳頭部から連続して前記中空の内部空間を徐々に拡径した拡径部を備えるとともに、拡大した内径部分を延長して形成した大径部を有する胴部と、該胴部の端部の開口周縁に形成したリング状のフランジ部である乳房当接部とを備えており、前記大径部には、外径を縮径して形成したくびれ部と、前記内部空間と外部とを連通する通気用の貫通孔を有している乳頭保護具により、達成される。
【0010】
第1の発明の構成によれば、前記乳頭部と、前記拡径部および大径部を備える胴部とは、内部に大きな空間を形成している。したがって、前記乳房当接部のフランジ部を使用者の乳房の前面に当接させると、前記内部空間に使用者の乳頭部を収容できる。
より具体的には、使用者の乳頭部は前記内部空間のうち、前記大径部に相当する箇所の内部に収まり、前記拡径部および乳頭部の内側には到達していない。この状態で、乳児が乳頭部を口腔内に取り込み、授乳動作すると、柔軟な乳頭部または乳首本体が潰れるように変形しても前記拡径部および大径部のうち、少なくとも大径部は潰れ変形することがないから、内部に収容された使用者の乳頭部には、変形した大径部の内面が触れることがなく、該乳頭部には接触するものが無い状態で搾乳がなされる。このため、乳頭部が傷付いていても、乳頭部が刺激されることがなく、痛みを感じないで授乳ができ、該乳頭部は完全に保護される。
また、前記大径部には、外径を縮径して形成したくびれ部と、前記空間と外部とを連通する通気用の貫通孔を有している。
このくびれ部は、使用者の指を添えることで、乳房当接部を乳房前面に押し当てることを容易にするもので、さらに前記貫通孔が存在することにより、乳頭部または乳首本体が柔軟な材料で形成されていても、これを乳児が口に含んで吸引することで負圧にする際に、母乳の出るタイミングと吸引との関係で、乳首本体が潰れた状態が継続することがなく、前記貫通孔から外気が入り込んで、元の形状にすぐに復帰するので、潰れ変形状態が維持されてしまうこと、つまり、乳首本体が潰れてしまって、吸引できなくなるということが有効に防止される。
さらにまた、乳頭保護具は全体が柔軟な材料で形成されているので、前記乳房当接部は、使用者の乳房に当接されても不快な刺激を与えることがなく、硬い材料が押しつけられた時のように、食い込んで痛みを感じたり、赤い跡を残すといったことが適切に防止される。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記大径部の前記貫通孔を形成した個所について、該大径部の外面を薄肉にした薄肉部とすることにより、外観上識別するための識別部を形成したことを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、前記くびれ部に使用者の指を添えることで、乳房への当接を行うが、このくびれ部には前記貫通孔が形成されている。該貫通孔を使用者が指で塞ぐと、内部空間への空気の流入が阻害されて乳首本体が潰れて変形が維持されてしまうが、前記薄肉部を設けて、識別部とし、そこに貫通孔を形成することにより、該薄肉部が視認されることで、この箇所を避けて指を添えることができ、貫通孔が塞がれる弊害を防止することができる。
【0012】
第3の発明は、第1または2のいずれかの発明の構成において、前記乳房当接部としてのフランジ部の内周である前記開口周縁部には、該周縁に沿って僅かに突出するシール部を備えることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、前記内部空間に続く開口周縁部に沿って僅かに突出するシール部が設けられていると、該シール部が使用者の乳頭周囲に当接されることにより、前記内部空間を塞ぐうえで気密性を向上させるので、乳児の吸引に際して負圧を適切に形成することができる。
【0013】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかの構成において、前記乳房当接部であるフランジ部の外周上縁部には、該外周に沿って僅かに突出した外周突部を備えることを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、前記くびれ部に指を当てる際に、前記外周突部が指がかりとなり、くびれ部に指を添えることが容易となる。
【0014】
第5の発明は、第1ないし第4の発明のいずれかの構成において、前記乳頭部および前記拡径部とを含む乳首本体には、その縦断面において、肉厚を薄肉にした箇所である伸長部と、これよりも厚肉にした箇所である高剛性部が交互に配置されるようにして、該乳首本体が伸長できるようにしたことを特徴とする。
第5の発明の構成によれば、前記乳首本体には、肉厚を薄肉にした箇所を形成しているので、授乳に際して該乳首本体は乳児の口腔内においてこの薄肉にした箇所が吸引時に引き伸ばされ伸長される伸長部となる。これに対して該薄肉にした箇所よりも厚肉にした箇所は剛性が高いので、高剛性部として作用し、吸引時に潰れることがないので、乳首本体の潰れ変形を防止することができる。
かくして、授乳の際には、乳首本体が潰れて母乳の流れを阻害することがなく、しかも乳首本体は長さ方向に伸長することで、その先端部が乳児の哺乳窩にまで達することができ、適切な授乳動作を実現できる。
【0015】
第6の発明は第1ないし第5の発明のいずれかの構成において、前記乳房当接部であるフランジ部の底面は、当接される乳房の表面形状に対応して凹状の曲面とされていることを特徴とする。
第6の発明の構成によれば、フランジ部の底面が、当接される乳房の表面形状に対応して凹状の曲面とされているので、使用者の乳房前面に適切にフィットして密着性を向上させることができる。
【0016】
第7の発明は、第1ないし第6の発明のいずれかの構成において、前記乳房当接部であるフランジ部の中心と前記乳首本体の中心を通る仮想線が、前記フランジ部の中心を通る仮想の垂直線に対して傾くことで傾斜姿勢となるように形成されていることを特徴とする。
第7の発明の構成によれば、乳首本体が下向きになるように前記傾斜姿勢を利用して使用することにより、内部に乳汁が滞留させることなく、適切に外部に導くことができる乳頭保護具を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、乳頭部が潰れたまま変形が維持されてしまうことがなく、乳頭部の変形により間接的に授乳を行う者の乳頭部に痛みや不快な刺激を与えないとともに、授乳を行う者の乳房に当接する際に刺激を低減して跡が残ったりすることがなく確実に乳頭を保護できる乳頭保護具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0019】
図1は本発明の第1の実施形態に係る乳頭保護具を示す概略斜視図であり、図2は乳頭保護具の概略縦断面図である。
これらの図を参照しながら、乳頭保護具の第1の実施形態について詳しく説明する。
図1、図2において、乳頭保護具10は、先端に位置する中空の乳頭部11と、該乳頭部11から続き、内径および外径がともに拡径されている拡径部12と、該拡径部12から続き、少なくとも内径が最も大きくされている大径部13とを有しており、この拡径部12と大径部13とは胴部19を形成している。
【0020】
また、乳頭部11と拡径部12は、授乳に際して乳児の口腔内に収容される乳首部もしくは乳首本体25を構成している。乳頭部11の先端には、乳児が吸引によって陰圧を発生させ、さらに搾乳した母乳を外部に導出するための開口11aが形成されている。
胴部19の下端にはフランジ状に広がる部分、つまりフランジ部としての乳房当接部15が設けられている。乳頭保護具10の底面である乳房当接部15の中央部は、後述する内部空間に連続した大きな開口15cとなっており、授乳者の乳頭部H2を受容することができるようにされている。
【0021】
本実施形態では、乳頭保護具10は、全体が柔軟な材料により形成されている。柔軟な材料で形成されていれば、複数の異なる材料を用いる2色もしくは多色成形等でもよいが、本実施形態では、好ましくは全体が、たとえば、シリコーンにより一体成形されおり、その硬度は、たとえば、JISK6253形式のデュロメータタイプAにより18である。材料の硬度は材料厚みなどにより変化するが、本実施形態について以下で説明する機能・作用を発揮させ、保形性や、成形性等の点を考慮すると、硬度は15ないし24程度が好ましい。
なお、乳頭保護具10を形成するための材料としては、シリコーンでなくても、これと同等の柔軟性を持つ材料を用いることができるのは、言うまでもない。
【0022】
乳頭保護具10の先端部である乳頭部11は、丸い外面を有しており、母親の乳頭に相当する部分で、乳児の哺乳窩に入り込むのに適した形状と大きさを有しており、この実施形態では、乳頭保護具10の全長が51ミリ程度であるのに対して、該乳頭部11の外径が12ミリ程度である。
この乳頭部11からテーパ状に徐々に外径が拡大されていく拡径部12は、乳児の授乳動作に際して、乳児の口腔内で伸長される部分であり、その伸長機能と構造については後述する。乳頭部11の内部は、図2に示されているように、内部空間N1を有している。また、拡径部12の内部には、乳頭部11の内部空間N1と一体に連続した内部空間N2が形成されている。
【0023】
大径部13は上記拡径部12の内部空間N2から一体に続く内部空間N3に対応した領域で、内部空間N3では内径が最も大きくなっている。つまり、大径部13は最大内径となって縦方向に延びる領域で、約18mm程度の高さでなる領域である。
この内部空間N3には、鎖線で示すように授乳を行う母親等の乳頭部H2が収容されるようになっている。
乳頭部H2の大きさは個人差があるが、大径部13の高さサイズとして、8mmより小さいと、該乳頭部H2が内部空間N3を超えて内部空間N2に入り込むおそれがある。
25mmよりも大きいと、内部空間N1、N2、N3の合計容積が大きくなりすぎて、授乳動作における乳児の負担が大きくなりすぎるおそれがある。
拡径部12と大径部13とにより胴部19が構成されている。
【0024】
くびれ部14は胴部19に属する大径部13の下部を占める領域において、内径は維持しつつその外径だけを減少させて「くびれた」外形を形成する部分である。くびれ部14は、好ましくは、図2に示されているように、使用者の指F1の外形に対応したR状の凹部となるように材料の肉厚を除去・調整して形成されている。
くびれ部14は外周をとりまいており、たとえば使用者は図2で符号F1に示す指を2本当てて、指の間にくびれ部14を挟み込むように保持し、以下で説明する乳房当接部15を自らの乳房H1の前面に当てて使用する。
【0025】
くびれ部14には、内部空間N3と外部とを連通する貫通孔18が形成されている。基本的には貫通孔18は、くびれ部14の周方向のどの個所に形成してもよい。
好ましくは、くびれ部14の一部は、くびれるように肉厚を減少させるだけでなく、さらに材料を部分的に薄肉とした薄肉部とされて識別部17が形成されている。この識別部17には、内部空間N3と外部とを連通する貫通孔18が形成されている。
これにより、後述する授乳動作の際に、内部空間N1、N2、N3の空気が過度に吸引されて乳頭部11と胴部19の全体が潰れて変形が維持されることがないように、外部の空気がこれら内部空間に導入され、陰圧を調整できるようになっている。
そして、陰圧調整用の貫通孔18をくびれ部14に添えた使用者の指により塞ぐことがないように、好ましくは、貫通孔18は上記識別部17を設けた上でそこに穿設されるようにされている。これにより、使用者は識別部17を視認して貫通孔18を避けてくびれ部14に指を当てて保持することができる。
【0026】
乳房当接部15は、くびれ部14の下端からフランジ状に拡がる部分であり、好ましくは外方へ向かって徐々にやや傾斜しながら拡がっている。
そして、乳房当接部15の下面15aは、乳房H1前面への当接面であって、好ましくは該乳房H1が膨出するR形状に沿うように、ごく僅かなテーパ形状、もしくは緩い凹状の曲面とされている。
また、乳房当接部15であるフランジ部の内周の前記開口周縁部には、該周縁に沿って僅かに突出するシール部15bを備えている。
さらに、乳房当接部15であるフランジ部の外周上縁部には、該外周に沿って僅かに上方に突出した外周突部16を備えている。
【0027】
さらに好ましくは、乳頭部11から、拡径部12にかけての乳首本体25には、図2に示すような形態により、授乳動作に際して乳首が伸展するようにされている。
すなわち、乳頭保護具10の乳頭部11と拡径部12は、外観上は特別変わった形態ではないが、その内面には凹凸が形成されている。
図2に示すように、この凹凸は、縦断面に沿って材料の肉厚を交互に変化させて形成したものであり、肉厚を薄肉にした箇所である伸長部22と、これよりも厚肉にした箇所である高剛性部21が交互に配置されるようにして、乳首本体25が潰れることなく伸長できるようにしたものである。
【0028】
本実施形態は以上のように構成されており、次に乳頭保護具10の機能上の利点を説明する。
図2において、乳頭保護具10は、乳首本体25の内部空間N1、N2およびこれに連通した大径部13の内部空間N3という大きな内部空間を備えている。
このため、乳頭保護具10の乳房当接部15のフランジ部を使用者の乳房H1の前面に当接させると、上記内部空間に使用者の乳頭部H2を収容できる。
この場合、使用者の乳頭部H2は大径部13に相当する箇所の内部空間N3に収まり、拡径部12および乳頭部11の内側である内部空間N2、N1には到達していない。この状態で、乳児が乳首本体25を口腔内に取り込み、授乳動作すると、柔軟な乳首本体25が潰れるように変形しても少なくとも大径部13は潰れ変形することがないから、内部空間N3に収容された使用者の乳頭部H2には、変形した大径部13の内面が触れることがなく、該乳頭部H2には接触するものが無い状態で搾乳がなされる。このため、乳頭部H2が傷付いていても、不要に刺激されることがなく、痛みを感じないで授乳ができ、該乳頭部H2は完全に保護される。
【0029】
また、このような授乳を行う上で、大径部13の外面には、くびれ部14と、内部空間と外部とを連通する通気用の貫通孔18とを有している。
このくびれ部14には、使用者の指F1を添えることで、乳房当接部15を乳房前面に押し当てて、保持することを容易にする。
そして、貫通孔18が存在することにより、乳首本体25が柔軟な材料で形成されていても、これを乳児が口に含んで吸引することで負圧にする際に、母乳の出るタイミングと吸引との関係で、乳首本体25が潰れても、貫通孔18から外気が入り込んで、変形状態から、元の形状にすぐに復帰するので、潰れ変形状態が維持されてしまうこと、つまり、乳首本体25が潰れてしまって、吸引できなくなるということが有効に防止される。
【0030】
また、乳頭保護具10は全体が柔軟な材料で形成されているので、乳房当接部15は、使用者の乳房に当接されても不快な刺激を与えることがなく、硬い材料が押しつけられた時のように、食い込んで痛みを感じたり、赤い跡を残すといったことが適切に防止される。
さらに、乳房当接部15であるフランジ部の底面15aは、当接される乳房H1の表面形状に対応して凹状の曲面とされている。このため、該底面15aが、使用者の乳房H1の前面に適切にフィットして密着性を向上させることができる。
【0031】
しかも、くびれ部14の貫通孔18を形成した個所について、大径部13の外面を薄肉にした薄肉部とすることにより、外観上識別するための識別部17を形成している。このため、該薄肉部である識別部17が視認されることで、この箇所を避けて指F1を添えることができ、貫通孔18が塞がれる弊害を防止することができる。
さらに、乳房当接部15としてのフランジ部の内周である開口周縁部には、該周縁に沿って僅かに突出するシール部15bを備えている。このため、該シール部15bが使用者の乳頭部H2の周囲に密接に当接されることにより、内部空間を塞ぐうえで気密性を向上させるので、乳児の吸引に際して負圧を適切に形成することができる。
また、乳房当接部15であるフランジ部の外周上縁部には、該外周に沿って僅かに上方に突出した外周突部16を備えている。このため、くびれ部14に指F1を当てる際に、この外周突部16が指がかりとなり、くびれ部14に指を添えることが容易となる。
【0032】
さらに、乳頭部11および拡径部12を含む乳首本体25には、その縦断面において、肉厚を薄肉にした箇所である伸長部22と、これよりも厚肉にした箇所である高剛性部21が交互に配置されるようにして、該乳首本体25が伸長できるようにされている。
すなわち、伸長部22として肉厚を薄肉にした箇所を形成しているので、授乳に際して
該乳首本体25は乳児の口腔内においてこの薄肉にした箇所が吸引時に引き伸ばされ伸長される。これに対して該薄肉にした箇所よりも厚肉にした箇所である高剛性部21は、吸引時に潰れることがないので、乳首本体25の潰れ変形を防止することができる。
このように、授乳の際には、乳首本体25が潰れて開口11aから外部に導出される母乳の流れを阻害することがなく、しかも乳首本体25は長さ方向に伸長することで、その先端部が乳児の哺乳窩にまで達することができ、適切な授乳動作を実現できる。
【0033】
図3は本発明の第2の実施形態の概略断面図である。
第2の実施形態に係る乳頭保護具30において、図2の乳頭保護具10と同じ符号を付した個所は同一の構成であるから重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0034】
本実施形態の乳頭保護具30では、乳房当接部15であるフランジ部の中心Oと乳首本体25の中心である開口11aを通る仮想線NCが、乳房当接部15であるフランジ部の中心Oを通る仮想の垂直線C1に対して、角度θだけ傾くことで傾斜姿勢となるように形成されている。
これにより、図3に示されているように、角度θの傾きを利用して、乳頭保護具30の乳首本体25の先端側が下向きになるように、乳房当接部15の周方向の位置を調整して使用する。これによって、搾乳時に使用者の乳頭部H2から、内部空間N1、N2、N3内に出された乳汁の一部が、該内部空間内に溜まることがなく、開口11aから全量適切に外部に導くことができる。
【0035】
ここで、図3の角度θは5度ないし15度が好ましい。角度θを5度より大きくすることにより、搾乳された母乳が乳頭部11へ、より流れやすくなる。この角度θが15度より大きいと、乳児を抱いた状態で乳児の顔が上を向く状態となり、授乳が困難になるという弊害がある。
また、この実施形態における乳頭保護具30は同じ材料で全体が一体に成形されている。本発明の乳頭保護具は必ずしも全体を一体に成形しなくてもよいが、別体構成とすると、構造の境界箇所には溝や筋が形成され、乳汁が表面張力などの関係で部分的に滞留しやすくなる。そこで、角度θの構造を採用とするとともに、全体を一体に形成することにより、より確実に乳汁の内部滞留を防止することができる。
本実施形態は以上のように構成されており、他の作用効果は、第1の実施形態と同じである。
【0036】
ところで本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
例えば、くびれ部の外面は多角形に面取りされていて、指を当て易くしてもよい。貫通孔は複数形成されてもよい。変形を必要とする箇所とそうでない箇所では、材料を変えて柔軟性に違いを持たせてもよい。
また、上述の各実施形態、変形例の個別の構成は、必要により省略したり、説明しない他の構成と組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る乳頭保護具の概略斜視図。
【図2】図1の乳頭保護具の概略縦断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る乳頭保護具の概略縦断面図。
【図4】従来の乳頭保護具の一例を示す図。
【符号の説明】
【0038】
10・・・乳頭保護具、11・・・乳頭部、12・・・拡径部、13・・・大径部、14・・・くびれ部、15・・・乳房当接部、18・・・貫通孔、N1、N2、N3・・・内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体が柔軟な材料で成形されており、
先端に貫通孔を備える中空の乳頭部と、
該乳頭部から連続して前記中空の内部空間を徐々に拡径した拡径部を備えるとともに、拡大した内径部分を延長して形成した大径部を有する胴部と、
該胴部の端部の開口周縁に形成したリング状のフランジ部である乳房当接部と
を備えており、
前記大径部には、外径を縮径して形成したくびれ部と、前記内部空間と外部とを連通する通気用の貫通孔を有している
ことを特徴とする乳頭保護具。
【請求項2】
前記大径部の前記貫通孔を形成した個所について、該大径部の外面を薄肉にした薄肉部とすることにより、外観上識別するための識別部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の乳頭保護具。
【請求項3】
前記乳房当接部としてのフランジ部の内周である前記開口周縁部には、該周縁に沿って僅かに突出するシール部を備えることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の乳頭保護具。
【請求項4】
前記乳房当接部であるフランジ部の外周上縁部には、該外周に沿って僅かに突出した外周突部を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の乳頭保護具。
【請求項5】
前記乳頭部および前記拡径部とを含む乳首本体には、その縦断面において、肉厚を薄肉にした箇所である伸長部と、これよりも厚肉にした箇所である高剛性部が交互に配置されるようにして、該乳首本体が伸長できるようにしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の乳頭保護具。
【請求項6】
前記乳房当接部であるフランジ部の底面は、当接される乳房の表面形状に対応して凹状の曲面とされていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の乳頭保護具。
【請求項7】
前記乳房当接部であるフランジ部の中心と前記乳首本体の中心を通る仮想線が、前記フランジ部の中心を通る仮想の垂直線に対して傾くことで傾斜姿勢となるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の乳頭保護具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−297070(P2009−297070A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151655(P2008−151655)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】